(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002868
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】キトサンを基にした多機能及び両親媒性の自己組織化ナノキャリア及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/36 20060101AFI20231228BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20231228BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231228BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231228BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A61K47/36
A61K9/51
A61K48/00
A61K45/00
A61P35/00
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162857
(22)【出願日】2022-10-10
(31)【優先権主張番号】202210731610.3
(32)【優先日】2022-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】515223167
【氏名又は名称】中国海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100178434
【弁理士】
【氏名又は名称】李 じゅん
(72)【発明者】
【氏名】常 菁
(72)【発明者】
【氏名】韓 宝芹
(72)【発明者】
【氏名】孫 楽
(72)【発明者】
【氏名】谷 志洋
(72)【発明者】
【氏名】王 立▲とう▼
(72)【発明者】
【氏名】郭 麗々
(72)【発明者】
【氏名】李 文雅
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076AA95
4C076EE37
4C076GG06
4C076GG07
4C084AA13
4C084AA17
4C084MA44
4C084NA13
4C084ZB261
4C084ZB262
(57)【要約】 (修正有)
【課題】分散性が良く、安定性が高く、良好な生物学的安全性を有する多機能及び両親媒性の自己組織化ナノキャリア及びその製造方法を提供する。
【解決手段】キトサンを主体とし、キトサンのアミノ基はそれぞれビタミンEコハク酸エステル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ヒスチジンと結合される、ことを特徴とする自己組織化ナノキャリアである。該自己組織化ナノキャリアは、好ましくは、球状又は楕円球状であり、平均粒径は147.6±40.4nmで、PDI=0.38±0.029であり、その中、ビタミンEコハク酸エステルの置換度は4.13%で、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルの置換度は22.6%で、ヒスチジンの置換度は17.39%である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサンを基にした多機能及び両親媒性の自己組織化ナノキャリアであって、
前記ナノキャリアはキトサンを主体とし、キトサンのアミノ基はそれぞれビタミンEコハク酸エステル(VES)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(mPEG)、ヒスチジン(His)と結合される、
ことを特徴とするキトサンを基にした多機能及び両親媒性の自己組織化ナノキャリア。
【請求項2】
前記ナノキャリアは球状又は楕円球状であり、平均粒径は147.6±40.4nmで、PDI=0.38±0.029であり、その中、ビタミンEコハク酸エステルの置換度は4.13%で、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルの置換度は22.6%で、ヒスチジンの置換度は17.39%である、
ことを特徴とする請求項1に記載の多機能及び両親媒性の自己組織化ナノキャリア。
【請求項3】
前記ナノキャリアの表面ゼータ電位は+32.8±7.3mVである、
ことを特徴とする請求項1に記載の多機能及び両親媒性の自己組織化ナノキャリア。
【請求項4】
前記ナノキャリアは、形態が球状又は楕円球状であり、粒径サイズが比較的に均一であり、分散性がよく、ナノ粒子の間には比較的に強い静電作用があり、良好な生物学的安全性を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の多機能及び両親媒性の自己組織化ナノキャリア。
