(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028825
(43)【公開日】2024-03-05
(54)【発明の名称】インフルエンザウイルスにおける付加的遺伝子に遺伝的安定性を付与する突然変異
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20240227BHJP
C12N 15/44 20060101ALN20240227BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20240227BHJP
A61K 35/76 20150101ALN20240227BHJP
A61K 39/00 20060101ALN20240227BHJP
A61K 39/145 20060101ALN20240227BHJP
A61K 47/59 20170101ALN20240227BHJP
A61K 48/00 20060101ALN20240227BHJP
A61P 31/16 20060101ALN20240227BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
C12N15/44
C12N15/63 Z
A61K35/76
A61K39/00 H
A61K39/145
A61K47/59
A61K48/00
A61P31/16
A61P35/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023204069
(22)【出願日】2023-12-01
(62)【分割の表示】P 2021542525の分割
【原出願日】2020-01-22
(31)【優先権主張番号】62/795,821
(32)【優先日】2019-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】506097988
【氏名又は名称】ウィスコンシン アルムニ リサーチ ファンデイション
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100170852
【弁理士】
【氏名又は名称】白樫 依子
(72)【発明者】
【氏名】河岡 義裕
(72)【発明者】
【氏名】古澤 夢梨
(57)【要約】 (修正有)
【課題】組換えインフルエンザウイルスを提供する。
【解決手段】分離された組換えインフルエンザウイルスであって、一態様として、ウイルスセグメントの内の少なくとも1つが、アスパラギンではない540位における残基を有するPB2をコードするPB2ウイルスセグメント、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメント、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメント、又はそれらの任意の組み合わせである、組換えインフルエンザウイルスを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント、PB2ウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NAウイルスセグメント及びHAウイルスセグメントを有する分離された組換えインフルエンザウイルスであって、前記ウイルスセグメントの内の少なくとも1つが、アスパラギンではない540位における残基を有するPB2をコードするPB2ウイルスセグメント、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメント、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメント、又はそれらの任意の組み合わせであり、前記組換えインフルエンザウイルスが、アスパラギンであるPB2における540位における残基、グルタミンであるPAにおける180位における残基、スレオニンであるPAにおける200位における残基、バリンであるPB1における149位における残基、グルタミン酸であるPB1における684位における残基又はアスパラギン酸であるPB1における685位における残基を有する対応する組換えインフルエンザウイルスと比較して、安定性が増強されており、且つ/又は複製が増強されている、分離された組換えインフルエンザウイルス。
【請求項2】
PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント、PB2ウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NAウイルスセグメント及びHAウイルスセグメントを有する分離された組換えインフルエンザウイルスであって、前記ウイルスセグメントの内の少なくとも1つが、アスパラギンではない540位における残基又はグルタミン酸ではない712位における残基を有するPB2をコードするPB2ウイルスセグメントであり、前記他のウイルスセグメントの内の少なくとも1つが、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメント、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメント、又はそれらの任意の組み合わせであり、前記組換えインフルエンザウイルスが、アスパラギンであるPB2における540位における残基、グルタミン酸である712位におけるPB2における残基、グルタミンであるPAにおける180位における残基、スレオニンであるPAにおける200位における残基、バリンであるPB1における149位における残基、グルタミン酸であるPB1における684位における残基又はアスパラギン酸であるPB1における685位における残基を有する対応する組換えインフルエンザウイルスと比較して、安定性が増強されており、且つ/又は複製が増強されている、分離された組換えインフルエンザウイルス。
【請求項3】
PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント、PB2ウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NAウイルスセグメント及びHAウイルスセグメントを有する分離された組換えインフルエンザウイルスであって、前記組換えウイルスが、アスパラギンではない540位における残基若しくはグルタミン酸ではない712位における残基を有するPB2をコードするPB2ウイルスセグメント、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメント、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメント、又はそれらの任意の組み合わせを含む2つ以上のウイルスセグメントを有し、前記組換えインフルエンザウイルスが、アスパラギンであるPB2における540位における残基、グルタミン酸である712位におけるPB2における残基、グルタミンであるPAにおける180位における残基、スレオニンであるPAにおける200位における残基、バリンであるPB1における149位における残基、グルタミン酸であるPB1における684位における残基又はアスパラギン酸であるPB1における685位における残基を有する対応する組換えインフルエンザウイルスと比較して、安定性が増強されており、且つ/又は複製が増強されている、分離された組換えインフルエンザウイルス。
【請求項4】
PB2の540位における前記残基が、K、R、D、E、Q若しくはHであり、PB2の712位における前記残基が、D、N、Q、S、H、T、Y若しくはCであり、PAにおける180位における前記残基が、R、K、D、E、N若しくはHであり、PAにおける200位における前記残基が、A、I、L、C、S、M、F、P、G若しくはVであり、PB1における149位における前記残基が、A、T、I、L、C、S、M、F、P若しくはGであり、684位における前記残基が、D、Q、S、H、T、Y、C、K、R若しくはNであり、又はPB1における685位における前記残基が、E、N、R、H、K、S、T、Y、C若しくはQである、請求項1から3のいずれか一項に記載のウイルス。
【請求項5】
PB2の540位における前記残基が、K、R、H、D、S、H、T、Y若しくはCであり、PB2の712位における前記残基が、D、K、H、R、Q若しくは、Nであり、PAにおける180位における前記残基が、R、K、D、N、S、H、T、Y若しくはHであり、PAにおける200位における前記残基が、A、I、L、G、S、M若しくはVであり、PB1における149位における前記残基が、A、T、I、L、S、M若しくはGであり、684位における前記残基が、D、Q、H、L、R若しくはNであり、又はPB1における685位における前記残基が、E、N、R、H、K若しくはQである、請求項1から3のいずれか一項に記載のウイルス。
【請求項6】
PB2の540位における前記残基が、K、R若しくはHであり、PB2の712位における前記残基が、D若しくはNであり、PAにおける180位における前記残基が、R、K若しくはHであり、PAにおける200位における前記残基が、A、I、L、G若しくはVであり、PB1における149位における前記残基が、A、T、I、L若しくはGであり、684位における前記残基が、D若しくはNであり、又はPB1における685位における前記残基が、E若しくはQである、請求項1から3のいずれか一項に記載のウイルス。
【請求項7】
前記PB2が、アスパラギンではない540位における残基を有し、前記PAが、グルタミンではない180位における残基及びスレオニンではない200位における残基を有し、前記PB1が、バリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基又はアスパラギン酸ではない685位における残基を有する、請求項1又は2に記載のウイルス。
【請求項8】
前記PB2が、アスパラギンではない540位における残基を有し、前記PAが、グルタミンではない180位における残基又はスレオニンではない200位における残基を有し、前記PB1が、バリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基又はアスパラギン酸ではない685位における残基を有する、請求項1又は2に記載のウイルス。
【請求項9】
前記PB2が、アスパラギンではない540位における残基又はアスパラギン酸ではない712位における残基を有し、前記PAが、グルタミンではない180位における残基及びスレオニンではない200位における残基を有し、前記PB1が、バリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基又はアスパラギン酸ではない685位における残基を有する、請求項2又は3に記載のウイルス。
【請求項10】
前記PB2が、アスパラギンではない540位における残基及びアスパラギン酸ではない712位における残基を有し、前記PAが、グルタミンではない180位における残基又はスレオニンではない200位における残基を有し、前記PB1が、バリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基又はアスパラギン酸ではない685位における残基を有する、請求項2又は3に記載のウイルス。
【請求項11】
前記PAが、アルギニンではない443位における残基をさらに含み、前記PB1が、リジンではない737位における残基をさらに含み、前記PB2が、バリンではない25位における残基若しくはグルタミン酸ではない712位における残基をさらに含み、前記NSウイルスセグメントが、プロリンではない167位における残基を有するNS1をコードし、前記HAウイルスセグメントが、スレオニンではない380位における残基を有するHAをコードし、又はそれらの任意の組み合わせである、請求項1から10のいずれか一項に記載のウイルス。
【請求項12】
PAの443位における前記残基が、K若しくはHであり、PB1の737位における前記残基が、H若しくはRであり、PB2の25位における前記残基が、A、L、T、I若しくはGであり、PB2の712位における前記残基が、Dであり、NS1の167位における前記残基が、S、C、M、A、L、I、G若しくはTであり、又はそれらの任意の組み合わせである、請求項11に記載のウイルス。
【請求項13】
前記ウイルスセグメントの内の少なくとも1つが、遺伝子産物をコードする異種遺伝子配列を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の組換えウイルス。
【請求項14】
前記異種配列が、前記NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント又は前記PB2ウイルスセグメント内にある、請求項13に記載の組換えウイルス。
【請求項15】
前記異種配列が、前記PAウイルスセグメントにおける前記PAコード配列に対して5’又は3’であり、前記PB1ウイルスセグメントにおける前記PB1コード配列に対して5’又は3’である、請求項13に記載の組換えウイルス。
【請求項16】
前記異種配列が、前記PB2ウイルスセグメントにおける前記PB2コード配列に対して5’又は3’である、請求項13に記載の組換えウイルス。
【請求項17】
前記異種配列が、前記NSウイルスセグメントにおける前記NS1コード配列に対して5’又は3’である、請求項13に記載の組換えウイルス。
【請求項18】
遺伝子産物をコードする異種遺伝子配列を含むさらなるウイルスセグメントを含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の組換えウイルス。
【請求項19】
前記さらなるウイルスセグメントが、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント又はPB2ウイルスセグメントである、請求項18に記載の組換えウイルス。
【請求項20】
H1、H2、H3、H5、H7、H9又はH10であるHAを有する、請求項1から19のいずれか一項に記載のウイルス。
【請求項21】
インフルエンザA型ウイルスである、請求項1から20のいずれか一項に記載のウイルス。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか一項に記載の分離された組換えウイルスを有するワクチン。
【請求項23】
前記ウイルスが非インフルエンザ微生物タンパク質をコードする、請求項22に記載のワクチン。
【請求項24】
前記ウイルスが異種インフルエンザタンパク質をコードする、請求項22に記載のワクチン。
【請求項25】
前記ウイルスが癌関連抗原をコードする、請求項22に記載のワクチン。
【請求項26】
a)転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスPA DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスPB1 DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスPB2 DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスHA DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスNP DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスNA DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスM DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、及び転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスNS cDNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクターであって、ここで、vRNA産生のための前記ベクターにおける前記PB1 DNA、前記PB2 DNA又は前記PA DNAが、アスパラギンではない540位における残基を有するPB2をコードするPB2ウイルスセグメント、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメント、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメント、又はそれらの組み合わせの内の少なくとも1つをコードする、vRNA産生のための前記ベクター、並びに、場合により、
b)インフルエンザウイルスPAをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスPB1をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスPB2をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、及びインフルエンザウイルスNPをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、並びに、場合により、インフルエンザウイルスHAをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスNAをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスM1をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスM2をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、又はインフルエンザウイルスNS2をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター
を含む、再集合体を調製するための複数のインフルエンザウイルスベクター。
【請求項27】
vRNA産生のための前記ベクターにおける前記PB1 DNA、前記PB2 DNA、前記PA DNA、前記NP DNA、前記NS DNA及び前記M DNAが、配列番号1~6又は10~15によってコードされる対応するポリペプチドに対して少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードするものに対応する配列を有する、請求項26に記載のベクター。
【請求項28】
PB2の540位における前記残基が、K、R若しくはHであり、PAにおける180位における前記残基が、R、K若しくはHであり、PAにおける200位における前記残基が、A、I、L、G若しくはVであり、PB1における149位における残基が、A、T、I、L若しくはGであり、684位における前記残基が、D若しくはNであり、又はPB1における685位における前記残基が、E若しくはまたQである、請求項26又は27に記載のベクター。
【請求項29】
前記ウイルスセグメントの内の少なくとも1つが、遺伝子産物をコードする異種の遺伝子配列を含む、請求項26から28のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項30】
遺伝子産物をコードする異種遺伝子配列を含むウイルスセグメントを有するさらなるベクターを含む、請求項26から29のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項31】
細胞に、
感染性インフルエンザウイルスを産生するために有効な量の、
転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスPA DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスPB1 DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスPB2 DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスHA DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスNP DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスNA DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結するインフルエンザウイルスM DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、及び転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスNS DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクターであって、ここで、vRNA産生のための前記ベクターにおける前記PB1 DNA、前記PB2 DNA又は前記PA DNAが、
i)アスパラギンではない540位における残基又はグルタミン酸ではない712位における残基を有するPB2、及びグルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPA、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1、又はそれらの任意の組み合わせの少なくとも1つ、又はii)アスパラギンではない540位における残基を有するPB2、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPA、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1、又はそれらの任意の組み合わせ、又はiii)アスパラギンではない540位における残基若しくはグルタミン酸ではない712位の残基を有するPB2、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPA、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1、又はそれらの任意の組み合わせの2つ以上
をコードする、vRNA産生のための前記ベクター、並びに、場合により、
インフルエンザウイルスPAをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスPB1をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスPB2をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、及びインフルエンザウイルスNPをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、並びに、場合により、インフルエンザウイルスHAをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスNAをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスM1をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスM2をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、又はインフルエンザウイルスNS2をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター
を接触させることを含む、インフルエンザウイルスを調製するための方法。
【請求項32】
前記細胞が、トリ細胞又は哺乳動物細胞である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記細胞が、Vero細胞、ヒト細胞又はMDCK細胞である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
vRNA産生のための前記ベクターにおける前記PB1 DNA、前記PB2 DNA、前記PA DNA、前記NP DNA、前記NS DNA及び前記M DNAが、配列番号1~6又は10~15によってコードされる対応するポリペプチドに対して少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードするものに対応する配列を有する、請求項31から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
PB2の540位における前記残基が、K、R若しくはHであり、PB2の712位における前記残基が、D若しくはNであり、PAにおける180位における前記残基が、R、K又はHであり、PAにおける200位における前記残基が、A、I、L、G若しくはVであり、PB1における149位における前記残基が、A、T、I、L若しくはGであり、684位における前記残基が、D若しくはNであり、又はPB1における685位における前記残基が、E若しくはQである、請求項31から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記インフルエンザウイルスが、遺伝子産物をコードする異種遺伝子配列を含む、請求項31から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記異種配列が、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント又はPB2ウイルスセグメント内にある、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記異種配列が、前記PAウイルスセグメントにおける前記PAコード配列に対して5’又は3’であり、前記PB1ウイルスセグメントにおける前記PB1コード配列に対して5’又は3’である、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記異種配列が、前記PB2ウイルスセグメントにおける前記PB2コード配列に対して5’又は3’である、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記異種配列が、前記NSウイルスセグメントにおける前記NS1コード配列に対して5’又は3’である、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
遺伝子産物をコードする異種遺伝子配列を含むさらなるウイルスセグメントを含む、請求項31から40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記さらなるウイルスセグメントが、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント又はPB2ウイルスセグメントである、請求項41に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年1月23日に出願された米国出願第62/795,821号の出願日の利益を主張するものであって、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府の権利に関する宣言
本発明は、米国国立衛生研究所によって授与されたHHSN272201400008Cの下における政府の支援によって為されたものである。前記政府は、本発明において特定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
インフルエンザA型ウイルスは、毎年の流行病及び散発的な汎発流行病を引き起こす呼吸器病原体である(Wrightら、2013)。その上、高病原性鳥H5N1インフルエンザウイルス及び最近出現したH7N9インフルエンザウイルスは、非常に多くの高死亡率のヒト感染症を引き起こしてきた(Watanabeら、2013;Zhangら、2013)。インフルエンザウイルスは、哺乳類宿主における呼吸器上皮細胞及び肺胞マクロファージに感染する(Yuら、2010)。宿主免疫系は、サイトゾルセンサを介してインフルエンザウイルスのRNAゲノムを認識し(Dieboldら、2004;Pichlmairら、2006)、それによってI型インターフェロン(IFN)、炎症誘発性サイトカイン及び炎症誘発性ケモカインの産生をもたらす先天性免疫応答が引き起こされる(Honda及びTaniguchi、2006)。I型IFNは、ミクソウイルス抵抗性(Mx)、オリゴアデニル酸シンセターゼ(OAS)及びインターフェロン刺激遺伝子15(ISG15)を含む抗ウイルスタンパク質の産生を上方制御する(Garcia-Sastreら、2011)。インフルエンザウイルス感染に対する先天性免疫応答の調節不全は、マクロファージ及び好中球を含む浸潤免疫細胞によって媒介される肺病理を引き起こす(Heronら、2008;Perroneら、2008)。いくつかの研究がインフルエンザウイルス感染に対する宿主応答に言及しているが(Fakuyama及びKawaoka、2011)、インフルエンザウイルス誘導病理の機序は、依然として完全に理解されていない。
【0004】
インビボにおけるインフルエンザウイルス感染に対する免疫応答を分析するために、蛍光レポータタンパク質を発現するウイルスが作製された(Kittelら、2004;Shinyaら、2004)。しかし、これらのウイルスは、著しく弱毒化し(Kittelら、2004;Shinyaら、2004)、自然感染を正確に反映することができなかった。例えば、Manicassamyら(2010)は、インフルエンザウイルス感染の際における抗原提示の経路を評価するために用いたGFP発現インフルエンザウイルスを作製した(Helftら、2012)。しかし、前記GFP遺伝子は、マウスの肺細胞又は培養細胞における複製の間に安定して維持されなかった(Manicassamyら、2010)。
【0005】
H5N1サブタイプの高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAI)は、自然界で進化し続けており、それによって動物の健康及び公衆衛生が脅かされている。これらのウイルスは、1996年に中国の広東省において最初に同定され(Liら、2006)、以後、複数の鳥類種において、63を超える国において発見され、ブタ及びヒトなどの哺乳動物に繰り返し感染している(Liら、2010;Neumannら、2010)。2013年12月までにH5N1ウイルス感染の648のヒト症例が世界保健機関(WHO)によって確認されたが、それらの内の384人が致死的であり、死亡率は約60%であった(http://www.who.int)。加えて、H7N9ウイルス及びH10N8ウイルスなどの新規のサブタイプのインフルエンザウイルスが自然発生的に出現し、ヒトに散発的に感染して、致死的転帰をもたらした(Chenら、2014;Liら、2013)(http://www.who.int)。したがって、インフルエンザウイルスによる現在の脅威によって、我々は、インフルエンザウイルス感染の動的プロセスを含む制御のためのより有効な戦略を開発するためにそれらの病原性機序の完全な理解を得ることの緊急の必要性に気づかされるが、インビボにおけるウイルス標的細胞は不明なままである。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、例として、例えば、無処置の若しくは修飾された(例えば、トランケートされた、若しくは内部欠失させた)ウイルスタンパク質コード領域に融合させたウイルスセグメントの内の1つに挿入されるか、又は付加的なウイルスセグメント上に存在する、「異種」遺伝子配列などの付加的な非インフルエンザウイルス遺伝子の遺伝的安定性を増大させるインフルエンザウイルスの(1又は複数の)ウイルスセグメントの突然変異に関する。一実施形態において、異種遺伝子配列によって増大しないインフルエンザウイルスの安定性を増強させるために前記突然変異の内の1つ以上を用いてもよい。一実施形態において、前記異種遺伝子配列は、マーカー遺伝子、例えば、GFP、BFP、RFP若しくはYFPに対するものなどの蛍光タンパク質遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β-グルクロニダーゼ遺伝子又はβ-ラクタマーゼ遺伝子である。一実施形態において、前記異種配列は、予防的遺伝子産物に対するものである。一実施形態において、前記異種配列は、治療遺伝子産物をコードする。
【0007】
本明細書において開示されるように、異なる色の蛍光タンパク質を発現するインフルエンザウイルス(色-インフルエンザウイルス(Color-flu viruses))が作製された。異物遺伝子を含むウイルスの継代を行った。マウスに対する適応の際、感染動物における蛍光タンパク質の安定発現によって、異なる型の顕微鏡検査及びフローサイトメトリによるそれらの検出が可能になった。各々が4つの異なる蛍光タンパク質の内の1つを安定して発現する蛍光インフルエンザウイルスの使用によって、同時モニタリング及びライブイメージングが可能になる。これらのウイルスを用いて、これらのウイルスの多用性を示すためにいくつかの研究が行われた。例えば、このシステムは、ウイルス感染細胞のライブイメージングのために、並びに色-インフルエンザ感染マウスの肺におけるウイルス抗原陽性生細胞及びウイルス抗原陰性生細胞における識別的遺伝子発現研究のために、マウス肺におけるウイルスの拡散の進行を分析するために用いられた。したがって、色-インフルエンザウイルスは、インフルエンザ病原性をより良好理解するためにインビボにおける細胞レベルにおけるウイルス感染を分析するための強力なツールである。その上、結果として生じるウイルスにおける異なる安定化突然変異が同定された。これらの突然変異は、HAタンパク質におけるT380A(番号付けは、H1についてのものである)及びA/PR/8/34(H1N1)ウイルスのPB2タンパク質におけるE712D、並びに、それぞれ、A/Vietnam/1203/2004(H5N1)ウイルスのPB2、PA、PB1及びNS1タンパク質におけるV25A、R443K、K737R及びP167Sアミノ酸置換を含む。H5ウイルス単独における個別の突然変異によって、インビトロにおいてより安定な外来遺伝子を含むウイルスが生じ、それらの全ての組み合わせは、インビボにおいてさらにより大きな安定性を提供した。これらの突然変異は、いかなるHA/NAの組み合わせについても有用である。
【0008】
一実施形態において、組換えウイルスは、1以上の安定化突然変異、例えば、1以上の置換を有さない対応するウイルス(親ウイルス)と比較して1以上の置換を有する組換えウイルスの安定性若しくは複製を増強する(例えば、力価を増強する)1以上のインフルエンザウイルスタンパク質における1以上の置換、及び/又はそれぞれのウイルスセグメントにおける異種遺伝子配列を有する1以上の置換を有さない対応するウイルスと比較して組換えウイルスにおけるウイルスセグメントの内の1つに存在する異種遺伝子配列の安定性若しくは複製を増強する1以上のインフルエンザウイルスタンパク質の1以上の置換、及び/又は1以上の置換を有さない対応するウイルスと比較して組換えウイルスにおいて付加的なウイルスセグメントに存在し且つ異種遺伝子配列を有する付加的なウイルスセグメントを有する異種遺伝子配列の安定性若しくは複製を増強する1以上のインフルエンザウイルスタンパク質における1以上の置換を有する。前記1以上の置換としては、インフルエンザPA、PA-X、PB1、PB1-F2、PB2、NP、NS1、NS2、M1、M2、NA及び/又はHA(例えば、インフルエンザA型ウイルスのHA)の内のいずれかにおける置換、それらに対する対応するウイルスセグメント(PA、PB1、PB2、NP、NS、M、NA及び/又はHA)においてコードされる置換、又はそれらのインフルエンザウイルスタンパク質若しくは遺伝子の内のいずれか1つにおける置換の組み合わせ、又はそれらのタンパク質又は遺伝子の内の2つ以上における1以上の置換の組み合わせが挙げられるが、それらに限定されるものではない。一実施形態において、インフルエンザウイルスの安定性又は複製を増強する前記1以上の置換は、PAタンパク質中にあり、例として、例えばRNA複製、PAタンパク質分解活性及び/又は1以上のウイルスタンパク質若しくは細胞タンパク質との相互作用を増強する(タンパク質表面上に位置する)PAにおける180位のグルタミン、200位のスレオニン又は443位のアルギニンについての置換である。一実施形態において、PAにおける443位のアルギニンについての置換は、保存的置換である。一実施形態において、PAにおける443位のアルギニンについての置換は、非保存的置換である。一実施形態において、PAの180位のグルタミンについての置換は、保存的置換である。一実施形態において、PAにおける180位のグルタミンについての置換は、非保存的置換である。一実施形態において、PAのける200位のスレオニンについての置換は、保存的置換である。一実施形態において、PAにおける200位のスレオニンについての置換は、非保存的置換である。一実施形態において、インフルエンザウイルスの安定性又は複製を増強する1以上の置換は、PB2タンパク質中にあり、例として、例えばポリメラーゼ活性、(25位についての)MAVSとの相互作用及び/又は(712位についての)タンパクの折り畳み若しくは安定性を増強するPB2における、25位のバリンについての置換、540位のアスパラギンについての置換、及び/又は712位のグルタミン酸についての置換である。一実施形態において、PB2における25位のバリンについての置換は、保存的置換である。一実施形態において、PB2における25位のバリンについての置換は、非保存的置換である。一実施形態において、PB2における540位のアスパラギンについての置換は、保存的置換である。一実施形態において、PB2における540位のアスパラギンについての置換は、非保存的置換である。一実施形態において、PB2における712位のグルタミン酸についての置換は、保存的置換である。一実施形態において、PB2における712位のグルタミン酸についての置換は、非保存的置換である。一実施形態において、インフルエンザウイルスの安定性又は複製を増強する前記1以上の置換は、PB1タンパク質中にあり、例として、例えばポリメラーゼ活性又はエンドヌクレアーゼ活性を改変する(タンパク質表面上に位置してもよい)PB1における149位のバリンについての置換、737位のリジンについての置換、684位のグルタミン酸についての置換及び/又は685位のアスパラギン酸についての置換である。一実施形態において、PB1における737位のリジンについての置換は、保存的置換である。一実施形態において、PB1における737位のリジンについての置換は、非保存的置換である。一実施形態において、PB1における149位のバリンについての置換は、保存的置換である。一実施形態において、PB1における149位のバリンについての置換は、非保存的置換である。一実施形態において、PB1における684位のグルタミン酸についての置換は、保存的置換である。一実施形態において、PB1における684位のグルタミン酸についての置換は、非保存的置換である。一実施形態において、PB1における685位のアスパラギン酸についての置換は、保存的置換である。一実施形態において、PB1における685位のアスパラギン酸についての置換は、非保存的置換である。
【0009】
一実施形態において、例えばインフルエンザウイルスのNS1のインターフェロン干渉活性又は転写調節活性を改変することによって安定性又は複製を増強する前記1以上の置換は、NS1タンパク質中にあり、例えば、細胞タンパク質との相互作用を改変し得るNS1における167位のプロリンについての置換である。一実施形態において、NS1における167位のプロリンについての置換は、保存的置換である。一実施形態において、NS1における167位のプロリンについての置換は、非保存的置換である。一実施形態において、インフルエンザウイルスの安定性又は複製を増強する前記1以上の置換は、HAタンパク質中にあり、例えば、(HA-2のアルファヘリックス中にある)HAにおける380位のスレオニンについての置換である。一実施形態において、HAにおける380位のスレオニンについての置換は、保存的置換である。一実施形態において、HAにおける380位のスレオニンについての置換は、非保存的置換である。一実施形態において、PAにおける443位の残基は、K又はHである。一実施形態において、PB1における737位の残基は、H又はRである。一実施形態において、PB2における25位の残基は、A、L、T、I又はGである。一実施形態において、PB2における712位の残基は、Dである。一実施形態において、NS1における167位の残基は、C、M、A、L、I、G又はTである。
【0010】
前記ウイルスは、ワクチンとして、又は、遺伝子送達ベクターとして用いられてもよい。
【0011】
前記ベクターは、インフルエンザcDNA、例えば、インフルエンザA型(例えば、18HAサブタイプ又は11NAサブタイプのいずれかを含む任意のインフルエンザA型遺伝子)、B型又はC型DNAを含む(具体的に参照により本明細書に組み込まれるFields Virology(Fieldsら(編)、Lippincott、Williams及びWickens(2006)参照)。
