(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028696
(43)【公開日】2024-03-05
(54)【発明の名称】幼若対象におけるAAVベクターの安定的発現
(51)【国際特許分類】
A61K 35/76 20150101AFI20240227BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20240227BHJP
A61K 38/37 20060101ALI20240227BHJP
A61K 38/44 20060101ALI20240227BHJP
A61K 38/36 20060101ALI20240227BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240227BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240227BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240227BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240227BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240227BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240227BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20240227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240227BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20240227BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20240227BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
A61K35/76
A61K31/573 ZNA
A61K38/37
A61K38/44
A61K38/36
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/34
A61K48/00
A61P3/00
A61P7/04
A61P43/00 121
C12N15/864 100Z
C12N15/53
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023191118
(22)【出願日】2023-11-08
(62)【分割の表示】P 2020564142の分割
【原出願日】2019-05-14
(31)【優先権主張番号】62/671,271
(32)【優先日】2018-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】509193898
【氏名又は名称】ビオマリン プハルマセウトイカル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】スチュアート バンティング
(57)【要約】 (修正有)
【課題】幼若対象の肝細胞中で治療用タンパク質を発現させるための、AAVベクターの使用方法を提供する。
【解決手段】幼若対象の肝臓にAAVベクターを送達する方法であって、AAVベクターの単回投与のみで、治療的に有効なレベルの導入遺伝子生成を、臨床的に有意な期間、提供する方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子障害に罹患している幼若対象の、該遺伝子障害の症状を改善する方法であって、
治療的有効量の、治療用タンパク質をコードしている治療用AAVウイルスを、該幼若対象
へ投与することを含み、該治療用タンパク質の発現は、該遺伝子障害の症状を改善する、
前記方法。
【請求項2】
遺伝子障害に罹患している幼若対象の、該遺伝子障害の症状を改善するための医薬品の
調製のための治療用AAVウイルスの使用であって、該医薬品は治療的有効量の治療用タン
パク質をコードしている治療用AAVウイルスを含み、該治療用タンパク質の発現は、該遺
伝子障害の症状を改善する、前記使用。
【請求項3】
遺伝子障害に罹患している幼若対象の、該遺伝子障害の症状を改善する使用のための、
治療的有効量の、治療用タンパク質をコードしている治療用AAVウイルスを含む組成物。
【請求項4】
前記治療用タンパク質は、非機能的内因性タンパク質の機能的なコピーである、請求項
1~3のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物。
【請求項5】
前記治療用タンパク質は、前記内因性タンパク質の改変バージョンである、請求項1~3
のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物。
【請求項6】
前記治療用タンパク質は、非機能的内因性タンパク質を補填する異種タンパク質である
、請求項1~3のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物。
【請求項7】
前記幼若対象は幼若ヒトである、請求項1~6のいずれか一項記載の方法、使用又は組成
物。
【請求項8】
前記幼若ヒトは18歳未満である、請求項7記載の方法、使用又は組成物。
【請求項9】
前記幼若ヒトは12歳未満である、請求項7記載の方法、使用又は組成物。
【請求項10】
前記治療用タンパク質は、前記治療用AAVウイルスの投与後に、前記幼若対象の肝細胞
によって発現される、請求項1~9のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物。
【請求項11】
前記治療用AAVウイルスは静脈内投与される、請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
前記医薬品は静脈内投与用に製剤化される、請求項1~11のいずれか一項記載の使用又
は組成物。
【請求項13】
前記遺伝子障害は血友病である、請求項1~12のいずれか一項記載の方法、使用又は組
成物。
【請求項14】
前記血友病は血友病Aであり、前記治療用タンパク質は第VIII因子である、請求項13記
載の方法、使用又は組成物。
【請求項15】
前記第VIII因子は第VIII因子SQである、請求項14記載の方法、使用又は組成物。
【請求項16】
前記治療用AAVウイルスはAAV5-FVIII-SQである、請求項14記載の方法、使用又は組成物
。
【請求項17】
前記血友病は血友病Bであり、前記治療用タンパク質は第IX因子である、請求項13記載
の方法、使用又は組成物。
【請求項18】
前記第IX因子は第IX因子R338Lである、請求項17記載の方法、使用又は組成物。
【請求項19】
前記遺伝子障害はフェニルケトン尿症(PKU)であり、前記治療用タンパク質はフェニル
アラニンヒドロキシラーゼ(PAH)である、請求項1~12のいずれか一項記載の方法、使用又
は組成物。
【請求項20】
前記幼若対象へ投与される治療用AAVウイルスの量は、成体対象で有効な治療用AAVウイ
ルスの絶対数と同じ数に対応する、請求項1~19のいずれか一項記載の方法、使用又は組
成物。
【請求項21】
約1E12 vg/kg~約1E15 vg/kgの前記治療用AAVウイルスが、前記幼若対象へ投与される
、請求項20記載の方法、使用又は組成物。
【請求項22】
約6E13 vg/kg~約6E14 vg/kgの前記治療用AAVウイルスが、前記幼若対象へ投与される
、請求項20記載の方法、使用又は組成物。
【請求項23】
請求項20~22のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物であって、前記AAVウイルス
は、リン酸水素二ナトリウムを濃度約0.1 mg/ml~約3 mg/ml、リン酸二水素ナトリウム一
水和物を濃度約0.1 mg/ml~約3 mg/ml、塩化ナトリウムを濃度約1 mg/ml~約20 mg/ml、
マンニトールを濃度約5 mg/ml~約40 mg/ml、及びpoloxamer 188を濃度約0.1 mg/ml~約4
mg/mlで含む医薬組成物として配合される、前記方法、使用又は組成物。
【請求項24】
前記幼若対象は、コルチコステロイドを濃度5 mg/日~60 mg/日の範囲で予防的に処置
される、請求項20~23のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物。
【請求項25】
前記幼若対象は、コルチコステロイドを濃度5 mg/日~60 mg/日で治療的に処置される
、請求項20~23のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物。
【請求項26】
前記幼若対象において、少なくとも約5 IU/dlの機能的な第VIII因子タンパク質の発現
を生じる、請求項20~25のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物。
【請求項27】
前記幼若対象において、少なくとも約1 IU/dlの機能的な第VIII因子タンパク質の増加
を生じる、請求項20~25のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物。
【請求項28】
血友病に罹患している幼若対象の出血事象における出血時間を減少させる方法であって
、該出血事象前に、治療的有効量の治療用AAVウイルスを該幼若対象へ投与することを含
む、前記方法。
【請求項29】
血友病に罹患している幼若対象の出血事象における出血時間を減少するための医薬品の
調製のための治療的有効量の治療用AAVウイルスの使用であって、該医薬品は、出血事象
前に、該幼若対象へ投与される、前記使用。
【請求項30】
血友病に罹患している幼若対象の出血事象における出血時間を減少するために有用な治
療的有効量の治療用AAVウイルスを含む組成物であって、該組成物は、出血事象前に、該
幼若対象へ投与される、前記組成物。
【請求項31】
前記投与は、出血事象の少なくとも3週間前に行われる、請求項28~30のいずれか一項
記載の方法、組成物又は使用。
【請求項32】
前記治療用AAVウイルスは静脈内投与される、請求項28~31のいずれか一項記載の方法
。
【請求項33】
前記治療用AAVは静脈内投与用に製剤化される、請求項28~31のいずれか一項記載の使
用又は組成物。
【請求項34】
前記血友病は血友病Aであり、前記治療用AAVウイルスは第VIII因子を発現する、請求項
28~33のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物。
【請求項35】
前記第VIII因子は第VIII因子SQである、請求項34記載の方法、使用又は組成物。
【請求項36】
前記治療用AAVウイルスはAAV5-FVIII-SQである、請求項34記載の方法、使用又は組成物
。
【請求項37】
前記血友病は血友病Bであり、前記治療用AAVウイルスは第IX因子を発現する、請求項28
~33のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物。
【請求項38】
前記第IX因子は第IX因子R338Lである、請求項37記載の方法、使用又は組成物。
【請求項39】
前記幼若対象へ投与される前記治療用AAVウイルスの量は、成体対象で有効な治療用AAV
ウイルスの絶対数と同じ数に対応する、請求項28~38いずれか一項記載の方法、使用又は
組成物。
【請求項40】
約1E12 vg/kg~約1E15 vg/kgの前記治療用AAVウイルスが、前記幼若対象へ投与される
、請求項39記載の方法、使用又は組成物。
【請求項41】
約6E13 vg/kg~約6E14 vg/kgの前記治療用AAVウイルスが、前記幼若対象へ投与される
、請求項39記載の方法、使用又は組成物。
【請求項42】
請求項28~41のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物であって、前記治療用AAVウ
イルスは、リン酸水素二ナトリウムを濃度約0.1 mg/ml~約3 mg/ml、リン酸二水素ナトリ
ウム一水和物を濃度約0.1 mg/ml~約3 mg/ml、塩化ナトリウムを濃度約1 mg/ml~約20 mg
/ml、マンニトールを濃度約5 mg/ml~約40 mg/ml、及びpoloxamer 188を濃度約0.1 mg/ml
~約4 mg/mlで含む溶液中に配合される、前記方法、使用又は組成物。
【請求項43】
それを必要としている幼若対象において第VIII因子タンパク質の発現を増加する方法で
あって、該幼若対象へ治療用ウイルスを投与することを含み、該治療用AAVウイルスはAAV
5-FVIII-SQである、前記方法。
【請求項44】
それを必要としている幼若対象において第VIII因子タンパク質の発現を増加させるため
の医薬品の調製のための治療用AAVウイルスの使用であって、該AAVウイルスはAAV5-FVIII
-SQである、前記使用。
【請求項45】
それを必要としている幼若対象において第VIII因子タンパク質の発現を増加させるため
の治療用AAVウイルスを含む組成物であって、該AAVウイルスはAAV5-FVIII-SQである、前
記組成物。
【請求項46】
前記治療用AAVウイルスは静脈内投与される、請求項43記載の方法。
【請求項47】
前記AAVウイルスは静脈内投与用に製剤化される、請求項44又は45記載の使用又は組成
物。
【請求項48】
請求項43~47のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物であって、前記幼若対象へ投
与される前記治療用AAVウイルスの量は、成体対象で有効な治療用AAVウイルスの絶対数と
同じ数に対応する、前記方法、使用又は組成物。
【請求項49】
約1E12 vg/kg~約1E15 vg/kgの前記治療用AAVウイルスが、前記幼若対象へ投与される
、請求項48記載の方法、使用又は組成物。
【請求項50】
約6E13 vg/kg~約6E14 vg/kgの前記治療用AAVウイルスが、前記幼若対象へ投与される
、請求項48記載の方法、使用又は組成物。
【請求項51】
前記幼若対象において、少なくとも約5 IU/dlの機能的な第VIII因子タンパク質の発現
を生じる、請求項43~50のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物。
【請求項52】
前記幼若対象において、少なくとも約1 IU/dlの機能的な第VIII因子タンパク質の発現
を生じる、請求項51記載の方法、使用又は組成物。
【請求項53】
前記幼若対象において、少なくとも約1 IU/dlの機能的なFVIII活性の増加を生じる、請
求項43~52のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物。
【請求項54】
前記幼若対象は、コルチコステロイドを濃度5 mg/日~60 mg/日の範囲で処置される、
請求項41~50のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物。
【請求項55】
前記コルチコステロイド処置は予防的に行われる、請求項54記載の方法、使用又は組成
物。
【請求項56】
前記コルチコステロイド処置は治療的に行われる、請求項54記載の方法、使用又は組成
物。
【請求項57】
請求項54~56のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物であって、前記幼若対象は、
コルチコステロイドを濃度5 mg/日~60 mg/日の範囲で、少なくとも約3、4、5、6、7、8
、9若しくは10週間、又はそれ以上の継続的期間、処置される、前記方法、使用又は組成
物。
【請求項58】
更に、前記治療的有効量のAAV5-FVIII-SQの投与後に、前記幼若対象の血清中の抗AAVカ
プシド抗体の不存在又は存在を決定するステップを含む、請求項54~57のいずれか一項記
載の方法。
【請求項59】
更に、前記幼若対象の血清中の抗AAVカプシド抗体の存在が決定された後に、該対象へ
有効量のコルチコステロイドを投与するステップを含む、請求項58記載の方法。
【請求項60】
それを必要としている幼若対象においてフェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)タン
パク質の発現を増加する方法であって、該幼若対象へ治療用ウイルスを投与することを含
み、該治療用AAVウイルスは機能的に活性なPAHをコードする核酸配列を含む、前記方法。
【請求項61】
それを必要としている幼若対象においてフェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)タン
パク質の発現を増加させるための医薬品の調製のための治療用AAVウイルスの使用であっ
て、該AAVウイルスは機能的に活性なPAHをコードする核酸配列を含む、前記使用。
【請求項62】
それを必要としている幼若対象においてフェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)タン
パク質の発現を増加させるための治療用AAVウイルスを含む組成物であって、該AAVウイル
スは機能的に活性なPAHをコードする核酸配列を含む、前記組成物。
【請求項63】
前記治療用AAVウイルスは静脈内投与される、請求項60記載の方法。
【請求項64】
前記AAVウイルスは静脈内投与用に製剤化される、請求項61又は62記載の使用又は組成
物。
【請求項65】
約1E12 vg/kg~約2E16 vg/kgの前記治療用AAVウイルスが、前記幼若対象へ投与される
、請求項60~64のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物。
【請求項66】
約2E12 vg/kg~約2E14 vg/kgの前記治療用AAVウイルスが、前記幼若対象へ投与される
、請求項60~64のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物。
【請求項67】
約6E12 vg/kg~約2E14 vg/kgの前記治療用AAVウイルスが、前記幼若対象へ投与される
、請求項60~64のいずれか一項記載の方法、使用又は組成物。
【請求項68】
前記幼若対象は、週齢3週~5週である、請求項60~67のいずれか一項記載の方法、使用
又は組成物。
【請求項69】
更に、前記治療的有効量の、機能的に活性なPAHをコードする核酸配列を含むAAVウイル
スの投与後に、前記幼若対象の血清中の抗AAVカプシド抗体の不存在又は存在を決定する
ステップを含む、請求項60~68のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2018年5月14日に出願された米国仮特許出願番号第62/671,271号の優先権を主
