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特開2024-28228ポリシロキサンブラシ及びその製造方法
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  • 特開-ポリシロキサンブラシ及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028228
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】ポリシロキサンブラシ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/42 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
C08G77/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133955
(22)【出願日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2022131042
(32)【優先日】2022-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】原 光生
(72)【発明者】
【氏名】関 隆広
(72)【発明者】
【氏名】篠原 扶美香
【テーマコード(参考)】
4J246
【Fターム(参考)】
4J246AA15
4J246AB12
4J246BA020
4J246BA02X
4J246BB020
4J246BB022
4J246BB02X
4J246BB030
4J246BB032
4J246BB03X
4J246CA240
4J246CA24X
4J246FA081
4J246FA291
4J246FA321
4J246FA431
4J246FB211
4J246GB26
4J246GB28
4J246GC08
4J246GC12
4J246GC39
4J246GD08
4J246HA01
4J246HA22
4J246HA23
4J246HA26
(57)【要約】
【課題】高密度なポリシロキサンブラシを提供する。
【解決手段】ポリシロキサンブラシの製造方法は、基材の表面に存在する水酸基を起点としてシロキサンモノマーをリビング重合させるステップを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に存在する水酸基を起点としてシロキサンモノマーをリビング重合させるステップを備える
ポリシロキサンブラシの製造方法。
【請求項2】
前記リビング重合させるステップは、強塩基性の触媒の存在下で実行される
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記触媒は、グアニジンの誘導体である
請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記基材の表面に存在する水酸基の密度が、0.5個/nm以上である
請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
ポリシロキサンのグラフト密度が、0.5chains/nm以上である
請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記基材の表面に水酸基を生じさせるステップを備える
請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記基材は、平面、曲面、又は凹凸面の表面を有する基板である
請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記基材は、粒子である
請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記粒子を分散媒に分散させるステップと、
前記粒子の分散性を向上させるステップと、
を備える
請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
基材と、
前記基材の表面にグラフト化されたポリシロキサンと、
を備え、
前記ポリシロキサンのグラフト密度が0.5chains/nm以上である
ポリシロキサンブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリシロキサンブラシ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーブラシは、基材の表面に高分子が固定化された構造体である。固定化の密度(グラフト密度)が非常に高い場合、ポリマーの主鎖のコンフォメーションが伸張するので、基板と高分子がブラシのような構造をとる。このような高密度ポリマーブラシは、ガラス転移温度の上昇、表面の摩擦係数の低下、非特異的吸着の抑制など、ユニークな特性を有するので、次世代の高分子被覆材料などとして期待されている。
【0003】
また、ポリシロキサンは、柔軟性、気体透過性、透明性、生体適合性、耐熱性、耐候性など、ビニルポリマーやスチレンポリマーなどとは異なる特性を有しており、様々な用途への応用が期待されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO2019/176695号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、高密度なポリシロキサンのポリマーブラシを製造する技術は確立されていない。
