(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028340
(43)【公開日】2024-03-04
(54)【発明の名称】ロール金型製造方法、ロール金型製造装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B23B 1/00 20060101AFI20240226BHJP
B23B 5/00 20060101ALI20240226BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
B23B1/00 N
B23B5/00 Z
G02B3/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023221453
(22)【出願日】2023-12-27
(62)【分割の表示】P 2019229890の分割
【原出願日】2019-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(74)【代理人】
【識別番号】100163511
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 啓太
(72)【発明者】
【氏名】野田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】土井 克浩
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 恭子
(72)【発明者】
【氏名】野上 朝彦
(72)【発明者】
【氏名】有馬 光雄
(57)【要約】
【課題】所定の切削箇所を正確に複数回切削して、所定の深さの切削孔が形成されたロール金型を製造する。
【解決手段】ロール金型製造装置10は、ロータリーエンコーダ11aから出力された信号に基づき、ロール1の表面の所定の切削箇所に対応する位置で切削刃12をロール1の径方向に往復移動させる制御波形を生成する信号生成部15と、制御波形に従い、切削刃12をロールの径方向に往復移動させ、所定の切削深さで1または複数回切削する切削工程が複数回行われるように、切削工具用ステージ14をロール1の径方向に移動させる制御部16とを備える。制御部16は、切削工程における切削深さが、直前の切削工程における切削深さよりも小さくなるように、切削工具用ステージ14をロール1の径方向に移動させる。信号生成部15は、複数の切削孔の配置および深さの少なくとも一方がランダムになるような制御波形を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状または円柱状のロールを円周方向に回転させ、前記ロールの回転位置に応じた信号を出力するロータリーエンコーダを備える回転装置と、前記ロールの径方向に往復移動可能な切削刃を保持し、前記ロールの径方向に移動可能な切削工具用ステージとを備えるロール金型製造装置におけるロール金型製造方法であって、
前記ロータリーエンコーダから出力された信号に基づき、前記ロールの表面の所定の切削箇所に対応する位置で前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させる前記切削刃の移動パターンを示す制御波形を生成する生成ステップと、
前記制御波形に従い、前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させ、前記所定の切削箇所を前記往復移動する切削刃により所定の切削深さで1または複数回切削する切削工程が複数回行われるように、前記切削工具用ステージを前記ロールの径方向に移動させる切削ステップと、を含み、
前記切削ステップでは、
前記切削工程における切削深さが、当該切削工程の直前の切削工程における切削深さよりも小さくなるように、前記切削工具用ステージを前記ロールの径方向に移動させ、
前記生成ステップでは、
複数の切削孔の前記ロールの円周方向および軸方向の配置および前記複数の切削孔の深さの少なくとも一方がランダムになるような前記制御波形を生成する、ロール金型製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のロール金型製造方法において、
前記ロールの回転位置に応じた信号は、前記ロールの回転位置が一回転における所定の基準位置に達するごとに出力されるトリガ信号と、前記ロールが所定量回転するごとに出力されるパルス信号とを含み、
前記生成ステップでは、前記トリガ信号の出力タイミングを基準として前記パルス信号をカウントし、前記パルス信号のカウント数に応じて前記制御波形を生成する、ロール金型製造方法。
【請求項3】
円筒状または円柱状のロールを円周方向に回転させ、前記ロールの回転位置に応じた信号を出力するロータリーエンコーダを備える回転装置と、前記ロールの径方向に往復移動可能な切削刃を保持し、前記ロールの径方向に移動可能な切削工具用ステージとを備えるロール金型製造装置であって、
