(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000282
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】液状化対策構造
(51)【国際特許分類】
E02D 3/10 20060101AFI20231225BHJP
E02D 27/34 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
E02D3/10 104
E02D27/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098991
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】眞野 英之
【テーマコード(参考)】
2D043
2D046
【Fターム(参考)】
2D043DA05
2D043DA07
2D046DA18
(57)【要約】
【課題】実用性が高く、地盤の構成に応じた条件でドレーンが配置されている液状化対策構造を提供する。
【解決手段】本発明に係る液状化対策構造では、地表面に最も近い非液状化層の直下に液状化層が存在する地盤に地上から液状化層の上端領域に達する複数のドレーンが配置されている。本発明に係る液状化対策構造では、前記複数のドレーンの径、透水性、深度、前記ドレーンの間隔を適切に設定することによって地震発生後に、前記ドレーンからの排水効果によって前記非液状化層の下端に作用する水圧が当該深度の全上載圧の所定値以下に抑えられるようになっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表面に最も近い非液状化層の直下に液状化層が存在する地盤に地上から液状化層の上端領域に達する複数のドレーンが配置され、
前記複数のドレーンの径、透水性、深度、前記ドレーンの間隔を適切に設定することによって地震発生後に、前記ドレーンからの排水効果によって前記非液状化層の下端に作用する水圧が前記深度の全上載圧の所定値以下に抑えられるようになっている、
液状化対策構造。
【請求項2】
前記複数のドレーンの地上側の端は、前記ドレーンの排水能力を損なわないように地表又は透水性が十分大きい層に達している、
請求項1に記載の液状化対策構造。
【請求項3】
自然地盤の非液状化層の厚みでは、当該非液状化層の下端に作用する水圧をその深度における全上載圧の前記所定値以下に抑えられない場合に、前記液状化層の上部に締固め等による液状化対策を行って前記非液状化層を厚くし、厚くした非液状化層の下端の水圧を前記深度の全上載圧の前記所定値以下に抑える、
請求項1に記載の液状化対策構造。
【請求項4】
前記複数のドレーンの間隔、及び前記複数のドレーンの各々の端の深度は、前記非液状化層の厚み及び透水能力と、前記液状化層の厚み及び透水能力と、前記ドレーンの排水能力、前記ドレーンの数、前記複数のドレーンの間隔、前記ドレーンの地下側及び地上側の各々の端の深度のうちの少なくとも1つを固定値とする浸透流解析において、地震発生後に前記上端領域の平均的な水圧の最大値を前記上端領域の上端における全上載圧の1.1倍以下に抑えることを条件として決定される、
請求項1又は3に記載の液状化対策構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状化対策構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液状化防止の対策として、所謂締固めや排水、固化等によって地盤改良を行い、液状化しない地盤にする方法が用いられてきた。この方法では、深度20mよりも浅い液状化層を全て改良するので、改良する地盤の規模が大きくなり、費用が高くなるとともに、地盤の深部まで改良するための大型の施工機械が必要であった。特に、液状化層が厚い場合や液状化層が深い位置にある場合、或いは液状化層が複数の層に分かれて存在する場合には、液状化防止の対策費用が非常に高額になる虞があった。また、液状化層が厚く、排水工法で液状化防止の対策を行う場合、例えば採石等で構築した直径400~500mmのドレーンを最も浅部にある液状化層の上端から最も深部にある液状化層の下端まで深度方向に1m以下の間隔で打設する必要があり、対策の実施が非常に煩雑であった。
【0003】
