(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028207
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】ヘパリン起因性血小板減少症を診断するための血小板活性化試験
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
G01N33/53 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023132754
(22)【出願日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】22190892.4
(32)【優先日】2022-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】510259921
【氏名又は名称】シーメンス ヘルスケア ダイアグノスティクス プロダクツ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】ゲアリンデ・クリスト
(72)【発明者】
【氏名】マティーアス・エーム
(72)【発明者】
【氏名】ヘルベルト・シュヴァルツ
(57)【要約】
【課題】本発明は、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)を確定するための機能的かつ容易に自動化可能な試験に関する。
【解決手段】反応におけるプロトロンビンフラグメントF1+2の形成を測定する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体を検出するための方法であって、以下の工程:
i. サンプルを、血小板含有試薬、およびPF4結合性非分枝多糖もしくはPF4結合性ポリアニオンまたは非分枝多糖もしくはポリアニオンに結合したPF4タンパク質からなる複合体と混合することによって、反応混合物を用意する工程;
ii. 反応混合物をインキュベートする工程;および次いで
iii. 反応混合物中のプロトロンビンフラグメントF1+2(F1+2)の量を決定する工程;
iv. このように決定された反応混合物中のF1+2の量を、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含んでいないことがわかっているドナーの体液サンプルを含む反応混合物中のF1+2の量に関する所定の基準値と比較する工程;および
v. 決定された反応混合物中のF1+2の量が基準値を超えているならば、サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在を確定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
血小板含有試薬は、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含んでいないことがわかっている1人またはそれ以上の健常なドナーのヒト血小板を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応混合物中のF1+2の量は、少なくとも1種の抗F1+2特異的抗体を反応混合物と接触させることによって決定される、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
第1および第2の抗F1+2抗体、または第1のF1+2特異的抗体およびF1+2と第1の抗体とからなる免疫複合体に対する特異性を有する第2の抗体、ならびに
シグナル形成系の第1および第2の成分が互いに空間的近傍に導かれる際に検出可能なシグナルが生成されるように相互作用する、シグナル形成系の第1および第2の成分
を反応混合物と混合し、第1の抗F1+2抗体は、シグナル形成系の第1の成分と会合しているか、または反応混合物のインキュベーション中にそれと会合し、第2の抗F1+2抗体または免疫複合体特異的抗体は、シグナル形成系の第2の成分と会合しているか、または反応混合物のインキュベーション中にそれと会合する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
シグナル形成系の第1および第2の成分が各々粒状固相を含み、反応混合物中の粒状固相の凝集が測定される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
シグナル形成系の第1の成分は化学発光剤でシグナル形成系の第2の成分は光増感剤であるか、またはその逆であり、反応混合物における化学発光が測定される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
