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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028254
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】流量制御バルブ用シールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3284 20160101AFI20240222BHJP
   F16K 5/06 20060101ALI20240222BHJP
   F16K 5/04 20060101ALI20240222BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20240222BHJP
   C08L 29/10 20060101ALI20240222BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
F16J15/3284
F16K5/06 A
F16K5/04 A
C08L27/18
C08L29/10
C08K3/04
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023210658
(22)【出願日】2023-12-13
(62)【分割の表示】P 2019231496の分割
【原出願日】2019-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2018241736
(32)【優先日】2018-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】安田 健
(72)【発明者】
【氏名】石井 卓哉
(57)【要約】
【課題】安価に作製できるとともに、摺接するロータの摩耗損傷が少なく、低リーク性、低摩擦性、低摩耗性に優れる流量制御バルブ用シール等を提供する。
【解決手段】シール6は、内燃機関からの冷却水を受け入れる導入部5を有するハウジング2と、ハウジング2内に設けられ、球状の外周面4aを有し、ハウジング2に対して回転する樹脂製のロータ4とを備えるバルブ装置1に用いられ、ハウジング2内にてロータ4と導入部5との間に設けられ、ロータ4の外周面4aに摺接する環状の流量制御バルブ用シールである。シール6は、射出成形可能なフッ素樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物の射出成形体であり、フッ素樹脂がテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂、およびテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関からの冷却水を受け入れる導入部、及び、冷却水を送り出す吐出部を有するハウジングと、前記ハウジングの内部に設けられ、球状または円筒状の外周面を有し、前記ハウジングに対して回転する樹脂製のロータとを備える流量制御バルブ装置に用いられ、
前記ハウジング内にて前記ロータと前記導入部または前記吐出部との間に設けられ、前記ロータの外周面に摺接する環状の流量制御バルブ用シールであって、
前記流量制御バルブ用シールが射出成形可能なフッ素樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物の射出成形体であり、
前記フッ素樹脂がテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂、およびテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂であることを特徴とする流量制御バルブ用シール。
【請求項2】
前記樹脂組成物は、非繊維状充填材を含み、繊維状充填材を含まないことを特徴とする請求項1記載の流量制御バルブ用シール。
【請求項3】
前記非繊維状充填材が、黒鉛またはPTFE樹脂であり、前記樹脂組成物において、前記非繊維状充填材が該樹脂組成物全体に対して3~30体積%含まれ、残部が前記フッ素樹脂であることを特徴とする請求項2記載の流量制御バルブ用シール。
【請求項4】
前記流量制御バルブ用シールは、前記ロータと摺接する環状のシール面に、シール全周にわたり連続した円周状突起を有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の流量制御バルブ用シール。
【請求項5】
内燃機関からの冷却水を受け入れる導入部、及び、冷却水を送り出す吐出部を有するハウジングと、前記ハウジングの内部に設けられ、球状または円筒状の外周面を有し、前記ハウジングに対して回転する樹脂製のロータと、前記ハウジング内にて前記ロータと前記導入部または前記吐出部との間に設けられ、前記ロータの外周面に摺接する環状の流量制御バルブ用シールとを備える流量制御バルブ装置であって、