ところが、実際の地震では、液状化すると判定された地盤であっても被害発生に至らない例が存在し、被害を抑えるためには、必ずしも液状化層全体に対して対策を行う必要がないことがわかってきた。液状化対策の費用を抑えるために液状化層の一部のみを改良する工法として、例えば特許文献1には、穿孔を比較的浅めに穿ち、穿孔に装入されるドレーンパイプ内に通水保形材を装填して通水パイルを形成する液状化防止工法が開示されている。この工法では、比較的小型のアースオーガー等の重機を用いて小規模な施工工事で済み、施工に伴って地盤変位を発生させる虞もなく、迅速に且つ低コストで施工が可能である。
【0004】
また、特許文献2では、複数の柱状ドレーンを地表面に平行な面内で互いに所定の間隔をあけて地盤中に設置し、複数の柱状ドレーンの周囲の強度保持地盤よりも浅部に表層版を掛け渡し、表層版を改良対象の地盤全体に設置する液状化防止工法が開示されている。この工法では、施工する際のグラベルドレーンの設置数を大幅に減らし、工事費用の削減と工事期間の短縮とを図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-237186号公報
【特許文献2】特開2016-044405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1,2に開示された液状化防止工法が提案されているが、液状化の被害を抑えるためのドレーンの具体的な配置、設計方法や地盤の改良仕様の決定方法には至っていない。すなわち、液状化の被害を抑えるために地盤に対して行うべき具体的な対策が不明であり、実用性の高い液状化対策構造が求められていた。
【0007】
本発明は、実用性が高く、地盤の構成に応じた条件でドレーンが配置されている液状化対策構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る液状化対策構造は、地表面に最も近い非液状化層の直下に液状化層が存在する地盤に地上から液状化層の上端領域(以下、低水圧化領域と呼ぶ)に達する複数のドレーンが配置され、前記複数のドレーンの径、透水性、深度、前記ドレーンの間隔を適切に設定することによって地震発生後に、前記ドレーンからの排水効果によって前記非液状化層の下端に作用する水圧が当該深度の全上載圧(全応力で表した上載圧)の所定以下に抑えられるようになっている。
【0009】
本発明に係る液状化対策構造では、上述の条件で地震発生前の常時に複数のドレーンを配置しておけば、基本的に地盤の液状化を予め防止する必要がないので、比較的少数の短いドレーンを用いることができる。また、上述の液状化対策構造では、改良する地層の厚みが液状化層の深度方向の全域にドレーンを打設する従来の液状化防止工法よりも抑えられることから、大幅にコストを抑えられる。また、上述の液状化対策構造に用いられるドレーンが従来の液状化防止工法で用いられるドレーンよりも短いことから、施工時に大型の重機を使用する必要がない。そのうえで、液状化の対策を行うための複数のドレーンの配置や条件が地盤の非液状化層及び液状化層の構成に応じて明確に且つ具体的に決定され、施工者の負担が軽減される。
【0010】
本発明に係る液状化対策構造では、前記複数のドレーンの地上側の端は、前記ドレーンの排水能力を損なわないように地表又は透水性が十分大きい層に達している。
【0011】
本発明に係る液状化対策構造において、自然地盤の非液状化層の厚みでは、前記非液状化層の下端に作用する水圧をその深度における全上載圧の前記所定値以下に抑えられない場合に、前記液状化層の上部に締固め等による液状化対策を行って前記非液状化層を厚くし、厚くした非液状化層の下端の水圧を前記深度の全上載圧の前記所定値以下に抑えることをしてもよい。
【0012】
本発明に係る液状化対策構造によれば、既往の液状化対策を行うことで、液状化層の厚みを減らすとともに非液状化層の厚みを増やすことができる。上述の液状化対策構造によれば、既往の液状化対策のみの効果で非液状化層下端の水圧を当該深度における全上載圧の1.1倍以下にしてもよく、既往の液状化対策と前述のドレーンによる排水効果を組み合わせて非液状化層下端の水圧を当該深度における全上載圧の1.1倍以下にしてもよい。
【0013】
本発明に係る液状化対策構造では、前記複数のドレーンの間隔、及び前記複数のドレーンの各々の端の深度は、前記非液状化層の厚み及び透水能力と、前記液状化層の厚み及び透水能力と、前記ドレーンの排水能力、前記ドレーンの数、前記複数のドレーンの間隔、前記ドレーンの地下側及び地上側の各々の端の深度のうちの少なくとも1つを固定値とする浸透流解析において、地震発生後に前記低水圧化領域の平均的な水圧の最大値を前記低水圧化領域の上端における全上載圧の1.1倍以下に抑えることを条件として決定されてもよい。
