(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028847
(43)【公開日】2024-03-05
(54)【発明の名称】段差検出装置
(51)【国際特許分類】
G01B 21/02 20060101AFI20240227BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
G01B21/02 Z
G08G1/00 J
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023205131
(22)【出願日】2023-12-05
(62)【分割の表示】P 2022076527の分割
【原出願日】2015-10-06
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WCDMA
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正浩
(72)【発明者】
【氏名】新原 諒子
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 多史
(57)【要約】
【課題】精度良く路面上の段差を検出することができる段差検出装置を提供する。
【解決手段】前輪101と後輪102を備える車椅子100に搭載される段差検出装置10において、車椅子100のピッチレートを検出するジャイロセンサ4により検出されたピッチレートを取得し、取得したピッチレートに基づいて、車椅子100が走行して通過した路面上の段差を検出する段差検出部13を備え、段差検出部13は、路面上を前輪101が通過した際にジャイロセンサ4が検出したピッチレートである第1ピッチレートと、第1ピッチレートを検出した位置を後輪102が通過した際にジャイロセンサ4が検出したピッチレートである第2ピッチレートと、に基づいて、段差を検出する、ことを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪と後輪とを備える移動体に搭載される、又は前記移動体に取付可能な段差検出装置であって、
前記移動体のピッチレートを検出するピッチレート検出手段により検出されたピッチレートを取得し、取得した前記ピッチレートに基づいて、前記移動体が走行して通過した路面上の段差を検出する段差検出手段を備え、
前記段差検出手段は、前記路面上を前記前輪が通過した際に前記ピッチレート検出手段が検出したピッチレートである第1ピッチレートと、前記第1ピッチレートを検出した位置を前記後輪が通過した際に前記ピッチレート検出手段が検出したピッチレートである第2ピッチレートと、に基づいて、前記段差を検出する、
ことを特徴とする段差検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面上の段差を検出する段差検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
路面の段差等を示して、車椅子等の利用者が通行しやすいルートを分かり易く表示したバリアフリーマップが作成されている。このようなバリアフリーマップは、人手により段差等の調査が行われており、手間と時間とコストがかかるため、バリアフリーマップが作成されているのは一部の街だけであった。
【0003】
また、人手による調査のために、バリアフリーマップの更新も頻繁に行うことが困難である。そのため、例えば道路工事等の路面状態の変化がバリアフリーマップには反映されないことがあり、実際の路面状態とかけ離れているということもあった。
【0004】
このような問題に対して、自動的に段差等を検出する装置等が提案されている。例えば、特許文献1には、携帯端末の角速度センサで利用者が歩行中の角速度を検出し、予め記憶しておいた平坦な場所の角速度データと比較し、差異が大きければ階段の段差と判断し、段差の情報と位置をセンタに送信することが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、3Dジャイロスコープで算出する車両が走行中の道路の勾配角が所定の値よりも大きい場合は、急な段差と判定し、段差と判定した地点を登録することが記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、車椅子に振動検出手段と傾斜検出手段を設け、移動した際の路面の凹凸と傾斜を位置情報とともにサーバにアップロードすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-098939号公報
【特許文献2】特開2005-043261号公報
【特許文献3】特開2003-010257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法は、階段のように段差が連続するか、高さの差が大きい段差は検出可能であるが、小さな段差の場合、歩行者はひとまたぎでこれを超えることができるため検出できない場合がある。特許文献2に記載の方法の場合は、勾配角の大きさで段差と傾斜を区別しているため、勾配角が小さい比較的高さの低い段差を精度良く検出することが困難である。このように、これらの文献に記載の方法は、歩行者では問題のない段差であっても車椅子等にはバリアとなるような段差を精度良く検出することが困難である。
【0009】
また、特許文献3に記載の方法は、振動検出手段により路面の凹凸状況を検出することが開示されているが、段差を検出する具体的方法については何ら開示されていない。そのため、検出された地点が凹凸なのか段差なのか区別がつかない。
【0010】