張し、その全体が引用により本明細書中に組み込まれている。
【0002】
(電子的に提出された資料の引用による組み込み)
本出願は、本開示の別の部分としてコンピューター可読形式の配列表を含み、その配列
表は引用によりその全体が組み込まれ、かつ下記のとおり特定される:ファイル名:5309
4_Seqlisting.txt;サイズ:372,202バイト、作成日:2019年5月11日。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、幼若対象の肝臓における導入遺伝子の長期発現を達成するためのアデノ随伴
ウイルス(AAV)ベクターの使用に関する。本発明は、幼若対象へのAAVベクターの単回投与
後の、対象となったものの疾患症状の安定した長期間の改善を含み、そのAAVベクターは
、導入遺伝子を対象の肝臓に送達する。
【背景技術】
【0004】
(背景)
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ヒト及び他の幾つかの霊長目種に感染する、小型で、複
製欠損した非エンベロープ型の動物ウイルスである。AAVの幾つかの特徴により、このウ
イルスは遺伝子療法における治療用タンパク質の送達のための魅力的なビヒクルとなって
おり、その特徴には、例えば、AAVがヒト疾患を引き起こすことが知られておらず、軽度
の免疫応答しか誘発しないこと、並びにAAVベクターは、宿主細胞ゲノム内への組み込み
無しに、分裂細胞及び休止細胞の両方へ感染可能であることが含まれる。AAVを用いる遺
伝子療法ベクターは、幾つかの臨床試験で、例えば、血友病B治療のために、成体肝臓へ
のヒト第IX因子(FIX)の送達に成功裏に使用されている。
【0005】
それらの好ましい特徴にも拘らず、AAV遺伝子療法ベクターには幾つかの欠点がある。
特に、AAVベクターのクローニング能力が、このウイルスのDNAパッケージング容量のため
に限定されている。野生型AAVの一本鎖DNAゲノムは、約4.7キロ塩基(kb)である。実際に
は、最大約5.0kbのAAVゲノムが、AAVウイルス粒子内に完全に(即ち、完全長で)パッケー
ジングされていることが示されている。AAVベクター内の核酸ゲノムは、約145塩基の2つ
のAAV逆方向末端反復(ITR)を持たなくてはならない制限のため、AAVベクターのDNAパッケ
ージング容量は、最大約4.4kbのタンパク質コード化配列がカプシド形成できるものであ
る。
【0006】
AAVベクターの別の制限は、導入遺伝子が標的細胞のゲノム内に組み込まれることがほ
とんど無いことである。代わりに、AAVベクターはエピソーム性コピーとして維持される
。ゲノムへの組み込みがないこのことは、組み込まれたコピーが宿主遺伝子の機能を破壊
するリスクが低減される点で望ましい一方、組み込みがされないことにより、エピソーム
性コピーは分裂細胞内で経時的に失われるから、分裂細胞/成長組織内での使用が妨げら
れると考えられる。これは、例えば幼若な肝臓内で観察され、そこでは、AAVを介した遺
伝子送達がベクターゲノム数の急速な喪失とそれに伴う導入遺伝子発現の減少を生じる。
例えば、Cunninghamらの文献、Molec. Ther.(2008)vol. 16, pp. 1081-1088を参照のこと
。
【0007】
幼若対象の肝臓へ、治療用導入遺伝子を送達する方法であって、その導入遺伝子は、導
入遺伝子の発現の有効レベルを、臨床的に有意な期間、好ましくは対象の寿命の間、維持
する方法が求められている。よって、本発明は、幼若対象の肝臓内での、治療用タンパク
質をコードするAAVベクターの使用に関する。特に本発明は、幼若対象の肝臓にAAVベクタ
ーを送達する方法であって、AAVベクターの単回投与のみで、治療的に有効なレベルの導
入遺伝子生成を、臨床的に有意な期間、提供する方法を提供する。
【発明の概要】
【0008】
(発明の概略)
本発明は、幼若対象の肝細胞中で治療用タンパク質を発現させるための、AAVベクター
の使用方法を提供する。本発明の組換えAAVベクターは、機能的な治療用タンパク質をコ
ードする核酸配列が導入されている、AAVウイルスの非天然型誘導体を含む。この治療用
タンパク質は、内因性遺伝子産物の活性の喪失又は低下を代替又は補填する。本発明の治
療用タンパク質の非限定的例には、第VIII因子,第IX因子、及びフェニルアラニンヒドロ
キシラーゼ(PAH)が含まれ、これらはそれぞれ、血友病A、血友病B、及びフェニルケトン
尿症を有する対象で喪失されている内因性活性を置換するために使用される。
【0009】
一の態様では、本発明は、遺伝子障害に罹患している幼若対象の、遺伝子障害の症状を
改善する方法であって、治療的有効量の、治療用タンパク質をコードしている治療用AAV
ウイルスを、幼若対象へ投与するステップを含み、その治療用タンパク質の発現は、遺伝
子障害の症状を改善する方法を提供する。
【0010】
本発明の一の実施態様では、治療用タンパク質は、非機能的内因性タンパク質の機能的
なコピーである。本発明の別の実施態様では、治療用タンパク質は、内因性タンパク質の
改変バージョンである。本発明の更なる実施態様では、治療用タンパク質は、非機能的内
因性タンパク質を補填する異種タンパク質である。
【0011】
本発明の一の実施態様では、幼若対象は幼若ヒトである。別の実施態様では、幼若ヒト
は18歳未満である。更に別の本発明の実施態様では、幼若ヒトは12歳未満である。
【0012】
本発明の一の実施態様では、治療用タンパク質は、治療用AAVウイルスの投与後に幼若
対象の肝細胞によって発現される。本発明の別の実施態様では、治療用AAVウイルスは静
脈内投与される。
【0013】
本発明の一の実施態様では、遺伝子障害は血友病である。本発明の別の実施態様では、
遺伝子障害は血友病Aであり、治療用タンパク質は第VIII因子である。更に別の実施態様
では、第VIII因子は第VIII因子SQである。好ましい実施態様では、治療用AAVウイルスはA
AV5-FVIII-SQである。更なる実施態様では、血友病は血友病Bであり、治療用タンパク質
は第IX因子である。別の実施態様では、第IX因子は第IX因子R338Lである。
【0014】
本発明の一の実施態様では、遺伝子障害はフェニルケトン尿症(PKU)であり、治療用タ
ンパク質はフェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)である。
【0015】
本発明の別の実施態様では、幼若対象へ投与される治療用AAVウイルスの量は、成体対
象で有効な治療用AAVウイルスの絶対数と同じ数に対応する。また更なる本発明の実施態
様では、約1E12 vg/kg~約1E15 vg/kgの治療用AAVウイルスが幼若対象へ投与される。い
くつかの実施態様では、約2E12 vg/kg~約2E13 vg/kgの治療用AAVウイルスが幼若対象へ
投与され、又は約2E12 vg/kg~約2E14 vg/kgの治療用AAVウイルスが幼若対象へ投与され
、又は約5E12 vg/kg~約5E13 vg/kgが幼若対象へ投与され、又は約5E13 vg/kg~約5E14 v
g/kgの治療用AAVウイルスが幼若対象へ投与され、又は約5E13~約5E15 vg/kgの治療用AAV
ウイルスが幼若対象へ投与され、又は約1E13 vg/kg~約1E14 vg/kgの治療用AAVウイルス
が幼若対象へ投与され、又は約1E14 vg/kg~約1E15 vg/kgの治療用AAVウイルスが幼若対
象へ投与され、又は約1E12 vg/kg~約2E16 vg/kgの治療用AAVウイルスが幼若対象へ投与
され、又は約6E12 vg/kg~約2E14 vg/kgの治療用AAVウイルスが幼若対象へ投与され、又
は約6E12 vg/kg~約6E13 vg/kgが幼若対象へ投与され、又は約2E13 vg/kg~約2E15 vg/kg
の治療用AAVウイルスが幼若対象へ投与され、又は約2E13 vg/kg~約2E16 vg/kgの治療用A
AVウイルスが幼若対象へ投与され、又は約2E14 vg/kg~約2E16 vg/kgの治療用AAVウイル
スが幼若対象へ投与され、約6E13 vg/kg~約6E14 vg/kgの治療用AAVウイルスが幼若対象
へ投与される。
【0016】
本発明の一の実施態様では、AAVウイルスは、リン酸水素二ナトリウムを濃度約0.1 mg/
ml~約3 mg/ml、リン酸二水素ナトリウム一水和物を濃度約0.1 mg/ml~約3 mg/ml、塩化
ナトリウムを濃度約1 mg/ml~約20 mg/ml、マンニトールを濃度約5 mg/ml~約40 mg/ml、
及びpoloxamer 188を濃度約0.1 mg/ml~約4 mg/mlで含む医薬組成物として配合(製剤化)
される。
【0017】
本発明の所定の実施態様では、幼若対象は、コルチコステロイドを濃度5 mg/日~60 mg
/日の範囲で予防的に処置される。他の実施態様では、幼若対象は、コルチコステロイド
を濃度5 mg/日~60 mg/日の範囲で治療的に処置される。
【0018】
更なる実施態様では、本発明は幼若対象において、少なくとも約5 IU/dlの機能的な第V
III因子タンパク質の発現を生じる。別の実施態様では、幼若対象において、少なくとも
約1 IU/dlの機能的な第VIII因子タンパク質の増加を生じる。
【0019】
別の態様では、本発明は、血友病に罹患している幼若対象の出血事象における出血時間
を減少させる方法であって、出血事象前に、治療的有効量の治療用AAVウイルスを幼若対
象へ投与するステップを含む方法を提供する。本発明の一の実施態様では、投与ステップ
は、出血事象の少なくとも3週間前に行われる。別の実施態様では、治療用AAVウイルスは
静脈内投与される。更なる実施態様では、血友病は血友病Aであり、治療用AAVウイルスは
第VIII因子を発現する。更に別の実施態様では、第VIII因子は第VIII因子SQである。好ま
しい実施態様では、治療用AAVウイルスはAAV5-FVIII-SQである。別の実施態様では、血友
病は血友病Bであり、治療用AAVウイルスは第IX因子を発現する。更に別の実施態様では、
第IX因子は第IX因子R338Lである。更に別の実施態様では、幼若対象へ投与される治療用A
AVウイルスの量は、成体対象で有効な治療用AAVウイルスの絶対数と同じ数に対応する。
更なる実施態様では、約1E12 vg/kg~約1E15 vg/kgの治療用AAVウイルスが幼若対象へ投
与される。更なる例示的な実施態様では、約1E12 vg/kg~約1E16 vg/kgの治療用AAVウイ
ルスが幼若対象へ投与され、又は約2E12 vg/kg~約2E13 vg/kgの治療用AAVウイルスが幼
若対象へ投与され、又は約2E12 vg/kg~約2E14 vg/kgの治療用AAVウイルスが幼若対象へ
投与され、又は約5E13 vg/kg~約5E14 vg/kgの治療用AAVウイルスが幼若対象へ投与され
、又は約6E12 vg/kg~約6E14 vg/kgの治療用AAVウイルスが幼若対象へ投与され、又は約6
E13 vg/kg~約6E14 vg/kgの治療用AAVウイルスが幼若対象へ投与される。一の実施態様で
は、治療用AAVウイルスは、リン酸水素二ナトリウムを濃度約0.1 mg/ml~約3 mg/ml、リ
ン酸二水素ナトリウム一水和物を濃度約0.1 mg/ml~約3 mg/ml、塩化ナトリウムを濃度約
1 mg/ml~約20 mg/ml、マンニトールを濃度約5 mg/ml~約40 mg/ml、及びpoloxamer 188
を濃度約0.1 mg/ml~約4 mg/mlで含む溶液中に配合される。
【0020】
別の態様では、本発明は、それを必要としている幼若対象において第VIII因子タンパク
質の発現を増加させる方法であって、幼若対象へ治療用ウイルスを投与するステップを含
み、治療用AAVウイルスはAAV5-FVIII-SQである方法を提供する。本発明の一の実施態様で
は、治療用AAVウイルスは静脈内投与される。更に別の実施態様では、幼若対象へ投与さ
れる治療用AAVウイルスの量は、成体対象で有効な治療用AAVウイルスの絶対数と同じ数に
対応する。別の実施態様では、約1E12 vg/kg~約1E15 vg/kgの治療用AAVウイルスが幼若
対象へ投与される。更なる実施態様では、約6E13 vg/kg~約6E14 vg/kgの治療用AAVウイ
ルスが幼若対象へ投与される。他の実施態様では、本発明は、幼若対象において少なくと
も約5 IU/dlの機能的な第VIII因子タンパク質の発現を生じる。更なる実施態様では、本
発明は、幼若対象において、少なくとも約1 IU/dlの機能的な第VIII因子タンパク質の発
現を生じる。更に別の実施態様では、本発明は、幼若対象において少なくとも約1 IU/dl
の機能的なFVIII活性の増加を生じる。一の実施態様では、幼若対象は、コルチコステロ
イドを濃度5 mg/日~60 mg/日の範囲で処置される。他の実施態様では、コルチコステロ
イド処置は予防的に行われる。更なる実施態様では、コルチコステロイド処置は治療的に
行われる。更なる実施態様では、幼若対象は、コルチコステロイドを濃度5 mg/日~60 mg
/日の範囲で、少なくとも約3、4、5、6、7、8、9若しくは10週間、又はそれ以上の継続的
期間で処置される。本発明の実施態様は、治療的有効量のAAV5-FVIII-SQの投与後に、幼
若対象の血清中の抗AAVカプシド抗体の不存在又は存在を決定するステップを含む。別の
実施態様では、本発明は、幼若対象の血清中の抗AAVカプシド抗体の存在が決定された後
に、対象へ有効量のコルチコステロイドを投与するステップを含む。
【0021】
機能的に活性な治療用タンパク質をコードするゲノムは、増強されたプロモーター機能
を有する場合に、好ましくは最大7.0 kb長、更に好ましくは最大6.5 kb長、更により好ま
しくは最大6.0 kb長、更により好ましくは最大5.5 kb長、更により好ましくは最大5.0 kb
長である。
【0022】
本明細書において使用される「機能的に活性な第VIII因子」又は「機能的に活性なFVII
I」は、インビトロで、培養細胞内で発現する場合、又はインビボで、細胞又は体組織内
で発現する場合、野生型FVIIIタンパク質の機能を有するFVIIIタンパク質である。本出願
書類全体において、用語「第VIII因子」及び「FVIII」は同一であり、互換的に使用され
る。これには、例えば、血友病Aに罹患している対象において機能的に、血液凝固カスケ
ードに寄与すること、及び/又は血液が凝固するのにかかる時間を短縮するものが含まれ
る。野生型FVIIIは、活性化第IX因子(FIXa)の補因子として作用して凝固カスケードを
介して血液凝固に関与しており、上記FIXaはカルシウムイオン及びリン脂質の存在下で第
X因子(FX)を活性化FX(FXa)へ変換する複合体を形成する。従って、機能的に活性なFV
IIIは、FIXaと複合体を形成でき、その複合体はFXをFXaへ変換できる。機能的に活性なFV
IIIタンパク質の一例は、国際公開WO 2015/038625号に記載のFVIII SQタンパク質であり
、この文献は、引用により本明細書に組み込まれる。
【0023】
本発明は又、それを必要としている幼若対象においてPAHタンパク質の発現を増加する
方法であって、幼若対象へ治療用ウイルスを投与することを含み、治療用AAVウイルスはA
AV5-PAHである方法を提供する。例えば、いずれかの方法において、治療用AAVウイルスは
静脈内投与される。本発明は又、それを必要としている幼若対象においてPAHタンパク質
の発現を増加させるための医薬品の調製のための治療用AAVウイルスの使用であって、AAV
ウイルスはAAV5-PAHである使用を提供する。別の実施態様では、本発明は、それを必要と
している幼若対象においてPAHタンパク質の発現を増加させるための治療用AAVウイルスを
含む組成物であって、AAVウイルスはAAV5-PAHである組成物を提供する。いずれかの使用
又は組成物において、AAVウイルスは静脈内投与用に製剤化される。これらのPAH発現を増
加させるための方法、使用及び組成物において、約1E12 vg/kg~約1E16 vg/kgの治療用AA
Vウイルスが幼若対象へ投与され、又は約2E12 vg/kg~約2E13 vg/kgの治療用AAVウイルス
が幼若対象へ投与され、又は約2E12 vg/kg~約2E14 vg/kgの治療用AAVウイルスが幼若対
象へ投与され、又は約5E13 vg/kg~約5E14 vg/kgの治療用AAVウイルスが幼若対象へ投与
され、又は約6E12 vg/kg~約6E14 vg/kgの治療用AAVウイルスが幼若対象へ投与される。
いずれかの方法、使用又は組成物において、幼若対象は、週齢約3週間~約5週間である。
例えば、幼若対象は、週齢約3週、又は週齢約4週、又は週齢約5週、又は約22日齢、又は
約23日齢、又は約24日齢、又は約25日齢、又は約26日齢、又は約27日齢、又は約29日齢、
又は約30日齢、又は約31日齢、又は約32日齢、又は約33日齢、又は約34日齢である。更に
、これらいずれかの方法は更に、治療的有効量のAAV5-PAHの投与後に、幼若対象の血清中
の抗AAVカプシド抗体の不存在又は存在を決定するステップを含むことができる。
【0024】
本明細書で使用される「AAVベクター」は、一本鎖又は二本鎖いずれかの核酸であって
、AAV 5'逆方向末端反復(ITR)配列、並びにAAV 3'ITRに隣接したタンパク質コード化配列
(好ましくは、機能的な治療用タンパク質コード化配列、例えばFVIII、FIX及びPAH)であ
って、AAVウイルス性ゲノムとは異種の転写制御エレメント、即ち、1以上のプロモーター
及び/又はエンハンサー、に機能的に連結したタンパク質コード化配列、並びに、任意で
、ポリアデニル化配列、及び/又は、タンパク質コード化配列のエクソン間に挿入された1
以上のイントロン、を有する核酸を指す。一本鎖AAVベクターは、AAVウイルス粒子のゲノ
ム内に存在する核酸であって、本明細書に記載された核酸配列のセンス鎖又はアンチセン
ス鎖のいずれかでもよい核酸を指す。このような一本鎖核酸のサイズは、塩基単位で提供
される。二本鎖AAVベクターは、AAVベクター核酸を発現又は遺伝子導入するために使用さ
れる、プラスミド(例えば、pUC19)のDNA内、又は二本鎖ウイルス(例えば、バキュロウイ
ルス)のゲノム内に存在する核酸を指す。このような二本鎖核酸のサイズは塩基対(bp)単
位で提供される。
【0025】
用語「逆方向末端反復(ITR)」とは、本明細書で使用される場合、DNA複製の開始点とし
て、及びウイルス性ゲノムのパッケージングシグナルとしてシスに機能する、AAVゲノム
の5'末端及び3'末端に存在する、当分野において認知されている領域を指す。AAV ITRは
、AAV repコード領域と一緒に、宿主細胞ゲノムからの切り出し及びレスキュー、並びに
宿主細胞ゲノムへの2つの隣接するITR間に挿入されるヌクレオチド配列の組込みを効率的
に提供する。ある種のAAV関連ITRの配列は、Yanらの文献、J. Virol.(2005)vol. 79, pp.
