IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 長春人造樹脂廠股▲ふん▼有限公司の特許一覧

特開2024-2864トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン組成物、それを含む塗料組成物及びその製造方法
<>
  • 特開-トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン組成物、それを含む塗料組成物及びその製造方法 図1
  • 特開-トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン組成物、それを含む塗料組成物及びその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002864
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン組成物、それを含む塗料組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20231228BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231228BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/63
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142912
(22)【出願日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】111123327
(32)【優先日】2022-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(31)【優先権主張番号】202210719433.7
(32)【優先日】2022-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】506253012
【氏名又は名称】長春人造樹脂廠股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】蔡彦廷
(72)【発明者】
【氏名】頼一江
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038EA011
4J038JA34
4J038JB05
4J038JB36
4J038KA03
4J038KA04
4J038KA06
(57)【要約】
【課題】トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン組成物、それを含む塗料組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン(tris(alkoxycarbonylamino)triazine,TACT)組成物は、TACTと炭酸ジブチル(dibutyl carbonate,DBC)を含み、そのうち、DBCは組成物の総重量の2~11wt%を占める。本発明の組成物を含む塗料組成物の使用により、被コーティング物の塗膜面に優れた膜面外観を持たせることができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン(tris(alkoxycarbonylamino)triazine,TACT)組成物であって、TACTと炭酸ジブチル(dibutyl carbonate,DBC)を含み、そのうち、前記DBCは前記組成物の総重量の2~11wt%を占める、トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン組成物。
【請求項2】
前記DBCは前記組成物の総重量の3~8wt%を占める、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記TACTは下記構造式(I)の構造を有し、
【化1】
そのうち、R~Rは各々独立してH、NR又は脂肪族であり、前記R及びRは独立してH、脂肪族、アルコキシ基又はカルバメート基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記R、R及びRはHである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記R、R及びRはC1~C6のアルキル基である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物の固形分は45~60wt%である、請求項1から5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物の25℃におけるpH値は4.5~7.0である、請求項1から5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物の25℃における粘度は10~30cpsである、請求項1から5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