前記ロータリーエンコーダから出力された信号に基づき、前記ロールの表面の所定の切削箇所に対応する位置で前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させる前記切削刃の移動パターンを示す制御波形を生成する信号生成部と、
前記制御波形に従い、前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させ、前記所定の切削箇所を前記往復移動する切削刃により所定の切削深さで1または複数回切削する切削工程が複数回行われるように、前記切削工具用ステージを前記ロールの径方向に移動させる制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記切削工程における切削深さが、当該切削工程の直前の切削工程における切削深さよりも小さくなるように、前記切削工具用ステージを前記ロールの径方向に移動させ、
前記信号生成部は、
複数の切削孔の前記ロールの円周方向および軸方向の配置および前記複数の切削孔の深さの少なくとも一方がランダムになるような前記制御波形を生成する、ロール金型製造装置。
【請求項4】
円筒状または円柱状のロールを円周方向に回転させ、前記ロールの回転位置に応じた信号を出力するロータリーエンコーダを備える回転装置と、前記ロールの径方向に往復移動可能な切削刃を保持し、前記ロールの径方向に移動可能な切削工具用ステージとを備えるロール金型製造装置のコンピュータに、
前記ロータリーエンコーダから出力された信号に基づき、前記ロールの表面の所定の切削箇所に対応する位置で前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させる前記切削刃の移動パターンを示す制御波形を生成する生成処理と、
前記制御波形に従い、前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させ、前記所定の切削箇所を前記往復移動する切削刃により所定の切削深さで1または複数回切削する切削工程が複数回行われるように、前記切削工具用ステージを前記ロールの径方向に移動させる切削処理とを実行させ、
前記切削処理では、
前記切削工程における切削深さが、当該切削工程の直前の切削工程における切削深さよりも小さくなるように、前記切削工具用ステージを前記ロールの径方向に移動させ、
前記生成処理では、
複数の切削孔の前記ロールの円周方向および軸方向の配置および前記複数の切削孔の深さの少なくとも一方がランダムになるような前記制御波形を生成する、プログラム。
【請求項5】
請求項1に記載のロール金型製造方法により製造されたロール金型を用いて製造された、複数のマイクロレンズが二次元的に配置されたマイクロレンズアレイであって、
前記複数のマイクロレンズの配置、および、前記複数のマイクロレンズの高さの少なくとも一方がランダムである、マイクロレンズアレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール金型製造方法、ロール金型製造装置、プログラムおよびマイクロレンズアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
微小なレンズ(マイクロレンズ)を二次元的に多数配置したマイクロレンズアレイは、拡散板、拡散シートあるいはヘッドアップディスプレイのスクリーンなど様々な用途で用いられる。マイクロレンズアレイを高い量産性で製造する方法として、マイクロレンズアレイの基準パターンの反転形状のパターン(以下、「転写用パターン」という)を金型表面に形成し、基材上に塗布した樹脂に、金型表面に形成した転写用パターンを転写し、転写後の樹脂を硬化させる方法がある。硬化後の樹脂を必要に応じて裁断することで、所望のマイクロレンズアレイを製造することができる。
【0003】
上述した方法では、円筒状または円柱状のロールの表面に転写用パターンが形成されたロール金型を用い、Roll to Roll方式を用いることで、高い量産性で、品質の均一性が高いマイクロレンズアレイを製造することができる。
【0004】
上述したロール金型を製造する方法として、円筒状または円柱状のロールの表面を切削刃により切削して、転写用パターンをロールに形成する方法がある(例えば、特許文献1参照)。ロールを切削して転写用パターンを形成する場合、切削によりロールの表面にバリと呼ばれる突起が生じることがある。バリが生じた転写用パターンによる転写は、所望のマイクロレンズアレイパターンとは異なる、バリを含んだ形状が転写されてしまい、製造されるマイクロレンズアレイの品質の劣化を招くことが知られている。特に、転写用パターンの凹凸の高低差が20μmを超える場合、発生するバリがマイクロレンズアレイの光学性能に悪影響を及ぼすことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したバリの発生を抑制するために、ロールの切削を複数回繰り返すことで、所望の深さの切削孔を形成する方法がある。この方法では、ロールを切削する切削深さを徐々に小さくすることで、バリの発生を抑制することができる。ただし、この方法では、同じ切削箇所を正確に複数回切削する必要があるが、従来、同じ切削箇所を正確に複数回切削する技術について十分な検討がなされていなかった。なお、同じ高さの複数のマイクロレンズが規則的に配置されたマイクロレンズアレイでは、マイクロレンズアレイで拡散された光に、規則性に応じた縞模様が生じてしまうことがある。そのため、複数のマイクロレンズの配置あるいは複数のマイクロレンズの高さがランダムなマイクロレンズアレイおよびそのようなマイクロレンズアレイを製造可能なロール金型が特に求められている。
