(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028289
(43)【公開日】2024-03-04
(54)【発明の名称】炭素繊維基材、プリプレグ、多孔質構造体、その製造方法、プリフォーム、繊維強化樹脂成形体、サンドイッチ構造体および航空機部材
(51)【国際特許分類】
D06M 15/59 20060101AFI20240226BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20240226BHJP
C08J 9/35 20060101ALI20240226BHJP
D04H 1/4242 20120101ALI20240226BHJP
B64C 1/00 20060101ALI20240226BHJP
B29K 105/12 20060101ALN20240226BHJP
【FI】
D06M15/59
B29B11/16
C08J9/35
D04H1/4242
B64C1/00 B
B29K105:12
【審査請求】未請求
【請求項の数】31
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216448
(22)【出願日】2023-12-22
(62)【分割の表示】P 2023517265の分割
【原出願日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2022055755
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022055756
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今井 直吉
(72)【発明者】
【氏名】中山 義文
(72)【発明者】
【氏名】本間 雅登
(57)【要約】
【課題】
耐熱性と成形加工性とを高いレベルで両立させた炭素繊維基材を得て、それを用いた耐熱性の高いプリプレグや多孔質構造体を提供する。
【解決手段】
炭素繊維(A)と、炭素繊維(A)の表面を被覆する樹脂組成物(B)とを含み、炭素繊維(A)が不織布を形成しており、300℃で5分間加熱後の引張強度が前記加熱前の110%以上である、炭素繊維基材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維(A)と、炭素繊維(A)の表面を被覆する樹脂組成物(B)とを含み、
炭素繊維(A)が不織布を形成しており、
300℃で5分間加熱後の引張強度が前記加熱前の110%以上である、炭素繊維基材。
【請求項2】
樹脂組成物(B)が、ポリアミック酸、ポリアミック酸塩、ポリアミック酸エステル、ポリヒドロキシアミドおよびポリアミノアミドから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の炭素繊維基材。
【請求項3】
樹脂組成物(B)が脱水縮合反応しうるものであり、当該反応における下記式(1)で定義される熱質量減少率が5~50質量%である、請求項1または2に記載の炭素繊維基材。
熱質量減少率(質量%)=[(W1-W2)/W1]×100・・・(1)
ここで、W1は室温から100℃まで10℃/分で昇温し、さらに30分間等温保持した後の試料質量(mg)であり、W2は次いで10℃/分で昇温し250℃に到達した際の試料質量(mg)である。
【請求項4】
300℃で5分間加熱後に室温で測定した炭素繊維基材の任意の方向の引張強度(Ta)を、その直交方向の引張強度(Tb)で除することで求められる引張強度の比(Ta/Tb)が0.6~1.7である、請求項1~3のいずれかに記載の炭素繊維基材。
【請求項5】
炭素繊維(A)の数平均繊維長が0.1~100mmである、請求項1~4のいずれかに記載の炭素繊維基材。
【請求項6】
炭素繊維(A)100質量部に対する樹脂組成物(B)が0.5~30質量部である、請求項1~5のいずれかに記載の炭素繊維基材。
【請求項7】
前記炭素繊維基材における炭素繊維(A)の質量割合が90%以上97%以下である、請求項1~6のいずれかに記載の炭素繊維基材。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の炭素繊維基材、またはそれに由来する基材にマトリクス樹脂(C)が含浸してなる、プリプレグ。
【請求項9】
炭素繊維(A)およびバインダー樹脂組成物からなる基材にマトリクス樹脂(C)が含浸してなり、
前記バインダー樹脂組成物が樹脂組成物(B)であるかまたはそれに由来するものであり、
前記バインダー樹脂組成物のガラス転移温度が120℃以上450℃以下であり、
マトリクス樹脂(C)の融点が250℃以上400℃以下であり、
前記バインダー樹脂組成物は、炭素繊維(A)とマトリクス樹脂(C)との界面に存在し、
以下の条件(i)および(ii)を満たす、請求項8に記載のプリプレグ。
(i)引張強度の最小値が100MPa以上である。
(ii)400℃での厚みバラツキが10%以下である。
【請求項10】
炭素繊維(A)およびバインダー樹脂組成物(D)からなる基材にマトリクス樹脂(C)が含浸してなるプリプレグであって、
炭素繊維(A)が不連続繊維であり不織布を形成しており、
バインダー樹脂組成物(D)のガラス転移温度が120℃以上450℃以下であり、
マトリクス樹脂(C)の融点が250℃以上400℃以下であり、
バインダー樹脂組成物(D)が炭素繊維(A)とマトリクス樹脂(C)との界面に存在し、
以下の条件(i)および(ii)を満たすプリプレグ。
(i)引張強度の最小値が100MPa以上である。
(ii)400℃での厚みバラツキが10%以下である。
【請求項11】
前記バインダー樹脂組成物(D)がエーテルイミド骨格、ベンゾオキサゾール骨格、ベンゾイミダゾール骨格、ベンゾオキサジン骨格およびシアネートエステル骨格から選択される少なくとも1種の構造を有する重合体またはその誘導体を含む組成物である、請求項10に記載のプリプレグ。
【請求項12】
前記バインダー樹脂組成物(D)がフェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、シアネートエステル樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂を含む、請求項10または11に記載のプリプレグ。
【請求項13】
前記バインダー樹脂組成物(D)の400℃での熱質量減少率が5質量%以下である、請求項10~12のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項14】
前記マトリクス樹脂(C)がポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトンから選択される少なくとも1種を主成分として含む、請求項8~13のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項15】
前記炭素繊維(A)100質量部に対する前記マトリクス樹脂(C)の量が5~1,000質量部である、請求項8~14のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項16】
前記炭素繊維(A)が繊維長2mm以上10mm以下の繊維を50質量%以上含む、請求項8~15のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項17】
400℃での厚みが0.1mm以上5mm以下である、請求項8~16のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項18】
面内の引張強度のバラツキが20%以下である、請求項8~17のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項19】
引張強度の最大値が260MPa以上である、請求項8~18のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項20】
引張強度の最小値に対する引張強度の最大値の比が1~3である、請求項8~19のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項21】
前記プリプレグにおける炭素繊維(A)の質量割合が1%以上50%以下である、請求項8~20のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項22】
マトリクス樹脂(C)の溶融時に、面外方向の平均膨張率150~1,000%で膨張する、請求項8~21のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項23】
請求項8~22のいずれかに記載のプリプレグから成形されてなる、多孔質構造体。
【請求項24】
140℃に加熱時の曲げ強度が、30℃での曲げ強度の80%以上である、請求項23に記載の多孔質構造体。
【請求項25】
請求項23または24に記載の多孔質構造体を製造する方法であって、前記マトリクス樹脂(C)を溶融させて膨張させる第1の工程、および前記マトリクス樹脂(C)を固化させる第2の工程を含む、多孔質構造体の製造方法。
【請求項26】
請求項8~22のいずれかに記載のプリプレグを積層単位として含むプリフォーム。
【請求項27】
請求項26に記載のプリフォームを加熱加圧することにより成形してなる、繊維強化樹脂成形体。
【請求項28】
請求項26に記載のプリフォームを加熱膨張することにより成形してなる、空隙を有する、繊維強化樹脂成形体。
【請求項29】
コルゲート形状またはハニカム形状である、請求項27または28に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項30】
請求項27~29のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形体を芯材として、一対のスキン材の間に挟んで一体化してなる、サンドイッチ構造体。
【請求項31】
請求項8~22のいずれかに記載のプリプレグ、請求項23または24に記載の多孔質構造体、請求項27~29のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形体、または請求項30に記載のサンドイッチ構造体を含む、航空機部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維基材およびプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維基材などの強化繊維基材を補強材として用い、その空孔にマトリクス樹脂を含浸させた繊維強化複合材料は、軽量でありながら、強度や剛性などの力学特性に優れており、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築、電子機器、産業機械、およびスポーツ用品などの数多くの分野に応用されてきた。特に炭素繊維不織布を炭素繊維基材に用いたプリプレグやそれを膨張させた多孔質構造体は、力学特性に優れ、さらに薄肉や立体形状といった複雑な形状への加工に優れる特長がある。また、強化繊維を単糸レベルで分散させて等方的に繊維配向させた不織布を強化繊維基材に用いたプリプレグは、力学特性が等方的であるために、疑似等方積層の様な強度の低い方向を補い合う積層を必要とせず、積層構成の設計自由度が高い特長がある。このようなプリプレグは単層のまま薄肉で使用したり、複数枚を自由に積層させたプリフォームとして成形用途に用いることができ、さらに加熱加圧することで空隙のない繊維強化樹脂成形体に成形したり、加熱膨張させることで空隙体に成形することができるため、薄肉や立体形状といった複雑な形状への加工に優れる特長がある。特許文献1には、バインダーを付与した炭素繊維基材とこれにマトリクス樹脂を含浸させた繊維強化複合材料が示されている。
【0003】
一方で、これらの用途展開に際して成形加工性と耐熱性との両立は継続的な課題である。とりわけ市場に求められるマトリクス樹脂は高耐熱化が進んでおり、これにともない含浸プロセスが高温、高圧化し、このようなプロセスにも耐える成形加工性に優れた炭素繊維基材の開発が課題であった。特許文献2および特許文献3には、耐熱性の高い繊維強化樹脂を得るための炭素繊維として、ポリエーテルイミドをサイジング剤として塗布した炭素繊維が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/013645号
【特許文献2】特公平02-002990号公報
【特許文献3】特表2014-500912号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、高融点なマトリクス樹脂の使用にともなう高温、高圧プロセスに応じた炭素繊維基材の開示が無く、さらなる耐熱性と成形加工性の向上が課題であった。特許文献2および3は、サイジング剤に関する技術であり不織布形状の強化繊維への含浸や塗布には不十分であった。
【0006】
本発明は、成形加工性と耐熱性とを両立させた炭素繊維基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、炭素繊維(A)と、炭素繊維(A)の表面を被覆する樹脂組成物(B)とを含み、炭素繊維(A)が不織布を形成しており、300℃で5分間加熱後の引張強度が前記加熱前の110%以上である、炭素繊維基材である。
【0008】
また本発明は、本発明の炭素繊維基材に由来する基材にマトリクス樹脂(C)が含浸してなる、プリプレグである(第1態様)。
【0009】
また本発明は、炭素繊維(A)およびバインダー樹脂組成物(D)からなる基材にマトリクス樹脂(C)が含浸してなるプリプレグであって、
炭素繊維(A)が不連続繊維であり不織布を形成しており、
バインダー樹脂組成物(D)のガラス転移温度が120℃以上450℃以下であり、
マトリクス樹脂(C)の融点が250℃以上400℃以下であり、