下記構造式(II)と炭酸エステルをアルコールと塩基が存在する環境下で反応させることを含み、
【化2】
そのうち、前記構造式(II)中のR~Rは各々独立してH、NR又は脂肪族であり、前記R及びRは独立してH、脂肪族、アルコキシ基又はカルバメート基である、請求項1から8のいずれか1項に記載の組成物の製造方法。
【請求項10】
DBCを追加添加して前記組成物の総重量の2~11wt%を占めるようにすることをさらに含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記炭酸エステルは炭酸ジメチルである、請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記塩基はアルカリ金属アルコキシド又はアルカリ土類金属アルコキシドである、請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項13】
前記アルカリ金属アルコキシドはナトリウムtert-ブトキシド又はナトリウムメトキシドである、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
架橋剤として請求項1~8のいずれか1項に記載のTACT組成物を含む、塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン(tris(alkoxycarbonylamino)triazine,TACT)組成物、それを含む塗料組成物及びその製造方法に関し、トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン組成物は架橋剤として用いることができ、特に塗料組成物中の架橋剤として用いられる。
【背景技術】
【0002】
トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン(tris(alkoxycarbonylamino)triazine,TACT)は、反応性カルバメート官能基を含む三官能性メラミン基架橋剤であり、水性塗料と溶剤型塗料の架橋剤とすることができる。また、TACTを含有する塗料組成物は固化過程中にホルムアルデヒドを放出することがなく、被コーティング物の塗膜面に良好な硬度や耐薬品性を持たせることもできる。そのため、TACTを含有する塗料組成物は塗料分野で広く用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本願発明者は、TACT塗料組成物の調製過程には副産物である炭酸ジブチル(dibutyl carbonate,DBC)の生成が伴うことを多方面の実験により発見した。さらに、本発明者は研究により、副産物の含有量が高すぎても低すぎても、TACT塗料組成物にコーティングされた被コーティング物の塗膜面にピンホールの形成や垂れなどの悪影響が生じ、被コーティング物の塗膜面の美観性を大幅に低下させてしまうことを発見した。
【0004】
本願発明者は、TACT塗料組成物中の副産物DBCが被コーティング物の塗膜面外観に影響を及ぼさないようにするには、塗料組成物中のDBC含有量を2~11wt%の間にコントロールすることが有効であり、これによりその塗料組成物にコーティングされた被コーティング物に優れた塗膜面外観を効果的に持たせられることを多くの実験により発見した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明は、トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン(tris(alkoxycarbonylamino)triazine,TACT)組成物を提供することを目的としており、それはTACTと炭酸ジブチル(dibutyl carbonate,DBC)を含み、そのうち、DBCは組成物の総重量の2~11wt%を占める。
【0006】
1つ以上の実施例において、DBCは組成物の総重量の3~8wt%を占める。
【0007】
1つ以上の実施例において、TACTは下記構造式(I)の構造を有する。
【化1】
そのうち、R~Rは各々独立してH、NR又は脂肪族であり、R及びRは独立してH、脂肪族、アルコキシ基又はカルバメート基である。
【0008】
1つ以上の実施例において、R、R及びRはHである。
【0009】
1つ以上の実施例において、R、R及びRはC1~C6のアルキル基である。
【0010】
1つ以上の実施例において、組成物の固形分は45~60wt%である。
【0011】
1つ以上の実施例において、組成物の25℃におけるpH値は4.5~7.0である。
【0012】
1つ以上の実施例において、組成物の25℃における粘度は10~30cpsである。
【0013】
本発明の別の目的は、組成物の製造方法を提供することであり、それは下記構造式(II)と炭酸エステルをアルコールと塩基が存在する環境下で反応させることを含む。
【化2】
そのうち、構造式(II)中のR~Rは各々独立してH、NR又は脂肪族であり、R及びRは独立してH、脂肪族、アルコキシ基又はカルバメート基である。
【0014】
1つ以上の実施例において、製造方法には、DBCを追加添加して組成物の総重量の2~11wt%を占めるようにすることをさらに含む。
