(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028306
(43)【公開日】2024-03-04
(54)【発明の名称】微細加工装置、微細加工ユニット、制御装置、原盤の製造方法、及び原盤用基材の微細加工方法
(51)【国際特許分類】
B29C 59/04 20060101AFI20240226BHJP
B26D 3/10 20060101ALI20240226BHJP
B23B 29/24 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
B29C59/04 C
B26D3/10 K
B23B29/24 C
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218196
(22)【出願日】2023-12-25
(62)【分割の表示】P 2022111792の分割
【原出願日】2017-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 章広
(72)【発明者】
【氏名】野田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】土井 克浩
(57)【要約】
【課題】複数の工具を用いて原盤用基材を切削する場合に、加工の精度を高めることが可能な、新規かつ改良された微細加工装置等を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、工具設置部と、工具設置部に固定され、原盤用基材に微細凹部を形成可能な第1の工具と、工具設置部に設けられ、原盤用基材に微細凹部を形成可能な第2の工具と、第2の工具の設置位置を調整可能な工具調整部と、第2の工具の変位を測定する変位測定部と、工具設置部を原盤用基材に対して相対移動させる基台駆動部と、第2の工具の変位に基づいて、第1の工具の作用点から第2の工具の作用点までの相対距離を算出し、工具調整部を制御することで、相対距離を所定範囲内の値に維持する制御部と、を備えることを特徴とする、微細加工装置が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱形状または円筒形状の原盤用基材と、
前記原盤用基材の外周面に螺旋状に形成された複数対の螺旋状微細凹部と、
前記原盤用基材の外周面に前記原盤用基材の中心軸方向に形成された複数対の直線状微細凹部と、
を備え、
前記螺旋状微細凹部は、
前記原盤用基材の外周面において第1方向に巻かれるように形成され、前記原盤用基材の外周面に前記螺旋状微細凹部及び前記直線状微細凹部を切削加工するための一対の切削工具の刃先の形状に対応する断面形状を有する1対もしくは複数対の第1螺旋状微細凹部と、
前記原盤用基材の外周面において、前記第1方向とは逆の第2方向に巻かれるように形成され、前記一対の切削工具の刃先の形状に対応する断面形状を有する1対もしくは複数対の第2螺旋状微細凹部と、
を含み、
前記直線状微細凹部は、前記一対の切削工具の刃先の形状に対応する断面形状を有し、
前記原盤用基材の外周面における前記直線状微細凹部の長さ方向と前記原盤用基材の中心軸とのなす角度θが0°であり、
前記原盤用基材の外周面において、前記第1螺旋状微細凹部と前記第2螺旋状微細凹部と前記直線状微細凹部とが相互に交差することによって、格子状の微細凹部が形成され、当該格子状の微細凹部により囲まれる部分に微細凸部が形成されている、原盤。
【請求項2】
前記第1螺旋状微細凹部、前記第2螺旋状微細凹部、及び、前記直線状微細凹部の断面形状は、前記一対の切削工具の刃先の形状に対応したV字型である、請求項1に記載の原盤。
【請求項3】
x軸方向が、前記一対の切削工具の切込み方向に対応する前記原盤用基材の径方向であり、z軸方向が、前記一対の切削工具の配列方向に対応する前記原盤用基材の中心軸の方向であり、y軸方向が、前記x軸方向及び前記z軸方向に対して垂直な方向であるとき、
前記複数対の直線状微細凹部のうち各対の直線状微細凹部は、前記y軸方向にずれて配置された前記一対の切削工具によって同時に切削加工されたものである、請求項1または2に記載の原盤。
【請求項4】
前記原盤用基材の外周面における前記螺旋状微細凹部の長さ方向と前記原盤用基材の中心軸とのなす角度θが、所定角度に調整されており、
前記所定角度は、前記一対の切削工具により前記原盤用基材の外周面に前記螺旋状微細凹部を切削加工するときの前記原盤用基材の回転速度と、前記一対の切削工具の前記中心軸方向の移動速度とを制御することにより調整された角度である、請求項1~3のいずれか1項に記載の原盤。
【請求項5】
各対の前記螺旋状微細凹部の一方と他方との間の相対距離が、所定範囲内の値に維持されており、
前記相対距離は、前記一対の切削工具により前記原盤用基材の外周面に前記螺旋状微細凹部を切削加工するときの前記一対の切削工具の作用点間の相対距離を前記所定範囲内の値に制御することにより調整された距離である、請求項1~4のいずれか1項に記載の原盤。
【請求項6】
x軸方向が、前記一対の切削工具の切込み方向に対応する前記原盤用基材の径方向であり、z軸方向が、前記一対の切削工具の配列方向に対応する前記原盤用基材の中心軸の方向であるとき、
各対の前記第1螺旋状微細凹部の一方と他方との間の前記z軸方向の相対距離Δzと基準距離との差分、及び、各対の前記第2螺旋状微細凹部の一方と他方との間の前記z軸方向の相対距離Δzと前記基準距離との差分は、-0.1~0.1μmであり、
各対の前記第1螺旋状微細凹部の一方と他方との間の前記x軸方向の相対距離Δxと前記基準距離との差分、及び、各対の前記第2螺旋状微細凹部の一方と他方との間の前記x軸方向の相対距離Δxと前記基準距離との差分は、-0.1~0.1μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の原盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細加工装置、微細加工ユニット、制御装置、原盤の製造方法、及び原盤用基材の微細加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細加工技術の一つとして、表面に微細凹凸構造が形成された原盤を樹脂シート等に押し当てることで、原盤上の微細凹凸構造を樹脂シート等に転写するインプリント技術が知られている。
【0003】
