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特開2024-28203航空機の地上操作を制御するための方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028203
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】航空機の地上操作を制御するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   B64C 25/50 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
B64C25/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023132640
(22)【出願日】2023-08-16
(31)【優先権主張番号】2212025.7
(32)【優先日】2022-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】508305926
【氏名又は名称】エアバス オペレーションズ リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100126848
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】アシュリー ビドミード
(72)【発明者】
【氏名】マーク ジョンソン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】航空機の地上操作を制御するための方法および装置を提供する。
【解決手段】航空機は、方向舵、前輪操舵、スポイラ、車輪ブレーキなどの、航空機の動作を制御するための制御機構230を有する。制御ユニット226は、航空機の横方向動作に関する横方向の入力要求220および航空機の長手方向動作に関する長手方向の入力要求222(例えば減速)を受信するように構成されている。制御ユニット226は、必要とされた場合には航空機の関連する制御機構230に対して出力要求228として入力要求220、222を伝達する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機用の航空機地上操作制御ユニットにおいて:
前記航空機が、前記航空機の動作を制御するための複数の制御機構を有し、
前記航空機が、少なくとも2つの車輪を有し;かつ
前記制御機構が少なくとも2つの車輪ブレーキを含み;
前記制御ユニットが、前記航空機の横方向動作に関する要求である横方向の入力要求、および前記航空機の長手方向動作に関する要求である長手方向の入力要求を受信するように構成されており;
前記制御ユニットが、前記航空機の前記関連する制御機構に対する出力要求として前記横方向の入力要求および長手方向の入力要求を伝達するように構成されており;かつ
前記制御ユニットが、前記横方向の滑走路逸脱のリスクおよび長手方向の滑走路逸脱のリスクに基づいて前記入力要求の一部に優先順位付けすることによって導出される修正と共に前記出力要求を伝達するように構成されている、
航空機地上操作ユニット。
【請求項2】
前記制御ユニットが:
前記航空機上の他の制御機構の利用可能性、および
前記横方向の滑走路逸脱リスクおよび前記長手方向の滑走路逸脱リスク、
に基づいて、前記横方向の前記入力要求および前記長手方向の前記入力要求に優先順位付けすることによって、前記出力要求を前記車輪ブレーキに伝達するように構成されている、請求項1に記載の航空機地上操作ユニット。
【請求項3】
前記制御ユニットが、前記航空機の前記制御機構の現在の状態に関する入力データを受信するように構成されている、請求項1または2に記載の航空機地上操作ユニット。
【請求項4】
前記制御ユニットは、前記横方向の前記入力要求が前記長手方向の前記入力要求と矛盾する場合を識別するように構成されている、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の航空機地上操作ユニット。
【請求項5】
前記制御ユニットが:
前記航空機の速度の1つ以上の尺度;
前記航空機と前記横方向における滑走路の縁部との間の距離;および
前記航空機と前記長手方向における前記滑走路の縁部との間の距離、
に基づいて、前記横方向の逸脱リスクおよび前記長手方向の逸脱リスクを決定するように構成されている、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の航空機地上操作ユニット。
【請求項6】
前記制御ユニットが、
前記横方向の前記入力要求を満たすために前記制御機構が必要とする応答;
前記長手方向の前記入力要求を満たすために前記制御機構が必要とする応答;および
前記横方向の前記入力要求および前記長手方向の前記入力要求を同時に満たすために必要とされる応答が、前記航空機の前記制御機構の能力内にあるか否か;
に基づいて、前記横方向の逸脱リスクおよび前記長手方向の逸脱リスクを決定するように構成されている、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の航空機地上操作ユニット。
【請求項7】
前記制御ユニットは、前記横方向の前記入力要求および前記長手方向の前記入力要求を前記航空機の前記制御機構が完全に満たすことができない場合にそれを識別するように構成されている、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の航空機地上操作ユニット。
【請求項8】
前記制御ユニットが、他の入力要求に対する1つの入力要求の権限について制限を適用することにより優先順位付けを提供するように構成されている、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の航空機地上操作ユニット。
【請求項9】
前記制御ユニットが、前記長手方向の逸脱の前記リスクおよび前記横方向の逸脱の前記リスクをバランスさせて、全体的リスクを最小限に抑える前記出力要求を計算するように構成されている、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の航空機地上操作ユニット。
【請求項10】
前記制御ユニットが、右舷および左舷車輪ブレーキに対して、前記横方向の前記入力要求と前記長手方向の前記入力要求の総和である要求を出力するように構成されている、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の航空機地上操作ユニット。
【請求項11】
前記制御ユニットが:
前記横方向の前記入力要求を受信するように構成され;
1つ以上の第1操舵制御機構に対して前記出力要求を送信するように構成され、ここで前記第1操舵制御機構が、方向舵操舵機構および/または前輪操舵機構であり;
前記第1操舵制御機構のうちの少なくとも1つが、前記出力要求を遂行していないことを判定するように構成され;かつ
前記第1操舵制御機構のうちの少なくとも1つが前記出力要求を遂行していないことの判定の帰結として、左舷車輪ブレーキおよび右舷車輪ブレーキのうちの1つ以上に対して前記出力要求を送信するように構成されている、
請求項1ないし10のいずれか1項に記載の航空機地上操作ユニット。
【請求項12】
前記制御ユニットが、第1制御システムおよび第2制御システムから前記入力要求を受信し、
前記制御ユニットが、前記第1制御システムから前記横方向の前記入力要求を受信するように構成されており;かつ
前記制御ユニットが、前記第2制御システムから前記長手方向の前記入力要求を受信するように構成されている、
請求項1ないし11のいずれか1項に記載の航空機地上操作ユニット。
【請求項13】
前記制御ユニットが、前記第2制御システムとの関係において前記第1制御システムに対して権限制限を適用するように構成されており、
前記制御ユニットが、前記横方向の滑走路逸脱の前記リスクおよび前記長手方向の滑走路逸脱の前記リスクに基づいて前記権限制限を計算する、
請求項12に記載の航空機地上操作ユニット。
【請求項14】
前記第1制御システムが、機首方位制御システムであり、前記第2制御システムが減速制御システムである、請求項12および13に記載の航空機地上操作ユニット。
【請求項15】
前記制御ユニットが、自動着陸システムの一部であり、前記自動着陸システムが機首方位制御システムおよび減速制御システムを含む、請求項1ないし14のいずれか1項に記載の航空機地上操作ユニット。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれか1項に記載の地上操作制御ユニットを有する航空機。
【請求項17】
航空機地上操作を自動的に制御するための方法において、
前記航空機が滑走路面に沿って移動すること;
制御ユニットが横方向の入力要求を受信すること;
前記制御ユニットが長手方向の入力要求を受信すること;
前記制御ユニットが、前記横方向および前記長手方向の前記入力要求に応じて出力要求を計算し、これらの要求間にコンフリクトが存在する場合、受信した要求に優先順位付けすることであって、前記優先順位付けが前記横方向の滑走路逸脱リスクおよび前記長手方向の滑走路逸脱リスクにより依存すること;
前記制御ユニットが、前記航空機の1つ以上の制御機構に対し前記出力要求を伝えること;
を含む方法。
【請求項18】
前記要求の前記優先順位付けすることは、前記制御ユニットが、前記横方向の滑走路逸脱リスクおよび前記長手方向の滑走路逸脱リスクに基づいて、他方の要求に対する一方の要求の権限について制限を適用することを含む、請求項17に記載の航空機地上操作を自動的に制御するための方法。
【請求項19】
前記制御ユニットは、前記横方向および前記長手方向の要求の組合せが前記航空機の前記制御機構によって遂行され得ないことを計算することにより、前記横方向の前記入力要求と前記長手方向の前記入力要求の間にコンフリクトが存在することを判定する、請求項17および18に記載の航空機地上操作を自動的に制御するための方法。
【請求項20】
前記制御ユニットが、1つ以上の第1操舵制御機構に対して前記出力要求を送信することであって、前記第1操舵制御機構が方向舵操舵機構および前輪操舵機構であること;