【0012】
一実施形態において、ウイルスタンパク質における開示された位置及び置換は、任意のインフルエンザウイルス分離株に由来するウイルスセグメントにおいて生じ得るか、又は1以上の開示された位置において特定の残基を有するウイルスセグメントを選択するために用いられ得るが、PB1、PB2、PA、NP、M及びNSは、配列番号1~6又は10~15の内の1つによってコードされるポリペプチドに対する連続アミノ酸配列同一性が80~99の任意の整数を含む少なくとも80%、例えば90%、92%、95%、97%、98%又は99%であるタンパク質をコードする。一実施形態において、PB1、PB2、PA、NP、M及びNSは、配列番号1~6又は10~15の内の1つによってコードされるポリペプチドに対する連続アミノ酸配列同一性が80~99の任意の整数を含む少なくとも80%、例えば90%、92%、95%、97%、98%又は99%であるタンパク質をコードする。一実施形態において、インフルエンザウイルスポリペプチドは、配列番号1~6又は10~15の内の1つによってコードされるポリペプチドと比較して、1以上、例えば2、5、10、15、20以上の保存的アミノ酸置換、例えば2、5、10、15、20以上の保存的アミノ酸置換及び非保存的アミノ酸置換の組み合わせの最高10%又は20%の保存的置換、例えば残基の最高10%又は20%の保存的置換を有し、安定性を提供する本明細書に記載される特徴的な残基を有する。
【0013】
本開示の組換えインフルエンザウイルスは、1以上のインフルエンザウイルスタンパク質における1以上の安定化突然変異を有する再集合体ウイルス(reassortant virus)などの組換えウイルス内に含まれるためのウイルスセグメントを選択することによって調製されてもよい。例えば、スレオニンではない380位における残基を有するHAをコードするHAウイルスセグメントが選択されてもよく、アルギニンではない443位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメントが選択されてもよく、グルタミンではない180位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメントが選択されてもよく、スレオニンではない200位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメントが選択されてもよく、リジンではない737位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメントが選択されてもよく、バリンではない149位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメントが選択されてもよく、グルタミン酸ではない684位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメントが選択されてもよく、アスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメントが選択されてもよく、バリンではない25位における残基、540位におけるアスパラギンでない残基又はグルタミン酸ではない712位における残基を有するPB2をコードするPB2ウイルスセグメントが選択されてもよく、プロリンではない167位における残基を有するNS1をコードするNSウイルスセグメントが選択されてもよく、又はそれらの任意の組み合わせであってもよい。一実施形態において、PAにおける443位の残基は、K又はHである。一実施形態において、PAにおける180位の残基は、R、K又はHである。一実施形態において、PAにおける200位の残基は、A、G、I、L又はVである。一実施形態において、PB1における737位の残基は、H又はRである。一実施形態において、PB1における149位の残基は、A、T、G、I又はLである。一実施形態において、PB1における684位の残基は、D又はNである。一実施形態において、PB1における685位の残基は、E又はQである。一実施形態において、PB2における25位の残基は、A、L、T、I又はGである。一実施形態において、PB2における712位の残基は、Dである。一実施形態において、PB2における540位の残基は、K、R又はHである。一実施形態において、NS1における167位の残基は、S、C、M、A、L、I、G又はTである。一実施形態において、HAにおける380位の残基は、A、I、V、L又はGである。
【0014】
一実施形態において、本開示のインフルエンザウイルスは、PA、PB1、PB2、HA及び/又はNS1の内の1つ以上における特定の位置において選択されたアミノ酸残基の内の2つ以上を有する組換えインフルエンザウイルスである。一実施形態において、組換え再集合体インフルエンザウイルスは、PAにおける443位にリジン若しくはヒスチジン、PB1における737位にヒスチジン若しくはアルギニン、PB2における25位にロイシン、イソロイシン、スレオニン、アラニン若しくはグリシン、及び/又はPB2における712位にアスパラギン酸、ヒスチジン、アルギニン、リジン若しくはアスパラギン;HAにおける380位にロイシン、アラニン、バリン、イソロイシン若しくはグリシン、又はNS1における167位にセリン、システイン、メチオニン、アラニン、バリン、グリシン、イソロイシン若しくはロイシンを有する。
【0015】
異種遺伝子配列を有する追加のウイルスセグメントを有する本開示の組換えインフルエンザウイルス(「9セグメント」ウイルス)について、前記ウイルスは、安定性及び/又は複製を増強したが、インフルエンザウイルスタンパク質における安定化突然変異の内の1つ以上を有する組換えウイルス内に含まれるためのウイルスセグメントを選択することによって調製されてもよい。例えば、スレオニンではない380位における残基を有するHAをコードするHAウイルスセグメントが選択されてもよく、アルギニンではない443位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメントが選択されてもよく、リジンではない737位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメントが選択されてもよく、バリンではない25位における残基又はグルタミン酸ではない712位における残基を有するPB2をコードするPB2ウイルスセグメントが選択されてもよく、プロリンではない167位における残基を有するNS1を封入するNSウイルスセグメントが選択されてもよく、又はそれらの任意の組み合わせであってもよい。前記追加のウイルスセグメントは、天然由来のウイルスセグメントのいずれかから誘導されてもよい。一実施形態において、PAにおける443位の残基は、K又はHである。一実施形態において、PB1における737位の残基は、H又はRである。一実施形態において、PB2における25位の残基は、A、L、T、I又はGである。一実施形態において、PAにおける180位の残基は、R、K又はHである。一実施形態において、PAにおける200位の残基は、A、G、I、L又はVである。一実施形態において、PB1における149位の残基は、A、T、G、I又はLである。一実施形態において、PB1における684位の残基は、D又はNである。一実施形態において、PB1における685位の残基は、E又はQである。一実施形態において、PB2における540位の残基は、K、R又はHである。一実施形態において、PB2における712位の残基は、Dである。一実施形態において、NS1における167位の残基は、C、M、A、L、I、G又はTである。異種遺伝子配列は、その異種遺伝子配列を有するウイルスセグメントが、長さが最高で4kb、4.2kb、4.5kb、4.7kb、5kb、5.2kb、5.5kb、5.7kb又は6kbである長さを有するようになる長さのものであってもよい。一実施形態において、追加のウイルスセグメントにおける異種遺伝子は、インフルエンザウイルスタンパク質コード配列を置換する(例えば、ウイルスセグメントの一方の端又は両端における非コード配列におけるキャプシド形成配列に結合するコード配列においてキャプシド形成(組み込み)配列が欠失することなくインフルエンザウイルスコード配列の欠失がある)。一実施形態において、追加のウイルスセグメントにおける異種遺伝子配列には、ゲノム指向性がある。一実施形態において、追加のウイルスセグメントにおける異種遺伝子配列は、N末端インフルエンザウイルスタンパク質コード配列にインフレームで融合する。一実施形態において、追加のウイルスセグメントにおける異種遺伝子配列は、C末端インフルエンザウイルスタンパク質コード配列にインフレームで融合する。異種遺伝子は、RNA、例えばマイクロRNA、又はタンパク質、例えば予防的若しくは治療的である遺伝子産物をコードしてもよい。一実施形態において、遺伝子産物は、異なるインフルエンザウイルス分離株に由来する抗原、又は細菌、インフルエンザウイルス以外のウイルス、寄生生物若しくは真菌に由来する抗原である。
【0016】
安定性及び/又は複製が増強された8つのウイルスセグメントの内の1つにおいて異種遺伝子配列を有する本開示の組換えインフルエンザウイルス(「8セグメント」ウイルス)は、インフルエンザウイルスタンパク質における安定化突然変異の内の1つ以上を有する組換えウイルス内に含まれるためのウイルスセグメントを選択することによって調製されてもよい。例えば、スレオニンではない380位における残基を有するHAをコードするHAウイルスセグメントが選択されてもよく、アルギニンではない443位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメントが選択されてもよく、リジンではない737位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメントが選択されてもよく、バリンではない25位における残基又はグルタミン酸ではない712位における残基を有するPB2をコードするPB2ウイルスセグメントが選択されてもよく、プロリンではない167位における残基を有するNS1を封入するNSウイルスセグメントが選択されてもよく、又はそれらの任意の組み合わせであってもよい。一実施形態において、PAにおける443位の残基は、K又はHである。一実施形態において、PB1における737位の残基は、H又はRである。一実施形態において、PB2における25位の残基は、A、L、T、I又はGである。一実施形態において、PB2における712位の残基は、Dである。一実施形態において、PAにおける180位の残基は、R、K又はHである。一実施形態において、PAにおける200位の残基は、A、G、I、L又はVである。一実施形態において、PB1における149位の残基は、A、T、G、I又はLである。一実施形態において、PB1における684位の残基は、D又はNである。一実施形態において、PB1における685位の残基は、E又はQである。一実施形態において、PB2における540位の残基は、K、R又はHである。一実施形態において、NS1における167位の残基は、C、M、A、L、I、G又はTである。
【0017】
ウイルスセグメントも欠くインフルエンザウイルスウイルスセグメントの内の1つにおいて異種遺伝子配列を有する本開示の組換えインフルエンザウイルス(「7セグメント」ウイルス)について、前記ウイルスは、安定性及び/又は複製を増強したが、インフルエンザウイルスタンパク質における安定化突然変異の内の1つ以上を有する組換えウイルス内に含まれるためのウイルスセグメントを選択することによって調製されてもよい。例えば、スレオニンではない380位における残基を有するHAをコードするHAウイルスセグメントが選択されてもよく、アルギニンではない443位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメントが選択されてもよく、リジンではない737位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメントが選択されてもよく、バリンではない25位における残基又はグルタミン酸ではない712位における残基を有するPB2をコードするPB2ウイルスセグメントが選択されてもよく、プロリンではない167位における残基を有するNS1を封入するNSウイルスセグメントが選択されてもよく、又はそれらの任意の組み合わせであってもよい。除かれるウイルスセグメントは、天然由来のウイルスセグメントのいずれか1つでもあってもよく、場合によりコードされたタンパク質は、トランスで提供される。一実施形態において、7セグメントウイルスはPAウイルスセグメントを含むか、又はPAタンパク質はトランスで提供され、PAにおける443位の残基は、K又はHである。一実施形態において、7セグメントウイルスはPB1ウイルスセグメントを含むか、又はPB1タンパク質はトランスで提供され、PB1における737位の残基は、H又はRである。一実施形態において、7セグメントウイルスはPB2ウイルスセグメントを含むか、又はPB2タンパク質はトランスで提供され、PB2における25位の残基は、A、L、T、I又はGである。一実施形態において、7セグメントウイルスはPB2ウイルスセグメントを含むか、又はPB2タンパク質はトランスで提供され、PB2における712位の残基は、Dである。一実施形態において、7セグメントウイルスはPAウイルスセグメントを含むか、又はPAタンパク質はトランスで提供され、PAにおける180位の残基は、R、K又はHである。一実施形態において、7セグメントウイルスはPAウイルスセグメントを含むか、又はPAタンパク質はトランスで提供され、PAにおける200位の残基は、A、G、I、L又はVである。一実施形態において、7セグメントウイルスはPB1ウイルスセグメントを含むか、又はPB1タンパク質はトランスで提供され、PB1における149位の残基は、A、T、G、I又はLである。一実施形態において、7セグメントウイルスはPB1ウイルスセグメントを含むか、又はPB1タンパク質はトランスで提供され、PB1における684位の残基は、D又はNである。一実施形態において、7セグメントウイルスはPB1ウイルスセグメントを含むか、又はPB1タンパク質はトランスで提供され、PB1における685位の残基は、E又はQである。一実施形態において、7セグメントウイルスはPB2ウイルスセグメントを含むか、又はPB2タンパク質はトランスで提供され、PB2における540位の残基は、K、R又はHである。一実施形態において、7セグメントウイルスはNSウイルスセグメントを含むか、又はNS1タンパク質はトランスで提供され、NS1における167位の残基は、C、M、A、L、I、G又はTである。異種遺伝子配列は、その異種遺伝子配列を有するウイルスセグメントが、長さが最高で4kb、4.2kb、4.5kb、4.7kb、5kb、5.2kb、5.5kb、5.7kb又は6kbである長さを有するようになる長さのものであってもよい。一実施形態において、異種遺伝子は、インフルエンザウイルスタンパク質コード配列を置換する(例えば、ウイルスセグメントの一方の端又は両端における非コード配列におけるキャプシド形成配列に結合するコード配列においてキャプシド形成(組み込み)配列が欠失することなくインフルエンザウイルスコード配列の欠失がある)。一実施形態において、追加のウイルスセグメントにおける異種遺伝子配列には、ゲノム指向性がある。一実施形態において、異種遺伝子配列は、N末端インフルエンザウイルスタンパク質コード配列にインフレームで融合する。一実施形態において、追加のウイルスセグメントにおける異種遺伝子配列は、C末端インフルエンザウイルスタンパク質コード配列にインフレームで融合する。異種遺伝子は、RNA、例えばマイクロRNA、又はタンパク質、例えば予防的若しくは治療的である遺伝子産物をコードしてもよい。一実施形態において、遺伝子産物は、異なるインフルエンザウイルス分離株に由来する抗原、又は細菌、インフルエンザウイルス以外のウイルス、寄生生物若しくは真菌に由来する抗原である。
【0018】
異種遺伝子配列は、任意のウイルスセグメントに挿入されてもよい。異種遺伝子配列は、その異種遺伝子配列を有するウイルスセグメントが、長さが最高で4kb、4.2kb、4.5kb、4.7kb、5kb、5.2kb、5.5kb、5.7kb又は6kbである長さを有するようになる長さのものであってもよい。一実施形態において、異種遺伝子は、ウイルスセグメントにおける内部インフルエンザウイルス配列を置換する。一実施形態において、異種遺伝子配列の挿入によって、それぞれのインフルエンザウイルス遺伝子産物の「ノックアウト」が生じる可能性があり、そのようなウイルスを調製するために、(1又は複数の)インフルエンザウイルスタンパク質がトランスで提供されてその型の突然変異を相補してもよい。一実施形態において、異種遺伝子配列は、ウイルスセグメントにおいてインフルエンザウイルスコード配列に加えたものである。一実施形態において、異種遺伝子配列は、N末端インフルエンザウイルスタンパク質コード配列にインフレームで融合する。一実施形態において、異種遺伝子は、C末端インフルエンザウイルスタンパク質コード配列にインフレームで融合する。異種遺伝子は、RNA又はタンパク質、例えば予防的又は治療的である遺伝子産物をコードしてもよい。一実施形態において、遺伝子産物は、異なるインフルエンザウイルス分離株に由来する抗原、細菌、インフルエンザウイルス以外のウイルス、寄生生物又は真菌に由来する抗原である。一実施形態において、異種遺伝子配列は、NAウイルスセグメント内にある。一実施形態において、異種遺伝子配列は、HAウイルスセグメント内にある。一実施形態において、異種遺伝子配列は、Mウイルスセグメント内にある。一実施形態において、異種遺伝子配列は、NSウイルスセグメント内にある。一実施形態において、異種遺伝子配列は、NPウイルスセグメント内にある、例えば、Liuら、2012;Wangら、2010;Arilorら、2010;Dos Santos Afonsoら、2005参照)。一実施形態において、異種遺伝子配列は、PAウイルスセグメント内にある。一実施形態において、異種遺伝子配列は、PB1ウイルスセグメント内にある。一実施形態において、異種遺伝子配列は、PB2ウイルスセグメント内にある。一実施形態において、異種遺伝子配列は、PAウイルスセグメントにおけるPAコード配列に対して5’又は3’であるか、前記PAコード配列の少なくとも一部を置換するか、又は前記PAコード配列に挿入される。一実施形態において、異種遺伝子配列は、PB1ウイルスセグメントにおけるPB1コード配列に対して5’又は3’であるか、前記PB1コード配列の少なくとも一部を置換するか、又は前記PB1コード配列に挿入される。一実施形態において、異種遺伝子配列は、PB2ウイルスセグメントにおけるPB2コード配列に対して5’又は3’であるか、前記PB2コード配列の少なくとも一部を置換するか、又は前記PB2コード配列に挿入される(例えば、Avilovら、2012参照)。一実施形態において、異種遺伝子配列は、NSウイルスセグメントにおけるNSコード配列に対して5’又は3’であるか、前記NSコード配列の少なくとも一部を置換するか、又は前記NSコード配列に挿入される(Manicassamyら、2010)。一実施形態において、異種遺伝子配列は、NSウイルスセグメントにおけるNS1コード配列に対して5’又は3’であるか、前記NS1コード配列の少なくとも一部を置換するか、又は前記NS1コード配列に挿入される。一実施形態において、異種遺伝子配列は、NSウイルスセグメントにおけるNS2コード配列に対して5’又は3’であるか、前記NS2コード配列の少なくとも一部を置換するか、又は前記NS2コード配列に挿入される。一実施形態において、異種遺伝子配列は、HAウイルスセグメントにおけるHAコード配列に対して5’又は3’であるか、前記HAコード配列の少なくとも一部を置換するか、又は前記HAコード配列に挿入される。一実施形態において、異種遺伝子配列は、NAウイルスセグメントにおけるNAコード配列に対して5’又は3’であるか、前記NAコード配列の少なくとも一部を置換するか、又は前記NAコード配列に挿入される(例えば、Perezら、2004参照)。一実施形態において、異種遺伝子配列は、MウイルスセグメントにおけるM1コード配列に対して5’又は3’であるか、前記M1コード配列の少なくとも一部を置換するか、又は前記M1コード配列に挿入される。一実施形態において、異種遺伝子配列は、MウイルスセグメントにおけるM2コード配列に対して5’又は3’であるか、前記M2コード配列の少なくとも一部を置換するか、又は前記M2コード配列に挿入される(例えば、Weiら、2011参照)。
【0019】
本開示の組換えウイルスを含むワクチン、例えば生弱毒化ワクチン、又は前記組換えウイルスが低温適応しているワクチン、開示された置換の内の1つ以上を有する1つ以上のウイルスセグメントを含む1つ以上のベクター、並びに前記組換えウイルスを作製し、使用する方法が、さらに提供される。一実施形態において、vRNA産生のためのベクターは、RNAポリメラーゼIプロモータ、RNAポリメラーゼIIプロモータ、RNAポリメラーゼIIIプロモータ、T3プロモータ又はT7プロモータなどのプロモータを含む。
【0020】
選択されたトリ宿主又は哺乳類宿主における改変された特性、例えば増強された複製又は安定性を有するインフルエンザウイルスを作製するための方法も提供される。前記方法は、個別の宿主生物におけるインフルエンザウイルスの分離株の継代を連続的に行うことと、改変された特性を有する個別のウイルスを同定し、場合により個別のウイルスを分子的に特性決定することとを含む。
【0021】
一組の組換えインフルエンザウイルスであって、前記一組の各要素が明瞭な光学的に検出可能なマーカーをコードし、例えば、オープンリーディングフレームがインフルエンザウイルスタンパク質のオープンリーディングフレームに融合するか、オープンリーディングフレームがインフルエンザA型ウイルス若しくはインフルエンザB型ウイルスに対する第9ウイルスセグメント上にあるか、又はオープンリーディングフレームがウイルスタンパク質コード領域の内の1つの少なくとも一部を置換する、一組の組換えインフルエンザウイルスがさらに提供される。例えば、前記要素の内の1つは、発光タンパク質遺伝子、例えばルシフェラーゼ遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、例えば緑色蛍光タンパク質遺伝子、黄色蛍光タンパク質遺伝子若しくは赤色蛍光タンパク質遺伝子、アエクオリン発光タンパク質遺伝子若しくはオベリン発光タンパク質遺伝子などの発光タンパク質遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(chloramphenical acetyltransferase gene)、アルカリ性ホスファターゼ遺伝子などのホスファターゼ遺伝子、ホースラディッシュペルオキシダーゼ遺伝子などのペルオキシダーゼ遺伝子、ベータ-ガラクトシダーゼ遺伝子、ベータ-ラクタマーゼ遺伝子又はベータ-グルクロニダーゼ遺伝子を含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】マウスにおけるマウス適応Venus-PR8の特性。1群当たり4匹のB6マウスにWT-PR8、WT-Venus-PR8又はMA-Venus-PR8を鼻腔内接種した。マウスの体重及び生存率を14日間モニタした。
【
図1B】マウスにおけるマウス適応Venus-PR8の特性。1群当たり4匹のB6マウスにWT-PR8、WT-Venus-PR8又はMA-Venus-PR8を鼻腔内接種した。マウスの体重及び生存率を14日間モニタした。
【
図1C】マウスにおけるマウス適応Venus-PR8の特性。1群当たり4匹のB6マウスにWT-PR8、WT-Venus-PR8又はMA-Venus-PR8を鼻腔内接種した。マウスの体重及び生存率を14日間モニタした。
【
図1D】マウスにおけるマウス適応Venus-PR8の特性。1群当たり4匹のB6マウスにWT-PR8、WT-Venus-PR8又はMA-Venus-PR8を鼻腔内接種した。マウスの体重及び生存率を14日間モニタした。
【
図1E】マウスにおけるマウス適応Venus-PR8の特性。1群当たり4匹のB6マウスにWT-PR8、WT-Venus-PR8又はMA-Venus-PR8を鼻腔内接種した。マウスの体重及び生存率を14日間モニタした。
【
図1F】マウスにおけるマウス適応Venus-PR8の特性。1群当たり4匹のB6マウスにWT-PR8、WT-Venus-PR8又はMA-Venus-PR8を鼻腔内接種した。マウスの体重及び生存率を14日間モニタした。
【
図1G】マウスにおけるマウス適応Venus-PR8の特性。10
4PFUのPR8又はMA-Venus PR8に感染させた動物(1群当たり3匹のマウス)の肺を感染後のDay3、Day5及びDay7に採取した。MDCK細胞におけるプラークアッセイを用いることによってウイルス力価を分析した。
【
図2】肺における色-インフルエンザウイルスの分布。(A)色-インフルエンザウイルス(10
5PFUのMA-eCFP、eGFP、Venus及びmCherry-PR8)による感染後のDay3及びDay5にB6マウスから肺組織を採取した。終止コドンを有さないNS1遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)を、タンパク質リンカーGSGGをコードする配列を介して蛍光レポータ遺伝子(Venus、eCFP、eGFP及びmCherry)のN末端と融合させた。蛍光遺伝子の後に、GSGリンカーをコードする配列、ブタテシオウイルス-1に由来する57個のヌクレオチドを有する口蹄病ウイルスプロテアーゼ2A自己タンパク質分解部位(autoproteolytic site)、NEPのORFが続く。加えて、NS1 ORFの内因性スプライス受容部位にサイレント突然変異を導入して、スプライシングを防止した。蛍光立体顕微鏡を用いて透明肺組織の全載標本画像を得た。(B、C)MA-eCFP、eGFP、Venus及びmCherry-PR8の混合物(1株当たり2.5×10
4PFU)をB6マウスに鼻腔内接種した。スケールバーは5mmである。(B)InFormソフトウェアを有するNuance FX多スペクトル感応性イメージングシステムを有する倒立蛍光顕微鏡を使用することによって、感染後のDay2及びDay5における肺の切片を分析した。スケールバーは100μmである。(C)(B)における示された領域の拡大画像を混合せず、自己蛍光(AF)、eCFP、eGFP、Venus及びmCherry蛍光に分離した。結合画像における矢印は、色-インフルエンザウイルスの異なる色彩変異体に感染させた細胞を示す。
【
図3A】マクロファージ浸潤の分析。PBS接種マウス(模擬)又は10
5PFUのMA-Venus-PR8に感染させたマウスから肺組織を感染後のDay2において採取し、組織を固定し、組織学的分析のために前記組織のプロセッシングを行った。切片をPE-抗-Mac3抗体でインキュベートし、マクロファージ(赤色)を検出し、ヘキスト染料(青色)で対比染色剤による着色を行って核を視覚化した。Venusタンパク質の蛍光シグナルは、緑色で示される。スケールバーは200μmを示す。
【
図3B】マクロファージ浸潤の分析。PBS接種マウス(模擬)又は10
5PFUのMA-Venus-PR8に感染させたマウスから肺組織を感染後のDay2において採取し、組織を固定し、組織学的分析のために前記組織のプロセッシングを行った。切片をPE-抗-Mac3抗体でインキュベートし、マクロファージ(赤色)を検出し、ヘキスト染料(青色)で対比染色剤による着色を行って核を視覚化した。Venusタンパク質の蛍光シグナルは、緑色で示される。スケールバーは200μmを示す。
【
図3C】マクロファージ浸潤の分析。PBS接種マウス(模擬)又は10
5PFUのMA-Venus-PR8に感染させたマウスから肺組織を感染後のDay2において採取し、組織を固定し、組織学的分析のために前記組織のプロセッシングを行った。切片をPE-抗-Mac3抗体でインキュベートし、マクロファージ(赤色)を検出し、ヘキスト染料(青色)で対比染色剤による着色を行って核を視覚化した。Venusタンパク質の蛍光シグナルは、緑色で示される。スケールバーは200μmを示す。
【
図3D】マクロファージ浸潤の分析。PBS接種マウス(模擬)又は10
5PFUのMA-Venus-PR8に感染させたマウスから肺組織を感染後のDay2において採取し、組織を固定し、組織学的分析のために前記組織のプロセッシングを行った。切片をPE-抗-Mac3抗体でインキュベートし、マクロファージ(赤色)を検出し、ヘキスト染料(青色)で対比染色剤による着色を行って核を視覚化した。Venusタンパク質の蛍光シグナルは、緑色で示される。スケールバーは200μmを示す。
【
図3E】マクロファージ浸潤の分析。ウイルス感染細胞及び肺マクロファージの間の相互作用のキネティクス。二光子顕微鏡を用いて、未処置B6マウス(左上のパネル)及び10
5PFUのMA-eGFP-PR8による感染後のDay3におけるB6マウス(右上のパネル)に由来する肺組織におけるeGFP陽性細胞(緑色)及びCD11b+マクロファージ(赤色)の画像を得た。下側のパネル(1~4)における連続的な画像は、右上のパネルにおける箱の拡大図を示す。矢印の先は、eGFP陽性細胞の小疱形成を示す。スケールバーは40μmである。
【
図3F】マクロファージ浸潤の分析。ウイルス感染細胞及び肺マクロファージの間の相互作用のキネティクス。二光子顕微鏡を用いて、未処置B6マウス(左上のパネル)及び10
5PFUのMA-eGFP-PR8による感染後のDay3におけるB6マウス(右上のパネル)に由来する肺組織におけるeGFP陽性細胞(緑色)及びCD11b+マクロファージ(赤色)の画像を得た。下側のパネル(1~4)における連続的な画像は、右上のパネルにおける箱の拡大図を示す。矢印の先は、eGFP陽性細胞の小疱形成を示す。スケールバーは40μmである。
【
図3G】マクロファージ浸潤の分析。ウイルス感染細胞及び肺マクロファージの間の相互作用のキネティクス。二光子顕微鏡を用いて、未処置B6マウス(左上のパネル)及び10
5PFUのMA-eGFP-PR8による感染後のDay3におけるB6マウス(右上のパネル)に由来する肺組織におけるeGFP陽性細胞(緑色)及びCD11b+マクロファージ(赤色)の画像を得た。下側のパネル(1~4)における連続的な画像は、右上のパネルにおける箱の拡大図を示す。矢印の先は、eGFP陽性細胞の小疱形成を示す。スケールバーは40μmである。
【
図3H】マクロファージ浸潤の分析。ウイルス感染細胞及び肺マクロファージの間の相互作用のキネティクス。二光子顕微鏡を用いて、未処置B6マウス(左上のパネル)及び10
5PFUのMA-eGFP-PR8による感染後のDay3におけるB6マウス(右上のパネル)に由来する肺組織におけるeGFP陽性細胞(緑色)及びCD11b+マクロファージ(赤色)の画像を得た。下側のパネル(1~4)における連続的な画像は、右上のパネルにおける箱の拡大図を示す。矢印の先は、eGFP陽性細胞の小疱形成を示す。スケールバーは40μmである。
【
図3I】マクロファージ浸潤の分析。インフルエンザウイルスによるマクロファージの感染。PBS接種(模擬)マウス又は10
5PFUのMA-Venus-PR8に感染させたマウスの肺から感染後のDay3において単細胞懸濁液を得て、CD45、CD11b及びF4/80に対する抗体で染色し、フローサイトメトリによって分析した。前記パネルは、F4/80発現レベル及びCD45発現レベルにおいてゲート付けされる細胞からのCD11b染色プロファイルに対するVenus発現を示す。
【
図3J】マクロファージ浸潤の分析。遺伝子発現分析。PBS接種(未処置)マウスのソートされたマクロファージから、並びに10
5PFUのMA-Venus-PR8が接種されたマウスのソートされたVenus陽性(Venus(+))マクロファージ及びVenus陰性(Venus(-))マクロファージから、感染後のDay3においてトータルRNAを分離し(1回の処置につき9匹のマウス)、マイクロアレイ分析を行った。未処置マクロファージにおける遺伝子発現レベルを感染マウスに由来するVenus(+)マクロファージにおける遺伝子発現レベルと比較することによって差次的発現(DE)転写物を同定した。同様に、未処置マクロファージ及び感染マウスから得られたVenus(-)マクロファージについて遺伝子発現レベルを比較した。階層的クラスタリングによってDE転写物を組織化し、増強された生物学的機能について各クラスタを分析した。各状態についてのクラスタ形成転写物のヒートマップが示され(色キーはパネルの最上部に示される)、異なるクラスタは、ヒートマップで左の色バーで示される。各クラスタについての強化注釈は、括弧の各注釈についての強化スコアと共に各クラスタの左側に列挙される。ヒートマップにおける青線は、Venus(+)マクロファージとVenus(-)マクロファージとを比較した場合におけるDE転写物の変化倍数を示す。左への青線のシフトは、Venus(+)マクロファージにおいてDE転写物がより高く発現していることを示し、右へのシフトは、Venus(-)マクロファージにおいてDE転写物がより高く発現していることを示す。
【
図3K】マクロファージ浸潤の分析。このパネルは、Venus(+)マクロファージ及びVenus(-)マクロファージの間におけるI型インターフェロン(IFN)の発現レベルを比較するヒートマップを示す。色キーは、パネルの最下部に示される。NSは、感染動物に由来するVenus(-)細胞と感染させていない動物に由来する未処置マクロファージとの間における統計学的に有意でなかった比較を示す。
【
図4】MA-Venus-HPAIウイルスの特性決定。(A)1群当たり4匹のB6マウスにMA-Venus-HPAIウイルスを鼻腔内接種した。マウスの体重及び生存率を14日間モニタした。(B)10
5PFUのMA-Venus-HPAIウイルスによる感染後のDay3においてB6マウスから肺、脾臓、腎臓及び脳を採取した。MDCK細胞におけるプラークアッセイを用いることによって組織ホモジェネートのウイルス力価を決定した。各データポイントは、平均±標準偏差を表す(n=3)。(C、D)10
5PFUのMA-Venus-HPAIウイルス及びPR8による感染後のDay1及びDay2においてB6マウスから肺組織を採取した。二光子顕微鏡によって透明肺組織の画像(気管支(赤色);肺胞(緑色))を得た。各データポイントは、平均±標準偏差を表す(n=3)。統計的有意性は、スチューデントのt検定を用いて算出された。(D)透明肺組織の3D画像を用いてVenus陽性気管支及び肺胞領域の容積分析によってVenus陽性細胞の分布を評価した。(E)10
5PFUのMA-Venus-PR8又はMA-Venus-HPAIウイルスによる感染後のDay1、Day2、Day3及びDay4において細胞をB6マウスの肺から回収し、CD45、CD11b及びF4/80について染色した。CD45陰性細胞におけるVenus発現、及びCD45陽性細胞においてゲート付けされるVenus対F4/80染色プロファイルをフローサイトメトリによって分析した。感染後のDay2における代表的データプロットフォームをVenus陽性細胞の割合と共に示す。
【
図6】マウスにおけるWT-Venus-H5N1ウイルス及びRG-MAウイルスの毒性。10
1~10
5PFUの用量でWT-Venus-H5N1ウイルス又は10
0~10
5PFUの用量でRG-MAウイルスを4匹のマウスの群に鼻腔内感染させ、それらの体重変化(A-C)及び生存率(B-D)を2週間モニタした。
【
図7】MDCK細胞における各種H5N1ウイルスのVenus発現。MDCK細胞にVenus-H5N1関連ウイルスを感染させ、24hpiにおいて蛍光顕微鏡検査法(Axio Observer.Z1、Zeiss)を用いることによって各ウイルスプラークのVenus発現を観察した。各ウイルスの代表的画像が示される。
【
図8】マウス肺における各種H5N1ウイルスのVenus発現。3匹のマウスの群に10
5PFU(50μL)のウイルスを鼻腔内感染させた。感染後のDay2に前記マウスを安楽死させ、それらの肺を回収し、4%PFA中に固定し、次いでO.C.T Compound内に包埋した。凍結組織を5μmスライスに切断し、次いでヘキスト33342で染色した。Nikon共焦点顕微鏡システムA1
+を用いることによってVenus信号を検出した。青色は、ヘキスト33342によって染色された核を表し、緑色は、Venus発現を表す。
【
図9】マウスにおけるVenus-H5N1関連再集合体の遺伝子型及びそれらの毒性。色は、ウイルスセグメントの起源を示す(青色:WT-Venus-H5N1ウイルス;赤色:MA-Venus-H5N1ウイルス)。MLD
50値を、50μLの体積中に10
0~10
5PFUのウイルスを含む10倍の系列希釈物を4匹のマウスの群に接種することによって決定し、Reed及びMuench(30)の方法を用いることによって算出した。
【
図10】MDCK細胞における再集合体の成長キネティクス。MDCK細胞に0.0001のMOIでウイルスを感染させ、示された時間において培養上清を回収し、次いでMDCK細胞において滴定した。報告された値は、2つの独立した実験からの平均±標準偏差(SD)である。**、WT-Venus-H5N1ウイルス感染細胞と比較したP<0.01。
【
図11】WT-Venus-H5N1ウイルス及びMA-Venus-H5N1ウイルスから誘導される異なるRNPの組み合わせのポリメラーゼ活性。WT-Venus-H5N1ウイルス又はMA-Venus-H5N1ウイルスのいずれかに由来するPB1、PB2、PA及びNPを発現するプラスミドと共にルシフェラーゼレポータプラスミド及び内部対照プラスミドを有する三つ組で293個の細胞をトランスフェクトした。WT-Venus-H5N1ウイルスから誘導されるセグメントは白色で示されるが、MA-Venus-H5N1ウイルスから誘導されるセグメントは緑色で示される。細胞を37℃で24時間インキュベートし、細胞溶解物を分析してホタルルシフェラーゼ活性及びウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定した。示された値は、3つの独立した実験の平均±SDであり、WT-Venus-H5N1の活性(100%)に標準化される。*、WT-Venus-H5N1ウイルスと比較したP<0.05。**、WT-Venus-H5N1ウイルスと比較したP<0.01。
【
図12A】Venus-H5N1関連再集合体のVenus-NSセグメント及び欠失NSセグメント。MDCK細胞においてウイルスの継代を5回行い、QIAamp(登録商標)Viral RNA Mini Kit(QIAGEN)を用いることによって5回目の継代に由来するvRNAを抽出した。次いで、NS特異的プライマーによるPCRを用いることによってそれぞれのNSセグメントを増幅し、アガロースゲル上を泳動させた。レーン1、WT+MA-NS;レーン2、WT+MA-M;レーン3、WT+MA-NA;レーン4、WT+MA-PA;レーン5、WT+MA-PB1;レーン6、WT+MA-PB2;レーン7、WT+MA-(PB2+PA);レーン8、WT-Venus-H5N1;レーン9、RG-MA;レーン10、PR8;レーン11、1-kb DNAマーカー。
【
図13】マウス肺におけるVenus再集合体の高発現。
【
図14】MDCK細胞における突然変異体ウイルスの成長能力の比較。NS1-Venus PR8 MAウイルスにおいて認められるアミノ酸置換を有するPR8ウイルス、NS1-Venus PR8 WTウイルス、NS1-Venus PR8 MAウイルス及び突然変異体NS1-Venus PR8ウイルスをMDCK細胞に0.001のMOIで感染させた。プラークアッセイによってウイルス力価を12時間毎に決定した。結果は、平均力価(log
10[PFU/mL])±標準偏差として表される。
【
図15】Venusを担持するウイルスに感染させたマウスについての体重変化及び生存率。1群当たり4匹のマウスに10
3PFU、10
4PFU及び10
5PFUの各NS1-Venus PR8ウイルスを鼻腔内感染させた。体重を測定し、生存率を感染後14日間モニタした。
【
図16A】マウス肺におけるウイルス力価。1群当たり9匹のマウスに10
3PFUのPR8を鼻腔内感染させた。1群当たり3匹のマウスを感染後のDay3、Day5及びDay7に安楽死させ、それらの肺を回収してウイルス力価を決定した。ウイルス力価は、プラークアッセイによって決定された。結果は、力価(log
10PFU/g)±標準偏差の平均として表される。テューキー・クレーマー法を用いることによって統計的有意性を算出した。アスタリスクは、PR8ウイルス又はNS1-Venus WTウイルスを感染させたマウスから得られた力価との有意差を示す(P<0.05)。ND:検出せず(検出限界、5PFU/肺)。
【
図16B】マウス肺におけるウイルス力価。1群当たり9匹のマウスにそれぞれのNS1-Venus PR8ウイルスを鼻腔内感染させた。1群当たり3匹のマウスを感染後のDay3、Day5及びDay7に安楽死させ、それらの肺を回収してウイルス力価を決定した。ウイルス力価は、プラークアッセイによって決定された。結果は、力価(log