【0014】
本発明に係る液状化対策構造によれば、複数のドレーンを配置した施工後の地震発生後に液状化層の上層部の平均的な水圧の最大値を上層部の上端における全上載圧の1.1倍以下に抑えるために、地盤に配置する複数のドレーンの配置や条件を浸透流解析に基づいて簡易に且つ具体的に決定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、実用性が高く、地盤の構成に応じた条件でドレーンが配置されている液状化対策構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る第1実施形態の液状化対策構造の断面図である。
【
図2】地盤の液状化層にかかる水圧の変化を説明するための模式図である。
【
図3】
図2に示す地盤の非液状化層の透水性が高い場合における水圧の変化と水の流れを示す模式図である。
【
図4】
図3に示す地盤における砂層(液状化層)にかかる水圧の時間依存性を表す模式図である。
【
図5】
図2に示す地盤の非液状化層の透水性が低い場合における水圧の変化と水の流れを示す模式図である。
【
図6】
図3に示す地盤における砂層(液状化層)にかかる水圧の時間依存性を表す模式図である。
【
図7】
図3及び
図5に示す地盤での盤ぶくれに対する安全率の地震終了後の経過時間依存性を表す模式図である。
【
図8】従来の地震被害の状況を説明するためのグラフである。
【
図9】従来の液状化防止工法を適用した地盤の断面図である。
【
図10】本発明に係る第2実施形態の液状化対策構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した実施形態の液状化対策構造について、図面を参照して説明する。
【0018】
[第1実施形態]
先ず、本発明に係る第1実施形態の液状化対策構造101について説明する。
図1は、液状化対策構造101の断面図である。
【0019】
液状化対策構造101では、地盤10Aに地上から液状化層30に達する複数のドレーン50が配置されている。地盤10Aは、非液状化層20と、液状化層30と、を含む。地盤10Aでは、地表面Gの深度D0から地中の深度D1までの領域に非液状化層20Aが存在し、深度D1から深度D1よりも深い深度D2までの領域に液状化層30が存在し、深度D2から深度D2よりもさらに深い深度(図示略)までの領域に非液状化層20Bが存在する。以下では、地表面Gから深度が増大する方向を深度方向Dと記載する場合がある。
【0020】
地盤10Aでは、非液状化層20Aは、地盤10Aにおいて地表面Gに最も近い地層である。地盤10Aでは、非液状化層20の直下に、液状化層30がある。
【0021】
地盤10Aには、複数のドレーン50が設けられている。複数のドレーン50は、地表面Gに平行な面で互いに間隔Cをあけて配置されている。なお、間隔Cは、地表面Gに平行な面内で互いに隣り合うドレーン50の中心同士の間隔である。各々のドレーン50は、高い透水性を有する砕石ドレーン等である。各々のドレーン50の地上側の端(上端)50aは、ドレーン50を通じて上がってきた水を地表などに効率よく排水するため、深度方向Dで地表面Gと略同じ深度に位置する。
【0022】
各々のドレーン50の地下側の端(下端)50bは、深度dに配置されている。深度dは、少なくとも深度D1に達していればよく、深度D1と同等以上の深度である。深度dが前述のように設定されることによって、地震終了時に液状化層30の上層部30Pからの排水を良好に行われる。
【0023】
通常の地盤において、液状化の被害は、地震の発生中ではなく、地震の終了後に時間が経過してから生じる。液状化の発現時には、液状化層の水圧は、当該深度よりも上にある地層に含まれる土及び水の総重量に依存する全上載圧まで上昇する。このときの液状化層の深度方向の水圧の勾配は、液状化層の土の単位体積あたりの重さ(γ)に等しく、例えば1.8t/m3/m程度であり、常時の静水圧の勾配(1.0t/m3/m)よりも大きい。
【0024】
図2は、一般的な地盤において液状化が発生した場合の地震終了後の水圧の変化と水の流れの原理を説明するための模式図である。ここで想定している通常の地盤では、地下水位は地表より低い位置にあり、地下水位よりも浅い領域の地盤は砂層であっても液状化しない。また、地下水位よりも深い領域でも粘性土を多く含んでいる層や、砂層であってもN値が大きい層等は液状化しないため、地表面から所定の深度までの領域に非液状化層が存在する。所定の深度よりも深い領域には、緩い砂層(液状化層)が存在する。図中の縦軸は深度方向を表し、紙面の下側に進むに従って深度が増すことを意味する。図中の横軸は応力及び圧力を表し、紙面の右側に進むに従って応力及び圧力が増大することを意味する。また、同図以降の各図の「浅部」は液状化する砂層の上層部すなわち非液状化層下端の深度近傍の部分を表し、各図の「深部」は液状化する砂層の深部の部分を表す。