前記流量制御バルブ用シールが射出成形可能なフッ素樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物の射出成形体であり、前記フッ素樹脂がテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂、およびテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂であり、
前記ロータがポリフェニレンサルファイド樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物の射出成形体であることを特徴とする流量制御バルブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の熱効率を高めることで低燃費化を図るために、内燃機関からの冷却水の流量および流路を調整する流量制御バルブ装置に用いられる流量制御バルブ用シール、およびそのシールを備える流量制御バルブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車には、冷却水を循環させてエンジンを冷却するための循環流路が設けられている。循環流路は、例えば、ラジエータに冷却水を循環させる流路や、エアコンのヒータコアに冷却水を循環させる流路など複数の流路を有する。この循環流路内には、冷却水の流量を制御する流量制御バルブ装置が配置され、このバルブ装置によって、各流路の冷却水の流量などが調整される。
【0003】
流量制御バルブ装置として、例えば特許文献1には、内燃機関からの冷却水を受け入れる導入口、及び、冷却水を送り出すよう突出した吐出部を備えたハウジングと、球状の外面を持つ壁部を有し、ハウジングの内部において、導入口に対して垂直に延出する回転軸芯の周りに回転するロータと、吐出部に設けられ、ロータの外面に摺接する環状シールとを備えた流量制御バルブ装置が開示されている。この特許文献1には、環状シールの材質として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂などの熱可塑性樹脂が使用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-188693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車の低燃費規制が厳しくなる中で、熱効率を高めることで低燃費化を図るために、内燃機関からの冷却水の流量および流路を調整する流量制御バルブ装置の搭載が進められている。この装置に使用される環状シールには、上記特許文献1のようにPTFE樹脂が用いられているが、シールの耐久性や、コスト面では改善の余地がある。また、PTFE樹脂は溶融粘度が高く、射出成形できないため、圧縮成形または押出し成形された成形体を機械加工する必要があるため、複雑な形状を有する環状シールではコスト高となる。また、冷却水のシール性向上や、相手材となるロータとの摩擦抵抗の低減の要求も高まっている。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、安価に作製できるとともに、摺接するロータの摩耗損傷が少なく、低リーク性、低摩擦性、低摩耗性に優れる流量制御バルブ用シール、およびそのシールを備える流量制御バルブ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の流量制御バルブ用シール(以下、単に「シール」ともいう。)は、内燃機関からの冷却水を受け入れる導入部、及び、冷却水を送り出す吐出部を有するハウジングと、上記ハウジングの内部に設けられ、球状または円筒状の外周面を有し、上記ハウジングに対して回転する樹脂製のロータとを備える流量制御バルブ装置に用いられ、上記ハウジング内にて上記ロータと上記導入部または上記吐出部との間に設けられ、上記ロータの外周面に摺接する環状の流量制御バルブ用シールであって、上記流量制御バルブ用シールが射出成形可能なフッ素樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物の射出成形体であり、上記フッ素樹脂がテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)樹脂、およびテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂であることを特徴とする。
【0008】
上記樹脂組成物は、非繊維状充填材を含み、繊維状充填材を含まないことを特徴とする。
【0009】
上記非繊維状充填材が、黒鉛またはPTFE樹脂であり、上記樹脂組成物において、上記非繊維状充填材が該樹脂組成物全体に対して3~30体積%含まれ、残部が上記フッ素樹脂であることを特徴とする。
【0010】