【0015】
1つ以上の実施例において、炭酸エステルは炭酸ジメチルである。
【0016】
1つ以上の実施例において、塩基はアルカリ金属アルコキシド又はアルカリ土類金属アルコキシドである。
【0017】
1つ以上の実施例において、アルカリ金属アルコキシドはナトリウムtert-ブトキシド又はナトリウムメトキシドである。
【0018】
本発明の別の目的は塗料組成物を提供することであり、それは架橋剤として上述のTACT組成物を含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明の効果は以下のとおりである。本発明のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン組成物の使用により、被コーティング物に優れた塗膜面外観を持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の試料中のDBC含有量を計算する際に使用したDBC検量線である。
図2】実施例1~5及び比較例1~3の塗料の試験結果写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の実施形態は、本発明を過度に限定するものではない。本発明が属する技術分野の当業者は、本発明の精神又は範囲から逸脱せずに本明細書中で検討する実施例に対して修正や変更を行うことができ、それらの修正や変更は本発明の範囲に属する。
【0022】
本明細書に記載の「1」及び「一種」とは、本明細書において文法の対象が1つ以上(即ち少なくとも1つ)存在することをいう。
【0023】
本発明は、トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン(tris(alkoxycarbonylamino)triazine,TACT)組成物を提供することを目的としており、それはTACTと炭酸ジブチル(dibutyl carbonate,DBC)を含み、そのうち、DBCは組成物の総重量の2~11wt%を占める。
【0024】
本明細書に記載の「トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン組成物(tris(alkoxycarbonylamino)triazine,TACT)」とは、TACTと組成物の総重量の2~11wt%を占める炭酸ジブチル(dibutyl carbonate,DBC)を含む組成物をいい、且つTACTは下記構造式(I)の構造を有する。
【化3】
そのうち、R~Rは各々独立してH、NR又は脂肪族であり、R及びRは独立してH、脂肪族、アルコキシ基又はカルバメート基である。
【0025】
上述の「脂肪族」とは、直鎖、分岐鎖又は閉環構造の有機化合物又はフリーラジカルをいい、1つ以上の飽和炭素結合又は不飽和炭素結合を含むことができ、且つ1~24個の炭素原子を有し、具体的には例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23又は24個の炭素原子であるが、これらに限定されない。
【0026】
1つ以上の実施例において、R、R及びRは、限定されないが、好適にはC1~C6のアルキル基であり、且つ上述の「アルキル基」とは、単結合(アルキル基)及び二重結合(オレフィン基)を含む直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族基をいい、それは1~12個の炭素原子を有し、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12個の炭素原子であり、本発明では1~6個の炭素原子であるのが好ましい。アルキル基は具体的には、メチル基、エチル基、1-プロピル基、イソプロピル基、1-ブチル基、2-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、4-メチルペンチル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、ヘキシル基、1-メチルヘキシル基、2,2-ジメチルペンチル基、3,3-ジメチルペンチル基、4,4-ジメチルペンチル基、1,2-ジメチルペンチル基、1,3-ジメチルペンチル基、4,4-ジメチルペンチル基、1,2-ジメチルペンチル基、1,3-ジメチルペンチル基、1,4-ジメチルペンチル基、1,2,3-トリメチルブチル基、1,1,2-トリメチルブチル基、1,1,3-トリメチルブチル基、5-メチルヘプチル基、1-メチルヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基又はドデシル基などであるが、これらに限定されない。
【0027】
1つ以上の実施例において、R、R及びRはHである。
【0028】
1つ以上の実施例において、DBCはTACT組成物の総重量の2~11wt%を占めており、具体的には例えば、2wt%、3wt%、4wt%、5wt%、6wt%、7wt%、8wt%、9wt%、10wt%又は11wt%のうちの任意の2つの数値間の範囲であるが、これらに限定されない。本発明では3~8wt%であるのが好ましい。
【0029】
