(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028760
(43)【公開日】2024-03-05
(54)【発明の名称】アルギナーゼ1欠損症を治療するための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/50 20060101AFI20240227BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240227BHJP
C12N 9/14 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
A61K38/50 ZNA
A61P3/00
C12N9/14
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023199616
(22)【出願日】2023-11-27
(62)【分割の表示】P 2020531164の分割
【原出願日】2018-12-05
(31)【優先権主張番号】62/594,747
(32)【優先日】2017-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/725,612
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/745,000
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】519046247
【氏名又は名称】イーレイズ・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ローリンソン, スコット ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】クイン, アンソニー ジー.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】アルギナーゼ1(ARG1)欠損症(ARG1-D)を有する対象を治療する方法を提供する。
【解決手段】アルギナーゼの初回投与後の約2~約4日以内に、前記対象のアルギニンの血漿レベルを200μmol/L未満まで低下させるのに充分な量の前記アルギナーゼを前記対象に投与することを含む、方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるアルギナーゼ1(ARG1)欠損症(ARG1-D)を治療する方法であって、アルギナーゼの初回投与後の約2~約4日以内に、前記対象のアルギニンの血漿レベルを200μmol/L未満まで低下させるのに充分な量の前記アルギナーゼを前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記対象のアルギニンの前記血漿レベルが、前記アルギナーゼの初回投与後、40μmol/L~115μmol/Lの範囲内に低下する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルギナーゼが、PEG化アルギナーゼ1である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アルギナーゼが、マンガン金属補因子の代わりにコバルト金属補因子を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アルギナーゼが、ペグジラルギナーゼ(pegzilarginase)である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
N-α-アセチルアルギニン(NAArg)、アルギニン酸(ArgA)、α-ケト-δ-グアニジノ吉草酸(GVA)、グアニジノ酢酸(GAA)、及びアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物の血漿レベルが、前記アルギナーゼの初回投与後7日未満で、前記対象において少なくとも1回は正常レベルまで低下する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ArgA、NAArg、GVA、GAA、及びアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物の前記血漿レベルが、前記アルギナーゼの初回投与後3日未満で、前記対象において少なくとも1回は前記正常レベルまで低下する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ArgA、NAArg、GVA、GAA、及びアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物の前記血漿レベルが、前記アルギナーゼの初回投与後2日未満で、前記対象において少なくとも1回は正常レベルまで低下する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
ArgA、NAArg、GVA、GAA、及びアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物の前記血漿レベルが、前記アルギナーゼの初回投与後1日未満で、前記対象において少なくとも1回の投与で正常レベルに達するまで低下する、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記対象のアルギニンの血漿レベルを低下させるのに充分な前記量が、安静時痙縮(resting spasticity)、痙縮に関連した下肢痙攣、適応行動、及び患者報告アウトカム測定情報システム(PROMIS)身体機能スコアからなる群から選択される特性を改善する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記対象におけるグアニジノ酢酸(GAA)の前記血漿レベルが、正常レベルに達する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記アルギナーゼが、前記対象へ静脈内又は皮下で投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記アルギナーゼが、約0.005~約1.00mg/kg対象体重の用量で、前記対象へ静脈内投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記アルギナーゼが、約0.005~約0.50mg/kg対象体重の用量で、前記対象へ静脈内投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記アルギナーゼが、約0.005~約0.20mg/kg対象体重の用量で、前記対象へ静脈内投与される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記アルギナーゼが、約0.01~約1.50mg/kg対象体重の用量で、前記対象へ皮下で皮下投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記アルギナーゼが、約0.015~約0.75mg/kg対象体重の用量で、前記対象へ皮下で皮下投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記アルギナーゼが、約0.015~約0.30mg/kg対象体重の用量で、前記対象へ皮下で皮下投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記アルギナーゼが、前記対象において、ArgA、NAArg、GVA、GAA、及びアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物の血漿レベルを少なくとも2倍低下させるのに充分な用量で、前記対象に投与され、ここで、前記血漿レベルが、投与後の約24~48時間でアッセイされる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
投与された前記用量が、NAArgの前記血漿レベルを少なくとも3倍低下させる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
投与された前記用量が、GAAの前記血漿レベルを少なくとも2倍低下させる、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記アルギナーゼが、毎日、毎週、隔月、又は毎月、前記対象へ投与される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
窒素スカベンジャを前記対象へ投与することを更に含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記アルギナーゼが、前記対象へ送達するためアデノウイルスベクターに操作可能に連結された核酸として投与され、前記対象へ投与されると前記対象中でアルギナーゼを産生する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
アルギニン、N-α-アセチルアルギニン(NAArg)、アルギニン酸(ArgA)、α-ケト-δ-グアニジノ吉草酸(GVA)、グアニジノ酢酸(GAA)からなる群から選択される少なくとも1つの化合物の血漿レベルを、アルギナーゼ1(ARG1)欠損症(ARG1-D)を有する対象において正常レベルまで急速に低下させる方法であって、
治療有効量のPEG化アルギナーゼを含む組成物を前記対象へ投与することを含み、
ここで、前記PEG化アルギナーゼは、初回は0.005mg/kg~1.00mg/kgの用量で静脈内投与され、その後は毎週皮下又は静脈内のいずれかで投与される、方法。
【請求項26】
前記PEG化アルギナーゼが、初回は0.005mg/kg~0.50mg/kgの用量で静脈内投与され、その後は毎週皮下又は静脈内のいずれかで投与される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記PEG化アルギナーゼが、初回は0.005mg/kg~0.20mg/kgの用量で静脈内投与され、その後は毎週皮下又は静脈内のいずれかで投与される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記PEG化アルギナーゼが、ペグジラルギナーゼである、請求項25~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
ArgA、NAArg、GVA、GAA、及びアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物の血漿レベルが、前記PEG化アルギナーゼの初回投与後3日未満で、前記対象において正常レベルまで低下する、請求項25~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
ArgA、NAArg、GVA、GAA、及びアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物の血漿レベルが、前記PEG化アルギナーゼの初回投与後2日未満で、前記対象において正常レベルまで低下する、請求項25~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
ArgA、NAArg、GVA、GAA、及びアルギニンのうちの少なくとも1つの血漿レベルが、前記PEG化アルギナーゼの初回投与後1日未満で、前記対象において正常レベルまで低下する、請求項25~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記対象へ投与した前記PEG化アルギナーゼの前記用量が、ArgA、NAArg、GVA、GAA、及びアルギニンから選択される群から少なくとも1つの化合物の血漿レベルを少なくとも2倍低下させるのに充分であり、ここで、前記血漿レベルが、前記PEG化アルギナーゼの投与後の約24~48時間でアッセイされる、請求項25~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
アルギニン、N-α-アセチルアルギニン(NAArg)、アルギニン酸(ArgA)、α-ケト-δ-グアニジノ吉草酸(GVA)、グアニジノ酢酸(GAA)からなる群から選択される少なくとも1つの化合物の血漿レベルを、アルギナーゼ1(ARG1)欠損症(ARG1-D)を有する対象において正常レベルまで急速に低下させる方法であって、
治療有効量のPEG化アルギナーゼを含む組成物を前記対象へ投与することを含み、
ここで、前記PEG化アルギナーゼは、初回は0.01mg/kg~1.50mg/kgで皮下投与され、その後は毎週皮下又は静脈内のいずれかで投与される、方法。
【請求項34】
前記PEG化アルギナーゼが、初回は0.015mg/kg~0.75mg/kgで皮下投与され、その後は毎週皮下又は静脈内のいずれかで投与される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記PEG化アルギナーゼが、初回は0.015mg/kg~0.30mg/kgで皮下投与され、その後は毎週皮下又は静脈内のいずれかで投与される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記PEG化アルギナーゼが、ペグジラルギナーゼである、請求項33~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
ArgA、NAArg、GVA、GAA、及びアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物の血漿レベルが、前記PEG化アルギナーゼの初回投与後3日未満で、前記対象において正常レベルまで低下する、請求項33~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
ArgA、NAArg、GVA、GAA、及びアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物の血漿レベルが、前記PEG化アルギナーゼの初回投与後2日未満で、前記対象において正常レベルまで低下する、請求項33~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
ArgA、NAArg、GVA、GAA、及びアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物の血漿レベルが、前記PEG化アルギナーゼの初回投与後1日未満で、前記対象において正常レベルまで低下する、請求項33~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記対象へ投与した前記PEG化アルギナーゼの前記用量が、ArgA、NAArg、GVA、GAA、及びアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物の血漿レベルを少なくとも2倍低下させるのに充分であり、ここで、前記血漿レベルが、前記PEG化アルギナーゼの投与後の約24~48時間でアッセイされる、請求項33~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記対象に、アルギニンの前記血漿レベルを200μmol/L未満まで低下させる前記量の前記アルギナーゼの少なくとも1回の反復投与を行う、請求項22に記載の方法。
【請求項42】
アルギニンの前記血漿レベルが、少なくとも30週間200μmol/L未満に低下する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
アルギニンの前記血漿レベルが、少なくとも40週間200μmol/L未満に低下する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記少なくとも1回の反復投与のうち8回を受けた後、前記対象が、治療前の前記対象の可動性又は適応行動に対するベースラインと比べて、(a)前記可動性又は(b)適応行動のうち少なくとも1つの改善を示す、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
NAArg、ArgA、GVA、GAA、又はアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物の血漿レベルが、前記対象における前記ベースライン血漿レベルと比べて低下する、請求項22に記載の方法。
【請求項46】
前記対象が、治療の9日後に1を超える臨床上意味のある最小変化量(minimal clinically important difference)(MCID)を有する、請求項25~41のいずれか一項に記載に方法。
【請求項47】
アルギニンの前記血漿レベルが、MCIDと相関している、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
ペグジラルギナーゼと、医薬的に許容可能な緩衝液とを含む、組成物。
【請求項49】
約10%のグリセロールを更に含み、ここで、前記医薬的に許容可能な緩衝液が、リン酸緩衝食塩水である、請求項49に記載の組成物。
【請求項50】
前記ペグジラルギナーゼが、赤血球ゴースト中に配合される、請求項49に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2017年12月5日に出願された米国仮出願第62/594,747号、2018年8月31日に出願された米国仮出願第62/725,612号、及び2018年10月12日に出願された米国仮出願第62/745,000号の優先権を主張するものであり、これらの全ての内容を参照により本明細書に援用する。
【0002】
配列表の参照
本出願に関連する配列表はEFS-Webを介して電子フォーマットで提出され、これによって、参照により本明細書にその全体が組み込まれる。配列表を含むテキストファイルの名称は218107-0011-00-WO_ST25である。テキストファイルのサイズは6,247バイトであり、2018年12月4日に作成された。
【技術分野】
【0003】
背景
本発明は、患者におけるアルギナーゼ1欠損症を治療する方法と、患者におけるアルギナーゼ1欠損症(ARG1-D)を治療するための組成物と、を開示する。
【背景技術】
【0004】
アルギナーゼ1欠損症(高アルギニン血症又はアルギニン血症としても知られる)は、例えばアルギナーゼ1(ARG1)遺伝子の変異に起因する、アルギナーゼ1タンパク質の欠損又は活性の喪失によって引き起こされる。ARG1はアルギニンをオルニチンへと変換する尿素サイクル酵素である。ARG1-Dは稀で進行性の疾患である。300,000~1,000,000人に1人の割合で発生するものと推定されている。ARG1-Dは、アルギニン及び他のグアニジノ化合物(GC)の毒性蓄積を生じる、常染色体劣性の尿素サイクル異常症である。ARG1-Dの臨床的特徴は、典型的には幼児期早期に発現するが、一部の患児では出生直後に発現することがある。疾患の症状には、痙縮、発育遅延、脳卒中、タンパク質回避(protein avoidance)、偶発性高アンモニア血症、悪心、及び嘔吐などが挙げられる。疾患が進行した青年期には、患者は可動性を失い、話すこと又は理解することもできず、栄養失調及びビタミンD欠乏症に苦しむことがある。疾患及びその関連症状の更なる進行には、トランスアミナーゼの上昇及び肝線維症を根拠とする肝損傷、重度の痙縮及び筋拘縮、精神遅滞及び限られた寿命が挙げられる。残念なことに、食事制限及び窒素スカベンジャは、アルギニン及び他のグアニジノ化合物の慢性的な著しい増加並びに偶発性高アンモニア血症に起因する疾患進行を防止するには不充分である。
