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特開2024-28461磁性シート、および、磁性シートを備えるコイルモジュール、並びに非接触給電装置
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  • 特開-磁性シート、および、磁性シートを備えるコイルモジュール、並びに非接触給電装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028461
(43)【公開日】2024-03-04
(54)【発明の名称】磁性シート、および、磁性シートを備えるコイルモジュール、並びに非接触給電装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/34 20060101AFI20240226BHJP
   H01F 38/14 20060101ALI20240226BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20240226BHJP
   C04B 35/38 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
H01F1/34 140
H01F38/14
H05K9/00 M
C04B35/38
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024002612
(22)【出願日】2024-01-11
(62)【分割の表示】P 2019223822の分割
【原出願日】2019-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】久保 好弘
(72)【発明者】
【氏名】岡 義人
(57)【要約】
【課題】安定して製造が可能であって、かつ、優れた磁気特性を有する磁性シートと、当該磁性シートを有するコイルモジュールおよび非接触給電装置とを提供すること。
【解決手段】本発明の磁性シート2は、主成分としてMn-Zn系フェライトを含み、シート状の焼結体で構成されている。そして、磁性シート2の断面の厚み方向において、酸化物換算したZn含有量の最大値をZMAXとし、酸化物換算したZn含有量の最小値をZMinとすると、ZMAXに対するZMinの比率(ZMin/ZMAX×100)が、90%以上である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の焼結体で構成される磁性シートであって、
前記焼結体は、主成分としてMn-Zn系フェライトを含み、
前記焼結体の平均厚みが、100μm以上2500μm以下であり、
前記焼結体の断面の厚み方向において、酸化物換算したZn含有量の最大値をZMAXとし、酸化物換算したZn含有量の最小値をZMinとすると、
MAXに対するZMINの比率(ZMIN/ZMAX×100)が、90%以上であり、
前記Mn-Zn系フェライトは、酸化鉄をFe23換算で53.5~58.0モル%含み、酸化亜鉛をZnO換算で3.0~10.5モル%含む磁性シート。
【請求項2】
前記焼結体の断面の厚み方向において、酸化物換算したZn含有量の標準偏差が、0.3mol%以下である請求項1に記載の磁性シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁性シートを備えるコイルモジュール。
【請求項4】
請求項3に記載のコイルモジュールを備える非接触給電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mn-Zn系フェライトで構成される磁性シートと、当該磁性シートを備えるコイルモジュール、および非接触給電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、近距離無線通信や、ワイヤレス電力伝送、電磁波保護などの分野において、電磁波遮断や、電磁波吸収、または、磁力線収束などを目的として、フェライトを含む磁性シートが用いられている。
【0003】
このような磁性シートは、フェライト粉末を含むグリーンシートを、セラミックス製のセッタ上で焼成することで製造される。ただし、焼結体として得られるフェライトシートは、脆性が強いため、クラックなどの物理的損傷が発生し易い。また、フェライトシートの厚みが薄い場合は、焼成後に変形が生じ易く、安定して製造することが困難である。磁性シートにクラックや変形が生じていると、機械的強度や磁気特性の低下を招く。
【0004】
上記のような課題に対して、特許文献1では、Ni-Zn系フェライトで構成される磁性シートにおいて、組成および粒成長抑制剤を調製することで、安定した製造を実現している。しかしながら、特許文献1で開示している発明は、あくまでも、Ni-Zn系フェライトで適用される技術であって、Mn-Zn系フェライトの場合に適用しても、クラックや変形の発生を抑制できない。
【0005】
Mn-Zn系フェライトは、Ni-Zn系フェライトに比べて、磁気特性が優れるものの、焼成時に的確な雰囲気制御が求められ、製造が極めて難しい。特に、磁性体シートの厚みが薄い場合、製造の困難性が増し、焼成後にクラックや変形などの不良がより発生し易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-12656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実情を鑑みてなされ、その目的は、安定して製造が可能であって、かつ、優れた磁気特性を有する磁性シートと、当該磁性シートを有するコイルモジュールおよび非接触給電装置とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係る磁性シートは、
シート状の焼結体で構成されており、
前記焼結体は、主成分としてMn-Zn系フェライトを含み、
前記焼結体の断面の厚み方向において、酸化物換算したZn含有量の最大値をZMAXとし、酸化物換算したZn含有量の最小値をZMINとすると、
MAXに対するZMINの比率(ZMIN/ZMAX×100)が、90%以上である。
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、上記の特徴を有する本発明の磁性シートは、工業的に安定した製造が可能であることを見出した。また、本発明に係る磁性シートは、優れた磁気特性(初透磁率および磁気損失)を有する。
