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特開2024-2863クリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置及び方法、並びに耐熱金属材料の最適組成の予測装置及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002863
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】クリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置及び方法、並びに耐熱金属材料の最適組成の予測装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
G01N3/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140357
(22)【出願日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2022101550
(32)【優先日】2022-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】升田 博之
(72)【発明者】
【氏名】本郷 宏通
(72)【発明者】
【氏名】片山 英樹
(72)【発明者】
【氏名】澤田 浩太
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AB02
2G061BA19
2G061DA05
2G061EA01
2G061EA02
2G061EB04
2G061EB05
(57)【要約】
【課題】フェライト鋼、ステンレス鋼やNi基合金など多くの種類の耐熱金属材料に適用できる機械学習を用いたクリープ性能予測ができるクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置を提供すること。
【解決手段】クリープ破断寿命推定の種類の指定と、機械学習の決定木で用いる機械特性の指定を読込む機能部310と、クリープデータシートから、指定された耐熱金属材料のクリープデータを読込む機能部320と、前記指定された機械特性を用いて、読み込んだ耐熱金属材料のクリープデータに対して、破断寿命に対応する負荷応力の機械学習済の教師付き機械学習を行った機械学習演算部330とを備え、教師付き機械学習を行った機械学習演算部330により、指定された機械特性を用いて、指定されたクリープ破断寿命推定の種類に応じた破断寿命に対応する負荷応力推定の演算結果を出力するように構成されたものである。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリープ破断寿命推定の種類の指定と、機械学習の決定木で用いる機械特性の指定を読込む機能部と、
クリープデータシートから、指定された耐熱金属材料のクリープデータを読込む機能部と、
前記指定された機械特性を用いて、読み込んだ耐熱金属材料のクリープデータに対して、破断寿命に対応する負荷応力の機械学習済の教師付き機械学習を行った機械学習演算部とを備え、
前記教師付き機械学習を行った機械学習演算部により、指定された機械特性を用いて、指定されたクリープ破断寿命推定の種類に応じた破断寿命に対応する負荷応力推定の演算結果を出力するように構成したクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置。
【請求項2】
前記機械学習演算部に対して、前記指定された機械特性を用いて、読み込んだ耐熱金属材料のクリープデータに対して、破断寿命に対応する負荷応力の機械学習を行い、前記教師付き機械学習を行う前処理部を有する請求項1に記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置。
【請求項3】
前記機械学習に用いるモデルはランダムフォレスト法、ディープラーニング、ニューラルネットワーク、又はLASSO回帰を用いたモデルの何れかを含む請求項2に記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置。
【請求項4】
前記クリープ破断寿命推定の種類としては、クリープ破断寿命の予測、又は材料設計用の耐熱金属材料最適成分に対する予測の少なくとも一つを含む請求項1乃至3の何れかに記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置。
【請求項5】
前記機械学習の決定木で用いる機械特性には、耐熱金属材料の全成分考慮、または耐熱金属材料の特定成分考慮の少なくとも一つを含む請求項1乃至4の何れかに記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置。
【請求項6】
前記耐熱金属材料の特定成分には、炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、燐(P)、硫黄(S)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、窒素(N)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、ホウ素(B)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、又は鉄(Fe)の少なくとも一つが含まれる請求項5に記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置。
【請求項7】
前記耐熱金属材料には、フェライト鋼鋼材、クロムモリブデン鋼鋼材、マンガン鋼鋼材、ステンレス鋼鋼材、コバルト基合金材、又はニッケル基合金材の少なくとも一つを含む請求項1乃至6の何れかに記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置。
【請求項8】
さらに、校正対象に用いるクリープ破断寿命推定の種類に応じた破断寿命に対応する負荷応力推定の演算結果を用いて、教師付き機械学習を行った前記機械学習演算部の破断寿命に対応する負荷応力推定の正確性を評価する機械学習評価部を有する請求項1乃至7の何れかに記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置。
【請求項9】
さらに、前記機械学習評価部の評価結果から、前記機械学習演算部の破断寿命に対応する負荷応力推定の正確性を高めるような、前記機械学習の決定木で用いる機械特性の種類と、前記クリープデータシートで読み込む耐熱金属材料のクリープデータの種類を推奨するアシスト機能部を有する請求項8に記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置。
【請求項10】
前記破断寿命に対応する負荷応力推定の演算結果には、耐熱金属材料成分毎の破断寿命に対応する負荷応力の感度予測が含まれる請求項1乃至7の何れかに記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置。
【請求項11】
クリープ破断寿命推定の種類の指定と、機械学習の決定木で用いる機械特性の指定をする工程と、
クリープデータシートから、指定された耐熱金属材料のクリープデータを読込む工程と、
前記指定された機械特性を用いて、読み込んだ耐熱金属材料のクリープデータに対して、機械学習済の教師付き機械学習が済んでいる機械学習演算部に対して、前記指定された機械特性を用いて、前記指定されたクリープ破断寿命推定の種類に応じた破断寿命に対応する負荷応力推定の演算結果を出力する機械学習演算工程とを備える、
クリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法。
【請求項12】
さらに、前記機械学習演算工程に対して、前記指定された機械特性を用いて、読み込んだ耐熱金属材料のクリープデータに対して、破断寿命に対応する負荷応力の機械学習を行なって、教師付き機械学習を行う工程を有する、請求項11に記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法。
【請求項13】
前記機械学習に用いるモデルはランダムフォレスト法、ディープラーニング、ニューラルネットワーク、又はLASSO回帰を用いたモデルの何れかを含む、
請求項11に記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法。
【請求項14】
前記クリープ破断寿命推定の種類としては、クリープ破断寿命の予測、耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測、又は材料設計用の耐熱金属材料最適成分に対する予測の何れかを含む、
請求項11乃至13の何れかに記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法。
【請求項15】
前記機械学習の決定木で用いる機械特性には、耐熱金属材料の全成分考慮、または耐熱金属材料の特定成分考慮の少なくとも一つを含む請求項11乃至14の何れかに記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法。
【請求項16】
前記耐熱金属材料の特定成分には、炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、燐(P)、硫黄(S)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、窒素(N)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、ホウ素(B)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、又は鉄(Fe)の少なくとも一つが含まれる、請求項15に記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法。