前記制御ユニットが、前記第1操舵制御機構が前記出力要求を遂行していないことを標示する前記航空機の機内に搭載されたセンサからデータを受信すること;
前記制御ユニットが、前記横方向および前記長手方向の前記入力要求に応じて前記出力要求を計算し、これらの要求間にコンフリクトが存在する場合、受信した要求に前記優先順位付けすることであって、前記優先順位付けが前記横方向の滑走路逸脱リスクおよび前記長手方向の滑走路逸脱リスクに依存すること;
前記制御ユニットが、前記航空機の複数の車輪ブレーキに対し前記出力要求を伝えるステップと;
を含む請求項17ないし19のいずれか1項に記載の航空機地上操作を自動的に制御するための方法。
【請求項21】
航空機を自動的に着陸させる方法において、
第1制御システムを用いて滑走路との関係における前記航空機の横方向動作を制御すること、
第2制御システムを用いて滑走路との関係における前記航空機の長手方向動作を制御すること、
前記航空機が前記滑走路から横方向に逸脱することに付随するリスクと前記滑走路から長手方向に前記航空機が逸脱することに付随するリスクをバランスさせることに基づいて前記航空機の前記動作の制御を配分することにより、前記第1制御システムと前記第2の制御システムの間のコンフリクトを解決すること、
を含む方法。
【請求項22】
プログラムがコンピュータによって実行された時点で、前記コンピュータに、請求項1ないし20のいずれか1項に記載の前記制御ユニットの機能を行なわせ、および/または請求項17ないし21のいずれか1項に記載の前記方法のステップのうちの1つ以上を行なわせる命令を含むコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の地上操作に関する。
【0002】
本発明は、例えば航空機の着陸段階の一部として地上操作を行なう間の航空機の自動化または部分的自動化に関する。より詳細には、ただし排他的にではなく、本発明は、航空機用の航空機地上操作ユニットに関する。本発明は同様に、航空機の地上操作を自動的に制御するための方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
航空機を安全に飛行させるのに求められるパイロットの数を削減するかあるいは航空機の安全性を向上させることが望まれている。1機の航空機のコックピット内に1名のパイロットしか配置しないことには、パイロットの無力化の問題が付随している。単独パイロットの航空機運用に関連して安全性を向上させるためには、パイロットが操縦不能になった場合に航空機を操縦し着陸させる能力を有する自動操縦および自動着陸システムを提供することが望ましい。
【0004】
自動ブレーキ係合および方向舵制御を保証するシステムを用いた自動着陸は、今日の航空機のいくつかにすでに存在している。機首方位制御システムおよび減速制御システムがすでに存在するものの、これらは、飛行乗務員の入力を考慮し、より高速での運用向けに設計されていない。航空機を自律的に着陸させるのに好適であるためには、機首方位制御システムは、地面に沿って任意の速度で移動しているときに航空機を横方向に制御できなければならない。
【0005】
機首方位制御機能は、航空機の「進路変更」に応答して、前輪の操舵角を変更することによって航空機の直進機首方位を維持する。これは、タキシング中に要求される他の航空機の横方向制御に追加される。
【0006】
この機首方位制御機能無しで航空機の横方向を制御する場合、飛行乗務員は、高速では(小さい前輪操舵コマンドで)航空機を制御するために方向舵を使用することになり、低速では(小さい方向舵効率で)前輪操舵を使用することになる。横方向制御システムの1つ以上が故障した場合には、飛行乗務員は、例えば、右舷側において適用されるレベルとは異なる航空機左舷側の制動レベルで航空機の車輪上でブレーキを用いて、航空機を横方向に制御するために手動での差動制動を使用することができる。しかしながら、航空機を減速するために全制動が必要とされる(すなわち最大の制動が適用される)場合には、差動制動は不可能になる。したがって、通常、自動システムは、横方向制御のために前輪操舵(低速で)および方向舵制御(高速で)を使用する。同様に、通常、パイロットは非常に特殊な状況においてのみ横方向動作を制御するために手動で差動制動を使用する。
【0007】
通常は飛行乗務員が手動で行ない得る航空機の操縦の自動化について、先行技術には、さまざまな例が存在する。
【0008】
特許文献1は、健全性監視システムが、制動車輪またはセンサ信号のうちの1つ以上の故障を判断した場合に、制動制御システムを自動的に自己再構成するための、健全性監視システムとタスクマネージャを含む航空機用制動制御システムを開示している。
【0009】
特許文献2は、パイロットが航空機の誘導または操縦不能となった場合に、自動的に航空機を誘導し操縦する航空機誘導および操縦システムを開示している。制御ユニットは、着陸のための代替的空港へと航空機を誘導し操縦する。
【0010】
特許文献3は、パイロットの介入無しで航空機を着陸させるための自動着陸システムおよびプロセスを開示している。
【0011】
特許文献4は、自動操縦システムのアーミングまたはアプローチモードを有効化させる1つ以上の条件が満たされたか否かを、ナビゲーションシステムからの位置データに基づいて判定するステップを含む航空機システムおよび方法を開示している。
【0012】
特許文献5は、着陸支援および緊急着陸機能を提供する飛行誘導方法、システムおよび航空機システムを開示している。
【0013】
特許文献6は、航空機を着陸目的地に着陸させるように構成されたコントローラを含み得る、航空機を自律的に着陸させるためのシステムを開示している。
【0014】
特許文献7は、航空機のエンジンおよび/またはブレーキを非対称的に使用することにより、地上において横軸に沿って航空機を自動的に制御するための要素を含むデバイスを開示している。
【0015】
したがって、航空機には、地上で航空機の制御において飛行乗務員を支援する多くの異なるシステムが存在しており、そのいくつかは、程度の差こそあれ自動化を促進するが、特に例えば航空機の着陸が理想的条件にない場合などの特定のシナリオに対処することができない可能性がある。このようなシステムを使用できるさまざまな方法が存在するが、それでも、着陸中の航空機制御の多数の機能/必要条件をこのようなシステムが統合する方法を改善し、航空機の操縦の自動化を向上させ、および/または航空機の操縦を制御する上で使用される航空機システムとの飛行乗務員との相互作用/飛行乗務員の介入の必要性を削減する機会がなおも存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第10081346号
【特許文献2】米国特許第8108086号
【特許文献3】米国特許出願公開第2022/0058970号
【特許文献4】欧州特許第3855269号
【特許文献5】米国特許第2021/0287560号
【特許文献6】国際公開第2012/145608号
【特許文献7】米国特許第8521365号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上述の問題のうちの1つ以上を軽減しようとするものである。代替的にまたは付加的に、本発明は、航空機の地上操作を制御するための改善された方法またはシステムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、第1態様によると、航空機用の航空機地上操作ユニットを提供する。航空機は、少なくとも2つの車輪(例えば航空機の両側に1つずつ)および少なくとも2つの車輪ブレーキを含む航空機の動作を制御するための複数の制御機構を有する。制御ユニットは、航空機の横方向動作に関する要求である横方向の入力要求、および航空機の長手方向動作に関する要求である長手方向の入力要求を受信するように構成されている。制御ユニットは、航空機の関連する制御機構に対する出力要求を伝えるように構成されており、出力要求は、入力要求に基づくものであり、少なくとも一定のシナリオにおいては、横方向の滑走路逸脱のリスクおよび長手方向の滑走路逸脱のリスクに応じた修正を含む。したがって、使用中、このようなリスクに関する情報(例えばデータおよび/またはリスク計算)を考慮して横方向の入力要求および長手方向の入力要求に制御ユニットが優先順位付けすることができる。制御ユニットは、一定のシナリオにおいて、入力要求がいかなる修正も無く出力要求として伝えられ、一方他のシナリオでは横方向の滑走路逸脱および長手方向の滑走路逸脱のリスクに基づいて入力要求の一部に優先順位付けするように構成されることもできる。
【0019】
実施形態において、横方向の入力要求は、機首方位の制御機能を提供する別個のシステムによって提供されてもよく、長手方向の入力要求は、減速制御機能を提供する別個のシステムによって提供されてもよい。このような実施形態においては、例えば方向舵制御および/または前輪操舵の故障などの場合に、機首方位の制御機能が、差動車輪ブレーキのレベルを指示できることが有利な場合がある。このとき、機首方位制御機能および減速機能に異なる(例えば矛盾する)要件がある複数のシナリオも考えられる。これらのシナリオには、差動制動を必要とするのと同時にブレーキが送達するトルク量により航空機が制限される(すなわち最大の圧力が指令される)場合が含まれる。
【0020】
このような実施形態においては、滑走路上にある着陸中の航空機の動作が制御ユニットの制御下にある場合、制御ユニットは、出力要求を計算するときに横方向の入力要求および長手方向の入力要求のうちの一方に優先順位付けする。制御ユニットは、滑走路からの航空機の逸脱のリスクを最小限に抑えるために横方向の入力要求および長手方向の入力要求を組合わせることができるような方法で優先順位付けを行なう。制御ユニットが横方向の入力要求および長手方向の入力要求を制御機構に対する出力要求セットに組合わせるためには、制御ユニットは、入力要求間のコンフリクト(conflict)に対処できなければならない。横方向の入力要求と長手方向の入力要求の間にコンフリクトがある場合、制御ユニットは、航空機の横方向および/または長手方向の逸脱に付随するリスクを考慮に入れる方法で、コンフリクトを除去するためにこれらの要求に優先順位付けすることになる。このような実施形態は有利にも、より安全な単独パイロット運用を促進し、パイロットの無力化に対処するためのストラテジー(strategies)を提供し、および/または自動航空機着陸システムを向上させることができる。