364-379により開示されており、その全体が引用により本明細書に組み込まれる。本明細
書に使用が認められるITR配列は、完全長の野生型AAV ITR若しくは、機能性能を保持する
その断片でもよく、又は複製起点としてシスに機能できる、完全長の野生型AAV ITRの配
列バリアントでもよい。本発明の組換えAAV FVIIIベクター内で有用なAAV ITRは、任意の
公知のAAV血清型由来でもよく、所定の好ましい実施態様では、AAV2又はAAV5血清型由来
でもよい。
【0026】
「転写制御エレメント」は、遺伝子転写の制御に関与する遺伝子のヌクレオチド配列を
指し、プロモーター、plus応答エレメント、転写因子が結合してRNAポリメラーゼの結合
を助けて発現を促進するためのアクチベーター及びエンハンサー配列、並びにリプレッサ
ータンパク質が結合することでRNAポリメラーゼの付加を阻止して発現を妨げるオペレー
ター又はサイレンサー配列が含まれる。用語「肝臓特異的転写制御エレメント」は、肝臓
組織内で特異的な遺伝子発現を調節する制御エレメントを指す。肝臓特異的制御エレメン
トの例には、限定するものではないが、マウスサイレチンプロモーター(mTTR)、内因性ヒ
ト第VIII因子プロモーター(F8)、ヒトα-1-アンチトリプシンプロモーター(hAAT)及びそ
の活性断片、ヒトアルブミン最小プロモーター、並びにマウスアルブミンプロモーターが
含まれる。Enh1と共に、EBP、DBP、HNF1、HNF3、HNF4、HNF6等の、肝臓特異的転写因子結
合部位に由来するエンハンサーも又、考えられる。
【0027】
一の実施態様では、本発明のAAVベクターは、14アミノ酸SQ配列によって置換されたBド
メインを有する機能的に活性な第VIII因子タンパク質をコードする核酸を含む。SQ配列は
、Wardらの文献、Blood (2011) vo. 117, pp. 798-807; McIntoshらの文献、Blood (2013
) vo. 121, pp. 3335-3344; 国際公開WO 2013/186563;及びWO 2015/038625号に開示され
ている。FVIIIコード領域配列は、コドン最適化 FVIIIコード化配列でもよい(例えば、米
国特許出願公開第2015158930号、2015071883号、及び20170216408号;並びに米国特許第9,
447,168号及び9,504,762号を参照のこと。なお、上記全ての文献は引用により本明細書中
に全体として組み込まれる)。例示的な実施態様では、AAVベクター又は組換えAAVウイル
ス粒子の、機能的に活性なヒトFVIIIタンパク質をコードする核酸は、機能的なFVIIIタン
パク質配列をコードする配列番号:1の核酸配列のヌクレオチド403~4776から構成され;こ
の配列は本明細書において「FVIII-SQ」又は「第VIII因子SQ」を指す。例示的な実施態様
では、本発明のAAVベクターは、配列番号: 1~45のいずれか1つに提示する核酸配列を含
む。
【0028】
一の実施態様では、本発明のAAVベクターは、機能的に活性な第IX因子タンパク質をコ
ードする核酸を含む。第IX因子をコードする配列は、野生型、コドンを最適化したもの、
又はバリアントでもよい(例えば、引用により本明細書中に全体として組み込まれている
米国特許第4,994,371号を参照のこと)。所定の実施態様では、第IX因子コード配列は、33
8位のアルギニン残基が変化したタンパク質をコードし、このアルギニン残基は、アラニ
ン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン
、セリン、又はトレオニンへ変化している。好ましい実施態様では、338位のアルギニン
残基は、ロイシンへ変わる(第IX因子R338L)(例えば、米国特許第6,531,298号;米国特許第
9,249,405号;米国特許出願公開第2002/0031799号;及び米国特許出願公開第2011/0244550
号を参照のこと。なお、上記全ての文献は引用により本明細書中に全体として組み込まれ
ている)。例示的な実施態様では、本発明のAAVベクターは、配列番号: 46の第IX因子タン
パク質配列をコードする核酸配列、又は配列番号: 46の338位のアルギニンが変更されて
いる改変されたFIXタンパク質をコードする核酸配列を含む。
【0029】
更なる実施態様では、本発明のAAVベクターは、配列番号:48の野生型PAHアミノ酸配列
をコードする核酸配列等の、機能的に活性なフェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)タ
ンパク質をコードする核酸を含む。PAHコード化配列は、野生型、コドンを最適化したも
の、又はバリアントでもよい(例えば、Fangらの文献、Gene Ther., vol. 1, pages 247-2
54(1994); Eisensmithらの文献、J. Inherit. Metab. Dis., vol. 19, pages 412-423(19
96); Nagasakiらの文献、Pediatr. Res., vol. 45, pages 465-473(1999);及びLaipisら
の文献、Mol. Ther., vol. 7, pages S391-S392(2003)を参照のこと)。野生型PAHは、配
列番号:47の核酸配列によりコード化されている。例示的な実施態様では、本発明のAAVベ
クターは、配列番号:48の野生型PAHタンパク質配列をコードする核酸配列を含む。例示的
な実施態様では、本発明のAAVベクターは、配列番号:49~55のいずれか1つに提示する核
酸配列を含む。例示的な、機能的に活性なPAHをコードする核酸を含むAAVベクターは、米
国仮出願番号第62/755,207号及び、2019年5月8日出願の(米国仮出願番号第62/755,207号
の優先権を主張する)国際出願番号第PCT/US2019/031252号で提供されており、これらのい
ずれも引用により本明細書において全体が組み込まれる。
【0030】
他の実施態様では、本発明の組換えAAVベクターは、AAV2 5'逆方向末端反復(ITR)(当分
野で公知の通りに改変されても、改変されなくてもよい)、肝臓特異的転写制御領域、コ
ドン最適化治療用タンパク質コード領域、任意で1以上のイントロン、ポリアデニル化配
列、及びAAV2 3'ITR(当分野で公知の通りに改変されても、改変されなくてもよい)を含む
核酸を含む。所定の実施態様では、治療用タンパク質は、ヒト第VIII因子又はそのバリア
ントである。他の実施態様では、治療用タンパク質は、ヒト第IX因子又はそのバリアント
である。更なる実施態様では、治療用タンパク質は、ヒトPAH又はそのバリアントである
。好ましい実施態様では、肝臓特異的転写制御領域は、短縮型ApoEエンハンサー配列; 42
塩基の5'非翻訳領域(UTR)を含む、186塩基ヒトαアンチトリプシン(hAAT)近位プロモータ
ー;1以上のエンハンサーであって、(i)34塩基ヒトApoE/C1エンハンサー、(ii)32塩基ヒト
AATプロモーター遠位X領域、及び(iii)追加的な80塩基ヒトAAT近位プロモーターの遠位エ
レメント、からなる群から選択されるエンハンサー;並びに、FVIII-SQバリアントをコー
ドするコドンを最適化した機能的に活性なFVIIIコード領域を含む。別の好ましい実施態
様では、肝臓特異的転写制御領域は、α-ミクログロブリンエンハンサー配列及び186塩基
ヒトαアンチトリプシン(AAT)近位プロモーターを含む。
【0031】
更に他の実施態様では、本発明は、機能的な第VIII因子ポリペプチドをコードするベク
ター構築物に関し、構築物は、1以上の異なる方向性を有する、上記構築物の1以上の個々
のエレメント及びそれらの組み合わせを含む。本発明は又、逆方向性である上記構築物に
関する。本発明は又、本明細書に記載されたAAV FVIIIベクターを含む組換えAAVウイルス
粒子、及び、血友病Aを処置するためのそれらの使用に関する。
【0032】
更なる実施態様では、本発明は、機能的な第IX因子ポリペプチドをコードするベクター
構築物に関し、構築物は、1以上の異なる方向性を有する、上記構築物の1以上の個々のエ
レメント及びそれらの組み合わせを含む。本発明は又、逆方向性である上記構築物に関す
る。本発明は又、本明細書に記載されたAAV IXベクターを含む組換えAAVウイルス粒子、
及び、幼若対象における血友病Bを処置するためのそれらの使用に関する。
【0033】
更に他の実施態様では、本発明は、機能的なPAHポリペプチドをコードするベクター構
築物に関し、構築物は、1以上の異なる方向性を有する、上記構築物の1以上の個々のエレ
メント及びそれらの組み合わせを含む。本発明は又、逆方向性である上記構築物に関する
。本発明は又、本明細書に記載されたAAV PAHベクターを含む組換えAAVウイルス粒子、及
び、幼若対象におけるPKUを処置するためのそれらの使用に関する。
【0034】
本発明の一本鎖型AAVベクターは、約7.0 kb長未満、又は6.5 kb長未満、又は6.4 kb長
未満、又は6.3 kb長未満、又は6.2 kb長未満、又は6.0 kb長未満、又は5.8 kb長未満、又
は5.6 kb長未満、又は5.5 kb長未満、又は5.4 kb長未満、又は5.4 kb長未満、又は5.2 kb
長未満、又は5.0 kb長未満である。本発明の一本鎖型AAVベクターは、約5.0 kb~約6.5 k
b長の範囲、又は約4.8 kb~約5.2 k長の範囲、又は4.8 kb~5.3 kb長、又は約4.9 kb~約
5.5 kb長の範囲、又は約4.8 kb~約6.0 kb長、又は約5.0 kb~6.2 kb長、又は約5.1 kb~
約6.3 kb長、又は約5.2 kb~約6.4 kb長、又は約5.5 kb~約6.5 kb長である。
【0035】
別の実施態様では、本発明は、本発明のAAVベクターのいずれかを含む組換えアデノ随
伴ウイルス(AAV)粒子を生成する方法を提供する。この方法は、本発明の(様々なAAV cap
及びrep遺伝子を伴う)AAVベクターのいずれかをトランスフェクトした細胞を培養するス
テップ、及びトランスフェクトした細胞の上清から組換え治療用AAVウイルス粒子を回収
するステップを含む。
【0036】
組換えAAV生成に有用な本発明の細胞は、バキュロウイルスに感染しやすい全ての細胞
型であり、例えば、High Five、Sf9、Se301、SeIZD2109、SeUCR1、Sf9、Sf900+、Sf21、
BTI-TN-5B1-4、MG-1、Tn368、HzAm1、BM-N、Ha2302、Hz2E5、及びAo38等の昆虫細胞が含
まれる。使用される好ましい哺乳類細胞は、HEK293、HeLa、CHO、NSO、SP2/0、PER.C6、V
ero、RD、BHK、HT 1080、A549、Cos-7、ARPE-19、及びMRC-5でもよい。
【0037】
本発明は又、本発明のAAVベクターのいずれかを含む組換えウイルス性粒子、又は本発
明の上記方法に従い生成した全てのウイルス性粒子を提供する。
【0038】
「AAVウイルス粒子(AAV virion)」又は「AAVウイルス性粒子(AAV viral particle)」又
は「AAVベクター粒子」又は「AAVウイルス」とは、本明細書に記載されたように、少なく
とも1つのAAVカプシドタンパク質及びカプシド形成されたポリヌクレオチドAAVベクター
から構成されるウイルス性粒子を指す。この粒子が、異種ポリヌクレオチド(即ち、哺乳
類細胞に送達するための導入遺伝子等の、野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド)を含
む場合、通常、「AAVベクター粒子」又は単に「AAVベクター」と称される。従って、ベク
ターはAAVベクター粒子内に含有されるように、AAVベクター粒子の生成には必然的にAAV
ベクターの生成が伴う。
【0039】
本明細書で使用される「治療用AAVウイルス」とは、治療用タンパク質をコードする異
種ポリヌクレオチドを含む、AAVウイルス粒子、AAVウイルス性粒子、AAVベクター粒子、
又はAAVウイルスを指す。
【0040】
本明細書で使用される「治療用タンパク質」は、内因性タンパク質の活性の喪失又は低
下を代替又は補填する生物学的活性を有するポリペプチドを指す。例えば、ヒト第VIII因
子の機能的なコピー、又はその機能的な断片は、血友病A罹患対象内で不活性なヒト第VII
I因子の活性を置換するために使用される場合の、治療用タンパク質である。同様に、機
能的なヒト第IX因子は、血友病B罹患対象のための治療用タンパク質であり、機能的なフ
ェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)は、フェニルケトン尿症(PKU)のための治療用タン
パク質である。
【0041】
本明細書において使用される「幼若対象」は、生理学的に未成熟又は未発育である対象
を指す。特に、幼若対象は、体内の複数の組織又は器官の細胞がまだ、成熟対象のものよ
りも速い速度で分裂を続けている対象である。所定の実施態様では、幼若対象はヒトであ
る。別の実施態様では、幼若対象は、18歳未満のヒトである。更に別の実施態様では、幼
若対象は、12歳未満のヒトである。本発明の幼若対象は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、1
0、11、12、13、14、15、16、17、又は18歳未満のヒトを含む。
【0042】
本明細書において使用される「遺伝子障害」は、対象のゲノム内の1以上の異常によっ
て引き起こされる障害を指す。好ましい実施態様では、遺伝子障害は一遺伝子性であり、
それは、一つの遺伝子の一方又は両方のコピーの異常に起因することを意味する。ゲノム
異常は1個の遺伝子を破壊し、その破壊は、破壊された遺伝子によってコードされる内因
性タンパク質の活性の低下又は喪失を生じ、その内因性タンパク質の活性の低下又は喪失
から遺伝子障害の症状が生じる。
【0043】
本明細書で使用される「安定して処置する」又は「安定した治療」とは、治療用AAVウ
イルスを幼若対象へ投与するために使用し、その幼若対象が治療用AAVウイルスによって
発現された治療用タンパク質を安定して発現する治療用処置を指す。安定して発現する治
療用タンパク質とは、そのタンパク質が臨床的に有意な期間、発現することを意味する。
本明細書で使用される「臨床的に有意な期間」とは、治療上有効なレベルで、幼若対象の
生活の質に有意義な影響を与える期間の発現を意味する。所定の実施態様において、生活
の質への有意義な影響は、静脈内又は皮下で代替的療法を施す必要性の欠如によって示さ
れる。所定の実施態様において、臨床的に有意な期間は、少なくとも6か月、少なくとも8
か月、少なくとも1年、少なくとも2年、少なくとも3年、少なくとも4年、少なくとも5年
、少なくとも6年、少なくとも7年、少なくとも8年、少なくとも9年、少なくとも10年、又
は少なくとも対象の生涯の間を表現する。
【0044】
別の実施態様では、本発明は、血友病Aに罹患している幼若対象を治療する方法であっ
て、治療的有効量の、本発明の第VIII因子AAVベクターのいずれか、又は本発明のウイル
ス性粒子、又は本発明の方法で生成されたウイルス性粒子を、幼若対象へ投与することを
含む方法を提供する。
【0045】
別の実施態様では、本発明は、それを必要とする幼若対象における循環性のFVIIIタン
パク質レベルを上昇させるための方法であり、本発明のAAVベクターのいずれか、又は本
発明のウイルス性粒子、又は本発明の方法で生成されたウイルス性粒子を、幼若対象へ投
与することを含む方法を提供する。
【0046】
別の実施態様では、本発明は、それを必要とする幼若対象における循環性の第IX因子タ
ンパク質レベルを上昇させるための方法であり、本発明のAAVベクターのいずれか、又は
本発明のウイルス性粒子、又は本発明の方法で生成されたウイルス性粒子を、幼若対象へ
投与することを含む方法を提供する。
【0047】
別の実施態様では、本発明は、それを必要とする対象における循環性のPAHタンパク質