そこで、本発明は、上述した問題に鑑み、例えば、精度良く路面上の段差を検出することができる段差検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、前輪と後輪とを備える移動体に搭載される、又は前記移動体に取付可能な段差検出装置であって、前記移動体の移動平面に対して垂直方向の加速度を検出する加速度検出手段により検出された加速度を取得する加速度取得手段と、前記移動体のピッチレートを検出するピッチレート検出手段により検出されたピッチレートを取得し、取得した前記ピッチレートと、前記加速度取得手段が取得した前記加速度と、に基づいて、前記移動体が走行して通過した路面上の段差を検出する段差検出手段と、を備え、前記段差検出手段は、前記路面上を前記前輪が通過した際に前記ピッチレート検出手段が検出したピッチレートである第1ピッチレートと、前記第1ピッチレートを検出した際に前記加速度取得手段が取得した前記加速度と、前記第1ピッチレートを検出した位置を前記後輪が通過した際に前記ピッチレート検出手段が検出したピッチレートである第2ピッチレートと、前記第2ピッチレートを検出した際に前記加速度取得手段が取得した前記加速度と、に基づいて、前記段差を検出する、ことを特徴とする段差検出装置である。
【0012】
また、請求項9に記載の発明は、前輪と後輪とを備える移動体に搭載される、又は前記移動体に取付可能な段差検出装置で実行する段差検出方法であって、前記移動体の移動平面に対して垂直方向の加速度を検出する加速度検出手段により検出された加速度を取得する加速度取得工程と、前記移動体のピッチレートを検出するピッチレート検出手段により検出されたピッチレートを取得し、取得したピッチレートと、前記加速度取得工程で取得した前記加速度と、に基づいて、前記移動体が走行して通過した路面上の段差を検出する段差検出工程と、を含み、前記段差検出工程は、前記路面上を前記前輪が通過した際に前記ピッチレート検出手段が検出したピッチレートである第1ピッチレートと、前記第1ピッチレートを検出した際に前記加速度取得工程で取得した前記加速度と、前記第1ピッチレートを検出した位置を前記後輪が通過した際に前記ピッチレート検出手段が検出したピッチレートである第2ピッチレートと、前記第2ピッチレートを検出した際に前記加速度取得工程で取得した前記加速度と、に基づいて、前記段差を検出する、ことを特徴とする段差検出方法である。
【0013】
また、請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の段差検出方法を、コンピュータにより実行させることを特徴とする段差検出プログラムである。
【0014】
また、請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の段差検出プログラムを格納したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施例にかかる段差検出装置を有する段差検出システムの概略構成図である。
【
図2】
図1に示された演算装置1等の概略構成図である。
【
図3】
図1に示されたサーバ装置の概略構成図である。
【
図4】上り段差の場合の車椅子の移動の状態を示した説明図である。
【
図5】
図4の状態におけるピッチレート、ピッチ角、垂直加速度の変化を示したグラフである。
【
図6】下り段差の場合の車椅子の移動の状態を示した説明図である。
【
図7】
図6の状態におけるピッチレート、ピッチ角、垂直加速度の変化を示したグラフである。
【
図8】段差の高さをホイールベース長との関係を示した説明図である。
【
図9】ホイールベース長で正規化する前と後のピッチレートのピーク値のグラフである。
【
図10】
図9に示されたグラフから算出した平均値、標準偏差、変動係数をまとめた表である。
【
図11】
図1に示された演算装置の動作を示したフローチャートである。
【
図12】
図1に示されたサーバ装置の動作を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態にかかる段差検出装置を説明する。本発明の一実施形態にかかる段差検出装置は、前輪と後輪とを備える移動体に搭載される、又は移動体に取付可能となっている。そして、段差検出手段が、路面上を前輪が通過した際にピッチレート検出手段が検出したピッチレートである第1ピッチレートと、第1ピッチレートを検出した位置を後輪が通過した際にピッチレート検出手段が検出したピッチレートである第2ピッチレートと、に基づいて、段差を検出する。このようにすることにより、前輪と後輪の2つの車輪のピッチレートの変化により段差を検出することができるので、比較的低い段差であっても精度良く路面上の段差を検出することができる。
【0017】
また、段差検出手段は、第1ピッチレートが検出された路面上の位置から移動体のホイールベース長に関連する距離を移動体が移動した際に検出されたピッチレートを第2ピッチレートとしてもよい。このようにすることにより、移動体の前輪と後輪の間の長さであって既知の値であるホイールベース長に基づいて、第2ピッチレートを検出する位置を特定することができる。
【0018】
また、段差検出手段は、第1ピッチレートの絶対値が予め定めた第1の閾値以上、かつ第2ピッチレートの絶対値が予め定めた第2の閾値以上である場合に、当該位置を段差として検出してもよい。このようにすることにより、一定以上の絶対値を持つピッチレートが前輪通過時と後輪通過時で検出された場合を段差とすることができるので、段差の検出を精度良くすることができる。
【0019】
また、移動体の移動平面に対して垂直方向の加速度を検出する加速度検出手段により検出された加速度を取得する加速度取得手段を備え、段差検出手段は、第1ピッチレートを検出した際に加速度取得手段が取得した加速度と、第2ピッチレートを検出した際に加速度取得手段が取得した加速度と、に基づいて段差を検出してもよい。このようにすることにより、ピッチレートに加えて垂直方向の加速度も考慮することができるので、段差の検出精度を一層向上させることができる。
【0020】
また、段差検出手段は、第1ピッチレートを検出した際に加速度取得手段が取得した加速度の絶対値が予め定めた第3の閾値以上、かつ第2ピッチレートを検出した際に加速度取得手段が取得した加速度の絶対値が予め定めた第4の閾値以上である場合に、当該位置を段差として検出してもよい。このようにすることにより、一定以上の垂直方向の加速度が前輪通過時と後輪通過時で検出された場合を第1ピッチレートとすることができ、段差の検出を精度良くすることができる。
【0021】
また、段差検出手段は、ピッチレート検出手段から取得したピッチレートの符号と加速度取得手段が取得した加速度の変化の向きとに基づいて、段差を検出してもよい。このようにすることにより、ピッチレートの符号、つまり、ピッチレートが正数が負数かと、加速度の変化の向き、つまり、加速度が増加したか減少したかと、を考慮することができるので、ピッチレートの方向や加速度の方向まで考慮して段差を精度良く検出することができる。
