(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028287
(43)【公開日】2024-03-04
(54)【発明の名称】ベータ-ヒドロキシブチレート及びブタンジオールの中鎖脂肪酸エステル並びに組成物、並びにそれを使用するための方法
(51)【国際特許分類】
C07C 69/675 20060101AFI20240226BHJP
A61K 31/22 20060101ALI20240226BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20240226BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240226BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240226BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240226BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240226BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240226BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240226BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20240226BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20240226BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240226BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240226BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240226BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240226BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240226BHJP
【FI】
C07C69/675 CSP
A61K31/22
A61P25/08
A61P25/16
A61P25/28
A61P9/00
A61P9/10
A61P25/14
A61P19/02
A61P21/02
A61P31/18
A61P35/00
A61P25/00
A61P3/10
A61P27/02
A23L33/10
【審査請求】有
【請求項の数】29
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023215845
(22)【出願日】2023-12-21
(62)【分割の表示】P 2021174538の分割
【原出願日】2017-06-02
(31)【優先権主張番号】62/346,975
(32)【優先日】2016-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518434267
【氏名又は名称】ザ・ジェイ・デイヴィッド・グラッドストーン・インスティトゥーツ
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(71)【出願人】
【識別番号】518434278
【氏名又は名称】イサカ・カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エリック・ヴァーディン
(72)【発明者】
【氏名】スコット・ウルリック
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ニューマン
(57)【要約】
【課題】本開示は、その投与が対象におけるケトン体濃度の増加を提供する化合物を提供する。
【解決手段】本開示の態様は、脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物(例えば、β-ヒドロキシブチレートの脂肪酸エステル)、ブタンジオールの脂肪酸エステル、及びその薬学的に許容される塩を含む。その上、1種若しくは複数の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及び/又はブタンジオールの1種若しくは複数の脂肪酸エステルを有する医薬組成物が提供される。1種又は複数のエステルを対象に投与することによって対象を処置するための方法も提供される。対象エステルの1種又は複数を含有するキットも記載されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】
(式中、
R
1は、H又はC(1~6)アルキル又は置換アルキルであり;
R
2及びR
3は、独立して非置換又は置換C(4~30)アルキルである)
の化合物。
【請求項2】
R1が非置換C(1~6)アルキルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R1がメチルである、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
R2及びR3が独立して非置換C(6~18)アルキルである、請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
R2及びR3が独立して非置換C6アルキルである、請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
R2及びR3が独立して非置換C8アルキルである、請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
式Ia:
【化2】
(式中、
R
1は、H又はC(1~6)アルキル又は置換アルキルであり;
R
2及びR
3は、独立して非置換又は置換C(4~30)アルキルである)
である、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
R1が非置換C(1~6)アルキルである、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
R1がメチルである、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
R2及びR3が独立して非置換C(6~18)アルキルである、請求項7から9のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項11】
R2及びR3が独立して非置換C6アルキルである、請求項7から9のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項12】
R2及びR3が独立して非置換C8アルキルである、請求項7から9のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項13】
式Ib:
【化3】
(式中、
R
1は、H又はC(1~6)アルキル又は置換アルキルであり;
R
2及びR
3は、独立して非置換又は置換C(4~30)アルキルである)
である、請求項1に記載の化合物。
【請求項14】
R1が非置換C(1~6)アルキルである、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
R1がメチルである、請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
R2及びR3が独立して非置換C(6~18)アルキルである、請求項13から15のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項17】
R2及びR3が独立して非置換C6アルキルである、請求項13から15のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項18】
R2及びR3が独立して非置換C8アルキルである、請求項13から15のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項に記載の化合物及び薬学的に許容される担体を含む組成物。
【請求項20】
請求項1から18のいずれか一項に記載の化合物又は請求項19に記載の組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む方法。
【請求項21】
治療有効量が、対象の脳においててんかん活性を低減するのに十分である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項1から18のいずれか一項に記載の化合物又は請求項19に記載の組成物の治療有効量を対象に投与すること
を含む、アルツハイマー病、てんかん、パーキンソン病、心不全、外傷性脳損傷、脳卒中、出血性ショック、輸液蘇生後の急性肺損傷、急性腎臓損傷、心筋梗塞、心筋虚血、糖尿病、多形神経膠芽腫、糖尿病性ニューロパチー、前立腺がん、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、皮膚T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、末梢T細胞リンパ腫、HIV、ニーマン・ピック病C型、年齢関連性黄斑変性、痛風、アテローム動脈硬化症、関節リウマチ及び多発性硬化症のうちの1つ又は複数を処置するための方法。
【請求項23】
治療有効量が、対象の脳においててんかん活性を低減するのに十分である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
請求項1から18のいずれか一項に記載の化合物又は請求項19に記載の組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、対象の脳においててんかん活性を低減する方法。
【請求項25】
請求項1から18のいずれか一項に記載の化合物を含む補助食品。
【請求項26】
請求項1から18のいずれか一項に記載の化合物を含む補助食品;及び
ケトン食の1種又は複数の追加成分
を含む組成物。
【請求項27】
化合物が、約1質量%から約25質量%の量で組成物中に存在する、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
化合物が、約5質量%から約15質量%の量で組成物中に存在する、請求項26に記載の組成物。
【請求項29】
化合物が、約10質量%の量で組成物中に存在する、請求項26に記載の組成物。
【請求項30】
ケトン食が、約2:1から約10:1の脂肪対タンパク質及び炭水化物の質量比を含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項31】
ケトン食が、約3:1から約6:1の脂肪対タンパク質及び炭水化物の質量比を含む、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
ケトン食が、約4:1の脂肪対タンパク質及び炭水化物の質量比を含む、請求項30に記載の組成物。
【請求項33】
式II:
【化4】
(式中、
R
4は、H又はC(1~6)アルキル又は置換アルキルであり;
R
5及びR
6は、独立して非置換又は置換C(4~30)アルキルである)
の化合物。
【請求項34】
R4が非置換C(1~6)アルキルである、請求項33に記載の化合物。
【請求項35】
R4がメチルである、請求項34に記載の化合物。
【請求項36】
R5及びR6が独立して非置換C(6~18)アルキルである、請求項33から35のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項37】
R5及びR6が独立して非置換C6アルキルである、請求項33から35のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項38】
R5及びR6が独立して非置換C8アルキルである、請求項33から35のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項39】
式IIa:
【化5】
(式中、
R
4は、H又はC(1~6)アルキル又は置換アルキルであり;
R
5及びR
6は、独立して非置換又は置換C(4~30)アルキルである)
である、請求項33に記載の化合物。
【請求項40】
R4が非置換C(1~6)アルキルである、請求項39に記載の化合物。
【請求項41】
R4がメチルである、請求項40に記載の化合物。
【請求項42】
R5及びR6が独立して非置換C(6~18)アルキルである、請求項39から41のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項43】
R5及びR6が独立して非置換C6アルキルである、請求項39から41のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項44】
R5及びR6が独立して非置換C8アルキルである、請求項39から41のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項45】
式IIb:
【化6】
(式中、
R
4は、H又はC(1~6)アルキル又は置換アルキルであり;
R
5及びR
6は、独立して非置換又は置換C(4~30)アルキルである)
である、請求項33に記載の化合物。
【請求項46】
R4が非置換C(1~6)アルキルである、請求項45に記載の化合物。
【請求項47】
R4がメチルである、請求項46に記載の化合物。
【請求項48】
R5及びR6が独立して非置換C(6~18)アルキルである、請求項45から47のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項49】
R5及びR6が独立して非置換C6アルキルである、請求項45から47のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項50】
R5及びR6が独立して非置換C8アルキルである、請求項45から47のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項51】
請求項33から50のいずれか一項に記載の化合物及び薬学的に許容される担体を含む組成物。
【請求項52】
請求項33から50のいずれか一項に記載の化合物又は請求項51に記載の組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む方法。
【請求項53】
治療有効量が、対象の脳においててんかん活性を低減するのに十分である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
請求項33から50のいずれか一項に記載の化合物又は請求項51に記載の組成物の治療有効量を対象に投与すること
を含む、アルツハイマー病、てんかん、パーキンソン病、心不全、外傷性脳損傷、脳卒中、出血性ショック、輸液蘇生後の急性肺損傷、急性腎臓損傷、心筋梗塞、心筋虚血、糖尿病、多形神経膠芽腫、糖尿病性ニューロパチー、前立腺がん、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、皮膚T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、末梢T細胞リンパ腫、HIV、ニーマン・ピック病C型、年齢関連性黄斑変性、痛風、アテローム動脈硬化症、関節リウマチ及び多発性硬化症のうちの1つ又は複数を処置するための方法。
【請求項55】
治療有効量が、対象の脳においててんかん活性を低減するのに十分である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
請求項33から50のいずれか一項に記載の化合物又は請求項51に記載の組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、対象の脳においててんかん活性を低減する方法。
【請求項57】
請求項33から50のいずれか一項に記載の化合物を含む補助食品。
【請求項58】
請求項33から50のいずれか一項に記載の化合物を含む補助食品;及び
ケトン食の1種又は複数の成分
を含む組成物。
【請求項59】
化合物が、約1質量%から約25質量%の量で組成物中に存在する、請求項58に記載の組成物。
【請求項60】
化合物が、約5質量%から約15質量%の量で組成物中に存在する、請求項58に記載の組成物。
【請求項61】
化合物が、約10質量%の量で組成物中に存在する、請求項58に記載の組成物。
【請求項62】
ケトン食が、約2:1から約10:1の脂肪対タンパク質及び炭水化物の質量比を含む、請求項58に記載の組成物。
【請求項63】
ケトン食が、約3:1から約6:1の脂肪対タンパク質及び炭水化物の質量比を含む、請求項58に記載の組成物。
【請求項64】
ケトン食が、約4:1の脂肪対タンパク質及び炭水化物の質量比を含む、請求項58に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦支援研究に関する記述
この発明は、国立衛生研究所によって授与された認可番号R24 DK085610及びK08 AG048354の下で政府支援を受けて行われた。政府は、本発明において、ある特定の権利を有する。
【0002】
相互参照文献
35 U.S.C. §119(e)に準じて、この出願は、2016年6月7日に出願された合衆国仮特許出願第62/346,975号の出願日に対する優先権を請求し、この開示は、参照によりそれ全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
導入
ケトン食及びケトン体は、てんかん、認知症及び加齢疾患を含めて、様々なヒト障害の処置にとっての興味対象である。ケトン体は、絶食時又は激しい運動中等、身体のエネルギー貯蔵が枯渇した場合に糖の代用として働く脂肪から創出される小化合物である。ケトン食は、糖又は他の炭水化物をほとんど含有しないことによって、ケトン体の産生を刺激する。ヒトにおける主要なケトン体は、アセトアセテート(AcAc)及びβ-ヒドロキシブチレート(BHB)である。ケトン食は、てんかんのための治療として臨床的に使用されるが、それらを長い期間の間、忠実に守るのがしばしば困難である。ケトン食の食品は、脂肪含有量が極めて高い(かつ、炭水化物含有量が低い)ために不味く、また、時には、胃腸問題、腎石、高コレステロール及び他の副作用を引き起こすことがある。
【0004】
BHBは、細胞エネルギーを発生させるための通貨である代謝中間体であるが、エネルギー産生とは別のいくつかのシグナル伝達機能も有する。エネルギー及びシグナル伝達機能のいずれか又は両方は、ヒト疾患に対するBHBの効果にとって重要であり得る。グルコースが乏しい時、例えば絶食又は激しい運動中、BHBは、脂肪組織中に貯蔵されたエネルギーが、身体の全体にわたる細胞がその機能を持続させるために使用し得る燃料に変換される通貨である。脂肪組織から動員された脂肪は、肝臓に輸送され、BHBに変換される。BHBは、血液中全ての組織へ循環する。細胞に吸収された後、BHBは、ミトコンドリア中で分解されてアセチル-CoAを発生し、これはATPに更に代謝される。これは、BHBの正準「エネルギー通貨」機能である。
【0005】
加えて、BHBは、いくつかのシグナル伝達機能を有し得る。これらのうちのほとんどは、BHB分子それ自体の作用であるとともに一般にアセチル-CoA及びATPへのそれの代謝の二次効果ではない点において、エネルギー通貨としてのその機能とは独立である。シグナル伝達機能としては、以下が挙げられ得る: 1)ヒストン修飾及び遺伝子発現における変化、並びに非ヒストンタンパク質のアセチル化状態及び活性における変化を生じる、クラスI及びIIaヒストンデアセチラーゼの阻害; 2)アセチル-CoAへの代謝は、アセチルトランスフェラーゼ酵素の基質として働くアセチル-coAの細胞産生の増加をもたらし、ヒストン及び非ヒストンタンパク質アセチル化における、デアセチラーゼ阻害と同様の変化をもたらす; 3)リジン-アセチル化と同様の効果を有し得る、リジン-β-ヒドロキシブチリル化の形態におけるヒストン及びおそらく他のタンパク質への共有結合付着; 4)脂肪組織代謝における変更を生じる、ヒドロキシカルボン酸受容体2 (HCAR2)受容体の結合及び活性化; 5)交感神経系活性化及び全身の代謝速度における変化を生じる、遊離脂肪酸受容体3 (FFAR3)受容体の結合及び阻害;並びに6) NOD様受容体3 (NLRP3)インフラマソームの阻害。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,728,074号
【特許文献2】米国特許第6,096,010号
【特許文献3】米国特許第6,146,361号
【特許文献4】米国特許第6,248,095号
【特許文献5】米国特許第6,277,099号
【特許文献6】米国特許第6,221,053号
【特許文献7】米国特許第6,086,909号
【特許文献8】米国特許第4,756,907号
【特許文献9】米国特許第6,476,079号
【特許文献10】米国特許第6,207,856号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Loudon、Organic Chemistry、第4版、New York
【非特許文献2】Oxford University Press、2002、360~361ページ、1084~1085
【非特許文献3】Smith及びMarch、March's Advanced Organic Chemistry
【非特許文献4】Reactions, Mechanisms, and Structure、第5版、Wiley-Interscience、2001
【非特許文献5】A. Gennaro (2000) 「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」、第20版、Lippincott、Williams & Wilkins
【非特許文献6】Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems (1999) H. C. Anselら、編集第7版、Lippincott、Williams & Wilkins
【非特許文献7】Handbook of Pharmaceutical Excipients (2000) A. H. Kibbeら、編集、第3版。Amer. Pharmaceutical Assoc.
【非特許文献8】Remington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、Pa.、第17版、1985
【非特許文献9】Remington's Pharmaceutical Sciences、第19版、A. R. Gennaro、編集、1995
【非特許文献10】Fentonら、ICAN 2009、1:338
【非特許文献11】Nealら、Lancet Neurology 2008、7:500
【非特許文献12】Hartman及びVinning、Epilepsia 2007、1:31
【非特許文献13】Kossoffら、Epilepsia 2009、50:304
【非特許文献14】Greenら、「Protective Groups in Organic Chemistry」、(Wiley、第2版。1991)
【非特許文献15】Harrisonら、「Compendium of Synthetic Organic Methods」、1 8巻 (John Wiley and Sons、1971 1996)
【非特許文献16】「Beilstein Handbook of Organic Chemistry」、Beilstein Institute of Organic Chemistry、Frankfurt、Germany
【非特許文献17】Feiserら、「Reagents for Organic Synthesis」、1 17巻、(Wiley Interscience)
【非特許文献18】Trostら、「Comprehensive Organic Synthesis」、(Pergamon Press、1991)