【0021】
任意選択で、制御ユニットは、航空機上の他の制御機構の利用可能性に基づいて、横方向の入力要求および長手方向の入力要求の少なくとも一部に優先順位付けすることによって、車輪ブレーキに対する出力要求を計算するように構成されている。このような優先順位付けは、横方向の滑走路逸脱および/または長手方向の滑走路逸脱のリスクに関する情報に基づくものであってよい。例えば、着陸前または着陸中に方向舵制御が失なわれた場合、着陸段階のより高速な部分において航空機の横方向制御を可能にする目的で、(横方向の入力要求を満たす目的で)長手方向の入力要求よりも高い優先順位が差動制動に対して付与され得る。
【0022】
入力要求の優先順位付けには、入力要求の一方を、他方に有利になるように完全に遮断することが含まれてもよいことが理解される。いくつかのシナリオにおいて、横方向の入力要求および長手方向の入力要求に優先順位付けする機能には、例えば、横方向の入力要求および長手方向の入力要求のうちの一方に他方よりも部分的に優先する妥協点を提供することなど、入力要求内のコンフリクトを除去する目的で入力要求の一方または両方を修正することが含まれ得る。横方向の入力要求および長手方向の入力要求の一方または両方の削減は、横方向の入力要求および/または長手方向の入力要求に対して与えられる全体的権限のうちのパーセンテージの削減であってもよい。横方向の入力要求および長手方向の入力要求の一方または両方の削減は、出力要求の影響を受ける各制御機構に対して付与された制御のうちのパー先手テージの削減であってもよい。削減の量は、制御ユニットによって計算され、様々な方法で横方向/長手方向の滑走路逸脱リスクを考慮に入れることができる。計算は例えば、滑走路逸脱の計算された確率および/またはこのような滑走路逸脱の場合の航空機の最も可能性の高い速度の計算された推定値に依存することができる。計算には、さまざまな将来の事象の帰結を重み付けするいくつかの依存関係、例えば、速度Xでの横方向の逸脱の負の帰結の予測されたレベルと速度Yでの長手方向の逸脱の負の帰結の予測されたレベルとのバランスを取ることが含まれてもよい。したがって、このような実施形態は、所与の速度において横方向の逸脱の帰結が長手方向の逸脱の帰結と異なる可能性があるということを認識している。例えば、それを下回ると長手方向の逸脱の負の帰結が許容可能なものとみなされる第1臨界速度、およびそれを下回ると横方向の逸脱の負の帰結が許容可能なものとみなされる第2の異なる臨界速度が存在してもよい。
【0023】
横方向の入力要求および長手方向の入力要求は、相対的な優先順位付けレベルを表わす比率に基づいて優先順位付けされてもよい。優先順位付け比率は、横方向の滑走路逸脱リスクと長手方向の滑走路逸脱リスクの比率に等しく(またはそれに依存する)てもよい。優先順位付け比率は、予測された横方向の逸脱速度と予測された長手方向の逸脱速度の比に等しい(またはこれに依存する)ものであってもよい。優先順位付け比率は、横方向の逸脱速度パラメータと長手方向の逸脱速度パラメータの比であってもよい。横方向の逸脱速度パラメータは、横方向の予測された逸脱速度と横方向の臨界的な逸脱速度に基づくものであってもよい。例えば、予測された横方向の逸脱速度が横方向の臨界的な逸脱速度より低い場合には、横方向の逸脱速度パラメータはゼロでもよく、そうでない場合には、横方向の逸脱速度パラメータは、予測された横方向の逸脱速度から横方向の臨界的な逸脱速度を減じたものに等しくてもよい。横方向の臨界的な逸脱速度は、20ノットを超える値であり得、任意には45ノット超の値、例えば60ノット+/-10ノット前後といった値であってもよい。同様にして、予測された長手方向の逸脱速度が長手方向の臨界的な逸脱速度よりも低い場合には、長手方向の逸脱速度パラメータはゼロであり得、そうでなければ、長手方向の逸脱速度パラメータは、予測された長手方向の逸脱速度から長手方向の臨界的な逸脱速度を減じたものに等しい可能性がある。長手方向の臨界的な逸脱速度はゼロであってよく、またはゼロでなくてもよい。長手方向の臨界的な逸脱速度は、5ノットを超える値であり得、任意には、15ノットを超える値、例えば30ノット+/-10ノット前後であってもよい。長手方向の臨界的な逸脱速度パラメータおよび横方向の臨界的な逸脱速度パラメータの一方または両方を、係数で重み付けすることができる。
【0024】
本発明の実施形態は、こうして、滑走路の逸脱リスクの計算に基づいた優先順位付けを含む出力要求を結果としてもたらす重み付け合計として、横方向の入力要求および長手方向の入力要求を修正することを可能にする。
【0025】
制御ユニットは、航空機の制御機構の現在の状態に関する入力データを受信するように構成されてもよい。実施形態においては、制御ユニットは次にこのようなデータを用いて、例えば1つ以上の制御機構が危険に曝されているかまたは他の形で完全に機能していないか利用不可能であるというデータに基づいて、実施される修正および/または優先順位付けを調整することができる。横方向制御および長手方向制御に付与される優先度レベルは、制御されている制御機構のタイプにしたがって異なってもよい。例えば、車輪ブレーキに関連しては、スポイラ/速度ブレーキに比べて異なる優先順位付け比率を使用してもよい。
【0026】
制御ユニットは、横方向の入力要求が長手方向の入力要求と矛盾している場合にそれを識別するように構成されてもよい。制御ユニットは、横方向の入力要求が長手方向の入力要求と矛盾している場合には、要求を航空機の制御機構の利用可能性と比較することによって識別するように構成されてもよい。制御ユニットは、横方向の入力要求が差動制動用であり、長手方向の入力要求が両方の車輪ブレーキにおける制動用である場合に、入力要求間のコンフリクトを識別するように構成されてもよい。したがって、実施形態において、制御ユニットは有利には、このようなコンフリクトを識別するだけでなく、例えば入力要求を出力要求として伝達する前に、滑走路逸脱リスクを考慮に入れながら入力要求の一方または両方を修正することによってこれらのコンフリクトを除去することができる。
【0027】
制御ユニットは、航空機の速度(これは、速度および方向を有する速度ベクトルとしてかまたは、例えば航空機の横方向速度として表現され得る、横方向方向で分解された速度成分である)および航空機と横方向方向における滑走路の縁部との間の距離に基づいて、横方向の逸脱リスクを決定するように構成され得る。制御ユニットは、航空機の速度(これは、速度および方向を有する速度ベクトルとしてかまたは、例えば長手方向で分解された速度成分である航空機の長手方向速度として表現され得る)および航空機と長手方向における滑走路の縁部との間の距離に基づいて、長手方向の逸脱リスクを決定するように構成され得る。制御ユニットは、横方向の逸脱リスクおよび長手方向の逸脱リスクに関するデータを、航空機に搭載された他のシステムから受信することができる。
【0028】
制御ユニットは、横方向の入力要求、長手方向の入力要求および/またはそれらの組合せを満たすために制御機構が要求する応答に基づいて、横方向の逸脱リスクおよび長手方向の逸脱リスクを決定するように構成され得る。例えば使用中、制御ユニットは、横方向の要求および長手方向の要求を同時に満たすために必要とされる応答が、航空機の制御機構の能力内にあるか否かに基づいて、横方向の逸脱リスクおよび長手方向の逸脱リスクを決定してもよい。
【0029】
制御ユニットは、横方向の入力要求および長手方向の入力要求を航空機の制御機構が完全に満たすことができない場合を識別するように構成され得る。
【0030】
制御ユニットは、他の入力要求に対する1つの入力要求の権限に対する制限を適用することにより優先順位付けを提供するように構成されてもよい。
【0031】
制御ユニットは、長手方向の逸脱のリスクおよび横方向の逸脱のリスクをバランスさせて、全体的リスクを削減し、好ましくは最小限に抑える出力要求を計算するように構成されてもよい。
【0032】
制御ユニットは、右舷車輪ブレーキ(またはブレーキ)および左舷車輪ブレーキ(またはブレーキ)に対して、横方向の入力要求と長手方向の入力要求の総和である要求を、例えば制御ユニットにより実施される優先順位付けによって修正されるように出力するように構成されてもよい。
【0033】
以上で言及された通り、制御ユニットは、横方向の入力要求を受信し、航空機の1つ以上の操舵制御機構に対して出力要求を送信するように構成されており、横方向制御のために、方向舵操舵機構および前輪操舵機構などの操舵制御機構を含んでもよい。制御ユニットは、方向舵操舵機構および前輪操舵機構のうちの少なくとも1つが出力要求を満たしていないことを判定し、その結果として左舷車輪ブレーキおよび右舷車輪ブレーキのうちの1つ以上に対して出力要求を送信して横方向の制御を支援するように構成され得る。本発明のこの態様の実施形態の1つの利点は、制御ユニットが単独パイロット操縦をサポートできることであろう。制御ユニットは、自動着陸システムが、航空機のより高速での操作中に航空機を制御することを可能にすることができる。
【0034】
制御ユニットは、第1制御システムおよび(例えば別個のおよび/または少なくとも部分的に独立した)第2制御システムから入力要求を受信してもよい。制御ユニットは、第1制御システムから横方向の入力要求を受信するように構成されてもよく、第1制御システムは、例えば機首方位制御システムの形態であってもよい。制御ユニットは、第2制御システムから長手方向の入力要求を受信するように構成されてもよく、第2制御システムは、例えば減速制御システムの形態であってもよい。以上で指摘した通り、制御ユニットは、航空機の制御機構に対して出力要求を送信するように構成されてもよい。制御ユニットは、第1制御システムおよび第2制御システムの一方または両方に対し権限制限を適用して、結び付けられた出力要求を制限するように構成されてもよい。このような場合、制御ユニットは、横方向の滑走路逸脱のリスク(それに付随するリスクを含む)および長手方向の滑走路逸脱のリスク(それに付随するリスクを含む)に基づいて権限制限を計算する。
【0035】
制御ユニットは、自動着陸システムの一部であってよい。自動着陸システムは、機首方位制御システムおよび減速制御システムを含んでもよい。
