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▶ カーサリクス プロプライエタリー リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028648
(43)【公開日】2024-03-04
(54)【発明の名称】遺伝子改変された細胞およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240226BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240226BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240226BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240226BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20240226BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240226BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240226BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20240226BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240226BHJP
【FI】
C12N15/13
C12N5/10 ZNA
C12N15/12
C12N15/62 Z
C07K14/725
C07K16/28
C07K19/00
C12N5/0789
C12N5/0783
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024010098
(22)【出願日】2024-01-26
(62)【分割の表示】P 2021183110の分割
【原出願日】2016-11-23
(31)【優先権主張番号】2015904933
(32)【優先日】2015-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2016901328
(32)【優先日】2016-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(71)【出願人】
【識別番号】518184409
【氏名又は名称】カーサリクス プロプライエタリー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ボイド
(72)【発明者】
【氏名】アラン トラウンソン
(72)【発明者】
【氏名】河本 宏
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ジョン ハドソン
(72)【発明者】
【氏名】ランジェ シュー
(57)【要約】
【課題】遺伝子改変された細胞およびその使用の提供。
【解決手段】本発明は一般に、T細胞受容体および複数の別個の抗原決定基、例えば2つの別個の腫瘍抗原決定基に指向されたキメラ抗原受容体をコードする核酸を含む幹細胞(例えば、iPSCまたはHSC)の集団に関する。本発明は、T細胞受容体および複数の別個の抗原決定基に指向されたキメラ抗原受容体、例えば2つの別個の腫瘍抗原決定基を共発現するT細胞の集団も対象とする。本発明の細胞は、そのHLA型が集団の有意なセクターに適合する選択されたドナーに由来し得、様々な用途で、特に新生物状態の治療的処置との関連で有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年11月27日に出願された豪州仮特許出願第2015904933号、および2016年4月11日に出願された豪州仮特許出願第2016901328号からの優先権の利益を主張しており、これら仮特許出願の全体の内容は、参考として本明細書中に援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は一般に、T細胞受容体、および複数の別個の抗原決定基、例えば2つの別個の腫瘍抗原決定基に指向されたキメラ抗原受容体をコードする核酸を含む幹細胞(例えば、iPSCまたはHSC)の集団に関する。本発明は、T細胞受容体および複数の別個の抗原決定基に指向されたキメラ抗原受容体、例えば2つの別個の腫瘍抗原決定基を共発現するT細胞の集団も対象とする。本発明の細胞は、そのHLA型が集団の有意なセクターに適合する選択されたドナーに由来し得、様々な用途で、特に新生物状態の治療的処置との関連で有用である。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
本明細書において著者によって言及された刊行物の文献の詳細は、説明の終りにアルファベット順でまとめられる。
【0004】
本明細書内の先行するいかなる刊行物(または、それに由来する情報)、または公知のいかなる事項の参照も、その先行する刊行物(または、それに由来する情報)または公知の事項が、本明細書に関する努力の分野における技術常識の一部を形成することの承認または容認またはなんらかの形の示唆であるとはみなさず、またみなされるべきでない。
【0005】
悪性腫瘍またはがんは、制御の効かない様式で成長し、正常組織に侵入し、しばしば転移し、発生源の組織から離れた部位で成長する。一般に、がんは、悪性転換と呼ばれるほとんど理解されていない過程を受けた1つまたはごく少数の正常細胞に由来する。がんは、体内のほとんどあらゆる組織からも生じ得る。癌腫と呼ばれる上皮細胞に由来するがんは、がんの最も一般的な種類である。肉腫は、間葉組織の悪性腫瘍であり、線維芽細胞、筋細胞および脂肪細胞などの細胞から生じる。リンパ組織の固形悪性腫瘍はリンパ腫と呼ばれ、骨髄ならびにリンパ球および他の造血細胞の血液由来悪性腫瘍は、白血病と呼ばれる。
【0006】
がんは、先進国における3つの主要な死亡原因の1つである。これらの国において感染性疾患に対する処置および心臓血管疾患の予防は改善され続け、平均予測寿命は増加しているので、がんが、最も一般的な致命的疾患になる可能性が高い。したがって、がんを成功裏に処置するには、患者を死亡させることなくすべての悪性細胞を除去または破壊することが必要である。これを達成する理想的な方法は、腫瘍の細胞と正常な細胞対応物とを判別することになる腫瘍に対する免疫応答を誘導することである。しかしながら、がんを処置するための免疫学的アプローチは、結果を持続できずに1世紀にわたり試みられてきた。
【0007】
固形腫瘍は、がんによる死亡数の最大の原因になる。固形腫瘍は、それらが全身に一旦拡散または「転移した」ら、通常治癒不能である。転移性固形腫瘍の予後は、この50年でわずかしか改善されていない。固形腫瘍の治癒の最高の機会は、早期検出、その後固形腫瘍が、限局しており、腫瘍を排液するリンパ節または他の場所のいずれにも拡散していない場合の手術および/または放射線療法などの限局的処置の使用による。にも関わらず、この初期段階においてさえ、特に腫瘍が排液リンパ節に拡散した場合、微小転移として公知のがんの微視的沈着物が、全身に既に拡散した可能性があり、その後患者の死亡に至ることになる。この意味において、がんは、全身的に投与される処置を必要とする全身性疾患である。
【0008】
炭水化物、脂質もしくはタンパク質またはそれらの組合せなど任意の特定の分子実体を潜在的に標的する抗体の能力を活用する、毒素を搭載した抗体によりがんを攻撃しようとする試み「ゴールデンビュレット(Golden Bullet)」の歴史は長い。抗体は、がん細胞に一旦結合したら、補体またはFcR+NK/K細胞を係合し、細胞溶解を誘導することができる。残念なことに、主に低い親和性結合、低い溶解効率およびその短命さのため、がんの抗体処置は、一般に中等度の成功しか満たしていない。まとめると、これらは、がん細胞を迅速に破壊する抗体の力を損なっており、突然変異および免疫回避の危険性を増加させる。最近では、がん分子および免疫チェックポイント遮断分子に高親和性で指向された抗体に基づく治療を含めた抗体関連治療の報告がある。特に後者にはいくつかの臨床成功例があるが、そのような治療は様々な限定を今なお伴う。
【0009】
したがって、がん処置の一般的な方法は、外科的摘出(可能ならば)、その後、必要に応じて、放射線療法および/または化学療法を行う長く使用されてきたプロトコールに従い続ける。どちらかといえば未完成形のこの処置の成功率は極めて多様であるが、腫瘍がより進行し、転移するにつれて一般に有意に低下する。さらに、これらの処置は、手術による傷跡および瘢痕(例えば、乳房切除、または肢切断)、化学療法による重度の悪心および嘔吐、最も著しくは、大部分のがん処置の部分を形成する毒性薬物の比較的非特異的な標的化機構の結果として誘導される毛包、腸および骨髄などの正常組織への損傷を含めた重度の副作用を伴う。
【0010】
したがって、がん、特に転移性がんのための改善された全身的治療を開発する緊急かつ継続中の必要性がある。
【0011】
本流であるT細胞の胸腺生成は、感染に対する防御に基本的に必要である。「免疫監視」T細胞のこのプールは、身体を巡回して、がんを含めた損傷したまたは異常な細胞を除去する。胸腺に基づくT細胞産生は、T細胞受容体(TCR)レパートリーのランダムな生成によって特徴付けられるので、胸腺細胞増殖は、自己を攻撃する潜在性を持つ発達中の胸腺T細胞を排除または機能的に封じる非常に厳格な選択過程も含まなければならない。したがって、この「自己寛容」は自己免疫性疾患を制限する(Fletcherら、2011年)。しかしながら、ウイルス誘導性ではないがんが、「自己」の疾患と定義されたならば、必然的に、この過程はまさしく、がんに対する免疫監視を損なう。これは、腫瘍関連抗原と潜在的に反応性がある可能性がある胸腺において生じるT細胞の多くが、血液に入る前に排除され得ることを意味する。少なく見積もっても、それらは数的に不十分であり、おそらく低親和性TCRを有することになる。これにも関わらず、T細胞は、がんに対して明らかに潜在的に主要な武器であり、したがって、課題は、がんを検出する力を増加させ、それを数的に増大させ、強力な細胞溶解能を保持、または向上、増強させることである。抗体およびT細胞は、がんに対して最も論理的な武器であるが、その潜在的に迅速で有効ながん壊滅は、臨床的に認識されてこなかった。免疫治療における前進は、T細胞シグナル伝達分子へ細胞質的にカップリングされたがん抗原結合抗体断片からなる新規のキメラ膜受容体を発現するための遺伝子操作T細胞によって発展した。一般に後者は、TCRζ鎖、CD28またはCD40リガンドのうちの1つまたはすべてである(Corrigan-Curayら(2014年);Fedorovら(2014年);Pernaら(2014年);Curranら(2015年);Curranら(2012年);Dottiら(2014年);Hanら(2013年))。そのような、キメラ抗原受容体(CAR)発現T細胞(CAR-T)は、免疫系の2つの最も強力な抗がん武器を生かすだけでなく、その個々の不十分さも克服する。CAR-Tは強力かつ局所性の細胞溶解能を保持しており、内因性(instrinsic)TCRに対する正常な信任を防止して、HLAくぼみにおいて発現される非常に希少な「がんペプチド」を検出する。そのようなわずかなペプチドに特異的なT細胞のレパートリーは、非常に希少である。CARの抗体部分は、T細胞にがん探索特異性を付与し、血中抗体のよく知られている低いがん破壊有効性を克服する。したがって、がん結合は、CARの抗体ドメインによって媒介され、細胞質シグナル伝達をもたらし、T細胞溶解経路を誘発してがんを破壊する。
【0012】
今なお臨床初期であるが、多数のCAR-T臨床試験が進行中である。考えられるような望みと同程度に、問題を含み、その臨床的有効度が十分認識されることを阻むCAR-T技術の態様がいくつかある。最も明らかなものは、T細胞媒介性がん壊滅の間に起こり、腫瘍細胞量依存的なサイトカイン急増である。発熱は、がん壊滅の指標となるが、慎重に管理しなければ重度の臨床副作用をもたらし得る(Davilaら(2014年);Casucci
ら(2015年))。現在の管理は、抗IL6などのサイトカインモジュレーション処置による。さらに、初期のがんを攻撃するためだけでなく、再発の場合に充分な供給を保つために生成されるCAR-T細胞の数的な不足に関連する有意な問題が存在する。現在では、この問題に対処する試みは、in vitroにおける増殖誘導サイトカインの過剰な使用に基づく。またさらに、がんを攻撃するのにCAR-T細胞が有効であるのと同程度に、CD19がんに対してさえ、腫瘍壊滅は、100%有効とはいかない。最高90%の応答性が、B-ALLについて報告されているが、他のCD19がんにおける結果はそれほど有効でない。したがって、CAR-Tの実用性に関する有望な観察にも関わらず、がん処置に関して信頼性が高く、有効な新規の至適基準としての地位を占め得る前にこの技術が克服すべき重要な問題が今なお存在する。
本発明に先行する仕事において、CAR-T細胞が、トランスフェクトされた胸腺細胞ではなく、トランスフェクトされた成体幹細胞などの幹細胞または他のトランスフェクトされた体細胞性細胞型に由来し得る場合、CAR-T技術の有効な治療適用に関して現在存在している一見異なる問題が解決可能であることが、とりわけ決定された。例えば、幹細胞(成人体細胞性細胞に由来する人工多能性幹細胞[「iPSC」]など)をキメラ抗原受容体でトランスフェクトすることにより、これらの自己新生するトランスフェクトされた幹細胞に由来する体細胞性T細胞の継続する供給のため、特定の腫瘍に指向されたCAR-T細胞の充分な存在および今後の供給を得る問題が解決される。またさらに、トランスフェクトされた幹細胞に由来するこれらのiPSC、それゆえCAR-T細胞は、ホモ接合性HLAハプロタイプ、特に集団内で広く発現されるHLA型にホモ接合性を発現しているドナーから事前に選択することができ、それにより幅広いドナー適合性を呈する細胞のバンクを生成する手段を得られる。またさらに、目的の抗原に指向されたT細胞受容体特異性を呈するT細胞からのiPSCの生成は、がん抗原に特異的なそのTCRに対する遺伝子再構成が、iPSCに組み込まれることになることを意味すると決定された。そのiPSCから誘導されるすべてのT細胞は、抗がんTCR特異性を保持することになる。これに続いて、CARでそのようなiPSCをトランスフェクトすることができ、その後CD4+またはCD8+T細胞などのT細胞へ前記iPSCを分化させることが可能であり、そのiPSCは、CARが指向された抗原および元来のT細胞が指向された抗原に指向されたTCRに対する二重特異性を安定して呈する。本発明をいずれか1つの理論または作用機序に制限するものではないが、これは後成的な記憶作用によると考えられる。またさらに、二重特異的NKT細胞を同じように生成し得ることも決定された。したがって、複数の別個の腫瘍抗原決定基など、複数の別個の抗原決定基に選択的かつ安定して指向されたTおよびNKT細胞の継続する供給を提供することができ、それによって、成すべきより治療的に有効な処置ステップが可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Fletcher AL, Calder A, Hince MN, Boyd RL, Chidgey AP. (2011). The contribution of thymic stromal abnormalities to autoimmune disease. Crit Rev Immunol; 7(12) :954-63
【非特許文献2】Corrigan-Curay J, Kiem HP, Baltimore D, O’Reilly M, et al, Kohn DB. (2014). T-cell immunology: looking forward. Mol Ther.; 22(9):1564-74
【非特許文献3】Fedorov VD, Sadelain M, Kloss CC. (2014). Novel approaches to enhance the specificity and safety of engineered T cells. Cancer J; 20(2):160-53
【非特許文献4】Perna SK, Savoldo B, Dotti G (2014). Genetic modification of cytotoxic T lymphocytes to express cytokine receptors. Methods Mol Biol.; 1139:189-200
【非特許文献5】Curran KJ, Seinstra BA, Nikhamin Y, Yeh R et al Brentjens RJ (2015) Enhancing Antitumor Efficacy of Chimeric Antigen Receptor T Cells Through Constitutive CD40L Expression. Mol Ther.; Jan 13. doi: 10. 1038/mt. 2015. 4. [Epub ahead of print]
【非特許文献6】Curran KJ, Pegram HJ, Brentjens RJ. (2012). Chimeric antigen receptors for T cell immunotherapy: current understanding and future directions. J Gene Med.; 14(6):405-15
【非特許文献7】Dotti G, Gottschalk S, Savoldo B, Brenner MK. (2014). Design and development of therapies using chimeric antigen receptor-expressing T cells. Immunol Rev.; 257(1):107-26
【非特許文献8】Han EQ, Li XL, Wang CR, Li TF, Han SY. (2013). Chimeric antigen receptor-engineered T cells for cancer immunotherapy: progress and challenges. J Hematol Oncol.; 8;6:47
【非特許文献9】Davila ML, Riviere I, Wang X, Bartido S, et al Brentjens R. (2014). Efficacy and toxicity management of 19-28z CAR T cell therapy in B cell acute lymphoblastic leukemia. Sci Transl Med.; 6(224):224
【非特許文献10】Casucci M, Hawkins RE, Dotti G, Bondanza A. (2015). Overcoming the toxicity hurdles of genetically targeted T cells. Cancer Immunol Immunother.; 64(1):123-30
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の要旨
文脈が他に必要としない限り、後に続くこの明細書および請求項の全体を通じて、単語「comprise(含む)」、ならびに「comprises(含む)」および「comprising(含んでいる)」などの変形は、記載される整数(単数)もしくはステップ(単数)または整数(複数)もしくはステップ(複数)の群を含むが、他の任意の整数(単数)もしくはステップ(単数)または整数(複数)もしくはステップ(複数)の群を除外しないことを意味すると理解されよう。
【0015】
本明細書では、用語「に由来する」は、特定の整数または整数の群が、指定された種から始まるが、指定された供給源から必ずしも直接得られたわけではないことを示すと受け取られるべきである。さらに、本明細書では単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が別段明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。
【0016】
主題の明細書は、本明細書において参考文献の後に提示されるプログラムPatentIn Version 3.5を使用して作成したアミノ酸配列情報を含有する。各アミノ酸配列は、数字表示<210>その後の配列識別子(例えば、<210>1、<210>2、等)によって配列表において同定される。各アミノ酸配列に対する長さ、配列の型(タンパク質、等)および供給源生物は、数字表示欄<211>、<212>および<213>にそれぞれ提供される情報によって指示される。で言及されたアミノ酸配列は、表示配列番号:その後に続く配列識別子によって同定される(例えば、配列番号1、配列番号2、等)。明細書で言及された配列識別子は、後に配列識別子が続く配列表の数字表示欄<400>に提供される情報に関連付けられる(例えば、<400>1、<400>2等)。すなわち、明細書において詳述した配列番号1は、配列表において<400>1と示される配列に関連付けられる。
【0017】
別段の規定がない限り、本明細書において使用される技術および科学用語のすべては、この発明が属する当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0018】
本発明の一態様は、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞、またはそこから分化したT細胞であって、細胞が、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有し、キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を含み、前記受容体が、第2の抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている、細胞を対象とする。一部の実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する。
【0019】
別の態様では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞、またはそこから分化したT細胞であって、その細胞が、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するCD4T細胞に分化する能力を有し、キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を含み、前記受容体が、第2の抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている、細胞が提供される。一部の実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する。
【0020】
さらに別の態様では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞、またはそこから分化したT細胞であって、その細胞が、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するCD8T細胞に分化する能力を有し、キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を含み、前記受容体が、第2の抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている、細胞が提供される。一部の実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する。
【0021】
さらなる態様では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞、またはそこから分化したT細胞であって、その細胞が、iPSC(人工多能性幹細胞)またはHSC(造血幹細胞)であり、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有し、キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を含み、前記受容体が、第2の抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている、細胞が提供される。一部の実施形態では、iPSCまたはHSCなどの遺伝子改変された幹細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する。
【0022】
本発明の態様によると、一実施形態では、幹細胞(例えば、iPSC)は、TCR遺伝子が再編成を受けた細胞に由来する。
【0023】
別の実施形態では、前記幹細胞(例えば、iPSC)は、αβTCRを発現するT細胞または胸腺細胞に由来する。
【0024】
さらに別の実施形態では、前記幹細胞(例えば、iPSC)は、γδTCRを発現するT細胞または胸腺細胞に由来する。
【0025】
さらに別の実施形態では、前記幹細胞(例えば、iPSC)は、前記第1の抗原決定基、すなわち、前記幹細胞(例えば、iPSC)に由来するT細胞において発現されるTCRが指向されるのと同じ抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞または胸腺細胞に由来する。
【0026】
さらに別の実施形態では、前記幹細胞(例えば、iPSC)は、CD8であるT細胞または胸腺細胞に由来する。
【0027】
さらに別の実施形態では、前記幹細胞(例えば、iPSC)は、CD4であるT細胞または胸腺細胞に由来する。
【0028】
一実施形態では、幹細胞(例えば、iPSCまたはHSC)は、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するCD4T細胞に分化する能力を有する。別の実施形態では、幹細胞(例えば、iPSCまたはHSC)は、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するCD8T細胞に分化する能力を有する。
【0029】
さらに別のさらなる態様では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞、またはそこから分化したT細胞であって、その細胞が、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有し、キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を含み、前記受容体が、第2の抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されており、前記抗原決定基が、腫瘍抗原、微生物抗原または自己反応性免疫細胞抗原から選択される、細胞が提供される。一部の実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する。
【0030】
一実施形態では、前記幹細胞は、iPSCである。別の実施形態では、幹細胞はHSCである。
【0031】
別の実施形態では、前記幹細胞は、CD4T細胞またはCD8T細胞に分化する能力を有する。
【0032】
さらに別の実施形態では、前記TCRは、αβTCRである。
【0033】
なおさらに別の実施形態では、前記幹細胞(例えば、iPSC)は、T細胞または胸腺細胞、好ましくはCD8T細胞または胸腺細胞に由来する。一部の実施形態では、前記幹細胞(例えば、iPSC)は、前記第1の抗原決定基、すなわち、前記幹細胞(例えば、iPSC)に由来するT細胞において発現されるTCRが指向されるのと同じ抗原決定基に指向されているTCRを発現するCD8T細胞または胸腺細胞に由来する。
【0034】
さらに別の態様では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞、またはそこから分化したT細胞であって、その細胞が、第1の腫瘍抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有し、キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を含み、前記受容体が、第2の腫瘍抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されており、前記第1の抗原決定基が、WT-1またはEbvLMP2など、TCRに認識されるペプチドから選択され、前記第2の抗原決定基が、例えば、TAG-72、CD19、MAGE、またはCD47から選択される、細胞が提供される。一部の実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する。
【0035】
本明細書に開示される遺伝子改変された哺乳動物幹細胞(例えば、iPSCまたはHSC)は、第1の抗原決定基(例えば、第1の腫瘍抗原決定基)に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有し、第2の抗原決定基に指向され、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている抗原認識部分(例えば、第2の腫瘍抗原決定基)を含むキメラ抗原受容体をコードする核酸分子を含む。すなわち、本明細書に開示される遺伝子改変された幹細胞(例えば、iPSCまたはHSC)は、複数、すなわち、少なくとも2つ(言い換えれば、2つまたはそれよりも多い)の抗原決定基に指向されたT細胞に分化する能力を有する。一部の実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する。