原盤の製造方法として、レーザ光によるリソグラフィー及びドライエッチングによって凹凸構造を原盤用基材の表面に形成する技術が知られている。この技術によれば、可視光波長以下の平均周期を有する凹凸構造を原盤用基材の表面に形成することができる。したがって、この技術によれば、超微細な凹凸構造を作成できる。その一方で、この技術では、高精度なマスクが必要となるので、原盤の製造コストが大きくなる。さらに、製造設備が大掛かりになるので、初期コストに加え、メンテナンスに要するコストの負担も大きい。
【0004】
他の原盤の製造方法としては、例えば、特許文献1に開示されているように、切削工具を用いた切削加工により凹凸構造を原盤用基材の表面に形成する技術が知られている。この技術では、先端にチップ(切削部)が形成された切削工具を用いて原盤用基材を切削することで、原盤用基材の表面に微細凹部を格子状に形成する。微細凹部に囲まれた部分が微細凸部となる。これにより、原盤用基材の表面に微細凹凸構造を形成する。この技術では、上述した技術のような超微細な凹凸構造を形成することは難しいが、比較的低コストで原盤を作製可能であるというメリットが有る。
【0005】
ところで、切削工具を用いた技術では、切削工具を原盤用基材に対して相対移動させることで、原盤用基材を切削する。したがって、切削工具が1つだけ(言い換えれば、チップが1つだけ)となる場合、切削工具の移動距離が極めて長くなるという問題がある。この結果、切削工具の消耗が激しくなり、作業時間が長くなるという問題が生じる。
【0006】
そこで、特許文献2~5には、このような問題を解決するための技術として、複数のチップを用いて原盤用基材を切削する技術が開示されている。特許文献2に開示された技術では、集束イオンビームミリング法により1つの切削工具に2つのチップを形成する。そして、このような切削工具を用いて原盤用基材を切削する。特許文献3~5に開示された技術では、1つのチップが形成された切削工具を複数本用意し、これらの切削工具を取り付け構造体に固定する。そして、これらの切削工具を用いて原盤用基材を切削する。これらの技術によれば、複数のチップを用いて原盤用基材を切削するので、複数本の微細凹部を同時に形成することができる。したがって、切削工具の移動距離を短縮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許5635403号
【特許文献2】特表2005-527394号公報
【特許文献3】特開2013-63508号公報
【特許文献4】特許5833533号
【特許文献5】特許5230896号
【特許文献6】特許4947777号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2に開示された技術では、集束イオンビームミリングのスループットが低いため、切削工具の生産性が低い(言い換えれば、切削工具の生産コストが高い)という問題があった。さらに、特許文献3~5に開示された技術では、切削中に各切削工具の作用点が変位するという問題があった。ここで、切削工具の作用点は、実際に原盤用基材を切削する箇所であり、実質的にはチップの先端である。
【0009】
より具体的には、特許文献3~5に開示された技術では、切削中に作用点同士の相対距離が大きくばらつく可能性があった。ここで、相対距離は、切込み方向の相対距離△x、切込み方向に垂直な方向(すなわち、作用点の配列方向)の相対距離△zに区分される。切込み方向とは、切削工具を原盤用基材に押し込む方向であり、原盤用基材の表面に垂直な方向である。
【0010】
作用点同士の相対距離△xがばらつく場合、原盤用基材の表面に形成される凹部の深さにばらつきが生じうる。したがって、切削の精度が低下する。さらに、作用点同士の相対距離△zがばらつく場合、微細凹部同士の間隔にばらつきが生じうる。このように、作用点同士の相対距離△x、△zがばらつく場合、切削の精度が低下するという問題が発生しうる。
【0011】
また、特許文献3~5に開示された技術では、切削工具を取り付け構造体に固定する際に、作用点同士の相対距離△x、△zがばらつく可能性もあった。なお、特許文献3、4には、切削工具を取り付け構造体に設ける際に、各切削工具の位置決めを行うことが記載されている。しかし、位置決めを行った後にこれらの切削工具を取り付け構造体に強固に固定する必要があり、この固定の際に作用点同士の相対距離△x、△zがばらつく可能性があった。
【0012】
特許文献6には、複数の切削工具の位置を制御する技術が開示されているが、特許文献6に開示された技術の切削対象は上述した原盤用基材ではない。したがって、仮に特許文献6に開示された技術を原盤用基材の切削に適用しても、上述した問題は何ら解決することができない。
【0013】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、複数の工具を用いて原盤用基材を切削する場合に、加工(例えば切削等)の精度を高めることが可能な、新規かつ改良された微細加工装置、微細加工ユニット、制御装置、原盤の製造方法、及び原盤用基材の微細加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、工具設置部と、工具設置部に固定され、原盤用基材に微細凹部を形成可能な第1の工具と、工具設置部に設けられ、原盤用基材に微細凹部を形成可能な第2の工具と、第2の工具の設置位置を調整可能な工具調整部と、第2の工具の変位を測定する変位測定部と、工具設置部を原盤用基材に対して相対移動させる基台駆動部と、第2の工具の変位に基づいて、第1の工具の作用点から第2の工具の作用点までの相対距離を算出し、工具調整部を制御することで、相対距離を所定範囲内の値に維持する制御部と、を備えることを特徴とする、微細加工装置が提供される。
【0015】
ここで、相対距離には、切込み方向の相対距離△xが含まれてもよい。
【0016】
また、相対距離には、第1の工具及び第2の工具の配列方向の相対距離△zが含まれてもよい。
【0017】
また、第1の工具の作用点及び第2の工具の作用点は、原盤用基材の中心軸を通り、かつ切込み方向に平行な平面上に配置されてもよい。
【0018】
また、工具調整部は、ピエゾ素子を含んでいてもよい。
【0019】
本発明の他の観点によれば、工具設置部と、工具設置部に固定され、原盤用基材に微細凹部を形成可能な第1の工具と、工具設置部に設けられ、原盤用基材に微細凹部を形成可能な第2の工具と、第2の工具の設置位置を調整可能な工具調整部と、第2の工具の変位を測定する変位測定部と、を備えることを特徴とする、微細加工ユニットが提供される。
