(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028510
(43)【公開日】2024-03-04
(54)【発明の名称】パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物
(51)【国際特許分類】
C08G 65/336 20060101AFI20240226BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
C08G65/336
C09K3/18 102
C09K3/18 104
【審査請求】有
【請求項の数】27
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024005268
(22)【出願日】2024-01-17
(62)【分割の表示】P 2022077207の分割
【原出願日】2016-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2015152468
(32)【優先日】2015-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015181146
(32)【優先日】2015-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015215019
(32)【優先日】2015-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】三橋 尚志
(72)【発明者】
【氏名】高野 真由子
(72)【発明者】
【氏名】並川 敬
(72)【発明者】
【氏名】野村 孝史
(57)【要約】
【課題】撥水性、撥油性、防汚性を有し、かつ、高い摩擦耐久性を有する層を形成することのできる新規なパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の提供。
【解決手段】式(1a)または式(1b):
[式中、各記号は、明細書中の記載と同意義である。]
で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1a)または式(1b):
【化1】
[式中:
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~16のアルキル基を表し;
PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
-(OC
4F
8)
a-(OC
3F
6)
b-(OC
2F
4)
c-(OCF
2)
d-
(式中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0~200の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)
で表される基であり;
Xは、それぞれ独立して、単結合または2~10価の有機基を表し;
αは、それぞれ独立して、1~9の整数であり;
βは、1~9の整数であり;
R
aは、各出現においてそれぞれ独立して、-Z-CR
1
pR
2
qR
3
rを表し;
Zは、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し;
R
1は、各出現においてそれぞれ独立して、R
a’を表し;
R
a’は、R
aと同意義であり;
R
a中、Z基を介して直鎖状に連結されるCは最大で5個であり;
R
2は、各出現においてそれぞれ独立して、-Y-SiR
5
nR
6
3-nを表し;
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;
R
5は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R
6は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
nは、(-Y-SiR
5
nR
6
3-n)単位毎に独立して、1~3の整数を表し;
R
3は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
pは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
qは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
rは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
R
bは、各出現においてそれぞれ独立して、-Y-SiR
5
nR
6
3-nを表し;
R
cは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
kは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
lは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
mは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
ただし、式中、少なくとも1つのqは2または3であるか、あるいは、少なくとも1つのlは2または3である。]
で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【請求項2】
lが3である、請求項1に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【請求項3】
Rfが、炭素数1~16のパーフルオロアルキル基である、請求項1または2に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【請求項4】
PFPEが、以下の式(i)~(iv)のいずれか:
-(OCF2CF2CF2)b- (i)
[式中、bは1~200の整数である。]
-(OCF(CF3)CF2)b- (ii)
[式中、bは1~200の整数である。]
-(OCF2CF2CF2CF2)a-(OCF2CF2CF2)b-(OCF2CF2)c-(OCF2)d- (iii)
[式中、aおよびbは、それぞれ独立して、0~30の整数であり、cおよびdは、それぞれ独立して、1~200の整数であり、添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
または
-(OC2F4-R8)n”- (iv)
[式中、R8は、OC2F4、OC3F6およびOC4F8から選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせであり;
n”は、2~100の整数である。]
で表される基である、請求項1~3のいずれか1項に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【請求項5】
Xが2価の有機基であり、αおよびβが1である、請求項1~4のいずれか1項に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【請求項6】
Xが、それぞれ独立して、-(R31)p’-(Xa)q’-
[式中:
R31は、それぞれ独立して、単結合、-(CH2)s’-(式中、s’は、1~20の整数である)またはo-、m-もしくはp-フェニレン基を表し;
Xaは、-(Xb)l’-(式中、l’は、1~10の整数である)を表し;
Xbは、各出現においてそれぞれ独立して、-O-、-S-、o-、m-もしくはp-フェニレン基、-C(O)O-、-Si(R33)2-、-(Si(R33)2O)m’-Si(R33)2-(式中、m’は1~100の整数である)、-CONR34-、-O-CONR34-、-NR34-および-(CH2)n’-(式中、n’は1~20の整数である)からなる群から選択される基を表し;
R33は、各出現においてそれぞれ独立して、フェニル基、C1-6アルキル基またはC1-6アルコキシ基を表し;
R34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1-6アルキル基を表し;
p’は、0、1または2であり;
q’は、0または1であり;
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1以上であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり;
R31およびXaは、フッ素原子、C1-3アルキル基およびC1-3フルオロアルキル基から選択される1個またはそれ以上の置換基で置換されていてもよい。]
で表される基である、請求項5に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【請求項7】
Xが、それぞれ独立して:
-CH
2O(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3-、
-CH
2O(CH
2)
6-、
-CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2OSi(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2OSi(CH
3)
2OSi(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
2Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
3Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
10Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
20Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2OCF
2CHFOCF
2-、
-CH
2OCF
2CHFOCF
2CF
2-、
-CH
2OCF
2CHFOCF
2CF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CF
2CF
2OCF
2-、
-CH
2OCH
2CF
2CF
2OCF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CF
2CF
2OCF
2CF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CF
2CF
2OCF(CF
3)CF
2OCF
2-、
-CH
2OCH
2CF
2CF
2OCF(CF
3)CF
2OCF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CF
2CF
2OCF(CF
3)CF
2OCF
2CF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CHFCF
2OCF
2-、
-CH
2OCH
2CHFCF
2OCF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CHFCF
2OCF
2CF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CHFCF
2OCF(CF
3)CF
2OCF
2-、
-CH
2OCH
2CHFCF
2OCF(CF
3)CF
2OCF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CHFCF
2OCF(CF
3)CF
2OCF
2CF
2CF
2-
-CH
2OCH
2(CH
2)
7CH
2Si(OCH
3)
2OSi(OCH
3)
2(CH
2)
2Si(OCH
3)
2OSi(OCH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2OCH
2CH
2CH
2Si(OCH
3)
2OSi(OCH
3)
2(CH
2)
3-、
-(CH
2)
2-、
-(CH
2)
3-、
-(CH
2)
4-、
-(CH
2)
5-、
-(CH
2)
6-、
-CONH-(CH
2)
3-、
-CON(CH
3)-(CH
2)
3-、
-CON(Ph)-(CH
2)
3-(式中、Phはフェニルを意味する)、
-CONH-(CH
2)
6-、
-CON(CH
3)-(CH
2)
6-、
-CON(Ph)-(CH
2)
6-(式中、Phはフェニルを意味する)、
-CONH-(CH
2)
2NH(CH
2)
3-、
-CONH-(CH
2)
6NH(CH
2)
3-、
-CH
2O-CONH-(CH
2)
3-、
-CH
2O-CONH-(CH
2)
6-、
-S-(CH
2)
3-、
-(CH
2)
2S(CH
2)
3-、
-CONH-(CH
2)
3Si(CH
3)
2OSi(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CONH-(CH
2)
3Si(CH
3)
2OSi(CH
3)
