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特開2024-28802レンチウイルスパッケージングシステム、それにより製造されたレンチウイルス、及び、該レンチウイルスで形質導入された細胞、並びに、それを使用して宿主細胞のレンチウイルスの収率を向上させる方法
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  • 特開-レンチウイルスパッケージングシステム、それにより製造されたレンチウイルス、及び、該レンチウイルスで形質導入された細胞、並びに、それを使用して宿主細胞のレンチウイルスの収率を向上させる方法 図1
  • 特開-レンチウイルスパッケージングシステム、それにより製造されたレンチウイルス、及び、該レンチウイルスで形質導入された細胞、並びに、それを使用して宿主細胞のレンチウイルスの収率を向上させる方法 図2A
  • 特開-レンチウイルスパッケージングシステム、それにより製造されたレンチウイルス、及び、該レンチウイルスで形質導入された細胞、並びに、それを使用して宿主細胞のレンチウイルスの収率を向上させる方法 図2B
  • 特開-レンチウイルスパッケージングシステム、それにより製造されたレンチウイルス、及び、該レンチウイルスで形質導入された細胞、並びに、それを使用して宿主細胞のレンチウイルスの収率を向上させる方法 図3
  • 特開-レンチウイルスパッケージングシステム、それにより製造されたレンチウイルス、及び、該レンチウイルスで形質導入された細胞、並びに、それを使用して宿主細胞のレンチウイルスの収率を向上させる方法 図4
  • 特開-レンチウイルスパッケージングシステム、それにより製造されたレンチウイルス、及び、該レンチウイルスで形質導入された細胞、並びに、それを使用して宿主細胞のレンチウイルスの収率を向上させる方法 図5
  • 特開-レンチウイルスパッケージングシステム、それにより製造されたレンチウイルス、及び、該レンチウイルスで形質導入された細胞、並びに、それを使用して宿主細胞のレンチウイルスの収率を向上させる方法 図6A
  • 特開-レンチウイルスパッケージングシステム、それにより製造されたレンチウイルス、及び、該レンチウイルスで形質導入された細胞、並びに、それを使用して宿主細胞のレンチウイルスの収率を向上させる方法 図6B
  • 特開-レンチウイルスパッケージングシステム、それにより製造されたレンチウイルス、及び、該レンチウイルスで形質導入された細胞、並びに、それを使用して宿主細胞のレンチウイルスの収率を向上させる方法 図6C
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028802
(43)【公開日】2024-03-05
(54)【発明の名称】レンチウイルスパッケージングシステム、それにより製造されたレンチウイルス、及び、該レンチウイルスで形質導入された細胞、並びに、それを使用して宿主細胞のレンチウイルスの収率を向上させる方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/867 20060101AFI20240227BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240227BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240227BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240227BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
C12N15/867 Z ZNA
C12N7/01
C12N1/15
C12N1/19
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023202860
(22)【出願日】2023-11-30
(62)【分割の表示】P 2021142315の分割
【原出願日】2021-09-01
(31)【優先権主張番号】110115343
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】521311643
【氏名又は名称】沛爾生技醫藥股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(72)【発明者】
【氏名】林韋齊
(72)【発明者】
【氏名】周思▲ユ▼
(72)【発明者】
【氏名】楊曜誠
(72)【発明者】
【氏名】林建廷
(72)【発明者】
【氏名】林成龍
(57)【要約】      (修正有)
【課題】製造されたレンチウイルスが高いウイルス力価を有し、且つ、製造されたレンチウイルスを細胞の形質導入に使用する場合、形質導入率及び遺伝子デリバリー効率を向上させることができる、レンチウイルスパッケージングシステムを提供する。
【解決手段】TARキメラ5’LTRのヌクレオチド配列を含むトランスファープラスミドと、TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列、rev遺伝子のヌクレオチド配列、gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列を含む少なくとも一つのパッケージングプラスミドと、エンベローププラスミドとを含む、レンチウイルスパッケージングシステムを提供する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TARキメラ5’ LTR(trans-activation response element-reserved chimeric 5’ long terminal repeat)のヌクレオチド配列を含むトランスファー(transfer)プラスミドと、
TAR RNA結合タンパク質(TAR RNA binding protein)をコードする遺伝子のヌクレオチド配列、rev遺伝子のヌクレオチド配列、gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列を含む少なくとも一つのパッケージング(packaging)プラスミドと、
エンベロープ(envelope)プラスミドと、を含み、
前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列は、tat遺伝子のヌクレオチド配列であり、前記TARキメラ5’ LTRのヌクレオチド配列は、TARのヌクレオチド配列を有し、前記TARのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:2で示されるヌクレオチド配列を含む、
レンチウイルスパッケージングシステム。
【請求項2】