上記流量制御バルブ用シールは、上記ロータと摺接する環状のシール面に、シール全周にわたり連続した円周状突起を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の流量制御バルブ装置(以下、単に「バルブ装置」ともいう。)は、内燃機関からの冷却水を受け入れる導入部、及び、冷却水を送り出す吐出部を有するハウジングと、上記ハウジングの内部に設けられ、球状または円筒状の外周面を有し、上記ハウジングに対して回転する樹脂製のロータと、上記ハウジング内にて上記ロータと上記導入部または上記吐出部との間に設けられ、上記ロータの外周面に摺接する環状の流量制御バルブ用シールとを備える流量制御バルブ装置であって、上記流量制御バルブ用シールが射出成形可能なフッ素樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物の射出成形体であり、上記フッ素樹脂がPFA樹脂、FEP樹脂、およびETFE樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂であり、上記ロータがポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物の射出成形体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の流量制御バルブ用シールは、PFA樹脂、FEP樹脂、またはETFE樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物の射出成形体であるので、複雑な形状でも射出成形のみで形成することができ、安価となる。また、PFA樹脂、FEP樹脂、ETFE樹脂は低弾性、低硬度であるため、樹脂製のロータの曲面状(球状または円筒状)の外周面に沿って変形しやすく、シールしやすい。さらに、PFA樹脂、FEP樹脂、ETFE樹脂は耐アルカリ性や低吸水性に優れており、冷却水と接触する環境下でも樹脂の劣化を抑制できる。これにより、安価に作製できるとともに、摺接するロータの摩耗損傷が少なく、低リーク性、低摩擦性、低摩耗性に優れる。
【0013】
樹脂組成物は、非繊維状充填材を含み、繊維状充填材を含まないので、相手材である樹脂製のロータを摩耗損傷させにくく、低摩擦低摩耗特性が得られる。
【0014】
流量制御バルブ用シールは、上記ロータと摺接する環状のシール面に、シール全周にわたり連続した円周状突起を有するので、安定した接触面を確保するとともに、ロータとシールとの接触面積を小さくでき、摩擦力を低減することができる。
【0015】
本発明の流量制御バルブ装置において、流量制御バルブ用シールは、PFA樹脂、ETFE樹脂、FEP樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物の射出成形体であり、ロータは、PPS樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物の射出成形体であるので、シールとロータとは異なる樹脂材同士の摺動となる。そのため、同じ樹脂材同士の摺動において懸念される高摩擦係数による摩耗増大を防止でき、低摩擦低摩耗特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の流量制御バルブ装置の開弁時における要部断面図である。
図2】本発明の流量制御バルブ用シールの一例を示す図である。
図3】本発明の流量制御バルブ用シールの別の例を示す図である。
図4】本発明の流量制御バルブ用シールの突起形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の流量制御バルブ用シールを適用したバルブ装置の一例を図1に基づいて説明する。図1に示すように、バルブ装置1は、ハウジング2と、ハウジング2に対して回転可能に支持される回転軸3と、ハウジング2内に収納され、回転軸3と一体に回転するロータ4と、ロータ4の外周面4aに摺接するシール6とを備える。ハウジング2には、エンジンからの冷却水を受け入れる導入部5と、ラジエータなどの各装置へ冷却水を送り出す吐出部(図示省略)が設けられている。導入部5あるいは吐出部とシール6の間にはOリングなどの固定シールが設けられている。図1は、バルブ装置1の導入部側の要部断面図である。回転軸3はモータ(図示省略)に接続されている。
【0018】
ロータ4は、内部に中空部を有する球状の回転ロータであり、シール6と摺接する外周面4aは、凸形球面状に形成されている。ロータ4は内外を貫通するロータ開口部4bを有し、シール6は中央部に貫通したシール開口部を有する。回転軸3が矢印の向きに回転し、それに伴ってロータ4も回転する。その回転によって、ロータ開口部4bとシール開口部が連通することで開弁状態となり、ロータ開口部4bとシール開口部が非連通になることで閉弁状態となる。図1の開弁状態では、黒矢印の向きに流れる冷却水が、ロータ4内へ供給される。このように、ロータ4を回動操作することで、バルブ装置1の開弁および閉弁が制御でき、それによって冷却水の流量調整や分配調整が行われる。
【0019】
ロータ4は樹脂製であり、熱可塑性樹脂をベース樹脂とした樹脂組成物の射出成形体である。熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、フッ素樹脂以外の熱可塑性樹脂を用いることが好ましく、例えば、PPS樹脂、ポリアミド(PA)66樹脂、変性PA樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂などを用いることができる。これら樹脂の中でも、低吸水性で、耐熱性、耐アルカリ性に優れ、安価であるPPS樹脂がより好ましい。