【0025】
図2では、常時の地下水位深度より上を非液状化層として記している。図中の「常時の水圧」の直線は、砂層にかかる常時の水圧を表し、地下水位よりも深い領域の水圧は深度が増すに従って一定の傾き(γ
w)で上昇する。γ
wは、水の単位体積あたりの重量を表す。「上載荷重」の線は土層に含まれる土及び水の総重量を表し、深度方向の勾配は全応力で表した土の単位体積重量γとなる。各深度における全上載圧に相当する。土の単位体積重量γは土質等によって変化するが、
図2では簡略化して直線で記している。「液状化発生時の水圧」の太い直線は、地震終了後の液状化の発生時に砂層にかかる水圧で、各深度における上載圧と等しくなる。非液状化層下端の水圧は
図2では常時は略0だが、液状化時は
図2に示したような水圧が作用する。
【0026】
土の単位体積重量γは水の単位体積重量γwよりも大きい。このため、同図に示したように液状化層内の水圧を水位で表すと深部ほど水位が高くなる。液状化が生じた場合、地震中は振動により液状化層中の水圧はγの勾配で維持されるが、地震が終了し、振動がなくなると液状化層の水圧の勾配は常時の水圧の勾配γwに戻ろうとする。前述のように深部ほど水圧が高い(液状化時の水位と常時の地下水位の差が大きい)ことから、地震終了後には深部から浅部へ向かって深度方向とは逆向きに図中の白矢印で示す水の流れが生じる。
【0027】
図3は、液状化が発生した場合の地震終了後の水圧の変化と水の流れの原理を説明するための模式図である。但し、
図3に示す地盤では、液状化層である砂層の直上の非液状化層は、透水性が高い砂質土層である場合を示している。
【0028】
同図に例示した地盤では、非液状化層の透水性が非常に高いため、液状化層深部から浅部へ流れた水が全て非液状化層を通じて地表面へ排水されるため、初期には液状化層上端の水圧は変化せず、深部の水位のみが低下してだいたい静水圧分布の勾配となる。その後、ほぼ静水圧分布の勾配まま液状化層全体の水圧(水位)が下がっていき、最終的には常時の砂層の水圧分布に戻る。
【0029】
同図では、「常時の水圧」の直線と同じ傾き(静水圧分布の勾配:γw)を有する複数の太い破線に加え、その延長である細い破線が縦軸と交わる点がその時点での液状化層の地下水位となるので、液状化発生時から砂層の水圧が低下する様子が模式的に表されている。当該地盤では、非液状化層下端に作用する水圧を地下水位で表すと、水圧を表す太い破線の時間の経過に伴う移動によって縞塗り矢印で示すように徐々に低下し、常時の地下水位と同等の水位に戻る。この場合、非液状化層下端に作用する水圧は地震中の液状化時の水圧である当該深度の全上載圧よりも大きくはならない。
【0030】
図4は、
図3に示す地盤で上述のように地震発生時から地震終了後に一定時間以上の時間が経過するまでの砂層の水圧の変化を示す模式図である。
図4に示すように、液状化する砂層の水圧は、地震の発生時から急激に上昇して液状化水圧(当該深度における全上載圧)まで上昇し、一定値となる。地震終了時後は、液状化層深部の水圧は浅部への水の流れが生じて速やかに低下し始めるが、浅部は深部からの水の流れにより水が補給されるため、すぐには水圧低下が生じない。この例では非液状化層の透水性が十分高い場合は深部より補給された水はすべて地表に排出されるので、浅部の水圧は上昇せずに一定の水圧(当該深度の全上載圧)が維持される。液状化層の水圧勾配は静水圧勾配と同じとなる時間(
図4では一定時間)が経過したのちは、深部と浅部の地下水位は同じとなって、深部から浅部への水の流れはなくなり、浅部も深部と同じように水圧が低下していき、やがて常時の水圧に戻る。
【0031】
図5は、
図3と同様に、地盤において液状化が発生した場合の地震終了後の水圧の変化と水の流れの原理を説明するための模式図である。但し、
図5に示す地盤では、液状化層である砂層の直上に、粘土層等のように透水性が非常に小さい層が存在する場合の例である。当該地盤における常時及び地震の発生時から地震終了後までの時間帯の水圧及び水位の変化は、各図を参照して説明した地盤における常時及び地震の発生時から地震終了後までの時間帯の水圧及び水位の変化と同様である。