【請求項17】
前記耐熱金属材料には、フェライト鋼鋼材、クロムモリブデン鋼鋼材、マンガン鋼鋼材、ステンレス鋼鋼材、コバルト基合金材、又はニッケル基合金材の少なくとも一つを含む請求項11乃至16の何れかに記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法。
【請求項18】
さらに、校正対象に用いるクリープ破断寿命推定の種類に応じた破断寿命に対応する負荷応力推定の演算結果を用いて、教師付き機械学習を行った機械学習演算部の破断寿命に対応する負荷応力推定の正確性を評価する工程を有する請求項11乃至17の何れかに記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法。
【請求項19】
さらに、前記機械学習評価工程の評価結果から、前記機械学習演算部の破断寿命に対応する負荷応力推定の正確性を高めるような、機械学習の決定木で用いる機械特性の種類と、前記クリープデータシートで読み込む耐熱金属材料のクリープデータの種類を推奨する工程を有する請求項18に記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法。
【請求項20】
さらに、前記推奨された機械学習の決定木で用いる機械特性の種類と、前記クリープデータシートで読み込む耐熱金属材料を加味して、請求項11のクリープ破断寿命推定の種類の指定と、機械学習の決定木で用いる機械特性の指定をする工程で用いるために指定するクリープ破断寿命推定の種類と、前記機械学習の決定木で用いる機械特性を修正する工程を有する請求項19に記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法。
【請求項21】
前記破断寿命に対応する負荷応力推定の演算結果には、耐熱金属材料成分毎の破断寿命に対応する負荷応力の感度予測が含まれる請求項11乃至17の何れかに記載のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法。
【請求項22】
クリープ破断寿命の被検対象となる耐熱金属材料の基準となる組成を定める手段と、
前記耐熱金属材料成分の増減を行なって予測対象組成を定める手段と、
前記耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測を基礎に、前記予測対象組成の目耐熱金属材料に対する破断寿命に対応する負荷応力の推定値を演算する手段と、
前記破断寿命に対応する負荷応力の推定値から、目標となる破断寿命に対応する負荷応力を実現する耐熱金属材料成分毎の組成範囲を予測する手段と、
を備える耐熱金属材料の最適組成の予測装置。
【請求項23】
前記耐熱金属材料成分の増減を行なって予測対象組成を定める手段は、
前記耐熱金属材料成分の増減を行なう成分として一種類を定める手段と、
当該増減を行なった成分の変化量は、前記クリープ破断寿命の被検対象となる材料で最も多く含まれる基となる成分の増減で吸収して、前記基となる成分を除く成分については前記クリープ破断寿命の被検対象となる材料の値を保持する組成とする手段と、
前記予測対象組成の耐熱金属材料は当該増減を行なった成分の変化分を反映した組成とする手段と、
を有する請求項22に記載の耐熱金属材料の最適組成の予測装置。
【請求項24】
クリープ破断寿命の被検対象となる材料の組成を基準となる組成と定め、
前記耐熱金属材料成分の増減を行なって予測対象組成を定め、
前記耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測を基礎に、前記予測対象組成の耐熱金属材料に対する破断寿命に対応する負荷応力の推定値を演算し、
前記破断寿命に対応する負荷応力の推定値から、目標となる破断寿命に対応する負荷応力を実現する耐熱金属材料成分毎の組成範囲を予測する、
耐熱金属材料の最適組成の予測方法。
【請求項25】
前記耐熱金属材料成分の増減を行なって予測対象組成を定める工程は、
前記耐熱金属材料成分の増減を行なう成分として一種類を定め、
当該増減を行なった成分の変化量は、前記クリープ破断寿命の被検対象となる材料で最も多く含まれる基となる成分の増減で吸収して、前記基となる成分を除く成分については前記クリープ破断寿命の被検対象となる材料の値を保持する組成とし、
前記予測対象組成の耐熱金属材料は当該増減を行なった成分の変化分を反映した組成とする、
請求項24に記載の耐熱金属材料の最適組成の予測方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境下で運転される火力発電所プラントなどで使用される耐熱材料に用いて好適なクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置及び方法に関する。
また、本発明は、高温環境下で運転される火力発電所プラントなどで使用される耐熱材料に用いて好適な耐熱金属材料の最適組成の予測装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
<従来のクリープ破断寿命評価>
金属材料のクリープ試験法は、例えばJIS Z 2271に規定されている。
他方で、高温環境下で運転される火力発電所プラントなどの設計では、使用される構造材料の10万時間クリープ破断強度が必要とされる。火力発電所の操業期間としては30年間程度の使用実績があり、特に貫流ボイラーでは管壁に高温の燃焼ガスが作用するためである。そこで、例えば特許文献1では、クリープ試験装置が提案されている。特許文献2では、火力発電所プラントに用いて好適な、高クロム鋼クリープ余寿命の推定方法が提案されている。
しかし、10万時間破断強度を実験から求めるためには、11年以上の歳月が必要とされるため、時間-温度パラメータ法(TTP法)による外挿で推定されている。その外挿法制度を保障するためには、3万時間程度の実験データから十万時間強度を予測して設計に使用して良いことになっている(JIS Z 2271付属書E.5外挿参照)。
【0003】
代表的なTTP法は以下に上げる4種類である(非特許文献1参照)。
Larson-Miller: P=T(logt+C) (1)
Manson-Haferd: P=(logt-logt)/(T-T) (2)
Orr-Sherby Dorn: P=logt-Q/(2.3RT) (3)
Manson-Succop: P=logt+B・T (4)
ここで、tは破断時間、Tは絶対温度、Qはクリープの活性化エネルギー、Rは気体定数、C、B、t、T:パラメータ定数である。
これらのパラメータ法で求めた最も当てはめ精度の良いパラメータPを用いて、式(5)でクリープ破断データを回帰している。
P=b+blogS+b(logS)+・・・+b(logS)+ei (5)
ここで、Sは応力(MPa)、b,b,b,・・・・bは回帰係数、kは次数、eiは誤差項である。
【0004】
しかし、この手法には長時間クリープ強度を過大評価する傾向があるという課題があった。現在火力発電プラントで多く使用されている、高Cr鋼の長時間側でのクリープ強度の低下を的確に表現できないため、10万時間破断強度の見直しが行われた(非特許文献2参照)。
【0005】
NIMSのクリープデータシートCDSでは4つのパラメータ法の中で最も材料にフィッテングするパラメータを使用してクリープ破断データの回帰を行っている。
この中で、CDS No.48B、No.51BおよびNo.52Bは木村らが提案している、0.2%耐力の半分の応力で回帰するデータを分割して行う、領域分割法(非特許文献2参照)を使用して行っている。しかしNIMSのクリープデータシートを見てもわかるように、ほぼ組成が同じ合金でもバラツキは大きく、精度よく破断寿命を予測することは不可能であり、精度の良い予測法が望まれていた。また、クリープ強度におよぼす微量な化学成分の影響は明らかにならないため、材料設計には使用できないという課題があった。
【0006】
<従来の機械学習による予測>
これまでに、任意の材料に関して機械学習を用いてクリープ性能予測が行われた例が、狭い材料種の範囲に限定したものではあるが、以下のように複数存在する。
一つ目は、非特許文献4に開示されたもので、ニューラルネットワークおよび熱力学計算を用いた材料設計の例で、Fe-2.25Cr-1MoおよびFe-(9-12)Crに関して行われており、提案材料に関する試験を行って予測との比較も報告されている。
二つ目は、非特許文献5に開示されたもので、機械学習によって高Cr鋼(9-12%Cr フェライト・マルテンサイト鋼)およびオーステナイト系ステンレス鋼(SUS347H)の予測を行った例である。機械学習手法としてはGaussian Process regression, Neural Network, Gradient Boosted Decision Tree が使用されている。高い予測性が報告されているものの、実際にクリープ試験を実施しなければ得られない破断伸びや破断絞りの情報が説明変数として使われている点で、未知の材料のクリープ性能予測には適用できない。
3つ目は、非特許文献6に開示されたもので、Cr-Mo鋼についてクリープ寿命予測モデルを作成しているものであり、Random Forest等9種の機械学習の回帰手法が検討されている。中でもRandom Forestモデルが高い精度を示し最適と結論されている。
4つ目は、非特許文献7に開示されたもので、フェライト、マルテンサイト・ベイナイト鋼について行ったSVR法などで、中でもSVR法が、精度が良いと結論されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6226112号
【特許文献2】特開2022-27670号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】藤田利夫、門馬義雄、『クリープ破断強度外挿法の精度と標準化』、鉄と鋼70_327(1984)