【0010】
特に、本発明に係る磁性シートは、薄型化した場合であっても、工業的に安定した製造が可能であり、前記焼結体の平均厚みを、2500μm以下とすることができる。
【0011】
また、好ましくは、前記焼結体の断面の厚み方向において、酸化物換算したZn含有量の標準偏差が、0.3mol%以下である。
【0012】
本発明に係る磁性シートは、たとえば、以下に示す製造方法で作製できる。すなわち、本発明に係る磁性シートの製造方法は、フェライト粉末を含むグリーンシートをセッタに搭載して焼結する焼成工程を有する。そして、上記の焼成工程において使用するセッタは、気孔率が、好ましくは30%未満、より好ましくは、4%~27.5%である。また、セッタの表面の算術平均粗さ(Ra)は、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.5μm以下である。
【0013】
また、上記の焼成工程においては、炉内雰囲気中の最大酸素濃度が、好ましくは6.0vol%以下、より好ましくは0.5vol%~6.0vol%の範囲内となるように制御する。特に、最大酸素濃度は、温度保持過程だけでなく、物温が900℃から保持温度に到達するまでの昇温過程、および、物温が保持温度から900℃に低下するまでの降温過程においても、上記の酸素濃度の範囲内に制御してあることが好ましい。
【0014】
本発明に係る磁性シートは、近距離無線通信や、ワイヤレス電力伝送、電磁波保護などの分野において利用され得る。特に、非接触給電装置におけるコイルモジュールの構成要素として、好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る磁性シートの概略断面図である。
図2図2は、EPMAによるライン分析の結果を示すグラフである。
図3図3は、焼成工程における磁性シートの搭載状態を示す概略斜視図である。
図4図4は、本発明の一実施形態に係るコイルモジュールを示す概略斜視図である。
図5図5は、本発明の一実施形態に係る非接触給電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0017】
第1実施形態
第1実施形態では、図1~3に基づいて、本発明の一実施形態に係る磁性シート2について説明する。本実施形態の磁性シート2は、シート状のフェライト焼結体で構成してある。
【0018】
磁性シート2の平面視形状は、特に限定されない。たとえば、円形状、楕円形状、四角形状、多角形状などとすることができ、磁性シート2の用途に応じて適宜決定される。そして、磁性シート2の平面視の寸法も、特に制限されないが、表面2aまたは裏面2bの面積を、2000mm2以上とすることができ、好ましくは5000mm2~10000mm2である。
【0019】
一方、図1に示す磁性シート2の平均厚みT0は、2500μm以下とすることができ、好ましくは50μm~2500μmであり、より好ましくは100μm~2000μmであり、さらに好ましくは100μm~1000μmである。磁性シート2の厚みT0は、図1に示すような断面を画像解析することで求められ、少なくとも5箇所以上で計測を行い、その平均値として算出することが好ましい。
【0020】
なお、磁性シート2は上述したような寸法とすることができるため、磁性シート2の体積(mm3)に対する表面2aまたは裏面2bの面積(mm2)の比(面積/体積)は、0.4mm-1以上とすることができ、好ましくは0.5mm-1以上、より好ましくは1mm-1以上である。
【0021】
本実施形態の磁性シート2は、主成分としてMn-Zn系フェライトを含む。このMn-Zn系フェライトは、好ましくは、酸化鉄がFe23換算で51~58モル%含まれ、酸化亜鉛がZnO換算で3~18モル%含まれ、残部が酸化マンガン(MnO)で構成されている。主成分であるMn-Zn系フェライトが上記の組成で構成してあることで、本実施形態の磁性シート2は、優れた磁気特性を有する。
【0022】
また、磁性シート2は、上記の主成分に加えて、副成分を含むことができる。副成分としては、たとえば、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ニオブ(Nb25)、酸化バナジウム(V25)酸化タンタル(Ta25)、酸化ニッケル(NiO)、酸化チタン(TiO2)、酸化錫(SnO2)、および、酸化コバルト(CoO)などが挙げられ、上記の酸化物のうちから選択される1種、もしくは、複数種が組み合わされて含まれ得る。
【0023】
なお、上記において、各副成分の含有量は、主成分100重量部に対して、以下に示す範囲内であることが好ましい。すなわち、酸化ジルコニウムはZrO2換算で0.005~0.04重量部、酸化ケイ素はSiO2換算で0.005~0.02重量部、酸化カルシウムはCaO換算で0.02~0.2重量部、酸化ニオブはNb25換算で0.005~0.075重量部、酸化バナジウムはV25換算で0.005~0.05重量部、酸化タンタルはTa25換算で0.005~0.15重量部、酸化ニッケルはNiO換算で0.05~1重量部、酸化チタンはTiO2換算で0.01~0.6重量部、酸化錫はSnO2換算で0.05~0.8重量部、酸化コバルトはCoO換算で0.02~0.4重量部である。このような範囲で上記の副成分が含まれることで、磁気特性をより向上させることができる。
【0024】
また、磁性シート2には、上記の酸化物系の副成分以外にも、以下に示すような典型元素や遷移金属元素を含む金属成分または化合物成分が含まれ得る。上記の典型元素としては、ホウ素(B)、炭素(C)、リン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)、砒素(As)、セレン(Se)、臭素(Br)、テルル(Te)、ヨウ素(I)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、ストロンチウム(Sr)、カドミウム(Cd)、インジウム(In)、錫(Sn)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)などが挙げられる。一方、遷移金属元素としては、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)などが挙げられる。当該金属成分または化合物成分の含有量は、特に制限されないが、主成分100重量部に対して、0.0001~0.1重量部程度の範囲内であることが好ましい。当該金属成分または化合物成分の副成分は、意図的に添加する場合もあるが、原料中の不可避不純物としても含まれ得る。