1つ以上の実施例において、TACT組成物の固形分は45~60wt%であり、且つ固形分の測定方法はDIN EN ISO 3251を参考に実施した。即ち、105℃においてTACT組成物を2時間焼成した後に、元の総量に占めるTACT組成物の残分の質量パーセントである。TACT組成物の固形分は、具体的には例えば、45wt%、46wt%、47wt%、48wt%、49wt%、50wt%、51wt%、52wt%、53wt%、54wt%、55wt%、56wt%、57wt%、58wt%、59wt%又は60wt%のうちの任意の2つの数値間の範囲であるが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書に記載の「pH値」とは、TACT組成物の25℃における測定結果をいう。本願発明者は、TACT組成物の25℃下で測定して得るpH値が高すぎても低すぎても、組成物を分解させてしまう可能性があるため、TACT組成物の25℃下で測定して得るpH値を一定範囲内にコントロールするのが好ましいことを発見した。1つ以上の実施例において、TACT組成物の25℃におけるpH値は4.5~7.0であり、具体的には例えば、4.5、4.75、5.0、5.25、5.5、5.75、6.0、6.25、6.5、6.75又は7.0のうちの任意の2つの数値間の範囲であるが、これらに限定されない。
【0031】
本明細書に記載の「粘度」とは、TACT組成物の25℃における測定結果をいう。本願発明者は、TACT組成物の25℃下で測定して得る粘度が高すぎても低すぎても、TACT組成物を含有する塗料のコーティングに不都合であるため、TACT組成物の25℃下で測定して得る粘度を一定範囲内にコントロールするのが好ましいことを発見した。1つ以上の実施例において、TACT組成物の25℃における粘度は10~30cpsであり、具体的には例えば、10cps、12cps、14cps、16cps、18cps、20cps、22cps、24cps、26cps、28cps又は30cpsのうちの任意の2つの数値間の範囲であるが、これらに限定されない。
【0032】
本発明の別の目的は、組成物の製造方法を提供することであり、それは下記構造式(II)と炭酸エステルをアルコールと塩基が存在する環境下で反応させることを含む。
【化4】
そのうち、構造式(II)中のR~Rは、各々独立してH、NR又は脂肪族であり、R及びRは独立してH、脂肪族、アルコキシ基又はカルバメート基である。
【0033】
1つ以上の実施例において、炭酸エステルは炭酸ジメチルである。
【0034】
1つ以上の実施例において、アルコールはアルカノールであり、具体的には例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ネオペンタノール、tert-ペンタノール、ヘキサノール、2-メチルペンタノール、ヘプタノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール、イソオクタノール、ノナノール、イソノナノール、デカノール、イソデカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、イソトリデカノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-プロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、2-又は3-メトキシプロパノール、2-又は3-エトキシプロパノール、2-又は3-プロポキシプロパノール、2-又は4-メトキシブタノール、2-又は4-エトキシブタノール、3,6-ジオキサヘプタノール、3,6-ジオキサオクタノール、3,7-ジオキサオクタノール、4,7-ジオキサオクタノール、2-又は3-ブトキシプロパノール、2-又は4-ブトキシブタノールなどであるが、これらに限定されない。本発明において使用するアルコールは、単独で又は混合して使用することができ、混合して使用する場合には、各アルコール組成物の混合物中の成分と割合は使用状況に応じて任意に調整することができる。
【0035】
1つ以上の実施例において、塩基はアルカリ金属アルコキシド又はアルカリ土類金属アルコキシドであり、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムn-プロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシド、マグネシウムメトキシド又はマグネシウムエトキシドなどであるが、これらに限定されない。好ましい実施例において、アルカリ金属アルコキシドはナトリウムt-ブトキシド又はナトリウムメトキシドである。
【0036】
TACT組成物の調製過程における副産物DBCの生成量を効果的にコントロールするために、塗料組成物のプロセスパラメータを調整することができる。特に、ナトリウムメトキシド(Sodium methoxide,SM)又はナトリウムt-ブトキシド(Sodium tert-butoxide,STB)の添加量を調整するが、DBCの含有量が過剰である場合には、SMの添加量を増やす又はSTBの添加量を減らすことでDBCの生成量を低下させることができ、逆に、DBCの含有量が不足している場合には、SMの添加量を減らす又はSTBの添加量を増やすことでDBCの生成量を増加させることができる。また、炭酸エステルの添加量のコントロールによっても調整することができ、炭酸エステルの添加量を多くするほど、組成物中のDBCの含有量を増加させることができる。