【0036】
本発明は、第2態様によると、本明細書中で説明または請求されている本発明に係る地上操作制御ユニットを有する航空機を提供している。したがって、制御ユニットは、(航空機上の他のシステムからの横方向および長手方向の入力要求に関係する)入力を受信しかつ航空機の1つ以上の制御機構の制御をもたらす出力を送信するべく、有線でおよび/または無線通信を介して接続され得る。
【0037】
航空機は旅客機であってもよい。旅客機は好ましくは、多数の乗客を収容するための座席ユニットの複数の横列と縦列を含む客室を含んでいる。航空機は、少なくとも20名、より好ましくは少なくとも50名、そしてより好ましくは50名超の乗客収容能力を有し得る。航空機は、民間航空機、例えば商業旅客機、例えば単通路型航空機または双通路型航空機であってもよい。航空機は、乗客を運ぶように構成されている必要はなく、例えば、貨物用に構成されおよび/または非商業ベースで使用される同等のサイズの航空機でもあってもよい。航空機は、少なくとも20トン、任意には少なくとも40トンそして場合により50トン以上の最大離陸重量(MTOW)を有し得る。航空機は、少なくとも20トン、任意には少なくとも30トンそして場合により約40トン以上の運用空重量(operating empty weight)を有し得る。
【0038】
航空機上の車輪ブレーキは、摩擦を介して制動をひき起こす1つ以上のブレーキパックを含んでもよい。航空機上の車輪ブレーキは、少なくとも部分的に磁力により減速をひき起こす1つ以上のブレーキを含んでもよい。
【0039】
本発明は、第3態様によると、航空機の地上操作を自動的に制御するための方法を提供する。このような方法は、本明細書中で説明または請求されている通りの本発明に係る制御ユニットの使用を含む。該方法は、航空機が滑走路面に沿って移動するステップと;制御ユニットが横方向の入力要求を受信するステップと;制御ユニットが長手方向の入力要求を受信するステップと;制御ユニットが、横方向および長手方向の入力要求に応じて出力要求を計算するステップであって、このような出力要求が航空機の1つ以上の制御機構の制御をもたらすために使用されるステップとを含んでもよい。これらの要求間にコンフリクトが存在する場合、受信した要求に優先順位付けするステップも存在してもよい。このような優先順位付けは横方向の滑走路逸脱リスクに関連するパラメータまたは変数および長手方向の滑走路逸脱リスクに関連するパラメータまたは変数に応じて、計算されるかまたは他の方法で導出され得る。
【0040】
優先順位付けには、制御ユニットが、横方向の滑走路逸脱リスクおよび長手方向の滑走路逸脱リスクに基づいて、他方の要求に対する一方の要求の権限について制限を適用することを含んでもよい。制御ユニットは、横方向および長手方向の要求の組合せが航空機の制御機構によって遂行され得ないことを計算することにより、横方向の入力要求と長手方向の入力要求の間にコンフリクトがあることを判定するように構成され得る。
【0041】
該方法は、制御ユニットが、1つ以上の第1操舵制御機構に対して出力要求を送信することを含んでもよく、第1操舵制御機構は、方向舵操舵機構および前輪操舵機構である。該方法は、制御ユニットが、第1操舵制御機構の少なくとも1つが出力要求を満たしていないことを標示するデータを、航空機に搭載されたセンサから受信することを含み得る。該方法は、制御ユニットが、横方向および長手方向の入力要求に応じて出力要求を計算すること、これらの要求間にコンフリクトが存在する場合、受信した要求に優先順位付けすること、優先順位付けが横方向の滑走路逸脱リスクおよび長手方向の滑走路逸脱リスクに依存することを含んでもよい。次いで、該方法は、制御ユニットが、詳細には航空機の車輪ブレーキを含む操舵制御機構に対し適切に修正された出力要求を伝えることを含み得る。
【0042】
本発明は同様に、航空機を自動的に着陸させる方法において、第1制御システムを用いて滑走路との関係における航空機の横方向動作を制御するステップと、第2制御システムを用いて滑走路との関係における航空機の長手方向動作を制御するステップと、を含む方法を提供する。第1および第2の制御システムは、ソフトウェアの形で具現され、航空機上の同じコンピュータシステム上に設置された別個の制御モジュールによって形成され得る。該方法は、航空機が滑走路からの横方向に逸脱することに付随するリスクと滑走路からの長手方向に航空機が逸脱することに付随するリスクをバランスさせることに基づいて航空機の動作の制御を配分することにより、第1制御システムと第2制御システムの間のコンフリクトを解決する。
【0043】
いくつかの実施形態において、制動停止の終了時に、パイロットが無力化状態にある場合、全面的な正常ブレーキアプリケーションを適用し、回復するまで航空機のあらゆる動作を防止するために、その適用を保持することができる。
【0044】
以上で示唆されているように、本発明は、少なくとも部分的にソフトウェアの形で具現され得る。したがって、本明細書中で説明または請求されている本発明の制御ユニットによって実施されるそれらのステップをコンピュータが行なうことを含む、コンピュータに実施される方法が提供され得る。例えば、このようなコンピュータ実装方法は、横方向の入力要求および長手方向の入力要求をコンピュータが受信するステップおよび、横方向の滑走路逸脱のリスクおよび長手方向の滑走路逸脱のリスクに基づいて入力要求の一部に優先順位付けすることによって導出される修正を含む出力要求を送信するステップを含み得る。このような方法は、横方向の滑走路逸脱リスクパラメータおよび長手方向の滑走路逸脱リスクパラメータを評価するステップ(例えばその計算による)を含み得る。同様に、プログラムがコンピュータによって実行された時点で、コンピュータにこのようなコンピュータ実装方法の諸ステップを実施させる命令を含むコンピュータプログラム製品も同様に提供され得る。
【0045】
当然のことながら、本発明の一態様に関連して説明された特徴を、本発明の他の態様に組込むことができるということが認識されるものである。例えば、本発明の方法は、本発明の装置を参照しながら説明した特徴のいずれかを組込むことができ、その逆も同様である。
【0046】
本発明の実施形態について以下で、添付の概略図を参照しながら、単なる一例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る航空機の上面図を示す。
図2図2は、図1の航空機の正面図を示す。
図3図3は、図1および図2の航空機上で使用するための地上操作制御ユニットを含む航空機システムの概略図を示す。
図4図4は、本発明のさらなる実施形態に係る地上操作制御ユニットを含む航空機システムの概略図を示す。
図5図5は、修正を伴う図4の航空機システムの概略図を示す。
図6図6は、修正を伴う図5の航空機システムの概略図を示す。
図7図7は、本発明の別の実施形態に係る航空機地上操作を自動的に制御するための方法の一例を示す流れ図を示す。
図8図8は、本発明のさらに別の実施形態に係る航空機地上操作を自動的に制御するための方法の一例を示す流れ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1は、本発明の一実施形態に係る例示的航空機101の上面図を示す。航空機101は、図3に関連して説明されている通りの地上操作制御システムを含む。破線102は、航空機に対する横方向を標示する。例示された実施形態に関連して「横方向移動」の言及は、破線102の方向への航空機の移動成分を意味する。破線104は、航空機の長手方向軸を標示する。例示された実施形態に関連して「長手方向移動」の言及は、軸104に沿った航空機の移動成分を意味する。航空機101は、民間旅客機である。航空機101は、エンジン106aおよび106b、方向舵108およびスポイラ111aおよび111bを含めた多数の制御機構を有する。図2は、この実施形態に係る航空機101の前面図を示す。航空機101は、前輪操舵機構の一部である前輪112を含む。航空機101は、右舷側車輪ブレーキ110b(図2の左手側)および左舷側車輪ブレーキ110a(図2の右手側)を含む。エンジン106aおよび106b、スポイラ111aおよび111b、そして車輪ブレーキ110aおよび110bは、地上操作中に滑走路に沿った航空機の長手方向移動を制御するために使用可能である。方向舵108、前輪操舵112および車輪ブレーキ110aおよび110bは、地上操作中に滑走路に沿った航空機の横方向移動を制御するために使用可能である。車輪ブレーキ110aおよび110bは、航空機を横方向に制御するべく差動制動を提供するために使用可能である。高速では、横方向制御は、方向舵によって最適に行うことができる一方、より低速では、前輪が好ましい場合がある。差動制動は、横方向制御のためのバックアップまたは補足的な制御機構として使用され得る。減速制御のためには、スポイラは高速で最も効果的であり、横方向制御のためのバックアップ、任意のまたは補足的な制御機構としてエンジン出力を用いた逆推力装置を使用することができる。より低い速度では、車輪制動が、航空機を減速させるための有力なメカニズムである。
【0049】
以上で指摘されているように、図1および2に示された実施形態の航空機は、図3によって概略的に例示されている航空機地上操作制御システムを含む。航空機地上操作制御システムは、滑走路上への航空機の自動(または部分的自動)着陸およびその後のタキシング操作を支援するように構成されている。これは、航空機の自動着陸を容易にすることができ、それ自体今度は、パイロット無しの航空機の運用、削減された飛行乗務員(例えばより少ないパイロット)での運用、および/またはパイロットが無力化状態となった場合の強化された安全性の特徴として機能することを可能にする。航空機の自動着陸に関連しては、航空機が滑走路面から離れて進路変更する(横方向の逸脱)かまたは滑走路面をオーバランする(長手方向の逸脱)事態を可能な限り回避することが、最も重要である。逸脱が回避不能であるかまたはそうなった場合、このような事態がもたらすの悪い帰結を最小限に抑えることが望まれる。以下でさらに詳細に説明されるように、航空機地上操作制御システムは、使用中、横方向の逸脱および/または長手方向の逸脱の後に続く可能性のあるあらゆる否定的な結果の影響を管理することおよび低減することを含む、滑走路逸脱のリスクを管理し削減するように動作する。