【非特許文献19】「Theilheimer's Synthetic Methods of Organic Chemistry」、1 45巻、(Karger、1991)
【非特許文献20】March、「Advanced Organic Chemistry」、(Wiley Interscience)、1991
【非特許文献21】Larock 「Comprehensive Organic Transformations」、(VCH Publishers、1989)
【非特許文献22】Paquette、「Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis」、(John Wiley & Sons、1995)
【非特許文献23】Bodanzsky、「Principles of Peptide Synthesis」、(Springer Verlag、1984)
【非特許文献24】Bodanzsky、「Practice of Peptide Synthesis」、(Springer Verlag、1984)
【非特許文献25】Palopら、Neuron 2007、55:697~711
【非特許文献26】Verretら、Cell 2012、149:708~721
【非特許文献27】Korffら、J Child Neurol 2007、22:185
【非特許文献28】Duttonら、Epilepsia 2011、52:2050
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の態様としては、脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物(例えば、β-ヒドロキシブチレートの脂肪酸エステル)、ブタンジオールの脂肪酸エステル、及びその薬学的に許容される塩が挙げられる。その上、1種又は複数の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及び/又はブタンジオールの1種又は複数の脂肪酸エステルを有する医薬組成物が提供される。1種又は複数のエステルを対象に投与することによって対象を処置するための方法も提供される。対象エステルの1種又は複数を含有するキットも記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1a】ある特定の実施形態によるβ-ヒドロキシブチレートのC6置換エステルの、
1H-NMRを図示する図である。
【
図1b】ある特定の実施形態によるβ-ヒドロキシブチレートのC6置換エステルの、GC-MSを図示する図である。
【
図2a】ある特定の実施形態によるβ-ヒドロキシブチレートのC8置換エステルの、
1H-NMRを図示する図である。
【
図2b】ある特定の実施形態によるβ-ヒドロキシブチレートのC8置換エステルの、GC-MSを図示する図である。
【
図3a】ある特定の実施形態によるC6置換脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物の、
1H-NMRを図示する図である。
【
図3b】ある特定の実施形態によるC6置換脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物の、GC-MSを図示する図である。
【
図4a】ある特定の実施形態によるブタンジオールのC6アシル置換エステルの、
1H-NMRを図示する図である。
【
図4b】ある特定の実施形態によるブタンジオールのC6アシル置換エステルの、GC-MSを図示する図である。
【
図5a】ある特定の実施形態によるブタンジオールのC8アシル置換エステルの、
1H-NMRを図示する図である。
【
図5b】ある特定の実施形態によるブタンジオールのC8アシル置換エステルの、GC-MSを図示する図である。
【
図6a】各々2つの用量での野生型C57BL/6雄性マウスへの腹腔内注射によって試験された場合のβ-ヒドロキシブチレートのC6及びC8エステルの生物学的機能を図示する図である。β-ヒドロキシブチレートのC6及びC8エステルの注射後の6時間にわたる血漿濃度を図示する図である。
【
図6b】各々2つの用量での野生型C57BL/6雄性マウスへの腹腔内注射によって試験された場合のブタンジオールのC6及びC8エステルの生物学的機能を図示する図である。ブタンジオールのC6及びC8エステルの注射後の6時間にわたる血漿濃度を図示する図である。
【
図6c】各々2つの用量での野生型C57BL/6雄性マウスへの腹腔内注射によって試験された場合のβ-ヒドロキシブチレートのC6及びC8エステルの生物学的機能を図示する図である。β-ヒドロキシブチレートのC6及びC8エステルの注射後の4時間にわたる血漿濃度を図示する図である。
【
図7a】絶食ではなくケトン食がAPPJ20マウスにおけるてんかん様スパイクを一貫して低減したことを実証する図である。KDを開始した2日後に記録された23時間EEGは、対照食に対して、事前のベースラインと比較して約30%のスパイク低減を示す。終絶食は変化を示さない。
【
図7b】絶食ではなくケトン食がAPPJ20マウスにおけるてんかん様スパイクを一貫して低減したことを実証する図である。23時間EEG記録中の毎時のスパイク合計。
【
図7c】絶食ではなくケトン食がAPPJ20マウスにおけるてんかん様スパイクを一貫して低減したことを実証する図である。各マウスのベースライン記録に正規化された、個々のマウスにおけるスパイク低減(黒丸、P<0.05;棒線=中央値)。
【
図7d】絶食ではなくケトン食がAPPJ20マウスにおけるてんかん様スパイクを一貫して低減したことを実証する図である。移動は、全ての食餌条件において同様であった。
【
図7e】絶食ではなくケトン食がAPPJ20マウスにおけるてんかん様スパイクを一貫して低減したことを実証する図である。全体的に正規化されたガンマ活性は、全ての食餌条件において同様であった。
【
図7f】絶食ではなくケトン食がAPPJ20マウスにおけるてんかん様スパイクを一貫して低減したことを実証する図である。毎分のスパイク及び移動の散乱プロットについて95% CIを有する、最もフィットする線形回帰線。APPJ20は通常、より高い探索移動で、より低いスパイクを有し; KDで、スパイクは全ての移動レベルでより低い。
【
図7g】絶食ではなくケトン食がAPPJ20マウスにおけるてんかん様スパイクを一貫して低減したことを実証する図である。KDでの移動によるガンマ活性の誘発速度の変化を示さない、毎分の正規化されたガンマ活性及び移動の散乱プロットについて95% CIを有する最もフィットする線形回帰線。
【
図7h】絶食ではなくケトン食がAPPJ20マウスにおけるてんかん様スパイクを一貫して低減したことを実証する図である。全体的な平均ガンマパワーは、KDで未変化である。双方向比較のためのT試験及び多重比較のためのTukey補正を用いるANOVAを介するP値。1条件当たりN=9~12匹のマウス; A、B、D、Eについてのデータは、高品質データを有する全ての条件を完了したN=7を示す。
【
図8a】KDによるてんかん様スパイクの低減が数カ月間続き、オープンフィールドに対する馴化における認知改善に関連することを図示する図である。実験タイムライン。
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図8b】KDによるてんかん様スパイクの低減が数カ月間続き、オープンフィールドに対する馴化における認知改善に関連することを図示する図である。7つの50分EEGにおいて、KDでのAPPJ20は、対照食でのマウスと比較して約40%低減されたスパイクを有した。
【
図8c】KDによるてんかん様スパイクの低減が数カ月間続き、オープンフィールドに対する馴化における認知改善に関連することを図示する図である。50分の記録期間にわたる平均スパイク/分;対照食中のマウスについてのスパイクは、探索活動が記録の後期に衰えるにつれて上昇する。
【
図8d】KDによるてんかん様スパイクの低減が数カ月間続き、オープンフィールドに対する馴化における認知改善に関連することを図示する図である。毎分のスパイク及び移動の散乱プロットについて95% CIを有する最もフィットする線形回帰線は、KDで、スパイクが全ての移動レベルでより低いことを示す。
【
図8e】KDによるてんかん様スパイクの低減が数カ月間続き、オープンフィールドに対する馴化における認知改善に関連することを図示する図である。探索が、KDでのAPPとNTG対照との間で同様であることを示す、53日目及び72日目での馴化後のオープンフィールド中の総移動(ビーム遮断)。
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図8f】KDによるてんかん様スパイクの低減が数カ月間続き、オープンフィールドに対する馴化における認知改善に関連することを図示する図である。総移動は、KDでのAPPとNTG対照との間で全て同様であり、馴化成功を示す。双方向比較のためのT試験及び多重比較のためのTukey補正を用いるANOVAを介するP値。1群当たりN=4~6。
【
図8g】KDによるてんかん様スパイクの低減が数カ月間続き、オープンフィールドに対する馴化における認知改善に関連することを図示する図である。立ち上がりは、KDでのAPPとNTG対照との間で全て同様であり、馴化成功を示す。双方向比較のためのT試験及び多重比較のためのTukey補正を用いるANOVAを介するP値。1群当たりN=4~6。
【
図8h】KDによるてんかん様スパイクの低減が数カ月間続き、オープンフィールドに対する馴化における認知改善に関連することを図示する図である。中心移動は、KDでのAPPとNTG対照との間で全て同様であり、馴化成功を示す。双方向比較のためのT試験及び多重比較のためのTukey補正を用いるANOVAを介するP値。1群当たりN=4~6。
【
図9a】長期ケトン食が、認知、並びに雄において生存を改善することを実証する図である。2カ月齢で開始されたKD又は対照食でのいずれかのAPPJ20及びNTGマウスについての体重の変化。双方向比較のためのT試験及び多重比較のためのTukey補正を用いるANOVAを介するP値。研究の開始時の1遺伝子型食餌群当たりN=21~26;水迷路について1群当たりN=11~14。
【
図9b】長期ケトン食が、認知、並びに雄において生存を改善することを実証する図である。血漿BHBレベルは、研究の開始から約2週毎に行われた6回の朝測定の平均である。双方向比較のためのT試験及び多重比較のためのTukey補正を用いるANOVAを介するP値。研究の開始時の1遺伝子型食餌群当たりN=21~26;水迷路について1群当たりN=11~14。
【
図9c】長期ケトン食が、認知、並びに雄において生存を改善することを実証する図である。KD対対照食でのそれぞれAPPJ20雄についての生存曲線。NTGマウスの中で死亡はなかった。双方向比較のためのT試験及び多重比較のためのTukey補正を用いるANOVAを介するP値。研究の開始時の1遺伝子型食餌群当たりN=21~26;水迷路について1群当たりN=11~14。
【
図9d】長期ケトン食が、認知、並びに雄において生存を改善することを実証する図である。KD対対照食でのそれぞれAPPJ20雌についての生存曲線。NTGマウスの中で死亡はなかった。双方向比較のためのT試験及び多重比較のためのTukey補正を用いるANOVAを介するP値。研究の開始時の1遺伝子型食餌群当たりN=21~26;水迷路について1群当たりN=11~14。
【
図9e】長期ケトン食が、認知、並びに雄において生存を改善することを実証する図である。食餌の開始の3カ月後に行われたモリス水迷路。探査試行を最終隠れプラットフォーム訓練の24時間後に行っており;逆戻り訓練は、初期探査試行の24時間後に始まった。KDでのAPPマウスは、初期及び逆戻り訓練の両方で学習の改善を示した。双方向比較のためのT試験及び多重比較のためのTukey補正を用いるANOVAを介するP値。研究の開始時の1遺伝子型食餌群当たりN=21~26;水迷路について1群当たりN=11~14。
【
図9f】長期ケトン食が、認知、並びに雄において生存を改善することを実証する図である。食餌の開始の3カ月後に行われたモリス水迷路。探査試行を最終隠れプラットフォーム訓練の24時間後に行っており;逆戻り訓練は、初期探査試行の24時間後に始まった。KDでのAPPマウスは、探査試行において差異を示さなかった。双方向比較のためのT試験及び多重比較のためのTukey補正を用いるANOVAを介するP値。研究の開始時の1遺伝子型食餌群当たりN=21~26;水迷路について1群当たりN=11~14。
【
図9g】長期ケトン食が、認知、並びに雄において生存を改善することを実証する図である。食餌の開始の3カ月後に行われたモリス水迷路。探査試行を最終隠れプラットフォーム訓練の24時間後に行っており;逆戻り訓練は、初期探査試行の24時間後に始まった。KDでのAPPマウスは、初期及び逆戻り訓練の両方で学習の改善を示した。双方向比較のためのT試験及び多重比較のためのTukey補正を用いるANOVAを介するP値。研究の開始時の1遺伝子型食餌群当たりN=21~26;水迷路について1群当たりN=11~14。
【
図9h】長期ケトン食が、認知、並びに雄において生存を改善することを実証する図である。食餌の開始の3カ月後に行われたモリス水迷路。探査試行を最終隠れプラットフォーム訓練の24時間後に行っており;逆戻り訓練は、初期探査試行の24時間後に始まった。KDでのAPPマウスは、探査試行において差異を示さなかった。双方向比較のためのT試験及び多重比較のためのTukey補正を用いるANOVAを介するP値。研究の開始時の1遺伝子型食餌群当たりN=21~26;水迷路について1群当たりN=11~14。
【
図10a】BHBに代謝される本明細書に記載されている化合物が、直ちにてんかん様スパイクを低減することを実証する図である。BHBにエステル連結されている中鎖脂肪酸を有する例示ケト原性化合物の模式図。
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図10b】BHBに代謝される本明細書に記載されている化合物が、直ちにてんかん様スパイクを低減することを実証する図である。マウス群に、C6-BHB及び規定生理食塩水の両方を異なる日に注射し、EEGで各注射の前後に記録した。C6-BHBの注射は、注射のおよそ70~80分後に(EEGに続いて)測定された血中BHBレベルを増加させた。
【
図10c】BHBに代謝される本明細書に記載されている化合物が、直ちにてんかん様スパイクを低減することを実証する図である。マウス群に、C6-BHB及び規定生理食塩水の両方を異なる日に注射し、EEGで各注射の前後に記録した。C6-BHBの注射は、注射前のベースライン及び生理食塩水の注射の両方と比較して、スパイクを低減している。
【
図10d】BHBに代謝される本明細書に記載されている化合物が、直ちにてんかん様スパイクを低減することを実証する図である。マウス群に、C6-BHB及び規定生理食塩水の両方を異なる日に注射し、EEGで各注射の前後に記録した。50分のEEG記録にわたる平均スパイクのプロットは、KDと同様、C6-BHB注射後の一貫性のある低減を示す。
【
図10e】BHBに代謝される本明細書に記載されている化合物が、直ちにてんかん様スパイクを低減することを実証する図である。マウス群に、C6-BHB及び規定生理食塩水の両方を異なる日に注射し、EEGで各注射の前後に記録した。C6-BHB後のスパイク低減の分析は、生理食塩水後と比較して、個々のマウスレベルでほとんどのマウスについて有意な低減を示す(黒丸、P<0.05;棒線=中央値)。
【
図10f】BHBに代謝される本明細書に記載されている化合物が、直ちにてんかん様スパイクを低減することを実証する図である。マウス群に、C6-BHB及び規定生理食塩水の両方を異なる日に注射し、EEGで各注射の前後に記録した。C6-BHBと生理食塩水注射との間のスパイクの差異は、KDと同様、マウスが静止している(ガンマ活性が最も低い)場合に最も際立った。双方向比較のためのT試験及び多重比較のためのTukey補正を用いるANOVAを介するP値。N=22、高品質データを有する全ての条件を完了した17匹のマウスに限定された分析。
【
図11】β-ヒドロキシブチレートのC6エステルの異なる濃度を含有する食品の経時的な摂取量を図示する図である。
【
図12】β-ヒドロキシブチレートのC6エステルの異なる量を含有する食品を経口摂取した後の経時的なマウスの体重減少を図示する図である。
【
図13】β-ヒドロキシブチレートのC6エステルの異なる量を含有する食品を給餌している間の経時的なマウスの血糖レベルを図示する図である。
【
図14】β-ヒドロキシブチレートのC6エステルの異なる量を有する食品をマウスに給餌した後の経時的なβ-ヒドロキシブチレートの血中濃度を図示する図である。
【
図15】ブタンジオール及びβ-ヒドロキシブチレートの異なるエステルを含有する食品の経時的な摂取量を図示する図である。
【
図16】ブタンジオール及びβ-ヒドロキシブチレートの異なるエステルが補充された食品組成物を給餌された場合の、経時的なマウスの体重の変化を図示する図である。
【
図17】ブタンジオール及びβ-ヒドロキシブチレートの異なるエステルが補充された食品を給餌している間の経時的なマウスの血糖レベルを図示する図である。
【
図18】ブタンジオール及びβ-ヒドロキシブチレートの異なるエステルを含有する食品をマウスに給餌した後の経時的なβ-ヒドロキシブチレートの血中濃度を図示する図である。
【
図19】対照食品を消費したマウス及びβ-ヒドロキシブチレートのC6エステルが補充された食品を消費したマウスの血漿β-ヒドロキシブチレート、血糖及びカロリー摂取量の比較を図示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
定義
本明細書で使用される場合、「処置」及び「処置すること」等という用語は、所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を得ることを指す。効果は、状態、疾患、病理プロセス又はその症状を完全又は部分的に防止する点から予防であってよく、並びに/或いは状態、疾患、病理プロセス、及び/又は状態、疾患若しくは病理プロセスに起因しうる有害作用のための部分的又は完全な治癒の点から治療であってよい。「処置」は、本明細書で使用される場合、哺乳動物における、特にヒトにおける状態、疾患又は病理プロセスの任意の処置を含み、以下を含む: (a)状態、疾患又は病理プロセスに罹りやすくあり得るが、それを有するとまだ診断されていない対象に、状態、疾患又は病理プロセスが生じるのを防止すること; (b)状態又は疾患を阻害すること、即ち、それの発症を阻止すること;及び(c)状態、疾患又は病理プロセスを軽減すること即ち、状態、疾患又は病理プロセスの退行を引き起こすこと。
【0011】
本明細書において相互交換可能に使用される「個体」、「対象」、「宿主」及び「患者」という用語は、以下に限定されないが、ネズミ科動物(ラット、マウス)、非ヒト霊長類、ヒト、イヌ科動物、ネコ科動物、有蹄動物(例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ)等を含めて、哺乳動物を指す。
【0012】
「治療有効量」又は「効力のある量」は、疾患を処置するために哺乳動物又は他の対象に投与される場合に、疾患のためのこうした処置を達成するのに十分である化合物量を指す。「治療有効量」は、化合物又は細胞、疾患及びそれの重症度、並びに処置されるべき対象の年齢、体重等に依存して変動する。
【0013】
「同時投与」及び「との組合せで」という用語は、特定の時間制限なく同時に、並行して又は逐次にいずれかでの2種以上の治療剤の投与を含む。一実施形態において、該薬剤は、細胞中若しくは対象身体中に同時に存在するか、又はそれらの生物学的若しくは治療的効果を同時に発揮する。一実施形態において、該治療剤は、同じ組成物又は単位剤形中にある。他の実施形態において、該治療剤は、別々の組成物又は単位剤形中にある。ある特定の実施形態において、第1の薬剤は、第2の治療剤の投与の前に(例えば、数分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週、2週、3週、4週、5週、6週、8週又は12週前に)、同時に、又は後続して(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週、2週、3週、4週、5週、6週、8週又は12週後に)投与することができる。
【0014】
本明細書で使用される場合、「医薬組成物」は、哺乳動物、殊にヒト等の対象への投与に適当な組成物を包含すると意味される。一般に、「医薬組成物」は滅菌であり、対象内において望ましくない応答を導出できる異物がない(例えば、医薬組成物中の該化合物は医薬グレードである)。医薬組成物は、経口、頬側、直腸、非経口、腹腔内、皮内及び気管内等を含めて、多数の異なる投与経路を介して、それを必要とする対象又は患者への投与のために設計することができる。一部の実施形態において、該組成物は、ジメチルスルホキシド(DMSO)以外の浸透増強剤を使用する、経皮経路による投与に適当である。他の実施形態において、該医薬組成物は、経皮投与以外の経路による投与に適当である。医薬組成物は、一部の実施形態において、対象化合物及び薬学的に許容される賦形剤を含む。一部の実施形態において、薬学的に許容される賦形剤は、DMSO以外である。
【0015】
本明細書で使用される場合、本発明の化合物の「薬学的に許容される誘導体」としては、その塩、エステル、エノールエーテル、エノールエステル、アセタール、ケタール、オルトエステル、ヘミアセタール、ヘミケタール、酸、塩基、溶媒和物、水和物又はプロドラッグが挙げられる。こうした誘導体は、こうした誘導体化のための公知の方法を使用して、当業者によって容易に調製することができる。生成された化合物は、実質的な毒性効果なく動物又はヒトに投与することができ、薬学的に活性である又はプロドラッグであるのいずれかである。
【0016】
化合物の「薬学的に許容される塩」は、薬学的に許容される塩及び親化合物の所望の薬理活性を所有する塩を意味する。こうした塩としては、以下が挙げられる: (1)無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸及びリン酸等で形成される;又は有機酸、例えば酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、3-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、グルコヘプタン酸、4,4'-メチレンビス-(3-ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸)、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、第3級ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸及びムコン酸等で形成される酸付加塩;或いは(2)親化合物中に存在する酸性プロトンが、金属イオン、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類イオン若しくはアルミニウムイオンによって置き換えられる;又は有機塩基、例えばエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン及びN-メチルグルカミン等と配位するいずれかである場合に形成される塩。
【0017】
「活性薬剤」は、薬理学的作用を発揮するとともに本明細書に記載されている通りの1つ又は複数の状態/病弊(例えば、アルツハイマー病)を処置する、防止する又は軽快させることができる化学物質又は化合物を指す。興味対象の活性薬剤の例としては、脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物(例えば、β-ヒドロキシブチレートの脂肪酸エステル)及びブタンジオールの脂肪酸エステルが挙げられる。
【0018】
「プロドラッグ」は、活性薬剤を放出するために身体内での転換を必要とする活性薬剤の誘導体を指す。ある特定の実施形態において、転換は酵素転換である。プロドラッグは頻繁に、必ずではないが、活性薬剤に変換されるまで薬理学的に不活性である。
【0019】
選択化学用語法の定義