10PFU/g)±標準偏差の平均として表される。テューキー・クレーマー法を用いることによって統計的有意性を算出した。アスタリスクは、PR8ウイルス又はNS1-Venus WTウイルスを感染させたマウスから得られた力価との有意差を示す(P<0.05)。ND:検出せず(検出限界、5PFU/肺)。
【
図17】インビトロ及びインビボにおけるNS1-Venus PR8 MAウイルスによるVenus発現の安定性。MDCK細胞及びマウス肺においてVenus発現の陽性率を検討した。左側のパネル:MDCK細胞にNS1-Venus PR8 MAウイルスを0.001のMOIで感染させ、24時間毎に上清を回収した。Venusを発現したプラークの数をプラークの総数で割ることによってVenus発現の陽性率を推定した。中央のパネル:MDCK細胞においてNS1-Venus PR8 MAウイルスの継代を連続的に5回行い、Venus発現の陽性率を推定した。右側のパネル:9匹のマウスに10
3PFUのNS1-Venus PR8 MAウイルスを感染させた。各時点で3匹のマウスを安楽死させ、肺ホモジェネートを用いてプラークアッセイを行った。Venus発現の陽性率を上記のように推定した。
【
図18A】各NS1-Venus PR8ウイルスを感染させた細胞におけるVenus発現の比較。各NS1-Venus PR8ウイルスを感染させた細胞におけるVenusタンパク質発現をウエスタンブロット法によって検出した。MDCK細胞に1のMOIで各ウイルスを感染させた。感染の12時間後にウイルス感染細胞を溶解させ、ウエスタンブロット法を行った。抗GFP抗体を用いてVenusタンパク質を検出し、対照としてM1タンパク質を検出した。約27kDaにおいて認められるバンドをM1パネルに示した。2つの独立した実験の代表的結果を示す。
【
図18B】各NS1-Venus PR8ウイルスを感染させた細胞におけるVenus発現の比較。各NS1-Venus PR8ウイルスを感染させた細胞におけるVenusタンパク質発現をウエスタンブロット法によって検出した。MDCK細胞に1のMOIで各ウイルスを感染させた。感染の12時間後にウイルス感染細胞を溶解させ、ウエスタンブロット法を行った。抗GFP抗体を用いてVenusタンパク質を検出し、対照としてM1タンパク質を検出した。約27kDaにおいて認められるバンドをM1パネルに示した。2つの独立した実験の代表的結果を示す。
【
図18C】各NS1-Venus PR8ウイルスを感染させた細胞におけるVenus発現の比較。共焦点顕微鏡法を用いることによるVenus発現の観測。MDCK細胞に1のMOIで各ウイルスを感染させた。感染の12時間後、細胞を固定し、Venus発現を観察した。2つの独立した実験の代表的結果を示す。示されたウイルスを用いてMDCK細胞に感染させ(1のMOI)、12時間後に共焦点顕微鏡法を行った。
【
図18D】各NS1-Venus PR8ウイルスを感染させた細胞におけるVenus発現の比較。共焦点顕微鏡法を用いることによるVenus発現の観測。MDCK細胞に1のMOIで各ウイルスを感染させた。感染の12時間後、細胞を固定し、Venus発現を観察した。2つの独立した実験の代表的結果を示す。示されたウイルスを用いてMDCK細胞に感染させ(1のMOI)、12時間後に共焦点顕微鏡法を行った。
【
図18E】各NS1-Venus PR8ウイルスを感染させた細胞におけるVenus発現の比較。共焦点顕微鏡法を用いることによるVenus発現の観測。MDCK細胞に1のMOIで各ウイルスを感染させた。感染の12時間後、細胞を固定し、Venus発現を観察した。2つの独立した実験の代表的結果を示す。示されたウイルスを用いてMDCK細胞に感染させ(1のMOI)、12時間後に共焦点顕微鏡法を行った。
【
図18F】各NS1-Venus PR8ウイルスを感染させた細胞におけるVenus発現の比較。共焦点顕微鏡法を用いることによるVenus発現の観測。MDCK細胞に1のMOIで各ウイルスを感染させた。感染の12時間後、細胞を固定し、Venus発現を観察した。2つの独立した実験の代表的結果を示す。示されたウイルスを用いてMDCK細胞に感染させ(1のMOI)、12時間後に共焦点顕微鏡法を行った。
【
図18G】各NS1-Venus PR8ウイルスを感染させた細胞におけるVenus発現の比較。vRNAコードホタルルシフェラーゼを発現するプラスミドと共に、NP、PA、PB1及びPB2又はPB-2-E712Dについてのウイルスタンパク質発現プラスミドをHEK293細胞に感染させた。
【
図19】低pH緩衝剤に対する曝露後に野生型PR8又はHA-T380A突然変異を有するPR8を感染させたHEK293細胞による多核細胞形成。5.5~5.9のpH範囲で膜融合についての閾値を検討した。HEK293細胞にPR8又はHA-T380A置換を有するPR8を感染させた。感染の18時間後、細胞表面上のHAをTPCK-トリプシンで消化し、示されたpH緩衝剤に対する曝露を行った。メタノールによる固定後、ギムザ溶液で前記細胞を染色した。代表的写真を示す。
【
図20】透明肺におけるVenus発現細胞の時間経過観察。全肺葉におけるVenus発現細胞を観察した。1群当たりの3匹のマウスにNS1-Venus PR8 MA(A~F)ウイルス、NS1-Venus PR8 WT(G、H)ウイルス又はPR8(I、J)ウイルスを鼻腔内感染させ、示された日に肺を回収した。模擬処置肺を陰性対照(K、L)とした。より深くVenus発現細胞を撮像するために、試料を透明にするSCALEVIEW A2で肺試料を処置し、各葉に分離し、立体蛍光顕微鏡を用いることによって観察した。全肺葉(無処置)を撮像した後、試料を切開して気管支を曝露した(切断)。PR8ウイルス又はNS1-Venus PR8 WTウイルスに感染させたマウスに由来する試料を感染後Day3に調製して、感染中にVenus信号が最も明るかったNS1-Venus PR8 MAウイルス感染肺と比較した。代表的画像を示す。
【
図21】肺におけるCC10
+細胞及びSP-C
+細胞におけるVenus発現の分析。NS1-Venus PR8 MAウイルスに感染させたマウスに由来する肺切片を肺における上皮細胞に対して特異的ないくつかの抗体で染色した。10
4PFUのNS1-Venus PR8 MAウイルスをマウスに感染させ、感染の3日後及び5日後に肺を回収した。(A)NS1-Venus PR8 MAウイルスを感染させたマウスの肺切片を感染の3日後に調製し、抗CC10ポリクローナル抗体(赤色)で染色した。スケールバー:100μm。(B)NS1-Venus PR8 MAウイルスに感染させたマウスの肺切片を感染の5日後に調製し、抗SP-Cポリクローナル抗体(シアン色)及び抗ポドプラニン(Pdpn)ポリクローナル抗体(赤色)で染色した。肺胞部位におけるVenus陽性細胞は、SP-C陽性細胞(白色の矢印の先)及びポドプラニン陽性細胞(白色の矢印)を含んだ。スケールバー:50μm。
【
図22】特異的細胞型の肺におけるVenus陽性細胞のフローサイトメトリ分析。示された細胞型におけるVenus陽性細胞を、フローサイトメトリを用いることによって分析した。10
5PFUのPR8ウイルス又はNS1-Venus PR8 MAウイルスをマウスに感染させ、感染後3日後及び5日後に肺を回収した。単細胞懸濁液を抗体で染色した。(A)PBSが接種されたマウスの肺に由来するCD45
+生細胞についての代表的ドットプロットを示す。(B、C)示された時点における各特異的細胞種の総数を示す。結果は、肺1つ当たりの平均細胞数±標準偏差として表される。単球及び肺胞マクロファージについて、CD45
+及びバイア-プローブ
-細胞を分析した。(D、E)示された時点におけるA及びBにおいて規定された細胞におけるVenus陽性細胞の数を示す。結果は、平均細胞数±標準偏差として表される。AM:肺胞マクロファージ。
【
図23】F4/80
+集団におけるVenus陽性細胞及びVenus陰性細胞を回収するための選別戦略。10
5PFUのNS1-Venus PR8 MAウイルスをマウスに感染させ、感染の3日後に肺を回収した。単細胞懸濁液を一組の抗体で染色した。PBSを接種したマウスに由来する肺を同様に染色して肺胞マクロファージの自己蛍光を確認した。(A)CD45
+、バイア-プローブ-F4/80
+細胞の集団におけるVenus陽性細胞及びVenus陰性細胞を回収するためのゲーティング戦略を示す代表的ドットプロット。Venus陽性ゲートは、肺胞マクロファージを含まないことを示した。(B)NS1-Venus PR8 MAウイルスに感染させたマウスの肺から回収されたVenus陽性細胞及びVenus陰性細胞を、免疫蛍光アッセイを用いることによって観察した。
【
図24】Venus陽性F4/80
+細胞及びVenus陰性F4/80
+細胞の間で差次的に発現した遺伝子。10
5PFUのNS1-Venus PR8 MAウイルスをマウスに感染させ、感染の3日後に肺を回収した。
図10に記載されているものと同じ方法で単細胞懸濁液を染色した。Venus陽性細胞及びVenus陰性細胞を、FACSAria IIを用いることによって別々に採取し、マイクロアレイ分析に供した。PBSを接種したマウスの肺から分離されたF4/80
+細胞を対照として用いた。(A)スチューデントのt検定(P<0.05)によって、且つ、PBS群のレベルから発現が少なくとも2.0倍変化した遺伝子からVenus陽性群及びVenus陰性群の間で発現が少なくとも4.0倍変化した遺伝子を選別することによって、合計633個の遺伝子を選択した。(B)これらの選択された遺伝子を、Gene Ontology(GO)組分けを用いることによって機能的に注釈をつけた。統計的有意性は、フィッシャーの正確検定(P<0.01)を用いることによって決定された。(C)Venus陽性F4/80
+細胞及びVenus陰性F4/80
+細胞の間で有意に差次的に発現した遺伝子によって強化される「サイトカイン活性」において注釈をつけた遺伝子の階層的分析。(D)Venus陽性F4/80
+細胞及びVenus陰性F4/80
+細胞の間で有意に差次的に発現した遺伝子によって強化される「創傷に対する応答」において注釈をつけた遺伝子の階層的分析。
【
図25】PR8HG、及びPR8のCambridge株についての例示的な親配列(配列番号1~19)。
【
図26】異種タンパク質を含む融合タンパク質の概略図。
【
図27】複合体の構造上にマッピングされた異種遺伝子産物を安定化するポリメラーゼ複合体タンパク質における突然変異の概略図(PDB ID:4WSB)。
【
図28】A)WT-Venus-PR8に含まれる8つのウイルスRNAセグメントの概略的構造。2A:プロテアーゼ2A自己タンパク質分解部位。(B)MDCK細胞において各ウイルスの継代を行った。蛍光顕微鏡検査を用いることによって、異なる継代に由来するウイルスストックにおけるVenus発現プラークの割合をMDCK細胞において決定した。(C)MDCK細胞におけるプラークアッセイを用いることによって、異なる継代に由来するウイルスストックを滴定した。
【
図29】突然変異率に対するPB2-E712Dの効果。(A)MDCK細胞において各ウイルスの継代を5回行い、継代の間に各セグメントに導入される突然変異を計数した。(B)各セグメントにおけるヌクレオチド1つ当たりの突然変異の数を算出し、全ての8つのセグメントについての平均値を示す。
【
図30】感染細胞におけるRNA及びタンパク質発現。(A~C)MDCK細胞に1のMOIで各ウイルスを感染させた。IFN-βmRNA(A)、NS vRNA(B)及びNP vRNA(C)の相対発現レベルを感染の9時間後における定量的リアルタイムPCRによって決定した。(D)NS vRNA/NP vRNA比を算出した。(E)MDCK細胞に1のMOIでWT-Venus-PR8(WT)又はVenus-PR8-PB2-E712D(712)を感染させた。示された時点において細胞を溶解し、ウエスタンブロット法によってNS1、NP及びβ-アクチンの発現を検出した。(F)ウエスタンブロット法のバンド強度に基づいてNS1/NP比を決定した。Venus-PR8-PB2-E712D-感染細胞における各値を1とする3回の実験の平均±標準偏差をパネルA、B、C、D及びFに示す。**、P<0.01;ns、有意でない(スチューデントt検定);hpi、感染後時間。
【
図31】WT-Venus-PR8におけるNSセグメントで内部欠失が生じた。(A)MDCK細胞における連続的継代後のVenus発現を喪失したWT-Venus-PR8ウイルスにおけるNSセグメントの概略配列。選択された例を示す。(B)同時感染実験についての手法を示す。WT-Venus-PR8のNSセグメントの3’領域又は5’領域に同義突然変異を導入した。次いで前記ウイルスを用いてMDCK細胞を同時感染させた。Venusを発現していないウイルスは、精製されたプラークであり、それらのNSセグメントの配列を分析した。(C)同時感染実験の後に得られたVenus陰性ウイルスのNSセグメントの配列の例。赤色の「X」は、導入された同義突然変異を示す。
【
図32】NSセグメントに挿入されるVenus遺伝子を安定化する付加的な突然変異。(A)同定されたアミノ酸突然変異をインフルエンザポリメラーゼ複合体上にマッピングした(PDB ID 4WSB)。(B)ポリメラーゼ内部トンネル(黄色のチューブとして示される)。vRNAプロモータ(vRNA promotewr)はポリメラーゼに結合し、鋳型vRNAはポリメラーゼ複合体に入る。鋳型vRNAは、RNA合成が生じる活性部位を通過し、次いで鋳型出口を通って出ていく。前記活性部位で合成されたRNA産物は、産物出口を通って出ていく。(C)MDCK細胞において各突然変異体Venus-PR8ウイルスの継代を4回行い、継代を行った後のVenus発現プラークの割合を、蛍光顕微鏡検査を用いることによってMDCK細胞において決定した。(D)Venus-PR8におけるVenus遺伝子を安定化させる突然変異を含むインフルエンザA型ウイルス株の割合(すなわち、示されたアミノ酸を含む株の数/Influenza Research Databaseにおいて入手可能な株の総数)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
本明細書において用いられる場合、「分離された」という用語は、本開示の核酸分子(nucleic acid wmolecule)、例えばベクター若しくはプラスミド、ペプチド若しくはポリペプチド(タンパク質)又はウイルスの、それがインビボにおける物質と関連しないか、又はインビトロにおける物質から実質的に精製されるようなインビトロにおける調製及び/又は分離を指す。分離されたウイルス調製物は、インビトロにおける培養及び増殖によって、及び/又は卵における継代を介して、概して得られ、他の感染因子を実質的に含まない。
【0024】
本明細書において用いられる場合、「実質的に精製される」は、目的の種が、主要な種であって、例えば、モル基準で、組成物中において他のいずれの個別の種よりも豊富であり、例えば、存在する種の少なくとも約80%であり、場合により、前記組成物中に存在する種の90%以上、例えば95%、98%、99%以上であることを意味する。
【0025】
本明細書において用いられる場合、「実質的に含まない」は、特定の感染因子についての標準的検出方法を用いた前記因子についての検出のレベル未満であることを意味する。
【0026】
「組換え」ウイルスは、ウイルスゲノムに変更を導入するために、例えば組換えDNA技術を用いてインビトロで操作されたものである。再集合体ウイルスは、組換え技術又は非組換え技術によって調製され得る。
【0027】
本明細書において、「組換え核酸」又は「組換えDNA配列又はセグメント」という用語は、核酸、例えば、源から誘導されたか、又は分離され、続いてインビトロにおいて化学的に改変されてもよく、その結果、その配列が天然由来のではないか、又は天然ゲノムにおいて位置する場合に位置しない天然由来の配列に対応する、DNAを指す。源から「誘導される」DNAの例は、有用な断片として同定され、次いで、実質的に純粋な形態で化学的に合成されるDNA配列である。源から「分離される」そのようなDNAの例は、化学的手段によって、例えば制限エンドヌクレアーゼを用いることによって、前記源から切除されるか、又は除去される有用なDNA配列であって、その結果、遺伝子工学の方法によって、本発明における使用のために、さらに操作することができる、例えば増幅することができる有用なDNA配列である。
【0028】
本明細書において用いられる場合、「異種」インフルエンザウイルス遺伝子又はウイルスセグメントは、組換え(例えば再集合体)インフルエンザウイルスにおける他のインフルエンザウイルス遺伝子又はウイルスセグメントの大部分とは異なるインフルエンザウイルス源に由来する。
【0029】
「分離されたポリペプチド」、「分離されたペプチド」又は「分離されたタンパク質」という用語には、合成起源又はそれらのいくつかの組み合わせを含むcDNA又は組換えRNAによってコードされるポリペプチド、ペプチド又はタンパク質が含まれる。
【0030】
本明細書において用いられる通りの「組換えタンパク質」又は「組換えポリペプチド」という用語は、組換えDNA分子から発現させたタンパク質分子を指す。対照的に、「未変性タンパク質」という用語は、天然由来(すなわち、非組換え)源から分離されたタンパク質を示すために本明細書において用いられる。未変性形態のタンパク質と比較して同じ特性を有する組換え形態のタンパク質を産生するために分子生物学的技術を用いてもよい。
【0031】
比較のための配列の配置方法は、本技術分野でよく知られている。したがって、任意の2つの配列間のパーセント同一性の決定は、数学的アルゴリズムを用いて達成され得る。
【0032】
これらの数学的アルゴリズムのコンピュータによる実現を配列の比較のために利用して、配列同一性を決定することができる。これらのプログラムを用いたアラインメントは、デフォルトパラメータを用いて実施され得る。BLAST分析を行うためのソフトウェアは、全米バイオテクノロジー情報センター(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)により一般公開されている。アルゴリズムは、まず、データベース配列における同一の長さの語によってアラインメントされる場合に何らかの正の値の閾値スコアTに適合するか又は前記閾値スコアTを満たす問い合わせ配列における長さWのショートワードを同定することによって高スコアリング配列対(HSP)を同定することを含んでもよい。Tは、近傍語スコア閾値と称される。これらの初期近傍語ヒットは、検索を開始するための種として作用して、それらを含むより長いHSPが見出される。次いで、累積的なアラインメントスコアが増加し得る限り、語ヒットは各々の配列に沿った両方向に延長される。累積スコアは、ヌクレオチド配列についてパラメータM(一対の適合残基についての報酬スコア;常に>0)及びN(不適合残基についてのペナルティースコア;常に<0)を用いて算出される。アミノ酸配列について、累積スコアを算出するためにスコアリングマトリックスが用いられる。各方向における語ヒットの延長は、累積的アラインメントスコアがその最大達成値から量Xだけ減少する場合に停止するか、累積スコアは、1以上の負スコアリング残基アラインメントの蓄積のためにゼロ以下になるか、又はいずれかの配列の端に達する。
【0033】
パーセント配列同一性を算出することに加えて、BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性の統計分析を行ってもよい。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの測度は、2つのヌクレオチド又はアミノ酸配列の間の適合が偶然に起こる確率の指標を提供する最小合計確率(P(N))であってもよい。例えば、参照核酸配列に対する試験核酸配列の比較における最小合計確率が約0.1未満、約0.01未満又は約0.001未満である場合、試験核酸配列は参照配列と同様であると考えられる。
【0034】
(ヌクレオチド配列のための)BLASTNプログラムは、デフォルトとして、11の語長(W)、10の期待値(E)、100のカットオフ、M=5、N=4、及び両ストランドの比較を用いてもよい。アミノ酸配列について、BLASTPプログラムは、デフォルトとして、3の語長(W)、10の期待値(E)、及びBLOSUM62スコアリングマトリックスを用いてもよい。http://www.ncbi.n1m.nih.gov.を参照のこと。アラインメントは、検査によって手作業で行われてもよい。
【0035】
配列比較について、典型的には、1つの配列は、試験配列と比較される参照配列としての役割を果たす。配列比較アルゴリズムを用いる場合、試験配列及び参照配列がコンピュータに入力され、必要に応じて部分配列座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。次いで、配列比較アルゴリズムは、指定されたプログラムパラメータに基づいて、参照配列に対する(1又は複数の)試験配列についてのパーセント配列同一性を算出する。
【0036】
「保存的」アミノ酸置換は、同様の側鎖を有する残基の可換性を指す。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の群は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンであり、脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸の群は、セリン及びスレオニンであり、アミド含有側鎖を有するアミノ酸の群は、アスパラギン及びグルタミンであり、芳香族側鎖を有するアミノ酸の群は、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンであり、塩基性側鎖を有するアミノ酸の群は、リジン、アルギニン及びヒスチジンであり、硫黄含有側鎖を有するアミノ酸の群は、システイン及びメチオニンである。一実施形態において、保存的アミノ酸置換群は、スレオニン-バリン-ロイシン-イソロイシン-アラニン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸及びアスパラギン-グルタミンである。
【0037】
キャプシド形成配列
組換えインフルエンザウイルスへの異種遺伝子配列の組み込みのためのウイルスセグメントは、各端部においてビリオン内へのキャプシド形成(組み込み又はパッケージング)を提供する非コード配列を含む。ウイルスセグメントは、キャプシド形成に寄与する、例えば、隣接するコード配列を欠くウイルスセグメントと比較してキャプシド形成を増強するが異種遺伝子配列を有する一方又は両方の端部から隣接するコード配列も含む。したがって、異種遺伝子配列を有するウイルスセグメントを有するベクターは、隣接する5’コード配列を含んでもよいvRNAの3’末端において、3’コード配列を含んでもよいvRNAの5’末端において、又は隣接する5’コード配列を含んでもよいvRNAの3’末端において、及び3’コード配列を含んでもよいvRNAの5’末端において、キャプシド形成配列を含む。例えば、HAキャプシド形成配列は、33-ntの非コード配列及び少なくとも3、6、9又は15若しくは最高で約216ntのHAコード配列を含むHA vRNAの3’末端において、並びに/又は、約45ntの非コード配列及び最高で約75、80、268若しくは291のHAコード配列を含むHA vRNAの5’末端において、配列を含む(Watanabeら、2003)。HSキャプシド形成配列は、少なくとも30、60、90又は150ntのコード配列を含むNS vRNAの3’末端において、及び少なくとも30、60、90又は100ntのコード配列を含むNS vRNAの5’末端において、配列を含む(Fujiiら、2005)。
【0038】
一実施形態において、3’NA組み込み配列は、N末端NAコード領域のヌクレオチド1~183、ヌクレオチド1~90、ヌクレオチド1~45、ヌクレオチド1~21、ヌクレオチド1~19、又は19~183の任意の整数に対応し、NA開始コドンにおける突然変異を含んでもよい。別の実施形態において、5’NA組み込み配列は、NAのC末端コード領域における配列、すなわち、C末端NAコード領域についての39、78若しくは157、又は1~157の任意の整数の3’末端ヌクレオチドに対応する配列に対応する。
【0039】
一実施形態において、5’HA組み込み配列は、HAのC末端コード領域における配列、すなわち、C末端HAコード領域の75、80、268、291若しくは518、又は1~518の任意の整数の3’末端ヌクレオチドに対応する配列に対応する。3’HA組み込み配列は、N末端HAコード領域のヌクレオチド1~3、1~6、1~9、1~15、1~216、1~468、又は1~468の任意の整数に対応する。
【0040】
一実施形態において、3’PB1又はPB2組み込み配列は、N末端PB1又はPB2コード領域のヌクレオチド1~250、ヌクレオチド1~200、ヌクレオチド1~150、ヌクレオチド1~160若しくは1~130、又は1~250の任意の整数に対応する。一実施形態において、5’PB1又はPB2組み込み配列は、C末端PB1又はPB2コード領域の3’末端ヌクレオチド、例えば、3’の1~250のヌクレオチド、1~200のヌクレオチド、ヌクレオチド1~150、ヌクレオチド1~160、1~170若しくは1~190、又は1~250の任意の整数に対応する。
【0041】
一実施形態において、3’PA組み込み配列は、N末端PAコード領域のヌクレオチド1~250、ヌクレオチド1~200、ヌクレオチド1~150、又は1~250の任意の整数に対応する。一実施形態において、5’PA組み込み配列は、C末端PAコード領域の3’末端ヌクレオチド、例えば、3’の1~250のヌクレオチド、1~200のヌクレオチド、ヌクレオチド1~150、ヌクレオチド1~160、1~170若しくは1~190、又は1~250の任意の整数に対応する。
【0042】
一実施形態において、3’M組み込み配列は、N末端Mコード領域のヌクレオチド1~250、ヌクレオチド1~242、ヌクレオチド1~240、又は1~250の任意の整数に対応し、M開始コドンにおける突然変異を含んでもよい。別の実施形態において、5’M組み込み配列は、MのC末端コード領域における配列、すなわち、C末端Mコード領域についての50、100若しくは220、又は1~250の任意の整数の3’末端ヌクレオチドに対応する配列に対応する。
【0043】
一実施形態において、3’NS又はNP組み込み配列は、N末端NS又はNPコード領域のヌクレオチド1~250、ヌクレオチド1~200、ヌクレオチド1~150、ヌクレオチド1~30、又は1~250の任意の整数、例えば、1~60、1~70、1~80若しくは1~90に対応し、NS又はNP開始コドンにおける突然変異を含んでもよい。別の実施形態において、5’NS又はNP組み込み配列は、NS又はNPのC末端コード領域における配列、すなわち、C末端NS又はNPコード領域についての10、30、150、200若しくは250、又は1~250の任意の整数の3’末端ヌクレオチド、例えば、C末端NS又はNPコドン領域のヌクレオチド1~250、ヌクレオチド1~200、ヌクレオチド1~150、ヌクレオチド1~30、又は1~250の任意の整数、例えば、1~60、1~70、1~80又は1~90に対応する配列に対応する。
【0044】
したがって、本開示は、特定のvRNAの3’非コード領域及び5’非コード領域に対応する配列と、対応するvRNAの組み込み配列と、異種核酸セグメントとを含むインフルエンザウイルスベクターを提供する。したがって、一実施形態において、前記ベクターは、NA vRNAの3’非コード領域と、3’NA vRNA組み込み配列又は5’NA vRNA組み込み配列と、場合により3’NA組み込み配列及び5’NA組み込み配列の両方と、異種核酸セグメントと、NA vRNAの5’非コード領域とを含む。別の実施形態において、前記ベクターは、HA vRNAの3’非コード領域と、5’HA vRNA組み込み配列若しくは3’HA vRNA組み込み配列又は5’HA組み込み配列及び3’HA組み込み配列の両方と、異種核酸セグメントと、HA vRNAの5’非コード領域とを含む。別の実施形態において、前記ベクターは、NS vRNAの3’非コード領域と、NS組み込み配列と、異種核酸セグメントと、NS vRNAの5’非コード領域とを含む。別の実施形態において、前記ベクターは、M vRNAの3’非コード領域と、5’M組み込み配列若しくは3’M組み込み配列又は5’M組み込み配列及び3’M組み込み配列の両方と、異種核酸セグメントと、M vRNAの5’非コード領域とを含む。さらに別の実施形態において、前記ベクターは、PB2 vRNAの3’非コード領域と、異種核酸セグメントと、PB2組み込み配列と、PB2 vRNAの5’非コード領域とを含む。ベクターにおいて2つの組み込み配列が用いられる場合、それらは前記異種核酸セグメントによって分離されてもよい。細胞への導入のためのvRNAを調製するように、又はウイルス作製のために必要な他のインフルエンザウイルスvRNAs及びタンパク質が存在する細胞においてvRNAを発現するように、各ベクターを用いてもよい。
【0045】
別の実施形態において、異種遺伝子配列は、治療遺伝子についてのオープンリーディングフレームに対応する配列を含む。なおさらなる実施形態において、異種遺伝子配列は、病原体又は腫瘍細胞の免疫原性ペプチド又は免疫原性タンパク質、例えば、防御免疫応答を誘導するために有用なものについてのオープンリーディングフレームに対応する配列を含む。例えば、異種核酸セグメントは、癌治療又はワクチンにおいて有用な免疫原性エピトープをコードしてもよい。ベクターvRNAの転写によってNAなどのインフルエンザタンパク質を有する融合タンパク質をコードするmRNAが生じるように異種核酸セグメントを含むベクターを調製してもよい。したがって、融合タンパク質、例えばNAの21個のN末端残基との融合をコードするように異種核酸セグメントをウイルス組み込み配列と融合してもよいことが想定される。前記融合タンパク質は、2つの異なるNAタンパク質又はHAタンパク質に由来する配列を含む2つの異なるインフルエンザウイルスタンパク質に由来する配列を含んでもよい。別の実施形態において、前記異種核酸セグメントは、オープンリーディングフレームに5N結合したIRESに対応する配列を含んでもよい。
【0046】
本開示の一実施形態において、異種遺伝子配列は、検出可能な表現型を付与してもよい異種タンパク質(糖タンパク質、又はサイトゾルタンパク質、核タンパク質若しくは糸粒体特異的タンパク質などの非インフルエンザウイルスタンパク質)をコードしてもよい。一実施形態において、異種遺伝子配列は、PB2コード配列の切断部分、例えば、場合によりキメラタンパク質を形成する5’又は3’PB2コード組み込み配列に対応するものに融合されてもよい。一実施形態において、異種ヌクレオチド配列は、ウイルスウイルスセグメント(viral viral segment)であって、そのセグメントについてのコード領域に対応するウイルスウイルスセグメントにおける配列を、前記ウイルスセグメントのコード領域における組み込み配列を破砕することがないように置換するか、又は前記配列に導入される。例えば、異種ヌクレオチド配列は、非コード配列に隣接する5’及び/又は3’PB2コード領域の約3~約400のヌクレオチドだけフランクされてもよい。一実施形態において、3’PB2組み込み配列は、N末端及び/又はC末端PB2コード領域のヌクレオチド3~400、ヌクレオチド3~300、ヌクレオチド3~100、ヌクレオチド3~50、又は3~400の任意の整数に対応する。一実施形態において、生物学的に含まれたPB2-KOウイルスを宿主細胞に感染させた後、欠失させたPB2タンパク質の残りの残基のN末端及び/又はC末端との融合物である異種タンパク質が産生される。
【0047】
付加的なウイルスセグメント又は異種遺伝子配列を有するウイルスセグメントについてのvRNAが、少なくとも1%、5%、10%若しくは30%、又は少なくとも50%の効率性、すなわち、対応する野生型vRNAの効率性でビリオンに組み込まれてもよい。
【0048】
インフルエンザウイルスの構造及び増殖
インフルエンザA型ウイルスは、少なくとも10個のタンパク質をコードする8つの一本鎖マイナス鎖ウイルスRNA(vRNA)のゲノムを有する。インフルエンザウイルスライフサイクルは、宿主細胞の表面上におけるシアル酸含有受容体への赤血球凝集素(HA)の結合から開始した後、受容体依存性エンドサイトーシスが生じる。後期エンドソームにおける低pHによって、HAにおける立体配座シフトが引き起こされることにより、HA2サブユニット(いわゆる融合ペプチド)のN末端が曝露される。融合ペプチドは、ウイルス膜及びエンドソーム膜の融合を開始し、マトリックスタンパク質(M1)及びRNP複合体が細胞質に放出される。RNPは、vRNAをキャプシド形成する核タンパク質(NP)と、PAタンパク質、PB1タンパク質及びPB2タンパク質によって形成されるウイルスポリメラーゼ複合体とからなる。RNPは、転写及び複製が起きる核の中に移送される。RNAポリメラーゼ複合体は、3つの異なる反応、すなわち、5’キャップ及び3’ポリA構造を有するmRNAの合成、全長相補的RNA(cRNA)の合成、及び鋳型としてのcRNAを用いたゲノムvRNAの合成、を触媒する。次いで、新しく合成されたvRNAs、NP及びポリメラーゼタンパク質は、RNPに構築され、核から搬出され、子孫ウイルス粒子の出芽が生じる原形質膜に移送される。ノイラミニダーゼ(NA)タンパク質は、シアリルオリゴ糖からシアル酸を除去し、したがって、新しく構築されたビリオンを細胞表面から放出し、ウイルス粒子の自己凝集を防止することによって、感染における後期において重要な役割を果たす。ウイルス構築は、タンパク質-タンパク質相互作用及びタンパク質-vRNA相互作用を含むが、これらの相互作用の性質は、大部分が不明である。
【0049】
インフルエンザB型ウイルスおよびインフルエンザC型ウイルスは、構造的且つ機能的にインフルエンザA型ウイルスと同様であるが、多少の差異がある。例えば、インフルエンザB型ウイルスは、イオンチャネル活性を有するM2タンパク質を有さないが、BM2を有し、NA配列及びNB配列の両方を有するウイルスセグメントを有する。インフルエンザC型ウイルスは、7つのウイルスセグメントだけを有する。
【0050】
用いることができる細胞系
インフルエンザウイルスを分離し且つ/又は増殖させるために、インフルエンザウイルスの効率的な複製を支える突然変異体細胞を含む任意の細胞、例えば、トリの細胞又はヒトなどの哺乳類の細胞、例えば、293T細胞若しくはPER.C6(登録商標)細胞、又は、イヌ、例えばMDCK、ウシ、ウマ、ネコ、ブタ、ヒツジ、齧歯動物、例えばミンク、例えばMvLu1細胞、若しくはハムスター、例えばCHO細胞、若しくは非ヒト霊長類、例えばVero細胞を用いることができる。再集合体ウイルスを調製するために、分離されたウイルスを用いることができる。一実施形態において、ワクチン作製のための宿主細胞は、哺乳類又はトリの連続細胞系又は連続細胞株である。最終産物の純度についての適切な試験を含むことができるように、用いられる前記細胞の完全な特性決定を行ってもよい。細胞の特性決定のために用いることができるデータは、(a)その由来、誘導及び継代歴に関する情報、(b)その成長及び形態学的特性に関する情報、(c)偶発因子の試験の結果、(d)細胞が他の細胞系の中で明確に認識されることを可能にする生化学的パターン、免疫学的パターン及び細胞遺伝学的パターンなどの目立った特徴、及び(e)腫瘍形成性についての試験の結果、を含む。一実施形態において、用いられる宿主細胞の継代レベル又は集団倍化は、できるだけ低い。
【0051】
一実施形態において、前記細胞は、WHOによって保証されるか又は保証可能な連続細胞系である。そのような細胞系を保証するための要件としては、系統の少なくとも1つに関する特性決定、成長特性、免疫学的マーカー、ウイルス感受性腫瘍形成性及び貯蔵条件、並びに動物、卵及び細胞培養物における試験によるものが挙げられる。前記細胞が検出可能な偶発因子を含まないことを確認するために、そのような特性決定が用いられる。いくつかの国において、核学が必要とされてもよい。加えて、腫瘍形成性は、ワクチン作製のために用いられるものと同じ継代レベルの細胞において試験されてもよい。ウイルスは、ワクチン作製の前に、一貫した結果を与えることが示されているプロセスによって精製されてもよい(例えば、世界保健機関、1982参照)。
【0052】
宿主細胞によって産生されるウイルスは、ワクチン又は遺伝子治療製剤の前に高度に精製されてもよい。概して、精製手法は、細胞DNA及び他の細胞成分並びに偶発因子の大規模な除去をもたらす。大規模にDNAを分解又は変性する手法を用いてもよい。
【0053】
インフルエンザワクチン
本開示のワクチンは、本開示の分離された組換えインフルエンザウイルス、及び場合により他の分離されたインフルエンザウイルスを含む1以上の他の分離されたウイルス、1以上の分離されたインフルエンザウイルス若しくは1以上の他の病原体の1以上の免疫原性タンパク質若しくは糖タンパク質、例えば、1以上の細菌、非インフルエンザウイルス、酵母若しくは真菌に由来する免疫原性タンパク質、又は本開示の分離されたインフルエンザウイルスの1以上の免疫原性タンパク質を含む1以上のウイルスタンパク質をコードする分離された核酸(例えば、DNAワクチン)を含む。一実施形態において、本開示のインフルエンザウイルスは、インフルエンザウイルス又は他の病原体のためのワクチンベクターであってもよい。
【0054】
完全ビリオンワクチンは、限外濾過によって濃縮され、次いでゾーン遠心分離又はクロマトグラフィによって精製されてもよい。多価ワクチンに含まれるものなどの本発明のウイルス以外のウイルスは、例えばホルマリン又はβ-プロピオラクトンを用いて精製の前又は後に不活化されてもよい。
【0055】
サブユニットワクチンは、精製された糖タンパク質を含む。そのようなワクチンは、以下のように調製されてもよい。すなわち、洗浄剤による処置によって断片化されたウイルス懸濁液を用いて、例えば超遠心によって表面抗原を精製する。したがって、サブユニットワクチンは、主にHAタンパク質を含み、NAも含む。用いられる洗浄剤は、例えば臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムなどのカチオン性洗浄剤(Bachmeyer、1975)、デオキシコール酸アンモニウムなどのアニオン性洗浄剤(Laver & Webster、1976)、又はTRITON X100の名称の下で商業化されたものなどの非イオン性洗浄剤であってもよい。赤血球凝集素を、ブロメリンなどのプロテアーゼによるビリオンの処置後に分離し、次いで精製してもよい。サブユニットワクチンは、多価ワクチンにおいて本開示の弱毒化ウイルスと組み合わせてもよい。
【0056】
分解ワクチンは、脂質を溶解させる剤による処置を行ったビリオンを含む。分解ワクチンは、以下のように調製され得る。すなわち、不活化されたか又は不活化されていない、上記のように得られた精製ウイルスの水性懸濁液を、洗浄剤に関連するエチルエーテル又はクロロホルムなどの脂質溶媒によって、撹拌下で処置する。ウイルスエンベロープ脂質の溶解によって、ウイルス粒子の断片化が生じる。主に赤血球凝集素及びノイラミニダーゼから、それらの元の脂質環境を除去した状態で構成される分解ワクチンと、コア又はその分解産物とを含む水相を回復する。次いで、残存する感染性粒子の不活化を、これがまだ為されていない場合に行う。分解ワクチンは、多価ワクチンにおいて本開示の弱毒化ウイルスと組み合わせてもよい。
【0057】
不活化ワクチン。不活化インフルエンザウイルスワクチンは、限定されるものではないが、ホルマリン又はβ-プロピオラクトンによる処置などの知られた方法を用いて、複製されたウイルスを不活化することによって提供される。本発明において用いられ得る不活化ワクチンの型は、全ウイルス(WV)ワクチン又はサブビリオン(SV)(分解)ワクチンを含むことができる。WVワクチンは、無処置の不活化ウイルスを含むが、一方でSVワクチンは、脂質含有ウイルスエンベロープを可溶化した後で残存ウイルスの化学的不活化を行う洗浄剤によって破砕される精製ウイルスを含む。
【0058】
加えて、用いることができるワクチンとしては、表面抗原又はサブユニットワクチンと称される、分離されたHA表面タンパク質及びNA表面タンパク質を含むものが挙げられる。
【0059】
生弱毒化ウイルスワクチン。本開示の組換えウイルスを含むものなどの生弱毒化インフルエンザウイルスワクチンは、インフルエンザウイルス感染を予防又は処置するために使用され得る。弱毒化は、弱毒化ドナーウイルスから知られた方法にかかる複製分離株又は再集合体ウイルスへの弱毒化遺伝子のトランスファーによる単一ステップにおいて達成されてもよい。インフルエンザA型ウイルスに対する耐性が、主にHA糖タンパク質及び/又はNA糖タンパク質に対する免疫応答の発現によって媒介されるので、これらの表面抗原をコードする遺伝子は、再集合体ウイルス又は臨床分離株から生じる。弱毒化遺伝子は、弱毒化された親から誘導される。この手法において、弱毒化を付与する遺伝子は、概して、HA糖タンパク質及びNA糖タンパク質をコードしない。
【0060】