【0036】
したがって、さらなる態様では、2つより多い抗原決定基に指向されたT細胞に分化する能力を有する遺伝子改変された哺乳動物幹細胞が提供される。
【0037】
本発明の態様によると、一部の実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞(例えば、iPSCまたはHSC)は、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有し、複数のキメラ抗原受容体をコードする複数の(すなわち、2つまたはそれよりも多い)核酸分子を含み、各キメラ抗原受容体が、抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている。一部の実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する。
【0038】
一実施形態では、複数のキメラ抗原受容体に指向される複数の抗原決定基は、前記幹細胞に由来するT細胞において発現されるTCRが指向される前記第1の抗原決定基とはそれぞれ別個である。別の実施形態では、複数のキメラ抗原受容体に指向される複数の抗原決定基は、それぞれ別個であり、前記幹細胞に由来するT細胞において発現されるTCRが指向される前記第1の抗原決定基も別個である。
【0039】
一実施形態では、CARをコードする複数の核酸は、隣接する1つの核酸断片に含まれる。例えば、CARをコードする複数の核酸は、細胞にトランスフェクトされる1つの構築物またはベクター内に置かれて、CARをコードする複数の核酸を含む遺伝子改変された哺乳動物幹細胞が生成される。特定の実施形態では、複数のCARポリペプチド配列を含む1つの単一ポリペプチドが初めに産生され、その後プロセシングされて複数のCARを産生するように、CARをコードする複数の核酸を1つの発現単位および読み枠の中で互いに連結することができる(例えば、P2Aなどの自己切断性ペプチドを利用することによる)。別の実施形態では、CARをコードする複数の核酸は、トランスフェクションに使用される別々のベクター内に置かれて、CARをコードする複数の核酸を含む遺伝子改変された哺乳動物幹細胞が生成される。CARをコードする核酸構築物の例が、図11に図示され、CARに対する典型的な配列およびCARにおける使用に適している様々なドメインが、配列番号1から2および7から20に提供される。
【0040】
さらに本発明の態様によると、2つより多い抗原決定基に指向されたT細胞に分化する能力を有する遺伝子改変された哺乳動物幹細胞であって、他の実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞(例えば、iPSCまたはHSC)(任意選択で、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する)が、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有し、第2の抗原決定基に指向され、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている抗原認識部分を含むキメラ抗原受容体をコードする核酸分子を含み、第3の抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含む抗原結合受容体をコードする核酸分子をさらに含む、細胞が提供される。これらの実施形態によると、そのような遺伝子改変された幹細胞は、複数の抗原決定基、好ましくは互いに別個の複数の抗原決定基に指向されたT細胞に分化する能力を有する。追加の抗原特異性は、本明細書に記載のCARをコードする複数の核酸を用いる、および/または抗原結合受容体をコードする複数の核酸を利用することによって提供することができる。
【0041】
一実施形態では、抗原結合受容体は、非シグナル伝達抗原結合受容体であり;言い換えれば、受容体は、細胞表面に固定され、第3の抗原決定基に結合するが、細胞の細胞質部分にシグナルを変換しない。一実施形態では、抗原結合受容体は、第3の抗原決定基に指向され、膜貫通ドメインに作動可能に連結されるが、T細胞活性化部分を欠く抗原認識部分を含む。
【0042】
特定の実施形態では、抗原結合受容体は、CD47に指向されている非シグナル伝達抗原結合受容体である。例えば、抗原結合受容体は、非シグナル伝達CD47結合分子、例えば、短縮された、CD47結合分子である。
【0043】
したがって、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞(例えば、iPSCまたはHSC)またはそこから分化したT細胞であって、その細胞が、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有し、(i)キメラ抗原受容体をコードする核酸分子であって、前記受容体が、第2の抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている核酸分子、および(ii)非シグナル伝達CD47結合分子、例えば、短縮されたCD47結合分子をコードする核酸分子を含む、細胞が提供される。一部の実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞(例えば、iPSCまたはHSC)は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する。
【0044】
別の態様では、本明細書に開示される遺伝子改変された哺乳動物幹細胞(iPSCまたはHSCなど)を作製する方法が提供される。
【0045】
一実施形態では、対象方法は、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有する哺乳動物幹細胞(iPSCまたはHSCなど)を得るステップであって、一実施形態では、その幹細胞(例えば、iPSCまたはHSC)が、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現するステップと;幹細胞に1つまたは複数のキメラ抗原受容体をコードする1つまたは複数の核酸分子であって、各キメラ抗原受容体が、抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている核酸分子を(例えば、トランスフェクションによって)導入するステップとを含む。別の実施形態では、方法は、幹細胞に1つまたは複数の抗原結合受容体(例えば、非シグナル伝達抗原結合受容体)をコードする1つまたは複数の核酸分子であって、各抗原結合受容体が、抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含む核酸分子を(例えば、トランスフェクションによって)導入するステップをさらに含む。さらに本明細書に開示するように、受容体をコードする複数の核酸は、単一ベクターまたは別々のベクターによって導入され得る。
【0046】
別の実施形態では、対象方法は、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞または胸腺細胞(好ましくはCD8+T細胞または胸腺細胞)を得るステップであって、一実施形態では、その細胞が少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプも発現するステップと;T細胞または胸腺細胞に1つまたは複数のキメラ抗原受容体をコードする1つまたは複数の核酸分子であって、各キメラ抗原受容体が、抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている核酸分子を導入するステップと;T細胞または胸腺細胞から幹細胞(例えば、iPSC)を得るステップとを含む。別の実施形態では、方法は、T細胞または胸腺細胞から幹細胞を得るステップの前に、T細胞または胸腺細胞に1つまたは複数の抗原結合受容体(例えば、非シグナル伝達抗原結合受容体)をコードする1つまたは複数の核酸分子であって、各抗原結合受容体が、抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含む核酸分子を導入するステップをさらに含む。
【0047】
さらに別の実施形態では、対象方法は、一部の実施形態では、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現するHSC(例えば、骨髄または血液から)を得るステップと;HSCに(i)第1の抗原決定基に指向されているTCRをコードする1つまたは複数の核酸、(ii)1つまたは複数のキメラ抗原受容体をコードする1つまたは複数の核酸分子であって、各キメラ抗原受容体が、前記第1の抗原決定基と異なる抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている核酸分子;および任意選択で(iii)1つまたは複数の抗原結合受容体(例えば、非シグナル伝達抗原結合受容体)をコードする1つまたは複数の核酸分子であって、各抗原結合受容体が、前記第1の抗原決定基と異なり、キメラ抗原受容体が指向される抗原決定基とも異なる抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含む核酸分子を導入するステップとを含む。本明細書に開示するように、受容体をコードする複数の核酸は、単一ベクターまたは別々のベクターによって導入され得る。そのような遺伝子改変されたHSCを使用して、複数の抗原決定基に特異性を有するT細胞を生成することができる。
【0048】
さらなる態様では、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現し、1つまたは複数のキメラ抗原受容体を発現するT細胞であって、各受容体が、抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている、細胞が提供される。一部の実施形態では、T細胞は、抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含む抗原結合受容体をさらに発現する。一部の実施形態では、そこに提供されるT細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する。
【0049】
別の態様では、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現し、1つまたは複数のCARを発現するT細胞を作製するための方法であって、各CARが、抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されており、任意選択で、それぞれが抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含む1つまたは複数の非シグナル伝達抗原結合受容体も発現する、方法が提供される。一部の実施形態では、本明細書に提供される方法は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現するT細胞を作製することを対象とする。
【0050】
本発明の別の態様は、上で記述した通り、哺乳動物において細胞の所望されない集団の存在によって特徴付けられる状態を処置する方法であって、前記哺乳動物に幹細胞またはT細胞の有効数を投与するステップを含む、方法を対象とする。
【0051】
一実施形態では、前記状態は、新生物状態、微生物感染(HIV、STDまたは抗生物質耐性菌など)または自己免疫性状態である。
【0052】
この実施形態によると、新生物状態を処置する方法であって、上で定義した通り、前記哺乳動物に幹細胞またはT細胞の有効数を投与するステップであって、前記TCRが、第1の腫瘍抗原決定基に指向され、前記CARが、第2の腫瘍抗原決定基に指向されるステップを含む、方法が提供される。
【0053】
さらに別の実施形態では、前記第1の腫瘍抗原決定基は、WT-1である。
【0054】
別の実施形態では、前記第2の腫瘍抗原決定基は、TAG-72、CD19、MAGEまたはCD47である。
【0055】
本発明のさらに別の態様は、上で定義した通り、哺乳動物において細胞の所望されない集団の存在によって特徴付けられる状態を処置するための医薬の製造における幹細胞またはT細胞の使用を対象とする。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
遺伝子改変された哺乳動物幹細胞であって、前記細胞が、第1の抗原決定基に指向されているT細胞受容体(TCR)を発現するT細胞に分化する能力を有し、抗原認識部分およびT細胞活性化部分を含むキメラ抗原受容体をコードする核酸分子を含み、前記抗原認識部分が、第2の抗原決定基に指向され、前記T細胞活性化部分に作動可能に連結されている、細胞。
(項目2)
少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する、遺伝子改変された幹細胞。
(項目3)
人工多能性幹細胞(iPSC)または造血幹細胞(HSC)である、項目1または2に記載の細胞。
(項目4)
前記iPSCまたはHSCが、CD4+T細胞またはCD8+T細胞に分化する能力を有する、項目3に記載の細胞。
(項目5)
前記T細胞が、αβTCRまたはγδTCRを発現する、項目3に記載の細胞。
(項目6)
前記iPSCが、T細胞または胸腺細胞に由来する、項目4に記載の細胞。
(項目7)
前記iPSCに由来する前記T細胞または胸腺細胞が、CD8+またはCD4+である、項目6に記載の細胞。
(項目8)
前記iPSCに由来する前記T細胞または胸腺細胞が、前記第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現する、項目6または7に記載の細胞。
(項目9)
前記iPSCに由来する前記T細胞または胸腺細胞において発現される前記TCRが、αβTCRまたはγδTCRである、項目8に記載の細胞。
(項目10)
前記第1および第2の抗原決定基が、腫瘍抗原、微生物抗原または自己反応性免疫細胞抗原からなる群から選択される、項目1に記載の細胞。
(項目11)
前記第1の抗原決定基が、腫瘍抗原、例えば、WT-1から選択される、項目10に記載の細胞。
(項目12)
前記第2の抗原決定基が、腫瘍抗原、例えば、TAG72、CD19、MAGEおよびCD47から選択される、項目10または11に記載の細胞。
(項目13)
前記抗原認識部分が、scFvを含む、先行する項目のいずれか一項に記載の細胞。
(項目14)
前記抗原認識部分が、ヒンジ領域および膜貫通ドメインによって前記T細胞活性化部分に連結されている、先行する項目のいずれか一項に記載の細胞。
(項目15)
前記ヒンジ領域が、IgG1のヒンジ領域、CD8のヒンジ領域またはCD28のヒンジ領域に由来する、項目14に記載の細胞。
(項目16)
前記ヒンジ領域が、キメラ抗原受容体の二量体化を促進するシステインを含む、項目14に記載の細胞。
(項目17)
前記膜貫通ドメインが、前記T細胞受容体のアルファ、ベータもしくはゼータ鎖の前記膜貫通ドメイン、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154またはIgG4などの免疫グロブリンに由来する、項目14に記載の細胞。
(項目18)
前記T細胞活性化部分が、TCRゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79bおよびCD66dからなる群から選択される分子の細胞内シグナル伝達配列を含む、先行する項目のいずれか一項に記載の細胞。
(項目19)
前記T細胞活性化部分が、CD27、CD28、4-lBB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、TIM-3、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3およびCD83と特異的に結合するリガンドからなる群から選択される共刺激分子の細胞内シグナル伝達配列をさらに含む、項目18に記載の細胞。
(項目20)
抗原認識部分およびT細胞活性化部分を含む追加のキメラ抗原受容体をコードする追加の核酸をさらに含み、前記追加のキメラ抗原受容体の前記抗原認識部分が、前記第1および第2の抗原決定基と異なる追加の抗原決定基に指向されている、先行する項目のいずれか一項に記載の細胞。
(項目21)
前記第1の抗原決定基およびキメラ抗原受容体が指向される抗原決定基と異なる抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含む非シグナル伝達抗原結合受容体をコードする核酸をさらに含む、先行する項目のいずれか一項に記載の細胞。
(項目22)
前記抗原認識部分が、ヒンジ領域によって膜貫通ドメインに作動可能に連結されている、項目21に記載の細胞。
(項目23)
前記抗原結合受容体が、CD47に指向されている、項目21または22に記載の細胞。
(項目24)
前記抗原結合受容体が、CD47に指向されているscFvを含む、項目23に記載の細胞。
(項目25)
前記抗原結合受容体のヒンジおよび膜貫通領域が、CD28のヒンジおよび膜貫通領域である、項目24に記載の細胞。
(項目26)
キメラ受容体をコードする前記核酸が、自己切断性ペプチドをコードするヌクレオチド配列を介して前記追加のキメラ抗原受容体をコードする前記追加の核酸に作動可能に連結されている、項目20に記載の細胞。
(項目27)
前記キメラ受容体をコードする前記核酸が、自己切断性ペプチドをコードするヌクレオチド配列を介して前記抗原結合受容体をコードする前記核酸に作動可能に連結されている、項目21に記載の細胞。
(項目28)
遺伝子改変された哺乳動物幹細胞を作製する方法であって、
第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有する哺乳動物幹細胞を得るステップと;
前記幹細胞に、1つまたは複数のキメラ抗原受容体をコードする1つまたは複数の核酸分子であって、各キメラ抗原受容体が、前記第1の抗原決定基と異なる抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、前記抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている、核酸分子;任意選択で、1つまたは複数の抗原結合受容体(例えば、非シグナル伝達抗原結合受容体)をコードする1つまたは複数の核酸分子であって、各抗原結合受容体が、前記第1の抗原決定基およびキメラ抗原受容体が指向される抗原決定基と異なる抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含む、核酸分子を導入するステップと
を含む方法。
(項目29)
前記幹細胞が、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する、項目28に記載の方法。
(項目30)
遺伝子改変された哺乳動物幹細胞を作製する方法であって、
第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞または胸腺細胞を得るステップであって、任意選択でT細胞または胸腺細胞がCD8+またはCD4+である、ステップと;
前記T細胞または胸腺細胞に、1つまたは複数のキメラ抗原受容体をコードする1つまたは複数の核酸分子であって、各キメラ抗原受容体が、前記第1の抗原決定基と異なる抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている、核酸分子;任意選択で、1つまたは複数の抗原結合受容体(例えば、非シグナル伝達抗原結合受容体)をコードする1つまたは複数の核酸分子であって、各抗原結合受容体が、前記第1の抗原決定基およびキメラ抗原受容体が指向される抗原決定基と異なる抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含む、核酸分子を導入するステップと;
T細胞または胸腺細胞から幹細胞を導き出すステップと
を含む方法。
(項目31)
前記T細胞または胸腺細胞が、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する、項目30に記載の方法。
(項目32)
前記幹細胞がiPSCである、項目28から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目33)
第1の抗原決定基に指向されているT細胞受容体(TCR)ならびに抗原認識部分およびT細胞活性化部分を含むキメラ抗原受容体を発現し、前記抗原認識部分が、第2の抗原決定基に指向され、前記T細胞活性化部分に作動可能に連結されている、T細胞。
(項目34)
前記T細胞が、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する、項目33に記載のT細胞。
(項目35)
前記T細胞が、CD4+T細胞またはCD8+T細胞である、項目33または34に記載のT細胞。
(項目36)
前記TCRが、αβTCRまたはγδTCRである、項目33または34に記載のT細胞。
(項目37)
前記少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する幹細胞に由来する、項目33または34に記載のT細胞。
(項目38)
前記幹細胞が、iPSCまたはHSCである、項目37に記載のT細胞。
(項目39)
前記iPSCが、前記第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞または胸腺細胞に由来する、項目38に記載のT細胞。
(項目40)
前記iPSCに由来する前記T細胞または胸腺細胞において発現される前記TCRが、αβTCRまたはγδTCRである、項目39に記載のT細胞。
(項目41)
前記T細胞または胸腺細胞が、CD8+である、項目39に記載のT細胞。
(項目42)
前記iPSCまたはHSCが、前記キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を含む、項目38に記載のT細胞。
(項目43)
前記第1および第2の抗原決定基が、腫瘍抗原、微生物抗原または自己反応性免疫細胞抗原からなる群から選択される、項目33に記載のT細胞。
(項目44)
前記第1の抗原決定基が、腫瘍抗原、例えば、WT-1およびEBVLMP2から選択される、項目43に記載のT細胞。
(項目45)
前記第2の抗原決定基が、腫瘍抗原、例えば、TAG72、CD19、MAGEおよびCD47から選択される、項目44に記載のT細胞。
(項目46)
前記抗原認識部分が、scFvを含む、項目33~45のいずれか一項に記載のT細胞。
(項目47)
前記抗原認識部分が、ヒンジ領域および膜貫通ドメインによって前記T細胞活性化部分に連結されている、項目33から46のいずれか一項に記載のT細胞。
(項目48)
前記ヒンジ領域が、IgG1のヒンジ領域、CD8のヒンジ領域またはCD28のヒンジ領域に由来する、項目47に記載のT細胞。
(項目49)
前記ヒンジ領域が、キメラ抗原受容体の二量体化を促進するシステインを含む、項目47に記載のT細胞。
(項目50)
前記膜貫通ドメインが、前記T細胞受容体のアルファ、ベータもしくはゼータ鎖の前記膜貫通ドメイン、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154またはIgG4などの免疫グロブリンに由来する、項目47に記載のT細胞。
(項目51)
前記T細胞活性化部分が、TCRゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79bおよびCD66dからなる群から選択される分子の細胞内シグナル伝達配列を含む、項目33から50のいずれか一項に記載のT細胞。
(項目52)
前記T細胞活性化部分が、CD27、CD28、4-lBB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3およびCD83と特異的に結合するリガンドからなる群から選択される共刺激分子の細胞内シグナル伝達配列をさらに含む、項目51に記載のT細胞。
(項目53)
抗原認識部分およびT細胞活性化部分を含む追加のキメラ抗原受容体をさらに発現し、前記追加のキメラ抗原受容体の前記抗原認識部分が、前記第1および第2の抗原決定基と異なる追加の抗原決定基に指向されている、項目33から52のいずれか一項に記載のT細胞。
(項目54)
前記第1の抗原決定基およびキメラ抗原受容体が指向される抗原決定基と異なる抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含む非シグナル伝達抗原結合受容体をさらに発現する、項目33から53のいずれか一項に記載のT細胞。
(項目55)
前記抗原認識部分が、ヒンジ領域によって膜貫通ドメインに作動可能に連結されている、項目54に記載のT細胞。
(項目56)
前記抗原結合受容体が、CD47に指向されている、項目54または55に記載のT細胞。
(項目57)
前記抗原結合受容体が、CD47に指向されているscFvを含む、項目56に記載のT細胞。
(項目58)
前記抗原結合受容体のヒンジおよび膜貫通領域が、CD28のヒンジおよび膜貫通領域である、項目57に記載のT細胞。
(項目59)
最初に翻訳されたときには前記キメラ受容体および前記追加のキメラ抗原受容体が、自己切断性ペプチドを介して互いに連結されており、前記自己切断性ペプチドの切断の結果としてその後分離される、項目53に記載のT細胞。
(項目60)
最初に翻訳されたときには前記キメラ受容体および前記抗原結合受容体が、自己切断性ペプチドを介して互いに連結されており、前記自己切断性ペプチドの切断の結果としてその後分離される、項目54に記載のT細胞。
(項目61)
項目1から27のいずれか一項に記載の幹細胞に由来するT細胞。
(項目62)
T細胞を作製する方法であって、
項目1から27のいずれか一項に記載の遺伝子改変された幹細胞を提供するステップと、前記遺伝子改変された幹細胞をT細胞に分化させるステップと
を含む方法。
(項目63)
T細胞を作製する方法であって、
第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有する幹細胞を得るステップと;
前記幹細胞をT細胞に分化させるステップと;
前記T細胞に1つまたは複数のキメラ抗原受容体をコードする1つまたは複数の核酸であって、各キメラ抗原受容体が第1の抗原決定基と異なる抗原決定基に指向されている、核酸、任意選択で、1つまたは複数の抗原結合受容体をコードする1つまたは複数の核酸であって、各抗原結合受容体が、前記第1の抗原決定基およびキメラ抗原受容体が指向される抗原決定基と異なる抗原決定基に指向されている、核酸を導入するステップと
を含む方法。
(項目64)
前記幹細胞が、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する、項目63に記載の方法。
(項目65)
前記幹細胞がiPSCまたはHSCである、項目62から64のいずれか一項に記載
の方法。
(項目66)
前記iPSCが、T細胞または胸腺細胞に由来する、項目65に記載の方法。
(項目67)
前記T細胞または胸腺細胞が、CD8+またはCD4+である、項目66に記載の方法。
(項目68)
前記iPSCが、前記iPSCに由来する前記T細胞において発現されるTCRが指向されるのと同じ抗原決定基に指向されている前記TCRを発現するT細胞または胸腺細胞に由来する、項目65に記載の方法。
(項目69)
哺乳動物において細胞の所望されない集団の存在によって特徴付けられる状態を処置する方法であって、前記哺乳動物に項目33から61のいずれか一項に記載のT細胞の有効数を投与するステップを含む、方法。
(項目70)
前記状態が、新生物状態、微生物感染(HIV、STDまたは抗生物質耐性細菌など)または自己免疫性状態である、項目69に記載の方法。
(項目71)
前記状態が、新生物状態であり、前記TCRが、第1の腫瘍抗原決定基に指向され、前記CARが、第2の腫瘍抗原決定基に指向されている、項目69に記載の方法。
(項目72)
前記第1の腫瘍抗原決定基が、WT1である、項目71に記載の方法。
(項目73)
前記第2の腫瘍抗原決定基が、TAG72である、項目71または72に記載の方法。(項目74)
前記哺乳動物に投与された前記細胞が、非シグナル伝達CD47結合受容体をコードする核酸分子を含む、項目71から73のいずれか一項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1A-1O】ウイルムス腫瘍1(WT-1)抗原に対して特異的なTCRを発現している細胞傷害性T細胞の刺激および増大。細胞は、全血末梢血単核細胞(PBMC)から単離された。細胞は、散布図も示されて(B、G、L)、単一細胞(A、F、K)について、次にCD3陽性細胞(APCCy7にコンジュゲートされている;C、H、M)によって、次にCD8(PECy7にコンジュゲートされている)およびCD4(PerCpにコンジュゲートされている;D、I、N)について、最後にCD8細胞単独(E、J、O)についてゲーティングされた。WT-1染色がWT-137ペプチドに特異的なHLA-A02四量体を使用して実行された。提示のものは、HLA-A02陽性である2名の別々の患者(患者1 A~E;患者2 F~J)由来であり、蛍光マイナスワン(FMO;この染色はWT-1四量体染色を欠いており、WT-137の特異的染色を示す、K~O)と比較される。示されている割合は、CD3+細胞の百分率である。WT-1 TCR T細胞の百分率は、2つの試料について1.5%および4.5%に増加し;未刺激PBMCでは、これらの細胞は非常に低い(本明細書の四量体技術を使用する検出限界未満)。他の研究では(例えばSchmeidら、(2015年))それらは、CD8+細胞のわずか10-6(細胞3×10-7から3×10-6の範囲)である。