バインダー樹脂組成物(D)が炭素繊維(A)とマトリクス樹脂(C)との界面に存在し、
以下の条件(i)および(ii)を満たすプリプレグである(第2態様)。
(i)引張強度の最小値が100MPa以上である。
(ii)400℃での厚みバラツキが10%以下である。
【0010】
また本発明は、本発明のプリプレグから成形されてなる、多孔質構造体である。
【0011】
また本発明は、本発明の多孔質構造体を製造する方法であって、前記マトリクス樹脂(C)を溶融させて膨張させる第1の工程、および前記マトリクス樹脂(C)を固化させる第2の工程を含む、多孔質構造体の製造方法である。
【0012】
また本発明は、本発明のプリプレグを積層単位として含むプリフォームである。
【0013】
また本発明は、本発明のプリフォームを加熱加圧することにより成形してなる、繊維強化樹脂成形体である。
【0014】
また本発明は、本発明のプリフォームを加熱膨張することにより成形してなる、空隙を有する、繊維強化樹脂成形体である。
【0015】
また本発明は、本発明の繊維強化樹脂成形体を芯材として、一対のスキン材の間に挟んで一体化してなる、サンドイッチ構造体である。
【0016】
また本発明は、本発明のプリプレグ、本発明の多孔質構造体、本発明の繊維強化樹脂成形体、または本発明のサンドイッチ構造体を含む、航空機部材である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の炭素繊維基材は、繊維強化樹脂の成形の初期には金型に柔軟に追従する賦形性に優れる。また、マトリクス樹脂を含浸させる高温高圧プロセス下において破れるといった成形不良を防ぐことが可能である。さらに、本発明の炭素繊維基材は炭素繊維の分散状態が保持可能であり、耐熱性に優れるプリプレグや繊維強化樹脂、多孔質構造体を容易に得ることができる。
【0018】
また本発明のプリプレグは、耐熱性と力学特性の等方性とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の炭素繊維基材の一実施形態を示す模式図である。右側の図は、炭素繊維(A)とその表面に付着した樹脂組成物(B)の様子を示す拡大図である。
【
図2】
図2は、本発明のプリプレグの一実施形態を、その内部断面の拡大図と共に示した模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の多孔質構造体の一実施形態を、その内部断面の拡大像と共に示した模式図である。
【
図4】
図4は、多孔質構造体の細孔直径を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明においては、プリプレグの厚み方向を面外方向、面外方向に直交する方向を面内方向と称する。
【0021】
[炭素繊維基材]
本発明の炭素繊維基材は、炭素繊維(A)と、炭素繊維(A)の表面を被覆する樹脂組成物(B)とを含む。
【0022】
炭素繊維(A)は強化繊維として知られるもののなかでも力学特性および軽量性に優れる。炭素繊維(A)としては、PAN系、レーヨン系、ピッチ系の炭素繊維が例示でき、力学特性と経済性の観点からPAN系炭素繊維が好ましい。PAN系炭素繊維の中でも得られる繊維強化基材の力学特性の観点から弾性率200GPa以上の炭素繊維を用いることが好ましい。また、コストの観点からリサイクル炭素繊維を用いることも好ましい。
【0023】
炭素繊維(A)は400℃での熱質量減少率が1質量%以下であることが好ましい。かかる熱質量減少率は0質量%以上1質量%以下がより好ましい。本発明において炭素繊維(A)は後述するように不連続繊維であることが好ましく、樹脂組成物(B)で結着することで炭素繊維基材を形成している。仮に炭素繊維(A)の耐熱性が低いと、分解ガスが炭素繊維(A)と樹脂組成物(B)との界面を剥離させ、結着効果が十分とならない場合がある。このため、炭素繊維(A)の熱質量減少率を上記範囲とすることが好ましい。かかる熱質量減少率は、下記式で求めることができる。
熱質量減少率(質量%)=[(M1-M2)/M1]×100
ここで、M1は30℃で10分間等温保持した後の試料質量(mg)であり、M2は次いで10℃/分で昇温し400℃に到達した際の試料質量(mg)である。
【0024】
炭素繊維(A)の直径としては、1~20μmが好ましく、3~10μmがより好ましく、6~8μmがさらに好ましい。かかる範囲内とすることで、炭素繊維が分散性に優れ、炭素繊維基材としての空孔率との高さと力学特性とを効果的に両立させることができる。また、炭素繊維基材から得られるプリプレグの力学特性もより優れたものとすることができる。
【0025】
本発明において、不織布形態を構成する炭素繊維(A)は不連続繊維であることが好ましく、数平均繊維長が0.1~100mmであることがより好ましく、1~20mmであることがさらに好ましく、3~10mmであることがとりわけ好ましい。かかる範囲とすることで、不織布形態のネットワーク構造における繊維同士の間隔を広げ易くなり、空孔の形成を制御し易くなる。炭素繊維(A)の数平均繊維長は、炭素繊維(A)を無作為に400本選び出し、それらの繊維長を光学顕微鏡にて測定し、繊維長の合計を測定本数で除することで算出できる。
【0026】
炭素繊維(A)は、繊維長2mm以上10mm以下、より好ましくは3mm以上8mm以下、さらに好ましくは5mm以上7mm以下の繊維を50質量%以上含むことが好ましい。かかる含有量は80質量%以上100質量%以下であるがことより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。かかる範囲とすることで、不織布形態のネットワークを構成する炭素繊維(A)同士を分散させ、空孔の形成や等方的な繊維配向を制御し易くなる。
【0027】
繊維長の測定方法におけるサンプルの採取方法としては、例えば、有機溶媒による溶解法、樹脂成分を加熱溶融させて観察用の薄肉サンプルを作製する溶融法、あるいは電気炉による焼き飛ばし法により樹脂成分を除去し、残った炭素繊維(A)を濾別した後に光学顕微鏡により測定する方法がある。
【0028】
炭素繊維(A)は不織布を形成している。そうすることで、織物形状や一方向に配向した繊維基材に比べて空孔率を高く設計でき、これにより後述するマトリクス樹脂(C)の含浸量を多くできる特長がある。また、炭素繊維(A)が不織布を形成していることにより、後述する樹脂組成物(B)が反応する際に副生ガスが発生してもその副生ガスを容易に排気することができ、硬質な炭素繊維基材が得られる。
図1において、炭素繊維(A)1は、不連続繊維としてランダムに分散し、ネットワーク構造を形成した不織布形態となっており、それによって繊維間に微細な空孔3を形成している。
【0029】
一般に、不織布形態は織物形状や一方向に配向した繊維基材に比べて炭素繊維基材としての強度が低く、マトリクス樹脂(C)の溶融含浸の際に含浸圧に耐え切れず破れるリスクが増加する。そのため、本発明においては、力学特性に優れる炭素繊維を用いる。不織布形態の炭素繊維(A)は、エアレイド法、カーディング法、抄紙法などにより製造することが可能である。
【0030】
前記炭素繊維基材における炭素繊維(A)の質量割合は90%以上97%以下が好ましい。当該質量割合が90%以上であることで、炭素繊維基材としての強度を十分なものとしマトリクス樹脂(C)の含浸時に破れるなどの成形不良を効果的に防ぐことができる。また、当該質量割合が97%以下、より好ましくは96%以下、さらに好ましくは92%以下であることで、炭素繊維(A)が繊維束状に収束されてしまうのを防ぎ、前記炭素繊維基材から得られるプリプレグ中での炭素繊維(A)の分散が不十分となるのを防ぐことができる。
【0031】
樹脂組成物(B)は、炭素繊維(A)のネットワーク構造をその接点で結着することで不織布形態を保持したり、擦過から炭素繊維(A)を保護したりする機能がある。
図1の右側の図において、樹脂組成物(B)2が炭素繊維(A)の表面を被覆し、樹脂組成物(B)で被覆された炭素繊維(A)4を構成している。樹脂組成物(B)で結着された本発明の炭素繊維基材は、炭素繊維(A)の繊維配向や分散性といったネットワーク構造を保持したまま、プリプレグ化することが可能となる。
【0032】
炭素繊維(A)のネットワーク構造を保持する観点から、樹脂組成物(B)は、炭素繊維基材を構成する全炭素繊維(A)の表面積の内50~100%を被覆することが好ましく、80~100%を被覆することがより好ましく、100%を被覆することがさらに好ましい。かかる状態とするために、炭素繊維(A)を不織布のような集合体とし、これを樹脂組成物(B)に浸漬させる工程を経ることが好ましい。
【0033】
樹脂組成物(B)の被覆率は、後述する実施例に記載されているように、X線光電子分光法による表面酸素濃度(O/C)により次式を用いて求めることができる。
(樹脂組成物(B)の被覆率)={(炭素繊維(A)のO/C)-(炭素繊維基材のO/C)}/{(炭素繊維(A)のO/C)-(樹脂組成物(B)のO/C)}×100(%) 。
【0034】
本発明の炭素繊維基材は、空孔率が50~99%であることが好ましい。炭素繊維基材の空孔率は、80~99%がより好ましく、90~99%がさらに好ましい。空孔率をかかる範囲とすることでマトリクス樹脂(C)の含浸量を多く設計することができる。また、空孔率が高くとも、高温での力学特性に優れる本発明の炭素繊維基材は、マトリクス樹脂(C)の溶融含浸プロセス時に炭素繊維基材が破れるといった成形不良を防ぐことができる。炭素繊維基材の空孔率は、炭素繊維基材に占める空孔の体積割合であり、次式により求めることができる。
(炭素繊維基材の空孔率)={(炭素繊維基材の厚み[m])-(炭素繊維基材の目付[g/m2])/(炭素繊維基材の構成成分の密度[g/m3])}/(炭素繊維基材の厚み[m])×100[%] 。
【0035】
本発明の炭素繊維基材は、300℃で5分間加熱処理後の引張強度が前記加熱前の110%以上である。かかる加熱前の引張強度に対する加熱処理後の引張強度は200%以上600%以下が好ましく、300%以上500%以下がより好ましい。後述するように、本発明の炭素繊維基材はマトリクス樹脂(C)を溶融含浸させることでプリプレグに加工することができる。このマトリクス樹脂(C)との複合化には加熱溶融させたマトリクス樹脂(C)を炭素繊維基材の空孔に高温かつ高圧で含浸させることになるが、かかる含浸プロセスにおいては、炭素繊維基材が破れるといった不良が発生する場合がある。一方で、かかる含浸プロセスの前から硬質な炭素繊維基材を用いると、金型などの形状に追従賦形させる際に弾性反発したり、破れたりする場合がある。そのため、含浸プロセス開始時には柔軟で金型などに追従する賦形性を有しつつ、含浸中の加圧下でも破れない様に硬質化する特性とすることで、マトリクス樹脂(C)の高温高圧の含浸プロセスにおいても、破れるなどの成形不良を防ぐことができる。かかる加熱処理前後の引張強度の変化は、炭素繊維基材のある一方向について、300℃で5分間加熱後に室温で測定した引張強度(Ta)と、同じ方向で前記加熱処理を行わなかった炭素繊維基材の室温での引張強度(Tao)とをそれぞれ測定し、次式によって求められる。
加熱前の引張強度に対する加熱処理後の引張強度(%)=(Ta/Tao)×100 。
なお、本明細書における炭素繊維基材の引張強度[N/cm]は、炭素繊維基材から幅50mm、長さ150mmの試験片を切り出し、両端のそれぞれの長さ50mm分を担持し、残る中央部の50mm長さの部分を室温環境下、試験速度3m/分で引張試験し、得られた最大点荷重を試験片幅で除することで求めた値とする。
【0036】
本発明の炭素繊維基材は、マトリクス樹脂の含浸時において、等方性に優れる、すなわち炭素繊維基材のある一方向とそれに直交する方向との強度が近しいことが好ましい。異方性が大きい場合、マトリクス樹脂(C)の含浸時に引張強度の弱い方向に集中して破れるリスクが増加する。このような等方性の指標としては、前記Taを、その試験方向と直交する方向について300℃で5分間加熱処理後に室温で測定した引張強度(Tb)で除することで求められる加熱処理後の引張強度比(Ta/Tb)が0.6~1.7であることが好ましい。かかる加熱処理後の引張強度比(Ta/Tb)は0.8~1.3がより好ましく、0.9~1.1がさらに好ましい。なお、TaおよびTbの絶対値は、25N/cm以上100N/cm以下が好ましく、25N/cm以上45N/cm以下がより好ましい。かかる範囲とすることでマトリクス樹脂(C)の溶融含浸時にも破れない強靭な炭素繊維基材となる。
【0037】
また、本発明の炭素繊維基材は、金型に追従させる賦形工程における破れを防止する観点から、マトリクス樹脂の含浸前においても等方性に優れることが好ましい。かかる指標としては、前述の加熱処理前の引張強度である前記Taoを、その試験方向と直交する方向について室温で測定した引張強度(Tbo)で除することで求められる加熱処理前の引張強度比(Tao/Tbo)が0.6~1.7であることが好ましい。かかる加熱処理前の引張強度比(Tao/Tbo)は0.8~1.3がより好ましく、0.8~1.1がさらに好ましい。TaoおよびTboの絶対値は8N/cm以上25N/cm以下が好ましく、8N/cm以上15N/cm以下がより好ましい。かかる範囲とすることで柔軟で金型への追従性の高い炭素繊維基材となる。
【0038】
本発明においては、樹脂組成物(B)は、下記式(1)の熱質量減少率が5~50質量%である脱水縮合反応を行う樹脂組成物であることが好ましい。
熱質量減少率(質量%)=[(W1-W2)/W1]×100・・・(1)
ここで、W1は室温から100℃まで10℃/分で昇温し、さらに30分間等温保持した後の試料質量(mg)であり、W2は次いで10℃/分で昇温し250℃に到達した際の試料質量(mg)である。
【0039】