レベルを上昇させるための方法であり、本発明のAAVベクターのいずれか、又は本発明の
ウイルス性粒子、又は本発明の方法で生成されたウイルス性粒子であって、PAHタンパク
質を発現させるものを、対象へ投与することを含む方法を提供する。
【0048】
別の実施態様では、本発明は、本明細書に記載された治療用AAVウイルス粒子を含む医
薬製剤を提供する。更に特異的な所定の態様では、本発明は、第VIII因子,第IX因子、又
はPAHを発現する組換えAAVウイルス;緩衝剤;等張化剤;増量剤;及び界面活性剤を含む医薬
製剤に関する。特に好ましい実施態様では、本発明の医薬製剤は、AAV5-FVIII-SQ若しく
は本明細書に記載された他のいずれかのベクターを含み、かつ/又は少なくとも2週間の
貯蔵中で安定である。
【0049】
更に他の本発明の実施態様では、医薬製剤は、リン酸水素二ナトリウムを濃度約0.1 mg
/ml~約3 mg/ml、リン酸二水素ナトリウム一水和物を濃度約0.1 mg/ml~約3 mg/ml、塩化
ナトリウムを濃度約1 mg/ml~約20 mg/ml、マンニトールを濃度約5 mg/ml~約40 mg/ml、
及びpoloxamer 188を濃度約0.1 mg/ml~約4 mg/mlで含む。特に好ましい実施態様では、
本発明の医薬製剤は、リン酸水素二ナトリウムを濃度約1.42 mg/ml、リン酸二水素ナトリ
ウム一水和物を濃度約1.38 mg/ml、塩化ナトリウムを濃度約8.18 mg/ml、マンニトールを
濃度約20 mg/ml、及びpoloxamer 188を濃度約2 mg/mlで含む。
【0050】
本発明の医薬製剤は液体形状でもよく、AAV治療用タンパク質ウイルス粒子を濃度約1E1
2 vg/ml~約2E14 vg/ml、更に好ましくは濃度約2E13 vg/mlで含むことができる。一の実
施態様では、本発明の医薬製剤は、血友病A、血友病B、又はPKUに罹患しているヒトへの
静脈内投与に使用できる。
【0051】
本発明は又、血友病Aに罹患している幼若対象を安定して処置するための方法、使用及
び組成物に関し、その処置には、治療的有効量の、任意で前記記載のように製剤化されて
もよい組換えAAV第VIII因子ウイルスを、対象へ投与するステップを含む。好ましい実施
態様では、血友病Aに罹患している幼若対象はヒトである。一の実施態様では、組換えAAV
第VIII因子ウイルスは、AAV5-FVIII-SQである。一の実施態様では、投与ステップは、静
脈内(IV)投与で行われる。本発明の所定の態様では、投与ステップは、少なくとも約1、2
、3、4、5、6、7、8、9、10 IU/dl又はそれ以上の、幼若対象血流中での第VIII因子タン
パク質、好ましくは少なくとも約5 IU/dlの幼若対象血流中での第VIII因子タンパク質の
安定的発現を生じる。所定の実施態様では、投与ステップは、少なくとも約1、2、3、4、
5、6、7、8、9、10 IU/dl又はそれ以上の幼若対象血流中での第VIII因子タンパク質を、
投与後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20週間
、又はそれ以上の間、発現させる。所定の実施態様では、第VIII因子タンパク質は、少な
くとも約6、7、8、9、10、11、12月、又はそれ以上の間、幼若対象の血流中で発現する。
所定の実施態様において、第VIII因子タンパク質は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7
、8、9、10年、又はそれ以上の間、幼若対象の血流中で発現する。所定の実施態様では、
幼若対象へ投与されるAAV第VIII因子ウイルスの治療的有効量は、成体対象で有効な用量
として認められた治療用AAVウイルスの絶対数と同じ数に基づく。治療的有効量は、少な
くとも1E12 vg/kg体重~少なくとも1E15 vg/kg体重の範囲でもよい。
【0052】
所定の実施態様では、治療的有効量のAAV第VIII因子ウイルスの投与に併せて、対象へ
、予防的若しくは治療的のいずれか、又はそれらの両方のためにコルチコステロイド処置
を行い、AAV第VIII因子ウイルスの投与と関係するいずれの肝毒性をも防止及び/又は処
置する。一の実施態様では、関係する肝毒性は、ベースラインの(即ち、第VIII因子AAV投
与前の)アラニントランスアミナーゼ(ALT)レベルを処置後のALTレベルと比較して測定さ
れ、投与後のALTレベル上昇は関係する肝毒性の証拠である。予防的コルチコステロイド
処置は、肝毒性を防止し、及び/又は対象中で測定されたALTレベルの上昇を防止するた
めの、コルチコステロイドの投与を指す。治療的コルチコステロイド処置は、AVV第VIII
因子ウイルス投与により生じた肝毒性を低下させ、及び/又は、AAV第VIII因子ウイルス
投与により生じた対象の血流中で上昇したALT濃度を低下させるための、コルチコステロ
イドの投与を指す。所定の実施態様では、予防的又は治療的コルチコステロイド処置は、
少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60 mg/日、又はそれ以上のコ
ルチコステロイドの対象への投与を含むことができる。所定の実施態様では、対象の予防
的又は治療的コルチコステロイド処置は、少なくとも約3、4、5、6、7、8、9、10週間又
はそれ以上の継続期間にわたって行われてもよい。
【0053】
本発明は又、血友病Bに罹患している幼若対象を安定して処置するための方法、使用及
び組成物に関し、その処置には、治療的有効量の、任意で前記記載のように製剤化されて
もよい組換えAAV第IX因子ウイルスを、対象へ投与するステップを含む。好ましい実施態
様では、血友病Bに罹患している幼若対象はヒトである。一の実施態様では、組換えAAV第
IX因子ウイルスは、第IX因子R338Lを発現する。一の実施態様では、投与ステップは、静
脈内(IV)投与で行われる。本発明の所定の態様では、投与ステップは、少なくとも約1、2
、3、4、5、6、7、8、9、10 IU/dl又はそれ以上の、幼若対象血流中での第IX因子タンパ
ク質、好ましくは少なくとも約5 IU/dlの、幼若対象血流中での第IX因子タンパク質の安
定的発現を生じる。所定の実施態様では、投与ステップは、少なくとも約1、2、3、4、5
、6、7、8、9、10 IU/dl又はそれ以上の幼若対象血流中での第IX因子タンパク質を、投与
後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20週間、又
はそれ以上の間、発現させる。所定の実施態様では、第IX因子タンパク質は、少なくとも
約6、7、8、9、10、11、12月、又はそれ以上の間、幼若対象の血流中で発現する。所定の
実施態様において、第IX因子タンパク質は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、1
0年、又はそれ以上の間、幼若対象の血流中で発現する。幼若対象へ投与されるAAV第IX因
子ウイルスの治療的有効量は、成体対象で有効な用量として認められた治療用AAVウイル
スの絶対数と同じ数に基づく。治療的有効量は、少なくとも1E12 vg/kg体重~少なくとも
1E15 vg/kg体重の範囲でもよい。所定の実施態様では、治療的有効量のAAV第IX因子ウイ
ルスの投与に併せて、対象へ、予防的若しくは治療的のいずれか、又はそれらの両方のた
めにコルチコステロイド処置を行い、AAV第IX因子ウイルスの投与と関係するいずれの肝
毒性をも防止及び/又は処置する。一の実施態様では、関係する肝毒性は、ベースライン
の(即ち、第IX因子AAV投与前の)アラニントランスアミナーゼ(ALT)レベルを処置後のALT
レベルと比較して測定され、投与後のALTレベル上昇は関係する肝毒性の証拠である。予
防的コルチコステロイド処置は、肝毒性を防止し、及び/又は対象中で測定されたALTレ
ベルの上昇を防止するための、コルチコステロイドの投与を指す。治療的コルチコステロ
イド処置は、AVV第IX因子ウイルス投与により生じた肝毒性を低下させ、及び/又は、AVV
第IX因子ウイルスの投与により生じた対象の血流中で上昇したALT濃度を低下させるため
の、コルチコステロイドの投与を指す。所定の実施態様では、予防的又は治療的コルチコ
ステロイド処置は、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60 mg/日
、又はそれ以上のコルチコステロイドの対象への投与を含むことができる。所定の実施態
様では、対象の予防的又は治療的コルチコステロイド処置は、少なくとも約3、4、5、6、
7、8、9、10週間又はそれ以上の継続期間にわたって行われてもよい。
【0054】
本発明は又、血友病Aに罹患している幼若対象の治療用医薬品の調製のための、治療的
有効量の組換えAAV第VIII因子ウイルスの使用に関する。所定の実施態様では、AAV第VIII
因子ウイルスはAAV5-FVIII-SQであるか、又はp-100 ATGBベクターを含むウイルスである
。医薬品は任意で、前記記載のように製剤化されてもよい。好ましい実施態様では、血友
病Aに罹患している幼若対象はヒトである。一の実施態様では、医薬品は静脈内(IV)投与
で投与される。本発明の一の態様では、医薬品の投与は、少なくとも約5 IU/dlの第VIII
因子タンパク質の対象の血流中での発現を生じ、好ましくは、少なくとも約5 IU/dlの幼
若対象血流中の第VIII因子タンパク質を、投与後16週間又はそれ以上の間、発現する。所
定の実施態様では、医薬品は又、予防的及び/又は治療的コルチコステロイドを、AAV第V
III因子ウイルスの投与と関係するいずれの肝毒性をも防止及び/又は処置するために含
む。予防的又は治療的コルチコステロイド処置を含む医薬品は、少なくとも5、10、15、2
0、25、30、35、40、45、50、55、60 mg/日、又はそれ以上のコルチコステロイドを含む
ことができる。所定の実施態様では、予防的又は治療的コルチコステロイドを含む医薬品
は、少なくとも約3、4、5、6、7、8、9、10週間又はそれ以上の継続期間にわたって投与
してもよい。
【0055】
本発明は又、血友病Bに罹患している幼若対象の治療用医薬品の調製のための治療的有
効量の組換えAAV第IX因子ウイルスの使用に関する。所定の実施態様では、AAV第IX因子ウ
イルスは第IX因子R338Lを発現する。医薬品は任意で、前記記載のように製剤化されても
よい。好ましい実施態様では、血友病Bに罹患している幼若対象はヒトである。一の実施
態様では、医薬品は静脈内(IV)投与で投与される。本発明の一の態様では、医薬品の投与
は、少なくとも約5 IU/dlの第IX因子タンパク質の対象の血流中での発現を生じ、好まし
くは、少なくとも約5 IU/dlの幼若対象血流中の第IX因子タンパク質を、投与後16週間又
はそれ以上の間、発現する。所定の実施態様では、医薬品は又、予防的及び/又は治療的
コルチコステロイドを、AAV第IX因子ウイルスの投与と関係するいずれの肝毒性をも防止
及び/又は処置するために含む。予防的又は治療的コルチコステロイド処置を含む医薬品
は、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60 mg/日、又はそれ以上
のコルチコステロイドを含むことができる。所定の実施態様では、予防的又は治療的コル
チコステロイドを含む医薬品は、少なくとも約3、4、5、6、7、8、9、10週間又はそれ以
上の継続期間にわたって投与してもよい。
【0056】
本発明は又、血友病Aに罹患している幼若対象の出血事象における出血時間を減少させ
るために使用する、治療的有効量の組換えAAV第VIII因子ウイルスを含む組成物に関する
。一の実施態様では、AAV第VIII因子ウイルスはAAV5-FVIII-SQである。組成物は任意で、
前記記載のように製剤化されてもよい。好ましい実施態様では、血友病Aに罹患している
幼若対象はヒトである。組成物は、出血事象前に投与してもよい。一の実施態様では、組
成物は、出血事象前に静脈内(IV)投与で投与される。本発明の一の態様では、投与ステッ
プは、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10 IU/dl又はそれ以上の、幼若対象血
流中での第VIII因子タンパク質、好ましくは少なくとも約5 IU/dlの幼若対象血流中での
第VIII因子タンパク質の発現を生じる。所定の実施態様では、投与ステップは、少なくと
も約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10 IU/dl又はそれ以上の幼若対象血流中での第VIII因
子タンパク質を、投与後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17
、18、19、20週間、又はそれ以上の間、発現させる。所定の実施態様では、出血時間を減
少させるために使用する、治療的有効量のAAV第VIII因子ウイルスを含む組成物は、前記
記載のように、AAV第VIII因子ウイルスの投与と関係するいずれの肝毒性をも防止及び/
又は処置するために使用する、予防的及び/又は治療的コルチコステロイドを含む組成物
と共に投与される。
【0057】
本発明は又、血友病Aに罹患している幼若対象の出血事象における出血時間を減少させ
るために使用する、治療的有効量の組換えAAV第IX因子ウイルスを含む組成物に関する。
一の実施態様では、AAV第IX因子は第IX因子R338Lを発現する。組成物は任意で、前記記載
のように製剤化されてもよい。好ましい実施態様では、血友病Aに罹患している幼若対象
はヒトである。組成物は、出血事象前に投与してもよい。一の実施態様では、組成物は、
出血事象前に静脈内(IV)投与で投与される。本発明の一の態様では、投与ステップは、少
なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10 IU/dl又はそれ以上の、幼若対象血流中での
第IX因子タンパク質、好ましくは少なくとも約5 IU/dlの幼若対象血流中での第IX因子タ
ンパク質の発現を生じる。所定の実施態様では、投与ステップは、少なくとも約1、2、3
、4、5、6、7、8、9、10 IU/dl又はそれ以上の幼若対象血流中での第IX因子タンパク質を
、投与後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20週
間、又はそれ以上の間、発現させる。所定の実施態様では、出血時間を減少させるために
使用する、治療的有効量のAAV第IX因子ウイルスを含む組成物は、前記記載のように、AAV
第IX因子ウイルスの投与と関係するいずれの肝毒性をも防止及び/又は処置するために使
用する、予防的及び/又は治療的コルチコステロイドを含む組成物と共に投与される。
【0058】
本発明は又、PKUに罹患している幼若対象の治療用医薬品の調製のための治療的有効量
の組換えAAV PAHウイルスの使用に関する。医薬品は任意で、前記記載のように製剤化さ
れてもよい。好ましい実施態様では、PKUに罹患している幼若対象はヒトである。一の実
施態様では、医薬品は、静脈内(IV)投与で投与される。本発明の一の態様では、医薬品の
投与は、幼若対象の血流中のフェニルアラニン濃度を低下させるのに充分なPAHタンパク
質の発現を、投与後16週間又はそれ以上の間、対象の血流中で生じる。所定の実施態様で
は、医薬品は又、予防的及び/又は治療的コルチコステロイドを、AAV PAHウイルスの投
与と関係するいずれの肝毒性をも防止及び/又は処置するために含む。予防的又は治療的
コルチコステロイド処置を含む医薬品は、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、4
5、50、55、60 mg/日、又はそれ以上のコルチコステロイドを含むことができる。所定の
実施態様では、予防的又は治療的コルチコステロイドを含む医薬品は、少なくとも約3、4
、5、6、7、8、9、10週間又はそれ以上の継続期間にわたって投与してもよい。
【0059】
