(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028668
(43)【公開日】2024-03-04
(54)【発明の名称】野菜/果物劣化臭マスキング剤、並びにその使用
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20240226BHJP
A23L 27/30 20160101ALI20240226BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20240226BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20240226BHJP
A23L 2/02 20060101ALI20240226BHJP
A23L 2/60 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/00 101A
A23L27/30
A23L27/00 101Z
A23L19/00 A
A23L23/00
A23L2/02 E
A23L2/60
A23L2/02 F
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024010765
(22)【出願日】2024-01-29
(62)【分割の表示】P 2020011072の分割
【原出願日】2020-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2019019626
(32)【優先日】2019-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 ひかる
(72)【発明者】
【氏名】牛谷 健作
(57)【要約】
【課題】野菜または/および果物含有組成物について、光照射または熱曝露によって生じる劣化臭をマスキングする方法を提供する。
【解決手段】ステビア抽出物、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、およびショ糖よりなる群から選択される少なくとも1種を野菜または/および果物の劣化臭マスキング剤として、対象とする野菜または/および果物含有組成物に添加配合して用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステビア抽出物、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、およびショ糖よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する、野菜または/および果物の劣化臭マスキング剤。
【請求項2】
請求項1に記載する野菜または/および果物の劣化臭マスキング剤を甘味の閾値未満の割合で含有する野菜または/および果物含有組成物。
【請求項3】
ステビア抽出物、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、およびショ糖よりなる群から選択される少なくとも1種を、甘味の閾値未満の割合で、野菜または/および果物含有組成物に配合する工程を有する、野菜または/および果物の劣化臭がマスキングされた野菜または/および果物含有組成物の製造方法。
【請求項4】
ステビア抽出物、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、およびショ糖よりなる群から選択される少なくとも1種を野菜または/および果物含有組成物に配合することを特徴とする、野菜または/および果物含有組成物の野菜または/および果物劣化臭マスキング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は野菜または/および果物に起因する劣化臭をマスキングするために好適に使用される剤(以下、これを「野菜/果物劣化臭マスキング剤」とも称する。)に関する。また本発明は野菜/果物劣化臭マスキング剤を含有する野菜または/および果物含有組成物に関する。さらに本発明は野菜または/および果物に起因する劣化臭がマスキングされてなる野菜または/および果物含有組成物の製造方法、並びに野菜または/および果物含有組成物について野菜または/および果物に起因する劣化臭をマスキングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トマトは、多くのビタミン類に加えて、高い抗酸化作用を有するリコピンや抗アレルギー作用を有するナリゲニンカルコン等を含む野菜であり、近年の人々の健康志向の高まりを背景として、トマトジュースや野菜飲料等、トマトを原料とした加工飲食物の需要が急速に拡大している。
【0003】
こうした需要の拡大を後押しすべく、従来、青臭さというトマト特有の風味を改善するために、品種改良以外に、各種の方法が提案されている。例えば、特許文献1には、鮒寿司から単離された乳酸菌を用いることでトマトジュースのトマト臭を低減することが提案されている。また特許文献2には、トマト果肉の粉砕物に砂糖等の甘味料と水飴を混ぜて煮詰めて製造したトマト飴は、トマトの風味を残しながらもトマト臭が抑制されていることが記載されている。また特許文献3には、トマトジュース等のトマト含有製品重量あたりエリスリトールを0.2~3.0重量%添加することで、トマト特有の臭気や味がマスキングできることが記載されている。さらに特許文献4には、トマト搾汁に糖アルコールやオリゴ糖以外の甘味料(例えば、砂糖や高甘味度甘味料)を配合することでトマトの青臭さや酸味がマスキングできることが記載されている。具体的には、特許文献4の実施例には、トマト搾汁100質量部に対してグラニュー糖を1.8質量部またはアセスルファムカリウムとスクラロースを含む甘味料(甘味度は砂糖の約200倍)を0.009質量部
の割合で配合してトマト搾汁に甘味を付与することで、トマトの青臭さがマスキングできることが記載されている。
【0004】
このように、トマトの栄養面や健康面に着目しながらも、さらに美味しさを追求したトマト含有飲食物を開発することは、トマト含有飲食物の市場をさらに拡大するうえで極めて重要である。
【0005】
また、近年、トマトのみならず、人参を始めとする野菜や柑橘類を始めとする果物についても、美容および栄養面だけでなく、美味しさを追求した飲食物の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-17132号公報
【特許文献2】特開昭62-205744号公報
【特許文献3】特開平9-117262号公報
【特許文献4】特開2011-103783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記で説明するように、野菜や果物を含有する飲食物の市場を拡大するうえで、さらなる美味しさの追求が求められている。こうしたなか、本発明者らは、トマト含有飲食物の美味しさを求めて研究を重ねていたところ、ペーストやピューレー等のトマト加工品に光を照射することで、トマトの臭いが変質して劣化臭が発生することを新たに見出した。またこうした現象は、トマトのみならず人参などの野菜や、柑橘類,リンゴ,桃およびブドウなどの果物についても同様に生じること、また光照射だけでなく熱曝露によっても生じることを見出した。かかる劣化臭の発生は野菜または/および果物を含有する飲食物の風味を大きく損なうものであり、それを解消することで、野菜または/および果物を含有する飲食物の需要伸長に一翼を担うことができると考えられる。
【0008】
そこで、本発明は野菜または/および果物を含む飲食物について、光照射または熱曝露によって生じる劣化臭をマスキングするための技術を提供することを目的とする。より詳細には、第1に、本発明は野菜/果物劣化臭マスキング剤を提供することを目的とする。第2に、野菜/果物劣化臭がマスキングされてなる野菜/果物含有組成物を提供することを目的とする。第3に、野菜/果物劣化臭がマスキングされてなる野菜/果物含有組成物を製造する方法、換言すれば、野菜/果物を含む組成物について野菜/果物劣化臭をマスキングする方法を提供することを目的とする。
【0009】
なお、本明細書において、「野菜/果物」とは「野菜または/および果物」の略称を意味する。また「野菜または/および果物」という用語には、少なくとも1種の野菜、少なくとも1種の果物、または少なくとも1種の野菜と少なくとも1種の果物との組み合わせが包含される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねていたところ、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ショ糖、およびソーマチンといった、従来甘味閾値以上の量で甘味料として使用されている成分(以下、これらを総称して「本成分」とも称する)に、光照射によって生じるトマトの劣化臭をマスキングする作用があることを見出し、またその作用は甘味を付与しない量(甘味閾値未満の量)でも発揮することを確認した。また本成分のこうした作用は、トマトの劣化臭のみならず、光照射によって生じるニンジンの劣化臭、並びに光照射や熱曝露によって生じる柑橘類、リンゴ、モモおよびブドウといった果物の劣化臭に対しても効果を発揮することを確認した。これらの知見から、当該本成分を野菜/果物劣化臭マスキング剤として、野菜/果物を含む可食性組成物に配合することで、野菜/果物に光照射または熱曝露することで生じる劣化臭がマスキングされた野菜/果物含有組成物が得られることを確認して本発明を完成した。
【0011】
本発明はかかる知見に基づいて、さらに研究を重ねて完成したものであり、下記の実施形態を有するものである。
【0012】
(I)野菜/果物劣化臭マスキング剤