樹脂組成物(B)は、加熱に伴う脱水縮合反応により、炭素繊維基材を硬質化する作用を有する。そして、炭素繊維(A)が不織布形態であることにより、樹脂組成物(B)の脱水縮合反応によって生じる副生ガスを容易に排気することができる。樹脂組成物(B)の熱質量減少率をかかる範囲とすることで、マトリクス樹脂(C)の炭素繊維基材への含浸中に、樹脂組成物(B)の硬質化と副生ガスの排気とがバランス良く達成できる。加熱時の発生ガスの質量とその成分の分析は、熱重量・質量分析装置(TG-MS)により行うことができる。樹脂組成物(B)の脱水縮合反応にともなう熱質量減少率は、5~30質量%がより好ましく、5~20質量%がさらに好ましい。
【0040】
樹脂組成物(B)が脱水縮合反応を行う場合、発生する副生ガスには水が含まれるが、副生ガスの内5%以上が水であることが好ましく、50%以上がより好ましく、100%がさらに好ましい。副生ガスに多く水が含まれることにより、マトリクス樹脂(C)の含浸時の加圧による過昇温の防止や、金型との離型性の向上の効果が得られる。
【0041】
上記のような樹脂組成物(B)の脱水縮合反応は、より具体的には、得られる反応物の耐熱性の観点から、イミド化反応、オキサゾール化反応またはイミダゾール化反応であることが好ましい。質量減少をともなう酸化やラジカル開裂といった熱分解反応の場合、樹脂組成物(B)の耐熱性や力学強度が低下し、炭素繊維基材が破れる成形不良となる場合がある。
【0042】
このような観点から、樹脂組成物(B)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸塩、ポリアミック酸エステル、ポリヒドロキシアミドおよびポリアミノアミドから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。ポリアミック酸、ポリアミック酸塩およびポリアミック酸エステルは、イミド化反応することでポリイミド樹脂となる前駆体であり、ポリヒドロキシアミドはオキサゾール化反応することでポリベンゾオキサゾール樹脂となる前駆体であり、ポリアミノアミドはイミダゾール化反応することでポリベンゾイミダゾール樹脂となる前駆体である。
【0043】
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物と等モルのジアミン化合物を反応させることで合成できる。具体的な合成方法としては、NMPなどの溶媒中にジアミン化合物を溶解させて、室温下で撹拌しながらテトラカルボン酸二無水物を添加する方法などが挙げられる。この方法では、テトラカルボン酸二無水物の官能基であるカルボン酸無水物とジアミン化合物の官能基であるアミノ基が等モル、すなわち1対1で開環重付加反応することで高分子量化し、この際カルボン酸無水物由来のカルボキシル基が副生する。ポリアミック酸塩はこの副生するカルボキシル基を塩基性化合物で中和することで得られる塩である。ここでの中和に用いる塩基性化合物としてアンモニア、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシドなどが挙げられる。
【0044】
ポリアミック酸エステルは、ポリアミック酸において、前述の副生したカルボキシル基をアルコールと反応させエステル化させて合成できる。ここで用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールなどが挙げられる。エステル化によってポリアミック酸の加水分解が低減できるため好ましい。
【0045】
ポリアミック酸、ポリアミック酸塩およびポリアミック酸エステルは、加熱による分子内のイミド化反応により環化し、副生ガスを発生しながらポリイミドに変化する。樹脂組成物(B)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸塩およびポリアミック酸エステルの混合物であってもよい。
【0046】
水溶性が高く、設備負荷が比較的低い水溶液として使用できる観点からは、樹脂組成物(B)はポリアミック酸塩であることが好ましい。
【0047】
テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物<s-BPDA>、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物<a-BPDA>、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物<i-BPDA>、ピロメリット酸二無水物<PMDA>、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物<BTDA>、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(無水フタル酸)、4,4’-オキシジフタル酸無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物<NTDA>、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物<6FDA>などが挙げられる。これらの中でも得られるポリアミック酸の溶融加工性、および炭素繊維基材の耐熱性とマトリクス樹脂(C)との密着性の両立の観点から、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(無水フタル酸)が好ましい。
【0048】
ジアミン化合物としては、例えば、p-フェニレンジアミン<PPD>、m-フェニレンジアミン<MPD>などのフェニレンジアミン類、3,5-ジアミノ安息香酸などのジアミノ安息香酸類、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル<ODA>、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル類、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタンなどのジアミノジフェニルメタン類、4,4’-ジアミノベンゾフェノンなどのジアミノベンゾフェノン類などが挙げられる。これらの中でも得られるポリアミック酸の塗工性、および耐熱性と炭素繊維(A)への塗工性とのバランスの観点から、フェニレンジアミン類が好ましく、m-フェニレンジアミンがより好ましい。
【0049】
ポリヒドロキシアミドは、ポリベンゾオキサゾール樹脂の前駆体であり、芳香環中の隣接する炭素原子上にアミノ基と水酸基とを有する芳香族ジアミンジオールと、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸エステル、芳香族ジカルボン酸ジハロゲン化合物、複素環状ジカルボン酸などのジカルボン酸誘導体とが重縮合してアミド結合を形成したプレポリマーである。具体的な合成方法としては、NMPなどの溶媒中で芳香族ジアミンジオールとジカルボン酸誘導体とを1対1のモル比で混合し、120℃で12時間撹拌する方法などが挙げられる。ポリヒドロキシアミドは、200~400℃で加熱処理することにより隣接する水酸基とアミド結合とが縮合してオキサゾール環を形成し、オキサゾール環と芳香族環とを分子内に有するポリベンゾオキサゾール樹脂に反応する。芳香族ジアミンジオールは、3,3’-ジヒドロキシベンジジン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,6-ジアミノレゾルシノール、2,5-ジアミノヒドロキノン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジヒドロキシジフェニルメタン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパンおよびこれらの塩酸塩が挙げられる。ジカルボン酸誘導体としてはイソフタル酸などが挙げられる。
【0050】
ポリアミノアミドは、ポリベンゾイミダゾール樹脂の前駆体であり、芳香族テトラアミン化合物のジアミン成分と、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸エステル、芳香族ジカルボン酸ジハロゲン化物、複素環状ジカルボン酸などのジカルボン酸誘導体とが重縮合してアミド結合を形成したプレポリマーである。具体的な合成方法としては、NMPなどの溶媒中で芳香族テトラアミン化合物とジカルボン酸誘導体とを1対1のモル比で混合し、120℃で12時間撹拌する方法などが挙げられる。ポリアミノアミドは、200~400℃で加熱処理することにより隣接するアミノ基とアミド結合とが縮合してイミダゾール環を形成し、イミダゾール環と芳香族環とを分子内に有するポリベンゾイミダゾール樹脂に反応する。芳香族テトラアミン化合物は、3,3’-ジアミノベンジジン、1,2,4,5-テトラ-アミノベンゼン、2,3,5,6-テトラ-アミノピリジン、3,3’,4,4’-テトラ-アミノジフェニルスルホン、3,3’,4,4’-テトラ-アミノジフェニルエーテル、3,3’,4,4’-テトラ-アミノジフェニルメタン、3,3’,4,4’-テトラ-アミノジフェニルジメチルメタンおよびこれらの塩酸塩が挙げられる。ジカルボン酸誘導体としてはイソフタル酸などが挙げられる。ポリアミノアミドのイミダゾール化によって得られるポリベンゾイミダゾール樹脂はガラス転移温度が400℃以上と高く、耐熱性に優れる点で好ましい。
【0051】
樹脂組成物(B)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸塩、ポリアミック酸エステル、ポリヒドロキシアミドおよびポリアミノアミドから選ばれる少なくとも一種をこれらの総量で50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むがより好ましい。さらに好ましくは、樹脂組成物(B)がポリアミック酸、ポリアミック酸塩、ポリアミック酸エステル、ポリヒドロキシアミドおよびポリアミノアミドから選ばれる少なくとも一種のみからなることである。かかる範囲とすることで、樹脂組成物(B)が炭素繊維(A)に密着し、耐熱性や力学強度に優れる炭素繊維基材が得られる。
【0052】
樹脂組成物(B)は、用途に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で適宜、他の添加剤を含有しても良い。例えば、難燃剤、導電性付与剤、酸化防止剤、抗菌剤、防虫剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、制泡剤などが挙げられる。
【0053】
本発明の炭素繊維基材において、炭素繊維(A)100質量部に対して樹脂組成物(B)は0.5~30質量部であることが好ましい。樹脂組成物(B)が炭素繊維(A)100質量部に対して0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは8質量部以上であることで、炭素繊維基材としての取扱い性に優れ、搬送時などに破れにくくすることができる。樹脂組成物(B)が炭素繊維(A)100質量部に対して30質量部以下、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下であることで、空孔を十分に形成しマトリクス樹脂(C)の含浸を容易とすることができる。
【0054】
樹脂組成物(B)は、炭素繊維(A)の表面積の内50%以上を被覆していることが好ましい。当該被覆率が50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは100%であることで、後述する本発明のプリプレグにおいて、炭素繊維(A)とマトリクス樹脂(C)とが強固に密着した界面を効果的に形成することができる。
【0055】
この被覆の状態とするために、前記炭素繊維基材を製造する工程において、炭素繊維(A)からなる不織布を樹脂組成物(B)に浸漬させる工程を経ることが好ましい。
【0056】
樹脂組成物(B)の被覆率は、後述する実施例に記載されているように、X線光電子分光法による表面酸素濃度(O/C)により次式を用いて求めることができる。
(樹脂組成物(B)の被覆率)(%)={(炭素繊維(A)のO/C)-(炭素繊維基材のO/C)}/{(炭素繊維(A)のO/C)-(樹脂組成物(B)のO/C)}×100 。
【0057】
本発明の炭素繊維基材を用いることにより、マトリクス樹脂(C)の含浸時に破れるなどの成形不良を防げ、膨張率に優れるプリプレグが得られる。とりわけ本発明の炭素繊維基材は、高温高圧による含浸プロセスを要する高耐熱なマトリクス樹脂(C)であっても破れなどの成形不良を防ぎつつ含浸が可能である。この効果によって、高耐熱なマトリクス樹脂(C)を使用し、耐熱性に優れ、さらに軽量な多孔質構造体を容易に得ることができる。
【0058】
[プリプレグ]
本発明の炭素繊維基材は、プリプレグの基材として適している。すなわち、本発明のプリプレグの第1態様は、本発明の炭素繊維基材に由来する基材にマトリクス樹脂(C)が含浸してなる。
【0059】
また本発明のプリプレグの第2態様は、炭素繊維(A)およびバインダー樹脂組成物(D)からなる基材にマトリクス樹脂(C)が含浸してなる。
【0060】
第2態様における炭素繊維(A)の詳細は、第1態様における、すなわち本発明の炭素繊維基材における炭素繊維(A)の詳細と共通する。
【0061】
第1態様におけるマトリクス樹脂(C)および第2態様におけるマトリクス樹脂(C)の詳細も共通する。
【0062】
第2態様におけるバインダー樹脂組成物(D)は、樹脂組成物(B)として説明したものに由来するものであることが好ましい。第1態様における、樹脂組成物(B)であるかまたはそれに由来するバインダー樹脂組成物、および第2態様におけるバインダー樹脂組成物(D)を総称して、単に「バインダー樹脂組成物」とも呼ぶ。以下、第1態様および第2態様の区別について特に断りのない限りは、両者に共通するものとする。
【0063】
図2において、炭素繊維(A)1と前記バインダー樹脂組成物2とからなる基材には、内部に微細な空孔が形成されており、当該空孔にマトリクス樹脂(C)5が含浸されることでプリプレグを形成している。前記プリプレグ中において炭素繊維(A)1はランダムに分散し、ネットワーク構造を形成した不織布形態で存在しており、その繊維間の微細な空間がマトリクス樹脂(C)5によって埋められている。そして、バインダー樹脂組成物2は、炭素繊維(A)1とマトリクス樹脂(C)5との界面に存在している。