インフルエンザウイルスを再現的に弱毒化することができるウイルス(ドナーインフルエンザウイルス)が利用可能であり、例えば、弱毒化ワクチン作製のために低温適応(ca)ドナーウイルスを用いることができる。例えば、Isakova-Sivallら、2014参照のこと。生弱毒化再集合体ウイルスワクチンは、caドナーウイルスと毒性のある複製ウイルスとを組み合わせることによって生成され得る。次いで、弱毒化caドナーウイルスの表面抗原を有するウイルスの複製を阻害する適切な抗血清の存在下で、再集合体子孫は、(ビルレントウイルスの複製のために制限的な)25℃で選択される。有用な再集合体は、(a)感染性があり、(b)血清陰性の非成体哺乳動物及び免疫学的に初回刺激された成体哺乳動物のために弱毒化され、(c)免疫原性であり、及び(d)遺伝子的に安定している。ca再集合体の免疫原性は、複製のそれらのレベルに匹敵する。したがって、新しい野生株ウイルスによるcaドナーウイルスの6つのトランスファー可能な遺伝子の獲得によって、成体及び非成体の両方の感受性のある哺乳動物に対するワクチン接種における使用のためにこれらのウイルスが再現的に弱毒化された。
【0061】
部位特異的突然変異誘発によって他の弱毒化突然変異をインフルエンザウイルス遺伝子に導入して、これらの突然変異遺伝子を有する感染性ウイルスを救出することができる。ゲノムの非コード領域、及びコード領域に弱毒化突然変異を導入することができる。そのような弱毒化突然変異を、HA又はNA以外の遺伝子、例えばPB2ポリメラーゼ遺伝子に導入することもできる。したがって、部位特異的突然変異誘発によって導入された弱毒化突然変異を有する新しいドナーウイルスを生成することも可能であり、そのような新しいドナーウイルスは、caドナーウイルスについて上記で記載されたものと類似の様式で、生弱毒化再集合体ワクチン候補の作製において使用され得る。同様に、他の知られた、適切な弱毒化ドナー株をインフルエンザウイルスにより再集合体とすることで哺乳動物のワクチン接種における使用のために適切な弱毒化ワクチンを得ることができる。
【0062】
一実施形態において、そのような弱毒化ウイルスは、元の臨床分離株のものと実質的に同様の抗原決定基をコードするウイルスに由来する遺伝子を維持する。このことは、弱毒化ワクチンの目的が、ウイルスの元の臨床分離株と実質的に同じ抗原性を提供すると共に、同時に前記ワクチンがワクチン接種された哺乳動物における重篤な疾患状態を誘導する可能性を最小限にする程度に病原性を欠くことにあるからである。
【0063】
したがって、多価ワクチンにおけるウイルスは、動物、例えば哺乳動物における免疫応答を誘導するためのワクチンとして、知られた方法に従って、弱毒化又は不活化され、製剤化され、投与され得る。そのような弱毒化ワクチン又は不活化ワクチンが、臨床分離株又はそれから誘導された高増殖株と同様の抗原性を維持したかどうか決定するための方法は、よく知られている。そのような知られた方法としては、ドナーウイルスの抗原決定基を発現するウイルスを排除するための抗血清又は抗体の使用、化学的選択(例えば、アマンタジン又はリマンタジン(rimantidine))、HA及びNAの活性及び阻害、抗原決定基をコードするそのドナー遺伝子(例えば、HA遺伝子又はNA遺伝子)が弱毒化ウイルス内に存在しないことを確認するための核酸スクリーニング(プローブハイブリダイゼーション又はPCRなど)が挙げられる。
【0064】
例示的な実施形態
WT-Venus-PR8を産生するためにインフルエンザA型/Puerto Rico/8/34(PR8、H1N1)ウイルスのNSセグメントにVenus蛍光タンパク質についての遺伝子を挿入することによって、例えばインフルエンザウイルス誘導病理を理解するためにウイルス感染細胞の視覚化を可能にするレポータインフルエンザウイルスを調製した。挿入されたVenus遺伝子は、WT-Venus-PR8の連続的継代の間に欠失したが、WT-Venus-PR8は有意に弱毒化され、PB2-E712D突然変異は、Venus遺伝子を安定化させることが分かった。本明細書に開示されるように、Venus遺伝子欠失が起きる機序と、ポリメラーゼ突然変異がVenus遺伝子を安定化する方法とを検討した。大規模配列決定分析によって、PB2-E712Dが突然変異率の顕著な変化を引き起こさないことが明らかになったが、このことは、Venus遺伝子の安定性がポリメラーゼ忠実度による影響を受けないことを示唆している。定量的リアルタイムPCRを用いて、WT-Venus-PR8が、高レベルのインターフェロンβ(IFN-β)の発現を誘導することが分かった。IFN-β発現の誘導は、WT-Venus-PR8における修飾NSセグメントの転写/複製効率性の低下に起因すると思われた。対照的に、修飾NSセグメントの転写/複製効率性は、PB2-E712D突然変異によって増強された。WT-Venus-PR8におけるVenus遺伝子の喪失は、NSセグメントにおける内部欠失によって引き起こされると思われた。さらに、Venus安定化機序のさらなる理解のために、Venus遺伝子を安定化させるウイルスポリメラーゼ複合体における付加的なアミノ酸突然変異を同定した。これらのアミノ酸の一部がウイルスポリメラーゼの鋳型出口又は産物出口の近くに位置することが分かったが、このことは、これらのアミノ酸が、ポリメラーゼ複合体とRNA鋳型及び産物との間の結合親和性に影響を及ぼすことによってVenus遺伝子の安定性に寄与することを示唆している。
【0065】
本開示は、PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント、PB2ウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NAウイルスセグメント及びHAウイルスセグメントを有する分離された組換えインフルエンザウイルスであって、前記ウイルスセグメントの内の少なくとも1つが、アスパラギンではない540位における残基を有するPB2をコードするPB2ウイルスセグメント、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメント、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメント、又はそれらの任意の組み合わせであり、前記組換えインフルエンザウイルスが、アスパラギンであるPB2における540位における残基、グルタミンであるPAにおける180位における残基、スレオニンであるPAにおける200位における残基、バリンであるPB1における149位における残基、グルタミン酸であるPB1における684位における残基又はアスパラギン酸であるPB1における685位における残基を有する対応する組換えインフルエンザウイルスと比較して、遺伝的安定性が増強されているか、又は複製が増強されている、分離された組換えインフルエンザウイルスを提供する。一実施形態において、PB2の540位における残基は、K、R、D、E、Q若しくはHであり、PB2の712位における残基は、D、N、S、H、T、Y若しくはCであり、PAにおける180位における残基は、R、K、D、E、N若しくはHであり、PAにおける200位における残基は、A、I、L、C、S、M、F、P、G若しくはVであり、PB1における149位における残基は、A、T、I、L、C、S、M、F、P若しくはGであり、684位における残基は、D、Q、S、H、T、Y、C、K、R若しくはNであり、又はPB1における685位における残基は、E、N、R、H、K、S、T、Y、C若しくはQである。一実施形態において、PB2の540位における残基は、K、R、H、D、S、H、T、Y若しくはCであり、PB2の712位における残基は、D、K、H、R、Q若しくはNであり、PAにおける180位における残基は、R、K、D、N、S、H、T、Y若しくはHであり、PAにおける200位における残基は、A、I、L、G、S、M若しくはVであり、PB1における149位における残基は、A、T、I、L、S、M若しくはGであり、684位における残基は、D、Q、H、L、R若しくはNであり、又はPB1における685位における残基は、E、N、R、H、K若しくはQである。一実施形態において、PB2の540位における残基は、K、R若しくはHであり、PB2の712位における残基は、D若しくはNであり、PAにおける180位における残基は、R、K若しくはHであり、PAにおける200位の残基は、A、I、L、G若しくはVであり、PB1における149位における残基は、A、T、I、L若しくはGであり、684位における残基は、D若しくはNであり、又はPB1における685位における残基は、E若しくはQである。一実施形態において、前記PAは、アルギニンではない443位における残基をさらに含み、前記PB1は、リジンではない737位における残基をさらに含み、前記PB2は、バリンではない25位における残基若しくはグルタミン酸ではない712位における残基をさらに含み、前記NSウイルスセグメントは、プロリンではない167位における残基を有するNS1をコードし、前記HAウイルスセグメントは、スレオニンではない380位における残基を有するHAをコードし、又はそれらの任意の組み合わせである。一実施形態において、PAの443位における残基は、K若しくはHであり、PB1の737位における残基は、H若しくはRであり、PB2の25位における残基は、A、L、T、I若しくはGであり、PB2の712位における残基は、Dであり、NS1の167位における残基は、S、C、M、A、L、I、G若しくはTであり、又はそれらの任意の組み合わせである。一実施形態において、前記ウイルスセグメントの内の少なくとも1つは、遺伝子産物をコードする異種遺伝子配列を含む。一実施形態において、前記異種配列は、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント又はPB2ウイルスセグメント内にある。一実施形態において、前記異種配列は、PAウイルスセグメントにおけるPAコード配列に対して5’又は3’であり、PB1ウイルスセグメントにおけるPB1コード配列に対して5’又は3’である。一実施形態において、前記異種配列は、PB2ウイルスセグメントにおけるPB2コード配列に対して5’又は3’である。一実施形態において、前記異種配列は、NSウイルスセグメントにおけるNS1コード配列に対して5’又は3’である。一実施形態において、前記組換えウイルスは、遺伝子産物をコードする異種遺伝子配列を含むさらなるウイルスセグメントを含む。一実施形態において、前記さらなるウイルスセグメントは、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント又はPB2ウイルスセグメントである。一実施形態において、前記ウイルスは、H1、H2、H3、H5、H7、H9又はH10であるHAを有する。一実施形態において、前記ウイルスは、インフルエンザB型ウイルスである。
【0066】
PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント、PB2ウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NAウイルスセグメント及びHAウイルスセグメントを有する分離された組換えインフルエンザウイルスであって、前記ウイルスセグメントの内の少なくとも1つが、アスパラギンではない540位における残基又はグルタミン酸ではない712位における残基を有するPB2をコードするPB2ウイルスセグメントであり、前記他のウイルスセグメントの内の少なくとも1つが、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメント、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメント、又はそれらの任意の組み合わせであり、前記組換えインフルエンザウイルスが、アスパラギンであるPB2における540位における残基、グルタミン酸である712位におけるPB2における残基、グルタミンであるPAにおける180位における残基、スレオニンであるPAにおける200位における残基、バリンであるPB1における149位における残基、グルタミン酸であるPB1における684位における残基又はアスパラギン酸であるPB1における685位における残基を有する対応する組換えインフルエンザウイルスと比較して、遺伝的安定性又は複製が増強されている、分離された組換えインフルエンザウイルスも提供される。一実施形態において、PB2の540位における残基は、K、R、D、E、Q若しくはHであり、PB2の712位における残基は、D、N、S、H、T、Y若しくはCであり、PAにおける180位における残基は、R、K、D、E、N若しくはHであり、PAにおける200位における残基は、A、I、L、C、S、M、F、P、G若しくはVであり、PB1における149位における残基は、A、T、I、L、C、S、M、F、P若しくはGであり、684位における残基は、D、Q、S、H、T、Y、C、K、R若しくは、Nであり、又はPB1における685位における残基は、E、N、R、H、K、S、T、Y、C又はQである。一実施形態において、PB2の540位における残基は、K、R、H、D、S、H、T、Y若しくはCであり、PB2の712位における残基は、D、K、H、R、Q若しくはNであり、PAにおける180位における残基は、R、K、D、N、S、H、T、Y若しくは、Hであり、PAにおける200位における残基は、A、I、L、G、S、M若しくはVであり、PB1における149位における残基は、A、T、I、L、S、M若しくはGであり、684位における残基は、D、Q、H、L、R若しくはNであり、又はPB1における685位における残基は、E、N、R、H、K若しくはQである。一実施形態において、PB2の540位における残基は、K、R若しくはHであり、PB2の712位における残基は、D若しくはNであり、PAにおける180位における残基は、R、K若しくはHであり、PAにおける200位における残基は、A、I、L、G若しくはVであり、PB1における149位における残基は、A、T、I、L若しくはGであり、684位における残基は、D若しくはNであり、又はPB1における685位における残基は、E若しくはQである。一実施形態において、前記PAは、アルギニンではない443位における残基をさらに含み、前記PB1は、リジンではない737位における残基をさらに含み、前記PB2は、バリンではない25位における残基若しくはグルタミン酸ではない712位における残基をさらに含み、前記NSウイルスセグメントは、プロリンではない167位における残基を有するNS1をコードし、前記HAウイルスセグメントは、スレオニンではない380位における残基を有するHAをコードし、又はそれらの任意の組み合わせである。一実施形態において、PAの443位における残基は、K若しくはHであり、PB1の737位における残基は、H若しくはRであり、PB2の25位における残基は、A、L、T、I若しくはGであり、PB2の712位における残基は、Dであり、NS1の167位における残基は、S、C、M、A、L、I、G若しくはTであり、又はそれらの任意の組み合わせである。一実施形態において、前記ウイルスセグメントの内の少なくとも1つは、遺伝子産物をコードする異種遺伝子配列を含む。一実施形態において、前記異種配列は、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント又はPB2ウイルスセグメント内にある。一実施形態において、前記異種配列は、PAウイルスセグメントにおけるPAコード配列に対して5’又は3’であり、PB1ウイルスセグメントにおけるPB1コード配列に対して5’又は3’である。一実施形態において、前記異種配列は、PB2ウイルスセグメントにおけるPB2コード配列に対して5’又は3’である。一実施形態において、異種配列は、NSウイルスセグメントにおけるNS1コード配列に対して5’又は3’である。一実施形態において、前記組換えウイルスは、遺伝子産物をコードする異種遺伝子配列を含むさらなるウイルスセグメントを含む。一実施形態において、前記さらなるウイルスセグメントは、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント又はPB2ウイルスセグメントである。一実施形態において、前記ウイルスは、H1、H2、H3、H5、H7、H9又はH10であるHAを有する。一実施形態において、前記ウイルスは、インフルエンザB型ウイルスである。
【0067】
PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント、PB2ウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NAウイルスセグメント及びHAウイルスセグメントを有する分離された組換えインフルエンザウイルスであって、前記組換えウイルスが、アスパラギンではない540位における残基若しくはグルタミン酸ではない712位における残基を有するPB2をコードするPB2ウイルスセグメント、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメント、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメント、又はそれらの任意の組み合わせを含む2つ以上のウイルスセグメントを有し、前記組換えインフルエンザウイルスが、アスパラギンであるPB2における540位における残基、グルタミン酸である712位におけるPB2における残基、グルタミンであるPAにおける180位における残基、スレオニンであるPAにおける200位における残基、バリンであるPB1における149位における残基、グルタミン酸であるPB1における684位における残基又はアスパラギン酸であるPB1における685位における残基を有する対応する組換えインフルエンザウイルスと比較して、遺伝的安定性又は複製が増強されている、分離された組換えインフルエンザウイルスがさらに提供される。一実施形態において、PB2の540位における前記残基は、K、R、D、E、Q若しくはHであり、PB2の712位における前記残基は、D、N、S、H、T、Y若しくはCであり、PAにおける180位における前記残基は、R、K、D、E、N若しくはHであり、PAにおける200位における前記残基は、A、I、L、C、S、M、F、P、G若しくはVであり、PB1における149位における前記残基は、A、T、I、L、C、S、M、F、P若しくはGであり、684位における前記残基は、D、Q、S、H、T、Y、C、K、R若しくはNであり、又はPB1における685位における前記残基は、E、N、R、H、K、S、T、Y、C若しくはQである。一実施形態において、PB2の540位における前記残基は、K、R、H、D、S、H、T、Y若しくはCであり、PB2の712位における前記残基は、D、K、H、R、Q若しくは、Nであり、PAにおける180位における前記残基は、R、K、D、N、S、H、T、Y若しくはHであり、PAにおける200位における前記残基は、A、I、L、G、S、M若しくはVであり、PB1における149位における前記残基は、A、T、I、L、S、M若しくはGであり、684位における前記残基は、D、Q、H、L、R若しくはNであり、又はPB1における685位における前記残基は、E、N、R、H、K若しくはQである。一実施形態において、PB2の540位における前記残基は、K、R若しくはHであり、PB2の712位における前記残基は、D若しくはNであり、PAにおける180位における前記残基は、R、K若しくはHであり、PAにおける200位における前記残基は、A、I、L、G若しくはVであり、PB1における149位における前記残基は、A、T、I、L若しくはGであり、684位における前記残基は、D若しくはNであり、又はPB1における685位における前記残基は、E若しくはQである。一実施形態において、前記PAは、アルギニンではない443位における残基をさらに含み、前記PB1は、リジンではない737位における残基をさらに含み、前記PB2は、バリンではない25位における残基若しくはグルタミン酸ではない712位における残基をさらに含み、前記NSウイルスセグメントは、プロリンではない167位における残基を有するNS1をコードし、前記HAウイルスセグメントは、スレオニンではない380位における残基を有するHAをコードし、又はそれらの任意の組み合わせである。一実施形態において、PAの443位における前記残基は、K若しくはHであり、PB1の737位における前記残基は、H若しくはRであり、PB2の25位における前記残基は、A、L、T、I若しくはGであり、PB2の712位における前記残基は、Dであり、NS1の167位における前記残基は、S、C、M、A、L、I、G若しくはTであり、又はそれらの任意の組み合わせである。一実施形態において、前記ウイルスセグメントの内の少なくとも1つは、遺伝子産物をコードする異種遺伝子配列を含む。一実施形態において、前記異種配列は、前記NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント又は前記PB2ウイルスセグメント内にある。一実施形態において、前記異種配列は、前記PAウイルスセグメントにおける前記PAコード配列に対して5’又は3’であり、前記PB1ウイルスセグメントにおける前記PB1コード配列に対して5’又は3’である。一実施形態において、前記異種配列は、前記PB2ウイルスセグメントにおける前記PB2コード配列に対して5’又は3’である。一実施形態において、前記異種配列は、前記NSウイルスセグメントにおける前記NS1コード配列に対して5’又は3’である。一実施形態において、前記組換えウイルスは、遺伝子産物をコードする異種遺伝子配列を含むさらなるウイルスセグメントを含む。一実施形態において、前記さらなるウイルスセグメントは、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント又はPB2ウイルスセグメントである。一実施形態において、前記ウイルスは、H1、H2、H3、H5、H7、H9又はH10であるHAを有する。一実施形態において、前記ウイルスは、インフルエンザB型ウイルスである。
【0068】
本開示は、前記分離された組換えウイルスを有するワクチンも提供する。
【0069】
本開示は、再集合体(reassortant)を調製するための複数のインフルエンザウイルスベクターであって、以下を含む:
転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスPA DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスPB1 DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスPB2 DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスHA DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスNP DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスNA DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスM DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、及び転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスNS cDNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクターであって、ここで、vRNA産生のための前記ベクターにおける前記PB1 DNA、前記PB2 DNA又は前記PA DNAが、アスパラギンではない540位における残基を有するPB2をコードするPB2ウイルスセグメント、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメント、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメント、又はそれらの組み合わせの内の少なくとも1つをコードする、vRNA産生のための前記ベクター、並びに、場合により、インフルエンザウイルスPAをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスPB1をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスPB2をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、及びインフルエンザウイルスNPをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、並びに、場合により、インフルエンザウイルスHAをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスNAをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスM1をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスM2をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、又はインフルエンザウイルスNS2をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター
上記再集合体を調製するための複数のインフルエンザウイルスベクターを提供する。一実施形態において、vRNA産生のための前記ベクターにおける前記PB1 DNA、前記PB2 DNA、前記PA DNA、前記NP DNA、前記NS DNA及び前記M DNAは、配列番号1~6又は10~15によってコードされる対応するポリペプチドに対して少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードするものに対応する配列を有する。一実施形態において、PB2の540位における前記残基は、K、R若しくはHであり、PAにおける180位における前記残基は、R、K若しくはHであり、PAにおける200位における前記残基は、A、I、L、G若しくはVであり、PB1における149位における残基は、A、T、I、L若しくはGであり、684位における前記残基は、D若しくはNであり、又はPB1における685位における前記残基は、E若しくはまたQである。一実施形態において、前記ウイルスセグメントの内の少なくとも1つは、遺伝子産物をコードする異種の遺伝子配列を含む。一実施形態において、前記ベクターは、遺伝子産物をコードする異種遺伝子配列を含むウイルスセグメントを有するさらなるベクターを含む。
【0070】
細胞に、感染性インフルエンザウイルスを産生するために有効な量の、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスPA DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスPB1 DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスPB2 DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスHA DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスNP DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスNA DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結するインフルエンザウイルスM DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター及び転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスNS DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクターであって、ここで、vRNA産生のための前記ベクターにおける前記PB1 DNA、前記PB2 DNA又は前記PA DNAが、i)アスパラギンではない540位における残基又はグルタミン酸ではない712位における残基を有するPB2、及びグルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPA、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1、又はそれらの任意の組み合わせの少なくとも1つ、又はii)アスパラギンではない540位における残基を有するPB2、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPA、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1、又はそれらの任意の組み合わせ、又はiii)アスパラギンではない540位における残基若しくはグルタミン酸ではない712位の残基を有するPB2、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPA、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1、又はそれらの任意の組み合わせの2つ以上、をコードする、vRNA産生のための前記ベクター、並びに、場合により、インフルエンザウイルスPAをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスPB1をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスPB2をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、及びインフルエンザウイルスNPをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、並びに、場合により、インフルエンザウイルスHAをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスNAをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスM1をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスM2をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、又はインフルエンザウイルスNS2をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、を接触させること、を含む、インフルエンザウイルスを調製するための方法が提供される。一実施形態において、前記細胞は、トリの細胞又は哺乳動物の細胞である。一実施形態において、前記細胞は、Vero細胞、ヒト細胞又はMDCK細胞である。一実施形態において、vRNA産生のための前記ベクターにおける前記PB1 DNA、前記PB2 DNA、前記PA DNA、前記NP DNA、前記NS DNA及び前記M DNAは、配列番号1~6又は10~15によってコードされる対応するポリペプチドに対して少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードするものに対応する配列を有する。一実施形態において、PB2の540位における前記残基は、K、R若しくはHであり、PB2の712位における前記残基は、D若しくはNであり、PAにおける180位における前記残基は、R、K又はHであり、PAにおける200位における前記残基は、A、I、L、G若しくはVであり、PB1における149位における前記残基は、A、T、I、L若しくはGであり、684位における前記残基は、D若しくはNであり、又はPB1における685位における前記残基は、E若しくはQである。
【0071】
例えば、9セグメントインフルエンザA型又はB型ウイルスのセグメントの内の1つにおける、8つのウイルスセグメントの内の1つにおける、又は7セグメントウイルスにおけるセグメントの内の1つにおける、例えば、付加的なインフルエンザセグメント中におけるものであってもよい対象の治療遺伝子又は予防遺伝子についての異種配列は、癌関連抗原又は細菌、非インフルエンザウイルス、真菌などの病原体についての免疫原であってもよい。一実施形態において、本開示のインフルエンザウイルスは、インフルエンザウイルスのための、及びウイルス性病原体若しくは細菌性病原体などの少なくとも1つの他の病原体のための、或いはインフルエンザウイルス以外の病原体であって、レンチウイルス、例えばHIV、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、例えばCMV若しくはHSV、口蹄疫ウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、ムンプスウイルス、ヒトライノウイルス、パラインフルエンザウイルス、例えば呼吸系発疹ウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス1型、コロナウイルス、ニパウイルス、ハンタウイルス、日本脳炎ウイルス、ロタウイルス、デング熱ウイルス、西ナイルウイルス、肺炎連鎖球菌、ヒト結核菌、百日咳菌又はインフルエンザ菌を含むが、限定されるものではない病原体のためのワクチンベクターであってもよい。例えば、本開示の生物学的に含まれるインフルエンザウイルスは、麻疹ウイルスのHタンパク質、風疹ウイルスのウイルス外膜タンパクE1、ムンプスウイルスのHNタンパク質、ヒトライノウイルスのRVキャプシドタンパク質VP1、呼吸系発疹ウイルスのGタンパク質、コロナウイルスのSタンパク質、ニパウイルスのGタンパク質若しくはFタンパク質、ハンタウイルスのGタンパク質、日本脳炎ウイルスのEタンパク質、ロタウイルスのVP6、デングウイルスのEタンパク質、西ナイルウイルスのEタンパク質、肺炎連鎖球菌のPspA、ヒト結核菌由来のHSP65、百日咳菌のIRP1-3、或いはインフルエンザ菌のヘム利用タンパク質、保護表面抗原D15、ヘム結合性タンパク質A又は外膜タンパク質P1、P2、P5若しくはP6についての配列を含んでもよい。遺伝子治療ベクターは、例えば、癌、エイズ、アデノシンデアミナーゼ、筋ジストロフィー、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症及び中枢神経系腫瘍又は病原体を阻害するか又は処置するために有用な異種配列を含んでもよいか、又はその抗体若しくは断片、例えばscFv若しくは単一鎖抗体をコードしてもよい。
【0072】
医薬組成物
接種、例えば経鼻投与、非経口投与又は経口投与のために適切な本開示の医薬組成物は、1以上のインフルエンザウイルス分離株、例えば、1以上の弱毒化若しくは不活化インフルエンザウイルス、それらのサブユニット、それらの(1又は複数の)分離されたタンパク質、及び/又はそれらの1以上のタンパク質をコードする分離された核酸を含み、滅菌された水溶液又は非水溶液、懸濁剤及び乳剤を場合によりさらに含む。前記組成物は、本技術分野において知られている通りの補助剤又は賦形剤をさらに含むことができる。本開示の前記組成物は、概して個別の用量(単位用量)の形態で示される。
【0073】
概して、従来のワクチンは、それらの組成物中に入る株の各々に由来するHAを、約0.1~200μg、例えば、30~100μg、0.1~2μg、0.5~5μg、1~10μg、10μg~20μg、15μg~30μg、又は10~30μg含有する。本開示のワクチン組成物の主要成分を形成するワクチンは、単一のインフルエンザウイルス又はインフルエンザウイルス、例えば、1以上の(1又は複数の)再集合体を含む少なくとも2種又は3種のインフルエンザウイルスの組み合わせを含んでもよい。
【0074】
非経口投与のために調製物は、本技術分野で知られている補助剤又は賦形剤を含んでもよい滅菌された水溶液若しくは非水溶液、懸濁剤及び/又は乳剤を含む。非水溶媒の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、及びエチルオレエートなどの注射用有機エステルがある。皮膚透過性を増加させ、抗原吸収を増強するために、担体又は閉鎖包帯を用いることができる。概して、経口投与のための液体投与形態は、前記液体投与形態を含むリポソーム溶液を含んでもよい。リポソームを懸濁するための適切な形態は、本技術分野において一般に用いられる不活性希釈剤、例えば精製水を含有する乳剤、懸濁剤、溶剤、シロップ剤及びエリキシル剤を含む。前記不活性希釈剤の他に、そのような組成物は、アジュバント、湿潤剤、乳化剤及び懸濁化剤、又は甘味剤、着香剤若しくは付香剤を含むこともできる。
【0075】
本開示の組成物は、個体に対する投与のために用いられる場合、塩、緩衝剤、アジュバント、又は前記組成物の有効性を向上させるために望ましい他の物質をさらに含むことができる。ワクチンのために、アジュバント、特異的免疫応答を増大させることができる物質を用いることができる。通常、前記アジュバント及び前記組成物は、免疫系に対する提示の前に混合されるか、又は別々にではあるが、免疫対象の生物の同じ部位へ提示される。
【0076】
少なくとも2種のインフルエンザウイルス株、例えば2~20の株又はその中の任意の範囲若しくは値について複製されたインフルエンザウイルスを混合することによって、ワクチンの不均一性が提供されてもよい。ワクチンは、本技術分野で知られている技術を用いて、インフルエンザウイルスの単一の株における変異について提供され得る。
【0077】
本開示にかかる医薬組成物は、少なくとも1つの化学療法化合物、例えば遺伝子治療のために、免疫抑制剤、抗炎症剤又は免疫増強剤、及び、ワクチンのために、ガンマグロブリン、アマンタジン、グアニジン、ヒドロキシベンゾイミダゾール、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、腫瘍壊死因子-アルファ、チオセミカルバゾン(thiosemicarbarzones)、メチサゾン、リファンピン、リバビリン、ピリミジン類似体、プリン類似体、フォスカーネット、ホスホノ酢酸、アシクロビル、ジデオキシヌクレオシド、プロテアーゼ阻害剤又はガンシクロビルが挙げられるが、それらに限定されるものではない化学療法剤を、さらに又は付加的に含んでもよい。
【0078】
前記組成物は、安全であることが分かっており、前記組成物が投与される生物における望ましくない効果に寄与しない、可変量であるが少量のエンドトキシン不含ホルムアルデヒド、及び保存剤を含むこともできる。
【0079】
医薬目的
前記組成物(又はそれが誘発する抗血清)の投与は、「予防」又は「治療」目的のいずれかのためのものであってもよい。ワクチンである本開示の前記組成物は、予防的に提供される場合、病原体感染の病徴又は臨床徴候が明らかになる前に提供される。前記組成物の予防的投与は、いかなる後続の感染も予防するか又は弱める役割を果たす。本開示の前記遺伝子治療組成物は、予防的に提供される場合、疾患のいずれの病徴又は臨床徴候が明らかになる前に提供される。前記組成物の予防的投与は、前記疾患に関連する1以上の病徴又は臨床徴候を予防するか又は弱める役割を果たす。
【0080】
ウイルスワクチンは、治療的に提供される場合、実際の感染の病徴又は臨床徴候の検出の際に提供される。前記(1又は複数の)化合物の治療的投与は、いずれの実際の感染も弱める役割を果たす。遺伝子治療組成物は、治療的に提供される場合、前記疾患の病徴又は臨床徴候の検出の際に提供される。前記(1又は複数の)化合物の治療的投与は、その疾患の病徴又は臨床徴候を弱める役割を果たす。
【0081】
したがって、本開示のワクチン組成物は、感染の発症の前に(予想される感染を予防するか、又は弱めるように)、又は実際の感染の開始の後に提供されてもよい。同様に、遺伝子治療のために、前記組成物は、障害若しくは疾患の任意の病徴若しくは臨床徴候が明らかになる前に、又は1つ以上の病徴が検出された後に提供されてもよい。
【0082】
組成物は、その投与がレシピエント哺乳動物によって忍容性を示され得る場合、「薬理的に許容し得る」と考えられる。そのような剤は、投与される量が生理学的に重要である場合、「治療上有効量」で投与されると考えられる。本開示の組成物は、その存在がレシピエント患者の生理機能の検出可能な変化をもたらす、例えば、感染性インフルエンザウイルスの少なくとも1つの株に対する少なくとも1つの一次的又は二次的な体液性免疫応答又は細胞免疫応答を増強する場合、生理学的に重要である。
【0083】
提供される「保護」は、絶対である必要はなく、すなわち、インフルエンザ感染は、哺乳動物の対照の集団又は組と比較して統計学的に有意な改善がある場合、全体として予防されるか又は根絶される必要はない。保護は、インフルエンザウイルス感染の病徴又は臨床徴候の重症度又は発現の迅速性を軽減することに限定されてもよい。
【0084】
医薬投与
