(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028264
(43)【公開日】2024-03-04
(54)【発明の名称】無機質を主体とした常温硬化型オルガノシロキサン組成物の抗滑性フロアコーティング剤としての使用
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20240226BHJP
C09D 183/00 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D183/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131417
(22)【出願日】2022-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】506429433
【氏名又は名称】助川 陽平
(71)【出願人】
【識別番号】000252089
【氏名又は名称】鈴木産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517417740
【氏名又は名称】石田 明
(71)【出願人】
【識別番号】522332696
【氏名又は名称】越野 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100155446
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 洋
(72)【発明者】
【氏名】助川 陽平
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 貴美江
(72)【発明者】
【氏名】石田 明
(72)【発明者】
【氏名】越野 眞治
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DL021
4J038DL031
4J038GA02
4J038GA03
4J038GA15
4J038HA216
4J038HA436
4J038JC40
4J038JC41
4J038KA03
4J038KA04
4J038MA14
4J038NA09
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】有機溶剤を含まず、日曜大工で使用可能な、ナイロンストッキングを履いた脚で歩いても滑る危険のない一液性常温硬化型オルガノシロキサン組成物を主体とするフロアコーティング剤を提供する。
【解決方法】液状オルガノポリシロキサンと硬化剤とを含む無溶剤常温硬化型組成物から成り、97~92重量%のメチル系シリコンオリゴマー(A1)とメチル/フェニル系シリコンオリゴマー(A2)とからなる群の中から選択される液状オルガノポリシロキサン(A)と、8~3重量%の硬化剤(B)と、0~5重量%の架橋剤(C)とを含み(全体で100重量%)、上記メチル系シリコンオリゴマー(A1)とメチル/フェニル系シリコンオリゴマー(A2)の重量比率が下記の範囲内にあることを特徴とする、抗滑性フロアコーティング剤:
(A1)メチル系シリコンオリゴマー 75~55重量%
(A2)メチル/フェニル系シリコンオリゴマー 45~25重量%。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)と(B)を下記重量比率:
(A)メチル系シリコンオリゴマー(A1)とメチル/フェニル系シリコンオリゴマー(A2)とから成る少なくとも一種の液状オルガノポリシロキサン 97~92重量%
(B)硬化剤 8~3重量%
で含み、上記液状オルガノポリシロキサン(A)中のメチル系シリコンオリゴマー(A1)とメチル/フェニル系シリコンオリゴマー(A2)との重量比率が下記の範囲内にあることを特徴とする抗滑性フロアコーティング剤:
(A1)メチル系シリコンオリゴマー 75~55重量%
(A2)メチル/フェニル系シリコンオリゴマー 45~25重量%。
【請求項2】
上記(A1)のメチル系シリコンオリゴマーが中重合度のオリゴマー(A11)と高重合度のオリゴマー(A12)との混合物であり、中重合度のオリゴマー(A11)/高重合度のオリゴマー(A12)の重量比が1/1.5~2.5である請求項1に記載の抗滑性フロアコーティング剤。
【請求項3】
硬化剤以外の架橋剤を0~5重量部の比率でさらに含む請求項1または2に記載の抗滑性フロアコーティング剤。
【請求項4】
有機溶剤を含まない常温で硬化可能な液体の一液性常温硬化型オルガノシロキサン組成物の床材表面用フロアコーティング剤としての使用であって、
上記一液性常温硬化型オルガノシロキサン組成物が下記成分(A)~(C)を下記重量比率(全体で100重量%):
(A)液状オルガノポリシロキサン 97~92重量%
(B)硬化剤 8~3重量%
(C)硬化剤以外の架橋剤 0~5重量%
で含み、
液状オルガノポリシロキサン(A)が下記(A1)と(A2)を下記比率で含むことを特徴とする使用:
(A1)メチル系シリコンオリゴマー 75~55重量%
(A2)メチル/フェニル系シリコンオリゴマー 45~25重量%。
【請求項5】
上記(A1)のメチル系シリコンオリゴマーが中重合度のオリゴマー(A11)と高重合度のオリゴマー(A12)との混合物であり、中重合度のオリゴマー(A11)/高重合度のオリゴマー(A12)の重量比が1/1.5~2.5である請求項4に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン樹脂を主成分とする抗滑性の床用コーティング剤(フロアコーティング剤)に関するものであり、特に、ナイロンストッキングを履いて歩いても滑る危険のない一液性の湿分硬化型オルガノシロキサン組成物の抗滑性フロアコーティング剤としての使用に関するものである。
【0002】
本発明のフロアコーティング剤はシリコン樹脂が本来有する耐汚染性、耐付着性、耐落書き性、撥水性等の特性を損なわずに、抗滑性を有するので、安全に使用でき、ペットにストレスを与えないので介護施設や病院をはじめとする広い分野で有利に使用できる。また、本発明のシリコンフロアコーティング剤は床材(フローリング)の他に階段、手摺り等の滑る危険を無くす必要のある用途で有利に使用できる。
【背景技術】