本発明は又、それを必要としている幼若対象において機能的な治療用タンパク質の発現
を誘導する方法に関し、その方法は本明細書記載の治療用タンパク質を発現する組換えAA
Vウイルスを対象へ投与するステップを含み、そのAAVウイルスは任意で、本明細書記載の
ように製剤化されてもよく、その投与は、機能的な治療用タンパク質の発現の増加、又は
対象の血流中の機能的な治療用タンパク質濃度の増加を生じる。好ましい実施態様では、
必要としている対象はヒトである。一の実施態様では、投与ステップは、静脈内(IV)投与
で行われる。本発明の一の態様では、投与ステップは、好ましくは、正常な幼若対象で観
察される治療用タンパク質レベルの少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50
%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%、140%、又は150%までの治療用タンパ
ク質の、幼若対象の血流中での発現を生じる。所定の実施態様では、投与ステップは、正
常な幼若対象で観察される治療用タンパク質レベルの少なくとも約5%、10%、15%、20%、2
5%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%、140%、又は150%で
の幼若対象の血流中での発現を、投与後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、1
4、15、16、17、18、19、20週間、又はそれ以上の間生じる。
【0060】
所定の実施態様では、治療用タンパク質を発現するAAVウイルスの投与に併せて、対象
へ、予防的若しくは治療的のいずれか、又はそれらの両方のためにコルチコステロイド処
置を行い、前記記載のように、AAVウイルスの投与と関係するいずれの肝毒性をも防止及
び/又は処置する。更に、本発明のいずれかの方法では、治療用タンパク質の発現を増加
させるためのAAVウイルスの投与後に、対象の血清中の抗AAVカプシド抗体の不存在又は存
在を決定する。対象が血清中に抗AAVカプシド抗体を有すると決定された場合は、血清中
に抗AAVカプシド抗体を有する対象へ有効量のコルチコステロイドを投与することも考慮
される。
【0061】
本発明は又、それを必要としている幼若対象において機能的な治療用タンパク質の発現
を誘導する医薬品の調製のための本発明のAAVウイルスの使用に関し、この組換えAAVウイ
ルスは本明細書に記載された治療用タンパク質を発現し、この医薬品は任意で、本明細書
記載のように製剤化されてもよく、機能的な治療用タンパク質の発現の増加、又は対象の
血流中の機能的な治療用タンパク質濃度の増加を生じる。好ましい実施態様では、医薬品
は、必要とするヒト対象へ投与される。一の実施態様では、医薬品は、静脈内(IV)投与で
投与される。本発明の一の態様では、医薬品の投与は、好ましくは、正常な幼若対象で観
察される治療用タンパク質レベルの、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、
50%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%、140%、又は150%までの幼若対象の
血流中での治療用タンパク質の発現を生じる。所定の実施態様では、医薬品の投与は、正
常な幼若対象で観察される治療用タンパク質レベルの少なくとも約5%、10%、15%、20%、2
5%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%、140%、又は150%で
の幼若対象の血流中での発現を、投与後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、1
4、15、16、17、18、19、20週間、又はそれ以上の間生じる。
【0062】
所定の実施態様では、治療用タンパク質を発現するAAVウイルスの投与に併せて、対象
へ、予防的若しくは治療的のいずれか、又はそれらの両方のためにコルチコステロイド処
置を行い、前記記載のように、AAVウイルスの投与と関係するいずれの肝毒性をも防止及
び/又は処置する。更に、本発明のいずれかの使用では、治療用タンパク質の発現を増加
させるための医薬品の投与後に、対象の血清中の抗AAVカプシド抗体の不存在又は存在を
決定する。対象が血清中に抗AAVカプシド抗体を有すると決定された場合は、血清中に抗A
AVカプシド抗体を有する対象へ投与するための医薬品の調製のための有効量のコルチコス
テロイドの使用も考慮される。
【0063】
本発明は又、それを必要としている幼若対象において機能的な治療用タンパク質の発現
を誘導する組成物に関し、この組成物は、本明細書に記載された治療用タンパク質を発現
する組換えAAVウイルスを含み、本明細書記載のように任意で製剤化されてもよく、この
組成物の投与は、機能的な治療用タンパク質の発現の増加、又は対象の血流中の機能的な
治療用タンパク質濃度の増加を生じる。好ましい実施態様では、必要とする対象はヒトで
ある。一の実施態様では、組成物は、静脈内(IV)投与のために製剤化される。本発明の一
の態様では、組成物の投与は、好ましくは、正常な幼若対象で観察される治療用タンパク
質レベルの、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90
%、100%、110%、120%、130%、140%、又は150%までの幼若対象の血流中での治療用タンパ
ク質の発現を生じる。所定の実施態様では、組成物の投与は、正常な幼若対象で観察され
る治療用タンパク質レベルの少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%
、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%、140%、又は150%での幼若対象の血流中での
発現を、投与後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19
、20週間、又はそれ以上の間生じる。
【0064】
本発明の他の実施態様は、本明細書を読む当業者に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0065】
(図面の説明)
【
図1】
図1A及び1Bは、それぞれ研究実験設計の図解及び図表を提供する。簡単に言えば、対照成体マウス(8週齢)へAAV5-FVIII-SQ(3.5E13 vg/kgであり、マウスあたりおよそ8.9E11 vg)を単回投与した。幼若(2日齢)マウスを二つのコホートへ分けた。一方のコホートへは、成体マウスと同じ総量vg(8.9E11 vg/マウス)のAAV5-FVIII-SQを単回投与した。他方のコホートへは、成体マウスと同じvg/kg(3.5E13 vg/kg)のAAV5-FVIII-SQを単回投与した。
【0066】
【
図2】
図2は、(成体と同じ総量vgで投与した)幼若体は、成体と同じAAVウイルス性DNA取り込み能を有することを示す一連のグラフであり、左側グラフの肝臓第VIII因子DNA総量、及び右側グラフの肝臓内第VIII因子RNA総量に示されるとおりである。
【0067】
【
図3】
図3は、幼若マウスの体重(左側グラフ)及び肝臓重量(右側グラフ)の両方が、AAV5-FVIII-SQ投与後に急速に増加したことを示す一連のグラフである。
【0068】
【
図4】
図4は、AAV5-FVIII-SQは、ALT測定による決定では、幼若マウスの肝臓損傷を引き起こさなかったことを示すグラフである。
【0069】
【
図5】
図5は、幼若マウスは、成体期において、治療用第VIII因子レベルを維持するためには、成体と同じベクターゲノム総量を必要とすることを示す一連のグラフである。成体と同じベクターゲノム総量(8.9E11 vg/マウスであり、およそ4.5E14 vg/kgと同等)又は成体と同じ体重あたりvg(3.5E13 vg/kg)を投与した幼若マウスにおいて各時点の、左パネルは血漿第VIII因子濃度を示し、右パネルは循環性の第VIII因子総量を示す。どちらのパネルにおいても、これら値は3.5E13 vg/kgで処置された成体と比較される。循環性のFVIII総量は、血漿FVIII濃度に推定血液体積(この場合、推定血液体積は体重の10%)を掛けて決定された。
【0070】
【
図6】
図6A及び6B。
図6Aは、AAV5-FVIII-SQで処置した成体マウスからの肝臓切片中のAAV5カプシドの免疫組織化学的分析である。
図6Bは、AAV5-FVIII-SQで処置した幼若マウスからのAAV5カプシドのウエスタンブロット分析である。
【0071】
【
図7】
図7は、PKU対象の肝臓中のPAH発現のための最適条件を決定する研究実験の全体設計を示す表である。
【0072】
【
図8】
図8A~8Cは、2×10
14 vg/kgのAAV5-PAH又はビヒクルを投与する前及び投与後第8週までの、AAV-及びビヒクル処置した全ENUマウスの各群の体重(g;平均±SEM)を提供する。
図8Aは、処置前の体重を示す。
図8Bは、投与後第4週での体重を示す。
図8Cは、投与後第8週での体重を示す。* p<0.05、**** p,0.0001は一元配置ANOVAで決定した。
【0073】
【
図9】
図9A~9Bは、2×10
14 vg/kgのAAV5-PAH又はビヒクルを投与する前及び投与後第8週までの、AAV-及びビヒクル処置した全ENUマウスの各群の血漿PHE濃度(μM;平均±SEM)を提供する。
図9Aは、投与後第4週での血漿PHE濃度を示す。
図9Bは、投与後第8週での血漿PHE濃度を示す。* p<0.05、**** p,0.0001は一元配置ANOVAで決定した。
【発明を実施するための形態】
【0074】
(詳細な説明)
本発明は、機能的に活性な治療用タンパク質をコードするAAVベクター(例えば、完全に
パッケージされたAAV第VIII因子ベクター、AAV第IX因子ベクター、及びAAV PAHベクター)
を提供する。本発明の組換えAAV治療用タンパク質ベクターは、導入遺伝子発現が改良さ
れ、かつAAVウイルス生成収率も改良され、精製が簡易化されている。1以上のイントロン
を治療用タンパク質のコード化領域に導入することにより発現が強化される。エンハンサ
ーの数及び位置付けを再設定することによっても発現が増強される。
【0075】
(AAVベクター)
本明細書で使用される用語「AAV」は、アデノ随伴ウイルスの一般的な略語である。ア
デノ随伴ウイルスは、その細胞内で同時感染しているヘルパーウイルスによってある特定
の機能が与えられるような細胞内でのみ増殖する、一本鎖DNAパルボウイルスである。現
在、13種の特徴付けられているAAV血清型が存在する。AAVの概説及び総説は、例えば、Ca
rterの文献、1989, Handbook of Parvoviruses, Vol. 1, pp. 169-228;及びBernsの文献
、1990, Virology, pp. 1743-1764, Raven Press,(New York)に見出すことができる。し
かし、様々な血清型は、遺伝子レベルにおいてでさえ、構造及び機能の両方の面で、極め
て密接に関連していることは周知であるため、これらと同一の原理が追加的なAAV血清型
に適用可能であることは充分に予想できる。(例えば、Blackloweの文献、1988, Parvovir
uses and Human Disease, J. R. Pattison編のpp. 165-174;及びRoseの文献、Comprehens
ive Virology 3:1-61(1974)を参照)。例えば、全てのAAV血清型は、明らかに、相同rep遺
伝子を介して生じる非常に類似する複製特性を示し;かつ、全てが3つの関連カプシドタン
パク質を有している。関連性の度合いは、ゲノム長の全体にわたる血清型間の広範なクロ
スハイブリダイゼーションを明らかにするヘテロ二本鎖解析;及び「逆方向末端反復配列
」(ITR)に相当する末端での類似のセルフアニーリングセグメントの存在、によって更に
示唆される。類似の感染性パターンも又、各血清型での複製機能が類似の制御管理下にあ
ることを示唆する。
【0076】
本明細書で使用される「AAVベクター」とは、AAV末端反復配列(ITR)に隣接し、かつ1以
上の発現調節エレメントと機能的に連結している、1以上の目的のポリヌクレオチド(又は
導入遺伝子)を含むベクターを指す。このようなAAVベクターは、rep及びcap遺伝子産物を
コードして発現するベクターでトランスフェクトされた宿主細胞内に存在する場合、複製
され、感染性ウイルス性粒子内にパッケージされることができる
【0077】
「AAVウイルス粒子(AAV virion)」又は「AAVウイルス性粒子(AAV viral particle)」又
は「AAVベクター粒子」とは、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質及びカプシド形成
されたポリヌクレオチドAAVベクターから構成されるウイルス性粒子を指す。この粒子が
、異種ポリヌクレオチド(即ち、哺乳類細胞に送達するための導入遺伝子等の、野生型AAV
ゲノム以外のポリヌクレオチド)を含む場合、それは、通常、「AAVベクター粒子」又は単
に「AAVベクター」と称される。従って、ベクターはAAVベクター粒子内に含有されること
から、AAVベクター粒子の生成には必然的にAAVベクターの生成が含まれる。
【0078】
AAVの「rep」遺伝子及び「cap」遺伝子はそれぞれ、複製タンパク質及びカプシド形成
タンパク質をコードする遺伝子である。AAVのrep遺伝子及びcap遺伝子は、現在までに調
査された全てのAAV血清型において見出されており、本明細書及び引用した参考文献にも
記載されている。野生型AAVでは、rep遺伝子及びcap遺伝子は通常、ウイルス性ゲノム内
で互いに近接して見出され(即ち、これらは隣接又は重複する転写単位として共に「連結
」している)、これらは通常、AAV血清型の間で保存されている。又、AAVのrep遺伝子及び
cap遺伝子は、個々に、及び集合的に、「AAVパッケージング遺伝子」とも称される。本発
明におけるAAV cap遺伝子はCapタンパク質をコードし、それはrep及びアデノヘルパー機
能の存在下でAAVベクターをパッケージングすることが可能であり、かつ標的細胞受容体
と結合することも可能なものである。幾つかの実施態様では、AAV cap遺伝子は、特定のA
AV血清型に由来するアミノ酸配列を有するカプシドタンパク質をコードする。
【0079】
AAVの生成に使用されるAAV配列は、いかなるAAV血清型のゲノムに由来していてもよい
。通常、AAV血清型は、アミノ酸レベル及び核酸レベルで有意に相同的なゲノム配列を有
し、類似の一連の遺伝的機能を提供し、本質的に物理的かつ機能的に等価なウイルス粒子
を生成し、実際上ほぼ同一の機構により複製及び構築を行う。AAV血清型のゲノム配列及
びゲノム類似性の考察について。(例えば、GenBank寄託番号U89790;GenBank寄託番号J019
01;GenBank寄託番号AF043303;GenBank寄託番号AF085716;Chioriniらの文献、J. Vir.(199
7)vol. 71, pp. 6823-6833; Srivastavaらの文献、J. Vir.(1983)vol. 45, pp. 555-564;
Chioriniらの文献、J. Vir.(1999)vol. 73, pp. 1309-1319; Rutledgeらの文献、J. Vir
.(1998)vol. 72, pp. 309-319;及びWuらの文献、J. Vir.(2000)vol. 74, pp. 8635-8647
を参照のこと)。
【0080】
全ての公知のAAV血清型のゲノム構成は非常に似ている。AAVのゲノムは、約5,000ヌク
レオチド(nt)長未満の直鎖状一本鎖DNA分子である。逆方向末端反復(ITR)は、構造に関係
しない複製(Rep)タンパク質及び構造(VP)タンパク質に特有のコード化ヌクレオチド配列