【0057】
図2A-2G】ウイルムス腫瘍1(WT-1)抗原に対して特異的なTCRを有するCD8+細胞傷害性T細胞は機能性である。機能は、インターフェロンガンマ(IFN-γ)の産生によって表される(Ghanekarら、2001年)。IFN-γ発現は、WT-1特異的刺激の後に見出された。活性化細胞をCD8+およびHLA-A02四量体からWT-137ペプチド-PEコンジュゲート蛍光色素についてゲーティングした。WT-1に対して特異的なTCRを有するこれらの細胞傷害性T細胞は、WT-1を用いて刺激すると、IFN-γ(パシフィックブルー蛍光色素にコンジュゲートされている)の細胞内サイトカイン染色を実証した。示されているのは、HLA-A02陽性である2名の別々の患者(Wt-1 #1およびWT-1 #2)(患者1:A~B、患者2:C~D)由来のものであり、蛍光マイナスワン(FMO;E-F;この染色はWT-1四量体染色を欠いており、WT-137の特異的染色を示す(G)と比較されている。示されている割合はWT1+CD8+細胞の百分率である。80%を超えるWT-1 TCR T細胞がIFNγを産生した。
【0058】
図2H】LAG3阻害剤(IMP321)の添加は刺激4日後にWT-1特異的T細胞の発生頻度を増加させる。この実験では、精製されたが、分離されていない臍帯血単核細胞が単独、抗CD28だけを含んで、WT-1ペプチド(Miltenyi BioTech)およびCD28(1μg/ml)を含んで、またはWT-1ペプチドに加えてIMP321を含んで、24時間および4日間播種された。24時間まで効果は観察されなかったが(データ未記載)、樹状細胞活性化へのIMP321効果の動態と一致して(Brigoneら、(2007年))、4日後にWT-1特異的CD8+T細胞が倍増した。
【0059】
図3】がん特異的(例えばWT-1)TCR T細胞由来iPSCの産生。がん抗原特異的T細胞は正常な血液では非常に稀であり;それらは、抗原提示細胞として作用する自己B細胞(EBVを使用してリンパ芽球細胞株(LCL)に形成される)に結合したWT-1ペプチドでのサイトカインの存在下でのin vitro刺激によって明らかになる。がん抗原特異的T細胞は、CD8(細胞傷害性T細胞に対する)およびこれらのCD8+細胞のTCRに結合するHLA-WT-1に対する四量体を用いて二重標識されていることが示されている。次にこれらの細胞は、ヤマナカリプログラミング因子を使用してiPSCに転換された。WT-1に対して特異的な再構成TCR遺伝子はiPSCのTCR遺伝子座に埋め込まれた。
【0060】
図4】OP9支持細胞での1、5、9および13日間培養後のiPSCコロニーの造血細胞系列およびリンパ球前駆細胞への形態学的進行。13日目までの多数の単一造血様細胞に注目されたい。
【0061】
図5-1】OP9細胞での13日間培養後のiPSC由来細胞のフローサイトメトリー分析は、造血幹細胞(HSC)(CD34+CD43+)の存在を含む造血特殊分化の証拠を明らかに示す。
図5-2】OP9細胞での13日間培養後のiPSC由来細胞のフローサイトメトリー分析は、造血幹細胞(HSC)(CD34+CD43+)の存在を含む造血特殊分化の証拠を明らかに示す。
【0062】
図6】OP9細胞での13日間培養に続くOP9 DL-L1細胞での9日間培養後のiPSC由来細胞でのHSCについてのフローサイトメトリー。細胞は、生存率、CD45発現、単一細胞についてゲーティングされ、次いでCD34およびCD43について染色することによってHSC含有量について調べられた。HSCにおける、予備OPDL-L1培養での>90%(図5)からOP9DL-L1細胞での9日間培養後の約60%への低減に注目されたい。
【0063】
図7】OP9細胞での13日間培養に続くOP9 DL-L1細胞での9日間培養後のiPSC-由来細胞のT細胞発達についてのフローサイトメトリー。CD5およびCD7の発現を伴うT細胞系列ならびに未成熟(すなわち、CD3を欠失している;データ未記載)CD4+、CD8+「単一陽性」細胞およびCD4+CD8+「二重陽性」細胞を含む胸腺細胞発達の第1段階へのコミットメントの明らかな証拠がある。
【0064】
図8-1】OP9細胞での13日間培養に続くOP9 DL-L1細胞での16日間培養後のiPSC由来細胞におけるHSCおよびT細胞分化についてのフローサイトメトリー。CD4および/またはCD8を発現している未成熟T細胞は、まだ明らかに存在し、HSCは約60%から約25%にさらに低減されていた。最も重要なことに成熟CD8+細胞が存在し、CD3、αβTCRおよびCD8β鎖を発現していた(CD8αに加えて-未記載)。
図8-2】OP9細胞での13日間培養に続くOP9 DL-L1細胞での16日間培養後のiPSC由来細胞におけるHSCおよびT細胞分化についてのフローサイトメトリー。CD4および/またはCD8を発現している未成熟T細胞は、まだ明らかに存在し、HSCは約60%から約25%にさらに低減されていた。最も重要なことに成熟CD8+細胞が存在し、CD3、αβTCRおよびCD8β鎖を発現していた(CD8αに加えて-未記載)。
【0065】
図9】in vitro増大WT-1特異的TCR T細胞由来iPSCからのWT-1特異的TCR、CD8αβT細胞の誘導の模式図。CD4+CD8+細胞の(低レベル)抗CD3抗体での処置は、正の選択の際に胸腺内で生じるシグナル伝達を模倣し;これは、CD8αおよびCD8β鎖の両方を発現しているCD8+T細胞を増加させた。
【0066】
図10】in vitro増大WT-1特異的TCR T細胞由来iPSCから誘導されたWT-1特異的TCR、CD8αβT細胞は、元来のT細胞と同等に完全な機能を保持していた(例えば、WT-1発現標的への細胞傷害性)ことを示す。エフェクター:標的の比は、3:1であった;WT-1ペプチドの段階的濃度が検査された。
【0067】
図11】キメラ抗原受容体および抗原結合受容体構築物の模式図。TAG72またはCD19(陽性対照として)のいずれかに対するscFvを有するキメラ抗原受容体(CAR)構築物のパネルが開発された。構築物は、ヒトCD8またはCD28のいずれかをヒンジおよび膜貫通領域として、ならびにCD28、CD3ζ鎖または4-1BB細胞質性活性化シグナル伝達ドメインを使用した。P2Aは、タンパク質分解切断を指向しているシグナル配列であり、図11に示す上から5個の構築物は発現の蛍光レポーターとしてEGFPを放出し、図11に示す下の(6番目)の構築物はリーダー(CD8)-scFv(抗CD47)-ヒンジ/TM(CD28)-エンドドメインテール(CD8)として示される第2のCAR受容体構築物を放出し、そのリーダーは、ヒンジ/TMによって表面にアンカリングされている抗CD47scFvを放出するようにプロセシングされ、エンドドメインテールはシグナル伝達配列を含有していない。任意のCD47結合外部ドメインは、例えばSIRP-アルファを含む標的細胞上のCD47への結合の目的のために使用できる。ヒンジ領域は、天然CD8ヒンジの特徴である、隣接するヒンジドメイン間のジスルフィド結合形成による二量体化を指向するためのシステイン残基を含有する場合がある、またはセリンなどの他の残基によって置換されたシステイン残基を有する場合があり、これはジスルフィド結合を形成せず、共有結合で安定化された二量体を形成しない。CARおよびCD47結合受容体の例示的配列、ならびにCARまたは抗原結合受容体を構築することにおける使用のために好適な種々のドメイン配列は、配列番号1~20に記載されている。
【0068】
図12】レトロウイルス形質転換模式図。レトロウイルス構築物を含有するCARを生成するために試みられた工程の模式図。CAR構築物は、pSAMENプラスミドベクターにクローニングされ、CARとレポーターとを分離するためのP2A自己切断性ポリペプチドによって蛍光レポーターEGFPに連結されている。細胞の形質導入が成功すると、P2Aは発現され、切断され、EGFPはフローサイトメトリーおよび免疫蛍光顕微鏡によって同定される。
【0069】
図13】レンチウイルス形質転換模式図。レンチウイルス構築物を含有するCARを生成するために試みられた工程の模式図。CAR構築物は、pWP1プラスミドベクターにクローニングされ、CARとレポーターとを分離するためのP2A自己切断性ポリペプチドによって蛍光レポーターEGFPに連結されている。細胞の形質導入が成功すると、P2Aは発現され、切断され、EGFPはフローサイトメトリーおよび免疫蛍光顕微鏡によって同定される。
【0070】
図14A-14B】図14A。通常の第2世代CAR構造の模式図。標的抗原へのscFv結合ドメイン;原形質膜へのCARの組み込みを可能にするヒンジ領域(ストーク)(ヒンジの長さは標的細胞へのscFv結合に様々に影響を与える場合がある);scFvの係合によりT細胞活性化を誘導する細胞質性シグナル伝達ドメイン。CAR構造は、ヒンジ領域中の隣接するシステイン残基間のジスルフィド結合によって安定化された二量体として示されている。図14B。非シグナル伝達抗原結合受容体、切断型CD47「付着ストーク」の模式図。構造は、ヒンジおよび膜貫通領域に付着しているが、シグナル伝達ドメインがエンドドメイン中に存在しない、CD47抗原結合のためのscFvドメインまたは単一V-ドメインを示す。この構築物は、高レベルのCD47を発現しているがん細胞へのCAR-T細胞の結合親和性を増加させることができる。この受容体は、低レベルのCD47を発現している正常細胞にも結合する一方で、シグナル伝達はなく、それにより正常細胞への損傷もない。ヒンジ領域は、隣接ヒンジドメイン間のジスルフィド結合形成によって二量体化を指向させるシステイン残基を含有できる、またはセリンなどの他の残基によるシステイン残基置換を有する場合があり、それはジスルフィド結合を形成せず、共有結合で安定化された二量体を形成しない。
【0071】
図15】TAG72レンチウイルスCAR構築物(20.8%陽性、対照における<0.1%と比較)およびCD19レンチウイルスCAR構築物(33.9%陽性)を用いる良好な形質導入を実証しているCAR形質導入ヒトPBMC由来CD3+T細胞のフローサイトメトリー分析。
【0072】
図16】TAG27およびCD19 CARトランスフェクトT細胞におけるタンパク質発現を確認するウエスタンブロット分析。
【0073】
図17】卵巣がん(TAG72+)標的細胞のTAG72 CAR-T媒介死滅。エフェクター:標的の比は(E:T)=1:1。CD3活性化正常血液T細胞から発達したTAG72 CAR-Tエフェクター細胞(GFP陽性細胞)は、FACSを介して純度>95%として単離され、次に使用前に固定化αCD3/αCD28およびIL-2の存在下で72時間、細胞溶解活性の増強のために刺激された。細胞インピーダンスにおける変化(本明細書では任意単位での細胞指標として表される)は40時間にわたってモニターされ、PBMCから単離された刺激された非形質導入CD3+ve細胞、および刺激されたベクターのみのCAR-T細胞と比較された。TAG72 CAR-T細胞は、最も高い死滅を示したが、しかしCD3/CD28活性化非CAR-T細胞も、はるかに低い程度ではあるが死滅を示した。
【0074】
図18】TAG72 CAR-T死滅の特異性の決定。TAG72およびCD19 CAR-Tは、それぞれFACSを介して単離され、in vitro刺激を伴わずにTAG72hi/CD19low標的細胞に直ちに添加された(E:T=5:1)。細胞インピーダンスにおける変化(本明細書では任意単位での細胞指標として表される)は15時間にわたってモニターされた。TAG72 CAR-T細胞は、細胞株の強い死滅を示した。CD19 CAR-T細胞は、非CAR T細胞対照と同じであった。
【0075】
図19A図19A-19B。WT-1特異的T細胞から産生されたiPSC由来WT-1特異的TCR CD8+T細胞のCAR形質導入のフローサイトメトリー分析。図19A。WT-1特異的TCR T細胞は、TAG72レンチウイルスCAR構築物を用いて良好に形質導入された(31.3%陽性、対照における<0.1%と比較)。図19B。WT-1特異的TCR T細胞から形成されたiPSC由来WT-1特異的TCR T細胞は、TAG72に加えて非シグナル伝達切断型CD47に対する二重特異的CAR構築物を用いて良好に形質導入された(55%形質導入);TAG72のみを用いた形質導入32%。これらの形質導入T細胞は、3つの抗がん特異的性を含有した:WT-1(TCR);TAG72(CAR);切断型非シグナル伝達CD47。
図19B図19A-19B。WT-1特異的T細胞から産生されたiPSC由来WT-1特異的TCR CD8+T細胞のCAR形質導入のフローサイトメトリー分析。図19A。WT-1特異的TCR T細胞は、TAG72レンチウイルスCAR構築物を用いて良好に形質導入された(31.3%陽性、対照における<0.1%と比較)。図19B。WT-1特異的TCR T細胞から形成されたiPSC由来WT-1特異的TCR T細胞は、TAG72に加えて非シグナル伝達切断型CD47に対する二重特異的CAR構築物を用いて良好に形質導入された(55%形質導入);TAG72のみを用いた形質導入32%。これらの形質導入T細胞は、3つの抗がん特異的性を含有した:WT-1(TCR);TAG72(CAR);切断型非シグナル伝達CD47。
【0076】
図20A-20I】WT-1特異的TCR T細胞および二重特異的TAG72 CAR/WT-1 TCR T細胞の細胞傷害性機能。WT-1特異的TCR T細胞および二重特異的TAG72 CAR/WT-1 TCR T細胞は、細胞傷害性を評価するために卵巣がん細胞株CAOV4と共に24時間、単層培養においてインキュベートされた。2:1の低いエフェクター:標的の比にも関わらず(得られたエフェクターの乏しさから必然的に)、WT-1 TCR T細胞での特異的死滅があり、これはTAG72 CARを用いた形質導入でさらに増加された。技術は、細胞内のアミンを染色するAquaAmineに基づいている。細胞が死んでいるまたは死にかけている場合、易感染性の細胞膜は、色素を細胞に浸透させ、アミンをより強く染色する。したがって細胞の細胞傷害性は、細胞性アミンの染色強度の増加によって示される。注意:一部のアミンが細胞表面に存在することから、生細胞もいくらかの(低いが)陽性染色を生じる。A、D、G:CAOV4がん細胞のみ。B、E、H:WT-1 TCR T細胞と共にインキュベートしたCAOV4がん細胞。C、F、I:CAOV4卵巣がん細胞と共にインキュベートした二重特異的TAG72 CAR/WT-1 TCR T細胞。D、E、F:ゲーティングされたCD3-ve細胞(すなわち、CAOVA4)でのAquaAmineレベル。位相差画像、G:がん細胞のみ、H:がん細胞を伴う非CARトランスフェクトWT-1 TCR細胞、およびI:がん細胞を伴うTAG72トランスフェクトWT-1 TCR T細胞。40×拡大。WT-1 TCR T細胞はおよそ10%死滅を生じる(バックグラウンドを超えて);TAG72 CAR-T細胞は追加の10%死滅を生じる(すなわち、バックグラウンドをおよそ20%超える)。二重抗がん死滅機序は相加的である。
【0077】
図21A図21A~21B。iPSのCAR形質導入。MEFフィーダー層での成長5日目。CARレンチウイルスとのインキュベーション4日後。TAG72、CD19およびGFPウイルスのCAR+形質導入(緑)は、20×拡大での明視野画像に重ねられた。非形質導入対照は、いかなるGFPシグナルも示さなかった。4×拡大でのiPSCコロニーの画像は、MEFフィーダー層でのiPSCコロニーの存在を実証している。各系において、一部のiPSCコロニーが自発的に分化し始めたと考えられることが注目される。形質導入線維芽細胞由来iPSCは、図21Aに示されている。図21Bは、TAG72 CARを有するWT-1 T細胞由来iPSCの良好な形質導入を実証している。したがってこれらのiPSCは、WT-1 TCRおよびTAG72特異性の両方について良好にインプリントされた。
図21B図21A~21B。iPSのCAR形質導入。MEFフィーダー層での成長5日目。CARレンチウイルスとのインキュベーション4日後。TAG72、CD19およびGFPウイルスのCAR+形質導入(緑)は、20×拡大での明視野画像に重ねられた。非形質導入対照は、いかなるGFPシグナルも示さなかった。4×拡大でのiPSCコロニーの画像は、MEFフィーダー層でのiPSCコロニーの存在を実証している。各系において、一部のiPSCコロニーが自発的に分化し始めたと考えられることが注目される。形質導入線維芽細胞由来iPSCは、図21Aに示されている。図21Bは、TAG72 CARを有するWT-1 T細胞由来iPSCの良好な形質導入を実証している。したがってこれらのiPSCは、WT-1 TCRおよびTAG72特異性の両方について良好にインプリントされた。
【0078】
図22-1】iPSCのキメラ抗原受容体形質導入のフローサイトメトリー分析。これらのiPSCは、成体線維芽細胞由来であるが、非選択T細胞、CD8+T細胞またはがん抗原特異的(例えばWT-1)T細胞を含む任意の由来であってよい。TAG72またはCD19によって良好に形質導入された蛍光iPSCの集団が明らかにある。非形質導入対照と比較した形質導入細胞のオーバーレイを図23に示す。
図22-2】iPSCのキメラ抗原受容体形質導入のフローサイトメトリー分析。これらのiPSCは、成体線維芽細胞由来であるが、非選択T細胞、CD8+T細胞またはがん抗原特異的(例えばWT-1)T細胞を含む任意の由来であってよい。TAG72またはCD19によって良好に形質導入された蛍光iPSCの集団が明らかにある。非形質導入対照と比較した形質導入細胞のオーバーレイを図23に示す。
【0079】
図23-1】非形質導入対照細胞(青)を形質導入iPSC培養物(緑)と比較するドットプロットのオーバーレイ。GFP+ゲートでの事象は、良好な形質導入を実証し、非デブリ事象の発生頻度パーセントとして表されている。
図23-2】非形質導入対照細胞(青)を形質導入iPSC培養物(緑)と比較するドットプロットのオーバーレイ。GFP+ゲートでの事象は、良好な形質導入を実証し、非デブリ事象の発生頻度パーセントとして表されている。
【0080】
図24】FACS選別後のCAR形質導入iPSCコロニーの再形成。CAR形質導入iPSCは、フローサイトメトリー(GFP陽性蛍光)によって単離でき、安定コロニーを形成するように再播種され得る。
【発明を実施するための形態】
【0081】
発明の詳細な説明
本発明は、例えば、目的の抗原決定基に指向されたTCR特異性を呈するT細胞に由来するiPSCにCARカセットをトランスフェクトすることにより2つの別個の抗原決定基に指向されたTCR/CAR二重発現T細胞を、一貫してかつ安定して生成できるという決定に一部基づく。後成的記憶の作用によって、このiPSCから分化したT細胞が、iPSCが由来した体細胞性T細胞のTCR特異性および別個の抗原決定基に指向されたCARの両方を安定して発現することが見出された。追加の抗原決定基に対する特異性は、細胞にそのような追加の抗原決定基に結合する分子をコードする追加の核酸を導入することによって達成することができる。それによりそのような複数特異性細胞は、現在利用可能な細胞より有効な治療転帰を提供する。したがってこれらの決定は、新生物状態、ウイルス感染、細菌感染または自己免疫性状態など所望されない細胞の集団によって特徴付けられる任意の疾患状態との関連で使用するための、安定して形質転換された二重抗原特異的T細胞、特に細胞傷害性CD8+αβTCR T細胞の継続する供給の開発を今や可能にした。この発見およびそれに基づく細胞の生成は、そのような状態、特に、転移性疾患を含めた固形腫瘍または血液がん(例えば、白血病)などの新生物状態を処置することを目的とする治療的処置レジメの改善を今や容易にした。
【0082】
したがって、本発明の一態様は、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞、またはそこから分化したT細胞であって、その細胞が、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有し、キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を含み、前記受容体が、第2の抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている、細胞を対象とする。一部の実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する。
【0083】
「T細胞」への言及は、T細胞受容体を含む任意の細胞への言及と理解されるべきである。この点に関して、T細胞受容体は、α、β、γまたはδ鎖のうち任意の1つまたは複数を含むことができる。当業者によって理解されるように、NKT細胞もT細胞受容体を発現し、したがって本発明によって二重特異的NKT細胞を生成することもできる。本発明は、任意の特定のサブクラスのT細胞に限定することを意図しない、しかし好ましい実施形態では、対象T細胞は、α/β TCR二量体を発現する。なおより好ましくは、前記T細胞は、CD4ヘルパーT細胞、CD8キラーT細胞またはNKT細胞である。本発明をいずれか1つの理論または作用機序に制限するものではないが、CD8T細胞は、細胞傷害性細胞としても公知である。適応免疫系の主要な部分として、CD8T細胞は、細胞内環境を走査して、主に、感染した細胞を標的し、破壊する。細胞内内容物に由来する小さいペプチド断片は、プロセシングされ、MHCクラスI分子との関連で提示される細胞表面へ運搬される。しかしながら、ウイルス感染に対する応答だけにとどまらず、CD8T細胞は、がんを含めた損傷したまたは異常な細胞を監視し、除去することによって追加のレベルの免疫監視も提供する。MHC Iに提示されたペプチドのCD8T細胞認識は、細胞傷害性顆粒もしくはリンホカインの放出またはFAS/FASL相互作用によってアポトーシス経路を活性化して対象細胞の破壊を通常もたらす。他方、CD4T細胞は、MHCクラスIIとの関連で抗原提示細胞によって提示されるペプチドを一般に認識し、B細胞および/またはCD8T細胞免疫応答を調節するように設計されたサイトカインの放出をもたらす。したがって、細胞傷害性T細胞とは異なり、ヘルパーT細胞は、がん細胞などの所望されない細胞を直接死滅させない、しかしながら細胞傷害性T細胞および/または抗体性クリアランス機構によって死滅される限り、そのような応答を増大させることができる。
【0084】
ナチュラルキラーT(NKT)細胞は、セミインバリアントT細胞受容体(TCRαβ)および一般にナチュラルキラー細胞と関連する表面抗原を発現するT細胞の専門集団である。NKT細胞上のTCRは、MHC I様分子CD1dによって提示される糖脂質抗原を認識するという点で別個である。大部分のNKT細胞は、インバリアントTCRアルファ鎖および少数のTCRベータ鎖のうちの一方を発現する。1型NKT細胞上に存在するTCRは、抗原アルファ-ガラクトシルセラミド(アルファ-GalCer)を認識する。この群内で、CD4CD8細胞、CD4CD8細胞およびCD4/CD8細胞を含めた区別可能な部分集団が、同定された。2型NKT細胞(または、非インバリアントNKT細胞)は、より広範なTCRα鎖を発現し、アルファ-GalCer抗原を認識しない。NKT細胞は、複数の、しばしば反対の効果、例えば炎症を促進するまたは寛容を含めて免疫抑制を誘導するかのいずれかを持つサイトカインを産生する。その結果、それらは、抗菌および抗ウイルス免疫応答に寄与し、腫瘍関連免疫監視を促進し、自己免疫性疾患の発症を阻害または促進することができる。ナチュラルキラー細胞のように、NKT細胞は、パーフォリン、FasおよびTNF関連細胞毒性(cytoxicity)を誘導することもできる。したがって、本発明の遺伝子改変されたT細胞への言及は、NKT細胞への言及を含むと理解されるべきである。
【0085】
胸腺に基づくT細胞産生は、T細胞受容体(TCR)レパートリーのランダムな生成によって特徴付けられるので、胸腺細胞増殖は、自己を攻撃する潜在性を持つ発達中の胸腺T細胞を排除または機能的に封じる非常に厳格な選択過程も含まなければならない。したがって、この「自己寛容」は自己免疫性疾患の潜在性を減少させる。しかしながら、ウイルス誘導性ではないがんが、「自己」の疾患と定義されたならば、必然的に、この過程はまさしく、がんに対する免疫監視を損なう。これは、腫瘍関連抗原と潜在的に反応性がある可能性がある胸腺において生じるT細胞の多くが、血液に入る前に排除され得ることを意味する。少なく見積もっても、それらは数的に不十分であり、おそらく低親和性TCRを発現することになる。
【0086】
一実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞、またはそこから分化したT細胞であって、その細胞が、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するCD4T細胞に分化する能力を有し、キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を含み、前記受容体が、第2の抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている、細胞が提供される。一実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する。
【0087】
別の実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞、またはそこから分化したT細胞であって、その細胞が、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するCD8T細胞に分化する能力を有し、キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を含み、前記受容体が、第2の抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている、細胞が提供される。一実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する。
【0088】
一部の実施形態では、本発明の遺伝子改変された細胞、例えば、遺伝子改変された幹細胞(iPSCまたはHSCなどの)またはT細胞は、少なくとも1つのHLAハプロタイプについてホモ接合性である。本発明をいずれか1つの理論または作用機序に制限するものではないが、主要組織適合複合体(MHC)は、一組の細胞表面分子を表し、その主要な機能は、抗原に由来するペプチド断片を結合し、T細胞にそれを提示することである。MHC遺伝子ファミリーは、3つのサブグループ:クラスI、クラスIIおよびクラスIIIに分けられる。クラスI MHC分子は、β2サブユニットを発現し、したがってCD8補助受容体によってしか認識され得ない。クラスII MHC分子は、β2サブユニットを全く発現せず、したがってCD4補助受容体によって認識され得る。このように、異なるリンパ球は、異なるTCR補助受容体を発現するので、MHC分子は、どの型のリンパ球が所与の抗原に高親和性で結合できるかを調節する。MHCクラスIおよびIIによって媒介される抗原提示の多様性は、少なくとも3つの方法で獲得される:
(1)生物のMHCレパートリーは、通常多遺伝子性である(複数の、相互作用する遺伝子による);
(2)MHC発現は、共優性である(遺伝性対立遺伝子の両方の組による);
(3)MHC遺伝子バリアントは、高度に多様性である(種内の生物と生物の間で多様に異なる)。
【0089】
MHC分子は、Tリンパ球においてT細胞受容体およびCD4/CD8補助受容体の両方に結合する。MHC分子のペプチド結合溝に保持された抗原エピトープは、TCRの可変Ig様ドメインと相互作用して、T細胞活性化を誘発する。しかしながら、MHC分子は、それ自体が抗原として作用することもでき、外来のMHCを発現する組織または細胞のレシピエントにおいて免疫応答を引き起こし、したがって、移植拒絶反応を引き起こす場合もある。またさらに、免疫適格細胞の移植が、宿主組織の拒絶反応、別名移植片対宿主病を、実際のところもたらす場合がある。この点に関して、各ヒト細胞は、6つのMHCクラスI対立遺伝子(各親から1つのHLA-A、-Bおよび-C対立遺伝子)および6つから8つのMHCクラスII対立遺伝子(各親から1つのHLA-DPおよび-DQ、および1つまたは2つのHLA-DR、ならびにこれらの組合せ)を発現する。ヒト集団におけるMHC変動は高く、HLA-A遺伝子の場合少なくとも350個の対立遺伝子、HLA-Bの場合620個の対立遺伝子、DRの場合400個の対立遺伝子およびDQの場合90個の対立遺伝子がある。一卵性双生児でない任意の2つの個体は、異なるMHC分子を発現する。
【0090】