【0020】
本発明の他の観点によれば、上記の微細加工ユニットを制御する制御装置であって、第2の工具の変位に基づいて、第1の工具の作用点から第2の工具の作用点までの相対距離を算出し、工具調整部を制御することで、相対距離を所定範囲内の値に維持する制御部を備えることを特徴とする、制御装置が提供される。
【0021】
本発明の他の観点によれば、上記の微細加工装置を用いた原盤の製造方法であって、第1の工具を工具設置部に固定する工程と、第2の工具を工具設置部に設ける工程と、工具設置部を原盤用基材に対向する位置に設置する工程と、変位測定部を用いて第2の工具の変位を測定する工程と、第2の工具の変位に基づいて、第1の工具の作用点から第2の工具の作用点までの相対距離を算出し、工具調整部を制御することで、相対距離を所定範囲内の値に維持する工程と、第1の工具及び第2の工具を用いて原盤用基材に微細凹部を形成する工程と、を含むことを特徴とする、原盤の製造方法が提供される。
【0022】
ここで、原盤用基材は、円筒、円柱、または平板形状であってもよい。
【0023】
本発明の他の観点によれば、上記の微細加工装置を用いた原盤用基材の微細加工方法であって、第1の工具を工具設置部に固定する工程と、第2の工具を工具設置部に設ける工程と、工具設置部を原盤用基材に対向する位置に設置する工程と、変位測定部を用いて第2の工具の変位を測定する工程と、第2の工具の変位に基づいて、第1の工具の作用点から第2の工具の作用点までの相対距離を算出し、工具調整部を制御することで、相対距離を所定範囲内の値に維持する工程と、第1の工具及び第2の工具を用いて原盤用基材に微細凹部を形成する工程と、を含むことを特徴とする、原盤用基材の微細加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように本発明によれば、複数の工具、すなわち第1の工具及び第2の工具を用いて切削を行う場合に、相対距離を所定範囲内の値に維持することができる。したがって、加工の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係る微細加工ユニットを用いて原盤用基材を切削する様子を示す斜視図である。
【
図2】微細加工ユニットを用いて原盤用基材を切削する様子を示す斜視図である。
【
図3】本実施形態に係る微細加工装置の全体構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】微細加工ユニットの詳細構成を示す側断面図である。
【
図5】微細加工ユニットの変形例を示す側断面図である。
【
図6】微細加工ユニットの変形例を示す側断面図である。
【
図7A】作用点の好ましい配置の一例を示す左側面図である。
【
図7B】作用点の好ましい配置の一例を示す正面図である。
【
図7C】作用点の好ましい配置の一例を示す平面図である。
【
図8A】作用点の好ましい配置の一例を示す左側面図である。
【
図8B】作用点の好ましい配置の一例を示す正面図である。
【
図8C】作用点の好ましい配置の一例を示す平面図である。
【
図9A】作用点の好ましい配置の一例を示す左側面図である。
【
図9B】作用点の好ましい配置の一例を示す正面図である。
【
図9C】作用点の好ましい配置の一例を示す平面図である。
【
図10】微細加工装置による処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11A】座標値の校正方法を説明するための模式図である。
【
図11B】座標値の校正方法を説明するための模式図である。
【
図11C】座標値の校正方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0027】
<1.微細加工装置の概要>
まず、
図1~
図3に基づいて、本実施形態に係る微細加工装置1の概要について説明する。微細加工装置1は、微細加工ユニット10及び制御装置60を備える。微細加工ユニット10は、第1の切削工具11及び第2の切削工具12と、工具設置部40とを備える。そして、微細加工ユニット10は、第1の切削工具11及び第2の切削工具12を用いて原盤用基材(ワーク)100を切削する。具体的には、加工ステージ50(基台駆動部)(
図4参照)に微細加工ユニット10を取り付ける。ついで、加工ステージ50を駆動することで、微細加工ユニット10を切込み方向(x
1軸正方向)に移動させる。これにより、第1の切削工具11及び第2の切削工具12の作用点11c、12cを原盤用基材100に押し当てる。ここで、作用点11c、12cは、第1の切削工具11及び第2の切削工具12の先端であり、原盤用基材100を切削する部分である。第1の切削工具11及び第2の切削工具12は、原盤用基材100の表面を切削することで、原盤用基材100の表面に微細凹部100aを形成する。
【0028】
図1に示す例では、原盤用基材100が円柱形状となっている。原盤用基材100が円柱形状となる場合、原盤用基材100は、その中心軸Aを回転軸として矢印P方向に回転する。一方、微細加工ユニット10は、原盤用基材100の長さ方向の一方の端部(
図1中の右端)から他方の端部(
図1中の左端)に向けて移動する。すなわち、微細加工ユニット10は、z
1軸正方向に移動する。ここで、z
1軸は、原盤用基材100の中心軸Aに平行になっている。
図1の例では、左方向を正方向とした。第1の切削工具11及び第2の切削工具12の作用点11c、12cは、z
1軸方向に配列される。これにより、原盤用基材100の表面に螺旋状の微細凹部100aが形成される。ここで、微細凹部100aの長さ方向(言い換えれば、作用点11c、12cの原盤用基材100に対する相対的な移動軌跡)と中心軸Aとのなす角度θは、原盤用基材100の回転速度と微細加工ユニット10の移動速度との比によって調整可能である。
【0029】
微細加工ユニット10が原盤用基材100の左端に到達した後、微細加工ユニット10を原盤用基材100の右端に戻す。ついで、第1の切削工具11及び第2の切削工具12の作用点11c、12cを原盤用基材100の表面に再度押し当てる。この際、作用点11c、12cは、前回作製された微細凹部100aから2ピッチ分ずれた位置に押し当てられる。その後、上記と同様の工程が繰り返し行われる。以上の工程により原盤用基材100の表面に複数の微細凹部100aが形成される。その後、微細加工ユニット10の移動方向を逆方向(z1軸負方向)として同様の工程を繰り返し行う。これにより、格子状の微細凹部100aが原盤用基材100の表面に形成される。微細凹部100aに囲まれる部分が微細凸部になる。したがって、原盤用基材100の表面に微細凹凸構造が形成される。原盤用基材100は円筒形状であってもよく、この場合にも同様の工程が行われる。