【0003】
床材(床の材料)には住宅や店舗のフローリング、合板、ラミネートフロア、タイル、カーペットや、病院、スポーツジム、体育館、OAフロア、道路、船舶の甲板を含む多種多様なものが含まれ、材質、機能、用途等によって多数の分類がある。こうした床材に要求される性質、性能、機能は材料、用途に応じて多種多様であり、石材や金属の床材に要求されるものと木材、プラスチックの床材に要求されるものは相違するが、床材に一般的に要求される性質、性能、機能には耐久性、安全性、防汚性、耐傷性、耐薬品性、耐衝撃性等がある。病院やペット用にはさらに抗菌性、消臭効果、耐ウイルス性等が要求され、床暖房対応性、光沢性、メンテナンス性等も要求される。
【0004】
住宅用床材を保護するために一般的に使用されているフロアコーティング剤の種類はガラスフロアコーティング剤、UVフロアコーティング剤、シリコンフロアコーティング剤およびウレタンフロアコーティング剤の4つである。ガラスフロアコーティング剤は耐薬品性に優れ、ペットのおしっこにも強い。UVフロアコーティング剤は耐水性に優れ、キッチンやダイニングの床に適している。シリコンフロアコーティング剤は滑り難く、年寄りやペットに対して安全である。ウレタンフロアコーティング剤は摩擦に対して強く、イスを引きずる傷の防止に有用である。
【0005】
いずれの床材の場合でも滑止効果は要求される。ヒトや動物が歩いた時に滑らないという特性を一般に「抗滑性」とよんでいる。この「抗滑性」は用途分野毎に種々の規格で定義されている。「フロアコーティング」の分野ではヒトや動物が歩いた時に、つんのめったり、滑ってころぶことのない適度な摩擦特性(以下、これを抗滑性という)が求められている。すなわち、過度の摩擦がなく且つ摩擦不足もないことが望ましい。「抗滑性」を付与するために薬液でエッチングする方法のような物理的方法もあるが、塗膜自体が抗滑性を有するように処理する化学的方法が一般的である。
【0006】
[特許文献1](特開2004-123982公報)には、主鎖が実質的ビニル系重合体からなり、分子内に加水分解性基に結合したケイ素基を少なくとも1つ有し、且つアミノ基を有する共重合体(A)成分と硬化触媒(B)成分、シランカップリング剤(C)成分及び弱溶剤(D)成分からなるアクリルシリコン塗料の特徴を維持した床用塗料硬化性組成物が記載されている。この床用塗料硬化性樹脂組成物には、湿分の存在下、室温で硬化性を有するベース樹脂として加水分解性基と結合したシリル基を有する共重合体(A)成分が含有されている。
しかし、上記共重合体(A)成分の主鎖を構成する単位のうちの50重量%以上はアクリル系単量体単位で形成されている。
【0007】
[特許文献2](特開2005?220332号公報)にはプール、浴室、厨房、エントランス、ホール、トイレ、スロープ、橋上等の各種施設における鉱物性床面の滑り止めを防止する防滑処理剤が記載されている。この特許公報の実施例1の防滑処理剤は水10部にザンタンガム(多糖類)0.15部、塩化マグネシウム(無機粉末)30部を加えて十分混合攪拌しスラリー状態とし、更に塩酸43. 35部を加え、約1.5時間攪拌し、酸性フッ化アンモニウム(無機粉末)15部、オルガノポリシロキサン1部、界面活性剤0.5部を加え、約2時間攪拌して得られる白色ペーストである。
しかし、この防滑処理剤の主剤は無機鉱酸であり、一般家庭では使用できない。
【0008】
一般の住宅用床材を保護するための「フロアコーティング」で滑り止め効果を付与する化学的方法にはフロアコーティング剤中に各種の摩擦付与剤を添加する方法と、塗膜自体が適度な摩擦特性を有する抗滑性フロアコーティング剤を選択する方法の2つの方法が主として使用されている。
【0009】
前者の例としての[特許文献2](特開2007-191672号公報)では2液型エポキシ樹脂塗料にマイクロバルーンを添加している(塗料成分100容量部に対して10容量部の割合)。
この方法は摩擦付与材料をビヒクル(樹脂塗料)中に添加するためコストが増加する。
【0010】
後者の例としては[特許文献3](特許第6749009号明細書)が挙げられる。この特許に記載の床用防滑剤はシリコーンレジンを溶媒で溶解、分散させたものから成る。このシリコーンレジンは、重量平均分子量が1000以上であり、M単位(R1R2R3SiO1/2)及びQ単位(SiO4/2)とからなり、その添加量が0.1wt%~5.0wt%であることを特徴とする。この特許の実施例1では、1重量%のデシルトリメトキシシランと、3重量%のトリメチルシロキシケイ酸を95.75重量%のエタノールに溶解している。
この特許の床用防滑剤の大部分はエタノールであり、施工時に溶媒を飛ばすことになる。
【0011】
シリコンフロアコーティング剤が優れた「抗滑性」を有すること知られている。しかし、市販の大部分のシリコンフロアコーティング剤は[特許文献3]のようにシリコーンレジンを溶媒に溶解した溶液であるか、シリコーンレジンとアクリル樹脂等とを混合したものである。
【0012】
溶剤型のシリコンフロアコーティング剤では施工時に溶媒を飛ばすことになり、地球環境保護の観点から望ましくない。シリコーンレジンとアクリル樹脂等とを混合して水溶性分散物またはエマルジョンにしたものは価格が高くなり、一般の人が日曜大工(DIY)で簡単に使用するのは困難である。シリコーンレジンを水に分散させたフロアコーティング剤の中には再塗装性に課題のあるものがあり、一度コーティングをした後に再度コーティングをする際にコーティング剤が撥かれ、均一な再コーティングが困難になる。
【0013】
無機質を主体としたシリコン組成物のフロアコーティング剤も再塗装性がないと考えられていた。本発明者達は無機質を主体としたシリコン組成物のフロアコーティング剤をシリコンフロアコーティング剤として使用することを試みた。
【0014】
[特許文献4](特公平7-72250号公報、特許第2137192号)には、有機基の比率を減らし、Si-O結合の比率を大幅に増やした無溶剤の常温硬化型オルガノシロキサン組成物が開示されている。この無溶剤常温硬化型オルガノシロキサン組成物は下記(A)~(C)で構成される:
(A)液状オルガノポリシロキサン
(B)架橋剤、
(C)硬化触媒。
上記の液状オルガノポリシロキサン(A)は下記一般式(1):
【0015】
【0016】