【請求項5】
請求項1に記載の多機能及び両親媒性の自己組織化ナノキャリアの製造方法であって、
(1)キトサンを希酸溶液に溶解するステップと、
(2)VES溶液を製造し、活性化剤を添加するステップと、
(3)ステップ(1)で得られたキトサン液をステップ(2)VES溶液に滴下し、反応させるステップと、
(4)ステップ(3)で反応の完了した混合液に対してエタノール沈殿、透析及び凍結乾燥を行って、スポンジ状のビタミンEコハク酸エステル-キトサン(VC)を得るステップと、
(5)ステップ(4)で得られたVCを酸性溶液に溶解し、次に、mPEG溶液を製造して活性化し、続いて、VC溶液をmPEG溶液に滴下して反応させるステップと、
(6)ステップ(5)の反応が完了した後、透析及び凍結乾燥を行って、ビタミンEコハク酸エステル-キトサン-ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(VCP)を得るステップと、
(7)ステップ(6)で得られたVCPを酸性溶液に溶解し、次に、His溶液を製造して活性化し、続いて、VCP溶液をHis溶液に滴下して反応させるステップと、
(8)ステップ(7)の反応が完了した後、透析及び凍結乾燥を行って、最終の生成物であるビタミンEコハク酸エステル-キトサン-ポリエチレングリコールモノメチルエーテル-ヒスチジン(VCPH)を得るステップとを含む、
ことを特徴とする多機能及び両親媒性の自己組織化ナノキャリアの製造方法。
【請求項6】
方法であって、この方法において請求項1に記載のキトサンを基にした多機能及び両親媒性の自己組織化ナノキャリアを薬物又は遺伝子のキャリアとして使用することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キトサン(chitosan)が改質されたナノ材料に関する。具体的には、キトサンを基にした多機能及び両親媒性の自己組織化ナノキャリア及びその製造方法に関し、海洋生物材料を製造する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
キトサンは、D-グルコサミンとN-アセチルグルコサミンユニットにより構成される。キトサンの脱アセチル化度が約50%に達すると、酸性水溶液に溶解し、キトサンが酸性環境において溶解すると、アミノ基が陽イオンに変化し、キトサンが唯一の陽イオン海洋多糖になる。キトサンは無毒で副作用がなく、良好な保湿や吸着性を持つ。しかしながら、水やほとんどの有機溶媒に溶解しないデメリットを持つため、さまざまな分野における応用が限られている。キトサンのより大きな役割を果たすために、キトサンの活性を有する官能基に対して化学修飾を行うことにより、キトサンの誘導体を得ることができる。化学改質は、キトサンの独自の特性を保留することができるだけではなく、キトサンの物理的及び化学的特性を改善して、キトサン誘導体の応用の範囲を拡大することができる。
【0003】
キトサンを薬物/遺伝子キャリアとして使用することは、現在の研究の焦点であり、幅広い応用の見込みがある。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、キトサンを基にした多機能及び両親媒性の自己組織化ナノキャリアを提供することである。本発明の他の目的は、このナノキャリアの製造方法を提供することであり、また、このナノキャリアが腫瘍の薬物/遺伝子共同治療における応用について研究する。
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明が採用する具体的な技術的な解決手段は次の通りである。
【0006】
キトサンを基にした多機能及び両親媒性の自己組織化ナノキャリア(VCPH)であって、前記ナノキャリアはキトサンを主体とし、キトサンのアミノ基はそれぞれビタミンEコハク酸エステル(VES)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(mPEG)、ヒスチジン(His)と結合される。
【0007】
さらに、前記VCPHは球状又は楕円球状であり、平均粒径は147.6±40.4nmで、PDI=0.38±0.029であり、その中、VESの置換度は4.13%で、mPEGの置換度は22.6%で、Hisの置換度は17.39%である。
【0008】
さらに、前記VCPHの表面ゼータ電位は+32.8±7.3mVである。
【0009】
前記VCPHは、形態が球状又は楕円球状であり、粒径サイズは比較的に均一であり、分散性は良好であり、ナノ粒子の間には比較的に強い静電相互作用があり、ナノミセルの安定性を維持することに有利であり、良好な生物学的安全性を有する。
【0010】
上記ナノキャリアの製造方法は、
(1)キトサンを希酸溶液に溶解するステップと、
(2)VES溶液を製造し、活性化剤を添加するステップと、