【0007】
上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、所定の切削箇所を正確に複数回切削して、配置および深さの少なくとも一方がランダムな複数の切削孔が形成されたロール金型を製造するロール金型製造方法、ロール金型製造装置およびプログラム、ならびに、配置および高さの少なくとも一方がランダムな複数のマイクロレンズを備えるマイクロレンズアレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係るロール金型製造方法は、
円筒状または円柱状のロールを円周方向に回転させ、前記ロールの回転位置に応じた信号を出力するロータリーエンコーダを備える回転装置と、前記ロールの径方向に往復移動可能な切削刃を保持し、前記ロールの径方向に移動可能な切削工具用ステージとを備えるロール金型製造装置におけるロール金型製造方法であって、
前記ロータリーエンコーダから出力された信号に基づき、前記ロールの表面の所定の切削箇所に対応する位置で前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させる前記切削刃の移動パターンを示す制御波形を生成する生成ステップと、
前記制御波形に従い、前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させ、前記所定の切削箇所を前記往復移動する切削刃により所定の切削深さで1または複数回切削する切削工程が複数回行われるように、前記切削工具用ステージを前記ロールの径方向に移動させる切削ステップと、を含み、
前記切削ステップでは、
前記切削工程における切削深さが、当該切削工程の直前の切削工程における切削深さよりも小さくなるように、前記切削工具用ステージを前記ロールの径方向に移動させ、
前記生成ステップでは、
複数の切削孔の前記ロールの円周方向および軸方向の配置および前記複数の切削孔の深さの少なくとも一方がランダムになるような前記制御波形を生成する。
【0009】
一実施形態に係るロール金型製造装置は、
円筒状または円柱状のロールを円周方向に回転させ、前記ロールの回転位置に応じた信号を出力するロータリーエンコーダを備える回転装置と、前記ロールの径方向に往復移動可能な切削刃を保持し、前記ロールの径方向に移動可能な切削工具用ステージとを備えるロール金型製造装置であって、
前記ロータリーエンコーダから出力された信号に基づき、前記ロールの表面の所定の切削箇所に対応する位置で前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させる前記切削刃の移動パターンを示す制御波形を生成する信号生成部と、
前記制御波形に従い、前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させ、前記所定の切削箇所を前記往復移動する切削刃により所定の切削深さで1または複数回切削する切削工程が複数回行われるように、前記切削工具用ステージを前記ロールの径方向に移動させる制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記切削工程における切削深さが、当該切削工程の直前の切削工程における切削深さよりも小さくなるように、前記切削工具用ステージを前記ロールの径方向に移動させ、
前記信号生成部は、
複数の切削孔の前記ロールの円周方向および軸方向の配置および前記複数の切削孔の深さの少なくとも一方がランダムになるような前記制御波形を生成する。
【0010】
一実施形態に係るプログラムは、
円筒状または円柱状のロールを円周方向に回転させ、前記ロールの回転位置に応じた信号を出力するロータリーエンコーダを備える回転装置と、前記ロールの径方向に往復移動可能な切削刃を保持し、前記ロールの径方向に移動可能な切削工具用ステージとを備えるロール金型製造装置のコンピュータに、
前記ロータリーエンコーダから出力された信号に基づき、前記ロールの表面の所定の切削箇所に対応する位置で前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させる前記切削刃の移動パターンを示す制御波形を生成する生成処理と、
前記制御波形に従い、前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させ、前記所定の切削箇所を前記往復移動する切削刃により所定の切削深さで1または複数回切削する切削工程が複数回行われるように、前記切削工具用ステージを前記ロールの径方向に移動させる切削処理とを実行し、