【0064】
本発明のプリプレグにおける炭素繊維(A)の質量割合は、1%以上50%以下が好ましく、5%以上40%以下がより好ましく、10%以上30%以下がさらに好ましい。かかる範囲より小さいと、前記炭素繊維基材による前記プリプレグの補強効果が不十分な場合がある。かかる範囲より大きいと、マトリクス樹脂(C)の含浸時に前記炭素繊維基材が破れるといった不良となる場合がある。
【0065】
前記バインダー樹脂組成物に含まれる樹脂としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、シアネートエステル樹脂などが挙げられ、これらの共重合体、変性体、および2種以上をブレンドした樹脂であってもよい。これらの中でも、耐熱性の観点から、ポリイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂およびポリベンゾイミダゾール樹脂が好しい。さらに炭素繊維基材へ加工性の観点から、ポリイミド樹脂がより好ましく、ポリイミド樹脂の中でもエーテル基とイミド基をそれぞれ有するポリエーテルイミド樹脂がとりわけ好ましい。
【0066】
また、前記バインダー樹脂組成物は、エーテルイミド骨格、ベンゾオキサゾール骨格、ベンゾイミダゾール骨格、ベンゾオキサジン骨格およびシアネートエステル骨格から選択される少なくとも1種の構造を有する重合体またはその誘導体を含む組成物であることが好ましい。かかる化合物を含むことにより、前記バインダー樹脂組成物は耐熱性に優れ、さらに炭素繊維(A)やマトリクス樹脂(C)との密着性に優れる。エーテルイミド骨格は、エーテル基とイミド基をそれぞれ有することを意味し、これを有する重合体またはその誘導体としてはポリエーテルイミド樹脂が挙げられる。ベンゾオキサゾール骨格は、芳香族環とオキサゾール環とが一辺を共有して結合した構造であり、これを有する重合体またはその誘導体としてはポリベンゾオキサゾール樹脂が挙げられる。ベンゾイミダゾール骨格は、芳香族環とイミダゾール環とが一辺を共有して結合した構造であり、これを有する重合体またはその誘導体としてはポリベンゾイミダゾール樹脂が挙げられる。ベンゾオキサジン骨格を有する重合体またはその誘導体としては、ベンゾオキサジン樹脂が挙げられる。シアネートエステル骨格を有する重合体またはその誘導体としては、シアネートエステル樹脂が挙げられる。さらに、耐熱性と炭素繊維基材へ加工性の観点から、前記バインダー樹脂組成物は、エーテルイミド骨格を有する重合体またはその誘導体を含むことがより好ましい。
【0067】
第1態様におけるバインダー樹脂組成物のガラス転移温度は120℃以上450℃以下であることが好ましい。また第2態様におけるバインダー樹脂組成物(D)のガラス転移温度は120℃以上450℃以下である。前記バインダー樹脂組成物のガラス転移温度はより好ましくは200℃以上400℃未満、さらに好ましくは200℃以上350℃以下である。前記バインダー樹脂組成物は、マトリクス樹脂(C)の含浸時には炭素繊維(A)のネットワーク構造をその接点で結着することで不織布形態を保持する機能があり、得られるプリプレグの内部では炭素繊維(A)とマトリクス樹脂(C)との界面に存在する。前記バインダー樹脂組成物のガラス転移温度が上記の範囲内であることで、マトリクス樹脂(C)の含浸初期には固体として炭素繊維基材の形態を保持し、次いで徐々に軟化することで溶融状態のマトリクス樹脂(C)と相溶し、炭素繊維(A)とマトリクス樹脂(C)とが強固に密着した界面が形成できる。
【0068】
前記バインダー樹脂組成物は400℃での熱質量減少率が5質量%以下であることが好ましい。前記バインダー樹脂組成物は、マトリクス樹脂(C)の含浸時には炭素繊維(A)のネットワーク構造をその接点で結着することで不織布形態を保持する機能があり、得られるプリプレグの内部では炭素繊維(A)とマトリクス樹脂(C)との界面に存在する。前記バインダー樹脂組成物の400℃での熱質量減少率が5質量%以下、好ましくは0質量%以上3質量%以下であることで、耐熱性が高く、熱分解しにくく、分解ガスが炭素繊維(A)と前記バインダー樹脂組成物との界面を剥離させ結着効果が低下するのを防ぐことができる。この熱質量減少率は、下記式で求めることができる。
熱質量減少率(質量%)=[(M1-M2)/M1]×100
ここで、M1は30℃で10分間等温保持した後の試料質量(mg)であり、M2は次いで10℃/分で昇温し400℃に到達した際の試料質量(mg)である。
【0069】
前記バインダー樹脂組成物は、炭素繊維(A)の表面積の内50%以上を被覆していることが好ましい。当該被覆率が50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは100%であることで、後述する本発明のプリプレグにおいて、炭素繊維(A)とマトリクス樹脂(C)とが強固に密着した界面を効果的に形成することができる。
【0070】
この被覆の状態とするために、前記炭素繊維基材を製造する工程において、炭素繊維(A)からなる不織布を樹脂組成物(B)に浸漬させる工程を経ることが好ましい。
【0071】
前記バインダー樹脂組成物の被覆率は、後述する実施例に記載されているように、X線光電子分光法による表面酸素濃度(O/C)により次式を用いて求めることができる。
(バインダー樹脂組成物の被覆率)(%)={(炭素繊維(A)のO/C)-(炭素繊維基材のO/C)}/{(炭素繊維(A)のO/C)-(バインダー樹脂組成物のO/C)}×100 。
【0072】
一般にプリプレグにおいて、ガラス転移温度の高いバインダー樹脂は加工に必要な温度が高いため、強化繊維の表面に高被覆率で被覆することは難しい。本発明では、これを解決する手段として、炭素繊維(A)の表面に前述の樹脂組成物(B)をバインダー樹脂組成物(D)の前駆体として塗布し、これを加熱反応させることでバインダー樹脂組成物(D)とする方法が挙げられる。
【0073】
また、バインダー樹脂組成物(D)としてポリイミド樹脂やポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂を用いる場合、その前駆体として樹脂組成物(B)を炭素繊維(A)に塗布し、次いで脱水縮合反応させることでバインダー樹脂組成物(D)とする方法も耐熱性と加工性の観点から好ましく用いることができる。
【0074】
マトリクス樹脂(C)は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、変性ポリプロピレン等のポリオレフィンや、ポリオキシメチレン、ポリアミド6、ポリアミド66等のポリアミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニルや、ポリフェニレンスルフィド等のポリアリーレンスルフィドや、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、変性ポリスルホン、ポリエーテルスルホンや、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン等のポリアリーレンエーテルケトン、ポリアリレート、ポリエーテルニトリル、フェノキシ樹脂などが挙げられる。
【0075】
また、これら熱可塑性樹脂は、共重合体や変性体、および/または2種類以上ブレンドした樹脂などであってもよい。
【0076】
これらの中でも、成形加工性と耐熱性とのバランスから、マトリクス樹脂(C)はポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトンおよびポリカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分として含むことがより好ましく、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリエーテルケトンケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分として含むことがさらに好ましく、ポリエーテルケトンケトンを主成分として含むことがさらに好ましい。ここでの主成分とは、構成成分の50質量%以上を占めることを意味し、80質量%以上100質量%以下であることが好ましく、100質量%であることがより好ましい。
【0077】
第1態様におけるマトリクス樹脂(C)として用いる熱可塑性樹脂の融点は、250℃以上400℃以下であることが好ましい。第2態様におけるマトリクス樹脂(C)として用いる熱可塑性樹脂の融点は、250℃以上400℃以下である。前記熱可塑性樹脂の融点が250℃以上、より好ましくは280℃以上、さらに好ましくは300℃以上であることで、前記プリプレグや、後述する多孔質構造体など、前記プリプレグを加工して得られる物を、効果的に耐熱性に優れたものとすることができる。また、前記熱可塑性樹脂の融点が400℃以下、より好ましくは400℃未満、さらに好ましくは360℃以下、さらに好ましくは350℃以下とすることで、プリプレグの成形加工性を効果的に優れたものとすることができる。
【0078】
マトリクス樹脂(C)として用いる熱可塑性樹脂のガラス転移温度としては、80℃以上250℃以下が好ましく、100℃以上230℃以下がより好ましく、140℃以上180℃以下がさらに好ましい。当該ガラス転移温度が80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは140℃以上であることで、プリプレグや後述する多孔質構造体の耐熱性を効果的に向上させることができる。また、当該ガラス転移温度が250℃以下、好ましくは230℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは180℃以下であることで、前記バインダー樹脂組成物との相溶性に優れ、得られるプリプレグの引張強度を効果的に向上させることができる。
【0079】
マトリクス樹脂(C)は樹脂組成物として、用途に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で適宜、他の充填材や添加剤を含有していることも好ましい。例えば、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、カップリング剤などが挙げられる。
【0080】
前記プリプレグにおけるマトリクス樹脂(C)の量は、炭素繊維(A)100質量部に対して5~1000質量部が好ましく、50~700質量部がより好ましく、100~500質量部がさらに好ましい。かかる範囲より小さいと、プリプレグやこれを成形して得られる多孔質構造体の力学特性が不十分な場合がある。かかる範囲より大きいと、空孔の体積に対してマトリクス樹脂(C)の量が多く、マトリクス樹脂(C)の溶融含浸時に炭素繊維基材が破れるといった不良となる場合がある。
【0081】
第1態様のプリプレグは、引張強度の最小値が100MPa以上であることが好ましい。第2態様のプリプレグは、引張強度の最小値が100MPa以上である。前記プリプレグの引張強度の最小値は200MPa以上が好ましく、240MPa以上がより好ましく、260MPa以上400MPa以下がさらに好ましい。
【0082】
一般に、プリプレグの引張強度は内包する炭素繊維基材の繊維配向の影響を強く受ける。プリプレグの同一面内であっても、繊維配向が偏り、平行に近い炭素繊維が多い方向ほど引張強度が高く、反対にこれに直交する方向の引張強度が低くなる。このためプリプレグのある一方向の引張強度が高くとも、それに直交する方向は引張強度が低いといった場合がある。このような観点から、面内方向で等方的に力学特性の高いプリプレグを得るためには、引張強度は最小値を基準に設計することが望ましい。
【0083】
引張強度の最小値は、プリプレグの面内方向における任意の一方向を基準の0°としてさらに、45°、90°、-45°を合わせた4方向について切り出した試験片を用いて測定することができる。それぞれの方向について測定数はn=5とし、全ての測定値(n=20)の内、最小の値を引張強度の最小値とする。
【0084】
本発明のプリプレグは、引張強度の最大値が260MPa以上であることが好ましく、260MPa以上400MPa以下がより好ましい。
【0085】
一般に、プリプレグの引張強度は、内包する炭素繊維基材の繊維配向が偏って引張方向と平行に近い炭素繊維が増えるほど高くなる。引張強度の最大値をかかる範囲とし、前述の引張強度の最小値と同程度に設計することで、より等方的な力学特性を有するプリプレグとできるようになる。
【0086】
引張強度の最大値は、プリプレグの面内方向における任意の一方向を基準の0°としてさらに、45°、90°、-45°を合わせた4方向について切り出した試験片を用いて測定することができる。それぞれの方向について測定数はn=5とし、全ての測定値(n=20)の内、最大の値を引張強度の最大値とする。
【0087】
本発明のプリプレグは、前記引張強度の最小値に対する前記引張強度の最大値の比が、1~3であることが好ましく、1~1.5がより好ましく、1~1.2がさらに好ましく、1~1.1がとりわけ好ましい。かかる範囲内とすることで、プリプレグの面内方向のいずれの方向であっても力学特性が同等であり、力学特性が等方性に優れるプリプレグとすることができる。かかる値は、前記プリプレグの引張強度の最大値を前記プリプレグの引張強度の最小値で除することで求めることができる。
【0088】
また、本発明のプリプレグは、平均引張強度が100MPa以上であることが好ましく、200MPa以上がより好ましく、240MPa以上がさらに好ましく、260MPa以上400MPa以下がとりわけ好ましい。かかる範囲とすることで、等方的に力学特性の高いプリプレグが得られる。このような平均引張強度は、プリプレグの面内方向におけるある一方向を基準の0°としてさらに、45°、90°、-45°を合わせた4方向について切り出した試験片を用いて測定することができる。それぞれの方向について測定数はn=5とし、全ての測定値(n=20)の平均値を平均引張強度とする。