前記少なくとも一つのパッケージングプラスミドは、第一パッケージングプラスミド及び第二パッケージングプラスミドであり、前記第一パッケージングプラスミドは、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列、rev遺伝子のヌクレオチド配列、gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列のうちの二つを含み、前記第二パッケージングプラスミドは、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列、rev遺伝子のヌクレオチド配列、gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列のうちの、前記第一パッケージングプラスミドに含まれる二つのヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載のレンチウイルスパッケージングシステム。
【請求項3】
前記少なくとも一つのパッケージングプラスミドは、第一パッケージングプラスミド、第二パッケージングプラスミド、第三パッケージングプラスミド及び第四パッケージングプラスミドであり、前記第一パッケージングプラスミドは、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を含み、前記第二パッケージングプラスミドは、rev遺伝子のヌクレオチド配列を含み、前記第三パッケージングプラスミドは、gag遺伝子のヌクレオチド配列を含み、前記第四パッケージングプラスミドは、pol遺伝子のヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載のレンチウイルスパッケージングシステム。
【請求項4】
前記少なくとも一つのパッケージングプラスミドは、第一パッケージングプラスミド、第二パッケージングプラスミド及び第三パッケージングプラスミドであり、前記第一パッケージングプラスミドは、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列、rev遺伝子のヌクレオチド配列、gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列のうちの二つを含み、前記第二パッケージングプラスミド及び前記第三パッケージングプラスミドはそれぞれ、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列、rev遺伝子のヌクレオチド配列、gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列のうちの、前記第一パッケージングプラスミドに含まれる二つのヌクレオチド配列以外のいずれか一つを含む、請求項1に記載のレンチウイルスパッケージングシステム。
【請求項5】
前記第一パッケージングプラスミドは、前記gag遺伝子のヌクレオチド配列及び前記pol遺伝子のヌクレオチド配列を含み、前記第二パッケージングプラスミドは、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を含み、前記第三パッケージングプラスミドは、前記rev遺伝子のヌクレオチド配列を含む、請求項4に記載のレンチウイルスパッケージングシステム。
【請求項6】
前記トランスファープラスミドと、第一パッケージングプラスミドと、第二パッケージングプラスミドと、第三パッケージングプラスミドと、エンベローププラスミドとの重量比が、3~12:3~7:1~4:1~4:0.8~6である、請求項4又は5に記載のレンチウイルスパッケージングシステム。
【請求項7】
前記tat遺伝子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1で示される配列を含む、請求項1に記載のレンチウイルスパッケージングシステム。
【請求項8】
前記エンベローププラスミドは、水泡性口炎ウイルス糖タンパク質(vesicular stomatitis virus glycoprotein,VSV-G)をコードする遺伝子のヌクレオチド配列、又はヒヒ内在性ウイルスエンベロープ(baboon endogenous virus envelope)の遺伝子のヌクレオチド配列を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のレンチウイルスパッケージングシステム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のレンチウイルスパッケージングシステムにより調製された、
レンチウイルス。
【請求項10】
請求項9に記載のレンチウイルスで、分離された有核細胞に遺伝子を形質導入して得られる、
分離された細胞。
【請求項11】
前記有核細胞は、T細胞、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、又は脂肪幹細胞である、請求項10に記載の分離された細胞。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか一項に記載のレンチウイルスパッケージングシステムを使用し、宿主細胞にトランスフェクションすることを含み、
前記宿主細胞が、pkr遺伝子がノックアウトされた293T細胞である、
宿主細胞のレンチウイルスの収率を向上させる方法。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか一項に記載のレンチウイルスパッケージングシステムを使用し、宿主細胞にトランスフェクションすることを含む、
宿主細胞のレンチウイルスの収率を向上させる方法。
【請求項14】
前記宿主細胞は哺乳類動物の細胞を含む、請求項13に記載の宿主細胞のレンチウイルスの収率を向上させる方法。
【請求項15】
前記哺乳類動物の細胞はヒト胎児腎細胞(HEK293)又は293T細胞(HEK293T)を含む、請求項14に記載の宿主細胞のレンチウイルスの収率を向上させる方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンチウイルスパッケージングシステムに関するものであり、特に、TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を含むプラスミドと、TARキメラ 5’ LTRのヌクレオチド配列を含むプラスミドとを含む、レンチウイルスパッケージングシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レンチウイルス(lentivirus)は、レトロウイルスの一種であり、トランスフェクションが困難な(hard-to-transfect)細胞(例えば、初代T細胞)への標的遺伝子のデリバリーに広く用いられている。また、その他のレトロウイルスと異なり、レンチウイルスは、分裂(dividing)及び非分裂(non-dividing)細胞に形質導入されることが可能である。且つ、VSV-Gタンパク質と併用すると、ソースが異なる細胞に感染することができる。更に、レンチウイルスのRNAゲノムの容量は約10Kbであるので、大きな遺伝子配列や複雑な遺伝子配列のデリバリーに用いられることが可能である。レンチウイルスはそれらの利点を有するので、臨床治療に広く適用されている。