【0006】
本開示は、このような課題に鑑みてなされ、その目的は、高密度なポリシロキサンブラシを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある態様のポリシロキサンブラシの製造方法は、基材の表面に存在する水酸基を起点としてシロキサンモノマーをリビング重合させるステップを備える。
【0008】
本開示の別の態様は、ポリシロキサンブラシである。このポリシロキサンブラシは、基材と、基材の表面にグラフト化されたポリシロキサンと、を備え、ポリシロキサンのグラフト密度が0.5chains/nm以上である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、高密度なポリシロキサンブラシを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施の形態に係るポリシロキサンブラシの製造方法を模式的に示す図である。
図2】溶媒中で生成されたポリジメチルシロキサンのフリーポリマーのサイズ排除クロマトグラフィーの測定結果を示す図である。
図3】基板上に生成されたポリシロキサンブラシのグラフト膜の表面と水との間の接触角を示す図である。
図4】基板上に生成されたポリシロキサンブラシのグラフト膜の膜厚を示す図である。
図5】基板上に生成されたポリシロキサンブラシのグラフト膜のグラフト密度を示す図である。
図6】基板上に生成されたポリシロキサンブラシのグラフト膜の原子間力顕微鏡像を示す図である。
図7図6(a)における直線ABの断面高さプロフィールを示す図である。
図8】実施例のポリシロキサンブラシの動摩擦係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本開示の実施の形態に係るポリシロキサンブラシの製造方法を模式的に示す。本実施の形態のポリシロキサンブラシの製造方法は、基材の表面に存在する水酸基を起点としてシロキサンモノマーをリビング重合させるステップを備える。これにより、基材の表面に存在する水酸基の密度に応じたグラフト密度を有するポリシロキサンブラシを製造することができる。また、基材の表面に水酸基を高密度に生じさせておくことにより、高密度なポリシロキサンブラシを製造することができる。フリーポリマーを基板にグラフト化してポリマーブラシを製造する場合は、高密度なポリマーブラシを製造することが困難であるが、基材の表面に高密度に存在する水酸基を起点としてシロキサンモノマーをリビング重合させることにより、高密度なポリシロキサンブラシを効率良く製造することができる。
【0012】
シロキサンモノマーは、下記の化学式で表される。
【化1】
【化2】
ポリシロキサンは、下記の化学式で表される。
【化3】
ここで、R及びRは、水素原子又は任意の有機基であってもよい。有機基は、例えば、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、ヘテロアルキル基、アルケニル基、ヘテロアルケニル基、アルキニル基、ヘテロアルキニル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、シアノ基、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、イミノ基、ニトロ基、ハロゲン、又はそれらの組合せなどであってもよい。RとRは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。Rは、ハロゲン、メトキシ基、エトキシ基などであってもよい。このようなシロキサンモノマーを用いてポリシロキサンを生成することにより、ポリシロキサンに官能基を導入することが容易となるので、様々な特性を有するポリシロキサンブラシを製造することができる。
【0013】
シロキサンモノマーをリビング重合させるために、触媒が用いられてもよい。この触媒は、強塩基性を有する物質であってもよい。触媒は、例えば、下記の化学式で表されるグアニジンの誘導体であってもよい。
【化4】
ここで、R、R、R、R、Rは、水素原子又は任意の有機基であってもよい。有機基は、例えば、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、ヘテロアルキル基、アルケニル基、ヘテロアルケニル基、アルキニル基、ヘテロアルキニル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、シアノ基、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、イミノ基、ニトロ基、ハロゲン、又はそれらの組合せなどであってもよい。R~Rは、全て又は一部が同じであってもよいし、全て又は一部が異なっていてもよい。図1に示したポリシロキサンブラシの製造方法において用いられている触媒は、上記の化学式で表されるグアニジンの誘導体の一例である。上記の化学式で表される触媒の具体例を下記に示す。
【化5】
触媒は、ホスファゼン系の塩基や、プロアザホスファトランなどであってもよい。ホスファゼン系の触媒の具体例を下記に示す。
【化6】
プロアザホスフォトラン系の触媒の具体例を下記に示す。
【化7】
このような触媒を用いることにより、比較的穏和な条件でシロキサンモノマーを重合させることができる。また、シロキサンモノマーをリビング重合させることにより、分子量や分子量分布を制御することが容易となるので、様々な特性を有するポリシロキサンブラシを製造することができる。