【0089】
また、等方的な力学特性のプリプレグを得る観点からは、面内の引張強度のバラツキを20%以下とすることも好ましく、当該バラツキは10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。引張強度のバラツキは、全ての測定値(n=20)の平均値と標準偏差から次式によって算出できる変動係数(CV)であり、より具体的には、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
引張強度のバラツキ(%)=[(引張強度の標準偏差)/(引張強度の平均値)]×100 。
【0090】
本発明のプリプレグは、400℃での厚みが0.1mm以上5mm以下であることが好ましく、0.1mm以上2mm以下がより好ましく、1mm以上2mm以下がさらに好ましい。かかる400℃での厚みはプリプレグが内包する炭素繊維基材によってスプリングバックした膨張後の厚みに対応する。前記プリプレグは単層あるいは複数枚を積層して所望の厚みに応じた成形用途に用いることができ、前記プリプレグの膨張時の厚みをかかる範囲に制御することで様々な厚みの空隙体に成形可能となるため好ましい。
【0091】
400℃での厚みは、400℃の熱板上で5分間加熱したプリプレグの厚みを、レーザー変位計を用いて非接触で測定し、その平均値として求めることができる。
【0092】
第1態様のプリプレグは、400℃での厚みバラツキが10%以下であることが好ましい。第2態様のプリプレグは、400℃での厚みバラツキが10%以下である。400℃での厚みバラツキは、8%以下が好ましく、0%以上5%以下がより好ましい。本発明のプリプレグは400℃に加熱した場合、マトリクス樹脂(C)が溶融することでスプリングバックし、空隙体に膨張する。かかる膨張はプリプレグが内包する炭素繊維基材に由来し、膨張後の厚みのバラツキは面外方向の等方性の指標となる。すなわち、ある部位の膨張後の厚みが周囲に対して差が大きい場合、内包する炭素繊維基材の繊維配向や繊維の濃度が異なると言える。面外方向に等方的なプリプレグの場合、かかる膨張後の厚みが全体的に等しく、結果的に厚みのバラツキが小さくなる。
【0093】
また、後述の繊維強化樹脂成形体や空隙体は、プリフォームを構成するプリプレグを層間で接着させた一体化成形品である。膨張性を有しつつ、膨張時の厚みのバラツキが小さいプリプレグすることで、層間に隙間ができることを避け、良好に密着した繊維強化樹脂成形体や空隙体が得られる。
【0094】
400℃での厚みバラツキは、400℃の熱板上で5分間加熱したプリプレグの厚みを、レーザー変位計を用いて非接触で測定し、その厚みの平均値と標準偏差から次式によって算出できるCV値(変動係数)であり、より具体的には、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
400℃での厚みのバラツキ(%)=[(400℃での厚みの標準偏差)/(400℃での厚みの平均値)]×100 。
【0095】
本発明のプリプレグは、400℃に加熱することで、融点が250℃以上400℃以下、好ましくは280℃以上400℃以下であるマトリクス樹脂(C)が溶融し、炭素繊維基材によるスプリングバック力が最大限に解放された膨張状態となる。このような状態とすることで、前記プリプレグが内包する炭素繊維基材の繊維配向や繊維の濃淡を把握することができる。すなわち、前記プリプレグの内部で炭素繊維(A)の繊維配向が偏って繊維束状に収束した部位や、炭素繊維基材が破れて炭素繊維(A)の濃度が薄くなった部位は、400℃で膨張させた状態の厚みが薄くなる。このような部位の点在は、膨張後の厚みのバラツキとして検出することができる。このような炭素繊維基材の欠陥は、マトリクス樹脂(C)の含浸時に生じやすく、プリプレグ化後にこれを確認する手法として、400℃での厚みのバラツキの測定が有効である。
【0096】
また、プリプレグが内包する炭素繊維基材の欠陥は、プリプレグの引張強度に影響する。このため、例えば、400℃での厚みのバラツキを10%より小さくすることで、平均引張強度の高いプリプレグとしたり、等方性すなわち引張強度の最小値に対する最大値の比の小ささと、引張強度の最大値の高さとを両立させたプリプレグとしたりすることができる。
【0097】
本発明のプリプレグは、含浸距離が短く生産性に優れる観点から、マトリクス樹脂(C)を面外方向に含浸させて製造することが好ましい。かかる製造方法において、まずマトリクス樹脂(C)の含浸にともなう圧縮に対し、炭素繊維基材が反発する。かかる反発力を受け、マトリクス樹脂(C)は面内方向に樹脂フローする。かかる樹脂フローに際して炭素繊維基材を面内方向に引っ張る力が働く。従来の炭素繊維基材を用いた場合、面内方向の力に対して破れて成形不良となる。本発明の炭素繊維基材を用いることで、このような破断を防止することができる。
【0098】
前記プリプレグを製造する方法としては、マトリクス樹脂(C)を溶融により可塑化させ、炭素繊維基材の空孔に含浸させる加熱含浸工程と、次いで含浸させたマトリクス樹脂(C)を固化させる冷却固化工程を経る方法が挙げられる。かかる製造方法においてマトリクス樹脂(C)を炭素繊維基材に複合化させる方法としては、溶融状態のマトリクス樹脂(C)を炭素繊維基材に直接注入させる方法や、フィルム状、粉末状、または繊維状のマトリクス樹脂(C)を炭素繊維基材に積層させ、次いで加熱溶融により含浸させる方法が挙げられる。プリプレグの濃度ムラや繊維配向の偏りを抑え、製造が容易である観点から、フィルム状のマトリクス樹脂(C)と炭素繊維基材との積層物を加熱加圧する方法が好ましい。
【0099】
加熱含浸工程における温度としては、250~450℃が好ましく、280~400℃がより好ましく、300~400℃がさらに好ましい。前記加熱含浸工程における圧力としては0.5~20MPaが好ましく、5~15MPaがより好ましい。かかる範囲の高温、高圧条件であっても本発明の炭素繊維基材を用いることで、プリプレグを効率よく製造することができる。
【0100】
前記加熱含浸工程における時間としては0.5~60分が好ましく、5~30分がより好ましい。かかる範囲の加熱時間とすることで、マトリクス樹脂(C)の含浸と並行して炭素繊維基材の硬質化が進行し、強固な密着が可能であるため好ましい。
【0101】
冷却固化工程における温度としては、20~250℃が好ましく、100~200℃がより好ましい。前記冷却固化工程における圧力は0.5~20MPaが好ましく、5~15MPaがより好ましい。前記冷却固化工程における時間は0.5~60分が好ましく、5~30分がより好ましい。かかる範囲とすることで、プリプレグを効率よく製造することができる。
【0102】
かかるプリプレグの製造方法を実現するための設備としては、プレス成形機やダブルベルトプレス機を好適に用いることができる。バッチ式の場合は前者であり、加熱用と冷却用との2機以上を並列した間欠式プレスシステムとすることで生産性の向上が図れる。連続式の場合は後者であり、連続的な加工を容易に行うことができるので連続生産性に優れる。
【0103】
上記に例示したような製造方法で作製されたプリプレグは、マトリクス樹脂(C)の含浸時に面外方向の圧縮を受けることで、面外方向の反発力を貯蔵した状態の炭素繊維基材を内包している。このため、マトリクス樹脂(C)が溶融すると、炭素繊維基材が反発力を解放し、元の空孔率に戻ろうとするスプリングバック現象を起こす。すなわち、プリプレグは面外方向の膨張性を有し、多孔質構造体に成形することが可能となる。
【0104】
本発明のプリプレグは、マトリクス樹脂(C)の溶融時に、面外方向の平均膨張率150~1,000%で膨張することが好ましく、200~800%がより好ましく、450~700%がさらに好ましい。かかる値は、(膨張後の多孔質構造体の厚み[mm])/(膨張前のプリプレグの厚み[mm])×100[%]で算出できる膨張率であって、5サンプルでの算術平均値である。
【0105】
本発明のプリプレグは、マトリクス樹脂(C)の含浸時に面外方向の圧縮を受けることで、面外方向の反発力を貯蔵した状態の炭素繊維基材を内包している。このため、マトリクス樹脂(C)が溶融すると、炭素繊維基材が反発力を解放し、元の厚みに戻ろうとするスプリングバック現象を起こす。すなわち、このようなプリプレグは面外方向の膨張性を有しており、膨張の際に空気が取り込まれることによって空隙体に成形することが可能である。
【0106】
[多孔質構造体]
本発明のプリプレグは、加熱時の膨張性を生かし、多孔質構造体に成形することができる。すなわち、本発明の多孔質構造体は、本発明のプリプレグから成形されてなる。
【0107】
図3において、炭素繊維(A)とその表面を被覆した樹脂組成物(B)とを含んだ炭素繊維基材はそのスプリングバック力により面外方向に膨張し、この体積膨張にともない発生した空孔が、微多孔としてマトリクス樹脂(C)の内部に発生する。かかる構造とすることで多孔質構造体として軽量化が成されるとともに、炭素繊維基材による補強効果が発揮できるようになる。このように、多孔質構造体内の空孔が炭素繊維基材で補強されている構造を有することにより、空孔量の増加による軽量化と空孔の変形抑制とを両立させ、軽量化と力学特性とを高いレベルで両立可能となる。
【0108】
前記多孔質構造体の製造方法としては、前記マトリクス樹脂(C)を溶融させて膨張させる第1の工程、および前記マトリクス樹脂(C)を固化させる第2を含む、ことが好ましい。
【0109】
前記第1の工程は、マトリクス樹脂(C)を溶融により可塑化させ、炭素繊維基材のスプリングバック力により面外方向に選択的に膨張させる工程である。
【0110】
前記第1の工程において、前記マトリクス樹脂(C)を溶融させて膨張させるために前記プリプレグを加熱する温度としては、250~450℃が好ましく、300~400℃がより好ましい。前記第1の工程における圧力は0~5MPaが好ましく、0.1~3MPaがより好ましい。前記第1の工程にかける時間は0.5~60分が好ましく、5~30分がより好ましい。かかる範囲とすることで、プリプレグを効率よく膨張させ、力学特性に優れた多孔質構造体が得られる。
【0111】
前記第2の工程は、マトリクス樹脂(C)を固化させることでスプリングバック状態の炭素繊維基材を固定化し、多孔質構造体とする工程である。
【0112】
前記第2の工程における温度は、20~250℃の温度が好ましく、100~200℃がより好ましい。前記第2の工程における圧力は0~5MPaが好ましく、0.1~3MPaがより好ましい。前記第2の工程における時間は0.5~60分が好ましく、1~30分がより好ましい。かかる範囲とすることで、膨張倍率を制御し、力学特性に優れた多孔質構造体が得られる。
【0113】
また、前記第1の工程や前記第2の工程においては、成形品の厚み調整を行うことが好ましい。厚み制御を行う方法としては、金属板などを用いて厚みを拘束する方法、加圧力の調節により直接的に厚み制御する方法などが製造の簡便さの観点から好ましい。かかる方法を実現するための設備としては、プレス成形機やダブルベルトプレス機を好適に用いることができる。バッチ式の場合は前者であり、加熱用と冷却用の2機以上を並列した間欠式プレスシステムとすることで生産性の向上が図れる。連続式の場合は後者であり、連続的な加工を容易に行うことができるため連続生産性に優れる。
【0114】
本発明において、多孔質構造体は、平均細孔直径が500μm以下の微多孔を有する。平均細孔直径は、200μm以下が好ましく、10μm以上150μm以下がより好ましく、30μm以上100μm以下がさらに好ましい。かかる範囲より小さいと膨張による多孔質構造体としての軽量化効果が十分でない場合があり、かかる範囲より大きいと多孔質構造体の力学特性が低下する場合がある。ここでの平均細孔直径は、
図4に示す多孔質構造体の表面の模式図の様に観察像内の空孔に内接する最大の円の直径8を無作為に抽出した50箇所で測定した長さの算術平均値である。多孔質構造体の表面の観察は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)により行うことができる。
【0115】
本発明の多孔質構造体の密度は0.01g/cm3以上、0.8g/cm3以下であることが好ましく、0.1g/cm3以上、0.5g/cm3以下であることがより好ましく、0.2g/cm3以上、0.3g/cm3以下であることがさらに好ましい。かかる範囲より小さいと多孔質構造体として炭素繊維基材による補強効果が不十分となる場合があり、かかる範囲より大きいと多孔質構造体としての軽量化効果が不十分となる場合がある。ここでの密度[g/cm3]は、多孔質構造体のサンプル質量[g]をサンプルの外周から求められる体積[cm3]で除した値であり、無作為に抽出した5つのサンプルで測定した結果の算術平均値として求めることができる。
【0116】
本発明の多孔質構造体は、140℃に加熱時の曲げ強度が、30℃での曲げ強度の80%以上であることが好ましく、90%以上100%以下であることがより好ましい。かかる値は、下式によって「140℃に加熱時の曲げ強度の保持率」として算出できる。
(140℃に加熱時の曲げ強度の保持率)=(140℃時の曲げ強度[MPa])/(30℃時の曲げ強度[MPa])×100[%]
曲げ強度はJIS K7171(2016)に準拠した3点曲げ試験により測定し、各水準5サンプルでの算術平均値とする。各水準の温度制御には恒温槽を用い、30℃雰囲気下と140℃雰囲気下のそれぞれで試験を行う。
【0117】
140℃に加熱時の曲げ強度の保持率が上記の範囲内であると、例えば100℃のような高温環境下においても構造材料用途に適用できる耐熱性に優れた多孔質構造体とできるため好ましい。
【0118】
本発明のプリプレグは、単層で用いてもよく、該プリプレグを積層単位として含むプリフォームとして用いることもできる。本発明のプリプレグは、力学特性が等方的であるために、疑似等方積層の様な強度の低い方向を補い合う積層を必要とせず、積層構成の設計自由度が高い特長がある。このため積層工程における手間や時間を減らし、経済的負担を低減することができる。