【非特許文献2】木村一弘、『フェライト系耐熱鋼のクリープ破断寿命予測と設計基準』、ふぇらむVol13(2008)-775-780
【非特許文献3】丸山公一、『クリープ破断時間予測の現状と課題』、ふぇらむVol13(2008)-768-774
【非特許文献4】F.Brun, T.Yoshida, J.D.Robson, V.Narayan, H.K.D.H.Bhadeshia and D.J.C.MacKay: Mater. Sci. Technol., 15(1999), 547. https://doi.org/10.1179/026708399101506085
【非特許文献5】Osman Mamun et al., A machine learning aided interpretable model for rupture strength prediction in Fe-based martensitic and austenitic alloys; Scientifc Reports (2021) 11:5466
【非特許文献6】J.Wang, Y.Fa, Y.Tian and X.Yu: “A machine-learning approach to predict creep properties of CreMo steel with time-temperature parameters”, J. Mater. Res. Technol., 13(2021), 635. https://doi.org/10.1016/j.jmrt.2021.04.079
【非特許文献7】櫻井惇也・出村雅彦・井上純哉・山崎政義、『機械学習によるフェライト系耐熱鋼のクリープ破断寿命予測』、鉄と鋼 2022年4月14日J-STAGE早期公開
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、これまでにクリープ性能を予測するための様々な先行研究が報告されているが、フェライト鋼、ステンレス鋼やNi基合金など多くの種類の耐熱鋼に適用できる予測はこれまでにないという課題があった。
本発明は、上述する課題を解決するもので、フェライト鋼、ステンレス鋼やNi基合金など多くの種類の耐熱金属材料に適用できる機械学習を用いたクリープ性能予測ができるクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置及び方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、耐熱金属材料の成分を考慮に入れたクリープ性能予測の機械学習を用いることで、特定成分を変化させた時の破断応力の変化を用いた耐熱金属材料の最適組成の予測装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〔1〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置は、例えば図3に示すように、クリープ破断寿命推定の種類の指定と、機械学習の決定木で用いる機械特性の指定を読込む機能部310と、クリープデータシートから、指定された耐熱金属材料のクリープデータを読込む機能部320と、前記指定された機械特性を用いて、読み込んだ耐熱金属材料のクリープデータに対して、破断時間に対応する負荷応力の機械学習済の教師付き機械学習を行った機械学習演算部330とを備え、教師付き機械学習を行った機械学習演算部330により、指定された機械特性を用いて、指定されたクリープ破断寿命推定の種類に応じた破断時間に対応する負荷応力推定の演算結果を出力するように構成されたものである。
【0011】
〔2〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置〔1〕において、好ましくは、機械学習演算部330に対して、前記指定された機械特性を用いて、読み込んだ耐熱金属材料のクリープデータに対して、破断時間に対応する負荷応力の機械学習を行い、前記教師付き機械学習を行う前処理部325を有するとよい。
〔3〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置〔2〕において、好ましくは、前記機械学習に用いるモデルはランダムフォレスト法、ディープラーニング、ニューラルネットワーク、又はLASSO回帰を用いたモデルの何れかを含むとよい。
〔4〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置〔1〕~〔3〕において、好ましくは、前記クリープ破断寿命推定の種類としては、クリープ破断時間の予測、耐熱金属材料成分毎のクリープ破断時間の感度予測、又は材料設計用の耐熱金属材料最適成分に対する予測の少なくとも一つを含むとよい。
〔5〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置〔1〕~〔4〕において、好ましくは、前記機械学習の決定木で用いる機械特性には、耐熱金属材料の全成分考慮、または耐熱金属材料の特定成分考慮の少なくとも一つを含むとよい。
〔6〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置〔5〕において、好ましくは、前記耐熱金属材料の特定成分には、炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、燐(P)、硫黄(S)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、窒素(N)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、ホウ素(B)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、又は鉄(Fe)の少なくとも一つが含まれるとよい。
〔7〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置〔1〕~〔6〕において、好ましくは、前記耐熱金属材料には、フェライト鋼鋼材、クロムモリブデン鋼鋼材、マンガン鋼鋼材、ステンレス鋼鋼材、コバルト基合金材、又はニッケル基合金材の少なくとも一つを含むとよい。
〔8〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置〔1〕~〔7〕において、好ましくは、さらに、校正対象に用いるクリープ破断寿命推定の種類に応じた破断時間に対応する負荷応力推定の演算結果を用いて、教師付き機械学習を行った機械学習演算部330のクリープ破断寿命推定の正確性を評価する機械学習評価部335を有するとよい。
〔9〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置〔8〕において、好ましくは、さらに、機械学習評価部335の評価結果から、機械学習演算部330の破断時間に対応する負荷応力推定の正確性を高めるような、前記機械学習の決定木で用いる機械特性の種類と、前記クリープデータシートで読み込む耐熱金属材料のクリープデータの種類を推奨するアシスト機能部340を有するとよい。
〔10〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置〔1〕~〔7〕において、好ましくは、前記破断時間に対応する負荷応力推定の演算結果には、耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測が含まれるとよい。クリープ破断寿命の感度とは、特定の耐熱金属材料成分毎に所定の単位量増減した場合に、クリープ破断寿命に生じる許容応力の増減量をいい、停留状態や鞍点状態を含む概念である。
【0012】
〔11〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法は、例えば図4に示すように、クリープ破断寿命推定の種類の指定と、機械学習の決定木で用いる機械特性の指定をする工程(S400)と、クリープデータシートから、指定された耐熱金属材料のクリープデータを読込む工程(S405)と、前記指定された機械特性を用いて、読み込んだ耐熱金属材料のクリープデータに対して、機械学習済の教師付き機械学習が済んでいる機械学習演算部に対して、前記指定された機械特性を用いて、指定されたクリープ破断寿命推定の種類に応じた破断時間に対応する負荷応力推定の演算結果を出力する機械学習演算工程(S415)とを備えるものである。
【0013】
〔12〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法〔11〕において、好ましくは、前記機械学習演算工程に対して、前記指定された機械特性を用いて、読み込んだ耐熱金属材料のクリープデータに対して、機械学習を行なって、教師付き機械学習を行う工程(S410)を有するとよい。
〔13〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法〔12〕において、好ましくは、前記機械学習に用いるモデルはランダムフォレスト法、ディープラーニング、ニューラルネットワーク、又はLASSO回帰を用いたモデルの何れかを含むとよい。
〔14〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法〔11〕~〔13〕において、好ましくは、前記クリープ破断寿命推定の種類としては、クリープ破断時間の予測、耐熱金属材料成分毎のクリープ破断時間の感度予測、又は材料設計用の耐熱金属材料最適成分に対する予測の何れかを含むとよい。
〔15〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法〔11〕~〔14〕において、好ましくは、前記機械学習の決定木で用いる機械特性には、耐熱金属材料の全成分考慮、または耐熱金属材料の特定成分考慮の少なくとも一つを含むとよい。