前記切削処理では、
前記切削工程における切削深さが、当該切削工程の直前の切削工程における切削深さよりも小さくなるように、前記切削工具用ステージを前記ロールの径方向に移動させ、
前記生成処理では、
複数の切削孔の前記ロールの円周方向および軸方向の配置および前記複数の切削孔の深さの少なくとも一方がランダムになるような前記制御波形を生成する。
【0011】
一実施形態に係るマイクロレンズアレイは、
上記ロール金型製造方法により製造されたロール金型を用いて製造された、複数のマイクロレンズが二次元的に配置されたマイクロレンズアレイであって、
前記複数のマイクロレンズの配置、および、前記複数のマイクロレンズの高さの少なくとも一方がランダムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所定の切削箇所を正確に複数回切削して、配置および深さの少なくとも一方がランダムな複数の切削孔が形成されたロール金型を製造するロール金型製造方法、ロール金型製造装置およびプログラム、ならびに、配置および高さの少なくとも一方がランダムな複数のマイクロレンズを備えるマイクロレンズアレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るロール金型製造装置の構成例を示す図である。
【
図2A】
図1に示す切削刃を正面から見た図である。
【
図2B】
図1に示す切削刃を側面から見た図である。
【
図3】
図1に示す信号生成部による制御波形の生成について説明するための図である。
【
図4】一般的なロール金型における切削孔の配置パターンの一例を示す図である。
【
図5】
図1に示すロール金型製造装置における切削孔の配置パターンの一例を示す図である。
【
図6】
図1に示すロール金型製造装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図1に示すロール金型製造装置におけるロール金型製造方法について説明するためのフローチャートである。
【
図8A】所定回数切削した後の、ロールの表面を撮影した図である。
【
図8B】
図8Aに示すロールをさらに1回切削した後の、ロールの表面を撮影した図である。
【
図9A】実施例1に係るロール金型の表面を撮影した図である。
【
図9B】実施例1に係るロール金型を用いて製造されたマイクロレンズアレイの表面を撮影した図である。
【
図10A】実施例2に係るロール金型の表面を撮影した図である。
【
図10B】実施例2に係るロール金型を用いて製造されたマイクロレンズアレイの表面を撮影した図である。
【
図11】実施例1に係るロール金型を用いて製造されたマイクロレンズアレイのマイクロレンズの高さを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。各図中、同一符号は、同一または同等の構成要素を示している。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係るロール金型製造装置10の構成例を示す図である。本実施形態に係るロール金型製造装置10は、円筒状または円柱状のロール1を切削して、配置および深さの少なくとも一方がランダムな複数の切削孔が形成されたロール金型を製造する製造装置である。
【0016】
図1に示すロール金型製造装置10は、回転装置11と、切削刃12と、PZTステージ13と、切削工具用ステージ14と、信号生成部15と、制御部16と、増幅部17とを備える。
【0017】
回転装置11は、円筒状または円柱状のロール1を軸方向から支持し、ロール1を円周方向に回転させる。ロール1は、例えば、母材がSUS(Steel Use Stainless)などの金属で構成される。ロール1の表面には、Ni-PあるいはCuなどの快削性のめっきが施される。ロール1は、めっきに限られず、純銅あるいはアルミなどの快削性の材料であってもよい。回転装置11は、ロータリーエンコーダ11aを備える。
【0018】
ロータリーエンコーダ11aは、ロール1の回転位置に応じた信号を信号生成部15に出力する。ロール1の回転位置に応じた信号には、ロール1の回転位置が一回転における所定の基準位置に達するごとに出力されるトリガ信号と、ロール1が所定量回転するごとに出力されるパルス信号とを含む。
【0019】
切削刃12は、ロール1を切削する切削工具である。切削刃12は、例えば、セラミックチップ、ダイヤモンドチップあるいは超硬チップなどの硬質材料で構成される。
【0020】
PZTステージ13は、切削刃12を保持する。PZTステージ13は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)圧電素子を備え、駆動信号の電圧レベルに応じてPZT圧電素子が伸縮することで、切削刃12をロール1の径方向に往復移動させる。したがって、切削刃12は、PZTステージ13により、ロール1の径方向に往復移動可能である。なお、切削刃12を駆動する駆動手段は、PZT圧電素子に限られない。
【0021】