【0032】
上述の地盤では、地震終了後に砂層の深部から浅部に流れる水が粘土層に阻まれて非液状化層下端よりも上方に排水されず、地震後に液状化層深部の水圧が低下した分だけ液状化層浅部の水圧が上昇する。この現象は、液状化層内の水圧の勾配が静水圧分布の勾配とほぼ同じになるまで続く。その後、ほぼ静水圧分布の勾配まま液状化層全体の水圧(水位)が下がっていき、最終的には、常時の水圧に戻る。
【0033】
上述の地盤の液状化層浅部(非液状化層下端付近)の水圧変化を水位変化で表すと、地震終了後に、一旦上昇してから低下しだす。
【0034】
図6は、
図5に示す地盤で上述のように地震発生時から地震終了後に一定時間以上の時間が経過するまでの砂層の水圧の変化を示す模式図である。同図で模式的に表された砂層の浅部における常時及び地震の発生時から地震終了後までの時間帯の水圧の変化、及び砂層の深部における常時及び地震の発生時から地震終了後に一定時間が経過した後までの時間帯の水圧の変化は、
図4で模式的に表された砂層の浅部及び深部の前述の各々の時間帯の水圧の変化と同様である。
【0035】
砂層の直上に粘土層のように透過性の低い地層がある場合には、
図6に示すように、砂層の浅部の水圧は、地震終了時からさらに上昇する。浅部の水圧上昇は深部の水圧と浅部の水圧の差が常時の値とほぼ等しくなるまで継続し、ピークを迎えた後、ゆっくりと低下し、常時の水圧に戻る。
図4に示した非液状化層の透水性が十分高い場合と比して、非液状化層からの排水がゆっくり進むため、ピーク後の水圧低下にはより時間がかかる。また、地震終了後から砂層の浅部の水圧がピークに達して最高水圧になる時までの時間帯では、砂層の浅部の水圧と深部の水圧との水圧差が時間の経過に伴って減少する。砂層の浅部の水圧が最高水圧になった時以降の時間帯では、砂層の浅部の水圧と深部の水圧との低下の速度が互いに略同等になるため、砂層の浅部の深部との水圧差が略一定になる。
【0036】
図7は、
図3及び
図5に示す各々の地盤における盤ぶくれに対する安全率の地震終了後の経過時間依存性を示す模式的なグラフである。
図7の「非液状化層の透水性が高い場合」は、
図3で例示したように液状化層である砂層の直上に砂質層のように比較的透水性が高い非液状化層が存在する地盤の場合を表す。
図7の「非液状化層の透水性が低い場合」は、
図2及び
図5で例示したように液状化層である砂層の直上に粘土層のように比較的透水性が低い非液状化層が存在する地盤の場合を表す。
【0037】
図7に示すように、
図3及び
図5に示す各々の地盤の何れにおいても、地震終了直後の液状化発生時の安全率は1である。地表面に最も近い地層が砂質土を含む地層である場合のように、同図に示す「非液状化層の透水性が高い場合」では、安全率は、地震終了後から深部と浅部との水圧差が常時の水圧差に略等しくなるまでの時間が経過するまでの時間帯で1であり、その後、浅部の水圧低下に従って安全率は1よりも増大する。すなわち、液状化層の直上の地表付近の非液状化層の透水性が十分に高い場合には、地震終了後であっても安全率は1以下には低下しない。一方で、地表面に最も近い地層が粘土土を含む地層である場合のように、同図に示す「非液状化層の透水性が低い場合」では、安全率は、地震終了後から砂層の浅部の水圧が最高水圧に達する時までの時間帯で1よりも減少し、砂層の浅部の水圧が最高水圧に達した時から浅部の水圧低下に従って安全率は増大していく。
【0038】
上述のように、地表面付近の非液状化層の透水性が低い場合には、地震終了後に安全率が1よりも低下し、盤ぶくれや噴砂が発生する虞が大きくなる。砂層の浅部の水圧が最高水圧に達する時点が最も安全率が小さく、盤ぶくれや噴砂に対して最も危険な状態となる。但し、
図7に示すように安全率が1よりも減少する時間帯、すなわち地震終了時から砂層の浅部の水圧が上昇して最高水圧に達する時までの時間帯はある程度限られる。このことと、
図8に示したように、従来の地震被害の状況から鑑みると、安全率が1未満であっても1/1.1以上であれば、液状化の被害の発生には至らないと考えられる。
図5から
図7を参照して説明したように、液状化層の上方且つ地表面付近にある非液状化層の透水能力、液状化層の水圧の変化と安全率には互いに相関関係が有るので、地震発生後の時間帯における液状化層の浅部近傍の領域の平均的な水圧が所定の深度における全上載圧の1.1倍以下に抑えられれば、液状化の被害の発生には至らないと考えられる。
【0039】
図1に示す地盤10Aは、