【0037】
本願発明者はさらに、特定の理論に限定されるものではないが、上述の特に炭酸エステル、SM又はSTBの添加量を調整することによって、TACT組成物の調製過程における副産物DBCの生成量をコントロールするという方式以外にも、DBCを追加添加する方式により、DBCが組成物の総重量の2~11wt%を占めるようにし、これによって被コーティング物に優れた塗膜面外観を持たせ得ることを発見した。
【0038】
よって、TACT組成物の調製過程には、適量のDBCを追加添加して組成物の総重量の2~11wt%を占めるようにすることをさらに含むことができる。
【0039】
本発明の別の目的は塗料組成物を提供することであり、それは架橋剤として上述のTACT組成物を含む。
【0040】
1つ以上の実施例において、塗料組成物はポリマー樹脂をさらに含むことができ、例えば、官能基化又は非官能基化のアクリル酸、スチレン・アクリル酸、エチレン・アクリル酸、ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレタン又はアルキド樹脂ポリマーなどであるが、これらに限定されない。
【0041】
1つ以上の実施例において、塗料組成物中の各成分の溶解性、分散性及び/又は保存安定性を高めるために、塗料組成物は溶媒をさらに含むことができる。上述の溶媒は、水又は有機溶媒でよく、有機溶媒は、具体的な例としてブチルグリコール、ブチルジグリコール、エトキシプロパノール、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル又はエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられるグリコールエーテルや、具体的な例としてエチルグリコールアセテート、ブチルグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート又はメトキシプロピルアセテートなどが挙げられるグリコールエーテルエステルや、具体的な例としてプロピレングリコール及びそのオリゴマーなどが挙げられるグリコールや、具体的な例として酢酸ブチル、酢酸イソブチル又は酢酸アミルなどが挙げられるエステル類や、具体的な例としてメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン又はイソホロンなどが挙げられるケトン類や、具体的な例としてメタノール、エタノール、(イソ)プロパノール、ブタノール又はヘキサノールなどが挙げられるアルコールや、具体的な例としてN-エチルピロリドンなどが挙げられるN-アルキルピロリドンや、具体的な例としてトルエン又は脂肪族炭化水素などが挙げられる芳香族炭化水素や、ワニス溶媒(S100)など、又は上述の任意の溶媒の組み合わせでよいが、これらに限定されない。
【0042】
1つ以上の実施例において、塗料組成物は、添加剤として触媒、消泡剤、光安定剤、顔料、分散剤、流動性改質剤、流動剤及び填料などをさらに含むことができる。
【0043】
上述の触媒は、酸触媒、アルカリ触媒又は塩基触媒でよいが、これらに限定されない。上述の消泡剤は、ポリエーテル系消泡剤、有機ケイ素系消泡剤又は鉱物油系消泡剤などでよいが、これらに限定されない。上述の光安定剤は、紫外線遮蔽剤(UV protective powder)、紫外線吸収剤(UV absorber,UVA)、消光剤(quencher)又はヒンダードアミン光安定剤(hindered amine light stabilizer,HALS)でよいが、これらに限定されない。上述の分散剤は、陰イオン性湿潤分散剤、陽イオン性湿潤分散剤、非イオン性湿潤分散剤、双性イオン性湿潤分散剤、電気的中性の湿潤分散剤、高分子性超分散剤又はリビングラジカル性超分散剤などでよいが、これらに限定されない。上述の流動性改質剤は、無機性の流動性助剤又は有機性の流動性助剤でよく、具体的には例えば、ポリビニルピロリドン共重合体、ケイ酸アルミニウムマグネシウム結晶性水和物、非会合型増粘剤、会合型増粘剤又は非イオン性の会合型増粘剤などであるが、これらに限定されない。上述の填料は二酸化ケイ素でよいが、これに限定されない。
【実施例0044】
以下では実施例によって本発明をより詳細に説明する。但し、それらの実施例は本発明の理解を助けるためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
【0045】
[試料の調製]
実施例1