図2Aは、切削刃12を正面から見た図である。また、
図2Bは、切削刃12を側面から見た図である。
【0022】
図2Aに示すように、切削刃12は、円形状を有する。切削刃12は、切削刃12の正面がロール1の円周方向に向かうように配置される。上述したように、ロール1は、円周方向に回転している。このロール1に向かって切削刃12をロール1の径方向に往復移動させることで、切削刃12は、見掛け上、
図2Bに示す破線矢印のように、半円状に移動し、ロール1を切削する。切削刃12による切削により、切削孔には、切削刃12の円形部分の曲率と同じ曲率の円形状の底面部分が形成される。
【0023】
図1を再び参照すると、切削工具用ステージ14は、PZTステージ13を保持し、切込軸方向(ロール1の径方向)と送り軸方向(ロール1の軸方向)とに移動する。切削工具用ステージ14が移動することで、切削工具用ステージ14に保持されたPZTステージ13および切削刃12も、切込軸方向および送り軸方向に移動する。ロール1を回転させながらPZTステージ13により切削刃12をロール1の径方向に往復移動させてロール1を切削するともに、PZTステージ13をロール1の軸方向に移動させることで、ロール1の全面に亘って切削孔を形成することができる。
【0024】
信号生成部15は、ロータリーエンコーダ11aから出力された信号に基づき、ロール1の表面の所定の切削箇所に対応する位置で切削刃12を往復移動させる、切削刃12の移動パターンを示す制御波形を生成する。信号生成部15による制御波形の生成について、
図3を参照して説明する。
【0025】
上述したように、ロータリーエンコーダ11aは、ロール1の回転位置が一回転における所定の基準位置に達するごとにトリガ信号を出力する。具体的には、ロータリーエンコーダ11aは、例えば、
図3に示すように、ロール1の回転位置が一回転における所定の基準位置に達するごとに立ち上がるパルス状の信号をトリガ信号として出力する。また、ロータリーエンコーダ11aは、
図3に示すように、ロール1が所定量回転するごとに立ち上がるパルス状の信号をパルス信号として出力する。ロータリーエンコーダ11aは、例えば、ロール1の一回転分を144万分割した回転量ごとに立ち上がるパルス状の信号をパルス信号として出力する。
【0026】
信号生成部15は、トリガ信号の出力タイミング(トリガ信号が立ち上がるタイミング)を基準として、パルス信号をカウントする。そして、信号生成部15は、パルス信号のカウント数に応じて制御波形を生成する。トリガ信号の出力タイミングを基準としてパルス信号をカウントすることで、所定の基準位置からのロール1の回転位置を特定することができる。したがって、トリガ信号の出力タイミングを基準としたパルス信号のカウント数に応じて制御波形を生成することで、ロール1の所定の切削箇所を正確に繰り返し切削することができる。
【0027】
信号生成部15による制御波形の生成についてより詳細に説明すると、信号生成部15は、複数の切削孔のロール1の円周方向および軸方向の配置(二次元的な配置)および複数の切削孔の深さの少なくとも一方がランダムになるような制御波形を生成する。
【0028】
図4は、同じ深さの複数の切削孔が規則的に配置された一般的なロール金型における切削孔の配置パターンの一例を示す図である。
【0029】
図4に示すように、一辺およびそれに対向する別の一辺が軸方向に平行であり、他の二辺が円周方向に30度程度傾いた菱形を軸方向と円周方向とに連続して配置したパターンを考える。一般的なロール金型では、例えば、切削孔は、各菱形の4つの頂点を中心として配置される。軸方向に平行な辺の両端を中心とする2つの切削孔は、一部が重複する。また、円周方向に傾いた辺の両端を中心とする2つの切削孔は、一部が重複する。円周方向に傾いた辺の両端を中心とする2つの切削孔の中心間の軸方向の距離を、Aμmとすると、円周方向に隣り合う2つの切削孔の中心間の距離は、例えば、2√3*Aμmである。また、軸方向に隣り合う2つの切削孔の中心間の距離は、例えば、2*Aμmである。また、円周方向に傾いた辺の両端を中心とする2つの切削孔の中心間の距離は、例えば、2*Aμmである。また、各切削孔の深さは、例えば、20μmである。
【0030】
一方、本実施形態においては、上述したように、信号生成部15は、複数の切削孔のロール1の円周方向および軸方向の配置および複数の切削孔の深さの少なくとも一方がランダムになるような制御波形を生成する。例えば、信号生成部15は、
図5における白丸点で示す基本パターンにおける各切削孔の中心を、
図5における黒丸点で示す円周方向および軸方向にランダムに移動させた点を中心とした切削孔が形成されるような制御波形を生成してよい。信号生成部15は、各切削孔の配置は基本パターンのままで、各切削孔の深さがランダムになるような制御波形を生成してよい。信号生成部15は、複数の切削孔のロール1の円周方向および軸方向の配置、および、複数の切削孔の深さがランダムになるような制御波形を生成してもよい。
【0031】