本開示の組成物は、受動免疫又は能動免疫によって1以上の病原体、例えば1以上のインフルエンザウイルス株に対する耐性を付与してもよい。能動免疫において、弱毒化生ワクチン組成物は、予防的に宿主(例えば、哺乳動物)に投与され、投与に対する宿主の免疫応答によって、感染及び/又は疾患に対する保護が行われる。受動免疫のために、誘発された抗血清を回収して、少なくとも1つのインフルエンザウイルス株によって引き起こされる感染があることが疑われるレシピエントに投与することができる。本開示の遺伝子治療組成物は、能動免疫によって予防レベル又は治療レベルの所望の遺伝子産物を産生してもよい。
【0085】
一実施形態において、前記ワクチンは、(胎盤にわたるか、又は母乳中の抗体の受動的組み込みによって)雌及び胎児又は新生児を保護する役割を果たす免疫応答を生じさせるために充分な時間及び量の条件下で、(妊娠又は出産の時又は前に)雌性哺乳動物に提供される。
【0086】
したがって、本開示は、障害又は疾患、例えば、病原体の少なくとも1つの株による感染を予防するか、又は弱める方法を含む。本明細書において用いられる場合、ワクチンは、その投与が、疾患の臨床徴候若しくは状態を全体的若しくは部分的に弱めること(すなわち、抑制)が生じるか、又は疾患に対する個体の全免疫若しくは部分免疫が生じる場合、疾患を予防するか、又は弱めると考えられる。本明細書において用いられる場合、遺伝子治療組成物は、その投与が、疾患の臨床徴候若しくは状態を全体的若しくは部分的に弱めること(すなわち、抑制)が生じるか、又は疾患に対する個体の全免疫若しくは部分免疫が生じる場合、疾患を予防するか、又は弱めると考えられる。
【0087】
弱毒化されたもの、1以上の他の分離ウイルス、その1以上の分離ウイルスタンパク質、その1以上のウイルスタンパク質をコードする1以上の分離核酸分子、又はそれらの組み合わせを含む、本開示の少なくとも1つのインフルエンザウイルスを有する組成物は、意図された目的を達成する任意の手段によって投与されてもよい。
【0088】
例えば、そのような組成物の投与は、皮下経路、静脈内経路、皮内経路、筋肉内経路、腹腔内経路、鼻腔内経路、経口経路又は経皮経路などの各種非経口経路によるものであってもよい。非経口投与は、ボーラス注射によって、又は経時的な漸進的潅流によって達成され得る。
【0089】
インフルエンザウイルス関連病理を予防、抑制又は処置するための典型的なレジメンは、最高で1週間~約24ヵ月間又はその中の任意の範囲若しくは値を含む期間にわたって、単回処置として投与されるか、又は増強用量若しくは追加免疫用量として反復される、本明細書に記載されている通りの有効量のワクチン組成物の投与を含む。
【0090】
本開示によれば、「有効量」の組成物は、所望の効果を達成するために充分なものである。有効投与量は、レシピエントの種、年齢、性別、健康及び体重、併用処置の種類、もしあるのならば、処置の頻度、並びに望まれる効果の性質に依存していてもよいことが理解される。以下で提供される有効用量の範囲は、本発明を限定することを意図するものではなく、用量範囲を示すものである。
【0091】
哺乳動物成体生物などの動物のための生弱毒化又は死滅ウイルスワクチンの用量は、約102~1020、例えば、103~1012、102~1010、105~1011、106~1015、102~1010若しくは1015~1020プラーク形成単位(PFU)/kg、又はその中の任意の範囲若しくは値であってもよい。例えば不活化ワクチンにおける1つのウイルス分離株ワクチンの用量は、約0.1~1000の範囲、例えば、0.1~10μg、1~20μg、30~100μg、10~50μg、50~200μg、又は150~300μgのHAタンパク質であってもよい。しかし、前記用量は、出発点として既存のワクチンを用いて従来の方法によって決定される通りの安全で且つ有効な量であるべきである。
【0092】
複製ウイルスワクチンの各用量における免疫活性HAの用量は、適切な量、例えば、0.1μg~1μg、0.5μg~5μg、1μg~10μg、10μg~20μg、15μg~30μg、若しくは30μg~100μg、又はその中の任意の範囲若しくは値、又は政府機関若しくは認識された専門組織によって推奨された量を含むために標準化されてもよい。しかし、NAの量を標準化することも可能であり、この糖タンパク質は、精製及び貯蔵の間に不安定であり得る。
【0093】
複製ウイルスワクチンの各用量における免疫活性HAの用量は、適切な量、例えば1~50μg又はその中の任意の範囲若しくは値、又は、通常、3歳超の年長の小児については1成分当たり15μg、3歳未満の小児については1成分当たり7.5μgである、アメリカ合衆国公衆衛生局(PHS)によって推奨される量を含むために標準化され得る。しかし、NAの量を標準化することも可能であるが、この糖タンパク質は、処理装置精製及び貯蔵の間に不安定である可能性がある(Kendalら、1980;Kerrら、1975)。各0.5mL用量のワクチンは、約100,000,000~500,000,000個のウイルス粒子、500,000,000~2,000,000,000個のウイルス粒子、1,000,000,000~50,000,000,000個のウイルス粒子、1,000,000,000~10,000,000,000個のウイルス粒子、20,000,000,000~40,000,000,000個のウイルス粒子、1,000,000,000~5,000,000,000個のウイルス粒子、又は40,000,000,000~80,000,000,000個のウイルス粒子を含んでもよい。
【0094】
以下の非限定的な実施例によって、本発明をさらに説明する。
【実施例0095】
実施例I
方法
色-インフルエンザの作製
eCFP、eGFP、Venus及びmCherryを含む異なる蛍光レポータ遺伝子と融合させたPR8のNSセグメントを、Manicassamyら(2010)に記載されているように重複融合PCRによって構築した。手短に言えば、アミノ酸リンカーGSGGをコードしている配列によって、終止コドンを有さないNS1遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)を蛍光レポータ遺伝子のN末端と融合させた。蛍光レポータORFには、GSGリンカーをコードする配列、Manicassamyら(2010)におけるブタテシオウイルス-1に由来する57個のヌクレオチドを有する口蹄病ウイルスプロテアーゼ2A自己タンパク質分解部位、及び核外移行タンパク質(nuclear export protein)(NEP)のORFが続いた(
図5)。加えて、サイレント突然変異をNS1遺伝子の内在性スプライス受容部位に導入してスプライシングを抑止した(Baslerら、2001)。続いて、Newmannら(1999)に記載されているように、構築されたNSセグメント(eCFP-NS、eGFP-NS、Venus-NS及びmCherry-NSと呼ばれる)をリバースジェネティクスのためのpPolIベクターにクローニングした。Venusレポータタンパク質をコードするプラスミドは、A.Miyawaki博士(Laboratory for Cell Function Dynamics、理化学研究所 脳科学総合研究センター、和光、日本)からの寄贈であった(Nagaiら、 2002)。Newmannら(1999)に記載されているようにリバースジェネティクスシステムを用いてWT-Venus-PR8を作製した。WT-Venus-PR8病原性レベル及びVenus発現レベルがマウスにおいてかなり弱くなったので、マウスにおいてWT-Venus-PR8の継代を連続的に行った。6回の継代の後、病原性が増加し、Venus発現が強くなった変異体(MA-Venus-PR8)が得られた。MDCK細胞において、MA-Venus-PR8のストックが生成された。典型的には動物における連続的継代によって遺伝子的変異体から構成されるウイルス集団が生じるので、リバースジェネティクスを用いることによってMA-Venus-PR8を再形成した。同様に、MA-Venus-PR8と同じ遺伝子的骨格を有するMA-eCFP-PR8、-eGFP-PR8及び-mCherry-PR8を生成した。
【0096】
リバースジェネティクスによってVenus-HPAIウイルスを生成するために、A/Vietnam/1203/2004(H5N1;VN1203)のNSセグメントをPR8のVenus-NSと置換し、MA-Venus-PR8について記載されているように前記ウイルスをマウスに適応させた。MDCK細胞においてMA-Venus-HPAIウイルスのストックを作製した。各種蛍光タンパク質を担持するこれらのインフルエンザウイルスの組をまとめて「色-インフルエンザ」と称した。
【0097】
マウス実験
雌の6週齢のC57BL/6(’B6’)マウスを日本エスエルシー株式会社(静岡、日本)から購入した。セボフルラン麻酔下で50μLのPBS中において図のパネルに示された用量で色-インフルエンザウイルスをマウスに鼻腔内接種し、体重及び生存率を14日間モニタされた。図のパネルに示される時点で、ウイルス滴定、フローサイトメトリ分析及び組織学的実験のためにPBS接種マウス又は色-インフルエンザ感染マウスから肺を採取した。全ての動物実験は、東京大学動物実験委員会の規定に従って行われ、東京大学医科学研究所の動物実験委員会によって承認された。
【0098】
組織学的検査及び細胞診断
4%パラホルムアルデヒド(PFA)リン緩衝溶液中に肺を固定した。固定された組織をOCT化合物(サクラファインテック、東京、日本)の中に包埋し、液体N2によって凍結し、-80℃で貯蔵した。クライオスタット6μm切片を、1%BSA(PBS-BSA)を含有するPBSで30分間処置して非特異的結合を阻止し、次いで、フィコエリトリン(PE)-Mac3(M3/84、BD Biosciences、サンノゼ、カリフォルニア州)でインキュベートした。MDCK細胞の細胞診断を検討するために、細胞を色-インフルエンザウイルスに感染させ、次いで、4%PFAリン緩衝溶液中に固定した。核をHoechst33342(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)で染色した。NIS-Elementsソフトウェアによって制御される共焦点顕微鏡(Nikon A1、ニコン、東京、日本)を用いて、切片及び細胞を視覚化した。定量的多色撮像分析のために、InFormソフトウェア(PerkinElmer、ウォルサム、マサチューセッツ州)を有するNuance FX多スペクトル感応性イメージングシステムを有する倒立蛍光顕微鏡(Nikon Eclipse TS100)を用いることによってスライドを視覚化した。
【0099】
肺組織の全載標本化撮像
マウスを安楽死させ、心臓内にPBSを潅流させて肺から血液細胞を除去した。4%PFAリン緩衝溶液による気管内潅流の後に肺を分離した。製造業者の使用説明書に従ってSCALEVIEW-A2溶液(オリンパス、東京、日本)で肺組織をきれいにした。デジタルカメラ(DFC365FX、Leica Microsystems)を備えた立体蛍光顕微鏡(M205FA、Leica Microsystems、ウェッツラー、ドイツ)を用いることによって画像を取得した。
【0100】
二光子レーザ顕微鏡検査
合計で105PFUのMA-eGFP-PR8をB6マウスに鼻腔内接種した。肺マクロファージを標識するために、感染後Day3において、マウスに50μLのPE-CD11b(M1/70、BioLegend、サンディエゴ、カリフォルニア州)を静脈内注射した。抗体注射の30分後、マウスの肺を採取した。肺におけるeGFP陽性細胞及びPE陽性細胞のキネティクスを多光子顕微鏡(LSM 710 NLO、Carl Zeiss、オーバーコッヘン、ドイツ)で撮像した。分析の間、湿潤チャンバ(37℃、5%CO2)内で完全培地(10%ウシ胎仔血清を有するRPMI1640)中において肺を維持した。LSMソフトウェアZen2009(Carl Zeiss)でデータを処理した。HPAIウイルス感染肺組織の三次元撮像のために、B6マウスに105PFUのMA-Venus-HPAIウイルスを鼻腔内接種した。肺組織を、感染後Day2においてマウスから回収し、SCALEVIEW-A2溶液(オリンパス)で処置して、上記のように組織を透明にした。肺組織の三次元画像を多光子顕微鏡(Nikon A1R MP)から得た。
【0101】
フローサイトメトリ分析及び細胞選別
単細胞懸濁液を得るために、肺を、ナイロンフィルタ(BD Biosciences)によって組織を粉砕することによって、37℃で30分間、Collagenase D(Roche Diagnostics、マンハイム、ドイツ;終濃度:2μg/mL)及びDNase I(Worthington Biochemical、レークウッド、ニュージャージー州;終濃度:40U/mL)によって解離させた。RBC溶解緩衝剤(Sigma Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)による処置によって赤血球(RBC)を溶解した。抗体の非特異的結合を阻止するために、精製抗マウスCD16/32(Fc Block、BD Biosciences、サンディエゴ、カリフォルニア州)によって細胞をインキュベートした。蛍光抗体の適切な組み合わせによって細胞を染色して各免疫細胞サブセットの集団を分析した。以下の抗体、すなわち、抗CD45(30-F11:eBioscience、サンディエゴ、カリフォルニア州)、抗CD11b(M1/70:BioLegend)、抗F4/80(BM8:eBioscience)及び抗CD11c(HL3:BD Biosciences)を用いた。死滅細胞の排除のために7-アミノアクチノマイシンD(Via-Probe、BD Biosciences)によって全ての試料をインキュベートした。標識細胞からのデータを、FACSAria II(BD Biosciences)において取得し、FlowJoソフトウェアバージョン9.3.1(Tree Star、サンカルロス、カリフォルニア州)によって分析した。Venus陽性マクロファージ及びVenus陰性マクロファージを肺から分離するために、染色された細胞を、FACSAria II(BD Biosciences)を用いて選別した。
【0102】
マイクロアレイ分析
選別されたマクロファージのトータルRNAを、TRIzol試薬(Life Technologies、カールズバッド、カリフォルニア州)を用いて抽出し、イソプロパノールによって沈殿させた。製造業者の使用説明書に従って、Arcturus Riboamp Plus RNA Amplification Kit(Life technologies)を用いてRNA増幅を行った。RNAを、Agilent Low Input Quick Amp Labelingキット(1色)(Agilent Technologies、サンタクララ、カリフォルニア州)を用いることによって標識し、SurePrint G3 Mouse GE 8X60Kマイクロアレイ(Agilent Technologies)にハイブリダイズした。アレイをSureScan High-Resolution Technology(G2565CA;Agilent Technologies)を有するDNA Microarray Scannerで走査し、Agilent Feature Extractionソフトウェアバージョン10.7.3.1(Agilent Technologies)を用いてデータを取得した。プローブアノテーションは、Agilent Technologies(AMADID 028005)によって提供された。プローブ強度を、それぞれ標準指数法及び分位点法を用いて、バックグラウンド補正し、正規化した。次いで、強度のlog2を、対象の群を比較した線形モデルに当てはめた34。全ての報告されたp値を、Benjamini-Hochberg法を用いて複数の仮説比較のために調整した。調整されたp<0.01を伴う対比の間に平均プローブ強度の少なくとも2倍の変化があった場合、転写物が差次的に発現したと考えた。階層的クラスタリングをRにおいて行った。次いで、得られた遺伝子クラスタをToppCluster(Kaimalら、2010)で分析して、各クラスタにおいて強化された遺伝子アノテーションを同定した。報告されたスコアは、Benjamini-Hochberg調整p値の-log10である。
【0103】
ウエスタンブロット分析
MDCK細胞の全溶解物をSDS-ポリアクリルアミドゲル(Bio-Rad Laboratories、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)によって電気泳動にかけ、PVDF膜(Miilipore、ビルリカ、マサチューセッツ州)にトランスファーした。膜をBlocking One(ナカライテスク、京都、日本)でブロックし、ウサギ抗GFPポリクローナル抗体(MBL、名古屋、日本)、マウス抗NS1抗体(188/5)、A/WSN/33(H1N1)(R309)に対するウサギ抗血清又はマウス抗アクチン抗体(A2228;Sigma-Aldrich)でインキュベートした後、HR共役抗マウス又は抗ウサギIgG抗体(GE Healthcare、ウォーキショー、ウィスコンシン州)でインキュベートした。PBS-Tweenで前記膜を洗浄した後、ECL Plus Western Blotting Dectection System(GE Healthcareを用いて特異的タンパク質を検出した。VersaDoc Imaging System(Bio-Rad)を用いることによって特異的タンパク質バンドを視覚化した。
【0104】
結果
NS1オープンリーディングフレームに融合されたレポータタンパク質を発現する蛍光インフルエンザウイルスを生成するために、Venusを選択した(GFPと比較して発色団形成を向上させ、輝度を増加させるF46Lを含む8つの突然変異を有するGFP変異体)(Wagaiら、2002)。レポータタンパク質を発現するインフルエンザウイルスについての弱毒化の以前の知見に基づいて予想されるように(Kittelら、2004;Shinhyaら、2004)、Venus(WT-Venus-PR8)を発現するA/Puerto Rico/8/34(PR8;H1N1)ウイルスのマウス病原性は、野生型PR8(WT-PR8)よりも実質的に低く、感染マウスの50%が死滅するために必要な用量(MLD
50)は、WT-PR8についての10
2.5PFUと比較して、WT-Venus-PR8については10
4.5プラーク形成単位(PFU)超であった。C57BL/6(B6)マウスにおいて、WT-Venus-PR8の継代を連続的に行った。6回の連続的継代の後、変異体(MA-Venus-PR8と呼ばれる;赤血球凝集素タンパク質の380位におけるTからAへの突然変異とポリメラーゼサブユニットPB2の712位におけるEからDへの突然変異とを有する)は、WT-Venus-PR8と比較して、かなりより高い病原性(MLD
50=10
3.5PFU)を有することが同定されたが、元のPR8ウイルスよりも依然として病原性が低かった(
図1A)。マウス肺におけるMA-Venus-PR8の複製能を評価するために、10
4PFUのMA-Venus-PR8ウイルス又はPR8ウイルスをB6マウスに鼻腔内感染させた。試験された全ての時点において、肺ウイルス力価は、MA-Venus-PR8感染マウス及びPR8感染マウスについて同様であった(
図1B)。Venus発現の安定性を試験するために、感染マウス由来の肺ホモジェネートを用いてプラークアッセイを行い、感染後(p.i.)におけるDay3、Day5及びDay7の各々において150のプラークの内の1つのみがVenus陰性であることが分かったが、このことは、この組換えウイルスにおけるVenus発現の高遺伝的安定性を証明している。対照的に、NS1-GFPウイルスの70%のみがレポータタンパク質を発現した(Manicassamyら、2010)。MA-Venus-PR8の堅牢な毒性及び遺伝的安定性は、このウイルスが、インビボにおいてインフルエンザウイルス感染細胞を視覚化するための非常に魅力的なレポータシステムを表すことを示す。
【表1】
【0105】
撮像ツールとしての蛍光インフルエンザウイルスの多用性を増加させるために、異なるスペクトルGFP変異体、すなわち、eCFP(ex.434nm、em.477nm)及びeGFP(ex.489nm、em.508nm)を発現した付加的なMA-PR8変異体を生成した(Patterson、2001)。Venus(ex.515nm、em.528nm)よりも長い波長の蛍光を発するmCherry変異体(ex.587nm、em.610nm)(Nagaiら、2002;Shanerら、2004)も生成した。多スペクトル感応性蛍光レポータタンパク質をコードするこれらのインフルエンザウイルスは、まとめて「色-インフルエンザ」と呼ばれた。色-インフルエンザウイルスの病原性を決定するために、MA-eCFP、eGFP及びmCherry-PR8のマウス肺組織におけるウイルス力価及びMLD50値をMA-Venus-PR8及びMA-PR8と比較した。ウイルス株の全ては、肺における比較的高い複製を示し、MLD50値は、色-インフルエンザウイルスの中で同様であった(表1)。色-インフルエンザウイルスの蛍光発現の安定性を、プラークアッセイによってインビボ及びインビトロで試験した。感染後のDay7においてマウスの肺からウイルスを回収した場合、蛍光陽性プラークの割合は、98.0%(MA-eCFP-PR8)、100.0%(MA-eGFP-PR8)及び96.4%(MA-mCherry-PR8)であった。感染後の72時間後におけるMDCK細胞の培養培地からの試料中の蛍光陽性プラークの割合は、100.0%(MA-eCFP-PR8)、99.2%(MA-eGFP-PR8)及び98.2%(MA-mCherry-PR8)であることが分かった。加えて、MDCK細胞にMA-Venus-PR8ウイルスを感染させ、抗GFP抗体及び抗NS1抗体を用いることによってNS1-Venusキメラタンパク質を検出することによって、ウイルス感染細胞におけるNS1-蛍光タンパク質キメラの安定性を検討した。色-インフルエンザウイルスに感染させた細胞における分解産物からではなく、NS1-蛍光タンパク質キメラから蛍光シグナルを主に発することを示す、検討された時点(すなわち、感染後12時間)までNS1-Venusキメラタンパク質は分解されなかった。これらの知見は、色-インフルエンザウイルスの病原性及び安定性が、異なる蛍光レポータ遺伝子に影響されなかったことを示す。
【0106】
マウス肺における色-インフルエンザウイルスの発現を評価するために、我々は、色-インフルエンザウイルスの各々に感染させたB6マウスから肺を回収し、方法セクションにおいて記載されるように視覚化のためにそれらを処理した。全ての4つの色は、蛍光立体顕微鏡によって分析された場合、全透明肺組織において明確に視認可能だった(
図2A)。蛍光シグナルは、感染後のDay3において気管支上皮層内に主に認められた。感染後のDay5において、蛍光シグナルは、末梢肺胞領域に広がった。これらのデータは、全ての4つの色-インフルエンザウイルスが、マウス肺におけるインフルエンザウイルス感染細胞の分布を分析するために有用であることを示した。マウス肺における色-インフルエンザウイルスの発現を評価するために、色-インフルエンザウイルスの各々に感染されたB6マウスから肺を回収し、方法セクションにおいて記載されるように視覚化のためにそれらを処理した。全ての4つの色は、蛍光立体顕微鏡によって分析された場合、全透明肺組織において明確に視認可能だった(
図2A)。蛍光シグナルは、感染後のDay3において気管支上皮層内に主に認められた。感染後のDay5において、蛍光シグナルは、末梢肺胞領域に広がった。これらのデータは、全ての4つの色-インフルエンザウイルスが、マウス肺におけるインフルエンザウイルス感染細胞の分布を分析するために有用であることを示す。
【0107】
次に、全ての4つの色-インフルエンザウイルスの蛍光シグナルを同時に検出することができたかどうかを試験するために、Nuance(商標)スペクトルイメージングシステムを用いた。4つの株の混合物(各々総体積が50μLで2.5×10
4PFU)を鼻腔内接種したB6マウスから肺組織を回収した。感染後のDay2及びDay5において得られた肺切片の分析は、全ての4つの色-インフルエンザウイルスの蛍光シグナルが互いに識別可能だったことを示した(
図2B)。感染後のDay2において、気管支上皮細胞において同じ蛍光色のクラスタが認められたが、このことは、個別のウイルスの局所の広がりを示唆した。この時点で、限られた数の肺胞細胞が感染した。感染後のDay5において、我々は、単一の蛍光タンパク質を発現する肺胞細胞のクラスタを検出したが、このことは、単一のウイルスの感染の開始とその局所の広がりとを示した(
図2B)。興味深いことに、同時に2つ又は3つの蛍光タンパク質を発現する上皮細胞が、低頻度ではあるものの検出されたが、このことは、これらの細胞の同時感染を示唆している(
図2C)。インビボで異なるインフルエンザウイルスに同時感染した細胞を視覚化する能力は、技術の主要な進歩であり、インフルエンザ同時感染及び再集合処理に対する洞察を可能にすることになる。
【0108】
次に、感染に対する宿主応答の分析のために、色-インフルエンザウイルスの有用性を試験した。マクロファージが先天性免疫及びインフルエンザウイルス感染肺における急性炎症に関与しているので、共焦点顕微鏡法を用いることによってマクロファージ(PE-Mac3)に対する抗体で染色された肺切片を検討した。MA-Venus-PR8を有するマウスの感染後Day2におけるVenus陽性気管支上皮細胞を含むマクロファージ浸潤領域(
図3A);対照的に、模擬感染動物由来の肺の肺胞においてほんの少数のMac3陽性細胞だけが検出された。この知見に基づいて、マウス肺におけるインフルエンザウイルス感染上皮細胞及びマクロファージの間の相互作用をさらに試験するために、ライブイメージングを用いた。未処置B6マウスの肺組織において、二光子レーザ顕微鏡を用いることによってCD11b+肺胞マクロファージを検出した。観察期間(49分間;データは示されない)の間、これらのマクロファージのほとんどは移動しなかった(すなわち、ほとんど移動を示さなかった)。MA-eGFP-PR8ウイルスを感染させたマウスにおいて、多くのCD11b+マクロファージは、eGFP陽性上皮細胞に「付着する」と思われたが(データは示されない)、その上、これらのeGFP陽性上皮細胞の一部は、アポトーシス細胞と同様の小疱形成を示した。興味深いことに、多くのCD11b+マクロファージがeGFP陽性上皮細胞の周辺に迅速に移動したが、このことは、IFN又はケモカインなどの炎症シグナルに対するマクロファージ応答の可能性を示唆している。したがって、本システムは、ウイルス感染細胞及び免疫細胞の間のインビボにおける相互作用をモニタするために使用され得る。
【0109】
多くの研究は、インフルエンザウイルス感染マウスのトランスクリプトミクスプロファイル及びプロテオミクスプロファイルを評価してきた(Goら、2012;Zhaoら、2012)。これらの研究は全肺試料を用いたので、結果は、ウイルス感染細胞及びウイルス非感染細胞の合計であり、このことによって、宿主応答の希釈が生じ、非感染バイスタンダー細胞のプロファイルから感染細胞のプロファイルを区別することができなくなる。この欠点を克服するための第1のステップとして、MA-Venus-PR8に感染させたマウスの肺に由来するマクロファージ(インフルエンザウイルスが感染することが知られている(
図3B))を、それらの蛍光タンパク質発現と実施されたマイクロアレイ分析とに基づいて選別した。PBS(未処置マクロファージ)が接種されたマウスの肺から分離されたマクロファージは、対照としての役割を果たした。蛍光陽性マクロファージにおいて、6,199個の転写物が未処置マクロファージと比較して異なって発現した。対照的に、感染マウスから得られた蛍光陰性マクロファージにおいて、4,252個の転写物だけが、未処置マクロファージと比較して差次的に発現した。この差異は、活性インフルエンザウイルス感染によって誘導される遺伝子転写の差異を反映している可能性がある。しかし、感染動物から得られた蛍光陰性細胞集団は、蛍光シグナルがウイルス感染の早期ステージで期待されたようにまだ検出されていなかった感染細胞を含んでいた可能性があることに留意するべきである。実際、共焦点顕微鏡法によって、MDCK細胞の大部分において蛍光タンパク質発現を検出するのに9時間かかったことが明らかになった。各クラスタの機能的強化分析が続く差次的に発現した転写物の階層的クラスタリングは、感染動物から得られた蛍光陽性マクロファージ及び蛍光陰性マクロファージが、免疫応答、サイトカイン産生及び炎症に関連する経路の活性化を示すことを示した(
図3D、緑色クラスタ)。蛍光陰性細胞におけるこれらの経路の上方制御は、(上記で考察したように)感染細胞及び/又はウイルス感染の早期ステージにあった細胞から放出されたIFN及びサイトカインによる細胞活性化から生じた可能性があった。さらに、強化アノテーションのサブセット、例えば、I型IFN媒介シグナル伝達(
図3D、淡青色のクラスタ)は、蛍光陽性マクロファージにおいてより高く発現した転写物を含んだ。加えて、I型IFN遺伝子は、蛍光陽性マクロファージにおいて最も上方制御された転写物の中のものであったことが認められた(
図3E)。まとめると、この増強されたI型IFN活性は、蛍光陽性細胞は感染したが、蛍光陰性細胞は非感染(しかし潜在的に「刺激された」)細胞及びインフルエンザウイルス感染の早期ステージにおける細胞の両方を含んだという示唆と一致している。実際、色-インフルエンザウイルスによる感染後の蛍光タンパク質発現を検出するのに少なくとも5時間かかったが、蛍光タンパク質(すなわち、eCFP、eGFP、Venus及びmCherry)の全てが、感染後の9時間後までに細胞の大部分において検出可能だった。これらの知見は、レポータタンパク質陽性細胞の遺伝子発現(又は他の型の発現)パターンを(放出されたサイトカインによって潜在的に刺激され、且つ/又は感染の早期ステージである)レポータタンパク質陰性細胞と比較する感染性疾患研究における新しい方法を開く。
【0110】
最終的に、実施例IIでさらに詳細に考察されるように、マウス適応蛍光インフルエンザウイルスの概念を高病原性トリインフルエンザA型(H5N1)(HPAI)ウイルスなどの他のインフルエンザウイルス株に適用することが可能であったかどうかについて試験したが、それらは、それらがヒトにもたらす脅威によって優先研究である。MA-Venus-PR8を作製するために用いられた同じ戦略を用いてA/Vietnam/1203/2004(VN1203;H5N1)に基づいたMA-Venus-HPAIウイルスを生成したが、VN1203 NS遺伝子を有するVenusウイルスはマウスにおける病原性に寄与しなかったので、NS1-Venusキメラタンパク質を発現するためにPR8 NS遺伝子を用いた。B6マウスについてのMA-Venus-HPAIウイルスの病原性はVN1203と同等であり、両ウイルスについてのMLD
50値は5PFU未満であった(
図4A及びHattaら、2007)。MA-Venus-HPAIウイルスは、全身に広がる能力も他のHPAIウイルスと共有し、脾臓、腎臓及び脳を含む各種器官の複製する(
図4B及びHattaら、2007)。その上、MA-Venus-HPAIウイルス感染細胞が発した強い蛍光シグナルを利用して、肺組織内部の深いHPAIウイルス感染気管支の三次元画像を構築することに成功した(
図4C及びデータは示されない)。この型の三次元撮像分析によって、インフルエンザウイルス感染気管支の空間的分布の理解が向上することになる。HPAIウイルスとPR8感染肺との間でウイルス感染細胞の分布を比較する場合、HPAIウイルスは、PR8よりも迅速に気管支上皮から肺胞部位まで広がることが分かった(
図4C及び
図4D)。フローサイトメトリ分析を用いることによって、CD45陰性非造血細胞及びF4/80陽性マクロファージは、MA-Venus-PR8が接種された動物の肺よりもMA-Venus-HPAIウイルスに感染させたマウスの肺においてVenusを頻回に発現したことが分かったが(
図4E及び
図4F)、このことは、H5N1 HPAIウイルスが、PR8よりも肺において重度の炎症応答を誘導するという知見を支持し、このことは、インフルエンザ病原性の比較試験のための色-インフルエンザウイルスの有用性を示す。
【0111】
考察
この研究において、細胞レベルでインフルエンザウイルス感染を研究するために色-インフルエンザウイルスを生成した。色-インフルエンザウイルスは、堅牢なウイルス複製、毒性、安定な蛍光タンパク質発現、及び同時に視覚化され得る一組の4つの異なる色を含む、既存のシステムを超えるいくつかの向上を組み合わせる。色-インフルエンザウイルスは、全てのインフルエンザウイルス株に適用可能である。これらの向上によって、感染細胞及びバイスタンダー細胞の全般的トランスクリプトミクス分析が可能になり、初めて、マウス肺におけるインフルエンザウイルス感染細胞のライブイメージングが可能になる。
【0112】
我々の元の構築体(すなわち、WT-Venus-PR8)を含む蛍光インフルエンザウイルスの以前のバージョン(Kittelら、2004;Shinyaら、2004)は、マウスにおいてかなり弱毒化された。これらの弱毒化された蛍光ウイルスは、初期標的細胞を同定するために依然として有用であり得る。しかし、これらの非常に弱毒化された非致死性ウイルスによって誘発された免疫応答は、マウス致死性親ウイルスの免疫応答とは著しく異なる可能性が最も高く、このことによって、病原性研究のためにそれらを用いることには問題がある。この問題は、マウスにおいてウイルスの継代を行うことによって解決された。この戦略は、2つの異なるインフルエンザウイルス株について成功したことが分かったが、このことは、その広い適用性を示唆している。以前に試験された蛍光インフルエンザウイルスの第2の欠点は、付加されたレポータタンパク質の遺伝的不安定性である(Manicassamyら、2010)。しかし、感染後のDay7におけるマウス肺試料から検討されたウイルスプラークの約100%がレポータタンパク質を発現した。
【0113】
蛍光レポータタンパク質は、蛍光プローブを用いて生きている動物における組織の撮像のために検出されるために「生物学的光学ウインドウ(650~900nm)」の中になければならないので(Weisslander、2001;Jobsis、1977)、現在、生きている動物において色-インフルエンザウイルスを非侵襲的にモニタすることはできず、mCherryを含む蛍光レポータタンパク質のいずれも、色-インフルエンザのレポータタンパク質の中で発光が最も長くなく、この生物学的光学ウインドウの内側にない。Heatonら(2013)は、生きている動物においてウイルス複製をモニタするために使用され得るルシフェラーゼレポータ発現インフルエンザウイルスを生成したが、このシステムは、あらゆる観察点において動物への基質の全身接種を必要とする。加えて、それらのイメージングシステム(IVIS(登録商標)システムに基づく)の分解能は、本システムによって我々が達成することが可能なインビボにおける細胞免疫機序の分析のために適切ではない。
【0114】
撮像分析のための新しい技術(Ghoznariら、2013)は、Nuance(商標)を用いることによって互いに区別され得る一組の4つの異なるインフルエンザ色変異体の発育を可能にしたが、ゆえに、それらの同時検出が可能になった。実際、我々の予備的研究は、2つ又は3つの異なる蛍光タンパク質を発現する肺上皮細胞を同定した(
図2C)。これは、1超のインフルエンザウイルス株に感染させたマウス肺細胞の最初の視覚化であり得る。将来の研究において、インフルエンザウイルス再集合を、ゆえに、1957年(Schaltissekら、1978;Kanaokaら、1989)、1968年(Schaltissekら、1978;Kanaokaら、1989)及び2009年(Smithら、2009;Itohら、2009)の流行性ウイルスなどの新規インフルエンザウイルスの生成をよりよく理解するために重要であり得るインビボにおけるウイルス同時感染の頻度などのインフルエンザウイルス研究における長期の疑問に対処するためにこれらの色変異体を用いることが可能であった。
【0115】
記載されているツールセットを用いることによって、マウスの全肺組織においてインフルエンザウイルス感染細胞を検出したが、それによって、肺におけるインフルエンザウイルスの位置及び分布の観察が可能になった。その上、免疫細胞とのウイルス感染上皮細胞の相互作用が観察された。そのような研究によって、急性気管支炎から、高病原性インフルエンザウイルス感染のかなりの罹患率及び死亡率を引き起こす重度のウイルス性肺炎へのインフルエンザ疾患進行の直接モニタリングが可能になる(Gambottoら、2008;Shiehら、2009)。
【0116】
結論として、高度な撮像技術と組み合わせた色-インフルエンザウイルスによって、動物の細胞レベルにおける検出が可能になる。
【0117】
実施例II
実施例Iにおいて開示されたように、リバースジェネティクスを用いて、Venus(Nagaiら、2002)(eGFPの変異体)レポータ遺伝子を有するH5N1型ウイルス(野生型Venus-H5N1型ウイルスと呼ばれる、WT-Venus-H5N1ウイルスと略記される)を調製したが、このウイルスは、マウスにおいて中等度の毒性及び低いVenus発現を示した。マウスにおける6回の継代の後、インビボにおいて高レベルのVenusを安定して発現し、マウスにとって致死性であったマウス適応Venus-H5N1型ウイルス(MA-Venus-H5N1ウイルスと略記される)を取得し、感染マウスの50%を死滅させるために必要な用量(MLD50)は、3.2プラーク形成単位(PFU)であったが、その親WT-Venus-H5N1ウイルスについては103PFUであった。しかし、毒性及びVenus安定性のこの差異についての機序は不明だった。
【0118】
この研究において、マウスにおけるVenus-H5N1型ウイルスの毒性及びVenus安定性を決定する分子機序を探究した。リバースジェネティクスを用いることによって、WT-Venus-H5N1ウイルス及びMA-Venus-H5N1ウイルスの間の各種再集合体を救出し、マウスにおけるそれらの毒性を検討して病原性についての決定因子を同定した。さらに、インビトロ及びインビボにおけるVenus発現及びVenus安定性についての決定因子を検討した。前記知見は、哺乳動物におけるインフルエンザウイルスの病原性の理解を進め、インフルエンザウイルス関連ワクチン及びインフルエンザウイルス関連治療の開発に有益であった。
【0119】
材料及び方法
細胞。10%ウシ胎仔血清を有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中においてヒト胎児腎臓293及び293T細胞を維持し、5%新生児ウシ血清が補充された最小必須培地(MEM)中においてマジンダービーイヌ腎臓(MDCK)細胞を維持した。5%CO2において37℃で全ての細胞をインキュベートした。
【0120】
プラスミドの構築。Neumannら(1999)に記載されているように、ウイルス救出のためのプラスミドを構築した。ウイルスポリメラーゼ活性を測定するために、インフルエンザウイルスのPB1、PB2、PA及びNPのオープンリーディングフレームを遺伝子特異的プライマーでPCRによって増幅し、pCAGGS/MCSタンパク質発現プラスミドにクローニングした(Diasら、2009)。以下にプライマー配列を示す。
【表2】
【0121】
前記構築体の全てを完全に配列決定して、望ましくない突然変異が存在しないことを保証した。
【0122】
プラスミド系リバースジェネティクス。以前に記載されているように(Murakami、2008;Ozawaら;2007)、プラスミド系リバースジェネティクスを用いてインフルエンザA型ウイルスを生成した。MDCK細胞におけるプラークアッセイを用いることによって、救出ウイルスのウイルス力価を決定した。全ての救出ウイルスを配列決定して、望ましくない突然変異が存在しないことを確認した。
【0123】
マウス実験。本研究において、6週齢の雌性C57/BL6(B6)マウス(日本エスエルシー株式会社、静岡、日本)を用いた。マウスにおけるウイルス複製を測定するために、各群において6匹のマウスをイソフルランで麻酔し、次いで、105PFU(50μL)のウイルスを鼻腔内接種した。感染後(p.i.)のDay1及びDay3において、3匹のマウスを安楽死させ、肺、腎臓、脾臓及び脳を含むそれらの器官を回収し、MDCK細胞において滴定した。前記ウイルスの50%マウス致死用量(MLD50)を決定するために、各群からの4匹のマウスにそれぞれ100~105PFU(50μL)のウイルスを含む10倍の系列希釈を鼻腔内接種した。体重及び生存率を、14日間、毎日モニタした。Reed及びMuench(1938)の方法を用いることによって、前記MLD50を算出した。全てのマウス実験は、東京大学の動物実験委員会の規定に従って行われ、医科学研究所(東京大学)の動物実験委員会によって承認された。
【0124】
マウス及びMDCK細胞におけるウイルス継代。実施例Iにおいて記載されているようにウイルスのマウス適応を行った。MDCK細胞におけるウイルス継代のために、0.0001の感染多重度(MOI)で、コンフルエントのMDCK細胞にウイルスを感染させた。感染後の48時間後(hpi)において、上清を回収し、MDCK細胞において滴定した。採取された新しいウイルスを用いて、次の継代のためのMDCK細胞に感染させた。この手法を5回繰り返した。