(I-1)ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ショ糖、およびソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を含有する野菜/果物劣化臭マスキング剤。
(I-2)前記ラカンカ抽出物がモグロシドVを含有するものである(I-1)に記載する野菜/果物劣化臭マスキング剤。
(I-3)ステビア抽出物がレバウディオサイドAを含有するものである(I-1)または(I-2)に記載する野菜/果物劣化臭マスキング剤。
(I-4)野菜/果物劣化臭が野菜/果物に光照射または熱曝露することで生じる劣化臭である(I-1)~(I-3)のいずれかに記載する野菜/果物劣化臭マスキング剤。
(I-5)野菜がトマトおよびニンジンからなる群より選択される少なくとも1種、または果物が柑橘類、リンゴ、モモおよびブドウからなる群より選択される少なくとも1種である、(I-1)~(I-4)のいずれかに記載する野菜/果実劣化臭マスキング剤。
【0013】
(II)野菜/果実含有組成物、およびその製造方法
(II-1)(I-1)~(I-5)のいずれか1項に記載の野菜/果物劣化臭マスキング剤を含有する、野菜/果物含有組成物。
(II-2)野菜/果物劣化臭マスキング剤を、その甘味の閾値未満の量(甘味を付与しない量)で含有する(II-1)に記載する野菜/果物含有組成物。
(II-3)野菜がトマトおよびニンジンからなる群より選択される少なくとも1種、または果物が柑橘類、リンゴ、モモおよびブドウからなる群より選択される少なくとも1種である、(II-1)または(II-2)に記載する野菜/果物含有組成物。
(II-4)光透過性容器または非断熱性容器に収容されてなる、(II-1)~(II-3)のいずれか1項に記載する容器詰めの野菜/果物含有組成物。
(II-5)ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ショ糖、およびソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を、野菜/果物含有組成物に配合する工程を有することを特徴とする、野菜/果物劣化臭がマスキングされた野菜/果物含有組成物を製造する方法。
(II-6)ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ショ糖、およびソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を甘味の閾値未満の量(甘味を付与しない量)で野菜/果物含有組成物に配合する、(II-5)に記載する製造方法。
(II-7)得られた野菜/果物含有組成物を光透過性容器または非断熱性容器に入れる工程を有する、(II-5)または(II-6)に記載する製造方法。
(II-8)野菜がトマトおよびニンジンからなる群より選択される少なくとも1種、または果物が柑橘類、リンゴ、モモおよびブドウからなる群より選択される少なくとも1種である、(II-5)~(II-7)のいずれか1項に記載する製造方法。
【0014】
(III)野菜/果物劣化臭マスキング方法
(III-1)ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ショ糖、およびソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を、野菜/果物含有組成物に配合することを特徴とする、野菜/果物含有組成物の野菜/果物劣化臭マスキング方法。
(III-2)野菜/果物劣化臭が野菜/果物に光照射または熱曝露することで生じる劣化臭である(III-1)に記載する野菜/果物劣化臭マスキング方法。
(III-3)野菜がトマトおよびニンジンからなる群より選択される少なくとも1種、または果物が柑橘類、リンゴ、モモおよびブドウからなる群より選択される少なくとも1種である、(III-1)または(III-2)に記載する野菜/果物劣化臭マスキング方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の野菜/果物劣化臭マスキング剤によれば、野菜/果物含有組成物の光照射または熱曝露によって生じる野菜/果物劣化臭をマスキングすることができる。本発明の野菜/果物劣化臭マスキング剤は、野菜/果物含有組成物のなかでも、特に光透過性容器(非遮光性容器)に収容されて、蛍光灯やLED灯等の光照射下で流通、保存または陳列される野菜/果物含有組成物に対して好適に用いることができる。かかる野菜/果物含有組成物に対して、光照射前または光照射後に、本発明の野菜/果物劣化臭マスキング剤を配合することで、当該組成物の野菜/果物劣化臭をマスキングすることができる。つまり、本発明の野菜/果物劣化臭マスキング剤、および本発明の野菜/果物劣化臭マスキング方法によれば、野菜/果物含有組成物に対して野菜/果実劣化臭マスキング効果を発揮し、光
照射または熱曝露によって生じる劣化臭による野菜/果物の風味低下が抑制されてなる野菜/果物含有組成物を調製し提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(I)野菜/果物劣化臭マスキング剤
本発明の野菜/果物劣化臭マスキング剤(以下、「本マスキング剤」とも称する)は、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ショ糖、およびソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【0017】
(ラカンカ抽出物)
羅漢果(学名:Siraitia
grosvenorii)は、中国を原産地とするウリ科ラカンカ属のつる性の多年生植物である。本発明が対象とするラカンカ抽出物は、産地の別を問わず、羅漢果の果実、好ましくは羅漢果の生果実から、水またはエタノール等の有機溶媒を用いて抽出されたモグロシドVを含有する抽出物である。モグロシドVは、ラカンカ抽出物に含まれているトリテルペン系配糖体であり、ショ糖(砂糖)の約300倍の甘味度を有していることが知られている甘味成分でもある。
【0018】
本マスキング剤で用いられるラカンカ抽出物のモグロシドV含有量は、本発明の効果を奏することを限度として、特に制限されない。言い換えれば、本マスキング剤において、モグロシドVは、ラカンカ抽出物から精製された状態で使用することもできるし、また、ラカンカ抽出物に含まれるモグロシドV以外のトリテルペン系配糖体(モグロール、モグロシドIE1、モグロシドIA1、モグロシドIIE、モグロシドIII、モグロシドIVa、モグロシ
ドIVE、シメノシド、11-オキソモゴロシド、5α,6α-エポキシモグロシド)と混合した状態で使用することもできる。本発明において「ラカンカ抽出物」の用語には、これらの両方の意味が包含される。ラカンカ抽出物中のモグロシドVの含有量は、全体の10質量%以上であることが好ましい。より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは40質量%以上であり、とりわけ好ましくは50質量%以上である。
【0019】
こうしたラカンカ抽出物は、羅漢果の果実から抽出し、さらに必要に応じて精製処理することで調製することも可能であるが、簡便には商業的に入手することができる。例えば、市販されているラカンカ抽出物として「FD羅漢果濃縮エキスパウダー」(7質量%または15質量%モグロシドV含有物)、「サンナチュレ(登録商標) M30」(30質量
%モグロシドV含有物)、「サンナチュレ(登録商標) M50」(50質量%モグロシド
V含有品)[以上、いずれも三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製];並びに高純度ラカンカ抽出物(サラヤ株式会社製)等を例示することができる。
【0020】
(ステビア抽出物)
ステビアレバウディアナ・ベルトニ(Stevia
Rebaudiana
Bertoni)(本発明では「ス
テビア」と略称する)は、南米パラグアイを原産地とするキク科ステビア属に属する植物である。本発明が対象とするステビア抽出物は、産地の別を問わず、ステビアの葉または茎などから、水またはエタノール等の有機溶媒を用いて抽出されたレバウディオサイドAを含有する抽出物である。レバウディオサイドAは、ステビア抽出物に含まれているステビオール配糖体であり、ショ糖(砂糖)の300~450倍の甘味度を有していることが知られている甘味成分でもある。
【0021】
本マスキング剤で用いられるステビア抽出物のレバウディオサイドA含有量は、本発明の効果を奏することを限度として、特に制限されない。言い換えれば、本マスキング剤において、レバウディオサイドAは、ステビア抽出物から精製された状態で使用することも
できるし、また、ステビア抽出物に含まれるレバウディオサイドA以外のステビオール配糖体(ステビオサイド、レバウディオサイドB、レバウディオサイドC、レバウディオサイドD、レバウディオサイドE、レバウディオサイドM、ズルコサイドA、レブソサイド、ステビオールビオサイドなど)と混合した状態で使用することもできる。本発明において「ステビア抽出物」の用語には、これらの両方の意味が包含される。ステビア抽出物中のレバウディオサイドAの含有量は、制限されないが、全体の90質量%以上であることが好ましい。より好ましくは95質量%以上である。制限はされないが、より好ましい混合物として、レバウディオサイドAの含有量が全体の95質量%以上であり、その他の成分として他のステビオール配糖体の含有量が合計で1質量%以下、より好ましくはステビオサイドおよびレバウディオサイドCの含有量が合計で0.2質量%以下であるステビア抽出物を例示することができる。なお、本発明が対象とするステビア抽出物には、α-グルコシルトランスフェラーゼ等を用いて、上記ステビア抽出物にグルコースやフルクトース等の糖を転移した酵素処理ステビア抽出物も含まれる。また、本発明で対象とするレバウディオサイドAには、α-グルコシルトランスフェラーゼ等を用いてレバウディオサイドAにグルコースやフルクトース等の糖を転移した酵素処理レバウディオサイドAも含まれる。好ましくは酵素非処理ステビア抽出物であり、また好ましくは酵素非処理レバウディオサイドAである。