信号生成部15は、各切削孔の位置を基準パターンからロール1の円周方向および軸方向にランダムに移動させる場合、円周方向および軸方向の移動量を、例えば、乱数表に基づき決定してもよい。また、信号生成部15は、各切削孔の深さをランダムにする場合、各切削孔の深さを乱数表に基づき決定してもよい。
【0032】
信号生成部15は、
図5を参照して説明した切削孔の配置パターンに従いロール1に切削孔が形成されるような制御波形を生成する。例えば、円周方向および軸方向にランダムに配置された複数の切削孔を形成する場合、信号生成部15は、ランダムな配置の各切削孔に対応する位置で、往復移動する切削刃12によりロール1が切削されるような制御波形を生成する。また、例えば、深さがランダムな複数の切削孔を形成する場合、信号生成部15は、各切削位置での切削刃12の往復移動の距離がランダムになるような制御波形を生成する。
【0033】
図1を再び参照すると、制御部16は、信号生成部15により生成された制御波形に従い、切削刃12をロール1の径方向に往復移動させてロール1を切削する。具体的には、制御部16は、制御波形に基づき、切削刃12をロール1の径方向に往復移動させる。さらに、制御部16は、ロール1の所定の切削箇所を往復移動する切削刃12により所定の切削深さで1または複数回切削する切削工程が複数回行われるように、切削工具用ステージ14をロール1の径方向に移動させる。こうすることで、往復移動する切削刃12により、所定の深さでロール1が切削される。各切削工程における切削深さおよび切削回数は、例えば、予め制御部16に入力される。制御部16は、PZTステージ13を駆動する駆動信号を生成し、増幅部17に出力する。
【0034】
切削深さd1でx回切削する切削工程と、切削深さd2でy回切削する切削工程とにより切削孔を形成する場合を例とする。この場合、制御部16は、制御波形に従い、PZTステージ13を駆動して、切削刃12をロール1の径方向に往復移動させる。そして、制御部16は、往復移動する切削刃12により切削深さd1でx回ロール1が切削されるように、切削工具用ステージ14を順次移動させる。次に、制御部16は、往復移動する切削刃12により切削深さd2でy回ロール1が切削されるように、切削工具用ステージ14を順次移動させる。
【0035】
上述したように、例えば、円周方向および軸方向にランダムに配置された複数の切削孔を形成する場合、信号生成部15は、ランダムな配置の各切削孔に対応する位置で、往復移動する切削刃12によりロール1が切削されるような制御波形を生成する。制御部16は、その制御波形に従い、PZTステージ13を駆動して、切削刃12をロール1の径方向に往復移動させる。さらに、制御部16は、往復移動する切削刃12により、切削工程で定められた切削深さだけ切削されるように、切削工具用ステージ14をロール1の径方向に移動させる。こうすることで、ロール1の円周方向および軸方向にランダムに配置された複数の切削孔を形成することができる。
【0036】
また、例えば、深さがランダムな複数の切削孔を形成する場合、信号生成部15は、各切削位置での切削刃12の往復移動の距離がランダムになるような制御波形を生成する。制御部16は、その制御波形に従い、PZTステージ13を駆動して、切削刃12をロール1の径方向にランダムな距離で往復移動させる。さらに、制御部16は、往復移動する切削刃12により、例えば、所定の基準位置において、切削工程で定められた切削深さだけ切削されるように、切削工具用ステージ14をロール1の径方向に移動させる。こうすることで、深さがランダムな複数の切削孔を形成することができる。
【0037】
増幅部17は、制御部16から出力された駆動信号を増幅し、PZTステージ13に出力する。増幅後の駆動信号によりPZTステージ13が駆動され、切削刃12がロール1の径方向に往復移動して、ロール1が切削される。
【0038】
図6は、本実施形態に係るロール金型製造装置10の動作の一例を示すフローチャートである。
【0039】
まず、回転装置11にロール1が載置される(ステップS101)。
【0040】
次に、ロール1に対して、ロール1の表面のめっき層を平坦化する平面加工が行われる(ステップS102)。
【0041】
次に、切削工具用ステージ14にPZTステージ13がセッティングされる(ステップS103)。
【0042】
次に、PZTステージ13に切削刃12がセッティングされる(ステップS104)。
【0043】
次に、回転装置11の回転速度が設定され(ステップS105)、回転装置11が、設定された回転速度でロール1の回転を開始させる(ステップS106)。
【0044】
次に、切削工具用ステージ14の位置が、送り軸方向のスタート位置と切込軸方向のスタート位置とに設定され(ステップS107、S108)、切削工具用ステージ14は、駆動を開始する(ステップS109)。
【0045】
信号生成部15により生成された制御波形に従い、切削刃12がロール1の径方向に往復移動することで、ロール1が切削される(ステップS110)。
【0046】
切削工具用ステージ14が送り軸方向の終了位置まで移動し、所定の切削箇所を所定の切削深さで切削する切削工程を複数回繰り返すことで、切削孔の切削が完了する(ステップS111)。