(3)ステップ(1)で得られたキトサン液をステップ(2)VES溶液に滴下し、反応させるステップと、
(4)ステップ(3)で反応完了した混合液をエタノール沈殿、透析及び凍結乾燥を行って、スポンジ状のビタミンEコハク酸エステル-キトサン(VC)を得るステップと、
(5)ステップ(4)で得られたVCを酸性溶液に溶解し、mPEG溶液を製造して活性化し、続いて、VC溶液をmPEG溶液に滴下して反応させるステップと、
(6)ステップ(5)の反応が完了した後、透析及び凍結乾燥を行って、生成物であるビタミンEコハク酸エステル-キトサン-ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(VCP)(Vitamin E Succinate-Chitosan-Polyethylene Glycol Monomethyl Ether)を得るステップと、
(7)前記VCPを酸性溶液に溶解し、His溶液を製造して活性化してから、VCP溶液をHis溶液に滴下して反応させるステップと、
(8)ステップ(7)の反応が完了した後、透析及び凍結乾燥を行って、最終の生成物であるビタミンEコハク酸エステル-キトサン-ポリエチレングリコールモノメチルエーテル-ヒスチジン(VCPH)を得るステップとを含む。
【0011】
また、本発明は、前記VCPHの共担持疎水性薬物と負に帯電する電子遺伝子キャリアの製造における応用を提供する。
【0012】
さらに、疎水性薬物をジメチルスルホキシドに分散させ、前記VCPHを水に溶解し、両者を均一に混合し、透析処理を行い、次に、封入されなかった疎水性薬物を除去し、凍結乾燥を行う。
【0013】
さらに、負電荷電子遺伝子を水に溶解し、疎水性薬物が封入されたナノ粒子溶液を遺伝子水溶液に滴下し、両者を均一に混合し、静置する。
【0014】
さらに、前記疎水性薬物は疎水性ドキソルビシンであり、負電荷電子遺伝子はすでに構築されたpGPU6/GFP/Neo STAT3-shRNA(pDNA)である。
【0015】
VCPHを基にして製造されたDOX/VCPHの封入率は84.21%であり、薬物担持量は最高31.58%であり、表面ゼータ電位は+28.1±1.3mVである。また、前記DOX/VCPHナノ粒子はπ-π共役作用を有し、一定のpH感度を持つ。
【0016】
VCPHを基にして製造されたDOX/VCPH/pDNAの平均粒径は267.9±8.9nmで、PDI=0.219±0.007であり、表面ゼータ(Zeta)電位は+15.1±0.21mVである。その形態は球状又は楕円球状であり、分散は均一で安定である。体内及び体外機能実験で良好な抗腫瘍効果を示しており、体外腫瘍抑制率は62.40%で、体内腫瘍抑制率は40.12%である。
【0017】
本発明のメリット及び技術的な効果は以下の通りである。
本発明により製造されたVCPHは、分散性が良く、安定性が高く、良好な生物学的安全性を有する。製造された薬物担持ナノ粒子は、安定性が強く、封入率及び薬物担持量が高い。VCPHが薬物キャリアとして効果的に使用できることを実際に検証した。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】CS、VC、VCP及びVCPHの赤外線スペクトル画像である。
【
図4】VCPHナノ粒子の表面ゼータ電位図である。
【
図5】VCPHナノ粒子の走査型電子顕微鏡像である。
【
図6】異なる濃度のVCPHナノ粒子でL929細胞を処理時、24時間及び48時間における増殖状態の観察図である。
【
図7】異なる濃度のVCPHナノ粒子で処理後、L929細胞の相対増殖率の結果図である。
【
図9】DOX/VCPHの表面ゼータ電位図である。
【
図10】DOX/VCPHの走査型電子顕微鏡像である。
【
図11】DOX・HCl及びDOX/VCPHのUV吸収スペクトル画像である。
【
図12】DOX/VCPHのpH=5.7及びpH7.4のPBS緩衝液における放出曲線である。
【
図13】DOX/VCPH/pDNAの粒径分布図である。
【
図14】DOX/VCPH/pDNAの表面ゼータ電位図である。
【
図15】DOX/VCPH/pDNAナノ粒子の走査型電子顕微鏡像である。
【
図16】DOX・HCl、DOX/VCPH及びDOX/VCPH/pDNAのIC
50結果図である。
【
図17】異なるナノ粒子でA549細胞トランスフェクション後の細胞の相対抑制率の結果図である。
【
図18】異なるナノコンポジット粒子でA549細胞トランスフェクション後のレーザー共焦点走査型顕微鏡の観察図である。
【
図19】異なるナノコンポジット粒子でA549細胞トランスフェクション後のGFP陽性率をフローサイトメトリーで検出した結果図である。
【
図20】異なるナノ粒子群におけるヌードマウスの相対体重の変化図である(生理食塩水群と比較して、*P<0.05)。
【
図21】異なるナノ粒子群におけるヌードマウスの相対腫瘍直径の変化図である。(生理食塩水群と比較して、*P<0.05、**P<0.01)。