【0022】
また、段差検出手段は、第1ピッチレートの符号と第2ピッチレートの符号とに基づいて、移動体が通過した段差が上り段差であったか下り段差であったかを検出してもよい。このようにすることにより、2つのピッチレートの符号によって現在通過した段差が上り段差か下り段差かを判別することができる。
【0023】
また、段差検出手段は、段差を検出した際に、第1ピッチレートのピーク値をホイールベース長で正規化した第1正規化ピッチレート、および/または第2ピッチレートのピーク値をホイールベース長で正規化した第2正規化ピッチレートを含む正規化ピッチレート情報を生成する。そして、位置取得手段が段差が検出された位置に関する情報を取得し、送信手段が外部のサーバ装置により路面上の段差のレベルを判定させるための情報として、位置取得手段から取得した段差が検出された位置に関する情報及び正規化ピッチレート情報を当該サーバ装置へ送信するようにしてもよい。このようにすることにより、正規化ピッチレート情報によってホイールベース長の違いによる検出誤差を少なくすることができる。また、サーバ装置に複数の段差検出装置から収集した情報に基づいて段差レベルを判定した結果を蓄積させることができる。よって段差の判定精度を高めることができる。
【0024】
また、段差検出手段は、段差を検出した際に、第1ピッチレートのピーク値をホイールベース長で正規化した第1正規化ピッチレート、および/または第2ピッチレートのピーク値をホイールベース長で正規化した第2正規化ピッチレートに基づいて、段差のレベルを判定するようにしてもよい。このようにすることにより、ホイールベース長の違いによる検出誤差を少なくすることができる。
【0025】
また、位置取得手段が段差が検出された位置に関する情報を取得し、送信手段が段差検出手段により判定された段差レベル及び当該段差が検出された位置に関する情報を、外部のサーバ装置へ送信するようにしてもよい。このようにすることにより、サーバ装置に複数の段差検出装置から収集した情報に基づいて段差レベルを判定した結果を蓄積させることができる。
【0026】
また、本発明の一実施形態にかかる段差検出方法は、段差検出工程で、路面上を前輪が通過した際にピッチレート検出手段が検出したピッチレートである第1ピッチレートと、第1ピッチレートを検出した位置を後輪が通過した際にピッチレート検出手段が検出したピッチレートである第2ピッチレートと、に基づいて、段差を検出する。このようにすることにより、前輪と後輪の2つの車輪のピッチレートの変化により段差を検出することができるので、比較的低い段差であっても精度良く路面上の段差を検出することができる。
【0027】
また、上述した段差検出方法をコンピュータにより実行させる段差検出プログラムとしてもよい。このようにすることにより、コンピュータを用いて、前輪と後輪の2つの車輪のピッチレートの変化により段差を検出することができるので、精度良く路面上の段差を検出することができる。
【0028】
また、上述した段差検出プログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納してもよい。このようにすることにより、当該プログラムを機器に組み込む以外に単体でも流通させることができ、バージョンアップ等も容易に行える。
【実施例0029】
本発明の一実施例にかかる段差検出装置を
図1乃至
図12を参照して説明する。本実施例にかかる段差検出装置としての演算装置1は、
図1に示したように、移動体としての車椅子100に搭載されている。
【0030】
図1は、本発明の一実施例にかかる段差検出装置を有する段差検出システムの構成図である。
図1に示したように、車椅子100には、演算装置1の他にGPS受信機2と、加速度検出手段としての加速度センサ3と、ピッチレート検出手段としてのジャイロセンサ4と、送信手段としての通信機5と、が搭載されている。ここで、演算装置1と通信機5とで本発明の一実施例にかかる段差検出装置10を構成する。
【0031】
車椅子100に搭載された通信機5は、インターネット等のネットワーク網Nに無線通信で接続することができ、このネットワーク網Nを介してサーバ装置50と通信可能となっている。
【0032】
車椅子100は、車体に、左右一対の前輪101及び左右一対の後輪102が設けられている。前輪101は車体の前方側に設けられている。後輪102は車体の後方側に設けられている。前輪101は、その直径は後輪102の直径より小さくなっている。
【0033】
車椅子100の車体は、例えば鋼管製のフレームにより構成されたフレーム構造体である。そして、車体には、利用者が着席する座席や、利用者の足部を乗せるフットプレート等が設けられている。
【0034】
車椅子100に搭載されている機器の機能的構成図を
図2に示す。演算装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを備えたマイクロコンピュータ及び、GPS受信機2、加速度センサ3、ジャイロセンサ4、通信機5と接続するためのインタフェース等を有している。また、演算装置1は、ROM等に記憶される制御プログラムを実行することにより、ピッチレート取得部11と、加速度取得手段としての加速度取得部12と、段差検出手段としての段差検出部13と、して機能する。
【0035】
ピッチレート取得部11は、ジャイロセンサ4が検出したピッチレート等を取得する。また、ピッチレート取得部11は、後述する条件に合致するときに取得したピッチレートを第1ピッチレート、第2ピッチレートとして取得する。
【0036】
加速度取得部12は、加速度センサ3が検出した加速度等を取得する。
【0037】
段差検出部13は、ピッチレート取得部11が取得したピッチレート(第1ピッチレート及び第2ピッチレート)に基づいて路面上の段差を検出する。段差の検出方法については後述する。即ち、段差検出部13は、取得したピッチレートに基づいて、移動体(車椅子100)が走行して通過した路面上の段差を検出する段差検出手段として機能する。なお、本実施例における段差とは、路面上において、車椅子100で上がる又は下がることが困難となる位置(地点)であって、一の路面と次の路面とが所定高さ以上の垂直面または所定角度以上の斜面で繋がれている位置をいう。