すべてのMHC分子は、移植拒絶反応を媒介し得るが、低い多型性を示すHLA-CおよびHLA-DPは、それほど重要でない。移植拒絶反応は、ドナーとレシピエントの間の細胞表面HLAレパートリーをできるだけ多く一致させる試みによって最小化することができる。完全な一致は、一卵性双生児の間においてのみ可能である。しかしながら、細胞上で発現されるHLA抗原の範囲の1つまたは複数で不適合性を最小化することに基づいてドナーを選択することが非常に望ましく、拒絶反応問題を有意に最小化することができる。組織/細胞拒絶反応を管理する通常の方法は、免疫抑制性処置レジメの投与であり、この方法は、最適レベルの機能性で機能する必要がある遺伝子改変された免疫細胞の投与に基づく処置レジメとの関連では望ましくないので、このことが、本発明によって解決される特別な問題である。本発明によると、これは、iPSCなどの細胞またはiPSCが由来するT細胞などの細胞を利用することによって達成することができ、それら細胞は、1つまたは複数のMHCハプロタイプに対してホモ接合性であり、目的のHLA対立遺伝子は、主要な移植抗原であり、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも17%、少なくとも20%またはそれよりも多くの集団など有意な割合の集団によって好ましくは発現されるものである。ホモ接合性HLAハプロタイプが、(組織拒絶反応の観点で)支配的なMHC IまたはMHC II HLA型に対応する場合、そのような細胞の使用は、処置レジメとの関連で本発明の細胞を受ける一層広い集団における組織拒絶反応にまつわる問題を有意に減少させることになる。本発明に関して、遺伝子改変された細胞は、1つの細胞性HLA抗原に関してホモ接合性であってもよく、またはそれらは、1つより多いHLA抗原、例えば、2つ、3つもしくはそれよりも多いHLA抗原に関してホモ接合性であってもよい。一部の実施形態では、遺伝子改変された細胞は、例えば、HLA A1、B8、C7、DR17、DQ2、またはHLA A2、B44、C5、DR4、DQ8またはHLA A3、B7、C7、DR15、DQ6を含む表1に挙げた抗原から選択される1つのHLA抗原に関してホモ接合性である。一部の実施形態では、遺伝子改変された細胞は、例えば、HLA A1、B8、C7、DR17、DQ2、または、HLA A2、B44、C5、DR4、DQ8またはHLA A3、B7、C7、DR15、DQ6を含む表1に挙げた抗原から選択される2つまたはそれよりも多いHLA抗原に関してホモ接合性である。
【0091】
したがって用語「HLA-型」は、個体の細胞に存在するHLA抗原の補体のことを指すと理解されるべきである。
【0092】
iPSCを生成するのに使用する適切なホモ接合性HLA T細胞を得ることは、任意の適切な方法、例えば、集団をスクリーニングして(血液バンクによってなど)HLAホモ接合体を発現している個体を同定するステップと、次いで目的のTCR特異性を呈する個体からT細胞をスクリーニングするステップとを含む方法によって達成することができる。これらの通常は非常に希少なT細胞は、そのTCRが認識する特異的抗原性ペプチドによって選択的に刺激され、頻度が大いに増加され得る(例えば、<0.0001から0.2)。
【0093】
所与の目的の集団全体でドナー-レシピエントHLAミスマッチを最小化し、それによってドナーバンクの生成を可能にするこという観点で有意な情報は、ホモ接合性ハプロタイプの同定および実用性について記述する公開文献において広く利用可能であることは当業者により認められよう。例えばPappasら(2015年)を参照のこと。一例において、表1は、最小のミスマッチを与えるUK集団の割合と比較して最も高く順位付けされた15個のホモ接合性HLAハプロタイプを同定する。挙げられたホモ接合性HLAハプロタイプの最初の8つは、集団の49%と適合性がある。さらなる例が、人種的に異なるカリフォルニア集団と適合性がある順位付けされたハプロタイプの最初の10個を詳述する表2に概説される。表2は、黒人またはアフリカ系アメリカ人、アジア人および太平洋諸島系、白人、ヒスパニックおよびアメリカ原住民およびアラスカ原住民を含めた亜集団の一致頻度を含む。なおさらに、表3は、北中国集団においてHLA-A-B-DR、A-B、A-DRおよびB-DRについて頻度が最も高いハプロタイプ50個を概説する。当業者は、表3に図示されるデータを使用して、北中国人集団に対して最小のミスマッチを提供する一組のホモ接合性ハプロタイプを定義できると理解すると認められよう。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【0097】
上で詳述した通り、本発明は、幹細胞を、一貫してかつ安定に操作して、二重T細胞および複数の別個の抗原に指向されているキメラ抗原受容体を発現させ、それによって、現在利用可能な治療的細胞処置レジメにおいて使用される細胞より治療的に有効なT細胞の継続する供給を提供することができるという決定に基づく。この点に関して、「幹細胞」への言及は、特定の遺伝子構成を与える複数系列の方向に発達し、したがって、新たな生物を形成するまたは生物の組織もしくは細胞集団を再生する潜在的能力を呈する任意の細胞への言及と理解されるべきである。本発明によって利用される幹細胞は、2つまたはそれよりも多い系列へ分化する能力を有する任意の適切な型であることができ、胚性幹細胞、成体幹細胞、臍帯幹細胞、造血幹細胞(HSC)、全能性細胞、プロジェニター細胞、前駆細胞、多能性細胞、多分化能細胞または脱分化した体細胞性細胞(人工多能性幹細胞など)があるが、これに限定されない。「全能性」は、対象幹細胞が自己新生できることを意味する。「多能性」は、対象幹細胞が分化して、とりわけ、外胚葉、内胚葉および中胚葉である、3つの胚葉のうち任意の1つの細胞を形成することができることを意味する。
【0098】
特定の一実施形態では、対象幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)である。本発明をいずれか1つの理論または作用機序に制限するものではないが、成体幹細胞の増大は、非対称な幹細胞分裂の発生に基づいて幹細胞新生と特定の体細胞性細胞系列への分化の両方を成すとは限らない。特に、多能性幹細胞は、多系列潜在性段階への転換に誘導されるT細胞から供給され得る。成体細胞の脱分化を可能にする技術の発達は、特にin vitroでの幹細胞新生および増大を誘導することの困難さのため、有意に重要なものである。
【0099】
この実施形態によると、したがって、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞、またはそこから分化したT細胞であって、幹細胞が、iPSCであり、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有し、キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を含み、前記受容体が、第2の抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている、細胞が提供される。一実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物のiPSCは、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する。
【0100】
iPSCは、通常体細胞性細胞から直接生成されるが、本発明がこの点に限定されないことは理解されるべきである。すなわち、対象iPSCは、最終分化していない細胞から生成することができ;実際、iPSCは、例えば、血液由来単核細胞および皮膚細胞を含めたどんな有核細胞からでも原理的には誘導され得る。例えば、本発明の一実施形態との関連では、対象iPSCは、十分に分化したT細胞から生成することができ、または胸腺細胞などの前駆体T細胞から生成することができる。対象胸腺細胞が、そのTCRを再編成し、本発明との関連で目的の抗原特異性を呈する限り、この細胞からiPSCを生成しようとすることができる。例えば、問題の特定のTCR再編成が、胸腺細胞増殖の間に選択されると予想できる場合に、これが該当し得る。腫瘍細胞または自己反応性細胞に対する免疫応答性と関連する複雑化要因の1つは、この状況において、免疫系が、免疫応答を自己細胞、したがって自己抗原に指向させる必要があることが当業者に認められよう。そのような免疫細胞は、胸腺におけるTリンパ球分化の間に通常選択されて、自己免疫性疾患の発症の見込みを最小化する。新生物および自己免疫性状態との関連では、しかしながら、所望されない細胞は、自己細胞であり、したがって、標的しようとすることができる細胞表面抗原は、自己抗原であることになる。本発明を決して限定するものではないが、後により詳細に論じるように、複数の別個の抗原決定基に指向されたTCR/CAR発現T細胞を生成するためにiPSCを使用することの利点の1つは、後成的記憶作用が、iPSCが導き出されたT細胞と同じ抗原に指向されているTCRを発現する機能的T細胞へのiPSCの分化を強化し得ることが決定されたということである。しかし、iPSCが導き出された特定のTCR発現細胞の選択に関して、自己抗原に指向された機能的TCRを発現するT細胞が、胸腺細胞増殖の間に選択され得たので、十分に分化した適切なT細胞を同定することは困難であり得る。したがって、目的のTCR再編成を発現し、まだ負の選択を受けて潜在的自己反応性細胞を除去されていない胸腺細胞をスクリーニングすることが一層可能になり得た。
【0101】
別の実施形態では、iPSCは、第1の抗原決定基(例えば、腫瘍抗原決定基)に指向されたTCR(再編成されたTCR遺伝子など)をコードする1つまたは複数の核酸分子でトランスフェクトされる。
【0102】
さらに別の実施形態では、対象幹細胞は、造血幹細胞(HSC)である。造血幹細胞(HSC)は、血液生成の過程を通してリンパおよび骨髄性系列のすべての血液細胞を生じる幹細胞のことを指す。HSCは、中胚葉に由来し、成人骨髄、末梢血および臍帯血中に見出すことができる。HSCは、確立された技術によって骨髄、末梢血および臍帯血から採取することができ、CD34+発現と一般に関連する。一部の実施形態では、ヒトHSCは、CD34+CD38-CD90+CD45RA-であると定義することができる(Reinischら(2015年)を参照のこと)。HSCを、遺伝子改変し、例えば、第1の抗原決定基に指向されたTCRをコードする1つまたは複数の核酸でトランスフェクトし、次いでその後T細胞に分化するように指向させることができる。1つまたは複数のCARをコードする核酸、任意選択で1つまたは複数のドッキング抗原結合受容体をコードする核酸は、T細胞へのHSCの分化前後にHSCに導入され得る。
【0103】
したがって「T細胞受容体」(TCR)への言及は、MHCによって提示されるペプチドを認識するT細胞またはNKT細胞の表面に見出されるヘテロ二量体への言及と理解されるべきである。特に、CD4+T細胞が、MHCクラスIIとの関連で提示されたペプチドを認識するのに対し、CD8+T細胞は、MHCクラスIとの関連で提示されたペプチドを認識する。本発明をいずれか1つの理論または作用機序に制限するものではないが、ヒトT細胞の大多数において、TCRは、αおよびβ鎖を含み、一方で、少数の細胞の集団は、γδヘテロ二量体を含むTCRを発現する。TCRは、ジスルフィド連結され、膜に固定されているヘテロ二量体タンパク質である。γ、δ、αおよびβ鎖は、2つの細胞外ドメイン:可変(V)領域および定常(C)領域で構成され、それら領域は両方とも、免疫グロブリンスーパーファミリーの部分を形成し、折りたたんで逆平行β-シートを形成する。定常領域は、細胞膜に隣接し、膜貫通領域および短い細胞質テールがそれに続き、一方で可変領域は、ペプチド/MHC複合体に結合する。
【0104】
TCRα鎖およびβ鎖の可変ドメインは、3つの超可変または相補性決定領域(CDR)をそれぞれ発現するが、β鎖の可変領域は、通常は抗原に接触せず、したがって、CDRとは考えられない超可変性(HV4)の追加のエリアを有する。TCR多様性を生成する過程は、RAG1およびRAG2リコンビナーゼを使用する体細胞性V(D)J組換えまたはシチジンデアミナーゼを使用する遺伝子変換のいずれかによる、前駆体T細胞においてDNAにコードされているセグメントの遺伝的組換えに主に基づく。組み換えられたTCRはそれぞれ、αβ T細胞の場合にはαおよびβ鎖、またはγδ T細胞の場合にはγおよびδ鎖によって形成される抗原結合部位の構造によって決定される別個の抗原特異性を保有する。TCR α鎖は、VJ組換えによって生成されるが、β鎖は、VDJ組換えによって生成される。同様に、TCR γ鎖の生成はVJ組換えを含むが、TCR δ鎖の生成はVDJ組換えによって起こる。これらの特定の領域(αまたはγ鎖に対するVおよびJ;βおよびδ鎖に対するV、DおよびJ)の交差は、ペプチド/MHC認識に重要なCDR3領域に対応する。それは、この領域におけるセグメントの別個の組合せであり、パリンドロームおよびランダムなヌクレオチド付加とならんで、プロセシングされた抗原性ペプチドに対するT細胞受容体特異性のさらにより大きな多様性の主因である。
【0105】
したがって、抗原決定基に「指向されている」TCRへの言及は、再編成を受け、抗原決定基、好ましくは自己(特に自己がん)抗原決定基に対する特異性を呈するTCRへの言及と理解されるべきである。
【0106】
一実施形態では、iPSCは、再編成されたTCR、好ましくは再編成されたαβ TCRを発現する細胞に由来する。本発明のiPSCの生成に使用するのに適した細胞の例には、CD4T細胞、CD8T細胞、NKT細胞、胸腺細胞または前駆体T細胞の他の形状があるが、これに限定されない。別の実施形態では、前記細胞は再編成されたγδ
TCRを発現する。
【0107】
したがって遺伝子改変された哺乳動物のiPSCもしくはHSCまたはそこから分化したT細胞であって、iPSCまたはHSCが、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有し、TCR遺伝子が、再編成を受けた細胞に由来し、または前記再編成された遺伝子で変換され、キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を含み、前記受容体が、第2の抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、抗原認識部分が、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている、細胞を提供する。いくつかの実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物のiPSCまたはHSCは、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する。
【0108】
一実施形態では、前記iPSCは、T細胞または胸腺細胞に由来する。
【0109】
別の実施形態では、前記iPSCは、αβTCRを発現するT細胞または胸腺細胞に由来する。
【0110】
さらに別の実施形態では、前記iPSCは、γδTCRを発現するT細胞または胸腺細胞に由来する。
【0111】
対象幹細胞は、処置の対象である個体から新鮮分離されてもよく、あるいは個体もしくは別の供給源からいくらか早い時点で単離された細胞の培養(例えば、細胞数が増大されたおよび/または細胞が分化シグナルに受容的になるように培養された)または凍結貯蔵物など新鮮でない供給源から供給されてもよい。対象細胞が、分化を受ける前に、それだけには限らないが精製、細胞周期状態の改変または胚性幹細胞株などの細胞株の形成など他のなんらかの形の処置もしくは操作を受けてもよいことも理解されるべきである。したがって、対象細胞は初代細胞または2次細胞であることができる。初代細胞は、個体から単離されたものである。2次細胞とは、その単離後に、本発明の方法を適用する前に、胚性幹細胞株の調製などなんらかの形のin vitro操作を受けたものである。
【0112】
本発明の幹細胞がiPSCである限り、iPSCを生成するための方法は当業者に周知である。この点に関して、および上で詳述した通り、iPSCは、体細胞性細胞などより成熟した細胞型に由来し、多能性段階に転換/脱分化した細胞である。
【0113】
本発明をいずれか1つの理論または作用機序に制限するものではないが、iPSCは、体細胞性細胞型に多能性関連の遺伝子の特定の組または「リプログラミング因子」を導入することによって導き出すことができる。リプログラミング因子の最も一般的に使用される組(Yamanaka因子としても公知である)は、遺伝子Oct4(Pou5f1)、Sox2、cMycおよびKlf4である。転写因子をコードするこれらの4つの特定の遺伝子のトランスフェクションが、ヒト成人細胞を多能性細胞に変換することが2006年にYamanakaによって示された。この組合せがiPSCを産生するために使用される最も通常の組合せであるが、因子のそれぞれは、関連する転写因子、miRNA、小分子または系列特定因子などの非関連遺伝子によって機能的に置き換えることができる。例えば、iPSCの誘導は、レトロウイルス系を使用するOct3/4、Sox2、Klf4およびcMycのトランスフェクション後に達成され、同様にレンチウイルス系を使用するOct4、Sox2、NanogおよびLin28のトランスフェクションによっても達成された。前の組の転写因子は、Yamanaka因子として公知であり、後者はThomson因子として一般に公知である。当業者に認められるように、基本的なリプログラミング因子発現ベクターに対して広範囲にわたる改変がなされ、送達の新たな機序が設計されて効率が増加され、そうしないと再プログラムされたiPSCゲノムに組み込まれるおそれがあるベクター配列が最小化または除去された。これらの方法は当業者に周知であり:
(i)Cre-Loxに媒介される導入遺伝子切除を含む単一カセットリプログラミングベクター;
(ii)アデノウイルスまたはセンダイウイルスなどの非組み込み型ウイルスによるリプログラミングがあるが、これに限定されない。別法として、タンパク質としてのリプログラミング因子の発現は、生殖細胞系に導入されるベクターDNAの組み込みを受けないiPSCを生成する手段を提供する。
【0114】
ウイルス性ではないリプログラミング方法も、開発された。これらには、これに限定されないが、
(i)mRNAトランスフェクション-mRNAとしてリプログラミング因子を発現する能力は、ウイルスベクターの染色体組み込みが起こらないiPSCを作製する方法を提供する。Warrenらは、mRNAを転写して、効率的にリプログラミング因子を発現させる(Warrenら(2010年))。Yamanakaリプログラミング因子プロトコールにLin28を加え、5% Oで培養し、細胞培養培地にバルプロ酸を含めることにより、効率を増加させることができる。リプログラミング因子mRNAは市販されている。
(ii)miRNA感染/トランスフェクション-いくつかのmiRNAクラスターは、胚性幹細胞において強く発現される。成熟miR-302bおよび/またはmiR-372+4つのレンチウイルスYamanaka因子の合成模倣体が、MRC5およびBJ-1線維芽細胞に添加される場合、4つのレンチウイルス因子単独と比較してリプログラミング効率に10倍から15倍の増加がある(Subramanyamら(2011年))。ある特
定のmiRNAが、Yamanaka因子なしで、高効率で細胞をリプログラムできることも見出された。
(iii)PiggyBac-PiggyBacは、トランスポーゼースの存在下で染色体TTAA部位に組み込まれ、トランスポーゼースの再発現によりその後ゲノムから切除され得る可動性遺伝的エレメント(トランスポゾン)である。piggyBacベクターにクローニングし、MEFに共トランスフェクトした場合、Yamanaka因子は、トランスフェクション後14から25日で細胞をリプログラムすることができる(Kajiら(2009年);Woltjenら(2009年))。piggyBacベクターは、トランス
ポーゼースの再発現によりiPSCから切除され得る。
(iv)小環状ベクター-小環状ベクターは、真核生物プロモーターおよび発現されることになるcDNAだけを含有する最小のベクターである。ヒト脂肪間質細胞において発現されるLin28、GFP、Nanog、Sox2およびOct4小環状ベクターは、細胞をリプログラムすることができる(Narsinhら(2011年))。
(v)エピソーム性プラスミド-エピソーム性プラスミドとしてのリプログラミング因子の一過性の発現は、iPSCの生成を可能にする。例えばoriP/EBNAベクターは、1つのカセット中のYamanaka因子+Lin28で構築することができ、別のoriP/EBNAベクターは、SV40ラージT抗原を含有する(Chuoら(2011年))。これらのベクターは、酪酸ナトリウムで補充された培地中でCD34+臍帯血、末梢血および骨単核細胞において発現され、14日目にiPSCコロニーを得られることが示された。トランスフェクトされたプラスミドは、最終的に失われる
が含まれる。
【0115】
別の態様では、当業者は、細胞のプログラミング効率を増強させることが公知の補助的方法にも精通している。例えば、同じ方法を使用する場合でも、細胞間でiPSC効率に変動があり得る。様々な小分子が、リプログラミング効率を増強させることが示されてきた(表4)。
【0116】
【表4】
【0117】
いくつかの公知の機構により、これらの分子は、ヒストン脱アセチル化の阻害(Maliら(2010年);Huangfuら(2008年))TGFβおよびMEKシグナル伝達経路の
遮断(Linら(2009年);Ichidaら(2009年))、後成的修飾因子の機能の増強
(Estebanら(2010年))、ROCK経路の阻害(Noggleら(2011年))ならび
に解糖の誘導(Zhuら(2010年))を含めたリプログラミングを容易にすることが可
能になる。これら小分子の1つ、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるバルプロ酸および酪酸ナトリウムは、リプログラミングプロトコールにおいて最も一般的に使用される。また、リプログラミング過程における5%酸素中での細胞の培養が、iPSC誘起の効率を増加させ得ることは注目すべきである(Yoshidaら(2009年))。リプログラムが
特に困難な細胞の場合、小分子の添加および低酸素状態での培養が、改善を生むことがある。別の選択肢は、胚性幹細胞馴化培地(ESCM)を使用して、内在性リプログラミング因子の発現を誘導することである(Balasubramanianら(2009年))。効率は、バ
ルプロ酸の添加によりさらに改善することができる。そのような戦略を使用して、外因的に導入されたリプログラミング因子の能力を増強させ、それによりリプログラミング効率を増加させることもできる。
【0118】
本発明の幹細胞がHSCである限り、HSCを生成または調製するための方法は当業者に周知である。HSCは、骨髄からの直接の摘出によってまたはHSCが、例えば、GM-CSFなど特定の分子による処置の後に骨髄から放出された後に血液から得ることができる。次いでHSCは、CD34の原形質膜発現のため、例えば抗CD34でコーティングされた磁気ビーズまたは蛍光抗CD34で標識した後のフローサイトメトリーによる細胞選別によって精製することができる。そうして精製されたこれらのHSCは、実施例3および図3から10を含めて概説されるOP9/OP9 DL-L1系を使用してT細胞分化に誘導することができる。
【0119】
抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する「能力を有する」対象幹細胞、特にiPSCまたはHSCへの言及は、対象TCR遺伝子を転写および翻訳し、次いで細胞表面における機能的受容体としてTCRヘテロ二量体を組み立てるかまたはそうする能力があるいずれかの細胞への言及と理解されるべきである。当業者によって認められるように、大部分の状況において、iPSCなどの幹細胞は、その未分化型において、TCRを発現しないことになる。T細胞系列に沿って指向された分化が一旦誘導されたら、TCR発現が起こると一般に予想される。一実施形態では、細胞は、CAR遺伝子改変の有りまたはなしで、機能的TCRを発現するT細胞に分化するように誘導することができる。特定の特異性のTCRを発現する細胞の能力が、任意の適当な手段によって可能になり得ることは理解されるべきである。例えば、細胞は、発現されると会合してTCRヘテロ二量体を形成することになる2つのTCR鎖(例えば、αおよびβ鎖)をコードする遺伝子でトランスフェクトされてもよい。別法として、また本発明の好ましい実施形態との関連で、本発明の幹細胞は、TCR遺伝子が再編成されたT細胞、胸腺細胞または他の細胞から生成されたものである。そのような細胞から生成されたiPSCは、適当な細胞培養条件下でCD4またはCD8T細胞に分化するよう指向された場合、iPSCが導き出された体細胞性T細胞と同じTCR抗原特異性を発現することになると決定された。なおさらに重要なことに、また後により詳細に論じるように、1つもしくは複数のCAR、または抗原/MHCクラスI特異的TCRのαおよびβ鎖をコードする1つもしくは複数の核酸によるiPSCもしくHSCのトランスフェクションのありもしくはなしで、そこから分化したT細胞は、機能的TCRおよび1つまたは複数のCAR(および任意選択で1つまたは複数の抗原結合受容体)の両方を安定して発現する能力を有し、したがって2つまたはそれよりも多い別個の抗原決定基に指向されることが決定された。したがって、iPSCまたはHSCに適当な分化シグナルを与える場合に起こることになるという前提で、そのような幹細胞はT細胞に分化し、必要なTCRを発現する「能力がある」と考えられる。この点に関して、TCR遺伝子の再編成は、全体に独立したゲノム事象であるので、iPSCを生成するためのT細胞部分集団の選択は、分化を指向されたiPSCによって最終的に産生されようとするT細胞部分集団と必ずしも同一である必要はない。例えば、適当なTCR特異性を呈するCD4T細胞を選択して、iPSCを生成することができる。しかしながら、そのiPSCが一旦生成されたら、当業者はCD8T細胞へのiPSCの分化を指向しようとすることができる。この場合、後成的記憶によって、新たに生成されたCD8T細胞は、CD8T細胞の機能性を呈することになるが、TCR特異性は、iPSCが導き出されたCD4T細胞のそれであることになる。逆も、また真である。
【0120】
T細胞などの体細胞性細胞の、iPSCなどの多系列潜在性表現型への「転換」を誘導することへの言及は、本明細書において定義される型の多系列(多能性)表現型へ体細胞性表現型を変化させるのに必要な遺伝的、形態的および/または機能的変化を誘導することへの言及と理解されるべきである。
【0121】
TCRをコードするDNAによる細胞のトランスフェクションによってTCRを産生する能力を有するiPSCを提供することを選び得る限り、このトランスフェクションは、本発明のiPSCの生成前、iPSCの生成後など任意の時点で起こり得、またはCARトランスフェクションと同時に起こり得ると認められよう。
【0122】
上で詳述した通り、体細胞性細胞、特にT細胞または胸腺細胞は、幹細胞、すなわち多系列分化潜在性の機能的段階への転換に誘導され得る。したがって、「多系列分化潜在性」または「多系列潜在性」を呈する細胞への言及は、1つより多い体細胞性分化経路に沿って発達する潜在的能力を呈する細胞への言及と理解されるべきである。例えば、細胞は、限られた範囲の体細胞性細胞型を生成する能力を有することができ、そのような細胞は、多能性または複数性であると通常呼ばれる。これらの細胞は、全能性細胞よりも限られた範囲の系列に拘束する潜在性を呈し、後者は、すべての体細胞性系列および配偶子を含めた本質的に可能なあらゆる分化方向に発達することができる細胞である。
【0123】
「プロジェニター」細胞または「前駆体」細胞と古典的に称される細胞は、適当な刺激条件下で、1つより多い体細胞性系列の細胞を生じ得るという前提で、「多系列分化潜在性」の定義の範囲に含まれる。「幹細胞」への言及が、本発明の方法によって生成される細胞に関して本明細書において行われる限り、これは、本明細書において定義した多系列分化潜在性を呈する細胞への言及と理解されるべきである。
【0124】
本発明に関して、対象幹細胞の重要な特徴は、細胞が呈する多系列分化潜在性が、T細胞に分化し、目的の抗原に対する特異性を呈するTCRを発現する能力を含むことであることは理解されるべきである。TCR特異性が、幹細胞が生成される前または後に誘導される(目的のTCRをコードするDNAによる幹細胞のトランスフェクションによってなど)かどうかは無関係である。本明細書において請求される幹細胞が、いつ、どのようにその素質が導入されたかに関係なく、必要な分化潜在性を呈するすべての幹細胞を包含することは理解されるべきである。またさらに、対象幹細胞が全能性である必要がないことも理解されるべきである。ただし、それらが1つより多い体細胞性細胞系列に沿って分化する能力を呈する場合に、これらの系列の1つがT細胞系列であるならば、前記細胞は本発明の範囲に含まれる。
【0125】
上で詳述した通り、本発明により提供される幹細胞は、遺伝子改変されている。「遺伝子改変された」は、対象細胞が、対応する改変されていない細胞との関連で観察される細胞と比較してなんらかの形の分子操作の結果得られるということを意味する。本発明との関連では、対象幹細胞は、キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を含み、任意選択で抗原結合受容体をコードする核酸分子をさらに含む。本明細書に開示するように、キメラ抗原受容体か抗原結合受容体かに関わらず、受容体をコードする核酸は、iPSCもしくはHSCなどの幹細胞、または幹細胞が導き出された細胞(例えば、T細胞)に導入され得;両方の事例において、受容体コードする核酸を含む得られた幹細胞は、本明細書において遺伝子改変された幹細胞であるとみなされる。遺伝子改変された幹細胞から分化したT細胞、および遺伝子操作されたCARまたは抗原結合受容体をコードする核酸を含有するように操作されたT細胞も、本明細書において遺伝子改変されたT細胞とみなされる。
【0126】