2OSi(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CONH-(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
2Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CONH-(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
3Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CONH-(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
10Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CONH-(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
20Si(CH
3)
2(CH
2)
2-
-C(O)O-(CH
2)
3-、
-C(O)O-(CH
2)
6-、
-CH
2-O-(CH
2)
3-Si(CH
3)
2 -(CH
2)
2-Si(CH
3)
2-(CH
2)
2-、
-CH
2-O-(CH
2)
3-Si(CH
3)
2 -(CH
2)
2-Si(CH
3)
2-CH(CH
3)-、
-CH
2-O-(CH
2)
3-Si(CH
3)
2 -(CH
2)
2-Si(CH
3)
2-(CH
2)
3-、
-CH
2-O-(CH
2)
3-Si(CH
3)
2 -(CH
2)
2-Si(CH
3)
2-CH(CH
3)-CH
2-、
-OCH
2-、
-O(CH
2)
3-、
-OCFHCF
2-、
【化2】
からなる群から選択される、請求項5または6に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【請求項8】
Xが、それぞれ独立して、3~10価の有機基である、請求項1~4のいずれか1項に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【請求項9】
Xが、それぞれ独立して:
【化3】
[式中、各基において、Tのうち少なくとも1つは、式(1a)および(1b)においてPFPEに結合する以下の基:
-CH
2O(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3-、
-CF
2O(CH
2)
3-、
-(CH
2)
2-、
-(CH
2)
3-、
-(CH
2)
4-、
-CONH-(CH
2)
3-、
-CON(CH
3)-(CH
2)
3-、
-CON(Ph)-(CH
2)
3-(式中、Phはフェニルを意味する)、および
【化4】
を表し、
別のTのうち少なくとも1つは、式(1a)および(1b)において-CR
a
kR
b
lR
c
mに結合する-(CH
2)
n-(nは2~6の整数)であり、残りは、それぞれ独立して、メチル基、フェニル基または炭素数1~6のアルコキシ基を表し、
R
41は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基、炭素数1~6のアルコキシ基または炭素数1~6のアルキル基を表し、
R
42は、それぞれ独立して、水素原子、C
1-6のアルキル基またはC
1-6のアルコキシ基を表す。]
からなる群から選択される、請求項8に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【請求項10】
Yが、C1-6アルキレン基、-(CH2)g’-O-(CH2)h’-(式中、g’は0~6の整数であり、h’は0~6の整数である)、または-フェニレン-(CH2)i’-(式中、i’は、0~6の整数である)である、請求項1~9のいずれか1項に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【請求項11】
Rf-PFPE部の数平均分子量が、500~30,000である、請求項1~10のいずれか1項に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【請求項12】
2,000~32,000の数平均分子量を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の式(1a)および/または式(1b)で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含有する、表面処理剤。
【請求項14】
含フッ素オイル、シリコーンオイル、および触媒から選択される1種またはそれ以上の他の成分をさらに含有する、請求項13に記載の表面処理剤。
【請求項15】
含フッ素オイルが、式(3):
R21-(OC4F8)a’-(OC3F6)b’-(OC2F4)c’-(OCF2)d’-R22
・・・(3)
[式中:
R21は、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~16のアルキル基を表し;
R22は、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~16のアルキル基、フッ素原子または水素原子を表し;
a’、b’、c’およびd’は、ポリマーの主骨格を構成するパーフルオロ(ポリ)エーテルの4種の繰り返し単位数をそれぞれ表し、互いに独立して0以上300以下の整数であって、a’、b’、c’およびd’の和は少なくとも1であり、添字a’、b’、c’またはd’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
で表される1種またはそれ以上の化合物である、請求項14に記載の表面処理剤。
【請求項16】
含フッ素オイルが、式(3a)または(3b):
R21-(OCF2CF2CF2)b’’-R22 ・・・(3a)
R21-(OCF2CF2CF2CF2)a’’-(OCF2CF2CF2)b’’-(OCF2CF2)c’’-(OCF2)d’’-R22 ・・・(3b)
[式中:
R21は、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~16のアルキル基を表し;
R22は、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~16のアルキル基、フッ素原子または水素原子を表し;
式(3a)において、b’’は1以上100以下の整数であり;
式(3b)において、a’’およびb’’は、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、c’’およびd’’は、それぞれ独立して1以上300以下の整数であり;
添字a’’、b’’、c’’またはd’’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
で表される1種またはそれ以上の化合物である、請求項14または15に記載の表面処理剤。
【請求項17】
少なくとも式(3b)で表される1種またはそれ以上の化合物を含む、請求項16に記載の表面処理剤。
【請求項18】
請求項1~12のいずれか1項に記載の式(1a)または式(1b)で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物と、式(3b)で表される化合物との質量比が、4:1~1:4である、請求項16または17に記載の表面処理剤。
【請求項19】
式(3a)で表される化合物が、2,000~8,000の数平均分子量を有する、請求項16~18のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項20】
式(3b)で表される化合物が、2,000~30,000の数平均分子量を有する、請求項16~19のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項21】
式(3b)で表される化合物が、8,000~30,000の数平均分子量を有する、請求項16~20のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項22】
さらに溶媒を含む、請求項13~21のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項23】
防汚性コーティング剤または防水性コーティング剤として使用される、請求項13~22のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項24】
真空蒸着用である、請求項13~23のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項25】
請求項13~24のいずれか1項に記載の表面処理剤を含有するペレット。
【請求項26】
基材と、該基材の表面に、請求項1~12のいずれか1項に記載の化合物または請求項13~24のいずれかに記載の表面処理剤より形成された層とを含む物品。
【請求項27】
前記物品が光学部材である、請求項26に記載の物品。
【請求項28】
前記物品がディスプレイである、請求項26に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の含フッ素シラン化合物は、基材の表面処理に用いると、優れた撥水性、撥油性、防汚性などを提供し得ることが知られている。含フッ素シラン化合物を含む表面処理剤から得られる層(以下、「表面処理層」とも言う)は、いわゆる機能性薄膜として、例えばガラス、プラスチック、繊維、建築資材など種々多様な基材に施されている。
【0003】
そのような含フッ素化合物として、パーフルオロポリエーテル基を分子主鎖に有し、Si原子に結合した加水分解可能な基を分子末端または末端部に有するパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物が知られている(特許文献1~2を参照のこと)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008-534696号公報
【特許文献2】国際公開第97/07155号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
表面処理層には、所望の機能を基材に対して長期に亘って提供するべく、高い耐久性が求められる。パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物を含む表面処理剤から得られる層は、上記のような機能を薄膜でも発揮し得ることから、光透過性ないし透明性が求められるメガネやタッチパネルなどの光学部材に好適に利用されており、とりわけこれらの用途において、摩擦耐久性の一層の向上が要求されている。
【0006】
しかしながら、上記したような従来のパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物を含む表面処理剤から得られる層では、次第に高まる摩擦耐久性向上の要求に応えるには、もはや必ずしも十分とは言えない。
【0007】
本発明は、撥水性、撥油性、防汚性を有し、かつ、高い摩擦耐久性を有する層を形成することのできる新規なパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、加水分解可能な基を有するSi原子を複数有するパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物を用いることにより、表面処理層の摩擦耐久性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の第1の要旨によれば、式(1a)または式(1b):
【化1】
[式中:
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~16のアルキル基を表し;
PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
-(OC
4F
8)
a-(OC
3F
6)
b-(OC
2F
4)
c-(OCF
2)
d-
(式中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0~200の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)
で表される基であり;
Xは、それぞれ独立して、単結合または2~10価の有機基を表し;
αは、それぞれ独立して、1~9の整数であり;
βは、1~9の整数であり;
R
aは、各出現においてそれぞれ独立して、-Z-CR
1
pR
2
qR
3
rを表し;
Zは、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し;
R
1は、各出現においてそれぞれ独立して、R
a’を表し;
R
a’は、R
aと同意義であり;
R
a中、Z基を介して直鎖状に連結されるCは最大で5個であり;
R
2は、各出現においてそれぞれ独立して、-Y-SiR
5
nR
6
3-nを表し;