〔16〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法〔15〕において、好ましくは、前記耐熱金属材料の特定成分には、炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、燐(P)、硫黄(S)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、窒素(N)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、ホウ素(B)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、又は鉄(Fe)の少なくとも一つが含まれるとよい。
〔17〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法〔11〕~〔16〕において、好ましくは、前記耐熱金属材料には、フェライト鋼鋼材、クロムモリブデン鋼鋼材、マンガン鋼鋼材、ステンレス鋼鋼材、コバルト基合金材、又はニッケル基合金材の少なくとも一つを含むとよい。
〔18〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法〔11〕~〔17〕において、好ましくは、さらに、校正対象に用いるクリープ破断寿命推定の種類に応じた破断時間に対応する負荷応力推定の演算結果を用いて、教師付き機械学習を行った機械学習演算部の破断時間に対応する負荷応力推定の正確性を評価する工程を有するとよい。
〔19〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法〔18〕において、好ましくは、さらに、前記機械学習評価工程の評価結果から、前記機械学習演算部の破断時間に対応する負荷応力推定の正確性を高めるような、機械学習の決定木で用いる機械特性の種類と、前記クリープデータシートで読み込む耐熱金属材料のクリープデータの種類を推奨する工程を有するとよい。
〔20〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法〔19〕において、好ましくは、さらに、前記推奨された機械学習の決定木で用いる機械特性の種類と、前記クリープデータシートで読み込む耐熱金属材料を加味して、請求項10のクリープ破断寿命推定の種類の指定と、機械学習の決定木で用いる機械特性の指定をする工程で用いるために指定するクリープ破断寿命推定の種類と、前記機械学習の決定木で用いる機械特性を修正する工程を有するとよい。
〔21〕本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定方法〔11〕~〔17〕において、好ましくは、前記クリープ破断寿命推定の演算結果には、耐熱金属材料成分毎のクリープ破断時間の感度予測が含まれるとよい。
【0014】
〔22〕本発明の耐熱金属材料の最適組成の予測装置は、例えば図15に示すように、クリープ破断寿命の被検対象となる耐熱金属材料の基準となる組成を定める基準組成指定手段1510と、前記耐熱金属材料成分の増減を行なって予測対象組成を定める予測対象組成決定手段1520と、耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測を基礎に、前記予測対象組成の目耐熱金属材料に対する破断時間に対応する負荷応力推定値を演算するクリープ破断寿命推定値演算手段1540と、前記破断時間に対応する負荷応力推定値から、目標となる破断時間に対応する負荷応力を実現する耐熱金属材料成分毎の組成範囲を予測する最適組成予測演算部1550と、を備えるものである。
ここで、耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測は、耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測データベース1507に格納された感度予測データや、〔10〕に記載した耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測である。
〔23〕本発明の耐熱金属材料の最適組成の予測装置〔22〕において、好ましくは、耐熱金属材料成分の増減を行なって予測対象組成を定める予測対象組成決定手段1520は、耐熱金属材料成分の増減を行なう成分として一種類を指定する増減成分指定手段1525と、当該増減を行なった成分の変化量は、前記クリープ破断寿命の被検対象となる材料で最も多く含まれる基となる成分の増減で吸収して、前記基となる成分を除く成分については前記クリープ破断寿命の被検対象となる材料の値を保持する組成とする組成調整手段1530と、前記予測対象組成の耐熱金属材料は当該増減を行なった成分の変化分を反映した組成とする組成指定手段1535を有するとよい。
【0015】
〔24〕本発明の耐熱金属材料の最適組成の予測方法は、例えば図16に示すように、クリープ破断寿命の被検対象となる材料の組成を基準となる組成と定め(S1600)、前記耐熱金属材料成分の増減を行なって予測対象組成を定め(S1610)、耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測を基礎に、予測対象組成の耐熱金属材料に対する破断時間に対応する負荷応力推定値を演算し(S1630)、前記破断時間に対応する負荷応力推定値から、目標となるクリープ破断寿命を実現する耐熱金属材料成分毎の組成範囲を予測する(S1640)、ものである。
ここで、耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測は、耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測データベース1507に格納された感度予測データや、〔21〕に記載した耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測である。
〔25〕本発明の耐熱金属材料の最適組成の予測方法〔24〕において、好ましくは、耐熱金属材料成分の増減を行なって予測対象組成を定める(S1610)工程において、耐熱金属材料成分の増減を行なう成分として一種類を定め(S1615)、当該増減を行なった成分の変化量は、クリープ破断寿命の被検対象となる材料で最も多く含まれる基となる成分の増減で吸収して、基となる成分を除く成分についてはクリープ破断寿命の被検対象となる材料の値を保持する組成とし(S1620)、予測対象組成の耐熱金属材料は当該増減を行なった成分の変化分を反映した組成である(S1625)とよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置及び方法によれば、ビッグデータを用いた機械学習によるクリープ破断寿命の高精度予測が行えると共に、破断時間に対応する負荷応力を機械学習させることによる予測の高精度化が実現できる。本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置及び方法において、更に、全成分を考慮に入れた機械学習を行うことで、クリープ破断の予測の高精度化が実現できる。
本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置及び方法によれば、負荷応力に対応する破断時間を機械学習させた場合には、教示用に使用できるクリープ破断データの範囲が予測対象となる金属材料と同一又は類似の組成合金に限られるが、破断時間に対応する負荷応力を機械学習させることにより、教示用に使用できるクリープ破断データの範囲が予測対象となる金属材料と同一又は類似の組成合金に限られず、より多くクリープ破断データが使用できるので、深層機械学習による予測の高精度化が実現できる。
本発明の耐熱金属材料の最適組成の予測装置及び方法によれば、特定成分を変化させた時の破断応力の変化から最適な成分の高精度予測が行え、材料設計に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態で例示するクリープ試験装置の概略的な構成を示している。
図2図1に示すクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置をコンピュータを用いて構成する場合のブロック図である。
図3図2に示すコンピュータのためのソフトウェアの機能ブロック図である。
図4】クリープ破断寿命推定アルゴリズムの説明図である。
図5】本発明の一実施例を示す図で、破断時間に対応する負荷応力を機械学習させた場合であって成分を考慮してある。
図6】本発明の比較例を示す図で、負荷応力に対応する破断時間を機械学習させた場合を示している。
図7】本発明の比較例を示す図で、負荷応力に対応する破断時間を機械学習させた場合であって、成分を考慮してある。
図8】本発明の比較例を示す図で、破断時間に対応する負荷応力を機械学習させた場合であって、温度のみを考慮してある。
図9】本発明の一実施例を示すクリープ破断応力のAI予測を示す図で、Cr成分を考慮してある。
図10】本発明の一実施例を示すクリープ破断応力のAI予測を示す図で、Cr,Ni,Mo成分を考慮してある。
図11】本発明の一実施例を示す2.25Cr1Mo鋼500℃のクリープ破断曲線のAI予測と実測値を対比してある図で、全成分を考慮してある。
図12】本発明の一実施例を示すもので、SUS347鋼600℃のクリープ破断曲線のAI予測と実測値を対比して示す図である。
図13】本発明の比較例を示すもので、ステンレス鋼のクリープ破断寿命予測と実測値を示す図である。
図14】本発明の一実施例を示すNi基合金の700℃のクリープ破断時間予測と実測値を対比して示す図である。
図15】耐熱金属材料の最適組成の予測装置のためのソフトウェアの機能ブロック図である。
図16】耐熱金属材料の最適組成の予測アルゴリズムの説明図である。
図17】本発明の一実施例を示すもので、Ni基合金700℃の10000時間クリープ破断応に及ぼす成分のAI予測である。
図18A】本発明の一実施例を示すもので、Ni基合金700℃の10000時間クリープ破断応に及ぼすNb+Ta成分のAI予測で、耐食耐熱超合金板の場合を示している。