得られた反応混合物は、血小板の除去のための遠心分離工程に供されない、請求項4~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ヘパリン起因性血小板減少症を診断または予測するための方法であって、患者の体液サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在が請求項1~7のいずれか1項に記載の方法を使用して検出される、方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法を行うための試験キットであって、以下の構成要素:
a. 血小板を含む第1の試薬;
b. PF4結合性非分枝多糖もしくはPF4結合性ポリアニオンまたは非分枝多糖もしくはポリアニオンに結合したPF4タンパク質からなる複合体を含む、第2の試薬;および
c. 少なくとも1種の試薬が抗F1+2特異的抗体を含む、F1+2を検出するための1種またはそれ以上の試薬
を含む、試験キット。
【請求項10】
第2の試薬が、
ヘパリン、未分画ヘパリン、分画ヘパリン、デキストラン硫酸、およびフコイダンからなる群からのPF4結合性非分枝多糖;または
ポリビニル硫酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルリン酸、ポリビニルホスホン酸、ポリスチレン硫酸、およびポリスチレンスルホン酸からなる群からのPF4結合性ポリアニオン;または
上述の非分枝多糖のうちの1つに結合したPF4タンパク質からなる、もしくは上述のポリアニオンのうちの1つに結合したPF4タンパク質からなる複合体
を含む、請求項9に記載の試験キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、in vitro診断の分野に属し、ヘパリン起因性血小板減少症を確定するための機能的かつ容易に自動化可能な試験に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)は、ヘパリン療法の一部として生じることのある血栓疾患であり、命にかかわる血栓塞栓性合併症を引き起こすことがある。罹患患者は、ヘパリンおよび血小板第4因子(PF4)から構成される複合体に結合する抗体、いわゆる抗PF4/ヘパリン複合体抗体を産生する。in vivoでは、抗体が結合したPF4/ヘパリン複合体は血小板表面に結合し、血小板の活性化を引き起こす。これにより、血小板数の低減および血栓塞栓症のリスクの増大がもたらされる。
【0003】
HIT診断には基本的に2つの試験原理が使用される。第1の試験原理は、患者の体液サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体の直接検出に基づいている。この目的のために、サンプルをPF4/ヘパリン複合体、またはPF4および他の適切なポリアニオン(ポリビニルスルホン酸など)から構成される複合体と接触させ、従来の免疫学的試験法(例えば、ELISA)を使用してサンプル中に存在するあらゆる抗PF4/ヘパリン複合体抗体の結合を検出する。しかし、抗PF4/ヘパリン複合体抗体の検出に感度を有するが、十分に特異的ではないという欠点がある。すなわち、陽性のHITの診断には抗体の検出は不十分であり、一方、陰性結果は合理的な確実性でHITを除外しない。したがって、第2の試験原理に基づく機能試験による確認が推奨される。
【0004】
第2の機能試験原理は、抗PF4/ヘパリン複合体抗体の血小板活性化作用の検出に基づいている。この試験原理では、1人またはそれ以上の正常なドナーからの洗浄した血小板を患者の血漿もしくは血清サンプルおよびヘパリンと混合し、血小板の活性化を既知の活性化マーカーに基づいて、例えば、放出されたセロトニンの量に基づいて(セロトニン放出アッセイ)、または視覚的に検出可能な血小板凝集反応(HIPA試験)に基づいて測定する。患者のサンプルが抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含んでいれば、正常なサンプル(そのような抗体を有さない)と比較して増大した血小板活性化を確定することができる。
【0005】
2つの上述の機能試験原理は、複雑な手作業を必要とし、したがって訓練された作業員でなければ行うことができないことから、今まで従来の検査室では行うことや自動化することができなかった。さらにまた、セロトニン放出アッセイは、遠心分離工程による血小板の除去および放射性材料の使用を必要とする。
【0006】
特許文献1は、体液サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体を検出するための異なる方法であって、以下の工程:
i. サンプルを、血小板含有試薬、およびPF4結合性非分枝多糖またはPF4結合性ポリアニオンと混合することによって、反応混合物を用意する工程;
ii. 反応混合物をインキュベートする工程;および次いで
iii. 反応混合物中のPF4の量を決定する工程;
iv. このように決定された反応混合物中のPF4の量を、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含んでいないことがわかっているドナーの体液サンプルを含む反応混合物中のPF4の量に関する所定の基準値と比較する工程;および
v. 決定された反応混合物中のPF4の量が基準値を超えているならば、サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在を確定する工程
を含む方法を記載している。
【0007】
被験サンプル、血小板、およびヘパリン(または機能的に等価なPF4結合性多糖もしくはポリアニオン)を含む反応混合物中の放出PF4の定量的決定によって、サンプルが抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含んでいるのかどうか、よって患者がヘパリン起因性血小板減少症を患っているのかどうかを確定することが可能になる。
【0008】
上述の方法の1つの欠点は、ヘパリン起因性血小板減少症の存在は血小板の活性化を引き起こす抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在を検出することで決定することができるが、患者の凝固促進(procoagulatory)状態(すなわち、既に実際に上昇した凝固活性であり、血栓事象を患う特に高い急性リスクを有する患者の特徴である)が常に特定されるとは限らないことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、体液サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体を検出するための機能的方法であって、単なる抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在の検出および関連するヘパリン起因性血小板減少症の決定だけでなく、抗PF4/ヘパリン複合体抗体に誘導される血小板活性化によって引き起こされる可能性が最も高い、患者の凝固促進状態の指標を加えて提供する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
被験サンプル、血小板、およびヘパリン(または機能的に等価なPF4結合性多糖もしくはポリアニオン)を含む反応混合物中のプロトロンビンフラグメントF1+2(F1+2)の定量的決定によって、まず、該サンプルが抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含んでいるのかどうか、よってヘパリン起因性血小板減少症が存在するのかどうかを確定することが可能になることが見出された。抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含むサンプルは、前記反応混合物中でトロンビンの形成を明らかに引き起こすので、トロンビンが形成されるときに形成されるプロトロンビンフラグメントF1+2の反応混合物中の増加量は、抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在、よってヘパリン起因性血小板減少症の存在を示すだけでなく、加えて患者の凝固促進状態の評価も可能になる。反応で生じるプロトロンビンフラグメント F1+2の量が多くなればなるほど、凝固促進活性が大きくなり、よって患者が血栓事象を患う急性リスクが大きくなる。これによって、特にリスクのある患者を特定することが可能になる。
【0012】
よって、本発明は、体液サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体を検出するための方法を提供する。本方法は、以下の工程:
i. サンプルを、血小板含有試薬、およびPF4結合性非分枝多糖もしくはPF4結合性ポリアニオンまたは非分枝多糖もしくはポリアニオンに結合したPF4タンパク質からなる複合体と混合することによって、反応混合物を用意する工程;
ii. 反応混合物をインキュベートする工程;および次いで
iii. 反応混合物中のプロトロンビンフラグメントF1+2(F1+2)の量を決定する工程;
iv. このように決定された反応混合物中のF1+2の量を、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含んでいないことがわかっているドナーの体液サンプルを含む反応混合物中のF1+2の量に関する所定の基準値と比較する工程;および