(式中:R1は水素原子もしくはC1からC5のアルキ ル基あるいはアシル基;R2~R6はそれぞれが水素原子、OR1基もしくは一価の炭化水素基より選ばれた同一もしくは異なる基、nは1ないし15の数)
で表される化合物の1種または2種以上からなり、SiO2酸化物基準で表したそのケイ素成分含有量は50重量%以上である。
架橋剤(B)は下記一般式(2)または(3):
R7
pM・(OR1)3-p‥‥‥‥‥(2)
R7
mQ・(OR1)4-m‥‥‥‥‥(3)
(式中:Mはアルミニウムまたはホウ素元素;Qはケイ 素、チタンまたはジルコニウム元素;R1は水素原子もしくはC1ないしC5のアルキル基、アシル基あるいはオキシム基;R7は水素原子、OR1基もしくは一価の 炭化水素基より選ばれた基;pは1または2;mは1~3の整数)
で表される有機金属化合物の1種または 2種以上からなる。
硬化触媒(C)は亜鉛、コバルト、アルミニウムまたは錫元素の1または 2種以上の含金属有機化合物である。
上記の無溶剤常温硬化型オルガノシロキサン組成物は、触媒反応ブロッキ ング剤を含み、上記三成分混合液組成物が含有する全金属元素成分をMOy/2酸化物基準(Mはアルミニウム、 ホウ素、ケイ素、チタン、ジルコニウム元素、yは金属 元素の価数)で表わして40重量%以上含有する。
【0017】
この無溶剤常温硬化型オルガノシロキサン組成物は「セラトン」の名称で市販され、特に鋼構造物やトンネル構造物の表面塗料として広く使用されている。しかし、抗滑性フロアコーティング剤として使用されてはいない。
【0018】
室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物をコーティング剤として使用する特許は他にも存在する。
[特許文献5](特開2007231182号公報)には下記(A)~(E)を必須成分とする室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物が記載されている:
(A)25℃における粘度が0.1~1,000Pa・sであり、両末端がトリアルコ キシシリル基で封鎖されたポリオルガノシロキサン:5~95質量%、
(B)25℃における粘度が0.1~1,000Pa・sであり、両末端がジアルコキシモノオルガノシリル基で封鎖されたポリオルガノシロキサン:95~5質量% からなるポリオルガノシロキサン100質量部に対し、
(C)下記一般式(1)
【0019】
【0020】
(式中、R1、R2及びR3は1価の飽和炭化水素基であり、Xは酸素原子又は2価炭化水素基、nは25℃における粘度が0.005~100Pa・sとなるような正数を表す)で表される片末端トリアルコキシポリオルガノシロキサン硬化剤1~50質量部、
(D)比表面積が50m2/g以上のシリカ粉:1~50質量部、
(E)チタンキレート触媒:0.1~15質量部。
しかし、この室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は建材用のシーリング材、電気電子分野、輸送機分野での接着剤などの様々な分野で利用すること意図しており、抗滑性フロアコーティング剤としての使用は記載がない。
【0021】
[特許文献6](特開2009167420号公報)には下記(A)~(D)から成る縮合反応により硬化する室温硬化性オルガノポリシロキサン 組成物が記載されている:
(A)25℃における粘度が100~500,000mPa・sであり、1分子中に、一 般式;(X)aR1
3Si-(式中、Xは水酸基または加水分解可能な基であり、R1は一価炭化水素基またはハロゲン原子置換一価炭化水素基であり、aは1、2または3である)で示される末端基を、平均して1.5個以上含有するオルガノポリシロキサン(100 重量部)、
(B)1分子中に、ケイ素原子結合加水分解性基を3個以上含有するシランもしくはシロキサンオリゴマー(0.01~40重量部)
(C1)白金化合物からなる難燃性付与剤(白金化合物が白金金属換算で組成物中に1~2,000ppmとなる量)
(C2)1分子中に少なくとも1個の式、-(R2)(R3)SiO-(R2)(R3)SiO-(式中、R2はアリール基であり、R3はアルケニル基である)で示される結合を有し、1分子中のケイ素原子数が8個以下であるアリール基とアルケニル基を含有するオルガノシロキサン{(C1)成分中の白金原子1モルに対して2モル以上となる量} および
(D)無機質粉末(5~300重量部)。
この室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物も電気・電子部品用のコーティング剤、シール剤または接着剤として使用することを意図しており、抗滑性フロアコーティング剤としての使用は記載がない。
【0022】
[特許文献7](特開2015110792号公報)には以下の成分(a)~(d)を含む室温硬化可能なアルコキシ硬化ポリシロキサン組成物が記載されている:
(a)水酸基末端ポリオルガノシロキサン、
(b)多官能性アルコキシシラン、及び
(c)以下の一般式I又はIIを有する有機チタン化合物、又は2~10の重合度を有するそのマルチポリマー、
(i)次の一般式Iを有する有機チタン化合物I:
【0023】
(式中、nは1~4の間の任意の整数であり、R
1は1~16個の炭素原子を有する飽和の一価炭化水素基であり、R
2は1~16個の炭素原子を有する飽和の二価炭化水素基であり、R
3は1~32個の炭素原子を有する飽和の一価炭化水素基であり、ここで炭化水素基は直鎖状及び分枝状の両方を含む)
(ii)以下の一般式IIを有する有機チタン化合物II:
【0024】
(式中、mは2~4の間の任意の整数であり、R4は1~16個の炭素原子を有する飽和の一価炭化水素基であり、R5は1~16個の炭素原子を有する飽和の二価炭化水素基であり、R6は4~32個の炭素原子を有する飽和の一価炭化水素基であり、ここで炭化水素基は直鎖状及び分枝状の両方を含む)
(d)触媒(任意成分)
この室温硬化可能なアルコキシ硬化ポリシロキサン組成物は建築、エレクトロニクス、電気及び自動車部門における用途のためのシーラント 、接着剤、及びコーティング材料として直接使用される。しかし、この特許にも抗滑性フロアコーティング剤としての使用は記載がない。
【0025】