【0003】
レンチウイルスの調製は、一般的に、標的遺伝子を含有するトランスファープラスミド、及び、レンチウイルスパッケージングに必要なウイルスの遺伝子を含有する他のプラスミドを共に293T細胞にトランスフェクションし、プラスミドのトランスフェクションの後、標的遺伝子の配列を含むレンチウイルスの顆粒が培地中に放出され、続いて、培地を回収し、更に、使用濃度となるように濃縮した後、-80°Cで保存するものである。
【0004】
レンチウイルスパッケージングシステムは、過去数十年間において発展が進んでいる。一代目のレンチウイルスパッケージングシステムは、トランスファープラスミドと、エンベローププラスミドと、必要なHIV-1ウイルス遺伝子(gag、pol、tat及びrev)及び幾つかの従属遺伝子(vif、vpu、vpr及びnef)を含むプラスミドとの三つのプラスミドを含む。それらのうち、ウイルスのgag遺伝子は、多くのウイルスカプシドタンパク質をコードするものであり、pol遺伝子は、ウイルスのパッケージング及び感染に用いられる逆転写酵素、インテグラーゼ(integrase)及びプロテアーゼをコードするものである。また、ウイルスのパッケージング又は標的細胞への感染にとって、前記四つの従属遺伝子は必要なものではないので、二代目のレンチウイルスパッケージングシステムには、前記四つの従属遺伝子が除去されている。また、一代目及び二代目のウイルスパッケージングシステムにおいて、トランスファープラスミドに標的遺伝子が含まれるウイルスゲノムの転写は、プロモーターとしての5’ LTR(long terminal repeat)及びTATタンパク質により駆動されるものであり、該TATタンパク質は、トランス活性化調節タンパク質(trans-activating regulatory protein)の一種であり、LTRにおけるTAR(trans-activation response)配列に結合することが可能である。
【0005】
一方、三代目のレンチウイルスパッケージングシステムでは、レンチウイルスの安全性をより一層向上させ、特に、レンチウイルスの複製能力の進展を避けるために、標的遺伝子の両端に位置する(flank)LTRを修飾し、更にrev遺伝子を第四のプラスミドに移動することにより、遺伝子組み換えの可能性をより一層低減する。また、修飾されたLTRは、プロモーターの活性を有しなくなり、トランスファープラスミド上のウイルスゲノム配列の転写は、修飾された5’ LTRの前に加えられたラウス肉腫ウイルスプロモーター(Rous sarcoma virus promoter,RSV promoter)又はサイトメガロウイルスプロモーター(cytomegalovirus promoter,CMV promoter)により駆動されるものとなる。この場合、tat遺伝子は無用のものであることから、三代目のレンチウイルスパッケージングシステムにおいて除去されているので、遺伝子の減少によりレンチウイルスパッケージングシステムの感染効率が向上した。
【0006】
しかしながら、二代目のレンチウイルスパッケージングシステムと比べると、三代目のレンチウイルスパッケージングシステムは、安全性が向上した反面、レンチウイルスの収率が犠牲となっているので、ウイルスの製造効率を向上させることができるレンチウイルスパッケージングシステムは切実に求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】V.NARRY KIM、KYRIACOS MITROPHANOUS、SUSAN M.KINGSMAN、ALAN J.KINGSMAN著、「Minimal Requirement for a Lentivirus Vector Based on Human Immunodficiency Virus Type 1」、JOURNAL OF VIROLOGY、1998年1月発行、p.811~816
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術の欠点を克服するために、本発明は、安全性を損なうことなく、レンチウイルスパッケージングシステムによるレンチウイルスの収率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記発明の目的を達成するために、本発明は、TARキメラ 5’ LTR(trans-activation response element-reserved chimeric 5’ long terminal repeat)のヌクレオチド配列を含むトランスファー(transfer)プラスミドと、TAR RNA結合タンパク質(TAR RNA binding protein)をコードする遺伝子のヌクレオチド配列、rev遺伝子のヌクレオチド配列、gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列を含む少なくとも一つのパッケージング(packaging)プラスミドと、エンベロープ(envelope)プラスミドとを含む、レンチウイルスパッケージングシステム(packaging system)を提供するものである。
【0010】
本発明は、三代目のレンチウイルスパッケージングシステムに、TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を含むプラスミドを加えることにより、製造されたレンチウイルスの収率及びウイルス力価、特に、ウイルスの機能力価(functional titer)を向上させることができ、且つ、製造されたレンチウイルスの形質導入時の遺伝子のデリバリー効能を向上させることもできる。
【0011】
前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列は、tat遺伝子のヌクレオチド配列であることが好ましい。
【0012】
前記tat遺伝子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1で示されるようなヌクレオチド配列を含むことが好ましい。それは、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子の少なくとも一部であり、且つ、SEQ ID NO:1で示されるヌクレオチド配列はイントロンを含まないので、二代目のレンチウイルスパッケージングシステムにおいてよく使用されるtat遺伝子のヌクレオチド配列と異なり、小さいプラスミドのサイズを有することが可能である。
【0013】
前記TARキメラ 5’ LTRのヌクレオチド配列におけるTARのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:2で示されるようなヌクレオチド配列を含むことが好ましい。