【0038】
GPS受信機2は、周知のように複数のGPS(Global Positioning System)衛星から発信される電波を受信して、現在地情報(緯度、経度)を求めて演算装置1に出力する。
【0039】
加速度センサ3は、車椅子100が走行して移動する移動平面に対して垂直な方向の加速度(垂直加速度)を検出する。加速度センサ3は、例えば静電容量型やピエゾ抵抗型等、どのような方式のセンサでもよいが、車椅子100に搭載するので小型であることが好ましい。
【0040】
ジャイロセンサ4は、車椅子100のピッチ方向の回転角速度(ピッチレート)を取得する。ここで、ピッチとは車椅子100の進行方向に対して上下方向の傾き(横方向を軸とした回転角)を示す。ジャイロセンサ4は、例えば静電容量型や圧電型等、どのような方式のセンサでもよいが、車椅子100に搭載するので小型であることが好ましい。
【0041】
通信機5は、演算装置1で演算された結果をサーバ装置50へ無線通信により送信する。通信機5は、LTE(Long Term Evolution)やW-CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)等の携帯電話網で利用されている通信方式でもよい。また、Wi-Fi(登録商標)等の無線LANの通信方式であってもよいし、それらを切り替えて利用できるものであってもよい。
【0042】
サーバ装置50の機能的構成図を
図3に示す。サーバ装置50は、通信機51と、演算装置52と、記憶装置53と、を備えている。通信機51は、通信機5から送信された演算装置1で演算された結果を受信する。
【0043】
演算装置52は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを備えたマイクロコンピュータを有している。また、演算装置52は、ROM等に記憶される制御プログラムを実行することにより、レベル判定部521と、更新部522と、して機能する。
【0044】
レベル判定部521は、演算装置1から送信された情報に基づいて、段差のレベルを判定する。段差のレベルとは、段差の高さをレベルで区分したものであり、例えば0以上5cm未満をレベル1、5cm以上10cm未満をレベル2など所定の閾値に基づいて判定する。
【0045】
更新部522は、レベル判定部521の判定結果に基づいて、記憶装置53に記憶されている地図情報532のバリア情報を更新する。また、更新部522は、演算装置1から送信された正規化ピッチレート等の情報を正規化ピッチレート情報531として蓄積する。
【0046】
次に、本実施例における段差の検出原理について
図4乃至
図7を参照して説明する。
図4は、上り段差Uを通過する場合の車椅子100の移動の状態を示した図、
図5は、
図4の状態におけるピッチレート、ピッチ角、垂直加速度の変化を示したグラフである。なお、
図5(c)の垂直加速度のグラフは初期値が約9.8m/s2であり、初期値として重力加速度が検出されている状態である。つまり、
図5(c)は、予め下向きの加速度が検出されており、値が大きくなると下向きの加速度が大きくなることを意味する。
【0047】
まず、
図4(a)の状態は上り段差Uを通過する前の状態である。この場合、ピッチレート、ピッチ角、垂直加速度とも大きな変化は発生しない(
図5(a)のa)。次に
図4(b)の状態は上り段差Uを前輪101が上る(段差に前輪101が衝突した)状態である。この場合、前輪101が上り段差Uを上るので車椅子100の車体は進行方向に向かって斜め上向きの状態となりピッチレートが上向きに増加する(
図5(a)のb)。また、上向きの力を上り段差Uから受け、上向きの動きが生じるので上向きの垂直加速度が発生し、垂直加速度が増加する(
図5の(c)のb)。
【0048】
次に
図4(c)の状態は上り段差Uを後輪102が上る(段差に後輪102が衝突した)状態である。この場合、後輪102が上り段差Uを上るので車椅子100の車体は斜めの状態から水平の状態に移行しようとしてピッチレートが下向きに増加する(
図5(a)のc)。また、後輪102が段差を上るため、車体が上向きの力を上り段差Uから受けるので垂直加速度が増加する(
図5の(c)のc)。そして、
図4(d)の状態は上り段差Uを通過した後の状態である。この場合も上り段差Uを通過する前と同様に、ピッチレート、ピッチ角、垂直加速度とも大きな変化は発生しない(
図5(a)のd)。
【0049】
つまり、上り段差Uの場合、前輪101が上り段差Uを通過する際には、ピッチレートが+方向に増加するとともに垂直加速度が増加する。つまり、ピッチレートと重力加速度分を減じた垂直加速度が正数となる。そして、後輪102が上り段差Uを通過する際には、ピッチレートが-方向に増加するとともに垂直加速度が増加する。つまり、ピッチレートは負数となり、重力加速度分を減じた垂直加速度が正数となる。ここで、本実施例のピッチレートは、車椅子100が進行方向に対して上るように車体が傾くときに正数となり、進行方向に対して下るように車体が傾くときに負数となる。また、垂直加速度は、重力加速度を減じれば、上向きの場合は正数となり、下向きの場合は負数となる。ここで、前輪101と後輪101が上り段差Uを通過する際、垂直加速度が増加した後に減少に転じるが、これは車輪が段差に衝突したことによって段差の上面より高い位置まで上昇し、その後その位置から段差の上面に落下するためである(
図5(c)のb点とc点の直後)。
【0050】
図6は、下り段差Dを通過する場合の車椅子100の移動の状態を示した図、
図7は、
図6の状態におけるピッチレート、ピッチ角、垂直加速度の変化を示したグラフである。
【0051】
まず、
図6(a)の状態は下り段差Dを通過する前の状態である。この場合は、ピッチレート、ピッチ角、垂直加速度とも大きな変化は発生しない(
図7(a)のa)。次に
図6(b)の状態は下り段差Dを前輪101が下る(落下する)状態である。この場合、前輪101が下り段差Dを下るので車椅子100の車体は進行方向に向かって斜め下向きの状態となりピッチレートが下向きに増加する(
図7(a)のb)。また、前輪101が落下するため垂直加速度が減少する(
図7(c)のb)。
【0052】
次に