v. 決定された反応混合物中のF1+2の量が基準値を超えているならば、サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在を確定する工程
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0013】
体液サンプルは、好ましくはヒトに由来する。好ましくは、体液サンプルは、実質的に血小板を含まない体液サンプル、特に血漿である。
【0014】
反応混合物を用意するのに必要とされる血小板含有試薬は、好ましくは、洗浄され、再懸濁されたヒト血小板の懸濁液である。血小板は、好ましくは、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含んでいないことがわかっている1人またはそれ以上の健常なドナーに由来する。適切な血小板含有試薬は、血小板濃縮血漿を得るために、例えば、好ましくはヒルジンも添加されたクエン酸全血サンプルを遠心分離することによって製造される。クエン酸溶液およびアピラーゼを血小板濃縮血漿に再度添加し、遠心分離を再度行い、次いで無細胞の上清を捨てる。最後に、ペレット化された血小板を緩衝懸濁溶液中に懸濁させる。
【0015】
体液サンプルは、PF4結合性非分枝多糖またはPF4結合性ポリアニオンとさらに混合される。検出しようとする抗PF4/ヘパリン複合体抗体が結合する複合体をPF4と形成する、多数のPF4結合性物質が公知である。適切な非分枝多糖は、例えば、ヘパリン、未分画ヘパリン(UFH)、分画ヘパリン(LMWH)、デキストラン硫酸、およびフコイダンである。適切なポリアニオンは、例えば、ポリビニル硫酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルリン酸、ポリビニルホスホン酸、ポリスチレン硫酸、およびポリスチレンスルホン酸である。
【0016】
特に好ましいのは、低分子量のデキストラン硫酸、好ましくは6~10キロダルトン(kDa)の分子量を有するデキストラン硫酸の使用である。何故なら、それらによって、望ましくない二次作用、例えば、内因性凝固系の活性化または血小板接着の弱化、が最低限となることが保証されるからである。
【0017】
本発明による方法の別の実施形態では、体液サンプルは、代替的に、非分枝多糖(好ましくは上述のもののうちの1つ)またはポリアニオン(好ましくは上述のもののうちの1つ)に結合したPF4タンパク質からなる複合体と混合される。
【0018】
反応混合物中のF1+2の量を決定する前に、PF4結合性非分枝多糖またはポリアニオンとサンプル中に存在するPF4タンパク質との間の複合体形成を可能にするために、サンプル中に含まれると推定される抗PF4/ヘパリン複合体抗体と、形成されたこの複合体との(または代替的に、添加された複合体との)結合を可能にするために、そして最後に、この抗体が結合した複合体と血小板表面との結合による血小板の活性化を可能にするために、反応混合物は、ある時間インキュベートされる。典型的なインキュベーション時間は、好ましくは+37℃で、5~15分の間である。
【0019】
十分なインキュベーションの後、反応混合物中のF1+2の量を決定するための工程が行われる。反応混合物中のF1+2の量の決定は、様々な方法によって行うことができる。好ましいのは、反応混合物中のF1+2の量が、少なくとも1種のF1+2特異的結合相手、例えば抗F1+2特異的抗体を反応混合物と接触させることによって決定される、結合アッセイである。これは、例えば、反応混合物(全部または一部)を固相に会合されたF1+2結合相手と接触させることによって行ってもよい。未結合の構成物質は洗浄することによって除去され、固相に結合されたF1+2ペプチドの量を決定するために第2の標識されたF1+2結合相手が使用される(ELISA技法)。特に適した抗F1+2抗体は、切断されていないプロトロンビンに結合しないモノクローナルF1+2特異的抗体である。プロトロンビンに結合しないそのような特異的F1+2抗体の生成および使用は、例えば、EP303983A2(Pelzerら)、US5,830,681(Hurstingら)、またはUS2003/0219845A1(Ruizら)に記載されている。抗F1+2抗体の特異性には、それらがF1+2フラグメントの少なくとも4つのカルボキシ末端アミノ酸(Ile-Glu-Gly-Arg-OH)を含むエピトープに結合することが重要である。F1+2の濃度を決定するのにサンドイッチイムノアッセイが一般に使用されるので、2種の抗F1+2抗体が必要とされる。EP1541676-A1(Teigelkampら)は、F1+2フラグメントのN末端側半分のエピトープに結合し、よってインタクトなプロトロンビンにも結合する抗体について記載しているが、これらの抗体は、サンドイッチイムノアッセイにおいてF1+2ネオエピトープ特異的一次抗体と組み合わせて二次抗体として使用するのに特に適している。