「核酸分子」への言及は、デオキシリボ核酸およびそのリボ核酸への言及と理解されるべきである。対象核酸分子は、任意の適切な核酸分子の形態、例えば、ゲノム、cDNAまたはリボ核酸分子であることができる。このため、用語「発現」とは、ペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質の合成をもたらすDNAの転写および翻訳またはRNAの翻訳のことを指す。DNA構築物は、例えば以降の発現のために細胞にトランスフェクトされ得る構築物に対応し、一方RNA構築物の例は、DNA構築物から転写されるRNA分子であり、RNA構築物は、目的のタンパク質を生成するのに翻訳しか必要としない。「発現産物」への言及は、核酸分子の転写および翻訳から産生される産物への言及である。
【0127】
「キメラ抗原受容体」(別名「人工T細胞受容体」、「キメラT細胞受容体」および「キメラ免疫受容体」)への言及は、免疫エフェクター細胞上に抗原結合部分をグラフトする操作された受容体への言及と理解されるべきである。一般に、これらの受容体は、T細胞にモノクローナル抗体の特異性をグラフトするために使用され;そのコード配列のトランスフェクションは、レトロウイルスベクターによって容易になる。より具体的には、本発明を決して限定するものではないが、最も一般的なこれらの分子は、モノクローナル抗体に由来し、膜貫通CD3ゼータ鎖およびエンドドメインに融合される単鎖可変断片(scFv)の融合体である。そのような分子は、その標的のscFvによる認識に応答してCD3ゼータ鎖シグナルを伝送する。T細胞がこのキメラ分子を発現する場合、その細胞は、scFvが指向された抗原を発現する標的細胞を認識し、死滅させる。例えば、悪性B細胞を標的するために、T細胞の特異性は、B系列分子であるCD19に対して特異的なキメラ免疫受容体を使用して再指向された。
【0128】
免疫グロブリン重鎖および軽鎖の可変部分は、可動性リンカーによって一般に融合されて、scFvを形成する。このscFvは通常、初期のタンパク質を小胞体に指向させ、その後表面発現させるためのシグナルペプチドの後にあり、シグナルペプチドは、最終的に切断される。可動性スペーサーは、scFvを異なる方向に向かせて、抗原結合を可能にする。膜貫通ドメインは一般に、細胞内に突き出ており、所望のシグナルを送るシグナル伝達エンドドメインの元来の分子に通常由来する典型的な疎水性アルファヘリックスである。したがって、「抗原認識部分」への言及は、目的の抗原決定基を認識し、それに結合する受容体の細胞外部分、すなわち標的特異的結合エレメントへの言及と理解されるべきである。抗原認識ドメインは、通常scFvである。しかしながら、他の多くの選択肢がある。例えば、天然のT細胞受容体(TCR)アルファおよびベータ一本鎖からの抗原認識部分は、単純な外部ドメイン(例えば、HIV感染細胞を認識するためのCD4外部ドメイン)および連結されたサイトカインなど他の認識成分(サイトカイン受容体を保有する細胞の認識をもたらす)を有するので、この部分も使用された。実際に、充分高い親和性で所与の標的を結合する任意の部分を、抗原認識ドメインとして使用することができる。そのような分子は当業者に周知であり、使用するのに適当な分子を選択することは、当業者には周知であろう。キメラ抗原受容体、特に細胞外ドメインを設計するという点で、当業者は、効果的な発現または機能化を実施するという点で有用な追加部分を含めることができる。例えば、先に詳述した通り、CARを発現する核酸分子は、抗原認識部分のN末端で単一ペプチドを発現するように設計することができる。本発明をいずれか1つの理論または作用機序に制限するものではないが、単一ペプチドは、小胞体へ初期のタンパク質を指向させる。受容体が、グリコシル化され、細胞膜に固定される場合、これは必要である。任意の真核生物単一ペプチド配列を使用することができる。一般に、アミノ末端にもともと付着されている単一ペプチドが使用される(例えば、軽鎖-リンカー-重鎖の配置を持つscFvにおいて、軽鎖の天然のシグナルが使用される)。別の例において、細胞外ドメインは、抗原認識ドメインを膜貫通ドメインに連結するために使用できるスペーサー領域を含むこともできる。スペーサー領域は、抗原認識ドメインを異なる方向に向けて、抗原認識および結合を容易にするように十分可動性であるべきである。スペーサー領域の最も単純な形態は、IgG1のヒンジ領域である。代替物は、免疫グロブリンのCHCH領域およびCD3の部分を含む。scFvに基づく構築物の大部分で、IgG1ヒンジが充分である。したがって、用語「スペーサー」は、膜貫通ドメインをポリペプチド鎖中の細胞外ドメインまたは細胞質ドメインのいずれかに連結するために機能する任意のオリゴもしくはポリペプチドのことを指す。スペーサードメインは、最高300個のアミノ酸、好ましくは10から100個のアミノ酸、最も好ましくは25から50個のアミノ酸を含むことができる。さらに別の例において、ヒンジ領域を改変してその長さを変化させ、それにより追加の機能的利益を達成することができる。例えば、CD8またはCD28ヒンジを含む従来のCARにおいて、1つのシステイン(Cys)をヒンジに残して、T細胞表面上での二量体化を安定させることができる。したがって、2つのscFvが、通常表示される(二価)。別の例において、Cysを(Serに)置換することができ、その結果安定化ジスルフィド結合を形成できず、それによって二量体化、それゆえ早すぎる活性化を妨げることができる。Cysを、全体に除去することもできる。別の設計は、一方のCARにVHドメインおよび他方にVLドメインだけを表示することであり、したがって、Cys対合は、VH/VLを整列させて、目的の抗原を標的する機能的一価Fvを形成することになる。
【0129】
対象キメラ抗原受容体の抗原認識部分は、T細胞活性化部分に作動可能に連結される。「T細胞活性化部分」は、抗原認識および結合後に、T細胞内へシグナルを送って、その活性化およびエフェクター機構誘導を可能にすることに関与する受容体の部分領域を意味する。CARのT細胞活性化部分は、CARの細胞内ドメイン(または「エンドドメイン」)中に一般に位置しており;このため、CAR分子の細胞内ドメインも、「細胞内シグナル伝達ドメイン」を一般に含む、または細胞内シグナル伝達ドメインである。一般的に使用されるエンドドメイン成分は、3つのITAMを含有するCD3ゼータの細胞内ドメインである。抗原が結合した後、このドメインはT細胞に活性化シグナルを送る。CD3ゼータは、十分に能力のある活性化シグナルを提供することができず、追加の共刺激シグナル伝達が望ましい。例えば、キメラCD28およびOX40をCD3ゼータと共に使用して、増殖/生存シグナルを送ることができ、または3つすべてを一緒に使用することができる。CARのこの細胞内シグナル伝達ドメインは、免疫細胞、好ましくはCARが発現されたT細胞の正常なエフェクター機能の少なくとも1つの活性化に関与することを理解すべきである。用語「細胞内シグナル伝達ドメイン」とは、エフェクター機能シグナルを変換し、特殊化した機能を実行するように細胞を指向させるタンパク質の部分のことを指す。通常細胞内シグナル伝達ドメイン全体を用いることができるが、多くの場合において、必ずしもドメイン全体を使用する必要はない。細胞内シグナル伝達ドメインの短縮部分が使用される場合、それがエフェクター機能シグナルを変換する限り、そのような短縮部分を完全な鎖の代わりに使用することができる。したがって、用語「細胞内シグナル伝達ドメイン」は、エフェクター機能シグナルを変換するのに充分な細胞内ドメインの任意の短縮部分を含むと意図される。
【0130】
CARに使用するための細胞内シグナル伝達ドメインの好ましい例には、抗原受容体係合の後に一緒に作用して、シグナル伝達を開始するT細胞受容体(TCR)および補助受容体の細胞質配列、ならびにこれらの配列の任意の誘導体またはバリアントおよび同じ機能的素質を有する任意の合成配列がある。
【0131】
TCR単独で生成されるシグナルは、T細胞の十分な活性化に不充分であり2次または共刺激シグナルも必要であることが、公知である。したがって、T細胞活性化は、細胞質シグナル伝達配列の別個の2つのクラス:TCRによって抗原依存的1次活性化を開始するクラス(1次細胞質シグナル伝達配列)および抗原非依存的様式で作用して2次または共刺激シグナルを提供するクラス(2次細胞質シグナル伝達配列)、によって媒介されると言うことができる。1次細胞質シグナル伝達配列は、刺激または阻害性いずれかの方法でTCR複合体の1次活性化を調節する。刺激性様式において作用する1次細胞質シグナル伝達配列は、免疫受容体チロシン型活性化モチーフまたはITAMとして公知のシグナル伝達モチーフを含有することができる。特に有用である1次細胞質シグナル伝達配列を含有するITAMの例には、TCRゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79bおよびCD66dに由来するものが含まれる。CARにおける細胞質シグナル伝達分子は、CD3ゼータに由来する細胞質シグナル伝達配列を含むことが特に好ましい。
【0132】
好ましい実施形態では、CARの細胞質ドメインは、それ自体でCD3ゼータシグナル伝達ドメインを含むように設計するまたは本発明のCARとの関連で有用な他の任意の所望の細胞質ドメインと組み合わせることができる。例えば、CARの細胞質ドメインは、CD3ゼータ鎖部および共刺激シグナル伝達領域を含むことができる。共刺激シグナル伝達領域とは、共刺激分子の細胞内ドメインを含むCARの部分のことを指す。共刺激分子は、抗原に対するリンパ球の効果的な応答に必要な、抗原受容体またはそのリガンド以外の細胞表面分子である。そのような分子の例には、CD27、CD28、4-lBB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、TIM3、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3およびCD83と特異的に結合するリガンド等がある。本発明のCARの細胞質シグナル伝達部分内の細胞質シグナル伝達配列は、ランダムなまたは指定された順序で互いに連結され得る。任意選択で、短いオリゴまたはポリペプチドリンカー、好ましくは2から10の間の長さのアミノ酸は、連結を形成することができる。グリシン-セリンダブレットは、特に適切なリンカーを提供する。一実施形態では、細胞質ドメインは、CD3ゼータのシグナル伝達ドメインおよびCD28のシグナル伝達ドメインを含むように設計される。
【0133】
上で詳述した通り、抗原認識部分は、T細胞活性化部分に作動可能に連結される。「作動可能に連結された」は、抗原決定基に抗原認識部分が結合することにより、シグナルが、T細胞活性化部分によって誘導されて対象T細胞を活性化し、そのエフェクター機能が活性化され得るように、抗原認識部分がT細胞活性化部分と連結、結合さもなければ会合されることを意味する。これは、例えば、膜貫通ドメインの設計によって達成される。
【0134】
一実施形態では、CAR中のドメインの1つと天然に会合する膜貫通ドメインが使用される。いくつかの事例において、膜貫通ドメインを、アミノ酸置換によって選択または改変して、そのようなドメインが同じまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインに結合することを回避し、それによって受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小化することができる。膜貫通ドメインは、天然または合成の供給源に由来することができる。供給源が天然の場合、ドメインは、任意の膜結合または膜貫通タンパク質に由来することができる。例えば、膜貫通領域は、T細胞受容体のアルファ、ベータもしくはゼータ鎖、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154またはIgG4などの免疫グロブリンに由来する(すなわち、それらの少なくとも細胞膜貫通領域を含む)ことができる。別法として、膜貫通ドメインは合成であってもよく、その場合、そのドメインはロイシンおよびバリンなどの疎水性残基を主に含むことになる。好ましくは、フェニルアラニン、トリプトファンおよびバリンのトリプレットが、合成膜貫通ドメインの各末端に見出されることになる。任意選択で、短いオリゴまたはポリペプチドリンカー、好ましくは2から10の間の長さのアミノ酸は、CARの膜貫通ドメインと細胞質シグナル伝達ドメインの間で連結を形成することができる。グリシン-セリンダブレットは、特に適切なリンカーを提供する。一般に、膜貫通ドメインは、膜をまたぐ疎水性アルファへリックスである。一般に、エンドドメインの膜に最も近位の成分からの膜貫通ドメインが、使用される。
【0135】
「抗原結合受容体」への言及は、細胞表面に固定され、抗原に結合する操作された受容体への言及と理解されるべきである。本明細書に開示されるキメラ抗原受容体と類似して、本明細書に開示される抗原結合受容体は、抗原決定基に指向された抗原認識部分も含む。抗原結合受容体中の抗原認識部分は、本明細書に記載のキメラ抗原受容体の抗原認識部分と同じ形態をとることができ、同じ方法で設計された。また、本明細書に開示されるキメラ抗原受容体と類似して、抗原結合受容体が細胞表面に固定されるように、抗原結合受容体中の抗原性認識部分は、膜貫通ドメインに(例えば、ヒンジ領域などのスペーサー配列によって)作動可能に連結されている。スペーサー配列および抗原結合受容体中の膜貫通ドメインは、上記のスペーサー配列およびキメラ抗原受容体の膜貫通ドメインと同じ方法で設計することもできる。しかしながら、キメラ抗原受容体とは異なり、本明細書において定義される抗原結合受容体は、一般に非シグナル伝達であり、T細胞活性化ドメインを欠く細胞内配列を含むことができる。そのような非シグナル伝達抗原結合受容体は、抗原に結合することができるが、T細胞においていかなるシグナル伝達も誘発せず、したがって「ドッキング受容体」または「アンカリング受容体」とも呼ばれる。非シグナル伝達CD47結合受容体などの抗原結合受容体のある特定の実施形態について、本明細書において以下でさらに記述される。
【0136】
CARおよび/または抗原結合受容体をコードする核酸構築物の例を図11に図示し、CARおよび抗原結合受容体ならびにCARにおける使用に適する様々なドメインおよび/または抗原結合受容体の典型的な配列を配列番号1から20に示す。
【0137】
これらの遺伝子改変が細胞に導入される機構が、当業者に周知であり、理解されているであろう任意の適切な形態をとり得ることは、当業者に認められよう。例えば、遺伝物質は、発現構築物の使用によって細胞に一般に都合よく導入される。
【0138】
一実施形態では、TCRを発現しているT細胞(すなわち、iPSCまたはHSCなどの幹細胞)へ分化する能力を有する細胞またはiPSCなどの幹細胞を導き出すことができるTCRを発現する細胞が、CARをコードする発現構築物でトランスフェクトされる。発現構築物は、CARをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む1つまたは複数のDNA領域、任意選択で選択可能なマーカーをコードする第2のDNA領域、および任意選択で、自殺タンパク質をコードする第3のDNA領域を含むことができる。この点に関して、常法として、当業者が有用であろうと考える自殺遺伝子など、1つまたは複数の任意の追加の成分を持つ構築物を設計することができると理解されるべきである。患者を処置するためにin vivoで使用することが提案される本発明の細胞との関連では、本発明の遺伝子改変された細胞の死滅を制御し、したがってin vivo環境からのそれらの排除を実施する能力が非常に望ましい。本発明をいずれか1つの理論または作用機序に制限するものではないが、本発明の細胞の養子移入は、特にそれらが腫瘍抗原などの「自己」抗原または自己反応性細胞において発現される抗原、または自己抗原との交差反応性が起こり得る抗原に指向され得る限り、リスクがないわけではない。この状況において、これらの細胞が、健康な(疾患がない)細胞を攻撃する場合、移植片対宿主病と類似の転帰が起こり得る。全体の治療的スキームにおいて、これらの副作用は、化学療法などの処置に特徴的な健康な組織の非特異的な全身的死滅または自己免疫障害における健康な組織の制御の効かない死滅よりもまだ一層望ましくなり得る。しかし、がん細胞を死滅させることは最も重要であるが、本発明の細胞の排除を制御する能力が、高く望まれ、本発明の幹/T細胞に導入される遺伝子構築物内に誘導可能な自殺遺伝子を組み入れるという非常に周知であり、広く使用されている技術によって日常的に達成され得る。
【0139】
対象プロモーターは、構成的または誘導性であってよい。対象構築物が1つより多い目的のタンパク質を発現する場合、これらは、別々のプロモーターの制御下であってよく、または単一のRNA転写物から1つより多いタンパク質産物の未融合形態での翻訳を促進するIRES配列を使用するバイシストロン性ベクターとの関連で生じるように、それらは単一のプロモーターの制御下であってもよい。対象構築物は、Creリコンビナーゼ媒介スプライシング誘導性遺伝子発現系の使用を促進できるように追加で設計されてよい。
【0140】
核酸「発現構築物」への言及は、細胞に伝播可能であり転写を受けるように設計された核酸分子への言及として理解されるべきである。次にRNA分子はそれから転写される。一般に発現構築物は、「発現カセット」および「ベクター」が挙げられる広く互換的に利用される多数の代替用語によっても言及される。
【0141】
複数の受容体をコードする核酸を導入する目的のために、受容体がCAR、抗原結合受容体またはこれらの組合せのいずれであっても、複数の受容体をコードする核酸は、細胞にトランスフェクトされる1つの構築物に置かれてよい。一実施形態では、複数の受容体をコードする核酸は、複数の受容体タンパク質の翻訳を促進するためにIRES配列を使用する多シストロン性ベクターに含まれてよい。別の実施形態では、複数の受容体をコードする核酸は、例えば、複数の受容体配列を含む一方の単一ポリペプチドが最初に産生され、続いて複数の受容体を産生するようにプロセシングされるように、自己切断性ペプチド(例えば、P2A)を利用することによって、1つの発現ユニットおよび読み枠内で互いに連結されていてよい。別の実施形態では、複数の受容体をコードする核酸は、トランスフェクションにおいて使用される別々の構築物中に置かれる。
【0142】
本発明の発現構築物は、組換えまたは合成技術が挙げられる任意の好適な方法によって生成されてよい。この目標のために対象構築物は、完全な合成アプローチが利用される場合に考える最初の原理で構築されてよく、または既存のベクターを適切に改変することによって構築されてよい。後者のアプローチを採用する場合、出発点として利用できるベクターの範囲は、広範囲であり、これだけに限らないが:
(i)プラスミド:プラスミドは、細胞質性DNAの非依存的に複製する小片であり、一般に原核細胞において見出され、自律的に複製する能力を有する。プラスミドは、1つの生物から別のものに移行するそれらの能力によって分子クローニングとの関連で一般に使用されている。本発明をいかなる理論または作用様式に限定することなく、プラスミドはエピソームのままである場合があり、またはそれらは宿主のゲノムに組み込まれる場合がある。利用できるプラスミドの例として、細菌由来pBR322およびpUCが挙げられる、
(ii)バクテリオファージ:バクテリオファージは、細菌に感染し、複製するウイルスである。一般にそれらは、タンパク質コート(カプシドと呼ばれる)内に封入された核酸のコアからなる。ファージの種類に応じて核酸は、DNA(1本鎖もしくは2本鎖)またはRNA(1本鎖)のいずれかであってよく、それらは直鎖状または環状のいずれかであってよい。ファージは、線維状、多角体またはテールが付いた多角体である場合があり、管状のテールに1つまたは複数の管状のテール線維が付着している。一般にファージは、例えばプラスミドよりも、外来DNAの長い断片を収容できる。ファージの例として、これだけに限らないがE.coliラムダファージ、P1バクテリオファージおよびT偶数ファージ(例えばT4)が挙げられる、
(iii)バキュロウイルス:無脊椎動物においてだけ増殖する様々なDNAウイルスの群があり、一般にバキュロウイルス科に分類される。それらのゲノムは2本鎖環状DNAからなる、
(iv)哺乳動物ウイルス:哺乳動物に感染するそのようなウイルスの例として、レンチウイルス、センダイウイルス、レトロウイルスおよびワクチニアウイルスが挙げられる、(v)人工染色体:酵母人工染色体または細菌性人工染色体などの人工染色体、
(vi)コスミド、ファージミドおよびファスミドなどのハイブリッドベクター:一般にコスミドは、プラスミド由来だが、ラムダファージのためのcos部位も含み、一方ファージミドはキメラファージプラスミドベクターを表す。ファスミドは、一般にプラスミドファージキメラも表すが、両方の機能性複製の起源を含有するという事実によって定義される。ファスミドは、したがってプラスミドまたはファージのいずれかとして適切な宿主株において増殖され得る、
(vii)完全に合成により生成されたものまたはウイルスベクターなどの天然に存在するベクターの改変バージョンであるとされる商業的に入手できるベクター、
を含む。
【0143】
改変のために適切なベクターの選択が、構築物を合成的に生成するよりもこれを選ぶ限り、それが置かれる遺伝子改変された細胞での最終的な使用を含む多数の要因に依存することは当業者に理解される。例えば細胞がin vivoでヒトに投与される場合、ウイルスベクターなどのある特定の種類のベクターを利用することはあまり望ましくない場合がある。さらに、構築物に導入されることが試みられるDNAの量も検討される必要がある。ある種のベクターがある種の細胞型により容易にトランスフェクトされることは一般に理解されている。例えば、所与のプラスミドのために宿主として機能できる細胞型の範囲は、ある種類のプラスミドから別のもので変化する場合がある。さらにまた別の例では、挿入される必要があるさらに大きなDNA挿入物は、本発明の発現構築物が生成されるベクターの選択をさらに限定する。この目的のために、挿入されるDNAのサイズは、目的のタンパク質をコードするDNA配列のサイズ、発現を試みられるタンパク質の数、利用される選択マーカーの数および直鎖化ポリリンカー領域などの特性の組み込みなどの要因に応じて変化する場合がある。
【0144】
本発明において使用される発現構築物は、環状または直鎖状を含む任意の形態であってよい。この場面において「環状」ヌクレオチド配列は、任意のヌクレオチド分子の環状ヌクレオチド配列部分を言及するとして理解されるべきである。例えばヌクレオチド配列は、プラスミドなど完全に環状であってよく、またはローリングサークル複製の際に生成されるヌクレオチド分子の環状部分など部分的に環状であってよい(これは、例えば細胞集団へのその導入に先立って構築物が細胞に基づくクローニング系を介するよりむしろこの種類の方法によって最初に複製される場合に関連する可能性がある)。この場面において「環状」ヌクレオチド配列は、この分子の環状部分に対応する。本質的に直鎖状形態である「直鎖状」ヌクレオチド配列は、任意のヌクレオチド配列を言及するものとして理解されるべきである。直鎖状配列は、直鎖状ヌクレオチド分子であってよく、またはそれは環状部分などの非直鎖状部分も含むヌクレオチド分子の直鎖状部分であってよい。直鎖状ヌクレオチド配列の例として、これだけに限らないが、宿主細胞の染色体への組み込みを促進するために直鎖化されたプラスミド由来構築物、または直鎖状形態で合成的に生成された構築物が挙げられる。この目的のために、本発明の構築物の立体配置が一定のままである場合もない場合もあることも理解されるべきである。例えば、環状プラスミド由来構築物は、この形態で複製および転写を受ける安定な環状エピソームのままで細胞にトランスフェクトされる場合がある。しかし別の例では、対象構築物は、細胞に環状形態でトランスフェクトされるが、染色体への組み込みの前に細胞内で直鎖化を受けるものである場合がある。そのような直鎖化が無作為な様式で生じる場合があり、重要な領域で構築物を切断し、それにより無効化することから、これは必ずしも理想的な状況ではない。
【0145】
本発明の方法において利用される核酸分子は、任意のヒトまたは非ヒト供給源由来である。本発明によって企図される非ヒト供給源として、霊長類、家畜動物(例えば、ヒツジ、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ロバ)、実験動物(例えば、マウス、ハムスター、ウサギ、ラット、モルモット)、家庭内コンパニオン動物(例えば、イヌ、ネコ)、鳥類(例えば、ニワトリ、ガチョウ、アヒルおよび他の家禽、狩猟鳥、エミュー、ダチョウ)捕獲野生または飼い慣らされた動物(例えば、雄ウシ、カンガルー、ディンゴ)、は虫類、魚類、昆虫、原核生物または合成核酸が挙げられる。
【0146】
本発明の受容体をコードする構築物が、1つより多い供給源由来の核酸材料を含み得ることは理解されるべきである。例えば、構築物は特定の微生物由来であってよい一方で、本明細書に定義の特性を導入するために構築物を改変することにおいて、他の微子生物供給源由来の核酸材料が導入されてよい。これらの供給源として、例えば、ウイルスもしくは細菌DNA(例えばIRES DNA)、哺乳動物DNA(例えば、CARコードをするDNA)または合成DNA(例えば、特異的な制限エンドヌクレアーゼ部位を導入するため)が挙げられる。さらに、対象構築物を発現することが提案される細胞型は、構築物の核酸材料の全体または部分としても同じ生物に対応しないようにさらに異なっていてよい。例えば細菌およびウイルス由来DNAから本質的になる構築物は、それにも関わらず、本明細書で企図される哺乳動物幹細胞において発現され得る。
【0147】
本発明を全く限定することなく本発明は、CARの配列を含むDNA構築物を好ましくは使用し、その配列は、細胞内ドメインの核酸配列に作動可能に連結した抗原結合部分の核酸配列を含む。例えば対象CARにおいて使用され得る細胞内ドメインとして、これだけに限らないがCD3ゼータの細胞内ドメインが挙げられる。別の実施形態では、CARの細胞内ドメインは、CD28の細胞内ドメインに作動可能に連結したCD3ゼータの細胞内ドメインを含み;さらなる実施形態では、CARの細胞内ドメインは互いに作動可能に連結したCD3ゼータ、CD28およびOX40の細胞内ドメインを含む。
【0148】
レンチウイルスなどのレトロウイルス由来ベクターは、それらが導入遺伝子の長期の安定した組み込みおよび娘細胞でのその増殖を可能にすることから、長期遺伝子移行を達成するために好適なベクターの一例である。他の好適なウイルスとしてセンダイウイルスおよびワクチニアウイルスが挙げられる。ベクターは、真核生物での複製および組み込みのために好適であるべきである。典型的なクローニングベクターは、転写および翻訳終結因子、開始配列ならびに所望の核酸配列の発現の制御のために有用なプロモーターを含有する。ウイルスベクター技術は、当技術分野において周知であり、例えばSambrookら、(2001年、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、New York)ならびに他のウイルス学および分子生物学手引き書に記載されてい
る。ベクターとして有用であるウイルスとして、これだけに限らないが、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルスおよびレンチウイルスが挙げられる。一般に好適なベクターは、少なくとも1つの生物において機能性の、複製開始点、プロモーター配列、好都合な制限エンドヌクレアーゼ部位、および1つまたは複数の選択可能マーカーを含有する(例えばWO01/96584;WO01/29058;および米国特許第6,326,193号)。
【0149】
多数のウイルスに基づく系が哺乳動物細胞への遺伝子移行のために開発されている。例えばレトロウイルスは、遺伝子送達系のために好都合なプラットフォームを提供する。選択された遺伝子は、当技術分野において公知の技術を使用してベクターに挿入され、レトロウイルス粒子にパッケージされ得る。次に組換えウイルスは、単離され、対象幹細胞に送達され得る。多数のレトロウイルス系が当技術分野において公知である。
【0150】
追加のプロモーターエレメント、例えばエンハンサーは、転写開始の頻度を制御する。典型的にはこれらは、開始部位の30~110bp上流領域に位置付けられるが、多数のプロモーターが開始部位の下流にも機能性エレメントを同様に含有することが近年示された。プロモーターエレメント間のスペーシングは、しばしば可動性であり、そのためプロモーター機能はエレメントが互いに反転されたまたは移動した場合でも保存される。チミジンキナーゼ(tk)プロモーターでは、プロモーターエレメント間のスペーシングは、活性が低下し始める前に50bp離れるまで増加させることができる。プロモーターに応じて個々のエレメントは、転写を活性化するために協同的にまたは非依存的に機能できる。
【0151】