【0005】
ARG1-D患者に低タンパク食を提供する場合、アルギニンレベルは約265~300μmol/Lまで低下させることができる(Schluneらによる、「Hyperargininemia due to arginase 1 deficiency:the original patients and their natural history,and a review of the literature」、Amino Acids第47巻、第1751~1762頁(2015年))。食事によるタンパク質摂取量に影響される新規のアルギニン合成は、血漿アルギニン合成のおよそ5~15%を占め、アルギニンの主要源は体組織のターンオーバーである(Wu,G.ら、「Arginine metabolism:nitric oxide and beyond」、Biochem J、第336巻(パート1)、第1~17頁(1998年)。したがって、血漿アルギニンレベルに対する食事性タンパク質制限の影響は限定されており、対象おけるアルギニンの循環レベルは、過剰なアルギニンを分解できないために高いままである。
【0006】
ARG1-D動物モデルを用いた大部分の治療方法に関する非臨床試験では、血漿アルギニンレベルが低下しても疾患の転帰に実質的な影響を及ぼすとは示されていない。これらのアプローチの大部分が疾患の根本原因、すなわち肝臓におけるARG1のサイトゾル欠乏の修正に対処していないことを考慮して、米国食品医薬品局(U.S.Food and Drug Administration、FDA)は、血漿アルギナーゼレベルの増大が、疾患の病因に寄与し得るアルギニン由来グアニジノ化合物の低下を含む細胞内ARG1活性の修正と、同じ全体効果を持ち得るかどうかについて疑問を呈した。食事性アルギニン制限が血漿アルギニンレベルを低下させることができるという文献的証拠があるものの、疾患発現に対する食事性アプローチの有益な影響は、生理的正常範囲と医療指針との両方を充分に超えた血漿アルギニンレベルの慢性的な著しい上昇のために制限される。このことは、食事療法及び血漿アルギニンの低下にもかかわらず、患者の11人中4人で痙縮の進行が報告された群によって支持されている(Prasadら、「Argininemia:a treatable genetic cause of progressive spastic diplegia simulating cerebral palsy-case reports and literature review」、J.Child Neurol、第12巻、第301~309頁(1997年))。この理論的根拠に沿って、アルギニン酸、グアニジノ酢酸、β-グアニジノプロピオン酸、β-グアニジノブトリ酸(β-guanidinobutryic acid)、及びN-α-アセチルアルギニンといった高レベルのアルギニン代謝物が、ARG1欠損患者における神経学的後遺症の原因として重要であり得るということを示唆する研究者もいる(Deignanら、「Increased plasma and tissue guanidine compounds in a mouse model of hyperargininemia」、Mol.Genet.Metab、第93巻、第172~178頁(2008年)、Segawaら、「A long-term survival case of arginase deficiency with severe multicystic white matter and compound mutations」、Brain Dev.、第33巻、第45~48頁(2011年)、Wyseら、「In vitro stimulation of oxidative stress in cerebral cortex of rats by the guanidino compounds accumulating in hyperargininemia」、Brain Res.、(2001年)、第923巻、第1~2号、第50~7頁)。ARG1-Dにおけるグアニジノ化合物の潜在的重要性を考慮して、低アルギニン食がこれらの潜在的神経毒性代謝物を減少させる能力を検討されている(Lambertら、「Hyperargininemia:intellectual and motor improvement related to changes in biochemical data」、J.Pediatr.、(1991年)第118巻、第3号、第420~4頁)。Lambertらは、低アルギニン食が厳密な食事制御後およそ1ヶ月以内に血中アルギニンレベルを低下させることができることを示すことができたが、グアニジノ酢酸及びα-ケト-δ-グアニジノ吉草酸(GVA)のレベルは変化せず、これは食事が治療介入としてGCレベルを迅速に制御する見込みがないことを意味する、ということを示すことができた。障害とその根底にある複雑な機序とを考えると、この満たされていない医学ニーズに対処するためには、患者における高レベルのアルギニンを迅速に低下させ、制御するための新しい治療が必要である。
【発明の概要】
【0007】
本明細書で新たに開示されるものは、患者において好ましくは迅速な応答を得る、ARG1-D患者を治療するための方法、化合物、及び組成物であって、ここで患者は、ヒトであり、かつ成人、小児、又は乳児であり得る。
【0008】
対象におけるアルギナーゼ1(ARG1)欠損症(ARG1-D)を治療する方法であって、アルギナーゼの初回投与後の約2~約4日以内に、対象のアルギニンの血漿レベルを200μmol/L未満まで低下させるのに充分な量のアルギナーゼを対象に投与することを含む、方法を提供する。対象のアルギニンの血漿レベルは、アルギナーゼの初回投与後、40μmol/L~115μmol/Lの範囲内に低下し得る。対象は、ARG1-Dを有するヒト成人、ヒト小児、又はヒト乳児(例えば、12ヶ月未満)であってもよい。
【0009】
アルギナーゼは、野生型アルギナーゼI(例えば、配列番号2)又はアルギナーゼII(例えば、配列番号1)であってもよい。アルギナーゼは、PEG化アルギナーゼ1であってもよく、マンガン金属補因子の代わりにコバルト金属補因子を有し得る。PEG化アルギナーゼ1はペグジラルギナーゼ(pegzilarginase)であってもよい。
【0010】
開示された治療方法は、N-α-アセチルアルギニン(NAArg)、アルギニン酸(ArgA)、GVA、グアニジノ酢酸(GAA)、及びアルギニンのうち少なくとも1つの血漿レベルが、初回投与後7日未満、3日未満、2日未満、及び/又は1日未満で、対象において少なくとも1回は正常レベルまで低下する投与を更に伴うことができる。アルギナーゼを用いた治療方法は、投与後にGAAの血漿レベルが正常レベルに達するようにすることができる。この方法は、対象のアルギニンの血漿レベルを低下させるのに充分な量が、安静時痙縮(resting spasticity)、痙縮に関連した下肢痙攣、適応行動、及び患者報告アウトカム測定情報システム(PROMIS)身体機能スコアなどの1つ以上の特性を改善するようにすることができる。
【0011】
この治療方法は、約0.005~約1.00mg/kg/患者体重の静脈内投与を行うことを企図する。静脈内投与のための他の範囲又は使用は、0.01~0.5mg/kg、0.01~0.2mg/kg、0.015~0.25mg/kg、及び0.015~0.075mg/kgを含むことができ、記載された範囲の間での0.005毎の増分もまた企図される。
【0012】
この治療方法は、約0.01~約1.50mg/kg/患者体重の皮下投与を行うことを企図する。静脈内投与のための他の範囲又は使用は、0.015~0.75mg/kg、0.015~0.30mg/kg、0.015~0.25mg/kg、及び0.015~0.075mg/kgを含むことができ、記載された範囲の間での0.005毎の増分もまた企図される。
【0013】
別の方法は、対象において、ArgA、NAArg、GVA、GAA、及びアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物の血漿レベルを少なくとも2倍低下させるのに充分な用量で、アルギナーゼを対象に投与することを企図し、ここで、血漿レベルは、投与後の約24~48時間でアッセイされる。別の方法は、投与された用量が、NAArgの血漿レベルを少なくとも3倍低下させることを企図する。別の方法は、投与された用量が、GAAの血漿レベルを少なくとも2倍低下させることを企図する。開示された治療方法のアルギナーゼは、患者へ、静脈内若しくは皮下、又は両方の組合せで投与することができる。アルギナーゼは、毎日、毎週、隔月、又は毎月、対象へ投与することができる。
【0014】
窒素スカベンジャもまた、対象に投与してもよい。アルギナーゼを有する開示された組成物は、窒素スカベンジャを含むことができる。アルギナーゼを用いた開示された治療方法は、窒素スカベンジャと共に対象へ投与することができ、場合によっては、対象は更に低アルギニン食にすることができる。アルギナーゼで対象を治療する別の方法は、対象へ送達するためアデノウイルスベクターに操作可能に連結された核酸を投与することを含み、アルギナーゼは、対象へ投与されると対象中でアルギナーゼを産生する。アデノウイルスベクター送達によって産生されるアルギナーゼの量は、対象において、ArgA、NAArg、GVA、GAA、及びアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物の血漿レベルを少なくとも2倍低下させるために治療効果があり得、ここで、血漿レベルは、アルギナーゼの投与後の約24~48時間でアッセイされる。
【0015】
別の方法は、アルギナーゼの初回投与後の神経運動機能の改善を企図する。神経運動機能は、ステップ、歩行、痙縮、及び/又は覚醒のうちの1つ以上であり得るが、これらに限定されない。別の方法は、対象が、アルギナーゼ投与前の痙縮、挙動、及びPROMIS-Tスコアのうちの少なくとも1つと比較して、アルギナーゼの初回投与後に、安静時痙縮の減少、痙縮に関連する下肢痙攣の減少、適応行動、及びPROMIS-Tスコアの改善のうちの少なくとも1つを示すことを企図する。この方法は、1つ以上の毒性代謝物(例えば、GAA)が正常レベルまで低下する又は除去されるような、アルギナーゼによる治療に対する急性期反応を企図する。
【0016】
本方法は、対象に、アルギニンの血漿レベルを200μmol/L未満まで低下させる量のアルギナーゼの少なくとも1回の反復投与を行うことを企図する。アルギニンの血漿レベルは、少なくとも30週及び/又は少なくとも40週の間、200μmol/L未満のレベルまで低下し得る。少なくとも1回の反復投与のうち8回を受けた後、対象は、治療前の対象の可動性又は適応行動に対するベースラインと比べて、(a)該可動性又は(b)適応行動のうち少なくとも1つの改善を示し得る。NAArg、ArgA、GVA、GAA、又はアルギニンのうち少なくとも1つの血漿レベルは、対象におけるベースライン血漿レベルと比べて、低下し得る。別の方法は、対象が、治療の9日後に1を超える臨床上意味のある最小変化量(minimal clinically important difference)(MCID)を有することを企図する。アルギニンの血漿レベルは、MCIDと相関している。
【0017】
ペグジラルギナーゼと、医薬的に許容可能な緩衝液と、を含む組成物もまた企図される。組成物は約10%のグリセロールを含むことができ、医薬的に許容可能な緩衝液は、所望の量のペグジラルギナーゼ又は他のアルギナーゼに加えて、リン酸緩衝食塩水であり得る。ARG1-Dを治療するための医薬の製造における、アルギナーゼ(例えば、ペグジラルギナーゼ)又はアルギナーゼをコードする核酸を含む組成物の使用が提供される。
【0018】
また、例えばペグジラルギナーゼが赤血球ゴースト中に配合されたアルギナーゼなども企図される。
【0019】
アルギニン、N-α-アセチルアルギニン(NAArg)、アルギニン酸(ArgA)、α-ケト-δ-グアニジノ吉草酸(GVA)、グアニジノ酢酸(GAA)からなる群から選択される少なくとも1つの化合物の血漿レベルを、アルギナーゼ1(ARG1)欠損症(ARG1-D)を有する対象において正常レベルまで急速に低下させる方法であって、治療有効量のPEG化アルギナーゼを含む組成物を対象へ投与することを含み、ここで、PEG化アルギナーゼは、対象へ、初回は0.005mg/kg~1.00mg/kgで静脈内投与され、その後は毎週皮下又は静脈内のいずれかで投与される、方法。別の方法は、PEG化アルギナーゼを、初回は0.005mg/kg~0.50mg/kgで静脈内投与することを企図する。別の方法は、PEG化アルギナーゼを、初回は0.005mg/kg~0.20mg/kgで静脈内投与することを企図する。別の方法は、PEG化アルギナーゼがペグジラルギナーゼであることを企図する。別の方法は、ArgA、NAArg、GVA、GAA、又はアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物の血漿レベルが、PEG化アルギナーゼの初回投与後3日未満、2日未満、及び/又は1日未満で、対象において正常レベルまで低下することを企図する。別の方法は、対象へ投与したPEG化アルギナーゼの用量が、ArgA、NAArg、GVA、GAA、及びアルギニンから選択される群から少なくとも1つの化合物の血漿レベルを少なくとも2倍低下させるのに充分であり、ここで、血漿レベルが、PEG化アルギナーゼの投与後の約24~48時間でアッセイされることを企図する。
【0020】
アルギニン、N-α-アセチルアルギニン(NAArg)、アルギニン酸(ArgA)、α-ケト-δ-グアニジノ吉草酸(GVA)、グアニジノ酢酸(GAA)からなる群から選択される少なくとも1つの化合物の血漿レベルを、アルギナーゼ1(ARG1)欠損症(ARG1-D)を有する対象において正常レベルまで急速に低下させる方法であって、治療有効量のPEG化アルギナーゼを含む組成物を対象へ投与することを含み、ここで、PEG化アルギナーゼは、対象へ、初回は0.01mg/kg~1.50mg/kgで皮下投与され、その後は毎週皮下又は静脈内のいずれかで投与される、方法。別の方法は、PEG化アルギナーゼを、初回は0.015mg/kg~0.75mg/kgで皮下投与することを企図する。別の方法は、PEG化アルギナーゼを、初回は0.015mg/kg~0.30mg/kgで皮下投与することを企図する。別の方法は、ArgA、NAArg、GVA、GAA、又はアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物の血漿レベルが、PEG化アルギナーゼの初回投与後3日未満、2日未満、及び/又は1日未満で、対象において正常レベルまで低下する、ことを企図する。別の方法は、対象へ投与したPEG化アルギナーゼの用量が、ArgA、NAArg、GVA、GAA、及びアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物の血漿レベルを少なくとも2倍低下させるのに充分であり、ここで、血漿レベルが、PEG化アルギナーゼの投与後の約24~48時間でアッセイされることを企図する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A-B】
図1Aは、アルギニンの血漿中濃度である。
図1Bは、アルギニン酸(ArgA)の血漿中濃度である。
【
図1C-D】
図1Cは、GVAの血漿中濃度である。
図1Dは、N-α-アセチルアルギニン(NAArg)の血漿中濃度である。アルギニンレベルは、検証された(優良試験所基準、すなわちGLP(good laboratory practice))アッセイを用いて0.03mg/kgのペグジラルギナーゼで治療された、2人のARG1-D患者から得た値の平均である。ArgA、GVA、及びNAArgレベルは、0.03mg/kgのペグジラルギナーゼで治療した同じ2人のARG1-D患者に由来するプールした試料を用いて、非GLPアッセイにより分析した。ヒトの正常範囲は「*」で示す。ヒト血清中のアルギニンの正常範囲は40μmol/L~115μmol/Lである。例えば、Lueneburg,N.ら、「Reference intervals for plasma L-arginine and the L-arginine:asymmetric dimethylarginine ratio in the Framingham Offspring Cohort.」、J.Nutr.、第141巻、第12号、第2186~2190頁(2011)を参照されたい。ArgAの正常範囲は0.025μmol/L~0.100μmol/Lであり、GVAの正常範囲は0.050未満であり、NAArgの正常範囲は0.025μmol/L未満~0.255μmol/Lである。例えば、Marescauら、「Guanidino compound analysis as a complementary diagnostic parameter for hyperargininemia:Follow-up of guanidino compound levels during therapy」、Pediatric.Res.、第27巻、第3号、第297~303頁(1990年)を参照されたい。
【
図2】
図2Aは、アルギニンの血漿中濃度を示す。
図2Bは、ホモアルギニン(HArg)を示す。アルギニンレベルは、検証された(GLP)アッセイを用いて0.03mg/kgのペグジラルギナーゼで治療された、2人のARG1-D患者から得た値の平均である。HArg値は、0.03mg/kgのペグジラルギナーゼで治療した同じ2人のARG1-D患者に由来するプールした試料を用いて、非GLPアッセイにより得た。「*」とは、アルギニンに関してはLuneburg、N.ら(2011年)、又はグアニジノ化合物に関してはMarescauら(1990年)に記載されているような、ヒト血清中の正常範囲を指す。HArgの正常範囲は0.500μmol/L未満~2.80μmol/Lである。
【
図3A-B】
図3Aは、アルギニンの血漿中濃度である。
図3Bは、アルギニン酸(ArgA)の血漿中濃度である。
【
図3C-D】
図3Cは、GVAの血漿中濃度である。
図3Dは、N-α-アセチルアルギニン(NAArg)の血漿中濃度である。アルギニンレベルは、検証された(GLP)アッセイを用いて0.015mg/kgのペグジラルギナーゼ(「●」)及び0.03mg/kgのペグジラルギナーゼ(「□」)で治療された、2人のARG1-D患者から得た値の平均である。ArgA、GVA、及びNAArgレベルは、0.015mg/kg及び0.03mg/kgのペグジラルギナーゼで治療した同じ2人のARG1-D患者に由来するプールした試料を用いて、非GLPアッセイにより得た。「*」とは、アルギニンに関してはLuneburg、N.ら(2011年)、又はグアニジノ化合物に関してはMarescauら(1990年)に記載されているような、ヒト血清中の正常範囲を指す。