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;
R
5は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R
6は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
nは、(-Y-SiR
5
nR
6
3-n)単位毎に独立して、1~3の整数を表し;
R
3は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
pは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
qは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
rは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
R
bは、各出現においてそれぞれ独立して、-Y-SiR
5
nR
6
3-nを表し;
R
cは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
kは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
lは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
mは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;
ただし、式中、少なくとも1つのqは2または3であるか、あるいは、少なくとも1つのlは2または3である。]
で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物が提供される。
【0010】
本発明の第2の要旨によれば、上記のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含有する、表面処理剤が提供される。
【0011】
本発明の第3の要旨によれば、上記の表面処理剤を含有するペレットが提供される。
【0012】
本発明の第4の要旨によれば、基材と、該基材の表面に、上記のパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物または上記の表面処理剤より形成された層とを含む物品が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、新規なパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物が提供される。さらに、本発明のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を使用して得られる表面処理剤が提供される。これらを用いることにより、撥水性、撥油性、防汚性を有し、かつ、優れた光耐性を有する表面処理層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の化合物について説明する。
【0015】
本明細書において用いられる場合、「炭化水素基」とは、炭素および水素を含む基であって、炭化水素から1個の水素原子を脱離させた基を意味する。かかる炭化水素基としては、特に限定されるものではないが、1つまたはそれ以上の置換基により置換されていてもよい、炭素数1~20の炭化水素基、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。上記「脂肪族炭化水素基」は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよく、飽和または不飽和のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、1つまたはそれ以上の環構造を含んでいてもよい。尚、かかる炭化水素基は、その末端または分子鎖中に、1つまたはそれ以上のN、O、S、Si、アミド、スルホニル、シロキサン、カルボニル、カルボニルオキシ等を有していてもよい。
【0016】
本明細書において用いられる場合、「炭化水素基」の置換基としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子;1個またはそれ以上のハロゲン原子により置換されていてもよい、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C3-10シクロアルキル基、C3-10不飽和シクロアルキル基、5~10員のヘテロシクリル基、5~10員の不飽和ヘテロシクリル基、C6-10アリール基および5~10員のヘテロアリール基から選択される1個またはそれ以上の基が挙げられる。
【0017】
本明細書において用いられる場合、「有機基」とは、炭素を含有する基を意味する。有機基としては、特に限定されないが、炭化水素基であり得る。また、「2~10価の有機基」とは、炭素を含有する2~10価の基を意味する。かかる2~10価の有機基としては、特に限定されないが、炭化水素基からさらに1~9個の水素原子を脱離させた2~10価の基が挙げられる。例えば、2価の有機基としては、特に限定されるものではないが、炭化水素基からさらに1個の水素原子を脱離させた2価の基が挙げられる。
【0018】
本発明は、式(1a)または式(1b)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基(以下、「PFPE」ともいう)含有シラン化合物を提供する(以下、「本発明のPFPE含有シラン化合物」ともいう)。
【化2】
【0019】
上記式中、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~16のアルキル基を表す。
【0020】
上記1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~16のアルキル基における「炭素数1~16のアルキル基」は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖または分枝鎖の炭素数1~6、特に炭素数1~3のアルキル基であり、より好ましくは直鎖の炭素数1~3のアルキル基である。
【0021】
上記Rfは、好ましくは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されている炭素数1~16のアルキル基であり、より好ましくはCF2H-C1-15フルオロアルキレン基であり、さらに好ましくは炭素数1~16のパーフルオロアルキル基である。
【0022】
該炭素数1~16のパーフルオロアルキル基は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖または分枝鎖の炭素数1~6、特に炭素数1~3のパーフルオロアルキル基であり、より好ましくは直鎖の炭素数1~3のパーフルオロアルキル基、具体的には-CF3、-CF2CF3、または-CF2CF2CF3である。
【0023】
上記式中、PFPEは、-(OC4F8)a-(OC3F6)b-(OC2F4)c-(OCF2)d-であり、パーフルオロ(ポリ)エーテル基に該当する。ここに、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0または1以上の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1である。好ましくは、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上200以下の整数、例えば1~200の整数であり、より好ましくは、それぞれ独立して0以上100以下の整数、例えば1~200の整数である。また、好ましくは、a、b、cおよびdの和は5以上であり、より好ましくは10以上、例えば10以上200以下である。また、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。これら繰り返し単位のうち、-(OC4F8)-は、-(OCF2CF2CF2CF2)-、-(OCF(CF3)CF2CF2)-、-(OCF2CF(CF3)CF2)-、-(OCF2CF2CF(CF3))-、-(OC(CF3)2CF2)-、-(OCF2C(CF3)2)-、-(OCF(CF3)CF(CF3))-、-(OCF(C2F5)CF2)-および-(OCF2CF(C2F5))-のいずれであってもよいが、好ましくは-(OCF2CF2CF2CF2)-である。-(OC3F6)-は、-(OCF2CF2CF2)-、-(OCF(CF3)CF2)-および-(OCF2CF(CF3))-のいずれであってもよいが、好ましくは-(OCF2CF2CF2)-である。また、-(OC2F4)-は、-(OCF2CF2)-および-(OCF(CF3))-のいずれであってもよいが、好ましくは-(OCF2CF2)-である。
【0024】
一の態様において、PFPEは、-(OC3F6)b-(式中、bは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)であり、好ましくは、-(OCF2CF2CF2)b-(式中、bは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)または-(OCF(CF3)CF2)b-(式中、bは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)であり、より好ましくは-(OCF2CF2CF2)b-(式中、bは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)である。
【0025】
別の態様において、PFPEは、-(OC4F8)a-(OC3F6)b-(OC2F4)c-(OCF2)d-(式中、aおよびbは、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、cおよびdは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数であり、添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)であり、好ましくは-(OCF2CF2CF2CF2)a-(OCF2CF2CF2)b-(OCF2CF2)c-(OCF2)d-である。一の態様において、PFPEは、-(OC2F4)c-(OCF2)d-(式中、cおよびdは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数であり、添字cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)であってもよい。
【0026】
一の態様において、上記-(OC4F8)a-(OC3F6)b-(OC2F4)c-(OCF2)d-において、dに対するcの比(以下、「c/d比」という)の下限は、0.2、好ましくは0.3であり、c/d比の上限は、1.5、好ましくは1.3、より好ましくは1.1、さらに好ましくは0.9であり得る。c/d比を1.5以下にすることにより、この化合物から得られる表面処理層の滑り性および摩擦耐久性がより向上する。c/d比がより小さいほど、表面処理層の滑り性および摩擦耐久性はより向上する。一方、c/d比を0.2以上にすることにより、化合物の安定性をより高めることができる。c/d比がより大きいほど、化合物の安定性はより向上する。
【0027】
さらに別の態様において、PFPEは、-(OC2F4-R8)n”-で表される基である。式中、R8は、OC2F4、OC3F6およびOC4F8から選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせである。OC2F4、OC3F6およびOC4F8から独立して選択される2または3つの基の組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば-OC2F4OC3F6-、-OC2F4OC4F8-、-OC3F6OC2F4-、-OC3F6OC3F6-、-OC3F6OC4F8-、-OC4F8OC4F8-、-OC4F8OC3F6-、-OC4F8OC2F4-、-OC2F4OC2F4OC3F6-、-OC2F4OC2F4OC4F8-、-OC2F4OC3F6OC2F4-、-OC2F4OC3F6OC3F6-、-OC2F4OC4F8OC2F4-、-OC3F6OC2F4OC2F4-、-OC3F6OC2F4OC3F6-、-OC3F6OC3F6OC2F4-、および-OC4F8OC2F4OC2F4-等が挙げられる。上記n”は、2~100の整数、好ましくは2~50の整数である。上記式中、OC2F4、OC3F6およびOC4F8は、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよく、好ましくは直鎖である。この態様において、PFPEは、好ましくは、-(OC2F4-OC3F6)n”-または-(OC2F4-OC4F8)n”-である。
【0028】