【0020】
特に好ましいのは、未結合の構成物質の除去を省くことができる、よって洗浄工程を省くことができる、均一系イムノアッセイである。この目的のために、反応混合物(全部または一部)を第1および第2の抗F1+2抗体と混合し、そしてシグナル形成系の第1および第2の成分と混合する。シグナル形成系の成分は、シグナル形成系の第1および第2の成分が互いに空間的近傍に導かれる際に検出可能なシグナルが生成されるように相互作用する。この場合、第1の抗F1+2抗体は、シグナル形成系の第1の成分と会合しているか、または反応混合物のインキュベーション中にそれと会合し、第2の抗F1+2抗体は、シグナル形成系の第2の成分と会合しているか、または反応混合物のインキュベーション中にそれと会合する。
【0021】
本発明による方法の別の実施形態では、F1+2特異的イムノアッセイは、F1+2に対する特異性を有する第1の抗体の使用、およびF1+2と第1の抗体とからなる免疫複合体に対する特異性を有する第2の抗体の使用を含む。
【0022】
この種のF1+2特異的イムノアッセイは、EP2168985-A1(Althausら)に記載されている。これは、プロトロンビンフラグメントF1+2のカルボキシ末端ネオエピトープに対する特異性を有する抗体または抗体フラグメントが結合したプロトロンビンフラグメンF1+2を含む免疫複合体に特異的に結合する抗体について記載しているが、ここでは、該抗体は、プロトロンビンフラグメントF1+2またはF2単体、およびプロトロンビンフラグメントF2/F1+2のカルボキシ末端ネオエピトープに対する特異性を有する抗体もしくは抗体フラグメント単体には結合しない。このアッセイ形式によって、洗浄および分離工程のない直接的で均一なサンドイッチイムノアッセイを実施可能にするのに十分に高い特異性が保証される。
【0023】
均一系F1+2イムノアッセイの一実施形態では、シグナル形成系の成分は、粒状固相、例えばラテックス粒子であり、その凝集は、濁度法または比濁法によって決定される。この目的のために、シグナル形成系の第1の成分は、第1の抗F1+2抗体と会合しているか、または会合可能であるような性質の第1の粒状固相からなる。第1の粒状固相は、第1の抗F1+2抗体と共有結合もしくはX/Y結合対を介して連結していても、または反応中にX/Y結合対を介してそれと連結してもよい。さらにまた、シグナル形成系の第2の成分は、第2の抗F1+2抗体と(またはF1+2と第1の抗体とからなる免疫複合体に対して特異性を有する抗体と)会合しているか、または会合可能であるような性質の第2の粒状固相からなる。第2の粒状固相は、第2の抗F1+2抗体と(または免疫複合体特異的抗体と)共有結合もしくはA/B結合対を介して連結していても、または反応中にA/B結合対を介してそれと連結してもよい。粒子強化光散乱の原理に基づいたイムノアッセイは1920頃から公知である(総説については、Newman,D.J.ら、Particle enhanced light scattering immunoassay.Ann Clin Biochem 1992;29:22~42を参照されたい)。好ましいのは、0.1~0.5μmの直径を有する、より好ましくは0.15~0.35μmの直径を有するポリスチレン粒子の使用である。好ましいのは、アミン、カルボキシル、またはアルデヒド官能基を有するポリスチレン粒子の使用である。好ましいのはまた、コアシェル粒子の使用である。粒子の合成およびリガンドの共有結合は、例えば、Peula,J.M.ら、Covalent coupling of antibodies to aldehyde groups on polymer carriers.Journal of Materials Science:Materials in Medicine 1995;6:779~785に記載されている。
【0024】
均一系PF4イムノアッセイの別の実施形態では、シグナル形成系は、少なくとも第1および第2の成分を含み、それらが互いに空間的近傍に導かれ、それによって互いに相互作用できる状態になると検出可能なシグナルが生成されるように相互作用する。成分間の相互作用は、特にエネルギー移動、すなわち、例えば、光または電子放射を通した、または短寿命の一重項酸素などの反応性化学分子を介する成分間のエネルギーの直接的な移動を意味すると理解されたい。エネルギー移動は、一方の成分から他方の成分へ移動するものであり得るが、異なる物質のカスケードを介してエネルギー移動が進行するものも可能である。例えば、成分は、エネルギー供与体およびエネルギー受容体を含む対であってもよく、例えば、光増感剤および化学発光剤(EP-A2-0515194、LOCI(登録商標)technology)、または光増感剤およびフルオロフォア(WO95/06877)、または放射性ヨウ素-125およびフルオロフォア(Udenfriendら(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.82:8672~8676)、またはフルオロフォアおよび蛍光消光剤(US3,996,345)であってもよい。特に好ましくは、シグナル形成系の第1の成分が化学発光剤でシグナル形成系の第2の成分が光増感剤であるか、またはその逆であり、測定されるのは反応混合物における化学発光である。