【0022】
こうしたステビア抽出物は、ステビアの葉や茎等を原料として抽出し、さらに必要に応じて精製処理することで調製することも可能であるが、簡便には商業的に入手することができる。例えば、市販されているステビア抽出物として、「レバウディオJ-100」、および「レバウディオAD」(以上、いずれも守田化学工業(株)製)などを挙げることができる。これらの製品はレバウディオサイドAを95質量%以上の割合で含有するレバウディオサイドA含有製品(ステビア抽出物)である。
【0023】
(スクラロース)
スクラロース(登録商標)(化学名: 1,6-Dichloro-1,6-dideoxy-β-D-fructofuranosyl-4-chloro-4-deoxy-α-D-galactopyranoside)は、ショ糖(砂糖)の約600倍の甘味
度を有していることが知られている甘味成分である。水に溶けやすく、安定性に優れているため、甘味料としてだけでなく、従来広く様々な用途で食品に使用されている成分である。スクラロースは商業的に入手することができ、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社から市販されている。
【0024】
(アスパルテーム)
アスパルテーム(化学名:N-(L-α-Aspartyl)-L-phenylalanine, 1-methyl ester)は
、ショ糖(砂糖)の100~200倍の甘味度を有するアミノ酸に由来する甘味成分であり、フェニルアラニンのメチルエステルと、アスパラギン酸とがペプチド結合した構造を持つジペプチドのメチルエステルである。アスパルテームは商業的に入手することができ、例えば味の素株式会社から、パルスイート(登録商標)といった商品名で市販されている。
【0025】
(アセスルファムカリウム)
アセスルファムカリウム(化学名:6-メチル-1,2,3-オキサチアジン-4(3H)-オン-2,2-ジオキシドカリウム)は、ショ糖(砂糖)の約200倍の甘味度を有する甘味成分であり、pHおよび熱安定性が高いことを特徴とする。アセスルファムカリウムは、商業的に容易に入手することができ、例えばMCフードスペシャリティーズ株式会社から販売されている。
【0026】
(ソーマチン)
ソーマチンは、西アフリカ原産のクズウコン科の植物Thaumatococcus danielliiの種子
に多く含まれる分子量約22000の蛋白質(植物性蛋白)であり、ショ糖(砂糖)の3000~8000倍もの甘味度を有するため天然甘味料として使用されている。ちなみにソーマチンの甘味の閾値は約1ppmである。これは商業的に入手することができ、例えばソーマチンを10質量%の割合で含有する甘味料(サンスイート(商標登録)T-147)、およびソーマチンを0.15質量%の割合で含有する甘味料(ネオサンマルク(商標登
録)AG)が三栄源エフ・エフ・アイ株式会社から市販されている。
【0027】
(本マスキング剤)
本マスキング剤は、前述するラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ショ糖、およびソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を含有するものであればよく、これらを1種単独で含有するものであっても、また2種以上を組み合わせて含有するものであってもよい。なお、本マスキング剤に含まれるラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ショ糖または/およびソーマチンの割合は、トマトを含有する組成物に添加配合することで、トマトに起因する光劣化臭または熱劣化臭をマスキングするという目的に適うものであればよく、その限りにおいて、100質量%を限度として適宜設定することができる。本マスキング剤として、好ましくはステビア抽出物、スクラロース、およびラカンカ抽出物であり、より好ましくはステビア抽出物、およびラカンカ抽出物である。
【0028】
2種以上を組み合わせる態様として、好ましくは、少なくともステビア抽出物とラカンカ抽出物が含まれる組み合わせを例示することができる。ステビア抽出物とラカンカ抽出物との併用に用いられるステビア抽出物およびラカンカ抽出物は、前述の通りである。ステビア抽出物として、好ましくはレバウディオサイドAの含有量が90質量%以上、好ましくは95質量%以上のものを用いることが好ましく、さらに好ましくはステビオサイドおよびレバウディオサイドCの含有量が合計で0.2質量%以下のものである。それと組み合わせるラカンカ抽出物としては、好ましくはモグロシドVの含有量が30質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上のものである。このように、ステビア抽出物とラカンカ抽出物とを併用することで、各々単独で使用する場合よりも高い野菜/果物劣化臭マスキング効果を発揮することができる。なお、ステビア抽出物とラカンカ抽出物との配合比は、本発明の効果を奏することを限度として特に制限されない。一例を挙げると、本マスキング剤に含まれるレバウディオサイドA(RevA)とモグロシドV(MogV)との配合比が質量比(以下、同じ)で50:50~99:1となるような組み合わせを挙げることができる。但し、後述する実験例3に示すように、レバウディオサイドA(RevA)とモグロシドV(MogV)との配合比が上記範囲を超える場合でも、ステビア抽出物とラカンカ抽出物の混合物は高い野菜/果物劣化臭マスキング効果を発揮することができる。レバウディオサイドA(RevA)とモグロシドV(MogV)との配合比は、効果を奏する範囲で適宜設定することができ、例えば60:40~99:1の範囲、好ましくは60:40~97.3:2.7、より好ましくは70:30~97.3:2.7の範囲に設定することで、より高い野菜/果物劣化臭マスキング効果を発揮することができる。またこの範囲はレバウディオサイドAに起因するステビア抽出物特有の苦味が生じない範囲でもある。
【0029】
本マスキング剤は、野菜/果物含有組成物の野菜/果物劣化臭をマスキングするために用いられる。その形態を問わないが、粉末状、顆粒状、タブレット状、およびカプセル剤状などの固体の形態、ならびにシロップ状、乳液状、懸濁液状、液状、およびジェル状などの半固体または液体の形態を有することができる。また一剤の形態のほか、二剤の形態(例えば、ステビア抽出物を含有する製剤とラカンカ抽出物を含有する製剤との組み合わせ物など)を有するものであってもよい。
【0030】
本マスキング剤は、本発明の効果を妨げないことを限度として、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ショ糖、およびソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を製剤形態に調製する際に、その形態に応じて、飲食品に配合可能な担体(基剤)や添加剤を適宜配合することもできる。かかる担体や添加剤としては、本マスキング剤の作用効果に影響を与えない範囲で、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖などのオリゴ糖類;デキストリン、セルロース、アラビアガム、およびでん粉(コーンスターチ等)などの多糖類;および水などの溶媒を挙げることができる。また、本マスキング剤の作用効果に悪影響を与えないことを限度として、乳糖、ブドウ糖、果糖、果糖ブドウ糖液糖などの糖類;ソルビトール、エリスリトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、キシリトール、還元パラチノースなどの糖アルコール類などの配合も排除するものではない。さらに本マスキング剤の作用効果に悪影響を与えないことを限度として、飲食品に通常使用されるような色素、または防腐剤などを配合することもできる。
【0031】