上記式中、Xは、それぞれ独立して、単結合または2~10価の有機基を表す。当該Xは、式(1a)および(1b)で表される化合物において、主に撥水性および表面滑り性等を提供するパーフルオロポリエーテル部(即ち、Rf-PFPE部または-PFPE-部)と、基材との結合能を提供する部(即ち、αを付して括弧でくくられた基)とを連結するリンカーと解される。従って、当該Xは、式(1a)および(1b)で表される化合物が安定に存在し得るものであれば、いずれの有機基であってもよい。
【0029】
上記式中、αは1~9の整数であり、βは1~9の整数である。これらαおよびβは、Xの価数に応じて変化し得る。式(1a)においては、αおよびβの和は、Xの価数と同じである。例えば、Xが10価の有機基である場合、αおよびβの和は10であり、例えばαが9かつβが1、αが5かつβが5、またはαが1かつβが9となり得る。また、Xが2価の有機基である場合、αおよびβは1である。式(1b)においては、αはXの価数から1を引いた値である。
【0030】
上記Xは、好ましくは2~7価であり、より好ましくは2~4価であり、さらに好ましくは2価の有機基である。
【0031】
一の態様において、Xは2~4価の有機基であり、αは1~3であり、βは1である。
【0032】
別の態様において、Xは2価の有機基であり、αは1であり、βは1である。この場合、式(1a)および(1b)は、下記式(1a’)および(1b’)で表される。
【化3】
【0033】
上記Xの例としては、特に限定するものではないが、例えば、下記式:
-(R31)p’-(Xa)q’-
[式中:
R31は、それぞれ独立して、単結合、-(CH2)s’-またはo-、m-もしくはp-フェニレン基を表し、好ましくは-(CH2)s’-であり、
s’は、1~20の整数、好ましくは1~6の整数、より好ましくは1~3の整数、さらにより好ましくは1または2であり、
Xaは、-(Xb)l’-を表し、
Xbは、各出現においてそれぞれ独立して、-O-、-S-、o-、m-もしくはp-フェニレン基、-C(O)O-、-Si(R33)2-、-(Si(R33)2O)m’-Si(R33)2-、-CONR34-、-O-CONR34-、-NR34-および-(CH2)n’-からなる群から選択される基を表し、
R33は、各出現においてそれぞれ独立して、フェニル基、C1-6アルキル基またはC1-6アルコキシ基を表し、好ましくはフェニル基またはC1-6アルキル基であり、より好ましくはメチル基であり、
R34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1-6アルキル基(好ましくはメチル基)を表し、
m’は、各出現において、それぞれ独立して、1~100の整数、好ましくは1~20の整数であり、
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1~20の整数、好ましくは1~6の整数、より好ましくは1~3の整数であり、
l’は、1~10の整数、好ましくは1~5の整数、より好ましくは1~3の整数であり、
p’は、0、1または2であり、
q’は、0または1であり、
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は少なくとも1であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である]
で表される2価の基が挙げられる。ここに、R31およびXa(典型的にはR31およびXaの水素原子)は、フッ素原子、C1-3アルキル基およびC1-3フルオロアルキル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0034】
好ましくは、上記Xは、
C1-20アルキレン基、
-R31-Xc-R31-、または
-Xd-R31-
[式中、R31は、上記と同意義である。]
であり得る。
【0035】
より好ましくは、上記Xは、
C1-20アルキレン基、
-(CH2)s’-Xc-、
-(CH2)s’-Xc-(CH2)t’-
-Xd-、または
-Xd-(CH2)t’-
[式中、s’およびt’は、上記と同意義である。]
である。
【0036】
上記式中、Xcは、
-O-、
-S-、
-C(O)O-、
-CONR34-、
-O-CONR34-、
-Si(R33)2-、
-(Si(R33)2O)m’-Si(R33)2-、
-O-(CH2)u’-(Si(R33)2O)m’-Si(R33)2-、
-O-(CH2)u’-Si(R33)2-O-Si(R33)2-CH2CH2-Si(R33)2-O-Si(R33)2-、
-O-(CH2)u’-Si(OCH3)2OSi(OCH3)2-、
-CONR34-(CH2)u’-(Si(R33)2O)m’-Si(R33)2-、
-CONR34-(CH2)u’-N(R34)-、または
-CONR34-(o-、m-またはp-フェニレン)-Si(R33)2-
[式中、R33、R34およびm’は、上記と同意義であり、
u’は1~20の整数、好ましくは2~6の整数、より好ましくは2~3の整数である。]を表す。Xcは、好ましくは-O-である。
【0037】
上記式中、Xdは、
-S-、
-C(O)O-、
-CONR34-、
-CONR34-(CH2)u’-(Si(R33)2O)m’-Si(R33)2-、
-CONR34-(CH2)u’-N(R34)-、または
-CONR34-(o-、m-またはp-フェニレン)-Si(R33)2-
[式中、各記号は、上記と同意義である。]
を表す。
【0038】
より好ましくは、上記Xは、
C1-20アルキレン基、
-(CH2)s’-Xc-(CH2)t’-、または
-Xd-(CH2)t’-
[式中、各記号は、上記と同意義である。]
であり得る。
【0039】
さらにより好ましくは、上記Xは、
C1-20アルキレン基、
-(CH2)s’-O-(CH2)t’-、
-(CH2)s’-(Si(R33)2O)m’-Si(R33)2-(CH2)t’-、
-(CH2)s’-O-(CH2)u’-(Si(R33)2O)m’-Si(R33)2-(CH2)t’-、または
-(CH2)s’-O-(CH2)t’-Si(R33)2-(CH2)u’-Si(R33)2-(CvH2v)-
[式中、R33、m’、s’、t’およびu’は、上記と同意義であり、vは1~20の整数、好ましくは2~6の整数、より好ましくは2~3の整数である。]
である。
【0040】
上記式中、-(CvH2v)-は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、例えば、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH(CH3)-、-CH(CH3)CH2-であり得る。
【0041】
上記X基は、フッ素原子、C1-3アルキル基およびC1-3フルオロアルキル基(好ましくは、C1-3パーフルオロアルキル基)から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0042】
別の態様において、X基としては、例えば下記の基が挙げられる:
【化4】
【化5】
[式中、R
41は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基、炭素数1~6のアルキル基、またはC
1-6アルコキシ基、好ましくはメチル基であり;
Dは、
-CH
2O(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3-、
-CF
2O(CH
2)
3-、
-(CH
2)
2-、
-(CH
2)
3-、
-(CH
2)
4-、
-CONH-(CH
2)
3-、
-CON(CH
3)-(CH
2)
3-、
-CON(Ph)-(CH
2)
3-(式中、Phはフェニルを意味する)、および
【化6】
(式中、R
42は、それぞれ独立して、水素原子、C
1-6のアルキル基またはC
1-6のアルコキシ基、好ましくはメチル基またはメトキシ基、より好ましくはメチル基を表す。)
から選択される基であり、
Eは、-(CH
2)
n-(nは2~6の整数)であり、
Dは、分子主鎖のPFPEに結合し、Eは、PFPEと反対の基に結合する。]
【0043】
上記Xの具体的な例としては、例えば:
-CH
2O(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3-、
-CH
2O(CH
2)
6-、
-CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2OSi(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2OSi(CH
3)
2OSi(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
2Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
3Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
10Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
20Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2OCF
2CHFOCF
2-、
-CH
2OCF
2CHFOCF
2CF
2-、
-CH
2OCF
2CHFOCF
2CF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CF
2CF
2OCF
2-、
-CH
2OCH
2CF
2CF
2OCF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CF
2CF
2OCF
2CF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CF
2CF
2OCF(CF
3)CF
2OCF
2-、
-CH
2OCH
2CF
2CF
2OCF(CF
3)CF
2OCF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CF
2CF
2OCF(CF
3)CF
2OCF
2CF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CHFCF
2OCF
2-、
-CH
2OCH
2CHFCF
2OCF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CHFCF
2OCF
2CF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CHFCF
2OCF(CF
3)CF
2OCF
2-、
-CH
2OCH
2CHFCF
2OCF(CF
3)CF
2OCF
2CF
2-、
-CH
2OCH
2CHFCF
2OCF(CF
3)CF
2OCF
2CF
2CF
2-
-CH
2OCH
2(CH
2)
7CH
2Si(OCH
3)
2OSi(OCH
3)
2(CH
2)
2Si(OCH
3)
2OSi(OCH
3)
2(CH
2)
2-、
-CH
2OCH
2CH
2CH
2Si(OCH
3)
2OSi(OCH
3)
2(CH
2)
3-、
-(CH
2)
2-、
-(CH
2)
3-、
-(CH
2)
4-、
-(CH
2)
5-、
-(CH
2)
6-、
-CONH-(CH
2)
3-、
-CON(CH
3)-(CH
2)
3-、
-CON(Ph)-(CH
2)
3-(式中、Phはフェニルを意味する)、
-CONH-(CH
2)
6-、
-CON(CH
3)-(CH
2)
6-、
-CON(Ph)-(CH
2)
6-(式中、Phはフェニルを意味する)、
-CONH-(CH
2)
2NH(CH
2)
3-、
-CONH-(CH
2)
6NH(CH
2)
3-、
-CH
2O-CONH-(CH
2)
3-、
-CH
2O-CONH-(CH
2)
6-、
-S-(CH
2)
3-、
-(CH
2)
2S(CH
2)
3-、
-CONH-(CH
2)
3Si(CH
3)
2OSi(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CONH-(CH
2)
3Si(CH
3)
2OSi(CH
3)
2OSi(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CONH-(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
2Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CONH-(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
3Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CONH-(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
10Si(CH
3)
2(CH
2)
2-、
-CONH-(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