【0025】
互いに相互作用することができるシグナル形成系の第1の成分および/または第2の成分は、共有結合的にもしくは特異的相互作用を介して粒状固相に会合していても、またはその中に埋め込まれた状態であってもよい。粒状固相という用語は、非細胞の、懸濁可能な粒子、例えば、金属ゾル、シリカ粒子、磁性粒子、または特に好ましくはラテックス粒子を意味すると理解されたい。好ましいのは、0.01~10μmの直径を有する粒子、特に好ましいのは、0.1~1μmの直径を有する粒子である。
【0026】
互いに空間的近傍に導かれ、それによって互いに相互作用できるような状態になると検出可能なシグナルが生成されるように相互作用するシグナル形成系の第1の成分は、第1の抗F1+2抗体と会合しているか、または会合可能であるような性質のものである。シグナル形成系の第1の成分は、第1の抗F1+2抗体と直接的に会合していても、または直接的に会合可能であってもよい。好ましくは、シグナル形成系の第1の成分は、第1の抗F1+2抗体と間接的に会合しているか、または間接的に会合可能である。この目的のために、シグナル形成系の第1の成分は粒状固相と会合しており、該粒状固相は、加えて第1の抗F1+2抗体と共有結合的にもしくはX/Y結合対を介して会合しているか、または加えて第1の抗F1+2抗体とX/Y結合対を介して会合可能である。
【0027】
互いに空間的近傍に導かれ、それによって互いに相互作用可能になると検出可能なシグナルが生成されるように相互作用するシグナル形成系の第2の成分は、第2の抗PF4抗体(または免疫複合体特異的抗体)と会合しているか、または会合可能であるような性質のものである。シグナル形成系の第2の成分は、第2の抗F1+2抗体(または免疫複合体特異的抗体)と直接的に会合していても、または直接的に会合可能であってもよい。好ましくは、シグナル形成系の第2の成分は、第2の抗F1+2抗体(または免疫複合体特異的抗体)と間接的に会合しているか、または間接的に会合可能である。この目的のために、シグナル形成系の第2の成分は粒状固相と会合しており、該粒状固相は、加えてリガンドと共有結合的にもしくはA/B結合対を介して会合しているか、または加えてリガンドとA/B結合対を介して会合可能である。
【0028】
「結合相手XおよびY」および「結合相手AおよびB」は、各場合において、互いに特異的に認識し、かつ互いに結合する2つの異なる分子である。特異的な認識および結合の例は、抗体-抗原相互作用、ポリヌクレオチド相互作用などである。
【0029】
適切なX/YおよびA/B結合対は、とりわけ抗原/抗体の組み合わせであり、結合相手XまたはAは、抗PF4抗体の抗原エピトープである。抗原エピトープは、抗体の天然の配列エピトープまたは構造性エピトープであってもよい。抗原エピトープはまた、修飾された抗PF4抗体の異種の配列エピトープまたは構造性エピトープであってもよい。異種の配列エピトープまたは構造性エピトープの例は、FLAGタグもしくはHISタグ、またはフルオレセインタグであり、これらは、とりわけペプチドまたはタンパク質の標識に使用される。さらに適切なX/YおよびA/B結合対は、相補的なポリヌクレオチドであるXおよびY、ならびに相補的なポリヌクレオチドであるAおよびBである。特に好ましいX/YおよびA/B結合対は、FLAGタグ/抗FLAGタグ抗体、HISタグ/抗HISタグ抗体、フルオレセイン/抗フルオレセイン抗体、ビオチン/アビジン、およびビオチン/ストレプトアビジンである。
【0030】
記載の均一系イムノアッセイによって、反応混合物中の血小板を除去するための遠心分離工程を省くことが可能になることが見出された。これによって手順が単純化されることにより、一般的な分析器での本方法の自動実行が可能になる。本発明による方法の好ましい実施形態では、得られた反応混合物は、血小板の沈殿または除去のための遠心分離工程に供さない。
【0031】