図5に例示した地盤と同様に、地表面Gの直下に存在する非液状化層20Aと、非液状化層20Aの直下に存在する液状化層30とを備える。したがって、地震発生後の時間帯における液状化層30の上端(上層部30P)の平均的な水圧の最大値が深度D1における全上載圧の1.1倍以下であれば、液状化の被害の発生には至らない。地盤10Aでは、地震発生後の時間帯で上述の原理によって液状化層30の深部から浅部に向かって生じた水が上層部30Pから複数のドレーン50を介して排水される。このことによって、地震終了後の時間帯で液状化層30の上端の水圧の上昇が抑えられ、液状化層30の上層部30Pの平均的な水圧が深度D1における全上載圧の1.1倍以下になっている。
【0040】
次に、第1実施形態の液状化対策構造の施工方法について説明する。第1実施形態の液状化対策構造の施工方法は、少なくともドレーン打設工程を備える。第1実施形態の液状化対策構造の施工方法では、ドレーン打設工程を行う前に、設定パラメータ算出工程を行う。
【0041】
<設定パラメータ算出工程>
本工程では、浸透流解析によって、地盤10Aに打設するドレーン50の径、数、地表面Gに平行な面内におけるドレーン50同士の間隔C、ドレーン50の端50bの深度dを算出する。浸透流解析の固定パラメータ(固定値)としては、例えば、少なくとも非液状化層20Aの厚みT1及び透水能力を表す数値と、液状化層30の厚みT2及び透水能力を表す数値と、ドレーン50の排水能力を表す数値が挙げられる。非液状化層20Aや液状化層30の各々の透水能力を表す数値は、浸透流解析に適用可能な非液状化層20Aや液状化層30に関する物性値であればよく、特に限定されないが、例えば非液状化層20Aや液状化層30の透水係数である。ドレーン50の排水能力を表す数値は、ドレーン50の仕様に合わせて設定され、浸透流解析に適用可能なドレーン50に関する物性値であればよく、特に限定されないが、例えばドレーン50の直径に依存する単位期間あたりの排水量である。
【0042】
上述の浸透流解析において、液状化層30の上端の深度D1、非液状化層20の透水係数、液状化層30の厚みや透水係数は、液状化対策を行う当該地盤条件から決まる与条件である。先ず、原地盤の浸透流解析を行い、解析から得られる原地盤の深度D1における水圧上昇量からドレーンの仕様、間隔を調整し、再度浸透流解析を行って水圧上昇量が規定値に収まるようにこれらの値を決定する。
【0043】
本工程の浸透流解析では、例えば
図5及び
図6を参照して説明した原理に基づいて、地震終了後からの時間の経過に伴う地盤10Aの層構造及び各層の透水特性に応じた液状化層での水の流れ、地盤10Aにおける水圧及び水位の各挙動を必要に応じて2次元又は3次元でシミュレーションする、或いはモデリングすることができる。したがって、本工程の浸透流解析によって、地震発生後の時間帯における地盤10Aの液状化層30の上層部30Pの平均的な水圧の最大値が深度D1における全上載圧の1.1倍以下に抑えるための設定値を決定することができる。
【0044】
本工程では、浸透流解析によって、地盤10Aにおいて地震発生後の時間帯における地盤10Aの液状化層30の上層部30Pの平均的な水圧が深度D1における全上載圧の1.1倍以下に抑えるという指針に応じた複数のドレーン50の配置及び排水能力を決定することを目的とする。そのため、使用するドレーン50の排水能力、ドレーン50の数、地表面Gに平行な面内でのドレーン50の間隔C、及びドレーン50の端50bを到達させる低水圧化領域40内の深度dのうちの少なくとも1つを固定パラメータとしてもよい。その場合、使用するドレーン50の排水能力、ドレーン50の数、ドレーン50の間隔C、及びドレーン50の端50bの深度dのうちの残りを変動パラメータとする。実際には、液状化の対策を行う際に制約されている数値や条件を固定パラメータとする。例えば、施工時にドレーン50として直径400mmのグラベルドレーンを使用することが決まっている場合には、直径400mmのグラベルドレーンの排水能力、例えば当該グラベルドレーンの単位長さ当たりの排水量を浸透流解析の固定パラメータにすることができる。すなわち、上述の浸透流解析における固定パラメータと変動パラメータの各々は、液状化の対策を行う際に制約されている数値や条件に合わせて適宜選択すればよい。
【0045】
<ドレーン打設工程>
次に、地盤10Aに複数のドレーン50を打設するドレーン打設工程を行う。本工程では、