【0014】
前記TARキメラ 5’ LTRのヌクレオチド配列は、その5’ LTRのU3が破壊され、CMV又はRSVプロモーターにより駆動されるものとなることが好ましい。このことにより、ウイルスは複製し続けることができなくなるので、安全性は向上する。なお、このTARキメラ 5’ LTRのヌクレオチド配列は、三代目のレンチウイルスパッケージングシステムと同様である。また、本発明の一つの実施態様は、RSVプロモーターにより駆動されるものである。
【0015】
前記少なくとも一つのパッケージングプラスミドの数量は、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列、rev遺伝子のヌクレオチド配列、gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列の数量に等しいことが好ましい。例えば、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列、rev遺伝子のヌクレオチド配列、gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列の数量がそれぞれ一つであり、合計で四つである場合、プラスミドの数量も四つであり、即ち、前記少なくとも一つのパッケージングプラスミドは、第一パッケージングプラスミド、第二パッケージングプラスミド、第三パッケージングプラスミド及び第四パッケージングプラスミドであり、且つ、前記第一パッケージングプラスミドは、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を含み、前記第二パッケージングプラスミドは、rev遺伝子のヌクレオチド配列を含み、前記第三パッケージングプラスミドは、gag遺伝子のヌクレオチド配列を含み、前記第四パッケージングプラスミドは、pol遺伝子のヌクレオチド配列を含む。前記各パッケージングプラスミドはそれぞれ、各配列の一つを有することが好ましい。
【0016】
前記少なくとも一つのパッケージングプラスミドは、第一パッケージングプラスミド及び第二パッケージングプラスミドであり、且つ、前記第一パッケージングプラスミドは、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列、rev遺伝子のヌクレオチド配列、gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列のうちの一つを含み、前記第二パッケージングプラスミドは、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列、rev遺伝子のヌクレオチド配列、gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列のうちの、前記第一パッケージングプラスミドに含まれる一つのヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列を含むことが好ましい。例えば、第一パッケージングプラスミドは、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を含み、第二パッケージングプラスミドは、前記rev遺伝子のヌクレオチド配列、gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列を含む。或いは、第一パッケージングプラスミドは、前記rev遺伝子のヌクレオチド配列を含み、第二パッケージングプラスミドは、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列、gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列を含む。
【0017】
前記少なくとも一つのパッケージングプラスミドは、第一パッケージングプラスミド及び第二パッケージングプラスミドであり、且つ、前記第一パッケージングプラスミドは、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列、rev遺伝子のヌクレオチド配列、gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列のうちの二つを含み、前記第二パッケージングプラスミドは、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列、rev遺伝子のヌクレオチド配列、gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列のうちの、前記第一パッケージングプラスミドに含まれる二つのヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列を含むことが好ましい。また、第一パッケージングプラスミド及び第二パッケージングプラスミドに含まれるヌクレオチド配列はそれぞれ異なる。例えば、前記第一パッケージングプラスミドは、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列及びrev遺伝子のヌクレオチド配列を含み、前記第二パッケージングプラスミドは、前記gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列を含む。或いは、前記第一パッケージングプラスミドは、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列及び前記gag遺伝子のヌクレオチド配列を含み、前記第二パッケージングプラスミドは、前記rev遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列を含む。或いは、前記第一パッケージングプラスミドは、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列及び前記pol遺伝子のヌクレオチド配列を含み、前記第二パッケージングプラスミドは、前記rev遺伝子のヌクレオチド配列及びgag遺伝子のヌクレオチド配列を含む。
【0018】