ある特定の化合物又は置換基の名称は、以下に限定されないが、Loudon、Organic Chemistry、第4版、New York: Oxford University Press、2002、360~361頁、1084~1085; Smith及びMarch、March's Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms, and Structure、第5版、Wiley-Interscience、2001を含めた化学文献等に記載されている、それらの従来の意味において使用される。
【0020】
本明細書で使用される場合、「アルキル」という用語は、それ自体で又は別の置換基の一部として、親アルカンの単一炭素原子から1個の水素原子の除去によって誘導される飽和の分岐又は直鎖の一価炭化水素基を指す。典型的なアルキル基としては、以下に限定されないが、メチル;エチル、プロピル、例えばプロパン-1-イル又はプロパン-2-イル;及びブチル、例えばブタン-1-イル、ブタン-2-イル、2-メチル-プロパン-1-イル又は2-メチル-プロパン-2-イルが挙げられる。一部の実施形態において、アルキル基は、1個から20個の炭素原子を含む。他の実施形態において、アルキル基は、1個から10個の炭素原子を含む。また他の実施形態において、アルキル基は、1個から6個の炭素原子、例えば1個から4個の炭素原子を含む。
【0021】
「アルカニル」は、それ自体で又は別の置換基の一部として、アルカンの単一炭素原子から1個の水素原子の除去によって誘導される飽和の分岐、直鎖又は環式アルキル基を指す。典型的なアルカニル基としては、以下に限定されないが、メタニル;エタニル;プロパニル、例えばプロパン-1-イル、プロパン-2-イル(イソプロピル)、シクロプロパン-1-イル等;ブタニル、例えばブタン-1-イル、ブタン-2-イル(sec-ブチル)、2-メチル-プロパン-1-イル(イソブチル)、2-メチル-プロパン-2-イル(t-ブチル)、シクロブタン-1-イル等;等が挙げられる。
【0022】
「アルキレン」は、通常1個から40個の炭素原子、より通常には1個から10個の炭素原子、いっそう通常には1個から6個の炭素原子を有する分岐又は非分岐の飽和炭化水素鎖を指す。この用語は、メチレン(-CH2-)、エチレン(-CH2CH2-)、プロピレン異性体(例えば、-CH2CH2CH2-及び-CH(CH3)CH2-)等の基によって例証される。
【0023】
「アルケニル」は、それ自体で又は別の置換基の一部として、アルケンの単一炭素原子から1個の水素原子の除去によって誘導される少なくとも1個の炭素-炭素二重結合を有する不飽和の分岐、直鎖又は環式アルキル基を指す。該基は、二重結合についてシス又はトランス立体配座のいずれかであり得る。典型的なアルケニル基としては、以下に限定されないが、エテニル;プロペニル、例えばプロパ-1-エン-1-イル、プロパ-1-エン-2-イル、プロパ-2-エン-1-イル(アリル)、プロパ-2-エン-2-イル、シクロプロパ-1-エン-1-イル;シクロプロパ-2-エン-1-イル;ブテニル、例えばブタ-1-エン-1-イル、ブタ-1-エン-2-イル、2-メチル-プロパ-1-エン-1-イル、ブタ-2-エン-1-イル、ブタ-2-エン-1-イル、ブタ-2-エン-2-イル、ブタ-1,3-ジエン-1-イル、ブタ-1,3-ジエン-2-イル、シクロブタ-1-エン-1-イル、シクロブタ-1-エン-3-イル、シクロブタ-1,3-ジエン-1-イル等;等が挙げられる。
【0024】
「アルキニル」は、それ自体で又は別の置換基の一部として、アルキンの単一炭素原子から1個の水素原子の除去によって誘導される少なくとも1個の炭素-炭素三重結合を有する不飽和の分岐、直鎖又は環式アルキル基を指す。典型的なアルキニル基としては、以下に限定されないが、エチニル;プロピニル、例えばプロパ-1-イン-1-イル、プロパ-2-イン-1-イル等;ブチニル、例えばブタ-1-イン-1-イル、ブタ-1-イン-3-イル、ブタ-3-イン-1-イル等;等が挙げられる。
【0025】
「アシル」は、それ自体で又は別の置換基の一部として、-C(O)R30基を指し、ここでR30は、水素、本明細書において定義されている通りのアルキル、シクロアルキル、シクロヘテロアルキル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアルキル、ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、及びその置換体である。代表例としては、以下に限定されないがホルミル、アセチル、シクロヘキシルカルボニル、シクロヘキシルメチルカルボニル、ベンゾイル、ベンジルカルボニル、ピペロニル、スクシニル及びマロニル等が挙げられる。
【0026】
「アミノアシル」という用語は、-C(O)NR21R22基を指し、ここでR21及びR22は独立して、水素、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、シクロアルキル、置換シクロアルキル、シクロアルケニル、置換シクロアルケニル、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、複素環式及び置換複素環式からなる群から選択され、R21及びR22は任意選択により、それらに結合している窒素と一緒になって複素環式基又は置換複素環式基を形成し、ここで、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、シクロアルケニル、置換シクロアルケニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、複素環式及び置換複素環式は、本明細書において定義されている通りである。
【0027】
「アルコキシ」は、それ自体で又は別の置換基の一部として、-OR31基を指し、ここでR31は、本明細書において定義されている通りのアルキル基又はシクロアルキル基を表す。代表例としては、以下に限定されないが、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ及びシクロヘキシルオキシ等が挙げられる。
【0028】
「アルコキシカルボニル」は、それ自体で又は別の置換基の一部として、-C(O)OR31基を指し、ここでR31は、本明細書において定義されている通りのアルキル基又はシクロアルキル基を表す。代表例としては、以下に限定されないが、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル及びシクロヘキシルオキシカルボニル等が挙げられる。
【0029】
「アリール」は、それ自体で又は別の置換基の一部として、芳香族環系の単一炭素原子から1個の水素原子の除去によって誘導される一価の芳香族炭化水素基を指す。典型的なアリール基としては、以下に限定されないが、アセアントリレン、アセナフチレン、アセフェナントリレン、アントラセン、アズレン、ベンゼン、クリセン、コロネン、フルオランテン、フルオレン、ヘキサセン、ヘキサフェン、ヘキサレン、as-インダセン、s-インダセン、インダン、インデン、ナフタレン、オクタセン、オクタフェン、オクタレン、オバレン、ペンタ-2,4-ジエン、ペンタセン、ペンタレン、ペンタフェン、ペリレン、フェナレン、フェナントレン、ピセン、プレイアデン、ピレン、ピラントレン、ルビセン、トリフェニレン及びトリナフタレン等から誘導される基が挙げられる。ある特定の実施形態において、アリール基は、6個から20個の炭素原子を含む。ある特定の実施形態において、アリール基は、6個から12個の炭素原子を含む。アリール基の例はフェニル及びナフチルである。
【0030】
「アリールアルキル」は、それ自体で又は別の置換基の一部として、炭素原子、典型的に末端又はsp3炭素原子に結合している水素原子の1個がアリール基と置き換えられている非環式アルキル基を指す。典型的なアリールアルキル基としては、以下に限定されないが、ベンジル、2-フェニルエタン-1-イル、2-フェニルエテン-1-イル、ナフチルメチル、2-ナフチルエタン-1-イル、2-ナフチルエテン-1-イル、ナフトベンジル及び2-ナフトフェニルエタン-1-イル等が挙げられる。特定のアルキル部分が意図される場合、アリールアルカニル、アリールアルケニル及び/又はアリールアルキニルという名称が使用される。ある特定の実施形態において、アリールアルキル基は、(C7~C30)アリールアルキルであり、例えば、アリールアルキル基のアルカニル部分、アルケニル部分又はアルキニル部分は(C1~C10)であり、アリール部分は(C6~C20)である。ある特定の実施形態において、アリールアルキル基は(C7~C20)アリールアルキルであり、例えば、アリールアルキル基のアルカニル部分、アルケニル部分又はアルキニル部分は(C1~C8)であり、アリール部分は(C6~C12)である。
【0031】
「アリールアリール」は、それ自体で又は別の置換基の一部として、2つ以上の同一又は非同一の芳香族環系が互いに直接、単結合している環系の単一炭素原子から1個の水素原子の除去によって誘導される一価炭化水素基を指し、ここで、こうした直接的環接合部の数は、関与する芳香族環系の数より少ない数である。典型的なアリールアリール基としては、以下に限定されないが、ビフェニル、トリフェニル、フェニル-ナフチル、ビナフチル及びビフェニル-ナフチル等が挙げられる。アリールアリール基における炭素原子の数が特定されている場合、該数は、各芳香族環を構成する炭素原子を指す。例えば、(C5~C14)アリールアリールは、各芳香族環が5個から14個の炭素を含むアリールアリール基、例えば、ビフェニル、トリフェニル、ビナフチル、フェニルナフチル等である。ある特定の実施形態において、アリールアリール基の各芳香族環系は独立して(C5~C14)芳香族である。ある特定の実施形態において、アリールアリール基の各芳香族環系は独立して(C5~C10)芳香族である。ある特定の実施形態において、各芳香族環系は同一であり、例えば、ビフェニル、トリフェニル、ビナフチル、トリナフチル等である。
【0032】
「シクロアルキル」は、それ自体で又は別の置換基の一部として、飽和又は不飽和の環式アルキル基を指す。特定レベルの飽和が意図される場合、「シクロアルカニル」又は「シクロアルケニル」という名称が使用される。典型的なシクロアルキル基としては、以下に限定されないが、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン及びシクロヘキサン等から誘導される基が挙げられる。ある特定の実施形態において、シクロアルキル基は(C3~C10)シクロアルキルである。ある特定の実施形態において、シクロアルキル基は(C3~C7)シクロアルキルである。
【0033】
「シクロヘテロアルキル」又は「ヘテロシクリル」は、それ自体で又は別の置換基の一部として、1個又は複数の炭素原子(及び任意の関連水素原子)が独立して同じ又は異なるヘテロ原子と置き換えられている飽和又は不飽和の環式アルキル基を指す。炭素原子に置き換わるための典型的なヘテロ原子としては、以下に限定されないが、N、P、O、S、Si等が挙げられる。特定レベルの飽和が意図される場合、「シクロヘテロアルカニル」又は「シクロヘテロアルケニル」という名称が使用される。典型的なシクロヘテロアルキル基としては、以下に限定されないが、エポキシド、アジリン、チイラン、イミダゾリジン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、ピラゾリジン、ピロリジン及びキヌクリジン等から誘導される基が挙げられる。
【0034】
「ヘテロアルキル、ヘテロアルカニル、ヘテロアルケニル及びヘテロアルキニル」は、それら自体で又は別の置換基の一部として、それぞれ、炭素原子の1個又は複数(及び任意の関連水素原子)が独立して同じ又は異なるヘテロ原子基と置き換えられているアルキル基、アルカニル基、アルケニル基及びアルキニル基を指す。これらの基に含まれ得る典型的なヘテロ原子基としては、以下に限定されないが、-O-、-S-、-S-S-、-O-S-、-NR37R38-、.=N-N=、-N=N-、-N=N-NR39R40、-PR41-、-P(O)2-、-POR42-、-O-P(O)2-、-S-O-、-S-(O)-、-SO2-及び-SnR43R44-等が挙げられ、ここでR37、R38、R39、R40、R41、R42、R43及びR44は独立して、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、シクロヘテロアルキル、置換シクロヘテロアルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル又は置換ヘテロアリールアルキルである。
【0035】
「ヘテロアリール」は、それ自体で又は別の置換基の一部として、ヘテロ芳香族環系の単一原子から1個の水素原子の除去によって誘導される一価複素芳香族基を指す。典型的なヘテロアリール基としては、以下に限定されないが、アクリジン、アルシンドール、カルバゾール、β-カルボリン、クロマン、クロメン、シンノリン、フラン、イミダゾール、インダゾール、インドール、インドリン、インドリジン、イソベンゾフラン、イソクロメン、イソインドール、イソインドリン、イソキノリン、イソチアゾール、イソオキサゾール、ナフチリジン、オキサジアゾール、オキサゾール、ペリミジン、フェナントリジン、フェナントロリン、フェナジン、フタラジン、プテリジン、プリン、ピラン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピリミジン、ピロール、ピロリジン、キナゾリン、キノリン、キノリジン、キノキサリン、テトラゾール、チアジアゾール、チアゾール、チオフェン、トリアゾール、キサンテン及びベンゾジオキソール等から誘導される基が挙げられる。ある特定の実施形態において、ヘテロアリール基は、5~20員のヘテロアリールである。ある特定の実施形態において、ヘテロアリール基は、5~10員のヘテロアリールである。ある特定の実施形態において、ヘテロアリール基は、チオフェン、ピロール、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、インドール、ピリジン、キノリン、イミダゾール、オキサゾール及びピラジンから誘導されるものである。
【0036】
「ヘテロアリールアルキル」は、それ自体で又は別の置換基の一部として、炭素原子、典型的に末端又はsp3炭素原子に結合している水素原子の1個がヘテロアリール基と置き換えられている非環式アルキル基を指す。特定のアルキル部分が意図される場合、ヘテロアリールアルカニル、ヘテロアリールアルケニル及び/又はヘテロアリールアルキニルという名称が使用される。ある特定の実施形態において、ヘテロアリールアルキル基は、6~30員のヘテロアリールアルキルであり、例えば、ヘテロアリールアルキルのアルカニル部分、アルケニル部分又はアルキニル部分は1~10員であり、ヘテロアリール部分は5~20員のヘテロアリールである。ある特定の実施形態において、ヘテロアリールアルキル基は6~20員のヘテロアリールアルキルであり、例えば、ヘテロアリールアルキルのアルカニル部分、アルケニル部分又はアルキニル部分は1~8員であり、ヘテロアリール部分は5~12員のヘテロアリールである。
【0037】
「芳香族環系」は、それ自体で又は別の置換基の一部として、共役π電子系を有する不飽和の環式又は多環式の環系を指す。「芳香族環系」の定義に具体的に含まれるのは、例えば、フルオレン、インダン、インデン、フェナレン等、環の1個又は複数が芳香族であるとともに環の1個又は複数が飽和又は不飽和である縮合環系である。典型的な芳香族環系としては、以下に限定されないが、アセアントリレン、アセナフチレン、アセフェナントリレン、アントラセン、アズレン、ベンゼン、クリセン、コロネン、フルオランテン、フルオレン、ヘキサセン、ヘキサフェン、ヘキサレン、as-インダセン、s-インダセン、インダン、インデン、ナフタレン、オクタセン、オクタフェン、オクタレン、オバレン、ペンタ-2,4-ジエン、ペンタセン、ペンタレン、ペンタフェン、ペリレン、フェナレン、フェナントレン、ピセン、プレイアデン、ピレン、ピラントレン、ルビセン、トリフェニレン及びトリナフタレン等が挙げられる。
【0038】
「ヘテロ芳香族環系」は、それ自体で又は別の置換基の一部として、1個又は複数の炭素原子(及び任意の関連水素原子)が独立して、同じ又は異なるヘテロ原子と置き換えられている芳香族環系を指す。炭素原子に置き換わるための典型的なヘテロ原子としては、以下に限定されないが、N、P、O、S、Si等が挙げられる。「ヘテロ芳香族環系」の定義内に具体的に含まれるのは、例えば、アルシンドール、ベンゾジオキサン、ベンゾフラン、クロマン、クロメン、インドール、インドリン、キサンテン等、環の1個又は複数が芳香族であるとともに環の1個又は複数が飽和又は不飽和である縮合環系である。典型的なヘテロ芳香族環系としては、以下に限定されないが、アルシンドール、カルバゾール、β-カルボリン、クロマン、クロメン、シンノリン、フラン、イミダゾール、インダゾール、インドール、インドリン、インドリジン、イソベンゾフラン、イソクロメン、イソインドール、イソインドリン、イソキノリン、イソチアゾール、イソオキサゾール、ナフチリジン、オキサジアゾール、オキサゾール、ペリミジン、フェナントリジン、フェナントロリン、フェナジン、フタラジン、プテリジン、プリン、ピラン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピリミジン、ピロール、ピロリジン、キナゾリン、キノリン、キノリジン、キノキサリン、テトラゾール、チアジアゾール、チアゾール、チオフェン、トリアゾール及びキサンテン等が挙げられる。
【0039】
「置換されている」は、1個又は複数の水素原子が独立して、同じ又は異なる置換基で置き換えられている基を指す。典型的な置換基としては、以下に限定されないが、アルキレンジオキシ(メチレンジオキシ等)、-M、-R60、-O-、=O、-OR60、-SR60、-S-、=S、-NR60R61、=NR60、-CF3、-CN、-OCN、-SCN、-NO、-NO2、=N2、-N3、-S(O)2O-、-S(O)2OH、-S(O)2R60、-OS(O)2O-、-OS(O)2R60、-P(O)(O-)2、-P(O)(OR60)(O-)、-OP(O)(OR60)(OR61)、-C(O)R60、-C(S)R60、-C(O)OR60、-C(O)NR60R61,-C(O)O-、-C(S)OR60、-NR62C(O)NR60R61、-NR62C(S)NR60R61、-NR62C(NR63)NR60R61及び-C(NR62)NR60R61が挙げられ、ここで、Mはハロゲンであり; R60、R61、R62及びR63は独立して水素、アルキル、置換アルキル、アルコキシ、置換アルコキシ、シクロアルキル、置換シクロアルキル、シクロヘテロアルキル、置換シクロヘテロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール若しくは置換ヘテロアリールであるか、又は任意選択によりR60及びR61は、それらが結合している窒素原子と一緒に、シクロヘテロアルキル環又は置換シクロヘテロアルキル環を形成し; R64及びR65は独立して、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、シクロアルキル、置換シクロアルキル、シクロヘテロアルキル、置換シクロヘテロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール若しくは置換ヘテロアリールであるか、又は任意選択によりR64及びR65は、それらが結合している窒素原子と一緒に、シクロヘテロアルキル環又は置換シクロヘテロアルキル環を形成する。ある特定の実施形態において、置換基としては、-M、-R60、=O、-OR60、-SR60、-S-、=S、-NR60R61、=NR60、-CF3、-CN、-OCN、-SCN、-NO、-NO2,=N2、-N3、-S(O)2R60、-OS(O)2O-、-OS(O)2R60、-P(O)(O-)2、-P(O)(OR60)(O-)、-OP(O)(OR60)(OR61)、-C(O)R60、-C(S)R60、-C(O)OR60、-C(O)NR60R61、-C(O)O-、-NR62C(O)NR60R61が挙げられる。ある特定の実施形態において、置換基としては、-M、-R60、=O、-OR60、-SR60、-NR60R61、-CF3、-CN、-NO2、-S(O)2R60、-P(O)(OR60)(O-)、-OP(O)(OR60)(OR61)、-C(O)R60、-C(O)OR60、-C(O)NR60R61、-C(O)O-が挙げられる。ある特定の実施形態において、置換基としては、-M、-R60、=O、-OR60、-SR60、-NR60R61、-CF3、-CN、-NO2、-S(O)2R60、-OP(O)(OR60)(OR61)、-C(O)R60、-C(O)OR60、-C(O)O-が挙げられ、ここでR60、R61及びR62は、上記で定義されている通りである。例えば、置換されている基は、メチレンジオキシ置換基、又はハロゲン原子、(1~4C)アルキル基及び(1~4C)アルコキシ基から選択される1個、2個若しくは3個の置換基を保有してよい。
【0040】
本明細書に記載されている化合物は、1個又は複数のキラル中心及び/又は二重結合を含有することができ、そのため、立体異性体、例えば二重結合異性体(即ち、幾何異性体)、エナンチオマー又はジアステレオマーとして存在し得る。したがって、立体異性的に純粋な形態(例えば、幾何学的に純粋、エナンチオマー的に純粋又はジアステレオマー的に純粋)並びにエナンチオマー混合物及び立体異性混合物を含めて、該化合物の全ての可能なエナンチオマー及び立体異性体は、本明細書において該化合物の記載に含まれる。エナンチオマー混合物及び立体異性混合物は、熟練技術者によく知られている分離技術又はキラル合成技法を使用して、それらの成分エナンチオマー又は立体異性体に分割することができる。該化合物は、エノール形態、ケト形態及びその混合物を含めて、いくつかの互変異性体形態で存在することもできる。したがって、本明細書において図示されている化学構造は、例示されている化合物の全ての可能な互変異性体形態を包含する。記載されている化合物は、1個又は複数の原子が、自然界で従来見出された原子質量と異なる原子質量を有する同位体標識化化合物を含むこともできる。本明細書において開示されている化合物に組み込むことができる同位体の例としては、以下に限定されないが、2H、3H、11C、13C、14C、15N、18O、17O等が挙げられる。化合物は、非溶媒和形態、並びに水和化形態を含めた溶媒和形態で存在し得る。一般に、化合物は水和又は溶媒和され得る。ある特定の化合物は、多重結晶性形態又は非晶質形態で存在し得る。一般に、全ての物理的形態は、本明細書において企図されている使用について同等であり、本開示の範疇内にあると意図される。
【0041】
本発明が更に記載される前に、この発明は記載されている特別な実施形態に限定されず、それ自体が当然変動し得ると理解されるべきである。本発明の範疇は添付の請求項だけによって限定されるため、本明細書において使用されている用語法は、特別な実施形態を記載するという目的のためだけであり、限定されると意図されないことも理解されるべきである。
【0042】
ある範囲の値が提供されている場合、その範囲の上限から下限の間の、別段に文脈が明らかに指示していない限り下限の単位の10分の1までの各介入値、及びその規定範囲における任意の他の規定値又は介入値は、本発明内に包含されると理解される。これらの小さい方の範囲の上限及び下限は、小さい方の範囲に独立して含まれてよく、規定範囲における任意の具体的に除外された限度に依って、本発明内にも包含される。規定範囲が限度の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる限度のいずれか又は両方を除外する範囲も、本発明に含まれる。
【0043】
別段に定義されていない限り、本明細書において使用されている全ての技術的及び科学的用語は、この発明が属する当業者によって共通して理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと同様又は同等の任意の方法及び材料も本発明の実践又は試験において使用することができるが、好ましい方法及び材料がここで記載されている。本明細書において記述されている全ての公報は、公報が引用されていることに関連した方法及び/又は材料を開示及び記載するために、参照により本明細書に組み込まれる。
【0044】