【
図4A】
図4Aは、ペグジラルギナーゼによる治療前(例えば、スクリーニング時)及び治療後の、2人の患者である患者第120-101号(
図4A)及び患者120-102号(
図4B)におけるGAAのデータを示す。
【
図4B】
図4Bは、ペグジラルギナーゼによる治療前(例えば、スクリーニング時)及び治療後の、2人の患者である患者第120-101号(
図4A)及び患者120-102号(
図4B)におけるGAAのデータを示す。いずれの場合でも、スクリーニング時と、第1部及び第2部の投与中と、におけるGAAレベルに関するデータを示す。「FUP」とは経過観察(follow-up)を示す。GAAの正常範囲は0.400μmol/L~3.00μmol/Lである。例えば、Marescauら(1990年)を参照されたい。
【
図5A】アルギニン及びGCの血漿レベルに対するアルギナーゼ治療の影響を、単回投与を用いた臨床試験の第1部にて試験した(NAAはNAArgを指す)。
【
図5B】
図5Bは、アルギニン及びGCの血漿レベルに対するアルギナーゼ治療の影響を、反復投与を含む臨床試験の第2部にて試験した。第2部に示したデータには、臨床プロトコルに従って投与された全8回の投与を受けた患者が含まれる。
図5Aと
図5Bとの両方について、「a」とは患者におけるベースラインのアルギニンレベルを示し、「b」とは投与後最低値を示し、「c」とは投与後7日目のレベルを示し、「d」とは投与前のアルギニンレベルを示し、「e」とは全投与後値(all post-dose)を示し、「f」とは、Luneburg、N.ら(2011年)に記載されているような40μmol/L~115μmol/Lの、健康な患者におけるアルギニンの血漿レベルの正常範囲を示し、「n」とは患者数を表す。投与後最低値は第1部投与後の最低値であり、第2部の「全投与後値」には、次回投与直前の値を除く、全投与後値が含まれる。
【
図6】3名の患者である、患者第1号(「a」)、患者第2号(「b」)、及び患者第5号(「c」)に対する6分間の歩行試験の結果を、ベースラインで、用量8、用量20、及び用量32(用量20及び32での患者第5号に対するデータは得られず)で示した。用量8、20、及び32は、反復投与開始時より投与する。
【
図7】第1/2相試験及び非盲検延長試験(open-label extension)の概要を示す。
【
図8】第2部及び非盲検延長試験の患者に対する、ペグジラルギナーゼの反復投与による血漿アルギニンの時間依存性改善。「BL」とはベースラインであり、「F/U」とは経過観察であり、「OLE」とは非盲検延長試験であり、「n」とは各時点での患者数である。患者血漿中のアルギニンを200μmol/L以下に維持することが望ましい。第2部を完了した患者の100%(5/5)が、推奨ガイドライン以下である一貫したアルギニン低下レベルを達成していた。アルギニン低下は血漿GC(GVA、ArgA、NAA、GAA)の持続的な低下を伴った。
【
図9】ペグジラルギナーゼによる治療は、わずか8回の反復投与後にベースラインから臨床転帰を改善した。
図9の各点は、1人の患者に対する1つの評価を表す。好ましい評価は黒丸「●」で示し、中立の評価は白丸「○」で示す。
【
図10】
図10は、患者のMCID改善に基づいて、ペグジラルギナーゼ治療に応答した患者(応答者)と、ペグジラルギナーゼ治療に応答しなかった患者(非応答者)と、に関する9週間にわたるアルギニン濃度を示す。医療指針を上回る血漿中アルギニンの範囲は200μmol/L以上であり、ヒトのアルギニンに対する正常範囲は、Luneburg、N.ら(2011年)に記載されているように、40μmol/L~115μmol/Lである。MCIDは以下に記載のように決定される。応答者」はMCIDが1を超える個人であり得、非応答者はMCIDが1未満の個人であり得る。非応答者データ点は黒い菱形で示され、応答者データ点は白い菱形で示される。非応答者データ点の平均は線「a」で示され、応答者データ点の平均は線「b」で示される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の実施例に開示された研究の承認を求める時点で、米国食品医薬品局(FDA)は、食事性アルギニン制限による血漿アルギニンレベルの低下とARG1-D患者における疾患進行の客観的な改善との間の明確かつ一貫した関係を、科学文献が支持していないと考えていた。当初FDAは、ARG1-D患者にペグジラルギナーゼを投与しても、臨床上の直接的な利益は期待できないと主張した。FDAは、ペグジラルギナーゼ及びそのような薬物が、ARG1-D患者の根本的な酵素欠損に対処できるかどうかについて懸念を表明した。FDAは、アルギナーゼ含有医薬の末梢循環が、肝内アルギニンレベルの代謝及び関連するアルギニン代謝物の生成に現実的な影響を及ぼすかどうかを疑問視した。その結果、FDAは当初、成人患者の治療が可能になるまで小児患者での検査を延期したが、その後、小児患者での検査を継続することを許可した。
【0023】
驚くべきことに発見されたのは、アルギニンのレベルと、グアニジノ化合物(NAArg)レベルのうち少なくとも1つとを、3日以内に正常レベル内まで迅速に低下させる、ARG1欠損患者の治療方法である(
図1)。
【0024】
定義
本明細書中で使用される場合、用語「治療すること(treating)」、「治療する(to treat)」、又は「治療(treatment)」とは、ARG1-Dに関連する既存の症状、障害、状態、又は疾患の、進行又は重症度を抑制、緩徐化、阻止、低下、改善、又は逆転させることを含む。治療は、予防的又は治療的に適用され得る。
【0025】
使用される用語「有効量」とは、野生型アルギナーゼ又はペグジラルギナーゼなどのPEG化アルギナーゼの量を指し、このペグジラルギナーゼは投与されると、アルギニン、アルギニン酸(ArgA)、GVA、N-α-アセチルアルギニン(NAArg)、GAA、及びホモアルギニン(HArg)のうち1つ以上の血漿レベルを低下させるといった望ましい効果を持つ。有効量は、患者の体重といった要因によって異なる場合がある。例えば、有効量は、PEG化アルギナーゼの静脈内投与について、患者の0.005~1.00mg/kg/患者体重の範囲であり得る(これらの範囲間にある0.005毎の値を含む)。ARG1-D患者に対するPEG化アルギナーゼの皮下(s.c.)投与の有効量としては、0.01~1が挙げられる。50mg/kg/患者体重(これらの範囲間にある0.01毎の値を含む)。1つの例として、ARG1欠損症に罹患していない正常なヒトにおける各化合物の正常レベルと同等の範囲のアルギニン、ArgA、GVA、GAA、及び/又はNAArgを達成するために化合物を投与するこが挙げられる。有効量はまた、筋力、患者の歩行能力(すなわち、走る、歩く、自転車に乗る、支えなしで階段を上る能力)を改善し、かつ認知能力(例えば、ウェクスラー児童知能(Wechsler Intelligence Scale for Children、WISC)検査の改善)及び/又は適応行動(例えば、適応行動評価スケール(Adaptive Behavior Assessment Scale、ABAS)若しくはヴァインランド適応行動スケール(Vineland Adaptive Behavior Scale、VABS)検査の改善)を改善することができる(Lopataら、「Comparison of Adaptive Behavior Measures for Children with HFASDs」、Autism Researc and Treatment、第2013巻、第1~10頁(2013年))。グアニジノ化合物の正常レベルを以下の表に示す。アルギニンの正常レベルは、Luneburg、N.ら(2011年)に記載されている。
【0026】
アルギニン及び/又はグアニジノ化合物の血漿レベルは正常範囲又は正常レベルまで低下させてもよく、これは、アルギナーゼの初期用量及び/又は反復用量の投与に続くある時点で、アルギニン及び/又は1つ以上のグアニジノ化合物の血漿レベルが、以下の表に示される範囲内の値又はLuneburg、N.ら(2011年)に記載されるアルギニンについて40μmol/L~115μmol/Lを有するということを意味し得る。例えば、アルギニン及び/又は1つ以上のグアニジノ化合物についての患者の血漿レベルは、本明細書に開示されているように、アルギナーゼによる治療中に正常範囲内及び正常範囲外で振動し得る。この患者は、分析されたアルギニン及び/又はグアニジノ化合物の血漿レベルが正常レベル又は正常範囲内まで低下していると考えられる。別の例として、患者は、1以上の用量本明細書に開示されるアルギナーゼを受けた後に、正常範囲内(例えば、以下の表に記載されるように、又はLuneburg、N.ら(2011年)に記載されるアルギニンについて40~115μmol/L)にあるアルギニン及び/又は1つ以上のグアニジノ化合物の平均量の血漿レベルを有してもよい。したがって、本明細書に開示された組成物及び方法は、アルギニン及び/又はグアニジノ化合物の対象の血漿レベルを、アルギナーゼの初期用量及び/又は反復用量を受けた後に、少なくとも1回、正常レベル又は正常範囲内まで低下させ得る。一部の患者では、アルギニン及び/又はグアニジノ化合物の血漿レベルが、本明細書に開示された方法に従って、平均して正常レベル又は正常範囲内に維持され得るということが観察された。
【0027】
[表1]ヒト血清、尿、及び脳脊髄液(cerebrospinal fluid、CSF)中のグアニジノ化合物の正常範囲
【0028】
野生型アルギナーゼはヒトアルギナーゼI又はアルギナーゼIIに基づいてもよい。野生型ヒトアルギナーゼIIは以下の配列を有する(Uniprot/P78540):
MSLRGSLSRLLQTRVHSILKKSVHSVAVIGAPFSQGQKRKGVEHGPAAIREAGLMKRLSSLGCHLKDFGDLSFTPVPKDDLYNNLIVNPRSVGLANQELAEVVSRAVSDGYSCVTLGGDHSLAIGTISGHARHCPDLCVVWVDAHADINTPLTTSSGNLHGQPVSFLLRELQDKVPQLPGFSWIKPCISSASIVYIGLRDVDPPEHFILKNYDIQYFSMRDIDRLGIQKVMERTFDLLIGKRQRPIHLSFDIDAFDPTLAPATGTPVVGGLTYREGMYIAEEIHNTGLLSALDLVEVNPQLATSEEEAKTTANLAVDVIASSFGQTREGGHIVYDQLPTPSSPDESENQARVRI(配列番号1)。
【0029】
野生型ヒトアルギナーゼIは以下の配列を有する(Uniprot/P05089):
MSAKSRTIGIIGAPFSKGQPRGGVEEGPTVLRKAGLLEKLKEQECDVKDYGDLPFADIPNDSPFQIVKNPRSVGKASEQLAGKVAEVKKNGRISLVLGGDHSLAIGSISGHARVHPDLGVIWVDAHTDINTPLTTTSGNLHGQPVSFLLKELKGKIPDVPGFSWVTPCISAKDIVYIGLRDVDPGEHYILKTLGIKYFSMTEVDRLGIGKVMEETLSYLLGRKKRPIHLSFDVDGLDPSFTPATGTPVVGGLTYREGLYITEEIYKTGLLSGLDIMEVNPSLGKTPEEVTRTVNTAVAITLACFGLAREGNHKPIDYLNPPK(配列番号2)。
【0030】
本明細書に開示されるペグジラルギナーゼは、配列番号2のアルギナーゼIの配列を有し、マンガン金属補因子の代わりにコバルト金属補因子を有する。ペグジラルギナーゼもまた、米国特許第8,440,184号に記載されているようにPEG化される。
【0031】
「投与すること(administering)」とは、化合物、及び開示された該化合物を含有する組成物の治療有効量の注射を意味する。例えば、限定されるものではないが、投与は血管内(i.v.)又は皮下(s.c.)であってもよい。本発明の組成物はまた、筋肉内(i.m.)に投与されてもよい。
【0032】
用語「約(about)」は、当業者によって理解され、それが使用される文脈に応じてある程度変化する。本明細書中で使用される場合、「約」とは、±10%、±5%、又は±1%の包含することを意味する。
【0033】
用語「PEG化(pegylated)」とは、その高度な生体適合性及び修飾の容易さを考慮して薬物担体として広く使用されている、ポリエチレングリコール(PEG)との結合を指す(例えば、Harrisら、Clin.Pharmacokinet.、第40巻、第7号、第539~51頁(2001年)を参照されたい)。PEGは、鎖の末端のヒドロキシル基を介して、及び他の化学的方法によって、活性剤にカップリング(例えば、共有結合)され得るが、しかしながら、PEG自体は、分子当たり最大で2つの活性剤に制限される。異なるアプローチでは、PEGとアミノ酸とのコポリマーは、PEGの生体適合特性を保持するが、分子当たり多数の付着点の付加的利点を有する(薬物負荷を増大させる)、新規の生体材料として探求されている。
【0034】
PEG化アルギナーゼ変異体は、医薬的に有用な組成物を調製するために、公知の方法に従って製剤化することができる。ARG1-D患者には、天然にマンガン金属補因子を含有する野生型アルギナーゼタンパク質(アルギナーゼI若しくはアルギナーゼIIのいずれか)、又はPEG化されマンガン金属補因子を含有する野生型アルギナーゼタンパク質を投与することができる。別の例では、ARG1-D患者には、天然のマンガン金属補因子の代わりにコバルト金属補因子を有するアルギナーゼを投与することができる。アルギナーゼを含有するコバルト金属補因子は、更にPEG化することができ、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,440,184号に記載されているような、Co-ArgI-PEG(本明細書では、AEB1102、ペグジラルギナーゼ、又はCo-hArgIとも称される)が例示的な形態である。ペグジラルギナーゼなどの例示的形態は、ペグジラルギナーゼのタンパク質配列中に存在する1以上のリシンに結合したモノマー当たり、およそ12の5K(5000ダルトン)のPEG単位を有する。所望の配合は、任意の医薬的に許容可能な担体、保存剤、賦形剤、又は安定剤と共に、適切な希釈剤又は高純度の水溶液で再構成される、安定な凍結乾燥製剤である(Remington、The Science and Practice of Pharmacy、第19版、Gennaro編、Mack Publishing Co、ペンシルヴァニア州イーストン、1995年を参照されたい)。この薬物は、赤血球ゴースト(人工赤血球とも称される)中に送達されるように製剤化することができる。別のアプローチは、i.m.、s.c.、若しくはi.v.を介して、又は記載された赤血球ゴーストを使用して、アルギニンデイミナーゼ(ADI)-PEG20(Polaris Pharma)をARG1-D患者に投与することであろう。
【0035】
本明細書中で使用される場合、用語「一部(portion)とは、タンパク質に関するとき(「所与のタンパク質の一部」のような)、アルギナーゼフラグメントを指し、ここで、フラグメントは尿素サイクル中でアルギナーゼ活性を有する。
【0036】
本明細書中で使用される場合、用語「タンパク質」及び「ポリペプチド」とは、ペプチド結合を介して結合されたアミノ酸を含む化合物を指し、交換可能に使用される。
【0037】
本明細書中で使用される場合、用語「融合タンパク質」とは、外因性タンパク質フラグメント(非アルギナーゼタンパク質から成る融合パートナー)に結合された(又は、操作可能に連結された)、目的のタンパク質(すなわち、ヒトアルギナーゼ又はそのバリアント)を含有するキメラタンパク質を指す。融合パートナーは、血清の半減期、溶解性、又はこれら両方を増強し得る。これはまた、宿主細胞若しくは培養上清、又はこれら両方からの組換え融合タンパク質の精製を可能にする親和性タグ(例えば、Hisタグ)を提供し得る。
【0038】
用語「操作可能な組合せで」、「動作可能な順序で」、及び「操作可能に連結される」とは、所与の遺伝子の転写及び/又は所望のタンパク質分子の合成を指示することができる核酸分子が産生されるような様式での、核酸配列の連結を指す。この用語はまた、機能性タンパク質が産生されるような様式でのアミノ酸配列の連結を指す。
【0039】
本明細書中で使用される場合、用語「Km」とは、酵素のミカエリス・メントン定数(Michaelis-Menton constant)を指し、酵素触媒反応において所定の酵素がその最大速度の半分を生じる特定の基質の濃度として定義される。
【0040】
本明細書中で使用される場合、用語「kcat」とは、酵素が最大効率で作用している単位時間当たりに各酵素部位が生成物に変換する、ターンオーバー数又は基質分子の数を指す。
【0041】
本明細書中で使用される場合、用語「Kcat/Km」とは、特異性定数であって、これは、酵素がいかに効率的に基質を生成物へと変換するかの尺度である。
【0042】
用語「Mn-hArgI」とは、Mn(II)金属補因子を有するヒトアルギナーゼIを指す。用語「Co-hArgI」とは、Co(II)金属補因子を有するヒトアルギナーゼI(突然変異又は天然)を指す。
【0043】
用語「IC50」は、最大半量(50%)の阻害濃度(IC)であり、したがって有効性の尺度である。
【0044】
用語「遺伝子」とは、アルギナーゼ又はその前駆体などのポリペプチドの産生に必要な制御配列及びコード配列を含む、DNA配列を指す。アルギニンをオルニチンに還元するアルギナーゼの所望の酵素活性が保持されている限り、ポリペプチドは、全長コード配列によって又はコード配列のあらゆる部分によって、コードされる。
【0045】
用語「対象」とは、ヒトを含む哺乳動物などの動物を指す。
【0046】
用語「野生型」とは、天然に存在する供給源から単離された場合にその遺伝子又は遺伝子産物の特徴を有する、遺伝子又は遺伝子産物を指す。野生型遺伝子は、集団において最も頻繁に観察されるものであり、したがって、遺伝子の「正常」形態又は「野生型」形態と任意に命名される。対照的に、用語「修飾された(modified)」又は「バリアント」若しくは「突然変異体」とは、野生型の遺伝子又は遺伝子産物と比較した場合に、配列及び/又は機能的特性における修飾(すなわち、特徴の変化)を示す、遺伝子又は遺伝子産物を指す。天然に存在する突然変異体を単離することができることに留意されたい。これらは、野生型の遺伝子又は遺伝子産物と比較した場合に変化した特徴を有するという事実によって同定される。
【0047】
以下の略語が本明細書で使用される。
略語
ADA 抗薬物抗体
ARG又はARG アルギニン
ARG1-D アルギナーゼ1欠損
Arg1-/-マウス アルギナーゼ欠損マウス
ArgA アルギニン酸
AUC 血漿中濃度-時間曲線下面積(Area under the plasma concertation-time curve)
BQL 定量限界未満
Co-ArgI-PEG コバルト置換及びPEG化アルギナーゼ1
EOI 注入終了