【
図22】異なる群におけるヌードマウスの主要臓器の臓器指数である。(生理食塩水群と比較して、*P<0.05)。
【
図23】異なる群におけるヌードマウスの腫瘍切除後の固形腫瘍図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、具体的な実施例を基づき、添付の図面と結合して、本発明を更に解釈及び説明する。
【実施例0020】
0.24gのキトサンを秤量し、60mLの0.5%酢酸溶液に溶解し、1.59gのVESを40mLのDMFに溶解し、三口フラスコに入れる。次に、1.15gのEDCと0.68gのNHSを秤量し、上記の溶液に添加し、2時間磁気撹拌し、キトサン溶液を定圧滴定漏斗により三口フラスコに滴下し、室温で48時間撹拌する。反応後の混合液を5倍体積の無水エタノールに注ぎ入れて沈殿させ、8時間撹拌した後、12000rpmで室温で20分間遠心分離する。次に、無水エタノールで4~5回洗浄して沈殿させ、200mLの蒸留水で溶解して沈殿させ、透析バッグ(阻止率8000-14000k)に入れ、3日間透析し、凍結乾燥を行って、スポンジ状のビタミンEコハク酸エステル-キトサン(VC)を得る。
【0021】
0.24gのVCを秤量し、60mLの0.5%酢酸溶液に溶解し、後で使用する。0.2gのポリエチレングリコールモノメチルエーテル(mPEG)を秤量し、60mLの0.5%酢酸溶液に溶解し、0.57gのEDCと0.34gのNHSを添加し、2時間磁気攪拌した後、上記VC溶液をゆっくりと混合液に滴下し、室温で36時間機械撹拌する。反応が完了した後、混合液を透析バッグ(阻止率3500k)に入れ、3日間透析し、凍結乾燥の方法によりビタミンEコハク酸エステル-キトサン-ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(VCP)を得る。
【0022】
0.4gのVCPを秤量し、80mLの0.5%酢酸溶液に溶解し、後で使用する。0.193gのヒスチジン(His)を秤量し、脱イオン水に溶解し、0.286gのEDCと0.476gのNHSを添加し、2時間磁気攪拌した後、上記VCP溶液をゆっくりと混合液に滴下し、室温で24時間機械撹拌する。反応が完了した後、混合液を透析バッグ(阻止率8000~14000k)に入れ、3日間透析し、凍結乾燥を行って、最終生成物であるビタミンEコハク酸エステル-キトサン-ポリエチレングリコールモノメチルエーテル-ヒスチジン(VCPH)を得る。
【0023】
赤外線分光スペクトルとNMR(核磁気共鳴)水素スペクトル特性付けを採用して合成された最終生成物であるVCPHの結果を
図1と
図2に示す。赤外線及びNMRの結果を組み合わせると、ビタミンEコハク酸エステル、mPEG及びHisがキトサンへのグラフトに成功したことを判断できる。レーザー粒径電位アナライザーを採用してVCPHナノ粒子の粒径、表面ゼータ電位及び多分散指数(PDI)を測定し、その結果を
図3及び
図4に示す。VCPHナノ粒子の平均粒径は147.6±40.4nmで、PDI=0.38±0.029で、表面ゼータ電位は+32.8±7.3mVである。
【0024】
上記の結果は、VCPHナノ粒子の粒径サイズが分散して均一であり、ナノ粒子の間に比較的に強い静電相互作用があり、ナノミセルの安定性を維持するために有利であることを示す。走査型電子顕微鏡でVCPHナノ粒子の形態を観察し、その結果を
図5に示す。この図から、VCPHナノ粒子は球状又は楕円球状であり、粒径サイズは約100~200nmであり、均一に分散され、明らかな凝集現象がないことが観察できる。
L929細胞が対数増殖期にある時、パンクレアチンを添加して消化した後、培地で消化を停止し、遠心分離し、細胞ペレットを収集し、細胞を再懸濁した後、細胞懸濁液の濃度を2×104個/mLに調整し、1ウェルあたり200μLで96ウェルプレートに播種する。24時間培養した後、ウェルプレート内の古い培地を吸引して廃棄し、200μLの異なる濃度のVCPH溶液を含む培地を添加し、濃度勾配を10、50、100及び200μg/mLに設定し、通常の培地で培養された細胞播種ウェル及び通常の培地のみを含むが細胞が播種されていないウェルをそれぞれ対照群及びブランク対照群として設定し、各群に6セットの重複ウェルを設定する。穏やかに混ぜた後、ウェルプレートを24時間及び48時間インキュベートした後、それぞれ異なる時点で取り出し、倒立顕微鏡下で細胞の形態を観察し、写真を撮る。次に、各ウェルに20μLの製造されたMTT溶液を添加し、37℃のインキュベーターで4時間インキュベートし、上清液を吸引して廃棄し、150μLのジメチルスルホキシド(DMSO)を添加し、マイクロプレートリーダーで37°Cで10分間振とうしながらインキュベートした後、492nmの波長で各ウェルの吸光度値(OD値)を測定する。次の公式に従って、細胞の相対増殖率(RGR)は算出する。