【0025】
上述した磁性体シート2の主成分や副成分の含有量は、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)による成分分析、X線回折(XRD)や電子回折(ED)による組成分析、レーザ照射型誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)を含む各種ICP分析など、各種分析方法により測定することができ、分析方法は特に限定されない。好ましくは、主成分を構成する酸化物(酸化鉄、酸化亜鉛、および酸化マンガン)の含有割合については、EPMAにより分析する。
【0026】
なお、前述したように、本実施形態の磁性シート2は、シート状の焼結体であるため、磁性シート2の内部には、樹脂成分が実質的に含まれない。樹脂成分が「実質的に含まれない」とは、主成分100重量%に対して、樹脂成分が40重量ppm以下であることを意味する。なお、樹脂を含有した磁性シートは、焼結体のシートに比べて、柔軟性を有するが、透磁率などの磁気特性が劣る傾向となる。
【0027】
具体的に、焼結体である磁性シート2の特性としては、初透磁率μiが1800以上であることが好ましく、2000以上であることがより好ましく、2200以上であることがさらに好ましい。また、磁性シート2は、磁気損失(コアロス)が、1000kW/m3以下であることが好ましく、800kW/m3以下であることがより好ましく、600kW/m3以下であることがさらに好ましい。
【0028】
本実施形態の磁性シート2では、図1に示すような任意の断面において、厚み方向でのZn成分のばらつきが、所定の範囲内に制御してあることを特徴とする。具体的には、磁性シート2の任意の断面において、厚み方向におけるZn含有量の最大値をZMAXとし、厚み方向におけるZn含有量の最小値をZMINとすると、ZMAXに対するZMINの比率(ZMIN/ZMAX×100)が、90%以上である。
【0029】
上記において、磁性シート2の任意の断面とは、磁性シート2の厚み方向(Z軸方向)が露出する断面であれば、特に制限されない。ただし、好ましくは、成分分析を行う断面は、磁性シート2が有するX-Y平面の略中央におけるX-Z断面もしくはY-Z断面である。
【0030】
また、上記において、Zn含有量は、磁性シート2の任意の断面において、厚み方向に沿うように連続的に成分分析することで得られ、主成分100mol%中のZn成分の割合をZnO換算(酸化物換算)して表す(単位はmol%)。本実施形態において、連続的な成分分析は、走査型電子顕微鏡(SEM)などで磁性シート2の断面を観察し、その際にEPMAによりライン分析することで実施する。
【0031】
図2は、EPMAによるライン分析結果の一例を示すグラフである。具体的に、ライン分析では、厚み方向に沿う測定線4(図1)において、1~20μm程度の一定間隔で成分分析を行い、連続データを得る。たとえば、図2のグラフでは、Y軸にZnO換算したZn含有量をとって連続データをプロットしており、厚み方向におけるZn成分の変動を示している。そして、図2に示すような連続データにおいて、最大値をZMAXとし、最小値をZMINとする。
【0032】
図2の実線(ex1)に示すように、本実施形態の磁性シート2では、厚み方向におけるZn成分の変動が少ない範囲に留められている。具体的に、厚み方向におけるZn含有量の標準偏差は、0.3mol%以下であることが好ましい。また、原料粉末の仕込み量から算出されるZn含有量の狙い値をZTとし、ライン分析により得られた連続データの平均値をZAとすると、ZTに対するZAの比(ZA/ZT)が、0.94~1.02程度であることが好ましい。
【0033】
なお、EPMAによるライン分析において、測定試料のエッジ部分となる表面2a側の端縁、および、裏面2b側の端縁では、正確な成分分析が困難である。そのため、各データ(ZMAX,ZMIN,ZA)の解析に用いる連続データとしては、ライン分析により得られた全データ範囲のうち、表面2aおよび裏面2bの端縁から3~5μm程度の範囲を除去(無視)する。たとえば、磁性シート2の厚みが100μmである場合には、まず、測定線4において1μmの間隔で成分分析を行い、連続データを取得する。そして、図2に示すように、その連続データから、表面2aの端縁から5μmまでの範囲(distanceが0~5μmの範囲)のデータ、および、裏面2bの端縁から5μmまでの範囲(distanceが95~100μmの範囲)のデータを除去して、データ解析を実施する。
【0034】
次に、図1に示す磁性シート2の製造方法について、一例を示して説明する。
【0035】
まず、磁性シート2を構成するフェライト原料を準備する。具体的には、主成分の出発原料および副成分の出発原料を、前述した所定の組成比となるように秤量したうえで混合し、原料混合物を得る。混合する方法としては、ボールミルを用いて行う湿式混合や、乾式ミキサーを用いて行う乾式混合が挙げられ、特に制限されない。なお、各出発原料の平均粒径は、0.1~3μm程度とすることが好ましい。
【0036】
主成分の出発原料としては、酸化鉄(α-Fe23)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マンガン(Mn34)、あるいは、これらの複合酸化物を用いることができる。また、その他に、焼成により上記の酸化物や複合酸化物となる各種化合物なども用いることができる。焼成により上記の酸化物になる化合物としては、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物などが挙げられる。なお、主成分中の酸化マンガンの含有量はMnOで換算されるが、出発原料としては、Mn34が好ましく用いられる。
【0037】
また、副成分の出発原料としては、主成分の場合と同様に、酸化物だけではなく複合酸化物や焼成後に酸化物となる化合物を用いることができる。なお、副成分の出発原料は、上記のとおり最初の混合工程で添加することができるが、後述する仮焼き工程後に添加してもよい。
【0038】