と隣接している。VPタンパク質はカプシドを形成する。末端の145ntは自己相補的であり
、T字形ヘアピンを形成するエネルギー的に安定な分子内二本鎖が形成され得るように構
成されている。これらのヘアピン構造は、ウイルス性DNA複製の開始点として機能し、細
胞性DNAポリメラーゼ複合体のプライマーとして働く。Rep遺伝子は、Repタンパク質、Rep
78、Rep68、Rep52、及びRep40をコードする。Rep78及びRep68はp5プロモーターから転写
され、Rep52及びRep40はp19プロモーターから転写される。cap遺伝子は、VPタンパク質、
VP1、VP2、及びVP3をコードする。cap遺伝子はp40プロモーターから転写される。本発明
のベクターで採用されるITRは、関係するcap遺伝子と同じ血清型に対応しても、違う血清
型に対応してもよい。特に好ましい実施態様では、本発明のベクター内で採用されるITR
はAAV2血清型に対応し、cap遺伝子はAAV5血清型に対応する。
【0081】
幾つかの実施態様では、AAVカプシドタンパク質をコードする核酸配列は、Sf9細胞又は
HEK細胞等の特定の細胞型における発現のための発現調節配列に機能的に連結している。
昆虫宿主細胞又は哺乳類宿主細胞内で異種遺伝子を発現するための、当業者に公知の技術
が、本発明を実施するために使用できる。昆虫細胞内でのポリペプチドの分子エンジニア
リング及び発現のための方法論は、例えば、Summers及びSmithの文献、(1986)A Manual o
f Methods for Baculovirus Vectors and Insect Culture Procedures, Texas Agricultu
ral Experimental Station Bull. No. 7555, College Station, Tex.; Luckowの文献(199
1)Prokopら著の文献中、Cloning and Expression of Heterologous Genes in Insect Cel
ls with Baculovirus Vectors' Recombinant DNA Technology and Applications, 97-152
; King, L. A.及びR. D. Posseeの文献、(1992)The baculovirus expression system, Ch
apman及びHall, United Kingdom; O'Reilly, D. R., L. K. Miller, V. A. Luckowの文献
、(1992)Baculovirus Expression Vectors: A Laboratory Manual, New York; W.H. Free
man及びRichardson C. D.の文献、(1995)Baculovirus Expression Protocols, Methods i
n Molecular Biology, volume 39;米国特許番号第4,745,051号;米国出願公開番号第20031
48506号;並びに国際公開番号WO03/074714号に記載されており、これら全てはその全体が
引用により組み込まれている。AAVカプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列の
転写に特に適したプロモーターは、例えば、多角体プロモーターである。しかし、昆虫細
胞において活性な他のプロモーター、例えば、p10、p35又はIE-1プロモーターも当分野で
公知であり、更に、上記の参考文献に記載されたプロモーターも又考慮される。
【0082】
異種タンパク質の発現のための昆虫細胞の使用は、ベクター、例えば昆虫細胞適合性ベ
クター等の核酸を、そのような細胞に導入する方法、及びそのような細胞を培養液中で維
持する方法のように、文書により充分に裏付けられている。(例えば、METHODS IN MOLECU
LAR BIOLOGY, Richard編、Humana Press, N J(1995); O'Reillyらの文献、BACULOVIRUS E
XPRESSION VECTORS, A LABORATORY MANUAL, Oxford Univ. Press(1994); Samulskiらの文
献、J. Vir.(1989)vol. 63, pp.3822-3828; Kajigayaらの文献、Proc. Nat'l. Acad. Sci
. USA(1991)vol. 88, pp. 4646-4650; Ruffingらの文献、J. Vir.(1992)vol. 66, pp. 69
22-6930; Kirnbauerらの文献、Vir.(1996)vol. 219, pp. 37-44; Zhaoらの文献、Vir.(20
00)vol. 272, pp. 382-393;及び米国特許番号第6,204,059号を参照のこと)。幾つかの実
施態様では、昆虫細胞におけるAAVをコードする核酸構築物は、昆虫細胞適合性のあるベ
クターである。本明細書で使用される「昆虫細胞適合性のあるベクター」又は「ベクター
」は、昆虫又は昆虫細胞の増殖性形質転換又はトランスフェクションが可能である核酸分
子を指す。例示的な生物学的ベクターには、プラスミド、直鎖状核酸分子、及び組換えウ
イルスが含まれる。昆虫細胞適合性があればいかなるベクターも使用可能である。ベクタ
ーは昆虫細胞ゲノム内に組み込まれ得るが、ベクターの昆虫細胞内での存在は永続的であ
る必要はなく、一過性のエピソーム性ベクターも又含まれる。ベクターは、全ての既知の
手段によって、例えば、細胞の化学的処理、エレクトロポレーション、又は感染によって
、導入できる。幾つかの実施態様では、ベクターは、バキュロウイルス、ウイルス性ベク
ター、又はプラスミドである。更に好ましい実施態様では、ベクターはバキュロウイルス
であり、即ち、構築物がバキュロウイルス性ベクターである。バキュロウイルス性ベクタ
ー及びそれらの使用法は、昆虫細胞の分子工学に関する上記の参考文献に記載されている
。
【0083】
バキュロウイルスは、節足動物のエンベロープ型DNAウイルスであり、そのうちの2つの
メンバーは細胞培養液中で組換えタンパク質を生成するための周知の発現ベクターである
。バキュロウイルスは、特定の細胞への巨大なゲノム内容物の送達を可能にするように遺
伝子操作可能な、環状二本鎖ゲノム(80~200kbp)を有する。ベクターとして使用されるウ
イルスは、一般的には、オートグラファ・カリフォルニカ多カプシド核多角体病ウイルス
(AcMNPV)又はカイコガ核多角体病ウイルス((Bm)NPV)である。
【0084】
バキュロウイルスは、通常、組換えタンパク質の発現のための昆虫細胞の感染に使用さ
れる。特に、昆虫における異種遺伝子の発現は、例えば、米国特許番号第4,745,051号; F
riesenらの文献(1986);欧州特許番号EP127,839号;EP155,476号;Vlakらの文献(1988); Mil
lerらの文献(1988); Carbonellらの文献(1988); Maedaらの文献(1985); Lebacq-Verheyde
nらの文献(1988); Smithらの文献(1985); Miyajimaらの文献(1987);及びMartinらの文献(
1988)に記載されているように達成できる。タンパク質産生に使用できる多数のバキュロ
ウイルス株及びバリアント並びに対応する許容できる昆虫宿主細胞が、Luckowらの文献(1
988)、Millerらの文献(1986);Maedaらの文献(1985);及びMcKennaの文献(1989)に記載され
ている。
【0085】
(組換えAAVの生成方法)
本開示は、昆虫細胞又は哺乳類細胞内で組換えAAVを生成するための材料及び方法を提
供する。幾つかの実施態様では、ウイルス性構築物は、1以上の目的タンパク質をコード
するポリヌクレオチドの挿入を可能にするための、プロモーター及びプロモーターの下流
の制限部位を更に含み、そのプロモーター及び制限部位は、5' AAV ITRの下流かつ3' AAV
ITRの上流に位置する。幾つかの実施態様では、ウイルス性構築物は、更に、制限部位の
下流かつ3' AAV ITRの上流の転写後調節エレメントを含む。幾つかの実施態様では、ウイ
ルス性構築物は更に、制限部位に挿入されてプロモーターと機能的に連結されたポリヌク
レオチドを含み、そのポリヌクレオチドは目的タンパク質のコード化領域を含む。当業者
に理解されるように、本出願で開示されるAAVベクターのどれ1つでも、組換えAAVを生成
するためのウイルス性構築物として前記方法で使用できる。
【0086】
幾つかの実施態様では、ヘルパー機能は、アデノウイルス性又はバキュロウイルス性ヘ
ルパー遺伝子を含む1以上のヘルパープラスミド又はヘルパーウイルスによって提供され
る。アデノウイルス性又はバキュロウイルス性ヘルパー遺伝子の非限定例としては、限定
するものではないが、AAVパッケージングにヘルパー機能を提供できるE1A、E1B、E2A、E4
及びVAが挙げられる。
【0087】
AAVのヘルパーウイルスは、当分野で公知であり、例えばアデノウイルス科ファミリー
及びヘルペスウイルス科ファミリーに由来するウイルスが含まれる。AAVのヘルパーウイ
ルスの例には、限定するものではないが、米国出願公開第20110201088号(この開示は引用
により本明細書中に組み込まれる)に記載されるSAdV-13ヘルパーウイルス及びSAdV-13類
似ヘルパーウイルス、ヘルパーベクターpHELP(Applied Viromics)が含まれる。適切なヘ
ルパー機能をAAVに与えることのできる、いかなるAAVのヘルパーウイルス又はヘルパープ
ラスミドも、本明細書で使用可能であることは、当業者に理解される。
【0088】
幾つかの実施態様では、AAV cap遺伝子はプラスミド内に存在する。プラスミドは更に
、cap遺伝子のものと同一の血清型に対応しても、対応しなくてもよいAAV rep遺伝子を含
むことができる。いかなるAAV血清型(限定するものではないが、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5
、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13及びその全てのバリアントを含
む)に由来するcap遺伝子及び/又はrep遺伝子が、組換えAAVを生成するために本明細書で
使用できる。幾つかの実施態様では、AAV cap遺伝子は、血清型1、血清型2、血清型4、血
清型5、血清型6、血清型7、血清型8、血清型9、血清型10、血清型11、血清型12、血清型1
3又はそのバリアントに由来するカプシドをコードする。
【0089】
幾つかの実施態様では、昆虫細胞又は哺乳類細胞は、ヘルパープラスミド又はヘルパー
ウイルス、ウイルス性構築物、及びAAV cap遺伝子をコードするプラスミドでトランスフ
ェクトすることができ;組換えAAVウイルスは、同時トランスフェクション後の様々な時点
において採取できる。例えば、組換えAAVウイルスは、同時トランスフェクションの約12
時間後、約24時間後、約36時間後、約48時間後、約72時間後、約96時間後、約120時間後
、又はこれらいずれか2つの時点の間の時間に、採取できる。
【0090】
組換えAAVも又、感染性組換えAAVを生成するために適切な、当分野で公知のいかなる従
来法を用いても生成できる。幾つかの例では、組換えAAVは、AAV粒子生成に必要な構成要
素の幾つかを安定して発現する昆虫細胞又は哺乳類細胞を用いて生成できる。例えば、AA
V rep遺伝子及びAAV cap遺伝子、並びにネオマイシン耐性遺伝子等の選択マーカーを含む
プラスミド(又は複数のプラスミド)が、細胞のゲノム内に組み込まれ得る。昆虫細胞又は
哺乳類細胞は次に、ヘルパーウイルス(例えば、ヘルパー機能を与えるアデノウイルス又
はバキュロウイルス)、並びに5' AAV ITR及び3' AAV ITR(及び、必要であれば、異種タン
パク質をコードするヌクレオチド配列)を含むウイルス性ベクターに同時感染され得る。
この方法の利点は、細胞が選択可能であること、及び組換えAAVの大規模生産に適してい
ることである。別の非限定的例として、プラスミドではなく、アデノウイルス又はバキュ
ロウイルスが、rep遺伝子及びcap遺伝子をパッケージング細胞に導入するために使用でき
る。更に別の非限定的例として、5' AAV LTR及び3' AAV LTRを含有するウイルスベクター
並びにrep-cap遺伝子の両方がプロデューサー細胞のDNA内に安定に組み込まれ得、ヘルパ
ー機能が野生型アデノウイルスによって提供されて組換えAAVを生成できる。
【0091】
(AAV生成で使用される細胞型)
本発明のAAVベクターを含むウイルス性粒子は、AAV又は生物学的産物の生成を可能にし
、培養で維持できる、いかなる無脊椎動物細胞型を用いても生成し得る。例えば、使用さ
れる昆虫細胞株は、SF9、SF21、SF900+等のヨトウガ(Spodoptera frugiperda)由来でも
よく、ショウジョウバエ細胞株、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)由来細胞株等の蚊細
胞株、カイコガ(Bombyx mori)細胞株等の家蚕細胞株、High Five細胞等のイラクサギンウ
ワバ(Trichoplusia ni)細胞株、又は、アスカラパ・オドラタ(Ascalapha odorata)細胞株
等の鱗翅目細胞株でもよい。好ましい昆虫細胞は、バキュロウイルスに感染し易い昆虫種
由来の細胞であり、High Five、Sf9、Se301、SeIZD2109、SeUCR1、Sf9、Sf900+、Sf21、
BTI-TN-5B1-4、MG-1、Tn368、HzAm1、BM-N、Ha2302、Hz2E5及びAo38を含む。
【0092】
バキュロウイルスは、節足動物のエンベロープ型DNAウイルスであり、そのうちの2つの
メンバーは細胞培養液中で組換えタンパク質を生成するための周知の発現ベクターである
。バキュロウイルスは、特定の細胞への巨大なゲノム内容物の送達を可能にするように操
作可能な、環状二本鎖ゲノム(80~200kbp)を有する。ベクターとして使用されるウイルス
は、一般的には、オートグラファ・カリフォルニカ多カプシド核多角体病ウイルス(AcMNP
V)又はカイコガ(Bombyx mori)核多角体病ウイルス(BmNPV)である(Katoらの文献2010)。
【0093】
バキュロウイルスは、通常、組換えタンパク質の発現のための昆虫細胞の感染に使用さ
れる。特に、昆虫における異種遺伝子の発現は、例えば、米国特許番号第4,745,051号; F
riesenらの文献(1986);欧州特許番号EP127,839号;EP155,476号;Vlakらの文献(1988); Mil
lerらの文献(1988); Carbonellらの文献(1988); Maedaらの文献(1985); Lebacq-Verheyde
nらの文献(1988); Smithらの文献(1985); Miyajimaらの文献(1987);及びMartinらの文献(
1988)に記載されているように達成できる。タンパク質産生に使用できる、多数のバキュ
ロウイルス株及びバリアント並びに対応する許容できる昆虫宿主細胞が、Luckowらの文献
、(1988), Millerらの文献(1986); Maedaらの文献(1985)及びMcKennaの文献(1989)に記載
されている。
【0094】
本発明の別の態様では、本発明の方法は又、AAVの複製又は生物学的産物の生成を可能
にし、培養中で維持可能な、全ての哺乳類細胞型を用いて実行される。好ましく使用され
る哺乳類細胞は、HEK293、HeLa、CHO、NSO、SP2/0、PER.C6、Vero、RD、BHK、HT 1080、A
549、Cos-7、ARPE-19、及びMRC-5細胞でもよい。
【0095】
(医薬製剤)
他の実施態様では、本発明は、遺伝的障害に罹患している対象への投与に有用な、治療
用タンパク質を発現するAAVベクター/ウイルス粒子の医薬製剤に関する。所定の態様では