【0030】
図2に示す例では、原盤用基材100が平板形状となっている。原盤用基材100が平板形状となる場合、原盤用基材100が固定され、微細加工ユニット10が原盤用基材100に平行な方向、すなわちy
1軸方向及びz
1軸方向に移動する。y
1軸、z
1軸は、原盤用基材100の表面に平行であり、かつ互いに垂直な軸である。x
1軸の定義は
図1と同様である。これにより、格子状の微細凹部100aが原盤用基材100の表面に形成される。すなわち、原盤用基材100の表面に微細凹凸構造が形成される。
【0031】
上記いずれの例においても、複数本の微細凹部100aを原盤用基材100の表面に同時に形成することができるので、第1の切削工具11及び第2の切削工具12の移動距離を短くすることができる。
【0032】
ただし、上述したように、作用点同士の相対距離△x、△zがばらつく場合、切削の精度が低下する。ここで、相対距離△xは、第1の切削工具11の作用点11cから第2の切削工具12の作用点12cまでのx
1軸方向(切込み方向)の距離であり、相対距離△zは、第1の切削工具11の作用点11cから第2の切削工具12の作用点12cまでのz
1軸方向(作用点11c、12cの配列方向)の距離である(
図4参照)。
【0033】
そこで、本実施形態では、制御装置60は、切削中に第2の切削工具12をx1軸、z1軸に平行なx2軸、z2軸方向に移動させることで、相対距離△x、△zを所定範囲内の値に維持する。これにより、切削の精度を高める。以下、本実施形態について詳細に説明する。
【0034】
<2.微細加工ユニットの詳細構成>
次に、
図1~
図9Cに基づいて、微細加工ユニット10の構成をより詳細に説明する。微細加工ユニット10は、第1の切削工具11、第2の切削工具12、工具収納ケース20、工具調整部30a、31a、変位測定器(変位測定部)30b、31b、及び工具設置部40を備える。
【0035】
第1の切削工具11は、第1の工具の一例であり、工具設置部40に固定される。第1の切削工具11を工具設置部40に固定する方法は特に問われない。例えば、クロスローラステージによって第1の切削工具11を工具設置部40に固定しても良い。これにより、第1の切削工具11を工具設置部40内の所望の位置に固定することができる。
【0036】
第1の切削工具11は、工具本体11a及び切削部(チップ)11bを備える。工具本体11aは、x1軸方向に伸びる棒状部材である。x1軸は、切込み方向、すなわち第1の切削工具11を原盤用基材100に押し込む方向であり、原盤用基材100の表面に垂直な方向である。x1軸の正方向は、微細加工ユニット10から原盤用基材100に向かう方向とされる。第1の切削工具11の底面は平滑であることが好ましい。底面は、固定用のステージ等が設置されるからである。
【0037】
切削部11bは、工具本体11aの先端に取り付けられている。切削部11bの先端は尖っており、作用点11cとなっている。作用点11cは、原盤用基材100に押し当てられ、原盤用基材100を切削する。作用点11cの形状は特に制限されないが、例えば矩形であってもよく、曲面形状であってもよい。これにより、原盤用基材100の表面に微細凹部100aを形成する。切削部11bの材質は、例えばダイヤモンド、超硬合金、ハイスピード工具鋼、CBN(立方晶窒化ホウ素(Cubic boron nitride))などであっても良い。切削部11bは、これらの材料を研磨することで作製される。また、レーザ照射、イオンミリング等によっても作製可能である。本実施形態では、第1の工具を切削工具としたが、第1の工具は原盤用基材100に微細凹部100aを形成できる工具であればどのようなものであってもよい。例えば、第1の工具は、微小研削、微小放電、彫刻加工、または微小レーザ加工を行う工具であっても良い。すなわち、切削部11bは、研削砥石、放電電極、彫刻刃、レーザヘッド等であってもよい。これらの作用点は、原盤用基材100に微細凹部100aを形成する箇所となる。すなわち、作用点は、研削砥石の先端、放電電極の先端、彫刻刃の先端、レーザの集光スポット、等が該当する。
【0038】
第2の切削工具12は、第2の工具の一例であり、工具設置部40に移動可能に設けられる。第2の切削工具12は、工具本体12a及び切削部(チップ)12bを備える。工具本体12aは、x1軸方向に伸びる棒状部材である。第2の切削工具12の底面は平滑であることが好ましい。底面には後述する工具調整部30a等が設置されるからである。切削部12bは、工具本体12aの先端に取り付けられている。切削部12bの先端は尖っており、作用点12cとなっている。切削部12bの作用点12cは、原盤用基材100に押し当てられ、原盤用基材100を切削する。作用点12cの形状は特に制限されないが、例えば矩形であってもよく、曲面形状であってもよい。これにより、原盤用基材100の表面に微細凹部100aを形成する。切削部12bの材質は、例えばダイヤモンド、超硬合金、ハイスピード工具鋼、CBN(立方晶窒化ホウ素(Cubic boron nitride))などであっても良い。切削部12bは、これらの材料を研磨することで作製される。また、レーザ照射、イオンミリング等によっても作製可能である。本実施形態では、第2の工具を切削工具としたが、第2の工具は原盤用基材100に微細凹部100aを形成できる工具であればどのようなものであってもよい。例えば、第2の工具は、微小研削、微小放電、彫刻加工、または微小レーザ加工を行う工具であっても良い。すなわち、切削部12bは、研削砥石、放電電極、彫刻刃、レーザヘッド等であってもよい。これらの作用点は、原盤用基材100に微細凹部100aを形成する箇所となる。すなわち、作用点は、研削砥石の先端、放電電極の先端、彫刻刃の先端、レーザの集光スポット、等が該当する。
【0039】
なお、
図4等は第1の切削工具11、第2の切削工具12を模式的に示したものである。したがって、第1の切削工具11、第2の切削工具12の形状は必ずしも
図4等に示すものに限られない。例えば、工具本体11a、12aと切削部11b、12bとを一体的に作製しても良い。
【0040】