F/U 経過観察
GC グアニジノ化合物
GLP 医薬品安全性試験実施基準
GVA α-ケト-δ-グアニジノ吉草酸
GAA グアニジノ酢酸
HArg ホモアルギニン
i.v.筋肉内又は筋肉内に(IV)
K2EDTA血漿 凝固防止用エチレンジアミン四酢酸二カリウム処理管
LC-MS/MS 液体クロマトグラフィータンデム質量分析
NAArg N-アセチル-アルギニン
PEG ポリエチレングリコール
s.c.皮下、皮下に、又はSC
SOI 注入終了
wt 野生型
【0048】
大腸菌で生産された組換えヒトアルギナーゼ酵素であるペグジラルギナーゼが、新生仔マウス及び成体マウスARG1欠損症モデルにおいて、アルギニンレベルを正常範囲まで低下させ得るかどうかを検討した。ペグジラルギナーゼは安定性及び半減期のためにPEG化され、マンガン金属補因子の代わりにコバルト金属補因子を有する。コバルト金属補因子は触媒活性を高め、アルギナーゼの安定性を改善する。ペグジラルギナーゼによる治療は血漿アルギニン及び全脳アルギニンを低下させたが、薬物の投与はマウスの高アンモニア血症を治療できなかった。肝組織におけるアルギニンレベル低下の欠如は、おそらく投与された酵素ペグジラルギナーゼが肝臓に入らないためであると理論化された。ARG1-Dの成体マウスモデルにおいて、ペグジラルギナーゼの投与は動物の生存を改善できなかった。マウスモデルにおけるヒト疾患の最も近いシミュレーションである新生仔アルギナーゼI欠損マウス(Arg1-/-マウス)において、ペグジルアルギナーゼを試験した(Burrageら、「Human recombinant arginase enzyme reduces plasma arginine in mouse models of arginase deficiency」、Hum.Mol.Genetics第24巻、第22号、第6417~27頁(2015年))。多回投与試験の結果、血漿及び脳のアルギニンレベルは正常範囲まで低下した。しかしながら、肝臓のアルギニンレベルは有益な影響を受けず、無処置のArg1-/-マウスと比較して生存率の改善はみられず、これは予想外であった。
【0049】
アルギナーゼI欠損症のヒト臨床症状とは異なり、Arg1-/-マウスは若死の原因と考えられる重度高アンモニア血症を有する(例えば、Carvalho,D.R.ら、「Clinical features and neurologic progression of hyperargininemia」、Pediatr.Neurol、第46巻、第6号、第369~74頁(2012年))。高アンモニア血症は、この障害のヒト患者ではより軽度の合併症である。高アンモニア血症よりも血漿アルギニンの上昇がアルギナーゼI欠損症のヒト患者における主要な治療課題であることを考慮すると、Co-ArgI-PEGは治療的有用性を有すると推測されることもあるが、有用性の程度及び反応は合理的に予測できず、たとえ1995年に遡って仮定しても、試験又は治療モデルは実施又は開発されていない。例えば、Uchino,T.ら、「Molecular basis of phenotypic variation in patients with argininemia」、Hum.Genet.、第96巻、第3号、第255~60頁(1995年)を参照されたい。
【0050】
I.アルギナーゼ
野生型アルギナーゼはマンガン含有酵素である。これは尿素サイクルの最後の酵素である。アルギナーゼは、体が有害なアンモニアを処理する哺乳類における一連の生物物理的反応である、尿素サイクルの第5番目かつ最終ステップである。具体的には、アルギナーゼは、L-アルギニンをL-オルニチン及び尿素に変換する。
【0051】
L-アルギニンは酸化窒素シンターゼ(NOS)に対する窒素供与基質であり、L-シトルリン及び酸化窒素(NO)を産生する。アルギナーゼのKM(2~5mM)は、L-アルギニンに対するNOSのそれ(2~20μM)よりはるかに高いことが報告されているが、アルギナーゼはNOS活性の調節にも役割を果たすことができる。ある条件下では、アルギナーゼIはCys-S-ニトロシル化され、L-アルギニンに対するより高い親和性及びNOSに対する基質の利用性の低下をもたらす。
【0052】
アルギナーゼは、いくつかのヘリックスで囲まれた平行な8本鎖βシートのα/βフォールドを有する、ホモ三量体酵素である。この酵素は、L-アルギニンのグアニジニウム炭素を求核攻撃する水酸化物を生成するのに不可欠な、二核金属クラスターを含有する。アルギナーゼの天然金属補因子はMn2+である。これらのMn2+イオンは水を配位し、分子を配向及び安定化し、水を求核試薬として作用させてL-アルギニンを攻撃させ、それを加水分解してオルニチン及び尿素にする。
【0053】
哺乳類は、L-アルギニンの尿素及びL-オルニチンへの加水分解を触媒する、2つのアルギナーゼアイソザイム(EC3.5.3.1)を有する。アルギナーゼI遺伝子は第6染色体(6q23)上に位置し、肝細胞のサイトゾルで高度に発現し、尿素サイクルの最終ステップとして窒素除去で機能する。アルギナーゼII遺伝子は第14染色体(14q24.1)に存在する。アルギナーゼIIは、腎臓、脳、及び骨格筋などの組織にミトコンドリアに局在し、プロリン及びポリアミン生合成のためのL-オルニチンの供給をすると考えられている(Lopezら、FEBS J.、第272巻、第4540~48頁(2005年)。
【0054】
アルギナーゼは細胞外L-アルギニンを分解する方法として50年近く研究されてきた(Dillonら、「Biochemical characterization of the arginine degrading enzymes arginase and arginine deiminase and their effect on nitric oxide production」、Med.Sci.Monit.、第8巻、第7号、第BR248~253頁(2002年)。天然アルギナーゼは数分以内に循環から除去されるが(Savocaら、Cancer Biochem.Biophys、第7巻、第261~268頁(1984年)、ラットへのPEG-アルギナーゼMW5,000の単回注射は、約3日間の完全に近いアルギニン欠乏を達成するのに充分であった(Chengら、Cancer Res、第67巻、第309~17頁(2007年))。
【0055】
良好な動態及び安定性を示す細菌アルギニン加水分解酵素であるADIを、インビトロで試験した。残念なことに、ADIは細菌酵素であり、そのためほとんどの患者で強い免疫反応及び副作用を誘導し、定期的な投与を必要とするARG1-D患者での長期投与には適していない。
【0056】
ARG1-D患者における臨床使用のためには、アルギナーゼが循環中において長時間(例えば、数日)持続できるように設計することが不可欠である。いかなる修飾も存在しない場合、ヒトアルギナーゼの循環中の半減期はわずか数分であるが、これは主に、その大きさが腎臓でのろ過を避けるほど大きくないためである。修飾されていないヒトアルギナーゼは、血清中で非常に不活性化されやすく、わずか4時間の半減期で分解される。
【0057】
II.アルギナーゼバリアントのPEG化
本発明のある態様では、PEG化アルギナーゼに関連する方法及び組成物が開示される。具体的には、操作されたシステイン残基におけるアルギナーゼのPEG化(例えば、N末端の3番目の残基を置換)を用いて、均質なPEG化アルギナーゼ組成物を産生することができる。重合の一時的な中断に基づくPEG化アルギナーゼの単離方法もまた開示される。
【0058】
PEG化とは、PEGポリマー鎖を別の分子である、通常は薬物又は治療用タンパク質に共有結合するプロセスである。「PEG化」は、PEGの反応性誘導体を標的高分子とインキュベーションすることによって達成することができる。薬物又は治療用タンパク質の流体力学的サイズ(溶液中でのサイズ)が増大し、腎クリアランスを低下させることによって循環時間が延長されること。PEG化はまた、疎水性薬物及びタンパク質に水溶性を与えることもできる。
【0059】
PEG化における第1ステップは、タンパク質の一方若しくは両方の末端ドメインにおける、又はリジンなどのアミノ酸に対する内部での、PEGポリマーの好適な官能化であり得る。同じ反応性部分を有する各末端で活性化されるPEGは「ホモ二官能性」として知られているが、存在する官能基が異なる場合、PEG誘導体は「ヘテロ二官能性」又は「ヘテロ官能性」と称される。PEGポリマーの化学的に活性な又は活性化された誘導体は、PEGを所望の分子に結合させるために調製される。
【0060】
PEG誘導体のための好適な官能基の選択は、PEGにカップリングされるであろう分子上の利用可能な反応基のタイプに基づく。タンパク質について、典型的な反応性アミノ酸としては、リジン、システイン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、及びチロシンが挙げられる。N末端アミノ基及びC末端カルボン酸を使用して、PEGをポリペプチドに結合させることもまたできる。
【0061】
PEG誘導体を形成するために使用される技術は、PEGポリマーを、ヒドロキシル基、典型的には無水物、酸塩化物、クロロギ酸エステル、及び炭酸塩と反応する基と反応させることを含む。PEG化の化学的性質はまた、共役に利用可能なアルデヒド、エステル、アミドなどの官能基を使用することができる。ヘテロ二官能性PEGは、親水性、柔軟性、及び生体適合性スペーサーが必要とされる2つの実体を連結するのに非常に有用である。ヘテロ二官能性PEGの好ましい末端基は、マレイミド、ビニルスルホン、ピリジルジスルフィド、アミン、カルボン酸、及びH-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルである。
【0062】
最も一般的な修飾剤又はリンカーは、メトキシPEG(mPEG)分子に基づく。これらの活性は、アルコール末端にタンパク質修飾基を付加することに依存している。ポリエチレングリコール(PEGジオール)を前駆体分子として用いることができる。その後、このジオールの両端が修飾されて、ヘテロ二量体又はホモ二量体のPEG結合分子が形成される(PEGビス-ビニルスルホンを用いた例に示す通り)。
【0063】
タンパク質は一般に、プロトン化されていないチオール(システイニル残基)又はアミノ基のような、求核部位でPEG化される。システイニル特異的修飾試薬の例として、PEGマレイミド、PEGヨード酢酸、PEGチオール、及びPEGビニルスルホンが挙げられる。4つは全て、温和な条件下及び中性~弱アルカリ性のpH下において強いシステイニル特異性を示すが、それぞれいくつかの欠点がある。マレイミドで形成されたアミドは、アルカリ性条件下では幾分不安定であり得るため、このリンカーを用いた配合オプションにはいくつかの制限があり得る。ヨード-PEGで形成されるアミド結合はより安定であるが、遊離ヨウ素はいくつかの条件下においてチロシン残基を修飾できる。PEGチオールはタンパク質チオールとジスルフィド結合を形成するが、この結合もまた、アルカリ条件下で不安定であり得る。PEG-ビニルスルホン反応性は、マレイミド及びヨード-PEGと比べて比較的遅い。しかしながら、形成されるチオエーテル結合は極めて安定である。反応速度が遅いとまた、PEG-ビニルスルホン反応の制御も容易になる。
【0064】
天然のシステイニル残基での部位特異的PEG化は、これらの残基が通常ジスルフィド結合の形態であるか、又は生物活性に必要であるため、ほとんど行われない。一方で、部位特異的突然変異誘発法は、チオール特異的リンカーのシステイニルPEG化部位を取り込むために使用できる。システイン変異は、それがPEG化試薬に利用可能であり、かつPEG化後もなお生物学的に活性であるように設計されなければならない。
【0065】
アミン特異的修飾剤には、PEG-NHSエステル、PEGトレシレート、PEGアルデヒド、PEGイソチオシアネート、及びいくつかの他のものが含まれる。これらのアミン特異的薬剤は、一般に温和な条件下で反応し、アミノ基に対して非常に特異的である。
【0066】
ほとんどのタンパク質には複数のリシン残基があるため、部位特異的なPEG化は困難となり得る。幸いなことに、これらの試薬はプロトン化されていないアミノ基と反応するので、より低いpHで反応を行うことによって、より低いpKアミノ基にPEG化をさせることが可能である。一般に、α-アミノ基のpKは、リシン残基のε-アミノ基より1~2pH単位低い。pH7以下で分子をPEG化することによって、N末端に対する高い選択性をしばしば達成することができる。しかしながら、これはタンパク質のN末端部分が生物活性に必要でない場合にのみ可能である。それでもなお、PEG化による薬物動態学的利益はしばしば、インビトロ生物活性の有意な損失を上回るため、結果として、PEG化の化学的性質に関わらず、はるかに大きなインビボ生物活性を有する生成物が得られる。
【0067】
III.タンパク質及びペプチド
ある実施形態では、本発明は、安定化アルギナーゼ多量体などの少なくとも1つのタンパク質又はペプチドを含む組成物に関する。これらのペプチドは、融合タンパク質中に含まれ得るか、又は作用剤に結合され得る。
【0068】
A.タンパク質及びペプチド
本明細書中で使用される場合、タンパク質又はペプチドとは、一般に、限定されるものではないが、遺伝子から翻訳された全長配列までの約200を超えるアミノ酸のタンパク質、約100以上のアミノ酸のポリペプチド、及び/又は約3~約100のアミノ酸のペプチドを指す。便宜上、用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、及び「ペプチド」は、本明細書中では交換可能に使用される。
【0069】
本明細書中で使用される場合、「アミノ酸残基」とは、あらゆる天然に存在するアミノ酸、あらゆるアミノ酸誘導体、又は当技術分野において公知のあらゆるアミノ酸模倣物を指す。タンパク質又はペプチドの例示的な残基は、アミノ酸残基の配列を中断するいかなる非アミノ酸も伴わず、連続したものである。他の例示的な配列は、1つ以上の非アミノ酸部分を含み得る。例えば、タンパク質又はペプチドの残基の配列は、1つ以上の非アミノ酸部分によって中断され得る。
【0070】
したがって、用語「タンパク質又はペプチド」は、天然に存在するタンパク質において見出される20個の一般的なアミノ酸の少なくとも1つを含むアミノ酸配列を包含し、少なくとも1つの修飾されたアミノ酸又は異常なアミノ酸を含んでもよく、これには以下に示されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
【0072】
IV.核酸及びベクター
目的のアルギナーゼポリペプチドをコードする核酸配列は、安定化された多量体アルギナーゼであり得る。使用される発現系に応じて、核酸配列は、従来の方法に基づいて選択することができる。例えば、ヒトアルギナーゼI及びIIは、発現を妨害し得る大腸菌においてまれに利用される複数のコドンを含有する。したがって、それぞれの遺伝子又はそのバリアントは、例えば米国特許第8,440,184号に記載されているように、大腸菌発現のためにコドンを最適化することができる。融合多量体アルギナーゼ又はシステイン置換アルギナーゼのような種々のベクターを用いて、目的のタンパク質を発現させることもできる。例示的なベクターは、限定されるものではないが、プラスミドベクター、ウイルスベクター、トランスポゾン、ゴースト赤血球細胞、又はリポソームベースのベクターを含む。
【0073】
V.宿主細胞
宿主細胞、好ましくは真核細胞を用いて、アルギナーゼ、及びその融合多量体の発現及び分泌を可能にするように形質転換することができる。宿主細胞は、バクテリア、哺乳動物細胞、酵母、又は糸状菌であり得る。種々のバクテリアには、エシェリキア属(Escherichia)及びバチルス属(Bacillus)が含まれる。サッカロミセス(Saccharomyces)、クルイベロミセス(Kluyveromyces)、ハンゼヌラ(Hansenula)、又はピチア(Pichia)に属する酵母もまた、宿主細胞として用いることができる。糸状菌の種々の種は、以下の属を含む発現宿主として使用され得る。アスペルギルス(Aspergillus)、トリコデルマ(Trichoderma)、アカパンカビ(Neurospora)、青カビ(Penicillium)、セファロスポリウム(Cephalosporium)、ワタカビ(Achlya)、ポドスポラ(Podospora)、エンドチア(Endothia)、ケカビ(Mucor)、コクリオボルス(Cochliobolus)、及び>ピロクラリア(Pyricularia)。
【0074】
使用可能なバクテリア宿主生物の例としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)MC1061、枯草菌BRB1の誘導体、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)SAI123、又はストレプトコッカス・リビダンス(Streptococcus lividans)が挙げられる。宿主細胞として使用することができる例示的な酵母としては、例えば、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)AH22及びシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)が挙げられ、例示的な糸状菌としては、例えば、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、及びトリコデルマ・リーゼイが挙げられる。
【0075】
一般的に入手可能な哺乳動物宿主細胞の例としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-K1、American Type Culture Collection(ATCC)第CCL61号)、ラット下垂体細胞(GH1、ATCC、第CCL82号)、HeLaS3細胞(ATCC、第CCL2.2)、ラット肝癌細胞(H-4-II-E、ATCC第CRL1548号)、SV40形質転換サル腎臓細胞(COS-1、ATCC、第CRL1650号)、及びマウス胚細胞(NIH-3T3、ATCC、第CRL1658号)が挙げられる。上記は、当技術分野で知られている多くの可能な宿主生物を例示するものであるが、限定するものではない。
【0076】
アルギナーゼ及び/又はそれらの融合多量体を発現する哺乳動物宿主細胞は、典型的には親細胞株を培養するために使用される条件下であり得る。一般に、細胞は、生理学的塩及び栄養素を含有する標準的な哺乳動物細胞培地、例えば、標準的なロズウェルパーク記念研究所培地(Roswell Park Memorial Institute medium、RPMI)、最小必須培地(Minimum Essential Medium、MEM)、改良最小必須培地(Improved Minimum Essential Medium、IMEM)、又はダルベッコ最小必須培地(Dulbecco’s Minimum Essential Medium、DMEM)中で培養され、典型的には、ウシ胎児血清(fetal bovine serum、FBS)などの5~10%の血清が添加される。培養条件もまた標準的であり、例えば、タンパク質の所望のレベルが達成されるまで、培養物を定置又はローラー培養物中において37℃でインキュベートする。