、本発明の医薬製剤は、本明細書で開示されるベクターから生成される、組換え治療用タ
ンパク質を発現するAAVウイルス粒子を含む液体製剤であり、その製剤中の組換えAAVウイ
ルス粒子の濃度は、広く変化し得る。所定の実施態様では、製剤中の組換えAAVウイルス
粒子の濃度は、1E12 vg/ml~2E16 vg/mlの範囲でもよい。特に好ましい実施態様では、製
剤中の組換えAAVウイルス粒子の濃度は、約2E13 vg/mlである。好ましい実施態様では、
製剤中に存在する組換えAAVウイルス粒子は、AAV5-FVIII-SQに由来する。本発明の他の好
ましい実施態様では、製剤中に存在する組換えAAVウイルス粒子は、第IX因子を発現するA
AVベクター、又はPAHを発現するAAVベクターに由来する。
【0096】
他の態様では、本発明のAAV医薬製剤は、その製剤へ貯蔵及び/又は遺伝的障害の治療の
ための対象への投与に有利な特性を提供するために、1以上の医薬として許容し得る賦形
剤を含む。所定の実施態様では、本発明の医薬製剤は、-65℃で、少なくとも2週間、好ま
しくは少なくとも4週間、更に好ましくは少なくとも6週間及び、更により好ましくは少な
くとも約8週間は、検出可能な安定性の変化なしに貯蔵できる。この点に関して、用語「
安定」は、製剤中に存在する組換えAAVウイルスが、貯蔵中にその物理的安定性、化学的
安定性及び/又は生物学的活性を本質的に保持することを意味する。本発明の所定の実施
態様では、医薬製剤中に存在する組換えAAVウイルスは、-65℃での定められた期間の貯蔵
中に、ヒト患者におけるその生物学的活性の少なくとも約80%、更に好ましくは、幼若ヒ
ト対象におけるその生物学的活性の少なくとも約85%、90%、95%、98%又は99%を保持する
。
【0097】
所定の態様では、組換えAAVウイルス粒子を含む製剤は、更に1以上の緩衝剤を含む。例
えば、様々な態様では、本発明の製剤は、リン酸水素二ナトリウムを約0.1 mg/ml~約3 m
g/ml、約0.5 mg/ml~約2.5 mg/ml、約1 mg/ml~約2 mg/ml、又は約1.4 mg/ml~約1.6 mg/
mlの濃度で含む。特に好ましい実施態様では、本発明のAAV製剤は、約1.42 mg/mlのリン
酸水素二ナトリウム(無水)を含む。本発明の組換えAAV製剤で使用され得る別の緩衝剤は
、リン酸二水素ナトリウム一水和物であり、幾つかの実施態様では、約0.1 mg/ml~約3 m
g/ml、約0.5 mg/ml~約2.5 mg/ml、約1 mg/ml~約2 mg/ml、又は約1.3 mg/ml~約1.5 mg/
mlの濃度での使用が認められる。特に好ましい実施態様では、本発明のAAV製剤は、約1.3
8 mg/mlのリン酸二水素ナトリウム一水和物を含む。本発明の更に特に好ましい実施態様
では、本発明の組換えAAV製剤は、約1.42 mg/mlのリン酸水素二ナトリウム及び約1.38 mg
/mlのリン酸二水素ナトリウム一水和物を含む。
【0098】
別の態様では、本発明の組換えAAV製剤は、塩化ナトリウム等の1以上の等張化剤を、好
ましくは約1 mg/ml~約20 mg/ml、例えば約1 mg/ml~約10 mg/ml、約5 mg/ml~約15 mg/m
l、又は約8 mg/ml~約20 mg/mlの濃度で含み得る。特に好ましい実施態様では、本発明の
製剤は約8.18 mg/mlの塩化ナトリウムを含む。当分野で公知の他の緩衝剤及び等張化剤も
適切であり、本開示の製剤で使用するために、日常的に使用できる。
【0099】
別の態様では、本発明の組換えAAV製剤は、1以上の増量剤を含み得る。例示的な増量剤
には、限定するものではないがマンニトール、スクロース(ショ糖)、デキストラン、ラク
トース、トレハロース、及びポビドン(PVP K24)が含まれる。所定の好ましい実施態様で
は、本発明の製剤はマンニトールを含み、それは約5 mg/ml~約40 mg/ml、又は約10 mg/m
l~約30 mg/ml、又は約15 mg/ml~約25 mg/mlの量で存在し得る。特に好ましい実施態様
では、マンニトールは約20 mg/mlの濃度で存在する。
【0100】
更なる別の態様では、本発明の組換えAAV製剤は、1以上の界面活性剤を含むことができ
、それは非イオン性界面活性剤でもよい。例示的な界面活性剤には、イオン性界面活性剤
、非イオン性界面活性剤、及びそれらの組み合わせが含まれる。例えば、界面活性剤は、
限定するものではないが、TWEEN 80(ポリソルベート80、又はその化学的名称ポリオキシ
エチレンソルビタンモノオレアートとしても知られる)、ナトリウムドデシル硫酸塩、ス
テアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、TRITON AG 98(Rhone-Poulenc)、pol
oxamer 407、poloxamer 188等、及びそれらの組み合わせでもよい。特に好ましい実施態
様では、本発明の製剤は、poloxamer 188を含み、それは約0.1 mg/ml~約4 mg/ml、又は
約0.5 mg/ml~約3 mg/ml、約1 mg/ml~約3 mg/ml、約1.5 mg/ml~約2.5 mg/ml、又は約1.
8 mg/ml~約2.2 mg/mlの濃度で存在し得る。特に好ましい実施態様では、poloxamer 188
は約2.0 mg/mlの濃度で存在する。
【0101】
本発明の特に好ましい実施態様では、本発明の医薬製剤は、約1.42 mg/mlのリン酸水素
二ナトリウム、約1.38 mg/mlのリン酸二水素ナトリウム一水和物、約8.18 mg/mlの塩化ナ
トリウム、約20 mg/mlのマンニトール及び約2 mg/mlの poloxamer 188を含む液体溶液に
配合されたAAV5-FVIII-SQを含む。
【0102】
組換え治療用タンパク質を発現するAAVウイルスを含有する本開示の製剤は、安定して
おり、品質、効能、又は純度の非許容的な変化無しに長期間貯蔵可能である。一の態様で
は、製剤は、約5℃(例えば、2℃~8℃)の温度で、少なくとも1か月、例えば、少なくとも
1か月、少なくとも3か月、少なくとも6か月、少なくとも12か月、少なくとも18か月、少
なくとも24か月、又はそれ以上、安定である。別の態様では、製剤は、約-20℃以下の温
度で、少なくとも6か月、例えば、少なくとも6か月、少なくとも12か月、少なくとも18か
月、少なくとも24か月、少なくとも36か月、又はそれ以上、安定である。別の態様では、
製剤は、約-40℃以下の温度で、少なくとも6か月、例えば、少なくとも6か月、少なくと
も12か月、少なくとも18か月、少なくとも24か月、少なくとも36か月、又はそれ以上、安
定である。別の態様では、製剤は、約-60℃以下の温度で、少なくとも6か月、例えば、少
なくとも6か月、少なくとも12か月、少なくとも18か月、少なくとも24か月、少なくとも3
6か月、又はそれ以上、安定である。
【0103】
(治療方法)
所定の実施態様では、本発明は、遺伝的障害に罹患している対象を治療する方法であり
、対象へ治療的有効量の、治療用タンパク質を発現するAAVベクター又はそれと同じもの
を含む医薬組成物を投与することを含む方法に関する。この場合に、「治療的有効量」は
、投与後に、遺伝的障害の症状を少なくとも部分的に、好ましくは完全に改善するのに充
分なレベルで治療用タンパク質の発現をもたらすAAVベクターの量である。
【0104】
例えば、本発明は、癌腫、肉腫、白血病、リンパ腫等の癌;及び多発性硬化症等の自己
免疫性疾患を含む疾患又は障害の治療方法に関する。癌腫の非限定的例には、食道癌;肝
細胞癌;基底細胞癌、扁平細胞癌(様々な組織);移行細胞癌を含む膀胱癌;気管支原性癌;結
腸癌;結腸直腸癌;胃癌;肺の小細胞癌及び非小細胞癌を含む肺癌;副腎皮質癌;甲状腺癌;膵
臓癌;乳がん;卵巣癌;前立腺癌;腺癌;汗腺癌;皮脂腺癌;乳頭癌;乳頭腺癌;嚢胞腺癌; 髄様
癌;腎細胞癌; 非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ)又は胆管癌;絨毛癌; 精上皮腫
;胎児性癌;ウィルムス腫瘍;子宮頸癌;子宮癌;精巣癌;骨形成性癌;上皮(epithelieal)癌;
並びに上咽頭癌が含まれる。肉腫の非限定的例には、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟
骨肉腫、脊索腫、骨形成性肉腫、骨肉腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管
内皮腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、及び他の軟部組織
肉腫が含まれる。固形腫瘍の非限定的な例には、グリオーマ、星状細胞腫、髄芽細胞腫、
頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫(menangi
oma)、メラノーマ、神経芽細胞腫、及び網膜芽細胞腫が含まれる。白血病の非限定的例に
は、慢性骨髄増殖性症候群;急性骨髄性白血病;B細胞CLL、T細胞CLL前リンパ球性白血病、
及び毛様細胞白血病を含む慢性リンパ球性白血病;並びに急性リンパ芽球性白血病が含ま
れる。リンパ腫の例には、限定するものではないが、バーキットリンパ腫等のB細胞リン
パ腫;ホジキンリンパ腫;等が含まれる。本明細書において開示された、AAVベクター、組
換えウイルス及び方法を使用して治療できる疾患の他のノンリミング(non-liming)例には
、鎌状赤血球貧血、嚢胞性線維症、リソソーム酸性リパーゼ(LAL)欠損症1、テイサック
ス病、フェニルケトン尿症、ムコ多糖症、グリコーゲン貯蔵疾患(GSD、例えばGSD-I、II
、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、及びXIV型)、ガラクトース血症
、筋ジストロフィー(例えば、デュシェンヌ筋ジストロフィー)、ウィルソン病、遺伝性
血管性浮腫(HAE)、α1アンチトリプシン欠乏症、ファブリー病、ゴーシェ病、並びに血
友病A(古典的血友病)及び血友病B(クリスマス病)などの血友病を含む、遺伝子障害が
含まれる。更に、本明細書に開示されるAAVベクター、組換えウイルス及び方法は、肝臓
内での導入遺伝子の局所発現によって、又は肝臓若しくは肝細胞から分泌されたタンパク
質の発現によって治療することができる他の障害に使用することができる。
【0105】
好ましい実施態様では、本発明は、血友病Aに罹患している幼若対象の出血事象中の出
血時間を減少させる方法であって、その幼若対象へ治療的有効量のAAV FVIIIベクター、
組換えAAV FVIIIウイルス又はそれと同じものを含む医薬組成物を投与することを含む方
法に関する。この点において、血友病Aの治療又は血友病Aに罹患している対象の出血事象
中の出血時間を減少させる方法の使用に関しての「治療的有効量」は、1以上の次の:(1)
例えば、皮下出血、関節の痛み又は腫れ、長期の頭痛、嘔吐若しくは疲労を含む、血友病
Aの1以上の生理学的症状を、ある程度軽減、阻害、若しくは予防する、(2)血液凝固能を
改善する、(3)出血事象中の全出血時間を短縮する、(4)対象の血漿中の機能的なFVIIIタ
ンパク質の濃度若しくは活性の測定可能な増加を生じる投与をする、及び/又は(5)障害に
関連する1以上の症状を、ある程度軽減する、効果を達成できる量を指す。
【0106】
本明細書に記載された治療目的のための、AAVベクター若しくはウイルス又はそれと同
じものを含む医薬組成物の「治療的有効量」は、定められている経験的かつ日常的様式で
決定できる。特に好ましい実施態様では、幼若対象を治療するための治療用AAVウイルス
の治療的有効量は、成体対象で治療用応答を生成するために、決定、算出又は推定された
ウイルス性粒子の絶対数と同じである。従って、本発明は、 vg/kg 体重で測定した場合
に、AAVベクターを幼若対象へ、成体と比べてより高い用量で投与することを提供する。
いくつかの実施態様では、これは、 vg/kgで表した場合に、成体へ投与したAAVベクター
の2~15倍量に相当する。しかし、所定の実施態様では、組換えAAVウイルスの「治療的有
効量」は、約1E12 vg/kg体重~約1E14 vg/kg体重、好ましくは、約6E12 vg/kg体重~約6E
13 vg/kg体重の範囲である。好ましい実施態様では、組換えAAVウイルスの治療的有効量
は、約2E13 vg/kg体重である。別の好ましい実施態様では、組換えAAVウイルスの治療的
有効量は、約6E13 vg/kg体重である。
【0107】
本発明の組換えAAVベクター/ウイルスは、幼若対象へ、好ましくは哺乳類の幼若対象へ
、更に好ましくはヒト幼若対象へ、様々な公知の投与技術を介して投与されてもよい。好
ましい実施態様では、組換えAAV遺伝子療法ウイルスは静脈内投与により、単回ボーラス
で投与されるか、それとも少なくとも約1、5、10、15、30、45、60、75、90、120、150、
180、210若しくは240分、又はそれ以上でもよい長期間にわたって投与される。好ましい
実施態様では、投与された組換えAAVウイルスは第VIII因子、第IX因子、又はPAHを発現す
る。本発明の特に好ましい実施態様では、投与される組換えAAVウイルスはAAV5-FVIII-SQ
である。
【0108】
本発明の、組換えAAV FVIIIベクター/ウイルス、又はそれと同じものを含む医薬組成物
の投与は、好ましくは、対象の血漿中の機能的なFVIIIタンパク質活性を、投与前に対象
の血漿中に存在した機能的なFVIIIタンパク質活性の量と比較して、少なくとも1、2、3、
4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15 IU/dl、又はそれ以上、増加させる。所定の
実施態様では、本発明の組換えAAV FVIIIベクター/ウイルス、又はそれと同じものを含む
医薬組成物の投与は、対象の血漿中の機能的なFVIIIタンパク質活性を、少なくとも約1、
2、3、4、5、6、7、8、9、10 IU/dl又はそれ以上、発現させる。この点において、FVIII
活性に関する用語「IU」又は「国際単位(international unit)」は、よく理解されて受け
入れられている用語であり、1 IUのFVIII活性は、1mlの正常なヒト血漿中のFVIII量に相
当する。血漿中のFVIII活性は、多くの周知かつ一般に受け入れられているアッセイによ
り定量的に決定でき、それらアッセイは、例えば、活性化部分トロンボプラスチン時間(A
PPT)法(例えば、Miletich JPの文献: Activated partial thromboplastin time. In Will
iams Hematology. 第5版、E Beutler, M A Lichtman, B A Coller, T J Kipps編、New Yo
rk, McGraw-Hill, 1995, pp L85-86, Greaves及びPrestonの文献、Approach to the blee
ding patient. In Hemostasis and Thrombosis: Basic Principles and Clinical Practi
ce. 第4版、R W Colman, J Hirsh, V J Marderら編、Philadelphia, JB Lippincott Co,
2001, pp 1197-1234及びOlsonらの文献、(1998)Arch. Pathol. Lab. Med., vol. 122, pp
. 782-798を参照のこと)又は発色性FXaアッセイ(Harrisらの文献、(2011)Thromb. Res.,
vol. 128, pp. 125-129)を含む。
【0109】
本発明の他の実施態様では、対象における出血時間は、周知で一般に取り入れられてい
る技術により測定でき、その技術は、例えばアイビー(Ivy)法(例えば、Ivyらの文献(1935
)Surg. Gynec. Obstet., vol. 60, page 781(1935)及びIvyらの文献(1941)J. Lab. Clin.