【0020】
また、ロータ4に用いる樹脂組成物には、高強度、高弾性、高寸法精度を得るために、ガラス繊維を配合することが好ましい。ガラス繊維を配合したPPS樹脂は、高強度、高弾性に優れるため、より好ましい。ガラス繊維を配合する場合、その配合量は、樹脂組成物全体に対して10~50重量%であり、好ましくは20~40重量%である。ガラス繊維が所定量より多いとシールを摩耗損傷させ、少ないと充分な強度が得られない。また、この樹脂組成物には、異方性をなくし、寸法精度を向上するために、無機物などの添加剤を配合することができる。
【0021】
ハウジング2内にてロータ4と円筒状の導入部5との間にはシール6が設けられている。具体的には、導入部5のロータ4側の円筒端部に、シール6の円筒部6aが内嵌されて固定されている。シール6は、ロータ4に向けて押し付けられており、ロータの外周面4aの形状に沿って変形している。この密着状態によって、冷却水の漏洩を防ぐことができる。
【0022】
なお、図1は、導入部側の構成を示しているが、吐出部側も、基本的な構成は同様である。具体的には、ハウジング2内にてロータ4と円筒状の吐出部(図示省略)との間にはシールが設けられており、該シールがロータ4に向かって押し付けられることで外周面4aに密着している。このシールは、図1のシール6と同様の形状、材質からなる。吐出部は、ハウジング2において、導入部5から、ロータ4の回転する周方向に所定間隔離れた位置(例えば図1の導入部5と反対側の位置)に設けられる。
【0023】
本発明の流量制御バルブ用シールであるシール6について、図2に基づいて説明する。図2に示すように、シール6は、中心軸部分に貫通した開口部を有する環状部材である。シール6は、軸方向一方側に導入部に固定される円筒部6aを有し、軸方向他方側にリップ部6bを有する。リップ部6bは、内径寸法が大きくなるように円筒体を外径側に拡げたような構造である。リップ部6bの内周面がロータ4の外周面4aと摺接するシール面6cとなる。シール面6cは、凹形球面形状に形成され、球状のロータ4と密着しやすい構造となっている。なお、シール面6cは平面形状であってもよい。図2において、シール面6cは凸部(突起)や凹部のない平滑な面となっている。シール6の円筒部6aの外周にはOリングを取り付けるための溝があり、導入部5あるいは吐出部とシール6との間をシールしている。
【0024】
ここで、バルブ装置1の開閉操作の際には、シール6が押し付けられた状態で、ロータ4が回転する。シール6は固定されており、シール面6cはロータ4の外周面4aと常に摺接することになるので、ロータの外周面4aに比べて摩耗が進行しやすい。また、シール6は、ロータの曲面形状に密着させる必要があるため、適度な変形性が求められる。さらに、冷却水には一般的にエチレングリコールなどを主成分としたPH7~11の水溶液(不凍液)が用いられていることから、冷却水と接触するシール6には耐アルカリ性や低吸水性も求められる。
【0025】
本発明の流量制御バルブ用シールは、射出成形可能なフッ素樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物の射出成形体であり、フッ素樹脂がPFA樹脂、FEP樹脂、およびETFE樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂であることを特徴としている。ベース樹脂としては、PFA樹脂、FEP樹脂、およびETFE樹脂をそれぞれ単独で使用してもよく、また、複数を併用してもよい。PFA樹脂、FEP樹脂、ETFE樹脂は低弾性、低硬度であるため、樹脂製のロータの曲面形状(球状または円筒状)の外周面に沿って変形しやすく、シール性が向上できる。さらに、PFA樹脂、FEP樹脂、ETFE樹脂は耐アルカリ性や低吸水性に優れており、冷却水と接触する環境下でも樹脂の劣化を抑制できる。
【0026】
また、樹脂製のロータと摺動するシールとが同じ樹脂材の場合、摩擦係数が高くなり、ロータおよびシールともに摩耗が大きくなることが懸念されるが、ロータが非フッ素樹脂からなり、シールがPFA樹脂、FEP樹脂、ETFE樹脂から選ばれるフッ素樹脂からなるので、そのような問題は発生しない。
【0027】
一方、流量制御バルブ用シールの樹脂材として一般に用いられているPTFE樹脂は、ざらつき摩耗形態での摩耗量が大きい。例えば、ガラス繊維を配合したPPS樹脂からなるロータの場合、シールとの摺接によりロータの外周面が徐々に摩耗し、表面にガラス繊維が露出することが考えられる。表面にガラス繊維が露出したロータとの摺接はざらつき摩耗の形態となるため、シールのベース樹脂にPTFE樹脂を用いると、摩耗が大きくなるおそれがある。これに対して、PFA樹脂、FEP樹脂、ETFE樹脂を用いたシールは、PTFE樹脂よりもざらつき摩耗に対する耐摩耗性に優れる。さらに、射出成形が可能となるため、複雑な形状にも安価で製造できる。
【0028】