【0077】
VI.タンパク質精製
目的のタンパク質又はポリペプチドは、特に明記しない限り、部分的又は完全な精製(又は、均一にするための精製)を達成するために、クロマトグラフィー技術及び電気泳動技術を用いて更に精製することができる。純粋なペプチドの調製に特に適した分析方法は、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル排除クロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、イムノアフィニティークロマトグラフィー、及び等電点電気泳動である。ペプチドを精製する特に効率的な方法は、高速液体クロマトグラフィー(fast performance liquid chromatography、FPLC)、又は更には、高性能液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography、HPLC)である。
【0078】
精製されたタンパク質又はペプチドとは、他の成分から単離可能な組成物を指すことを意図し、ここで、タンパク質又はペプチドは、その天然に入手可能な状態に対してあらゆる程度まで精製される。したがって、単離又は精製されたタンパク質又はペプチドはまた、それが天然に存在し得る環境から遊離したタンパク質又はペプチドも指す。一般的に、「精製された(purified)」とは、種々の他の成分を除去するために分画に供され、その発現された生物活性を実質的に保持する、タンパク質又はペプチド組成物を指す。用語「実質的に精製された」が使用される場合、この呼称は、タンパク質又はペプチドが組成物の主要成分を形成する組成物、例えばタンパク質が組成物の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、又はより多くを構成する組成物を指す。
【0079】
例示的なタンパク質精製技術には、硫酸アンモニウム、PEG、及び抗体などを使用する、又は熱変性を行った後、遠心分離、イオン交換、ゲルろ過、逆相、ヒドロキシルアパタイト、及びアフィニティークロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーステップ、等電点電気泳動、ゲル電気泳動、並びにこれらの技術と他の技術との組合せを行うことが含まれる。
【0080】
VII.医薬組成物
本明細書に記載のアルギナーゼは、全身的又は局所的に投与することができる。アルギナーゼ及びそれらを含む組成物は、静脈内、クモ膜下、皮下、筋肉内、腫瘍内、及び/若しくは腹腔内、又はこれらの組合せで投与することができる。本明細書に記載される化合物及びそれらを含む組成物は、単独で、又はアルギニンスカベンジャ及び/若しくはアルギニン低減食と組み合わせて、投与することができる。
【0081】
アルギナーゼ又はその一部を含有する組成物は、生理学的に許容可能な液体、ゲル又は固体の担体、希釈剤、及び賦形剤と共に配合物として提供することができる。このような組成物は、典型的には、液体溶液又は懸濁液として、注射剤として、調製される。好適な希釈剤及び賦形剤とは、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、又はグリセロールなど、及びこれらの組合せである。更に、所望であれば、組成物は少量の補助物質、例えば湿潤剤又は乳化剤、安定化剤又はpH緩衝液を含有してもよい。臨床応用が企図される場合には、意図された応用に適切な形態で、医薬組成物(発現ベクター、ウイルスストック、タンパク質、抗体、及び薬物)を調製することが必要であり得る。一般に、本発明の医薬組成物は、医薬的に許容可能な担体中に溶解又は分散された、有効量である1以上のアルギナーゼバリアント又は更なる薬剤を含む。
【0082】
語句「医薬的又は薬理学的に許容可能な」とは、ヒトなどの対象に投与された場合に、必要に応じて、有害な、アレルギー性の、又は他の好ましくない反応を生じない分子類及び組成物を指す。本明細書に開示された方法によって単離された安定化多量体アルギナーゼ若しくはPEG化アルギナーゼなどの少なくとも1つのアルギナーゼバリアント、又は更なる有効成分を含有する医薬組成物の調製は、Remington’s、Pharmaceutical Sciences、第18版(1990年)によって例示されるように、本開示に照らして当業者に公知である。更に、動物(例えば、ヒト)への投与について、製剤は、FDA生物学的基準事務局(FDA Office of Biological Standards)が要求する無菌性、発熱性、全般的安全性、及び純度の基準を満たすべきであることが理解される。
【0083】
本明細書中で使用される場合、「医薬的に許容可能な担体」には、当業者に知られている、あらゆる及び全ての溶媒、分散媒、コーティング剤、界面活性剤、酸化防止剤、保存剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩類、保存剤、薬物、薬物安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、染料、例えば材料及びそれらの組合せが含まれる(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18版(1990年)を参照されたい)。いずれかの従来の担体が有効成分と不適合である場合を除き、医薬組成物におけるその使用が企図される。
【0084】
アルギナーゼを含有する医薬組成物は、それを固体、液体、又はエアロゾル形態で投与されるべきかどうか、及び注射などの投与経路のために無菌である必要があるかどうかに応じて、異なるタイプの担体を含むことができる。本発明は、静脈内、皮内、経皮、クモ膜下、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、腫瘍内、局所、注射、注入、連続注入、カテーテルを介して、脂質組成物(例えば、リポソーム)中において、又は当業者に知られている他の方法(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences)若しくは前述のあらゆる組合せによって投与することができる。
【0085】
アルギナーゼバリアントは、遊離塩基、中性、又は塩の形態で配合して、組成物することができる。医薬的に許容可能な塩には、酸付加塩、例えばタンパク質性組成物の遊離アミノ基と形成されるもの、又は無機酸、例えば塩酸若しくはリン酸と形成されるもの、又は有機酸、例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸、若しくはマンデル酸などが含まれる。遊離カルボキシル基と形成される塩類を、無機塩基、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、若しくは第二鉄の水酸化物、又はイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、若しくはプロカインなどの有機塩基から誘導することもできる。配合されると、液剤を、その投与配合物と適合する様式において、治療有効量で投与することができる。配合物は、注射剤のような非経口投与のための若しくは肺への送達用のエアロゾルための配合、又は消化管投与用の薬物放出カプセルなどの配合といった種々の投与形態で容易に投与される。
【0086】
投与用の組成物は、不活性希釈剤を含むか又は含まない医薬的に許容可能な担体中において提供することができる。担体は吸収性でなければならず、液体、半固体、すなわちペースト、又は固体担体を含む。いずれか一般的な媒体、作用剤、希釈剤、又は担体が、レシピエントに対して、又はそれに含有される組成物の療法有効性に対して有害である場合を除いて、本発明の方法を実施する際に使用するための投与可能な組成物中におけるそれの使用は適切である。担体又は希釈剤の例には、脂肪、油、水、生理食塩水、脂質、リポソーム、樹脂、結合剤、及び増量剤など、又はその組合せが含まれる。組成物はまた、1以上の成分の酸化を遅らせるための種々の抗酸化剤を含むこともできる。更に、パラベン類(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール、又はこれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない、種々の抗細菌剤及び抗真菌剤の使用が、医薬組成物の寿命を改善し得る。
【0087】
いずれか好都合かつ実用的な様式で、すなわち溶解、懸濁、乳化、混合、カプセル封入、及び吸収などにより、組成物を担体と混和することができる。そのような手順は当業者にとってルーティンである。
【0088】
アルギナーゼバリアントを含む組成物に、医薬脂質ビヒクルを使用することができる。脂質ビヒクル組成物は、1以上の脂質及び水性溶媒を含むことができる。本明細書中で使用される場合、用語「脂質」とは、水に特徴的に不溶性であり、かつ有機溶媒で抽出可能である、広範囲の物質のいずれかを含むように定義される。例えば、長鎖脂肪族炭化水素及びその誘導体を含有する化合物が挙げられる。脂質には天然のもの又は合成のもの(すなわち、人間によって設計されるか又は生産される)があり得る。しかしながら、脂質は通常、生体物質である。生体脂質としては、例えば、中性脂肪、リン脂質、ホスホグリセリド、ステロイド、テルペン、リソリピド、スフィンゴ糖脂質、糖脂質、スルファチド、エーテル結合脂肪酸及びエステル結合脂肪酸を有する脂質、重合性脂質、並びにそれらの組合せが挙げられる。もちろん、脂質として当業者に理解される本明細書で具体的に記載された化合物以外の化合物もまた、本発明の組成物及び方法に含まれる。
【0089】
本明細書に記載されるアルギナーゼを含む組成物の患者への実際の投与量は、患者の体重、状態の重篤度、治療される疾患のタイプ、以前又は現在の治療介入、突発性疾患、及び投与経路などの物理的並びに生理学的要因によって決定することができる。投与量及び投与経路に応じて、好ましい用量及び/又は有効量の投与回数が、対象によって変化し得る。用量は、患者が、アルギニン、HArg、ArgA、GVA、GAA、及びNAArgの少なくとも1つ以上の正常レベルを達成するために必要な量に応じる。これら5つの化合物のうちの1つ以上のARG1-D患者レベルは、一般に、患者の血漿で正常範囲が得られるまで評価される。5つの化合物の組織レベルも評価することができるが、必ずしも必要ではないか、又は血漿レベル試験よりも低い頻度で実施することができる。
【0090】
ARG1-D患者について、初回投与は、患者1kg当たり0.005~1.00mg/kgのアルギナーゼの用量、及び0.02mg/kg又は0.035mg/kgのような、0.005~1.00mg/kg/患者体重の範囲でのあらゆる0.005量の、静脈内投与であり得る。例示的な静脈内投与量又はアルギナーゼは、毎日、毎週、隔月、又は毎月投与することができる。あるいは、アルギナーゼ組成物は、最初に、又は皮下のみで、又は静脈内投与若しくは皮下投与のあらゆる組合せで、投与することができる。皮下又は筋肉内投与は、0.01~1.50mg/kg/患者体重のアルギナーゼの用量、及び0.08mg/kgのような、0.01~1.50mg/kg/患者体重の範囲の0.01量であり得る。皮下又は筋肉内投与は、毎日、毎週、隔月、又は毎月であってもよい。
【0091】
医薬組成物は、例えば、少なくとも約0.1%の活性化合物を含み得る。他の実施形態では、活性化合物は、例えば、単位の重量の約2%~約75%、又は約25%~約60%、及びそこで誘導可能なあらゆる範囲を含んでもよい。当然ながら、各治療的に有用な組成物中の活性化合物の量は、化合物のあらゆる所与の単位用量において好適な用量が得られるように調製してもよい。溶解性、生物学的利用能、生物学的半減期、投与経路、製品の有効期間、及び他の薬理学的理由などの要因は、そのような医薬製剤を調製する当業者によって企図され、そのようなものとして、種々の投与量及び治療レジメンが望ましい場合がある。ペグジラルギナーゼの例示的な配合は、5mMのリン酸カリウム、50mMの塩化ナトリウム、及び1.5%のグリセロール(w/v/)を含む緩衝液中で、pH7.4で配合される。
【0092】
VIII.治療方法
アルギナーゼタンパク質をARG1-D患者に投与することに加えて、他の治療方法もまた企図される。例えば、患者は、野生型アルギナーゼを含むアデノウイルスベースの遺伝子送達ベクターといった遺伝子療法ベクターによって治療することができる。野生型タンパク質は、肝臓などの特定の臓器を対象とし得る。例えば、米国特許第8,398,968号に記載されているように、遺伝子療法によって患者へタンパク質を再導入するための種々のウイルス包装システムが作製されている。
【0093】
ARG1-D患者を治療する別の方法は、CRISPR(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート)システムを使用することであり、ここで、染色体上の欠陥遺伝子は、患者が正常量の野生型アルギナーゼを産生できるようにエラーを編集するように操作される。すでに述べたように、編集する必要のある異なる染色体上に位置している、2つのアルギナーゼ遺伝子が存在する。CRISPRゲノム編集は、例えば、米国特許出願公開第20170240922号、同第20170283830号、同第20170224843号、及び同第20170191078号に記載されている。
【0094】
アルギナーゼを送達する別の方法は、患者に投与することができる、再封された赤血球(red blood cell、RBC)中にアルギナーゼタンパク質を封入することである。アルギナーゼの封入は、一般に、米国特許出願公開第20160095884号及び同第20140154797号に記載されている通りに実施することができる。アルギナーゼを含有する赤血球を調製するための溶解/再封プロセスは、球状濃縮物を、ヘマトクリットレベルが65%以上である等張液中に懸濁させ、1℃~8℃で冷却することと、同じ球状濃縮物由来の赤血球の試料、好ましくは懸濁液の試料に基づく浸透圧脆弱性を測定することと、ヘマトクリットレベルが65%以上である赤血球懸濁液及び1℃~8℃で冷蔵された低張性溶解液を、透析カートリッジ内で循環させることを含む、同一チャンバ内で約1℃~8℃に維持された温度における有効成分(すなわち、アルギナーゼ)の溶解及び内在化手順と、以前に測定された浸透圧脆弱性に従って調整される溶解パラメータと、高張液を用いて30℃~40℃の温度で第2のチャンバに再封することと、を含む。
【実施例0095】
非盲検第1/2相試験では、ARG1-Dと診断された12人の成人及び小児患者(小児7名及び成人5名)が登録された。第1部では、患者は2週間の間隔で漸増用量のペグジラルギナーゼを受けた。第2部では、患者は8週の間、毎週間隔でペグジラルギナーゼ(AEB1102)を静脈内(IV)に投与された。
【0096】
安全性、薬物動態、薬力学(血漿アルギニン及びGC例えば、GVA、ArgA、NAA、GAA))、及び標準化臨床測定(例えば}、6分間歩行試験(6-minute walk test、6MWT)、バーグ・バランス・スケール(Berg Balance Scale、BBS)、粗大運動能力尺度66項目(Gross Motor Function Measure 66 item、GMFM-66)、及びPROMIS)に対する評価を行った。GMFM-66は、パートA~パートEまでの粗大運動能力の様々な側面を評価するツールである。グアニジノ化合物(GC)をペグジラルギナーゼ投与前と投与後との両方で分析して、患者に対するペグジラルギナーゼの治療効果を評価した。患者から分析のために選んだGCには、血漿中における、α-ケト-δ-グアニジノ吉草酸(GVA)、アルギニン酸(ArgA)、ホモアルギニン、N-α-アセチルアルギニン(NAArg)、及びGAAが含まれていた。
【0097】
方法。患者由来のK2EDTA血漿からのGC(GAA、GVA、ArgA、NAArg)を定量するための生化学分析法を開発した。患者由来の血漿タンパク質を10%のトリクロロ酢酸溶液で沈殿させ、Imtakt Intrada Amino Acidの50×2mm(商品番号WAA22)カラムを使用して島津Nexera(登録商標)で分離した。分析物は、Applied BiosystemsのMDS Sciex API 5500(商標)を用いてLC-MS/MSにより検出した。各GCの同位体標識標準を用いて、各血漿試料の定量を可能にした。詳細な方法プロトコルを、この例の最後に示す。
【0098】
成人女性患者2例の試験結果
24歳及び25歳の2人の成人女性患者を、8週間、週1回のペグジラルギナーゼIVで治療した。両患者は、痙縮を含む中等度~重度の神経認知及び神経運動障害を有する。両患者には、ペグジラルギナーゼ投与期間中、プレペグジラルギナーゼ治療標準が続いた。0.04mg/kgのペグジラルギナーゼの週1回静脈内(IV)投与は、良好な耐容性を示した。血漿アルギニンの予想された低下(
図1)に加えて、分析したGC(例えば、ArgA、NAArg、GVA)の濃度の経時的な低下がペグジラルギナーゼ治療後に観察された。ArgA、NAArg、及びGVA血漿レベルの低下は最初の注入から24時間以内に生じ、各患者が受けた8週間の投与を通してベースラインレベル以下に維持された。
【0099】
第1相試験(ペグジラルギナーゼ-101A)の単一漸増用量部分におけるアルギニン/オルニチン試料分析に最初に使用した両患者由来の血漿試料を、GC法開発中のアッセイ範囲の設定を支援するためにプールした。次いで、これらのプールされた試料を用いて、方法開発段階が完了した後に、GCを定量した。両患者に、0.015mg/kg及び0.03mg/kg/患者体重のペグジラルギナーゼを単回投与し、投与期間中に2週間観察した。
【0100】
以前に報告した非GLPアッセイ(この例の最後に示した詳細な方法)でこれらのプールした患者試料を用いて、0.03mg/kgのペグジラルギナーゼで治療したARG1-D患者由来のArgA(およそ3倍)、GVA(およそ4倍)、及びNAArg(およそ2倍)濃度の経時的低下を観察した。GCレベルの低下は、GLPアッセイを用いて測定した血漿アルギニンの低下と並行していた(
図1A~
図1D)。
【0101】
図3A~
図3Dに反映されるように、2人の患者(すなわち、第120-101号及び第120-102号)に、0.015mg/kg/患者体重又は0.03mg/kg/患者体重でペグジラルギナーゼを投与し、血漿中のアルギニン及びグアニジノ化合物レベルを以下のように測定した。
【0102】
[表2]2例の患者における0.015mg/kg/患者の用量のGCレベル。
*対象2例の平均、**対象2例由来のプールした試料。表2及び表3に値が記載されていない場合、患者はその時点では検査を受けておらず、理由としては、検査が高価であり、かつ一般的に、血中レベルが急速に変化するとは考えられていなかったからである。
【0103】
[表3]2例の患者における0.03mg/kg/患者体重の用量のGCレベル。
*対象2例の平均、**対象2例由来のプールした試料。
【0104】
【0105】
[表5]PK濃度(試験の用量漸増部分で利用できる濃度データ)。患者2名のPKデータは以下の通りである。