反応混合物中のF1+2の量を決定した後、このように決定されたF1+2の量は、所定の基準値と比較される。適切な基準値は、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含んでいないことがわかっているドナーの体液サンプルを含む反応混合物において同じ方法を使用して決定される(または事前に決定された)F1+2の量である。抗PF4/ヘパリン複合体抗体または他の血液凝固障害を有していないことがわかっている健常なドナーの複数のサンプルにおける基準値を決定するために通常行われるのは、F1+2の量を決定すること、次いでそれをHITを患っており、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を有しているドナーの複数のサンプルにおけるF1+2の量と比較することである。このとき、基準値は、例えば、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を有するサンプルと有さないサンプルを区別することを可能にするカットオフであり得る。決定された反応混合物中のF1+2の量が基準値を超えているならば、これによってサンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在を確定することが可能になる。対照的に、決定された反応混合物中のF1+2の量が基準値に達しないならば、これによってサンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体の非存在を確定することが可能になる。
【0032】
本発明は、ヘパリン起因性血小板減少症を診断または予測するための方法であって、患者の体液サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在が本発明による方法を使用して検出される方法をさらに提供する。
【0033】
本発明はさらに、本発明による方法を行うための試験キットを提供する。該試験キットは、少なくとも以下の構成要素:
a. 血小板を含む第1の試薬;
b. PF4結合性非分枝多糖もしくはPF4結合性ポリアニオンまたは非分枝多糖もしくはポリアニオンに結合したPF4タンパク質からなる複合体を含む、第2の試薬;および
c. 少なくとも1種の試薬が抗F1+2特異的抗体を含む、F1+2を検出するための1種またはそれ以上の試薬
を含む。
【0034】
血小板を含む試薬は、好ましくは、洗浄され、再懸濁されたヒト血小板の懸濁液である。血小板は、好ましくは、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含んでいないことがわかっている1人またはそれ以上の健常なドナーに由来する。適切な血小板含有試薬は、血小板濃縮血漿を得るために、例えば、好ましくはヒルジンも添加されたクエン酸全血サンプルを遠心分離することによって製造される。クエン酸溶液およびアピラーゼを血小板濃縮血漿に再度添加し、遠心分離を再度行い、次いで無細胞の上清を捨てる。最後に、ペレット化された血小板を緩衝懸濁溶液中に懸濁させる。適切な血小板含有試薬は、1リットル当たりに少なくとも300×109個の血小板を含む。
【0035】
第2の試薬は、以下:
・ 好ましくは、ヘパリン、未分画ヘパリン、分画ヘパリン、デキストラン硫酸、およびフコイダンからなる群からのPF4結合性非分枝多糖;または
・ 好ましくは、ポリビニル硫酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルリン酸、ポリビニルホスホン酸、ポリスチレン硫酸、およびポリスチレンスルホン酸からなる群からのPF4結合性ポリアニオン;または
・ 上述の非分枝多糖のうちの1つに結合したPF4タンパク質からなる、もしくは上述のポリアニオンのうちの1つに結合したPF4タンパク質からなる複合体
のうちの1つを含む。
【0036】
第1および第2の試薬は、体液サンプルとの反応混合物を得るためにあることが意図される。
【0037】
試験キットは、F1+2を検出するための1種またはそれ以上の試薬も含み、ここで、少なくとも1種の試薬が抗F1+2特異的抗体を含む。抗F1+2特異的抗体を含む試薬は、固相に会合した抗体、例えば、ラテックス粒子に結合した、またはマイクロタイトレーションプレートのウェル中の抗体であってもよい。試験形式に応じて、試験キットは、抗F1+2抗体に結合したF1+2を定量的に検出するための追加の成分、例えば、検出可能なラベルで標識された第2の抗体を含む試薬を含む。
【0038】
好ましい試験キットは、第1の抗F1+2特異的抗体を含む試薬と、第2の抗F1+2抗体(またはF1+2と第1の抗体とからなる免疫複合体に対して特異性を有する抗体)を含む別の試薬とを含む。第1および/または第2の抗F1+2抗体は、固相および/またはシグナル形成系の第1/第2の成分と会合していてもよく、その成分は、それらが互いに空間的近傍に導かれる際に検出可能なシグナルが生成されるように相互作用する。
【0039】