また、射出成形性を容易にするため、PFA樹脂、FEP樹脂の各メルトフローレート(MFR)は、温度372℃、荷重5kgのとき10~50g/10分であることが好ましい。また、ETFE樹脂のMFRは、温度297℃、荷重5kgのとき10~50g/10分であることが好ましい。MFRが10g/10分未満では溶融流動性が悪く、射出成形時の充填不足によりシール面の精度が得られない。また、MFRが50g/10分を超えると、分子量が低くなるので、耐摩耗性が不足する。
【0029】
樹脂組成物が充填材を含む場合も、MFRが10g/10分未満では溶融流動性が悪く、射出成形時の充填不足によりシール面の精度が得られない。充填材が配合された樹脂組成物のMFRの上限は特に規定されないが、耐摩耗性の観点から50g/10分以下が好ましい。
【0030】
ベース樹脂としては、PFA樹脂、FEP樹脂、ETFE樹脂のいずれのフッ素樹脂も使用可能であるが、樹脂の弾性率が低いほどロータの外周面に沿いやすく、良好なシール性が得られるため、曲げ弾性率(ASTM D790に準拠)が1GPa以下で、さらに長期耐熱性、摩擦特性、耐薬品性に優れるPFA樹脂を使用することが好ましい。また、樹脂組成物の弾性率を下げる目的で、PFA樹脂、FEP樹脂、ETFE樹脂にエラストマーを配合してもよい。エラストマーとしてはフッ素ゴムが好適である。フッ素ゴムの種類は限定されるものではないが、フッ化ビニリデン系(FKM)、テトラフルオロエチレン-プロピレン系(FEPM)、テトラフルオロエチレン-パープルオロビニルエーテル系(FFKM)を使用することができる。FKMは2元系、3元系のどちらであってもよい。
【0031】
樹脂組成物には、冷却水中での摩擦摩耗特性を向上するために、PH7~11のアルカリ性水溶液に耐性のある充填材を配合することが好ましい。充填材としては、炭素繊維、黒鉛、PTFE樹脂、無機物(マイカ、タルク、炭酸カルシウムなど)、ウィスカ(炭酸カルシウム、チタン酸カリウムなど)などが挙げられる。これら充填材の中では非繊維状充填材を用いることが好ましく、この場合、繊維状充填材を含まないことがより好ましい。非繊維状充填材は、繊維状充填材に比べて、各樹脂(PFA樹脂、FEP樹脂、ETFE樹脂)の弾性率を高める効果は低い。そのため、摩擦摩耗特性を向上させつつも、シール6をロータ4の外周面4aに沿わせて変形させることができ、良好なシール性が得られる。また、相手材となるロータ4を損傷しにくいといった利点もある。
【0032】
非繊維状充填材は、炭素繊維、ガラス繊維、ウィスカなどのアスペクト比を有する繊維状充填材以外であればよく、不定形の粒状、球状、鱗片状、板状の充填材などが挙げられる。これらの中でも異方性がない、粒状、球状の充填材が好ましい。
【0033】
非繊維状充填材としては、黒鉛、PTFE樹脂を用いることが好ましい。黒鉛は冷却水中での低摩擦低摩耗特性を付与する効果がある。鱗片状、粒状、球状の黒鉛を用いることができるが、PFA樹脂、FEP樹脂、ETFE樹脂の弾性率を高めない、粒状黒鉛または球状黒鉛を用いることがより好ましい。PTFE樹脂は、シール面に冷却水が介在しない場合の境界潤滑条件下での低摩擦係数を付与する。PTFE樹脂の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、10~50μmとすることが好ましい。平均粒子径は、例えば、レーザー光散乱法を利用した粒子径分布測定装置などを用いて測定することができる。上述したベース樹脂に黒鉛やPTFE樹脂を配合した樹脂組成物からなるシールは、樹脂製のロータを摩耗損傷しにくく、長期で安定したシール性が得られる。また、耐アルカリ性に優れるので、劣化することなく、長期使用が可能である。
【0034】
なお、本発明の効果を阻害しない程度に、樹脂組成物に対して周知の樹脂用添加剤を配合してもよい。この添加剤としては、例えば、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなどの摩擦特性向上剤、炭素粉末、酸化鉄、酸化チタンなどの着色剤が挙げられる。
【0035】
本発明のシールに用いる樹脂組成物は、樹脂組成物全体に対して、上述したベース樹脂を70~100体積%含む。樹脂組成物に充填材を配合する場合、充填材が3~30体積%で残部がベース樹脂である組成物が好ましく、充填材が5~20体積%で残部がベース樹脂である組成物がより好ましい。充填材としては、非繊維状充填材である黒鉛やPTFE樹脂を用いることが好ましく、これらは併用することがより好ましい。
【0036】
本発明の流量制御バルブ用シールは、上述の樹脂組成物を用いて射出成形により安価に製造することができる。射出成形する際のゲート方式には、シールの内径側または外径側にゲートを1点設ける1点ゲート方式か、ゲートを複数設ける多点ゲート方式が採用できるが、シール面の精度を高めるために、3点以上のゲートを設ける多点ゲート方式が好ましい。また、ディスクゲート方式を採用することで、シール面精度を一層向上させることができる。ディスクゲート方式に伴うゲート跡は、型内ゲートカットまたは成形後に加工することで、除去可能である。シールの内径側にディスクゲートを設けることで、シールの外径側を旋盤でチャックして容易にゲート跡を除去加工できるので、最も好ましい。なお、シール面精度を向上させシール性をより高めるために、射出成形後にシール面のみ機械加工などで仕上げてもよい。
【0037】