図1に示すように非液状化層20A,20B及び液状化層30によって構成されている地盤10Aに複数のドレーン50を打設する。このとき、地表面Gに平行な面内にて複数のドレーン50を互いに設定パラメータ算出工程で浸透流解析によって算出した間隔Cをあけて配置する。また、各々のドレーン50の地下側の端50bを深度方向Dにおいて深度dに到達させ、液状化層30の上層部30Pに配置する。
【0046】
地震終了時には、地盤10Aの液状化層30の深部から浅部への水の流れが生じ、非液状化層20Aの直下の上層部30Pの水圧が高まるが、複数のドレーン50が浸透流解析によって算出した条件で適切に設けられているため、液状化層30の深部から浅部に向かって流れる水の少なくとも一部が複数のドレーン50から排水される。このことによって、上層部30Pの平均的な水圧が深度D1における全上載圧の1.1倍以下に抑えられる。複数のドレーン50からの排水は液状化層30の深部から浅部への水の流れが減って略なくなることによって自然に止むが、複数のドレーン50からの排水が行われる時間は設定パラメータ算出工程で説明した排水目安時間と同等である。
【0047】
以上説明した第1実施形態の液状化対策構造101では、地表面Gに最も近い非液状化層20Aの直下に液状化層30が存在する地盤10Aに地上から液状化層30の上層部(上端領域、低水圧化領域)30Pに達する複数のドレーン50が配置されている。第1実施形態の液状化対策構造101では、複数のドレーン50の径、透水性、深度、ドレーン50の間隔Cを適切に設定することによって地震発生後に、ドレーン50からの排水効果によって非液状化層20Aの下端(液状化層30の上層部30P)に作用する水圧が深度(前記深度)dの全上載圧(全応力で表した上載圧)の所定値以下に抑えられるようになっている。第1実施形態の液状化対策構造101では、液状化層30において非液状化層20Aの直下にある上層部30Pは、地震発生後に複数のドレーン50によって水圧を低減される対象となる領域であり、後述する特許請求の範囲に記載された「低水圧化領域」に相当し、本願明細書中に記載された低水圧化領域40を形成する。
【0048】
第1実施形態の液状化対策構造101では、地震終了後の地盤10Aにおける水圧及び水位の各挙動をふまえ、液状化層30の上層部30Pの平均的な水圧が深度(所定の深度)D1すなわち液状化層30の上端における全上載圧の1.1倍(所定値)以下に抑えられれば、液状化の被害の発生には至らないという知見から、予め常時に地上から上層部30Pに達するドレーン50が前述の水圧の条件に応じて適切に配置されることによって、地震発生後に上層部30Pの平均的な水圧が上層部30Pの上端における全上載圧の1.1倍以下に抑えられ、液状化の被害の発生を防止することができる。
【0049】
従来の液状化防止工法では、例えば
図9に示すように地震発生前の常時にドレーン50を液状化層30の深度方向Dの全体に亘って非液状化層20Bに達するまで打設する。第1実施形態の液状化対策構造101では、
図9に示すようにドレーン50を液状化層30の深度方向Dの全体に設けて液状化を防止する方法とは異なり、液状化層30全体の液状化を防止する必要がない。そのため、第1実施形態の液状化対策構造101では、従来の液状化防止工法に比べて短く且つ少数のドレーン50が用いられる。第1実施形態の液状化対策構造101によれば、従来の液状化防止工法に比べて排水する液状化層30の厚みを抑えることができるため、液状化対策にかかる費用を大幅に抑え、小型の重機を使用することができる。また、第1実施形態の液状化対策構造101によれば、地盤10Aにおける液状化の対策を行うために、地震終了後の液状化層30の上層部30Pの平均的な水圧を所定の深度における全上載圧の1.1倍以下に抑えるという具体的な指針に応じて、所定の排水能力を有する複数のドレーン50を配置可能である。このことによって、実用性が高く、地盤10Aの構成に応じた条件で複数のドレーン50が配置されている液状化対策構造101が提供され、施工者の負担が軽減される。
【0050】
第1実施形態の液状化対策構造101では、複数のドレーン50の地上側の端50aは、ドレーン50の排水能力を損なわないように地表又は透水性が十分大きい層に達している。
【0051】