本マスキング剤の野菜/果物含有組成物に対する使用量としては、本マスキング剤の主成分であるラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ショ糖または/およびソーマチン(本成分)に起因する甘味を考慮して、目的に応じて選択設定することができる。例えば、前述するように、モグロシドVの甘味度はショ糖の300倍、レバウディオサイドAの甘味度はショ糖の300~450倍、スクラロースの甘味度はショ糖の600倍、アスパルテームの甘味度はショ糖の100~200倍、アセスルファムカリウムの甘味度はショ糖の200倍であり、ソーマチンの甘味度はショ糖の3000~8000倍であり、また配合比が50:50~99:1のレバウディオサイドAとモグロシドVの混合物の甘味度はショ糖の300~450倍である。このため、例えば、本マスキング剤を、野菜/果物含有組成物に対して、野菜/果物劣化臭をマスキングするだけでなく甘味付与を目的として配合する場合は、本マスキング剤を、野菜/果物搾汁の存在下で甘味を付与する量(甘味の閾値以上の量)で配合することが好ましい。具体的には、例えばモグロシドVの配合量としては0.0025質量%以上、レバウディオサイドAの配合量としては0.0023質量%以上、スクラロースの配合量としては0.002質量%以上、アスパルテームの配合量としては0.01質量%以上、アセスルファムカリウムの配合量としては0.01質量%以上、ショ糖の配合量としては1質量%以上、ソーマチンの配合量としては、甘味倍率8000倍のソーマチンを用いる場合、0.0003質量%以上となるような範囲で適宜調整することができる。また本マスキング剤がレバウディオサイドAとモグロシドVとの配合比が50:50~99:1となるステビア抽出物とラカンカ抽出物との混合物である場合、レバウディオサイドAとモグロシドVの合計量が全体の0.0025質量%以上になるように、最終の野菜/果物含有組成物に対して配合することができる。一方、本マスキング剤を、野菜/果物含有組成物に対して、野菜/果物劣化臭をマスキングするだけで、甘味付与を目的としない場合や甘味付与が許容されない場合は、本マスキング剤を、野菜/果物搾汁の存在下で甘味を付与しない量(甘味の閾値未満の量)で配合する。具体的には、モグロシドVの配合量としては0.0025質量%未満、レバウディオサイドAの配合量としては0.0023質量%未満、スクラロースの配合量としては0.002質量%未満、アスパルテームの配合量としては0.01質量%未満、アセスルファムカリウムの配合量としては0.01質量%未満、ショ糖の配合量としては1質量%未満、またソーマチンの配合量としては、甘味倍率8000倍のソーマチンを用いる場合、0.0003質量%未満となるような範囲で適宜調整することができる。また本マスキング剤がレバウディオサイドAとモグロシドVとの配合比が50:50~99:1のステビア抽出物とラカンカ抽出物との混合物である場合、レバウディオサイドAとモグロシドVの合計量が全体の0.0025質量%未満になるように、最終の野菜/果物含有組成物に対して配合することができる。なお、本成分の野菜/果物搾汁の存在下における甘味の閾値(認知閾値)は、具体的には適用する野菜/果物含有組成物毎に個別に設定することが好ましく、この場合の閾値の設定は専門のパネ
ルを用いて極限法に従って行うことが好ましい。
【0032】
本発明が対象とする「野菜/果物劣化臭」とは、野菜/果物ジュース、野菜/果物ペーストまたは野菜/果物ピューレー等の野菜/果実加工品を始めとする野菜/果物含有組成物に光を照射するか、または熱で曝露することで生じる野菜/果物に起因した臭いである。
【0033】
ここで、野菜には、制限されないものの、好ましくはトマト(ナス科ナス属トマト種に属する植物の果実)およびニンジン(セリ科ニンジン属ニンジン種に属する植物)が含まれる。また果物には、制限されないものの、好ましくは柑橘類(ミカン科ミカン亜科ミカン連に属する植物の果実)、リンゴ(バラ科サクラ亜科リンゴ属に属する植物の果実)、モモ(バラ科モモ亜科モモ属に属する植物の果実)、およびブドウ(ブドウ科ブドウ属に属する植物の果実)が含まれる。
【0034】
この臭い(劣化臭)が、光照射前の野菜/果物本来の臭いが変質したものであるか、あるいは光照射または熱曝露によって新たに発生した臭いと野菜/果物本来の臭いとの混合臭であるかは不明であるものの、光照射前または熱曝露前の野菜/果物の臭いとは明らかに区別することができる臭いである。ここで光には可視光が含まれ、例えば蛍光灯やLED灯等からの照射光の他、太陽光等の可視域内の光を含む照射光が含まれる。また本発明が対象とする「野菜/果物劣化臭」は、主として、対象とする野菜/果物含有組成物を口に含んだとき、または飲み込んだときに、喉の奥から口腔内を通じて鼻腔内で感じる臭い(レトロネーザル)である。但し、当該レトロネーザルと、鼻で直接感じる臭い(オルソネーザル)とが複合して感知される臭いであってもよい。
【0035】
また本発明において「野菜/果物劣化臭マスキング」という用語には、野菜/果物含有組成物に光を照射した場合に生じる野菜/果物に起因する臭い(野菜/果物光劣化臭)を消失または低減することが含まれる。また、「野菜/果物劣化臭マスキング」という用語には、野菜/果物含有組成物を熱で曝露した場合に生じる野菜/果物に起因する臭い(野菜/果物熱劣化臭)を消失または低減することも含まれる。但し、いずれか少なくとも一方の作用効果を満たすものであればよく、両方の作用効果を同時に満たすことを意味するものではない。
【0036】
具体的には、野菜/果物含有組成物にあらかじめ本マスキング剤を添加しておくことで(前添加)、光に晒された場合または熱に曝露された場合でも野菜/果物劣化臭が生じないか(野菜/果物劣化臭が認知されないか)、または野菜/果物劣化臭が生じたとしても(野菜/果物劣化臭を認知したとしても)、本マスキング剤を添加せずに光に晒された場合または熱に曝露された場合と比較して、野菜/果物劣化臭が有意に抑制されることを意味する。また、野菜/果物含有組成物が光照射に晒された場合または熱に曝露された場合、当該野菜/果物含有組成物にあとから本マスキング剤を添加しても(後添加)、光照射または熱曝露によって生じた野菜/果物劣化臭を消失または低減することが可能である。
【0037】
こうした本マスキング剤による野菜/果物劣化臭マスキング効果は、通常、訓練された専門パネルによる官能試験によって評価判定することができる。具体的には、前添加の例として、対象とする野菜/果物含有組成物に野菜/果物劣化臭マスキング剤(候補物を含む)を添加して光照射または熱曝露した場合に、光照射前後または熱曝露前後の野菜/果物含有組成物の臭いの変化(臭いの変質)の程度が、当該野菜/果物劣化臭マスキング剤を添加することなく光照射または熱曝露した場合における光照射前後または熱曝露前後の野菜/果物含有組成物の臭いの変化(臭いの変質)の程度と比較して、小さい場合は、野菜/果物劣化臭マスキング剤の添加によって、野菜/果物劣化臭がマスキング(抑制)されていると判断することができる。また、後添加の例として、対象とする野菜/果物含有
組成物に光照射または熱曝露した後に、野菜/果物劣化臭マスキング剤(候補物を含む)を添加した場合、野菜/果物劣化臭マスキング剤の添加後の光照射または熱曝露・野菜/果物含有組成物の臭いが、添加前の光照射または熱曝露・野菜/果物含有組成物の臭いと比較して抑制されている場合、野菜/果物劣化臭マスキング剤の添加によって、野菜/果物劣化臭がマスキング(抑制)されたと判断することができる。なお、具体的な判断手法は、後述する実験例に記載する方法を参考にすることができる。実験例に記載するように、光照射試験に使用する光量を高めることで(加速試験)、試験期間を短縮することができる。例えば、2万ルクスの蛍光灯またはLEDで1日または2日間光照射することで、蛍光灯またはLED照射下のショーケース内で10日間または20日間保管したのと同じ光照射を受けたことになる。また、熱曝露試験に使用する温度を高めることで(加速試験)、試験期間を短縮することができる。例えば、60℃条件下で3.5日間または7日間曝露することで、40℃条件下で15日間または30日間保管したのと同じ熱曝露を受けたことになる。
【0038】
本マスキング剤を添加する対象の野菜/果物含有組成物(つまり本マスキング剤を配合する前の野菜/果物含有組成物)(以下、「被野菜/果物含有組成物」とも称する)は、野菜/果物を原料として製造される飲食物である。例えば、トマトを例に挙げると、トマトの搾汁のほか、日本農林規格にて規定されているトマトジュース、トマトミックスジュース(濃縮トマト還元物を含む)、トマトケチャップ、トマトソース、チリソース、トマト果汁飲料、固形トマト、トマトピューレー、トマトペースト、および濃縮トマトなどのトマト加工品、およびこれらのトマト加工品を原料として調製される各種の飲食物を例示することができる。詳細は後述する。他の野菜/果物についても同様であり、野菜/果物ジュース、野菜/果物ミックスジュース(濃縮野菜/果物還元物を含む)、野菜/果物ソース、固形の野菜/果物、野菜/果物ピューレー、野菜/果物ペースト、および濃縮された野菜/果物などの野菜/果物加工品、およびこれらの野菜/果物加工品を原料として調製される各種の飲食物を例示することができる。
なお、当該被野菜/果物含有組成物は、前述するように光照射または熱に晒される前のものであっても、また光照射または熱に晒された後のものであってもよいが、好ましくは光照射または熱に晒される前の状態のものである。
【0039】
(II)野菜/果物劣化臭がマスキングされた野菜/果物含有組成物、およびその製造方法
本発明の野菜/果物劣化臭がマスキングされた野菜/果物含有組成物(以下、「本野菜/果物含有組成物」とも称する)は、前述する被野菜/果物含有組成物に加えて、前述の本マスキング剤を含有する可食性組成物である。当該本野菜/果物含有組成物は、被野菜/果物含有組成物に本マスキング剤を添加配合することで調製することができる。
【0040】
本発明が対象とする被野菜/果物含有組成物は、前述するように、野菜/果物を原料として製造される飲食物である。
例えば、トマトを例に挙げると、トマトの搾汁のほか、日本農林規格にて規定されているトマトジュース、トマトミックスジュース(濃縮トマト還元物を含む)、トマトケチャップ、トマトソース、チリソース、トマト果汁飲料、固形トマト、トマトピューレー、トマトペースト、濃縮トマトなどのトマト加工品、およびこれらのトマト加工品を原料として調製される各種の飲食物を挙げることができる。なお、これらのトマト加工品の定義は、日本農林規格にて規定されている定義に基づく。トマトの搾汁とは、トマトを破砕し搾汁し、または裏ごしし、皮、種子等を除去したもの、さらには濃縮トマトを希釈して搾汁の状態に戻したものを意味する。トマト加工品を原料として調製される各種の飲食物としては、トマト劣化臭がその風味に影響を及ぼすもの、つまりトマト劣化臭をマスキングする課題が存在する飲食物(言い換えれば、トマト劣化臭をマスキングすることで風味が改善する飲食物)であればよく、その限りにおいて特に制限されるものではない。例えば、