本発明の流量制御バルブ用シールの別の例を図3に示す。図3に示すように、シール7は、中心軸部分に貫通した開口部を有する環状部材である。シール7は、軸方向一方側に導入部に固定される円筒部7aを有し、軸方向他方側にリップ部7bを有する。ここで、図2のシール6は、球状のロータに摺接するシールであったのに対して、図3のシール7は、円筒状のロータに摺接するシールである。そのため、ロータの凸状の円筒曲面に密着しやすいように、シール面7cはロータの円筒曲面に対し相補的な形状となる凹状の円筒曲面に形成されている。言い換えると、シール面7cは軸方向に沿って波形状に形成されている。
【0038】
また、本発明の流量制御バルブ用シールの別の例を図4に示す。図4(a)は、シールをリップ部側から見た平面図であり、図4(b)は、A-A線の一部断面図である。図4のシール8は、円環状のシール面8c上に、円周状突起8dが設けられることを特徴としている。円周状突起8dは、シール面8cの幅方向中央位置に、シール全周にわたり連続して形成されている。図4(b)に示すように、円周状突起8dは、シール面8cから凸状に形成されており、その凸状部はR形状となっている。円周状突起8d自体の断面は、円弧形状となっている。円周状突起8dの円弧は180°以下、好ましくは射出成形時に金型から無理抜きせずに抜ける円弧の角度である。円周状突起8dは、シール8の軸方向に対して直交するリップ部の先端面から突出しないことが好ましい。
【0039】
本発明のシールは射出成形体であり、射出成形により形成したシール面には微小(ミクロレベル)な凹凸が存在する。シール面全体でシールする場合、ロータとの摺動によりシール面の凹凸が少なくなり、接触面が均一化されることでリーク量が小さくなるが、均一化までに時間を要することが考えられる。そのため、シール面上に連続した円周状突起を形成し、シール部分を突起に限定することで、射出成形時のシール面精度を向上させやすく、荷重により突起先端が変形しシール面が確保でき、摺動時に早期に接触面が均一化され、低リーク特性が得られる。また、ロータとの接触面積が小さくなることで、摺動による摩擦力が低減できる。さらに、凸状部をR形状とすることで、ロータとの接触面積がより小さくなり、摩擦力が一層低減できるとともに、シール全周で接触しやすくシール性が安定する。
【0040】
図4の形態では、シール面上に円周状突起を1つ設けたが、これに限定されず、シール面上に円周状突起を複数設けてもよい。射出成形時のシール面精度や、摩擦力、シール性などを考慮すると、2つ設ける構成がより好ましい。この構成では、シール面の内径側に全周にわたり連続した第1の円周状突起を設けるともに、シール面の外径側に、第1の円周状突起と同心円状の第2の円周状突起を設けることができる。さらに、第1の円周状突起の突起高さと第2の円周状突起の突起高さは同じでも異なるようにしてもよい。また、図3に示した円筒状ロータ用のシールのシール面に、円周状突起を設けてもよい。
【実施例0041】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例および比較例の樹脂組成物の構成、および摩耗試験の結果は表2および表4に示す。
【0042】
実施例1~3、比較例1~4
表2の配合割合(体積%)で配合した樹脂組成物を用い、射出成形によって曲げ試験片、および摩耗試験片(リング試験片)をそれぞれ作製した。比較例1のPTFE樹脂を用いた場合は、圧縮成形によって各試験片を作製した。
【0043】
得られた曲げ試験片を用いて、ASTM D790に準拠した試験を実施し、23℃における曲げ弾性率(単位:GPa)を測定した。
【0044】
また、得られた摩耗試験片を用いて、リングオンディスク型試験機により表1の試験条件で摩耗試験を実施し、リング試験片および相手材の摩耗量を測定した。なお、表1のLLCは、エンジン冷却水であり、その主成分はエチレングリコールである。
リング試験片:φ17(内径)×φ21(外径)×10(幅)mm
相手材 :φ33(外径)×6(幅)mm
旋削加工、表面粗さRa1μm
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示すように、PFA樹脂、FEP樹脂、ETFE樹脂をそれぞれベース樹脂とする実施例1~3の樹脂組成物は、射出成形が可能であり、かつ、比較例2~4の樹脂組成物よりも曲げ弾性率が小さかった。特に、PFA樹脂、FEP樹脂を用いた実施例1、2は、曲げ弾性率1GPa以下であり、ロータの曲面に沿って変形しやすい。一方、PTFE樹脂(比較例1)は、曲げ弾性率が低く低弾性であるが、射出成形ができない。また、摩耗試験では、実施例1(PFA樹脂)、実施例3(ETFE樹脂)は、比較例1(PTFE樹脂)、比較例2(PPS樹脂)に比べて、自己の摩耗および相手材の摩耗ともに小さい結果となった。PPS樹脂を用いた場合には相手材の摩耗も生じた。
【0048】
実施例4~9、比較例5
実施例4~9および比較例5に用いた充填材を以下に一括して示す。GRP-1~3、PTFE-1の平均粒子径は、レーザー光散乱法を利用した粒子径分布測定装置により得られた50%粒子径である。
(1)黒鉛〔GRP-1〕
日本黒鉛工業株式会社:CGB-20(平均粒子径:20μm)