20Si(CH
3)
2(CH
2)
2-
-C(O)O-(CH
2)
3-、
-C(O)O-(CH
2)
6-、
-CH
2-O-(CH
2)
3-Si(CH
3)
2-(CH
2)
2-Si(CH
3)
2-(CH
2)
2-、
-CH
2-O-(CH
2)
3-Si(CH
3)
2-(CH
2)
2-Si(CH
3)
2-CH(CH
3)-、
-CH
2-O-(CH
2)
3-Si(CH
3)
2-(CH
2)
2-Si(CH
3)
2-(CH
2)
3-、
-CH
2-O-(CH
2)
3-Si(CH
3)
2-(CH
2)
2-Si(CH
3)
2-CH(CH
3)-CH
2-、
-OCH
2-、
-O(CH
2)
3-、
-OCFHCF
2-、
【化7】
などが挙げられる。
【0044】
別の態様において、Xは、それぞれ独立して、3~10価の有機基であり得る。
【0045】
この態様において、X基の例としては、下記の基が挙げられる:
【化8】
[式中、
R
41は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基、炭素数1~6のアルキル基、またはC
1-6アルコキシ基好ましくはメチル基であり;
各X基において、Tのうち任意のいくつかは、式(1a)および(1b)の分子主鎖のPFPEに結合する以下の基:
-CH
2O(CH
2)
2-、
-CH
2O(CH
2)
3-、
-CF
2O(CH
2)
3-、
-(CH
2)
2-、
-(CH
2)
3-、
-(CH
2)
4-、
-CONH-(CH
2)
3-、
-CON(CH
3)-(CH
2)
3-、
-CON(Ph)-(CH
2)
3-(式中、Phはフェニルを意味する)、または
【化9】
[式中、R
42は、それぞれ独立して、水素原子、C
1-6のアルキル基またはC
1-6のアルコキシ基、好ましくはメチル基またはメトキシ基、より好ましくはメチル基を表す。]
であり、別のTのいくつかは、分子主鎖のPFPEと反対の基(即ち、式(1a)および(1b)において-CR
a
kR
b
lR
c
m)に結合する-(CH
2)
n”-(n”は2~6の整数)であり、存在する場合、残りは、それぞれ独立して、メチル基、フェニル基またはC
1-6アルコキシ基である。
【0046】
上記式中、Raは、各出現においてそれぞれ独立して、-Z-CR1
pR2
qR3
rを表す。
【0047】
式中、Zは、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表す。
【0048】
上記Zは、好ましくは、C1-6アルキレン基、-(CH2)g-O-(CH2)h-(式中、gは、0~6の整数、例えば1~6の整数であり、hは、0~6の整数、例えば1~6の整数である)または、-フェニレン-(CH2)i-(式中、iは、0~6の整数である)であり、より好ましくはC1-3アルキレン基である。これらの基は、例えば、フッ素原子、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、およびC2-6アルキニル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0049】
式中、R1は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra’を表す。Ra’は、Raと同意義である。
【0050】
Ra中、Z基を介して直鎖状に連結されるCは最大で5個である。即ち、上記Raにおいて、R1が少なくとも1つ存在する場合、Ra中にZ基を介して直鎖状に連結されるC原子が2個以上存在するが、かかるZ基を介して直鎖状に連結されるC原子の数は最大で5個である。なお、「Ra中のZ基を介して直鎖状に連結されるC原子の数」とは、Ra中において直鎖状に連結される-Z-C-の繰り返し数と等しくなる。
【0051】
例えば、下記にR
a中においてZ基を介してC原子が連結された一例を示す。
【化10】
【0052】
上記式において、*は、主鎖のCに結合する部位を意味し、…は、ZC以外の所定の基が結合していること、即ち、C原子の3本の結合手がすべて…である場合、ZCの繰り返しの終了箇所を意味する。また、Cの右肩の数字は、*から数えたZ基を介して直鎖状に連結されたCの出現数を意味する。即ち、C2でZC繰り返しが終了している鎖は「Ra中のZ基を介して直鎖状に連結されるC原子の数」が2個であり、同様に、C3、C4およびC5でZC繰り返しが終了している鎖は、それぞれ、「Ra中のZ基を介して直鎖状に連結されるC原子の数」が3、4および5個である。なお、上記の式から明らかなように、Ra中には、ZC鎖が複数存在するが、これらはすべて同じ長さである必要はなく、それぞれ任意の長さであってもよい。
【0053】
好ましい態様において、下記に示すように、「R
a中のZ基を介して直鎖状に連結されるC原子の数」は、すべての鎖において、1個(左式)または2個(右式)である。
【化11】
【0054】
一の態様において、Ra中のZ基を介して直鎖状に連結されるC原子の数は1個または2個、好ましくは1個である。
【0055】
式中、R2は、-Y-SiR5
nR6
3-nを表す。
【0056】
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表す。
【0057】
好ましい態様において、Yは、C1-6アルキレン基、-(CH2)g’-O-(CH2)h’-(式中、g’は、0~6の整数、例えば1~6の整数であり、h’は、0~6の整数、例えば1~6の整数である)、または-フェニレン-(CH2)i’-(式中、i’は、0~6の整数である)である。これらの基は、例えば、フッ素原子、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、およびC2-6アルキニル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0058】
一の態様において、Yは、C1-6アルキレン基、-O-(CH2)h’-または-フェニレン-(CH2)i’-であり得る。Yが上記の基である場合、光耐性、特に紫外線耐性がより高くなり得る。
【0059】
上記R5は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表す。
【0060】
上記「加水分解可能な基」とは、本明細書において用いられる場合、加水分解反応を受け得る基を意味する。加水分解可能な基の例としては、-OR、-OCOR、-O-N=C(R)2、-N(R)2、-NHR、ハロゲン(これら式中、Rは、置換または非置換の炭素数1~4のアルキル基を示す)などが挙げられ、好ましくは-OR(アルコキシ基)である。Rの例には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基などの非置換アルキル基;クロロメチル基などの置換アルキル基が含まれる。それらの中でも、アルキル基、特に非置換アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってよい。
【0061】
好ましくは、R5は、-OR(式中、Rは、置換または非置換のC1-3アルキル基、より好ましくはエチル基またはメチル基、特にメチル基を表す)である。
【0062】
上記R6は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。該低級アルキル基は、好ましくは炭素数1~20のアルキル基、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基、さらに好ましくはメチル基である。
【0063】
nは、(-Y-SiR5
nR6
3-n)単位毎に独立して、1~3の整数を表し、好ましくは2または3、より好ましくは3である。
【0064】
上記R3は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。該低級アルキル基は、好ましくは炭素数1~20のアルキル基、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基、さらに好ましくはメチル基である。
【0065】
式中、pは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;qは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;rは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数である。ただし、p、qおよびrの和は3である。
【0066】
好ましい態様において、Ra中の末端のRa’(Ra’が存在しない場合、Ra)において、上記qは、好ましくは2以上、例えば2または3であり、より好ましくは3である。
【0067】
上記式中、Rbは、各出現においてそれぞれ独立して、-Y-SiR5
nR6
3-nを表す。ここに、Y、R5、R6およびnは、上記R2における記載と同意義である。
【0068】
上記式中、Rcは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。該低級アルキル基は、好ましくは炭素数1~20のアルキル基、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基、さらに好ましくはメチル基である。
【0069】
式中、kは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;lは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数であり;mは、各出現においてそれぞれ独立して、0~3の整数である。ただし、k、lおよびmの和は3である。
【0070】
一の態様において、少なくとも1つのkは2または3であり、好ましくは3である。
【0071】
一の態様において、kは2または3であり、好ましくは3である。
【0072】
一の態様において、lは2または3であり、好ましくは3である。
【0073】
上記式(1a)および(1b)中、少なくとも1つのqは2または3であるか、あるいは、少なくとも1つのlは2または3である。即ち、式中、少なくとも2つの-Y-SiR5
nR6
3-n基が存在する。
【0074】
上記式(1a)または式(1b)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物において、Rf-PFPE部分の平均分子量は、特に限定されるものではないが、500~30,000、好ましくは1,500~30,000、より好ましくは2,000~10,000である。
【0075】
上記式(1a)または式(1b)で表される本発明のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物は、特に限定されるものではないが、5×102~1×105の平均分子量を有し得る。かかる範囲のなかでも、2,000~32,000、より好ましくは2,500~12,000の平均分子量を有することが、摩擦耐久性の観点から好ましい。なお、本発明において「平均分子量」は数平均分子量を言い、「平均分子量」は、19F-NMRにより測定される値とする。
【0076】
式(1a)または式(1b)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物は、公知の方法を組み合わせることにより製造することができる。例えば、Xが2価である式(1a’)で表される化合物は、限定するものではないが、以下のようにして製造することができる。
【0077】
HO-X-C(YOH)3(式中、XおよびYは、それぞれ独立して、2価の有機基である。)で表される多価アルコールに、二重結合を含有する基(好ましくはアリル)、およびハロゲン(好ましくはブロモ)を導入して、Hal-X-C(Y-O-R-CH=CH2)3(式中、Halはハロゲン、例えばBrであり、Rは二価の有機基、例えばアルキレン基である。)で表される二重結合含有ハロゲン化物を得る。次いで、末端のハロゲンと、RPFPE-OH(式中、RPFPEは、パーフルオロポリエーテル基含有基である。)で表されるパーフルオロポリエーテル基含有アルコールとを反応させて、RPFPE-O-X-C(Y-O-R-CH=CH2)3を得る。次いで、末端の-CH=CH2と、HSiCl3およびアルコールまたはHSiR5
3と反応させて、RPFPE-O-X-C(Y-O-R-CH2-CH2-SiR5
3)3を得ることができる。
【0078】
本発明のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を製造する際の反応条件は、当業者であれば適宜好ましい範囲に調整することが可能である。
【0079】
次に、本発明の表面処理剤について説明する。
【0080】
本発明の表面処理剤は、式(1a)または式(1b)で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含有する。
【0081】
本発明の表面処理剤は、撥水性、撥油性、防汚性、表面滑り性、摩擦耐久性を基材に対して付与することができ、特に限定されるものではないが、防汚性コーティング剤または防水性コーティング剤として好適に使用され得る。