次に、上記の混合工程で得られた原料混合物を仮焼きして、仮焼き材料を得る。この仮焼きの条件としては、保持温度を800~1100℃とし、保持時間を1~3時間とすることが好ましい。また、仮焼き時の処理雰囲気は、大気雰囲気としてもよく、大気中よりも酸素分圧が高い雰囲気としてもよい。
【0039】
仮焼き工程の後は、仮焼き材料を粉砕して、粉砕材料を得る。粉砕は、仮焼き材料の凝集をくずして、適度な焼結性を有する粉体を得るために行う。仮焼き材料が大きい塊を形成している場合には、粗粉砕を行ってからボールミルやアトライターなどを用いて湿式粉砕を行うことが好ましい。また、粉砕材料の平均粒径は、0.1~2μm程度とすることが好ましい。
【0040】
次に、前工程で得られた粉砕材料を用いて、シート状の成形体(グリーンシート)を作製する。グリーンシートを得る方法としては、ドクターブレード法や、押出成形、粉末圧縮成形などの種々の成形方法を採用でき、特に制限されない。たとえば、磁性シート2の平均厚みT0を300μm以下とする場合には、ドクターブレード法で成形することが好ましく、平均厚みT0を300μm以上とする場合には、押出成形を行うことが好ましい。
【0041】
ドクターブレード法でグリーンシートを得る場合には、まず、粉砕材料をバインダーや溶剤、分散剤などと共に混錬し、フェライトペーストを得る。フェライトペースト中のバインダーや溶剤などの種類および含有量は、任意であり、公知の仕様を採用できる。そして、このフェライトペーストをキャリアテープ上に塗布してシート化することでグリーンシートを得る。
【0042】
一方、押出成形でグリーンシートを得る場合には、まず、粉砕材料をバインダーと共に混錬することでフェライト練土を得る。この際に使用するバインダーの種類および含有量は、任意であり、公知の仕様を採用できる。そして、このフェライト練土を押出機の金型に導入し、適宜加熱しながら圧力を加えて所定断面形状の隙間から押し出すことで、グリーンシートを得る。
【0043】
磁性シート2は、上記の工程で得られたグリーンシートに対して、適宜、乾燥や、製品寸法にするための打ち抜きなどの処理を施した後で、焼成することで得られる。焼成工程では、図3に示すように、グリーンシート3をセッタ6に搭載したうえで、このセッタ6を焼成炉に投入し、炉内雰囲気や炉内温度を制御しながら加熱処理することで、グリーンシート3を焼結させる。本実施形態に係る磁性シート2の製造においては、この焼成が要所となる工程である。特に、磁性シート2の断面におけるZn成分のばらつきは、焼成時の保持温度や、保持時間、雰囲気中の酸素分圧、および、使用するセッタの特性など、各種条件を調整することで制御する。以下、好ましい焼成条件について説明する。
【0044】
まず、セッタ6としては、アルミナ(Al23)、ジルコニア(ZrO2)、およびムライト(3Al23・2SiO2~2Al23・SiO2)などのセラミック材が使用できるが、純度が99%以上の高純度アルミナを使用することが好ましい。また、セッタ6は、より緻密で、かつ、より平滑であることが好ましい。具体的に、セッタ6の気孔率は、好ましくは30%未満、さらに好ましくは4%~27.5%である。加えて、セッタ6の表面粗さは、算術平均粗さRaで、2.0μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましい。このように、緻密で、かつ表面6aが平滑なセッタ6を使用することで、特に磁性シート2の裏面2b近傍におけるZn成分の減少を抑制することができる。
【0045】
また、焼成炉としては、炉内の雰囲気制御ができる炉であればよく、バッチ式の焼成炉や連続式の焼成炉が使用できる。そして、焼成時の保持温度は、1150℃~1300℃とすることが好ましく、保持時間は、0.5~3時間とすることが好ましい。なお、上記において保持温度とは、物温(シート自体の温度)が最高到達点で安定した温度を意味する。
【0046】
さらに、酸素分圧については、炉内雰囲気中の最大酸素濃度が、好ましくは6.0vol%以下、より好ましくは0.5vol%~6.0vol%の範囲内となるように制御する。特に、本実施形態において酸素分圧は、温度保持過程だけでなく、物温が900℃から保持温度に到達するまでの昇温過程、および、物温が保持温度から900℃に低下するまでの降温過程においても、上記の酸素濃度の範囲内に制御してあることが好ましい。上記のように焼成時の温度や雰囲気を制御することで、特に磁性シート2の表面2a近傍におけるZn成分の減少を抑制することができる。
【0047】
なお、焼成時においては、上述した条件の他に、雰囲気中の亜鉛の蒸気圧を上げる処置を実施してもよい。このような処置としては、たとえば、セッタ6の上に酸化亜鉛のブロックを設置する処置、グリーンシート3の表面3aを酸化亜鉛の粉末で覆う処置、および、製品となるグリーンシート3の上にフェライトの箱を被せて焼成する処置などが挙げられる。
【0048】
また、図3では、一枚のセッタ6に一枚のグリーンシート3を搭載しているが、複数のグリーンシート3を同時に搭載してもよい。ただし、その場合、複数のグリーンシート3は、Z軸上に重ねて積層するのではなく、X-Y平面上に並べて配置することが好ましい。Mn-Zn系フェライトの場合、複数のグリーンシートを積層して焼成すると、互いに融着してしまう虞があるためである。
【0049】
さらに、焼成後の磁性シート2は、セッタ6から取り外した後に、その表面2aまたは/および裏面2b(裏面2bがセッタ6と接触していた面)に保護層を形成してもよい。ただし、焼成後の表面2aおよび焼成後の裏面2bは、ブラスト加工や研磨、切削などの機械加工を施すことなく、焼成あがりの面とすることが好ましい。
【0050】
以上が本実施形態における磁性シート2の製造方法である。なお、磁性シート2の製造では、上述した工程の他に、以下に示すような加工を実施してもよい。たとえば、磁性シート2は、耐衝撃性を向上させるために、多数の小片に分割してもよい。この場合、焼成前のグリーンシート3にプリカット加工を施し、格子状の溝を形成する。このグリーンシート3を焼成した後、得られた磁性シート2の表面2aおよび裏面2bに、ポリエチレンテレフタラート(PET)などの樹脂製のフィルムをラミネートして貼り付ける。そして、フィルムを貼り付けた磁性シート2にローラーをあてることによって、磁性シート2をフィルムに挟まれた状態で規則的な小片に分割する。
【0051】
(第1実施形態のまとめ)