図6(c)の状態は下り段差Dを後輪102が下る(落下する)状態である。この場合、後輪102が下り段差Dを下るので車椅子100の車体は斜めの状態から水平の状態に移行しようとしてピッチレートが上向きに増加する(
図7(a)のc)。また、後輪102が落下するため、垂直加速度が減少する(
図7(c)のc)。そして、
図6(d)の状態は下り段差Dを通過した後の状態である。この場合も下り段差Dを通過する前と同様に、ピッチレート、ピッチ角、垂直加速度とも大きな変化は発生しない(
図7(a)のd)。
【0053】
つまり、下り段差Dの場合、前輪101が下り段差Dを通過する際には、ピッチレートが-方向に増加するとともに垂直加速度が減少する。つまり、ピッチレートと重力加速度分を減じた垂直加速度が負数となる。そして、後輪102が下り段差Dを通過する際には、ピッチレートが+方向に増加するとともに垂直加速度が減少する。つまり、ピッチレートが正数となり、重力加速度分を減じた垂直加速度が負数となる。ここで、前輪101と後輪101が下り段差Dを通過する際、垂直加速度が減少した後に増加に転じるが、これは車輪が地面に衝突した後の跳ね返りが生じるためである(
図7(c)のb点とc点の直後)。
【0054】
従って、
図4乃至
図7によれば、ジャイロセンサ4が検出するピッチレートの値及び符号と加速度センサ3が検出する垂直加速度の絶対値及び増加又は減少といった変化の向きに基づいて上り段差Uを通過したか下り段差Dを通過したかを検出することができる。また、検出されたピッチレートや垂直加速度に閾値を設けることで、
図5や
図7に示したb点やc点といった段差を通過した際に現れるピークを確実に検出することが可能となる。
【0055】
次に、上述した原理で検出した段差の高さレベルを精度良く判別する方法について説明する。上述したように、段差の有無はピッチレート等で検出することが可能であるが、その段差の高さは単にピッチレートのピーク値だけでは判別することはできない。これは、車椅子100は、ホイールベース長(前輪101の車軸と後輪102の車軸と間の長さ)が異なるためである。
【0056】
ここで、
図8に示したように、段差の高さをh、ホイールベース長をH、ピッチ角をθとすると、h=Hsinθとなる。また、ピッチ角θが小さいときはsinθ≒θのため、h=Hθとなる。従って、hが不変の場合ホイールベース長Hが小さくなるとピッチ角θは大きくなる。これは、ピッチ角の時間変化であるピッチレートも同様であるため、ホイールベースHとピッチレートのピーク値には相関(反比例関係)があると言える。
【0057】
そこで、本実施例では、検出されたピッチレートのピーク値をホイールベース長で正規化することで、ホイールベース長の影響を排除している。正規化の一例としてはピッチレートのピーク値にホイールベース長の逆数を乗算することが挙げられる。なお、正規化の方法は他の方法であってもよい。
【0058】
図9に正規化を行う前と後でのピッチレートの比較を示す。
図9(a)は段差が2cmの場合、
図9(b)は段差が4cmの場合である。
図9の横軸はデータを測定した車椅子を識別するためのサンプル番号である。また、
図9の菱形は正規化を行う前、丸は正規化を行った後である。
【0059】
図10は、
図9に示したグラフをまとめた表である。
図10に示したように、2cm段差の場合、正規化後の平均値μは28.4から12.8へ、標準偏差σは6.98から2.50へ、変動係数cvは0.246から0.195へそれぞれ小さくなっている。4cm段差の場合も正規化後の平均値μは44.7から19.8へ、標準偏差σは10.0から3.06へ、変動係数cvは0.225から0.155へそれぞれ小さくなっている。ここで、変動係数とは標準偏差を平均値で割ったものであり、この値を用いてばらつき度合いを評価することができる。変動係数が小さいほどばらつきが少なく、変動係数が大きいほどばらつきが多いと判断できる。
【0060】
従って、正規化により車椅子100のホイールベースの違いによるばらつきを少なくすることができる。よって、段差レベルの判別の精度(信頼性)を向上させることができる。
【0061】
次に、上述した構成の演算装置1及びサーバ装置50の動作について、
図11及び
図12のフローチャートを参照して説明する。
図11は、演算装置1の動作のフローチャートである。
【0062】
まず、ステップS101において、段差検出部13に閾値T1、T2、T3、T4を設定してステップS102に進む。閾値T3、T4は、加速度センサ3が検出する垂直加速度に設定される閾値である。閾値T3は、前輪101が段差を通過したことを検出するための閾値であり、閾値T4は、後輪102が段差を通過したことを検出するための閾値である。閾値T1、T2は、ジャイロセンサ4が検出するピッチレートに設定される閾値である。閾値T1は、前輪101が段差を通過したことを検出するための閾値であり、閾値T2は、後輪102が段差を通過したことを検出するための閾値である。これらの閾値T1、T2、T3、T4は、車椅子100に合わせて調整可能としている。また、車椅子のタイプに応じたデータテーブルを予め用意し、車椅子のタイプを入力して閾値T1、T2、T3、T4やホイールベース長Hが自動的に設定されるようにしてもよい。
【0063】
次に、ステップS102において、垂直加速度AzとピッチレートPrを検出してステップS103に進む。本ステップでは、加速度センサ3が検出した垂直加速度Azを加速度取得部12が取得し、ジャイロセンサ4が検出したピッチレートPrをピッチレート取得部11が取得する。即ち、本ステップで取得したピッチレートPrが第1ピッチレートとなる。
【0064】
次に、ステップS103において、段差検出部13はステップS102で取得した垂直加速度Azが-T3未満かつピッチレートPrが-T1未満か否かを判断し、この条件を満たす場合(Yesの場合)はステップS104に進み、条件を満たさない場合(Noの場合)はステップS105に進む。本ステップは、
図7(a)(c)のb点を検出している。なお、本ステップ以降で閾値と比較する垂直加速度Azは重力加速度分を減じた値であり、閾値も重力加速度からの変化分で規定されている。即ち、閾値T3が第3の閾値、閾値T1が第1の閾値となる。また、垂直加速度AzとピッチレートPrの符号が負(負数)であることも検出している。