【0082】
一の態様において、本発明の表面処理剤に含まれる式(1a)または式(1b)で表される化合物は、Xが2価の有機基であり、αおよびβが1である化合物である。
【0083】
一の態様において、本発明の表面処理剤に含まれる式(1a)または式(1b)で表される化合物は、lが3であり、nが3である。
【0084】
一の態様において、本発明の表面処理剤に含まれるパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物は、式(1a)で表される。
【0085】
上記表面処理剤は、式(1a)または式(1b)で表される化合物に加え、他の成分を含んでいてもよい。かかる他の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、含フッ素オイルとして理解され得る(非反応性の)フルオロポリエーテル化合物、好ましくはパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物(以下、「含フッ素オイル」と言う)、シリコーンオイルとして理解され得る(非反応性の)シリコーン化合物(以下、「シリコーンオイル」と言う)、触媒などが挙げられる。
【0086】
上記含フッ素オイルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の一般式(3)で表される化合物(パーフルオロ(ポリ)エーテル化合物)が挙げられる。
R21-(OC4F8)a’-(OC3F6)b’-(OC2F4)c’-(OCF2)d’-R22 ・・・(3)
式中、R21は、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1-16のアルキル基(好ましくは、C1-16のパーフルオロアルキル基)を表し、R22は、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1-16のアルキル基(好ましくは、C1-16のパーフルオロアルキル基)、フッ素原子または水素原子を表し、R21およびR22は、より好ましくは、それぞれ独立して、C1-3のパーフルオロアルキル基である。
a’、b’、c’およびd’は、ポリマーの主骨格を構成するパーフルオロ(ポリ)エーテルの4種の繰り返し単位数をそれぞれ表し、互いに独立して0以上300以下の整数であって、a’、b’、c’およびd’の和は少なくとも1、好ましくは1~300、より好ましくは20~300である。添字a’、b’、c’またはd’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。これら繰り返し単位のうち、-(OC4F8)-は、-(OCF2CF2CF2CF2)-、-(OCF(CF3)CF2CF2)-、-(OCF2CF(CF3)CF2)-、-(OCF2CF2CF(CF3))-、-(OC(CF3)2CF2)-、-(OCF2C(CF3)2)-、-(OCF(CF3)CF(CF3))-、-(OCF(C2F5)CF2)-および-(OCF2CF(C2F5))-のいずれであってもよいが、好ましくは-(OCF2CF2CF2CF2)-である。-(OC3F6)-は、-(OCF2CF2CF2)-、-(OCF(CF3)CF2)-および-(OCF2CF(CF3))-のいずれであってもよく、好ましくは-(OCF2CF2CF2)-である。-(OC2F4)-は、-(OCF2CF2)-および-(OCF(CF3))-のいずれであってもよいが、好ましくは-(OCF2CF2)-である。
【0087】
上記一般式(3)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物の例として、以下の一般式(3a)および(3b)のいずれかで示される化合物(1種または2種以上の混合物であってよい)が挙げられる。
R21-(OCF2CF2CF2)b’’-R22 ・・・(3a)
R21-(OCF2CF2CF2CF2)a’’-(OCF2CF2CF2)b’’-(OCF2CF2)c’’-(OCF2)d’’-R22 ・・・(3b)
これら式中、R21およびR22は上記の通りであり;式(3a)において、b’’は1以上100以下の整数であり;式(3b)において、a’’およびb’’は、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、c’’およびd’’はそれぞれ独立して1以上300以下の整数である。添字a’’、b’’、c’’、d’’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。
【0088】
上記含フッ素オイルは、1,000~30,000の平均分子量を有していてよい。これにより、高い表面滑り性を得ることができる。
【0089】
本発明の表面処理剤中、含フッ素オイルは、上記本発明のPFPE含有シラン化合物の合計100質量部(2種以上の場合にはこれらの合計、以下も同様)に対して、例えば0~500質量部、好ましくは0~400質量部、より好ましくは25~400質量部で含まれ得る。
【0090】
一般式(3a)で示される化合物および一般式(3b)で示される化合物は、それぞれ単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。一般式(3a)で示される化合物よりも、一般式(3b)で示される化合物を用いるほうが、より高い表面滑り性が得られるので好ましい。これらを組み合わせて用いる場合、一般式(3a)で表される化合物と、一般式(3b)で表される化合物との質量比は、1:1~1:30が好ましく、1:1~1:10がより好ましい。かかる質量比によれば、表面滑り性と摩擦耐久性のバランスに優れた表面処理層を得ることができる。
【0091】
一の態様において、含フッ素オイルは、一般式(3b)で表される1種またはそれ以上の化合物を含む。かかる態様において、表面処理剤中の式(1a)または式(1b)で表される化合物と、式(3b)で表される化合物との質量比は、4:1~1:4であることが好ましい。
【0092】
一の好ましい態様において、本発明の表面処理剤は、PFPEが-(OCF2CF2CF2)b-(bは1~200の整数である)である式(1a)または式(1b)で表される化合物、および式(3b)で表される化合物を含む。かかる表面処理剤を用いて、湿潤被覆法または真空蒸着法、好ましくは真空蒸着法により表面処理層を形成することにより、優れた表面滑り性と摩擦耐久性を得ることができる。
【0093】
一のより好ましい態様において、本発明の表面処理剤は、PFPEが-(OC4F8)a-(OC3F6)b-(OC2F4)c-(OCF2)d-(式中、aおよびbは、それぞれ独立して0以上30以下、好ましくは0以上10以下の整数であり、cおよびdは、それぞれ独立して1以上200以下の整数であり、a、b、cおよびdの和は、10以上200以下の整数である。添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)で表される化合物、および式(3b)で表される化合物を含む。かかる表面処理剤を用いて、湿潤被覆法または真空蒸着法、好ましくは真空蒸着により表面処理層を形成することにより、より優れた表面滑り性と摩擦耐久性を得ることができる。
【0094】
これらの態様において、式(3a)で表される化合物の数平均分子量は、2,000~8,000であることが好ましい。
【0095】
これらの態様において、式(3b)で表される化合物の数平均分子量は、2,000~30,000であることが好ましい。式(3b)で表される化合物の数平均分子量は、乾燥被覆法、例えば真空蒸着法により表面処理層を形成する場合には、8,000~30,000であることが好ましく、湿潤被覆法、例えばスプレー処理により表面処理層を形成する場合には、2,000~10,000、特に3,000~5,000であることが好ましい。
【0096】
好ましい態様において、真空蒸着法により表面処理層を形成する場合には、式(1a)または式(1b)で表される化合物の平均分子量よりも、含フッ素オイルの平均分子量を大きくしてもよい。このような式(1a)または式(1b)で表される化合物および含フッ素オイルの平均分子量とすることにより、より優れた表面滑り性と摩擦耐久性を得ることができる。
【0097】
また、別の観点から、含フッ素オイルは、一般式Rf’-F(式中、Rf’はC5-16のパーフルオロアルキル基である。)で表される化合物であってよい。Rf’-Fで表される化合物は、RfがC1-16のパーフルオロアルキル基である上記式(1a)または式(1b)で表される化合物と高い親和性が得られる点で好ましい。
【0098】
含フッ素オイルは、表面処理層の表面滑り性を向上させるのに寄与する。
【0099】
上記シリコーンオイルとしては、例えばシロキサン結合が2,000以下の直鎖状または環状のシリコーンオイルを用い得る。直鎖状のシリコーンオイルは、いわゆるストレートシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルであってよい。ストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルが挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、ストレートシリコーンオイルを、アルキル、アラルキル、ポリエーテル、高級脂肪酸エステル、フルオロアルキル、アミノ、エポキシ、カルボキシル、アルコールなどにより変性したものが挙げられる。環状のシリコーンオイルは、例えば環状ジメチルシロキサンオイルなどが挙げられる。
【0100】
本発明の表面処理剤中、かかるシリコーンオイルは、上記本発明のPFPE含有シラン化合物の合計100質量部(2種以上の場合にはこれらの合計、以下も同様)に対して、例えば0~300質量部、好ましくは50~200質量部で含まれ得る。
【0101】
シリコーンオイルは、表面処理層の表面滑り性を向上させるのに寄与する。
【0102】
上記触媒としては、酸(例えば酢酸、トリフルオロ酢酸等)、塩基(例えばアンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン等)、遷移金属(例えばTi、Ni、Sn等)等が挙げられる。
【0103】
触媒は、本発明のPFPE含有シラン化合物の加水分解および脱水縮合を促進し、表面処理層の形成を促進する。
【0104】
他の成分としては、上記以外に、例えば、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン等も挙げられる。
【0105】
本発明の表面処理剤は、多孔質物質、例えば多孔質のセラミック材料、金属繊維、例えばスチールウールを綿状に固めたものに含浸させて、ペレットとすることができる。当該ペレットは、例えば、真空蒸着に用いることができる。
【0106】
次に、本発明の物品について説明する。
【0107】
本発明の物品は、基材と、該基材の表面に本発明のPFPE含有シラン化合物または表面処理剤(以下、これらを代表して単に「本発明の表面処理剤」と言う)より形成された層(表面処理層)とを含む。この物品は、例えば以下のようにして製造できる。
【0108】
まず、基材を準備する。本発明に使用可能な基材は、例えばガラス、樹脂(天然または合成樹脂、例えば一般的なプラスチック材料であってよく、板状、フィルム、その他の形態であってよい)、金属(アルミニウム、銅、鉄等の金属単体または合金等の複合体であってよい)、セラミックス、半導体(シリコン、ゲルマニウム等)、繊維(織物、不織布等)、毛皮、皮革、木材、陶磁器、石材等、建築部材等、任意の適切な材料で構成され得る。
【0109】
例えば、製造すべき物品が光学部材である場合、基材の表面を構成する材料は、光学部材用材料、例えばガラスまたは透明プラスチックなどであってよい。また、製造すべき物品が光学部材である場合、基材の表面(最外層)に何らかの層(または膜)、例えばハードコート層や反射防止層などが形成されていてもよい。反射防止層には、単層反射防止層および多層反射防止層のいずれを使用してもよい。反射防止層に使用可能な無機物の例としては、SiO2、SiO、ZrO2、TiO2、TiO、Ti2O3、Ti2O5、Al2O3、Ta2O5、CeO2、MgO、Y2O3、SnO2、MgF2、WO3などが挙げられる。これらの無機物は、単独で、またはこれらの2種以上を組み合わせて(例えば混合物として)使用してもよい。多層反射防止層とする場合、その最外層にはSiO2および/またはSiOを用いることが好ましい。製造すべき物品が、タッチパネル用の光学ガラス部品である場合、透明電極、例えば酸化インジウムスズ(ITO)や酸化インジウム亜鉛などを用いた薄膜を、基材(ガラス)の表面の一部に有していてもよい。また、基材は、その具体的仕様等に応じて、絶縁層、粘着層、保護層、装飾枠層(I-CON)、霧化膜層、ハードコーティング膜層、偏光フィルム、相位差フィルム、および液晶表示モジュールなどを有していてもよい。
【0110】
基材の形状は特に限定されない。また、表面処理層を形成すべき基材の表面領域は、基材表面の少なくとも一部であればよく、製造すべき物品の用途および具体的仕様等に応じて適宜決定され得る。