【0106】
[表6]単回IV注入後の高アルギニン血症患者における、ペグジラルギナーゼの個人及び平均PKパラメータ(用量漸増のみのデータ)。
【0107】
データ。血漿アルギニンと、ArgA、GVA、及びNAArg濃度との間で観察された関係は、一般に、Marescauら(1990年)により発表されたデータと一致しており、ここではタンパク質制限食を与えられた患者が分析された。Marescauら(1990年)の研究では、GCレベルはアルギニンレベルの低下と同時に低下した。
【0108】
本明細書に示したデータについて、分析したArgA、GVA、及びNAArgレベルだけでなく、ホモアルギニン(HArg)レベルも示した。HArgがMarescauら(1990年)の研究におけるARG1-D患者の血清で有意に上昇したため、HArgレベルを調べた。ペグジラルギナーゼで治療したARG1-D患者では、HArgレベルは調節されないようであった(
図2)。この結果は、タンパク質制限食で維持されている患者において血清HArgレベルが低下しないという、Marescauら(1990年)により報告されたデータと一致する。患者の治療によって評価できる更なる条件は、筋力、患者の歩行能力(すなわち、走る、歩く、自転車に乗る、支えなしで階段を上る能力)を改善し、認知能力(例えば、WISC検査の改善)、又は適応行動(例えば、ABAS若しくはVABS検査)の改善)の改善である。
【0109】
GCデータはまた、低用量のペグジラルギナーゼ0.015mg/kg/患者体重で治療した、2人の成人患者から得たプール血漿試料からも生成した。血漿アルギニン濃度の低下が、ペグジラルギナーゼの低用量投与で観察された。しかしながら、この低下は、0.03mg/kg用量で観察された血漿アルギニンの低下ほど顕著ではなかった。
【0110】
上記のこれら2人の患者の所見を考慮すると、ペグジラルギナーゼ0.04mg/kgの用量を辛抱強く週1回で患者に静脈内投与した場合、成人ARG1-D患者では耐用性が良好であったと結論した。患者は、アルギニンレベル低下と平行したGCの著しい低下を示した。アルギニンレベル及びGCレベルに対する効果はこれら2人の成人患者に基づき、厳密な食事アルギニン制限によって歴史的に達成された効果よりも化学的に重要であると考えられる。研究において1人のARG1-D患者が0.2mg/kgの投与に成功した。固形腫瘍最大耐量(maximum tolerated dose、MTD)を、0.33mg/kg~最大0.48mg/kgまでの用量で確立した。
【0111】
もちろん、アルギニンレベルが高い(例えば、600~800μMのアルギニン)患者は、0.50mg/kgより高い用量のペグジラルギナーゼで治療してもよい。アルギニンレベルが高い患者は、0.005~1.00mg/kg対象体重の範囲でのアルギナーゼ投与を必要とし得る。0.005mg/kg~0.50mg/kg対象体重の投与範囲、及び/又は0.005mg/kg~0.20mg/kg対象体重の投与範囲もまた企図される。
【0112】
薬物の生物学的利用能は、IV及び/又は皮下注射から指定された期間にわたって血液中の薬物量を測定することによって、測定できる。計算のため、静脈内投与された薬物の100%が血流に入ると仮定されるが、皮下投与された薬物の全てが皮下空間から血液に入るわけではない。生物学的利用能は、皮下総容量をIV総容量で除すことで決定できる。皮下投与されたペグジラルギナーゼの生物学的利用能はカニクイザルにおける静脈内投与と皮下投与との比較に基づいて、IV投与のおよそ60%と決定された。したがって、アルギニンのレベルが高い患者は、1.5mg/kgものアルギナーゼで上手く治療することができる。生物学的利用能データに基づいて、ペグジラルギナーゼの皮下投与のための投与範囲は、例えば、0.01~約1.5mg/kg対象体重であってもよく、0.015mg/kg~0.75mg/kg対象体重及び/又は0.015mg/kg~約0.30mg/kg対象体重が使用される。
【0113】
図4A及び
図4Bは、ペグジラルギナーゼによる治療前(例えば、スクリーニング時)及び治療後の、2人の患者である患者第120-101号(
図4A)及び患者120-102号(
図4B)におけるGAAのデータを示す。いずれの場合でも、スクリーニング時と、第1部及び第2部の投与中と、におけるGAAレベルに関するデータを示す。両患者において、GAAは0.015mg/kg/対象体重の投与後に低下し、より高い用量でより大きな効果が観察された。特に、GAAの急速な低下がペグジラルギナーゼの投与直後に観察された。更に、初期治療によって、投与後24時間以内に両患者はGAAの血漿レベルの正常範囲になった。例えば、
図4Bにおいて、14日目の患者のGAAレベルは4,350nMであり、これはアルギナーゼの投与後24時間以内に1,350nMという低いレベルまで低下する。したがって、アルギナーゼによる治療は、GAA又はGVAのような有毒代謝物を迅速に除去することができ、急性治療として有用である。ペグジラルギナーゼは、アルギニン低減食のみよりもはるかに速い速度で、示された有毒代謝物を除去する。
【0114】
患者特性及び安全性
第1/2相試験の患者に対してベースライン評価を行った。以下の表に示すベースライン評価では、この試験の患者にかなりの疾患負荷が認められた。患者はタンパク質制限食を摂取していた。
【0115】
バーグバランスでは、欠損バランスは転倒リスクが中等度又は高度(スコア≦40)と定義される。6MWTでは、欠損は、Geigerら、「Six-minute walk test in children and adolescents」、J.Pediatr.、2007年4月、第150巻、第4号、第395~399頁、及びEnrightら、「Reference equations for the six-minute walk in healthy adults」、Am.J.Respir.Crit.Care Med.、1998年11月、第158巻、第5号パート1)第1384~1387頁に記載の健常者の年齢調整範囲以下と定義される。GMFMパートEでは、欠損は、Oeffingerら、「Outcome tools used for ambulatory children with cerebral palsy:responsiveness and minimum clinically important differences」、Dev.Med.Child Neurol、2008年、第50巻、第12号、第918~925頁に記載の臨床上意味のある最小変化量(MCID)に基づき68未満と定義される。複数のベースライン臨床検査評価が利用可能である場合、投与直前の評価が報告される。PROMISの場合、欠損ベースラインはTスコア40未満として定義される。
【0116】
[表7]第1/2相試験の患者に対してベースライン評価を行った。
【0117】
主な治療関連有害事象(adverse events、AE)は、以下の表に示す通り軽度であった。治療関連AEが2人以上の患者で認められたのは、過敏症(n=3、全て中程度)、そう痒症(n=3、全て軽度)、及び皮膚乾燥(n=2、どちらも軽度)であった。合計すると、130回以上の注入が試験における全患者で行われた。3人の患者(重篤な有害事象(serious adverse event、SAE)と考えられる患者2名)で、4種類の中等度の過敏反応を観察した。これらのAEは、注入速度の調整及び抗ヒスタミン薬の投与、並びに一部の症例ではコルチコステロイドにより管理した。高アンモニア血症の1つのSAEは、ペグジラルギナーゼによる治療に関連しないと評価された。
【0118】
【0119】
ペグジラルギナーゼADA効果を試験した。Meso Scale Discovery電気化学発光法を用いたブリッジングアッセイを、ラット、サル、及びヒト血清中のAEB1102(Co‐Arg1‐PEG)に対する抗体を検出するために検証した。この方法は、抗体を検出するために、ビオチニル化AEB1102(B-AEB1102又はB-Co-ArgI-PEG)を使用して、ADA及びルテニウム標識AEB1102(Ru-AEB1102又はRu-Co-ArgI-PEG)を捕捉した。
【0120】
検証中に、B-Co-ArgI-PEG及びRu-Co-ArgI-PEGのマスターミックス(Master Mix、MM)を、1.0μg/mLのB-AEB1102及び1.0μg/mLのRu-AEB1102の最終濃度までアッセイ緩衝液中に調製した。希釈した試料及び対照を、ストレプトアビジンでコートしたプレートのウェル中のマスターミックスに加えた。インキュベーション及び洗浄の後、150μLの2X Read Buffer T(Meso Scale Discovery製)を各ウェルに加えた。試料をSector Imager6000で読み取った。この方法を、スクリーニング、力価測定、及び確認に使用した。確認アッセイを150μg/mLのAEB1102(薬物)でプレインキュベートしたことに留意されたい。高、中、低濃度の陽性対照及び陰性対照を各試験に含めた。カットポイント、スクリーニング、及び確認を統計的に割り当て、それぞれおよそ5%及び1%の偽陽性率を得た。陽性対照は、抗Co-ArgI-PEGアフィニティー精製ポリクローナル抗体であり、陰性対照(Negative Control、NC)は、プールされた正常ラット、カニクイザル、又はヒト血清を等分した。陽性対照及び非特異的結合(non-specific binding、NSB)対照を、アッセイ成績をモニターするために使用した。
【0121】
PEGに対する抗体を検出するために直接結合アッセイを検証して、AEB1102の投与後に、すでに存在するか又は治療により発現する可能性のある抗PEG抗体の検出を可能にした。
【0122】
Starwell C8 Maxisorp(96穴フォーマットプレート)のウェルを、炭酸塩コーティング緩衝液(BioWorld)中において、100μLの2μg/mLモノPEG化ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin、BSA)(BSA-mPEG)5kDa(Life Diagnostics)、又は500ng/mLヒトIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories)、若しくは500ng/mLヒトIgM(Jackson ImmunoResearch Laboratories)でコーティングした。希釈緩衝液で50倍の最小希釈倍率(minimum required dilution、MRD)に希釈した対照及び試料を、二重にプレートへ加えた(100μL/ウェル)。希釈緩衝液は、1倍リン酸緩衝食塩水(PBS)中4%のウシγ-グロブリンを含む。100μLの検出抗体を適切なウェルに添加した。1:5,000に希釈したヤギ抗マウスIgG-Fc-HRP(Jackson ImmunoResearch Laboratories)を用いてマウス抗PEG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories)を検出し、希釈緩衝液で1:30,000に希釈し、適切なウェルに添加したウサギ抗ヒトIgG/A/M(Jackson ImmunoResearch Laboratories)を用いて、抗ヒト抗体を検出した。続いて、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(tetramethylbenzidine、TMB)基質を1ウェル当たり100μL添加した後、ウェル当たり100μLの停止液を添加して、およそ10~20分後に反応を停止した。プレートを、Synergy2プレートリーダーで450(検出)及び620(バックグラウンド)にて読み取った。カットポイント、スクリーニング、及び確認を統計的に割り当て、それぞれおよそ5及び1%の偽陽性率を得た。この方法を、スクリーニング、力価測定、及び確認に用いた。力価測定される試料は、陰性プールヒト血清中で少なくとも7回の2倍系列希釈に供した。
【0123】
一過性の低力価抗PEG ADA(抗薬物抗体)が患者試験の第1部で検出された(以下の表を参照されたい)。反復投与開始時、6/7の患者では検出可能なADAはなかった。ペグジラルギナーゼへの耐用性は、以下の表9に示すように、予想外に迅速であった。
【0124】
[表9]ペグジラルギナーゼ及びPEGについてのADA評価。
【0125】
*治療前に抗PEG ADAを有する患者1人は、第1部の間に力価が低下し、最後の第1部用量ではADAが検出できなかった。しかしながら、この患者は、試験とは無関係な理由から、試験の第2部は継続しなかった。この患者はn=7には含まれない。
【0126】
図5A及び
図5Bは、アルギニン及びGCの効果を示す。GAAはARG1-D患者で上昇していた。これらの患者のGAAレベルはペグジラルギナーゼによる治療で低下した。
図5Bに示す反復投与量グラフは、第2部で8回全て投与された患者を含む。GCの正常上限(upper limit of normal、ULN)は、健常成人におけるGCの研究に基づいている。ペグジラルギナーゼは、単回投与及び反復投与においてアルギニンレベルを正常範囲まで低下させるのに、非常に効果的である(
図5B)。ARG1-D患者で上昇するGAAは、ペグジラルギナーゼによる治療でも低下する。GVA、ArgA、GAA、及びNAAの濃度の経時的低下が、ペグジラルギナーゼによるIV QW(毎週)治療後に観察された。GVA、ArgA、GAA、及びNAAレベルの低下は、最初の注入から24時間以内に生じ、ベースラインレベルからの低下は、投与の8週中維持した。血清ペグジラルギナーゼレベルは、投与1及び投与8周辺の複数の時点で測定した。
【0127】
図6は、3人の患者に対する6分間歩行試験の結果を表す(投与20及び投与32では患者5(「c」)のデータが得られず)。神経運動の結果を以下の表に示す。投与8、20、及び32は、反復投与(2回目の投与)の開始時より測定する。PROMISは、特に、PROMISの身体機能ドメインである。以下の表に示す6MWT(6分間歩行試験)、BBS(バーグ・バランス・スケール)、GMFMパートE、及びPROMISのデータは、ベースラインの生データ、及び他の時点でのベースラインからの変化として示されている。6MWTについて、MCIDは、Schroverら、「Minimal clinically important difference for the 6-min walk test:literature review and application to Morquio A syndrome」、Orphanet.J.Rare Dis.2017年4月26日、第12巻、第1号、第78頁の分析から定義され、BBSの場合、MCIDは、Downsら、「The Berg Balance Scale」J.Physiother.」、2015年1月、第61巻、第1号、第46頁の分析から定義され、GMFMの場合、MCIDは、Oeffingerら(2008年)の分析から定義され、そしてPROMISの場合、MCIDは、0.5標準偏差又はTスコア5点を持つ身体機能に基づいている。以下の表及び
図6は、ペグジラルギナーゼ投与後の患者の神経運動機能の改善を示す。神経運動機能は、筋肉又は神経機能を指す場合があり、例えばPROMIS、6MWT、BBS、及びGMFMを用いて、患者において臨床的に評価することができる。神経運動機能の例としては、限定されるものではないが、登山ステップ、歩行、痙縮、及び覚醒が挙げられる。例えば、罹患した患者は、正常な歩行(かかとから爪先)ではなく爪先立ちで歩くことがある。神経運動機能の改善とは、そのような患者の歩行能力の向上、又は爪先立ちではなく普通に歩くことを意味する場合がある。神経運動機能の改善とは、歩行補助具(例えば、「歩行器」又は杖)の使用をもはや必要としない、又は歩行補助具の使用をより少なくするといった、可動性を高めることであり得る。神経運動機能の改善は、姿勢の改善、及び/又はコミュニケーション/社会化の改善を意味し得る。
【0128】
【0129】
GAAは、GAMT(グアニジノ酢酸メチルトランスフェラーゼ)欠損患者における脳卒中と関連している(Stockler-Ipsirogluら、「Guanidinoacetate methyltransferase(GAMT)deficiency:outcomes in 48 individuals and recommendations for diagnosis,treatment and monitoring」、Mol.Genet.、Metab.、2014年、第111巻、第1号、第16~25頁)。結果は、ペグジラルギナーゼによる治療が患者のGAAレベルを低下させ、かつ血漿アルギニン及び関連したGCを低下させることを示す。GAAのような1つ以上のグアニジノ化合物のレベル(例えば、
図5Bを参照されたい)は、アルギナーゼの投与後24~48時間以内に低下又は除去される。したがって、アルギナーゼは、患者における有毒代謝物を減少又は除去するための急性治療として有用である。臨床的改善は、8週後のペグジラルギナーゼの反復投与で観察された。ペグジラルギナーゼは、一般に、患者の耐用性が良好であった。ほとんどの関連AEは軽度であり、標準的測定で管理可能であった。
【0130】
ペグジラルギナーゼによる治療は、予想外に、ARG1-D患者における高アルギニン血症の症状を迅速に低下させた。これらの改善は生化学的レベルで明らかになった。1つ以上のアルギニン及びグアニジノ化合物の血漿レベルは、アルギナーゼの初回投与及び/又は反復投与に基づいて、正常レベルまで低下させることができる。更に、アルギナーゼの投与は、ARG1-D患者の適応行動及び/又は神経運動機能を改善した。試験に参加した全患者は、試験期間中に高アルギニン血症の標準的又は従来的治療を受けていた。このような標準的又は従来的治療には、アルギニンレベルを上昇させ得るタンパク質の摂取を制限する食事制限、及び窒素スカベンジャ薬物の使用が含まれる。これらの標準治療にもかかわらず、全ての患者が依然として高アルギニンレベルを示した。アルギナーゼによる治療は、1つ以上のアルギニン及び他のグアニジノ化合物の血漿レベルを迅速かつ持続的に低下させる。アルギナーゼ治療の効果(例えば、ペグジルアルギナーゼ)は予想外に速く、投与後24~48時間以内に生じた。対照的に、高アルギニン血症に対する標準的又は従来的治療では、2年の間いかなる改善も見られないことがある(Marescauら(1990年)、Marescauら、「The pathobiochemistry of uremia and hyperargininemia further demonstrates a metabolic relationship between urea and guanidinosuccinic acid」、1992年、第41巻、第9号、第1021~1024頁)。更に、ペグジラルギナーゼで治療された患者は、アルギニンの低下によって、より自由な食事を取ることができるため、より多くのタンパク質を得ることができた。
【0131】
アルギニン欠損剤による血漿アルギニン低下後のARG1-D関連疾患症状の改善を示す第2相臨床データ
第1部及び第2部では、上記の非盲検第1/2相試験を継続し、非盲検延長試験を続行した。