【0125】
増殖キネティクスアッセイ。各ウイルスを0.0001のMOIでサブコンフルエントのMDCK細胞の3つのウェルに接種した。前記細胞に0.3%のウシ血清アルブミン(BSA)及び1μg/mLのトシルスルホニルフェニルアラニルクロロメチルケトン(TPCK)トリプシンを含有するMEMを補充し、5%CO2において37℃でインキュベートした。感染後の示された時間で培養上清を採取した。MDCK細胞におけるプラークアッセイを用いることによって、異なる時点における上清のウイルス力価を決定した。
【0126】
ミニゲノムルシフェラーゼアッセイ。以前にMurakami(2008)及びOzawaら(2007)に記載されているように、二重ルシフェラーゼシステムを用いることによってポリメラーゼ活性をミニゲノムアッセイによって試験した。簡潔に言えば、ヒトRNAポリメラーゼIプロモータ(pPolI/NP(0)Fluc(0)、0.2μg)の制御下でホタルルシフェラーゼ遺伝子をコードするレポータvRNAを発現するプラスミド及び内部トランスフェクション対照としてウミシイタケルシフェラーゼをコードするpRL-null(Promega、0.2μg)によって、WT-Venus-H5N1ウイルス又はMA-Venus-H5N1ウイルス(各々0.2μg)に由来するNP、PB1、PB2及びPAについてのウイルスタンパク質発現プラスミドで293個の細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、Dual-Luciferase Reporter Assay System(Promega)によって細胞溶解物を調製し、GloMax96マイクロプレートルミノメータ(Promega)を用いることによってルシフェラーゼ活性を測定した。ウミシイタケルシフェラーゼ活性に対して前記アッセイを標準化した。全ての実験を3回行った。
【0127】
実験室施設。H5N1型ウイルスによる全ての研究は、農林水産省(日本)によってそのような使用のために承認された、東京大学(東京、日本)の増強されたバイオセーフティレベル3の封じ込め実験室内で行われた。
【0128】
統計分析。Rソフトウェア(www.r-project.org)(バージョン3.1)を用いることによってデータを分析した。単一の時点において回収される複数の群からの測定値の比較のために、我々は、1元配置分散分析を用いた後、テューキーの事後検定を用いた。異なる時点において独立して得られる測定値(すなわち、MDCK細胞において得られる、マウス由来のウイルス増殖曲線)との複数の群の比較のために、我々は、2元配置分散分析を用いた後、テューキーの事後検定を用いた。複数の群と従属的測定値との比較のために(すなわち、異なる時点において同じ培養物からアリコートが回収された細胞培養物におけるウイルス増殖7曲線)、RパッケージNLMEを用いて線形混合効果モデルをデータに適合させ、時間、ウイルス株及びこれらの2つの因子間の相互作用を考察した。次に、RパッケージPHIAを用いて、同じ時点で(例えば、感染後の24時間後における群_1対群_2、感染後の24時間後における群_1対群_3、感染後の24時間後における群_2対群_3)、ペアワイズ様式において株を比較するために、対比マトリックスを構築した。前記比較を個別に行ったので、多重比較を説明するためのホルムの方法を用いることによって最終的なp値を調整した。全ての場合において、我々がp値(又は調整されたp値)<0.05を得た場合、結果は統計学的に有意であるとみなした。
【0129】
配列分析。デフォルトパラメータ及び最高100の反復でMUSCLEプログラム(Edgar、2004)を用いることによってNCBI Influenza Virus DatabaseからのPB2配列及びPA配列をアラインメントした。Clustal X(Larkinら、2007)を用いることによってアラインメントを視覚化し、受託開発のPerlスクリプトを用いることによって特定位置におけるアミノ酸発生の頻度を決定した。
【0130】
結果
WT-Venus-H5N1ウイルス及びMA-Venus-H5N1ウイルスの間の比較。
実施例Iにおけるように、リバースジェネティクスを用いることによってA/Viet Nam/1203/2004(H5N1)(VN1203と略記される)のNSセグメントをVenus-PR8ウイルスのVenus融合NSセグメントと置換し、Venus蛍光レポータ遺伝子(WT-Venus-H5N1ウイルス)を発現したH5N1型ウイルスを取得した。マウスにおける病原性分析は、このウイルスが、10
3PFUのMLD
50値を有する親VN1203と比較して(VN1203について0.7PFUと比較して)マウスにおける弱毒化された毒性を示したことを示した(
図6A及び
図6B並びにHattaら(2007))。その上、主に呼吸器官で複製されるWT-Venus-H5N1ウイルス(表3)、及びそのVenus発現は、MDCK細胞(
図7)及びウイルス感染後のマウス(
図8)の両方において非常に弱かった。
【表3】
【0131】
マウスにおけるWT-Venus-H5N1ウイルスの6回の継代の後、MA-Venus-H5N1ウイルスを得た。MA-Venus-H5N1ウイルスは、3.2PFUのMLD
50でマウスに対して致死性だった(実施例I)。このウイルスは、マウスにおいて全身的に複製したが、感染後のDay1において、肺、脾臓及び腎臓において高ウイルス力価が検出され、感染後のDay3において、脳においてウイルスを検出することが可能であった(表3)。その上、我々は、MDCK細胞(
図7)及びマウス(
図8)においてMA-Venus-H5N1ウイルスの高Venus発現を検出した。ゆえに、WT-Venus-H5N1と比較して、MA-Venus-H5N1ウイルスは、マウスにおける非常により高い病原性と、より高い複製能とを示した。その上、このウイルスは、インビトロ及びインビボにおいて、その複製の間に高Venus発現を示した。
【0132】
マウス適応の間に生じた遺伝子突然変異を同定するために、MA-Venus-H5N1ウイルスのゲノムを配列決定し、WT-Venus-H5N1ウイルスのゲノムと比較した。アミノ酸レベルにおいて、それらのPB1遺伝子、PB2遺伝子、PA遺伝子、NA遺伝子、M2遺伝子及びNS1遺伝子において2つのウイルスの間に合計で7つの差異が見つかった(表4)。したがって、これらの7つの異なるアミノ酸の中の単一又は複数のアミノ酸変化は、これらの2つのウイルスの間のマウスの毒性及びVenus発現の差異に寄与する可能性がある。
【表4】
【0133】
PB2のV25A及びPAのR443Kは、マウスにおけるVenus-H5N1ウイルスの病原性及びVenus発現を決定する。
マウス適応後のVenus-H5N1ウイルスの毒性及びVenus発現の差異についての遺伝子的基準を検討するために、RG-MAウイルスと呼ばれたMA-Venus-H5N1ウイルスのためのリバースジェネティクスシステムを確立した。RG-MAウイルスは、その元のウイルス(MA-Venus-H5N1ウイルス)と同様の器官におけるウイルス力価、MLD
50値(
図6C、
図6D及び
図9)及びマウスにおけるVenus発現(
図9)を示した。
【0134】
WT-Venus-H5N1ウイルス及びMA-Venus-H5N1ウイルスの間における毒性及びVenus発現の差異の原因となるアミノ酸を同定するために、6つの単一遺伝子性組換えウイルスを生成したが、各々は、MA-Venus-H5N1ウイルスに由来するPB2遺伝子、PB1遺伝子、PA遺伝子、NA遺伝子、M遺伝子又はNS遺伝子とWT-Venus-H5N1ウイルスに由来する他の7つの遺伝子とを有した。MA-Venus-H5N1ウイルスのPB1遺伝子、NA遺伝子又はNS遺伝子(WT+MA-PB1、WT+MA-NA又はWT+MA-NSと呼ばれる)を含んだ組換えウイルスは、WT-Venus-H5N1(MLD
50、10
3PFU)と同様のマウスにおける病原性を示したが(
図9)、MA-Venus-H5N1のPB2遺伝子、PA遺伝子又はM遺伝子(WT+MA-PB2、WT+MA-PA又はWT+MA-Mと呼ばれる)を有する再集合体は、WT-Venus-H5N1よりも高いマウスにおける病原性を示した(
図9)。WT+MA-PB2及びWT+MA-PAは、WT-Venus-H5N1よりもマウス肺において効率的に複製したが、その上、WT+MA-PB2に感染させた3匹のマウスの内の2匹の脾臓においてウイルスが検出された。
【0135】
3つの単一遺伝子性組換えウイルスを生成することによって、MA-Venus-H5N1の毒性に対するWT-Venus-H5N1から誘導されたPB2遺伝子、PA遺伝子又はM遺伝子の効果を検討したが、各々は、WT-Venus-H5N1ウイルスに由来するPB2遺伝子、PA遺伝子又はM遺伝子と、MA-Venus-H5N1ウイルスに由来する残りのセグメントとを含む(MA+WT-PB2、MA+WT-PA又はMA+WT-Mと呼ばれる)。MA+WT-PB2及びMA+WT-PAのMLD
50値は、MA-Venus-H5N1(MLD
50、3.2PFU)よりも有意に高い10
2.3PFUであったが、マウスにおけるMA+WT-Mの毒性は、MA-Venus-H5N1と同様であった(
図9)。これらのデータは、PB2遺伝子及びPA遺伝子がマウスにおけるMA-Venus-H5N1ウイルスの病原性において役割を果たしたことを示唆する。
【0136】
マウスにおけるウイルス病原性に対するPB2遺伝子及びPA遺伝子の潜在的相乗効果を評価するために、WT-Venus-H5N1ウイルス骨格上にMA-Venus-H5N1[MA-(PB2+PA)]のPB2遺伝子及びPA遺伝子の両方を担持する再集合体とMA-Venus-H5N1ウイルス骨格上における逆再集合体と[WT+MA-(PB2+PA)及びMA+WT-(PB2+PA)と呼ばれる]を救出し、マウスにおける毒性について評価した。MA-Venus-H5N1ウイルスからWT-Venus-H5N1ウイルスへのPB2遺伝子及びPA遺伝子の置換は、3.2PFUのMLD
50値でマウスにおけるその毒性を有意に増強し(
図9)、マウスにおけるウイルスの広がり及び複製も増強したが、これはMA-Venus-H5N1ウイルスと同様であり、逆もまた同様であった。マウス適応後においてPB2及びPAに単一突然変異が存在すると仮定すると、これらのデータは、PB2のV25A及びR443KのPAがマウスにおけるMA-Venus-H5N1ウイルスの毒性に相乗的に寄与することを示す。
【0137】
MDCK細胞における上記の再集合体のVenus発現を確認した際、MA-PB2遺伝子がVenus発現を著しく増加させることが分かった(
図7)。加えて、肺におけるWT+MA-PB2ウイルスのVenus発現もかなり増強された(
図8)。MA-PAを含む他の単一遺伝子性置換は、Venus発現に影響を及ぼさなかったが、WT-Venus-H5N1ウイルス骨格上におけるMA-PB2及びMA-PAの二重置換は、WT-Venus-H5N1ウイルス及びWT+MA-PB2ウイルスによって達成されるものと比較してMDCK細胞及びマウス肺におけるVenus発現を増加させた(
図7及び
図8)。これらのデータは、PB2タンパク質のV25Aが、インビトロ及びインビボにおけるMA-Venus-H5N1ウイルスのVenus発現において不可欠な役割を果たし、PAタンパク質のR443Kが、Venus発現に対するPB2効果を増強することを示す。
【0138】
PB2タンパク質における25位におけるアミノ酸は、哺乳動物細胞におけるウイルス複製を有意に増強する。
これらのウイルスの複製能をMDCK細胞においてさらに検討し、MA-Venus-H5N1ウイルスが、RG-MAウイルスと同様の複製能を有し、WT-Venus-H5N1ウイルスよりも効率的に増殖し、MA-Venus-H5N1ウイルスの力価が、36hpi及び48hpiでWT-Venus-H5N1ウイルスの力価よりも有意に高かったことが分かった(
図10)。次いで、2つのウイルスの複製に対するPB2ウイルスセグメント及びPAウイルスセグメントの寄与を検討した。感染後のいくつかの時点におけるWT-Venus-H5N1ウイルスの力価と比較して、WT+MA-PB2及びWT+MA-(PB2+PA)の有意により高い力価が認められたが、それでも、WT+MA-PAの複製効率は、WT-Venus-H5N1ウイルスの複製効率と同等だった(
図10)。WT+MA-(PB2+PA)の力価は、36hpi及び48hpiでWT+MA-PB2の力価よりも高かったが、その差は統計学的に有意ではなかった(
図10)。これらの結果は、MA-PB2遺伝子がMDCK細胞におけるVenus-H5N1ウイルスの複製を増強し、この増加はMA-PAの存在下でさらに増強され得るが、MA-PA単独はMDCK細胞におけるウイルス複製を改変しないことを示す。
【0139】
マウス適応後のポリメラーゼ遺伝子における突然変異は、哺乳動物細胞におけるウイルスポリメラーゼ活性を減少させる。
ウイルスリボ核タンパク(RNP)複合体のポリメラーゼ活性は、ウイルスの複製及び毒性と相関してきた(Gabrielら、2005;Leungら、2010;Liら、2008;Salomenら、2006)。ルシフェラーゼ活性を測定することによって、WT-Venus-H5N1ウイルス又はMA-Venus-H5N1ウイルスに由来するPB1、PB2及びPAの8つのRNPの組み合わせの活性を決定した。マウス適合ウイルスのポリメラーゼ活性は、WT-Venus-H5N1ウイルスのポリメラーゼ活性よりも4倍近く低かった(
図11)。任意のMA遺伝子の置換は、WT-Venus-H5N1ウイルスのポリメラーゼ複合体の活性を減少させたが、MA-PB2及びMA-PAの二重置換を含む複合体のポリメラーゼ活性は、WT-Venus-H5N1ウイルスのポリメラーゼ活性と比較して有意に減少し、MA-Venus-H5N1ウイルスのポリメラーゼ活性と同様であった。これらの結果は、RNP複合体のポリメラーゼ活性がマウス適応後にとりわけ減少したことを示すが、このことは、増強された複製及び毒性と一致していない。
【0140】
インビトロ及びインビボにおけるVenus-H5N1ウイルスにおけるVenus安定性の分子決定因子。
インビトロにおけるWT-Venus-H5N1及びRG-MAウイルスにおけるVenus安定性を評価するために、MDCK細胞において2つのウイルスの継代を5回行った。これらの継代の間、RG-MAウイルスからではなく、WT-Venus-H5N1ウイルスからVenus陰性プラークを採取したが、これによって、Venus遺伝子がマウス適応後においてより安定していることが示唆された(表5)。このVenus安定性の分子決定因子を同定するために、MDCK細胞において各種再集合体の継代を5回行った。MA-PB1遺伝子、MA-NA遺伝子又はMA-M遺伝子を有する再集合体からVenus陰性プラークを取得したが、我々は、MA-PB2遺伝子、MA-PA遺伝子、MA-(PB2+PA)遺伝子又はMA-NS遺伝子を有するVenus-H5N1ウイルスの5回目の継代からいずれのVenus陰性プラークも得なかった(表5)。これらのデータは、MA-PB2遺伝子、MA-PA遺伝子及びMA-NS遺伝子がVenus安定性において役割を果たすことを示唆する。
【表5】
【0141】
Venus安定性に対するこれらの異なる遺伝子の役割をさらに評価するために、PCR及びNS特異的プライマーを用いることによって、異なる再集合体に由来する5回目の継代ストックのNSセグメントを増幅した。Venus-NSセグメント(1.9kb)を除いて、欠失したNSセグメントは、1kb未満のPR8のNSセグメントについてのレベルと同様のレベルで検出可能だった。WT-Venus-H5N1並びにMA-NA遺伝子及びMA-M遺伝子を有する再集合体の欠失NSセグメントは、他の再集合体の欠失NSセグメントよりも非常に明るかったが(
図12)、このことは、MA-NA遺伝子及びMA-M遺伝子がインビトロにおけるVenus安定性に寄与しないことをさらに含意する。RG-MAウイルス並びにMA-NS、MA-PA又はMA-PB2を有する再集合体はより安定していたが、より小さい程度ではあるがPCRを用いることによって欠失Venus-NSセグメントをなお増幅させた(
図12)。各種再集合体に由来する欠失NSセグメントを抽出し、配列決定し、異なる再集合体から異なる欠失形態を同定した(
図13)。
【0142】
加えて、インビボにおけるVenus安定性を検討するために、B6マウスに10
5PFUのWT-Venus-H5N1ウイルス、RG-MAウイルス又はWT+MA-(PB2+PA)ウイルスを接種した。マウスが死ぬ前に、感染後のDay4において肺を回収し、PBS中でホモジナイズした。上清をMDCK細胞内に接種し、48hpiでVenus陰性プラークを採取し、MDCK細胞において増幅させた。プラークのVenusシグナルは培養細胞の状態及び検出時間と相関する場合があるということに留意するべきである。ゆえに、増幅されたVenus陰性プラークのVenus発現をMDCK細胞において再確認して偽陰性を除外した。各肺から95個超のプラークを検出し、RG-MAウイルスに感染させた3匹のマウスの内の1匹からVenus発現がない1個のプラークだけを取得し、WT+MA-(PB2+PA)に感染させた3匹のマウスから12個のVenus陰性プラークを取得し、WT-Venus-H5N1ウイルスに感染させた各マウスから15個超のVenus陰性プラークを取得した(表6)。これらの結果は、WT-Venus-H5N1ウイルスがインビボにおいてこれらのウイルスで最も不安定であり、MA-Venus-H5N1ウイルスに由来するPB2遺伝子及びPA遺伝子が、MA-Venus-H5N1ウイルスにおいて生じるものよりも少ない程度であるが、Venus安定性を増強することを示す。ゆえに、PB1、PB2、PA及びNSにおける突然変異は、インビボにおけるMA-Venus-H5N1ウイルスのVenus安定性に相乗的に寄与する可能性がある。
【表6】
【0143】
考察
前に、マウスに対してより致死性となり、且つマウス適応後により安定することになったVenusレポータ遺伝子を発現する視覚化可能なH5N1ウイルスを構築した(実施例I)。この研究において、このウイルス(MA-Venus-H5N1)の全ゲノムを配列決定し、WT-Venus-H5N1ウイルス配列とは異なった7つのアミノ酸を同定した。これらの2つのウイルスの間のマウスにおける毒性及びVenus発現の差異についての分子決定因子を探究するために、リバースジェネティクスを用いて両ウイルスの一連の再集合体を生成した。PB2(V25A)及びPA(R443K)の二重突然変異は、マウスにおけるWT-Venus-H5N1の病原性を著しく増強することが分かった。PB2のV25Aも、MDCK細胞及びマウスにおけるVenus発現及びウイルス複製を有意に増加させ、PAのそのR443Kは、これらの効果をさらに増強した。異なる再集合体の安定性をインビトロにおいて検討し、MA-PB2、MA-PA又はMA-NSを有する再集合体がより安定していることが分かった。これらの結果は、PB2タンパク質及びPAタンパク質が、哺乳動物宿主におけるVenus発現H5N1ウイルスの病原性及びVenus安定性において役割を果たすことを示唆する。
【0144】
哺乳動物における高病原性H5N1トリインフルエンザウイルスの病原性は、複数のウイルス遺伝子によって決定される。例えば、HAタンパク質は、ニワトリ(Kawaoka及びWebster、1988)及び哺乳動物(Hattaら、2001;Suguitanら、2012)におけるH5サブタイプウイルスの全身複製及び致死性感染において重要な役割を果たす。H5N1ウイルスのHA遺伝子及びNS遺伝子も、フェレット(Imaiら、2010)における高毒性に寄与する。NS1タンパク質は、宿主の抗ウイルス性免疫応答を破壊するのに役立ち、マウスにおけるH5N1ウイルスの病原性のために必須である(Jiaoら、2005)。M1タンパク質における突然変異も、マウスにおけるH5N1ウイルスの毒性に影響を及ぼす(Fanら、2009)。PB2の627位及び701位におけるアミノ酸は、哺乳動物におけるH5N1インフルエンザウイルスの高毒性の主要な決定因子である(Hattaら、2001;Liら、2005)。最後に、PAタンパク質は、アヒル(Songら、2011)及びマウス(Huら、2013)におけるH5N1トリインフルエンザウイルスの毒性に寄与することが報告されている。ここで、PB2のV25A及びPAのR443Kは、マウスにおけるH5N1ウイルスの病原性に相乗的に寄与することが分かった。
【0145】
公開データベース(www.fludb.org)で入手可能なインフルエンザウイルス配列(23514のPB2タンパク質及び24240のPAタンパク質)の全てに基づいて、PB2における25V及びPAにおける443Rは極めて保存されるが、PB2における25Aは、2つのウイルス[A/Mallard/ON/499/2005(H5N1)、受入番号EF392844;及びA/Zhejiang/92/2009(H1N1)、受入番号CY095997]だけに存在し、PAにおける443Kは、ウズラから分離された1つの株[A/Quail/Shantou/1425/2001(H9N2)、受入番号EF154846]だけに存在することが分かった。マウスにおけるこれらのウイルスの毒性は不明であるが、本研究は、PB2における25A及びPAにおける443Kの組み合わせが、マウスにおけるウイルスの毒性の増加に寄与し、MA-Venus-H5N1ウイルスの固有の特性であることを最初に示唆するものである。
【0146】
インフルエンザA型ウイルスのRNAポリメラーゼは、PB1サブユニット、PB2サブユニット及びPAサブユニットからなり、ウイルスライフサイクルにおける多くの必須プロセスにおいて関連づけられる(Naffakhら、2005)。PB1は、ポリメラーゼ活性及びエンドヌクレアーゼ活性を行い、PB2は、キャップRNA認識の原因となり、PAは、RNA複製及びタンパク質分解活性に関与する(Obayasjoら、2005)。これらのポリメラーゼサブユニットの界面は、転写開始のために必須である(Heら、2008;Sugiyamaら、2009)。PB2タンパク質のN末端における残基1~37は、PB1タンパク質への結合において不可欠な役割を果たし、RNAポリメラーゼ活性に影響を及ぼし、これらの残基は、インフルエンザウイルスの全サブタイプの中で極めて保存される(Sugiyamaら、2009)。PB2の25位におけるアミノ酸は、そのPB1-結合ドメインの第3α-ヘリックス(アミノ酸25~32)の中に位置する(Sugiyamaら、2009)。本研究において、PB2における25位におけるアミノ酸は不安定であることが分かり、PB2におけるV25Aは、哺乳動物細胞及びマウスにおけるウイルス複製を増加させることによってマウスにおけるH5N1ウイルスの病原性がより高くなることが分かった。PAタンパク質のR443残基も複製活性において役割を果たし(Obayashiら、2008;Reganら、2006)、PAにおける突然変異R443Aは、感染性ウイルスの産生を阻止する(Reganら、2006)。本研究において、それらのPAタンパク質におけるR443Kを有する再集合体が救出され、PAにおけるR443Kがマウス肺におけるウイルス複製を増強することを示したが、このことは、それがマウスにおけるH5N1ウイルスの毒性であったことを強調する。したがって、本データは、インフルエンザウイルスについてのPAタンパク質の443位におけるアミノ酸の役割をさらに強調する。
【0147】
より初期の報告は、ウイルスRNP複合体のポリメラーゼ活性がウイルス複製及び毒性と厳密に相関することを示している(Gabrielら、2005;Leungら、2010;Liら、2008;Salomonら、2006)。哺乳動物細胞におけるより高いポリメラーゼ活性を有するウイルスは、マウス(Zhangら、2014)及びフェレット(Salomenら、2006)において、概して、より高い毒性を示す。しかし、高ポリメラーゼ活性を有するウイルスは、必ずしもマウスに対して致死性ではなく、このことは、その宿主におけるウイルスの高病原性があるレベルのポリメラーゼ活性を必要とする可能性があることを示唆する(Gabrielら、2005)。この研究において、MA-Venus-H5N1ウイルスは、その野生型対応物よりもマウスに対して致死性であるが、それでも、それは、ポリメラーゼ活性が非常により低く、MA-Venus-H5N1に由来するポリメラーゼ遺伝子とのいかなるRNP組み合わせも、活性がより低かったことが分かった。これらの結果は、vRNP複合体のポリメラーゼ活性がウイルスゲノムと厳密に相関し、ポリメラーゼ活性のより低いレベルがVenus-H5N1の再構築ゲノムに対してより適合性があり、このことがマウスにおけるその高い病原性に利益を与えることを含意している可能性がある。
【0148】
インビボにおける生きたままの撮像の開発によって、蛍光レポータ遺伝子を担持しているインフルエンザウイルスを視覚化する能力は、インフルエンザウイルス関連研究にとって大きな利益となるであろう(Heatonら、2013;Helftら、2012;Manicassamyら、2010;Panら、2013;実施例I)。この目的のための有効なウイルスは、良好な複製能を有するべきであり、その宿主においてかなりの病原性を示す。その上、それは、非常に且つ安定してその蛍光レポータタンパク質を発現するべきである。GFPレポータ遺伝子を担持するインフルエンザA型ウイルスを構築する多くの試みが報告されているが(Kittelら、2004;Manicassamyら、2010)、しかし、これらのウイルスの一部は、マウスにおける低い複製又は劣った病原性を示したが(Kittleら、2004)、一方で、一部は、比較的低い蛍光シグナルを生成したか、又はインビトロ及びインビボにおいてウイルス複製の間にGFPを安定して発現しなかった(Manicassamyら、2010)。本データは、マウスに対して高病原性のMA-Venus-H5N1ウイルスであるが、それも、インビトロ及びインビボにおいてVenus蛍光タンパク質を非常に且つ安定して発現することを示す。Venus発現及びVenus安定性の分子決定因子の本分析において、PB2におけるV25Aが、PAにおけるR443Kの存在によってさらに増強されたVenus発現の決定において役割を果たしたことが分かった。Venus安定性の分析によって、MA-PB1、MA-PB2、MA-PA又はMA-NSの単一遺伝子が、インビトロにおいてVenus安定性を決定するが、インビボにおいて、状況はより複雑であり、PB1、PB2、PA及びNSにおける突然変異は、MA-Venus-H5N1ウイルスにおけるVenus安定性を相乗的に共同で決定することが可能であることが明らかにされた。
【0149】
要約すると、マウスにおけるウイルスの病原性と、インビトロ及びインビボのおけるそのVenus発現及びVenus安定性とにおける重要な役割を果たす、マウス適応Venus-H5N1ウイルスにおける分子決定因子を同定した。これらの分子マーカーは、抗インフルエンザウイルス薬及びワクチンの開発における将来の研究に利益を与えるであろう。
【0150】
実施例III
材料及び方法
細胞及びウイルス。5%の新生児ウシ血清(神経皮膚NCS)を含有する最少必須培地(MEM)中においてマジンダービーイヌ腎臓(MDCK)細胞を維持した。10%ウシ胎仔血清(FCS)が補充されたダルベッコ変法イーグル培地中においてヒト胎児腎臓293T(HEK293T)及びHEK293細胞を維持した。リバースジェネティクスを用いることによってA/Puerto Rico/8/34(H1N1;PR8)(Horimotoら、2007)及び各NS1-Venus PR8ウイルスを生成し、L-(トシルアミド-2-フェニル)エチルクロロメチルケトン(TPCK)処置トリプシン(0.8μg/mL)及び0.3%ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma Aldrich)を含有するMEM中において、48時間、37℃で、MDCK細胞において増殖させた。
【0151】
マウスにおけるNS1-Venus PR8ウイルスの適応。6~8週齢の雌性C57BL/6マウス(Japan SLC)に50μLの2.3×106プラーク形成単位(PFU)のNS1-Venus PR8ウイルスを鼻腔内感染させた。肺を感染の3~6日後(dpi)に採取し、1mLのリン酸塩緩衝食塩水(PBS)中においてホモジナイズした。高い増殖能及びVenus発現を有するクローンを得るために、MDCK細胞を用いた肺ホモジェネートのプラーク精製を行った。大きな高いVenus発現プラークを採取し、クローニングされたウイルスを、37℃で、48時間、MDCK細胞において増殖させ、次いで、50μLの上清を次の継代のための接種物として用いた。これらの手法を6回繰り返した。
【0152】
配列分析。ウイルスRNAの配列分析を以前に記載されているように行った(Sakabeら、2011)。簡潔に言えば、QIAamp Viral RNA mini kit(QIAGEN)を用いることによってウイルスRNAを抽出し、ウイルスRNAの逆転写のためにSuperscript III(商標)逆転写酵素(Invitrogen)とウイルスRNAの3’末端において12-ヌクレオチド配列に対して相補的なオリゴヌクレオチド(Katzら、1990)とを用いた。Phusion High Fidelity DNAポリメラーゼ(Finnzymes)とPR8ウイルスの各セグメントに対して特異的なプライマーとによるPCRを用いることによって各セグメントを増幅した。PCR産物を精製し、ABI 3130xl(Applied Biosystems)を用いることによってそれらの配列を決定した。
【0153】
プラスミド構築及びリバースジェネティクス。リバースジェネティクスのために、及び、突然変異誘発のための鋳型として、ヒトRNAポリメラーゼIプロモータ及びマウスRNAポリメラーゼIターミネータの間におけるPR8遺伝子のクローニングされたcDNAを含むプラスミド(PolIプラスミドと称される)を用いた。部位特異的突然変異誘発を用いることによって、継代後にNS1-Venus PR8ウイルスにおいて見出された突然変異をPR8のプラスミド構築体に導入した(それぞれ、pPolIR-PR8-PB2-E712D及びpPolIR-PR8-HA-T380Aと称される)。以前に記載されているように(Neumannら、1999)、リバースジェネティクスを行った。TransIT-293トランスフェクション試薬(Mirus)を用いることによって、PR8から誘導されたPB2、PB1、PA及びNPについての真核生物タンパク質発現プラスミドと共に、8つのPolIプラスミドをHEK293T細胞にコトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に、上清を採取し、TPCK処置トリプシン(0.8μg/mL)及び0.3%BSAを含有するMEM中において、37℃で、48時間、MDCK細胞において一度増殖させた。4℃で、20分間、2,100×gで遠心分離によって細胞破片を除去し、上清を、使用まで、-80℃で貯蔵した。MDCK細胞を用いて、プラークアッセイによってウイルス力価を決定した。
【0154】
多核細胞形成アッセイ。修飾によって、以前に記載されているように(Imaiら、2012)、多核細胞形成アッセイを行った。10の感染多重度(MOI)において10%FCSを含有するDMEMにおいてNS1-Venus PR8 MAウイルスにおいて見出された赤血球凝集素(HA)突然変異を有する野生型PR8又はPR8を、24ウェルプレートにおいて増殖させたHEK293細胞に感染させた。感染の18時間後に、細胞を、0.3%BSAを含有するMEMで洗浄し、37℃で、15分間、0.3%BSAを含有するMEM中におけるTPCK処置トリプシン(1μg/mL)で処置して、HA1及びHA2に細胞表面上のHAを切断した。10%FCSを含有するDMEMで細胞を洗浄することによってトリプシンを不活化した。多核細胞形成を開始するために、37℃で、2分間、低pH緩衝剤(145mMのNaCl、20mMのクエン酸ナトリウム(pH6.0~5.4))に細胞を曝露させた。次いで、低pH緩衝剤を、10%FCSを含有するDMEMと交換し、37℃で、2時間、細胞をインキュベートした。次いで、細胞をメタノールで固定し、ギムザの溶液で染色した。デジタルカメラ(ニコン)が装着された顕微鏡を用いて写真画像を得た。
【0155】
ウエスタンブロット法。トリプシンなしで1のMOIで各ウイルスをMDCK細胞に感染させた。感染の12時間後にNovex(登録商標)Tris-Glycine SDS試料緩衝剤(Invitrogen)で細胞を溶解させ、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。次いで、タンパク質をトランスファー緩衝剤(100mMのTris、190mMのグリシン)中におけるPVDF膜にトランスファーした。膜ブロック化の後、我々の実験室において入手可能であったA/WSN/33(H1N1)(R309)に対するウサギ抗GFPポリクローナル抗体(MBL)又はウサギ抗血清によって膜をインキュベートした。この抗血清は、HA、NP及びマトリックスタンパク質(M1)を含むインフルエンザウイルスタンパク質と反応する。一次抗体によるインキュベーションの後、0.05%のTween-20(PBS-T)を含有するPBSで洗浄し、ECL(商標)抗ウサギIgG HRP結合完全抗体(GE Healthcare)によって膜をインキュベートした。最終的に、ECL Plus Western Blotting Detection System(GE Healthcare)を用いることによって特異的タンパク質を検出した。VersaDoc Imaging System(Bio-Rad)を用いて写真画像を得た。
【0156】
マウスにおけるウイルスの病原性及び複製。6週齢の雌性C57BL/6マウスに50μLの103、104又は105PFUの各ウイルスを鼻腔内感染させた。1群当たり4匹のマウスを、感染後の14日間、生存率及び体重の変化についてモニタした。1群当たり3匹のマウスに103PFUの各ウイルスを感染させ、示された日に前記マウスを安楽死させた。それらの肺を回収して、MDCK細胞におけるプラークアッセイによってウイルス力価を決定した。
【0157】
免疫蛍光アッセイ。6週齢の雌性C57BL/6マウスに50μLの104PFUの各ウイルスを鼻腔内に感染させた。示された日に1群当たりの3匹のマウスを安楽死させた。肺を固定するために、800μLの4%パラホルムアルデヒド(PFA)リン緩衝溶液を前記肺に気管内注射し、次いで前記肺を除去した。4℃で4時間の10mLの4%PFAによるインキュベーションの後、緩衝剤をPBS中における10%、20%及び30%のスクロースと段階的に交換した。次いで、肺をOptimum Cutting Temperature(OCT)Compound(Tissue-Tek)で包埋し、液体窒素で凍結した。凍結した切片(厚さ6μm)をPBS中における0.2%Triton X-100で透過処理し、4℃で12時間、一次抗体によってインキュベートした。一次抗体は、ヤギ抗クララ細胞10kDaのタンパク質(CC10)(サンタクルーズ、sc-9772)、ウサギ抗界面活性剤タンパク質C(SP-C)(サンタクルーズ、sc-13979)、ゴールデンシリアンハムスター抗ポドプラニン(eBioscience、eBio8.1.1)及びウサギ抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)(Sigma-Aldrich、C8198)であった。PBSで洗浄した後、切片を、室温で30分間、種特異的蛍光色素共役二次抗体によってインキュベートした。核をHoechst33342(Invitrogen)で染色した。Nikon A1共焦点顕微鏡(ニコン)を用いて切片を観察した。
【0158】
透明試料の調製。以前の報告(Hamaら、2012)に従って、SCALEVIEW A2(オリンパス)を用いることによって透明試料を調製した。6週齢の雌性C57BL/6マウスに50μLの105PFUの各ウイルスを鼻腔内感染させた。示された日に心臓内潅流を行い、4℃で4時間、PBS中における4%PFAで肺を固定した。肺を、上記のようにPBS中における10%、20%及び30%のスクロースによってインキュベートし、OCT化合物で包埋し、液体窒素で凍結した。試料を解凍し、PBSで濯いだ後、室温で30分間、PBS中における4%PFAで再び固定した。次いで、肺をSCALEVIEW A2にトランスファーし、4℃で、少なくとも2週間インキュベートした。SCALEVIEW A2を2~3日毎に交換した。デジタルカメラ(DFC365FX)及びフィルタGFP3(480/40LP510)を装着した立体蛍光顕微鏡(Leica M205FA)を用いることによって、透明試料を観察した。
【0159】
フローサイトメトリ。単細胞懸濁液を調製するために、肺を鋏で切り刻み、37℃で30分間、20mgのコラゲナーゼD(Roche)及び200単位のDNアーゼ(Worthington)によって消化させた。次いで、試料を100μm細胞濾過器に通し、赤血球溶解緩衝剤(Sigma Aldrich)によって赤血球を溶解させた。以下の抗体、すなわち、アロフィコシアニン共役の抗F4/80(eBioscience、BM8)、アロフィコシアニン-シアニン7共役抗CD11b(BioLegend、M1/70)、フィコエリトリン-シアニン7共役抗CD11c(BD PharMingen、HL3)及びeFluor450共役CD45(eBioscince、30-F11)の組み合わせで単細胞懸濁液を染色した。死滅した細胞をバイアプローブ(Becton Dickinson)で染色した。染色された試料をFACSAria II(Becton Dickinson and Company)及びFlowJoソフトウェア(TreeStar)によって分析した。
【0160】
RNAの分離及び完全性。3つのプールされた肺に由来するVenus陽性細胞及びVenus陰性細胞をTRIzol Reagent(Invitrogen)において回収した。担体としてのグリコーゲンによるイソプロパノール沈殿によってトータルRNAを抽出した。UV260/280吸光度比を決定し、製造業者の使用説明書に従ってAgilent2100バイオアナライザ(Agilent Technologies)によって28S/18SリボソームRNAバンドを検討することによって、分離されたトータルRNAの完全性を評価した。
【0161】
マイクロアレイ分析。Arcturus(登録商標)Riboamp(登録商標)Plus RNA Amplification Kit(Life technologies)を用いることによって、40ナノグラムのトータルRNAを増幅した。製造業者の使用説明書に従って、Agilent Low Input Quick Amp Labeling kit(one color)(Agilent Technologies)を用いることによって、Cy3標識相補的RNAプローブ合成を100ngのトータルRNAによって開始した。Agilent SurePrint G3 Gene Mouse GE 8×60Kマイクロアレイも用いた。スライドをAgilentのHigh-Resolution Microarray Scannerで走査し、Agilent Feature Extractionソフトウェアバージョン10.7.3.1を用いることによってイメージデータを処理した。続いて、全てのデータをデータ分析のためのGeneSpring GXバージョン12.5にアップロードした。データ分析のために、各遺伝子発現アレイデータセットを、PBSを接種したマウスに由来する試料のためのコンピュータ内におけるプールに正規化した。一元配置分散分析法(分散分析)の後、テューキーHSD事後検定(Turkey HSD post-hoc test)(P<0.05)及びBenjamin-Hochberg誤発見率補正を用いることによって、Venus陽性細胞及びVenus陰性細胞の間における遺伝子発現における統計学的に有意な差を決定した。発現がPBS群におけるレベルと比較して2.0倍変化した遺伝子を含むように、差次的に発現した遺伝子をさらに選別した。統計分析をパスした遺伝子を遺伝子オントロジー(GO)組分けにさらに割り当てた。
【0162】
結果
マウス適応NS1-Venus PR8ウイルスの確立。リバースジェネティクスによってNS1-Venus PR8 WTウイルスを救出することに成功したが、このウイルスは、マウスにおいて無毒性であり(MLD50:>105PFU)、Venusの発現は、MDCK細胞及びこのウイルスを感染させたマウスの肺切片において非常に弱かった。NS1-Venus PR8 WTウイルスの毒性及びVenus発現を増加させるために、プラーク精製高Venus発現クローンによる鼻腔内感染によってマウスにおいて前記ウイルスの継代を連続的に行った(実施例I及び実施例II参照)。6回の連続的継代の後、ウイルスの毒性は増加したと思われ、ゆえに、突然変異を探索するために、このマウス適応NS1-Venus PR8 WTウイルスを配列決定した。
【0163】
配列分析によって、継代後に2つのアミノ酸置換が生じたことが示された(表7)。