工具収納ケース20は、第2の切削工具12を収納する。工具収納ケース20は、工具設置部40に形成されたケース収納用凹部41内に設置される。工具調整部30aは、工具本体12aの基端部(底面)と工具収納ケース20の底面とを連結する。そして、工具調整部30aは、第2の切削工具12をx2軸方向に移動させる。x2軸は、x1軸に平行な軸である。工具調整部30aの種類は特に問われず、第2の切削工具12をx2軸方向に移動させることができる機器であればどのようなものであってもよいが、高精度かつ高剛性な直動ステージであることが好ましい。工具調整部30aの好ましい例としては、ピエゾ素子、リニアモータ、ボールねじ、超音波素子等が挙げられる。工具調整部30aの特に好ましい例はピエゾ素子である。
【0041】
変位測定器30bは、第2の切削工具12のx2軸方向の変位、すなわち作用点12cのx2軸方向の変位をx2座標値として測定する。変位測定器30bは、第2の切削工具12のx2軸方向の変位を測定することができる機器であればどのようなものであってもよいが、高精度かつ小型であり、ヒステリシスが少ないものが好ましい。変位測定器30bの好ましい例としては、静電容量式、レーザ干渉式、感圧ピックテスタ式等の測定器等が挙げられる。変位測定器30bは、測定されたx2座標値を制御装置60に出力する。
【0042】
工具調整部31aは、z2軸方向に伸びており、工具収納ケース20の外壁面とケース収納用凹部41の外壁面とを連結する。そして、工具調整部31aは、第2の切削工具12をz2軸方向に移動させる。z2軸は、z1軸に平行な軸である。工具調整部31aは、具体的には、例えば、ピエゾ素子、リニアモータ、ボールねじ、超音波素子等であってもよい。好ましい例はピエゾ素子である。
【0043】
変位測定器31bは、第2の切削工具12のz2軸方向の変位、すなわち作用点12cのz2軸方向の変位をz2座標値として測定する。変位測定器31bは、第2の切削工具12のz2軸方向の変位を測定することができる機器であればどのようなものであってもよいが、高精度かつ小型であり、ヒステリシスが少ないものが好ましい。変位測定器31bの好ましい例としては、静電容量式、レーザ干渉式、感圧ピックテスタ式等の測定器等が挙げられる。変位測定器31bは、測定されたz2座標値を制御装置60に出力する。
【0044】
工具設置部40は、加工ステージ50に設置される。そして、工具設置部40は、加工ステージ50とともにx1軸方向及びz1軸方向に移動する。工具設置部40の位置は、x1z1平面上の座標値として測定される。当該測定は、図示しない変位測定器によって行われる。変位測定器は、測定された工具設置部40の位置を制御装置60に出力する。
【0045】
ここで、微細加工ユニット10が円柱形状または円筒形状の原盤用基材100を切削する場合、作用点11c、12cは、
図7A~
図9Cに示すように、原盤用基材100の中心軸Aを通り、かつ切込み方向(x
1軸方向)に平行な平面B上に配置されることが好ましい。第1の切削工具11及び第2の切削工具12を長寿命化し、微細凹凸構造の品質を安定化させるためである。また、微細凹部100aの長さ方向に垂直な平面への切削部11b、12bの投影面の形状(=微細凹部100aの形状)が所望の形状となるように、切削部11b、12bの向きが調整される。
【0046】
なお、
図7A~
図7Cに示す例では、微細凹部100aの長さ方向と中心軸Aとのなす角度θがゼロとなっている。なお、この例では、原盤用基材100が固定された状態で原盤用基材100が切削される。そして、微細凹部100aが原盤用基材100の長さ方向の一方の端部から他方の端部に亘って形成された後、原盤用基材100が2ピッチ分回転する。
図7Bは、
図7Aの正面図(
図7Aに示す第1の切削工具11及び第2の切削工具の配置を右側面、つまり微細加工ユニット10の後方から見た図)である。
図7Cは、
図7Aの平面図である。
【0047】
図8A~
図8Cに示す例では、微細凹部100aの長さ方向と中心軸Aとのなす角度θが30°となっている。
図8Bは、
図8Aの正面図(
図8Aに示す第1の切削工具11及び第2の切削工具の配置を右側面、つまり微細加工ユニット10の後方から見た図)である。
図8Cは、
図8Aの平面図である。
【0048】
図9A~
図9Cに示す例では、微細凹部100aの長さ方向と中心軸Aとのなす角度θが90°となっている。なお、この例では、微細加工ユニット10の位置が固定された状態で原盤用基材100が切削される。そして、原盤用基材100に1周分の微細凹部100aが形成された後、微細加工ユニット10がz
1軸方向に2ピッチ分移動する。
図9Bは、
図9Aの正面図(
図9Aに示す第1の切削工具11及び第2の切削工具の配置を右側面、つまり微細加工ユニット10の後方から見た図)である。
図9Cは、
図9Aの平面図である。
【0049】
なお、実際には、作用点11c、12cを平面B上に完全に配置することは難しい。すなわち、作用点11c、12cは平面Bから若干ずれることがある。作用点11c、12c間の平面Bに垂直な方向の距離(以下、作用点11c、12c間の高さHとも称する)はなるべく小さいことが好ましい。例えば、高さHは、10mm未満であることが好ましく、5mm以下であることがさらに好ましく、0.5mm以下であることがさらに好ましく、0.1mm以下であることがさらに好ましい。
【0050】
また、第1の切削工具11、第2の切削工具12による切削距離も特に制限されない。例えば、切削距離は、100km以下であってもよく、20km以下であっても良い。切削部11b、12bが損傷するまで切削を継続することができる。
【0051】
微細凹部100aの深さも特に制限されない。例えば、微細凹部100aの深さは、1~200μmであってもよく、好ましくは3~30μmである。また、微細凹部100a間の距離(いわゆるピッチ)も特に制限されない。例えば、微細凹部100aのピッチは、5~500μmであってもよく、好ましくは10~100μmである。
【0052】
<3.微細加工ユニットの変形例>
つぎに、
図5及び
図6に基づいて、微細加工ユニット10の変形例を説明する。
図5に示す変形例では、第1の切削工具11も移動可能としたものである。すなわち、
図5に示す変形例では、微細加工ユニット10は、
図4に示す例に加えて、ケース21、工具調整部32a、33a、変位測定器32b、33bを備える。ケース21は、第1の切削工具11を収納する。ケース21は、工具設置部40に形成されたケース収納用凹部42内に設置される。
【0053】