【0111】
かかる基材としては、少なくともその表面部分が、水酸基を元々有する材料から成るものであってよい。かかる材料としては、ガラスが挙げられ、また、表面に自然酸化膜または熱酸化膜が形成される金属(特に卑金属)、セラミックス、半導体等が挙げられる。あるいは、樹脂等のように、水酸基を有していても十分でない場合や、水酸基を元々有していない場合には、基材に何らかの前処理を施すことにより、基材の表面に水酸基を導入したり、増加させたりすることができる。かかる前処理の例としては、プラズマ処理(例えばコロナ放電)や、イオンビーム照射が挙げられる。プラズマ処理は、基材表面に水酸基を導入または増加させ得ると共に、基材表面を清浄化する(異物等を除去する)ためにも好適に利用され得る。また、かかる前処理の別の例としては、炭素-炭素不飽和結合基を有する界面吸着剤をLB法(ラングミュア-ブロジェット法)や化学吸着法等によって、基材表面に予め単分子膜の形態で形成し、その後、酸素や窒素等を含む雰囲気下にて不飽和結合を開裂する方法が挙げられる。
【0112】
またあるいは、かかる基材としては、少なくともその表面部分が、別の反応性基、例えばSi-H基を1つ以上有するシリコーン化合物や、アルコキシシランを含む材料から成るものであってもよい。
【0113】
次に、かかる基材の表面に、上記の本発明の表面処理剤の膜を形成し、この膜を必要に応じて後処理し、これにより、本発明の表面処理剤から表面処理層を形成する。
【0114】
本発明の表面処理剤の膜形成は、上記の表面処理剤を基材の表面に対して、該表面を被覆するように適用することによって実施できる。被覆方法は、特に限定されない。例えば、湿潤被覆法および乾燥被覆法を使用できる。
【0115】
湿潤被覆法の例としては、浸漬コーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティングおよび類似の方法が挙げられる。
【0116】
乾燥被覆法の例としては、蒸着(通常、真空蒸着)、スパッタリング、CVDおよび類似の方法が挙げられる。蒸着法(通常、真空蒸着法)の具体例としては、抵抗加熱、電子ビーム、マイクロ波等を用いた高周波加熱、イオンビームおよび類似の方法が挙げられる。CVD方法の具体例としては、プラズマ-CVD、光学CVD、熱CVDおよび類似の方法が挙げられる。
【0117】
更に、常圧プラズマ法による被覆も可能である。
【0118】
湿潤被覆法を使用する場合、本発明の表面処理剤は、溶媒で希釈されてから基材表面に適用され得る。本発明の表面処理剤の安定性および溶媒の揮発性の観点から、次の溶媒が好ましく使用される:炭素数5~12のパーフルオロ脂肪族炭化水素(例えば、パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサンおよびパーフルオロ-1,3-ジメチルシクロヘキサン);ポリフルオロ芳香族炭化水素(例えば、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン);ポリフルオロ脂肪族炭化水素(例えば、C6F13CH2CH3(例えば、旭硝子株式会社製のアサヒクリン(登録商標)AC-6000)、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(例えば、日本ゼオン株式会社製のゼオローラ(登録商標)H);ヒドロフルオロエーテル(HFE)(例えば、パーフルオロプロピルメチルエーテル(C3F7OCH3)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標)7000)、パーフルオロブチルメチルエーテル(C4F9OCH3)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標)7100)、パーフルオロブチルエチルエーテル(C4F9OC2H5)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標)7200)、パーフルオロヘキシルメチルエーテル(C2F5CF(OCH3)C3F7)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標)7300)などのアルキルパーフルオロアルキルエーテル(パーフルオロアルキル基およびアルキル基は直鎖または分枝状であってよい)、あるいはCF3CH2OCF2CHF2(例えば、旭硝子株式会社製のアサヒクリン(登録商標)AE-3000))など。これらの溶媒は、単独で、または、2種以上の混合物として用いることができる。なかでも、ヒドロフルオロエーテルが好ましく、パーフルオロブチルメチルエーテル(C4F9OCH3)および/またはパーフルオロブチルエチルエーテル(C4F9OC2H5)が特に好ましい。
【0119】
乾燥被覆法を使用する場合、本発明の表面処理剤は、そのまま乾燥被覆法に付してもよく、または、上記した溶媒で希釈してから乾燥被覆法に付してもよい。
【0120】
膜形成は、膜中で本発明の表面処理剤が、加水分解および脱水縮合のための触媒と共に存在するように実施することが好ましい。簡便には、湿潤被覆法による場合、本発明の表面処理剤を溶媒で希釈した後、基材表面に適用する直前に、本発明の表面処理剤の希釈液に触媒を添加してよい。乾燥被覆法による場合には、触媒添加した本発明の表面処理剤をそのまま蒸着(通常、真空蒸着)処理するか、あるいは鉄や銅などの金属多孔体に、触媒添加した本発明の表面処理剤を含浸させたペレット状物質を用いて蒸着(通常、真空蒸着)処理をしてもよい。
【0121】
触媒には、任意の適切な酸または塩基を使用できる。酸触媒としては、例えば、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸などを使用できる。また、塩基触媒としては、例えばアンモニア、有機アミン類などを使用できる。
【0122】
次に、必要に応じて、膜を後処理する。この後処理は、特に限定されないが、例えば、水分供給および乾燥加熱を逐次的に実施するものであってよく、より詳細には、以下のようにして実施してよい。
【0123】
上記のようにして基材表面に本発明の表面処理剤を膜形成した後、この膜(以下、「前駆体膜」とも言う)に水分を供給する。水分の供給方法は、特に限定されず、例えば、前駆体膜(および基材)と周囲雰囲気との温度差による結露や、水蒸気(スチーム)の吹付けなどの方法を使用してよい。
【0124】
前駆体膜に水分が供給されると、本発明の表面処理剤中のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物のSiに結合した加水分解可能な基に水が作用し、当該化合物を速やかに加水分解させることができると考えられる。
【0125】
水分の供給は、例えば0~250℃、好ましくは60℃以上、さらに好ましくは100℃以上とし、好ましくは180℃以下、さらに好ましくは150℃以下の雰囲気下にて実施し得る。このような温度範囲において水分を供給することにより、加水分解を進行させることが可能である。このときの圧力は特に限定されないが、簡便には常圧とし得る。
【0126】
次に、該前駆体膜を該基材の表面で、60℃を超える乾燥雰囲気下にて加熱する。乾燥加熱方法は、特に限定されず、前駆体膜を基材と共に、60℃を超え、好ましくは100℃を超える温度であって、例えば250℃以下、好ましくは180℃以下の温度で、かつ不飽和水蒸気圧の雰囲気下に配置すればよい。このときの圧力は特に限定されないが、簡便には常圧とし得る。
【0127】
このような雰囲気下では、本発明のPFPE含有シラン化合物間では、加水分解後のSiに結合した基(上記式(1a)または式(1b)のいずれかで表される化合物においてR1が全て水酸基である場合にはその水酸基である。以下も同様)同士が速やかに脱水縮合する。また、かかる化合物と基材との間では、当該化合物の加水分解後のSiに結合した基と、基材表面に存在する反応性基との間で速やかに反応し、基材表面に存在する反応性基が水酸基である場合には脱水縮合する。この結果、本発明のPFPE含有シラン化合物間で結合が形成され、また、当該化合物と基材との間で結合が形成される。
【0128】
上記の水分供給および乾燥加熱は、過熱水蒸気を用いることにより連続的に実施してもよい。
【0129】
過熱水蒸気は、飽和水蒸気を沸点より高い温度に加熱して得られるガスであって、常圧下では、100℃を超え、一般的には250℃以下、例えば180℃以下の温度で、かつ、沸点を超える温度への加熱により不飽和水蒸気圧となったガスである。前駆体膜を形成した基材を過熱水蒸気に曝すと、まず、過熱水蒸気と、比較的低温の前駆体膜との間の温度差により、前駆体膜表面にて結露が生じ、これによって前駆体膜に水分が供給される。やがて、過熱水蒸気と前駆体膜との間の温度差が小さくなるにつれて、前駆体膜表面の水分は過熱水蒸気による乾燥雰囲気中で気化し、前駆体膜表面の水分量が次第に低下する。前駆体膜表面の水分量が低下している間、即ち、前駆体膜が乾燥雰囲気下にある間、基材の表面の前駆体膜は過熱水蒸気と接触することによって、この過熱水蒸気の温度(常圧下では100℃を超える温度)に加熱されることとなる。従って、過熱水蒸気を用いれば、前駆体膜を形成した基材を過熱水蒸気に曝すだけで、水分供給と乾燥加熱とを連続的に実施することができる。
【0130】
以上のようにして後処理が実施され得る。かかる後処理は、摩擦耐久性を一層向上させるために実施され得るが、本発明の物品を製造するのに必須でないことに留意されたい。例えば、本発明の表面処理剤を基材表面に適用した後、そのまま静置しておくだけでもよい。
【0131】
上記のようにして、基材の表面に、本発明の表面処理剤の膜に由来する表面処理層が形成され、本発明の物品が製造される。これにより得られる表面処理層は、高い表面滑り性と高い摩擦耐久性の双方を有する。また、この表面処理層は、高い摩擦耐久性に加えて、使用する表面処理剤の組成にもよるが、撥水性、撥油性、防汚性(例えば指紋等の汚れの付着を防止する)、防水性(電子部品等への水の浸入を防止する)、表面滑り性(または潤滑性、例えば指紋等の汚れの拭き取り性や、指に対する優れた触感)などを有し得、機能性薄膜として好適に利用され得る。
【0132】
すなわち本発明はさらに、前記硬化物を最外層に有する光学材料にも関する。
【0133】
光学材料としては、後記に例示するようなディスプレイ等に関する光学材料のほか、多種多様な光学材料が好ましく挙げられる:例えば、陰極線管(CRT;例えば、パソコンモニター)、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機薄膜ELドットマトリクスディスプレイ、背面投写型ディスプレイ、蛍光表示管(VFD)、電界放出ディスプレイ(FED;Field Emission Display)などのディスプレイ又はそれらのディスプレイの保護板、又はそれらの表面に反射防止膜処理を施したもの。
【0134】
本発明によって得られる表面処理層を有する物品は、特に限定されるものではないが、光学部材であり得る。光学部材の例には、次のものが挙げられる:眼鏡などのレンズ;PDP、LCDなどのディスプレイの前面保護板、反射防止板、偏光板、アンチグレア板;携帯電話、携帯情報端末などの機器のタッチパネルシート;ブルーレイ(Blu-ray(登録商標))ディスク、DVDディスク、CD-R、MOなどの光ディスクのディスク面;光ファイバー;時計の表示面など。
【0135】
また、本発明によって得られる表面処理層を有する物品は、医療機器または医療材料であってもよい。
【0136】
表面処理層の厚さは、特に限定されない。光学部材の場合、表面処理層の厚さは、1~50nm、1~30nm、好ましくは1~15nmの範囲であることが、光学性能、表面滑り性、摩擦耐久性および防汚性の点から好ましい。
【0137】
以上、本発明の表面処理剤を使用して得られる物品について詳述した。なお、本発明の表面処理剤の用途、使用方法ないし物品の製造方法などは、上記で例示したものに限定されない。
【実施例0138】
本発明の表面処理剤について、以下の実施例を通じてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、パーフルオロポリエーテルを構成する4種の繰り返し単位(CF2O)、(CF2CF2O)、(CF(CF3)CF2O)、(CF2CF2CF2O)および(CF2CF2CF2CF2O)の存在順序は任意である。
【0139】
合成例1
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた100mLの4つ口フラスコに、NaH4.62g、およびテトラブチルアンモニウムブロミド0.41gを仕込んだ後、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン23g、1,4-ジブロモブタン42g、およびペンタエリスリトールトリアリルエーテル10gを加え65℃で撹拌し、その後、分離精製し、下記のペンタエリスリトールトリアリルエーテルブロモ付加体(A)5.23gを得た。
・ペンタエリスリトールトリアリルエーテルブロモ付加体(A):
BrCH2CH2CH2CH2OCH2C(CH2OCH2CH=CH2)3
【0140】