好適なプロモーターの一例は、最初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター配列である。このプロモーター配列は、それに作動可能に連結した任意のポリヌクレオチド配列の高レベルの発現を駆動する能力を有する強い構成的プロモーター配列である。好適なプロモーターの別の例は、伸長成長因子la(EF-la)である。しかし他の構成的プロモーター配列も、これだけに限らないが、サルウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)末端反復配列(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン・バーウイルス最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ならびにこれだけに限らないが、アクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーターおよびクレアチンキナーゼプロモーターなどのヒト遺伝子プロモーターが挙げられ、使用され得る。さらに構築物は、構成的プロモーターの使用に限定されるべきではない。誘導性プロモーターも使用されることが企図される。誘導性プロモーターの使用は、それが作動可能に連結したCARポリヌクレオチド配列の発現をその発現が望ましい場合にオンにし、発現が望ましくない場合に発現をオフする能力を有する分子スイッチを提供する。誘導性プロモーターの例として、これだけに限らないがメタロチオネイン(metallothionine)プロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲ
ステロンプロモーターおよびテトラサイクリンプロモーターが挙げられる。
【0152】
CARポリペプチドまたはその一部の発現を評価するために、細胞に導入された発現ベクターは、ウイルスベクターを通じてトランスフェクトまたは感染することが試みられた細胞の集団からの発現細胞の同定および選択を促進するために、選択可能マーカー遺伝子もしくはレポーター遺伝子のいずれかまたは両方を含有できる。他の態様では選択可能マーカーは、DNAの別の小片に担われてよく、共トランスフェクション手順において使用されてよい。選択可能マーカーおよびレポーター遺伝子の両方は、宿主細胞での発現を可能にするために適切な制御配列に隣接されていてよい。有用な選択可能マーカーとして、例えば、ネオなどの抗生物質耐性遺伝子が挙げられる。エピトープタグは、一般に使用される短いポリペプチドc-mycまたはFLAGなどCAR分子の細胞外ドメインにも含まれてよく、例えばフローサイトメトリーとの組合せで使用される抗体などのエピトープ特異的標的化剤によってCAR発現を同定するために好ましくはヒンジ領域に置かれる。
【0153】
レポーター遺伝子は、トランスフェクトされた可能性がある細胞を同定するため、および制御配列の機能性を評価するために使用される。一般にレポーター遺伝子は、レシピエント生物または組織中に存在または発現されず、その発現がいくつかの容易に検出可能な特性、例えば酵素活性によって顕在化するポリペプチドをコードする遺伝子である。レポーター遺伝子の発現は、DNAがレシピエント細胞に導入された後の好適な時期にアッセイされる。好適なレポーター遺伝子として、ルシフェラーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチル基転移酵素、分泌型アルカリホスファターゼまたは緑色蛍光タンパク質遺伝子をコードする遺伝子が挙げられる(例えば、Ui-Teiら、2000年
FEBS Letters 479巻:79~82頁)。好適な発現系は、周知であり、公知の技
術を使用して調製または商業的に入手できる。一般に、レポーター遺伝子の最も高い発現レベルを示す最小5’隣接領域を有する構築物がプロモーターとして同定される。そのようなプロモーター領域は、レポーター遺伝子に連結されていてよく、プロモーター駆動転写を調節する能力について薬剤を評価するために使用される。eGFP(増強された緑色蛍光タンパク質)などのレポーターは、P2Aなどの自己切断性ペプチドによって分離されて、C末端ポリペプチド伸長としてCARに組み込まれてよく、eGFPなどのレポーターを細胞内に放出することは当業者によって理解される。
【0154】
細胞に遺伝子を導入し、発現させる方法は、当技術分野において公知である。発現ベクターとの関連では、ベクターは、物理的、化学的または生物学的手段によって宿主細胞に容易に導入され得る。
【0155】
宿主細胞にポリヌクレオチドを導入するための物理的方法として、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、微粒子銃、微量注入、電気穿孔法などが挙げられる。ベクターおよび/または外来性核酸を含む細胞を産生するための方法は、当技術分野において周知である。例えば、Sambrookら、(2001年、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、New York)を参照されたい。宿主細胞にポリ
ヌクレオチドを導入するための好ましい方法は、リン酸カルシウムトランスフェクションである。
【0156】
宿主細胞に目的のポリヌクレオチドを導入するための生物学的方法として、DNAおよびRNAベクターの使用が挙げられる。ウイルスベクター、および特にレトロウイルスベクターは、哺乳動物、例えばヒト細胞に遺伝子を挿入するために最も広く使用される方法になっている。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルルスI、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスなど由来であってよい。例えば米国特許第5,350,674号および第5,585,362号を参照されたい。
【0157】
宿主細胞へポリヌクレオチドを導入するための化学的手段として、マクロ分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズなどのコロイド性分散剤系、ならびに水中油乳液、ミセル、混合ミセルおよびリポソームを含む脂質に基づく系が挙げられる。送達ビヒクルとしての使用のための例示的なコロイド系はリポソームである(例えば、人工膜ベシクル)。
【0158】
非ウイルス送達系の利用が試みられる場合、例示的送達ビヒクルはリポソームである。脂質製剤の使用は、宿主細胞への核酸の導入のために企図される。別の態様では核酸は、脂質と会合していてよい。脂質と会合している核酸は、リポソームの水性の内部に封入されていてよく、リポソームの脂質二重層内に分散されていてよく、リポソームおよびオリゴヌクレオチドの両方に会合する連結分子を介してリポソームに付着していてよく、リポソーム内に捕捉されていてよく、リポソームと複合体化していてよく、脂質を含有する溶液中に分散され脂質と混合されていてよく、脂質と組み合わされていてよく、脂質中の懸濁物として含有されていてよく、ミセルに含有されているもしくは複合体化していてよく、またはそうでなければ脂質と会合していてよい。脂質、脂質/DNAまたは脂質/発現ベクター会合組成物は、溶液中のいかなる特定の構造にも限定されない。例えばそれらは、ミセルなどの二重層構造で、または「崩壊した」構造を有して存在できる。それらは、溶液中に単純に分散されていてもよく、サイズまたは形状が均一でない凝集物を形成する可能性がある。脂質は、天然に存在するまたは合成の脂質であってよい脂肪物質である。例えば脂質は、細胞質中に天然で存在する脂肪液滴ならびに、脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコールおよびアルデヒドなどの長鎖脂肪族炭化水素およびそれらの誘導体を含有する化合物のクラスを含む。
【0159】
使用のために好適な脂質は、商業的供給源から得ることができる。例えば、ジミリスチルホスファチジルコリン(「DMPC」)はSigma、St.Louis、MOから得ることができる;リン酸ジセチル(「DCP」)はK&K Laboratories(Plainview、NY)から得ることができる;コレステロール(「Choi」)はCalbiochem-Behringから得ることができる;ジミリスチルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)および他の脂質はAvanti Polar Lipids,Inc.(Birmingham、AL)から得ることができる。クロロホルムまたはクロロホルム/メタノール中の脂質の保存溶液は、約-20℃で保存できる。クロロホルムは、メタノールよりもさらに容易に蒸発させられる唯一の溶媒として使用される。「リポソーム」は、封入された脂質二重層または凝集物の生成によって形成された種々の単一および多重膜脂質ビヒクルを包含する総称である。リポソームは、リン脂質二重層膜および内部の水性媒体を含む小胞構造を有するとして特徴付けることができる。多重膜リポソームは、水性媒体によって分離された複数の脂質層を有する。それらは、リン脂質が過剰量の水溶液中に懸濁されると自発的に形成される。脂質構成成分は、閉じた構造を形成する前に自己再構成を受け、水および溶けている溶質を脂質二重層の間に捕捉する(Ghoshら、(1991年))。しかし、通常の小胞構造とは異なる構造を溶液中で有する
組成物も包含される。例えば脂質は、ミセル構造であると推定される、または単なる脂質分子の不均一な凝集物として存在できる。同様に企図されるのは、リポフェクタミン核酸複合体である。
【0160】
宿主細胞に外来性核酸を導入するために使用された方法に関わらず、宿主細胞中での組換えDNA配列の存在を確認するために、種々のアッセイが実施され得る。そのようなアッセイとして、例えばサザンおよびノーザンブロッティング、RT-PCRならびにPCRまたは、特定のペプチドの存在または非存在を、例えば免疫学的手段(ELISAおよびウエスタンブロット)によって検出することによるものが挙げられる。
【0161】
一部の実施形態での本細胞のTCRおよびCARならびに抗原結合受容体は、それぞれ抗原決定基に指向されている。「抗原決定基」への言及は、本発明の受容体発現T細胞によって標的化されることが試みられる、細胞によって発現される任意のタンパク質性または非タンパク質性分子への言及として理解されるべきである。これらが、それらが患者の身体において通常発現されている「自己」分子(一部の腫瘍細胞または自己反応性細胞で発現されるなど)である可能性があるまたは、細胞が微生物に感染している場合に予測されるなどの非自己分子(例えば、ウイルスタンパク質)である可能性がある、分子であることは理解される。対象抗原が、TまたはB細胞免疫応答を天然で誘発できる抗原(自己であるかないかに関わらず)に限定されないことも理解されるべきである。むしろ本発明との関連では、「抗原」または「抗原決定基」への言及は、標的化されることが試みられる任意のタンパク質性または非タンパク質性分子に言及している。上で詳述した通り標的分子は、腫瘍抗原または自己反応性免疫細胞抗原などの免疫系が天然で寛容であるものであってよい。しかし、それにも関わらずこの抗原を標的化することは、例えば化学療法もしくは免疫抑制などの高度に非特異的および全身性の処置において観察される可能性があるさらに重度の副作用の可能性を最少化するため、または高度に標的化された処置を介して処置期間を低減するため、および/またはすべての所望されない細胞の死滅可能性を最大化するために、望ましい(付帯的損害の観点においても)可能性がある。好ましくは前記分子は、細胞表面上に発現される。
【0162】
TCR結合の場面において対象抗原決定基がMHC IまたはMHC IIのいずれかの場面において発現される抗原由来ペプチドの形態をとることは、当業者によって理解される。CARとの関連では、この受容体の設計が免疫グロブリン可変領域結合ドメインの使用に基づいていることから、受容体は抗原の天然形態に存在するエピトープを認識する。対象エピトープは直鎖状または立体構造的のいずれであってもよい。対象抗原決定基が、標的化されることが試みられる細胞によって発現される任意の分子であり得ることは理解されるべきである。すなわち標的化される分子は、標的細胞によって排他的に発現される場合がある、または非標的細胞によっても同様に発現される場合がある。好ましくは対象抗原決定基は、非自己抗原決定基または、そうでなければ標的化されることが試みられている細胞によって排他的にもしくは正常細胞によるよりも顕著に高いレベルで発現される抗原決定基である。しかし本明細書で既に考察の通り、処置される疾患状態に応じて、非自己抗原決定基を同定および標的化することが常に可能であるとは限らない。
【0163】
「第1の」抗原決定基および「第2の」抗原決定基に指向されているTCR/CAR受容体を本明細書において言及することは、対象受容体が2つの異なるエピトープ領域に指向されている事実へ言及することとして理解されるべきである。これに関して、受容体は2つの完全に異なる細胞表面分子上のエピトープに指向されてよく、または受容体は同じ細胞表面分子の2つの異なる領域/エピトープに指向されてよいことは理解されるべきである。複数のCARと合わせてTCRに言及する、または1つまたは複数のCARおよび1つまたは複数の抗原結合受容体と共にTCRに言及する実施形態では、各受容体が抗原決定基に指向され、抗原決定基が好ましくは互いに異なる、すなわち同じまたは異なる分子の異なるエピトープ領域に対応する抗原決定基であることは理解されるべきである。
【0164】
したがって一実施形態では、遺伝子的に改変された哺乳動物幹細胞またはそれから分化したT細胞が提供され、その細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現し、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有し、キメラ抗原受容体をコードする少なくとも1つの(すなわち、1つまたは複数の)核酸分子を含み、前記受容体は第2の抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分はT細胞活性化部分に作動可能に連結されており、任意選択で第3の抗原決定基に指向されている抗原結合受容体をコードする核酸をさらに含み、前記抗原決定基は腫瘍抗原、微生物抗原または自己反応性免疫細胞抗原から選択される。
【0165】
一実施形態では、前記幹細胞はiPSCである。別の実施形態では、幹細胞はHSCである。
【0166】
さらに別の実施形態では、前記幹細胞は、CD4T細胞またはCD8T細胞に分化する能力を有する。
【0167】
さらに別の実施形態では、前記TCRは、αβTCRである。
【0168】
さらに別の実施形態では、iPSCなどの前記幹細胞は、T細胞または胸腺細胞、好ましくはCD8T細胞または胸腺細胞由来である。
【0169】
当業者によって理解される通り、腫瘍に限定されている抗原の同定は研究の重要な領域であるが、それに関して進歩は限定的である。腫瘍細胞が通常自己細胞であることから(例えば移植組織から生じる腫瘍とは対照的に)、それらが発現する抗原は自己抗原だけではないが、腫瘍が由来する組織の非新生物性細胞によっても発現される可能性が高いことは事実である。抗新生物処置レジメがそのような抗原を標的化する場合に生じる可能性があり、避けることができない副作用(非新生物性組織の破壊の観点から)のために明らかに理想とは言えない状況である。それにも関わらずいくつかの進歩が、腫瘍細胞によって排他的に発現されるのでなくても、低レベルで発現されるまたは非新生物性細胞であまり発現されない標的腫瘍抗原を同定することに関してなされた。
【0170】
本発明の抗原結合部分の選択は、処置されるがんの具体的な種類に依存する。腫瘍抗原は、当技術分野において周知であり、例えば、MAGE、LMP-2、CD19、CD20、WT1、MART-1神経膠腫関連抗原、癌胎児性抗原(CEA)、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン、腫瘍関連糖タンパク質72(TAG72)、アルファフェトプロテイン(AFP)、レクチン反応性AFP、サイログロブリン、RAGE-1、MN-CA IX、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2(AS)、腸カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、M-CSF、プロスターゼ、前立腺特異抗原(PSA)、PAP、NY-ESO-1、LAGE-la、p53、プロステイン、PSMA、Her2/neu、サバイビンおよびテロメラーゼ、前立腺癌腫瘍抗原1(PCTA-1)、ELF2M、好中球エラスターゼ、エフリンB2、CD22、インスリン成長因子(IGF)-I、IGF-II、IGF-I受容体およびメソテリンが挙げられる。CD47(「貪食拒否」受容体)も正常細胞と比較してがん細胞においてしばしば高く発現されることから腫瘍標的であり、具体的にはスカベンジャーマクロファージが挙げられる、免疫系の細胞によってこれらのがん細胞が攻撃されることを妨げる。
【0171】
一実施形態では、腫瘍抗原は、悪性腫瘍に関連する1つまたは複数のエピトープを含む。悪性腫瘍は、免疫攻撃のための標的抗原として役立つことができる多数のタンパク質を発現する。これらの分子として、これだけに限らないがMART-1、WT-1などの組織特定抗原、メラノーマでのチロシナーゼおよびGP100ならびに前立腺がんでの前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)および前立腺特異抗原(PSA)が挙げられる。他の標的分子は、がん遺伝子HER-2/Neu/ErbB-2などの形質転換関連分子の群に属する。標的抗原のさらに別の群は、癌胎児性抗原(CEA)などのがん胎児性抗原である。B細胞リンパ腫では、腫瘍特異的イディオタイプ免疫グロブリンは、個々の腫瘍に別個である真の腫瘍特異的免疫グロブリン抗原を構成する。CD19、CD20およびCD37などのB細胞分化抗原は、B細胞リンパ腫における標的抗原のための他の候補である。
【0172】
抗原の非限定的例として、次の:MART-1/MelanA(MART-I)、gplOO(Pmel17)、チロシナーゼ、TRP-1、TRP-2などの分化抗原、およびMAGE-1、MAGE-3、BAGE、GAGE-1、GAGE-2、pl5などの腫瘍特異的多系列抗原;CEAなどの過発現胚性抗原;過発現がん遺伝子ならびにp53、Ras、HER-2/neuなどの変異腫瘍抑制遺伝子;染色体転座から生じた別個腫瘍抗原;BCR-ABL、E2A-PRL、H4-RET、IGH-IGK、MYL-RARなど;ならびに、エプスタイン・バーウイルス抗原EBVAならびにヒトパピローマウイルス(HPV)抗原E6およびE7などのウイルス抗原が挙げられる。他の大きな、タンパク質ベースの抗原としてCD47、TSP-180、MAGE-4、MAGE-5、MAGE-6、RAGE、NY-ESO、pl85erbB2、pl80erbB-3、cMet、nm-23Hl、PSA、TAG72、CA19-9、CA72-4、CAM17.1、NuMa、K-ras、ベータカテニン、CDK4、Mum-1、p15、p16、43-9F、5T4、791Tgp72、アルファ-フェトプロテイン、ベータHCG、BCA225、BTAA、CA125、CA15-3\CA27.29\BCAA、CA195、CA242、CA-50、CAM43、CD68\P1、CO-029、FGF-5、G250、Ga733\EpCAM、HTgp-175、M344、MA-50、MG7-Ag、MOV18、NB/70K、NY-CO-1、RCAS1、SDCCAG16、TA-90\Mac-2結合タンパク質\シクロフィリンC関連タンパク質、TAAL6、TAG72、TLPおよびTPSが挙げられる。
【0173】
本発明の細胞は、複数、すなわち2つまたはそれよりも多い抗原決定基に指向されるように設計される。本明細書に詳述の通り複数の抗原決定基は、一部の実施形態では1つの分子の複数のエピトープ、または他の実施形態では複数の完全に異なる分子のエピトープであってよい、または含んでよい。複数の抗原決定基のいずれが標的化されるべきかの選択、さらにそれらがTCRまたはCARによって標的化されるべきであるかどうかは、十分に当業者の技術の範囲内である。一実施形態では、本発明の細胞は腫瘍細胞を排除するために設計され、前記TCR/CARは腫瘍抗原、具体的にはTAG72、MAGEおよびWT1に指向されている。別の実施形態では、前記細胞は自己反応性免疫細胞を排除するために設計され、前記TCR/CARはイディオタイプT細胞またはB細胞受容体に指向されている。
【0174】
したがって一実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞またはそれから分化したT細胞が提供され、細胞は第1の腫瘍抗原性決定基に指向されているTCRを発現しているT細胞に分化する能力を有し、1つまたは複数のキメラ抗原受容体をコードする1つまたは複数の核酸分子を含み、各キメラ抗原受容体は腫瘍抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分はT細胞活性化部分に作動可能に連結し、前記抗原決定基は、TAG72、CD47、CD19、WT-1、MAGEおよびEBVLMP2から選択される。
【0175】
好ましくは前記遺伝子改変された細胞は、TAG72およびWT-1に指向されている。さらにより好ましくは前記CARは、TAG72およびCD47に指向され、前記TCRはWT-1に指向されている。
【0176】
一実施形態では、前記幹細胞はiPSCである。別の実施形態では、幹細胞はHSCである。
【0177】
さらに別の実施形態では、前記幹細胞は、CD4T細胞またはCD8T細胞に分化する能力を有する。
【0178】
さらに別の実施形態では、前記TCRは、αβTCRである。
【0179】
またさらに別の実施形態では、前記幹細胞(iPSCなど)は、T細胞または胸腺細胞、好ましくはCD8T細胞または胸腺細胞由来である。
【0180】
一実施形態では、本発明の細胞が新生物を処置するように指向される範囲内で、広範なCARが公知の腫瘍抗原を標的化するように開発された。これらのCARの一部を例示する非限定的要約は受容体の構造と共に、下の表5に提供される:
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表5-4】
【0181】
一部の実施形態では、CARは、CD19またはTAG72に指向されているscFv、ならびに両方がCD28またはCD8由来であるヒンジ(ストーク)領域および膜貫通領域、ならびに同様にCD28またはCD8由来でありT細胞活性化部分を含む細胞質性エンドドメインからなる抗原認識ドメインを含む。CARは、翻訳後にEGFPを放出するためのP2A自己切断性ポリペプチドによって互いに繋がれた、C末端ポリペプチド伸長としてのレポータータンパク質(EGFPなど)を含むことができる。例えば図11および14を参照されたい。
【0182】
関連する態様では、非シグナル伝達抗原結合受容体、例えばシグナル伝達に影響を与えることができないCD47結合分子を発現するように操作される場合、本発明の細胞は特に有効になることがさらに判定された。細胞表面でのCD47結合分子の発現は、本発明の細胞をそれが指向されている新生物細胞にアンカリングし、それによりそれらそれぞれのリガンドとTCRおよびCARとの相互作用の改善を促進する。固形腫瘍の処置に関して、具体的には、対象細胞の相互作用の安定性および結合親和性の増加は、対象CD47結合分子を発現していない細胞と比較して、新生物細胞死滅に関して機能的帰結の改善を可能にする。
【0183】
したがって本発明の関連する態様では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞、またはそれから分化したT細胞が提供され、細胞は、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有し、(i)キメラ抗原受容体をコードする核酸分子であって、前記受容体が第2の抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分がT細胞活性化部分に作動可能に連結されている核酸分子、および(ii)非シグナル伝達CD47結合受容体などの非シグナル伝達抗原結合受容体をコードする核酸分子、を含む。一部の実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する。
【0184】
いかなる理論または作用の様式に本発明を限定することなく、CD47(インテグリン関連タンパク質としても公知)は、ヒトにおいてCD47遺伝子によってコードされる膜貫通タンパク質である。CD47は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する。CD47は、アポトーシス、増殖、接着および遊走を含む様々な細胞内工程に関与している。さらにそれは、免疫および血管新生反応において重要な役割を演じている。CD47は、ヒト細胞において偏在性に発現され、多数の異なる腫瘍細胞において過発現されることが見出されている。
【0185】
CD47は、細胞外N末端IgVドメイン、5個の膜貫通ドメインおよび短いC末端細胞内テールを含む50kDa膜受容体である。細胞質テールの長さだけが異なるCD47の4個の代替的にスプライスされたアイソフォームがある。フォーム2は、すべての循環および免疫細胞において見出される最も広く発現される形態である。2番目に豊富なアイソフォームはフォーム4であり、脳においておよび抹消神経系において主に発現されている。ケラチノサイトだけが顕著な量のフォーム1を発現する。これらのアイソフォームは、マウスとヒトとの間で高度に保存されており、CD47機能での細胞質性ドメインに関する重要な役割を示唆している。
【0186】
CD47は、血管の発達および血管新生において役割を演じるトロンボスポンジン-1(TSP-1)、分泌糖タンパク質に対する受容体である。CD47へのTSP-1の結合は、細胞遊走および接着、細胞増殖またはアポトーシスを含むいくつかの基本的な細胞機能に影響を与え、血管新生および炎症の制御において役割を演じている。CD47は、シグナル制御タンパク質アルファ(SIRPα)、骨髄性細胞上に存在する阻害性膜貫通受容体とも相互作用する。CD47/SIRPα相互作用は、双方向性のシグナル伝達をもたらし、貪食性の阻害(がん細胞逃避を促進する)、細胞間融合の刺激およびT細胞活性化を含む様々な細胞間応答を生じる。さらにCD47は、いくつかの膜インテグリン、最も一般的にはインテグリンavb3と相互作用する。これらの相互作用は、接着、拡散および遊走を含む広範な細胞機能に影響を与えるCD47/インテグリン複合体を生じる。
【0187】
しかし、CD47は偏在性に発現されるが、新生物細胞でのCD47の発現レベルの増加が、非新生物細胞への本質的な悪影響に先立って、CD47を標的化する分子による前記新生物細胞の応答性の改善を促進し、それを排除するために十分であることが決定された。
【0188】
CD47に指向されている「結合受容体」に言及することは、CD47と相互作用する任意の受容体に言及することとして理解されるべきである。これは、例えば表面提示抗体断片などのCD47結合受容体の形態をとることができ、好ましくはシグナル伝達機能を欠失している。
【0189】
本実施形態により、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞、またはそれから分化したT細胞が提供され、細胞は、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有し、(i)キメラ抗原受容体をコードする核酸分子であって、前記受容体が第2の抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分がT細胞活性化部分に作動可能に連結されている核酸分子、および(ii)非シグナル伝達抗原結合受容体をコードする核酸分子であって、前記受容体がCD47に指向されている抗原認識部分を含む核酸分子を含む。一部の実施形態では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する。
【0190】
上で詳述した通り、対象CD47結合受容体は非シグナル伝達受容体である。「非シグナル伝達」によって、標的細胞上のCD47への対象受容体の結合に続いて、本発明の細胞の機能に変化をもたらすシグナル伝達がないことが意味される。むしろ、CD47結合受容体の目的は、標的細胞への対象細胞のアンカリングの改善を提供し、それにより腫瘍抗原部分などの標的抗原部分に指向されているTCRおよびCARの結合の有効性を改善することである。
【0191】
例えば、非シグナル伝達抗原結合受容体の1つの設計では、受容体の細胞外ドメインは、CD47に対する結合特異性を有する抗原認識部分、ヒンジ(ストーク)ドメイン、膜貫通ドメインおよび、細胞質シグナル伝達機能を完全に欠失している細胞内ドメインを含む。そのような非シグナル伝達CD47結合受容体は、シグナル伝達のためではなく単に付着のために使用でき、それにより正常なCD47発現細胞に係合した場合に望ましくない活性化および死滅を伴わずに、CD47結合を介するT細胞のがん細胞へのドッキングを駆動できる。
【0192】
一部の実施形態では、非シグナル伝達CD47結合受容体の抗原認識部分は、scFv、Fv、Fabなどの抗体様ドメインならびに、単一ヒトおよび哺乳動物V-ドメインおよびそれらの等価物(VhHもしくはvNAR)ドメインを含む任意のCD47標的化V-ドメインを含み、または非限定的にダルピン、アンチカリン、ノッチン、ImmE7s、アフィボディー、Fn3フィブロネクチンドメインなどが挙げられる当分野において周知である「代替タンパク質ベース標的化スキャホールド」を含む場合がある。抗原認識部分は、SIRPαのV様ドメイン(CD47の天然リガンド)の1つまたは複数を含む場合もある。一実施形態では、抗原認識部分は、SIRPαの天然V様ドメインを含む場合もある。別の実施形態では、抗原認識部分は、SIRPαの3つすべての天然V様ドメインを含む場合もある。他の実施形態では、非シグナル伝達CD47結合受容体中に抗原認識部分を提供するための使用のために好適な分子は、Hu5F9-G4 scFv分子である(米国特許出願第14/656,431号に記載)。Hu5F9は、VHの3つの異なるバージョン(1,2,3)およびVLの3つの異なるバージョン(11,12,13)を用いて設計された、米国特許出願第14/656,431号、米国第20150183874 A1号として公開の図12A、12Bに示されている。Liuら、(PLOS One (2015年)9月21日;10巻(9号):e0137345)は、Hu5F9-G4を記載しており、選択されたV-ドメインは、フレームワーク中に4個の別個の残基変化(VH-2をVH-1,3から差別化している)を含む重鎖VH-2および、フレームワーク中に2個の別個の残基変化(VL-12をVL-11、13から差別化している)を含む軽鎖VL-12であった。