【0065】
次に、ステップS104において、ステップS103で条件を満たすと判断されたので、段差検出部13は現在通過中の段差は下り段差と仮判定をして、段差候補フラグに-1をセットしてステップS107に進む。本ステップでは、
図7(a)(c)のb点に該当するような状態を検出したが後輪102側の判定を行っていないので、仮の判定を行い、その判定を示すフラグとして演算装置1内に設定されている段差候補フラグをセットする。なお、段差候補フラグにセットする値は、-1に限らず、下りと仮判定したことを示す値であればよい。
【0066】
一方、ステップS105においては、段差検出部13はステップS102で取得した垂直加速度AzがT3以上かつピッチレートPrがT1以上か否かを判断し、この条件を満たす場合(Yesの場合)はステップS106に進み、条件を満たさない場合(Noの場合)は段差の検出ではないと判断して本フローチャートを終了する。本ステップは、
図5(a)(c)のb点を検出している。即ち、垂直加速度AzとピッチレートPrの符号が正(正数)であることも検出している。
【0067】
次に、ステップS106において、ステップS105で条件を満たすと判断されたので、段差検出部13は現在通過中の段差は上り段差と仮判定をして、段差候補フラグに1をセットしてステップS107に進む。本ステップでは、
図5(a)(c)のb点に該当するような状態を検出したが後輪102側の判定を行っていないので、仮の判定を行い、ステップS104と同様に段差候補フラグをセットする。なお、段差候補フラグにセットする値は、1に限らず、上りと仮判定したことを示す値であればよい。
【0068】
次に、ステップS107において、ホイールベース長H移動後の垂直加速度AzとピッチレートPrとを検出してステップS108に進む。本ステップでは、ステップS102と同様に、加速度センサ3が検出した垂直加速度Azを加速度取得部12が取得し、ジャイロセンサ4が検出したピッチレートPrをピッチレート取得部11が取得する。また、ホイールベース長Hの移動距離は、予め設定されているホイールベース長Hに基づいてGPS受信機2が検出する緯度、経度から算出してもよいし、車椅子100の車輪(後輪102)の回転角に予め設定された車輪の円周を乗算して算出してもよい。車椅子100の車輪の回転角は、車輪に角度センサ等を設けることで検出できる。なお、本ステップにおいて、垂直加速度AzとピッチレートPrとを検出するのは、ホイールベース長Hの距離の前後所定の範囲(所定の範囲)で行う。即ち、このホイールベース長Hの距離の前後所定の範囲(所定の範囲)が移動体(車椅子100)のホイールベース長に関連する距離となる。そして、本ステップS108で取得したピッチレートPrが第2ピッチレートとなる。
【0069】
次に、ステップS108において、段差検出部13はステップS107で取得した垂直加速度Azが-T4未満かつピッチレートPrがT2以上か否かを判断し、この条件を満たす場合(Yesの場合)はステップS109に進み、条件を満たさない場合(Noの場合)はステップS111に進む。本ステップは、
図7(a)(c)のc点を検出している。即ち、閾値T4が第4の閾値、閾値T2が第2の閾値となる。また、垂直加速度Azの符号が負(負数)であり、ピッチレートPrの符号が正(正数)であることも検出している。
【0070】
次に、ステップS109において、段差検出部13は段差候補フラグが-1であるか否かを判断し、-1である場合(Yesの場合)はステップS110に進む、そうでない場合(Noの場合)は段差の検出ではないと判断して本フローチャートを終了する。
【0071】
次に、ステップS110において、段差候補フラグが下り段差を示すものとなっていたので、
図7のb点及びc点の条件を満たしたこととなり、段差検出部13は通過した段差は下り段差と正式に判定してステップS114に進む。即ち、第1ピッチレートの絶対値が第1の閾値(T1)以上、かつ第2ピッチレートの絶対値が第2の閾値(T2)以上である。また、第1ピッチレートを検出した際に取得した垂直加速度の絶対値が第3の閾値(T3)以上、かつ第2ピッチレートを検出した際に取得した垂直加速度の絶対値が第4の閾値(T4)以上である。そして、これらの条件に基づいて段差を検出している。また、第1ピッチレートが負数、かつ第2ピッチレートが正数であるため、通過した段差は下り段差である。つまり、第1ピッチレートの符号と、第2ピッチレートの符号とに基づいて下り段差を検出している。
【0072】
一方、ステップS111においては、段差検出部13はステップS107で取得した垂直加速度AzがT4以上かつピッチレートPrが-T2未満か否かを判断し、この条件を満たす場合(Yesの場合)はステップS112に進み、条件を満たさない場合(Noの場合)は段差の検出ではないと判断して本フローチャートを終了する。本ステップは、
図5(a)(c)のc点を検出している。即ち、垂直加速度Azの符号が正(正数)であり、ピッチレートPrの符号が負(負数)であることも検出している。
【0073】
次に、ステップS112において、段差判定部13は段差候補フラグが1であるか否かを判断し、1である場合(Yesの場合)はステップS113に進む、そうでない場合(Noの場合)は段差の検出ではないと判断して本フローチャートを終了する。
【0074】
次に、ステップS113において、段差候補フラグが上り段差を示すものとなっていたので、
図5のa点及びc点の条件を満たしたこととなり、段差判定部13は通過した段差は上り段差と正式に判定してステップS114に進む。即ち、第1ピッチレートの絶対値が第1の閾値(T1)以上、かつ第2ピッチレートの絶対値が第2の閾値(T2)以上である。また、第1ピッチレートを検出した際に取得した垂直加速度の絶対値が第3の閾値(T3)以上、かつ第2ピッチレートを検出した際に取得した垂直加速度の絶対値が第4の閾値(T4)以上である。そして、これらの条件に基づいて段差を検出している。また、第1ピッチレートが正数、かつ第2ピッチレートが負数であるため、通過した段差は上り段差である。つまり、第1ピッチレートの符号と、第2ピッチレートの符号とに基づいて上り段差を検出している。
【0075】