前記少なくとも一つのパッケージングプラスミドは、第一パッケージングプラスミド、第二パッケージングプラスミド及び第三パッケージングプラスミドであり、且つ、前記第一パッケージングプラスミドは、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列、rev遺伝子のヌクレオチド配列、gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列のうちの二つを含み、前記第二パッケージングプラスミド及び前記第三パッケージングプラスミドはそれぞれ、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列、rev遺伝子のヌクレオチド配列、gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列のうちの、前記第一パッケージングプラスミドに含まれる二つのヌクレオチド配列以外のいずれか一つを含むことが好ましい。また、第一パッケージングプラスミド、第二パッケージングプラスミド及び第三パッケージングプラスミドに含まれるヌクレオチド配列はそれぞれ異なる。一つの実施態様において、前記第一パッケージングプラスミドは、前記gag遺伝子のヌクレオチド配列及びpol遺伝子のヌクレオチド配列を含み、前記第二パッケージングプラスミドは、前記TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を含み、前記第三パッケージングプラスミドは、前記rev遺伝子のヌクレオチド配列を含む。この実施態様によれば、同時トランスフェクション(co-transfection)時のプラスミド数量の増加によるレンチウイルスの収率の低下がないのみならず、製造されたレンチウイルスの収率は、プラスミド数量が少ない三代目のレンチウイルスパッケージングシステムにより製造されたレンチウイルスよりも高い。
【0019】
前記トランスファープラスミドと、第一パッケージングプラスミドと、第二パッケージングプラスミドと、第三パッケージングプラスミドと、エンベローププラスミドとの重量比は、3~12:3~7:1~4:1~4:0.8~6であることが好ましく、前記トランスファープラスミドと、第一パッケージングプラスミドと、第二パッケージングプラスミドと、第三パッケージングプラスミドと、エンベローププラスミドとの重量比は、4~11:4~7:1.5~3.5:1.5~3.5:0.9~4.5であることがより好ましい。この割合によれば、多量のレンチウイルスを製造することができる。前記トランスファープラスミドと、第一パッケージングプラスミドと、第二パッケージングプラスミドと、第三パッケージングプラスミドと、エンベローププラスミドとの重量比は、5:5:2:2:4であることがより好ましい。この割合によれば、多量のレンチウイルスを製造することができる。
【0020】
一つの実施例において、前記トランスファープラスミドと、第一パッケージングプラスミドと、第二パッケージングプラスミドと、第三パッケージングプラスミドと、エンベローププラスミドとの重量比は、9.5~10.5:5.5~6.5:2.5~3.5:2.5~3.5:0.9~1.1である。この割合によれば、多量のレンチウイルスを製造することができる。前記トランスファープラスミドと、第一パッケージングプラスミドと、第二パッケージングプラスミドと、第三パッケージングプラスミドと、エンベローププラスミドとの重量比は、10:6:3:3:1であることが更に好ましい。この割合によれば、多量のレンチウイルスを製造することができる。
【0021】
前記エンベローププラスミドは、水泡性口炎ウイルス糖タンパク質(vesicular stomatitis virus glycoprotein,VSV-G)をコードする遺伝子のヌクレオチド配列、又はヒヒ内在性ウイルスエンベロープ(baboon endogenous virus envelope)の遺伝子のヌクレオチド配列を含むことが好ましい。これにより、エンベロープの形成、製造されたウイルスの感染力の向上、及び感染可能な細胞の種類の増加に寄与する。
【0022】
前記レンチウイルスパッケージングシステムは更に、vpu遺伝子のヌクレオチド配列、nef遺伝子のヌクレオチド配列、vif遺伝子のヌクレオチド配列、vpr遺伝子のヌクレオチド配列を含む、少なくとも一つ又は複数のプラスミドを含むことが好ましい。
【0023】
前記トランスファープラスミドは更に、デリバリーしようとする標的遺伝子を含むことが好ましい。
【0024】
前記デリバリーしようとする標的遺伝子は、抗CD19受容体をコードするヌクレオチド配列を含むことが好ましい。前記抗CD19受容体は、CD19抗原に特異的に結合する受容体である。
【0025】
前記本発明は、抗CD19受容体、例えば、Porter, David L., et al.”Chimeric antigen receptor-modified T cells in chronic lymphoid leukemia.” N engl j Med 365(2011):725-733における抗CD19受容体-BBzのヌクレオチドを含み、BBzは即ち、共刺激(co-stimulatory)4-1BB及び細胞内領域(endodomain)のCD3ζであるので、更にがんの治療用のキメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor,CAR)細胞の調製に用いることができる。本発明の一つの実施態様において、抗CD19受容体をコードするヌクレオチド配列としては、抗CD19受容体-BBzをコードするヌクレオチド配列、即ち、抗CD19受容体-BBz(以下、CD19-BBzと略称する)のヌクレオチド配列を使用する。
【0026】
本発明はまた、前記レンチウイルスパッケージングシステムにより調製されたレンチウイルスを提供するものである。前記製造されたレンチウイルスは、三代目のレンチウイルスパッケージングシステムと比べると、ウイルス顆粒中に更にTATタンパク質を有し、且つ、測定したところ、三代目のレンチウイルスパッケージングシステムと比べると、より高い形質導入効率を有する。
【0027】
本発明はまた、前記レンチウイルスで有核細胞に遺伝子を形質導入して得られる、分離された細胞を提供するものである。前記有核細胞は、分離されたT細胞、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、又は脂肪幹細胞を含むことが好ましい。それにより、前記分離された細胞を、更にがんの治療用のキメラ抗原受容体細胞の調製に使用することができる。即ち、本発明はまた、がんの治療薬物の調製に用いられる、前記分離された細胞の用途を提供するものである。本発明はまた、前記レンチウイルスパッケージングシステムを使用し、宿主細胞にトランスフェクションすることを含む、宿主細胞のレンチウイルスの収率を向上させる方法を提供するものである。
【0028】
前記宿主細胞は哺乳類動物の細胞を含むことが好ましい。
【0029】
前記哺乳類動物の細胞は、ヒト胎児腎細胞(HEK293)又は293T細胞(HEK293T)を含むことが好ましく、該293T細胞は、HEK 293に更にSV40ウイルスのT-抗原遺伝子を導入した細胞である。
【0030】
一つの実施態様において、前記宿主細胞は293T細胞である。
【0031】