【0193】
一部の実施形態では、非シグナル伝達CD47結合受容体のヒンジ領域は、天然SIRPαヒンジ配列、または典型的にはCARにおいて使用されるCD8もしくはCD28ヒンジ、またはCD4ドメインもしくはムチンペプチドヒンジなどの当分野において周知の代替ヒンジであってよい。ヒンジ領域は、受容体の二量体化を可能にするために1つまたは複数のシステイン(Cys)残基を含むように設計されてよい。CD28は、ストーク領域中の単一のCysを介して連結された天然二量体構造である。したがってCD28のストーク領域が非シグナル伝達CD47結合受容体のヒンジとして使用される場合、追加のCysの導入は必要ない可能性があるが、二量体に追加の安定化を提供できる。
【0194】
CARおよび非シグナル伝達抗原結合受容体(非シグナル伝達CD47結合受容体など)をコードする核酸の細胞(例えば、T細胞またはiPSC)への導入が、2個の別々のトランスフェクションベクター、または単一のバイシストロン性ベクター、またはCARを抗原結合受容体から分離するための内部切断シグナルをコードする単一の遺伝子を使用して達成できることは、当業者によって理解される。一実施形態では、内部切断シグナルはP2A、CARを抗原結合受容体から分離するための自己切断を指向させるペプチド配列である。具体的な実施形態では、非シグナル伝達CD47結合受容体は、CARのC末端伸長として発現され、翻訳後にCARとCD47結合受容体とを分離するためのP2A自己切断性ペプチドによって分離される。
【0195】
非シグナル伝達CD47結合分子も発現するように本発明の幹細胞を改変するための手段は、腫瘍抗原部分に指向されているキメラ抗原受容体の発現への影響の観点から本明細書において上に非常に詳細に記載されている。本明細書に記載の受容体発現を達成するためのトランスフェクションおよび他の方法は、対象CD47結合分子との関連で同様に適用可能であるとして当業者によって理解される。
【0196】
一実施形態では、前記幹細胞は、iPSCである。別の実施形態では、前記幹細胞は、HSCである。
【0197】
別の実施形態では、前記幹細胞は、CD4T細胞またはCD8T細胞に分化する能力を有する。
【0198】
さらに別の実施形態では、前記TCRは、αβTCRである。
【0199】
さらに別の実施形態では、iPSCなどの前記幹細胞は、T細胞または胸腺細胞、好ましくはCD8T細胞または胸腺細胞由来であり、一部の実施形態では腫瘍抗原に指向されている内在性TCRを有するCD8T細胞または胸腺細胞由来である。
【0200】
さらに別の実施形態では、前記幹細胞は、TAG72およびWT 1に指向されている。さらにより好ましくは前記CARは、TAG72に指向され、前記TCRはWT 1に指向されている。
【0201】
さらなる態様では、遺伝子改変された哺乳動物幹細胞の作製方法が提供される。遺伝子改変された哺乳動物幹細胞、具体的にはiPSCを作製するための種々の手段は、本明細書上に記載されている。
【0202】
さらなる態様では、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞およびキメラ抗原受容体が提供され、前記受容体は第2の抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分はT細胞活性化部分に作動可能に連結されている。一部の実施形態では、T細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプを発現する。
【0203】
一実施形態では、T細胞は、複数のキメラ抗原受容体を発現し、各キメラ抗原受容体は抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含み、その抗原認識部分は、T細胞活性化部分に作動可能に連結されている。
【0204】
一実施形態では、複数のキメラ抗原受容体が指向されている複数の抗原決定基は、対象T細胞上に発現されるTCRが指向されている前記第1の抗原決定基とはそれぞれ異なっている。別の実施形態では、複数のキメラ抗原受容体が指向されている複数の抗原決定基は、それぞれ異なっており、対象T細胞上に発現されるTCRが指向されている前記第1の抗原決定基とも異なっている。
【0205】
一実施形態では、複数のCARが1つの近接核酸断片によってコードされている。例えば複数のCARは、最終的に対象T細胞を生成するために細胞にトランスフェクトされる1つのベクターに置かれた複数の核酸によってコードされる。具体的な実施形態では、核酸をコードする複数のCARは、複数のCARポリペプチド配列を含む単一のポリペプチドが最初に産生され、続いて複数のCARを提供するようにプロセシングされるように、1つの発現ユニットおよび読み枠内で(例えば、P2Aなどの自己切断性ペプチドを利用することによって)互いに連結されていてよい。別の実施形態では、複数のCARコード核酸は、別々のベクターに置かれ、対象T細胞を生成するためにトランスフェクションにおいて使用される。
【0206】
別の実施形態では、1つまたは複数のCARを発現するT細胞は、第3の抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含む少なくとも1つの(すなわち、1つまたは複数の)抗原結合受容体をさらに発現する。
【0207】
一実施形態では、抗原結合受容体は非シグナル伝達抗原結合受容体である;すなわち受容体は、対象T細胞の細胞表面にアンカリングされ、第3の抗原決定基に結合するが、T細胞の機能に影響を与えるT細胞の細胞質部分にシグナルを変換しない(このため、非T細胞シグナル伝達抗原結合受容体とも称される)。一実施形態では、抗原結合受容体は、第3の抗原決定基に指向され、膜貫通ドメインに作動可能に連結しているが、T細胞活性化部分を欠失している抗原認識部分を含む。
【0208】
具体的な実施形態では、抗原結合受容体は、CD47に指向されている非シグナル伝達抗原結合受容体である。例えば抗原結合受容体は非シグナル伝達CD47結合分子である。
【0209】
一部の実施形態では、本明細書で提供するT細胞はCD4+である。他の実施形態では、T細胞はCD8+である。
【0210】
一部の実施形態では、本明細書で提供するT細胞は、αβTCRを発現する。他の実施形態では、本明細書で提供するT細胞は、γδTCRを発現する。
【0211】
一部の実施形態では、対象T細胞が指向されている複数の抗原決定基、すなわち、TCRが指向されている第1の抗原決定基、キメラ抗原受容体(単数または複数)が指向されている抗原決定基(単数または複数)、および抗原結合受容体(単数または複数)が、そのような抗原結合受容体(単数または複数)が存在する場合に、指向されている抗原決定基(単数または複数)は、腫瘍抗原、微生物抗原または自己反応性免疫細胞抗原から選択されてよい。ある特定の実施形態では、抗原決定基は腫瘍抗原から選択される。具体的な実施形態では、TCRが指向されている抗原決定基は、WT-1またはEbvLMP2などのTCR認識ペプチドから選択される。他の具体的な実施形態では、キメラ抗原受容体および抗原結合受容体が指向されている抗原決定基は、例えばTAG72、CD19、MAGEまたはCD47から選択されてよい。
【0212】
一部の実施形態では、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現し、第2の抗原決定基に指向されている抗原認識部分を含んで、T細胞活性化部分に作動可能に連結したキメラ抗原受容体を発現する対象T細胞は、iPSCまたはHSC由来である。
【0213】
一実施形態では、対象T細胞が由来するiPSCまたはHSCは、前記第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現し、1つまたは複数のキメラ抗原受容体をコードする1つまたは複数の核酸(単数または複数)を含み、抗原結合受容体(単数または複数)をコードする1つまたは複数の核酸を任意選択で含むT細胞に分化する能力を有する、遺伝子改変されたiPSCまたはHSCである。別の実施形態では、対象T細胞が由来するiPSCまたはHSCは、前記第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有し;1つまたは複数のキメラ抗原受容体をコードする1つまたは複数の核酸(単数または複数)および任意選択で抗原結合受容体(単数または複数)をコードする1つまたは複数の核酸が、iPSCまたはHSCがT細胞に分化した後に導入される。一部の実施形態では、対象T細胞が由来するiPSCまたはHSCは、少なくとも1つのHLAハプロタイプを発現し、そのようなiPSCまたはHSC由来T細胞は、前記少なくとも1つのHLAハプロタイプも発現する。
【0214】
一実施形態では、対象T細胞が由来するiPSCは、それ自体がT細胞または胸腺細胞由来である。一実施形態では、iPSCは、CD8+T細胞または胸腺細胞由来である。一実施形態では、iPSCは、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞または胸腺細胞由来である、すなわち同じ抗原決定基にiPSC由来の対象T細胞のTCRが指向されている。
【0215】
本発明の細胞の価値は、CD4またはCD8T細胞への対象幹細胞の分化を指向させることに基づいている。これに関連して、幹細胞の分化をT細胞に「指向させる」ことは、幹細胞のT細胞系列へのコミットメントおよびその細胞系列に沿った成熟T細胞への分化を誘導する細胞培養系が適用されることを意味すると理解されるべきである。T細胞系列に沿った幹細胞の指向されている分化をもたらすための手段は、当業者に周知である。例えば本明細書に例示の通り、ノッチ依存性シグナル伝達の培養系への導入は、T細胞系列に沿った幹細胞の指向された分化をもたらすことが公知である。さらにOP-9フィーダー細胞層でのそれらの共培養の場面において、このシグナル伝達が幹細胞に提供される場合、特に効率的な分化が達成される。使用のために好適であるノッチリガンドの例として、これだけに限らないが、デルタ様1およびデルタ4が挙げられる。これに関連してOP-9細胞は、デルタ様1(OP9-DL1)を発現するように操作され、それにより幹細胞からT細胞を生成する非常に好都合な手段を提供している。別の例、および本明細書における例示として、対象幹細胞は中胚葉を生成するフィーダー不含有条件で最初に培養され、OP9-DL1細胞株での共培養が続く。CD8T細胞に指向された分化を達成するための特に好ましい方法は、本明細書に例示される。
【0216】
別の態様では、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現し、1つまたは複数のCARおよび任意選択で1つまたは複数の抗原結合受容体を発現するT細胞を作製するための方法が提供される。一部の実施形態では、T細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプも発現する。
【0217】
一実施形態では、方法は、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有する遺伝子改変された幹細胞(遺伝子改変されたiPSCまたはHSCなど)を得ることを含み、それぞれ抗原決定基(好ましくは第1の抗原決定基とは異なる)に指向されている1つまたは複数のキメラ抗原受容体をコードする1つまたは複数の核酸(単数または複数)を含み、任意選択でそれぞれ抗原決定基(好ましくは第1の抗原決定基とは異なる)に指向されている1つまたは複数の抗原結合受容体(単数または複数)をコードする1つまたは複数の核酸および;そのような遺伝子改変された幹細胞をT細胞に分化させることを含む。一部の実施形態では、遺伝子改変された幹細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプも発現する。
【0218】
別の実施形態では、方法は、第1の抗原決定基に指向されているTCRを発現するT細胞に分化する能力を有する幹細胞(iPSCまたはHSCなど)を得ること;幹細胞をT細胞に分化させること;それぞれ抗原決定基(好ましくは第1の抗原決定基とは異なる)に指向されている1つまたは複数のキメラ抗原受容体をコードする1つまたは複数の核酸(単数または複数)、および任意選択でそれぞれ抗原決定基(好ましくは第1の抗原決定基とは異なる)に指向されている1つまたは複数の抗原結合受容体(単数または複数)をコードする1つまたは複数の核酸もT細胞に導入すること、を含む。一部の実施形態では、遺伝子改変された幹細胞(iPSCまたはHSCなど)は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプも発現する。
【0219】
CARコード核酸がT細胞への分化前に幹細胞に導入される、または幹細胞からの分化後にT細胞に導入されるかに関わらず、幹細胞(iPSCなど)は、それ自体がT細胞または胸腺細胞由来であってよい。そのようなT細胞および胸腺細胞は、名目上の抗原、例えば腫瘍抗原に対して特異的なTCRを有することができる。一実施形態では、幹細胞はiPSCである。一実施形態では、iPSCはCD8+T細胞または胸腺細胞由来である。別の実施形態では、iPSCは、iPSC由来のT細胞上で発現されたTCRが指向されている、同じ抗原決定基に指向されているTCRを発現しているT細胞または胸腺細胞由来である。
【0220】
「哺乳動物」に言及することは、これだけに限らないが、ヒト、霊長類、家畜動物(例えば、ヒツジ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ、)、コンパニオン動物(例えば、イヌ、コート(coat))、実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、ハムスター)、捕獲された野生動物(例えば、キツネ、シカ)などの哺乳動物に言及することを含むことは理解されるべきである。好ましくは哺乳動物は、ヒトまたは霊長類である。最も好ましくは哺乳動物はヒトである。
【0221】
本発明の開発は、細胞の新生物集団、ウイルス感染細胞、自己反応性免疫細胞または抗生物質耐性細菌などの微生物での感染などの所望されない細胞集団の存在によって特徴付けられる疾患状態を処置するための手段の開発を現在促進している。さらに具体的には本発明の細胞は、新生物状態を処置するための化学療法、自己免疫疾患の症状を処置するための抗炎症治療または自己免疫を管理するための免疫抑制などの現在の非常に非特異的な方法よりもさらに標的化された様式で、これらの細胞を排除する手段を提供する。これに関して「所望されない細胞集団の存在によって特徴付けられる」疾患状態に言及することは、発現される細胞表面抗原の性質によって標的化でき、その細胞の一部またはすべての除去が患者に有益である細胞集団の存在または機能が症状または原因である任意の状態に言及するとして理解されるべきである。対象状態の処置は、本発明の幹細胞から分化されたT細胞を投与することによって達成され、そのT細胞の二重TCR/CARは、排除されることが試みられる細胞によって発現される2つまたはそれよりも多い抗原決定基に指向されている。
【0222】
本発明のT細胞によって排除されることが試みられる「細胞」が、自己または非自己に関わらず、任意の細胞であってよいことは理解されるべきである。例えば、本発明のT細胞が、新生物、ウイルス感染または自己免疫疾患などの疾患状態を処置するために設計されている範囲で、排除されることが試みられる細胞の標的集団は自己細胞である。しかし、処置されることが試みられる状態が、例えば、抗生物質耐性細菌または寄生生物などの微生物による感染である範囲では、排除される「細胞」は外来細胞である。これに関して細胞は、浮遊液中にあってよく(循環中に存在する白血病細胞など)または腫瘤の一部であってよい(腫瘍または組織など)。処置される状態が微生物感染である範囲で、細胞は単細胞微生物(多くの細菌など)に相当してよく、または多細胞生物の一部であってよい。本発明のT細胞は、任意の種類の構造に存在する任意の種類の細胞を標的化するために有用である。
【0223】
したがって本発明の別の態様は、上で定義した通り、哺乳動物中の細胞の所望されない集団の存在によって特徴付けられる状態の処置の方法に指向されており、前記方法は、前記哺乳動物に幹細胞またはそれから分化したT細胞の有効量を投与することを含む。
【0224】
一実施形態では、前記状態は、新生物状態、微生物感染(HIV、STDもしくは抗生物質耐性細菌など)または自己免疫性状態である。
【0225】
別の実施形態では、前記幹細胞は、iPSCまたはHSCである。
【0226】
さらに別の実施形態では、前記幹細胞は、CD4T細胞またはCD8T細胞に分化する能力を有する。
【0227】
さらに別の実施形態では、前記TCRは、αβTCRである。
【0228】
さらに別の実施形態では、iPSCなどの前記幹細胞は、T細胞または胸腺細胞由来である。
【0229】
さらに別の実施形態では、細胞は、非シグナル伝達抗原結合受容体をコードする核酸分子をさらに含み、前記受容体はCD47に指向されている抗原認識部分を含む。
【0230】
これらの実施形態により具体的な一態様では、新生物状態を処置する方法が提供され、前記方法は上で定義した通り、幹細胞またはそれから分化したT細胞の有効数を前記哺乳動物に投与することを含み、前記TCRは第1の腫瘍抗原決定基に指向され、前記CARは1つまたは複数の追加の腫瘍抗原決定基(単数または複数)に指向されている。
【0231】
一実施形態では、前記第1の腫瘍抗原決定基は、WT1である。
【0232】
別の実施形態では、前記第2の腫瘍抗原決定基は、TAG72である。
【0233】
別の実施形態では、細胞は、非シグナル伝達抗原結合受容体をコードする核酸分子をさらに含み、前記受容体はCD47に指向されている抗原認識部分を含む。
【0234】
別の実施形態では、遺伝子改変された幹細胞は、少なくとも1つのホモ接合性HLAハプロタイプも発現する。
【0235】
「新生物状態」に言及することは、新生物細胞の被包性もしくは非被包性成長または凝集の存在または発達によって特徴付けられる状態に言及するとして理解されるべきである。「新生物細胞」に言及することは、異常な成長を呈する細胞に言及するとして理解されるべきである。用語「成長」は、広義で理解されるべきであり、新生細胞のサイズの拡大および増殖に言及することを含む。
【0236】
この場面において句「異常な成長」は、正常細胞成長と比較して、個々の細胞のサイズおよび核/細胞質比の増加、細胞分裂の速度の上昇、細胞分裂数の増加、細胞分裂期間の長さの減少、細胞分裂期間または制御されない増殖の発生頻度の増加およびアポトーシスの回避の1つまたは複数を呈する細胞成長に言及すると意図される。本発明を全く限定することなく、用語「新生物」の一般的医学的意味は、正常な成長管理への応答性の欠如として生じる「新たな細胞成長」、例えば新生物細胞成長を指す。新生物は、良性、前悪性または悪性であってよい「腫瘍」を含む。用語「新生物」は、病変、腫瘍または他の被包性もしくは非被包性の腫瘤または他の成長の形態または新生物細胞を含む細胞性凝集物に言及するとして理解されるべきである。
【0237】
本発明との関連では用語「新生物」は、病理組織学的種類または侵襲性の状況に関わらずすべての種類のがん性成長または発癌プロセス、転移性組織または悪性形質転換細胞、組織もしくは器官に言及することを含むと理解されるべきである。
【0238】
用語「癌」は、呼吸器系癌、胃腸管系癌、泌尿生殖器系癌、精巣癌、乳癌、前立腺癌、内分泌系癌およびメラノーマを含む上皮または内分泌組織の悪性腫瘍を指すと、当業者により認識される。用語は、癌肉腫を、例えば癌性および肉腫性組織からなる悪性腫瘍を含んで含む。「腺癌」は、腺性組織由来の癌または腫瘍細胞が認識可能な腺性構造を形成するものを指す。
【0239】
新生物を含む新生物細胞は、上皮または非上皮細胞などの任意の組織由来の任意の細胞型であってよい。本明細書において用語「悪性新生物」および「がん」および「癌」に言及することは、互換的であると理解されるべきである。
【0240】
用語「新生物」は、病変、腫瘍または他の被包性もしくは非被包性の腫瘤または他の成長の形態または新生物細胞を含む細胞性凝集物に言及するとして理解されるべきである。新生物を含む新生物細胞は、上皮または非上皮細胞などの任意の組織由来の任意の細胞型であってよい。本発明によって包含される新生物および新生物細胞の例として、これだけに限らないが中枢神経系腫瘍、網膜芽細胞腫、神経芽癌、小児腫瘍、頭頸部がん(例えば扁平細胞がん)、乳房および前立腺がん、肺がん(小細胞および非小細胞肺がんの両方)、腎臓がん(例えば腎細胞腺癌)、食道胃がん、肝細胞癌、膵胆管新生物(例えば腺癌および膵島細胞腫瘍)、直腸結腸がん、頸部および肛門がん、子宮および他の生殖器系がん、尿路がん(例えば尿管および膀胱)、生殖細胞腫瘍(例えば精巣生殖細胞腫瘍または卵巣生殖細胞腫瘍)、卵巣がん(例えば卵巣上皮がん)、原発不明癌、ヒト免疫不全関連悪性腫瘍(例えばカポジ肉腫)、リンパ腫、白血病、悪性メラノーマ、肉腫、内分泌腫瘍(例えば甲状腺)、中皮腫および他の胸膜または腹膜腫瘍、神経内分泌腫瘍およびカルチノイド腫瘍が挙げられる。
【0241】
具体的な一実施形態では、前記新生物状態は、白血病またはリンパ腫である。
【0242】
別の実施形態では、前記新生物状態は転移性である。
【0243】
処置または予防を受けている対象は、治療的または予防的処置を必要とする任意のヒトまたは動物であってよい。これに関して、本明細書において言及する「処置」および「予防」は、その最も広い場面とみなされてよい。用語「処置」は、哺乳動物が完全回復まで処置されることを意味する必要はない。同様に「予防」は、対象が最終的に疾患状態を罹患しないことを意味する必要はない。したがって処置および予防は、具体的な状態の症状の回復、または具体的な状態を発症する危険を予防するもしくは、そうでなければ低減することを含む。用語「予防」は、具体的な状態の発症の重症度を低減するとみなされてよい。「処置」は、既存の状態の重症度も低減してよい。
【0244】
したがって本発明は、哺乳動物における状態を低減するまたはそうでなければ改善することを包含すると理解されるべきである。これは、疾患の任意の1つまたは複数の症状の低減または改善に言及するとして理解されるべきである。疾患の治癒を達成することは常に最も望ましいが、疾患の進行を遅らせることにも重要な臨床的価値がある。例えばHIVまたはSTDなどのウイルス感染との関連では、完全な治癒がたとえ達成できない場合でも、ウイルス負荷および拡散の程度の低減は、例えば最終的には致死性であるHIVの重度の免疫不全が経験されず、比較的通常の寿命が、患者が摂取する必要がある抗ウイルス薬カクテルの特徴である重度の副作用を伴わずに達成できるような、感染を管理する手段を提供できる。新生物状態の具体的な場面では、本発明のT細胞は、患者に投与される場合に、新生物の成長を下方制御する。細胞または新生物の「成長」に言及することは、対象細胞の増殖、分化および/または生存率の維持に言及することとして理解されるべきである一方で、細胞または新生物の「成長の下方制御」は、細胞の老化プロセスまたは対象細胞の増殖、分化および/または生存率の維持を低減、予防または抑制することに言及する。好ましい実施形態では、対象の成長は、増殖であり、対象の下方制御はCD8T細胞媒介死滅である。これに関して死滅は、腫瘍塊のサイズにおける低減によって、または腫瘍のさらなる成長の抑制によって、または腫瘍の成長における遅延によってのいずれかで証明できる。これに関して本発明をいかなる理論または作用の様式に限定することなく、新生物細胞は、直接溶解またはアポトーシス誘導あるいは、CD4もしくはCD8T細胞またはこれらのCD4およびCD8マーカーを欠失しているT細胞によって促進され得るいくつかの他の機序などの任意の好適な機序によって死滅させ得る。したがって本発明は、哺乳動物における新生物状態を低減するまたはそうでなければ回復させることを包含すると理解されるべきである。これは、新生物状態の任意の1つまたは複数の症状の予防、低減または回復に言及するとして理解されるべきである。症状として、これだけに限らないが、腫瘍成長部位での疼痛または新生物状態による代謝的もしくは生理的身体機能障害が挙げられる。本発明の方法が任意の1つまたは複数の症状の重症度を低減できる、または任意の1つまたは複数の症状の存在を除去できることは理解されるべきである。本発明の方法は、任意の1つまたは複数の症状の発症の予防にも及ぶ。
【0245】
したがって、本発明の方法は、治療および緩和の両方の観点から有用である。この目的のために「処置」に言及することは、治療および緩和ケアの両方を包含すると理解されるべきである。当業者によって理解される通り、新生物状態が治癒されることは常に最も望ましい結果であるが、新生物の進行を遅らせるまたは停止できることは、完全に治癒されなくても、顕著に有益である。本発明を全く限定することなく、細胞分裂に関してそれらが十分に下方制御される条件で、患者に致死性ではなく、患者が妥当な生活の質をいまだ有することができるいくつかの新生物状態がある。さらに、本方法が既存の処置レジメに有用な代替法を提供することは理解されるべきである。例えば一部の状況において、本方法の治療結果は化学療法または放射線と同等である場合があるが、より少ない副作用またはより短い副作用期間を誘導し、したがって患者によってさらに良好に許容される処置レジメは患者への利益である。上に詳述の通り、用語「処置」が対象が完全に回復するまで処置されることを意味する必要はないことは理解されるべきである。したがって上に詳述の通り、処置は、既存の状態の重症度を低減することまたは具体的な状態の症状の回復または緩和を誘導することを含む。これに関して、本発明の処置が原発腫瘍が処置されるときに適用される場合、転移性がんの発症を予防するための予防として有効に機能できる。例えば、ある特定の種類の固形腫瘍について、外科的に腫瘍を切除することがいまだ最も望ましい場合がある。しかし、腫瘍全体が良好に除去されない可能性または、一部の新生物細胞がエスケープする可能性の危険は常にある。この場合任意のそのような新生物細胞を溶解するために本発明の方法を適用することにより、方法は転移性拡散を予防するための予防として有効に適用される。
【0246】
本発明の本態様により対象細胞は、単離され、ex vivoで遺伝子改変され、それらが元来採取された個体に戻して移植された、好ましくは自己細胞である。しかし、本発明は、対象細胞が、処置の対象である個体と類似する組織適合性プロファイルを呈する場合に、任意の他の好適な供給源由来の細胞の使用にまで及び、それにより移行された細胞が宿主による免疫拒絶に供される前に所望されない細胞を除去するそれらの機能を実施できることは理解されるべきである。したがって、そのような細胞は、実際上自己であり、外来性MHCプロファイルを呈する細胞の移植に通常関連する組織適合性問題を生じない。そのような細胞は、組織適合性の定義の範囲内であるとして理解されるべきである。例えばある特定の環境下で、対象細胞が遺伝的に同一の双子からもしくは対象個体に由来する配偶子を使用して生成された胚から単離される、または対象個体からクローニングされる(この場合細胞は、適切な体細胞性細胞型への分化を指向されている幹細胞に対応する可能性がある)ことは望ましい、必要であるまたは実際に重要である可能性がある。細胞は、望ましい主要組織適合性プロファイルを呈するように操作されてもよい。そのような細胞の使用は、組織および臓器移植の場面において本質的に遭遇する困難を克服する。
【0247】
しかし、自己または組織適合性細胞を単離または生成することが可能でも、実行可能でもない場合、同種細胞を利用する必要がある場合がある。「同種」細胞は、処置される対象と同じ種から単離されたが、異なるMHCプロファイルを呈するものである。治療の場面におけるそのような細胞の使用は移植編対宿主問題または宿主による移植片拒絶を生じる場合があるが、それにも関わらずこの問題は、処置される対象のものに類似性を示すMHCプロファイルを呈する細胞、兄弟姉妹、親もしくは子などの親戚から単離/生成された、またはそうでなければ本明細書に例示の方法により生成された細胞集団などの使用によって最小化され得る。
【0248】
好ましい実施形態では、使用される細胞が自己であることは理解される。しかし、所与の状況の環境により、自己幹細胞集団を生成することは常に可能でない場合がある。これは、処置開始の緊急性または、形質転換および分化の指向をもたらすことを促進する有効性などの課題による場合がある。この場合および上で詳述した通り、既にトランスフェクトされており、細胞バンクでの凍結保存品として利用可能である細胞などの、同系または同種の細胞を使用することが望ましいまたは必要である可能性がある。同種だがそのような細胞は、非常に免疫原性であることが公知であるまたはそうでなければ本明細書に例示の方法により生成された一部のハプロタイプよりもあまり免疫原性を示さない、MHCハプロタイプの発現に基づいて形質転換のために選択されてよい。
【0249】