【0050】
制御ユニット226は着陸/タキシング時の航空機の動作を制御するために、航空機の多くの制御機構230と相互作用する。この実施形態において、制御ユニット226は、コンピュータソフトウェアにより航空機のコンピュータシステム内で実行され、コンピュータ実装型である。使用中、制御ユニット226は、航空機の横方向移動に関する(すなわち、航空機の所望される移動または横方向移動の変更を実装するための)要求(システム、パイロット、オートパイロットなどからの)である横方向の入力要求220を受信し、航空機の長手方向移動に関する要求である長手方向の入力要求222を受信する。制御ユニット226は同様に、航空機の長手方向の逸脱リスクおよび航空機の横方向の逸脱リスクに関する入力データ232も受信する。このようなリスクは、逸脱の確率、滑走路面の境界にいる場合の航空機の予測される動作速度および/または方向、横方向の逸脱(および/または長手方向の逸脱)が一定の速度を超える確率、または他のリスクの尺度として提供され得る。
【0051】
制御ユニット226は、制御機構230の移動/位置/起動を制御するための指令を送信することと制御機構230の実際の移動/位置/起動ステータスについての情報を受信することの両方である、航空機の制御機構230との双方向通信のために接続される。使用中、制御ユニット226は、制御機構に対して出力要求228を送信し、出力要求228は、横方向の入力要求220、長手方向の入力要求222、横方向の逸脱および長手方向の逸脱232に関連するリスク、および制御機構230の現在のステータスに応じて決定される。いくつかのシナリオにおいて、制御ユニット226は、横方向の滑走路逸脱リスクおよび長手方向の滑走路逸脱リスク232に基づいて、横方向の入力要求220および長手方向の入力要求222の一方を他方に比べて優先順位付けする。例えば、横方向の滑走路逸脱が存在する高いリスクがあるものの長手方向の滑走路逸脱のリスクは低いと思われる場合には、制御ユニットは、長手方向の入力要求222よりも横方向の入力要求に優先順位付けすることになる。別の例では、例えば少なくとも40ノットで滑走路の端部を超える長手方向の逸脱が存在する(ただし横方向の逸脱は存在しない)第1の結果、ならびに例えば少なくとも50ノットで滑走路の路側を離れる横方向の逸脱が存在する(ただし長手方向の逸脱は存在しない)第2の結果が存在し、かつそれらのリスクは、これら2つの結果のうちの一方しか回避できない可能性が極めて高いようなものである。制御ユニット226は、リスクを評価し、第1の結果の負の影響が第2の結果の負の影響よりも悪いと判断し、その結果、横方向の入力要求220よりも長手方向の入力要求222に優先順位付けする。これは、制御ユニットがいかなる修正も無く長手方向の入力要求を通過させるが、横方向の入力要求を削減してそれに対してより優先度を下げるか、またはその影響をゼロまたはゼロ近くに削減する1つの例と考えることができる。
【0052】
図4は、本発明の別の実施形態に係る航空機地上操作ユニット326の概略図を示す。この実施形態と図3中に示された実施形態の間の主要な差異についてここで説明する。
【0053】
制御ユニット326は、横方向の入力要求320と長手方向の入力要求322を受信し、航空機の長手方向の逸脱リスクおよび航空機の横方向の逸脱リスクに関する入力データ332を受信するように構成されている。制御ユニット326は同様に、多数の異なる制御機構330に対して出力要求328を送信し、これらの制御機構330からフィードバック入力350を受信するようにも構成されている。
【0054】
したがって、使用中、制御ユニット326は、前輪操舵システム334(NWSとラベル付けされている)に対して出力要求328を送信し、横方向の要求に応えるために前輪操舵システムの現在のステータス(例えば回転位置)およびその利用可能性(例えば故障中、部分的に危険に曝露または動作可能)を標示する信号350を前輪操舵システム334から受信する。制御ユニット326は同様に、方向舵操舵システム336(RSとラベル付けされている)に対して信号328を送信し、横方向の要求に応えるために方向舵の現在のステータスおよびその利用可能性(例えば故障中、部分的に危険に曝露または動作可能)を標示する信号350を方向舵操舵システム336から受信するようにも構成されている。制御ユニット326は、右舷車輪ブレーキ338(SWBとラベル付けされている)および左舷車輪ブレーキ340(PWBとラベル付けされている)に対して信号328を送信し、横方向の要求(例えば差動制動)または長手方向制動要求に応えるためブレーキの現在のステータスおよびその利用可能性を標示する信号350を右舷車輪ブレーキシステム338および左舷車輪ブレーキシステム340から受信するように構成されている。制御ユニット326は同様に、航空機のエンジン342(ENGとラベル付けされている)に対して信号328を送信し、エンジンの現在のステータスを標示する信号350をエンジン342から受信するようにも構成されている。制御ユニット326は、同様に、航空機の1つ以上のスポイラシステム344(SPとラベル付けされている)に対して信号328を送信し、航空機のスポイラシステム344から、長手方向の要求に応えるためにスポイラの現在のステータスおよびそれらの利用可能性を標示する信号350を受信するようにも構成されている。
【0055】
使用中、制御ユニット326は、制御機構330に対して出力するため、1組の出力要求328の形で信号を決定する。制御ユニットは、これを、受信した横方向の入力要求320、受信した長手方向の入力要求322、制御ユニット326によって計算された、起こり得る横方向の逸脱および起こり得る長手方向の逸脱332に関連するリスクの尺度、および制御機構330の利用可能性(または故障ステータス)に基づいて行なう。多くのシナリオにおいて、全ての制御機構330が完全に利用可能であり(故障無し)、受信した横方向の入力要求320と受信した長手方向の入力要求322の間にコンフリクトが全く無く、滑走路逸脱のまたは滑走路逸脱に関連するリスクが無視できる程度のものである場合、制御ユニット326は、横方向の入力要求320および長手方向の入力要求322を修正することなく、制御機構330に伝達する。他のシナリオにおいては、制御ユニット326は、横方向の入力要求320および長手方向の入力要求322を航空機の制御機構330に対して、適切な修正と共に伝達する。制御ユニット326は、航空機の制御機構330によって要求が同時に完全に遂行され得ない場合、横方向の入力要求320および長手方向の入力要求322の一方または他方に(そして適切なレベルまで)優先順位付けするように構成されている。この実施形態においては、制御ユニット326は、優先順位付けフィルタ324を含むものとみなされてよく、使用時に、横方向の入力要求320および長手方向の入力要求322は、航空機の制御機構330の利用可能性および航空機の横方向の滑走路逸脱および長手方向の滑走路逸脱に付随するリスク332の計算された尺度に基づいて要求を重み付けする優先順位付けフィルタ324を通過するようになっている。入力要求の受信、出力要求の送信および制御ユニットにより計算された要求の修正は、動的なプロセスであり、修正が提供される場合、一般的には航空機の地上操作中に経時的に変動することになる、ということが認識されるものである。
【0056】
故障と同様に横方向の入力要求320と長手方向の入力要求322の間のコンフリクトも存在する特定のシナリオにおいて図4の制御ユニット326がどのように動作し得ると考えられるかの一例について、ここで説明する。このシナリオは、前輪操舵機構に故障が発生し、横方向の要求に応えるために利用可能でない、というものである。制御ユニットは、出力要求328の計算において制御機構330の利用可能性を考慮に入れるように構成されている。前輪操舵機構334は、航空機に横方向制御を提供することができないため、右舷車輪ブレーキおよび左舷車輪ブレーキを使用して、航空機を横方向制御するために差動制動を提供することができる。この例において、横方向の入力要求は、左舷車輪ブレーキよりも右舷車輪ブレーキにおいてより大きな制動を必要とする。長手方向の入力要求は、右舷車輪ブレーキと左舷車輪ブレーキの両方において最大ブレーキ出力を求めている。制御ユニットは、横方向の入力要求および長手方向の入力要求にコンフリクトがあり、したがって、航空機の制御機構330によって同時に満たすことができないことを識別する。制御ユニット326は、横方向の滑走路逸脱リスクおよび長手方向の滑走路逸脱リスク332に基づいて要求に優先順位付けする優先順位付けフィルタ324に横方向の入力要求320および長手方向の入力要求322を通すことによって、出力要求328を決定する。制御ユニット326は、航空機の制御機構330に対して出力要求328を伝達するように構成されている。少なくともタッチダウン後の着陸段階の一部について(特に方向舵制御がもはや機首方位の方向/横方向移動に対する強い影響を有さない場合)、制御ユニットは、横方向の入力要求に対しより大きな権限を与え、横方向の逸脱のリスクが許容可能なレベルに低下するまで長手方向の入力要求の権限を制限することができる。
【0057】
図5は、本発明の別の実施形態に係る地上操作制御ユニット426を含む航空機システム400の概略図を示す。該システムは、図1および2に示されているもののような航空機上での使用に好適である。航空機システム400は、制御ユニット426に対して横方向の入力要求420を送信するように構成されている第1制御システム460を含む。航空機システム400は、制御ユニット426に対して長手方向の入力要求422を送信するように構成されている第2制御システム462を含む。第1制御システム460は、機首方位制御システムである。第2制御システム462は、減速制御システムである。制御ユニット426は、航空機101の横方向の逸脱リスクおよび航空機101の長手方向の逸脱リスクに関する入力データ432を受信する。制御ユニット426は、制御機構430に対して要求428を出力するように構成されている。図4に示された配設と同様に、制御機構430は、前輪操舵機構434、右舷車輪ブレーキ438、左舷車輪ブレーキ440、エンジン442およびスポイラ444を含む。制御ユニット426は、それらの現在のステータスを標示する信号450を制御機構430から受信するように構成されている。制御ユニットは、横方向の入力要求420、長手方向の入力要求422、横方向の滑走路逸脱リスクおよび長手方向の滑走路逸脱リスク432、および制御機構430のステータスに基づいて、制御機構430に対する出力要求428を計算するように構成されている。特定のシナリオにおいては、制御ユニットは、横方向の要求420および長手方向の要求422を修正無しで制御機構に伝達することによって、出力要求428を効果的に発行する。特定の他のシナリオにおいては、制御ユニットは、第2制御システム462の権限と比べて第1制御システム460の権限に対して制限を適用するように構成されており、したがって、出力要求428は受信した入力要求と異なる。制限は、横方向の滑走路逸脱リスクおよび長手方向の滑走路逸脱リスク432に応じて、制御ユニット426により決定される。ここで、横方向の滑走路逸脱リスクは、逸脱の起こりそうな確率、逸脱が起こりそうな速度、そしてこのような逸脱が起こりそうな結果を考慮に入れた計算されたリスク尺度であってもよい、ということが認識される。