工具調整部32aは、工具本体11aの基端部(底面)とケース21の底面とを連結する。そして、工具調整部32aは、第1の切削工具11をx2軸方向に移動させる。変位測定器32bは、第1の切削工具11のx2軸方向の変位、すなわち作用点11cのx2軸方向の変位を測定する。工具調整部32a、変位測定器32bの具体的な機能は工具調整部30a、変位測定器30bと同様である。
【0054】
工具調整部33aは、z2軸方向に伸びており、ケース21の外壁面とケース収納用凹部42の外壁面とを連結する。そして、工具調整部33aは、第1の切削工具11をz2軸方向に移動させる。変位測定器33bは、第1の切削工具11のz2軸方向の変位、すなわち作用点11cのz2軸方向の変位を測定する。工具調整部33a、変位測定器33bの具体的な機能は工具調整部30a、変位測定器30bと同様である。
【0055】
図6に示す変形例は、第3の切削工具13を
図5の例に追加し、かつ、第3の切削工具13を移動可能としたものである。すなわち、
図6に示す変形例では、微細加工ユニット10は、
図5に示す例に加えて、ケース22、工具調整部34a、35a、変位測定器34b、35bを備える。ケース22は、第3の切削工具13を収納する。ケース22は、工具設置部40に形成されたケース収納用凹部43内に設置される。工具調整部34a、35a、変位測定器34b、35bの具体的な機能は工具調整部30a、変位測定器30bと同様である。この変形例では、隣接する切削工具間の相対距離△x、△zが測定される。切削工具の数はさらに多くても良い。また、固定される切削工具の個数は、1または0であることが好ましい。
【0056】
<4.制御装置の構成>
次に、
図3に基づいて、制御装置60の構成について説明する。制御装置60は、工具調整部30a、31a、変位測定器30b、31bと通信ケーブル等で連結されており、これらの構成要素との間で情報のやりとりが可能となっている。また、制御装置は、微細加工ユニット10の位置をx
1z
1座標値として測定する変位測定器と通信ケーブル等で接続されており、当該変位測定器から情報を受信することが可能となっている。
【0057】
具体的には、制御装置60は、操作部61、表示部62、及び制御部63を備える。制御装置60は、ハードウェア構成として、CPU(Central Processing Unit、すなわちプロセッサ)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスク、各種入力操作装置(キーボード、マウス等)、ディスプレイ等を備える。ROMには、制御装置60による処理に必要な情報、例えばプログラム等が記録されている。CPUは、ROMに記憶されたプログラムを読み出して実行する。
【0058】
操作部61は、作業者による入力操作が可能となっており、当該入力操作に応じた入力操作情報を制御部63に出力する。作業者は、例えば相対距離△x、△zと対比される所定範囲に関する情報等を入力することができる。
【0059】
表示部62は、制御部63による制御により各種の情報を表示する。例えば、表示部62は、相対距離△x、△zの値、各種の設定値(相対距離△x、△zに対する所定範囲等)を表示しても良い。
【0060】
制御部63は、変位測定器30b、31bから与えられたx2座標値及びz2座標値を工具調整部30a、31aにフィードバックすることで、相対距離△x、△zを所定範囲内の値に維持する。すなわち、制御部63は、変位測定器30b、31bから与えられたx2座標値及びz2座標値に基づくフィードバック制御を行う。以下、具体的な処理を説明する。
【0061】
まず、相対距離△xに関する制御について説明する。制御部63は、作業者による入力操作に基づいて、工具調整部30aを駆動する。具体的には、制御部63は、相対距離△xが実質的にゼロとなるように、第2の切削工具12を移動させる。そして、制御部63は、この時の第2の切削工具のx2座標値を基準位置とする。そして、制御部63は、変位測定器30bから与えられたx2座標値に基づいて、第2の切削工具の基準位置からの変位量を算出する。この変位量は、相対距離△xに相当する。そこで、制御部63は、当該相対距離△xが所定範囲内の値となるように、工具調整部30aを制御(すなわち駆動)する。これにより、制御部63は、相対距離△xを所定範囲内の値に維持する。
【0062】
所定範囲の具体的な範囲は特に制限されないが、-0.1~0.1μmであることが好ましく、-0.05~0.05μmであることがより好ましい。作業者は、操作部61を用いて所定範囲を設定しても良い。
【0063】
制御の具体的な方法は特に制限されず、相対距離△xを所定範囲内の値に維持することができる方法であれば特に制限されない。例えば、制御部63は、所謂PI(Proportional-Integral)制御、PID(Proportional-Integral-Differential)制御等により、相対距離△xを所定範囲内の値に維持すればよい。
【0064】
つぎに、相対距離△zに関する制御について説明する。制御部63は、作業者による入力操作に基づいて、工具調整部31aを駆動する。具体的には、制御部63は、相対距離△zが予め設定された基準距離に一致するように、第2の切削工具12を移動させる。そして、制御部63は、この時の第2の切削工具のz2座標値を基準位置とする。この基準距離は、微細凹部100aのピッチの奇数倍とされる。
【0065】
そして、制御部63は、変位測定器31bから与えられたz2座標値に基づいて、第2の切削工具12の基準位置からの変位量を算出する。この変位量は、基準距離からの変位量(差分)に相当する。そこで、制御部63は、当該変位量に対応する差分対応範囲を設定し、基準位置からの変位量が差分対応範囲内の値となるように、工具調整部31aを制御(すなわち駆動)する。これにより、制御部63は、相対距離△zを所定範囲(=基準距離+差分対応範囲)内の値に維持する。
【0066】
ここで、差分対応範囲の具体的な範囲は特に制限されないが、-0.1~0.1μmであることが好ましく、-0.05~0.05μmであることがより好ましい。作業者は、操作部61を用いて差分対応範囲を設定しても良い。
【0067】
制御の具体的な方法は特に制限されず、相対距離△zを所定範囲内の値に維持することができる方法であれば特に制限されない。例えば、制御部63は、所謂PI制御、PID制御等により、相対距離△xを所定範囲内の値に維持すればよい。
【0068】
制御部63は、微細加工ユニット10が
図5または
図6に示す構造を有するものであっても、上記と同様の処理を行うことで、相対距離△x、△zを所定範囲内の値とすることができる。