【表7】
【0164】
突然変異の一方は、PB2中におけるものであり(712の位置におけるグルタミン酸からアスパラギン酸への置換)、他方は、HA中におけるものであった(380の位置におけるスレオニンからアラニンへの置換)。マウスにおける病原性に対するそれらの寄与を確認するために、これらの突然変異を対応するpolIプラスミドに導入し、リバースジェネティクスを用いて、2つの突然変異を有するNS1-Venus PR8(NS1-Venus PR8 MAウイルスと称される)を生成した。NS1-Venus PR8 MAウイルスの病原性は、NS1-Venus PR8 WTウイルスの病原性よりも高かった(MLD50:2.1×104PFU)。さらに、NS1-Venus PR8 MAウイルスを感染させたマウスからの肺におけるVenusシグナルは強かったが、NS1-Venus PR8 WTを感染させた肺、及びPR8に感染させた肺では、Venusシグナルは検出されなかった(データは示されない)。ゆえに、NS1-Venus PR8 MAは、有用なレポータウイルスとしての有望さを示した。
【0165】
MDCK細胞における突然変異体ウイルス複製の比較。細胞系におけるこれらのウイルスの増殖を比較するために、NS1-Venus PR8 MAウイルスのPB2遺伝子又はHA遺伝子、並びにNS1-Venus PR8 WTウイルス及びNS1-Venus PR8 MAウイルスによる実験における使用のためのNS-Venus PR8 WTウイルスに由来する残りの遺伝子を有する2つの単一遺伝子再集合体を生成させた。MDCK細胞に、0.001のMOIで、これらのウイルスを感染させ、プラークアッセイによって上清におけるウイルス力価を12時間毎に決定した(
図14)。NS1-Venus PR8 WTウイルスは、10
6.5PFU/mLに増殖したが、NS1-Venus PR8 MAウイルスは、野生型PR8ウイルスと同等の10
8PFU/mL超に増殖した。NS1-Venus PR8 PB2ウイルス及びNS1-Venus PR8 HAウイルスのウイルス力価は、約10
7.5PFU/mLに達したが、これらは、NS1-Venus PR8 MAウイルスのウイルス力価よりも低かった。ゆえに、NS1-Venus PR8 MAウイルスの増殖能は、MDCK細胞において著しく向上し、PB2遺伝子及びHA遺伝子における突然変異は、相加的に作用した。
【0166】
突然変異体ウイルスのマウスにおける病原性及び複製の比較。次に、それらの病原性を評価するために、10
5PFU、10
4PFU又は10
3PFUのこれらのウイルスをC57BL/6マウスに感染させ、それらの体重及び生存率をモニタした(
図15)。10
5PFUのこれらのウイルスを感染させたマウスの体重は著しく減少し、NS1-Venus PR8 WTウイルスを感染させた4匹のマウスの内の1匹、並びにNS1-Venus PR8 PB2ウイルス及びNS1-Venus PR8 MAウイルスを感染させたマウスの全てを、観察期間中に安楽死させる必要があった。加えて、10
4PFUのNS1-Venus PR8 PB2ウイルス及びNS1-Venus PR8 MAウイルスを感染させたマウスは、顕著な体重減少を示し、NS1-Venus MAウイルスを感染させた4匹のマウスの内の1匹と、NS1-Venus PR8 PB2ウイルスを感染させた4匹のマウスの内の2匹とは、それらの感染に屈した。他方で、10
4PFUのNS1-Venus PR8 HAウイルス及びNS1-Venus PR8 WTウイルスを感染させたマウスの体重は、わずかに減少したものの、前記マウスの全てが生存した。10
3PFUによる感染の場合、NS1-Venus PR8 PB2及びNS1-Venus PR8 MAを感染させたマウスの体重は、わずかに減少したが、これらのマウスの全ても生存した。10
3PFUのNS1-Venus PR8 WT及びNS1-Venus PR8 HAを感染させたマウスは、ほとんど体重減少を示さず、前記マウスの全てが生存した。これらのウイルスのウイルス力価をマウス肺において決定した(
図16)。マウスに10
3PFUのウイルスを感染させ、感染後のDay3、Day5及びDay7に肺を回収した。NS1-Venus PR8 PB2ウイルスを感染させたマウスの最大ウイルス肺力価は、NS1-Venus PR8 MAウイルスを感染させたマウスの最大ウイルス肺力価と同様であった10
6PFU/g超であった。対照的に、NS1-Venus PR8 WTウイルス及びNS1-Venus PR8 HAウイルスを感染させたマウスに由来する肺におけるウイルス力価は、全ての時点で、NS1-Venus PR8 PB2ウイルス及びNS1-Venus PR8 MAウイルスを感染させたマウスに由来する肺におけるウイルス力価よりも有意に低かった。最終的に、感染の7日後において、NS1-Venus PR8 WTを感染されたマウスに由来する肺においてウイルスは検出されなかった。まとめると、これらの結果は、PB2突然変異だけが、マウスにおけるNS1-Venus PR8 MAウイルスの病原性及び複製に影響を及ぼしたことを示す。
【0167】
インビトロ及びインビボにおける複製中におけるNS1-Venus PR8 MAウイルスによるVenus発現の安定性。Manicassamyの研究(Manicassamyら、2010)において、GFP陰性ウイルスの割合は、経時的に増加した。このことは、このウイルスをライブイメージング研究のために利用することに対する障害の内の1つである。MDCK細胞の複製中においてNS1-Venus PR8 MAウイルスによるVenus発現の安定性を評価した(
図17A)。感染の72時間後においても、プラークの90%超がVenus陽性だった。細胞培養物におけるウイルスの反復継代の間にVenus発現の陽性率をモニタした(
図17B)。プラークの約90%が、5回の継代後においてもVenusを発現したが、このことは、NS1-Venus PR8 MAウイルスによるVenus発現が細胞培養物において安定していたことを示唆する。最終的に、Venus発現は、インビボにおいてウイルス複製中に安定していたことが確認された(
図17C)。肺ホモジェネートを用いてプラークアッセイを行い、実質的に上記のようにVenus発現の陽性率を推定した。感染の3日後においてVenus陽性プラークの割合は85%超であったが、感染の7日後では、Venus陽性プラークの割合は約75%であった。まとめると、これらの結果は、NS1-Venus PR8 MAウイルスによるVenus発現がインビトロにおいて複製中に安定しており、マウス肺におけるVenus陽性プラークの割合は、以前に報告されたもの(Manicassamyら、2010)と同様であったことを示す。
【0168】
PB2-E712D置換は、高Venus発現の原因となる。NS1-Venus PR8 MAウイルスのVenus発現レベルは、NS1-Venus PR8 WTウイルスのVenus発現レベルよりも実質的に高かった。PB2は、インフルエンザウイルスポリメラーゼのサブユニットの1つであるので、PB2-E712D置換がVenus発現の増大にとって重要であると仮定された。Venusタンパク質発現を比較するために、感染細胞におけるウイルスタンパク質及びVenusのウエスタンブロットを行った(
図18A)。感染の12時間後、M1タンパク質の量は、ウイルスの全てについて同様であったが、Venusタンパク質の量は、NS1-Venus PR8 PB2ウイルス及びNS1-Venus PR8 MAウイルスを感染させた細胞において、親PB2遺伝子を有した他の2つのウイルスと比較して、より高かった。感染細胞におけるVenus発現は、共焦点レーザ顕微鏡を用いることによっても観察された(
図18B)。予想通り、NS1-Venus PR8 PB2ウイルス及びNS1-Venus PR8 MAウイルスを感染させた細胞におけるVenusシグナルは、親PB2遺伝子を有した2つのウイルスを感染させた細胞におけるものよりも強かった。まとめると、これらの結果は、PB2-E712D置換が高Venus発現の原因であったことを示す。
【0169】
PB2-E712D突然変異がVenus発現レベルを増加させたことを示すために、示されたウイルスを1のMOIでMDCK細胞に感染させ、12時間後に共焦点顕微鏡法を行った(
図18C)。予想通り、NS1-Venus融合タンパク質のレベルは、WT-Venus-PR8又はHA-Venus-PR8を感染させた細胞よりも、MA-Venus-PR8又はPB2-Venus-PR8を感染させた細胞において高かった(
図18C)。
【0170】
まとめて、データは、PB2-E712D置換が、主に、MA-Venus-PR8ウイルスのマウスにおける複製能、Venus発現及び毒性の増加の原因となることを示す。ミニレプリコンアッセイにおいてPB2-E712D突然変異がウイルスポリメラーゼ活性に直接影響を及ぼすかどうかを評価するために、ホタルルシフェラーゼ遺伝子をコードするvRNAを発現するプラスミドと共に、NP、PA、PB1及びPB2又はPB2-E712Dについてのウイルスタンパク質発現プラスミドによってHEK293細胞をトランスフェクトしたが、pRL-ヌルルシフェラーゼタンパク質発現プラスミド(Promega)は、トランスフェクション対照としての役割を果たした。トランスフェクションの48時間後にDual-Gloルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)を用いることによってルシフェラーゼ活性を測定した(Ozawaら、2007)。予想外に、PB2-E712Dのポリメラーゼ活性は、親PB2のポリメラーゼ活性よりも低かった(
図18D)。同様の結果は、イヌMDCK細胞によって得られた(データは示されない)。ウイルス複製及び転写を測定するミニレプリコンの文脈において、PB2-E712D突然変異は、しかるに弱毒化しるが、対照的に、この突然変異は、ウイルスを複製する文脈においてウイルス増殖を増強する。これらの知見は、PB2タンパク質が、ウイルス複製/転写において機能するだけでなく、ウイルスライフサイクルにおいて付加的な役割を果たすことを示す。
【0171】
HA-T380A置換は、膜融合のための閾値を上げる。MA-Venus-PR8のHA vRNAは、マウスにおけるWT-Venus-PR8の毒性を有意に増加させなかったが、しかし、HA-Venus-PR8ウイルスは、WT-Venus-PR8よりもMDCK細胞において効率的に増殖したが(
図14)、このことは、少なくとも、培養された細胞におけるウイルス複製に対するHA-T380A突然変異の寄与を示唆する。HA-T380A置換は、HA2サブユニットにおけるa-ヘリックス上に位置するので(Gamblinら、2004)、多核細胞形成アッセイを用いることによって、HA膜融合活性に対するその効果を評価した(Imaiら、2012)。簡潔に言えば、HEK293細胞に、10のMOIでHA-T380AをコードするWT-PR8又は突然変異体PR8ウイルスを感染させた。18時間後、細胞を、37℃で15分間、TPCK処置トリプシン(1μg/mL)で処置し、低pH緩衝剤(145mMのNaCl、20mMのクエン酸ナトリウム(pH6.0~5.4))に2分間曝露させ、37℃で維持培地中において2時間インキュベートし、メタノールによって固定し、ギムザの溶液で染色した。野生型HAは、pH5.5の膜融合についての閾値を有したが、HA-T380Aについての閾値はpH5.8であり(
図19)、このことによって、インフルエンザウイルスの侵入中におけるエンドソーム成熟のより早期のステージにおいてHAのコンホメーション変化が生じた(Lozachら、2011)。膜融合についてのpH閾値の変化は、我々が50℃で観察しなかった効果(データは示されない)であるHA熱安定性に影響を及ぼす可能性がある(Ruigrokら、1986)。
【0172】
全マウス肺におけるウイルス増殖の時間経過観察。NS1-Venus PR8 MAウイルスは、このウイルスによるVenus発現が顕微鏡による感染細胞の視覚化が可能にするために充分に高いので、免疫染色なしでのウイルス感染細胞の観察を可能にする。どのようにしてインフルエンザウイルスが肺において増殖するのかを観察するために、蛍光強度を低下させることなく試料を光学的に透明にする試薬であるSCALEVIEW A2を用いて透明な肺を処置する(
図20)。マウスに10
5PFUのPR8ウイルス、NS1-Venus PR8 WTウイルス及びNS1-Venus PR8 MAウイルスを鼻腔内感染させ、感染後のDay1、Day3及びDay5に肺を回収した。SCALEVIEW A2による処置後、立体蛍光顕微鏡を用いて試料を観察した。直接観察されたVenusシグナルは、不充分な透明性のために不明瞭だった。ゆえに、透明試料を長軸の方向に切開して気管支を曝露させた(
図20、下側のパネル、「切断」)。いずれの時点においても、NS1-Venus PR8 WTウイルスを感染させたマウスに由来する透明試料においてVenus発現は観察されなかった(
図20G及び
図20H)。感染の3日後に回収された試料を示す。NS1-Venus PR8 MAウイルスに感染させた肺の場合、Venusシグナルは、感染の1日後に観察されなかったが(
図20A及び
図20B)、Venus発現は、感染の3日後に気管支の上皮細胞の大きい部分において明瞭に観察された(
図20C及び
図20D)。場合により、気管支周辺の肺胞上皮細胞においてもVenus発現は観察された。感染の5日後において、気管支上皮で見出されたVenus陽性細胞のほとんどが消失し、細気管支及び肺胞におけるVenus陽性細胞の数が増加していた(
図20E及び
図20F)。これらの観察に基づいて、感染の3日後に気管支において見出されたVenus陽性細胞は死滅し、インフルエンザウイルスは、気管支から細気管支及び肺胞に経時的に広がったかもしれない。PR8又はPBSを接種したマウスに由来する透明肺において、明らかなVenusシグナルは観察されなかった(
図20I~
図20L)。これらの結果は、NS1-Venus PR8 MAウイルス及び透明試薬SCALEVIEW A2によって全肺葉におけるインフルエンザウイルス感染の動態の視覚化が可能になることを示す。
【0173】
マウス肺におけるNS1-Venus PR8 MAウイルスの標的細胞の同定。NS1-Venus PR8 MAウイルスを感染させた透明肺は、インフルエンザウイルスが、最初に気管支上皮に感染し、続いて、経時的に肺胞に侵入したことを明らかにした。次に、NS1-Venus PR8 MAウイルスの標的細胞を同定するために、肺細胞に対して特異的ないくつかの抗体を用いて凍結切片の免疫蛍光アッセイを行った(
図21)。気管支及び細気管支の上皮細胞は、クララ細胞、繊毛細胞、杯状細胞、及び少数の神経内分泌細胞を含むが、一方で肺胞は、I型肺胞上皮細胞及びII型肺胞上皮細胞を含む。クララ細胞が気管支及び細気管支の内腔のバルクを構成し(Rawlinsら、2006)、II型肺胞上皮細胞がインフルエンザウイルスの標的であることが以前に報告されている(Baskinら、2009)ので、これらの細胞型の内、I型はクララ細胞に集中し、II型は肺胞上皮細胞に集中した。感染の3日後において、かなりの割合の細気管支細胞はVenus陽性であり、これらの細胞のほとんど全てはCC10陽性だった(
図21A)。加えて、肺胞領域における立方体様Venusシグナルは、SP-C陽性細胞と結合した(
図21B、白色の矢印)。まれではあるが、感染の5日後にVenus陽性I型肺胞上皮細胞が観察された(
図21B、白色の矢印)。しかし、神経内分泌細胞におけるVenus発現は、全く検出されなかった(データは示されない)。
【0174】
フローサイトメトリを行って肺胞マクロファージ及び単球がNS1-Venus PR8 MAウイルスに感染したかどうかを決定したが、その理由は、これらの免疫細胞が肺に存在し、吸い込まれた微生物及び粒子状物質に対する防御の最前線として機能するからである。肺胞マクロファージは、F4/80
+集団におけるCD11b発現レベルに基づいて顕著な単球であった(
図22A)。マウスに10
5PFUのPR8ウイルス又はNS1-Venus PR8 MAウイルスを感染させ、これらの細胞の総数を比較した。インフルエンザウイルス感染の後、肺胞マクロファージの数は、対照群とめったに異ならなかったものの、単球は、血管から感染の部位に浸潤したので、単球の数は、著しく増加した(
図22B及び
図22C)。Venus陽性細胞の割合に関して、感染の3日後において、肺胞マクロファージの3.16%±0.59%はVenus陽性細胞であり、単球の1.55%±0.07%はVenus陽性だった(
図22D及び
図22E)。さらに、Venus陽性細胞の数は、NS1-Venus PR8 MAウイルス感染の3~5日後にわずかに減少した。PR8感染について、Venus陽性細胞の数は、模擬処置マウスにおけるものと同等だった。まとめると、これらの結果は、気管支及び細気管支におけるクララ細胞、II型肺胞上皮細胞、単球、及び肺の肺胞領域における肺胞マクロファージがインフルエンザウイルスの標的細胞であることを示す。
【0175】
F4/80
+細胞集団におけるVenus陽性細胞及びVenus陰性細胞の間の差次的遺伝子発現。肺胞マクロファージ及び単球は、吸い込まれた微生物に対する防御の最前線として作用するので、インフルエンザウイルスによるこれらの細胞の感染は、感染の拡大を阻止するそれらの能力に影響するかもしれないという可能性がある。このことを評価するために、肺胞マクロファージ及び単球の集団の中におけるVenus陽性細胞及びVenus陰性細胞の間の遺伝子発現プロファイルをマイクロアレイ分析によって比較した。フローサイトメトリを用いることによって1匹のマウスから回収することが可能であったVenus陽性肺胞マクロファージ及び単球の数は、マイクロアレイ分析を行うにはあまりに少なかったので、これらの細胞をF4/80
+細胞として一緒に分析し、3匹のマウスからプールした。生きた単核細胞をCD45
+及びバイア-プローブ
-細胞としてゲート付けした。
図22Aに示されるように、前記細胞は、F4/80
+集団におけるCD11b発現レベルに基づいて肺胞マクロファージ及び単球であることが確認された。Venus陽性F4/80細胞及びVenus陰性F4/80細胞をFACSAria IIによって生きた単核細胞の分画から選別した。CD11c
高肺胞マクロファージが高い自己蛍光を有するので、Venusシグナルとの重複の可能性があった。ゆえに、Venusの中程度の発現を有するCD11c
高肺胞マクロファージは、Venus陽性分画から除外された(
図23A)。選別された細胞の共焦点顕微鏡観測から、Venus発現に基づいてこれらの細胞を適切に回収することが可能であった(
図23B)。加えて、Venus発現が細胞の全体にわたって観測可能であったと仮定すると、これらの細胞は、ウイルスに感染したが、感染細胞を貪食しなかった。マイクロアレイ分析は、発現がPBSを接種したマウスに由来するF4/80
+細胞のレベルと比較して統計学的に少なくとも2.0倍変化した何千もの遺伝子を示した(データは示されない)。これらの遺伝子の中で、発現がVenus陽性F4/80
+細胞及びVenus陰性F4/80
+細胞の間で統計学的に少なくとも4.0倍の差があった633個の遺伝子が同定された(
図24A)。遺伝子オントロジー分析は、これらの遺伝子が細胞外活性に関与していたことを明らかにした(
図24B)。「サイトカイン活性」においてで注釈がつけられた遺伝子について、合計24個の遺伝子は、I型インターフェロン(IFN)などのいくつかのサイトカイン及びケモカインを含む発現レベルが変わった(
図24C)。インターロイキン(IL)-4及びCxcl13[ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド13]についての遺伝子以外のこれらの遺伝子の全てを、Venus陰性細胞に対してVenus陽性細胞において上方制御した。その上、I型が「創傷に対する応答」において注釈がつけられた遺伝子上に集中した場合、コラーゲン1α1型(Col1a1)、コラーゲン3α1型(Col3a1)、コラーゲン5α1型(Col5a1)、ヒアルロノグルコサミニダーゼ(hyaluronoglucosamidase)1(Hyal1)及びフィブリノーゲンγ鎖(Fgg)を含むほとんどの遺伝子をVenus陽性F4/80
+細胞において上方制御した(
図24D)。まとめると、これらの結果は、F4/80
+細胞の総数と比較して少数の細胞がインフルエンザウイルスに感染し、いくつかのサイトカイン及びケモカインの遺伝子発現レベルが感染の部位においてウイルス感染細胞において増強されたことを示す。さらに、NS1-Venus PR8 MAウイルスに感染したF4/80
+細胞は、感染及び炎症によって引き起こされる創傷に対する応答に関与する遺伝子の発現を増強した。
【0176】
実施例IV
ウイルスNS1タンパク質を有する融合構築体から異種遺伝子産物を発現し得るベクターが上記に記載されている(
図26)。特に、PB2-E712D突然変異は、異種遺伝子産物の発現を安定化した。試験ウイルス(WT-Venus-PR8)の継代を連続的に行って、安定化に寄与するポリメラーゼ複合体における他の突然変異を同定した(
図27)。
【0177】
実施例V
ポリメラーゼサブユニットPB2の712位におけるEからDへの突然変異(PB2-E712D)は、挿入されたVenus遺伝子を安定化した(Fukuyamaら、2015;Katsuraら、2016)。また、PR8からNSセグメントに挿入されたVenus遺伝子を担持するH5N1ウイルス(Venus-H5N1)も調製した(Fukuyamaら、2015)。しかし、WT-Venus-PR8と同様に、WT-Venus-H5N1は中等度の毒性及び低Venus発現を示したが、我々は、マウスに対してより致死性になり、マウス適応後にVenusを安定して発現した変異体を取得した。ポリメラーゼサブユニットPB2の25位におけるVからAへの突然変異及びポリメラーゼサブユニットPAの443位におけるRからKへの突然変異は、Venus遺伝子の安定した維持に寄与した(Zhaoら、2015)。これらの結果は、ウイルスポリメラーゼの組成物が、挿入された外来遺伝子の安定化において役割を果たすことを示した。しかし、Venus遺伝子を欠失することができる機序と、ポリメラーゼ突然変異がVenus遺伝子を安定化する方法とは、不明なままであった。
【0178】
以下で開示されるように、WT-Venus-PR8及びPB2-E712D突然変異を有するVenus-PR8(Venus-PR8-PB2-E712D)による感染の際の事象を比較することによって、Venus遺伝子安定化の機序を検討した。感染細胞におけるポリメラーゼ忠実度並びにRNA及びタンパク質発現を検討し、同時感染実験と併用した配列決定分析を行って、どのようにVenus遺伝子が欠失するのかを決定した。その上、安定化機序の理解を進めるために、Venus遺伝子の安定化に寄与する付加的突然変異を同定した。
【0179】
材料及び方法
細胞及びウイルス。5%CO2において37℃で5%新生児ウシ血清を有する最小必須培地(Gibco)中でマジンダービーイヌ腎臓(MDCK)細胞を培養した。10%のウシ胎仔血清が補充されたダルベッコ変法イーグル培地中においてヒト胎児腎臓293T(HEK293T)細胞を培養した。リバースジェネティクス(Neumannら、1999)を用いることによって、WT-Venus-PR8及びVenus蛍光タンパク質をコードするNSセグメントを有するVenus-PR8突然変異体(Fukuyamaら、2015)を生成し、37℃でMDCK細胞において増殖させた。
【0180】
Venus安定性。MDCK細胞に、0.001のMOIで、WT-Venus-PR8又は各Venus-PR8突然変異体を感染させた。上清を、感染の48時間後に回収し、MDCK細胞におけるプラークアッセイを用いることによって滴定した。得られたウイルスの継代を同様に4回行った。蛍光顕微鏡検査を用いて各ウイルスストックにおいて65個超のプラークを観察することによって、異なる継代からのウイルスストックにおけるVenus発現プラークの割合をMDCK細胞において決定した。偽陽性プラークを除外するために、Venus陰性プラークを採取し、MDCK細胞において増幅し、Venus発現について再評価した。
【0181】
大規模配列決定分析 リバースジェネティクス(Neumannら、1999)によってWT-PR8、PR8-PB2-E712D、PR8-PB1-V43I(Cheungら、2014;Naitoら、2015)及びPR8-PB1-T123A(Paulyら、2017)を生成し、MDCK細胞に0.001のMOIで感染させた。上清を、感染の48時間後に回収し、MDCK細胞におけるプラークアッセイを用いることによって滴定した。得られたウイルスの継代を同じ方法で5回行った。QIAampウイルスRNAミニキット(Qiagen)を用いることによって、継代を行う前のウイルス及び5回継代を行ったウイルスからウイルスRNAを抽出した。Superscript III高忠実度RT-PCRキット(Invitrogen)を用いることによって逆転写-PCR(RT-PCR)を行った。0.45倍のAgencourt AMpure XP磁気ビーズ(Beckman Coulter)によってDNA単位複製配列を精製し、Nextera XT DNAキット(Illumina)を有するバーコード化されたライブラリ調製物のために1ngを用いた。ビーズ系正規化(Illumina)の後、MiSeq v2 300サイクル試薬キット(Illumina)を用いて対合端操作においてMiSeqプラットフォーム上にライブラリを配列した。ViVanパイプライン(Isakovら、2015)を用いることによって未処理配列の読み取りを分析した。ここで、最小頻度としての1%のカットオフを用いた。その上、我々は、最小読み取りカバレージのための実験的カットオフを以下のように規定した。すなわち、1%の頻度を有する変異体のために、少なくとも1,000の読み取りがその領域をカバーするべきである。同様に、0.1%の頻度を有する変異体のために、10,000の読み取りがその領域をカバーするべきである。すなわち、カバレージが1,000/(頻度)未満である場合、変異体を除去した。5回継代を行ったウイルスの配列決定データを、継代を行う前のウイルスの配列決定データと比較した。継代を行う前に観察されなかったが継代を行った後にだけ観察されたヌクレオチド突然変異の数を計数した。ヌクレオチド1個当たりの突然変異の数を各セグメントについて算出し、各ウイルスにおける全ての8つのセグメントについての平均値を比較した。
【0182】
定量的リアルタイムPCR。MDCK細胞に1のMOIでWT-Venus-PR8若しくはVenus-PR8-PB2-E712Dを感染させたか、又は模擬に培地を感染させた。RNeasyミニキット(Qiagen)を用いることによって、感染の9時間後にトータルRNAを細胞から抽出した。以前に記載されているように(Kawakamiら、2011)、RNAの定量を行った。IFN-β、NS vRNA、NP vRNA及びβ-アクチンのためのプライマーは、以前に記載された(Kawakamiら、2011;Kupkeら、2018;Parkら、2015)。データを2-ΔΔCT法(Livakら、2001)によって分析し、β-アクチンmRNAの発現に正規化した。
【0183】
ウエスタンブロット法。MDCK細胞に1のMOIで各ウイルスを感染させたか、又は模擬に培地を感染させた。示された時点において、Tris-グリシンSDS試料緩衝剤(Invitrogen)によって細胞を溶解させた。細胞溶解物を音波破砕し、95℃で10分間加熱し、次いでSDS-PAGEに供した。Any kD Mini-PROTEAN TGXプレキャストタンパク質ゲル(Bio-Rad)上でSDS-PAGEを行った。SDS-PAGEゲル上のタンパク質を、ポリフッ化ビニリデン膜(Millipore)にトランスファーし、示された一次抗体(ウサギ抗NS1[GeneTex]、マウス抗Aichi NP[2S 347/4]、マウス抗β-アクチン[Sigma-Aldrich])を用いた後、二次抗体(ヒツジホースラディッシュペルオキシダーゼ[HRP]共役抗マウスIgG[GE Healthcare]又はロバHRP共役抗ウサギIgG[GE Healthcare])を用いることによって検出した。ECL Primeウエスタンブロッティング検出試薬(GE Healthcare)を用いることによって、特異的タンパク質のシグナルを検出した。画像をChemiDoc Touchイメージングシステム(Bio-Rad)によって取り込み、Image Labソフトウェア(Bio-Rad)を用いることによって定量した。
【0184】
同時感染分析。WT-Venus-PR8のNSセグメントのパッケージングシグナル配列(Fujiiら、2005)に重ならない3’領域又は5’領域における3つのヌクレオチドの同義的置換を行った。これらの修飾ウイルスを用いて、各々0.001のMOI又は各々5のMOIでMDCK細胞に同時感染させた。上清をそれぞれ感染の2日後又は8時間後に回収し、MDCK細胞に感染させた。Venus陰性プラークを採取し、MDCK細胞において増幅し、次いで、得られたウイルスにおけるNSセグメントの配列を分析した。
【0185】
Venus遺伝子を安定化する付加的突然変異の同定。WT-Venus-PR8を、0.001のMOIで、MDCK細胞に感染させた。上清を感染の2日後に回収し、MDCK細胞に感染させた。次に、Venus陽性プラークを採取し、Venus蛍光を安定して発現する突然変異体を得るまでMDCK細胞において反復して増幅した。突然変異体の配列を分析して、PB2、PB1及びPAにおけるアミノ酸突然変異を同定した。これらの突然変異がVenus遺伝子の安定性に寄与したかどうかを決定するために、同定されたアミノ酸突然変異の各々を含む突然変異体をリバースジェネティクス(Neumannら、1999)によって生成し、各突然変異体のVenus安定性を上記のように検討した。確認されたアミノ酸位置を、PyMOL分子グラフィックスシステムを用いることによってインフルエンザウイルスポリメラーゼ複合体(PDB ID 4WSB)の結晶構造上にプロットした。
図32Bにおいて、MOLEonlineウェブインターフェース(Pravdaら、2018)を用いることによってポリメラーゼ内部トンネルを視覚化し、情報は、ChannelsDBに寄託された(Pravdaら、2018)。Influenza Research Databaseにおいて「Sequencing Feature Variant Type」ツールを用いることによって、同定されたアミノ酸を含んだ株の割合を決定した(Zhangら、2017;Noronhaら、2012)。
【0186】
統計分析。両側独立スチューデントt検定を用いることによって、WT-Venus-PR8及びVenus-PR8-PB2-E712Dの間の統計学的有意差を評価した。P値が0.05未満であることは、有意差があると考えられた。
【0187】
結果
WT-Venus-PR8におけるVenus発現の喪失は、複製効率を回復させる。以前に記載されているように(Neumannら、1999)リバースジェネティクスを用いることによって、WT-Venus-PR8及びVenus-PR8-PB2-E712Dを調製した。
図28Aに示されるように、Venus蛍光タンパク質の遺伝子をNSセグメントに挿入した(Fukuyamaら、2015)。最初に、Venus発現がWT-Venus-PR8においてどの程度迅速に喪失したのかについて、及びVenus欠失及びウイルス力価の間の関係について確認した。0.001の感染多重度(MOI)でMDCK細胞においてウイルスの継代を行い、Venus陽性プラークの割合を測定した(
図28B)。WT-Venus-PR8においてVenusの発現は直ちに喪失したが、Venus-PR8-PB2-E712Dの全てのプラークは、4回の継代後にVenus発現を示したことが確認された。WT-Venus-PR8は、以前に記載されているように(Katsuraら、2016)、MDCK細胞におけるVenus-PR8-PB2-E712Dよりも低い力価を示したが、Venus陽性プラークの割合が減少するにつれてウイルス力価はウイルス継代の間に増加した(
図28C)。この結果は、突然変異WT-Venus-PR8におけるVenus遺伝子の喪失がウイルスの複製効率を回復させたことを示唆する。
【0188】
PB2-E712D突然変異は、ポリメラーゼ忠実度のかなりの変化を引き起こさない。
PB2-E712D突然変異は、継代の間、挿入されたVenus遺伝子を保持するために、ウイルスポリメラーゼ忠実度を増加させるということを仮定した。この仮説を試験するために、WT-PR8と、PB2の712位においてアスパラギン酸を有するので、このアミノ酸のみがWT-PR8と異なるPR8-PB2-E712Dとをリバースジェネティクスによって生成し、それらの突然変異率を比較した。ここで、突然変異率を測定することをより容易にするために、Venus遺伝子を含まなかったウイルスを用いた。忠実度が高い突然変異体ウイルスであることが報告されているPR8-PB1-V43I(Cheungら、2014;Naitoら、2015)及び忠実度が低い突然変異体ウイルスであることが報告されているPR8-PB1-T123A(Paulyら、2017)もリバースジェネティクスによって生成し、対照として用いた。突然変異率を推定するために、これらのウイルスの継代を、0.001のMOIで、MDCK細胞において行い、ゲノム全体の大規模配列決定を行い、継代を5回行ったウイルスについての配列決定データを、継代を行う前のウイルスの配列決定データと比較した。継代を行う前に存在しなかった継代を5回行ったウイルスにおけるヌクレオチド変化の数を計数した。5回の継代の間に導入された突然変異の数は、セグメントによって
図29Aに示される。また、ヌクレオチド1つ当たりの突然変異の数も正規化のために算出し、8つの全セグメントについての平均値を比較した(
図29B)。忠実度が高い対照であるPR8-PB1-V43Iは、WT-PR8よりも突然変異が少なく、忠実度が低い対照であるPR8-PB1-T123Aは、WT-PR8よりも突然変異が多いことが確認された。PR8-PB1-V43Iは、WT-PR8よりも突然変異が少なかったが、PR8-PB1-V43I及びWT-PR8の間の差は小さかった。以前の報告は、PB1-V43Iが突然変異率を改変しないことを示唆したので(Paulyら、2017)、突然変異率に対するPB1-V43Iの影響は、ウイルス株又は実験条件に依存した可能性があった。その上、WT-PR8及びPR8-PB2-E712Dの間に突然変異数の明瞭な差はなかった。PB2-E712D突然変異がウイルスポリメラーゼ忠実度に影響を及ぼすという可能性を除外することはできないものの、その効果は、Venus安定性のかなりの差を引き起こすために充分に大きいとは思われない。ゆえに、この結果は、Venus遺伝子の安定性がウイルスポリメラーゼの忠実度によって影響されないことを示唆する。
【0189】
修飾RNAセグメントの転写/複製は、WT-Venus-PR8において損なわれる。
いくつかの報告は、それらのNSセグメントにおける外来遺伝子挿入を含む組換えウイルスが、MDCK細胞などのIFNコンピテント細胞におけるよりもインターフェロン(IFN)欠乏性Vero細胞において効率的に増殖する可能性があることを示唆する(Kittelら、2004;Ferkoら、2001;Kuznetsovaら、2014)。ゆえに、定量的リアルタイムPCRを用いることによって、ウイルス感染細胞におけるIFN-βの発現レベルを定量した。1のMOIでWT-Venus-PR8若しくはVenus-PR8-PB2-E712DをMDCK細胞に感染させたか、又は培地だけを模擬に感染させ、感染細胞におけるIFN-βの相対発現レベルを感染の9時間後に定量した。WT-Venus-PR8は、Venus-PR8-PB2-E712Dよりも高いIFN-β発現レベルを誘導した(
図30A)。この結果は、WT-Venus-PR8がIFN-β発現を効率的に阻害しないことを示唆する。NS1が宿主におけるIFN発現及びIFN媒介抗ウイルス応答を抑制することにおいて主要な役割を果たすと仮定すると(Garcia-Sastreら、1998;Opitzら、2007)、インフルエンザウイルスストランド特異的リアルタイムPCRを用いることによって感染細胞におけるNS vRNAを定量した(Kawakamiら、2011;Kupkeら、2018)。WT-Venus-PR8感染細胞におけるNS vRNAの量は、Venus-PR8-PB2-E712D感染細胞におけるNS vRNAの量よりも90%低かったが(
図30B)、それらのNP vRNA発現レベルにおける有意な差(dierence)はなかった(
図30C)。WT-Venus-PR8感染細胞におけるNS vRNA/NP vRNA比は、Venus-PR8-PB2-E712D感染細胞におけるNS vRNA/NP vRNA比よりも80%低かった(
図30D)。この結果は、NSセグメントの転写/複製がWT-Venus-PR8において特異的に損なわれることを示唆する。リバースジェネティクスによってウイルスを生成するために用いられるプラスミドの内の全ての配列を使用前に確認し、同じNS-VenusプラスミドからWT-Venus-PR8及びVenus-PR8-PB2-E712DのNSセグメントを誘導した。ゆえに、WT-Venus-PR8又はVenus-PR8-PB2-E712Dが、そのNSセグメントにおいて突然変異プロモータ配列を有する可能性は低い。したがって、NSセグメントの転写/複製効率性の差は、PB2-E712Dによって引き起こされた可能性がある。その上、ウエスタンブロット法によってNS1タンパク質の発現レベルが確認された(
図30E)。NSセグメントの転写/複製効率性の低下のため、WT-Venus-PR8感染細胞におけるNS1タンパク質の発現レベルは、Venus-PR8-PB2-E712D感染細胞におけるNS1タンパク質の発現レベルよりも非常に低かった。対照的に、NPの発現レベルは、ほとんど同じであった。バンド強度に基づいて定量されたNS1/NP比は、WT-Venus-PR8感染細胞において有意に低下した(
図30F)。ゆえに、NS1発現の低レベルがWT-Venus-PR8感染細胞におけるIFN-βの高発現をもたらすと思われる。さらに、IFN-βの高発現は、他の因子が含まれる可能性があるものの、WT-Venus-PR8の弱毒化を引き起こす。
【0190】
挿入されたVenus遺伝子は、内部欠失によって欠失する。
どのようにしてVenus遺伝子の欠失が生じるのかについて探究するために、連続的継代後にVenus発現を喪失したWT-Venus-PR8におけるNSセグメントの配列を決定した。独立して継代を行った3つのWT-Venus-PR8ウイルスストックを用いてプラークアッセイを行い、大部分のプラークがVenus陰性であることが分かった。各ストックに由来する5超のプラークを配列決定し、各ウイルスストックにおいて1又は2つの欠失パターンがあることが分かった。NSセグメントにおいて大きな欠失が生じ、Venus配列の大部分が喪失した(
図31A)。しかし、ヌクレオチド欠失の数、(1又は複数の)欠失の部位、又は欠失が生じた特異的配列などの欠失に関する特異的パターンは同定されなかった。前記大きな欠失は、不完全な干渉ウイルスRNA産生の知られた機序であるポリメラーゼ跳躍(Davisら、1980;Jenningsら、1983)又はウイルスゲノムの再配列によるRNAウイルス適応において役割を果たす遺伝子組換え(Xiaoら、2016;Simonら、2011;Mitanulら、2000;Khatchikianら、1989)によって引き起こされた内部欠失から生じたと仮定された。WT-Venus-PR8のNSセグメントの3’領域又は5’領域に同義突然変異を導入し(
図31B)、次いで、これらの突然変異体ウイルスの各々を0.001又は5のMOIでMDCK細胞に感染させた後、それぞれ感染の2日後又は8時間後に上清を回収した。次いで、MDCK細胞と共に上清をインキュベートした。Venus陰性プラークを採取し、MDCK細胞において増幅し、次いで、我々は、Venus発現を喪失したウイルスにおけるNSセグメント配列を決定した。我々は、トランケートされたNSセグメントが一方の側だけにおいて同義突然変異を有したことを見出した(
図31C)。両側において同義突然変異を有するか又は低MOI同時感染及び高MOI同時感染の両方における同義突然変異を有さないNSセグメントを有したウイルスは見出されなかった。この結果は、NSセグメントにおける大きな欠失が、各NSセグメントにおける内部欠失から生じたものであって、NSセグメント間の遺伝子組換えから生じたものではないことを示す。
【0191】
付加的突然変異は、Venus遺伝子を安定化する。
Venusの欠失及び安定化の機序をさらに理解するために、Venus遺伝子を安定化するポリメラーゼ複合体において付加的突然変異を試みた。MDCK細胞に0.001のMOIでWT-Venus-PR8を感染させ、次いで、Venus陽性プラークを採取し、MDCK細胞において増幅させた。Venus陽性ウイルスの連続的継代及びプラーク精製の後、増強されたVenus蛍光を安定して発現した突然変異体を得た。配列分析によって、突然変異が各突然変異体のポリメラーゼ遺伝子PB2、PB1及びPAに導入されたことを示した(