上記のように、室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を抗滑性フロアコーティング剤として使用したものは本出願人の知る限り見当たらない。実際に、無機質を主体としたシリコン組成物をフロアコーティング剤として使用すると、市販の一般の溶剤型やエマルジョン型のシリコンフロアコーティング剤とは違って、優れた「抗滑性」を示さない。その理由は不明であるが、硬化物はケイ素成分含有量が高いため、無機の性質が強く現れ、抗滑性、再塗装性、可撓性および透明性に優れたフロアコーティング剤にはならないためと思われる。
【0026】
本発明者達は無機質を主体としたシリコン組成物のフロアコーティング剤をシリコンフロアコーティング剤として使用することを試みた。驚くことに、本発明者達は、「セラトン」の名称で市販の上記[特許文献4]に記載の組成物の中の特定成分の特定比率のものが抗滑性、再塗装性、可撓性および透明性に優れたシリコンフロアコーティング剤として使用できるということを見出した。すなわち、上記[特許文献4]に記載の無溶剤常温硬化型オルガノシロキサン組成物を単にシリコンフロアコーティング剤として使用しても目的とする優れた特性を有するシリコンフロアコーティング剤にはならないが、特定成分の特定比率のものが抗滑性、可撓性および透明性に優れたシリコンフロアコーティング剤として使用できるということを見出し、本発明を完成させた。本発明者達は、無機質を主体としたシリコン組成物は一般に抗滑性がないか、抗滑性が低いという予想とは逆に、特定種類の無溶剤常温硬化型オルガノシロキサン組成物は抗滑性、可撓性および透明性に優れたフロアコーティング剤になるということを発見した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特開2004-123982号公報
【特許文献2】特開2007-191672号公報
【特許文献3】特許第6749009号明細書
【特許文献4】特公平7-72250号公報
【特許文献5】特開2007231182号公報
【特許文献6】特開2009167420号公報
【特許文献7】特開2015110792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
従って、本発明の目的は、SiO2酸化物基準で表したケイ素成分含有量が50重量%以上である無溶剤常温硬化型オルガノシロキサン組成物を用いた抗滑性に優れたフロアコーティング剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、特定組成を有する無機質を主体とした常温硬化型オルガノシロキサン組成物の抗滑性フロアコーティング剤としての使用にある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明の第1の対象は、液状オルガノポリシロキサンと硬化剤とを含む無溶剤常温硬化型組成物から成る抗滑性フロアコーティング剤であって、
下記成分(A)と(B)を下記重量比率:
(A)メチル系シリコンオリゴマー(A1)とメチル/フェニル系シリコンオリゴマー(A2)とから成る少なくとも一種の液状オルガノポリシロキサン 97~92重量%
(B)硬化剤 8~3重量%
で含み、上記液状オルガノポリシロキサン(A)中のメチル系シリコンオリゴマー(A1)とメチル/フェニル系シリコンオリゴマー(A2)との重量比率が下記の範囲内にあることを特徴とする抗滑性フロアコーティング剤にある:
(A1)メチル系シリコンオリゴマー 75~55重量%
(A2)メチル/フェニル系シリコンオリゴマー 45~25重量%。
【0030】
本発明の抗滑性フロアコーティング剤は硬化剤(B)以外の架橋剤を0~5重量%の比率でさらに含むことができる。
【0031】
本発明の一つの好ましい実施例では、上記(A1)のメチル系シリコンオリゴマーは、中重合度のオリゴマー(A11)と高重合度のオリゴマー(A12)との混合物で、中重合度のオリゴマー(A11)/高重合度のオリゴマー(A12)の重量比は1/1.5~2.5であるのが好ましい。
【0032】
本発明の第2の対象は、有機溶剤を含まない常温で硬化可能な液体の一液性常温硬化型オルガノシロキサン組成物の床材表面用フロアコーティング剤としての使用であって、
上記一液性常温硬化型オルガノシロキサン組成物が下記成分(A)~(C)を下記重量比率(全体で100重量%):
(A)液状オルガノポリシロキサン 97~92重量%
(B)硬化剤 8~3重量%
(C)硬化剤以外の架橋剤 0~5重量%
で含み、
液状オルガノポリシロキサン(A)が下記(A-1)と(A-2)を下記比率で含むことを特徴とする使用にある:
(A-1)メチル系シリコンオリゴマー 75~55重量%
(A-2)メチル/フェニル系シリコンオリゴマー 45~25重量%。
【0033】
上記(A1)のメチル系シリコンオリゴマーが中重合度のオリゴマー(A11)と高重合度のオリゴマー(A12)との混合物であり、中重合度のオリゴマー(A11)/高重合度のオリゴマー(A12)の重量比は1/1.5~2.5であるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明フローリング剤の「滑り難さ」の評価で使用した実験装置の概念図。
【
図2】[
図1]の実験装置を用い、サンプル1として木製合板タイルを使用してStricbeck曲線を求め時の結果を示すグラフ。
【
図3】[
図1]の実験装置を用い、サンプル1としてセラミックタイルを使用してStricbeck曲線を求めた時の結果を示すグラフ。
【
図4】[
図1]の実験装置を用い、サンプル1として御影石を使用してStricbeck曲線を求め時の結果を示すグラフ。
【
図5】傾斜スロープ上をナイロン(登録商標)ストッキングを履いた足で実際に歩いてスリップ性を調べた時の概念的な実験図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の無機質を主体とした滑らない無溶剤常温硬化型オルガノシロキサン組成物は[特許文献4]に記載の組成物の中の特定の比率の組成物であるので、本発明組成物の成分は基本的に[特許文献4]に記載の成分の中から選択できる。換言すると、本発明は[特許文献4]に記載の組成物の中から抗滑性、可撓性および透明性に優れた組成物を見出したものである。従って、本発明組成物の反応機構、組成物の各成分の内容はこの[特許文献4]の明細書を参照することができ、[特許文献4](特公平7-72250号公報)に記載の内容は本願明細書の一部を成す。