【0069】
<5.微細加工装置を用いた原盤の製造方法>
つぎに、微細加工装置を用いた原盤の製造方法(言い換えれば、原盤用基材の切削方法)を
図10に示すフローチャートに沿って説明する。作業者は、以下に説明する工程を行うことで、原盤を作製する。
【0070】
ステップS10において、作業者は、原盤用基材100を準備する。ここで、原盤用基材100の形状は特に制限されない。原盤用基材100の形状は、例えば円柱、円筒、平板形状のいずれであってもよい。原盤用基材100の材質も特に制限されないが、加工面の平滑性を維持するために非晶質または、粒度の小さい材質であることが好ましい。原盤用基材100は、例えば銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、オーステナイト系ステンレス、ジュラルミンなどが好ましい。
【0071】
原盤用基材100の表面には被覆層が形成されてもよい。この場合、被覆層に微細凹部100aが形成される。原盤用基材100の表面に被覆層を形成する方法は特に制限されないが、例えば以下の方法が挙げられる。まず、作業者は、被覆層を構成する材料(例えば、Cu、Ni-P合金等)を原盤用基材100の周面にめっきする。めっきの種類は特に問わないが、例えば電解めっき等であればよい。めっき直後の被覆層は、表面が荒れた形状となっていることが多い。そこで、原盤用基材100の周面に被覆層を形成した後に、被覆層の平滑化処理を行ってもよい。平滑化処理の内容は特に問われないが、例えば、平滑化用のバイト(切削部が曲面形状となったバイト)を用いて行われても良い。この方法では、例えば、作業者は、被覆層が形成された原盤用基材100及び平滑化用のバイトを精密旋盤に取り付ける。ついで、原盤用基材100を、原盤用基材100の中心軸を回転軸として回転させる。ついで、平滑化バイトの切削部を被覆層の一方の軸方向端部に押し付ける。ここで、軸方向は、原盤用基材100の中心軸方向を意味する。その後、原盤用基材100を回転させながら、平滑化バイトを一方の軸方向端部から他方の軸方向端部に移動させる。以上の工程により、被覆層が平滑化される。
【0072】
ステップS20において、作業者は、工具設置部40に工具収納ケース20、工具調整部30a、31a、変位測定器(変位測定部)30b、31bを設ける。なお、これらの構成要素が予め設けられた工具設置部40を準備しても良い。ついで、作業者は、第1の切削工具11及び第2の切削工具12を工具設置部40に設置することで、微細加工ユニットを作製する。なお、第1の切削工具11は工具設置部40に強固に固定される。
【0073】
ついで、作業者は、作用点11c、12c間の高さHを調整する。具体的には、例えば、顕微鏡等を用いて作用点11c、12cを観察する。さらに、平面Bを想定したシム(薄い金属シート)を用意する。シムの厚さは、高さHに関する設定値以下の厚さとする。例えば、高さHを0.1mm以下とする場合、シムの厚さを0.1mmとする。そして、顕微鏡を観察しながら、作用点11c、12cの高さHをシムの厚さ以下とする。これにより、高さHを調整する。
【0074】
ステップS30において、作業者は、原盤用基材100及び微細加工ユニット10をそれぞれ加工ステージに取り付ける。すなわち、微細加工ユニット10を原盤用基材100に対向する位置に配置する。原盤用基材100の加工ステージは、原盤用基材100をその中心軸Aを回転軸として回転させることが可能である。微細加工ユニット10の加工ステージ50は、微細加工ユニット10をx1軸方向、z1軸方向に移動させることが可能である。
【0075】
ステップS40において、作業者は、第1の切削工具11及び第2の切削工具12の座標値の校正を行う。つまり、相対距離△xを実質的にゼロとし、相対距離△zを基準距離とする。まず、
図11A~
図11Cに基づいて、相対距離△xを実質的にゼロとする方法について説明する。なお、
図11A~
図11Cでは、微細加工ユニット10を簡略化して示す。
【0076】
図11Aに示すように、作業者は、加工ステージ50を駆動し、第1の切削工具11の作用点11cを原盤用基材100の表面に接触させる。接触判定の方法として、切削痕を顕微鏡観察する方法、切削力を検出する方法、超音波を検出する方法などがある。そして、作業者は、この時の微細加工ユニット10のx
1座標値(=x
1A)を測定する。なお、作業者は、制御装置30を操作することで、第2の切削工具12の作用点12cを原盤用基材100から離しておく。
【0077】
ついで、作業者は、
図11Bに示すように、加工ステージ50を駆動し、第1の切削工具11の作用点11cを原盤用基材100の表面から離す。そして、この時の微細加工ユニット10のx
1座標値(=x
1B)を測定する。さらに、作業者は、制御装置30を操作することで、第2の切削工具12の作用点12cを原盤用基材100の表面に接触させる。制御部63は、この時の第2の切削工具12のx
2座標値(=x
2A)を変位測定器30bから取得する。
【0078】
ついで、作業者は、以下の数式(1)に基づいて、第2の切削工具12のx2座標値x2Bを算出する。
x2B=x2A+(x1B-x1A) (1)
【0079】
ついで、作業者は、
図11Cに示すように、加工ステージ50を駆動し、変位測定器30bから出力されるx
2座標値をx
2Bに一致させる。この際、作用点11c、12cの両方が原盤用基材100の表面に接触することとなる。作業者は、この状態で相対距離△xがゼロになったと認定する。そして、作業者は、x
2座標値x
2Bがx
2軸方向の基準位置である旨を制御装置60に入力する。これにより、制御部63は、第2の切削工具12のx
2座標値x
2Bを基準位置と認識する。
【0080】
つぎに、作業者は、相対距離△zを測定し、相対距離△zが基準距離となるように、制御装置60を操作する。これに応じて、制御部63は、工具調整部30a、31aを制御し、相対距離△zを基準距離に一致させる。また、制御部63は、この時の第2の切削工具12のz2座標値を変位測定器31bから取得する。作業者は、このz2座標値が基準位置である旨を制御装置60に入力する。これにより、制御部63は、現時点での第2の切削工具12のz2座標値を基準位置と認識する。
【0081】