本実施形態の磁性シート2は、シート状の焼結体で構成してあり、主成分としてMn-Zn系フェライトを含む。そして、この磁性シート2の断面では、厚み方向におけるZn含有量の最大値(ZMAX)と最小値(ZMIN)の比率(ZMIN/ZMAX×100)が、90%以上である。
【0052】
従来、Mn-Zn系のフェライトは、ドラム型やE型、I型などの塊状のフェライトコアとしては実用化されているが、シート状の形状では実用化が極めて困難であった。シート形状の場合は、その製造過程において様々な不良が発生し、従来技術では製造が困難であったためである。その理由としては、以下のような事由が考えられる。
【0053】
たとえば、シート状のフェライト焼結体の場合、体積に対する平面(磁性シート2の表面2aおよび裏面2bの面積)の比率が大きいため、焼成後に反りやうねりなどの変形や、内部でのクラックが発生し易い。また、Mn-Zn系のフェライトシートの場合、その焼成過程において、グリーンシート3がセッタ6に固着する融着不良が発生し易い。
【0054】
特に融着不良は、Ni-Zn系フェライトではほとんど発生せず、Mn-Zn系フェライトに特有の不良モードである。Ni-Zn系フェライトは、大気雰囲気中での焼成が可能であるが、Mn-Zn系フェライトでは、磁気特性を確保するために低酸素分圧下で焼成する必要があるためと考えられる。また、塊状のフェライトコアの場合には、コアの表面に変形やクラックなどの異常個所が形成されたとしても、その異常個所を研磨などにより取り除くことが可能である。しかしながら、シート状のフェライトシートの場合、厚みが薄いため、異常個所を研磨などで取り除くことができない。機械加工を加えるとシートが破損するためである。
【0055】
本発明者等は、上述した課題について鋭意検討した結果、磁性シート2の断面におけるZn成分の変動が、変形不良やクラック不良、および融着不良などの各種不良の発生度合いと関連していることを見出した。そのうえで、本発明者等は、磁性シート2の厚み方向におけるZn成分のばらつき具合が、焼成条件や焼成時に使用するセッタ6の特性などによって制御が可能であることを見出した。さらに、本発明者等は、Zn含有量の比率(ZMIN/ZMAX×100)が90%以上である磁性シート2では、その製造過程において、前述したような変形不良やクラック不良、および融着不良などを抑制でき、量産性が良好であることを見出した。
【0056】
量産性が良好となる理由としては、必ずしも明らかではないが、グリーンシート3の表面3aおよび裏面3bでの脱亜鉛現象が関係していると考えられる。
【0057】
たとえば、グリーンシート3の表面3aでは、グリーンシート3に含まれる酸化亜鉛が還元されて金属亜鉛となると考えられる。この金属亜鉛は酸化亜鉛よりも昇華温度が低いため、グリーンシート3の表面3aでは、生成した金属亜鉛が容易に揮発し(表面3aでの脱亜鉛現象)、クラックの発生や磁気特性の劣化を招くのではないかと考えられる。本実施形態では、温度保持過程のみならず、昇温過程および降温過程においても雰囲気中の酸素濃度を所定の範囲に制御することで、表面3aでの亜鉛成分の揮発が抑制される。この結果、得られる磁性シート2の表面2aでは、Zn成分が減少することなく、クラックの発生や磁気特性の劣化が抑制されると考えられる。
【0058】
一方、グリーンシート3の裏面3bでは、焼成時に、グリーンシート3側の亜鉛成分が、セッタ6中に拡散し、セッタ6のセラミック成分と反応すると考えられる(裏面3bでの脱亜鉛現象)。この裏面3bでの脱亜鉛現象が起こると、得られる磁性シート2とセッタ6とが融着してしまい、変形やクラック、および破損などの不良に繋がると考えられる。
【0059】
一般的に、セッタ6としては、グリーンシートとセッタとの接触面積を減らすために、表面が粗く気孔率が高い(30%以上)材料を使用することが好ましいと考えられてきた。しかしながら、本発明者等の実験によれば、気孔率が高く表面が粗いセッタを使用した場合、裏面3b側でZn成分が減少しやすくなることが明らかとなった。一方、本実施形態のように、緻密性が高く平滑なセッタ6を使用した場合、裏面3b側でZn成分がほとんど減少しない。セッタの気孔率が高く表面が粗い場合には、亜鉛成分が、セッタの内部深くにまで拡散され易くなり、裏面3bでの脱亜鉛現象が促進されると考えられる。一方、セッタ6の緻密性が高く平滑な場合には、亜鉛成分の拡散が、セッタ6の最表面における必要最小限の範囲に留められると考えられる。
【0060】
本実施形態の磁性シート2では、その製造過程において、上記のような原理で表面3aおよび裏面3bでの脱亜鉛現象が抑制されているため、量産性が良好となる(すなわち工業的に安定して製造できる)と考えられる。
【0061】
なお、表面2aでの脱亜鉛現象を抑制する方法としては、酸化亜鉛の個体や粉末、もしくはフェライトの箱などのダミー部材をグリーンシート3と共に焼成し、雰囲気中の亜鉛の蒸気圧を上げる処置も考えられる。この方法では、ダミー部材から亜鉛が優先的に揮発することで、グリーンシート3側からZn成分が揮発することをある程度抑制できる。しかしながら、この方法では、亜鉛の蒸気圧を一定に保つことが困難であり、量産に適さない。一方で、酸素分圧は、炉内に導入するガス成分を調整することで制御が可能であり、亜鉛の蒸気圧制御よりも制御が容易である。そのため、本実施形態の酸素分圧を制御する方法の場合、ダミー部材を同時焼成しなくとも、表面3aでの脱亜鉛現象を好適に抑制できる。
【0062】
また、従来では、セッタ6への融着不良を防ぐための対策として、セッタ6の表面6aに剥離剤として酸化亜鉛や酸化ジルコニウムをコーティングする処置や、セッタ6自体の内部にて酸化亜鉛や酸化ジルコニウムをあらかじめ含有させる処置なども知られている。しかしながら、磁性シート2のようなシート状のフェライト焼結体の製造においては、上述した従来の対策では不十分である。シート形状の場合、グリーンシート3の体積に対する裏面3bの面積の比率が大きく、裏面3bでの脱亜鉛現象が活性化するためである。また、セッタ6の表面6aに酸化亜鉛や酸化ジルコニウムが介在すると、磁性シート2に変形や欠陥が発生する。そのため、厚みが薄い磁性シートの場合、融着不良の低減は、上記の従来の技術によっては達成できず、本実施形態の製法によって好適に実現し得る。
【0063】