【0036】
「ポリマー」という用語はオリゴマーを包含し、ホモポリマーとコポリマーの両方を含む。本明細書では「シリコン」という用語はケイ素原子と酸素原子が交互に並ぶ構造に基づくポリシロキサンポリマーまたはオリゴマーを指し、本明細書では「シリコン」と「シロキサン」は区別なく使用される。
【0037】
「オルガノポリシロキサン」という用語はSi-O結合(シロキサン結合)を有する物質の総称として用いられ、本明細書ではアルコキシシリル基と反応性官能基とを有するオリゴマーを意味し、シラノール官能基を有していてもよい。本発明で使用するオルガノポリシロキサンにおけるSiO2酸化物基準で表したそのケイ素成分含有量は50重量%以上である。このケイ素成分含有量はその分子式から計算される。
【0038】
本発明では(A)の液状オルガノポリシロキサンが液体の状態を維持するものであり、希釈剤による液粘度調整を行わずに3000センチポイズ以下の粘度または25℃での動粘度が100mm2/s以下となるような低分子量のポリシロキサン化合物で、その重量平均分子量は一般に102~105オーダーである。
【0039】
本発明の液状オルガノポリシロキサン(A)はメチル系シリコンオリゴマー(A1)とメチル/フェニル系シリコンオリゴマー(A2)とから成る。各シリコンオリゴマー(A1)(A2)は一般に広く使用されており、市場で容易に入手可能である。
【0040】
本発明の液状オルガノポリシロキサン(A)は側鎖基がメチル基やフェニル基で、官能基を2個有するD単位、官能基を3個有するT単位のシロキサン化合物の単独もしくはその組み合わせからなるTD単位で構成することができる。メチル系シリコンオリゴマー(A1)を一般式で表すこともできるが複雑になるので、本明細書ではメチル系シリコンオリゴマー(A1)とはメチル基とアルコキシ基、特にメトキシ基とを有するシリコンオリゴマーを意味し、例えば下記のようなオリゴマーである(下記の構造式中の添字記号a、b、c、d、e、f、g等は0~100の数値で、粘度が3000センチポイズ以下または25℃での動粘度が200mm2/s以下となるように選択される)
【0041】
【0042】
本発明のオルガノポリシロキサンの動粘度は10~350mm2/sであり、好ましくは10~300mm2/s、より好ましくは10~100mm2/sである。動粘度はオ ストワルド粘度計での25℃で測定する。
【0043】
同様に、メチル/フェニル系シリコンオリゴマ(A2)とはメチル基およびフェニル基とアルコキシ基、特にメトキシ基とを有するシリコンオリゴマーを意味し、例えば下記のようなオリゴマーである(下記の構造式中の添字記号a、b、c、d、e、f、g等は0~100の数値で、粘度が10000センチポイズ以下または25℃での動粘度が300mm2/s以下となるように選択される)
【0044】
【0045】
本発明の無溶剤常温硬化型オルガノシロキサン組成物のケイ素成分含有量は、SiO2酸化物基準で表して50重量%以上である。このケイ素成分含有量はその分子式から計算される。
【0046】
本発明の用途(抗滑性フロアコーティング剤)では(A1)と(A2)との比率が重要であり、下記の範囲を逸脱したものは本発明用途の抗滑性フロアコーティング剤としての使用には適さない:
(A1)メチル系シリコンオリゴマー 75~55重量%
(A2)メチル/フェニル系シリコンオリゴマー 45~25重量%。
液状オルガノポリシロキサン(A)中の(A1)の重量比が55重量%未満では抗滑性が得られない。また、(A1)の重量比が75重量%を超えるとコーティング性能に問題が生じる。
【0047】
硬化剤(B)はシリコンオリゴマー用の硬化剤として公知のものの中から広く使用することができる。硬化剤という用語は液状オルガノポリシロキサン(A)の硬化を促進する化合物を意味し、硬化触媒を含み、カップリング剤や架橋剤を含むこともある。すなわち、硬化触媒としての機能も兼ね備えた架橋剤やカップリング剤を硬化剤(B)として使用することができる。本発明の無溶剤常温硬化型オルガノシロキサン組成物硬化剤(B)以外に架橋剤をさらに含むこともできる。この架橋剤は[特許文献4]に記載のものから選択できる。しかし、本発明の用途では架橋剤の使用は必須ではない。
【0048】
硬化剤(B)はアルコキシ基、アシロキシ基もしくはオキシム基からなる機能団を有する錫、チタン、アルミニウム、ケイ素またはジルコニウム化合物の1種または2種以上の組み合わせからなる有機金属化合物にすることができる。そうした硬化剤はシリコンオリゴマー用の硬化剤として市場から容易に入手できる。
【0049】
有機錫系触媒としてはジブチルスズジア セテート、ビス(アセトキシジブチルスズ)オ キサイド、ビス(ラウロキシジブチルスズ)オ キサイド、ジブチルスズビスアセチルアセト ナー、ジブチルスズビスマレイン酸モノブ チルエステル、ジオクチルビスマレイン酸モ ノブチルエステル、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレー ト、ジブチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫ジバーサテート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシド等が挙げられるが、 これらに限定されない。
【0050】
チタン系触媒としてはジイソプロポキシチタ ンビス(アセチルアセトナート)、チタンテト ラ(アセチルアセトナート)、ジオクタノキシ チタンジオクタネート、ジイソプロポキ シチタンビス(エチルアセトアセテート)、テトラ-n-ブチルチタネート(Tn-BT)、テトライソブチルチタネー ト(Ti-BT)、テトラ-t-ブチルチタネート(Tt-BT)、テトライソプロピル チタネート(Ti-PT)、テトライソオクチルチタネート(TOT)、ジイソブチルビ ス(アセチルアセトネート)チタネート(DIBAT)、ジイソプロピルビス(アセチル アセトネート)チタネート(DIPAT)、ジイソプロピルビス(エチルアセトアセテート)チタネート、ジブチルビス(エチルアセトアセテート)チタネート等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