36gのメラミン(melamine,Mel)と99.9gの炭酸ジメチル(dimethyl carbonate,DMC)を60gのn-ブチルアルコール(n-butyl alcohol,NBA)中に投入して、反応混合物を形成した。次に、反応混合物中に20%のナトリウムtert-ブトキシド(sodium tert-butoxide,STB)を含有するn-ブチルアルコール(NBA)溶液625gを加え、反応混合物を85℃まで昇温し、前述の環境下で180分間攪拌した後、反応混合物を室温まで冷却した。次に反応混合物中に25%の硫酸水溶液300gを加えて、反応混合物が均一な相を呈するまで攪拌した。反応混合物を静置した後、反応混合物の下層水を排出した。次に残った反応混合物を水で攪拌して洗浄した後、再び反応混合物を静置してその下層水を排出した。その後、減圧昇温により反応混合物から余分な水分とNBAを蒸留除去してから、再びNBAを加えて反応混合物を希釈した。次にろ過紙で反応混合物中の固体残渣をろ過し、最終的に実施例1のTACT組成物試料を得てから、DBC含有量の検出を行った。
【0046】
実施例2
36gのMelと88.8gのDMCを60gのNBA中に投入して、反応混合物を形成した。次に、反応混合物中に20%のSTBを含有するNBA溶液625gを加え、反応混合物を85℃まで昇温し、前述の環境下で180分間攪拌した後、反応混合物を室温まで冷却した。次に反応混合物中に25%の硫酸水溶液300gを加えて、反応混合物が均一な相を呈するまで攪拌した。反応混合物を静置した後、反応混合物の下層水を排出した。次に残った反応混合物を水で攪拌して洗浄した後、再び反応混合物を静置してその下層水を排出した。その後、減圧昇温により反応混合物から余分な水分とNBAを蒸留除去してから、再びNBAを加えて反応混合物を希釈した。次にろ過紙で反応混合物中の固体残渣をろ過し、最終的に実施例2のTACT組成物試料を得てから、DBC含有量の検出を行った。
【0047】
実施例3
実施例2のTACT組成物試料180gを取り、2.62gの炭酸ジブチル(dibutyl carbonate,DBC)を投入して均一に攪拌し、最終的に実施例3のTACT組成物試料を得てから、DBC含有量の検出を行った。
【0048】
実施例4
実施例2のTACT組成物試料180gを取り、10.57gのDBCを投入して均一に攪拌し、最終的に実施例4のTACT組成物試料を得てから、DBC含有量の検出を行った。
【0049】
実施例5
実施例1のTACT組成物試料180gを取り、12.45gのDBCを投入して均一に攪拌し、最終的に実施例5のTACT組成物試料を得てから、DBC含有量の検出を行った。
【0050】
比較例1
36gのMelと95gのDMCを60gのNBA中に投入して、反応混合物を形成した。次に、反応混合物中に14.7%のナトリウムメトキシド(Sodium methoxide,SM)を含有するNBA溶液586gを加え、反応混合物を85℃まで昇温し、前述の環境下で180分間攪拌した後、反応混合物を室温まで冷却した。次に反応混合物中に25%の硫酸水溶液345gを加えて、反応混合物が均一な相を呈するまで攪拌した。反応混合物を静置した後、反応混合物の下層水を排出した。次に残った反応混合物を水で攪拌して洗浄した後、再び反応混合物を静置してその下層水を排出した。その後、減圧昇温により反応混合物から余分な水分とNBAを蒸留除去してから、再びNBAを加えて反応混合物を希釈した。次にろ過紙で反応混合物中の固体残渣をろ過し、最終的に比較例1のTACT組成物試料を得てから、DBC含有量の検出を行った。
【0051】
比較例2
36gのMelと111gのDMCを60gのNBA中に投入して、反応混合物を形成した。次に、反応混合物中に20%のSTBを含有するNBA溶液625gを加え、反応混合物を85℃まで昇温し、前述の環境下で180分間攪拌した後、反応混合物を室温まで冷却した。次に反応混合物中に25%の硫酸水溶液300gを加えて、反応混合物が均一な相を呈するまで攪拌した。反応混合物を静置した後、反応混合物の下層水を排出した。次に残った反応混合物を水で攪拌して洗浄した後、再び反応混合物を静置してその下層水を排出した。その後、減圧昇温により反応混合物から余分な水分とNBAを蒸留除去してから、再びNBAを加えて反応混合物を希釈した。次にろ過紙で反応混合物中の固体残渣をろ過し、最終的に比較例2のTACT組成物試料を得てから、DBC含有量の検出を行った。
【0052】
比較例3
29gのMelと82.9gのDMCを972gのNBA中に投入して、反応混合物を形成した。次に、反応混合物中に14.7%のSM固体粉末87gを加え、反応混合物を78℃まで昇温し、前述の環境下で180分間攪拌した後、反応混合物を室温まで冷却した。次に反応混合物中に30%の硝酸水溶液338.2gを加えて、反応混合物が均一な相を呈するまで攪拌した。反応混合物を静置した後、反応混合物の下層水を排出した。次に残った反応混合物を水で攪拌して洗浄した後、再び反応混合物を静置してその下層水を排出した。その後、減圧昇温により反応混合物から余分な水分とNBAを蒸留除去してから、再びNBAを加えて反応混合物を希釈した。次にろ過紙で反応混合物中の固体残渣をろ過し、最終的に比較例3のTACT組成物試料を得てから、DBC含有量の検出を行った。
【0053】
[副産物DBCの検出]
各試料中の副産物DBC含有量の検出においては、オートサンプラーAOC-20i/AOC-20s(島津製作所製)を採用し、水素炎イオン化検出器(flame ionization detector,FID)でガスクロマトグラフィ(Gas Chromagtography)を行って検出した。検出条件は以下の通りである。
キャリアガス:窒素ガス
ガス流量:3.0ミリリットル/分