【0047】
切削刃12に摩耗が生じ、切削刃12を交換する必要が有る場合、切削刃12の交換(ステップS112)および切削刃12の位置決め(ステップS113)が行われ、その後、ステップS107からステップS111の処理が繰り返される。
【0048】
次に、本実施形態に係るロール金型製造装置10におけるロール金型製造方法について、
図7に示すフローチャートを参照して説明する。
図7においては、切削刃12の移動パターンを示す制御波形の生成および制御波形に応じた切削刃12による切削について、特に説明する。
【0049】
信号生成部15は、ロータリーエンコーダ11aから出力された、ロール1の回転位置に応じた信号に基づき、ロール1の表面の所定の切削箇所に対応する位置で切削刃12をロール1の径方向に往復移動させる制御波形を生成する(ステップS201)。ここで、信号生成部15は、複数の切削孔のロール1の円周方向および軸方向の配置および複数の切削孔の深さの少なくとも一方がランダムになるような制御波形を生成する。
【0050】
制御部16は、信号生成部15により生成された制御波形に従い、切削刃12をロール1の径方向に往復移動させる。さらに、制御部16は、ロール1の所定の切削箇所を往復移動する切削刃12により所定の切削深さで1または複数回切削する切削工程が複数回行われるように、切削工具用ステージ14をロール1の径方向に移動させる(ステップS202)。具体的には、制御部16は、制御波形に従い切削刃12がロール1の径方向に移動するようなPZTステージ13の駆動信号を生成し、増幅部17に出力する。また、制御部16は、予め定められた切削工程での切削深さおよび回数でロール1が切削されるように、切削工具用ステージ14をロール1の径方向に移動させる。
【0051】
このように本実施形態に係るロール金型製造方法は、ロータリーエンコーダ11aから出力された信号に基づき、ロール1の表面の所定の切削箇所に対応する位置で切削刃12をロール1の径方向の往復移動させる切削刃12の移動パターンを示す制御波形を生成する生成ステップと、制御波形に従い、切削刃12をロール1の径方向に往復移動させ、所定の切削箇所を往復移動する切削刃12により所定の切削深さで1または複数回切削する切削工程が複数回行われるように、切削工具用ステージ14をロール1の径方向に移動させる切削ステップとを含む。切削ステップでは、切削工程における切削深さが、当該切削工程の直前の切削工程における切削深さよりも小さくなるように、切削工具用ステージをロール1の径方向に移動させる。生成ステップでは、複数の切削孔のロール1の円周方向および軸方向の配置および複数の切削孔の深さの少なくとも一方がランダムになるような制御波形を生成する。
【0052】
ロータリーエンコーダ11aから出力された信号に基づき制御波形を生成し、制御波形に基づき切削刃12の往復移動を制御してロール1を切削することで、所定の切削箇所を正確に切削することができる。そのため、所定の切削深さで1または複数回切削する切削工程を複数回繰り返しても、同じ切削箇所を正確に切削することができるので、所定の切削箇所を正確に複数回切削して、所定の深さの切削孔が形成されたロール金型を製造することができる。また、後の切削工程ほど切削深さを小さくすることで、切削によるバリの発生を抑制することができる。また、複数の切削孔のロール1の円周方向および軸方向の配置および複数の切削孔の深さの少なくとも一方がランダムになるような制御波形を生成することで、配置および深さの少なくとも一方がランダムな複数の切削孔が形成されたロール金型を製造することができる。
【実施例0053】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0054】
(実施例1)
SUS304の表面にNi-Pのめっきを施したロールを用意した。ロールの直径は130mmであり、ロールの長さは250mmであった。
【0055】
次に、用意したロールを本実施形態に係るロール金型装置に載置し、ロール表面のNi-Pメッキ層に平面加工を行った。平面加工後のロールを切削して、切削孔を形成した。切削刃としては、先端の半径が0.1mmであり、正面から見て円形状のダイヤモンドチップからなる切削刃を用いた。ロールの回転数は0.5min-1とした。ロールの切削は、切削深さ5μmで3回、切削深さ3μmで1回、切削深さ1μmで3回行った。すなわち、切削深さ5μmで3回する切削工程(第1の切削工程)の後に、第1の切削工程における切削深さ(5μm)よりも小さい切削深さ3μmで1回切削する切削工程(第2の切削工程)を行った。さらに、第2の切削工程の後に、第2の切削工程における切削深さ(3μm)よりも小さい切削深さ1μmで3回切削する切削工程(第3の切削工程)を行った。上記第1から第3の切削工程により、21μm(=5μm×3+3μm×1+1μm×3)の切削孔をロールに形成してロール金型を製造した。また、制御波形として、複数の切削孔の深さがランダムになるような制御波形を用いた。具体的には、制御波形として、切削孔の深さが、21μm±0.75μmの範囲でランダムとなるような制御波形を用いた。