アルミニウム化合物としてはアセチルアセトンアルミニウム、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノノルマルブチレート、アルミニウムエチルアセトアセテートジノルマルブチレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等が挙げられるが、 これらに限定されない。
【0052】
カップリング剤としてはN-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエト キシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメ トキシシランおよびγ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
硬化剤(B)は上記化合物を1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。 特に、反応性に優れたジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジバー サテートなどの錫化合物、テトライソプロポキシチタン、テトラn-ブトキシチタン、テトラt-ブトキシチタン、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)等のチタン化合物およびそれらの加水分解物、アセチルアセトンアルミニウム、アルミニウ ムビス(エチルアセトアセテート)モノノルマルブチレート、アルミニウムエチルアセト アセテートジノルマルブチレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等のアルミニウム化合物およびそれらの加水分解物を使用するのが好ましい。
【0054】
本発明組成物には、必要に応じて、硬化性組成物の粘度を調整して作業性を良くする目的や、組成物の硬化性 、得られる塗膜の硬度、可撓性、密着性などを調整する目的で他の化合物、例えば上記以外のオルガノポリシロキサンやシラン化合物をさらに加えることもできる。
【0055】
液状オルガノポリシロキサン(A)と硬化剤(B)との比率は下記である:
液状オルガノポリシロキサン(A) 97~92重量%
硬化剤(B) 8~3重量%
硬化剤(B)の比率が3重量%未満では硬化が不足するか、硬化に時間がかかり、逆に、8重量%を超えても好ましい結果は得られない。
【0056】
本発明の無溶剤常温硬化型オルガノシロキサン組成物は上記の(A)(B)の他に任意成分として下記成分(C)と(D)をさらに含むこともできる:
(C)触媒反応ブロッキング剤
(D)反応遅延剤(硬化遅延剤)
これらの成分(C)および(D)は任意成分であり、その種類、使用量等の詳細な説明は[特許文献4](特公平7-72250号公報)の記載を参照できる。本発明の用途では透明性を確保するためにこれらの成分は用いないのが好ましい。
【0057】
本発明組成物には、さらに必要に応じて、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に添加配合可能な公知の各種添加剤、例えば、顔料、難燃剤、耐熱性向上剤、接着促進剤、チクソトロピー性付与剤、摩擦調節剤を本発明の目的、特に抗滑性および透明性を損なわない限り配合することができる。
【0058】
本発明の室温硬化性組成物は1液型であり、粘度が低く、溶媒を用いなくても作業性に優れるため、コーティング剤として好適に使用できる 。
【0059】
本発明の無溶剤常温硬化型オルガノシロキサン組成物は上記成分(A)と(B)(および、必要な場合には、その他の添加成分)を容器中で湿気遮断下で均一溶液となるまで室温で30分以上混合することで調整できる。
【0060】
本発明の一液の常温硬化型オルガノシロキサン組成物は一液保存性があり、室温で6か月放置しても実質的な変化がなく、そのままフロアコーティング剤として使用できる。塗布方法は特に限定されず、ブラシ、ロール等を用いたコーティングやスプレー等の公知の方法が使用できる。例えば、上記の一液性常温硬化型オルガノシロキサン組成物を床材表面上に塗布し、ロール、ブラシ、柔らかい布で均一に拡げるだけでよい。
【0061】
本発明の一液の常温硬化型オルガノシロキサン組成物のフロアコーティング剤は25℃で大気中の湿気(水分)によって約120時間後に硬化する(硬度約4H)。「水」とは大気水分、蒸気、液体水、氷、または有機溶媒等の他の有機化合物と混合された水を意味するが、大気水分であるのが好ましい。水の効果的な量は組成物の硬化を生じるに十分な量である。得られた硬化被膜は硬度および耐クラック性に優れ、しかも、抗滑性を示す。
【0062】
本発明フローリング剤の性能は「抗滑性能」と「塗装性能(コーティング性能)」とから評価できる。
抗滑性能の評価
本発明フローリング剤の抗滑性能は(1)「踏み込み」スリップ試験と(2)傾斜スロープ試験戸で評価した。
【0063】
(1)
「踏み込み」スリップ試験
[
図1]は本発明フローリング剤の「滑り難さ」を評価するのに使用した実験装置の概念図で、この実験ではStricbeck曲線を求め、それに基づいて摩擦係数(μ)を測定する。[
図1]の実験装置ではサンプル1を支持体7に固定し、スライダー4を用いて弾性材料2をサンプル1上を左から右にスライド移動させ、サンプル1上に塗布したコーティング剤3の有無で摩擦力(F)が変化するか否かを調べることができる。弾性材料2は傾斜ステージ5を介してスライダー4に固定し、支持体7にはZ-ステージ6を用いて垂直加重(P)を加えた。
【0064】
[
図2]~[
図4]はサンプル1の材料を変えてStricbeck曲線を求めたときの結果を示している。各図の縦軸は摩擦係数(μ)であり,横軸はS値(m)である。S値はこれらの駆動条件を表し、S=μ・V/P'である(μは粘度(Pa・s)、Vは速度(m/s)、Pは圧力(Pa))。摩擦係数は表面の粘度、速度、圧力に依存する。実際には、粘度(μ)および圧力(P) を一定にし、速度(V)を変えて摩擦係数(μ)を求め、Stricbeck曲線にプロットし、摩擦係数(μ)=摩擦力(F)/垂直加重(P)の関係から摩擦係数(μ)を求めた。