【0119】
[プリフォーム]
本発明のプリフォームは、本発明のプリプレグを積層単位として含む。前記プリフォームにおける積層枚数は2枚以上50枚以下が好ましく、2枚以上10枚以下がより好ましい。
【0120】
前記プリフォームは、「空隙を有する繊維強化樹脂成形体」(以下、「空隙体」ということがある)や「空隙を含まない繊維強化樹脂成形体」に成形することができる。
【0121】
[繊維強化樹脂成形体]
本発明の繊維強化樹脂成形体の態様の一つである空隙体は、本発明のプリフォームを加熱膨張する、すなわち本発明のプリフォームを構成する複数層の積層されたプリプレグを膨張状態で溶着させることにより成形してなる。
【0122】
前記空隙体を製造する方法としては、マトリクス樹脂(C)を溶融させる工程(1-A)、および成形品の厚みを制御しながらマトリクス樹脂(C)を固化させる工程(2-A)を含む方法が挙げられる。本発明のプリプレグやその積層体であるプリフォームは、面外方向の膨張性を有しているため、成形品の厚みを制御しながら成形することで内部に空隙を有する繊維強化樹脂成形体に成形することが可能となる。
【0123】
工程(1-A)は、マトリクス樹脂(C)を溶融により可塑化させ、炭素繊維基材のスプリングバック力により面外方向に選択的に膨張させる工程である。
【0124】
工程(1-A)の温度は、250~450℃が好ましく、280~450℃がより好ましく、300~400℃がさらに好ましい。工程(1-A)における圧力は0~5MPaが好ましく、0.1~3MPaがより好ましい。工程(1-A)における時間は0.5~60分が好ましく、5~30分がより好ましい。工程(1-A)の条件が上記の範囲内であることで、プリフォームを構成するプリプレグを効率よく膨張させ、プリプレグ同士の層間を強固に密着可能となる。
【0125】
工程(2-A)は、マトリクス樹脂(C)を固化させることでスプリングバック状態の炭素繊維基材を固定化し、空隙体とする工程である。
【0126】
工程(2-A)における温度は、20~280℃が好ましく、20~250℃がより好ましく、20~200℃がさらに好ましく、20~100℃がさらに好ましい。工程(2-A)における圧力は0~3MPaが好ましく、0~1MPaがより好ましい。工程(2-A)における時間は0.5~60分が好ましく、5~30分がより好ましい。工程(2-A)の条件を上記の範囲内とすることで、膨張率を制御し、力学特性と軽量性に優れた空隙体が得られる。
【0127】
また、工程(2-A)においては、成形品の厚み制御を行う。厚み制御を行う方法としては、金属板などを用いて厚みを拘束する方法や、加圧力の調節により直接的に厚み制御する方法などが製造の簡便さの観点から好ましい。
【0128】
かかる空隙体の製造方法を実現するための設備としては、プレス成形機を好適に用いることができる。工程(1-A)の加熱用と工程(2-A)の冷却用との2機以上を並列した間欠式プレスシステムとすることで生産性の向上が図れる。
【0129】
本発明の空隙体は、成形に用いたプリフォームに対して、面外方向の平均膨張率150~1,000%で膨張させて作製することが好ましく、200~800%がより好ましく、300~400%がさらに好ましい。かかる値は、(空隙体の厚み[mm])/(プリフォームの厚み[mm])×100[%]で算出できる膨張率であって、5サンプルでの算術平均値である。かかる範囲とすることで、軽量性と力学特性とのバランスに優れた空隙体が得られる。
【0130】
本発明における空隙体の密度は0.01g/cm3以上0.8g/cm3以下であることが好ましく、0.1g/cm3以上0.5g/cm3以下であることがより好ましく、0.3g/cm3以上0.5g/cm3以下であることがさらに好ましい。かかる範囲とすることで、軽量性と力学特性とのバランスに優れた空隙体が得られる。ここでの密度[g/cm3]は、空隙体のサンプル質量[g]をサンプルの外周から求められる体積[cm3]で除した値であり、無作為に抽出した5つのサンプルで測定した結果の算術平均値として求める。
【0131】
本発明の繊維強化樹脂成形体の態様の一つである、空隙を含まない繊維強化樹脂成形体は、本発明のプリフォームを加熱加圧する、すなわち本発明のプリフォームを構成する複数層の積層されたプリプレグを非膨張状態で溶着させることにより成形してなる。
【0132】
前記の空隙を含まない繊維強化樹脂成形体を製造する方法としては、マトリクス樹脂(C)を溶融させる工程(1-B)、およびプリプレグのスプリングバック力を押さえつけながらマトリクス樹脂(C)を固化させる工程(2-B)を含む方法が挙げられる。本発明のプリプレグやその積層体であるプリフォームは、面外方向の膨張性を有するが、このスプリングバック力を押さえつける高圧で成形することで、非膨張状態の繊維強化樹脂成形体に成形することが可能となる。
【0133】
工程(1-B)は、マトリクス樹脂(C)を溶融により可塑化させる工程である。
【0134】
工程(1-B)の温度は、250~450℃が好ましく、280~450℃がより好ましく、300~400℃がさらに好ましい。工程(1-B)における圧力は0~5MPaが好ましく、0.1~3MPaがより好ましい。工程(1-B)における時間は0.5~60分が好ましく、5~30分がより好ましい。工程(1-B)の条件を上記の範囲内とすることで、プリフォームを構成するプリプレグ同士の層間を強固に密着可能となる。
【0135】
工程(2-B)は、プリプレグのスプリングバック力を押さえつけながらマトリクス樹脂(C)を固化させることで、積層されたプリプレグが非膨張状態で一体化した繊維強化樹脂成形体とする工程である。
【0136】
工程(2-B)における温度は、20~280℃が好ましく、20~250℃がより好ましく、20~200℃がさらに好ましく、20~100℃がさらに好ましい。工程(2-B)における圧力は3~10MPaが好ましく、5~10MPaがより好ましい。工程(2-B)における時間は0.5~60分が好ましく、5~30分がより好ましい。工程(2-B)の条件を上記の範囲内とすることで、膨張率を制御し、力学特性に優れた繊維強化樹脂成形体が得られる。
【0137】
かかる繊維強化樹脂成形体の製造方法を実現するための設備としては、プレス成形機を好適に用いることができる。工程(1-B)の加熱用と工程(2-B)の冷却用との2機以上を並列した間欠式プレスシステムとすることで生産性の向上が図れる。
【0138】
空隙を含まない前記繊維強化樹脂成形体は、成形に用いたプリフォームに対して、面外方向の平均膨張率90~150%とすることが好ましく、100~120%がより好ましく、100~105%がさらに好ましい。かかる値は、(繊維強化樹脂成形体の厚み[mm])/(プリフォームの厚み[mm])×100[%]で算出できる膨張率であって、5サンプルでの算術平均値である。かかる範囲とすることで、力学特性に優れる繊維強化樹脂成形体が得られる。
【0139】
空隙を含まない前記繊維強化樹脂成形体の密度は0.8g/cm3以上2.0g/cm3以下であることが好ましく、1.2g/cm3以上1.5g/cm3以下であることがより好ましい。かかる範囲とすることで、力学特性に優れる繊維強化樹脂成形体が得られる。ここでの密度[g/cm3]は、繊維強化樹脂成形体のサンプル質量[g]をサンプルの外周から求められる体積[cm3]で除した値であり、無作為に抽出した5つのサンプルで測定した結果の算術平均値として求める。
【0140】
本発明の繊維強化樹脂成形体は、成形加工性に優れるため、コルゲート形状やハニカム形状に成形することも好ましい。ここでコルゲート形状とは複数の曲面や屈曲が連続した波板状の形状のことである。ハニカム形状とはコルゲート形状の繊維強化樹脂成形体をセル壁として用い、複数のセル壁を曲面や屈曲の凸部で接合させた構造体のことであり、セル壁で区画形成された多数の中空柱状セルの集合体のことである。中空柱状セルの底面の形状としては三角形状、四角形状、六角形状などが好ましく、力学特性の観点から六角形状がより好ましい。
【0141】
[サンドイッチ構造体]
本発明のサンドイッチ構造体は、本発明の繊維強化樹脂成形体を芯材として、一対のスキン材の間に挟んで一体化してなる。本発明の繊維強化樹脂成形体は耐熱性に優れるため、芯材として用いた場合、スキン材を接合するための加熱加圧工程においても変形が抑えられ、寸法精度に優れたサンドイッチ構造体が得られる。また、本発明のサンドイッチ構造体は軽量性と力学特性とのバランスに優れる。スキン材としては特に制限は無く、プリプレグや繊維強化樹脂成形体、金属板、樹脂板などが挙げられる。
【0142】
[航空機部材]
本発明のプリプレグ、これを用いた多孔質構造体や繊維強化樹脂成形体、サンドイッチ構造体は、航空機、人工衛星、UAM(Urban air mobility)、およびドローン等の航空機部材や自動車部材、鉄道車両部材、船舶部材、土木建築用部材、電子機器筐体、スポーツ用品などに好適に用いることができる。特に本発明は、耐熱性と信頼性の両立が要求される航空機部材に好適に用いることができる。
【実施例0143】
実施例および比較例で用いた材料は以下の通りである。
【0144】
[PEKK]
ポリエーテルケトンケトン(アルケマ(株)製“ケプスタン”(登録商標)6003)からなり、JIS K7121(2012)に準拠して測定した融点が305℃、ガラス転移温度が157℃である結晶性のポリエーテルケトンケトンを用いた。
【0145】
[PEEK]
ポリエーテルエーテルケトン(ビクトレックス社製“ビクトレックス”(登録商標)PEEK381G)からなり、JIS K7121(2012)に準拠して測定した融点が334℃、ガラス転移温度が143℃である結晶性のポリエーテルエーテルケトンを用いた。
【0146】
[炭素繊維不織布]
(CF-1)
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、および表面酸化処理を行い、総単糸数12,000本の炭素繊維束を得た。この炭素繊維束の特性は、JIS R7608(2007)に準拠して測定した引張弾性率が220GPaであり、単繊維直径7μmの円形断面であった。
【0147】
前記炭素繊維束を用い、カートリッジカッターで6mm長にカットし、チョップド炭素繊維を得た。水と界面活性剤(ナカライテクス(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))とからなる濃度0.1質量%の分散液を作製し、この分散液とチョップド炭素繊維とを用いて、炭素繊維不織布を作製した。製造装置は、分散槽として容器下部に開閉コックを有する直径1000mmの円筒状の容器、分散槽と抄紙槽とを接続する直線状の輸送部(傾斜角30°)を備えている。分散槽の上面の開口部には撹拌機が付属し、開口部からチョップド炭素繊維および分散液(分散媒体)を投入可能である。抄紙槽は、底部に幅500mmの抄紙面を有するメッシュコンベアを備え、炭素繊維不織布(抄紙基材)を運搬可能なコンベアをメッシュコンベアに接続している。抄紙は分散液中の炭素繊維濃度を0.05質量%として行った。また、炭素繊維が単糸状に分散し、かつ面内方向に等方分散するように抄紙条件を調節した。抄紙した基材は200℃の乾燥炉で30分間乾燥し、厚さ1.68mmで、目付100g/m2の炭素繊維不織布CF-1とした。CF-1の熱質量減少率は0質量%であった。
【0148】
(CF-2)
カートリッジカッターでカットする長さを3mm長に変更した以外はCF-1と同様にして、炭素繊維不織布CF-2を得た。CF-2、目付100g/m2、厚さ0.85mm、熱質量減少率は0質量%であった。
【0149】
[ポリアミック酸塩(PAMC)]
テトラカルボン酸二無水物としての4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(無水フタル酸)とジアミン化合物としてのm-フェニレンジアミンを1対1のモル比で反応させたポリアミック酸を、さらにトリアルキルアミンとして、N,N-ジメチル-2-アミノエタノールで中和したポリアミック酸塩とした。この化合物を精製水で希釈し、濃度10質量%の水溶液として用いた。
【0150】
[ポリビニルアルコール(PVA)]
ポリビニルアルコール(富士フィルム和光純薬(株)製 ポリビニルアルコール500、完全けん化型)を用いた。この化合物を精製水で希釈し、濃度10質量%の水溶液として用いた。
【0151】
[ポリアミノアミド(PAA)]
芳香族テトラアミン化合物としての3,3’-ジアミノベンジジンとジカルボン酸誘導体としてのイソフタル酸とを1対1のモル比で反応させることで、ポリアミノアミドを合成した。ポリアミノアミド化反応はNMP溶媒中で行った。これを濃度10質量%のNMP溶液として用いた。
【0152】
各実施例・比較例における構造、物性などの評価方法は以下の通りである。
【0153】
[炭素繊維基材の空孔率]
炭素繊維基材の空孔率は、炭素繊維基材に占める空孔の体積割合であり、炭素繊維基材の厚みと目付およびその構成成分の密度により次式により求めた。ここでの密度は、JISK0061(2001)により求めることができる。
(炭素繊維基材の空孔率)={(炭素繊維基材の厚み[m])-(炭素繊維基材の目付[g/m2])/(炭素繊維基材の構成成分の密度[g/m3])}/(炭素繊維基材の厚み[m])×100[%]。
【0154】
[樹脂組成物(B)の被覆率]
炭素繊維基材に対する樹脂組成物(B)の被覆率は、X線光電子分光法による表面酸素濃度(O/C)により次式を用いて求めることができる。
樹脂組成物(B)の被覆率(%)={(炭素繊維(A)のO/C)-(炭素繊維基材のO/C)}/{(炭素繊維(A)のO/C)-(樹脂組成物(B)のO/C)}×100 。
ここでの試料には、炭素繊維基材の他、樹脂組成物(B)を塗布する前の炭素繊維(A)単体と、樹脂組成物(B)を単体で0.1mm厚のフィルムとしたサンプルもそれぞれ用いた。
【0155】