本明細書及び添付の請求項において使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、別段に文脈が明らかに指示していない限り複数の参照対象を含むことが留意されなければならない。このように、この記述は、請求項要素の列挙又は「否定的」制限の使用に関連して、「のみ」及び「だけ」等のような排他的な用語法の使用のための先行する根拠として働くと意図される。
【0045】
明確にするために別々の実施形態の文脈に記載されている本発明のある特定の特色は、単一の実施形態において組み合わせて提供されていることもあることが理解される。逆に、簡略のために単一の実施形態の文脈に記載されている本発明の様々な特色は、別々に又は任意の適当な副次的組合せにおいて提供されることもある。本発明に関する実施形態の全ての組合せは、本発明によって具体的に包含され、各々及びあらゆる組合せがあたかも個々に及び明白に開示されているかのように本明細書に開示される。加えて、各種実施形態及びその要素の全ての副次的組合せも、本発明によって具体的に包含され、各々及びあらゆるこうした副次的組合せが本明細書においてまさに個々に及び明白に開示されているかのように本明細書に開示される。
【0046】
本明細書において考察されている公報は、本出願の出願日の前のそれらの開示についてのみ提供される。本明細書において、本発明がこうした公報に先行する権利が与えられていないという承認として解釈されることは何もない。更に、提供されている公報の日付は、実際の公開日と異なることがあり、これは、独立して確認される必要があり得る。
【0047】
詳細な記載
本開示は、脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物(例えば、β-ヒドロキシブチレートの脂肪酸エステル)、ブタンジオールの脂肪酸エステル、及びその薬学的に許容される塩を提供する。その上、1種又は複数の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及び/又はブタンジオールの1種又は複数の脂肪酸エステルを有する医薬組成物が提供される。
【0048】
本開示は、1種若しくは複数の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及び/又はブタンジオールの1種若しくは複数のエステルを対象に投与することによって、対象を処置するための方法を更に提供する。一部の実施形態において、方法は、本明細書に記載されている1種若しくは複数の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及び/又は本明細書に記載されているブタンジオールの1種若しくは複数のエステルを対象に投与することによって、アルツハイマー病を有すると診断された対象におけるアルツハイマー病を処置することを含む。一部の例において、対象に投与される脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物の1種若しくは複数及び/又はブタンジオールの1種若しくは複数のエステルの量は、対象におけるてんかん活性を低減するのに十分である。ある特定の例において、対象に投与される1種若しくは複数の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及び/又はブタンジオールの1種若しくは複数のエステルの量は、対象における認知を増加させるのに十分である。
【0049】
本開示は、本明細書に記載されている脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物の1種若しくは複数及び/又は本明細書に記載されているブタンジオールのエステルの1種若しくは複数を対象に投与することによって、てんかん、パーキンソン病、心不全、外傷性脳損傷、脳卒中、出血性ショック、輸液蘇生後の急性肺損傷、急性腎臓損傷、心筋梗塞、心筋虚血、糖尿病、多形神経膠芽腫、糖尿病性ニューロパチー、前立腺がん、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、皮膚T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、末梢T細胞リンパ腫、HIV、ニーマン・ピック病C型、年齢関連性黄斑変性、痛風、アテローム動脈硬化症、関節リウマチ及び多発性硬化症のうちの1つ又は複数を処置するための方法を更に提供する。
【0050】
本開示は、その投与が対象におけるケトン体濃度の増加を提供する化合物も提供する。本明細書に記載されている通りの脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物(例えば、β-ヒドロキシブチレートの脂肪酸エステル)及びブタンジオールの脂肪酸エステルは、エステル加水分解を介して、対象におけるケトン体濃度及び対象によるケトン体産生の維持を提供する中鎖脂肪酸の補足的な供給源を増加させるβ-ヒドロキシブチレート又はブタンジオールを放出する。一部の実施形態において、本開示は、投与後にβ-ヒドロキシブチレート及び中鎖脂肪酸に加水分解するβ-ヒドロキシブチレートの脂肪酸エステルを提供する。これらの実施形態において、β-ヒドロキシブチレートの放出は、対象におけるケトン体濃度の増加を提供し、加水分解された中鎖脂肪酸は、ケトン体の生理的産生の維持のための基質を提供する。他の実施形態において、本開示は、投与後にブタンジオール及び中鎖脂肪酸に加水分解するブタンジオールの脂肪酸エステルを提供する。これらの実施形態において、ブタンジオールの放出は、対象におけるケトン体産生の増加を提供し、加水分解された中鎖脂肪酸は、ケトン体の生理的産生の維持のための追加の基質を提供する。
【0051】
脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及びブタンジオールの脂肪酸エステル
対象方法(より詳細に下で記載されている)を実践するのに適当な脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及びブタンジオールの脂肪酸エステルとしては、下に記載されている通りの式I及びIIの化合物が挙げられる。
【0052】
式I及びIIの化合物
本開示の組成物は、下記に示されている式I及びIIの化合物を含む。本開示の医薬組成物及び方法は、式I及びIIの化合物も企図する。
【0053】
それの組成物態様の1つにおいて、本実施形態は、式I:
【0054】
【0055】
(式中、
R1は、水素、アルキル及び置換アルキルから選択され;
R2及びR3は、独立して非置換又は置換のアルキルである)
の化合物、及びその塩、溶媒和物又は水和物を提供する。
【0056】
式Iにおいて、R1は、水素、アルキル及び置換アルキルから選択される。ある特定の例において、R1は水素である。他の例において、R1はアルキルである。他の例において、R1は置換アルキルである。ある特定の例において、R1は、C1~C3アルキルを含めて、C1~C6アルキル等のアルキルである。ある特定の例において、R1は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、iso-ブチル又はt-ブチルである。ある特定の例において、R1はメチルである。
【0057】
式Iにおいて、R2は、アルキル及び置換アルキルから選択される。ある特定の例において、R2はアルキルである。他の例において、R2は置換アルキルである。ある特定の例において、R2は、C6~C8アルキルを含めて、C4~C30アルキル等のアルキルである。ある特定の例において、R2は、ヘキシル又はオクチル(C6又はC8)である。ある特定の例において、R2はヘキシル(C6)である。ある特定の例において、R2はオクチル(C8)である。
【0058】
式Iにおいて、R3は、アルキル及び置換アルキルから選択される。ある特定の例において、R3は、アルキルである。他の例において、R3は置換アルキルである。ある特定の例において、R3は、C6~C8アルキルを含めて、C4~C30アルキル等のアルキルである。ある特定の例において、R3は、ヘキシル又はオクチル(C6又はC8)である。ある特定の例において、R3はヘキシル(C6)である。ある特定の例において、R3はオクチル(C8)である。
【0059】
ある特定の実施形態による式Iにおいて、R1はメチルであり、R2及びR3は独立してヘキシルである。ある特定の例において、R1はメチルであり、R2及びR3は独立してオクチルである。他の例において、R1はメチルであり、R2はヘキシルであり、R3はオクチルである。他の例においてR1はメチルであり、R2はオクチルであり、R3はヘキシルである。
【0060】
ある特定の実施形態において、興味対象の1,3-ブタンジオールの脂肪酸エステルは、エナンチオマー的に純粋である(<95% ee)。1,3-ブタンジオールはアルコールデヒドロゲナーゼ及びアルデヒドデヒドロゲナーゼによってBHBに代謝される。アルコールデヒドロゲナーゼ及びアルデヒドデヒドロゲナーゼは、共に1'ヒドロキシル基に作用し、3'基のキラリティーに特異的でない。そのため、これらの酵素によって、R-1,3-ブタンジオールはR-BHBに代謝され、S-1,3-ブタンジオールはS-BHBに代謝される。
【0061】
この出願書に記載されている化合物は、1種若しくは複数の脂肪酸にエステル連結されている1,3-ブタンジオール又は1種若しくは複数の脂肪酸にエステル連結されているBHBを含む。該化合物はキラルであるが、なぜならば1,3-ブタンジオール及びBHB部分がキラルであるからである。しかしながら、脂肪酸部分は、上に記載されているベータ-ヒドロキシブチレートデヒドロゲナーゼの立体特異性により、体内においてR-BHBにだけ代謝され得ることを留意することは重要である。そのため、脂肪酸に連結されているS-BHBを含む化合物は、最終的に、S-BHBの1つの単位を発生させるが、R-BHBのいくつかの単位も発生させる。ある特定の実施形態において、本明細書に記載されている化合物はいずれも、体内において完全に代謝された場合に、排他的にS-BHBを発生することがない。
【0062】
ある特定の実施形態において、R-BHBとS-BHBとの間の代謝の差異は、ヒト疾患を処置する際のそれらの相対的効力にとって重要である。上に記載されている通り、R-BHBだけがアセチル-CoA及びATPに容易に代謝され得、BHBの「エネルギー通貨」機能を果たす。疾患を処置する際の効力がBHBのこのエネルギー機能に基づいているならば、R-BHBはS-BHBよりも実質的に有効である。しかしながら、一部の例において、一部のヒト疾患におけるBHBの効力は、エネルギー機能よりはむしろBHBのシグナル伝達機能に依拠し得る。興味対象のシグナル伝達機能のいくつかとしては、以下に限定されないが、HCAR2阻害、インフラマソーム阻害及びデアセチラーゼ酵素の阻害が挙げられ得る。S-BHBがR-BHBと同様の分子効果を有するこれらの実施形態において、S-BHBのより遅い代謝は、体内においてより長い作用持続時間を提供することができる。
【0063】
別の組成物態様において、本実施形態は、式Ia:
【0064】
【0065】
(式中、
R1は、水素、アルキル及び置換アルキルから選択され;
R2及びR3は、独立して非置換又は置換のアルキルである)
の化合物、及びその塩、溶媒和物又は水和物を提供する。
【0066】
式Iaにおいて、R1は、水素、アルキル及び置換アルキルから選択される。ある特定の例において、R1は水素である。他の例において、R1はアルキルである。他の例において、R1は置換アルキルである。ある特定の例において、R1は、C1~C3アルキルを含めて、C1~C6アルキル等のアルキルである。ある特定の例において、R1は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、iso-ブチル又はt-ブチルである。ある特定の例において、R1はメチルである。
【0067】
式Iaにおいて、R2は、アルキル及び置換アルキルから選択される。ある特定の例において、R2はアルキルである。他の例において、R2は置換アルキルである。ある特定の例において、R2は、C6~C8アルキルを含めて、C4~C30アルキル等のアルキルである。ある特定の例において、R2は、ヘキシル又はオクチル(C6又はC8)である。ある特定の例において、R2はヘキシル(C6)である。ある特定の例において、R2はオクチル(C8)である。
【0068】
式Iaにおいて、R3は、アルキル及び置換アルキルから選択される。ある特定の例において、R3はアルキルである。他の例において、R3は置換アルキルである。ある特定の例において、R3は、C6~C8アルキルを含めて、C4~C30アルキル等のアルキルである。ある特定の例において、R3は、ヘキシル又はオクチル(C6又はC8)である。ある特定の例において、R3はヘキシル(C6)である。ある特定の例において、R3はオクチル(C8)である。
【0069】
ある特定の実施形態による式Iaにおいて、R1はメチルであり、R2及びR3は、独立してヘキシルである。ある特定の例において、R1はメチルであり、R2及びR3は、独立してオクチルである。他の例において、R1はメチルであり、R2はヘキシルであり、R3はオクチルである。他の例においてR1はメチルであり、R2はオクチルであり、R3はヘキシルである。
【0070】
ある特定の実施形態において、興味対象のブタンジオールの脂肪酸エステルとしては、式BDE-1a~BDE-1b:
【0071】
【0072】
及び
【0073】
【0074】
の化合物、及びその塩、溶媒和物又は水和物が挙げられる。
【0075】
別の組成物態様において、本実施形態は、式Ib:
【0076】
【0077】
(式中、
R1は、水素、アルキル及び置換アルキルから選択され;
R2及びR3は、独立して非置換又は置換のアルキルである)
の化合物、及びその塩、溶媒和物又は水和物を提供する。
【0078】
式Ibにおいて、R1は、水素、アルキル及び置換アルキルから選択される。ある特定の例において、R1は水素である。他の例において、R1はアルキルである。他の例において、R1は置換アルキルである。ある特定の例において、R1は、C1~C3アルキルを含めて、C1~C6アルキル等のアルキルである。ある特定の例において、R1は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、iso-ブチル又はt-ブチルである。ある特定の例において、R1はメチルである。
【0079】
式Ibにおいて、R2は、アルキル及び置換アルキルから選択される。ある特定の例において、R2はアルキルである。他の例において、R2は置換アルキルである。ある特定の例において、R2は、C6~C8アルキルを含めて、C4~C30アルキル等のアルキルである。ある特定の例において、R2は、ヘキシル又はオクチル(C6又はC8)である。ある特定の例において、R2はヘキシル(C6)である。ある特定の例において、R2はオクチル(C8)である。
【0080】
式Ibにおいて、R3は、アルキル及び置換アルキルから選択される。ある特定の例において、R3はアルキルである。他の例において、R3は置換アルキルである。ある特定の例において、R3は、C6~C8アルキルを含めて、C4~C30アルキル等のアルキルである。ある特定の例において、R3は、ヘキシル又はオクチル(C6又はC8)である。ある特定の例において、R3はヘキシル(C6)である。ある特定の例において、R3はオクチル(C8)である。
【0081】
式Ibにおいてある特定の実施形態によると、R1はメチルであり、R2及びR3は、独立してヘキシルである。ある特定の例において、R1はメチルであり、R2及びR3は、独立してオクチルである。他の例において、R1はメチルであり、R2はヘキシルであり、R3はオクチルである。他の例においてR1はメチルであり、R2はオクチルであり、R3はヘキシルである。
【0082】
別の組成物態様において、本実施形態は、式II:
【0083】
【0084】
(式中、
R4は、水素、アルキル及び置換アルキルから選択され;
R5及びR6は、独立して非置換又は置換のアルキルである)
の化合物、及びその塩、溶媒和物又は水和物を提供する。
【0085】
式IIにおいて、R4は、水素、アルキル及び置換アルキルから選択される。ある特定の例において、R4は水素である。他の例において、R4はアルキルである。他の例において、R4は置換アルキルである。ある特定の例において、R4は、C1~C3アルキルを含めて、C1~C6アルキル等のアルキルである。ある特定の例において、R4は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、iso-ブチル又はt-ブチルである。ある特定の例において、R4はメチルである。
【0086】
式IIにおいて、R5は、アルキル及び置換アルキルから選択される。ある特定の例において、R5はアルキルである。他の例において、R5は置換アルキルである。ある特定の例において、R5は、C6~C8アルキルを含めて、C4~C30アルキル等のアルキルである。ある特定の例において、R5は、ヘキシル又はオクチル(C6又はC8)である。ある特定の例において、R5はヘキシル(C6)である。ある特定の例において、R5はオクチル(C8)である。
【0087】
式IIにおいて、R6は、アルキル及び置換アルキルから選択される。ある特定の例において、R6はアルキルである。他の例において、R6は置換アルキルである。ある特定の例において、R6は、C6~C8アルキルを含めて、C4~C30アルキル等のアルキルである。ある特定の例において、R3は、ヘキシル又はオクチル(C6又はC8)である。ある特定の例において、R6はヘキシル(C6)である。ある特定の例において、R3はオクチル(C8)である。
【0088】
ある特定の実施形態による式IIにおいて、R4はメチルであり、R5及びR6は、独立してヘキシルである。ある特定の例において、R4はメチルであり、R5及びR6は、独立してオクチルである。他の例において、R4はメチルであり、R5はヘキシルであり、R6はオクチルである。他の例において、R4はメチルであり、R5はオクチルであり、R6はヘキシルである。
【0089】
ある特定の実施形態において、興味対象の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物は、エナンチオマー的に純粋である(<95% ee)。R-BHBは、ヒト代謝の正常の産生物である。このキラル特異性は、BHB合成における最終ステップを触媒する酵素、ベータ-ヒドロキシブチレートデヒドロゲナーゼによって導入される。この酵素は、アセトアセテートの3'カルボニル基をBHBの3'ヒドロキシル基に還元する。同酵素は、同反応の逆反応を触媒することによって、BHBの利用にも必要とされる。β-ヒドロキシブチレートデヒドロゲナーゼのキラル特異性の結果として、R-BHBだけが正常代謝によって産生され、R-BHBだけがアセチル-CoA及びATPに容易に分解され得る。絶食、運動、カロリー制限、ケトン食、及びBHBの内因性産生をもたらす任意の他の状態は、R-BHBだけを産生する。
【0090】
S-BHBそれ自体は、ヒト代謝の正常の産生物でない。しかしながら、S-BHB-CoAは、脂肪酸のベータ-酸化の最終期における過渡的中間体である。通常の状況下で、それは、ミトコンドリアから離れる又は血液中を循環するほど十分長くは存続しないはずである。標識化されたR-BHB、S-BHB又は混合物のラット又はブタへの注入を伴う実験は、S-BHBがR-BHBにほとんど変換されることを見出しており;これのための分子経路は知られていないが、アセチル-CoAへのS-BHBの変換及び次いでアセチル-CoAからのR-BHBの産生を介し得る。S-BHBの少なくとも一部は、おそらく、TCAサイクルにおいて次いで代謝されるアセチル-CoAに代謝された後に、最終的にCO2に変換される。S-BHBは、R-BHBよりもずっとゆっくり代謝され得るので、同量のS-BHBの注入は、R-BHBの同様の注入が血中レベルのR-BHBを発生させるよりも、長い時間高い血中レベルのS-BHBをもたらすことができる。
【0091】
別の組成物態様において、本実施形態は、式IIa:
【0092】
【0093】
(式中、
R4は、水素、アルキル及び置換アルキルから選択され;
R5及びR6は、独立して非置換又は置換のアルキルである)
の化合物及びその塩、溶媒和物又は水和物を提供する。
【0094】
式IIaにおいて、R4は、水素、アルキル及び置換アルキルから選択される。ある特定の例において、R4は水素である。他の例において、R4はアルキルである。他の例において、R4は置換アルキルである。ある特定の例において、R4は、C1~C3アルキルを含めて、C1~C6アルキル等のアルキルである。ある特定の例において、R4は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、iso-ブチル又はt-ブチルである。ある特定の例において、R4はメチルである。
【0095】
式IIaにおいて、R5は、アルキル及び置換アルキルから選択される。ある特定の例において、R5はアルキルである。他の例において、R5は置換アルキルである。ある特定の例において、R5は、C6~C8アルキルを含めて、C4~C30アルキル等のアルキルである。ある特定の例において、R5は、ヘキシル又はオクチル(C6又はC8)である。ある特定の例において、R5はヘキシル(C6)である。ある特定の例において、R5はオクチル(C8)である。
【0096】
式IIaにおいて、R6は、アルキル及び置換アルキルから選択される。ある特定の例において、R6はアルキルである。他の例において、R6は置換アルキルである。ある特定の例において、R6は、C6~C8アルキルを含めて、C4~C30アルキル等のアルキルである。ある特定の例において、R3は、ヘキシル又はオクチル(C6又はC8)である。ある特定の例において、R6はヘキシル(C6)である。ある特定の例において、R3はオクチル(C8)である。
【0097】
式IIaにおいてある特定の実施形態によると、R4はメチルであり、R5及びR6は、独立してヘキシルである。ある特定の例において、R4はメチルであり、R5及びR6は、独立してオクチルである。他の例において、R4はメチルであり、R5はヘキシルであり、R6はオクチルである。他の例においてR4はメチルであり、R5はオクチルであり、R6はヘキシルである。
【0098】
ある特定の実施形態において、興味対象の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物は、式BHE-2a~BHE-2d:
【0099】
【0100】
のβ-ヒドロキシブチレート化合物、及びその塩、溶媒和物又は水和物を含む。
【0101】
別の組成物態様において、本実施形態は、式IIb:
【0102】
【0103】
(式中、
R4は、水素、アルキル及び置換アルキルから選択され;
R5及びR6は、独立して非置換又は置換のアルキルであり)
の化合物、及びその塩、溶媒和物又は水和物を提供する。
【0104】
式IIbにおいて、R4は、水素、アルキル及び置換アルキルから選択される。ある特定の例において、R4は水素である。他の例において、R4はアルキルである。他の例において、R4は置換アルキルである。ある特定の例において、R4は、C1~C3アルキルを含めて、C1~C6アルキル等のアルキルである。ある特定の例において、R4は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、iso-ブチル又はt-ブチルである。ある特定の例において、R4はメチルである。
【0105】
式IIbにおいて、R5は、アルキル及び置換アルキルから選択される。ある特定の例において、R5はアルキルである。他の例において、R5は置換アルキルである。ある特定の例において、R5は、C6~C8アルキルを含めて、C4~C30アルキル等のアルキルである。ある特定の例において、R5は、ヘキシル又はオクチル(C6又はC8)である。ある特定の例において、R5はヘキシル(C6)である。ある特定の例において、R5はオクチル(C8)である。
【0106】
式IIbにおいて、R6は、アルキル及び置換アルキルから選択される。ある特定の例において、R6はアルキルである。他の例において、R6は置換アルキルである。ある特定の例において、R6は、C6~C8アルキルを含めて、C4~C30アルキル等のアルキルである。ある特定の例において、R3は、ヘキシル又はオクチル(C6又はC8)である。ある特定の例において、R6はヘキシル(C6)である。ある特定の例において、R3はオクチル(C8)である。