合成例2
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた100mLの4つ口フラスコに、平均組成CF3O(CF2CF2O)20(CF2O)16CF2CH2OH(ただし、混合物中には(CF2CF2CF2CF2O)および/または(CF2CF2CF2O)の繰り返し単位を微量含む化合物も含まれるが、極少量のため考慮していない)で表されるパーフルオロポリエーテル変性アルコール体8.96g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン51g、およびKOH0.39gを仕込み、70℃で撹拌した。続いて、合成例1で得られた、ペンタエリスリトールトリアリルエーテルブロモ付加体(A)3.60g、およびテトラブチルアンモニウムブロミド0.14gを加え、70℃で撹拌した後、分離精製し、末端にアリル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有アリルオキシ体(B)4.86gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有アリルオキシ体(B):
CF3O(CF2CF2O)20(CF2O)16CF2CH2OCH2CH2CH2CH2OCH2C(CH2OCH2CH=CH2)3
【0141】
合成例3
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた50mLの4つ口フラスコに、合成例2で合成した、パーフルオロポリエーテル基含有アリルオキシ体(B)3.33g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン7.24g、およびトリアセトキシメチルシラン0.01gを仕込み、30分間撹拌した。続いて、トリクロロシラン1.16g、および1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンのPt錯体を2%含むキシレン溶液を0.03ml加えた後、60℃で3時間撹拌した。その後、減圧下で揮発分を留去し、メタノール0.13gとオルトギ酸トリメチル5.25gの混合溶液を加えた後、50℃で撹拌した後、分離精製し、末端にトリメトキシシリル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(C)3.12gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(C):
CF3O(CF2CF2O)20(CF2O)16CF2CH2OCH2CH2CH2CH2OCH2C(CH2OCH2CH2CH2Si(OMe)3)3
【0142】
合成例4
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた100mLの4つ口フラスコに、平均組成CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)20CF2CF2CH2OHで表されるパーフルオロポリエーテル変性アルコール体8.5g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン45g、およびKOH0.33gを仕込み、70℃で撹拌した。続いて、合成例1で得られた、ペンタエリスリトールトリアリルエーテルブロモ付加体(A)3.10g、およびテトラブチルアンモニウムブロミド0.12gを加え、70℃で撹拌した後、分離精製し、末端にアリル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有アリルオキシ体(D)4.81gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有アリルオキシ体(D):
CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)20CF2CF2CH2OCH2CH2CH2CH2OCH2C(CH2OCH2CH=CH2)3
【0143】
合成例5
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた50mLの4つ口フラスコに、合成例4で合成した、パーフルオロポリエーテル基含有アリルオキシ体(D)4.5g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン8.87g、およびトリアセトキシメチルシラン0.01gを仕込み、30分間撹拌した。続いて、トリクロロシラン1.42g、および1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンのPt錯体を2%含むキシレン溶液を0.04ml加えた後、60℃で3時間撹拌した。その後、減圧下で揮発分を留去し、メタノール0.16gとオルトギ酸トリメチル6.44gの混合溶液を加えた後、50℃で撹拌した後、分離精製し、末端にトリメトキシシリル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(E)4.36gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(E):
CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)20CF2CF2CH2OCH2CH2CH2CH2OCH2C(CH2OCH2CH2CH2Si(OMe)3)3
【0144】
合成例6
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた50mLの4つ口フラスコに、パーフルオロポリエーテル基含有アリルオキシ体CF3O(CF2CF2O)20(CF2O)16CF2C(OCH2CH=CH2)(CH2CH=CH2)2)(ただし、混合物中には(CF2CF2CF2CF2O)および/または(CF2CF2CF2O)の繰り返し単位を微量含む化合物も含まれるが、極少量のため考慮していない)5.0g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン9.0g、およびトリアセトキシメチルシラン0.01gを仕込み、30分間撹拌した。続いて、トリクロロシラン1.50g、および1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンのPt錯体を2%含むキシレン溶液を0.05ml加えた後、60℃で3時間撹拌した。その後、減圧下で揮発分を留去し、メタノール0.20gとオルトギ酸トリメチル7.0gの混合溶液を加えた後、50℃で撹拌した後、分離精製し、末端にトリメトキシシリル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(F)5.32gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(F):
CF3O(CF2CF2O)20(CF2O)16CF2C[OCH2CH2CH2Si(OMe)3][CH2CH2CH2Si(OMe)3]2
【0145】
合成例7
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた50mLの4つ口フラスコに、パーフルオロポリエーテル基含有アリルオキシ体CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)20CF2CF2C(OCH2CH=CH2)(CH2CH=CH2)2)4.0g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン7.2g、およびトリアセトキシメチルシラン0.01gを仕込み、30分間撹拌した。続いて、トリクロロシラン1.20g、および1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンのPt錯体を2%含むキシレン溶液を0.04ml加えた後、60℃で3時間撹拌した。その後、減圧下で揮発分を留去し、メタノール0.16gとオルトギ酸トリメチル5.6gの混合溶液を加えた後、50℃で撹拌した後、分離精製し、末端にトリメトキシシリル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)4.4gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G):
CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)20CF2CF2C[OCH2CH2CH2Si(OMe)3][CH2CH2CH2Si(OMe)3]2
【0146】
実施例1
上記合成例3で得た化合物(C)を、濃度20wt%になるように、ハイドロフルオロエーテル(スリーエム社製、ノベックHFE7200)に溶解させて、表面処理剤1を調製した。
【0147】
上記で調製した表面処理剤1を化学強化ガラス(コーニング社製、「ゴリラ」ガラス、厚さ0.7mm)上に真空蒸着した。真空蒸着の処理条件は、圧力3.0×10-3Paとし、化学強化ガラス表面に7nmの二酸化ケイ素膜を形成し、続いて、化学強化ガラス1枚(55mm×100mm)あたり、表面処理剤2mg(即ち、化合物(C)を0.4mg含有)を蒸着させた。その後、蒸着膜付き化学強化ガラスを、温度20℃および湿度65%の雰囲気下で24時間静置した。
【0148】
実施例2
化合物(C)に代えて、上記合成例5で得た化合物(E)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理剤を調製し、表面処理層を形成した。
【0149】
実施例3
化合物(C)に代えて、上記合成例6で得た化合物(F)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理剤を調製し、表面処理層を形成した。
【0150】
実施例4
化合物(C)に代えて、上記合成例7で得た化合物(G)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理剤を調製し、表面処理層を形成した。
【0151】
実施例5
化合物(C)に代えて、下記に示すパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(H)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理剤を調製し、表面処理層を形成した。
・パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(H):
CF3O(CF2CF2O)20(CF2O)16CF2C[OC(O)NHCH2CH2CH2Si(OMe)3][CH2CH2CH2Si(OMe)3]2
【0152】
比較例1~3
化合物(C)に代えて、下記対照化合物1~3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理剤を調製し、表面処理層を形成した。
・対照化合物1
CF
3O(CF
2CF
2O)
20(CF
2O)
16CF
2CH
2OCH
2CH
2CH
2Si(OCH
3)
3
・対照化合物2
【化12】
(式中、gは1~6の整数である)
・対照化合物3
【化13】
(式中、gは1~6の整数である)
【0153】
・摩擦耐久性評価
上記の実施例および比較例にて基材表面に形成された表面処理層について、水の静的接触角を測定した。水の静的接触角は、接触角測定装置(協和界面科学社製)を用いて、水1μLにて実施した。
【0154】
まず、初期評価として、表面処理層形成後、その表面に未だ何も触れていない状態で、水の静的接触角を測定した(摩擦回数 ゼロ回)。その後、摩擦耐久性評価として、スチールウール摩擦耐久性評価を実施した。具体的には、表面処理層を形成した基材を水平配置し、スチールウール(番手♯0000、寸法5mm×10mm×10mm)を表面処理層の露出上面に接触させ、その上に1,000gfの荷重を付与し、その後、荷重を加えた状態でスチールウールを140mm/秒の速度で往復させた。往復回数2500回毎に水の静的接触角(度)を測定し、接触角の測定値が100度未満となった時点で評価を中止した。結果を表1に示す(表中、記号「-」は測定せず)。
【0155】
【0156】
上記の結果から理解されるように、主鎖の炭素原子から分岐した複数のSi(OMe)3基を有する本発明のパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物を用いた実施例1~5は、このような構造を有しない化合物を用いた比較例1~3と比較して、摩擦耐久性が向上することが確認された。
【0157】
本発明は、種々多様な基材、特に透過性が求められる光学部材の表面に、表面処理層を形成するために好適に利用され得る。
請求項1~12のいずれか1項に記載の式(1a)または式(1b)で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物と、式(3b)で表される化合物との質量比が、4:1~1:4である、請求項15または16に記載の表面処理剤。