図18B】本発明の一実施例を示すもので、Ni基合金700℃の10000時間クリープ破断応に及ぼすNb+Ta成分のAI予測で、熱交換器用継目無ニッケルクロム鉄合金管の場合を示している。
図19】本発明の一実施例を示すもので、Co基-25Cr-10Ni-7W-B合金の750℃のクリープ破断曲線のAI予測と実測値を示している。
図20】本発明の比較例を示すもので、Co基-25Cr-10Ni-7W-B合金の750℃のクリープ破断曲線の従来法によるAI予測と実測値を示すもので、従来法による負荷応力に対応する破断時間を機械学習させた場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、詳細に説明する。
なお数値範囲を示す『~』については、下限値と上限値の間の数値範囲を示すもので、本明細書においては、特に明記する場合を除いて、下限値以上で上限値以下の範囲を表すものとする。
また、耐熱金属材料には、配管や炉壁に使用される耐熱金属材料が含まれ、セラミック被覆された耐熱金属材料も含まれるものとする。
図1は、本発明で使用されるクリープ試験装置1の概略的な構成を示している。同図に示すように、クリープ試験装置1は、被検対象の材料(例えば9Cr-1Mo鋼等の金属材料)からなる試験片2がセットされる恒温槽3(電気炉)、試験片2を固定する上側固定具4a及び下側固定具4b、上側ロッド5a及び下側ロッド5b、重錘6、荷重センサ7、変位センサ8、温度制御装置9、クリープ試験装置1の監視や制御を行う制御装置10、クリープデータベース12、クリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置14を備える。
制御装置10には荷重センサ7や変位センサ8から送られてくる計測値が入力される。制御装置10は重錘6及び温度制御装置9と通信可能に接続している。
【0019】
上側固定具4aは、棒状に加工された試験片2の上端を固定する機構(チャック等)を備える。下側固定具4bは、試験片2の下端を固定する機構(チャック等)を備える。上側ロッド5aは、上側固定具4aに連続する棒状の部材であり、上側固定具4aを上方側から支持する。下側ロッド5bは、下側固定具4bに連続する棒状の部材であり、下側固定具4bを下方側から支持する。
重錘6は、下側ロッド5b及び下側固定具4bを介して、試験片2に上下方向(試験片2の長手方向)の引張力を作用させる。重錘6は、制御装置10から送られてくる制御信号に応じて錘の重量を変えることで、引張力を調節する機構を備える。上記錘の重量を変える機構として、例えば、重錘6として単位重量を有する円盤状の錘を載荷する枚数を調整するもの等がある。
【0020】
荷重センサ7は、例えば、ひずみゲージ(ロードセル)を用いて構成される。荷重センサ7は、例えば、上側ロッド5aの所定位置に設けられる。荷重センサ7は、試験片2に作用している引張力又は圧縮力の大きさを計測し、計測した値を制御装置10に入力する。
変位センサ8は、例えば、ひずみゲージ(ロードセル)を用いて構成される。変位センサ8は、試験片2の変位(伸縮量)を計測し、計測した値を制御装置10に入力する。
温度制御装置9は、恒温槽3内に設けられた温度センサ9aから入力される値(恒温槽内(試験片)の温度)に基づくフィードバック制御により恒温槽3内に設けられたヒータ9bに供給する電力を調整し、恒温槽3内の温度(試験片2の温度)を制御する。温度制御装置9は、例えば、恒温槽内の温度(試験片2の温度)が制御装置10から送られてくる設定温度になるようにヒータ9bに供給する電力を調整する。温度制御装置9は、温度センサ9aにより計測された恒温槽3内の温度(試験片2の温度)の情報を制御装置10に入力する。
【0021】
尚、試験片2に作用する応力は試験片2の断面積によって変化するため、例えば、試験片2の形状(外形(外径))に関する情報を計測して制御装置10に入力する形状センサをクリープ試験装置1に設けてもよい。上記形状センサとして、例えば、レーザ光を利用するもの(レーザ変位センサ)等がある。クリープ試験装置1は、上記形状センサから入力される値(断面積)を用いて試験片2に作用する応力を精度よく算出する。
【0022】
制御装置10は、荷重センサ7や変位センサ8から入力される信号に基づき、重錘6の載荷重量をフィードバック制御することにより試験片2に作用する応力を制御する。
クリープ試験装置1で測定されたデータは、例えばクリープデータベース12に格納される。クリープデータベース12は、例えば本出願人が提供するNIMSのクリープデータシートCDSを用いるとよいが、これに限定されるものではない。クリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置14は、クリープデータベース12に格納されたクリープデータを基礎に、被検対象の材料の特定温度、特定負荷応力の条件下でのクリープ破断応力を推定する。
【0023】
次に、クリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置14のハードウェア構成の一例を説明する。
図2は、図1に示すクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置14をコンピュータを用いて構成する場合の機能ブロック図である。図1のクリープ破断寿命の推定演算処理部14は、コンピューティング装置200の全部または一部を使用して実施することができる。
非常に基本的な構成201では、コンピューティング装置200は通常、1つまたは複数のプロセッサ210とシステムメモリ220とを含む。メモリバス230は、プロセッサ210とシステムメモリ220との間の通信に使用され得る。
【0024】
所望の構成に応じて、プロセッサ210は、マイクロプロセッサ(μP)、マイクロコントローラ(μC)、デジタル信号プロセッサ(DSP)、またはそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない任意のタイプのものであり得る。プロセッサ210は、レベル1キャッシュ211およびレベル2キャッシュ212などのもう1つのレベルのキャッシング、プロセッサコア213、およびレジスタ214を含むことができる。例示的なプロセッサコア213は、算術論理演算装置(ALU)、浮動小数点ユニット(FPU)、デジタル信号処理コア(DSPコア)、またはそれらの任意の組み合わせなどを含むことができる。例示的なメモリ制御部215もプロセッサ210と共に使用することができ、またはいくつかの実装形態では、メモリ制御部215はプロセッサ210の内部部分とすることができる。
【0025】
所望の構成に応じて、システムメモリ220は、揮発性メモリ(RAMなど)、不揮発性メモリ(ROM、フラッシュメモリなど)、またはそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない任意のタイプのものとすることができる。システムメモリ220は、オペレーティングシステム221、1つまたは複数のアプリケーション222、および決定木モデル機械学習部232を含み得る。アプリケーション222は、クリープ破断時間の予測部223、耐熱金属材料成分毎のクリープ破断時間の感度予測部224、及び材料設計用の耐熱金属材料最適成分の予測部225を含み得る。
【0026】
決定木モデル機械学習部232は、機械学習の一類型であるランダムフォレスト法に用いられる決定木モデルとして、負荷応力に対応する破断時間233、破断時間に対応する負荷応力234、耐熱金属材料の全成分考慮235、耐熱金属材料の特定成分考慮236を含みえる。耐熱金属材料の成分としては、例えば、炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、燐(P)、硫黄(S)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、窒素(N)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、ホウ素(B)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、及び鉄(Fe)があるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
コンピューティング装置200は、追加の特徴または機能性、および基本構成201と任意の必要な装置およびインターフェースとの間の通信を容易にするための追加のインターフェースを有することができる。例えば、バス/インターフェース制御部240を使用して、ストレージインターフェースバス241を介した基本構成201と1つまたは複数のデータ記憶装置250との間の通信を容易にすることができる。データ記憶装置250は、取り外し可能な記憶装置251、取り外しができない記憶装置252、またはそれらの組み合わせである。取り外し可能な記憶装置および取り外しができない記憶装置の例には、フレキシブルディスクドライブおよびハードディスクドライブ(HDD)などの磁気ディスク装置、コンパクトディスク(CD)ドライブまたはデジタル多用途ディスク(DVD)ドライブなどの光ディスクドライブ、ソリッドステートドライブ(SSD)、テープドライブが含まれる。例示的なコンピュータ記憶媒体は、コンピュータ可読命令、データ構造、プログラムモジュール、または他のデータなどの情報を記憶するための任意の方法または技術で実施される揮発性および不揮発性、取り外し可能および固定の媒体を含み得る。
【0028】
システムメモリ220、取外し可能記憶装置251、および固定記憶装置252はすべてコンピュータ記憶媒体の例である。コンピュータ記憶媒体は、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリまたは他のメモリ技術、CDROM、デジタル多用途ディスク(DVD)または他の光学記憶装置、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスク記憶装置または他の磁気記憶装置を含むがこれらに限定されない。所望の情報を格納するために使用され得、かつコンピューティング装置200によってアクセスされ得る任意のそのようなコンピュータ記憶媒体は、別のコンピューティング装置290の一部であり得る。