【0014】
ポリシロキサンブラシをリビング重合させるための起点(開始剤)として、水酸基に代えて、又は水酸基に加えて、-SH、-SeH、-COOH、-R-OHなどの有機基が基板の表面に導入されてもよい。ここで、Rは、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、ヘテロアルキル基、アルケニル基、ヘテロアルケニル基、アルキニル基、ヘテロアルキニル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、シアノ基、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、イミノ基、ニトロ基、ハロゲン、又はそれらの組合せなどであってもよい。
【0015】
基材は、表面を有する任意の物であってよく、例えば、平面、曲面、又は凹凸面の表面を有する基板であってもよいし、粒子であってもよい。表面は、基板や粒子の外表面であってもよいし、基板や粒子に存在する孔や空洞などの内表面であってもよい。
【0016】
基板は、表面に水酸基を生成させることが可能な任意の種類の基板であってもよい。基板は、シリコン(Si)や、シリコンカーバイド(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、ヒ化ガリウム(GaAs)、リン化インジウム(InP)などの化合物半導体や、アルミナ、サファイヤ、酸化インジウムスズ(ITO)などの酸化物や、ガラスや、セラミックや、金属などの基板であってもよい。
【0017】
粒子は、上記の基板と同様の化学組成であってもよい。基材として粒子を使用する場合、ポリシロキサンブラシの製造方法は、粒子を分散媒に分散させるステップと、粒子の分散性を向上させるステップと、を更に備えるのが好ましい。これにより、凝集した粒子を分散させ、表面を露出させることができるので、より高密度なポリシロキサンブラシを効率良く製造することができる。粒子の分散性を向上させるステップは、分散媒に分散された粒子を攪拌する処理や、超音波洗浄処理など、分散性を向上させることが可能な既知の任意の処理を含んでもよい。
【0018】
本実施の形態のポリシロキサンブラシの製造方法は、基材の表面に水酸基を生じさせるステップを更に備えてもよい。基材の表面に水酸基を生じさせるステップは、例えば、基材の表面を酸化剤などによって酸化するステップを含んでもよい。基材の表面に水酸基を生じさせるステップは、基材の表面の所望の位置に、所望の数又は密度の水酸基を導入するステップを含んでもよい。水酸基の数や密度は、酸化剤の種類、量、酸化反応の温度、時間などによって調整されてもよい。高密度ポリシロキサンブラシを製造するために、0.5個/nm以上の水酸基が基材の表面に導入されてもよい。これにより、グラフト密度が0.5chains/nm以上である高密度ポリシロキサンブラシを製造することができる。基材の表面の水酸基の密度は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1個/nm以上であってもよい。
【0019】
本実施の形態のポリシロキサンブラシの製造方法において、シロキサンモノマーをリビング重合させるステップは、溶媒中で実行されてもよい。溶媒は、シロキサンモノマーの良溶媒であってもよい。触媒を使用する場合、溶媒は、シロキサンモノマーと触媒の双方が溶解可能な溶媒であることが好ましい。溶媒は、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ヘキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、クロロホルム、酢酸エチル、塩化メチレン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、水、メタノール、エタノール、酢酸などであってもよい。水やアルコールなどは、シロキサンモノマーの重合反応の開始剤として働く場合があるので、溶媒中から除去されてもよい。
【0020】
本実施の形態のポリシロキサンブラシの製造方法において、シロキサンモノマーをリビング重合させるステップの反応温度は、30、40、50、60、70、80、90、100℃以上であってもよい。シロキサンモノマーをリビング重合させるステップの反応時間は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10時間以上であってもよい。
【0021】
本開示の実施の形態に係るポリシロキサンブラシは、基材と、基材にグラフト化されたポリシロキサンとを備え、ポリシロキサンのグラフト密度が0.5chains/nm以上である。ポリシロキサンは、ビニルポリマーやスチレンポリマーなどの炭素鎖を有するポリマーとは異なり、柔軟性、気体透過性、透明性、生体適合性、耐熱性、耐候性などの特性を有している上に、高密度ポリマーブラシは、ガラス転移温度の上昇、表面の摩擦係数の低下、非特異的吸着の抑制など、ユニークな特性を有するので、高密度なポリシロキサンブラシは、様々な用途に応用できる。
【0022】
本実施の形態のポリシロキサンブラシは、耐熱性や耐候性に優れた低摩擦表面を創製することができる。例えば、エンジン、モーター、コンプレッサー、ベアリングなど表面に適用することにより、これらの物品を長寿命化、燃費向上、省エネ化することができる。ボブスレー、スキー、スノーボードなどのスポーツ用具の表面に適用することにより、これらのスポーツ用具を高速化することができる。テニス、バドミントンなどのラケットのガットの表面に適用することにより、これらのラケットを高反発化することができる。マウスパッドの表面に適用することにより、マウスの滑り性を向上させることができる。衣服の表面に適用することにより、衣服の肌触り性を向上させることができる。