図7に示すように、第1/2相では、第1部で16人の患者が、前述のようにペグジラルギナーゼの単回漸増用量を、4~10週の間、隔週で静脈内投与された。第2部では、前述したように、ペグジラルギナーゼの反復投与(毎週8投与)を10週間静脈内投与した。第2部を開始した患者は9人、反復投与を完了した患者は6人であった。非盲検延長試験では、患者3人にペグジラルギナーゼの静脈内投与を開始した。
【0132】
以下の表は患者の特徴を示し、試験における患者の疾患負荷、及び非盲検の延長を示す。血漿アルギニン中央値は、各患者の初回投与前の全血漿アルギニン値の平均を計算し、これらの値の中央値を決定することに基づいた。この表は、16人の患者全員がベースライン時の血漿アルギニンレベルが上昇していたことを示す。患者10人中7人は、可動性及び適応行動の両方で欠損を示した。血漿アルギニン中央値は、各患者の初回投与前の全血漿アルギニン値の平均に基づいた。他の生化学的パラメータについては、投与直前の評価を用いた。臨床検査評価では、異常値は基準範囲外であると定義される。身長百分位では、欠損はCDCにより提供された正常値の10%以下と定義された。6MWTでは、前述のように、バーグバランス、GMFMパートE、及びPROMISが適用される。適応行動評価システム第3版(ABAS)では実践的、社会的、概念的、又は複合的に、欠損を85未満の標準スコアと定義した。6MWTについて、MCIDは(
図9を参照されたい)、ベースラインから9%の変化と定義し、GMFMパートEの場合、個々の患者の粗大運動能力分類システムレベルに応じて1.8~4.0点の変化として定義し、BBSの場合、7点の変化として定義し、ABASの場合、7.5点の全般適応合成(General Adaptive Composite、GAC)標準スコアの変化として定義し、そしてPROMISの場合、5点の変化として定義した。
【0133】
[表11]第1/2相試験の患者に対してベースライン評価を行った。
【0134】
図8は、第2部及び非盲検延長試験の患者に対する、反復投与による血漿アルギニンの時間依存性改善を示す。BLとはベースラインであり、F/Uとは経過観察であり、nとは各時点での患者数である。全患者のアルギニンレベルの中央値は各時点について示される。Haeberleら、「Suggested guidelines for the diagnosis and management of urea cycle disorders」、Orphanet.J.Rare Dis.、2012年、第7巻、第32頁に記載されている治療ガイドラインによると、血漿アルギニンレベルは、200μmol/L以下に維持することが望ましい。
図8は、第2部を完了した患者の100%(6/6)が、推奨ガイドライン以下である一貫したアルギニン低下レベルを達成していたことを示す。アルギニン低下の血漿レベルにおける低下は、GC(GVA、ArgA、NAA、GAA)の血漿レベルの著しくかつ持続した低下を伴った。
【0135】
ペグジラルギナーゼによる治療はまた、
図9に図示される通り、8回の反復投与後にベースラインから臨床転帰を改善した。
図9の各点は、1人の患者に対する1つの評価を表す。好ましい評価は黒丸「●」で示し、中立の評価は白丸「○」で示す。67%(4/6)の患者は、ペグジラルギナーゼの反復投与のわずか8週間後に、可動性及び/又は適応行動の試験でMCID以上の改善を示した。これらの検査の基準については、6MWT、バーグ・バランス・スケール、GMFMパートE、PROMIS、及びABASですでに述べた。評価の33%は好ましくMCIDを越えたが、MCIDを越えた好ましくない評価はなかった。ABAS評価の1/3は好ましくMCIDを超え、2/3は8週目で改善傾向であった。
【0136】
[表12]評価者による試験での一部の患者の観察を要約する。
【0137】
ペグジラルギナーゼ投与は、一般的に、もしある場合は、軽度のAEを生じた。ペグジラルギナーゼの180回の注入を全患者に行った。低力価の治療により発現するADAは、第1部の6/16の患者で検出された。第2部の全患者が、5回目の投与までにADAレベルを検出できなかった。治療関連AEが少なくとも中等度の重症度の2人以上の患者には過敏症が含まれていたが(患者3人中4事象、研究者は3人を重篤有害事象(SAE)と考えた)、これは注入速度の調節及び抗ヒスタミン薬の投与といった薬物投与、並びに一部の症例ではコルチコステロイドによって管理された。
【0138】
図10は、第2部に参加した患者に対して行われた臨床反応による、平均アルギニン値の分析を示す。患者の平均アルギニンレベルは、神経運動又は適応行動評価で1を超えるMCID改善の臨床応答を示した患者(n=4)に対して、神経運動又は適応行動評価で1未満のMCIDを改善した患者(n=2)より低いことを見出した。
【0139】
結論として、この疾患の進行性の性質は、重度の食事タンパク質制限を利用した標準化疾患管理アプローチ及び疾患症状のみに対処するためのアンモニアスカベンジャの使用にも関わらず、現在の標準的な疾患管理で達成可能なレベルを超えてアルギニン量を低下させ、したがってARG1-D患者で観察される神経運動、神経認知、及び/又は適応行動の悪化の進行を遅らせる又は停止する可能性を提供する、薬理学的治療方法に対する重要で満たされていない医学ニーズを強調する。人工ヒトアルギナーゼ1であるペグジラルギナーゼは、一部の患者において神経運動機能及び/又は適応行動の改善を伴う、ARG1-D患者における血漿アルギニン及び関連GCレベルの顕著かつ持続的な低下の直接的証拠をもたらした。
【0140】
前述の試験の第1/2相試験で観察されたARG1-D患者に対するペグジラルギナーゼ投与による改善は、非盲検延長試験において持続した。ペグジラルギナーゼは、上昇した血漿アルギニンを持続的に低下させるのに非常に効果的であり、これはARG1-D症状の病理の基礎にあると考えられている。血漿アルギニンの低下は、反復投与のわずか8週間後に可動性及び適応行動の改善を伴った。ペグジラルギナーゼは、患者の耐用性が良好であった。ほとんどの治療関連AEは軽度であった。過敏反応は標準的な方法で管理でき、全ての患者は試験治療を継続した。ARG1-D患者の包括的ベースラインプロファイリングは、94%(15/16)の患者で可動性及び/又は適応行動における定量可能な欠損を示した。
【0141】
LC-MS/MSによるK
2EDTAヒト血漿中における、α-K-δ-GVA、(R,S)-ArgA、ホモアルギニンHCl、及びNαアセチル-L-アルギニンの分析法。
【0142】
【0143】
処置ヒト血漿[THP].20.0mLのK2EDTAヒト血漿に、0.059mLのAEB1102を加える。ポリプロピレンバイアル(PPV)に入れ、およそ-70℃で保存する。呼気は使用した血漿のものである。
【0144】
処置ヒト脂肪血症血漿[TLP].20.0mLのK2EDTA脂肪血症ヒト血漿に、0.059mLのペグジラルギナーゼを加える。PPVに入れ、およそ-70℃で保存する。呼気は使用した血漿のものである。
【0145】
処置ヒト全血[THB].20.0mLのK2EDTAヒト全血に、0.059mLのペグジラルギナーゼを加える。PPVに入れ、およそ4℃で保存する。呼気は使用した血漿のものである。
【0146】
1mg/mLのnor-NOHA[NOHA]
nor-NOHAの5mgバイアルの全内容物を、5.00mLのMQで溶解する。PPVに入れ、およそ-70℃で最長1ヶ月保存する。
【0147】
10%マンニトール溶液(w/v)[MT1]
およそ1.00gのマンニトールを量り、10mLのMQで溶解する。溶解するまで撹拌する。室温で最長1ヶ月保存する。
【0148】
非酸化マトリクス[NM1]
20mLのK2EDTAヒト血漿を、3500rcfで5分間遠心分離する。0.059mLのAEB1102を、ピペットを使って血漿に加える。血漿を37℃でおよそ3時間インキュベートする。0.180mLのNor-NOHAを血漿バイアルへ加える。0.200mLのMT1を、0.1%(v/v)のマンニトールを達成するために、処置した血漿へ加える(このステップは、血漿を使用する直前に実施することができる)。よく混合する。PPVに入れ、最長で血漿成分の有効期限までおよそ-70℃で保存する。
【0149】
酸化マトリクス[AM1]
20mLのK2EDTAヒト血漿を、3500rcf(相対遠心力)で5分間遠心分離する。0.059mLのAEB1102を、ピペットを使って血漿に加える。血漿を37℃でおよそ3時間インキュベートする。0.400mLのGLAを血漿バイアルへ加える。0.180mLのNor-NOHAを血漿バイアルへ加える。0.200mLのMT1を、0.1%(v/v)のマンニトールを達成するために、処置した血漿へ加える(このステップは、血漿を使用する直前に実施することができる)。よく混合する。PPVに入れ、最長で血漿成分の有効期限までおよそ-70℃で保存する。
【0150】
10%(w/v)TCA[BAC-359].およそ50gのTCAを溶媒瓶に秤量する。500mLのMQを、メスシリンダーを用いて加える。溶解するまで撹拌する。溶液は室温で最長1ヶ月保存することができる。この溶液はタンパク質沈殿溶液として使用する。この溶液は、試料抽出に使う前に氷の上で冷やす。
【0151】
MQ中0.1%FA及び0.05%PFHx[BAC-360].1000mLのMQをメスシリンダーで量り、溶媒貯蔵瓶へ加える。1mLのFAと0.5mLのPFHxとを、ピペットを用いて加える。完全に混合する。溶液は室温で最長1ヶ月保存することができる。この溶液は移動相A(MPA)として使用する。この溶液は1Lのテフロン容器中で作製しなくてはならない。
【0152】
ACN中0.1%FA及び0.05%PFHx[BAC-361].1000mLのACNをメスシリンダーで量り、溶媒貯蔵瓶へ加える。1mLのFAと0.5mLのPFHxとを、ピペットを用いて加える。完全に混合する。この溶液は室温で最長1ヶ月保存することができる。この溶液は移動相B(MPB)として使用する。この溶液は1Lのテフロン容器中で作製しなくてはならない。
【0153】
80:20:0.3(v/v/v)のMeOH:MQ:FA[BAC-409]
800mLのMeOH(メタノール)と200mLのMQとを、メスシリンダーを用いて溶媒貯蔵瓶中で合わせる。3.00mLのFAを、ピペットを使って加える。完全に混合する。室温で最長1ヶ月保存する。この溶液は移動相A(MPA)として使用することができる。
【0154】
MQ中100mMのギ酸アンモニウム[BAC-409]
1000mLのMQを、メスシリンダーを用いて量る。およそ6.306gのギ酸アンモニウムを、風袋重量ボート中に入れる。ギ酸アンモニウムを、MQのリンス液の入った溶媒保存瓶に移す。残りのMQを瓶に移す。溶解するまで撹拌する。室温で最長1ヶ月保存する。この溶液を使用して、移動相B(MPB)を調製することができる。
【0155】
70:30(v/v)の、100mMのギ酸アンモニウム:MeOH[BAC-410]
700mLのBAC-408と300mLのMeOHとを、メスシリンダーを用いて溶媒貯蔵瓶中で合わせる。完全に混合する。最長でBAC-408の有効期限まで室温で保存する。この溶液を、移動相B(MPB)として使用することができる。
【0156】
1000:1(v/v)のMQ:FA[BAC-001].
1000mLのMQを、メスシリンダーを使用して溶媒瓶へ加える。1mLのFAを、ピペットを使って加える。完全に混合する。この溶液は室温で最長1ヶ月保存することができる。この溶液はR0溶液に使用することができる。
【0157】
40:10:50:0.05(v/v/v/v)のIPA:アセトン:CAN:FA[BAC-083]
400mLのIPA、100mLのアセトン、及び500mLのACNを、メスシリンダーを使用して合わせ、適切な大きさの溶媒貯蔵瓶中へ移す。撹拌して混合する。ピペットを使って、0.500mLのFAを瓶へと移す。完全に混合する。室温で最長1ヶ月保存する。あるいは、購入した溶液を、調製した溶液の代わりに使用してもよい。購入した溶液を使用する場合、溶液は標準的な手順に従って室温で保存する。この溶液はR3溶液に使用することができる。
【0158】
50:25:25(v/v/v)のIPA:ACN:MeOH[BAC-011].500mLのIPA、250mLのACN、及び250mLのMeOHを、メスシリンダーを用いて溶媒貯蔵瓶中で合わせる。完全に混合する。溶液は室温で最長1ヶ月保存することができる。この溶液はニードルの強力な洗浄に使用することができる。
【0159】
貯蔵液の調製.貯蔵液は二重に調製し、使用の前に比べる。均整及び最終濃度が維持され、記録されていれば、調製された量は変更してもよい。
【0160】
GVA貯蔵液(10,000μM)[S01].琥珀色のガラスバイアルに補正係数を適用した後に、3mg等量のGVA(MW173.17)を量る。MQで溶解し、10,000μMまで希釈する。完全に混合する。溶液を0.075mLのアリコットに分け、PPV中にて溶液をおよそ-70℃で保存する。使用前に、ストックを湿潤氷上で解凍する。
【0161】
ArgA貯蔵液(10,000μM)[S02].琥珀色のガラスバイアルに補正係数を適用した後に、3mg等量のArgA(MW175.19)を量る。MQで溶解し、10,000μMまで希釈する。完全に混合する。貯蔵液をおよそ10分間超音波処理する。溶液を0.075mLのアリコットに分け、PPV中にて溶液をおよそ-70℃で保存する。使用前に、ストックを湿潤氷上で解凍する。
【0162】
HArg貯蔵液(40,000μM)[S03].琥珀色のガラスバイアルに補正係数を適用した後に、15mg等量のHArg(MW224.69)を量る。MQで溶解し、40,000μMまで希釈する。完全に混合する。溶液を0.100mLのアリコットに分け、PPV中にて溶液をおよそ-70℃で保存する。使用前に、ストックを湿潤氷上で解凍する。
【0163】
NAArg貯蔵液(20,000μM)[S04].琥珀色のガラスバイアルに補正係数を適用した後に、6mg等量のNAArg(MW216.24)を量る。MQで溶解し、20,000μMまで希釈する。完全に混合する。溶液を0.075mLのアリコットに分け、PPV中にて溶液をおよそ-70℃で保存する。使用前に、ストックを湿潤氷上で解凍する。
【0164】
GAA貯蔵液(40,000μM)[S05].
琥珀色のガラスバイアルに補正係数を適用した後に、14mg等量のGAA(MW117.11)を量る。[BAC-009]で溶解し、40,000μMまで希釈する。完全に混合する。溶液を0.150mLのアリコットに分け、PPV中で光から保護された溶液をおよそ-70℃で保存する。使用前に、ストックを湿潤氷上で解凍する。
【0165】
内部標準(IS)溶液の調製.均整及び最終濃度が維持され、記録されていれば、調製された量は変更してもよい。
【0166】
GVA-13C6 IS貯蔵液(4,150μM)[I01].琥珀色のガラスバイアルに補正係数を適用した後に、3mg等量のGVA-13C6(MW215.65)を量る。MQで溶解し、4150μMまで希釈する。完全に混合する。溶液を0.050mLのアリコットに分け、PPV中にて溶液をおよそ-70℃で保存する。使用前に、ストックを湿潤氷上で解凍する。
【0167】
ArgA-13C6 IS貯蔵液(5,000μM)[I02].琥珀色のガラスバイアルに補正係数を適用した後に、3mg等量のArgA-13C6(MW181.14)を量る。MQで溶解し、5,000μMまで希釈する。完全に混合する。溶液を0.050mLのアリコットに分け、PPV中にて溶液をおよそ-70℃で保存する。使用前に、ストックを湿潤氷上で解凍する。
【0168】
HArg-d4 IS貯蔵液(5,000μM)[I03].琥珀色のガラスバイアルに補正係数を適用した後に、3mg等量のHArg-d4(MW265.17)を量る。MQで溶解し、5000μMまで希釈する。完全に混合する。溶液を0.050mLのアリコットに分け、PPV中にて溶液をおよそ-70℃で保存する。使用前に、ストックを湿潤氷上で解凍する。
【0169】
NAArg-13C6 IS貯蔵液(5,000μM)[I04].琥珀色のガラスバイアルに補正係数を適用した後に、3mg等量のNAArg-13C6(MW222.19)を量る。MQで溶解し、5,000μMまで希釈する。完全に混合する。溶液を0.050mLのアリコットに分け、PPV中にて溶液をおよそ-70℃で保存する。使用前に、ストックを湿潤氷上で解凍する。
【0170】
GAA-13C2 IS貯蔵液(5,000μM)[I05]
琥珀色のガラスバイアルに補正係数を適用した後に、3mg等量のGAA-13C2(MW119.09)を量る。[BAC-009]で溶解し、5,000μMまで希釈する。完全に混合する。溶液を0.050mLのアリコットに分け、PPV中にて溶液PFLをおよそ-70℃で保存する。使用前に、ストックを湿潤氷上で解凍する。
【0171】
重IS使用液(2.075μMのI01、2.50μMのI02、I04)[HI06]
各0.020mLの[I01]、[I02]、及び[I04]を、ピペットを使って、PPV中にて39.940mLの[1N HCl]と合わせる。完全に混合する。溶液を湿潤氷の上で調製する。使用後は溶液を処分する。
【0172】
IS使用液(5,000nM)[I05].各0.020mLの[I01]、[I02]、[I04]、及び[I05]と、PPV中39.920mLの[1N HCl]とを、ピペットを使って合わせる。完全に混合する。溶液を湿潤氷の上で調製する。使用後は溶液を処分する。
【0173】
貯蔵比較溶液の調製
以下の表に示すように、ピペットを用いて、湿潤氷上でPPV中の比較溶液を調製する。完全に混合する。冷蔵保存する。安定性を確立するために用いた貯蔵比較溶液は、確立された処理試料安定性ウィンドウ内で評価すること。均整及び最終濃度が維持され、記録されていれば、調製された量は変更してもよい。
【0174】
SC6は、短期の貯蔵比較の場合はSST、長期の貯蔵比較の場合はSLTと称することができる。SC6を使用して、I05貯蔵液調製物を比較することができる。(*)1つの濃度のみがリストされている場合、GVA-13C6濃度は、示される値の0.83倍である。
【0175】
試料抽出.
1.0.050mLの各較正試料、品質管理(QC)試料、空試料、及び実験試料を、湿潤氷上にて96ウェルプレートへと移す。希釈された試料は、試料処理の前に、適切な希釈係数の1倍PBSで希釈されなければならない。
2.0.100mLの[1N HCl]を、各マトリクス空試料へ加える。
3.0.100mLの[I05]を、各較正試料、QC試料、ISを伴う空試料、及び実験試料に加える。GQC(GAA LLOQ(定量下限)(QC)試料がもし存在する場合、[I06]を加えてはいけない。
4.1600rpmで5分間、渦流混合する。
5.0.400mLの氷冷[BAC-359]を、各試料へ加える。
6.1000rpmで5分間、渦流混合する。
7.3500rcfで5分間、遠心分離する。
8.0.300mLの上清を、TomTec又は多導管ピペットを使用して清潔な96ウェルプレートに移す。
9.3500rcfで5分間、遠心分離する。
10.分析が終了するまで、処理済みの試料は、LC装置の試料室又は冷蔵庫中にておよそ4℃で保存する。
【0176】
超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)セットアップ.