【0058】
図6は、図5に関連して説明した実施形態に類似する実施形態に係る地上操作制御ユニット426を含む航空機システムの概略図を示す。ただしこの実施形態では、制御ユニット426は、優先順位付けフィルタ424を含むと考えてよい。したがって、制御ユニット426は、優先順位付けフィルタ424に横方向の入力要求420および長手方向の入力要求422を通すように構成されており、優先順位付け424は、航空機の制御機構430の利用可能性および航空機の横方向および長手方向の逸脱リスク432に基づいて要求に対し重み付けを適用する。制御ユニット426は、制御機構430からの入力信号450を連続的に監視し、出力要求428を再計算するように構成されている。車輪制動に関する限り、入力要求に対する出力の重み付けは、以下の通りであってもよい:
OUTStar=αLAT_DEMStar+βLON_DEMStar
OUTPort=γLAT_DEMPort+δLON_DEMPort
式中:
OUTStarは、右舷側で可能な最大制動量以下である、右舷側の車輪制動の出力要求であり、
OUTPortは、左舷側で可能な最大制動量以下である、左舷側の制動の出力要求であり、
LAT_DEMStarは、正か負かそしてLAT_DEMPortとは反対の正負符号のものである制動レベルの所望される変更として一般的に表現される、横方向制御のための右舷側の制動入力要求であり、
LAT_DEMPortは、正か負かそしてLAT_DEMStarとは反対の正負符号のものである制動レベルの所望される変更として一般的に表現される、横方向制御のための左舷側の制動入力要求であり、
LON_DEMStarは、所望される絶対制動レベルとして一般的に表現される、長手方向制御のための右舷側の制動入力要求であり、
LON_DEMPortは、所望される絶対制動レベルとして一般的に表現される、長手方向制御のための左舷側の制動入力要求であり、
α、β、γ、δは、比率(α+γ):(β+δ)が、横方向の要求対長手方向の要求の重み付けの尺度となっている、重み付け係数である。
【0059】
シナリオに応じて、重み付け係数の比率は、「長手方向の逸脱の予測速度」に対する「横方向の逸脱の予測速度」に関する比率を参照して決定される。したがって、横方向の逸脱の対応するリスク(または速度)に対して長手方向の逸脱のリスク(または速度)が高くなればなるほど、長手方向の要求に対して付与される権限の割合が大きくなる(長手方向の要求は横方向の要求よりも大きい優先度を獲得する。)
【0060】
α=γでありβ=δである場合がある。いくつかのシナリオにおいて、α<100%、β<100%、γ<100%そしてδ<100%であり、したがって横方向制御要求および長手方向制御要求の両方に対し全権限より少ない権限が認められる可能性がある。他のシナリオ(権限に対する制限は全く不要)においては、α=β=γ=δ=100%である可能性がある。
【0061】
図6の実施形態により、さまざまなシナリオに対処することが可能であり、例としてそのうちのいくつかを以下で説明する。
【0062】
シナリオ1
減速制御システム462は、航空機の制御機構430によって現在提供されている減速率が、逸脱無く航空機を停止まで持っていくのに充分であることから、長手方向の滑走路逸脱のリスクが低い、と判定する。機首方位制御システム460は、方向舵操舵機構436および前輪操舵機構434が、横方向の滑走路逸脱を回避するために必要とされる横方向の要求を遂行できることから、横方向の逸脱のリスクが低い、と判定する。制御ユニット426は、機首方位制御システム460から横方向の入力要求420を受信する。制御ユニット426は、減速制御システム462から長手方向の入力要求422を受信する。制御ユニット426は、横方向の入力要求420および長手方向の入力要求422を直接制御機構430に伝える。機首方位制御システム460および減速制御システム462は両方共、制御ユニット426により権限制限が全く課せられないため、制御機構430に対する全権限を維持する。したがって、この場合、α=γ=β=δ=100%である。
【0063】
シナリオ2
減速制御システム462は、制御ユニット426に対して長手方向の要求422を発行する。機首方位制御システム460は、制御ユニット426に対して横方向の要求420を発行する。制御ユニット426は、方向舵操舵機構436に対し第1係数によりスケーリングされた横方向の要求を伝える。制御ユニット426は、前輪操舵機構434に対し第2係数によりスケーリングされた横方向の要求を伝える。制御ユニット426は、航空機の地上速度に基づいて、第1係数および第2係数を決定する。制御ユニット426は、車輪ブレーキ438および440に対して長手方向の要求を発行する。このとき、方向舵操舵機構436の喪失をひき起こす故障が発生する。機首方位制御システム460は、制御ユニット426に対して横方向の要求420を発行する。制御ユニット426は、方向舵がもはや利用可能な機構でないとの標示を受信したため、前輪操舵機構434に伝達するための横方向の要求の適切なレベルを計算し、これは第3係数(これは第2係数に等しくても等しくなくてもよい)によってスケーリングされる。制御ユニット426は同様に、前輪操舵機構434によって満たすことのできない横方向の要求420を満たすことを補助するように、差動制動のための出力要求を計算する。したがって、制御ユニット426により計算され制動のために右舷車輪ブレーキ438および左舷車輪ブレーキ440に送信された出力要求は、そのように求められた(差動制動)横方向の要求420および長手方向の要求422の両方を満たす。方向舵制御の喪失にも関わらず、横方向制御要求および長手方向制御要求の両方共がブレーキによって満たされ得ることから、なおもα=γ=β=δ=100%である場合もある。
【0064】
シナリオ3
機首方位制御システム460は、横方向の滑走路逸脱のリスクが低い、と判定する。機首方位制御システム460は、右舷車輪ブレーキ438および左舷車輪ブレーキ440が共に、航空機を横方向に制御するために低レベルの差動制動を提供するようにする要求を発行する。減速制御システム462は、現在のステータスで制御機構430を用いて航空機が達成する減速率では航空機が滑走路の端を長手方向にオーバランするのを阻止するのに充分でないことから、長手方向の逸脱リスクが高い、と判定する。これは、例えば不利な滑走路条件、不利な気候条件、機械的故障、および/または不安定なアプローチを含めた多数の理由のいずれかに起因し得ると考えられる。減速制御システム462は、右舷車輪ブレーキ438および左舷車輪ブレーキ440の両方における全制動のための要求422を発行する。制御ユニット426は、機首方位制御システム460および減速制御システム462の要求に対し権限制限を適用する。権限制限は、横方向の滑走路逸脱リスクおよび長手方向の滑走路逸脱リスク432に基づいて、制御ユニット426によって決定される。長手方向の逸脱のリスクが高く、横方向の逸脱のリスクが低いことから、制御ユニットは、右舷車輪ブレーキ438および左舷車輪ブレーキ440に対して要求を送信するため、機首方位制御システムの権限を遮断する権限制限を適用する。車輪ブレーキは、制御ユニット426が減速制御システム462に対し全権限を付与していることから、右舷車輪ブレーキ438および左舷車輪ブレーキ440の両方における全制動のための要求を受信する。したがって、この場合、α=γ=0%であり、β=δ=100%である。
【0065】
制御ユニット426は、横方向および長手方向の逸脱のリスク432に関する入力データを連続的に受信する。制御ユニット426は、制御機構430からそれらの現在のステータスを標示する信号を連続的に受信する。制御ユニット426は、横方向および長手方向の滑走路逸脱に関連するリスクの継続的に更新される計算に応じて、元の権限制限を変更または削除する。経時的に、このとき、α=γ=10%およびβ=δ=90%となるように制御ユニットが権限を制限する場合があってもよい。
【0066】
シナリオ4
減速制御システム462は、航空機により達成される減速率が、滑走路の縁部での長手方向の航空機のオーバランを回避するのに充分であることから、長手方向の逸脱のリスクが低いことを判定する。機首方位制御システム460は、前輪操舵機構434および方向舵操舵機構436の使用に加えて、航空機を横方向で制御するために高レベルの差動制動を要求しなければならないことから、横方向の逸脱リスクが高いと判定する。制御ユニット426は、機首方位制御システム460から横方向の入力要求420を、そして減速制御システム462から長手方向の入力要求422を受信する。制御ユニット426は、機首方位制御システム460および減速制御システム462からの要求に対して権限制限を適用する。権限制限は、横方向の滑走路逸脱リスクおよび長手方向の滑走路逸脱リスク432に基づいて、制御ユニット426により決定される。横方向の滑走路逸脱リスクが高いことから、制御ユニットは、機首方位制御システム460の要求と矛盾すると考えられる右舷車輪ブレーキ438および左舷車輪ブレーキ440の制動要求をことごとく遮断するため、減速制御システムの権限を制限する。車輪ブレーキは、制御ユニット426が機首方位制御システム460に対して全権限を付与したことから、差動制動のための要求を受信する。したがって、この場合、α=γ=100%であり、β=δで、β<100%そしてδ<100%である。一例として、車輪制動レベルを左舷側と右舷側の両方でスライディングスケールによって、または0.0から10.0までで表わすことができる場合には、減速制御システムは、両方の側で9.5の制動(合計19.0のレベル)に対する要求を発行し、一方で、機首方位制御システムは、左舷側で+2.0の制動そして右舷側で-2.0の制動に対する要求を発行する場合がある。機首方位制御システムに対し全権限を付与することにより、修正された出力要求は、左舷側でレベル6.0の制動そして右舷側でレベル10.0(最大)の制動に関するものであり、合計でレベル19.0の制動に近くなり、実際には合計出力要求は16.0となる。代替的な出力は、左舷側でレベル5.5の制動、そして右舷側でレベル9.5(左舷側で減速制御システムにより実際に要求されている量)の制動であり、合計出力要求が15.0であるものであってもよいと考えられる。