一つの実施態様において、前記宿主細胞はpkr遺伝子がノックアウトされた293T細胞である。本発明のレンチウイルスパッケージングシステムは、pkr遺伝子がノックアウトされた293T細胞でレンチウイルスを製造することにより、製造されたレンチウイルスのウイルス力価を確実に向上させることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明のレンチウイルスパッケージングシステムは、製造されたレンチウイルスのウイルス力価を向上させることができ、また、T細胞の形質導入に用いる場合、形質導入率及び遺伝子デリバリー効率を向上させることもできることから、「ウイルス力価が低すぎるため、形質導入の体積が増加し、形質導入効率が低下するので、T細胞の品質に影響を与える」という問題を避けることができる。且つ、ウイルス力価が高いことから、形質導入時に必要なレンチウイルスの体積は小さくなるので、製造されたレンチウイルスの遺伝子デリバリーへの応用(例えば、がんを治療するためのキメラ抗原受容体細胞(CAR-T)の製造に使用する)のコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明に係るyTA-CMV-tat発現ベクターの模式図である。
図2A】実施例1のレンチウイルスパッケージングシステムにおける、TARキメラ5’-LTRを含むトランスファープラスミドの模式図である。
図2B】実施例1のレンチウイルスパッケージングシステムにおけるプラスミド組成物の模式図である。
図3】本発明のレンチウイルスパッケージングシステム及び三代目のレンチウイルスパッケージングシステムに係る、大規模及び小規模で製造されたレンチウイルスのウイルス力価の倍数の対比を示す図である。
図4】調製例3においてウェスタンブロット法により測定された各細胞株のPKRタンパク質の発現量を示す図である。
図5】本発明のレンチウイルスパッケージングシステム及び三代目のレンチウイルスパッケージングシステムに係る、小規模でpkr遺伝子がノックアウトされた293T細胞で製造されたレンチウイルスのウイルス力価の倍数の対比を示す図である。
図6A】二代目、三代目及び本発明のレンチウイルスパッケージングシステムにより製造されたレンチウイルスの形質導入率を示す図である。
図6B】二代目、三代目及び本発明のレンチウイルスパッケージングシステムにより製造されたレンチウイルスの形質導入後のT細胞の平均蛍光強度を示す図である。
図6C】本発明のレンチウイルスパッケージングシステム及び二代目のレンチウイルスパッケージングシステムに係る、製造されたレンチウイルスの形質導入率及び形質導入後のT細胞の平均蛍光強度の倍数の対比を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面並びに本発明の調製例及び実験例を利用して、本発明において所望の発明の目的を達成するために採用される技術手段について更に説明する。
【0035】
調製例1:TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子を含むパッケージングプラスミドを構築する。
【0036】
まず、pAll-Cas9-B2M_1-DPプラスミドがPspXI/AgeI酵素で切断された後の、CMVプロモーターを含むDNA断片を、XmaI/SalI酵素で切断されて線状化されたyTA-emptyベクターに連結することにより、yTA-CMVプラスミドを調製した。
また、この調製例に使用される、TAR RNA結合タンパク質をコードする遺伝子である、イントロンを含まないtat遺伝子のヌクレオチド配列(例えば、SEQ ID NO:1で示されるもの)は、pCMVdeltaR8.91プラスミド(中央研究院RNAi Coreから購入したもの)を介して増幅した後、NheI/BsrGI酵素で切断され、NheI/BsrGI酵素で切断されて線状化されたyTA-CMV プラスミドに挿入され、このことにより、図1で示されるような、3749の塩基対を有するyTA-CMV-tat発現プラスミドを得た。
前記pAll-Cas9-B2M_1-DPプラスミドは、BsmBI酵素で切断された、中央研究院RNAi Coreから購入した製品番号C6-8-67のpAll-Cas9.Ppuroプラスミドに、B2M gRNA DNA断片を導入して得られたpAll-Cas9-B2Mプラスミドに対し、更に、PCR増幅及びSacII酵素切断の方式で、anti-puromycin gene expression cassetteを削除して得られたものである。
前記yTA-emptyベクターは、PCR方式で、pAll-Cas9.Ppuroプラスミドから一部のWPRE断片を増幅させ、また、TA cloning方式で、益生社から購入したyTAベクター(T&ATM Cloning Kit,FYC001-20P,YEASTERN BIOTECH)に導入してyTA-WPRE_Pを得、更に、SacII酵素で切断されたyTA-WPRE_Pプラスミドを使用し、二つのSacII切断点間にある配列を除去して得られたものである。
前記yTA-emptyベクターには、従来の発現ベクターの基本要素であるAmpr、Ampr promoter及びoriを有する。
【0037】
調製例2:CD19-BBzを含有するトランスファープラスミドを構築する。
【0038】
TARキメラ5’ LTRのヌクレオチド配列を含み、且つRSVプロモーターで駆動されるpLAS5w.Ppuroプラスミド(中央研究院RNAi Coreから購入したもの、商品番号C6-8-39)に対し、hPGKプロモーター及びPAC遺伝子を除去する(GenScriptに依頼して行った)ことにより、pLAS5wプラスミドを得た。続いて、CD19-BBzをコードしているヌクレオチド配列を、Lenti-EF1a-CD19 plasmid(Creative Biolabsに依頼して製造したもの)から、BstBI及びNheI酵素で切断することにより、前記pLAS5wプラスミドに導入した。該TARキメラ5’ LTRに含まれるTARのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:2で示される通りである。
【0039】
実験例1:レンチウイルスの調製
【0040】
293T細胞を、1.5x10の細胞数でT875培養瓶に接種し(大規模)、1x10の細胞数で10cmペトリ皿に接種した(小規模)後、10%のウシ胎児血清を含有するDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium,11965-092,Gibco)培地を使用し、37°C、5%二酸化炭素の雰囲気で三日培養した。その後、トランスフェクション試薬PolyJet(SignaGen Laboratories)を使用し、操作マニュアルの方式に従い、表1における二代目のレンチウイルスパッケージングシステム(比較例1)、三代目のレンチウイルスパッケージングシステム(比較例2)、及び本発明のレンチウイルスパッケージングシステム(実施例1及び実施例2を含む。この二つの実施例の差異は、各パッケージングプラスミドの割合の差異のみにある。)におけるプラスミド組成物を、10%のウシ胎児血清を含有するDMEM培地において、293T細胞に同時トランスフェクションすることにより、小規模(10cmペトリ皿)又は大規模(T875培養瓶)で、デリバリーしようとする標的遺伝子CD19-BBzを有するレンチウイルスをそれぞれ調製した(本発明のレンチウイルスパッケージングシステムに係る実施例2では、小規模のみでレンチウイルスを調製した)。