また、本実施形態の磁性シート2では、上述したように各種不良が抑制された結果、磁気特性の劣化が生じないため、初透磁率が向上すると共に、磁気損失が少なくなる。特に、磁性シート2は、平均厚みT0を2500μm以下と薄くした場合、または、シート面積を2000mm2以上と幅広化した場合であっても、量産性が良好であり、かつ、優れた磁気特性が得られる。換言すると、本実施形態の磁性シート2は、薄型化や幅広化が可能である。
【0064】
本実施形態の磁性シート2は、電磁波遮断を目的としてスマートフォンやタブレット、非接触ICカードなどに搭載されて利用され得る。また、ノイズフィルターや電磁波吸収体としても利用可能であり、さらには、コイルモジュールに組み込まれて、非接触給電装置の構成要素としても好適に利用可能である。
【0065】
第2実施形態
第2実施形態では、第1実施形態で説明した磁性シート2の用途の一例として、磁性シート2を有するコイルモジュール10(図4)および非接触給電装置100(図5)について説明する。なお、第2実施形態における第1実施形態と共通の構成に関しては、説明を省略し、同様な符号を使用する。
【0066】
図4は、第2実施形態に係るコイルモジュール10を示す概略斜視図である。図4に示すように、コイルモジュール10は、磁性シート2とコイル12とを有する。
【0067】
コイル12は、平板状の渦巻き型コイルである。図4では、コイル12の平面視における外縁形状が、丸みを帯びた四角形状となっているが、コイル12の外縁形状は、これに限定されず、円形状、楕円形状、多角形状などであってもよい。
【0068】
また、コイル12は、絶縁被覆された銅線やアルミ線等の導線を、平面的かつ渦巻き状に周回させて形成してある。使用する導線の断面形状は、特に限定されず、円形、楕円形、三角形、四角形などとすることができる。なお、コイル12の形成方法は、上記の方法に限定されず、薄膜法で形成してもよい。薄膜法とは、たとえば、金属箔、導電性ペースト、めっき転写、スパッタ、蒸着、もしくはスクリーン印刷でコイルを形成する方法を意味する。
【0069】
また、図4に示すように、コイル12には、一対のリード端子13が電気的に接続してある。このリード端子13は、コイル12を構成する導線の先端および後端をコイル12の外側に引き出すことで形成してある。なお、リード端子13の引出位置は特に限定されない。
【0070】
第2実施形態では、上記のコイル12が、接着剤や両面テープなどの接着層(図示しない)を介して、第1実施形態で説明した磁性シート2の上に形成してある。接着層の厚みは特に制限されないが、たとえば、10μm~100μmとすることができる。なお、磁性シート2の表面2aおよび裏面2bには、保護層として樹脂製のフィルム(図示しない)が形成してあってもよい。
【0071】
また、コイルモジュール10は、上述した構成要素の他に、位置合わせ用のマグネットを有していてもよい。位置合わせ用のマグネットは、たとえば、コイル12の中心に配置される。さらに、図4では、コイルモジュール10が単一のコイル12を有する場合の構成を図示しているが、コイルモジュール10は、複数のコイル12を組み合わせて構成するコイルアレイ方式のモジュールであってもよい。
【0072】
磁性シート2を有するコイルモジュール10は、図5に示すような非接触給電装置100において好適に用いられる。以下、第2実施形態に係る非接触給電装置100について説明する。
【0073】
非接触給電装置100は、主に、送電側コイルモジュール10aと、受電側コイルモジュール10bとを有する。送電側コイルモジュール10aと、受電側コイルモジュール10bとは、それぞれコイル12a,12bと磁性シート2とを有しており、図4に示すコイルモジュール10に対応している。なお、本実施形態において、磁性シート2は、上記のように送電側と受電側の双方に搭載され得るが、送電側と受電側のいずれか他方にのみ搭載されていてもよい。ただし、磁性シート2は、特に、送電側コイルモジュール10bに利用されることが好ましい。
【0074】
図5は、非接触給電を行うために、送電側コイルモジュール10aと受電側コイルモジュール10bとが位置決めされた状態を示している。図5に示すように、非接触給電時には、送電側のコイル12aと受電側のコイル12bとが、所定間隔で向き合うように配置される。そして、各コイル12a,12bの背面を覆うように磁性シート2が配置される。
【0075】
送電側コイルモジュール10aは、充電器側に組み込まれる。そして、送電側のコイル12aには、図示しないリード端子13を介して、AC/DCコンバータやLC共振回路などを含む送電側内部回路20aが接続してある。さらに、送電側内部回路20aには、電源22が接続してある。上記のような構成を有することで、送電側のコイル12aには、給電時において、所定の周波数を有する交流電圧が供給されるようになっている。送電側のコイル12aに交流電圧が供給されると、コイル12aの周囲に磁界が発生する。
【0076】
一方、受電側コイルモジュール10bは、携帯端末やPCなどの充電対象物に組み込まれる。受電側コイルモジュール10bについても、送電側と同様に、受電側のコイル12bに、図示しないリード端子13を介して、コンバータや共振回路などを含む受電側内部回路20bが接続してある。そして、受電側内部回路20bには、二次電池24が接続してある。送電側で発生した磁界に受電側のコイル12bを近づけると、受電側のコイル12bでは、電磁誘導により交流電流が発生する。受電側で発生した交流電流は、受電側内部回路20bを介して直流電流に変換され、二次電池24の充電に利用される。
【0077】
上記のような非接触給電装置100において、磁性シート2は、主に、磁束の漏れを防止すること、および、磁気経路(磁路)を形成することを目的として配置される。第1実施形態でも説明したように、本発明に係る磁性シート2は、透磁率特性が優れるため、磁性シート2を有する非接触給電装置100では、効率よく磁束を収束させることができ、電力伝送効率が向上する。
【0078】
また、図5に示すような非接触給電装置100では、近年、高出力化や小型化が要求されている。これらの要求を満足するために、特に問題となるのが、給電時の発熱である。第1実施形態でも説明したように、本発明に係る磁性シート2は、磁気損失が少ないため、非接触給電装置100の発熱を低減させることができる。
【0079】
以上のように、本実施形態に係る非接触給電装置100では、優れた磁気特性を有する磁性シート2を有するため、電力伝送効率の向上や小型薄型化が実現できる。