【0177】
【0178】
質量分析装置パラメータ.質量分析装置、インターフェース、及びスキャンモード以外のパラメータは、最適な性能を得るために修正することができる。正確な質量遷移は、四重極質量分析装置の単位分解能のために、装置によってわずかに異なることがある。
【0179】
【0180】
ヒト血清中のPEGに対する抗体検出のための直接結合ELISA
A.試薬/緩衝液
希釈緩衝液/アッセイ緩衝液(1倍PBS中4%ウシγ-グロブリン(BGG))
アッセイ希釈液は、4gのBGGを100mLの1倍PBSに添加することによって調製した。溶液を0.22μMのフィルタにかけ、2~8℃で最長2週間保存した。体積は必要に応じて測った。
【0181】
競合緩衝液(アッセイ緩衝液+100μg/mLのPEG)
競合緩衝液を、1mLのアッセイ緩衝液当たり100μgのPEGを添加することによって調製した。競合緩衝液はアッセイ当日に新しく作製した。体積は必要に応じて測った。
【0182】
停止液(1M H3PO4)
21.4mLの85%(11.7M)H3PO4を、228.6mLのdI(脱イオン)H2Oに加え、よく混合し、酸キャビネット中に最長1年間保存した。体積は必要に応じて測った。
【0183】
【0184】
試薬 供給源 CAT番号 バッチ/ロット番号
炭酸塩コーティング緩衝液 BioWorld 40320016-1 L16020109JC
希釈緩衝液/アッセイ緩衝液(4% BioAgilytix N/A RP08Jul16JHJ04、
BGG、1倍PBS中)RP13Jul16MB01、
RP11Jul16JHJ02、
RP18Jul16JHJ01
ウシγ-グロブリン Millipore 82-041 1269
洗浄緩衝液(1倍PBS)BioAgilytix N/A RP11Jul16JHJ01、
RP12Jul16MBM01、
RP13Jul16JHJ01、
RP18Jul16JHJ02、
RP08Jul16JHJ03
ポリプロピレンプレート Costar 3365 09516000
Nunc Immuno Starwell C8 Thermo 441653 125663
Maxisorpプレート
TMBマイクロウェルプロキシダーゼキット KPL 50-76-00 10158819
停止液(1M H3PO4)BioAgilytix N/A RP08Jul16MBM01、
RP26May16kml03、
RP18Jul16MBM01
ヒトIgG Jackson 009-000-003 126258
Immunoresearch
ヒトIgM Jackson 009-000-012 124517
Immunoresearch
【0185】
B.スクリーニングアッセイ手順
Starwell C8 Maxisorp(96ウェルフォーマットプレート)のウェルを、炭酸塩コーティング緩衝液中において、プレートマップに従って、100μLの、2μg/mLのBSA mPEG 5K(5,000ダルトン)、又は500ng/mLのヒトIgG、又は500ng/mL(これらの対照はカットポイント後試験からは除外した)でコーティングした。プレートを密封し、約450rpmで短時間振盪してウェル全体に分配し、37℃でおよそ1時間インキュベートした。インキュベーション語、ウェルを1倍PBSで3回洗浄した。洗浄プログラムは、吸引設定のあるオーバーフロー、及び各分注後10秒振盪(プログラム29_洗浄_振盪)を含み、スターウェルプレートを確実に完全な洗浄を行った。このプログラムを、この手順における全ての洗浄ステップに使用した。
【0186】
洗浄後、プレートを逆さにし、吸収紙上で軽く叩いて乾燥させた。次いで、300μLの希釈緩衝液をプレートの全ウェルに加えた。希釈緩衝液は4%BGGを含有するため、「緩衝液を阻害する」とも考えられる。プレートを覆い、振盪(約450rpm)しながら室温で、少なくとも1時間だが3時間以下、インキュベートした。
【0187】
ブロッキングインキュベーション期間の後、プレートを洗浄し、逆さにし、吸収紙上で軽く叩いて乾燥させた。希釈緩衝液で50倍の最小希釈倍率(MRD)に希釈した対照及び試料を、プレートマップに従って二重にプレートへ加えた(100μL/ウェル)。次いで、プレートを密封し、振盪(約450rpm)しながら室温でおよそ1時間インキュベートした。
【0188】
プレートを洗浄し、逆さにし、吸収紙上で軽く叩いて乾燥させ、100μLの検出抗体をプレートマップに従って適切なウェルに加えた。1:5,000に希釈したヤギ抗マウスIgG-Fc-HRPを用いてマウス抗PEG抗体を検出し、希釈緩衝液中で1:30,000に希釈し、適切なウェルに添加したウサギ抗ヒトIgG/A/Mを用いて、抗ヒト抗体を検出した。プレートを密封し、振盪(約450rpm)しながら室温でおよそ1時間インキュベートした。プレートを洗浄し、逆さにし、吸収紙上で軽く叩いて乾燥させた後、1ウェル当たり100μLのTMB基質を加えた。プレートを覆い、振盪(約450rpm)しながら室温でおよそ10~20分間インキュベートした。反応を、1ウェル当たり100μLの停止液を加えることによって停止した。確実にするために、プレートを短時間振盪した。
【0189】
C.確認アッセイ手順
以下のプレートマップに従って、Starwell C8 Maxisorpのウェルを、炭酸塩コーティング緩衝液中において、100μLの、2μg/mLのBSA mPEG 5K、又は500ng/mLのヒトIgG、又は500ng/mL(これらの対照はカットポイント後試験からは除外した)でコーティングした。プレートを密封し、約450rpmで短時間振盪してウェル全体に分配し、37℃でおよそ1時間インキュベートした。
【0190】
インキュベーション後、ウェルを、プログラム29_洗浄_振盪によって(1倍PBS)で3回洗浄して、スターウェルプレートを確実に完全な洗浄を行った。このプログラムを、この手順における全ての洗浄ステップに使用した。洗浄後、プレートを逆さにし、吸収紙上で軽く叩いて乾燥させた。次いで、ブロッキングステップとして、300μLの希釈緩衝液をプレートの全ウェルに加えた。プレートを覆い、振盪(約450rpm)しながら室温で、少なくとも1時間だが3時間以下、インキュベートした。
【0191】
スターウェルプレートがブロックされている間に、試料及び対照を、ポリプロピレンプレート中100μg/mLでPEGを含有する希釈緩衝液及び競合緩衝液中で、50倍のMRDに希釈した。希釈した試料及び対照を、振盪(約450rpm)しながら室温でおよそ1時間インキュベートした。
【0192】
ブロッキングインキュベーション期間の後、スターウェルプレートを洗浄し、逆さにし、吸収紙上で軽く叩いて乾燥させた。PEG有り及びPEG無しで予めインキュベートした対照及び試料を、プレートマップに従って、二重にプレートへ加えた(100μL/ウェル)。次いで、プレートを密封し、振盪(約450rpm)しながら室温でおよそ1時間インキュベートした。
【0193】
洗浄後、プレートを逆さにし、吸収紙上で軽く叩いて乾燥させ、100μLの検出抗体をプレートマップに従って適切なウェルに加えた。1:5,000に希釈した(ヤギ抗マウスIgG-Fc-HRP)を用いてマウス抗PEG抗体を検出し、希釈緩衝液中で1:30,000に希釈し、適切なウェルに添加した(ウサギ抗ヒトIgG/A/M)を用いて、抗ヒト抗体を検出した。プレートを密封し、振盪(約450rpm)しながら室温でおよそ1時間インキュベートした。プレートを洗浄し、逆さにし、吸収紙上で軽く叩いて乾燥させた後、1ウェル当たり100μLのTMB基質を加えた。プレートを覆い、振盪(約450rpm)しながら室温でおよそ10~20分間インキュベートした。反応を、1ウェル当たり100μLの停止液を加えることによって停止した。プレートを、確実に適切な混合を行うために短時間振盪し、次いで、450(検出)620(バックグラウンド)でSynergy2プレートリーダーにて読み取った。
【0194】
D.滴定濃度法手順
滴定濃度アッセイは、スクリーニングアッセイと同じ手順に従った。力価測定される試料は、陰性プールヒト血清中で少なくとも7回の2倍系列希釈に供した。正常なヒトのプールを、品質確認の際にスクリーニングし、バックグラウンドが最も低いものを、確認で陰性プールとして使用するために選択した。これらの滴定濃度希釈液を、希釈緩衝液で50倍の最小希釈倍率に希釈し、プレートマップに従って二重にプレートへ加えた(100μL/ウェル)。
【0195】
E.方法確認
方法の確認としては、特異性、アッセイ感度、選択性/マトリクス干渉、薬剤耐性、プロゾーン(付着)効果、滴定アッセイ直線性、アッセイ内及びアッセイ間精度、短期及び凍結融解安定性、並びにスクリーニング、確認、及び滴定カットポイントの確立が挙げられる。
【0196】
2セットの対照をアッセイ確認に用いた。1セットは、アッセイで高(HPC-m)シグナル及び低(LPC-m)シグナルを生じるためにプールした、正常ヒト血清(NC)にスパイクしたマウス抗PEG代用陽性対照を用いて、調製した。2番目のセットは、スクリーニングアッセイで高い抗PEG反応を示し、確認アッセイで高い阻害を示すヒト試料を用いて、調製した。この試料は、予想される既存の抗PEG試料と一致するであろう。ヒト抗PEG低濃度対照は、同定された高濃度ヒト試料を陰性対照血清中に希釈して、アッセイにおいて低(LPC-h)シグナルをもたらす試料を生成することによって調製した。希釈していない高濃度ヒト試料をHPC-hとして用いた。両セットの対照は、該当する場合は各試験に含めた。対照は、レベルに比例したシグナル、すなわち高濃度は低濃度より大きく、低濃度はカットポイントより大きいシグナルを示す必要がある。免疫グロブリン対照(プレート上に被覆されたヒトIgG及びヒトIgM)もまた、検出抗体カクテルの性能を検証するために、カットポイント試験に含めた。
【0197】
F.カットポイント分析
マウス抗PEGスクリーニングカットポイント.マウス抗PEG SPCを用いるデータ評価のために、スクリーニングカットポイントを、確認の間に生じた全ての陰性対照試料の平均の標準偏差の2倍を用いて設定した(n=55プレート)。この計算により、各プレート上のNCの平均に加えることで、マウス抗PEG SPC試料に特異的なカットポイントを生成する、補正係数0.01467を得た。
【0198】
ヒトスクリーニングアッセイカットポイント.スクリーニングアッセイカットポイントは、98個の正常ヒト血清試料を用いて確立した。6回の測定を、3人の分析者が最低でも7回にわたって、各試料について行った。データは、SAS JMP(登録商標)ソフトウェア(バージョン12以降)を用いて評価し、統計的異常値を除去し、分散を測定し、カットオフポイントを確立した。統計的異常値の決定については、試料の平均シグナルを各プレートの抗ヒトNC試料の平均で割ることにより、応答を正規化した。
【0199】
G.カットポイント決定
ヒト抗PEGスクリーニングカットポイント.パラメトリック及びノンパラメトリックなスクリーニング浮動カットポイント因子を、正規化値を用いて決定した。最初に、Tukeyのbiweight推定法によるパラメトリック法を用いて、外れ値を排除した後の比の平均及び標準偏差(SD)のロバストな推定値を計算した。次いで、SD値にt分布の第95の分位数(自由度が比率値の数から1を引いた値に等しい)を乗算し、その積を平均値に加算することによって、5%の偽陽性エラー率におけるパラメトリック浮動カットポイント係数を決定した。ノンパラメトリックな5%のエラー率のカットポイント係数を、比率値の経験上第95分位数値の計算によって決定した。
【0200】
ヒト確認的カットポイント.確認的カットポイント値を、Shankar Gらが推奨する手順により、1%の偽陽性エラー率で確立した。カットポイント値は、生物学的異常値としてスクリーンカットポイント割り当てから除外した第14試料を用いて、特異的阻害の下限を割り当てることによって決定した。これらの試料は、陰性としてスクリーニングされる試料よりも一貫して高い%阻害値を有した。スパイクされていない試料からの変化のパーセンテージは、以下の式を用いて各試料について計算した。
【0201】
パラメトリック確認的カットポイントは、最初に、分析で保持された全ての%阻害値の平均値及びSDのTukeyのbiweight推定値を計算することによって、決定した。次に、t分布の第1の分位数に等しい係数をSD値にそれぞれ乗算し(自由度が抑制値の数から1を引いた値に等しい)、その積を平均値に減算することによって、カットポイント値を計算した。ノンパラメトリックなカットポイントの値もまた、経験上の第1分位数に基づいて決定した。
【0202】
G.特異性
高レベルのヒトIgGの添加は、スパイクされていない試料と比較して、アッセイで生成されたシグナルに影響を与えなかった。
H.PEG耐用性
【0203】
アッセイ干渉を、HPC-m及びLPC-mに相当する抗PEG代用陽性対照の濃度、並びにヒト抗PEG HPC-h及びLPC-hの濃度の存在下で、100μg/mLの濃度で開始するPEGの2倍連続希釈を行うことによって評価した。PEG無しの各対照からなる0スパイク対照も行った。これは、少なくとも2人の分析者によって少なくとも2回、重複して行われた。ヒト特異的スクリーニングカットポイントを用いて、これらのアッセイの実行における耐用性を決定した。HPC-m、HPC-h、及びLPC-hは、最大100μg/mLまで試験したPEGの全濃度に耐用性であった。
【0204】
I.ペグジラルギナーゼの薬剤耐性
アッセイ干渉を、HPC-m及びLPC-mに相当する抗PEG代用陽性対照の濃度、並びにヒト抗PEG HPC-h及びLPC-hの濃度の存在下で、150μg/mLの濃度で開始するペグジラルギナーゼの2倍連続希釈を行うことによって評価した。PEG無しの各対照からなる0スパイク対照も行った。薬剤耐性の評価は、抗ヒト特異的カットポイントを用いて行った。1回の評価ではHPC-mは9.38μg/mLまで耐性であり、2回目の評価では最大37.5μg/mLまで耐性であり、平均薬物耐性は23.4μg/mLであった。1回の評価ではLPC-mはCo-Arg1PEGに耐性ではなく、2回目の評価では2.34μg/mLに耐性であった。1回の評価ではHPC-hは9.38μg/mLまで耐性であり、2回目の評価では最大18.8μg/mLまで耐性であり、平均薬物耐性は14.1μg/mLであった。1回の評価ではLPC-hは4.69μg/mLまで耐性であり、2回目の評価では9.38μg/mLまで耐性であり、平均薬物耐性は7.04μg/mLであった。
【0205】
神経運動及び神経認知検査法
身体検査は、6MWT、GMFM、バーグ・バランス・スケール、アシュワーススケール変法、及びパーデューペグボード試験を含むが、これらに限定されない、神経学的及び神経運動機能の評価により完了する。評価は1日以上行うことができる。評価は、ベースライン時、及びその後の時点で記録してもよい。
【0206】
6MWTは、数多くの疾患状態で心血管、肺、及び神経筋系を全体的に評価するため、臨床試験で広く用いられている。患者が平らな場所を6分間で歩ける距離を測定する。米国胸部学会(American Thoracic Society、ATS)は、試験実施のための標準化された方法(ATS Statement Guidelines for the Six-Minute Walk、Am.J.Respir.Crit.Care Med.、第166巻、第111~117頁(2002年))を発表したが、これは耐用性が高く、投与が簡単である。6MWTではこの手順に従った。試験方法の変更は、試験依頼者の承認を得て、患者の病態や、試験実施場所のロジスティック上の考慮事項を考慮してもよい。歩行不能患者は6MWTを投与されなかった。6MWTの結果は、メートル単位の完了した距離、及びベースラインからの変化率として記録される。
【0207】
バーグ・バランス・スケールは、特定の機能的課題における能力を評価することにより、バランス機能障害患者のバランスを測定する。座位から立位への移行、移動、回転、及び片足立ちなど、バランスの特定の側面を評価する14の課題がある。更に、ほとんどの課題では、対象が特定の時間その位置を維持する必要がある。
【0208】
GMFMは、横たわる、転がる、歩く、走る、及びジャンプするといった一連の活動を観察して、粗大運動能力能の変化を評価するためにデザインされた臨床的尺度である。GMFMの各項目には4点のスコアリングシステムが使用され、これは5つの面(A~E)を対象に、人がどの程度まで運動を開始し完了できるかが判定される。A:横になる及び転がる、B:座る、C:四つん這い及びひざまずく、D:立つ、並びにE:歩く、走る、及びジャンプする。
【0209】
アシュワーススケール変法は、中枢神経系(CNS)病変を有する患者の痙縮を評価するために開発され、痙縮による関節周囲の受動運動に対する抵抗を測定するために使用される。このスケールは許容し易く、そして実施が容易である。このスケールは痙縮と軟部組織硬直とを区別できない。このスケールでは、以下の表に示すように、0(痙縮なし)~4(完全に硬直)の6つのスコアリング選択肢があるスコアリングスケールが使用される。
【0210】
【0211】
パーデューペグボード試験は、身体の両側を利用した微細運動課題において、操作的器用さ及び両手協調運動能力速度を測定するテストである(Tiffinら(1948年))。この検査には、(1)腕、手、及び指の全体的な動き、並びに(2)「指紋」の器用さとも呼ばれる微細運動をする四肢の、2つの異なる能力が含まれる。ペグボード試験の成績不良は、大脳基底核を含む回路によって媒介されると考えられる、複雑な視覚誘導運動又は協調運動における障害の徴候である。
【0212】
以下の表は、長期にわたる改善を評価するために、治療を受けている患者に実施できる更なる神経認知、発達、及び生活の質(QOL)評価を示す。
aPROMIS(PROMIS評価を用いて第1/2相試験を開始した患者)又は小児科品質の生活インベントリに対するPedsQL測定モデル(PROMIS評価を用いた第1/2相試験ではなかった患者)。
【0213】
参考文献一覧
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対象におけるアルギナーゼ1(ARG1)欠損症(ARG1-D)を治療する方法であって、アルギナーゼの初回投与後の約2~約4日以内に、前記対象のアルギニンの血漿レベルを200μmol/L未満まで低下させるのに充分な量の前記アルギナーゼを前記対象に投与することを含む、方法。