次に、ステップS114において、段差検出部13はGPS受信機2から位置(緯度、経度)を取得して、段差の位置を内部メモリ等に記録する。なお、ステップS107でGPS受信機2を利用してホイールベース長の距離を検出した場合は、その際に取得した位置を記録してもよい。即ち、段差検出部13が段差が検出された位置に関する情報を取得する位置取得手段として機能する。
【0076】
次に、ステップS115において、段差検出部13は段差と判定した場所(位置)のピッチレートPrのピーク値を検出してステップS116に進む。ピッチレートPrのピーク値は、ステップS103、S105、S108、S111等の判断において使用した値を内部メモリ等に記憶し、それを用いてもよい。なお、本ステップで検出するピーク値は、前輪101側(ステップS103、S105判断時)のピーク値であってもよいし、後輪102側(ステップS108、S111判断時)のピーク値であってもよいし、両者の平均であってもよい。
【0077】
次に、ステップS116において、段差判定部13は車椅子100のホイールベース長Hの逆数とステップS115で検出したピッチレートPrのピーク値を乗じて正規化してステップS117に進む。正規化されたピーク値を正規化ピッチレートPr_nとする。即ち、正規化ピッチレートPr_nが正規化ピッチレート情報となる。ここで、正規化ピッチレートPr_nは、ステップS115で前輪101側のピーク値を用いた場合は第1正規化ピッチレート、後輪102側を用いた場合は第2正規化ピッチレートとなり、前輪101側のピーク値と後輪102側のピーク値の平均を用いた場合は平均正規化ピッチレートとなる。
【0078】
次に、ステップS117において、段差判定部13は車椅子100のIDを付加し、段差と判定した位置(段差位置Sp)と正規化ピッチレート値Pr_nをサーバ装置50に通信機5を介して送信する。車椅子100のIDは、車椅子ごとに予め付与されたIDであって、演算装置1に設定されている。
【0079】
以上の説明から明らかなような、
図11のフローチャートは、路面上を前輪101が通過した際にピッチレート検出手段が検出したピッチレートである第1ピッチレートと、第1ピッチレートを検出した位置を後輪102が通過した際にピッチレート検出手段が検出したピッチレートである第2ピッチレートと、に基づいて、段差を検出する段差検出工程として機能する。
【0080】
次に、
図12に示したサーバ装置50の動作を説明する。
図12に示したフローチャートは演算装置52が実行する。
【0081】
まず、ステップS201において、演算装置52は通信機51が受信した車椅子100のIDを読み取り、その車椅子100の重み付け値Wを取得する。そして、演算装置52は通信機51が受信した段差位置Spにおける正規化ピッチレート値Pr_nをWを用いて(考慮した上で)過去のデータとの間で平均化処理を行いステップS202に進む。この平均化処理によって算出された値を平均値Pr_aveとする。
【0082】
この重み付け値Wは、過去に送信された正規化ピッチレート値Pr_nの信頼度を示すものであり、記憶装置53に車椅子100のIDと紐付けされて記憶されている。この重み付け値Wは、例えば初期値を1として信頼度が上がるにしたがって数値を大きくするようにすればよい。そして、過去のデータが記憶されている記憶装置53の正規化ピッチレート情報531のデータとともに加重平均を算出する。
【0083】
次に、ステップS202において、演算装置52はステップS201で受信されたIDの車椅子100に対する重み付け値Wを変更しステップS203に進む。本ステップでは、平均値Pr_aveに対して通信機51が受信した正規化ピッチレート値Pr_nの差が大きい場合は、この車椅子100の重み付け値Wを所定量だけ下げる。また、平均値Pr_aveに対して通信機51が受信した正規化ピッチレート値Pr_nの差が小さい場合は、この車椅子100の重み付け値Wを所定量だけ上げる。つまり、平均値Pr_aveに近い正規化ピッチレート値Pr_nを出力する車椅子は重み付け値Wを高くすることになる。
【0084】
次に、ステップS203において、演算装置52のレベル判定部521は段差レベルの閾値とステップS202で算出された平均値Pr_aveとを比較し、段差レベルの判定を行ってステップS204に進む。この閾値は、例えば5cm、10cm等に段差レベルに応じて予め設定されており、例えば、算出された平均値Pr_aveが6.8cmであった場合は、5cm以上10cm未満の範囲であるので、段差レベル2などと判定する。
【0085】
次に、ステップS204において、演算装置52の更新部522はステップS203で判定した段差レベルの結果に基づいて、記憶装置53の地図情報532に記憶されているバリア情報を作成あるいは更新する(バリアフリーマップを作成あるいは更新する)。
【0086】
なお、上記に説明したように、段差レベルの判定はピッチレートのピーク値が必要であるが、単に段差を判定するだけであればピーク値でなくてもよく、各閾値T1、T2、T3、T4以上の値が検出された時点で判定をすればよい。
【0087】
また、上述したフローチャートでは、上り段差と下り段差との判定のための閾値を極性が異なる同じ絶対値(T1と-T1等)としていたが、それぞれ異なる閾値を設定してもよい。前述の通り、前輪101と後輪101が上り段差Uを通過する際、垂直加速度が増加した後に減少に転じるのは車輪が段差に衝突したことによって段差の上面より高い位置まで上昇し、その後その位置から段差の上面に落下するためであり、前輪101と後輪101が下り段差Dを通過する際、垂直加速度が減少した後に増加に転じるのは車輪が地面に衝突した後の跳ね返りが生じるためである。よって、これらの垂直加速度変化に対してそれぞれ異なる閾値を設定して判定するようにすれば、更に精度よく上り段差と下り段差を検出することができる。
【0088】
本実施例によれば、演算装置1は、前輪101と後輪102を備える車椅子100に搭載されている。そして、路面上を前輪101が通過した際にジャイロセンサ4が検出してピッチレート取得部11が取得したピッチレートを第1ピッチレート、第1ピッチレートを検出した位置を後輪102が通過した際にジャイロセンサ4が検出してピッチレート取得部11が取得したピッチレートを第2ピッチレート、とし、段差検出部13が、第1ピッチレート及び第2ピッチレートに基づいて、段差を検出している。このようにすることにより、前輪101と後輪102の2つの車輪のピッチレートの変化により段差を検出することができるので、比較的低い段差であっても精度良く路面上の段差を検出することができる。