【0067】
制御ユニット426は、横方向および長手方向の逸脱のリスク432に関する入力データを連続的に受信する。制御ユニット426は、制御機構430からそれらの現在のステータスを標示する信号を連続的に受信する。制御ユニット426は、横方向および長手方向の滑走路逸脱のリスクに応じて、元の権限制限を変更または削除することになる。
【0068】
シナリオ5
減速制御システム462は、航空機により達成された減速率が、滑走路の長手方向のオーバランを回避するのに充分なものであることから、長手方向の逸脱のリスクが低いと判定する。機首方位制御システム460は、方向舵操舵機構および前輪操舵機構が、いかなる差動制動も使用することなく航空機を横方向で制御する能力を有することから、横方向の逸脱のリスクが低いことを判定する。制御ユニット426は、機首方位制御システム460から横方向の入力要求420を受信する。制御ユニット426は、減速制御システム462から長手方向の入力要求422を受信する。制御ユニット426は、横方向の入力要求420および長手方向の入力要求422を直接制御機構430に伝える。制御ユニット426により権限制限が全く課せられていないことから、機首方位制御システム460および減速制御システム462は両方共、制御機構430に対する全権限を維持する。したがって、シナリオのこの段階において、α=γ=β=δ=100%である。
【0069】
このとき、方向舵操舵機構436の喪失をひき起こす故障が存在する。減速制御システム462は、航空機の減速率が滑走路の長手方向オーバランを回避するのに充分なものであることから、長手方向の逸脱のリスクがなおも低い、と判定する。機首方位制御システム460は、横方向の滑走路逸脱のリスクが高いことを判定する。機首方位制御システム460は、滑走路に沿った航空機の横方向位置を維持する目的で高レベルの差動制動を要求している。制御ユニット426は、機首方位制御システム460から横方向の入力要求420を、そして減速制御システム462から長手方向の入力要求422を受信する。制御ユニット426は、機首方位制御システム460および減速制御システム462からの要求に対し権限制限を適用する。権限制限は、横方向の滑走路逸脱リスクおよび長手方向の滑走路逸脱リスク432に基づいて、制御ユニット426によって決定される。横方向の滑走路逸脱のリスクが高いことから、制御ユニットは、機首方位制御システム460の権限を優先する権限制限を適用し、機首方位制御システム460の権限と矛盾すると思われるかぎり、右舷車輪ブレーキ438および左舷車輪ブレーキ440に要求を送信する減速制御システムの権限を効果的に遮断する。車輪ブレーキは、制御ユニット426が機首方位制御システム460に全権限を付与したことから要求される最大レベルの差動制動を受信する。したがって、シナリオのこの段階において、α=γ=100%であり、β<100%、δ<100%である。
【0070】
経時的な長手方向制御の遮断は、当然のことながら、より高い長手方向の逸脱のリスクを発生させることになり、速度が降下するにつれて、方向舵を用いた横方向移動の制御の効率が低下するが、(前輪による)操舵はひき続き利用可能である。これにより、制御ユニットは、達成された減速率がオーバランを回避するのに充分なものでないことから、(例えば25ノットより高い速度での)長手方向の逸脱のリスクが中程度に存在すると実質的に判断することになる。長手方向の逸脱のリスクが増大するにつれて、(例えば35ノットの速度での)横方向の逸脱のリスクが比較的高く残っているにも関わらず、長手方向制御の遮断は、徐々に解除される。このような予測された逸脱速度で、長手方向制御と横方向制御に付与される権限/優先度の比率は、横方向制御の方により高い優先度が付与されている場合と同様の比率(長手方向;横方向制御について例えば25:35)に従う可能性がある。このことはすなわち、制御システムの横方向成分により指令される差動制御が、長手方向制動とのコンフリクトが存在するかぎりにおいてより大きな優先度を受ける一方で、長手方向制御に対して付与される権限には、長手方向制動とのコンフリクトが存在するかぎりにおいてより小さい優先度しか付与されない、ということを意味している(与えられる優先度の比率は25:35の比率と一貫したものである)。このことは、0<α<100%、0<β<100%、0<γ<100%、そして0<δ<100%であることを意味するものである。
【0071】
制御ユニット426は、機首方位制御システム460および減速制御システム462からの要求に対してこれらの権限制限を適用し、こうして減速制御システム462よりも大きな優先度を機首方位制御システム460に付与する。制御ユニット426は、航空機の左舷車輪ブレーキ440および右舷車輪ブレーキに対して出力要求を送信し、ここで出力要求は、機首方位制御システム460から受信した横方向の入力要求420と減速制御システム462から受信した長手方向の入力要求422の重み付けされた総和として計算される。
【0072】
この例に対する代替案として、制御ユニットは、横方向の逸脱に付随するリスク(負の帰結のリスクを含む)が60ノット超の航空機速度で有意に大きく、一方で、長手方向の逸脱に付随するリスクは30ノット超の航空機速度で有意に大きいとみなすことができると考えられる。換言すると、一定の速度では、横方向の逸脱の危険性を減らすよりも長手方向の逸脱の危険性を減らす方が良い可能性がある。長手方向の権限と横方向の権限の比率は、(予測された長手方向の逸脱速度+30ノット):(予測された横方向の逸脱速度)の比率に基づくことができる。別の選択肢は、長手方向権限と横方向権限の比率をP:Qの比率に基づくものにするというものであり、ここで、
P=予測された長手方向の逸脱速度が30ノット未満である場合0であり、そうでなければP=予測された長手方向の逸脱速度から30ノット減じた値である。
Q=予測された横方向の逸脱速度が60ノット未満である場合0であり、そうでなければQ=予測された横方向の逸脱速度から60ノットを減じた値である。
【0073】
β:αおよびδ:γの比は、長手方向権限と横方向権限の比率に依存するが、必ずしも長手方向権限と横方向権限の比率に数学的に等しくなる必要はない。
【0074】
シナリオ6
このシナリオにおいて、減速制御システム462は当初、航空機により達成される減速率が滑走路の長手方向オーバランを回避するのに充分であることから、長手方向の逸脱のリスクは低い、と判定する。機首方位制御システム460は、方向舵操舵機構および前輪操舵機構がいかなる差動制動も使用することなく航空機を横方向に制御する能力を有することから、横方向の逸脱のリスクは低いことを判定する。制御ユニット426は、機首方位制御システム460から横方向の入力要求420を受信する。制御ユニット426は、減速制御システム462から長手方向の入力要求422を受信する。制御ユニット426は、横方向の入力要求420および長手方向の入力要求422を直接制御機構430に伝える。機首方位制御システム460および減速制御システム462は両方共、制御ユニット426によっていかなる権限制限も課せられないため、制御機構430に対し全権限を維持する。したがって、シナリオのこの段階において、α=γ=β=δ=100%である。
【0075】
その後、左舷側車輪ブレーキ440を機能させなくする故障(例えば左舷側の全タイヤのバースト)が発生し、車輪の50%しか制動しないことを考慮すると、制動時に高いレベルの非対称性が生じ、車輪ブレーキによって提供される制動力が低下する。
【0076】
減速制御システム462は、航空機によって達成される減速率が滑走路の長手方向オーバランを回避するのに不充分であるため、中位の長手方向の逸脱リスクが存在することを判定する。機首方位制御システム460は、滑走路の横方向の逸脱を回避するために高レベルの横方向制御を要求している。したがって、機首方位制御システム460は、横方向の滑走路逸脱の中位のリスクが存在する、と判定する。制御ユニット426は、長手方向の滑走路逸脱リスクを横方向の滑走路逸脱リスクと比較して、機首方位制御システム460と減速制御システム462の間の制御権限比率を決定する。制御ユニット426は、機首方位制御システム460から横方向の入力要求420を受信し、減速制御システム462から長手方向の入力要求422を受信する。制御ユニット426は、長手方向の滑走路逸脱リスクと横方向の滑走路逸脱リスクによって決定される比率で、機首方位制御システム460および減速制御システム462からの要求に対して権限制限を適用する。制御ユニット426は、航空機の右舷側車輪ブレーキ438に対して出力要求を送信し(左舷側車輪ブレーキは動作不能にされている)、ここで、出力要求は、機首方位制御システム460から受信した横方向の入力要求420と減速制御システム462から受信した長手方向の入力要求422の重み付けされた総和として計算される。制御ユニット426は同様の方法で、他の要求を航空機の他の制御機構に送信し、減速の必要性のバランスを保ち、それでもなお滑走路から逸脱しないようにし、長手方向の滑走路逸脱のリスクと横方向の滑走路逸脱のリスクの比率に応じて機首方位制御システム460および減速制御システム462の権限を制限する。
【0077】