第1実施形態の液状化対策構造101において、複数のドレーン50同士の間隔C、及び複数のドレーン50の各々の端50a,50bの深度D0,dは、非液状化層20Aの厚みT1及び透水能力と、液状化層30の厚みT2及び透水能力と、ドレーン50の排水能力、ドレーン50の数、地表面Gに平行な面内での複数のドレーン50同士の間隔C、ドレーン50の地下側の端50bを到達させる上層部30P内の深度d、ドレーン50の地上側の端50aの地表面G近傍の深度のうちの少なくとも1つを固定パラメータとする浸透流解析において、地震発生後に上層部30Pの平均的な水圧を上層部30Pの深度D1(上端)における全上載圧の1.1倍以下に抑えることを条件として決定される。詳しくは、前述の固定パラメータを用いた浸透流解析の結果をふまえて、複数のドレーン50の排水能力、ドレーン50の数、複数のドレーン50同士の間隔C、ドレーン50の端50aの深度及び端50bの深度dを適宜調整し、最適値に決定する。
【0052】
第1実施形態の液状化対策構造101によれば、地震発生後に上層部30Pの平均的な水圧を上層部30Pの深度D1における全上載圧の1.1倍以下に抑えるために配置するドレーン50の配置や条件を浸透流解析に基づいて簡易に且つ具体的に決定することができる。
【0053】
[第2実施形態]
以下、第2実施形態の液状化対策構造102について、説明する。
図10は、第2実施形態の液状化対策構造102の断面図である。なお、以下では、第2実施形態の液状化対策構造102において、第1実施形態の液状化対策構造101とは異なる点について主に説明し、第1実施形態の液状化対策構造101と同様の内容については省略される。液状化対策構造102に関する構成要素のうち液状化対策構造101と共通する構成要素には液状化対策構造101の該当する構成要素と同じ符号が付されている。
【0054】
図10に示すように、第2実施形態の液状化対策構造102の地盤10Bでは、締固め砂杭60と複数のドレーン50の地上側の端50aが地表面Gの近傍に配置され、ドレーン50の地下側の端50bと締固め砂杭60の地下側の端60bが深度eに配置されている。締固め砂杭60の地上側の端60aは、地表面Gの近傍よりも深い深度に配置されている。地盤10Bには、締固め砂杭60が液状化層30の上部に施工され、複数のドレーン50の端50aが地表に排水できるように配置されている。
【0055】
上述のように複数のドレーン50や締固め砂杭60が配置されていることによって、地盤10Bでは、深度eと同等の深度である深度D5までは非液状化層となっており、非液状化層20の厚みは原地盤のT1からTSに増加している。一方、液状化層30の厚みは、原地盤のT4+T2からT2に減じている。
【0056】
したがって、常時において、地盤10Bでは、地表面Gの深度D0から地中の深度eと同等の深度D5までの領域に非液状化層20(すなわち、非液状化層20A+20D)が存在する。
【0057】
以上説明した第2実施形態の液状化対策構造102では、地表面Gに面する非液状化層(地表面に最も近い非液状化層)20の直下に液状化層30が存在する地盤10Bに地上から液状化層30の上層部30Qに達する複数のドレーン50及び締固め砂杭60が配置されている。第2実施形態の液状化対策構造102の地盤10Bでは、上層部30Qは、地震発生後に複数のドレーン50によって水圧を低減される対象となる領域であり、後述する特許請求の範囲に記載された「低水圧化領域」に相当し、本願明細書中に記載された低水圧化領域40を形成する。
【0058】
第2実施形態の液状化対策構造102において、自然地盤の非液状化層20の厚みでは、非液状化層20の下端に作用する水圧を深度(当該深度)eの全上載圧(全応力で表した上載圧)の1.1倍(所定値)以下に抑えられない場合は、液状化層30の上部に締固め等による既往の液状化対策を行って非液状化層20を厚くし、厚くした非液状化層20の下端(液状化層30の上層部30Q、上端領域)の水圧を当該深度の全上載圧の1.1倍(所定値)以下に抑える。第2実施形態の液状化対策構造102によれば、既往の液状化対策を行うことで、液状化層30の厚みを減らすとともに非液状化層20の厚みを増やすことができる。このように非液状化層20を厚くすることによって、第1実施形態の液状化対策構造101と同様に、地震発生後の時間帯における液状化層30の上層部30Qの近傍の領域の平均的な水圧を深度(上端)D5,eにおける全上載圧の1.1倍以下に抑えるという条件を満たし、液状化の被害の発生を防止することができる。
【0059】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施形態に限定されない。本発明は、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、変更可能である。
【符号の説明】
【0060】
10A,10B…地盤
20A,20D,20…非液状化層
30…液状化層
40…低水圧化領域
50…ドレーン