【0107】
式IIbにおいてある特定の実施形態によると、R4はメチルであり、R5及びR6は、独立してヘキシルである。ある特定の例において、R4はメチルであり、R5及びR6は、独立してオクチルである。他の例において、R4はメチルであり、R5はヘキシルであり、R6はオクチルである。他の例において、R4はメチルであり、R5はオクチルであり、R6はヘキシルである。
【0108】
製剤、投与量及び投与経路
活性薬剤(及び任意選択により1種又は複数の追加の治療剤)との使用のために好ましい薬学的に許容される担体は、滅菌水性又は非水性溶液、懸濁液及びエマルジョンが挙げられ得る。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、及びオレイン酸エチル等の注射可能な有機エステルである。水性担体としては、生理食塩水及び緩衝化媒体を含めて、水、アルコール/水溶液、エマルジョン又は懸濁液、及び微小粒子が挙げられる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸リンゲル又は固定油が挙げられる。静脈内ビヒクルとしては、流体及び栄養補充液、並びに電解質補充液(リンゲルデキストロースに基づくもの等)等が挙げられる。活性薬剤(及び任意選択により1種又は複数の追加の治療剤)を含む組成物は、本発明による後続の復元及び使用のため、当技術分野においてよく知られている手段を使用して凍結乾燥させることもできる。
【0109】
製剤
対象脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及び/又は対象ブタンジオールの脂肪酸エステルは、薬学的に許容される賦形剤を用いる製剤中で、それを必要とする個体に投与することができる。多種多様な薬学的に許容される賦形剤が当技術分野において知られており、本明細書において詳細に考察する必要がない。薬学的に許容される賦形剤は、例えば、A. Gennaro (2000) 「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」、第20版、Lippincott、Williams & Wilkins; Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems (1999) H. C. Anselら、編集第7版、Lippincott、Williams & Wilkins;及びHandbook of Pharmaceutical Excipients (2000) A. H. Kibbeら、編集、第3版。Amer. Pharmaceutical Assoc.を含めて、様々な公報に十分記載されている。製剤の以下の記載の目的で、「活性薬剤」としては、上に記載されている通りの活性薬剤、例えば、本明細書に記載されている通りの脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物又はブタンジオールの脂肪酸エステル、及び任意選択により1種又は複数の追加の治療剤が挙げられる。
【0110】
対象方法において、活性薬剤は、任意の好都合なプロトコールを使用して宿主に投与することができる。したがって、活性薬剤は、治療的投与のための様々な製剤に組み込むことができる。例えば、活性薬剤は、適切な薬学的に許容される担体又は希釈剤との組合せによる医薬組成物に製剤化することができ、固体、半固体、液体又はガスの形態、例えば錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏、溶液、坐剤、注射、吸入薬及びエアロゾル中の調製物に製剤化することができる。例証的な実施形態において、活性薬剤は、ゲルとして、溶液として、又は膣内投与に適当な一部の他の形態で製剤化される。更に例証的な実施形態において、活性薬剤は、ゲルとして、溶液として、又は直腸(例えば、直腸内)投与に適当な一部の他の形態で製剤化される。
【0111】
医薬剤形において、活性薬剤は、それの薬学的に許容される塩の形態で投与することができ、又はそれは、単独で又は適切な会合で、並びに他の薬学的に活性な化合物との組合せで使用することもできる。以下の方法及び賦形剤は、単に例証であり、決して限定していない。
【0112】
一部の実施形態において、活性薬剤は、緩衝水溶液中で製剤化される。適当な緩衝水溶液としては、以下に限定されないが、約5mmから約100mmの強度で変動する酢酸緩衝液、コハク酸緩衝液、クエン酸緩衝液及びリン酸緩衝液が挙げられる。一部の実施形態において、緩衝水溶液としては、等張溶液を提供する試薬が挙げられる。こうした試薬としては、以下に限定されないが、塩化ナトリウム;並びに糖、例えば、マンニトール、デキストロース及びスクロース等が挙げられる。一部の実施形態において、緩衝水溶液としては、ポリソルベート20又は80等の非イオン性界面活性剤が更に挙げられる。任意選択により、該製剤は保存料を更に含むことができる。適当な保存料としては、以下に限定されないが、ベンジルアルコール、フェノール、クロロブタノール及び塩化ベンザルコニウム等が挙げられる。多くの場合、該製剤は約4℃で貯蔵される。製剤は凍結乾燥させることもでき、この場合において、それらは一般に、スクロース、トレハロース、ラクトース、マルトース及びマンニトール等の凍結保護物質を含む。凍結乾燥製剤は、長い期間にわたって、室温でも貯蔵することができる。
【0113】
経口調製物について、活性薬剤は、単独で、又は錠剤、粉末、顆粒若しくはカプセルを作製するための適切な添加剤と、例えば、ラクトース、マンニトール、コーンスターチ若しくはバレイショデンプン等の従来の添加剤と;結晶セルロース、セルロース誘導体、アカシア、コーンスターチ若しくはゼラチン等のバインダーと;コーンスターチ、バレイショデンプン若しくはカルボキシメチルセルロースナトリウム等の崩壊薬と;タルク若しくはステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤と;並びに所望であれば、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存料及び香味剤との組合せで使用することができる。
【0114】
本明細書に記載されている通りの活性薬剤は、補助食品として、例えば、ケトン食の1種又は複数の成分との組合せで、提供及び/又は投与することができる。例証的なケトン食及びその成分は、例えば米国特許第6,207,856号に記載されており、この開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0115】
活性薬剤は、植物油又は他の同様の油、合成脂肪族酸グリセリド、高級脂肪族酸のエステル又はプロピレングリコール等の水性又は非水性溶媒中に;並びに所望であれば、可溶化剤、等張剤、懸濁剤、乳化剤、安定剤及び保存料等、従来の添加剤とともに、それらを溶解、懸濁又は乳化することによって注射のための調製物に製剤化することができる。
【0116】
活性薬剤は、吸入を介して投与されるエアロゾル製剤中に利用することができる。活性薬剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン及び窒素等の許容される加圧噴霧剤に製剤化することができる。
【0117】
更に、活性薬剤は、乳化性塩基又は水溶性塩基等の様々な塩基と混合することによって坐剤に作製することができる。活性薬剤は、坐剤を介して直腸的に投与することができる。該坐剤は、体温で溶融するが室温で固化される、カカオ脂、カルボワックス及びポリエチレングリコール等のビヒクルを含むことができる。
【0118】
シロップ、エリキシル及び懸濁液等、経口又は直腸投与のための単位剤形が提供され得、ここで、各投与単位、例えば、スプーン1杯、テーブルスプーン1杯、錠剤又は坐剤は、1種又は複数の活性薬剤を含有する組成物の所定量を含有する。同様に、注射又は静脈内投与のための単位剤形は、滅菌水、規定生理食塩水又は別の薬学的に許容される担体中の溶液としての組成物中に活性薬剤を含むことができる。
【0119】
シロップ、エリキシル、ゲル及び懸濁液等、膣内又は直腸内投与のための単位剤形が提供され得、ここで、各投与単位、例えば、スプーン1杯、テーブルスプーン1杯、錠剤、単位ゲル体積又は坐剤は、1種又は複数の活性薬剤を含有する該組成物の所定量を含有する。
【0120】
「単位剤形」という用語は、本明細書で使用される場合、ヒト及び動物対象のための単位投与量として適当な物理的に個別の単位を指し、各単位は、薬学的に許容される希釈液、担体又はビヒクルとの会合で所望の効果を生成するのに十分な量で算出される活性薬剤の所定の定量を含有する。所与の活性薬剤についての仕様は、用いられる特別な化合物、及び達成されるべき効果、及び宿主における各化合物と関連した薬力学に一部依存する。
【0121】
投与の他のモードも主題発明との使用を見出す。例えば、活性薬剤は、坐剤、並びに一部の場合においてエアロゾル及び鼻腔内組成物の中に製剤化することができる。坐剤について、ビヒクル組成物は、伝統的なバインダー及び担体、例えばポリアルキレングリコール又はトリグリセリドを含む。こうした坐剤は、約0.5%から約25% (w/w)、例えば、5%から15%を含めて、約5%から約20%の範囲で活性成分を含有する混合物から形成することができる。
【0122】
活性薬剤は、注射剤として投与することができる。典型的に、注射可能な組成物は、溶液又は懸濁液として調製され;注射の前の液体ビヒクル中の溶液又は懸濁液に適当な固体形態も調製することができる。該調製物は乳化することもでき、又は活性成分はリポソームビヒクル中にカプセル化することもできる。
【0123】
活性薬剤は、一部の実施形態において、腟内送達のために製剤化される。膣内投与のための対象製剤は、膣内生体接着性錠剤、膣内生体接着性微小粒子、膣内クリーム、膣内ローション、膣内フォーム、膣内軟膏、膣内ペースト、膣内溶液又は膣内ゲルとして製剤化された活性薬剤を含む。
【0124】
活性薬剤は、一部の実施形態において、直腸送達のために製剤化される。直腸内投与のための対象製剤は、直腸内生体接着性錠剤、直腸内生体接着性微小粒子、直腸内クリーム、直腸内ローション、直腸内フォーム、直腸内軟膏、直腸内ペースト、直腸内溶液又は直腸内ゲルとして製剤化された活性薬剤を含む。
【0125】
活性薬剤を含む対象製剤は、賦形剤(例えば、スクロース、デンプン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム又は炭酸カルシウム)、バインダー(例えば、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、アラビアガム、ポリ(エチレングリコール)、スクロース又はデンプン)、崩壊薬(例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルデンプン、低置換ヒドロキシプロピルセルロース、重炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム又はクエン酸カルシウム)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、タルク又はラウリル硫酸ナトリウム)、香味剤(例えば、クエン酸、メンソール、グリシン又はオレンジ粉末)、保存料(例えば、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン又はプロピルパラベン)、安定剤(例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム又は酢酸)、懸濁剤(例えば、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン又はステアリン酸アルミニウム)、分散剤(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、希釈液(例えば、水)、及び塩基ワックス(例えば、カカオ脂、白色ワセリン又はポリエチレングリコール)の1つ又は複数を含む。
【0126】
活性薬剤を含む錠剤は、例えばグリセロール、プロピレングリコール、ジエチルフタレート又はグリセロールトリアセテート等の軟化剤;スクロース、ソルビトール、キシリトール、グルコース又はラクトース等の充填剤;及びチタン水酸化物等の着色料;等、適当な賦形剤が任意選択により添加され得る適当な膜形成剤、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース又はエチルセルロースでコーティングすることができる。
【0127】
適当な賦形剤ビヒクルは、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール又はエタノール等、及びその組合せである。加えて、所望であれば、ビヒクルは、湿潤剤若しくは乳化剤又はpH緩衝剤等、少量の補助物質を含有することができる。こうした剤形を調製する実際の方法は、当業者に知られている又は明らかである。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、Pa.、第17版、1985を参照されたい。投与されるべき組成物又は製剤は、任意の事象において、処置されている対象における所望の状態を達成するのに適切な薬剤の定量を含有する。
【0128】
ビヒクル、アジュバント、担体又は希釈剤等、薬学的に許容される賦形剤は、公共に容易に利用可能である。更に、pH調整剤及び緩衝剤、張度調整剤、安定剤並びに湿潤剤等、薬学的に許容される補助物質は、公共に容易に利用可能である。
【0129】
投与量
使用される投与量は、達成されるべき臨床的目標に依存して変動し、活性薬剤の適当な投与量範囲は、約1gから約100gまで、例えば、約1gから約90g、約2.5gから約80g、約5.0gから約70mg、約7.5gから約60g、約10gから約50g、約12.5gから約40g、約15gから約30g、又は5gから20gの活性薬剤を提供し、単回用量で投与され得るものである。
【0130】
当業者は、用量レベルが、特定の化合物、症状の重症度、及び副作用に対する対象の感受率の関数として変動することができることを容易に理解されよう。所与の化合物のための好ましい投与量は、様々な手段により当業者によって容易に決定可能である。
【0131】
一部の実施形態において、活性薬剤の単回用量が投与される。他の実施形態において、活性薬剤の複数回用量が投与される。複数回用量が、ある期間にわたって投与される場合、活性薬剤は、ある期間にわたって1日2回(qid)、毎日(qd)、隔日毎(qod)、3日毎、1週当たり3回(tiw)、又は1週当たり2回(biw)投与される。例えば、活性薬剤は、1日から約2年又はそれ以上の期間にわたって、qid、qd、qod、tiw又はbiwで投与される。例えば、活性薬剤は、様々な因子に依存して1週、2週、1カ月、2カ月、6カ月、1年若しくは2年又はそれ以上の間に、前に記述の頻度のいずれかで投与される。
【0132】
したがって、1日当たりに対象に投与される活性薬剤の量は、10グラム/日から500グラム/日、例えば15グラム/日から450グラム/日、例えば25グラム/日から400グラム/日、例えば50グラム/日から300グラム/日の範囲、及び100グラム/日から200グラム/日を含めた範囲であってよい。
【0133】
2種の異なる活性薬剤が投与される場合、第1の活性薬剤及び第2の活性薬剤は、別々の製剤中で投与することができる。第1の活性薬剤及び第2の活性薬剤は、実質的に同時に、又は互いに約30分、約1時間、約2時間、約4時間、約8時間、約16時間、約24時間、約36時間、約72時間、約4日、約7日若しくは約2週以内に投与することができる。
【0134】
本明細書に記載されている特別な方法、投与量、投与レジメン、投与経路等が、本開示の化合物の形態により、例えば、本開示の化合物の塩形態の存在により不適切である場合、該化合物の形態は、適宜、方法、投与量、投与レジメン、投与経路等のために選択することができることが留意されるべきである。例えば、本開示の化合物の塩形態の存在が不適切である場合(例えば、剤形における塩の有害な量の存在による)、特別な方法、投与量、投与レジメン、投与経路等のために提供される化合物の形態は、化合物の塩形態を具体的に排除し得る。
【0135】
投与経路
活性薬剤は、インビボ及びエクスビボ方法、並びに全身的経路及び局在化された投与経路を含めて、薬物送達に適当な任意の利用可能な方法及び経路を使用して、個体に投与される。
【0136】
従来の及び薬学的に許容される投与経路としては、経口、鼻腔内、筋肉内、気管内、経皮、皮下、皮内、局所適用、静脈内、腟内、経鼻及び他の非経口の投与経路が挙げられる。一部の実施形態において、活性薬剤は経口的に投与される。一部の実施形態において、活性薬剤は、膣内投与経路を介して投与される。他の実施形態において、活性薬剤は、直腸内投与経路を介して投与される。投与経路は組み合わせることができ、所望であれば又は薬剤及び/若しくは所望の効果に依存して調整することができる。該組成物は、単回用量又は複数回用量で投与することができる。
【0137】
活性薬剤は、全身的経路又は局在化経路を含めて、従来の薬物の送達に適当な任意の利用可能な従来の方法及び経路を使用して、宿主に投与することができる。一般に、本発明によって企図される投与経路としては、必ずしも以下に限定されないが、経腸、非経口又は吸入の経路が挙げられる。
【0138】
吸入投与以外の非経口投与経路は、必ずしも以下に限定されないが、局所、腟内、経皮、皮下、筋肉内及び静脈内の経路、即ち、消化管を介する以外の任意の投与経路が挙げられる。非経口投与は、薬剤の全身又は局在送達を達成するために実施することができる。全身送達が所望される場合、投与は典型的に、医薬調製物の侵襲的投与又は全身的に吸収される局所若しくは粘膜の投与を伴う。
【0139】
活性薬剤は、経腸的投与によって対象に送達することもできる。経腸的投与経路としては、必ずしも以下に限定されないが、経口及び直腸(例えば、坐剤を使用する)送達が挙げられる。
【0140】
「処置」という用語は、本明細書で使用される場合、宿主を苦しめる病態と関連した症状の軽快を指すことができ、ここで軽快は、処置されている病態と関連したパラメータ、例えば症状、例えば異常なてんかん様スパイクの存在の規模の少なくとも低減を指すために広い意味で使用される。このように、処置は、病態又は少なくともそれと関連した症状が完全に阻害される、例えば生じるのを防止する又は止められる、例えば停止されることで、宿主が病態又は少なくとも病態を特徴付ける症状をもはや患わない状況も含む。
【0141】
本明細書に記載されている化合物及び組成物は、様々な宿主に投与することができる(ここで「宿主」という用語は、本明細書において、「対象」及び「患者」という用語と相互交換可能に使用される)。ある特定の実施形態において、対象は「哺乳動物」である又は「哺乳類」であり、ここで、これらの用語は、食肉類目(例えば、イヌ及びネコ)、げっ歯類目(例えば、マウス、モルモット及びラット)及び霊長類目(例えば、ヒト、チンパンジー及びモンキー)を含めて、哺乳類クラス内である生物体を記載するために広く使用される。一部の例において、対象はヒトである。ヒト対象は、両方の性別及び任意の発症段階(即ち、新生児、幼児、若年、青年、成人)であってよく、ここで、ある特定の実施形態において、ヒト対象は、若年、青年又は成人である。本開示はヒト対象に投与することができる一方で、対象脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及びブタンジオールの脂肪酸エステルは、以下に限定されないが、鳥類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、家畜及びウマ等の動物対象(つまり、「非ヒト対象」における)に投与することもできることが理解されるべきである。
【0142】
キット、容器、装置、送達システム
例えば経口、腟内、直腸、経皮又は注射可能な用量(例えば、筋肉内、静脈内又は皮下の注射のため)における、活性薬剤の単位用量を有するキットが提供される。こうしたキットの中には、単位用量を含有する容器に加えて、対象組成物の使用及び付随利益を記載する情報添付文書がある。適当な活性薬剤及び単位用量は、本明細書に上で記載されているものである。
【0143】
多くの実施形態において、対象キットは、対象方法を実践するための指示又はそれを得るための手段(例えば、指示を提供するウェブページに使用者を向かわせるウェブサイトURL)を更に含み、ここで、これらの指示は典型的に基材上に印刷されており、この基材は、添付文書、包装及び製剤容器等の1つ又は複数であってよい。
【0144】
一部の実施形態において、対象キットは、患者コンプライアンスを増加させる1種又は複数の成分又は特色、例えば、患者が適切な時間又は間隔で活性薬剤を服用することを覚えているのに役立つ構成要素又はシステムを含む。こうした構成要素としては、以下に限定されないが、患者が適切な時間又は間隔で活性薬剤を服用することを覚えているのに役立つカレンダーシステムが挙げられる。
【0145】
一部の実施形態において、送達システムは、活性薬剤を含む製剤の注射を皮下、静脈内又は筋肉内に提供する送達システムである。他の実施形態において、送達システムは、腟内又は直腸の送達システムである。
【0146】
一部の実施形態において、活性薬剤は、経口投与用に包装される。本発明は、活性薬剤の1日投与量単位を含む包装単位を提供する。例えば、包装単位は、一部の実施形態において、錠剤及び丸剤等を含む従来のブリスターパック又は任意の他の形態である。ブリスターパックは、ボール紙、板紙、箔又はプラスチックの裏打ちを有するとともに適当なカバーで包まれた密封ブリスターパック中に適切な数の単位剤形を含有する。各ブリスター容器は、例えば1日目から開始して番号付けする又はそうでなければ標識化することができる。
【0147】
一部の実施形態において、対象送達システムは注射装置を含む。例証的な非限定的薬物送達装置としては、ペン注射器、及び針/シリンジ装置等の注射装置が挙げられる。ペン注射器は当技術分野においてよく知られている。本方法における使用に適応され得る例証的な装置は、Becton Dickinson社からの様々なペン注射器のいずれか、例えば、BD(商標)Pen、BD(商標)Pen II、BD(商標)自動注射器; Innoject、Inc.社からのペン注射器;米国特許第5,728,074号、第6,096,010号、第6,146,361号、第6,248,095号、第6,277,099号及び第6,221,053号において考察されている薬物療法送達ペン装置のいずれか;並びに本明細書に参照により組み込まれている各々の開示;等である。薬物療法送達ペンは、使い捨て又は再利用可能及び詰め替え可能であり得る。
【0148】
本発明は、個体の腟又は直腸への活性薬剤の腟内又は直腸送達のための送達システムを提供する。該送達システムは、腟又は直腸への挿入のための装置を含む。一部の実施形態において、送達システムは、腟又は直腸への製剤の送達のためのアプリケーター;及び活性薬剤を含む製剤を含有する容器を含む。これらの実施形態において、容器(例えば、チューブ)は、アプリケーターに製剤を送達するように適応される。他の実施形態において、送達システムは、腟又は直腸に挿入される装置を含み、この装置は活性薬剤を含む。例えば、該装置は、活性薬剤を含む製剤でコーティングされる、それを含浸される、又はそうでなければ、それを含有する。
【0149】
一部の実施形態において、腟内又は直腸送達システムは、対象製剤を含むタンポン又はタンポン様装置である。薬物送達タンポンは当技術分野において知られており、任意のこうしたタンポンは、対象薬物送達システムと併せて使用することができる。薬物送達タンポンは、例えば米国特許第6,086,909号に記載されており、この開示は参照により本明細書に組み込まれる。タンポン又はタンポン様装置が使用されるならば、活性薬剤が該装置に組み込まれ得る多数の方法がある。例えば、薬物は、装置の先端におけるゲル様生体接着性リザーバーに組み込むことができる。代替として、薬物は、タンポンの先端に配置された粉末化材料の形態であってよい。薬物は、例えば、薬学的に許容される担体中に薬物を溶解させること及びタンポン繊維に薬物溶液を吸収させることによって、タンポンの先端で繊維に吸収させることもできる。該薬物は、タンポンの先端に適用されるコーティング材中に溶解させることもできる。代替として、薬物は、タンポンの先端と会合して置かれる挿入可能な坐剤に組み込むことができる。
【0150】