野菜ジュース、果汁混合野菜ジュース、野菜飲料、果汁入り野菜飲料、スムージー等のトマト果汁入り飲料;レッドアイやトマト果汁入りカクテルなどのトマト果汁入りアルコール飲料;スープ、パスタソース、ピザソース、チリソース、シチュー、トマト煮込みなど;ゼリーやムース等の冷菓;アイスクリーム、アイスキャンディー、シャーベット、その他種々の氷菓等を制限なく例示することができる。
【0041】
トマト以外の被野菜/果物含有組成物も、同様である。例えば、野菜/果物の搾汁のほか、野菜/果物ジュース、野菜/果物ミックスジュース(濃縮野菜/果物還元物を含む)、野菜/果物ソース、固形野菜/果物、野菜/果物ピューレー、野菜/果物ペースト、濃縮野菜/果物などの野菜/果物加工品、およびこれらの野菜/果物加工品を原料として調製される各種の飲食物を挙げることができる。野菜/果物加工品を原料として調製される各種の飲食物としては、野菜/果物劣化臭がその風味に影響を及ぼすもの、つまり野菜/果物劣化臭をマスキングする課題が存在する飲食物(言い換えれば、野菜/果物劣化臭をマスキングすることで風味が改善する飲食物)であればよく、その限りにおいて特に制限されるものではない。
【0042】
好ましくは、流通、保管時または陳列時に光照射または熱に晒される可能性のある野菜/果物含有組成物であり、こうしたものとして、光透過性・非遮光性の容器(PET等のプラスチック製容器や非遮光性のガラス製容器)または非断熱性容器(熱伝導率の低い容器)(PET等のプラスチック製容器、ガラス製容器、アルミ製容器)に充填されて流通、保管または陳列される飲食物を挙げることができる。
【0043】
被野菜/果物含有組成物に対する本マスキング剤の配合割合は、これを配合することによって調製される本野菜/果物含有組成物が、本発明の効果を奏するものであればよく、その限りにおいて特に制限されない。
【0044】
配合する本マスキング剤の種類によって異なるが、例えば被野菜/果物含有組成物にショ糖を配合して本野菜/果物含有組成物を調製する場合、本野菜/果物含有組成物中のショ糖の含有量としては0.5質量%以上の範囲を例示することができる。好ましくは0.8質量%以上、より好ましくは1質量%以上を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、ショ糖はトマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁の存在下、濃度が1質量%を超えると甘味を呈するようになるため、ショ糖をトマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁に対して甘味を付与しない量で使用する場合は、これよりも少ない量で調整することが好ましい。ショ糖をトマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁に対して甘味を付与する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができるが、この場合でも、本野菜/果物含有組成物の風味を考慮して、例えばショ糖の最終濃度が6質量%以下になるように調整することが好ましい。
【0045】
また、被野菜/果物含有組成物にアスパルテームを配合して本野菜/果物含有組成物を調製する場合、本野菜/果物含有組成物中のアスパルテームの含有量としては0.003質量%以上の範囲を例示することができる。好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.008質量%以上を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、アスパルテームは、トマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁の存在下、濃度が0.01質量%を超えると甘味を呈するようになるため、アスパルテームをトマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁に対して甘味を付与しない量で使用する場合は、これよりも少ない量で調整することが好ましい。アスパルテームをトマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁に対して甘味を付与する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、本野菜/果物含有組成物の風味を考慮して、例えばアスパルテームの最終濃度が0.03質量%以下になるように調整することができる。
【0046】
また、被野菜/果物含有組成物にアセスルファムカリウムを配合して本野菜/果物含有組成物を調製する場合、本野菜/果物含有組成物中のアセスルファムカリウムの含有量としては0.003質量%以上の範囲を例示することができる。好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.008質量%以上を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、アセスルファムカリウムは、トマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁の存在下、濃度が0.01質量%を超えると甘味を呈するようになるため、アセスルファムカリウムをトマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁に対して甘味を付与しない量で使用する場合は、これよりも少ない量で調整することが好ましい。アセスルファムカリウムをトマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁に対して甘味を付与する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、本野菜/果物含有組成物の風味を考慮して、例えばアセスルファムカリウムの最終濃度が0.03質量%以下になるように調整することができる。
【0047】
また、被野菜/果物含有組成物にスクラロースを配合して本野菜/果物含有組成物を調製する場合、本野菜/果物含有組成物中のスクラロースの含有量としては0.00005質量%以上の範囲を例示することができる。好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.0005質量%以上を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、スクラロースは、トマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁の存在下、濃度が0.002質量%を超えると甘味を呈するようになるため、スクラロースをトマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁に対して甘味を付与しない量で使用する場合は、これよりも少ない量で調整することが好ましい。スクラロースをトマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁に対して甘味を付与する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、本野菜/果物含有組成物の風味を考慮して、例えばスクラロースの最終濃度が0.01質量%以下になるように調整することができる。
【0048】
また、被野菜/果物含有組成物にステビア抽出物を配合して本野菜/果物含有組成物を調製する場合、本野菜/果物含有組成物中のステビア抽出物の含有量としては0.001質量%以上の範囲を例示することができる。これをステビア抽出物に含まれるレバウディオサイドA(RevA)の濃度に換算すると9.5ppm以上の範囲を挙げることができる。
好ましくは0.002質量%以上(RevAの量に換算して19ppm以上)、より好ましくは0.0025質量%以上(RevAの量に換算して23.7ppm以上)を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、ステビア抽出物は、トマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁の存在下、濃度が0.0025質量%を超えると甘味を呈するようになるため、ステビア抽出物をトマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁に対して甘味を付与しない量で使用する場合は、これよりも少ない量で調整することが好ましい。ステビア抽出物をトマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁に対して甘味を付与する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、本野菜/果物含有組成物の風味を考慮して、例えばステビア抽出物の最終濃度が0.015質量%以下(RevAの量に換算して142ppm以下)になるように調整することができる。
【0049】
また、被野菜/果物含有組成物にラカンカ抽出物を配合して本野菜/果物含有組成物を調製する場合、本野菜/果物含有組成物中のラカンカ抽出物の含有量としては0.00005質量%以上の範囲を例示することができる。これをラカンカ抽出物に含まれるモグロシドV(MogV)の濃度に換算すると0.25ppm以上の範囲を挙げることができる。好ましくは0.0001質量%以上(MogVの量に換算して0.5ppm以上)、より好ましくは0.0005質量%以上(MogVの量に換算して2.5ppm以上)、さらに好ましくは0.001質量%以上(MogVの量に換算して5ppm以上)を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、ラカンカ抽出物は、トマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁の存在下、濃度が0.005質量%(MogVの量に換算して25ppm)を超えると甘味を呈するようになるため、ラカンカ抽出物をトマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁
に対して甘味を付与しない量で使用する場合は、これよりも少ない量で調整することが好ましい。ラカンカ抽出物をトマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁に対して甘味を付与する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、本野菜/果物含有組成物の風味を考慮して、例えばラカンカ抽出物の最終濃度が0.02質量%以下(MogVの量に換算して100ppm以下)になるように調整することができる。
【0050】
また、被野菜/果物含有組成物にステビア抽出物とラカンカ抽出物の混合物を配合して本野菜/果物含有組成物を調製する場合、本野菜/果物含有組成物中のステビア抽出物およびラカンカ抽出物の含有量としては、0.00005質量%以上の範囲を例示することができる。これをステビア抽出物に含まれるレバウディオサイドA(RevA)とラカンカ抽出物に含まれるモグロシドV(MogV)との総濃度に換算すると0.45ppm以上の範囲を挙げることができる。好ましくは0.0001質量%以上(RevAとMogVの総濃度に換算して0.925ppm以上)、より好ましくは0.0002質量%以上(RevAとMogVの総濃度に換算して1.85ppm以上)、より好ましくは0.0005質量%以上(RevAとMogVの総濃度に換算して4.2ppm以上)を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、トマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁の存在下、レバウディオサイドAは23ppm、モグロシドVは25ppmを超えると甘味を呈するようになるため、ステビア抽出物およびラカンカ抽出物をトマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁に対して甘味を付与しない量で使用する場合は、これより少ない量になるように調整することが好ましい。ステビア抽出物およびラカンカ抽出物をトマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁に対して甘味を付与する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、例えば本野菜/果物含有組成物中のステビア抽出物およびラカンカ抽出物の総濃度が750ppm以下になるように調整することができる。
【0051】
また、被野菜/果物含有組成物にソーマチンを配合して本野菜/果物含有組成物を調製する場合、本野菜/果物含有組成物中のソーマチンの含有量としては0.00001質量%以上の範囲を例示することができる。好ましくは0.00005質量%以上、より好ましくは0.000075質量%以上を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、ソーマチンは、トマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁の存在下、濃度が0.0003質量%を超えると甘味を呈するようになるため、ソーマチンをトマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁に対して甘味を付与しない量で使用する場合は、これよりも少ない量で調整することが好ましい。ソーマチンをトマト搾汁を始めとする野菜/果物搾汁に対して甘味を付与する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、本野菜/果物含有組成物の風味を考慮して、例えばソーマチンの最終濃度が0.002質量%以下になるように調整することができる。
【0052】
なお、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ショ糖または/およびソーマチン(本成分)は、本野菜/果物含有組成物の製造過程の任意の段階で添加することができる。また、光照射または熱に晒される前の状態にある被野菜/果物含有組成物に対してこれらの本成分を配合して本野菜/果物含有組成物として製造してもよいし、また光照射または熱に晒された後の被野菜/果物含有組成物に対してこれらの本成分を配合して本野菜/果物含有組成物を製造することもできる。
【0053】
斯くして調製される本野菜/果物含有組成物は、ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ショ糖、およびソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を含む本マスキング剤を含有することで、これらをいずれも含有しない野菜/果物含有組成物(配合前の被野菜/果物含有組成物)と比べて、光照射または熱に晒された場合に生じる劣化臭がマスキングされてなることを特徴とす
る。
【0054】
本野菜/果物含有組成物について劣化臭がマスキングされているか否かは、本マスキング剤が配合された本野菜/果物含有組成物(被験組成物)を摂食した際に感じる野菜/果物劣化臭(レトロネーザル)を、本マスキング剤が配合されていない以外は前記被験組成物と同じ組成の野菜/果物含有組成物(比較組成物)の野菜/果物劣化臭(レトロネーザル)と比較することで評価することができる。この評価において、比較組成物と比較して被験組成物のほうが野菜/果物劣化臭が低減している場合に、被験組成物について本マスキング剤の配合により野菜/果物劣化臭がマスキングされていると判断することができる。制限されないものの、具体的には、後述する実験例の記載に従って評価することができる。
【0055】
このように、本マスキング剤の配合により本野菜/果物含有組成物の光照射または熱曝露による劣化臭がマスキングされることで、流通、保存または陳列時に、蛍光灯やLED灯等の照射光または高温に晒された場合であっても、野菜/果物含有組成物の本来の風味を大きく損なうことなく、美味しい野菜/果物含有組成物(飲食物)を提供することができる。
【0056】
(III)野菜/果物含有組成物の野菜/果物劣化臭マスキング方法
本発明の野菜/果物含有組成物の野菜/果物劣化臭マスキング方法は、上記(II)で説明した被野菜/果物含有組成物に、前述するラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ショ糖、およびソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種(本マスキング剤)を添加配合することによって実施することができる。ラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ショ糖、およびソーマチンは、被野菜/果物含有組成物に対するそれらの配合割合を含めて、前記(I)~(II)で説明した通りであり、前記の記載はここに援用することができる。また被野菜/果物含有組成物も前記(II)で説明した通りであり、前記の記載はここに援用することができる。
【0057】
被野菜/果物含有組成物について、それにラカンカ抽出物、ステビア抽出物、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ショ糖、または/およびソーマチン(本マスキング剤)を配合することで、光照射または熱曝露によって生じる野菜/果物劣化臭がマスキングされたか否かは、前述するように、本マスキング剤が配合された本野菜/果物含有組成物(被験組成物)を摂食した際に感じる野菜/果物劣化臭(レトロネーザル)を、本マスキング剤が配合されていない以外は前記被験組成物と同じ組成の野菜/果物含有組成物(比較組成物)の野菜/果物劣化臭(レトロネーザル)と比較することで評価することができる。この評価において、比較組成物と比較して被験組成物のほうが野菜/果物劣化臭が低減している場合に、被験組成物について本マスキング剤の配合により野菜/果物劣化臭がマスキングされていると判断することができる。制限されないものの、具体的には、後述する実験例の記載に従って評価することができる。
【0058】
このように、本マスキング剤の配合により被野菜/果物含有組成物の光照射または熱曝露による野菜/果物劣化臭をマスキングすることができ、その結果、流通、保存または陳列時に、蛍光灯やLED灯等の照射光または高温に晒された場合であっても、野菜/果物含有組成物の本来の風味を大きく損なうことなく、美味しい野菜/果物含有組成物(飲食物)を提供することができる。
【0059】
なお、本明細書において、「含む」や「含有する」という用語には、「から実質的になる」および「からなる」の意味が包含される。
【実施例0060】
本発明の内容を以下の実験例や実施例を用いて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧および常温条件下で行っている。また各実験例で採用したパネルはいずれも飲食品の味質の官能評価に従事し訓練して社内試験に合格した官能評価適格者である。また特に言及する場合を除いて、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0061】
以下の実験例に使用した被験マスキング剤は下記の通りである。
(1)ショ糖
(2)アスパルテーム
味の素株式会社製。ショ糖の200倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