そのうち、比較例1の二代目のレンチウイルスパッケージングシステム(中央研究院RNAi Core facilityから購入したもの)及び比較例2の三代目のレンチウイルスパッケージングシステム(Aldevronから購入したもの)は従来技術である。翌日、Opti-MEM(51985-034,Gibco)で、元10%のウシ胎児血清を含有するDMEM培地を置き換え、24時間後に、レンチウイルス顆粒を含む上層液を初めて回収し、また、Opti-MEM培地を更に添加し、24時間培養した後に、レンチウイルス顆粒を含む上層液を再び回収した。つまり、全ての回収プロセスを完成させた後に、全てのレンチウイルス顆粒を含む上層液を混合し、更にLenti-X濃縮試薬(Takara Bio)を利用して100倍濃縮した。即ち、レンチウイルス顆粒を含む上層液の体積を元体積の1/100に縮小することにより、100倍濃縮レンチウイルスを得た。
【0041】
【表1】

【0042】
実験例1で調製したレンチウイルスに対し、ウイルス力価を測定し、具体的には、ウイルス力価に対する測定は、3倍配列希釈(3倍~6561倍)された実験例1のうちの各レンチウイルスサンプルを、Jurkat細胞に形質導入(transducing)した上で行った。まず、50μLのレンチウイルスサンプルを100μLのX-Vivo15培地に加入し、3倍配列希釈を行い、希釈6561倍となるまでこの希釈工程を繰り返すことにより、複数組の配列希釈されたレンチウイルスサンプルを得た。続いて、各組の配列希釈されたレンチウイルスサンプルから50μLを取って、96ウェルプレート(U底)の、4×10/100μL/ウェルでJurkat細胞が培養されている、10%ウシ胎児血清を含有するRPMI 1640(11875-085,Gibco)培地に加入した(第0日)。
また、第2日に、各ウェルに、100μLの新鮮な、10%ウシ胎児血清を含有するRPMI 1640培地を加入する。更に、インキュベーターで24時間再度培養した後、biotin-conjugated goat anti-mouse IgG F(ab)2 fragment(JacksonImmunoResearch)及びStreptavidin-PE(Invitrogen)である抗体を使用してCD19-BBzを測定し、フローサイトメーターを利用して目標タンパク質の発現量を分析することにより、ウイルスの形質導入効力を測定した。且つ、以下の算式でウイルスの有効力価を計算した。
ウイルス力価(TU/ml)=(%CD19-BBzを発現した細胞/100)×4×10×20×希釈倍数
【0043】
そのうち、希釈倍数が729倍である実施例2に係る本発明のレンチウイルスパッケージングシステムを使用してレンチウイルスサンプルを製造した場合、CD19-BBzを発現した細胞の発現比率は16.09%であり、得られたウイルス力価は9.38×10形質導入単位(transducing unit,TU)/mlであり、また、希釈倍数としては、一つ目の発現百分比が20%より低い希釈倍数を選択し、この希釈倍数のサンプルの数値で力価を計算した。
実施例2で調製したレンチウイルスサンプルのウイルス力価は、実施例1で調製したレンチウイルスサンプルよりも優れていた。また、図3で示されるように、実施例1に係る本発明のレンチウイルスパッケージングシステムを利用して生産したCD19-BBzレンチウイルスは、そのウイルスの力価が、大規模でも小規模でも、明らかに三代目のレンチウイルスパッケージングシステムを利用して生産したレンチウイルスの力価よりも優れていた。即ち、小規模の場合、おおよそ三代目のレンチウイルスパッケージングシステム(比較例2)で生産したレンチウイルスの力価の3.48倍であり、大規模の場合、おおよそ三代目のレンチウイルスパッケージングシステム(比較例2)で生産したレンチウイルスの力価の4.16倍より大きい。
更に、ウイルスの体積にウイルスの力価を乗ずることにより、ウイルスの収率を得た。また、各実施例、比較例の最終的に得られたウイルスの体積は同様であるので、収率又はウイルスの力価の増加の程度も同様である。即ち、小規模の場合、実施例1に係る本発明のレンチウイルスパッケージングシステムを利用して生産したCD19-BBzレンチウイルスの収率は、三代目のレンチウイルスパッケージングシステム(比較例2)による収率の3.48倍であり、大規模の場合、実施例1に係る本発明のレンチウイルスパッケージングシステムを利用して生産したCD19-BBzレンチウイルスの収率は、三代目のレンチウイルスパッケージングシステム(比較例2)による収率の4.16倍であり、明らかに三代目のレンチウイルスパッケージングシステム(比較例2)によるレンチウイルスの収率よりも優れていた。故に、本発明のレンチウイルスパッケージングシステムは、大規模の場合にも小規模の場合にも、TATタンパク質を同時に発現したことから、明らかに三代目のレンチウイルスパッケージングシステム(比較例2)よりも優れていたので、確かにレンチウイルスの収率の向上に寄与する。
【0044】
調製例3:pkr遺伝子がノックアウトされた293T細胞の調製
【0045】
二つの相補的プライマーをアニーリングして24塩基対のPKRガイドRNA(guide RNA、gRNA)を調製し、BsmBI酵素で切断されて線状化されたCas9-T2A-eGFP-DPプラスミドに連結することにより、Cas9-PKR-T2A-eGFP-DPプラスミドを得た後、ターゲットpkr遺伝子配列のgRNA(gRNA targeting pkr genomic sequence):GCAACCUACCUCCUAUCAUG(SEQ ID NO:3)とプロテインキナーゼR [Protein kinase R、pkr、真核生物の翻訳開始因子2(Eukaryotic translation initiation factor 2-alpha kinase 2;eIF2AK2)とも称する]遺伝子との結合を利用し、Cas 9遺伝子編集、DNA二本鎖切断技術により、pkr遺伝子がノックアウトされた293T細胞を調製した。
具体的には、リン酸カルシウム法を利用して、前記gRNAを含有するCas9-PKR-T2A-eGFP-DPプラスミドを293T細胞にトランスフェクションし、96ウェルプレートにおいて、トランスフェクション後の293T細胞を0.5細胞/ウェルとなるまで希釈した後、ウェスタンブロット法で確認した。該ウェスタンブロット法では、RIPA溶解緩衝液(RIPA lysis buffer)で293T細胞を溶解し、細胞溶解液を回収した後、細胞溶解液の全タンパク質を分析し、rabbit anti-PKRポリクローナル抗体(GTX132826、GeneTex)を利用してPKRタンパク質の発現を検出した。また、ハウスキーピング遺伝子GAPDHを内部対照群とし、96ウェルプレートにおける293T細胞株:#1、#4、#12、#17、#20、#23、#26の遺伝子編集の結果を選択して図4に示したところ、#12の293T細胞株のpkr遺伝子が成功にノックアウトされたことが分かったので、これを実験例2のレンチウイルスの調製に使用する。