【0080】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。たとえば、非積極給電装置100は、上述した構成要素の他に、充電対象物(すなわち受電側コイル12b)の位置を検出するセンサーや、受電側コイル12bの位置まで送電側コイル12aを移動させる駆動装置などを有していてもよい。
【実施例0081】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0082】
実験1
実験1では、断面におけるZn含有量の比率(ZMIN/ZMAX×100)が90%以上となるように、焼成条件などを調整して、実施例1に係る磁性シートを作製した。実施例1に係る磁性シートは、それぞれ500枚ずつ作製し、実施例1における製品歩留まり、初透磁率μi、磁気損失Pcvを評価した。以下、詳細な実験条件を説明する。
【0083】
(実施例1)
まず、主成分の出発原料と副成分の出発原料とを、所定の配合比で秤量し混合した後、大気雰囲気下において900℃で2時間、仮焼きした。この際、主成分の出発原料は、それぞれ、平均粒径が0.1~3.0μmの粉末を使用し、最終的な主成分組成が、Fe23:53.5mol%、ZnO:10.5mol%、残部MnOとなるように秤量した。また、副成分としては、SiO2、CaCO3、Nb25、およびV25を添加し、最終的な各副成分の含有量が、主成分100重量部に対して、SiO2:0.01重量部、CaO:0.08重量部、Nb25:0.02重量部、V25:0.01重量部となるように原料を調合した。
【0084】
次に、前工程で得られた仮焼き材料をボールミルで14時間粉砕して、平均粒径が1.0~2.0μmの粉砕材料を得た。そして、この粉砕材料をバインダーや溶剤などと共に混錬して、フェライトペーストを得た。そして、このフェライトペーストをキャリアテープ上に塗布してシート化することでグリーンシートを得た。なお、この成形工程では、焼成後の磁性シートの厚みが100μmとなるように、ペーストの塗布量を制御した。
【0085】
次に、上記工程で得られたグリーンシートを、セッタの表面に設置し、これを連続式の焼成炉に投入して焼成した。この際、実施例1では、表1に示す改善条件で焼成を行った。具体的に、実施例1では、焼成時の保持温度を1200~1250℃とし、保持時間を1~2時間とした。また、900℃~保持温度までの昇温過程と、1200~1250℃での温度保持過程と、保持温度から900℃までの降温過程と、において、雰囲気中の最大酸素濃度を0.01vol%~4.0vol%の範囲に制御した。さらに、セッタとしては、気孔率が12~15%で、表面粗さRaが1.1~1.4μmで、純度が99.5%以上の高純度アルミナ基板を用いた。
【0086】
上記のような条件で焼成することで、実施例1に係る磁性シートを得た。なお、作製した磁性シートは、平面視の寸法が100mm×50mmの板形状であった。また、得られた磁性シートについて、以下に示す評価を実施した。
【0087】
EPMAによるライン分析
まず、SEM観察時にEPMAによるライン分析を行い、磁性シートの厚み方向におけるZn成分のばらつき度合いを評価した。具体的に、図1に示すように、磁性シートの断面において、厚み方向と略平行な測定線4(線長は磁性シートの厚みT0と同程度)を引き、その測定線4上で点幅1μmの間隔で成分分析を行い、連続データを得た。この際、加速電圧は15kV、照射電流は50nAとした。また、測定用の試料は、磁性シートをX-Y平面の略中央位置で切断したうえで、樹脂埋めし、その断面を鏡面研磨することで得た。実験1におけるライン分析した結果を、図2に示す。また、ライン分析により得られた連続データを解析し、最小値ZMIN、最大値ZMAX、平均値ZA、標準偏差σ、ZMIN/ZMAX、およびZA/ZTを算出した。その結果を表2に示す。
【0088】
製品歩留まりの算出
実施例1に係る磁性シートの量産性を評価するために、製品歩留まりを算出した。実施例1では、磁性シートを500枚作製したが、その500枚の磁性シートについて、それぞれ外観検査を実施し、変形不良、クラック不良、融着不良などの各種不良の発生有無を評価した。そして、外観検査の結果を基に、作製枚数に対する良品数の割合、すなわち製品歩留まりを算出した。製品歩留まりは、97%以上である場合を合格とし、量産性が良好であると判断する。算出した製品歩留まりを表2に示す。
【0089】
磁気特性の評価
磁気特性を評価するための前段階として、まず、各実施例1~3の磁性シートを、レーザ加工により、外形20mm、内径10mmのトロイダル形状にカットした。そして、この評価用サンプルに、線径0.35mmの導線を10ターン分巻き付け、初透磁率μi(無次元量)と磁気損失Pcv(単位:kW/m3)とを測定した。
【0090】
初透磁率μiは、LCRメータ(Keysight Technologies社製:E4980A)を用いて測定した。測定の条件は、測定温度:室温(25℃)、測定周波数:100kHzとした。また、初透磁率μiの測定は、4回実施し、その平均値を算出した。初透磁率μiは、1800を基準値とし、2000以上を良好、2200以上をさらに良好と判断する。
【0091】
磁気損失Pcvは、BHアナライザ(岩崎通信機株式会社製:SY-8218)を用いて測定した。測定の条件は、測定温度:室温(25℃)、測定周波数:100kHz、励磁磁束密度:200mTとした。磁気損失Pcvについては、8回測定を行い、その平均値を算出した。磁気損失Pcvは、1000kW/m3を基準値とし、800kW/m3以下を良好、600kW/m3以下をさらに良好と判断する。
【0092】
なお、磁気特性の評価では、各実施例および各比較例において500枚ずつ作製した磁性シートのうち、良品として得られた磁性シートを複数枚選定し、評価サンプルとした。磁気特性の評価結果を表2に示す。
【0093】
(比較例1)
比較例1では、実施例1とは異なり表1に示す従来条件1で焼成を行い、比較例1に係る磁性シートを作製した。具体的に、比較例1では、焼成時の保持温度を1300~1350℃とし、保持時間を3~5時間とした。また、焼成雰囲気中の酸素分圧の制御は、温度保持過程と降温過程でのみ行い、その際の最大酸素濃度を0.03vol%~3.0vol%とした。また、セッタとしては、気孔率が30~32%で、表面粗さRaが2.1~2.6μmで、純度が95%程度のアルミナ基板を使用した。比較例1の上記以外の実験条件は、実施例1と共通として、実施例1と同様の評価を実施した。