「有効数」に言及することは、望ましい効果を少なくとも部分的に実現するためあるいは、処置される具体的な状態の発症を遅らせる、進行を抑制する、またはその発症もしくは進行を完全に停止するために必要な細胞の数を意味する。そのような量は、当然のことながら、処置される具体的な状態、状態の重症度および、年齢、全身状態、サイズ、体重、生理学的状態、併用療法、病歴および問題となる障害に関連するパラメーターが挙げられる個々の患者のパラメーターに依存する。当業者は、有効用量を構成する本発明の細胞の数、最適なその投与様式を過度の実験を行うことなく決定でき、後者の課題は本明細書以下でさらに考察される。これらの因子は当業者に周知であり、日常的実験だけで対処され得る。最大細胞数、すなわち正当な医学的判断による最多安全数が使用されることは一般に好ましい。しかし、医学的理由、心理学的理由または任意の他の理由のためにより少ない数の細胞が投与されてよいことは、当業者によって理解される。
【0250】
本明細書上に検討の通り、本発明の方法は、本明細書に定義の状態を罹患している個体への遺伝子改変された細胞の導入に基礎を前提としているが、個体に導入される集団のすべての細胞が対象となる改変および分化を獲得し、維持している必要がなくてよいことも理解されるべきである。例えば、トランスフェクトされ、増大された細胞集団が全体で投与される(すなわち良好に改変され、分化された細胞がそれについて濃縮されていない)場合、遺伝子改変および/または望ましいT細胞分化を獲得または維持していない細胞の集団が存在していてよい。したがって、それにより導入された細胞の関連部分が上で定義した「有効数」を構成する場合に本発明は達成される。しかし、特に好ましい実施形態では、分化を受けた細胞の集団は、良好に改変され、分化された細胞の同定、それらの選択的単離に供される。
【0251】
本発明の本態様との関連では対象細胞は、対象個体への導入を必要とする。この目的のために、細胞は任意の好適な方法によって導入されてよい。例えば細胞懸濁物は、直接注射によってまたは血液クロット内で導入されてよく、それにより細胞はクロット内に固定化され、移植を促進する。細胞は、外科的移植によっても導入されてよい。これは、例えば細胞が組織移植片の形態で存在する場合に必要である可能性がある。移植部位は、任意の好適な部位、例えば皮下であってよい。本発明をいかなる理論または作用の様式に限定することなく、細胞が封入された細胞懸濁物として投与される場合、細胞は塊に合体している。細胞が移植後に分裂を継続できることは、理解されるべきである。これに関して、本明細書に既に記載の通り自殺遺伝子の導入は、継続している分裂を管理するための好都合な手段を提供する。
【0252】
患者に投与される細胞は、単一または複数の用量で任意の好適な経路によって投与されてよい。好ましくは、および可能であれば、単回投与が利用される。注射を介する投与は、必要な処置の種類に応じて組織または器官の種々の領域に指向されていてよい。
【0253】
本発明の方法により、他のタンパク質性または非タンパク質性分子は、形質転換細胞の導入と共に共投与されてよい。「共投与」によって、同じ製剤中もしくは異なる製剤中での同じもしくは異なる経路を介した同時投与、または同じもしくは異なる経路を介した連続投与が意味される。「連続」投与によって、これらの細胞の移植とタンパク質性または非タンパク質性分子の投与との間の数秒、数分、数時間または数日の時間差が意味される。例えば、処置される状態の性質に応じて、移植された細胞が組み込まれ、完全に機能性になるまで、状態の症状を軽減するように薬物療法を行っている患者を維持する必要がある場合がある(例えば、HIV患者の場合での抗ウイルス薬の投与)。代替的に、状態が処置される時点で、状態の再発を予防するために、長期の薬物療法を開始する必要がある場合がある。例えば、対象の損傷が自己免疫状態によって生じた場合、低レベルの免疫抑制剤の継続的使用が自己反応性細胞が破壊された時点から必要である場合がある。
【0254】
本発明の方法が、問題となっている状態を処置するために単独で実施されてよい、または対象の処置を促進するまたは増強するように設計された1つまたは複数の追加の技術と共に実施されてよいことも理解されるべきである。これらの追加の技術は、上で詳述した通り、他のタンパク質性または非タンパク質性分子との共投与または手術の形態であってよい。
【0255】
本発明のさらに別の態様は、哺乳動物における細胞の所望されない集団の存在によって特徴付けられる状態の処置のための医薬の製造において上で定義した通り、幹細胞またはそれから分化したT細胞の使用に指向されている。
【0256】
別の実施形態では、前記幹細胞は、iPSCまたはHSCである。
【0257】
さらに別の実施形態では、前記幹細胞は、CD4T細胞またはCD8T細胞に分化する能力を有する。
【0258】
さらに別の実施形態では、前記TCRは、αβTCRである。
【0259】
さらに別の実施形態では、iPSCなどの前記幹細胞は、T細胞または胸腺細胞、好ましくはCD8T細胞または胸腺細胞由来である。
【0260】
さらに別の実施形態では、細胞は、非シグナル伝達抗原結合受容体をコードする核酸分子をさらに含み、前記受容体はCD47に指向されている抗原認識部分を含む。
【0261】
本明細書において「細胞」に言及することは、単離された細胞、または単離されたもしくは実質的に精製された細胞の集団を指すことは理解されるべきである。細胞集団に言及する際に、「実質的に純粋な」によって、関連する細胞型が細胞集団中のすべての細胞の少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%またはこれを超える百分率を占めることが意味される。例えば細胞集団は、そのようなT細胞が細胞集団中のすべての細胞の少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%またはこれを超える百分率を占める場合に、関連するT細胞について実質的に純粋である。
【0262】
本発明は、次の非限定的実施例を参照してさらに記載される。
【実施例0263】
本明細書は、iPSC細胞またはHSC由来の二重抗がん特異的T細胞を含む、本発明のある特定の実施形態の開発を実証する、続く実施例によってさらに提示される。これらの実施例は、如何様にも限定として解釈されるべきでない。
【0264】
(実施例1)
血液由来がんペプチド抗原特異的T細胞の濃縮
WT-1特異的TCR T細胞刺激および増大
WT-1特異的T細胞は、正常ヒト血液中では非常に稀であるが、検出するために増大および濃縮できる。これに関連して、末梢血単核細胞(PBMC)は、Ficoll-Hypaque密度勾配遠心分離を使用して単離した。新鮮分離したPBMCを、ヒトAB血清を補充した組織培養培地中に再懸濁し、WT-1が存在する場合にT細胞の共刺激因子として作用する、L-グルタミンおよびCD28モノクローナル抗体を添加した;抗CD28単独は、T細胞を活性化しない。次いでPBMCをウイルムス腫瘍1(WT-1)ペプチド、主なHLAクラスI結合モチーフを表す4つのWT-1ペプチド:WT-137(VLDFAPPGA、配列番号22)、WT-1126(RMFPNAPYL、配列番号23)、WT-1187(SLGEQQYSV、配列番号24)およびWT-1235(CMTWNQMNL、配列番号25)のそれぞれについて0.6nmol/mlを用いて一晩刺激した。本出願の実施例に示すデータは、WT-1ペプチド1-37をWT-1ペプチドのこのファミリーの代表として使用した。WT-1特異的T細胞は、HLA WT-1特異的四量体を用いて、または刺激されたが静止していないT細胞上での表面分子CD137の早期誘導によって同定できる。CD137は、腫瘍壊死因子(TNF)受容体ファミリーのメンバーである。それは4-1BBとしても公知である。24~36時間後、CD137陽性細胞(これは、WT-1で刺激されたT細胞である)を磁気細胞分離機を使用して磁気的に分離した。CD137陽性(WT-1特異的TCR)細胞を、ヒトAB-血清、組換えインターロイキン7、インターロイキン15およびインターロイキン21を補充したX-Vivo-15ベース培地からなるT細胞増大培地中で培養した。対応するCD137陰性細胞をCD3磁気分離にさらに供した。CD3陰性細胞(主にB細胞)をマイトマイシンC処置に供し、CD137陽性集団を誘導するためにWT-1ペプチドロード抗原提示フィーダー細胞として使用し、一方残りのCD3陽性細胞(非WT-1特異的)を下流の機能アッセイのための対照T細胞型として作用させるために培養で成長させた。組換えサイトカインを含む培地を1日おきに継ぎ足した。
【0265】
フローサイトメトリー分析のために、細胞をFAC緩衝液中に再懸濁した:細胞10個当たり30μl。10μlのFcRブロッキング試薬を細胞に5分間、室温で添加した。10μlのHLA-A02 WT-1四量体を添加し、細胞を20分間、4℃で光から保護してインキュベートした。50μlの「T細胞活性化」カクテルを添加し、細胞を20分間、4℃で光から保護してインキュベートした。100μlのFAC緩衝液を2μlのAquaAmineを加えて添加し、細胞を5分間、インキュベートし、次に150xgで5分間遠心分離した。上清を吸引またはデカントし、沈殿を試料当たり100μlのBD Cytofix/Cytoperm溶液中に再懸濁し、細胞を20分間、4℃でインキュベートした。細胞をBD/Perm洗浄で洗浄した。IFN-γ抗体をBD/Perm洗浄溶液中に1/100で希釈し、細胞を30分間、暗所、4℃でインキュベートした。細胞をBD/Perm洗浄で洗浄し、フローサイトメトリー分析の前にFAC緩衝液中に再懸濁した。FACSデータ取得は、Miltenyi Quant cytometerで行った。
【0266】
WT-1ペプチドに対して特異的なTCRを有するT細胞は、通常発生頻度が非常に低く(例えば、Schmeidら、(2015年))、それらがCD8+細胞のわずか10-6
あることが示されている(細胞3×10-7から3×10-6の範囲)。上に記載の刺激プロトコールに続いて、WT-1 TCR特異的T細胞は、約100倍、約3.0%に増加した(WT-1患者#1 1.5%;WT-1患者#2 4.0%;図1)。
【0267】
WT-1 TCR T細胞の機能分析
in vitro増大T細胞を自己抗原提示細胞(EBVを用いて形質転換したB細胞)を用いて追加に刺激し、広範なWT-1ペプチド:WT-137(VLDFAPPGA)、WT-1126(RMFPNAPYL)、WT-1187(SLGEQQYSV)およびWT-1235(CMTWNQMNL)を用いて予備刺激した。T細胞をインターフェロンガンマ(IFNγ)産生について蛍光ベースアッセイを使用してフローサイトメトリーによって検討した。細胞をWT-1ペプチド特異性についてWT-1ペプチド-HLA四量体への結合を介して二重標識した(図2を参照されたい)。
【0268】
WT-1刺激T細胞は、T細胞機能の十分に認められた測定でインターフェロンガンマ(IFNγ)を明らかに発現していた(80~90%)(図2)(例えば、Ghanekarら、(2001年))。CD8T細胞活性化のレベルを潜在的に増加させるために(WT-1
T細胞標的化)、LAG3阻害剤IMP321を使用した。LAG3は、通常「チェックポイント遮断」であり、樹状細胞(DC)の刺激機能および抗原提示細胞としてのDCへのCD8 T細胞による応答を阻害する。WT-1特異的T細胞活性化アッセイに添加すると、24時間ではIMP321の効果はないが、4日後ではまれなCD8+WT-1特異的TCR T細胞が倍増した(図2H)。
【0269】
(実施例2)
ヒト血液T細胞由来iPSCの生成
ヒト血液T細胞からのiPSCの誘導のために、元来のT細胞の特性を様々なレベルで正確に維持する多数のアプローチがある。iPSCは、健常なヒト由来の末梢血Tリンパ球プール(T-iPSC)の幅広いレパートリーから産生された。T細胞は、例えば、マイトジェンPHAまたは抗CD3および抗CD28抗体を用いて予め活性化した。それぞれ2個のヤマナカリプログラミング因子(Oct4、Sox2、KLF、cMyc)を含有する二重レトロウイルスベクターカセットを使用して、複数のT-iPSCクローンを生成し、Nanog、Oct3/4、SSEA3,4、TRA-1-60およびTRA-1-81を含む広範なマーカーについてのフローサイトメトリーおよびqRT-PCRを含めて、細胞および分子レベルで検証した。それらの多能性をNOD-SCID-IL共通ガンマ鎖-/-(NSGマウス)への注射後のテラトーマ形成によって確認した。T細胞源の確認は、再構成されたTCR遺伝子を示すことによって確認した。
【0270】
WT-1特異的血液T細胞由来iPSCの産生は、図3に要約されている。
【0271】
(実施例3)
iPSC由来ヒトT細胞の誘導
本実施例は、iPSC由来の真正のT細胞の生成を示している。これらのT細胞は、胸腺によって通常産生されるような典型的T細胞の重要な特性を発現することが示された。それらは、メインストリームT細胞αβTCRならびにβおよびα鎖の両方を有するCD8を発現することが示された。
【0272】
T細胞は、成体全血T細胞もしくは予備選択されたCD8+T細胞、または抗原特異的T細胞(例えば、WT-1に対して特異的なもの)(T-iPSC)、または成体線維芽細胞由来のiPSCから誘導された。造血性(造血幹細胞または「HSC」)および部分的にリンパ系列への2つの基本段階特殊分化、OP9細胞での培養;続くT細胞分化の誘導のためにNotchシグナル伝達分子デルタ様リガンド1(OP9-DL-L1)を発現するように遺伝子改変されたOP細胞株へのこれらの培養細胞の移行、がある。
【0273】
フェーズ1 OP9支持細胞およびiPSCコロニーの調製
-8日目:マイトマイシン処置マウス胚性線維芽細胞フィーダー層を0.1%ゼラチンコートTCプレートに3mLのMEF培地(DMEM+15%FCS+1%pen/strep L-グルタミン)中、0.3×10(細胞14,250個/cm)で蒔き、一晩インキュベートした。OP9細胞を0.1%ゼラチンコート10cm TCプレートにOP9培地(αMEM+20%FCS+1%pen/strep)11mL中細胞0.25×10個で蒔くことによって予備調製した。
【0274】
-7日目:iPS細胞を融解し、MEF細胞に蒔き、37℃、5%COで7日間インキュベートした。
【0275】
フェーズ2 iPSCの造血性細胞への転換
0日目:造血特殊分化の開始。iPSコロニーを分離させ、HSC分化のためにOP9に蒔いた。コロニー懸濁物をOP9プレートへの均一な分配のために滴下で添加した。新鮮分化培地を1、5および9日目に添加した。
【0276】
13日目 T細胞分化のための誘導HSC前駆体の採取
【0277】
OP9細胞株上で培養した細胞をコラーゲナーゼ(ワーキング溶液100μg/mLコラーゲナーゼ/HBSS;37℃、1:15時間)によって穏やかに除き、コロニーをトリプシン/EDTA0.05%、37℃、30分間によって単一細胞にさらに壊した。細胞を穏やかに洗浄し、位相差顕微鏡によって(図4)およびフローサイトメトリーによって(図5)調べた。細胞の造血性の性質をフローサイトメトリーによって確認した(図5)。
【0278】
フェーズ3-iPSC由来HSCのT細胞への誘導
13日目:T細胞分化の誘導:13日目のOP9馴化(造血誘導された)細胞のOP9DL-L1細胞への移行
【0279】
好ましい実施形態では、OP9DL-L1細胞との接触の効率を増強するためにOP9馴化細胞をCD34CD43(HSC)について精製し、次いでT細胞分化の第1段階のために、OP9 DLL-1細胞に蒔いた。本明細書に開示の工程の決定的な構成要素は、最初にOP9 DL-L1細胞の下で成長した細胞を回収することであった。
【0280】
OP9培養物から回収した細胞をT細胞分化培養培地(OP9培地、SCF 5ng/mL、Flt3 5ng/mL、IL-7 5ng/mLおよびビタミンC 100μM)に再懸濁し、懸濁物をOP9 DLL-1細胞に滴下で添加し、37℃でインキュベートした。細胞をOP9 DL-L1での培養2、9、16、23および30日後に採取し、フローサイトメトリー分析に供した(図6および図7)。
【0281】
これらの培養物をT細胞発達について検討した場合、CD4およびCD8発現を有するT細胞発達の初期マーカーCD7およびCD9ならびに次のマーカーの発現の明らかな証拠があった(図7)。この初期段階でさえ、CD4+およびCD8+の両方を発現している細胞が既に約10%あり;これらのCD4+CD8+細胞は、胸腺皮質において通常発達するT細胞に特徴的である(Hengら、(2010年))。
【0282】
フローサイトメトリーは、初期のCD5、CD7+次いでCD8+の発現からT細胞の進行性の発達を示した。最も重要なことに誘導されたT細胞は、「最適な胸腺産生」CD8 T細胞の表現型を発現した。それらは、CD8α鎖に加えてCD8β鎖を発現した(他の報告されたT細胞誘導系は、最適なシグナル伝達CD8β鎖を誘導しない;例えばThemeliら、(2013年))。機能の指標としてそれらは、αβTCRを有するCD3も
発現した。さらにこれらの細胞は、他の報告された系での30日目と比較してOP9 DL-L1細胞上での培養16日目には早くも存在していた。
【0283】
フェーズ4 成熟T細胞の開発
【0284】
さらに7日後(OP9細胞上での合計13日間に続いてOP DL-L1細胞上での16日間)、これらの発達しているT細胞は、CD3およびαβTCRに明らかに陽性であるCD8+T細胞を含むT細胞受容体複合体を発現するための決定的な移行を行った;追加的にこれらの細胞は、重要なCD8βを発現した-これらはCAR-Tのための望ましい細胞である。CD34+CD43+HSCにおいて対応するさらなる低減があった(図8)。
【0285】
したがって本誘導系は、OP9細胞での13日間培養に続くOP9DL-L1細胞での16日間培養後にiPSCから成熟CD8 T細胞を良好に産生した。
【0286】
上に記載のプロセスを使用して、WT-1に特異的なTCRを発現しているT細胞を、それ自体がWT-1 TCR CD8+T細胞由来であるiPSCから産生した(図9)。これらのiPSC由来WT-1 T細胞は、iPSCが由来した元来のT細胞と同等の細胞傷害性機能を有した(図10)。
【0287】
(実施例4)
CAR構築物の開発
キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞の構成要素は、CD8またはCD28ヒンジによってアンカリングされ膜貫通(TM)領域を含む1本鎖Fv(scFv)によって表されるscFv外部ドメインによって媒介されるCARの抗原認識構成要素、およびCD28、4-1BBおよびCD3ゼータ(CD3ζ)鎖によって表される細胞質性エンドドメインを介するCARのシグナル伝達である。2つの好適なウイルス送達系-レトロウイルスおよびレンチウイルスもある。例示的CARおよびCD47結合受容体構築物を図11に示す。
【0288】
(実施例5)
キメラ抗原受容体ベクタークローニング戦略
例示的キメラ抗原受容体ベクタークローニング戦略を図12~13に例示する。図14は、本発明者らの第2世代CARおよび非シグナル伝達抗CD47構築物のための戦略を示している。キメラ抗原受容体、非シグナル伝達抗原結合受容体およびそれらの種々のドメインの例示的配列を配列番号1~20に提供する。
【0289】
(実施例6)
T細胞のキメラ抗原受容体形質導入
レンチウイルス産生
293T細胞をポリ-L-リシン(Sigma)コート175cmフラスコに蒔いた。トランスフェクションの2時間前に培地を10%FCSを補充したDMEMで置き換えた。レンチウイルス移入ベクターDNAを、パッケージングおよびエンベローププラスミドDNAと合わせ、リポフェクタミン2000と混合した。溶液を短時間ボルテックスし、室温、30分間インキュベートした。これに続いて溶液を再度混合し、次いで細胞に滴下で添加した。フラスコをインキュベーターに戻した。6時間後、新鮮成長培地を添加した。48時間後にウイルス上清を回収し、1500rpm、5分間、4℃での遠心分離によって透明化し、次いで0.45μmポアPVDF Millex-HV filter(Millipore)に通した。超遠心分離法を使用するレンチウイルスの濃縮をAH-629ローターを使用してSorval Discovery 100 SE遠心分離機を用いて実施した。ろ過したウイルス上清30mLを36mLポリアロマーコニカルチューブ(Beckman)に添加した。遠心分離を90分間、20,000gで実施した。上清を完全に除去し、ウイルス沈殿を300μL PBSに再懸濁し、使用まで-80℃で保存した。
【0290】
CAR-T細胞の生成
図11および配列番号1~6は、開発したキメラ抗原受容体(CAR)およびCD47結合受容体構築物のパネルを、TAG72またはCD19(陽性対照として)のいずれかに特異的なscFvと共に示している。これらの構築物は、ヒンジ領域としてヒトCD8またはCD28のいずれかおよびCD28、CD3ζ鎖または4-1BB細胞質性活性化シグナル伝達ドメインを使用する。CARおよびCD47結合受容体構築物を上の章に記載のレンチウイルスベクターにクローニングする。
【0291】
T細胞の最適なレンチウイルス形質導入は、TCRおよび共刺激受容体でのそれらの活性化を含む。したがって0日目に、新鮮PBMCを健康なドナーからアフェーレシスによって回収し、常磁性ビーズ(Dynabeads ClinExVivo CD3/CD28、Invitrogen、Camarillo、CA、USA)に結合された抗CD3および抗CD28抗体を3:1(ビーズ:細胞)の比で使用して活性化T細胞について濃縮した。細胞およびビーズを1時間、室温で共インキュベートし、CD3+細胞濃縮を磁石(Invitrogen)を使用して実施した。CD3+画分中の細胞を出発培地に、細胞1×10個/mlの濃度で100IU/ml IL-2を含むT細胞増大培地中に再懸濁した。1日目にRetroNectinをPBS中10mg/mLの溶液中で2mg/cm2の濃度で一晩、4℃で細胞培養皿をコートするために使用した。2日目にRetroNectin溶液を吸引し、同体積のPBS中0.5%ヒト血清アルブミンからなるブロッキング溶液を各バッグに添加し、室温、30分間インキュベートした。ブロッキング溶液を吸引し、各バッグをPBSで洗浄した。レンチウイルス上清を急速融解し、300IU/ml IL-2を含むT細胞増大培地を含む各皿に添加した。培養物をインキュベーターに戻して置き、少なくとも24時間そのままにした。4日目に形質導入を停止させ;細胞を新鮮T細胞増大培地に細胞0.5~1×10個/mLの濃度で再懸濁した。培養物を14日目まで維持し、細胞濃度を細胞1×10個/mLに維持するために新鮮増大培地を1日おきに与えた。
【0292】
最初に血液由来ヒトT細胞をCAR形質導入に供し、その成功をeGFP+細胞を表すフローサイトメトリーによって測定した(図15)。これは、ウエスタンブロット分析によっても確認した(図16)。
【0293】
CAR-T細胞の機能の評価
TAG72 CAR-T細胞(正常PBMCから作った)を、TAG72発現標的がん細胞をin vitroで死滅させるそれらの能力について検討した。リアルタイム細胞モニタリングシステム(xCELLigence)をin vitroでのCAR-T細胞の死滅効率を決定するために用いた。標的細胞(例えばTAG72+卵巣がん細胞株CaOV4)10,000~2×10個/100μLをRTCAプレートに入れた。いくつかの場合では、抗hCD40による、もしくはプレートのヒトフィブロネクチンプレコーティングによる標的細胞のテザリングは、必要である場合がある。細胞付着を可能にするように標的細胞を37℃、5%COで3~12時間維持する。標的細胞の付着に続いて、CAR-Tエフェクター細胞を種々のエフェクター:標的比で添加した(1:1から10:1の範囲)。一部の実験では、CAR-Tのエフェクター細胞は、CAR-T細胞のGFP発現に基づいて使用前にFACSを介して単離した。共培養は、最適な成長条件で少なくとも12時間維持された。細胞インピーダンスを全体を通じてモニターし;インピーダンスでの減少は、細胞脱離および最終的には細胞死の指標である。
【0294】
図17は、40時間にわたってモニターされたこの実験からの結果を示している。卵巣がん細胞株CaOV4はこの期間中一貫して成長した(青線)。対照的にTAG72特異的CAR T細胞を補充した培養物は、標的細胞単独のものより顕著に少ない初期成長相に続く、経時的な標的細胞の段階的除去を示した(紫線)。CD3/CD28活性化による非特異的死滅を除くためにTAG72 CAR-T細胞をフローサイトメトリーによって単離し、CD19 CAR-T細胞および非CAR-T細胞-先行するCD3/CD28活性化を伴わない、と比較した(図21)。図21に示すデータは、ベクターだけでトランスフェクトしたT細胞および非トランスフェクトT細胞の陰性対照がこの期間にがん細胞の死滅を示さなかったことから、TAG72発現がん細胞との最初の24時間の培養でのTAG72 CAR-T細胞の強い抗原特異性を示している。
【0295】
上記の研究は、末梢血由来ポリクローナルT細胞で実施した。名目上のがんペプチド抗原に特異的なTCRを発現している単一特異性T細胞のCAR-形質導入を実証するために、WT-1特異的TCRから形成されたiPSC由来WT-1 TCR特異的T細胞を、TAG72 CARレンチウイルスによって形質導入した。図22Aは、WT-1特異的T細胞から産生されたiPSC由来のこれらのWT-1特異的TCR CD8+T細胞自体の良好なCAR形質導入を示している。CARは、TAG72に対する特異性を有した。最も重要なことに図22Bは、WT-1特異的T細胞から産生されたiPSC由来のWT-1特異的TCR CD8+T細胞自体の、TAG72およびCD47の両方についてのCAR構築物での良好な形質導入を示している。これは、T細胞ががんに対する3つの特異性:WT-1(TCR)、TAG72(CAR)およびCD47(切断型、CD47結合受容体)を有して産生され得ることを示している。
【0296】
結果は、健常成体血液からのWT-1特異的TCR T細胞にそれ自体が由来した、iPSC由来二重特異的CAR形質導入がん特異的TCR(WT-1)の開発を実証した。
【0297】
図20は、二重特異的T細胞(WT-1 TCRおよびTAG72 CARを含有する)の両方の構成成分ががん細胞の死滅に寄与できることを示している。自然な細胞死について補正した場合、たとえ低いエフェクター-標的比でも(ここではエフェクター2に対して標的細胞1)、WT-1細胞はおよそ10%の細胞死滅を生じ、次いで形質導入によるTAG72 CARの添加は追加の10%死滅を生じた。
【0298】
(実施例7)
iPSCのキメラ抗原受容体形質導入
多重特異性CAR-T細胞の産生は、既存の血液T細胞のCAR形質導入(図15)または次にT細胞に誘導されるiPSCの形質導入(がん特異的TCRおよびCARを発現している)(例えば、配列番号1~6)によるものを含む複数のアプローチによって達成できる。複数のiPSC株は、CAR-T形質導入を進行するために使用されている。これらのiPSCは、非T細胞由来、または、TCR遺伝子再構成を保持しているがん抗原特異的T細胞由来(例えば、WT-1)であってよい。これらのiPSCは、成体線維芽細胞由来または特異的がん抗原(WT-1ペプチド)に特異的な内在性TCRを有するT細胞由来のいずれかであった。
【0299】
iPSCは、図14に示す通り、CAR外部ドメインがTAG72に特異的なscFv(または対照としてCD19)を含む、単一シストロンによって安定に形質導入された。ヒンジ(ストーク)領域および膜貫通領域は、CD28またはCD8由来であり、T細胞シグナル伝達ドメインを含む細胞質性エンドドメインは、CD28およびTCRζ鎖由来である。CARは、CARとレポーターとを分離するための、P2A自己切断性ポリペプチドによって連結されたEGFPをコードするC末端伸長を有する。ウイルスの組み込み後、P2Aを切断し、良好な形質導入は放出されたEGFPレポーターの蛍光を測定することによって定量した。GFP蛍光は、良好な形質導入を発する。それは、原位置での形質導入を示すために(図21)またはフローサイトメトリーを介してCAR形質導入iPSCを同定および単離するために(図22、23)使用できる。
【0300】
これらの研究は、レンチウイルスCAR構築物を用いてiPSCを形質導入する能力を明らかに示した。図21Aは、TAG72またはCD19をコードするCARを用いたヒト線維芽細胞由来のiPSCの良好な形質導入を示している(図21A)。図21Bは、TAG72を用いたWT-1 TCR特異的T細胞由来iPSCの良好な形質導入を示している。したがってこの細胞株由来の任意のT細胞は、二重抗がん特異性(TCRを介するWT-1;CARを介するTAG72)を発現している。
【0301】
蛍光ベース細胞選別によって、形質導入されたiPSCを単離することも可能である。陽性細胞を回収し、(CAR形質導入)iPSCコロニーを良好に形成するために蒔くことができる(図24)。
【0302】
当業者は、本明細書に記載の本発明が具体的に記載したもの以外の多様性および改変を許容することを理解する。本発明が、すべてのそのような多様性および改変を含むことは理解される。本発明は、本明細書において個々にまたは集合的に言及したまたは示したすべてのステップ、特性、組成物および化合物ならびに前記ステップまたは特性の任意の2つまたはそれよりも多くの任意のおよびすべての組合せも含む。
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図1A-1O】
図2A-2G】
図2H
図3
図4
図5-1】
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図6
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図10
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【配列表】
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