【0023】
本実施の形態のポリシロキサンブラシは、耐熱性や耐候性に優れた疎水表面や防汚表面を創製することができる。例えば、寒冷地などの過酷環境において使用される物品や、衣服、カッパ、傘、靴、鞄、スノースポーツ用品、マリンスポーツ用品などの表面に適用することにより、これらの物品の疎水性や防汚性を向上させることができる。また、非特異的吸着を抑制することができる。調理器具などの表面に適用することにより、半永久的な撥水性、防汚性、難燃化を実現することができる。ホワイトボードの表面に適用することにより、ホワイトボードを長寿命化することができる。
【0024】
[実施例]
本実施の形態のポリシロキサンブラシの製造方法によりポリシロキサンブラシを製造した。表面に水酸基を有する基板と、化2のシロキサンモノマー(R、R=メチル基)と、触媒のグアニジン誘導体と、溶媒のTHFと、水を容器に入れ、シロキサンモノマーとグアニジン誘導体をTHFに溶解させた。50℃に加熱し、シロキサンモノマーを重合させた。基板上の水酸基を起点としてシロキサンモノマーがリビング重合することによりポリシロキサンブラシが生成される。また、溶媒中で水を開始剤としてシロキサンモノマーが重合することによりポリジメチルシロキサン(PDMS)のフリーポリマーが生成される。基板上に生成された膜をポリジメチルシロキサンの良溶媒で洗浄しても膜が基板上に残っていたことから、ポリシロキサンブラシが基板上にグラフト化されていることが確認された。
【0025】
図2は、溶媒中で生成されたポリジメチルシロキサンのフリーポリマーのサイズ排除クロマトグラフィー(Size Exclusion Chromatography:SEC)の測定結果を示す。ポリスチレンを標準試料とした。反応時間を5時間、16時間、24時間、48時間とした試料のそれぞれの測定結果と、保持時間から換算された数平均分子量Mと、分子量分布(多分散度)M/Mを示す。分子量分布が狭い、すなわち分子量が揃ったポリジメチルシロキサンが生成されたことが示された。基板上に生成されたポリシロキサンブラシも、フリーポリマーのポリジメチルシロキサンと同様の分子量及び分子量分布を有すると考えられる。
【0026】
図3は、基板上に生成されたポリシロキサンブラシのグラフト膜の表面と水との間の接触角を示す。反応が進むにしたがって水との接触角が大きくなり、反応開始から5時間以降は接触角は110°でほぼ一定となった。基板上に疎水性の膜が形成されたことが示された。
【0027】
図4は、基板上に生成されたポリシロキサンブラシのグラフト膜の膜厚を示す。膜厚は、X線反射率の測定結果から算出した。反応開始から約1時間経過するまで、反応時間の増加に伴い膜厚が増大することが示された。
【0028】
図5は、基板上に生成されたポリシロキサンブラシのグラフト膜のグラフト密度を示す。グラフト密度σ(chains/nm)は、下記の式で計算される。
σ=L×d×N×20-21/M
ここで、Lは膜厚(nm)、dはフリーポリマーの密度(g/cm)、Nはアボガドロ定数、Mはフリーポリマーの数平均分子量である。ポリシロキサンブラシは、反応の初期から高いグラフト密度を示している。このことから、シロキサンモノマーのリビング重合により基板上にポリジメチルシロキサンが成長したことが示唆された。反応開始から24時間後のグラフト膜のグラフト密度は、0.67chains/nmであった。本実施の形態のポリシロキサンブラシの製造方法により、グラフト密度が0.5chains/nm以上である高密度ポリシロキサンブラシが製造できることが示された。
【0029】
図6は、基板上に生成されたポリシロキサンブラシのグラフト膜の原子間力顕微鏡(AFM)像を示す。図6(a)は、図6(b)の一部を拡大した図である。図7は、図6(a)における直線ABの断面高さプロフィールを示す。大面積で平滑なポリシロキサンブラシのグラフト膜が形成されたことが示された。
【0030】
図8は、実施例のポリシロキサンブラシの動摩擦係数を示す。動摩擦係数は、HEIDON-TYPE14:FW(新東科学)を用いて、摩耗子:ステンレス球(f10)、垂直荷重:50gf(0.49N)、移動速度:90mm/min、移動距離:10mm、測定回数:測定ごとに球の面を変更して3回の測定条件で行った。図8には、比較実施例として、Si基板、ポリジメチルシロキサンのフリーポリマーを基板にグラフト化したポリシロキサンブラシ、ポリジメチルシロキサンを架橋したエラストマーの動摩擦係数も示す。実施例のポリシロキサンブラシの動摩擦係数は、ポリジメチルシロキサンのエラストマーの動摩擦係数よりも大幅に低く、ポリジメチルシロキサンのフリーポリマーを基板にグラフト化したポリシロキサンブラシの動摩擦係数よりも低い。上述したように、フリーポリマーを基板にグラフト化したポリマーブラシは、グラフト密度を高くするのが困難である。したがって、実施例のポリシロキサンブラシは、ポリジメチルシロキサンのフリーポリマーを基板にグラフト化したポリシロキサンブラシよりも高いグラフト密度を有するため動摩擦係数が低くなったと考えられる。
【0031】
以上、本開示を、実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8