【0089】
また、段差検出部13は、第1ピッチレートが検出された路面上の位置から車椅子100のホイールベース長Hの距離の前後所定範囲を含む距離を移動した位置の前後所定の範囲を車椅子100が移動した際にピッチレート取得部11が取得したピッチレートを第2ピッチレートとしている。このようにすることにより、車椅子100の前輪101と後輪102の間の長さであって既知の値であるホイールベース長Hに基づいて、第2ピッチレートを検出する位置を特定することができる。
【0090】
また、段差検出部13は、第1ピッチレートの絶対値が閾値T1以上、かつ第2ピッチレートの絶対値が閾値T3以上である場合に、当該位置を段差として検出している。このようにすることにより、一定以上の絶対値を持つピッチレートが前輪101通過時と後輪102通過時で検出された場合を段差とすることができるので、段差の検出を精度良くすることができる。
【0091】
また、車椅子100の移動平面に対して垂直方向の加速度を検出する加速度センサ3により検出された垂直加速度を取得する加速度取得部12を備え、段差検出部13は、第1ピッチレートを検出した際に加速度取得部12が取得した垂直加速度と、第2ピッチレートを検出した際に加速度取得部12が取得した垂直加速度と、に基づいて段差を検出している。このようにすることにより、ピッチレートに加えて垂直方向の加速度も考慮することができるので、段差の検出精度を一層向上させることができる。
【0092】
また、段差検出部13は、第1ピッチレートを検出した際に加速度取得部12が取得した垂直加速度の絶対値が閾値T3以上、かつ第2ピッチレートを検出した際に加速度取得部12が取得した垂直加速度の絶対値が閾値T4以上である場合に、当該位置を段差として検出している。このようにすることにより、一定以上の垂直方向の加速度が前輪101通過時と後輪102通過時で検出された場合を第1ピッチレートとすることができ、段差の検出を精度良くすることができる。
【0093】
また、段差検出部13は、ジャイロセンサ4から取得したピッチレートの符号と加速度取得部12が取得した垂直加速度の変化の向きとに基づいて、段差を検出している。このようにすることにより、ピッチレートの符号、つまり、ピッチレートが正数が負数かと、加速度の符号、つまり、加速度が増加したか減少したかと、を考慮することができるので、ピッチレートの方向や加速度の方向まで考慮して段差を精度良く検出することができる。
【0094】
また、段差検出部13は、第1ピッチレートの符号と、第2ピッチレートの符号とに基づいて、車椅子100が通過した段差が上り段差であったか下り段差であったかを検出している。このようにすることにより、2つのピッチレートの符号によって現在通過した段差が上り段差か下り段差かを判別することができる。
【0095】
また、段差検出部13は、段差を検出した際に、ピッチレートPrのピーク値をホイールベース長Hで正規化した正規化ピッチレートPr_nを生成する。そして、段差検出部13は、GPS受信機2から段差が検出された位置の緯度、経度を取得する。そして、通信機5がサーバ装置50により路面上の段差のレベルを判定させるための情報として、段差が検出された位置の緯度、経度に加えて、正規化ピッチレートPr_n及び車椅子100のIDを当該サーバ装置50へ送信している。このようにすることにより、正規化ピッチレートPr_nを算出することで、ホイールベース長Hの違いによる検出誤差を少なくすることができる。また、サーバ装置50に複数の段差検出装置から収集した情報に基づいて段差レベルを判定した結果を蓄積させることができる。よって段差の判定精度を高めることができる。
【0096】
また、サーバ装置50の演算装置52は、車椅子100(演算装置1)から送信された正規化ピッチレートPr_nに重み付け値Wに基づいて重み付けを行ってから段差レベルの判定を行っている。このようにすることにより、信頼性の低いデータにより段差レベルが変動することを少なくし、段差レベルの信頼度を向上させることができる。
【0097】
なお、上述した実施例では、サーバ装置50で段差レベルの判定を行っていたが、車椅子100に搭載される演算装置1で正規化ピッチレートPr_nに基づいて判定を行ってもよい。そして、判定結果と段差が検出された位置の緯度、経度と車椅子100のIDとを通信機5を介してサーバ装置50に送信してもよい。
【0098】
また、上述した実施例では、段差検出装置として車椅子100に搭載される演算装置1で説明したが、専用の装置でなくてもよく、例えば、GPS受信機、ジャイロセンサおよび、加速度センサを搭載した(又は接続可能な)スマートフォン等の通信機能を持った端末機器であれば、上述したフローチャートをアプリ(コンピュータプログラム)とすることで、段差検出装置として機能させることができる。この場合は、車椅子にホルダ等を設け、そのホルダにスマートフォン等を取り付ければよい。即ち、移動体に取り付け可能な段差検出装置となる。
【0099】
また、上述した実施例では、加速度センサ3とジャイロセンサ4の両方の検出結果に基づいて段差を検出していたが、ジャイロセンサ4の検出結果のみであっても精度は劣るものの段差の検出は可能である。この場合は閾値T1とT2のみを設定すればよい。
【0100】
また、上述した実施例では、上り段差を通過したか、下り段差を通過したかの情報は取得できるので、その情報と車椅子100の移動軌跡等の移動の方向とによりどのような段差か(どの方向から移動すると上りあるいは下り段差となるか)を判定してもよい。
【0101】
また、上述した実施例では、移動体として車椅子で説明したが、シニアカー、ベビーカー、ゴルフカート、自転車、自動車、台車、車輪を有するロボット等、路面上を走行するための前後輪を備えるものであればよい。
【0102】
また、本発明は上記実施例に限定されるものではない。即ち、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によってもなお本発明の段差検出装置の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。