図32A)。PA-180及びPA-200は、PB2-712のようにポリメラーゼ複合体の表面上に位置するが、一方でPB2-540、PB1-149及びPB1-684は、前記複合体の内部に位置する。PA-180及びPA-200は、エンドヌクレアーゼドメイン内に位置し、PB1-149及びPB1-684は、RNA鋳型の出口の近くに位置し、PB2-540は、新しく合成されたRNA産物の出口の近くに位置するが(
図32B)、PB2-712周辺の領域の機能は不明なままであった(Reichら、2014;Pflugら、2017;Gerlachら、2015)。これらの突然変異がVenus遺伝子の安定化に寄与するかどうかを決定するために、リバースジェネティクスを用いることによって突然変異の各々を含む突然変異体ウイルスを生成し、MDCK細胞における4回の継代の後でVenus保持比を測定した(
図32C)。突然変異体ウイルスは、WT-Venus-PR8と比較して増強されたVenus安定性を示したが、このことは、これらのアミノ酸がVenus遺伝子の安定化において役割を果たすことを示す。PB2-540、PB1-149及びPB1-684が、鋳型及び産物が転写/複製反応の間に通るポリメラーゼ内部トンネルの近くに位置することを考慮すると(Reichら、2014;Pflugら、2017;Gerlachら、2015)、どのようにしてこれらのアミノ酸がVenus遺伝子の安定性に寄与するのかについて明らかにするためにさらなる分析が必要であるものの、これらのアミノ酸は、RNA鋳型、産物及びポリメラーゼ複合体の結合安定性に影響を及ぼす可能性がある。これらの突然変異がInfluenza Research Databaseにおいて以前に分離されたインフルエンザA型ウイルスにおいて見出されたかどうかを我々が検討した際(
図32D)、我々は、これらのアミノ酸が極めてまれであることを見出したが、このことは、それらが進化的に有利ではないことを示唆する。
【0192】
考察
外来遺伝子を発現する組換えインフルエンザウイルスは、有用なツールであるが、しかし、ウイルスゲノムにおける長い挿入は、多くの場合不安定であり、組換えウイルスの弱毒化を引き起こす。我々は、インフルエンザウイルスポリメラーゼ複合体におけるアミノ酸が外来遺伝子挿入の安定化において重要な役割を果たすことを以前に見出したが、NSセグメントに挿入されるVenus遺伝子は、H1N1ウイルスにおけるPB2-E712D(Fukuyamaら、2015;Katsuraら、2016)及びH5N1ウイルスにおけるPB2-V25A及びPA-R443K(Zhaoら、2016)によって安定化された。しかし、これらのアミノ酸が前記安定化に寄与する機序は不明なままだった。本研究において、我々は、H1N1ウイルスのNSセグメントに挿入されたVenus遺伝子のPB2-E712D誘導安定化の機序を探究した。修飾セグメントの転写/複製効率性は、Venus-PR8-PB2-E712Dと比較してWT-Venus-PR8において有意に低下することが分かった。この知見は、PB2-E712D突然変異が、修飾RNAセグメントの転写/複製効率性の増強のために、挿入された外来遺伝子を安定化することを示唆する。対照的に、付加配列を含まないセグメントの転写/複製効率性は、PB2-E712D突然変異の有無にかかわらず変化しない。その上、ポリメラーゼ活性は、ミニレプリコンアッセイにおいて、PB2-E712D突然変異によって低下し、増強されない(Katsuraら、2016)。これらの結果は、PB2-E712Dによって引き起こされる転写/複製効率性の変化が修飾RNAセグメントに対して特異的であることを示す。外来遺伝子の挿入は、修飾セグメントの転写/複製を損なうと思われ、ポリメラーゼは、PB2-E712D突然変異の存在下でこの障害を克服する。
【0193】
Venus遺伝子がNSセグメントに挿入されるWT-Venus-PR8において、このセグメントの転写/複製効率性は、著しく低下する。その結果、NS1タンパク質の発現も低下する。NS1は、IFN媒介抗ウイルス応答を阻害することにおいて役割を果たすので(Garcia-Sastreら、2008;Optizら、2007)、WT-Venus-PR8は、効率的にIFN-β発現を阻害することができず、このことは、ウイルス弱毒化をもたらす可能性がある。WT-Venus-PR8のウイルス力価は、ウイルスがVenus発現を喪失するにつれて、MDCK細胞における連続的継代の間に増加するが(
図28B及び
図28C)、このことは、Venus遺伝子を含まない突然変異WT-Venus-PR8が元のWT-Venus-PR8よりも効率的に増殖することを示唆する。ゆえに、WT-Venus-PR8におけるVenus発現の速やかな喪失が連続的継代の間においてVenus遺伝子を有さない変異体の選択から生じる可能性がある。Venus-PR8-PB2-E712Dは、NSセグメントの転写/複製効率性を回復させるが、このことは、効率的なウイルス複製をもたらす。ゆえに、Venusを発現するウイルスは、PB2-E712D突然変異の存在下で選択圧によってパージされないが、このことによって、Venus-PR8-PB2-E712Dが、挿入されたVenus遺伝子を安定して維持することが可能になる。
【0194】
どのようにして転写/複製効率性が、修飾RNAセグメント上で特異的に低下するのであろうか。そして、どのようにして、それは、PB2-E712D突然変異によって増強されるのであろうか。RNA二次構造と、ポリメラーゼ複合体及びRNA鋳型の間の結合親和性とに、これらの問いに対する答えがある可能性がある。外来遺伝子の挿入は、RNA二次構造を変化させるにちがいなく、ウイルスポリメラーゼ複合体による転写/複製は、この通常でないRNA二次構造によって負の影響を受ける可能性がある。どのようにしてPB2-E712D突然変異が転写/複製の障害を克服するのかについて我々は決定的には知らないが、1つの可能性がある説明は、ポリメラーゼ複合体及びRNA鋳型の間の結合親和性が増加するというものである。
【0195】
同時感染実験と併用した、Venus発現を喪失したWT-Venus-PR8の配列分析(
図29B及び
図29C)は、挿入された配列が内部欠失のために欠失することを示唆した。内部欠失は、多くの場合、外来遺伝子挿入の存在にかかわらずインフルエンザウイルス複製サイクルの間に生じ、ウイルス適応(Luiら、1993;Luiら、1985;Yangら、1987)及び不完全な干渉ウイルスRNAの生成(Davisら、1980;Jenningsら、1983)において役割を果たすことが報告されている。内部欠失は、転写/複製の間のRNA鋳型からのポリメラーゼ複合体解離によって引き起こされると考えられている(Jenningsら、1983;Lazariniら、2001;Dimmockら、2014;Lopezら、2014)。ポリメラーゼ複合体におけるアミノ酸突然変異は、内部欠失の出現頻度に影響を及ぼす(Fodorら、2003;Vasilijevicら、2017;Slaineら、2018;Te Velthuisら、2018)。PB2-E712Dは、内部欠失の出現に関与する可能性もある。ゆえに、Venus-PR8-PB2-E712DにおけるVenus遺伝子の安定化は、修飾セグメントにおける転写/複製の増強によってだけでなく、内部欠失の頻度の減少によっても引き起こされる可能性がある。
【0196】
挿入されたVenus遺伝子を安定化するインフルエンザウイルスポリメラーゼ複合体における付加的突然変異を同定したが、このことは、我々が、ウイルスポリメラーゼ複合体におけるこれらの突然変異の位置に基づいて安定化機序をさらに理解することに役立つ可能性がある。同定されたアミノ酸の一部は、転写/複製反応の間においてRNA鋳型又は新しく合成されたRNA産物の近くのポリメラーゼ内部トンネルの近くに位置する(Reichら、2014;Pflugら、2017;Gerlachら、2015)。これらのアミノ酸は、ポリメラーゼ複合体、鋳型及び産物の間における結合親和性に直接影響する可能性がある。鋳型出口チャネルに位置するPB2アミノ酸が、短い異常RNAの形成に関与することを示した以前の報告(Te Velthuisら、2018)は、ポリメラーゼ内部トンネルの近くのアミノ酸が、ポリメラーゼ複合体、鋳型及び産物の間の結合親和性に影響を及ぼすという可能性を支持する。しかし、エンドヌクレアーゼドメインに位置するPA-180及びPA-200は、ポリメラーゼ内部トンネルの近くにないが、このことはPB2-712についても当てはまる。ゆえに、これらのアミノ酸は、結合親和性に間接的に影響を及ぼす可能性があるか、又はVenus遺伝子の安定化に関与する他の機序がある可能性がある。これらの突然変異を、外来遺伝子を発現する組換えインフルエンザウイルスを確立するために用いることが可能であった。しかし、Venus-H5N1におけるVenus遺伝子を安定化させるPB2-V25Aが、Venus-PR8におけるウイルス複製に対して負の影響を及ぼし、Venus安定化を引き起こさなかった(我々の未発表のデータ)ので、これらのアミノ酸は、必ずしも全てのインフルエンザウイルス株における外来遺伝子の安定化を引き起こす可能性があるというわけではない。
【0197】
同定されたアミノ酸は、ウイルスゲノムの遺伝的安定性を増強すると思われるが、それらは、ウイルス分離株においてめったに見出されなかった(
図32D)。挿入された配列の維持を支持する突然変異は、ウイルスにとって進化的に有利ではない可能性があると思われる。ウイルスゲノムへの付加配列の挿入は、多くの場合、ウイルス複製のために有害である。これらの突然変異は、恐らく、有害な挿入の蓄積を回避することがウイルス集団においてまれである。ウイルスは、異常な二次構造を形成する挿入を含むRNAセグメントの転写/複製効率性を低下させることによって、有害な挿入をパージすることが可能である。結論として、我々が本研究において同定したアミノ酸突然変異は、組換えウイルスを生成するために有用であるものの、それらは、長い目で見れば、自然界のウイルスにとって有利であるとは思われない。
【0198】
参考文献
Arilorら、J.Virol.,86:1433(2010).
Avilovら、Vaccine,34:741(2012).
Baslerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,98:2746(2001).
Chenら、The Lancet,383:714(2014).
Diasら、Nature,458:914(2009).
Dieboldら、Science,303:1529(2004).
Dos Santos Afonsoら、Virology,341:34(2015).
Edgar,Nucl Acids Res.,32:1792(2004).
Fanら、Virology,384:28(2009).
Fujiiら、J.Virol.,79:3766(2005).
Fukuyamaら、Nat.Comm.,6:6600(2015).
Fukuyama&Kawaoka,Curr.Opin.Immunol.,23:481(2011).
Gabrielら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,102:18590(2005).
Gambottoら、Lancet,371:1464(2008).
Garcia-Sastre,Virus Res.,162:12(2011).
Ghaznaviら、Annu.Rev.Pathol.,8:331(2013).
Goら、BMC genomics,13:627(2012).
Hattaら、PLoS Pathog.,3:1374(2007).
Hattaら、Science,293:1840(2001).
Heら、Nature,454:1123(2008).
Heatonら、J.Virol.,87:8272(2013).
Helftら、J.Clin.Invest.,122:4037(2012).
Heroldら、J.Exp.Med.,205:3065(2008).
Honda&Taniguchi,Nat.Rev.Immunol.,6:644(2006).
Huら、J.Virol.,87:2660(2013).
Imaiら、PLoS Pathog.,6:e1001106(2010).
Isakova-Sivakら、Clin.Vaccine Immunol.,PMID:24648485,epub March19(2014).
Itohら、Nature,460:1021(2009).
Jiaoら、J.Virol.,82:1146(2008).
Jobsis,Science,198:1264(1977).
Kaimalら、Nucleic Acids Res.,38:W96(2010).
Kawaoka及びWebster,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:324(1988).
Kawaokaら、J.Virol.,63:4603(1989).
Kittelら、Virology,324:67(2004).
Larkinら、Bioinform.,23:2947(2007).
Leungら、Virology,401:96(2010).
Liら、J.Virol.,79:12058(2005).
Liら、J.Virol.,80:11115(2006).
Liら、J.Virol.,82:11880(2008).
Liら、J.Virol.,84:8389(2010).
Liら、N.Eng.J.Med.,370:520(2013).
Liuら、Zhonghna si Yan,26:70(2012).
Manicassamyら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,107:11531(2010).
Murakamiら、J.Virol.,82:1605(2008).
Naffakhら、Annu.Rev.Microbiol.,62:403(2008)
Nagaiら、Nat.Biotechnol.,20:87(2002).
Neumannら、Cell Res.,20:51(2010).
Neumannら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96:9345(1999).
Obayashiら、Nature,454:1127(2008).
Ozawaら、J.Virol.,81:30(2007).
Panら、Nature Commun.,4:2369(2013).
Pattersonら、J.Cell Sci.,114:837(2001).
Perezら、J.Virol.,78:3083(2004).
Perroneら、PLoS Pathog.,4:e1000115(2008).
Pichlmairら、Science,314:997(2006).
Reed及びMuench,Am.J.Hyg.,27:493(1938).
Reganら、J.Virol.,80:252(2006).
Salomonら、J.Exp.Med.,203:689(2006).
Scholtissekら、Virology,87:13(1978).
Shanerら、Nat.Biotechnol.,22:1567(2004).
Shiehら、Am.J.Pathol.,177:166(2010).
Shinyaら、J.Virol.,78:3083(2004).
Smithら、Nature,459:1122(2009).
Smyth,Stat.Appl.Genet.Mol.Biol.,3:3(2004).
Songら、J.Virol.,85:2180(2011).
Sugiyamaら、EMBO J.,28:1803(2009).
Suguitanら、J.Virol.,86:2706(2012).
Wangら、PLoS One,7:e52488(2010).
Watanabeら、J.Virol.,77:10575(2003).
Watanabeら、Nature,501:551(2013).
Weiら、Vaccine,29:7163(2011).
Weissleder,Nature Biotech.,19:316(2001).
Wright及びKawaoka,Fields Virology 6th edition,(Philadelphia,PA,2013).
Yamayoshiら、J.Virol.,88:3127(2013).
Yuら、J.Virol.,85:6844(2011).
Zhangら、J.Gen.Virol.,95:779(2014)
Zhangら、Science,341:410(2013).
Zhaoら、Proteomics,12:1970(2012).
【0199】
全ての刊行物、特許及び特許出願は、参照により本明細書に組み込まれる。前述の明細書において、本発明は、その特定の好ましい実施形態を参照して記載されたが、多くの詳細は、例示目的のために記載されたものであって、本発明がさらなる実施形態の余地があり、本発明の基本的原理を逸脱することなく本明細書における特定の詳細を著しく変更してもよいことは、当業者にとって明らかであろう。
全ての刊行物、特許及び特許出願は、参照により本明細書に組み込まれる。前述の明細書において、本発明は、その特定の好ましい実施形態を参照して記載されたが、多くの詳細は、例示目的のために記載されたものであって、本発明がさらなる実施形態の余地があり、本発明の基本的原理を逸脱することなく本明細書における特定の詳細を著しく変更してもよいことは、当業者にとって明らかであろう。
本発明の態様の一部を以下に記載する。
1.PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント、PB2ウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NAウイルスセグメント及びHAウイルスセグメントを有する分離された組換えインフルエンザウイルスであって、前記ウイルスセグメントの内の少なくとも1つが、アスパラギンではない540位における残基を有するPB2をコードするPB2ウイルスセグメント、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメント、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメント、又はそれらの任意の組み合わせであり、前記組換えインフルエンザウイルスが、アスパラギンであるPB2における540位における残基、グルタミンであるPAにおける180位における残基、スレオニンであるPAにおける200位における残基、バリンであるPB1における149位における残基、グルタミン酸であるPB1における684位における残基又はアスパラギン酸であるPB1における685位における残基を有する対応する組換えインフルエンザウイルスと比較して、安定性が増強されており、且つ/又は複製が増強されている、分離された組換えインフルエンザウイルス。
2.PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント、PB2ウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NAウイルスセグメント及びHAウイルスセグメントを有する分離された組換えインフルエンザウイルスであって、前記ウイルスセグメントの内の少なくとも1つが、アスパラギンではない540位における残基又はグルタミン酸ではない712位における残基を有するPB2をコードするPB2ウイルスセグメントであり、前記他のウイルスセグメントの内の少なくとも1つが、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメント、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメント、又はそれらの任意の組み合わせであり、前記組換えインフルエンザウイルスが、アスパラギンであるPB2における540位における残基、グルタミン酸である712位におけるPB2における残基、グルタミンであるPAにおける180位における残基、スレオニンであるPAにおける200位における残基、バリンであるPB1における149位における残基、グルタミン酸であるPB1における684位における残基又はアスパラギン酸であるPB1における685位における残基を有する対応する組換えインフルエンザウイルスと比較して、安定性が増強されており、且つ/又は複製が増強されている、分離された組換えインフルエンザウイルス。
3.PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント、PB2ウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NAウイルスセグメント及びHAウイルスセグメントを有する分離された組換えインフルエンザウイルスであって、前記組換えウイルスが、アスパラギンではない540位における残基若しくはグルタミン酸ではない712位における残基を有するPB2をコードするPB2ウイルスセグメント、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメント、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメント、又はそれらの任意の組み合わせを含む2つ以上のウイルスセグメントを有し、前記組換えインフルエンザウイルスが、アスパラギンであるPB2における540位における残基、グルタミン酸である712位におけるPB2における残基、グルタミンであるPAにおける180位における残基、スレオニンであるPAにおける200位における残基、バリンであるPB1における149位における残基、グルタミン酸であるPB1における684位における残基又はアスパラギン酸であるPB1における685位における残基を有する対応する組換えインフルエンザウイルスと比較して、安定性が増強されており、且つ/又は複製が増強されている、分離された組換えインフルエンザウイルス。
4.PB2の540位における前記残基が、K、R、D、E、Q若しくはHであり、PB2の712位における前記残基が、D、N、Q、S、H、T、Y若しくはCであり、PAにおける180位における前記残基が、R、K、D、E、N若しくはHであり、PAにおける200位における前記残基が、A、I、L、C、S、M、F、P、G若しくはVであり、PB1における149位における前記残基が、A、T、I、L、C、S、M、F、P若しくはGであり、684位における前記残基が、D、Q、S、H、T、Y、C、K、R若しくはNであり、又はPB1における685位における前記残基が、E、N、R、H、K、S、T、Y、C若しくはQである、項目1から3のいずれか一つに記載のウイルス。
5.PB2の540位における前記残基が、K、R、H、D、S、H、T、Y若しくはCであり、PB2の712位における前記残基が、D、K、H、R、Q若しくは、Nであり、PAにおける180位における前記残基が、R、K、D、N、S、H、T、Y若しくはHであり、PAにおける200位における前記残基が、A、I、L、G、S、M若しくはVであり、PB1における149位における前記残基が、A、T、I、L、S、M若しくはGであり、684位における前記残基が、D、Q、H、L、R若しくはNであり、又はPB1における685位における前記残基が、E、N、R、H、K若しくはQである、項目1から3のいずれか一つに記載のウイルス。
6.PB2の540位における前記残基が、K、R若しくはHであり、PB2の712位における前記残基が、D若しくはNであり、PAにおける180位における前記残基が、R、K若しくはHであり、PAにおける200位における前記残基が、A、I、L、G若しくはVであり、PB1における149位における前記残基が、A、T、I、L若しくはGであり、684位における前記残基が、D若しくはNであり、又はPB1における685位における前記残基が、E若しくはQである、項目1から3のいずれか一つに記載のウイルス。
7.前記PB2が、アスパラギンではない540位における残基を有し、前記PAが、グルタミンではない180位における残基及びスレオニンではない200位における残基を有し、前記PB1が、バリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基又はアスパラギン酸ではない685位における残基を有する、項目1又は2に記載のウイルス。
8.前記PB2が、アスパラギンではない540位における残基を有し、前記PAが、グルタミンではない180位における残基又はスレオニンではない200位における残基を有し、前記PB1が、バリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基又はアスパラギン酸ではない685位における残基を有する、項目1又は2に記載のウイルス。
9.前記PB2が、アスパラギンではない540位における残基又はアスパラギン酸ではない712位における残基を有し、前記PAが、グルタミンではない180位における残基及びスレオニンではない200位における残基を有し、前記PB1が、バリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基又はアスパラギン酸ではない685位における残基を有する、項目2又は3に記載のウイルス。
10.前記PB2が、アスパラギンではない540位における残基及びアスパラギン酸ではない712位における残基を有し、前記PAが、グルタミンではない180位における残基又はスレオニンではない200位における残基を有し、前記PB1が、バリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基又はアスパラギン酸ではない685位における残基を有する、項目2又は3に記載のウイルス。
11.前記PAが、アルギニンではない443位における残基をさらに含み、前記PB1が、リジンではない737位における残基をさらに含み、前記PB2が、バリンではない25位における残基若しくはグルタミン酸ではない712位における残基をさらに含み、前記NSウイルスセグメントが、プロリンではない167位における残基を有するNS1をコードし、前記HAウイルスセグメントが、スレオニンではない380位における残基を有するHAをコードし、又はそれらの任意の組み合わせである、項目1から10のいずれか一つに記載のウイルス。
12.PAの443位における前記残基が、K若しくはHであり、PB1の737位における前記残基が、H若しくはRであり、PB2の25位における前記残基が、A、L、T、I若しくはGであり、PB2の712位における前記残基が、Dであり、NS1の167位における前記残基が、S、C、M、A、L、I、G若しくはTであり、又はそれらの任意の組み合わせである、項目11に記載のウイルス。
13.前記ウイルスセグメントの内の少なくとも1つが、遺伝子産物をコードする異種遺伝子配列を含む、項目1から12のいずれか一つに記載の組換えウイルス。
14.前記異種配列が、前記NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント又は前記PB2ウイルスセグメント内にある、項目13に記載の組換えウイルス。
15.前記異種配列が、前記PAウイルスセグメントにおける前記PAコード配列に対して5’又は3’であり、前記PB1ウイルスセグメントにおける前記PB1コード配列に対して5’又は3’である、項目13に記載の組換えウイルス。
16.前記異種配列が、前記PB2ウイルスセグメントにおける前記PB2コード配列に対して5’又は3’である、項目13に記載の組換えウイルス。
17.前記異種配列が、前記NSウイルスセグメントにおける前記NS1コード配列に対して5’又は3’である、項目13に記載の組換えウイルス。
18.遺伝子産物をコードする異種遺伝子配列を含むさらなるウイルスセグメントを含む、項目1から17のいずれか一つに記載の組換えウイルス。
19.前記さらなるウイルスセグメントが、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント又はPB2ウイルスセグメントである、項目18に記載の組換えウイルス。
20.H1、H2、H3、H5、H7、H9又はH10であるHAを有する、項目1から19のいずれか一つに記載のウイルス。
21.インフルエンザA型ウイルスである、項目1から20のいずれか一つに記載のウイルス。
22.項目1から21のいずれか一つに記載の分離された組換えウイルスを有するワクチン。
23.前記ウイルスが非インフルエンザ微生物タンパク質をコードする、項目22に記載のワクチン。
24.前記ウイルスが異種インフルエンザタンパク質をコードする、項目22に記載のワクチン。
25.前記ウイルスが癌関連抗原をコードする、項目22に記載のワクチン。
26.a)転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスPA DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスPB1 DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスPB2 DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスHA DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスNP DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスNA DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスM DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、及び転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスNS cDNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクターであって、ここで、vRNA産生のための前記ベクターにおける前記PB1 DNA、前記PB2 DNA又は前記PA DNAが、アスパラギンではない540位における残基を有するPB2をコードするPB2ウイルスセグメント、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメント、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメント、又はそれらの組み合わせの内の少なくとも1つをコードする、vRNA産生のための前記ベクター、並びに、場合により、
b)インフルエンザウイルスPAをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスPB1をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスPB2をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、及びインフルエンザウイルスNPをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、並びに、場合により、インフルエンザウイルスHAをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスNAをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスM1をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスM2をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、又はインフルエンザウイルスNS2をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター
を含む、再集合体を調製するための複数のインフルエンザウイルスベクター。
27.vRNA産生のための前記ベクターにおける前記PB1 DNA、前記PB2 DNA、前記PA DNA、前記NP DNA、前記NS DNA及び前記M DNAが、配列番号1~6又は10~15によってコードされる対応するポリペプチドに対して少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードするものに対応する配列を有する、項目26に記載のベクター。
28.PB2の540位における前記残基が、K、R若しくはHであり、PAにおける180位における前記残基が、R、K若しくはHであり、PAにおける200位における前記残基が、A、I、L、G若しくはVであり、PB1における149位における前記残基が、A、T、I、L若しくはGであり、684位における前記残基が、D若しくはNであり、又はPB1における685位における前記残基が、E若しくはQである、項目26又は27に記載のベクター。
29.前記ウイルスセグメントの内の少なくとも1つが、遺伝子産物をコードする異種遺伝子配列を含む、項目26から28のいずれか一つに記載のベクター。
30.遺伝子産物をコードする異種遺伝子配列を含むウイルスセグメントを有するさらなるベクターを含む、項目26から29のいずれか一つに記載のベクター。
31.細胞に、
感染性インフルエンザウイルスを産生するために有効な量の、
転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスPA DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスPB1 DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスPB2 DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスHA DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスNP DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスNA DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスM DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクター、及び転写終結配列に結合するインフルエンザウイルスNS DNAに作動可能に結合するプロモータを含むvRNA産生のためのベクターであって、ここで、vRNA産生のための前記ベクターにおける前記PB1 DNA、前記PB2 DNA又は前記PA DNAが、
i)アスパラギンではない540位における残基又はグルタミン酸ではない712位における残基を有するPB2、及びグルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPA、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1、又はそれらの任意の組み合わせの少なくとも1つ、又はii)アスパラギンではない540位における残基を有するPB2、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPA、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1、又はそれらの任意の組み合わせ、又はiii)アスパラギンではない540位における残基若しくはグルタミン酸ではない712位の残基を有するPB2、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPA、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1、又はそれらの任意の組み合わせの2つ以上
をコードする、vRNA産生のための前記ベクター、並びに、場合により、
インフルエンザウイルスPAをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスPB1をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスPB2をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、及びインフルエンザウイルスNPをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、並びに、場合により、インフルエンザウイルスHAをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスNAをコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスM1をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、インフルエンザウイルスM2をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター、又はインフルエンザウイルスNS2をコードするDNAセグメントに作動可能に結合するプロモータを含むmRNA産生のためのベクター
を接触させることを含む、インフルエンザウイルスを調製するための方法。
32.前記細胞が、トリ細胞又は哺乳動物細胞である、項目31に記載の方法。
33.前記細胞が、Vero細胞、ヒト細胞又はMDCK細胞である、項目32に記載の方法。
34.vRNA産生のための前記ベクターにおける前記PB1 DNA、前記PB2 DNA、前記PA DNA、前記NP DNA、前記NS DNA及び前記M DNAが、配列番号1~6又は10~15によってコードされる対応するポリペプチドに対して少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードするものに対応する配列を有する、項目31から33のいずれか一つに記載の方法。
35.PB2の540位における前記残基が、K、R若しくはHであり、PB2の712位における前記残基が、D若しくはNであり、PAにおける180位における前記残基が、R、K又はHであり、PAにおける200位における前記残基が、A、I、L、G若しくはVであり、PB1における149位における前記残基が、A、T、I、L若しくはGであり、684位における前記残基が、D若しくはNであり、又はPB1における685位における前記残基が、E若しくはQである、項目31から34のいずれか一つに記載の方法。
36.前記インフルエンザウイルスが、遺伝子産物をコードする異種遺伝子配列を含む、項目31から35のいずれか一つに記載の方法。
37.前記異種配列が、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント又はPB2ウイルスセグメント内にある、項目36に記載の方法。
38.前記異種配列が、前記PAウイルスセグメントにおける前記PAコード配列に対して5’又は3’であり、前記PB1ウイルスセグメントにおける前記PB1コード配列に対して5’又は3’である、項目36に記載の方法。
39.前記異種配列が、前記PB2ウイルスセグメントにおける前記PB2コード配列に対して5’又は3’である、項目36に記載の方法。
40.前記異種配列が、前記NSウイルスセグメントにおける前記NS1コード配列に対して5’又は3’である、項目37に記載の方法。
41.遺伝子産物をコードする異種遺伝子配列を含むさらなるウイルスセグメントを含む、項目31から40のいずれか一つに記載の方法。
42.前記さらなるウイルスセグメントが、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント又はPB2ウイルスセグメントである、項目41に記載の方法。
PAウイルスセグメント、PB1ウイルスセグメント、PB2ウイルスセグメント、NPウイルスセグメント、NSウイルスセグメント、Mウイルスセグメント、NAウイルスセグメント及びHAウイルスセグメントを有する分離された組換えインフルエンザウイルスであって、前記ウイルスセグメントの内の少なくとも1つが、アスパラギンではない540位における残基を有するPB2をコードするPB2ウイルスセグメント、グルタミンではない180位における残基若しくはスレオニンではない200位における残基を有するPAをコードするPAウイルスセグメント、又はバリンではない149位における残基、グルタミン酸ではない684位における残基若しくはアスパラギン酸ではない685位における残基を有するPB1をコードするPB1ウイルスセグメント、又はそれらの任意の組み合わせであり、前記組換えインフルエンザウイルスが、アスパラギンであるPB2における540位における残基、グルタミンであるPAにおける180位における残基、スレオニンであるPAにおける200位における残基、バリンであるPB1における149位における残基、グルタミン酸であるPB1における684位における残基又はアスパラギン酸であるPB1における685位における残基を有する対応する組換えインフルエンザウイルスと比較して、安定性が増強されており、且つ/又は複製が増強されている、分離された組換えインフルエンザウイルス。