したがって、両方の左舷タイヤがバーストしたため、機首方位制御システム460が、まっすぐな機首方位を維持し制動の非対称性を取り除くために右舷側のブレーキを完全に解放するように要求を出すかもしれないことが理解されるであろう。この場合、右舷ブレーキを完全に解除することにより、かなりの速度で長手方向に逸脱することになると考えられる。したがって、機首方位制御システム460に、ブレーキを完全に解放させる(したがって横方向の逸脱のリスクを最小限に抑える)全権限が許可されたならば、このことが、航空機全体のレベルで、長手方向の逸脱をひき起こす望ましくないノックオン効果を生じることになると考えられる。同様にして、減速制御システム462は、車輪ブレーキの機能の50%の喪失した場合に、右舷ブレーキをその最大レベルで作動させる要求を発行し得ると考えられる。ただし、これにより不可避的に横方向の逸脱を引き起こす可能性がある。
【0078】
このシナリオにおいては、見込みの高い最大長手方向の逸脱速度が70ノットであり(横方向制御と矛盾しない限り、横方向制御に全権限が付与され、長手方向制御のみに権限が付与される場合)、見込みの高い高い横方向の逸脱速度は80ノットであり(長手方向制御と矛盾しない限り、長手方向制御に全権限が付与され、横方向制御のみに権限が付与される場合)、70:80のリスク比率が与えられる。このとき、これはすなわち、機首方位制御システム460によって指令される差動制御が、減速制御システム462によって指令される長手方向制御よりもわずかに高く優先順位付けされることを意味する。したがって、右舷ブレーキに対し幾分かの制動が適用され、幾分かの減速がもたらされ(ただし、恐らくは、長手方向の逸脱のリスクを全て取り除くのに充分なものではなくかつ恐らくは航空機上の他の制御機構(すなわち方向舵および前輪操舵)により提供される横方向制御により完全に釣り合うことができるよりも大きな非対称性をひき起こし、こうして無視できないほどの横方向の逸脱のリスクがもたらされる。しかしながら、減速制御システム462と比べた機首方位制御システム460に付与される権限を適切にバランスさせることにより、滑走路逸脱の全体的リスクは効果的に管理される。70ノットでの長手方向の逸脱または80ノットでの横方向の逸脱ではなくむしろ、航空機は滑走路のコーナーでの約30ノットの逸脱に見舞われることもある。したがって、制御ユニット426によって提供される出力要求は、長手方向の逸脱および横方向の逸脱の全体的リスクを最小限に抑える。
【0079】
図7は、本発明の別の実施形態に係る航空機地上操作を自動的に制御するための方法の一例を示す流れ図700を示している。該方法は、以下のステップを含む。航空機は、滑走路面に沿って移動する(囲み701で表現)。制御ユニットは、横方向の入力要求を受信し(囲み703で表現)、長手方向の入力要求を受信する(囲み705で表現)。制御ユニットは、出力要求を計算し(囲み707で表現)、制御ユニットは、航空機の1つ以上の制御機構に対して出力要求を伝える(囲み709で表現)。いくつかの実施形態によると、出力要求を計算するステップ707には、それらの要求の間にコンフリクトがある場合に受信した要求に優先順位付けすることが含まれる。優先順位付けは、横方向の滑走路逸脱リスクおよび長手方向の滑走路逸脱リスクに基づいている。
【0080】
別の実施形態によると、航空機の地上操作を自動的に制御するための方法は、さらに以下のステップを含む。制御ユニットは、1つ以上の第1操舵制御機構に対して出力要求を送信し(囲み709)、第1操舵制御機構は方向舵操舵機構および前輪操舵機構である。制御ユニットは、第1操舵制御機構が出力要求を満たしていないことを標示するデータを航空機に搭載されたセンサから受信する(囲み711で表現)。制御ユニットは、横方向および長手方向の入力要求に応じて出力要求を計算し(囲み713で表現)、制御ユニットは次に航空機の車輪ブレーキに対して出力要求を伝える(囲み715で表現)。制御ユニットは、それらの要求の間にコンフリクトが存在する場合に受信した要求に優先順位付けすることによって出力要求を計算する。優先順位付けは、横方向の滑走路逸脱リスクおよび長手方向の滑走路逸脱リスクに依存する。
【0081】
図8は、本発明の別の実施形態に係る航空機地上操作を自動的に制御するための方法の一例を示す流れ図800を示している。該方法には、以下ステップが含まれる:第1制御システムを用いて滑走路に対する航空機の横方向の動作を制御するステップ801と、第2制御システムを用いて滑走路に対する航空機の長手方向動作を制御するステップ803;および航空機が滑走路から横方向に逸脱することに関連するリスクと、滑走路から長手方向に航空機が逸脱することに関連するリスクとのバランスをとることに基づいて航空機の動作の制御を配分することにより、第1制御システムと第2制御システムの間のコンフリクトを解決するステップ805。該方法は、横方向の要求および長手方向の要求の組合せがその特定の時点における使用のために利用可能な航空機の制御機構によって満たされないことを決定する(例えば計算する)ことにより、横方向の入力要求と長手方向の入力要求の間にコンフリクトがあると決定する制御ユニットを含み得る。
【0082】
本発明は、特定の実施形態を参照して説明され例示されてきたものの、当業者であれば、本発明が、本明細書中に具体的に例示されていない多くの異なる変形形態に適しているということを認識するものである。単なる例として、考えられるいくつかの変形形態についてここで説明する。
【0083】
入力要求との関係における出力の重み付けは、車輪制動に関するかぎり、異なる形で表現されてもよく、代りに以下の通りであってもよい(ただし、このことが上述のさまざまなシナリオにおいて車輪に適用される実際の制動レベルに対し、影響を及ぼすことはほとんどまたは全く無い):
OUTStar=αLAT_DEMStar+βLON_DEMStar
OUTPort=γLAT_DEMPort+δLON_DEMPort
式中:
OUTStarは、右舷側で可能な最大制動量以下である、右舷側の車輪制動の出力要求であり、
OUTPortは、左舷側で可能な最大制動量以下である、左舷側の制動の出力要求であり、
LAT_DEMStarは、横方向制御についての要求と矛盾しないかぎりにおいて長手方向制御に対し考えられる最大限の権限を与える一方で、横方向制御のための要求に対して全権限が付与された場合に提供される右舷側の制動の量であり、
LAT_DEMPortは、横方向制御についての要求と矛盾しないかぎりにおいて長手方向制御に対し考えられる最大限の権限を与える一方で、横方向制御のための要求に対して全権限が付与された場合に提供される左舷側の制動の量であり、
LON_DEMStarは、長手方向制御についての要求と矛盾しないかぎりにおいて横方向制御に対し考えられる最大限の権限を与える一方で、長手方向制御のための要求に対して全権限が付与された場合に提供される右舷側の制動の量であり、
LON_DEMportは、長手方向制御についての要求と矛盾しないかぎりにおいて横方向制御に対し考えられる最大限の権限を与える一方で、長手方向制御のための要求に対して全権限が付与された場合に提供される左舷側の制動の量であり、
α、β、γ、δは、α+β=100%かつγ+δ=100%であり、比率(α+γ):(β+δ)が横方向の要求v.s.長手方向の要求の重み付けの尺度となるような重み付け係数である。このような場合、比率(α+γ):(β+δ)は、上述のP:Qの比率に等しいものであってもよい。同様に、横方向の要求と長手方向の要求の間に全くコンフリクトが無い場合、重み付け係数は、α=β=γ=δ=50%に任意に設定され得る(ただし、同様に、いかなるコンフリクトも存在しないことから、出力要求に対するいかなる変更も無く、α=γ=100%かつβ=δ=0%でもあってもよいと考えられる)。
【0084】
機首方位制御システム、減速制御システムおよび制御ユニットは、横方向および/または長手方向での考えられる滑走路逸脱に関連するリスクをより良好に管理するために変更される航空機の制御機構に対する要求を発行することによって、航空機の横方向制御および長手方向制御を集合的に決定する3つの別個のシステムとして説明されてきたものの、これらの機能は、説明された実施形態に関連して以上で述べたものとは異なる方法で航空機上のハードウェアおよび/またはソフトウェアシステムの形で組合わせるかまたは分離することが可能である。例えば、適切な入力端、出力端およびソフトウェアを有する1つの適切なプログラミングされたコンピュータシステムが、全てのこのようなシステムおよび制御ユニットの機能を実行することができる。同様に、機首方位制御システム、減速制御システムまたは航空機の他のシステムではなく、制御ユニットが、逸脱リスクを計算する場合もある。
【0085】
上述のものよりも多くのシステムが、権限のために競い合うことも可能である。例えば、全てが例えば車輪ブレーキの競合する(そして場合によっては矛盾する)要求を有し得る、アンチスキッド制御を有する自動着陸システム、機首方位制御システムおよび自動制動システムが存在し得る。
【0086】
1つの要求が他の要求よりも優先されて完全に遮断される例が存在し得る。このように制御を完全にブロックし、制御を大幅に制限する代りに、より可変的な制御を有することが有益であってもよい。このような要求の制限/遮断はなおも、横方向の滑走路逸脱リスクおよび長手方向の滑走路逸脱リスクの評価に基づいて行われる。
【0087】
「or(または)」なる用語は、文脈上他の意味に解すべき場合を除いて、「and/or(および/または)」として解釈されるものとする。
【0088】
以上の説明の中で、公知の、明白なまたは予知可能な等価物を有する整数または要素が記載されている場合には、そのような等価物は、本明細書においてあたかも個別に記載されているかのように組込まれる。本発明の真の範囲を決定するためには、クレームを参照すべきであり、これらのクレームは、このような等価物を全て包含するように解釈されなければならない。同様に、読者は、好ましい、有利である、好都合であるものなどとして説明されている本発明の整数または特徴が、任意であり、独立クレームの範囲を限定するものではないということも認識するものである。その上、このような任意の整数または特徴が、本発明のいくつかの実施形態においては有益なものであってもよいものの、他の実施形態においては望ましいものではない場合があり、したがって無くてよい、ということも理解すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【外国語明細書】