【0056】
(実施例2)
本実施例では、制御波形として、複数の切削孔の配置および深さがランダムになるような制御波形を用いた。具体的には、制御波形として、複数の切削孔の配置が、
図4に示す基準パターン(ピッチ250μm)から±5μmの範囲でランダムとなり、かつ、複数の切削孔の深さが、21μm±3μmの範囲でランダムとなるような制御波形を用いた。他の条件は、実施例1と同じとした。
【0057】
次に、実施例1,2に係るロール金型を用いて、マイクロレンズアレイを製造した。マイクロレンズアレイは、以下のように製造した。すなわち、PET(Polyethyleneterephthalate)からなる基材上に、未硬化のアクリル系UV硬化樹脂を滴下して、硬化性樹脂層を形成した。次に、形成した硬化性樹脂層に製造したロール金型を押し付け、この状態で硬化性樹脂層にUV光を照射して、硬化性樹脂層を硬化させた。硬化性樹脂層の硬化後、ロール金型から硬化した硬化性樹脂層を剥離して、マイクロレンズアレイを製造した。
【0058】
次に、実施例1,2に係るロール金型の表面をマイクロスコープにより観察した。また、これらのロール金型を用いて製造したマイクレンズアレイの表面を、SEM(Scanning Electron Microscope)により観察した。また、実施例1に係るロール金型を用いて製造したマイクロレンズアレイに形成されたマイクロレンズの高さを、レーザー顕微鏡により測定した。
【0059】
図8Aは、所定の切削箇所を所定回数切削した後の、ロールの表面をマイクロスコープにより撮影した図である。また、
図8Bは、
図8Aに示すロールをさらに1回切削した後の、ロールの表面をマイクロスコープにより撮影した図である。
図8A,8Bにおける撮影倍率は同じである。
【0060】
図8A,8Bに示すように、切削を繰り返すことで、直径および深さが大きな切削孔が形成されていることが分かった。
【0061】
図9A,10Aはそれぞれ、実施例1,2に係るロール金型の表面をマイクロスコープにより撮影した図である。
図9B,10Bはそれぞれ、実施例1,2に係るロール金型を用いて製造されたマイクロレンズアレイの表面をSEMにより撮影した図である。
図11は、実施例1に係るロール金型を用いて製造されたマイクロレンズアレイのマイクロレンズの高さをレーザー顕微鏡により測定した図である。
【0062】
図9Aに示すように、実施例1に係るロール金型では、平面視で六角形の切削孔が隙間なく配置された、いわゆるハニカム構造の複数の切削孔が形成されていた。また、
図10Aに示すように、実施例2に係るロール金型では、ランダムに配置された複数の切削孔が形成されていた。
図9A,10Aに示すように、実施例1に係るロール金型および実施例2の係るロール金型のいずれにおいても、バリは発生していなかった。
【0063】
図9Bに示すように、実施例1に係るロール金型を用いて製造されたマイクロレンズアレイでは、ハニカム構造の複数のマイクロレンズが形成されていた。ただし、
図11に示すように、各マイクロレンズの高さは均一ではなく、ランダムであった。
図10Bに示すように、実施例2に係るロール金型を用いて製造されたマイクロレンズアレイでは、ランダムに配置された複数のマイクロレンズが形成されていた。実施例2に係るマイクロレンズアレイにおいても、各マイクロレンズの高さは均一ではなく、ランダムであった。
図9B,10Bに示すように、実施例1に係るロール金型を用いて製造したマイクロレンズアレイおよび実施例2に係るロール金型を用いて製造したマイクロレンズアレイのいずれにおいても、バリに対応する構成は形成されなかった。
【0064】
信号生成部15および制御部16は、例えば、メモリおよびプロセッサを備えるコンピュータにより構成される。信号生成部15および制御部16がコンピュータにより構成される場合、信号生成部15および制御部16は、メモリに記憶された本実施形態に係るプログラムをプロセッサが読み出して実行することで実現される。
【0065】
また、信号生成部15および制御部16の各機能を実現する処理内容を記述したプログラムは、コンピュータが読取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。このような記録媒体を用いれば、プログラムをコンピュータにインストールすることが可能である。ここで、プログラムが記録された記録媒体は、非一過性の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD-ROMあるいはDVD-ROMなどの記録媒体であってもよい。
【0066】
本発明は、上述した各実施形態で特定された構成に限定されず、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。例えば、各構成部などに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部などを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。