それぞれの試料の表面酸素濃度(O/C)は、次の手順に従って求めた。まず、試料を幅20mm×長さ20mmにカットして、試料支持台に載せ、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10-8Torrに保ち、光電子脱出角度45°で測定した。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせた。炭素原子数は、282~296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めたC1sピーク面積を元に求めた。酸素原子数は、528~540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めたO1sピーク面積を元に求めた。表面酸素濃度(O/C)は、前記酸素原子数を前記炭素原子数で除した値である原子数比として求めた。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製PHI QuanteraIIを用いた。
【0156】
[炭素繊維基材の引張強度]
炭素繊維基材から幅50mm、長さ150mmの試験片を切り出し、両端のそれぞれ長さ50mm分を担持し、残る中央部の50mm長さの部分を室温環境下、試験速度3m/分で引張試験した。得られた最大点荷重を試験片幅で除することで引張強度[N/cm]とし、各水準5サンプルでの算術平均値を用いた。なお炭素繊維基材の引張試験は300℃で5分間加熱する加熱処理を行った水準と、行わない水準のそれぞれについて実施した。具体的には、炭素繊維基材のある一方向の引張強度として、前記加熱処理を行った水準の引張強度(Ta)と前記加熱処理を行わなかった水準の引張強度(Tao)を求めた。さらに前記のある一方向に直交する方向の引張強度として、前記加熱処理を行った水準の引張強度(Tb)と前記加熱処理を行わなかった水準の引張強度(Tbo)を求めた。加熱処理前後の引張強度の変化は、前記Taおよび前記Taoから次式により求めた。
(加熱前の引張強度に対する加熱処理後の強度)=Ta/Tao×100[%]
加熱処理後の引張強度比(Ta/Tb)は、前記Taを前記Tbで除した数値として求め、加熱処理前の引張強度比(Tao/Tbo)は、前記Taoを前記Tboで除した数値として求めた。
【0157】
[熱重量・質量分析(TG-MS)]
加熱時の発生ガスの質量とその成分の分析は、熱重量・質量分析装置(TG-MS)により行った。熱重量分析(TG)を用い、樹脂組成物(B)の熱質量減少率を下記式(1)により求めた。
熱質量減少率(質量%)=[(W1-W2)/W1]×100・・・(1)
ここで、W1は室温から100℃まで10℃/分で昇温し、さらに30分間等温保持した後の試料質量(mg)であり、W2は次いで10℃/分で昇温し250℃に到達した際の試料質量(mg)である。
【0158】
質量分析(MS)による発生ガスの分析にはGC/MSQP2010((株)島津製作所製)を用いた。発生ガス中の水分の有無から脱水縮合反応かそれ以外の熱分解反応かを判別した。
【0159】
[炭素繊維(A)の数平均繊維長]
炭素繊維(A)とした炭素繊維不織布から無作為に400本の炭素繊維を抽出し、光学顕微鏡によりその長さを測定し、次式により数平均繊維長(Ln)を求めた。
数平均繊維長(Ln)=(ΣLi)/Nf
Li:測定した繊維長さ(i=1、2、3、・・・、n)
Nf:繊維長さを測定した総本数。
【0160】
[プリプレグの面外方向の平均膨張率]
プリプレグの面外方向の膨張率は、プリプレグの厚みと、このプリプレグをマトリクス樹脂(C)の融点に20℃を加算した温度で5分間加熱することで膨張させた多孔質構造体の厚みとから下式により求めた。
プリプレグの面外方向の膨張率(%)=[多孔質構造体の厚み(mm)/プリプレグの厚み(mm)]×100 。
【0161】
プリプレグの面外方向の平均膨張率は無作為に抽出した5箇所で測定したプリプレグの面外方向の膨張率の算術平均値として求めた。
【0162】
[プリプレグまたは多孔質構造体の密度]
プリプレグまたは多孔質構造体の密度(g/cm3)は、サンプル質量(g)をサンプルの外周から求められる体積(cm3)で除した値であり、無作為に抽出した5つのサンプルで測定した結果の算術平均値として求めた。
【0163】
[プリプレグまたは多孔質構造体の平均細孔直径]
平均細孔直径は、
図4に示す多孔質構造体の表面の模式図の様に空孔に内接する最大の円の直径から測定した。プリプレグまたは多孔質構造体の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、観察画像において空孔に内接する最大の円を描き、この円の直径の長さを細孔直径として求めた。かかる値を無作為に抽出した50箇所で測定した長さの算術平均値として平均細孔直径を求めた。
【0164】
[多孔質構造体の曲げ強度]
曲げ強度は試験機として“インストロン”(登録商標)5565型万能材料試験機(インストロン・ジャパン(株)製)を用い、JIS K7171(2016)に準拠した3点曲げ試験により測定した。測定時における環境温度は恒温槽により調節し、30℃と140℃のそれぞれの温度環境下について曲げ強度を測定した。曲げ強度には各水準5サンプルでの算術平均値を用いた。さらに下式によって140℃に加熱時の曲げ強度の保持率を求めた。
(140℃に加熱時の曲げ強度の保持率)=(140℃時の曲げ強度[MPa])/(30℃時の曲げ強度[MPa])×100[%] 。
【0165】
[プリプレグの引張強度]
プリプレグの引張強度は試験機として“インストロン”(登録商標)5565型万能材料試験機(インストロン・ジャパン社製)を用い、ISO527-3法(1995)に準拠した引張試験により測定した。試験片は、任意の方向を0°方向とし、45°、90°、-45°方向の4方向について切り出した試験片を作製し、それぞれの方向について測定数はn=5とし、全ての測定値(n=20)について、最大値と最小値、およびこれらの平均値である平均引張強度をそれぞれ求めた。さらに標準偏差を求め、次式によって算出できるCV値(変動係数)を引張強度のバラツキとした。
引張強度のバラツキ(%)=[(引張強度の標準偏差)/(引張強度の平均値)]×100
さらに、前記引張強度の最大値を前記引張強度の最小値で除することで、引張強度の最小値に対する最大値の比を求めた。
【0166】
[プリプレグの400℃での厚みおよびそのバラツキ]
レーザー変位計を備え、非接触での厚み測定が可能な熱板を用いた。プリプレグを熱板上に設置し、400℃まで昇温させ、5分間保持した後のプリプレグの厚みを読み取った。無作為に抽出した20か所についてプリプレグの厚みを読み取り、この平均値を400℃での厚みとした。さらに標準偏差を求め、次式によって算出できるCV値(変動係数)を400℃での厚みバラツキとした。
400℃での厚みのバラツキ(%)=[(400℃での厚みの標準偏差)/(400℃での厚みの平均値)]×100 。
【0167】
[バインダー樹脂組成物(D)の被覆率]
炭素繊維基材に対するバインダー樹脂組成物(D)の被覆率は、X線光電子分光法による表面酸素濃度(O/C)により次式を用いて求めることができる。
バインダー樹脂組成物(D)の被覆率(%)={(炭素繊維(A)のO/C)-(炭素繊維基材のO/C)}/{(炭素繊維(A)のO/C)-(バインダー樹脂組成物(D)のO/C)}×100 。
ここでの試料には、炭素繊維基材の他、バインダー樹脂組成物(D)を塗布する前の炭素繊維(A)単体と、バインダー樹脂組成物(D)の前駆体を単体で炭素繊維基材の作製時と同条件で加熱処理し、0.1mm厚のフィルムとしたサンプルもそれぞれ用いた。
【0168】
それぞれの試料の表面酸素濃度(O/C)は、前述の「樹脂組成物(B)の被覆率」と同様にして求めた。
【0169】
[熱質量減少率]
熱重量分析(TG)を用い、炭素繊維(A)とバインダー樹脂組成物(D)の熱質量減少率を下記式により求めた。
熱質量減少率(質量%)=(M1-M2)/M1×100
ここで、M1は30℃で10分間等温保持した後の試料質量(mg)であり、M2は次いで10℃/分で昇温し400℃に到達した際の試料質量(mg)である。
炭素繊維(A)の試料には、バインダー樹脂組成物(D)の塗布前の炭素繊維(A)を用いた、バインダー樹脂組成物(D)の試料には、バインダー樹脂組成物(D)の前駆体を単独で炭素繊維基材の作製時と同条件で加熱処理したものを評価に用いた。
【0170】
[バインダー樹脂組成物(D)のガラス転移温度]
示差走査熱量測定(DSC)を用い、JIS K7121(2012)に準拠してバインダー樹脂組成物(D)のガラス転移温度を測定した。バインダー樹脂組成物(D)の試料には、バインダー樹脂組成物(D)の前駆体を単独で炭素繊維基材の作製時と同条件で加熱処理したものを評価に用いた。
【0171】
[炭素繊維(A)の繊維長]
炭素繊維基材から無作為に400本の炭素繊維(A)を抽出し、光学顕微鏡によりその長さを測定し、次式により数平均繊維長(Ln)を求めた。
数平均繊維長(Ln)=(ΣLi)/Nf
Li:測定した繊維長さ(i=1、2、3、・・・、n)
Nf:繊維長さを測定した総本数。
【0172】
[炭素繊維基材における炭素繊維(A)の質量割合]
炭素繊維基材における炭素繊維(A)の質量割合は、炭素繊維基材の質量と、バインダー樹脂組成物の前駆体の塗布前の炭素繊維(A)の質量とから次式により求めた。
炭素繊維基材における炭素繊維(A)の質量割合(%)=(炭素繊維(A)の質量(g))/(炭素繊維基材の質量(g))×100 。
【0173】
[プリプレグにおける炭素繊維(A)の質量割合]
プリプレグにおける炭素繊維(A)の質量割合は、プリプレグの質量と、これに用いた炭素繊維(A)の質量とから次式により求めた。
プリプレグにおける炭素繊維(A)の質量割合(%)=(炭素繊維(A)の質量(g))/(プリプレグの質量(g))×100 。
【0174】
[繊維強化樹脂成形体または空隙体の膨張率]
繊維強化樹脂成形体または空隙体の膨張率は、成形に使用したプリフォームの厚みと、このプリフォームを成形して得られる繊維強化樹脂成形体または空隙体の厚みとから次式により求めた。
(膨張率)=(繊維強化樹脂成形体または空隙体の厚み[mm])/(プリフォームの厚み[mm])×100[%]
繊維強化樹脂成形体または空隙体の厚みとプリフォームの厚みは、それぞれ無作為に抽出した5箇所で測定した厚みの平均値として求めた。
【0175】
[繊維強化樹脂成形体または空隙体の密度]
繊維強化樹脂成形体または空隙体の密度[g/cm3]は、サンプル質量[g]をサンプルの外周から求められる体積[cm3]で除した値であり、無作為に抽出した5つのサンプルで測定した結果の平均値として求めた。
【0176】
以下、本発明の実施例および比較例で作製した炭素繊維基材、プリプレグおよび多孔質構造体について説明する。
【0177】
[実施例1]
(炭素繊維(A))
炭素繊維(A)として、炭素繊維不織布CF-1を300mm×300mmサイズに裁断したものを用いた。
【0178】
(樹脂組成物(B))
樹脂組成物(B)としてPAMCを用いた。これを1質量%に再希釈した水溶液とした。
【0179】
(炭素繊維基材)
上記の炭素繊維不織布を上記の水溶液に浸漬させた。次いで、炭素繊維不織布を取り出して、100℃で1時間加熱乾燥することで炭素繊維基材とした。
【0180】
得られた炭素繊維基材の質量と用いた炭素繊維(A)の質量との差が樹脂組成物(B)の付着量であり、この付着量は炭素繊維(A)100質量部に対して5質量部であった。また、樹脂組成物(B)の被覆率は100%であった。各評価の結果を表1に示す。
【0181】
[実施例2]
樹脂組成物(B)を再希釈した際の濃度を3質量%としたことで、樹脂組成物(B)の付着量を10質量部とした。それ以外は実施例1と同様にして、炭素繊維基材を得た。
【0182】
この炭素繊維基材における樹脂組成物(B)の被覆率は100%であった。各評価の結果を表1に示す。
【0183】
[比較例1]
樹脂組成物(B)としてPVAを用いた以外は実施例1と同様にして、炭素繊維基材を得た。このサンプルのPVAの被覆率は100%であった。各評価の結果を表1に示す。
【0184】
[比較例2]
樹脂組成物(B)を用いずに、炭素繊維不織布CF-1を直接評価に用いた。各評価の結果を表1に示す。
【0185】
[実施例3]
(炭素繊維(A))
実施例1で用いたのと同様の、裁断された炭素繊維不織布CF-1を用いた。
【0186】
(樹脂組成物(B))
樹脂組成物(B)としてPAAを用いた。これを1質量%に再希釈したN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液とした。
【0187】
(炭素繊維基材)
上記の炭素繊維不織布を上記のNMP溶液に浸漬させた。さらにNMP溶液から炭素繊維不織布を取り出し、次いで水中に浸漬させることで炭素繊維(A)の表面に樹脂組成物(B)を析出させた。次いで、水中から炭素繊維不織布を取り出して、100℃で1時間加熱乾燥することで炭素繊維基材とした。
【0188】
樹脂組成物(B)の付着量は炭素繊維(A)100質量部に対して5質量部であった。また、樹脂組成物(B)の被覆率は100%であった。各評価の結果を表1に示す。
【0189】
【0190】
[実施例1-2]
(炭素繊維基材)
炭素繊維基材として、実施例1で得られたものを用いた。
【0191】
(マトリクス樹脂(C))
マトリクス樹脂(C)として、PEKKからなる目付150g/m2で300mm×300mmの樹脂フィルムを2枚用いた。
【0192】
(プリプレグ)
上記の炭素繊維基材および樹脂フィルムを、樹脂フィルム/炭素繊維基材/樹脂フィルムの順で積層した。この積層体をさらに400mm×400mmのSUS製の平板状の金型(tooling plate)で挟むことで搬送しつつ加熱加圧プレスを行った。プレス工程は、まず温度350℃、圧力10MPaで10分間加熱して行った。次いで温度150℃、圧力10MPaで10分間冷却固化を行うことで厚み0.28mmのプリプレグを作製した。