【0046】
実験例2:pkr遺伝子がノックアウトされた293T細胞によるレンチウイルスの調製
【0047】
実験例2の方法は実験例1と類似し、両者の差異は、「本実験例では、操作マニュアルに従い、トランスフェクション試薬PolyJet(SignaGen Laboratories)を使用し、三代目のレンチウイルスパッケージングシステム(比較例2)、及び実施例1に係る本発明のレンチウイルスパッケージングシステムのプラスミド組成物を、小規模(10cmペトリ皿)で、調製例3に係るウェスタンブロット法で実証された、pkr遺伝子がノックアウトされた293T細胞(#12の293T細胞株)に同時トランスフェクションした」ことにある。
また、調製例2におけるウイルスの力価の測定工程の通り、三代目のレンチウイルスパッケージングシステム(比較例2)、及び実施例1に係る本発明のレンチウイルスパッケージングシステムのプラスミド組成物を利用し、pkr遺伝子がノックアウトされた293T細胞を介して調製したレンチウイルスの力価を測定した結果、図5に示されるように、小規模で実施例1に係る本発明のレンチウイルスパッケージングシステムのプラスミド組成物を利用し、pkr遺伝子がノックアウトされた293T細胞を介して調製したレンチウイルスの力価は、おおよそ三代目のレンチウイルスパッケージングシステム(比較例2)を利用し、pkr遺伝子がノックアウトされた293T細胞を介して製造されたレンチウイルスの力価の22.2倍である。故に、本発明のレンチウイルスパッケージングシステムを利用し、pkr遺伝子がノックアウトされた293T細胞を介してレンチウイルスを調製することにより、確かに製造されたレンチウイルスの力価を顕著に向上させることができる。
【0048】
実験例3:感染能力の測定-初代T細胞の形質導入
【0049】
健康なドナーからの末梢血単核細胞(Peripheral blood mononuclear cells、PBMC)に対しFicoll(GE)で処理し、また、CD3/CD28増幅ビーズ(Expander Beads)(ThermoFisher)で初代T細胞を精製して活化させた。翌日、実験例1における二代目、三代目及び実施例1に係る本発明のレンチウイルスパッケージングシステムを利用し、小規模で調製したレンチウイルスを、前記精製された初代T細胞に形質導入した(形質導入の第一日)。要するに、1mlの、合計数量が1x10である初代T細胞及び実験例1で製造したレンチウイルス(MOI(Multiplicity of Infection)1、MOI 3及びMOI 5に従う)を一緒に培養した。
また、レンチウイルスの形質導入の二日後に、CD3/CD28ビーズを除去し、最後に、レンチウイルスの形質導入後の第六日に、フローサイトメーターを利用し、標的遺伝子-CD19-BBzのT細胞における発現量を検出した。具体的には、1x10の初代T細胞を、100μLの染色液(染色液は、1%のFCS(Fetal Calf Serum)を含有するPBS溶液である)に懸濁させた後、第一抗体(Biotin-conjugated goat anti mouse IgG F(ab)2)を加入し、室温で20分静置し、1mLの染色液で初代T細胞を二回洗浄した後、Streptavidin-PEを含有する染色液(総体積100μL)に、初代T細胞顆粒を再度懸濁させ、室温で20分静置し、再度1mLの染色液で初代T細胞を二回洗浄した後、最後に、初代T細胞を適量の染色液に懸濁させ、フローサイトメーター分析を行った。
【0050】
実験の結果について、図6A-6Cに示す。図6Aにおいて、実施例1に係る本発明のレンチウイルスパッケージングシステムにより生産したレンチウイルスを、MOI 1、MOI 3及びMOI 5で形質導入したT細胞は、そのCD19-BBz発現率はいずれも、二代目、三代目のレンチウイルスパッケージングシステムにより生産したレンチウイルスを形質導入したT細胞よりも高い。故に、二代目、三代目のレンチウイルスパッケージングシステムと比べると、本発明のレンチウイルスパッケージングシステムにより生産したレンチウイルスは、最適な形質導入率、形質導入効率及び遺伝子デリバリー効果を有する。
また、図6Bにおいて、実施例1に係る本発明のレンチウイルスパッケージングシステムにより生産したレンチウイルスをMOI 1、MOI 3及びMOI 5で形質導入したT細胞に対し、蛍光標識された抗体でT細胞CD19-BBzの発現を検出したところ、各細胞の平均蛍光強度はいずれも、二代目、三代目のレンチウイルスパッケージングシステムにより生産したレンチウイルスを形質導入したT細胞よりも高い。
且つ、図6Cに示されるように、実施例1に係る本発明のレンチウイルスパッケージングシステムにより生産したレンチウイルスを形質導入したT細胞は、その形質導入率及び平均蛍光強度がいずれも、二代目のレンチウイルスパッケージングシステムよりも優れ、おおよそ二代目のレンチウイルスパッケージングシステムの1.2倍であり、該1.2倍は、本発明のレンチウイルスパッケージングシステムに係るMOI 1、MOI 3及びMOI 5と、二代目のレンチウイルスパッケージングシステムに係るMOI 1、MOI 3及びMOI 5とを対比して得られる増加倍数の平均値である。従って、本発明のレンチウイルスパッケージングシステムは、製造されたレンチウイルスの活性を向上させることができる。
【0051】
故に、本発明のレンチウイルスパッケージングシステムは、レンチウイルスの収率及び活性を顕著に向上させることができ、細胞の遺伝子組換え時に遺伝子のデリバリー効率を有効的に向上させることができる。また、細胞の遺伝子組換えのコストを低減することができ、且つ、pkr遺伝子がノックアウトされた293Tにより生産されたレンチウイルスは、生産されたレンチウイルスの機能をより一層向上させることができる。
【0052】
前述したものは、単に本発明の好ましい実施例であり、本発明に対する形式上の制限は一切有しない。また、前文には、本発明の好ましい実施例が開示されているが、該実施例は、本発明を限定するためのものではなく、当業者であれば、本発明の技術方案の範囲を逸脱しない限り、上述した技術内容をやや変更、修飾することにより、同効の実施例とすることができる。つまり、本発明の技術方案を逸脱しない内容や、本発明の技術に基づいて前記実施例に対して実質的に行った簡単な変更、修飾はいずれも、本発明の技術方案の範囲内のものである。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
【配列表】
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