ステップS50において、制御部63は、変位測定器30b、31bから与えられたデータ(x2座標値、z2座標値)を工具調整部30a、31aにフィードバックすることで、相対距離△x、△zを所定範囲内の値に維持する。具体的には、制御部63は、変位測定器30bから与えられたx2座標値に基づいて、第2の切削工具12の基準位置からの変位量を算出する。この変位量は、相対距離△xに相当する。そして、制御部63は、当該相対距離△xが所定範囲内の値となるように、工具調整部30aを制御(すなわち駆動)する。これにより、制御部63は、相対距離△xを所定範囲内の値に維持する。
【0082】
さらに、制御部63は、変位測定器31bから与えられたz2座標値に基づいて、第2の切削工具12の基準位置からの変位量を算出する。この変位量は、基準距離からの変位量(差分)に相当する。そこで、制御部63は、当該変位量に対応する差分対応範囲を設定し、基準位置からの変位量が差分対応範囲内の値となるように、工具調整部31aを制御(すなわち駆動)する。これにより、制御部63は、相対距離△zを所定範囲内の値に維持する。ステップS50の処理は、ステップS60の処理が行われる間継続して行われる。なお、切削開始時には、x2座標値、z2座標値が突発的に大きくなる可能性がある。これらの値を使用するとかえって精度が悪化する可能性があるので、これらの値は使用しなくても良い。
【0083】
ステップS60において、作業者は、微細加工ユニット10を加工ステージ50とともに移動させ、かつ、原盤用基材100を回転させることで、第1の切削工具11及び第2の切削工具12を用いた切削を行う。すなわち、複数の切削を同時に行う。
【0084】
以上の工程により作製された原盤は、各種の用途に使用することができる。例えば、原盤は、インプリント成形用の金型や、プリンテッドエレクトロニクス用の印刷版や、露光用フォトマスク等に使用されても良い。より具体的な用途としては、ディスプレイ用プリズムシートや、建材用ウィンドウフィルム等が挙げられる。
【0085】
以上により、本実施形態によれば、第1の切削工具11及び第2の切削工具12を用いて切削を行う際に、相対距離△x、△zを所定範囲内の値に維持することができる。したがって、切削の精度を高めることができる。
【実施例0086】
<1.実施例1>
つぎに、本実施形態の実施例を説明する。実施例1では、直径250mm、長さ1000mmの円柱形状の原盤用基材100を準備した。材質はSUS304とした。ついで、原盤用基材100にニッケルリンめっき処理を施すことで原盤用基材100上に被覆層を形成した。さらに、被覆層を平坦化した。平坦化のための具体的な処理は上述したとおりである。
【0087】
ついで、第1の切削工具11及び第2の切削工具12として、先端幅20μmの矩形形状のダイヤモンドバイトを準備した。これらの切削工具を用いて、
図4に示す微細加工ユニット10を作製した。第1の切削工具11の固定には、手動クロスローラステージを使用した。また、工具調整部30a、31aとしてピエゾ素子を使用し、変位測定器30b、31bとして、静電容量式の変位測定器を使用した。
【0088】
ついで、
図10に示すフローチャートに沿った処理を行った。ここで、微細凹部100aの長さ方向と原盤用基材100の中心軸Aとのなす角度θは30°とした。微細凹部100aの深さは3μmとし、ピッチは50μmとした。作用点11c、12c間の高さHは0.1mm未満となるように調整した。第1の切削工具11及び第2の切削工具12による切削距離は5kmとした。また、第1の切削工具11の作用点11cから第2の切削工具12の作用点12cまでのz
1軸方向の基準距離を30.05mmとした。切削中、第2の切削工具12の基準位置からのx
2軸方向の変位量、z
2軸方向の変位量を表示部62に常時表示させた。x
2軸方向の変位量は相対距離△xに相当し、z
2軸方向の変位量は、基準距離からの変位量に相当する。結果を表1に示す。
【0089】
<2.実施例2>
微細凹部100aの長さ方向と原盤用基材100の中心軸Aとのなす角度θを0°とした他は実施例1と同様の工程を行った。結果を表1にまとめて示す。
【0090】
<3.実施例3>
微細凹部100aの長さ方向と原盤用基材100の中心軸Aとのなす角度θを90°とした他は実施例1と同様の工程を行った。結果を表1にまとめて示す。
【0091】
<4.実施例4>
微細加工ユニット10を
図5に示すものに変更した他は、実施例1と同様の工程を行った。結果を表1にまとめて示す。
【0092】
<5.実施例5>
作用点11c、12c間の高さHを10mmとした他は実施例1と同様の工程を行った。
【0093】
<6.実施例6>
第1の切削工具11を移動可能とし、第2の切削工具12を工具設置部40に固定するようにした他は、実施例1と同様の工程を行った。すなわち、この例では、微細加工ユニット10は、
図4に示す第1の切削工具11と第2の切削工具12とを入れ替えた構造を有する。結果を表1にまとめて示す。
【0094】
<7.比較例1>
フィードバック制御(ステップS50に示す処理)を行わなかった他は実施例1と同様の処理を行った。結果を表1にまとめて示す。
【0095】
<8.比較例2>
フィードバック制御(ステップS50に示す処理)を行わなかった他は実施例2と同様の処理を行った。結果を表1にまとめて示す。
【0096】
<9.比較例3>
フィードバック制御(ステップS50に示す処理)を行わなかった他は実施例3と同様の処理を行った。結果を表1にまとめて示す。
【0097】
<10.比較例4>
第1の切削工具11及び第2の切削工具12を工具設置部40に固定することとした他は、実施例1と同様の処理を行った。結果を表1にまとめて示す。
【0098】
【0099】
表1によれば、実施例では良好な結果が得られたのに対し、比較例では、x2軸方向の変位量が大きすぎて、切削加工に適さなかった。
【0100】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。例えば、上記の例では工具のx軸、z軸方向の位置を調整することとしたが、他の軸方向の位置を調整しても良い。調整可能な軸方向としては、y軸(xz平面に垂直な平行軸)、A軸(x軸方向を中心とする回転軸)、B軸(y軸方向を中心とする回転軸)、C軸(z軸方向を中心とする回転軸)等が挙げられる。y軸方向の位置を調整することで、上述した高さHを調整することができる。A軸方向の位置を調整することで、工具進行方向とすくい面方向とのなす角度を調整することができる。B軸方向の位置を調整することで、上述した工具投影面と被加工物(すなわち原盤用基材100)とのなす角度を調整することができる。C軸方向の位置を調整することで、刃先すくい角度を調整することができる。