他の実施形態において、薬物送達装置は腟内又は直腸リングである。腟内又は直腸リングは、通常、送達されるべき活性薬剤を含有するエラストマーの別の層によってコーティングされた不活性エラストマーリングからなる。該リングは、簡便に挿入し、所望の期間(例えば、最大7日まで)の間留置し、次いで使用者によって除去することができる。該リングは、任意選択により、薬物を含有しない第3の外部の速度制御エラストマー層を含むことができる。任意選択により、第3のリングは、二重放出リングのための第2の薬物を含有する。該薬物は、送達されるべき薬物のためのリザーバーとして作用するシリコーンエラストマーリングを通じてポリエチレングリコールに組み込むことができる。
【0151】
他の実施形態において、対象腟内又は直腸送達システムは、腟内又は直腸スポンジである。活性薬剤は、文献に記載されている通り、円筒状の薬物フリーのポリウレタンスポンジ状にコーティングされたシリコーンマトリックスに組み込まれる。
【0152】
ペッサリー、錠剤及び坐剤は、例えば本開示の方法を実施する際に使用することができる薬物送達システムの他の例である。これらのシステムは、文献において広範に記載されてきた。
【0153】
生体接着性微小粒子は、本発明における使用に適当なまた別の薬物送達システムを構成する。このシステムは、多くの坐剤製剤のように腟又は直腸から染み出ることがない多相液体又は半固体の調製物である。該物質は、腟又は直腸の壁に粘着し、ある期間にわたって薬物を放出する。これらのシステムの多くは、経鼻使用のために設計されたが、同様に腟又は直腸において使用することができる(例えば、米国特許第4,756,907号、この開示は参照により本明細書に組み込まれる)。該システムは、活性薬剤を有する微小球;及び薬物の取込みを増強するための界面活性剤を含むことができる。微小粒子は10~100μmの直径を有し、デンプン、ゼラチン、アルブミン、コラーゲン又はデキストランから調製することができる。
【0154】
別のシステムは、アプリケーターとの使用に適応される対象製剤(例えば、チューブ)を含む容器である。活性薬剤は、アプリケーターを使用して腟又は直腸に適用することができるクリーム、ローション、フォーム、ペースト、軟膏及びゲルに組み込まれる。クリーム、ローション、フォーム、ペースト、軟膏及びゲルフォーマット中に医薬品を調製するためのプロセスは、文献の全体にわたって見出すことができる。適当なシステムの例は、JERGENS(商標) (Andrew Jergens Co.社、Cincinnati、Ohio)という商標下で販売されている製品等、グリセロール、セラミド、鉱物油、ワセリン、パラベン、芳香及び水を含有する標準的な芳香フリーのローション製剤である。本発明の組成物における使用のための適当な非毒性の薬学的に許容されるシステムは、医薬製剤の当業者に明らかであり、例は、Remington's Pharmaceutical Sciences、第19版、A. R. Gennaro、編集、1995に記載されている。適当な担体の選択は、所望される特別な腟内又は直腸剤形の正確な性質、例えば、活性成分がクリーム、ローション、フォーム、軟膏、ペースト、溶液又はゲルに製剤化されるべきかどうか、並びに活性成分の独自性に依存する。他の適当な送達装置は、米国特許第6,476,079号に記載されているものであり、この開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0155】
処置方法
本開示は、対象に1種若しくは複数の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及び/又はブタンジオールの1種若しくは複数のエステルを、或いはその薬学的に許容される塩を投与することによって対象を処置するための方法も提供する。一部の実施形態において、方法は、1種若しくは複数の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む。他の実施形態において、方法は、ブタンジオールの1種若しくは複数のエステル又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む。ある特定の実施形態において、方法は、1種若しくは複数の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物又はその薬学的に許容される塩及びブタンジオールの1種若しくは複数のエステル又はその薬学的に許容される塩の組合せを対象に投与することを含む。脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及びブタンジオールのエステルの両方が対象に投与される場合、ある特定の例において、脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物対ブタンジオールのエステルの質量比は、10:1から1:1、例えば9:1から1.5:1、例えば8:1から2:1、例えば7:1から2.5:1、例えば6:1から3:1の範囲、及び5:1から4:1を含めた範囲である。他の例において、脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物対ブタンジオールのエステルの質量比は、1:10から1:1、例えば1:9から1:1、例えば1:8から1:1.5、例えば1:7から1:2、例えば1:6から1:2.5の範囲、及び1:5から1:3を含めた範囲である。
【0156】
一部の実施形態において、方法は、本明細書に記載されている脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物の1種若しくは複数及び/又はブタンジオールのエステルの1種若しくは複数を対象に投与することによって、アルツハイマー病、てんかん、パーキンソン病、心不全、外傷性脳損傷、脳卒中、出血性ショック、輸液蘇生後の急性肺損傷、急性腎臓損傷、心筋梗塞、心筋虚血、糖尿病、多形神経膠芽腫、糖尿病性ニューロパチー、前立腺がん、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、皮膚T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、末梢T細胞リンパ腫、HIV、ニーマン・ピック病C型、年齢関連性黄斑変性、痛風、アテローム動脈硬化症、関節リウマチ及び多発性硬化症のうちの1つ又は複数を処置することを含む。
【0157】
ある特定の実施形態において、方法は、本明細書に記載されている脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物の1種若しくは複数及び/又はブタンジオールの1種若しくは複数のエステルを対象に投与することによってアルツハイマー病を処置することを含む。一部の例において、対象に投与される1種若しくは複数の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及び/又はブタンジオールの1種若しくは複数のエステルの量(上に記載されている通り)は、対象におけるてんかん活性を低減するのに十分である。例えば、対象方法は、てんかん活性を99.9%以上低減することを含めて、てんかん活性を5%以上、例えば10%以上、例えば15%以上、例えば25%以上、例えば40%以上、例えば50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば95%以上、例えば99%以上低減するのに十分な、対象脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物又はブタンジオールのエステルの量を投与することを含むことができる。
【0158】
他の例において、対象に投与される1種若しくは複数の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及び/又はブタンジオールの1種若しくは複数のエステルの量は、対象における認知を99.9%以上増加させることを含めて、対象における認知を増加させるのに十分である。例えば、対象方法は、対象における認知を5%以上、例えば10%以上、例えば15%以上、例えば25%以上、例えば40%以上、例えば50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば95%以上、例えば99%以上増加させるのに十分な、対象脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物又はブタンジオールの脂肪酸エステルの量を投与することを含むことができる。
【0159】
なお他の例において、対象に投与される1種若しくは複数の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及び/又はブタンジオールの1種若しくは複数のエステルの量は、対象における認知の減退の速度を低減するのに十分である。例えば、対象方法は、対象における認知の減退の速度を99.9%以上低減することを含めて、対象における認知の減退の速度を5%以上、例えば10%以上、例えば15%以上、例えば25%以上、例えば40%以上、例えば50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば95%以上、例えば99%以上減少させるのに十分な、対象脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物又はブタンジオールの脂肪酸エステルの量を投与することを含むことができる。
【0160】
対象における認知レベルは、以下に限定されないが、モントリオール認知評価(MoCA)、セントルイス大学メンタルステート検査(SLUMS)、ミニメンタルステート検査(MMSE)、及び研究調査目的で、アルツハイマー病評価スケール、認知(ADAS-Cog)を含めた任意の好都合なプロトコール、並びに日常生活活動(ADL)及び手段的日常生活活動(IADL)を含めた判定によって判定することができる。
【0161】
ある特定の実施形態において、対象に投与される1種若しくは複数の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及び/又はブタンジオールの1種若しくは複数のエステルの量は、日常生活活動(ADL)及び手段的日常生活活動(IADL)による判定によって決定されるような対象の日常機能を改善するのに十分である。
【0162】
他の実施形態において、対象に投与される1種若しくは複数の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及び/又はブタンジオールの1種若しくは複数のエステルの量は、対象における激越行動(agitated behaviors)を低減するのに十分である。例えば、対象方法は、対象における激越行動を99.9%以上低減することを含めて、対象における激越行動を5%以上、例えば10%以上、例えば15%以上、例えば25%以上、例えば40%以上、例えば50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば95%以上、例えば99%以上低減するのに十分な、対象脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物又はブタンジオールの脂肪酸エステルの量を投与することを含むことができる。激越行動は、神経精神症状評価(NPI)によって判定されるような任意の好都合なプロトコールによって判定することができる。
【0163】
なお他の実施形態において、対象に投与される1種若しくは複数の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及び/又はブタンジオールの1種若しくは複数のエステルの量は、対象における精神錯乱を低減するのに十分である。例えば、対象方法は、対象における精神錯乱を99.9%以上低減することを含めて、対象における精神錯乱を5%以上、例えば10%以上、例えば15%以上、例えば25%以上、例えば40%以上、例えば50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば95%以上、例えば99%以上低減するのに十分な、対象脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物又はブタンジオールの脂肪酸エステルの量を投与することを含むことができる。
【0164】
また他の実施形態において、対象に投与される1種若しくは複数の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及び/又はブタンジオールの1種若しくは複数のエステルの量は、対象に対して介護者が経験するストレスを低減するのに十分である。例えば、対象方法は、対象に対して介護者が経験するストレスを99.9%以上低減することを含めて、対象に対して介護者が経験するストレスを5%以上、例えば10%以上、例えば15%以上、例えば25%以上、例えば40%以上、例えば50%以上、例えば75%以上、例えば90%以上、例えば95%以上、例えば99%以上低減するのに十分な、対象脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物又はブタンジオールの脂肪酸エステルの量を投与することを含むことができる。介護者ストレスは、知覚ストレス尺度(PSS)によって判定されるような任意の好都合なプロトコールによって判定することができる。
【0165】
対象方法を実践する際、特定の対象のためのプロトコールは、例えば年齢、体重、疼痛の重症度、対象の全般的な健康、並びに投与されている脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及び/又はブタンジオールの脂肪酸エステルの特別な濃度等によって変動することがある。実施形態において、投与中に送達される投与量は変動することがあり、一部の例において5mgから800mgを範囲とする。このように、対象の生理機能並びに所望の治療効果に依存して、対象方法によって提供される投与量は、5mgから800mg、例えば10mgから約500mg、例えば20mgから400mg、例えば25mgから350mg、例えば30mgから300mg、例えば40mgから250mgの範囲、及び40mgから200mgを含めた範囲であってよい。
【0166】
そのため、興味対象の投与量は変動することがあり、1日当たり約0.1g/kgから25g/kg、例えば1日当たり0.1g/kgから20g/kg、例えば1日当たり0.1g/kgから18g/kg、例えば1日当たり0.1g/kgから15g/kg、例えば1日当たり0.1g/kgから10g/kgの範囲、及び1日当たり0.1g/kgから5g/kg、例えば1日当たり0.5g/kgから10g/kg、例えば1日当たり0.5g/kgから9g/kg、例えば1日当たり0.5g/kgから8g/kg、例えば1日当たり0.5g/kgから5g/kg、例えば1日当たり0.5g/kgから3g/kg、例えば1日当たり0.5g/kgから2g/kgを含めた範囲、及び1日当たり0.5g/kgから1g/kgを含めた範囲である。ある特定の例において、投与量は1日当たり1g/kgである。他の実施形態において、投与量は、1日当たり4回(QID)で0.1から6.5g/kg、例えばQIDで0.1から5g/kg、例えばQIDで0.1g/kgから4g/kgの範囲であってよい。他の実施形態において、経口投与量は、1日当たり3回(TID)で0.01g/kgから8.5g/kg、例えばTIDで0.1g/kgから6g/kg、例えばTIDで0.1g/kgから5g/kgの範囲、及びTIDで0.1g/kgから4g/kgを含めた範囲であってよい。なお他の実施形態において、経口投与量は、1日当たり2回(BID)で0.1g/kgから13g/kg、例えばBIDで0.1g/kgから12g/kg、例えばBIDで5g/kgから10g/kgの範囲であってよく、BIDで0.1g/kgから8g/kgを含める。投与される化合物の量は、対象の生理機能、対象による脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物及び/又はブタンジオールの脂肪酸エステルの吸収率、並びに所望される治療効果の規模に依存する。投薬スケジュールとしては、以下に限定されないが、1日当たり5回、1日当たり4回、1日当たり3回、1日当たり2回、1日当たり1回、1週当たり3回、1週当たり2回、1週当たり1回、1カ月当たり2回、1カ月当たり1回、及びその任意の組合せの投与が挙げられ得る。
【0167】
一部の実施形態において、対象方法は、長期間にわたって、例えば1カ月にわたって及び最大10年までの間、複数回用量において対象方法及び組成物を必要とする慢性投与を含むことができる。
【0168】
複数の投与間隔処置レジメンにおける投与間隔間の持続期間は、対象の生理機能に依存して、又はヘルスケア専門家によって決定される通りの処置レジメンによって変動することがある。ある特定の例において、複数の投与量処置レジメンにおける投与間隔間の持続期間は予め決められ、規則的な間隔で続けることができる。このように、投薬間間隔の時間は変動することがあり、0.5時間以上、例えば1時間以上、例えば2時間以上、例えば4時間以上、例えば8時間以上、例えば12時間以上、例えば16時間以上、例えば24時間以上、例えば48時間以上であってよく、及び72時間以上を含めてよい。
【0169】
ある特定の実施形態において、対象方法は、1種若しくは複数の脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物又はその薬学的に許容される塩及び/或いはブタンジオールの1種若しくは複数のエステル又はその薬学的に許容される塩を対象に、ケトン食との組合せで投与することを含む。「ケトン食」という成句は、消費、消化及び代謝後に、エネルギーの主要な供給源としてケトン体を提供する食餌を指すために、それの従来の意味で本明細書において使用されている。ケトン食によって生理的に提供されるケトン体としては、アセトアセテート、β-ヒドロキシブチレート及びアセトンが挙げられる。適当なケトン食としては、限定されないが、Fentonら、ICAN 2009、1:338; Nealら、Lancet Neurology 2008、7:500; Hartman及びVinning、Epilepsia 2007、1:31; Kossoffら、Epilepsia 2009、50:304に記載されているものを挙げることができ、これらの開示は参照により本明細書に組み込まれる。対象方法を実践する際、対象脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物若しくはその薬学的に許容される塩及び/又はブタンジオールのエステル若しくはその薬学的に許容される塩は、ケトン食の前、それの後又はそれと併せて投与することができる。ある特定の実施形態において、対象方法は、ケトン食を開始する前に対象脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物若しくはその薬学的に許容される塩及び/又はブタンジオールのエステル若しくはその薬学的に許容される塩を投与することを含む。他の実施形態において、方法は、ケトン食の1つ又は複数の間隔を完了した後に対象脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物若しくはその薬学的に許容される塩及び/又はブタンジオールのエステル若しくはその薬学的に許容される塩を投与することを含む。また他の実施形態において、方法は、ケトン食と併せて対象脂肪酸β-ヒドロキシエステル化合物若しくはその薬学的に許容される塩及び/又はブタンジオールのエステル若しくはその薬学的に許容される塩を投与することを含む。
【0170】
開示の例証的な非限定的態様
上に記載されている本対象物の、実施形態を含めた態様は、単独で又は1つ若しくは複数の他の態様若しくは実施形態との組合せで有益であり得る。前述の説明を限定することなく、1~48と番号付けられている開示のある特定の非限定的態様が下記に提供されている。この開示を読むことで当業者には明らかである通り、個々に番号付けられている態様の各々は、先行する又は後に続く個々に番号付けられている態様のいずれかとともに使用する又は組み合わせることができる。これは、態様の全てのこうした組合せに対する支援を提供すると意図され、下記で明白に提供される態様の組合せに限定されない。
1. 式I:
【0171】
【0172】
(式中、
R1は、H又はC(1~6)アルキル又は置換アルキルであり;
R2及びR3は、独立して非置換又は置換C(4~30)アルキルである)
の化合物。
2. R1が非置換C(1~6)アルキルである、1に従った化合物。
3. R1がメチルである、2に従った化合物。
4. R2及びR3が独立して非置換C(6~18)アルキルである、1~3のいずれか1つに従った化合物。
5. R2及びR3が独立して非置換C6アルキルである、1~3のいずれか1つに従った化合物。
6. R2及びR3が独立して非置換C8アルキルである、1~3のいずれか1つに従った化合物。
7. 式Ia:
【0173】
【0174】
(式中、
R1は、H又はC(1~6)アルキル又は置換アルキルであり;
R2及びR3は、独立して非置換又は置換C(4~30)アルキルである)
である、1に従った化合物。
8. R1が非置換C(1~6)アルキルである、7に従った化合物。
9. R1がメチルである、8に従った化合物。
10. R2及びR3が独立して非置換C(6~18)アルキルである、7~9のいずれか1つに従った化合物。
11. R2及びR3が独立して非置換C6アルキルである、7~9のいずれか1つに従った化合物。
12. R2及びR3が独立して非置換C8アルキルである、7~9のいずれか1つに従った化合物。
13. 式Ib:
【0175】
【0176】
(式中、
R1は、H又はC(1~6)アルキル又は置換アルキルであり;
R2及びR3は、独立して非置換又は置換C(4~30)アルキルである)
である、1に従った化合物。
14. R1が非置換C(1~6)アルキルである、13に従った化合物。
15. R1がメチルである、14に従った化合物。
16. R2及びR3が独立して非置換C(6~18)アルキルである、13~15のいずれか1つに従った化合物。
17. R2及びR3が独立して非置換C6アルキルである、13~15のいずれか1つに従った化合物。
18. R2及びR3が独立して非置換C8アルキルである、13~15のいずれか1つに従った化合物。
19. 1~18のいずれか1つに従った化合物及び薬学的に許容される担体を含む組成物。
20. 1~18のいずれか1つに従った化合物又は19に従った組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む方法。
21. 治療有効量が、対象の脳においててんかん活性を低減するのに十分である、20に従った方法。
22. 1~18のいずれか1つに従った化合物又は19に従った組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、
アルツハイマー病、てんかん、パーキンソン病、心不全、外傷性脳損傷、脳卒中、出血性ショック、輸液蘇生後の急性肺損傷、急性腎臓損傷、心筋梗塞、心筋虚血、糖尿病、多形神経膠芽腫、糖尿病性ニューロパチー、前立腺がん、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、皮膚T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、末梢T細胞リンパ腫、HIV、ニーマン・ピック病C型、年齢関連性黄斑変性、痛風、アテローム動脈硬化症、関節リウマチ及び多発性硬化症のうちの1つ又は複数を処置するための方法。
23. 治療有効量が、対象の脳においててんかん活性を低減するのに十分である、22に従った方法。
24. 1~18のいずれか1つに従った化合物又は19に従った組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、対象の脳においててんかん活性を低減する方法。
25. 1~18のいずれか1つに従った化合物を含む補助食品。
26. 1~18のいずれか1つに従った化合物を含む補助食品;及び
ケトン食の1種又は複数の追加成分
を含む組成物。
27. 化合物が、約1質量%から約25質量%の量で組成物中に存在する、26に従った組成物。