(3)アセスルファムカリウム
MCフードスペシャリティーズ株式会社製。ショ糖の約200倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
(4)ステビア抽出物
レバウディオサイドA 95.2%含有製品(守田化学工業株式会社製)。ショ糖の約400倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
(5)スクラロース
三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製。ショ糖の約600倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
(6)ラカンカ抽出物
サンナチュレ(登録商標)M50(乾燥粉末製品、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)。羅漢果の生果実(未乾燥果実)を水で抽出した後、濾過して回収した水抽出液を脱色および濃縮した後、スプレードライにより乾燥粉末としてモグロシドVを50%の割合で含むように調製された、ショ糖の約300倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
(7)ステビア抽出物とラカンカ抽出物の混合物
前記ステビア抽出物とサンナチュレM50(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製))を95:5(質量比)の割合で混合した組成物。レバウディオサイドAとのモグロシドVとの含有比は97.3:2.7(質量比)。ショ糖の約400倍の甘味度を有する。
(8)ソーマチン
ネオサンマルク (商標登録) AG(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製):ソーマチンを0.15%含有する、ショ糖の約4~12倍の甘味度を有する高甘味度甘味料。
【0062】
実験例1 トマト劣化臭マスキング作用の評価(その1)
光照射したトマト含有飲食物に各被験マスキング剤(1)~(8)を配合し、光照射によって生じる劣化臭のマスキング効果を評価した。
【0063】
(1)試験試料(トマト含有飲食物)の調製
完熟トマトを裏ごしして約6倍に濃縮したトマトペーストに、表1に記載する割合で、水を添加して希釈したトマト含有飲食物を、それぞれ透明の蓋付きガラス製容器に充填した(対照試料1、対照試料2、被験試料1-1~1-8)。これを5℃に冷却した状態で、LED照射機を用いて、対照試料1および被験試料1-1~1-8については72時間、対照試料2については24時間にわたり、2万ルクスのLED照射を行った。なお、表1に記載するように、2万ルクスのLED照射を24時間または72時間行うことで、それぞれLED照射のショーケース中で10日間または30日間保管された状態を模倣することができる。LED照射後、被験試料1-1~1-8について、表2に記載する割合で各被験マスキング剤(1)~(8)を添加配合した。
【0064】
【0065】
(2)評価方法
パネル4名には、あらかじめ、対照試料1に相当するトマト含有飲食物(トマトペースト30質量部に水を合計で100質量部になるように添加希釈して調製したもの)をLED照
射前に試食してもらい、光劣化前のトマト含有飲食物の臭い(レトロネーザル)を認知してもらっておいた。次いで、これらのパネル4名に、LED照射された各試験試料(対照試料1、対照試料2、被験試料1-1~1-8)を試食してもらい、被験試料1-1~1-8の臭い(レトロネーザル)を評価してもらった。
【0066】
被験試料1-1~1-8の臭いの評価は、72時間LED照射した被験マスキング剤非添加のトマト含有飲食物(対照試料1)の臭い(トマト劣化臭)を0点とし、また24時間LED照射した被験マスキング剤非添加のトマト含有飲食物(対照試料2)の臭い(トマト劣化臭)を2点とし、これらを基準として下記に基づいてスコア付けを行った。
【0067】
[トマト劣化臭の評価スコア]
3点:対照飲料2よりも臭いが少ない
2点:対照飲料2の臭いと同等
1点:対照飲料1よりも少ないが対照飲料2よりは臭いが強い
0点:対照飲料1の臭いと同等
【0068】
(3)評価結果
上記基準で評価してもらったパネル4名(A~D)の評価スコアの平均値を表2に示す。
【0069】
【0070】
この結果から、効果の程度に違いはあるものの、被験マスキング剤(1)~(8)のいずれも、トマト含有飲食物に対して甘味を付与しない程度(甘味相当0.6)の少量添加することで、光照射によって生じたトマト劣化臭を抑える効果を発揮することが確認された。その効果は特に(5)スクラロース、(6)ラカンカ抽出物、(7)ステビア抽出物とラ
カンカ抽出物との混合物、および(8)ソーマチンに強く認められた。
【0071】
また、トマト含有飲食物に対して予め各被験マスキング剤(1)~(8)を添加した後に光照射した場合も、前記被験試料1-1~1-8と同様の効果が得られることも確認された。このことから、被験マスキング剤(1)~(8)はいずれもトマト含有飲食物に甘味を付与しない閾値未満の少量添加することで光照射によって生じるトマト劣化臭を抑える効果を発揮することが判明した。
【0072】
実験例2 トマト劣化臭マスキング作用の評価(その2)
実験例1でトマト劣化臭マスキング効果が高かった被験マスキング剤(5)~(7)について、トマト含有飲食物に対する配合量を変えて、実験例1と同様の方法でマスキング効果を評価した。
【0073】
(1)試験試料(トマト含有飲食物)の調製
完熟トマトを裏ごしして約6倍に濃縮したトマトペーストに、表3に記載する割合で水、および被験マスキング剤を添加して希釈したトマト含有飲食物を、それぞれ透明の蓋付きガラス製容器に充填した(対照試料1、対照試料2、被験試料2-1~2-3)。これを5℃に冷却した状態で、LED照射機を用いて、対照試料1および被験試料2-1~2-3については72時間、対照試料2については24時間にわたり、2万ルクスのLED照射を行った。
【0074】
【0075】
(2)評価方法
パネル4名に、LED照射された各試験試料(対照試料1、対照試料2、被験試料2-
1~2-3)を試食してもらい、各被験試料の臭い(レトロネーザル)を評価してもらっ
た。なお、各被験試料2-1~2-3の評価は、実験例1と同様に、対照試料1(スコア0点)と対照試料2(スコア2点)の臭いを基準として0点~3点のいずれのスコアに該当するかを判断してもらった。
【0076】
(3)評価結果
パネル4名(A~D)の評価スコアおよびその平均値を表4~6に示す。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
なお、上記方法に代えて、実験例1と同様に、光照射後のトマト含有飲食物に対して各被験マスキング剤(5)~(7)を添加した場合も、前記被験試料2-1~2-3と同様の効
果が得られることも確認された。以上の結果から、被験マスキング剤(5)~(7)は、実験例1で示したように甘味を付与しない量(甘味閾値未満)で光照射によるトマト劣化臭を高い効果で抑えるだけでなく、甘味を付与する量(甘味閾値以上)でも同効果を発揮することが判明した。
【0081】
実験例3 トマト劣化臭マスキング作用の評価(その3)
実験例2の被験試料2-3(被験マスキング剤(7):ステビア抽出物とラカンカ抽出物の混合物[RebA:MogV=97.3:2.7(質量比)])の結果を踏まえ、レバウディオサイド
A(RebA)とモグロシドV(MogV)との含有比が表7に記載する比率になるように、ステビア抽出物とラカンカ抽出物とを混合し、調製した混合物を被験マスキング剤A~Eとして、実験例2と同様にトマト劣化臭マスキング作用を評価した。なお、被験マスキング剤A~Eは、前記表6に記載する被験マスキング剤(7)の配合量0.002質量%と同じ甘味度(被験マスキング剤に起因する甘味は感じられない)になるように調製した。
【0082】
【0083】
(1)試験試料(トマト含有飲食物)の調製
実験例2と同様に、完熟トマトを裏ごしして約6倍に濃縮したトマトペーストに表8に記載する割合で水、および被験マスキング剤を添加して希釈したトマト含有飲食物を、それぞれ透明の蓋付きガラス製容器に充填した(対照試料1、対照試料2、被験試料3-1
~3-5)。これを5℃に冷却した状態で、LED照射機を用いて、対照試料1および被
験試料3-1~3-5については72時間、対照試料2については24時間にわたり、2万ルクスのLED照射を行った。
【0084】
【0085】
(2)評価方法
実験例2と同様に、パネル4名に、LED照射された各試験試料(対照試料1、対照試料2、被験試料3-1~3-5)を試食してもらい、各被験試料の臭い(レトロネーザル)を評価してもらった。
【0086】
(3)評価結果
パネル4名(A~D)の評価スコアおよびその平均値を表9に示す。
【表9】
【0087】
なお、上記方法に代えて、実験例1と同様に、光照射後のトマト含有飲食物に対して各被験マスキング剤A~Eを添加した場合も、前記被験試料3-1~3-5と同様の効果が得られることも確認された。以上の結果から、ステビア抽出物とラカンカ抽出物の混合物は、レバウディオサイドA(RebA)とモグロシドV(MogV)との含有比が50:50~99:1[RebA:MogV]の範囲で、光照射によるトマト劣化臭をマスキングする効果を発揮することが
確認された。またこの結果から、前記範囲のみならず、それを超える広範囲にわたって光照射によるトマト劣化臭をマスキングする効果を発揮するものと考えられる。但し、レバウディオサイドA(RebA)とモグロシドV(MogV)との含有比が99:1と、レバウディオサイドAの割合が極端に多くなると、ステビア抽出物に由来する苦味が生じる傾向が認められた。一方、レバウディオサイドA(RebA)とモグロシドV(MogV)との含有比が50:50