ガス体積:1ミリリットル
注入口温度:150℃
検出器温度:200℃
カラム:ZB-1 (1.50mm,0.53mmx30m)
検出器の昇温勾配曲線:試料の注入後、まず乾燥器の温度を40℃にして4分間維持してから、3℃/分の昇温速度で乾燥器の温度を68℃まで昇温し、さらに7℃/分の昇温速度で乾燥器の温度を150℃まで昇温させて5分間維持した。
総作動時間:30.05分間
【0054】
GCクロマトグラムの分析結果によれば、各試料の副産物DBCは保持時間の24~26分目時点で溶出されており、さらに検量線によって各試料のDBC含有量を計算した。
【0055】
[副産物DBC含有量の計算]
1.DBC検量線のプロット
500ppm、1500ppm、及び2500ppmのDBC標準品をテトラヒドロフラン(THF)溶液中に加えて、それぞれ3種類の異なるDBC標準液に調製し、次に上述のGC測定条件でそれらのDBC標準液の面積値を測定して、算出した面積値とそれに対応するDBC濃度値に基づき図1に示すDBC検量線にプロットした。
【0056】
2.DBC含有量の計算方法
測定対象試料をTHF溶液で50倍に希釈して、希釈後の試料を上述のGC測定条件で測定し、次に試料の保持時間の24~26分目の位置におけるDBCピークの面積値を計算してから、上述のプロットしたDBC検量線によって各試料のDBC含有量の換算を行った。
【0057】
[塗膜面外観試験]
各試料を下記表1の配合に従って塗料組成物に調製した後、フォードカップNo.4で約18~20秒の塗装粘度になるまで希釈し、各々をそれぞれ基板にスプレーコーティングして、コーティング完了後にそれらのコーティング済み基板を140℃で30分間焼成し、厚さ22~30μmの塗料層を有する基板を形成して、塗膜面外観の観察を行った。
【0058】
【表1】
【0059】
[実験結果]
表2を参照されたい。表2は、実施例1~5及び比較例1~3のTACT組成物試料の物理的特性、プロセスパラメータ、及びそれらの試料で調製した塗料組成物に行った塗膜面外観試験の結果である。図2も合わせて参照されたい。図2は実施例1~5及び比較例1~3の塗料の試験結果写真である。
【0060】
【表2】
【0061】
上の表2中、塗膜面外観の「正常」という評価は、塗膜面にピンホール又は垂れが何ら発生していないことをいう。従って、表2の実施例1~5からは、TACT組成物中のDBCが組成物の総重量の2~11wt%を占めるようにコントロールすることで、TACT組成物を含む塗料組成物が被コーティング物にコーティングされると、被コーティング物が優れた塗膜面外観を呈し得ることが分かる。これに対し、比較例1~3は、TACT組成物中のDBCが組成物の総重量の2~11wt%を占めるようにコントロールされていないため、比較例1のTACT組成物を含む塗料組成物がコーティングされた被コーティング物の塗膜面外観にはピンホールが現れており、比較例2と3の塗膜面には垂れの現象が現れている。
【0062】
要約すると、本発明は、TACTと組成物の総重量の2~11wt%を占める炭酸ジブチル(dibutyl carbonate,DBC)を含む、トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン(tris(alkoxycarbonylamino)triazine,TACT)組成物を使用することにより、それを含む塗料組成物にコーティングされた被コーティング物にピンホールの形成や垂れなどの現象が生じないようにすることができ、これによって優れた塗膜面外観を呈することができる。
【0063】
本明細書において提供する全ての範囲は、割り当て範囲内における各特定の範囲及び割り当て範囲の間の二次範囲の組み合わせを含むという意味である。また、別段の説明がない限り、本明細書が提供する全ての範囲は、いずれも範囲のエンドポイントを含む。従って、範囲1~5は、具体的には1、2、3、4及び5、並びに2~5、3~5、2~3、2~4、1~4などの二次範囲を含む。
【0064】
本明細書において参照される全ての刊行物及び特許出願はいずれも参照により本明細書に組み込まれ、且つありとあらゆる目的から、各刊行物又は特許出願はいずれも各々参照により本明細書に組み込まれることを明確且つ個々に示している。本明細書と参照により本明細書に組み込まれるあらゆる刊行物又は特許出願との間に不一致が存在する場合には、本明細書に準ずる。
【0065】
本明細書で使用する「含む」、「有する」及び「包含する」という用語は、開放的、非限定的な意味を有する。「1」及び「当該」という用語は、複数及び単数を含むと理解されるべきである。「1つ以上」という用語は、「少なくとも1つ」を指し、従って単一の特性又は混合物/組み合わせた特性を含むことができる。
【0066】
操作の実施例中又は他の指示する場所を除き、成分及び/又は反応条件を示す全ての数字は、全ての場合においていずれも「約」という用語を用いて修飾することができ、示した数字の±5%以内であるという意味である。本明細書で使用する「基本的に含まない」又は「実質的に含まない」という用語は、特定の特性が約2%未満であることを意味する。本明細書中に明確に記載されている全ての要素又は特性は、特許請求の範囲から否定的に除外することができる。
図1
図2