28. 化合物が、約5質量%から約15質量%の量で組成物中に存在する、26に従った組成物。
29. 化合物が、約10質量%の量で組成物中に存在する、26に従った組成物。
30. ケトン食が、約2:1から約10:1の脂肪対タンパク質及び炭水化物の質量比を含む、26に従った組成物。
31. ケトン食が、約3:1から約6:1の脂肪対タンパク質及び炭水化物の質量比を含む、30に従った組成物。
32. ケトン食が、約4:1の脂肪対タンパク質及び炭水化物の質量比を含む、30に従った組成物。
33. 式II:
【0177】
【0178】
(式中、
R4は、H又はC(1~6)アルキル又は置換アルキルであり;
R5及びR6は、独立して非置換又は置換C(4~30)アルキルである)
の化合物。
34. R4が非置換C(1~6)アルキルである、33に従った化合物。
35. R4がメチルである、34に従った化合物。
36. R5及びR6が独立して非置換C(6~18)アルキルである、33~35のいずれか1つに従った化合物。
37. R5及びR6が独立して非置換C6アルキルである、33~35のいずれか1つに従った化合物。
38. R5及びR6が独立して非置換C8アルキルである、33~35のいずれか1つに従った化合物。
39. 式Ia:
【0179】
【0180】
(式中、
R4は、H又はC(1~6)アルキル又は置換アルキルであり;
R5及びR6は、独立して非置換又は置換C(4~30)アルキルである)
である、33に従った化合物。
40. R4が非置換C(1~6)アルキルである、39に従った化合物。
41. R4がメチルである、40に従った化合物。
42. R5及びR6が独立して非置換C(6~18)アルキルである、39~41のいずれか1つに従った化合物。
43. R5及びR6が独立して非置換C6アルキルである、39~41のいずれか1つに従った化合物。
44. R5及びR6が独立して非置換C8アルキルである、39~41のいずれか1つに従った化合物。
45. 式Ib:
【0181】
【0182】
(式中、
R4は、H又はC(1~6)アルキル又は置換アルキルであり;
R5及びR6は、独立して非置換又は置換C(4~30)アルキルである)
である、33に従った化合物。
46. R4が非置換C(1~6)アルキルである、45に従った化合物。
47. R4がメチルである、46に従った化合物。
48. R5及びR6が独立して非置換C(6~18)アルキルである、45~47のいずれか1つに従った化合物。
49. R5及びR6が独立して非置換C6アルキルである、45~47のいずれか1つに従った化合物。
50. R5及びR6が独立して非置換C8アルキルである、45~47のいずれか1つに従った化合物。
51. 33~50のいずれか1つに従った化合物及び薬学的に許容される担体を含む組成物。
52. 33~50のいずれか1つに従った化合物又は51に従った組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む方法。
53. 治療有効量が、対象の脳においててんかん活性を低減するのに十分である、52に従った方法。
54. 33~50のいずれか1つに従った化合物又は51に従った組成物の治療有効量を対象に投与すること
を含む、アルツハイマー病、てんかん、パーキンソン病、心不全、外傷性脳損傷、脳卒中、出血性ショック、輸液蘇生後の急性肺損傷、急性腎臓損傷、心筋梗塞、心筋虚血、糖尿病、多形神経膠芽腫、糖尿病性ニューロパチー、前立腺がん、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、皮膚T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、末梢T細胞リンパ腫、HIV、ニーマン・ピック病C型、年齢関連性黄斑変性、痛風、アテローム動脈硬化症、関節リウマチ及び多発性硬化症のうちの1つ又は複数を処置するための方法。
55. 治療有効量が、対象の脳においててんかん活性を低減するのに十分である、54に従った方法。
56. 33~50のいずれか1つに従った化合物又は51に従った組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、対象の脳においててんかん活性を低減する方法。
57. 33~50のいずれか1つに従った化合物を含む補助食品。
58. 33~50のいずれか1つに従った化合物を含む補助食品;及び
ケトン食の1種又は複数の成分
を含む組成物。
59. 化合物が、約1質量%から約25質量%の量で組成物中に存在する、58に従った組成物。
60. 化合物が、約5質量%から約15質量%の量で組成物中に存在する、58に従った組成物。
61. 化合物が、約10質量%の量で組成物中に存在する、58に従った組成物。
62. ケトン食が、約2:1から約10:1の脂肪対タンパク質及び炭水化物の質量比を含む、58に従った組成物。
63. ケトン食が、約3:1から約6:1の脂肪対タンパク質及び炭水化物の質量比を含む、58に従った組成物。
64. ケトン食が、約4:1の脂肪対タンパク質及び炭水化物の質量比を含む、58に従った組成物。
【実施例0183】
以下の実施例は、本発明をどのように製作及び使用するかの完全な開示及び記載を当業者に提供するために提示され、本発明者らが彼らの発明とみなしているものの範疇を限定すると意図されず、それらは、以下の実験が、行われた全ての又は唯一の実験であることを表すとも意図されない。使用される数字(例えば量、温度等)に関して正確性を確実にするために努力されてきたが、一部の実験エラー及び偏差が考慮されるべきである。別段に表示されていない限り、部は質量部であり、分子量は質量平均分子量であり、温度は摂氏温度であり、圧力は大気である又は大気に近い。標準的略語、例えば、bp、塩基対; kb、キロベース; pl、ピコリットル; s又はsec、秒; min、分; h又はhr、時間; aa、アミノ酸; kb、キロベース; bp、塩基対; nt、ヌクレオチド; i.m.、筋肉内の(筋肉内に); i.p.、腹腔内の(腹腔内に);及びs.c.、皮下の(皮下に);等が使用され得る。
【0184】
一般の合成手順
本明細書に記載されているケトンエステルは、当業者に知られている化学合成プロトコールによって調製することができる(例えば、Greenら、「Protective Groups in Organic Chemistry」、(Wiley、第2版。1991); Harrisonら、「Compendium of Synthetic Organic Methods」、1-8巻 (John Wiley and Sons、1971 1996);「Beilstein Handbook of Organic Chemistry」、 Beilstein Institute of Organic Chemistry、Frankfurt、Germany; Feiserら、「Reagents for Organic Synthesis」、1-17巻、(Wiley Interscience); Trostら、「Comprehensive Organic Synthesis」、(Pergamon Press、1991); 「Theilheimer's Synthetic Methods of Organic Chemistry」、1 45巻、(Karger、1991); March、「Advanced Organic Chemistry」、(Wiley Interscience)、1991; Larock 「Comprehensive Organic Transformations」、(VCH Publishers、1989); Paquette、「Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis」、(John Wiley & Sons、1995)、Bodanzsky、「Principles of Peptide Synthesis」、(Springer Verlag、1984); Bodanzsky、「Practice of Peptide Synthesis」、(Springer Verlag、1984)を参照されたい)。更に、出発材料は、市販供給源から又は良く確立された合成手順を介して得ることができる。
【0185】
β-ヒドロキシエステル化合物
本明細書に記載されているβ-ヒドロキシエステル化合物は、下記に総称的に例示されている通りの合成経路を介して得ることができる:
【0186】
【0187】
スキーム1において、β-ヒドロキシエステルHE-1のヒドロキシル基は、弱塩基(例えば、ピリジン)で脱プロトン化され、置換塩化アシルと反応させることで、アシル置換β-ヒドロキシエステルAHE-1が得られる。R4は、H又は置換又は非置換C(1~6)アルキルであってよく; R5及びR6は、独立して置換又は非置換C(4~30)アルキルである。
【0188】
【0189】
スキーム2において、ナトリウムβ-ヒドロキシエステルHE-2は、極性非プロトン性溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド)中で臭化アルキルと反応させることで、アルキルβ-ヒドロキシエステルHE-3が得られる。弱塩基(例えば、ピリジン)でのβ-ヒドロキシエステルKE-3のヒドロキシル基の脱プロトン化及び置換塩化アシルとの反応で、アシル置換β-ヒドロキシエステルAHE-2が得られる。R4は、H又は置換又は非置換C(1~6)アルキルであってよく; R6及びR7は、独立して置換又は非置換C(4~30)アルキルである。
【0190】
(実施例1)
アシル置換エチルβ-ヒドロキシブチレートの合成
【0191】
【0192】
スキーム3に図示されている通り、1モル当量のR-エチルβ-ヒドロキシブチレートを、0.2モルの濃度までピリジン中に溶解させる。溶液を窒素雰囲気下に置き、0℃に冷却する。置換(例えば、ヘキシル、
図1a~
図1b、及びオクチル、
図2a~
図2b)塩化アシルを2モル当量で、撹拌しながらβ-ヒドロキシエステル溶液にシリンジを介して滴下により添加する。反応混合物を室温に加温させ、終夜撹拌した。反応物を次いで分液漏斗充填し、1.5体積の酢酸エチル(反応体積に基づく)で希釈し、次いで、0.5体積の塩酸溶液(HCl 10%)で5回、次いで0.5体積の水性飽和重炭酸ナトリウム溶液で4回及びブラインで1回洗浄した。酢酸エチル層を次いで、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、溶媒を回転蒸発によって除去した。粗生成物を
1H NMR (
図1a及び
図2a)及びガスクロマトグラフ質量分光分析法(
図1b及び
図2b)によって分析した。純粋な(>95%)生成物が見られ、主な異物はピリジンであり、これを更なる真空ポンピングによって除去した。
【0193】
(実施例2)
アシル置換ヘキシルβ-ヒドロキシブチレートの合成
【0194】
【0195】
スキーム4に図示されている通り、ナトリウムβ-ヒドロキシブチレート(1モル当量)を、0.2モルの濃度まで乾燥ジメチルホルムアミド中に懸濁させた。1-ブロモヘキサン(0.7モル当量)を添加し、反応容器を密封し、18時間の間撹拌しながらセ氏60度に加熱し、この時間中に反応混合物が清澄になった。それを次いで冷却し、分液漏斗に充填し、1.5体積の酢酸エチル(反応体積に基づく)で希釈した。それを次いで、0.5体積の水性飽和重炭酸ナトリウム溶液で5回及びブラインで1回洗浄した。酢酸エチル層を次いで、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、溶媒を回転蒸発によって除去した。粗生成物を1H NMR及びGC-MSによって分析した。純粋な(>95%)生成物が見られ、主な異物は1-ブロモヘキサンであり、これを更なる真空ポンピングによって除去した。
【0196】
ヘキシルβ-ヒドロキシブチレート生成物を次いで、0.2モルの濃度までピリジン中に溶解させた。溶液を窒素雰囲気下に置き、セ氏0度で冷却した。適切な塩化アシル(2モル当量)を、撹拌しながら溶液にシリンジを介して滴下により添加した。反応混合物を室温に加温させ、終夜撹拌した。反応混合物を次いで分液漏斗に充填し、1.5体積の酢酸エチル(反応体積に基づく)で希釈した。それを次いで、0.5体積の塩酸溶液(10%)で5回、次いで0.5体積の水性飽和重炭酸ナトリウム溶液で4回及びブラインで1回洗浄した。酢酸エチル層を次いで、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、溶媒を回転蒸発よって除去した。粗生成物を
1H NMR (
図3a)及びGC-MS (
図3b)によって分析した。純粋な(>95%)生成物が見られ、主な異物はピリジンであり、これを更なる真空ポンピングによって除去した。
【0197】
1,3-ブタンジオールエステル
本明細書に記載されている1,3-ブタンジオールエステルは、下記に総称的に例示されている通りの合成経路を介して得ることができる:
【0198】
【0199】
スキーム5において、1,3-ブタンジオールBD-1のヒドロキシル基を弱塩基(例えば、ピリジン)で脱プロトン化し、少なくとも2当量の置換塩化アシルと反応させることで、ホモ-アシル置換1,3-ブタンジオールエステルBDE-1が得られる。R1は、H又は置換又は非置換C(1~6)アルキルであってよく; R2は、置換又は非置換C(4~30)アルキルである。
【0200】
【0201】
スキーム6において、1,3-ブタンジオールBD-1の各ヒドロキシル基を、弱塩基(例えば、ピリジン)でステップ的に脱プロトン化し、1当量の第1の置換塩化アシル及び1当量の第2の置換塩化アシルと反応させることで、ヘテロ-アシル置換1,3-ブタンジオールエステルBDE-2が得られる。R1は、H又は置換若しくは非置換C(1~6)アルキルであってよく; R2及びR3は、独立して置換又は非置換C(4~30)アルキルである。
【0202】
(実施例3)
アシル置換R-1,3-ブタンジオールの合成
【0203】
【0204】
スキーム7に図示されている通り、R-1,3-ブタンジオール(1モル当量)を、0.2モルの濃度までピリジン中に溶解した。溶液を窒素雰囲気下に置き、セ氏0度で冷却した。3~3.5モル当量の適切な塩化アシル(ヘキシル、
図4a~
図4b;オクチル、
図5a~
図5b)を、撹拌しながら溶液にシリンジを介して滴下により添加した。反応混合物を室温に加温させておき、終夜撹拌した。反応混合物を次いで分液漏斗に充填し、1.5体積の酢酸エチル(反応体積に基づく)で希釈した。それを次いで、0.5体積の塩酸溶液(10%)で5回、次いで0.5体積の水性飽和重炭酸ナトリウム溶液で4回及びブラインで1回洗浄した。酢酸エチル層を次いで、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、溶媒を回転蒸発によって除去した。粗生成物を
1H NMR (
図4a及び
図5a)及びGC-MS (
図4b及び
図5b)によって分析した。純粋な(>95%)生成物が見られ、主な異物はピリジンであり、これを更なる真空ポンピングによって除去した。
【0205】
(実施例4)
野生型C57BL/6雄性マウスの血液中のBHBレベルを増加させることにおける生物学的機能
材料及び方法
ブタンジオールのC6及びC8エステル並びにβ-ヒドロキシブチレートのC6及びC8エステルを、Charles River Laboratories社から得られた野生型C57BL/6Ncrl雄性マウスにおいて試験するため、上に記載されている通りに合成及び精製した。マウスは、実験時に8カ月齢であった。ブタンジオール及びβ-ヒドロキシブチレートのC6及びC8エステルの生物学的機能を、腹腔内注射によって、各々2つの用量、50uL及び100uLで試験した。注射をおよそ9amに行い(マウスを7a~7pの明暗サイクルで維持する)、マウスは、常に食品及び水を入手できた。注射されたモル定量は、化合物及び用量に依存して0.13~0.41ミリモル変動した。対象マウスは、およそ30グラムの体重であったので、注射された化合物の定量は、およそ1g/kgから3g/kgを範囲とした。比較のため、これらの量は、ヒトにおいて約100カロリーと同等のマウスの1日のカロリー必要量の約1/20を理論的に供給し得る。注射(ベースライン)の直前に、並びに注射の30分、1時間、2時間、4時間及び6時間後に、血液を遠位尾ニックによって採取した。およそ40uLの血液をリチウム-ヘパリンマイクロベッテ(Sarstedt社CB-300LH)中に回収し、引き続いて1500×G、4℃で15分遠心分離することで、血漿を分離した。血漿BHBレベルを比色酵素アッセイ(Stanbio Laboratory社2440~058)によって決定した。
【0206】
結果
化合物の全てが血中BHBレベルを増加させた(
図6a~
図6c)。C6-BHB及びC8-BHB化合物は、試験された両用量で、BHBレベルを、ケトン食(0.5~2mM)で又は同様のマウスにおける終夜絶食(1~3mM)後に見られたレベルまで増加させた(
図6a)。観察された唯一の副作用は、より高い用量のC6-BHBでの軽度の鎮静であった。食品摂取量は測定しなかったが、6時間絶食は、血中BHBレベルを有意に増加させることはない(
図6c)ので、該化合物で見られる増加は、不注意な絶食によるものではなかった。重要なことに、血中BHBの増加は、同様のモル用量のBHB (
図6c)又はBD単独(
図6b)の注射によって見られたものよりも高く、該化合物の脂肪酸及びBHB/BD成分が、血中BHBレベルを増加させることにおいて、予想された別の及び相加的な活性を有することを実証した。全体的に、これらのデータは、新規なBHB/BD-脂肪酸エステル化合物が、一部の場合において終夜絶食と程度が同様であり、数時間の間続く、血中BHBレベルを増加させるという予想された生物学的機能を有することを示す。
【0207】
(実施例5)
ケトン食は、APPJ20マウスにおけるてんかん様スパイクを急性に抑制する
材料及び方法
1年齢のAPPJ20マウスにおけるてんかん様スパイクの抑制を決定するため、ケトン食及び終夜絶食を試験した。APPJ20マウスは、ヒトにおけるアルツハイマー病を引き起こすいくつかの突然変異を有するヒトAPP遺伝子を保有する。APP導入遺伝子を保有するヘテロ接合体マウスを、非トランスジェニック(NTG)の野生型同腹仔と比較して研究した。これらのマウスは、早期及び重度の認知欠陥、並びに脳波計(EEG)においてそれらの認知欠陥に寄与する特徴的てんかん様スパイクを示す。遺伝子操作による又は抗てんかん薬レベチラセタムによるてんかん様スパイクの低減は、認知改善と関連する。ここに記載されている研究は全て、雄性及び雌性マウスの両方を使用しており、データは、マウスが性別によって具体的に層別化されている場合を除いて、全てのマウスのまとめとして表されている。具体的に注記されている場合を除いて、結果が性別によって重層化されている場合に差異がなかった。マウス及びこのてんかん活性は、Palopら、Neuron 2007、55:697~711に更に記載されている。
【0208】
この研究において、以下の3つの条件下で連続23時間のEEG記録を受けるマウスの縦断コホートを使用した:最初に、正常対照食でのベースライン;第2に、ケトン食(KD)を開始した2日後;及び第3に、終夜絶食中。ベースラインEEGの前に8週間、及びKDと絶食EEGとの間に3週間、マウスを対照食で維持した。対照食は、タンパク質から10%のカロリー及び炭水化物から78%のカロリーを含めて、AIN-93Mに基づく。ケトン食は、脂肪から90%のカロリー及びゼロの炭水化物を含有するが、そうでなければ、カロリー当たりに基づいて対照食に適合させる。食餌をHarlan-Teklad社(現在Envigo社)による仕様にカスタム合成した。カロリー摂取量及び血中BHBレベルは、KDに切り換えた2日内は安定であり、そのKD及び絶食は、同様の1~2mMの血中BHBレベルを生成した。
【0209】
EEG記録中、マウスは、およそホームケージサイズを有する4つの透明なプラスチックシリンダーの1つの中を自由に移動していた。EEG記録のため及び鋭波スパイクを自動的に検出するため、Harmonie Stellateソフトウェアを使用した。マウスをEEGセッション中にもビデオ記録し、Noldus Ethovisionソフトウェアを使用して、移動を定量化した。未加工の移動データをクレンジングすることで、データ分析の前に反射又は他のアーチファクトを排除した。LabChart社ソフトウェアを使用して、20~80hz範囲においてEEGによって記録されるパワーとして定義されているガンマ活性を定量化した。GraphPad社プリズム及びカスタム記入Perlプログラムを使用して、データ分析を行った。EEG、データ記録、及びデータ分析方法論は、Verretら、Cell 2012、149:708~721に更に記載されている。
【0210】
結果
図7a~
図7hは、絶食ではなくケトン食が、APPJ20マウスにおけるてんかん様スパイクを一貫して低減したことを実証している。7aに示されている通り、KDを開始した2日後に記録された23時間EEGは、対照食での事前のベースラインと比較して、2.13スパイク/分から1.48スパイク/分の、約30%の平均スパイク低減を示した。終夜絶食させたマウスは、平均して変化を示さなかった。
図7bは、23時間EEG記録中に毎時スパイク総計を示し、スパイク抑制が23時間記録の全体にわたって一貫していたことを実証している。
図7c)は、各マウスのベースライン記録に正規化された、個々のマウスにおけるスパイク低減を示している(黒丸、P<0.05;棒線=中央値)。9匹のうち6匹のマウスは、KDでスパイクの全体的低減を有しており、1匹もベースラインを超えて増加されなかった。対照的に、絶食は一部のマウスにおいてスパイクを低減したが、それは他においてそれらを悪化させており、平均して変化をもたらさなかった。
【0211】
(実施例6)
ケトン食によるスパイク抑制は、介在ニューロン機能と独立である
材料及び方法
ケトン食及び終夜絶食を使用して、1年齢のAPPJ20マウスにおけるケトン食によるてんかん様スパイク抑制の機序を試験した。連続23時間EEG記録を受けるマウスの縦断コホートを、上記の実施例5において記載した。データ獲得及び分析のための方法論も、上記の実施例5に記載されている。移動データ、ガンマパワーデータ及びスパイクデータを1分間隔で照合することで、探索移動、阻害性介在ニューロンガンマ活性、及びスパイクの間の瞬時の関係を探索した。
【0212】
結果
探索移動は、パルブアルブミン陽性介在ニューロンからの阻害性ガンマ活性の増加を介するてんかん様スパイクの抑制と関連する(Verretら、Cell 2012、149:708~721)。KDがスパイクを抑制し得る3つの可能な機序は、探索移動の増加、所与のレベルの探索移動からのガンマ活性における誘発の誇張、又はベースラインガンマ活性の増加を介し得る。全体的移動は、全ての3つの条件において同様であり(
図7d)、したがって、探索活動の増加はKDからのスパイク抑制を説明しなかった。相対的なガンマ活性も3つの条件間で同様であった(
図7e)。
図7fは、毎分のスパイク及び移動の散乱プロットについて95% CIを有する、最もフィットする線形回帰線を提供している。APPJ20マウスは、通常、より高い探索移動でより低いスパイクを有しており; KDは、移動の全てのレベルでスパイク抑制と関連した(
図7f)。
図7gは、毎分の正規化ガンマ活性及び移動の散乱プロットについて95% CIを有する、最もフィットする線形回帰線を提供しており、KDで移動によるガンマ活性の誘発速度の変化を示していない。言い換えると、移動でのガンマ活性の増加速度は、対照食とKDとの間で同様であった(
図7g)。最終的に、ガンマ活性の全体平均レベルは、KDでのほとんどのマウスについて未変化であり、スパイクの変化と関連しなかった(
図7h)。全体的に、KDは、パルブアルブミン陽性介在ニューロンと独立に、又はこのニューロン集団においてガンマ活性を発生させるシナプス前電位の下流でのいずれかで作用しているように思われる。
【0213】
(実施例7)
長期ケトン食はスパイクを低減し、認知を改善する
材料及び方法
KDでのてんかん様スパイクの抑制の長期持続可能性、及びスパイク抑制が認知改善と関連するかどうかを、以下の通りに決定した。1年齢のAPPJ20マウス群(これらのマウスは実施例5に記載されている)に、対照食又はKD (食餌は実施例5に記載されている)のいずれかを行い、3カ月間続けた。それらは、この期間の後半に7回の50分EEG記録セッションを受けた(EEG記録方法論は実施例5に記載されている)。加えて、それらは、最初の1カ月中にオープンフィールドへの馴化を受け、一方、馴化の2週及び5週後のEEGセッションの2つは、前の馴化からオープンフィールドに慣れることが探索活動を低減するかを試験するためのプローブとして働いた(