と、モグロシドV(MogV)の割合が多くなるとトマトの酸味が際立つことが確認された。つまり、ステビア抽出物とラカンカ抽出物の混合物からなるトマト劣化臭マスキング剤において、モグロシドV(MogV)の配合量を、レバウディオサイドA(RebA)の配合量の同量以上に調整することで、光照射によるトマト劣化臭をマスキングする効果だけでなく、トマトの酸味をエンハンスする効果を発揮することができる。
【0088】
実験例4 ピザソースに対するトマト劣化臭マスキング効果の評価
表10に記載する処方に従ってピザソースを調製し、蛍光灯またはLED照射下で2日間保存した後に、パネルに試食してもらい、トマト劣化臭の有無を評価してもらった。
【0089】
(1)ピザソースの調製
下記の方法に従って、ピザソースを調製した。
(i)水に原料2、3、8および9を加え、85℃で10分間撹拌する。
(ii)残りの原料を加えて、5分間撹拌混合する。
(iii)全量が100質量部になるように水で補正調整した後、透明の蓋付き耐熱性容器
に充填し、85℃で30分間ボイルして殺菌する。
【0090】
【0091】
(2)試験試料の調製、および評価方法
上記で調製した透明耐熱容器入りピザソース(対照試料、被験試料4-1および4-2)を、5℃条件下で、蛍光灯(2万ルクス)およびLED(2万ルクス)の各光照射下に配置して、2日間保存した。なお、蛍光灯照射(2万ルクス)での2日間の保管は、蛍光灯照射のショーケースに20日間配置したのと同じ状態を模したものであり、LED照射(2万ルクス)での2日間の保管は、LED照射のショーケースに20日間配置したのと同じ状態を模したものである。
【0092】
斯くして調製した光照射後の各ピザソースを試験試料として、これらをパネル4名に試食してもらい、各試験試料の風味(味と臭い(レトロネーザル)、以下同じ。)を評価してもらった。なお、各パネルには、あらかじめ光照射前の各ピザソースを試食してもらい、その風味を確認し認知してもらっておいた。また、光照射前の被験試料4-1および4-2の風味はいずれも、光照射前の対照試料の風味と相違しないことを確認した。
光照射後の各被験試料4-1および4-2の風味の評価は、光照射後の対照試料の風味と対比することで行った。
【0093】
(3)評価結果
蛍光灯照射およびLED照射のいずれの場合も、対照試料と比較して、被験試料4-1
および4-2を試食して感じる臭い(レトロネーザル)の変化(劣化)は少なく、被験マ
スキング剤(6)(ラカンカ抽出物)または被験マスキング剤(7)(ステビア抽出物とラカンカ抽出物の混合物)を配合することでトマト劣化臭が抑制され、ピザソースの風味が改善されることが確認された。なお、僅かではあるが、被験マスキング剤(6)よりも被験
マスキング剤(7)のほうがトマト劣化臭抑制効果に優れていることが確認された。また、
被験マスキング剤(6)および被験マスキング剤(7)はいずれも、蛍光灯照射よりもLED照射によって生じるトマト劣化臭に対して高い抑制効果を発揮することが確認された。さ
らに、光照射後の被験試料4-1および4-2は、光照射後の対照試料と比較して、酸味と旨味の低下も抑制されていることが確認された。これらのことから、被験マスキング剤(6)(ラカンカ抽出物)または被験マスキング剤(7)(ステビア抽出物とラカンカ抽出物の混合物)は、光照射によるトマト劣化臭をマスキングするだけでなく、光照射による呈味低下も抑制し、総合的に風味改善に効果を発揮することが確認された。
【0094】
実験例5 ニンジン劣化臭マスキング作用の評価
各被験マスキング剤(2)~(8)を配合したニンジン含有飲食物に光照射を行い、光照射によって生じる劣化臭に対するマスキング効果を評価した。
【0095】
(1)試験試料(ニンジン含有飲食物)の調製
5倍濃縮ニンジンジュースをそれぞれ透明の蓋付きPET容器に充填し、表11および表12に記載する割合で、各被験マスキング剤(2)~(8)および飲用水を添加配合した(対照試料1、対照試料2、被験試料5-1~5-7)。これを10℃に冷却した状態で、LED照射機を用いて、対照試料1および被験試料5-1~5-7については72時間、対照試料2については24時間にわたり、2万ルクスのLED照射を行った。
【0096】
【0097】
(2)評価方法
パネル5名には、あらかじめ、対照試料1に相当するニンジン含有飲食物をLED照射前に試食してもらい、光劣化前のニンジン含有飲食物の臭い(レトロネーザル)を認知してもらっておいた。次いで、これらのパネル5名に、LED照射された各試験試料(対照試料1、対照試料2、被験試料5-1~5-7)を試食してもらい、被験試料5-1~5-7の臭い(レトロネーザル)を評価してもらった。
【0098】
被験試料5-1~5-7の臭いの評価は、72時間LED照射した被験マスキング剤非添加のニンジン含有飲食物(対照試料1)の臭い(ニンジン劣化臭)を0点とし、また24時間LED照射した被験マスキング剤非添加のニンジン含有飲食物(対照試料2)の臭い(ニンジン劣化臭)を2点とし、これらを基準として下記に基づいてスコア付けを行った。
【0099】
[ニンジン劣化臭の評価スコア]
3点:対照飲料2よりも臭いが少ない
2点:対照飲料2の臭いと同等
1点:対照飲料1よりも少ないが対照飲料2よりは臭いが強い
0点:対照飲料1の臭いと同等
【0100】
(3)評価結果
上記基準で評価してもらったパネル5名(A~E)の評価スコアの平均値を表12に示す。
【0101】
【0102】
この結果から、トマト含有飲食物と同様に、効果の程度に違いはあるものの、被験マスキング剤(2)~(8)のいずれも、光照射によって生じたニンジン劣化臭を抑える効果を発揮することが確認された。その効果は特に(5)スクラロース、(6)ラカンカ抽出物、(7)ステビア抽出物とラカンカ抽出物との混合物、および(8)ソーマチンに強く認められた。
【0103】
実験例6 果物光劣化臭マスキング作用の評価
各被験マスキング剤(1)~(8)を配合した果物含有飲食物に光照射を行い、光照射によって生じる劣化臭に対するマスキング効果を評価した。なお、果物として、柑橘類(オレンジ)、リンゴ、モモ、およびブドウの果汁を用いた。
【0104】
(1)試験試料(果物含有飲食物)の調製
表13に記載する割合で、各濃縮果汁に各被験マスキング剤(1)~(8)を添加配合して、水にて合計100gに調製した(対照試料1、対照試料2、被験試料6-1~6-8)。これを93℃まで加温し、透明の蓋付きPET容器に充填した。これを10℃に冷却した状態で、LED照射機を用いて、対照試料1および被験試料6-1~6-8については72時間、対照試料2については24時間にわたり、2万ルクスのLED照射を行った。
【0105】
【0106】
(2)評価方法
パネル5名に、LED照射された各試験試料(対照試料1、対照試料2、被験試料6-
1~6-8)を試食してもらい、各被験試料の臭い(レトロネーザル)を評価してもらっ
た。なお、各被験試料6-1~6-8の評価は、実験例1と同様に、対照試料1(スコア0点)と対照試料2(スコア2点)の臭いを基準として0点~3点のいずれのスコアに該当するかを判断してもらった。
【0107】
(3)評価結果
パネル5名(A~E)の評価スコアおよびその平均値を表14~17に示す。
【0108】
【0109】
この結果から、トマト含有飲食物やニンジン含有飲食物等の野菜含有飲食物と同様に、効果の程度に違いはあるものの、被験マスキング剤(1)~(8)のいずれも、光照射によって生じた劣化臭を抑える効果を発揮することが確認された。その効果は特に(5)スク
ラロース、(6)ラカンカ抽出物、(7)ステビア抽出物とラカンカ抽出物との混合物、および(8)ソーマチンに強く認められた。
【0110】
実験例7 果物熱劣化臭マスキング作用の評価
各被験マスキング剤(1)~(7)を配合した果物含有飲食物に熱曝露を行い、熱曝露によって生じる劣化臭に対するマスキング効果を評価した。なお、果物としてブドウの果汁を用いた。
【0111】
(1)試験試料(ブドウ果汁含有飲食物)の調製
表18に記載する割合で、ブドウ濃縮果汁に各被験マスキング剤(1)~(8)を添加配合して、水にて合計100gに調製した(対照試料1、対照試料2、被験試料7-1~7-8)。これを93℃まで加温し、透明の蓋付きPET容器に充填した。これを60℃に設定した恒温器に入れて、対照試料1および被験試料7-1~7-8については7日間、対照試料2については3.5日間放置し、熱曝露した。
【0112】
【0113】
(2)評価方法
パネル5名に、熱曝露された各試験試料(対照試料1、対照試料2、被験試料7-1~
7-8)を試食してもらい、各被験試料の臭い(レトロネーザル)を評価してもらった。
なお、各被験試料7-1~7-8の評価は、実験例1と同様に、対照試料1(スコア0点)と対照試料2(スコア2点)の臭いを基準として0点~3点のいずれのスコアに該当するかを判断してもらった。
【0114】
(3)評価結果
パネル5名(A~E)の評価スコアおよびその平均値を表19に示す。
【0115】
【0116】
この結果から、効果の程度に違いはあるものの、被験マスキング剤(1)~(8)のいずれも、熱曝露によって生じた劣化臭を抑える効果を発揮することが確認された。その効果は特に(5)スクラロース、(6)ラカンカ抽出物、(7)ステビア抽出物とラカンカ抽出
物、および(8)ソーマチンとの混合物に強く認められた。
以上のことから、被験マスキング剤(1)~(8)には、野菜または果物を含有する飲食物の光照射による劣化臭、および熱曝露による劣化臭をマスキングする作用があることが確認された。またその作用は、被験マスキング剤(1)~(8)の甘味とは無関係であり、甘味を呈する量、および甘味を呈さない量のいずれでも生じることが確認された。