【0094】
(比較例2)
比較例2では、ダミー部材を使用して焼成を行い(従来条件2)、比較例2に係る磁性シートを作製した。具体的に、比較例2では、グリーンシートの周囲にダミー部材として酸化亜鉛のブロックを設置して、焼成を行った。比較例2における上記以外の焼成条件(保持温度、保持時間、酸素濃度、セッタの特性等)は、比較例1と共通とした。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
評価1
図2において、実線ex1が実施例1のライン分析結果であり、点線ce1が比較例1のライン分析結果、一点鎖線ce2が比較例2のライン分析結果である。比較例1では、表面側およびセッタ側の双方において、Zn含有量が狙い値(10.5mol%)よりも大きく減少している。また、比較例2については、表面側ではダミー部材によりZn含有量の減少がある程度抑制されているものの、セッタ側でZn含有量が大きく減少している。このように、比較例1および2では、厚み方向におけるZn成分のばらつきが大きく、ZMIN/ZMAXが90%未満となった。
【0098】
これに対して、実施例1では、表面側のみならずセッタ側においても、Zn含有量の減少が抑制されており、ZMIN/ZMAXが90%以上である磁性シートが得られた。この実施例1では、焼成後に不良(変形不良、クラック不良、融着不良など)がほとんど発生せず、比較例1および2よりも製品歩留まりが遥かに向上していることが確認できる。この結果から、ZMIN/ZMAXが90%以上である磁性シートは、工業的に安定した製造が可能であることが立証できた。
【0099】
また、表2に示すように、実施例1では、比較例1および2よりも磁気特性が遥かに優れ、初透磁率μiおよび磁気損失Pcvの基準値を満足している。すなわち、ZMIN/ZMAXが90%以上である磁性シートでは、量産性が優れると共に、高い磁気特性が得られることが立証できた。
【0100】
実験2
(実施例11~16)
実験2では、磁性シートの平均厚みT0を変えて、実施例11~16に係る磁性シートを作製した。特に実施例11~12では、実験1と同様にしてドクターブレード法でグリーンシートを成形しており、その際にフェライトペーストの塗布量を変えることで、得られる磁性シートの厚みを調整した。一方、実施例13~16では、押出成形法でグリーンシートを成形し、その際に使用する金型の径(押出径)を変えることで、得られる磁性シートの厚みを調整した。各実施例11~16における平均厚みT0を、表3に示す。なお、実験2における上記以外の実験条件は、実験1と共通しており、実験1と同様の評価を実施した。
【0101】
(比較例11~15)
比較例11~15では、成形条件を変更することで、平均厚みT0を変えた磁性シートを作製した。比較例11~15における平均厚みT0を、表3に示す。なお、比較例11~15の上記以外の実験条件は、実験1の比較例1と共通している。
【0102】
評価2
実験2における実施例11~16および比較例11~15の評価結果を表3に示す。
【0103】
【表3】
【0104】
比較例11~15の実験データを比較すると、特に厚みT0が薄い比較例11および12において、製品歩留まりが悪化し、磁気特性も低下している。この結果から、磁性シートの厚みが薄いほど、焼成後の変形やクラック、および、融着による不良が発生し易くなることが確認できる。また、比較例13では、良品として得られたサンプルについては磁気特性が確保されているものの、製品歩留まりが97%以下であり、量産性が悪い。比較例13のように、シートの厚みが2.0mm以上である場合には、焼成温度等を最適化することで、良品として得られるシートの磁気特性がある程度確保できる。しかしながら、量産性の向上は実現できない。
【0105】
これに対して、本発明の実施例11~16では、T0が1.0mm~2.5mmの場合(実施例14~16)のみならず、T0が50μm~1.0mm以下と薄い場合(実施例11~13)であっても、ZMIN/ZMAXが90%以上であるため、製品歩留まりが高く、安定して製造が可能である。また、実施例11,12は、比較例11,12よりも初透磁率μiが高く、かつ磁気損失Pcvが少ない。この結果から、ZMIN/ZMAXが90%以上である磁性シートでは、厚みを薄くしたとしても、量産性を確保できると共に、高い磁気特性が得られることが確認できた。
【0106】
なお、比較例14および15の結果について補足しておく。比較例14および15では、ZMIN/ZMAXが90%未満であるにもかかわらず、製品歩留まりが高く、磁気特性も高い結果となった。厚みT0が2.5mm超過と厚い場合は、シート状というよりも塊状となり、体積に対する平面の比率が低下するため、ZMIN/ZMAXが90%未満であっても、量産性を維持できると考えられる。
【0107】
実験3
実験3では、主成分の組成比を変えて、実施例21~23に係る磁性シートを作製した。各実施例21~23における主成分の構成を表4に示す。なお、実験3における上記以外の実験条件は、実験1と共通しており、実験1と同様の評価を実施した。
【0108】
評価3
実験3における実施例21~23の評価結果を表4に示す。
【0109】
【表4】
【0110】
表4に示すように、主成分の比率を変えた場合であっても、ZMIN/ZMAXが所定の範囲内に制御してあれば、安定して生産が可能であることが確認できた。なお、実施例21~22を比較すると、ZnOの配合比率が増えると、初透磁率μiが向上するものの、磁気損失Pcvが大きくなることが確認できる。また、ZnOの配合比率が減ると、磁気損失Pcvが低減できるものの、かえって初透磁率μiが低下することが確認できる。Mn-Zn系フェライトの組成としては、Fe23が51~58mol%であって、かつ、ZnOが3~18mol%の範囲にある場合、安定した生産が可能であると共に、優れた磁気特性が得られる。
【符号の説明】
【0111】
2 … 磁性シート
2a … 表面
2b … 裏面
3 … グリーンシート
4 … 測定線
6 … セッタ
6a … セッタ表面
10 … コイルモジュール
12 … コイル
13 … リード端子
100 … 非接触給電装置
10a … 送電側コイルモジュール
10b … 受電側コイルモジュール
20a … 送電側内部回路
20b … 受電側内部回路
22 … 電源
24 … 二次電池
図1
図2
図3
図4
図5