【0193】
得られたプリプレグの外観に炭素繊維基材に破れは見られず、成形不良は確認されなかった。各評価の結果を表2に示す。
【0194】
[実施例2-2]
炭素繊維基材として実施例2で得られたものを用いた以外は実施例1-2と同様にして、プリプレグを作製した。得られたプリプレグの外観に炭素繊維基材に破れは見られず、成形不良は確認されなかった。各評価の結果を表2に示す。
【0195】
[比較例1-2]
炭素繊維基材として比較例1で得られたものを用いた以外は実施例1-2と同様にして、プリプレグを作製した。
【0196】
得られたプリプレグには所々に炭素繊維基材の破れによる成形不良が見られた。破れの少ない所を選び行った各評価の結果を表2に示す。
【0197】
[比較例2-2]
炭素繊維基材として比較例2で評価した炭素繊維不織布CF-1そのものを用いた以外は実施例1-2と同様にして、プリプレグの作製を試みた。しかし、プレス成形中に炭素繊維基材が破れて細分化してしまい、プリプレグは得られなかった。各結果を表2に示す。
【0198】
[実施例3-2]
炭素繊維基材として実施例3で得られたものを用いた以外は実施例1-2と同様にして、プリプレグを作製した。
【0199】
得られたプリプレグの外観に炭素繊維基材に破れは見られず、成形不良は確認されなかった。各評価の結果を表2に示す。
【0200】
【0201】
[実施例1-3]
(プリプレグ)
プリプレグとして、実施例1-2で得られたものを用いた。
【0202】
(多孔質構造体)
300mm×300mmで厚み0.28mmの、上記のプリプレグを4枚積層して用い、400mm×400mmのSUS製の平板状の金型(tooling plate)間に、厚み4mmのSUS製スペーサーと共に挟むことで膨張倍率を制御しつつ、加熱加圧プレスを行った。プレス工程はまず、温度350℃、圧力1MPaで10分間加熱し、次いで温度150℃、圧力1MPaで10分間冷却固化を行った。膨張倍率は360%に制御しており、得られた多孔質構造体の厚みは4mmであった。各評価の結果を表3に示す。
【0203】
[比較例1-3]
プリプレグとして比較例1-2で得られたものを用いた以外は実施例1-3と同様にして、多孔質構造体を作製した。各評価の結果を表3に示す。
【0204】
[実施例3-3]
プリプレグとして実施例3-2で得られたものを用いた以外は実施例1-3と同様にして、多孔質構造体を作製した。各評価の結果を表3に示す。
【0205】
[実施例1-4]
(プリプレグ)
プリプレグとして、実施例1-2で得られたものを用いた。
【0206】
(多孔質構造体)
300mm×300mmで厚み0.28mmの、上記のプリプレグを3枚積層して用い、400mm×400mmのSUS製の平板状の金型(tooling plate)間に、厚み4mmのSUS製スペーサーと共に挟むことで膨張倍率を制御しつつ、加熱加圧プレスを行った。プレス工程はまず、温度350℃、圧力1MPaで10分間加熱し、次いで温度150℃、圧力1MPaで10分間冷却固化を行った。膨張倍率は480%に制御しており、得られた多孔質構造体の厚みは4mmであった。各評価の結果を表3に示す。
【0207】
[比較例1-4]
プリプレグとして比較例1-2で得られたものを用いた以外は実施例1-4と同様にして、多孔質構造体の作製を試みた。しかしながら面外方向への膨張倍率が十分ではなく、目的とした4mm厚みの多孔質構造体は得られなかった。各評価の結果を表3に示す。
【0208】
[実施例3-4]
プリプレグとして実施例3-2で得られたものを用いた以外は実施例1-4と同様にして、多孔質構造体を作製した。各評価の結果を表3に示す。
【0209】
【0210】
[実施例4]
(炭素繊維(A))
実施例1で用いたのと同様の、裁断された炭素繊維不織布CF-1を用いた。
【0211】
(樹脂組成物(B))
バインダー樹脂組成物(D)前駆体である樹脂組成物(B)の溶液として、実施例1で用いたのと同様の、PAMCの1質量%水溶液を用いた。
【0212】
(炭素繊維基材)
上記の炭素繊維不織布を上記の水溶液に浸漬させた。次いで、炭素繊維不織布を取り出して、200℃で1時間加熱乾燥することでPAMCをイミド化させ、バインダー樹脂組成物(D)としてポリエーテルイミド樹脂が炭素繊維(A)に付着した炭素繊維基材を得た。強化繊維(A)の繊維長は6mmで、バインダー樹脂組成物(D)の被覆率は100%であった。バインダー樹脂組成物(D)のガラス転移温度は220℃で、400℃での熱質量減少率は1質量%であった。
【0213】
(マトリクス樹脂(C))
マトリクス樹脂(C)として、PEKKからなる目付150g/m2で300mm×300mmの樹脂フィルムを2枚用いた。
【0214】
(プリプレグ)
上記の炭素繊維基材および樹脂フィルムを、樹脂フィルム/炭素繊維基材/樹脂フィルムの順で積層した。この積層体をさらに400mm×400mmのSUS製の平板状の金型(tooling plate)で挟むことで搬送しつつ加熱加圧プレスを行った。プレス工程は、まず温度350℃、圧力10MPaで10分間加熱し、次いで温度30℃、圧力10MPaで10分間冷却固化を行うことで厚み0.28mmのプリプレグを作製した。各評価の結果を表4に示す。
【0215】
[実施例5]
PAMCの水溶液の濃度を3質量%とした以外は実施例4と同様にして、プリプレグを得た。炭素繊維(A)の繊維長は6mmで、バインダー樹脂組成物(D)の被覆率は100%であった。バインダー樹脂組成物(D)のガラス転移温度は220℃で、400℃での熱質量減少率は1質量%であった。プリプレグの厚みは0.28mmであった。各評価の結果を表4に示す。
【0216】
[実施例6]
炭素繊維(A)としてCF-2を用いた以外は実施例4と同様にして、プリプレグを得た。炭素繊維(A)の繊維長は3mmで、バインダー樹脂組成物(D)の被覆率は100%であった。バインダー樹脂組成物(D)のガラス転移温度は220℃で、400℃での熱質量減少率は1質量%であった。プリプレグの厚みは0.28mmであった。各評価の結果を表4に示す。
【0217】
[実施例7]
マトリクス樹脂(C)としてPEEKを用いた以外は実施例4と同様にして、プリプレグを得た。炭素繊維(A)の繊維長は6mmで、バインダー樹脂組成物(D)の被覆率は100%であった。バインダー樹脂組成物(D)のガラス転移温度は220℃で、400℃での熱質量減少率は1質量%であった。プリプレグの厚みは0.28mmであった。各評価の結果を表4に示す。
【0218】
[実施例8]
(炭素繊維(A))
実施例1で用いたのと同様の、裁断された炭素繊維不織布CF-1を用いた。
【0219】
(樹脂組成物(B))
バインダー樹脂組成物(D)の前駆体である樹脂組成物(B)としてPAAを用いた。これを1質量%に再希釈したNMP溶液とした。
【0220】
(炭素繊維基材)
上記の炭素繊維不織布を上記のNMP溶液に浸漬させた。次いで、炭素繊維不織布を取り出して、200℃で1時間加熱乾燥することでPAAをイミダゾール化させ、バインダー樹脂組成物(D)としてポリベンゾイミダゾール樹脂が炭素繊維(A)に付着した炭素繊維基材を得た。バインダー樹脂組成物(D)の被覆率は100%であった。バインダー樹脂組成物(D)のガラス転移温度は425℃で、400℃での熱質量減少率は1質量%であった。
【0221】
(マトリクス樹脂(C))
マトリクス樹脂(C)として、PEKKからなる目付150g/m2で300mm×300mmの樹脂フィルムを2枚用いた。
【0222】
(プリプレグ)
上記の炭素繊維基材および樹脂フィルムを、樹脂フィルム/炭素繊維基材/樹脂フィルムの順で積層した。この積層体をさらに400mm×400mmのSUS製の平板状の金型(tooling plate)で挟むことで搬送しつつ加熱加圧プレスを行った。プレス工程は、まず温度350℃、圧力10MPaで10分間加熱し、次いで温度30℃、圧力10MPaで10分間冷却固化を行うことで厚み0.28mmのプリプレグを作製した。各評価の結果を表4に示す。
【0223】
[実施例9]
マトリクス樹脂(C)としてPEEKを用いた以外は実施例8と同様にして、プリプレグを得た。炭素繊維(A)の繊維長は6mmで、バインダー樹脂組成物(D)の被覆率は100%であった。バインダー樹脂組成物(D)のガラス転移温度は425℃で、400℃での熱質量減少率は1質量%であった。プリプレグの厚みは0.28mmであった。各評価の結果を表4に示す。
【0224】
[比較例3]
樹脂組成物(B)としてPVAを用いた以外は実施例4と同様にして、プリプレグを得た。バインダー樹脂組成物(D)の被覆率は100%であった。バインダー樹脂組成物(D)のガラス転移温度は60℃で、400℃での熱質量減少率は60質量%であった。プリプレグの厚みは0.28mmであった。各評価の結果を表4に示す。
【0225】
[比較例4]
炭素繊維(A)としてCF-2を用いた以外は比較例3と同様にして、プリプレグを得た。炭素繊維(A)の繊維長は3mmで、バインダー樹脂組成物(D)の被覆率は100%であった。バインダー樹脂組成物(D)のガラス転移温度は60℃で、400℃での熱質量減少率は60質量%であった。プリプレグの厚みは0.28mmであった。各評価の結果を表4に示す。
【0226】
[比較例5]
マトリクス樹脂(C)としてPEEKを用いた以外は比較例3と同様にして、プリプレグを得た。炭素繊維(A)の繊維長は6mmで、バインダー樹脂組成物(D)の被覆率は100%であった。バインダー樹脂組成物(D)のガラス転移温度は60℃で、400℃での熱質量減少率は60質量%であった。プリプレグの厚みは0.28mmであった。各評価の結果を表4に示す。
【0227】
【0228】
[実施例10]
(プリプレグ)
プリプレグとして、実施例4で得られたものを用いた。
【0229】
(プリフォーム)
300mm×300mmで厚み0.28mmの上記のプリプレグを4枚積層し、プリフォームを用意した。
【0230】
(繊維強化樹脂成形体)
上記のプリフォームを400mm×400mmのSUS製の平板状の金型(tooling plate)間に挟み、加熱加圧プレスを行った。プレス工程はまず、温度350℃、圧力3MPaで10分間加熱し、次いで温度30℃、圧力5MPaで10分間冷却固化を行った。得られた繊維強化樹脂成形体の厚みは1.12mmで、膨張率は100%、密度は1.4g/cm3で空隙のない成形品あった。
【0231】
[実施例11]
(プリプレグ)
プリプレグとして、実施例4で得られたものを用いた。
【0232】
(プリフォーム)
300mm×300mmで厚み0.28mmの上記のプリプレグを4枚積層し、プリフォームを用意した。
【0233】
(繊維強化樹脂成形体)
上記のプリフォームを400mm×400mmのSUS製の平板状の金型(tooling plate)間に、厚み4mmのSUS製スペーサーと共に挟むことで膨張率を制御しつつ、加熱加圧プレスを行った。プレス工程はまず、温度350℃、圧力3MPaで10分間加熱し、次いで温度30℃、圧力1MPaで10分間冷却固化を行い、空隙を有する繊維強化樹脂成形体(空隙体)を得た。得られた空隙体の厚みは4mmで、膨張率は360%、密度は0.4g/cm3であった。30℃での曲げ強度は53MPa、140℃での曲げ強度は48MPaであり、140℃に加熱時の曲げ強度の保持率は91%であった。
【0234】
[実施例12]
プリプレグとして実施例8で得られたものを用いた以外は実施例11と同様にして、空隙体を成形した。得られた空隙体の厚みは4mmで、膨張率は360%、密度は0.4g/cm3であった。30℃での曲げ強度は53MPa、140℃での曲げ強度は50MPaであり、140℃に加熱時の曲げ強度の保持率は94%であった。
【0235】
[比較例6]
プリプレグとして比較例3で得られたものを用いた以外は実施例11と同様にして、空隙体を成形した。得られた空隙体の厚みは4mmで、膨張率は360%、密度は0.4g/cm3であった。30℃での曲げ強度は47MPa、140℃での曲げ強度は32MPaであり、140℃に加熱時の曲げ強度の保持率は68%であった。
【0236】
[実施例13]
(プリプレグ)
プリプレグとして、実施例1-2で得られたものを用いた。
【0237】
(プリフォーム)
長さ300mm×幅300mmで厚み0.28mmの上記のプリプレグを2枚積層し、プリフォームを用意した。
【0238】
(繊維強化樹脂成形体)
上記のプリフォームを、凹凸形状を有する1対の金型間に挟み、膨張率を制御しつつ、加熱加圧プレスを行った。プレス工程はまず、温度350℃、圧力3MPaで10分間加熱し、次いで温度30℃、圧力1MPaで10分間冷却固化を行った。得られた繊維強化樹脂成形体の厚みは2mmで、膨張率は360%、密度は0.4g/cm3であった。さらに、得られた繊維強化樹脂成形体は、金型の凹凸形状が転写されることでコルゲート形状に成形されており、一方の表面から見た際に、長さ方向にそれぞれ10mm長の繊維強化樹脂成形体が屈曲角度120°/120°/240°/240°の順で繰り返し屈曲している波板形状であった。
【0239】
[実施例14]
実施例13で得られたコルゲート形状の繊維強化樹脂成形体を、幅10mmの短冊状に切断した。これらの短冊状の切断片を、隣接する切断片の凸部同士が向き合うように積層させることで凸部同士を接合させた。凸部同士の接合面にはエポキシ樹脂接着剤(120℃硬化タイプ)を塗布し、温度120℃、圧力0.1MPaで1時間、加熱加圧することで接合させ、一辺10mmの正六角柱状の中空柱状セルが並んだハニカム構造の繊維強化樹脂成形体を得た。
【0240】
[実施例15]
(芯材)
実施例14で得られたハニカム形状の繊維強化樹脂成形体を芯材として用いた。
【0241】
(スキン材)
実施例1-2で得られたプリプレグ2枚を、1対のスキン材として用いた。
【0242】
(サンドイッチ構造体)
2枚の上記のスキン材の対向するそれぞれの表面にエポキシ樹脂接着剤(120℃硬化タイプ)を塗布した。これらのスキン材間に上記の芯材を挟み、温度120℃、圧力0.1MPaで1時間加熱加圧することで一体化させ、サンドイッチ構造体とした。