【0029】
また、コンピューティング装置200はバス/インターフェース制御部240を介して様々なインターフェース装置(例えば、出力インターフェース、周辺インターフェース、および通信インターフェース)から基本構成201への通信を容易にするためのインターフェースバス242を含むことができる。
出力デバイス260では、画像処理ユニット261および音声処理ユニット262が、1つまたは複数のAVポート263を介して表示装置291またはスピーカなどの様々な外部装置と通信するように構成され得る。
【0030】
例示的な周辺インターフェース270は、入力装置(例えば、キーボード、マウス、ペン、音声入力装置、タッチ入力装置など)のような外部装置と通信するように構成され得るシリアルインターフェース制御部271またはパラレルインターフェース制御部272を含む。周辺インターフェース270は、I/Oポート273を介してクリープ試験機292やクリープデータシート293を格納した外部データベース機器と通信するように構成され得る。
例示的な通信装置280は、ネットワーク制御部281を含み、ネットワーク制御部281は、1つまたは複数の通信ポート282を介したネットワーク通信リンクを介して、1つまたは複数の他のコンピューティング装置290との通信を容易にするように構成されてもよい。
クリープデータシート293には、フェライト鋼鋼材のデータシート294、クロムモリブデン鋼鋼材のデータシート295、マンガン鋼鋼材のデータシート296、ステンレス鋼鋼材のデータシート297等の耐熱鋼のデータシート、並びにニッケル基合金のデータシート298及びコバルト基合金のデータシート299がある。
【0031】
ネットワーク通信リンクは、通信媒体の一例であり得る。通信媒体は、通常、コンピュータ可読命令、データ構造、プログラムモジュール、または搬送波もしくは他の搬送機構などの変調データ信号内の他のデータによって具現化することができ、任意の情報配信媒体を含むことができる。「変調データ信号」は、信号内に情報を符号化するような方法で設定または変更されたその特性のうちの1つまたは複数を有する信号であり得る。限定ではなく例として、通信媒体は、有線ネットワークまたは直接配線接続などの有線媒体、ならびに音響、無線周波数(RF)、マイクロ波、赤外線(IR)および他の無線媒体などの無線媒体を含み得る。本明細書で使用されるコンピュータ可読媒体という用語は、記憶媒体と通信媒体の両方を含み得る。
【0032】
コンピューティング装置200は、携帯電話、パーソナルデータアシスタント(PDA)、パーソナルメディアプレーヤデバイス、ワイヤレスウェブウォッチデバイス、パーソナルコンピュータなどのスモールフォームファクタポータブル(またはモバイル)電子デバイス、上記の機能のいずれかを含むヘッドセットデバイス、特定用途向けデバイス、またはハイブリッドデバイスの一部として実装され得る。また、コンピューティング装置200は、ラップトップコンピュータ構成および非ラップトップコンピュータ構成の両方を含むパーソナルコンピュータとして実装され得る。
【0033】
図3図2に示すコンピュータのためのソフトウェアの機能ブロック図で、例示的なコンピュータプログラム製品300を示している。プログラム担持媒体302は、コンピュータ読取可能媒体306、記録可能媒体308、通信媒体309、またはそれらの組み合わせとして実装することができるもので、処理ユニットのすべてまたは一部の処理を実行するように構成することができるプログラム命令格納部304を有する。
【0034】
プログラム命令格納部304に格納されたプログラム命令は、例えば、クリープ破断寿命推定の種類の指定と、機械学習の決定木で用いる機械特性の指定を読込む機能(310)、クリープデータシートから、指定された耐熱金属材料のクリープデータを読込む機能(320)、指定された機械特性を用いて、読み込んだ耐熱金属材料のクリープデータに対して、ランダムフォレスト法による破断時間に対応する負荷応力の機械学習を行い、教師付き機械学習を行う前処理部(325)を有する。更に、教師付き機械学習を行った機械学習演算部(330)であって、指定された機械特性を用いて、指定されたクリープ破断寿命推定の種類に応じた破断時間に対応する負荷応力推定の演算結果を出力する機械学習演算部(330)を有する。
なお、機械学習におけるランダムフォレスト法は、複数の決定木を使用して「分類」または「回帰」をする、周知のランダムフォレスト法を用いたモデルを用いるとよい。また、機械学習で用いるモデルは、ランダムフォレスト法を用いたモデルに限定されるものではなく、例えば周知のディープラーニングに代表されるニューラルネットワークを用いたモデル、及びLASSO回帰を用いたモデルを含む。また、クリープ破断寿命推定の回帰式は直線関数に限定されるものではなく多項式あるいはクリギング、RBF(Radial Base Function)を用いた非線形関数を用いることもできる。
【0035】
また、プログラム命令格納部304に格納されたプログラム命令は、例えば、校正対象に用いるクリープ破断寿命推定の種類に応じた破断時間に対応する負荷応力推定の演算結果を用いて、教師付き機械学習を行った機械学習演算部(330)のクリープ破断寿命推定の正確性を評価する機械学習評価部(335)を有する。更に、機械学習評価部(335)の評価結果から、機械学習演算部(330)の破断時間に対応する負荷応力推定の正確性を高めるような、機械学習の決定木で用いる機械特性の種類と、クリープデータシートで読み込む耐熱金属材料のクリープデータの種類を推奨するアシスト機能(340)を有する。
【0036】
図4は、図3に示すソフトウェアのクリープ破断寿命推定アルゴリズムの説明図で、(A)は基本的なアルゴリズム、(B)は追加的なアルゴリズムである。
まず、基本的なアルゴリズムでは、クリープ破断寿命推定の種類の指定と、機械学習の決定木で用いる機械特性の指定をする(S400)。クリープ破断寿命推定の種類としては、クリープ破断時間の予測、耐熱金属材料成分毎のクリープ破断時間の感度予測、及び材料設計用の耐熱金属材料最適成分に対する予測がある。なお、材料設計用の耐熱金属材料最適成分の組成の予測は、被検対象の材料を基準となる組成と定めて、耐熱金属材料成分毎のクリープ破断時間の感度予測を基礎に、耐熱金属材料成分の増減を行って、目標となるクリープ破断寿命の推定値を得る耐熱金属材料成分毎の組成を予測して行う。
機械学習の決定木で用いる機械特性には、負荷応力に対応する破断時間、破断時間に対応する負荷応力、耐熱金属材料の全成分考慮、耐熱金属材料の特定成分考慮がある。耐熱金属材料の成分としては、例えば、炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、燐(P)、硫黄(S)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、窒素(N)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、ホウ素(B)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、及び鉄(Fe)があるが、これに限定されるものではない。
【0037】
次に、クリープデータシートから、指定された耐熱金属材料のクリープデータを読込む(S405)。耐熱金属材料には、フェライト鋼鋼材、クロムモリブデン鋼鋼材、マンガン鋼鋼材、及びステンレス鋼鋼材等の耐熱鋼、並びにコバルト基合金材及びニッケル基合金材のデータシートがある。
指定された機械特性を用いて、読み込んだ耐熱金属材料のクリープデータに対して、ランダムフォレスト法による機械学習を行い、教師付き機械学習を行う(S410)。なお、既に教師付き機械学習が行われている場合には、この工程は省略してよい。
次に、教師付き機械学習を行った機械学習演算部(330)により、指定された機械特性を用いて、指定されたクリープ破断寿命推定の種類に応じた破断時間に対応する負荷応力推定の演算結果を出力する(S415)。
【0038】
基本的なアルゴリズムに追加される追加的なアルゴリズムには、次の工程が含まれる。
校正対象に用いるクリープ破断寿命推定の種類に応じた破断時間に対応する負荷応力推定の演算結果を用いて、教師付き機械学習を行った機械学習演算部(330)のクリープ破断寿命推定の正確性を評価する(S425)。
また、機械学習評価部(335)の評価結果から、機械学習演算部(330)のクリープ破断寿命推定の正確性を高めるような、機械学習の決定木で用いる機械特性の種類と、クリープデータシートで読み込む耐熱金属材料のクリープデータの種類を推奨する(S430)。
推奨された機械学習の決定木で用いる機械特性の種類と、クリープデータシートで読み込む耐熱金属材料を考慮して、S400で用いるために指定するクリープ破断寿命推定の種類と、機械学習の決定木で用いる機械特性を修正する(S435)。
【0039】
次に、上記のクリープ破断寿命推定アルゴリズムで用いられる教師付き機械学習について、説明する。ランダムフォレスト法は機械学習のアルゴリズムの一つで、複数の決定木モデルの弱学習器を統合させて汎化能力を向上させるアンサンブル学習アルゴリズムであり、主に分類(判別)・回帰(推定)の用途で使用される。ここで重要なのは、対象となるデータ集団について、(i)正確なデータをより多くサンプリングできること、(ii)決定木モデルを学習要素ごとに作成することである。
これまでの数学的モデルの回帰では、対象とする二つのデータ集団の相関を求める最小自乗近似により回帰されたが、機械学習は複数の学習要素の決定木モデルを関連づけた回帰モデルをつくることができることから、さらに精度の高い推定が期待できる。
【0040】
<負荷応力に対応する破断時間を機械学習させた場合と、破断時間に対応する負荷応力を学習させた時の精度を比較する。>