(2)黒鉛〔GRP-2〕
日本黒鉛工業株式会社:CGB-50(平均粒子径:50μm)
(3)黒鉛〔GRP-3〕
イメリス・ジーシー・ジャパン株式会社:TIMREX KS-25(平均粒子径:10μm)
(4)PTFE樹脂粉末〔PTFE-1〕
平均粒子径:20μm
(5)炭素繊維〔CF-1〕
株式会社クレハ:M-107T(繊維径18μm、平均繊維長0.4mm)
【0049】
表4の配合割合(体積%)で配合した樹脂組成物を用い、射出成形によって摩耗試験片(リング試験片)を作製した。比較例5のPTFE樹脂を用いた場合は、圧縮成形によって試験片を作製した。
【0050】
また、得られた摩耗試験片を用いて、リングオンディスク型試験機により表3の試験条件で摩耗試験を実施した。リング試験片の摩耗量を測定し、さらに試験後の相手材の損傷の有無を目視で確認した。なお、表3のLLCは、エンジン冷却水であり、その主成分はエチレングリコールである。
リング試験片:φ17(内径)×φ21(外径)×10(幅)mm
相手材 :φ33(外径)×6(幅)mm
旋削加工、表面粗さRa3μm
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
表4に示すように、PFA樹脂をベース樹脂とした実施例4~8と、ETFE樹脂をベース樹脂とした実施例9は、いずれも射出成形が可能であり、試験片の摩耗量が11~30μmであった。黒鉛を配合した実施例4~7は、炭素繊維を配合した実施例8より摩耗量が小さい結果であった。また、実施例8では相手材の損傷がみられた。
【0054】
比較例5の樹脂組成物は、PTFE樹脂をベース樹脂として黒鉛を配合した組成である。比較例5の試験片の摩耗量は40μmであり、実施例4~9に比べて耐摩耗性に劣る結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の流量制御バルブ用シールは、安価に作製できるとともに、摺接するロータの摩耗損傷が少なく、低リーク性、低摩擦性、低摩耗性に優れるので、冷却水の流量を制御する流量制御バルブ装置に広く使用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 バルブ装置
2 ハウジング
3 回転軸
4 ロータ
5 導入部
6 シール
7 シール
8 シール
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-02-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入部、及び、吐出部を有するハウジングと、前記ハウジングの内部に設けられ、球状または円筒状の外周面を有し、前記ハウジングに対して回転する樹脂製のロータとを備える流量制御バルブ装置に用いられ、
前記ハウジング内にて前記ロータと前記導入部または前記吐出部との間に設けられ、前記ロータの外周面に摺接する環状の流量制御バルブ用シールの製造方法であって、
前記流量制御バルブ用シールが射出成形可能なフッ素樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物の射出成形体であり、
前記フッ素樹脂がテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂、およびテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂であり、前記樹脂組成物を射出成形することを特徴とする流量制御バルブ用シールの製造方法
【請求項2】
前記樹脂組成物は、繊維状充填材を含まないことを特徴とする請求項1記載の流量制御バルブ用シールの製造方法
【請求項3】
前記樹脂組成物は、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、炭素粉末、酸化鉄、および酸化チタンから選ばれる少なくとも1つの樹脂用添加剤を含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の流量制御バルブ用シールの製造方法。
【請求項4】
前記流量制御バルブ用シールは、前記ロータと摺接する環状のシール面に、シール全周にわたり連続した円周状突起を有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の流量制御バルブ用シールの製造方法
【請求項5】
前記テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂および前記テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂の各メルトフローレートは、温度372℃、荷重5kgのとき10~50g/10分であり、前記テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体樹脂のメルトフローレートは、温度297℃、荷重5kgのとき10~50g/10分であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の流量制御バルブ用シールの製造方法。