図8a)。
【0214】
オープンフィールドへの馴化は、視空間記憶及び認知機能の共通試験である(Verretら、Cell 2012、149:708~721)。チャンバー床を横切ってX軸及びY軸における移動を測定するための2つの光ビームアレイ;同様に、立ち上がり行動を検出するためにZ軸において上昇させた追加のアレイ対を含有する4つの同一の透明なプラスチックチャンバー(40×40×30cm)の1つに、マウスを入れた。該器具は、San Diego Instruments社からのPhotobeam Activity Systemソフトウェアによって制御される。カスタマイズされたプログラムは、未加工のビーム遮断データの処理を行う。カスタマイズされたプログラムを使用して、オープンフィールドからの移動データを、EEGからのスパイク及びガンマパワーデータと統合する。正常のマウスは、それらの探索活動が、数日から数週にわたるオープンフィールドへの曝露の反復で急速に低下するという点において、急速な馴化を示す。APPJ20マウスは、探索活動が、数日から数週にわたるオープンフィールドへの曝露の反復にもかかわらず依然として上昇されているという点において、馴化の欠損を示す(Verretら、Cell 2012、149:708~721)。
【0215】
結果
図8a~
図8hは、KDの結果としてのてんかん様スパイクの低減が数カ月間続き、オープンフィールドへの馴化における認知改善と関連することを示している。
図8aは、実験のタイムラインを提供している。KDがKDの開始に続く数日でてんかん様スパイクを抑制することを実証したので、この効果を評価することで、食餌で数週から数カ月にわたる持続可能性、及びスパイク抑制が認知改善に関連するかどうかを決定した。
図8bは、長期のKDが一貫して、3カ月の期間にわたっててんかん様スパイクを約40%、平均2.51スパイク/分から1.53へと低減したことを示している(
図8b)。
図8c及び
図8dは、スパイクが移動の全てのレベルで(
図8d)及び50分の記録の全体にわたって(
図8c)一貫して抑制されたが、一方で対照食でのマウスが、記録セッションにおける後期に低移動の期間で、より高いレベルのスパイクを示したことを示している。予測された通り、KDでのAPPJ20マウスは、早期馴化後のオープンフィールドへの再曝露での探索活動の低減を実証した。全体的な移動レベルは、オープンフィールドの中心(周辺と対照的に)を通る移動(
図8g)及び立ち上がり(
図8h)等、より特定の探索移動と同じく、非トランスジェニック(野生型)対照(
図8e及び
図8f)と同様であった。対照食でのAPPJ20トランスジェニックマウスは、対照的に、活動亢進及び高レベルの探索移動を呈し続けた(
図8e~h)。
【0216】
前の23時間EEG研究は縦断であり(実施例5)、同じマウスが対照食及びKDの両方で記録されたが、このより長い期間の研究は、別々の食餌群にマウスを必然的に維持した。APPJ20マウス間のスパイクレベルにおける個々の変動が、数日から週にわたる食餌群間のてんかん様スパイクにおける差異を説明しないことを確認するために、第2の縦断研究を行った。一群のマウスを対照食からKDに交替し、各食餌での4つの50分EEG記録を得た。やはり、マウスは、KDの最中に50%超の有意なてんかん様スパイクの抑制を示し、以前に見られたように、探索活動とスパイクとの間の関係は同じく無かった。
【0217】
(実施例8)
慢性ケトン食は、肥満、雄生存、及び学習の改善と関連する
材料及び方法
慢性ケトン食からの認知改善、雄生存、及び肥満を、1年齢のAPPJ20マウスにおいて試験した。
【0218】
この6カ月研究は、2カ月齢のAPPJ20マウス(マウスは実施例5で更に記載されている)及び同腹仔、非トランスジェニック(野生型)対照マウスから開始して行った。該研究は3つの疑問: 1)マウスへ長期に給餌されるKDは、肥満等、不利な代謝的効果を有するか; 2) KDは、てんかん様スパイクを抑制する他の処置によって軽快する、APPJ20マウスに共通して見られる早期死亡率を低減するか;及び3) KDでのAPPJ20マウスは、他の視空間認知試験において改善を示すか?に答えた。食餌介入は、実施例5に記載されている。
【0219】
モリス水迷路は、共通の視空間記憶試験である。該迷路は、粉体白色塗料で不透明にされた水で満たされている浅い桶(122cmの直径)からなる。大きな高コントラスト視覚的キューが部屋の壁に掛けられている。実験が始まる前日に、マウスを部屋及び水プールに馴化させた。実験プロトコールは、6日の訓練(学習)試行、続いて、最終訓練試行の24時間後の探査(記憶)試行からなっていた。訓練試行中、14×14cmのプラットフォームを水面の直下に沈めた。60秒試行の反復で、部屋からの視覚的キューを使用して隠れプラットフォームの位置を特定するようにマウスを訓練した。プラットフォーム位置を訓練中一定に保持したが、一方、マウスの進入ポイントを試行間で半ランダムに変えた。最終日に、プラットフォームを探査試行のために除去した。マウス移動をEthovisionビデオ追跡ソフトウェア(Nolus社)でモニタリングした。訓練試行における遂行能力は、どのくらい迅速にマウスが各試行中にプラットフォームの位置を特定するかによって評価される。探査試行における遂行能力は、プラットフォームが以前にあったプールの正しい四分円の中をマウスが泳ぐのに費やす時間の割合によって評価される。この7日実験プロトコールの完了に続いて、プラットフォームの位置を変えた。マウスは次いで、この新たな位置への3日の「逆戻り訓練」を受け、続いて再び、最終訓練試行の24時間後にプラットフォームが除去された探査試行を受けた。
【0220】
結果
図9a~
図9hは、長期ケトン食が、認知、並びに雄において生存を改善することを実証している。
図9aは、2カ月齢で開始されたKD又は対照食のいずれかでのAPPJ20及びNTGマウスについて体重の変化を示している。KDは、APPJ20及びNTGマウスの両方について実質的に肥満の原因となっており、実質的な体重増加を引き起こした。
図9bは、研究の開始から約2週毎に行われた6回の朝測定の平均血漿BHBレベルを示している。両群は、一般に早期からより高い、6カ月期間にわたって約1mMの平均である血漿BHBレベルを発生させた。これらのレベルは、対照食でのマウスよりも約10倍高かった。血漿グルコースレベルは、全ての群において同様であった。全ての群において雄は雌よりも重く、雌は、KDでのほうが幾分高いBHBレベルを有していた。
【0221】
図9c及び
図9dは、KD対対照食でのAPPJ20雄性及び雌性マウスについての生存曲線を提供している。NTGマウスの死亡はなかった。APPJ20マウスは、致死的痙攣によると思われる40%もの高い早期死亡率を有する。死亡率の低減への傾向を決定し、性別による層別化は、それが、雄性マウスのより重大な死亡率の有意な低減によることを明らかにしており;すでに高い雌生存は、影響されなかった(
図9c及び
図9d)。
【0222】
図9e~
図9hは、生存マウスが5カ月齢であった場合の、食餌の開始の3カ月後に行われたモリス水迷路試験の結果を示している。KDでのAPPマウスは、水迷路の隠れプラットフォーム訓練(学習)フェーズにおいて、有意に改善された遂行能力を示した(
図9e)。この改善は、プラットフォームの位置を移動させた場合に依然として一貫していた(逆戻り訓練、
図9g)。しかしながら、初期の隠れたプラットフォーム訓練に続いて又は逆戻り訓練の後のいずれでも、水迷路の探査/記憶フェーズ中において遂行能力の差異はなかった(
図9f及び
図9h)。
【0223】
(実施例9)
ケト原性化合物は、通常の食餌に関するスパイクを抑制する
材料及び方法
ブタンジオールのC6及びC8エステル並びにβ-ヒドロキシブチレートのC6及びC8エステルを、上に記載されている通りに合成した。β-ヒドロキシブチレートのC6エステルを、雄性及び雌性マウスの両方を含めた1~2年齢のAPPJ20マウスへの腹腔内注射によってAPPJ20マウスにおけるスパイクを抑制する際の効力について試験した。APPJ20マウスは実施例5に記載した。
【0224】
C6-BHB又は同等体積の生理食塩水の腹腔内注射の前後に、APPJ20マウスからEEGを記録した。第1の50分記録の完了に続いて、該注射を行った。マウスを次いで、それらのホームケージの中で20分間回復させ、その後、第2の50分EEG記録を続けた。血漿BHBレベルを測定するために(実施例4に記載されている通り)、第2のEEGセッションの完了に続いて直ちに、血液を採取した。実施例4からの、以前に試験された2つの用量の低い方を、30gの体重当たり50μL、およそ1.5g/kg及びおよそ0.2ミリモルで注射した。
【0225】
EEG記録中、マウスは、およそホームケージサイズの透明なシリンダーの中を自由に移動していた。移動についてのEEG及びビデオ追跡の記録及び分析のための方法論は、実施例5に記載した。採血及び血漿BHB測定のための方法論は実施例4に記載した。
【0226】
該研究はクロスオーバー設計を使用しており、ここで、全てのマウスに対して異なる日にC6-BHB及び規定生理食塩水の両方を注射しており、注射間は少なくとも48時間であった。データ分析は、全ての注射及びEEG記録を完了したマウスに限定した。
【0227】
結果
図10a~
図10fは、BHBに代謝される本明細書に記載の化合物が、てんかん様スパイクを直ちに低減することを実証している。
図10aは、BHBにエステル連結されている中鎖脂肪酸を有する例示ケト原性化合物の模式図を提供している。
図10bは、C6-BHBの注射が、注射のおよそ70~80分後(EEGに続いて)に測定された血中BHBレベルを増加させたことを示している。C6-BHBの注射は、血漿BHBレベルをおよそ200μMの中央値からおよそ600μMの中央値へ増加させた。
図10cは、注射前ベースライン及び生理食塩水の注射の両方と比較して、C6-BHBの注射がスパイクを低減することを示している。50分EEG記録にわたる平均スパイクのプロット(
図10d)は、C6-BHB注射の後にKDと同様の一貫性のある低減を示している。C6-BHBは、てんかん様スパイクを、生理食塩水注射と比較しておよそ35%、1.25スパイク/分から0.82スパイク/分に低減した。個々のマウスレベルでの、生理食塩水後と比較したC6-BHB後のスパイク低減の分析は、ほとんどのマウスについて有意な低減を示している(黒丸、P<0.05;棒線=中央値) (
図10e)。C6-BHBと生理食塩水注射との間のスパイクにおける差異は、KDと同様、マウスが静止している(ガンマ活性が最も低い)場合に最も際立った(
図10f)。
【0228】
実施例6~9の結果の要約
機能不全性阻害性介在ニューロンからの正常のネットワーク活性の混乱及び関連したてんかん様スパイクは、アルツハイマー病マウスモデルにおける認知衰退の病変形成にとって重要である。てんかん様スパイクを低減する処置は、これらのモデルにおける認知を改善する。ケトン食及び絶食は、アルツハイマーモデルにおけるネットワーク活性の混乱に機構的に関連したものを含めて、てんかんのある特定の形態を処置するために使用されてきた。例えば、ナトリウムチャネルサブユニットSCN1Aの発現の低減は、APPJ20マウスにおける早期死亡率、てんかん様スパイク及び認知機能欠損に至る鍵となる機序であることが見出され、正常発現の回復は、これらの欠損を改善した(Verretら、2012)。従来の抗てんかん薬物療法でしばしば難治性であるがケトン食(KD)に応答し得るドラベ症候群を含めて、SCN1Aにおける突然変異によるヒト遺伝子痙攣障害の一群がある(Korffら、J Child Neurol 2007、22:185)。SCN1A突然変異体マウスもKDに応答する(Duttonら、Epilepsia 2011、52:2050)。KDがアルツハイマー病のマウスモデルにおいててんかん様スパイクを低減し、それによって認知を改善することができるかどうかを決定するための研究を行った。
【0229】
絶食ではなくケトン食が、APPJ20アルツハイマーマウスモデルにおいててんかん様スパイクを一貫して低減した。スパイクにおけるこの低減は、阻害性介在ニューロン機能と独立である又はその下流におけるものであった。スパイク低減に対する効果は、数カ月の処置を介して維持された。長期処置は、水迷路における及びオープンフィールドへの馴化における認知改善をもたらし、より重大に影響された雄性APPJ20マウスにおいて、生存も改善した。最終的に、ケトン体β-ヒドロキシブチレートに代謝される本明細書に記載の化合物を用いる処置は、てんかん様スパイクを、ケトン食と同様の程度に直ちに低減した。ネットワーク機能を改善すること及びてんかん活性を軽快させることを介するアルツハイマー病の処置において、β-ヒドロキシブチレートの血中レベルを増加させる又はβ-ヒドロキシブチレートの下流標的に作用する薬剤が、本明細書において提供されている。
【0230】
(実施例10)
β-ヒドロキシブチレートのC6エステルが補充された食品を使用するパイロット給餌研究
材料及び方法
マウスにおいて試験するため、β-ヒドロキシブチレートのC6モノエステルを、上に記載されている通りに合成し、精製した。ケトン食及び対照食に関与する上記実施例において使用されるのと同じ対照食である粉砕対照食品(タンパク質から10%のカロリー)中に、β-ヒドロキシブチレートのC6モノエステルを混合した。該食品を、夜間給餌サイクルの開始の19:00時に、動物ケージの内側のガラスジャーに入れた。異なる濃度のβ-ヒドロキシブチレートのC6モノエステル(w/w)を対照食中に混合することで、どの濃度がマウスにおけるBHBレベルを上昇させるのに十分であるかを決定した。n=4匹のマウス/条件(ケージ当たり2匹のマウス)。全てのマウスは、12カ月齢のC57BL/6雄であった。
【0231】
結果
図11は、異なる濃度のβ-ヒドロキシブチレートのC6エステルを含有する食品の経時的な摂取量を図示している。10質量%及び20質量%のβ-ヒドロキシブチレートのC6モノエステルを含有する食品は、マウスにとって美味しくないことが観察され、より低い速度で経口摂取された。5質量%のβ-ヒドロキシブチレートのC6モノエステルを組み込むことは、対照と相対して、最初の12時間かけてマウスによって消費された食品の量を変化させなかった。
【0232】
図12は、異なる量のβ-ヒドロキシブチレートのC6モノエステルを含有する食餌を給餌されている間の、経時的なマウスによる体重減少を図示している。2.5質量%及び5質量%のβ-ヒドロキシブチレートのC6エステルを含有する食餌を給餌されたマウスによって呈された体重減少は、正常量の食品が研究の過程にわたってマウスによって経口摂取されたので、絶食に帰するものではなかった。
【0233】
図13は、給餌研究の過程中のマウスの血糖レベルを図示している。対照食品組成物を経口摂取するマウス及び異なる量のβ-ヒドロキシブチレートのC6モノエステルを有する食品を経口摂取するマウスは、糖血症の正常範囲内の血糖レベルを呈した(min.=70mg/dL; max=180mg/dL)。10質量%及び20質量%のβ-ヒドロキシブチレートのC6モノエステルを有する食品を経口摂取するマウスは、最初の12時間にわたって、減少する血糖を呈した。観察は、これらのマウスが、10質量%及び20質量%のβ-ヒドロキシブチレートのC6モノエステルを有する食品を最初の12時間中にほとんど消費しなかったことを示した。何らかの特別な理論に縛られることを意図するものではないが、この絶食が、これらの条件に関して血糖の減少をもたらしたと思われる。
【0234】
図14は、異なる量のβ-ヒドロキシブチレートのC6モノエステルを有する食品をマウスに給餌した後の経時的なβ-ヒドロキシブチレートの血中濃度を図示している。2.5質量%又は5質量%のβ-ヒドロキシブチレートのC6モノエステルを含有する食餌は、血液中のBHBレベルにおける軽度の増加をもたらしたが、標的500μM閾値よりも大きいレベルを提供するには不十分であった。10質量%又は20質量%のβ-ヒドロキシブチレートのC6モノエステルを含めた食餌を給餌されたマウスは、β-ヒドロキシブチレート濃度において、より大きな増加を呈した。しかしながら、何らかの特別な理論に縛られることを意図するものではないが、BHBレベルにおけるこの増加は、マウスが該食品をほとんど食べなかったので、食餌におけるβ-ヒドロキシブチレートのC6モノエステルのより高い濃度の結果でない可能性が高かったと考えられる。むしろ、この増加は、マウスが絶食したことによっておそらく説明される。
【0235】
(実施例11)
β-ヒドロキシブチレート及びブタンジオールのエステルが補充された食品を使用する、パイロット給餌研究
材料及び方法
マウスにおいて試験するため、β-ヒドロキシブチレート及びブタンジオールの異なるエステルを、上に記載されている通りに合成し、精製した。この研究においてマウスの食餌に補充されたβ-ヒドロキシブチレート及びブタンジオールのエステルは、以下の通りであった: 1)ブタンジオールのC8ジエステル(C8x2-BD); 2)β-ヒドロキシブチレートのC8モノエステル(C8-BHB); 3)β-ヒドロキシブチレートのC6ジエステル(C6x2-BHB); 4)β-ヒドロキシブチレートのC6モノエステル(C6-BHB);及び5)ブタンジオールのC6ジエステル(C6x2-BD)。1,3-ブタンジオールが補充された食品組成物も試験した。化合物を粉砕正常固形飼料(タンパク質から20%のカロリー)中に10質量%で混合することで、標準的な動物飼育飼料(vivarium feed)に適合した。該食品を動物ケージの内側のガラスジャーの中に提供した。n=2匹のマウス/条件、合計で18匹のマウス。全てのマウスは、12カ月齢のC57BL/6雄であった。より正確に食品摂取量を記録するために、マウスを個々のケージに入れた。食品を72時間で正常固形飼料に切り換え戻した(粉砕、及びガラスジャーの中)。
【0236】
結果
図15は、上記にリストされているブタンジオールのエステル及びβ-ヒドロキシブチレートのエステルを含有する食品の経時的な摂取量を図示している。対照は、サプリメントを用いない正常固形飼料食餌であった。1,3-ブタンジオール、β-ヒドロキシブチレートのC6モノエステルに対する対照として働く2炭素アルキル基(C6)にエステル連結されている6炭素脂肪酸、及びβ-ヒドロキシブチレートのC6ジエステルに対する対照として働く6炭素アルキル基(C6x2)にエステル連結されている6炭素脂肪酸が補充された食品も試験した。
【0237】
化合物に依存して、マウスは、補充固形飼料の味/匂いに適応し正常量を食べ始めるのに2日から4日必要だった。
【0238】
図16は、ブタンジオール及びβ-ヒドロキシブチレートの異なるエステルが補充された食品組成物を給餌した場合の経時的なマウスにおける体重減少を図示している。結果は、有意な体重減少を引き起こす化合物と、対照と同様の体重減少を引き起こす化合物との間の明らかな違いを示している。ブタンジオールのC8ジエステルが補充された食餌を給餌されたマウスは、対照食品組成物を消費したマウスとおよそ同量の体重が減少したが、β-ヒドロキシブチレートのC6ジエステル、ブタンジオールのC6ジエステル、β-ヒドロキシブチレートのC8モノエステル、及びβ-ヒドロキシブチレートのC6モノエステルを消費したマウスは、有意な体重減少を呈した。何らかの特別な理論に縛られることを意図するものではないが、これらの結果は、食品摂取量における差異のみによって説明されるわけでないと思われる(例えば、C6x2-BDの食品摂取量は正常であったが、体重減少がなお生じた)。何らかの特別な理論に縛られることを意図するものではないが、対照マウスの体重減少は、粉砕食品の食感及び配置に適応する間の、実験開始でのより低い食品摂取量、並びに個々のケージの使用に起因するより高い熱損失によって説明され得ると思われる。
【0239】
図17は、給餌研究の過程中でのマウスの血糖レベルを図示している。対照食品組成物を経口摂取するマウス並びにブタンジオール及びβ-ヒドロキシブチレートのエステルの異なる型を含有する食品を経口摂取するマウスは、糖血症の正常範囲内の血糖レベルを呈した(min.=70mg/dL; max=180mg/dL)。呈された低血糖の一部は、絶食によって説明され得る(C8-BHB及びC6)が、他(C6-BHB)は、化合物の結果である可能性が高い。鎮静は観察されなかった。
【0240】
図18は、ブタンジオール及びβ-ヒドロキシブチレートの異なるエステルを含有する食品をマウスに給餌した後の経時的なβ-ヒドロキシブチレートの血中濃度を図示している。水平の点線は、標的500μM閾値を示す。結果を解釈する際、絶食効果は考慮されるべきでない。例えば、C8-BHBについての高いBHB値は、化合物それ自体の結果よりはむしろ絶食の結果である可能性が高い。日/夜パターンも48時間後に明らかになり、高いBHBは夜間の給餌期間中であり、より低いBHBは日中である。何らかの特別な理論に縛られることを意図するものではないが、この日周パターンは、給餌期間中に体内でBHBに変換される経口摂取化合物と合致すると思われる。
【0241】
(実施例12)
β-ヒドロキシブチレートのC6ジエステルが補充された食品のマウス給餌研究
材料及び方法
上記パイロット研究の結果に基づき、β-ヒドロキシブチレートのC6ジエステルを、それが、正規化された食品摂取量の後でさえ依然としてケトン原性であるかを見るため、より多数のマウスを用いるより長い研究のために選択した。マウスにおいて試験するため、β-ヒドロキシブチレートのC6ジエステルを、上に記載されている通りに合成し、精製した。β-ヒドロキシブチレートのC6ジエステルを、粉砕された標準的固形飼料食餌中に10質量%で混合し(タンパク質から20%のカロリー)、これをペレットに再形成した。再ペレット化食品を使用することで、粉砕される食餌食感の変化からの任意の可変効果を最小化した。
【0242】
ペレット化食品は、動物ケージの中のガラスジャーに入れた後、マウスによって消費された。1食餌当たり4匹のマウスを試験し、マウスを個々にケージに入れた。全てのマウスは、12カ月齢のC57BL/6雄であった。毎日の体重及びカロリー摂取量をモニタリングし、第8夜にグルコース及びβ-ヒドロキシブチレートレベルのために血液を採取した。β-ヒドロキシブチレートのC6エステルが補充された食品を給餌されたマウスは、初期に、食品をあまり食べず、体重が減少した。第7夜までに、マウスの体重は安定し、24時間カロリー摂取量は、対照食とβ-ヒドロキシブチレートのC6エステルが補充された食品を消費したマウスとの間で同様だった。第8夜に、両群のマウスは、19:00時での自然な給餌時間の開始と23:00時に開始して血液が採取された時間との間の4時間で同様のカロリーを消費した。
【0243】
結果
図19は、対照食を給餌されたマウス及び10質量%のβ-ヒドロキシブチレートのC6ジエステルが補充された食餌を給餌されたマウスの、血漿β-ヒドロキシブチレート、血糖及びカロリー摂取量の比較を図示している。β-ヒドロキシブチレートのC6ジエステルが補充された食餌を給餌されたマウスは、それが、正常のカロリー摂取量を有する正常の食餌の一部としてであっても、より大きいβ-ヒドロキシブチレート血漿濃度を呈し、標的500μM閾値に達した。
【0244】
本発明は、その特定の実施形態を参照して記載されてきたが、様々な変化が行われてよく、本発明の真の趣旨及び範疇から逸脱することなく同等物が置換されていてよいことが、当業者によって理解されるべきである。加えて、特別な状況、材料、物質の組成物、プロセス、プロセスステップ又はステップを、本発明の目的、趣旨及び範疇に適応させるため、多くの修飾が行われてよい。全てのこうした修飾は、本明細書に添付されている請求項の範疇内であると意図される。
バインダーが、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、アラビアガム、ポリ(エチレングリコール)、スクロース、デンプン、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項24に記載の経口調製物。
安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン、及びこれらの混合物からなる群から選択される保存料を含む、請求項28に記載の経口調製物。