【実施例0041】
(実施例1)破断時間に対応する負荷応力を学習させた場合
図5は、本発明の一実施例を示す図で、横軸に負荷応力[単位MPa]、縦軸に予測クリープ破断応力[単位MPa]を示している。ここでの予測クリープ破断応力では、破断時間に対応する負荷応力を機械学習させた場合であって、温度と全ての成分を考慮する場合を示しており、データ総数は9459点である。ここで、学習に用いたクリープデータシートの耐熱金属材料の種類は、フェライト鋼鋼材、クロムモリブデン鋼鋼材、フェライト鋼鋼材、クロムモリブデン鋼鋼材、マンガン鋼鋼材、及びステンレス鋼鋼材等の耐熱鋼、並びにコバルト基合金材及びニッケル基合金材が含まれている。
考慮した耐熱金属材料成分は、C、Si、Mn、P、S、Ni、Cr、Mo、Cu、Al、N、V、Nb、W、B、Co、Ti、Zr、Ta、Feである。
【0042】
(比較例1・比較例2)負荷応力に対応する破断時間を機械学習させた場合
図6は、本発明の比較例1を示す図で、横軸に破断時間[単位h]、縦軸に予測クリープ破断時間[単位h]を示している。ここでの予測クリープ破断時間では、負荷応力に対応する破断時間を機械学習させた場合であって、温度を考慮しており、データ総数は9459点である。
図7は、本発明の比較例2を示す図で、横軸に破断時間[単位h]、縦軸に予測クリープ破断時間[単位h]を示している。ここでの予測クリープ破断時間では、負荷応力に対応する破断時間を機械学習させた場合であって、温度と全ての成分を考慮しており、データ総数は9459点である。
(比較例3)破断時間に対応する負荷応力を学習させた場合
図8は、本発明の比較例3を示す図で、横軸に負荷応力[単位MPa]、縦軸に予測クリープ破断応力[単位MPa]を示している。ここでの予測クリープ破断応力では、破断時間に対応する負荷応力を機械学習させた場合であって、温度のみを考慮しており、データ総数は1154点である。
【0043】
クリープ破断時間を機械学習させる場合に、目的変数を負荷応力に対応する破断時間に設定する場合が、比較例1では平均誤差率127%であり、比較例2では平均誤差率49%であった。これに対して、目的変数を破断時間に対応する破断応力に設定する場合が、比較例3では平均誤差率30%であり、実施例1では平均誤差率6%であった。
即ち、クリープ破断時間を機械学習させる場合、目的変数を負荷応力に対応する破断時間に設定するより、目的変数を破断時間に対応する破断応力に設定する方が、高い予測精度が得られることが判明した。
<CrMo鋼、ステンレス鋼などのデータを用い、ランダムフォレスト法で個別成分を識別した場合としない場合の効果を調べる>
【実施例0044】
図9は、本発明の一実施例を示すクリープ破断応力のAI予測を示す図で、横軸に負荷応力[単位MPa]、縦軸に予測クリープ破断応力[単位MPa]を示している。ここでの予測クリープ破断応力では、負荷応力に対応する破断時間を機械学習させた場合であって、温度と共にCr成分を考慮しており、データ総数は9459点である。
【実施例0045】
図10は、本発明の一実施例を示すクリープ破断応力のAI予測を示す図で、横軸に負荷応力[単位MPa]、縦軸に予測クリープ破断応力[単位MPa]を示している。ここでの予測クリープ破断応力では、負荷応力に対応する破断時間を機械学習させた場合であって、温度と共にCr,Ni,Mo成分を考慮しており、データ総数は9459点である。
【0046】
機械学習の際、クリープ破断時間を機械学習させる場合に、目的変数を破断時間に対応する破断応力に設定すると共に、温度は考慮するが成分考慮なしの平均誤差率は50%である(比較例3)。これに対して、成分としてCrのみ考慮する場合の平均誤差率は18%である(実施例2)。成分としてCr,Ni,Moを考慮する場合の平均誤差率は9.0%である(実施例2)。全成分を考慮する場合の平均誤差率は7.3%である(実施例1)。
機械学習の際、クリープ破断時間を機械学習させる場合に、目的変数を破断時間に対応する破断応力に設定すると共に、温度と全ての成分を考慮して学習させる時最も精度が上がることが判明した。
【実施例0047】
図11は、本発明の一実施例を示す25Cr1Mo鋼500℃のクリープ破断曲線のAI予測と実測値の対比を示す図で、横軸にクリープ破断時間[単位h]、縦軸にクリープ破断応力[単位MPa]を示している。(A)は観察データのみ、(B)~(D)は25Cr1Mo鋼のうちで、成分の異なる供試材毎にAI予測値と観察データを対比して示している。ここでの予測クリープ破断応力では、負荷応力に対応する破断時間を機械学習させた場合であって、温度と共に全成分を考慮しており、データ総数は9459点である。クリープ破断曲線の予測対象は25Cr1Mo鋼のうちで、成分の異なる供試材毎に峻別して個別表示したもので、500℃としている。
2.25Cr1Mo鋼のクリープ破断曲線をAI予測(温度と全成分を考慮)したが、実測値とかなりよく合っていることが判明した。
【実施例0048】
図12は、本発明の一実施例を示すSUS347ステンレス鋼600℃のクリープ破断曲線のAI予測と実測値の対比を示す図で、横軸にクリープ破断時間[単位h]、縦軸にクリープ破断応力[単位MPa]を示している。(A)は観察データのみ、(B)~(D)はSUS347ステンレス鋼のうちで、成分の異なる供試材毎にAI予測値と観察データを対比して示している。ここでの予測クリープ破断応力では、負荷応力に対応する破断時間を機械学習させた場合であって、温度と共に全成分を考慮しており、データ総数は9459点である。クリープ破断曲線の予測対象はSUS347ステンレス鋼のうちで、成分の異なる供試材毎に峻別して個別表示したもので、500℃としている。
SUS347ステンレス鋼のクリープ破断曲線をAI予測(温度と全成分を考慮)したが、実測値とかなりよく合っていることが判明した。
比較例4:(負荷応力に対応する破断時間を機械学習させた場合)
【0049】
図13は、本発明の比較例を示すもので、ステンレス鋼のクリープ破断寿命予測と実測値を示す図で、横軸にクリープ破断時間[単位h]、縦軸にクリープ破断応力[単位MPa]を示している。(A)は観察データのみ、(B)~(D)はステンレス鋼のうちで、成分の異なる供試材毎にAI予測値と観察データを対比して示している。ここでの予測クリープ破断応力では、負荷応力に対応する破断時間を機械学習させた場合であって、温度と共に全成分を考慮しており、データ総数は9459点である。クリープ破断曲線の予測対象はステンレス鋼のうちで、成分の異なる供試材毎に峻別して個別表示したもので、500℃としている。
【実施例0050】
実施例6では、クリープ曲線を推測し、取得データと比較するクリープ破断時間のAI予測(応力と温度と成分全てを考慮)を行った。
図14は、本発明の一実施例を示すNi基合金の700℃のクリープ破断時間予測と実測値を対比して示す図で、横軸にクリープ破断時間[単位h]、縦軸にクリープ破断応力[単位MPa]を示している。(A)は観察データのみ、(B)~(D)はNi基合金のうちで、成分の異なる供試材毎にAI予測値と観察データを対比して示している。ここでの予測クリープ破断時間では、負荷応力に対応する破断時間を機械学習させた場合であって、温度と全ての成分を考慮しており、データ総数は9459点である。クリープ破断曲線の予測対象はNi基合金のうちで、成分の異なる供試材毎に峻別して個別表示したもので、700℃としている。
図14(B)に示す供試材IEAは、JIS G 4901に規定される耐食耐熱超合金棒NCF 600-B インコネル(登録商標)である。図14(C)に示す供試材IEBは、JIS G 4902に規定される耐食耐熱超合金板NCF 600-P インコネル(登録商標)である。図14(D)に示す供試材IECは、JIS G 4904に規定される熱交換器用継目無ニッケルクロム鉄合金管NCF 600 TB (ニッケル基合金15.5Cr-8Fe)である。
インコネル(登録商標)600は、質量%で、Ni 72、Cr 14~17、Fe 6~10を主要化学成分とするものであり、マンガン 1以下、コバルト 1以下、ニオブ 1以下、チタン 0.5以下、アルミ 0.35以下、銅 0.5以下、炭素 0.15以下、ケイ素 0.5以下、リン 0.04以下、硫黄 0.015以下の組成を有するものである。タンタルに関しては言及がないが、インコネル(登録商標)625では言及がある。
Ni基合金の各供試材において、クリープ破断曲線の予測値と実測値は良く適合している。
<耐熱金属材料の最適組成の予測装置及び方法>
【0051】
図15は耐熱金属材料の最適組成の予測装置のためのソフトウェアの機能ブロック図で、例示的なコンピュータプログラム製品1500を示している。プログラム担持媒体1502は、コンピュータ読取可能媒体1506、耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測データベース1507、記録可能媒体1508、通信媒体1509、またはそれらの組み合わせとして実装することができるもので、処理ユニットのすべてまたは一部の処理を実行するように構成することができるプログラム命令格納部1504を有する。
【0052】
プログラム命令格納部1504に格納されたプログラム命令は、例えば、基準組成指定手段1510、予測対象組成決定手段1520、クリープ破断寿命推定値演算手段1540及び最適組成予測演算部1550を備えている。
基準組成指定手段1510は、クリープ破断寿命の被検対象となる耐熱金属材料の基準となる組成を定める。予測対象組成決定手段1520は、耐熱金属材料成分の増減を行なって予測対象組成を定める手段で、詳細は後で説明する。クリープ破断寿命推定値演算手段1540は、耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測データベース1507に格納された感度予測データを基礎に、前記予測対象組成の目耐熱金属材料に対するクリープ破断寿命の推定値を演算する。最適組成予測演算部1550は、前記クリープ破断寿命の推定値から、目標となるクリープ破断寿命を実現する耐熱金属材料成分毎の組成範囲を予測するものである。
耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測データベース1507は、例えば、図17に示すような耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測データを格納しているものである。
【0053】
耐熱金属材料成分の増減を行なって予測対象組成を定める手段1520の細部としては、例えば、増減成分指定手段1525、組成調整手段1530及び組成指定手段1535がある。まず、増減成分指定手段1525は、耐熱金属材料成分の増減を行なう成分として、一種類を指定する手段である。組成調整手段1530は、当該増減を行なった成分の変化量を、クリープ破断寿命の被検対象となる材料で最も多く含まれる基となる成分の増減で吸収して、基となる成分を除く成分についてはクリープ破断寿命の被検対象となる材料の値を保持する組成とするものである。更に、組成指定手段1535は、予測対象組成の耐熱金属材料は、組成調整手段1530で当該増減を行なった成分の変化分を反映した組成とする。
【0054】
図16は耐熱金属材料の最適組成の予測アルゴリズムの説明図で、(A)は基本的なアルゴリズム、(B)は追加的なアルゴリズムである。
まず、基本的なアルゴリズムでは、クリープ破断寿命の被検対象となる材料の組成を基準となる組成と定める(S1600)。次に、耐熱金属材料成分の増減を行なって予測対象組成を定める(S1610)。続いて、耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測データベース1507に格納された感度予測データを基礎に、前記予測対象組成の耐熱金属材料に対するクリープ破断寿命の推定値を演算する(S1630)。クリープ破断寿命の推定値から、目標となるクリープ破断寿命を実現する耐熱金属材料成分毎の組成範囲を予測する(S1640)。
【0055】
追加的なアルゴリズムでは、耐熱金属材料成分の増減を行なって予測対象組成を定める(S1610)工程の細部である。まず、耐熱金属材料成分の増減を行なう成分の一種類が指定される(S1615)。この指定に基づいて、当該増減を行なった成分の変化量は、クリープ破断寿命の被検対象となる材料で最も多く含まれる基となる成分の増減で吸収して、基となる成分を除く成分については前記クリープ破断寿命の被検対象となる材料の値を保持する組成を演算する(S1620)。この演算された組成は、当該増減を行なった成分の変化分を反映した組成であり、予測対象組成の耐熱金属材料として与えられる(S1625)。
<Ni基合金の耐食耐熱超合金板の700℃の10000時間クリープ破断応に及ぼす成分のAI予測>
【実施例0056】
実施例7では、Ni基合金の成分を変化させた時の破断応力の変化を検討した。ここで、Ni基合金の成分を変化させた時の破断応力の変化は、耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測に相当している。
図17は、本発明の一実施例を示すもので、Ni基合金700℃の10000時間クリープ破断応力に及ぼす成分のAI予測で、左側が供試材IEB、右側が供試材IECを示している。
10000時間クリープ破断応力は、耐食耐熱超合金板NCF 600-Pについて、Nb+Taが62MPa、Tiが47MPa、Coが42MPa、Moが44MPa、入れ替えない場合が42MPaとなっている。
熱交換器用継目無ニッケルクロム鉄合金管NCF 600 TBについて、Nb+Taが57MPa、Tiが68MPa、Coが72MPa、Moが75MPa、入れ替えない場合が74MPaとなっている。
【0057】
ここで、Ni基合金の成分(Nb+Ta、Ti、Co、Mo)を入れ替えるとは、インコネル(登録商標)600の公称組成比率の範囲内にある供試材IEB、供試材IECの組成比率から、当該成分の数値で交換する場合をいう。このようにすると、着目する特定成分の比率を変えながら、Niの組成比率でこの変動分を吸収すると、他の成分元素については組成比率が変わらないものが得られる。即ち、Nb+Taの成分は、クリープデータシートCDSによるとIEBが0.05質量%、IECが0.73質量%、またNiの成分はIEBが75.2質量%、IECが73.382質量%である。Nb+Taの成分比率を両者で入れ替てIEBを0.73質量%、IECを0.05質量%とすると、合計成分を他の成分比率を変えないで100質量%とするようにするため、Ni成分をIEBについて74.52質量%、IECについて74.062質量%と変化させている。これと同じことを他の交換成分について行っているものである。
【0058】
図18は、本発明の一実施例を示すもので、Ni基合金700℃の10000時間クリープ破断応に及ぼすNb+Ta成分のAI予測で、(A)は耐食耐熱超合金板NCF 600-P、(B)は熱交換器用継目無ニッケルクロム鉄合金管NCF 600 TBを示している。
耐食耐熱超合金板NCF 600-Pでは、実際のNb+Ta成分量は0.06質量%であるが、10000時間クリープ破断応力は43MPaとなっている。Nb+Ta成分量が0.05質量%から0.55質量%の範囲では、10000時間クリープ破断応力は45MPaとほぼ一定値である。これに対して、Nb+Ta成分量を1.0質量%まで増量すると、10000時間クリープ破断応力は123MPaと最大値を示し、Nb+Ta成分量を0.8質量%以上1.8質量%以下まで増量すると、10000時間クリープ破断応力は110MPaである。また、Nb+Ta成分量を0.55質量%から1.05質量%まで増量すると、10000時間クリープ破断応力は45MPaから110MPaまで増大する。
図18の実施例についても、Nb+Taの成分を変化させるごとに同様にNi成分を変化させている。即ち、対象となる成分の比率を両供試材で交換したのち、合計成分が100%になるようNi成分を調整している。
【0059】
熱交換器用継目無ニッケルクロム鉄合金管NCF 600 TBでは、実際のNb+Ta成分は0.75質量%であるが、10000時間クリープ破断応力は80MPaとなっている。Nb+Ta成分量が0.85質量%以上1.8質量%以下の範囲内では、10000時間クリープ破断応力がほぼ一定値の105MPaとなっている。他方で、Nb+Ta成分量が0.45質量%以上0.85質量%未満の範囲では、10000時間クリープ破断応力は急激に減少し、0.45質量%未満となると、10000時間クリープ破断応力はほぼ一定値の56MPaとなっている。
ほぼ同じ成分であるNi基合金のクリープ破断応力の違いが特定成分のわずかな違いによることが判明した。成分を変化させて機械学習することにより材料設計が可能である。
【実施例0060】
実施例8では、Co基合金のデータを用い、クリープ曲線を推測し、取得データと比較するクリープ破断時間のAI予測(応力と温度と成分全てを考慮)を行った。ここでの予測クリープ破断時間では、負荷応力に対応する破断時間を機械学習させた場合であって、温度と全ての成分を考慮しており、データ総数は9459点である。
図19は、本発明の一実施例を示すもので、Co基-25Cr-10Ni-7W-B合金の750℃のクリープ破断曲線のAI予測と実測値を示している。
【0061】
比較例5:(Co基合金のデータについて、負荷応力に対応する破断時間を機械学習させた場合)
図20は、本発明の比較例5を示すもので、Co基-25Cr-10Ni-7W-B合金の750℃のクリープ破断曲線の従来法によるAI予測と実測値を示すもので、従来法による負荷応力に対応する破断時間を機械学習させた場合を示している。
【0062】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
また、本発明の実施形態においては、学習に用いたクリープデータシートの耐熱金属材料の種類は、フェライト鋼鋼材、クロムモリブデン鋼鋼材、フェライト鋼鋼材、クロムモリブデン鋼鋼材、マンガン鋼鋼材、及びステンレス鋼鋼材等の耐熱鋼、並びにコバルト基合金材及びニッケル基合金材の全てが含まれている場合を示しているが(データ総数は9459点)、機械学習においては学習するデータ数が多いほど良いという一般原則に準拠したに過ぎず、予測する耐熱金属材料に応じて、フェライト鋼鋼材、クロムモリブデン鋼鋼材、フェライト鋼鋼材、クロムモリブデン鋼鋼材、マンガン鋼鋼材、及びステンレス鋼鋼材等の耐熱鋼、並びにコバルト基合金材及びニッケル基合金材の一種類又は一部の種類を用いたものでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のクリープ破断寿命に対応する負荷応力推定装置及び方法によれば、既存の実測データ、例えばクリープデータシートCDSを用いた機械学習によるクリープ破断寿命の高精度予測が行え、例えば高温環境下で運転される火力発電所プラントなどで使用される耐熱金属材料のクリープ破断寿命の予測が高精度化が実現できる。
本発明の耐熱金属材料の最適組成の予測装置及び方法によれば、特定成分を変化させた時の破断応力の変化から最適な成分の高精度予測が行え、耐熱金属材料の材料設計に用いて好適である。
【符号の説明】
【0064】
300、1500 コンピュータプログラム製品
302、1502 プログラム担持媒体
304、1504 プログラム命令格納部
306、1506 コンピュータ読取可能媒体
308、1508 記録可能媒体
309、1509 通信媒体
310 指定読込み機能部
320 クリープデータシート読込み機能部
325 教師付き機械学習を行う前処理部
330 機械学習演算部
335 機械学習評価部
340 アシスト機能部
1507 耐熱金属材料成分毎のクリープ破断寿命の感度予測データベース
1510 基準組成指定手段
1520 予測対象組成決定手段
1525 増減成分指定手段
1530 組成調整手段
1535 組成指定手段
1540 クリープ破断寿命推定値演算手段
1550 最適組成予測演算部


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図19
図20