Med., vol. 26, page 1812を参照のこと)又はデューク(Duke)法(例えば、Dukeらの文献(
1910)JAMA, vol. 55, page 1185を参照のこと)を含む。対象における「出血事象」とは、
外因性又は内因性のいずれかで、対象の出血を引き起こす損傷を指し、一般的に損傷発生
から血餅の形成までの時間を含む。
【0110】
幼若対象におけるPKUを治療するためのPAHを発現するAAVベクターに関する本発明の態
様では、AAVベクターの有効性は、処置した幼若対象の血中のフェニルアラニンレベルを
測定することによって検出できる。循環しているフェニルアラニンのレベルを決定するた
めの正確な定量化アッセイは当分野で公知であり、蛍光定量アッセイ(McCaman,M.W.及びR
obins,E.の文献、(1962)J. Lab. Clin. Med., vol. 59, pp. 885-890を参照のこと); 薄
層クロマトグラフィーベースのアッセイ(Tsukerman,G.L.の文献、(1985)Laboratornoe de
lo, vol. 6, pp. 326-327を参照のこと);酵素アッセイ(La Du, B. N.らの文献、(1963)Pe
diatrics, vol. 31, pp. 39-46;及びPeterson, K.らの文献、(1988)Biochem. Med. Metab
. Biol., vol. 39, pp. 98-104を参照のこと);高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用
する方法(Rudy, J. L.らの文献、(1987)Clin. Chem., vol. 33, pp. 1152-1154を参照の
こと);及びハイスループット自動化技術(Hill, J. B.らの文献、(1985)Clin. Chem., vol
. 5, pp. 541-546を参照のこと)が含まれる。
【0111】
本発明のAAVウイルスの投与は、場合によっては、観察可能な程度の肝毒性をもたらす
可能性がある。肝毒性は、周知で日常的に使用されている様々な技術によって測定でき、
例えば、対象の血流中の所定の肝臓関連酵素(例えば、アラニントランスアミナーゼ、ALT
)の濃度をAAV投与前(即ち、ベースライン)及びAAV投与後の両方で測定する。(投与前と比
較して)AAV投与後のALT濃度の観察可能な増加は、薬物誘発された肝毒性を示す。本発明
の所定の実施態様では、治療的な有効量のAAVウイルスの投与に加えて、対象は、予防的
、治療的のいずれか又はその両方のためにコルチコステロイドで処置されて、AAVウイル
スの投与に関係するいずれの肝毒性も防止及び/又は治療することができる。
【0112】
「予防的」なコルチコステロイド処置は、肝毒性を防止し及び/又は対象で測定されるA
LTレベルの増加を防止するための、コルチコステロイドの投与を指す。「治療的」なコル
チコステロイド処置は、AVVウイルスの投与により引き起こされた肝毒性を低下させるた
めの、及び/又は、AVVウイルスの投与により引き起こされた対象の血流内の上昇したALT
濃度を低下させるための、コルチコステロイドの投与を指す。所定の実施態様では、予防
的又は治療的コルチコステロイド処置は、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、4
5、50、55、60 mg/日又はそれ以上のコルチコステロイドの対象への投与を含むことがで
きる。所定の実施態様では、対象の予防的又は治療的コルチコステロイド処置は、少なく
とも約3、4、5、6、7、8、9、10週、又はそれ以上の継続的期間、行われてもよい。本明
細書に記載された方法において使用されるコルチコステロイドは、公知の又は日常的に使
用されるいずれのコルチコステロイドも含み、例えば、デキサメサゾン、プレドニゾン、
フルドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン等を含む。
【0113】
(抗AAV抗体の検出)
全身的なAAVを介した治療的遺伝子導入による肝臓形質導入成功の可能性を最大化する
ために、上記のようなヒト患者の治療レジメンではAAVベクターの投与前に、治療予定患
者は、細胞の形質導入を阻止する可能性があるか、そうでなければ治療レジメンの全体効
能を減少させる可能性のある抗AAVカプシド抗体の存在について評価されてもよい。その
ような抗体は、予定患者の血清中に存在する可能性があり、いずれかの血清型のAAVカプ
シドに対する抗体である可能性がある。一の実施態様では、既存の抗体が対抗する血清型
はAAV5である。
【0114】
既存のAAV免疫を検出する方法は周知であり、当分野で日常的に使用されており、細胞
ベースのインビトロ形質導入阻害(TI)アッセイ、インビボ(例えば、マウス体内)TIアッセ
イ、及びELISAベースの抗カプシド抗体(TAb)の総量検出が含まれる(例えば、Masatらの文
献、Discov. Med., vol. 15, pp. 379-389及びBoutinらの文献、(2010)Hum. Gene Ther.,
vol. 21, pp. 704-712を参照のこと。)。TIアッセイでは、AAV誘導性レポーターベクタ
ーを予め導入した宿主細胞を使用してもよい。このレポーターベクターは、GFP等の誘導
性レポーター遺伝子を含むことができ、その遺伝子発現は、宿主細胞がAAVウイルスによ
り形質導入されると誘導される。ヒト血清中に存在する抗AAVカプシド抗体であって、宿
主細胞の形質導入を防止/低下可能な抗AAVカプシド抗体は、それにより、系内でのレポー
ター遺伝子の発現全体を低下させるであろう。従って、このようなアッセイを、治療用FV
III AAVウイルスによる細胞形質導入を防止/低下するおそれのある、ヒト血清中の抗AAV
カプシド抗体の存在を検出するために使用できる。
【0115】
抗AAVカプシド抗体を検出するためのTAbアッセイは、その上をヒト血清が通過し、それ
により血清中に存在する抗カプシド抗体が固相結合カプシド「捕捉剤」に結合することを
可能にできる「捕捉剤」として固相結合AAVカプシドを使用できる。非特異的結合を除去
するために洗浄した後は、「検出剤」を使用して、捕捉剤に結合した抗カプシド抗体の存
在を検出できる。検出剤は、抗体、AAVカプシド等でもよく、結合した抗カプシド抗体の
検出及び定量化を補助するために検出可能に標識されてもよい。一の実施態様では、検出
剤は、電気化学発光技術及び装置を使用して検出することができるルテニウム又はルテニ
ウム錯体で標識される。
【0116】
上記と同じ方法論を使用して、目的の治療用AAVウイルスで以前に処置した患者におけ
る抗AAVカプシド免疫応答の発生を評価及び検出できる。このように、これらの技術は、
治療用AAVウイルスでの処置前に抗AAVカプシド抗体の存在を評価するために使用できるだ
けでなく、投与後に、投与された治療用AAVウイルスに対する免疫応答の誘導を評価及び
測定するためにも使用できる。従って、本発明で考慮されるのは、ヒト血清中の抗AAVカ
プシド抗体を検出するための技術と、血友病Aの治療のための治療用AAVウイルスの投与の
ための技術とを組み合わせる方法であり、ヒト血清中の抗AAVカプシド抗体を検出するた
めの技術は、治療用AAVウイルスの投与前又は投与後いずれかで実行され得る。
【0117】
本発明の他の態様及び利点は、以下の例示的な例を検討することで理解されるであろう
。
【実施例0118】
(実施例)
(実施例1)
(AAV年齢を比較する研究実験)
幼若マウスの、AAVを介した遺伝子治療へ反応する能力を検査するため、2つの用量のヒ
ト第VIII因子を発現するAAV(AAV5-FVIII-SQ)を、幼若(2日齢)Rag2/FVIIIダブルノックア
ウトマウス(DKO)の2つのコホートへ投与した。全用量を、尾静脈を介して静脈内投与した
。成体(8週齢)Rag2/FVIII DKOマウスを対照として使用し、成体マウスあたり8.9E11 vgに
相当する3.5E13 vg/kgで処置した。幼若(2日齢)マウスのコホート1を、成体と同じ体重あ
たり用量(即ち、3.5E13 vg/kg)で処置した一方で、幼若(2日齢)マウスのコホート2は、成
体と同じマウスあたり絶対量vg(即ち、マウスあたり8.9E11 vgであり、2日齢マウスでは4
.5E14 vg/kgに相当する)で処置した。
図1A及び1Bに、研究実験設計及び試料採取時点が示
される。幼若マウス群を、AAV投与に続く成体期で(8週齢を超えても)詳しく研究した。
【0119】
幼若性肝細胞のAAV5-FVIII-SQ取り込み能を決定するために、処置した幼若及び成体マ
ウスの肝臓内のFVIII DNA量及びFVIII RNA量を測定した。
図2に示されるとおり、成体マ
ウスと同じ総量vg(マウスあたり8.9 E11 vg;4.5E14 vg/kg 体重幼若マウス)を投与した幼
若マウスは、成体マウスと同様のレベルのFVIII DNAを有し、幼若マウス内での肝細胞分
裂によるDNAの追加的な喪失がないことを示した。この結果は、AAV処置された幼若体の肝
細胞は、細胞分裂及び動物成長によりウイルス性ゲノムを失うことを教示するAAVベクタ
ーに関する文献に照らして驚くべきものであった。更に、
図2(右側グラフ)に示されると
おり、AAV5-FVIII-SQを投与した成体マウスでは第VIII因子RNAレベルが時間とともに増加
した。驚くべきことに、成体マウスと同じ絶対用量を投与した幼若マウスも、時間の経過
とともに第VIII因子RNAの同様の増加を示した。これらのデータは、幼若性肝細胞が成体
肝細胞がするのと同じようにAAVゲノムを取り込み、AAV送達された導入遺伝子を発現する
能力を有することと、幼若性肝細胞が、当分野の教示に反して、組織成長中及び細胞分裂
中にウイルス性ゲノムを失わないことを示す。
【0120】
幼若マウスの全体的な健康及び発育に対するAAV処置の効果を、AAV投与後に体重及び肝
臓重量の両方を経時的に測定することによって評価した。
図3に示されるとおり、AAV処置
した幼若マウスの肝臓重量及び体重の両方は経時的に増加し、投与後第8週には正常な成
体レベルに達した。更に、肝臓内での導入遺伝子発現を標的とするAAV処置が、肝障害を
引き起こすかどうかを評価するために、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の血
液レベルを測定した。
図4に示すように、幼若マウスには成体と同じ絶対量のベクターゲ
ノムを与えた、即ち、対照成体動物よりも体重あたりのvgレベルが高かったにも拘わらず
、ALTレベルは、AAV5-FVIII-SQ処置に応答して増加しなかった。まとめると、これらのデ
ータは、AAV処置が、幼若マウスの全体的な健康又は発育に悪影響を及ぼさず、比較的高
レベルのウイルス性ゲノムが投与されたにもかかわらず肝障害を引き起こさなかったこと
を示す。
【0121】
幼若マウスにおけるAAV送達された導入遺伝子の治療効果を、血漿第VIII因子濃度を測
定し、循環性の第VIII因子タンパク質総量を推定することによって評価した。
図5に示さ
れるとおり、体重あたりで成人ベースと同じ用量(3.5E13 vg/kg)で処置した幼若体は、
成体期に達したときに治療レベルの第VIII因子を生成しなかった。この結果は、幼若性肝
細胞が、AAV投与の数週間後に、検出可能なレベルのAAV投与された導入遺伝子の産生を停
止したことを示す以前の実験研究と一致する。驚くべきことに、成体用量のウイルス性ゲ
ノム絶対数(8.9E11 vg)を投与された幼若マウスは、最初は高レベルの血漿第VIII因子
を発現する。これらレベルは、血液量が増大するために、第1週から第3週の間に減少した
。しかし、循環性の第VIII因子の総量は、第1週から研究実験の終わりである第16週まで
安定したままであった。この幼若マウスで維持された第VIII因子タンパク質レベルは、処
置した成体マウスで観察されるレベルよりも5~6倍低いが、治療上有効な範囲内を維持し
た。従って、これらデータは、AAVが成人用量の対象あたりウイルスゲノム絶対量で投与
される場合、そのAAVは治療用量の導入遺伝子を送達するのに有効であることを示す。更
に、これらデータは、導入遺伝子の発現が安定しており、長期間一定を保つことを示す。
【0122】
(実施例2)
(幼若PKU対象の肝臓へのPAHの送達及び発現)
哺乳動物において、肝臓酵素フェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)は、体内の過剰
なフェニルアラニン(Phe)をチロシン(Tyr)へ変換する。ヒトにおいては、PAHをコードす
る遺伝子の突然変異は酵素の生成若しくは酵素活性の低下又は損失を生じ、体内でのPhe
の蓄積とTyrレベルの低下が起こり、成長阻害、皮膚及び髪の色が薄くなる、認知障害、
睡眠障害、及び発作を含むフェノタイプ結果を生じる可能性がある。ヒトでは、この疾患
症状はフェニルケトン尿症(PKU)と呼ばれる。PKUのENU2マウスモデル(Sheldovsky 199
3)は、PAHをコードする遺伝子のエクソン7にN-エチル-N-ニトロソ尿素(ENU)を使用し
た化学的突然変異誘発を起こして作成された。Phe263がSer263で置換された結果、PAHタ
ンパク質レベルがやや低下する一方、検出可能なPAH触媒活性は無くなる。これは、Phe26
3がLeu263に変異しているヒトPKU患者の大規模なサブセットに見られる変異に類似してい
る。ENU2マウスは、血漿及び組織での高いPheレベル、低いTyrレベル、小サイズ/低体重
、薄茶色の外被色(対応する野生型は黒色である)、及び発作を含む、PKU患者に観察さ
れるもののいくつかを再現するフェノタイプを持つ。
【0123】
雄ENU2マウスを、下記列挙されるように個々の年齢群(n =10/群)に登録し、おおよそ
の年齢の時にAAV5-PAHを2e14 vg/kgで静脈内注射した:第1群、2日齢でAAVを投与した;第
2群、1週齢でAAVを投与した;第3群、2週齢でAAVを投与した;第4群、3週齢でAAVを投与し
た;第5群、5週齢でAAVを投与した;第6群、8週齢でAAVを投与した(全体的な研究実験設計
については
図7を参照のこと)。
【0124】
体重を、研究実験開始前、並びに、投与後第4週及び第8週で測定した。血液試料を、投
与後第4週及び第8週に採取し、血漿へ処理して、液体クロマトグラフィー/質量分析法でP
heの分析を行った。血漿タンパク質を、安定した同位元素内部標準(13C9,15N(PheIS))を
含むアセトニトリルで沈殿させた。上清を塩化ベンゾイルと反応させて誘導体化し、LC-M
S/MSへ注入する前に希釈した。
【0125】
各年齢群の動物の体重は、投与前は類似していた(
図8A)。投与後第4週において(
図8
B)、3週齢又は8週齢でAAV5-PAH処置した動物も、2日齢又は、1週齢、2週齢若しくは5週
齢の時点で処置した動物とは違って、ビヒクル処置した対応動物よりも有意に体重が増加
した。投与後第8週までに(
図8C)、5週齢で処置したマウスも又、対照より有意に大きな
体重増加を達成した。
【0126】
第4週(
図9A)及び第8週(
図9B)両方の時点で、5週齢又は8週齢で処置したマウス内のPhe
レベルはWT範囲まで低下した。3週齢で処置したマウスは、より変動するpheレベルを示し
ており一部では応答を示唆した。2日齢、1週齢、又は2週齢で処置したマウスは、感知で
きるほどの血漿Pheの減少はなかった。
【0127】
低体重及び高血漿PheのフェノタイプENU2に対する、2E14 vg/kgでのAAV5 PAH処置の最
大の効果は、処置時にマウスが少なくとも5週齢であったときに達成された。マウスを3週
齢で処置した場合は、体重に有意な効果はあったが、Phe減少には一部での影響しかなか
った。