本発明による試験キットの試薬は、液体で提供されても、または凍結乾燥形態で提供されてもよい。試験キットの試薬の一部または全部が凍結乾燥物の形態で存在する場合、試験キットは、凍結乾燥物を再構成するのに必要とされる溶媒、例えば、蒸留水または適当な緩衝液を加えて含んでもよい。
【0040】
以下の実施例は、本発明を例示する役割を果たすものであり、限定すると理解されるべきではない。
【実施例0041】
実施例1:抗PF4/ヘパリン複合体抗体を検出するための均一系イムノアッセイ
ここで使用されるLOCI(登録商標)技術は、ラテックス粒子にカップリングされた化学発光化合物(Chemibeads)およびラテックス粒子にカップリングされた光増感剤(Sensibeads)が分析物に同時に結合することによって互いに空間的近傍に導かれ、その結果として光増感剤によって生じた一重項酸素が化学発光化合物を励起することが可能になることに基づく。
【0042】
ヒト血漿サンプル2μLを、6人の健常なドナーからの洗浄したヒト血小板を含む懸濁液7.5μL(およそ300×109個の血小板/L)および0.4IU/mLのヘパリンを含む緩衝液10μLと混合し、37℃でインキュベートした。10分後に、以下の成分:
・ F1+2のネオエピトープに対する特異性を有する第1のビオチン化モノクローナル抗体を含む第1の試薬(「試薬BA」)50μl;および次いで
・ 化学発光化合物(Chemibeads)と会合したラテックス粒子にカップリングした、第1の抗体とそれに結合したF1+2ペプチドとからなる免疫複合体に対する特異性を有する第2のモノクローナル抗体を含む第2の試薬(「Chemibeads試薬」)50μL;および
・ 光増感剤(Sensibeads)と会合したストレプトアビジン被覆ラテックス粒子を含む第3の試薬(「Sensibeads試薬」)100μL
を反応混合物に添加した。
【0043】
約10分後に、化学発光シグナルを測定した[kcounts]。
【0044】
10人のHIT患者の血漿サンプルを、本発明による方法(以降「F1+2生成試験」とも呼ぶ)を使用して測定した。該HIT患者では、HITが臨床基準(4Tスコア、幾つかの症例では血栓事象を有する)に基づいて診断されており、抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在が2つの独立した市販のイムノアッセイ(HemosIL(登録商標)AcuStar HIT-Ab(PF4-H)、Instrumentation Laboratories and Asserachrom(登録商標)HPIA-IgG、Diagnostica Stago)を使用して確定されている。
【0045】
本発明による方法をさらに使用して、7人の健常なドナー(臨床HIT基準を満たさず、かつ抗PF4/ヘパリン複合体抗体を有さないもの)の血漿サンプルおよび正常な血漿プール(健常なドナーの約20の血漿からのもの、「FNP」)を測定した。
【0046】
F1+2生成試験の高陽性対照として、血漿サンプルの代わりに血小板活性化抗PF4/ヘパリン複合体抗体(50μg/mL)を含む抗体溶液を使用して、使用した血小板含有試薬での高レベルのF1+2生成を決定した。一連のF1+2標準物質によって、生成されたF1+2の量をpmol/Lで定量化することができる。
【0047】
比較を目的として、記載のサンプルを、ゴールドスタンダードとみなされている、Sheridan,D.ら(1986) A diagnostic test for heparin-induced thrombocytopenia.Blood 67(1):27~30に従った、[14C]-セロトニン放出アッセイ(以降「SRA」とも呼ぶ)も使用して測定した。
【0048】
表1に試験の結果を要約する。
【0049】
【0050】
本発明による方法の結果がSRAゴールドスタンダード試験の結果と非常によく相関することが明らかとなっている。HIT患者のサンプルを含む反応混合物のすべてにおいて、健常なドナーと比較して有意に増加した濃度のF1+2が検出可能である。抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含むサンプルを何も含まないものから区別するためのカットオフとして、F1+2生成値≧500pmol/L F1+2と定義することができる(SRA試験カットオフ:≧20%)。しかし、カットオフ値をより高い統計的精度で定義するためには、紛れもなくより多くの数のサンプル測定が必要とされる。
【0051】
さらにまた、血栓事象を有するHIT患者のサンプルを含む反応混合物では、血栓事象を有さないHIT患者のサンプルを含む反応混合物と比較して、増加したF1+2の濃度(これによって患者の凝固促進状態が示される)が検出可能であることが明らかとなる。