【0065】
「踏み込み」動作を模擬した実験では、測定開始時に弾性材料2をサンプル1に接触させず、弾性材料2が左側から右側に移動する間にZ-ステージ6を上昇させて弾性材料2をサンプル1と接触させ、所定接触圧まで垂直加重(P)を増加させる。この測定方法はヒトが床を踏み込む時の動作を模擬したもので、この場合、各図の横軸の左側には速度が遅い場合がプロットされ、右側には速度が速い場合がプロットされる。
【0066】
フローリング剤3をサンプル1上に塗布した場合と塗布し無かった場合とで比較し、摩擦係数(μ)の増加が大きい(滑り難くなった)場合を抗滑性「有り」とし、摩擦係数(μ)の増加が少ない(滑り難さに変化がないか、変化が少ない)場合を抗滑性「無し」とした。
【0067】
(2)
傾斜スロープ試験
[
図5]は傾斜角度が約30°の傾斜スロープ上を実際に歩いてスリップ性を調べた実験(ストッキングテスト)の概念図である。この実験では歩行に問題の無い10歳~60歳の女性(22)(体重約20~65kg)がナイロン(登録商標)のストッキングまたは靴下を履いた状態で角度30°の傾斜床(12)上にセットした木製合板のサンプル床材(11)上を登れるか否かを調べた。フロアコーティング剤E1を塗布した場合と塗布しなかった場合とで比較し、「滑らず」「滑る」で評価した
【0068】
塗装性能(コーティング性能)
フロアコーティングには得られた塗膜の、密着性(剥離強度)、耐クラック性、再塗装性、耐水性、長期耐久性、耐薬品性、傷防止性、対汚染性、対熱性、対UV性および美観等が要求される。本発明のフロアコーティング剤はフロアコーティングに要求される上記の一般的な性能を十分に満たしている。
【0069】
本発明のフロアコーティング剤は組成の相違によって塗装作業性に相違が生じるので、ここでは組成の相違による「塗装作業性」の評価結果のみを示す。
塗装作業性は平滑な塗膜表面を得るのに必要な特性(適度な粘度、適度な乾燥時間、塗布の容易さ)をベテランの塗装者が評価し、優、良、並、劣の評価を付けた。
塗装作業性
「優」=塗装作業が極めて容易
「良」=塗装作業が容易
「並」=塗装作業が少し困難
「劣」=塗装作業が困難
【0070】
本発明が対象とするフロアコーティング剤は住宅、店舗、病院、スポーツジム、体育館、OAフロア、道路、船舶等の任意の用途で使用できるが、以下では説明を簡単にするために住宅用床材を例として説明する。しかし、本発明フロアコーティング剤は店舗、病院、スポーツジム、体育館、OAフロア、道路、船舶等の床材料で使用できる。
【実施例0071】
以下、本発明の実施例を記載する。
使用材料
実施例、比較例では液状オルガノポリシロキサンA(シリコーンオリゴマーA1、A2)および硬化剤Bの材料として[表1]に示す市販の材料を使用した。
【0072】
【表1】
(注)
A11(信越化学工業株式会社KR-500)、中重合度のメチル系シリコンオリゴマー
A12(信越化学工業株式会社X-40-9225)、高重合度のメチル系シリコンオリゴマ
A13(ダウ・東レ株式会社DOWSIL AY42-163)、比重1.07のメチル系シリコンオリゴマー
A14(ダウ・東レ株式会社DOWSIL SR2402)、比重1.16のメチル系シリコンオリゴマー
【0073】
実施例1
本発明フロアコーティング剤の調整
シリコーンオリゴマーA1、A2として[表1]に示す市販のシリコーンオリゴマーA11とA21とを使用し、硬化剤Bとして[表1]に示す市販の硬化剤B11とを下記の重量比率で使用した。
シリコーンオリゴマーA11 55重量%
シリコーンオリゴマーA21 40重量%
硬化剤B11 5重量%
【0074】
これらの材料A11、A21およびB11を容器に入れ、均一溶液となるまで室温で減圧下で30分混合し、室温で48時間、養生して本発明の常温硬化型オルガノシロキサン組成物を調整した。得られた各組成物は一液保存性があり、室温で6か月間放置しても実質的な変化がなかった。この常温硬化型オルガノシロキサン組成物をフロアコーティング剤E1として使用した。
【0075】
フロアコーティング剤E1を木製合板のサンプル床材上にローラを用いて均一に塗布し、24時間放置して塗膜硬化させた。
得られた硬化塗膜の特性を評価した結果は以下のとおり。
【0076】
抗滑性能
(1)
「踏み込み」スリップ試験
[
図1]に示す実験装置で「滑り難さ」を調べた。実験では木製合板のサンプル床材(1)上に上記フロアコーティング剤E1を塗布した場合と、塗布しない場合でそれぞれ摩擦係数(μ)を求めた。
実験条件:
弾性材料取り付け角度=0°
垂直加重(P)=25 kPa
相対滑り速度V=0.01~1.80m/s)
【0077】
[
図2]はその結果を示す。[
図2]はStricbeck曲線を表し、横軸は駆動条件を表すS値(S=μ・V/P')であり、縦軸は摩擦係数(μ)を表す。[
図2]から分かることは、相対滑り速度が遅い場合([
図2]の横軸の左側では)すなわち「踏み込み時」には、フロアコーティング剤E1を塗布した場合の方が無塗装の場合に比べて摩擦係数(μ)が高くなることを示している。[
図2]の横軸の右側(相対滑り速度が早くなった場合、流体潤滑領域の場合)すなわち「滑り始めた後」ではフロアコーティング剤の有無で摩擦係数に相違が無くなることを示している。
【0078】
本発明では「踏み込み時」の滑りが問題になるので、本発明フロアコーティング剤E1は「踏み込み」スリップ試験」の結果は抗滑性「有り」である。
【0079】
なお、[
図3][
図4]はサンプル床材(1)の材料を「セラミックタイル」と「御影石」に変えた場合のスリップ試験の結果を示し、これらの材料(セラミックタイルの場合、[
図3])および(御影石の場合、[
図4])でも[
図2]と同様な作用効果を示す。
【0080】
(2)
傾斜スロープ試験
[
図5]に示す設備でのナイロン(登録商標)ストッキングテストの結果は全ての人が実質的に安全柵(23)に頼らずに登れたので「滑らず」であった。
【0081】
塗装性能
フロアコーティング剤E1の「塗装作業性」は「良」であった。
【0082】
実施例2~4
実施例1と同じ操作を繰り返したが、組成比変えずに、シリコーンオリゴマーAの種類を下記の組み合わせに代えた:
実施例2=A12とA22
実施例3=A13とA23
実施例4=A14とA24
すなわち、シリコーンオリゴマーA11をA12、A13またはA14にそれぞれ代え、シリコーンオリゴマーA21をA22、A23またはA24にそれぞれ代えた。
得られたフロアコーティング剤E2、E3およびE4を実施例1と同じサンプル床材上に塗布し、塗膜硬化させ、硬化塗膜の特性を評価した。結果は[表2]にまとめて示す。
実施例2~4の結果はリコーンオリゴマーの種類を変えても同じ結果が得られることを示している。
【0083】
比較例1~4
比較例1~4でも実施例1~4と同じ操作を繰り返したが、シリコーンオリゴマーA11とA21の重量比率を下記比率に変えた。
シリコーンオリゴマーA11 35重量%
シリコーンオリゴマーA21 60重量%
比較例1~4のシリコーンオリゴマーAの種類は実施例1~4と同じ:
比較例1=A11とA21
比較例2=A12とA22
比較例3=A13とA23
比較例4=A14とA24
得られたフロアコーティング剤C1~C4を実施例1と同じサンプル床材上に塗布し、塗膜硬化させ、硬化塗膜の特性を評価した。結果は[表2]にまとめて示す。
比較例1~4では、フロアコーティング剤C1~C4の場合には摩擦係数(μ)の増加が少なく、滑り難さの変化が少なかったため、「踏み込み」スリップ試験」の結果は抗滑性「無し」であった。
【0084】
実施例5~8
シリコーンオリゴマーA11とシリコーンオリゴマーA21との比率を下記重量比率に変えて、実施例1~4と同じ操作を繰り返した:
シリコーンオリゴマーA11 65重量%
シリコーンオリゴマーA21 30重量%
実施例5~8のシリコーンオリゴマーAの種類も実施例1~4と同じ:
実施例5=A11とA21
実施例6=A12とA22
実施例7=A13とA23
実施例8=A14とA24
得られたフロアコーティング剤E5~E8を実施例1と同じサンプル床材上に塗布し、塗膜硬化させ、硬化塗膜の特性を評価した。結果は[表2]にまとめて示す。
実施例5~8の結果はリコーンオリゴマーの組成が本発明の定義内にある場合には実施例1と同じ結果が得られることを示している。
【0085】
実施例9~12
実施例5~8と同様に、シリコーンオリゴマーA11とシリコーンオリゴマーA21との比率を下記重量比率に変えて実施例1と同じ操作を繰り返した:
シリコーンオリゴマーA11 50重量%
シリコーンオリゴマーA21 45重量%
実施例9~12のシリコーンオリゴマーAの種類も実施例1~4と同じ:
実施例 9=A11とA21
実施例10=A12とA22
実施例11=A13とA23
実施例12=A14とA24
結果は[表2]にまとめて示す。
実施例9~12の結果もリコーンオリゴマーの組成が本発明の定義内にある場合には実施例1と同じ結果が得られることを示している。
【0086】
実施例13~16
実施例1~4と同じ操作を繰り返したが、硬化剤B11を硬化剤B2に代えた。
実施例13~16のシリコーンオリゴマーAの種類も実施例1~4と同じ:
実施例13=A11とA21
実施例14=A12とA22
実施例15=A13とA23
実施例16=A14とA24
得られたフロアコーティング剤E13~E16を実施例1と同じサンプル床材上に塗布し、塗膜硬化させ、硬化塗膜の特性を評価した。結果は[表2]にまとめて示す。
実施例13~16の結果は硬化剤の種類を変えても実施例1と同じ結果が得られることを示している。
【0087】
比較例5~8
硬化剤B11を硬化剤B12に代えて比較例1~4と同じ操作を繰り返した。
比較例5~8のシリコーンオリゴマーAの種類も実施例1~4と同じ:
比較例5=A11とA21
比較例6=A12とA22
比較例7=A13とA23
比較例8=A14とA24
結果は[表2]にまとめて示す。
比較例5~8の結果は硬化剤Bの種類を変えても比較例1と同じ結果であり、本発明の作用効果(抗滑性)を得るためにはシリコーンオリゴマーの組成を尊重することが重要であることを示している。
【0088】
比較例9
比較例1と同じ操作を繰り返したが、シリコーンオリゴマーA11とシリコーンオリゴマーA21との比率を下記重量比率に変えた:
シリコーンオリゴマーA11 45重量%
シリコーンオリゴマーA21 50重量%
比較例9のフロアコーティング剤C9の「踏み込みスリップ試験」の結果は抗滑性「無し」であった。
【0089】
実施例17
実施例1と同じ操作を繰り返したがシリコーンオリゴマーAを変えた。すなわち、シリコーンオリゴマーAとしてシリコーンオリゴマーA11だけでなく、シリコーンオリゴマーA11(中重合度のメチル系シリコンオリゴマー)とシリコーンオリゴマーA12(重合度のメチル系シリコンオリゴマ)とを組み合わせて使用し、重量組成比を下記に代えた:
シリコーンオリゴマーA11 14重量%
シリコーンオリゴマーA12 41重量%
シリコーンオリゴマーA21 40重量%
硬化剤B11 5重量%
得られたフロアコーティング剤E17を実施例1と同じサンプル床材上に塗布し、塗膜硬化させ、実施例1と同じ評価方法で硬化塗膜の特性を評価した。
実施例17の抗滑性能は実施例1と同じであったが、フロアコーティング剤E17の塗装作業性が「優」になった。
【0090】
実施例18
実施例17と同じ操作を繰り返したが、シリコーンオリゴマーA11(中重合度のメチル系シリコンオリゴマー)とシリコーンオリゴマーA12(重合度のメチル系シリコンオリゴマ)の重量組成比を下記に変えた:
シリコーンオリゴマーA11 17重量%
シリコーンオリゴマーA12 38重量%
シリコーンオリゴマーA21 40重量%
硬化剤B11 5重量% 得られたフロアコーティング剤E18を実施例1と同じ評価方法で硬化塗膜の特性を評価した。
実施例18のフロアコーティング剤E18の塗装作業性も「優」になった。
【0091】
【0092】
実施例1~16の結果から、本発明のフロアコーティング剤の組成は抗滑性とフロアコーティング性能に優れ、抗滑性フロアコーティング剤として有利に使用できることが分かる。一方、比較例1~9の結果からシリコーンオリゴマーA1とA2の重量比率が本発明の範囲から外れると抗滑性に問題が生じることが分かる。
【0093】
実施例17、18の結果は中重合度のオリゴマー(A11)/高重合度のオリゴマー(A12)の重量比を1/1.5~2.5にすると、抗滑性を損なわずに、得られるフロアコーティング剤の塗装作業性を「優」にできることを示している。