(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028870
(43)【公開日】2024-03-05
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂および光学部材
(51)【国際特許分類】
C08G 64/02 20060101AFI20240227BHJP
C08G 63/187 20060101ALI20240227BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
C08G64/02
C08G63/187
G02B1/04
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023206174
(22)【出願日】2023-12-06
(62)【分割の表示】P 2022517619の分割
【原出願日】2021-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2020078848
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】大山 達也
(72)【発明者】
【氏名】柳田 高恒
(72)【発明者】
【氏名】友成 安彦
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、高い屈折率及び低アッベ数を有する熱可塑性樹脂及びそれを含む光学部材を提供することを目的とする。
【解決手段】下記式(1)で表される繰り返し単位を含む熱可塑性樹脂。
(式中、Zはベンゼン環が3つ以上縮環した多環芳香族炭化水素であり、L
1およびL
2はそれぞれ独立に2価の連結基を示し、R
1およびR
2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~20の置換基、j1およびj2はそれぞれ独立に1以上の整数を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示し、Wはカルボニル基等の特定の構造より選ばれる少なくとも1つである。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位を含む熱可塑性樹脂。
【化1】
(式中、Zはベンゼン環が3つ以上縮環した多環芳香族炭化水素であり、L
1およびL
2はそれぞれ独立に2価の連結基を示し、R
1およびR
2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~20の置換基、j1およびj2はそれぞれ独立に1以上の整数を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示し、Wは下記式(2)または(3)で表される群より選ばれる少なくとも1つである。)
【化2】
【化3】
(式中、Xは2価の連結基を示す。)
【請求項2】
前記式(1)において、Zがフェナセン型の多環芳香族炭化水素である請求項1に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項3】
前記式(1)において、Zが3つもしくは4つのベンゼン環が縮環した多環芳香族炭化水素である請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項4】
前記式(1)において、Zがフェナントレンである請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項5】
前記式(1)で表される繰り返し単位が下記式(4)で表される請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
【化4】
(式中、L
1およびL
2はそれぞれ独立に2価の連結基を示し、R
3およびR
4はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~20の置換基、j3およびj4はそれぞれ独立に1以上の整数を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示し、Wは前記式(2)または(3)で表される群より選ばれる少なくとも1つである。)
【請求項6】
前記式(1)中、R1およびR2がそれぞれ独立に水素原子、メチル基、フェニル基、またはナフチル基を示す、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項7】
前記式(4)中、R3およびR4がそれぞれ独立に水素原子、メチル基、フェニル基、またはナフチル基を示す、請求項5に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項8】
前記式(3)中のXがフェニレン基、ナフタレンジイル基、下記式(5)で表される基および下記式(6)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一つを繰り返し単位として含む請求項1~7のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
【化5】
(式中、R
5およびR
6はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1~20の置換基又はハロゲン原子である。)
【化6】
【請求項9】
下記式(7)~(10)で表される単位からなる群より選ばれる少なくとも1つを繰り返し単位として含む請求項1~8のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
【化7】
(式中、R
7およびR
8はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1~20の置換基又はハロゲン原子である。)
【化8】
(式中、R
9およびR
10はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1~20の置換基又はハロゲン原子である。)
【化9】
(式中、R
11およびR
12はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1~20の置換基又はハロゲン原子である。)
【化10】
(式中、R
13およびR
14はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1~20の置換基又はハロゲン原子であり、Uは単結合または2価の連結基である。)
【請求項10】
屈折率が1.65~1.80である請求項1~9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【請求項11】
比粘度が0.12~0.40である請求項1~10のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【請求項12】
ガラス転移温度が、130~170℃である、請求項1~11のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の熱可塑性樹脂からなる光学部材。
【請求項14】
光学レンズである請求項13に記載の光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い屈折率を有し、かつ耐熱性と成形性とをバランスさせることができる熱可塑性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ、ビデオカメラあるいはカメラ付携帯電話、テレビ電話あるいはカメラ付ドアホンなどには、撮像モジュールが用いられている。近年、この撮像モジュールに用いられる光学系では、特に小型化が求められている。光学系を小型化していくと光学系の色収差が大きな問題となる。そこで、光学レンズの屈折率を高く、かつアッベ数を小さくして高分散にした光学レンズ材料と、屈折率を低くかつアッベ数を大きくして低分散にした光学レンズ材料を組み合わせることで、色収差の補正を行うことができることが知られている。
【0003】
光学系の材料として従来用いられていたガラスは要求される様々な光学特性を実現することが可能であると共に、環境耐性に優れているが、加工性が悪いという問題があった。これに対し、ガラス材料に比べて安価であると共に加工性に優れる樹脂が光学部品に用いられてきている。特に、フルオレン骨格やビナフタレン骨格を有する樹脂が、高屈折率である等の理由から使用されている。例えば、特許文献1や2には、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを用いた屈折率1.64の高屈折率樹脂が記載されている。しかしながら、屈折率が不十分であり、更なる高屈折率化が求められている。また、特許文献3には、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレンを有する熱可塑性樹脂が記載されている。
【0004】
高屈折率化を達成するため、特許文献4ではフルオレン骨格に、特許文献5にはビナフタレン骨格に芳香環を導入した熱可塑性樹脂が記載されている。しかしながら、近年の急速な技術革新に伴って、さらなる高屈折率化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/142149号公報
【特許文献2】特開平7-198901号公報
【特許文献3】特開2015-86265号公報
【特許文献4】国際公開第2019/044214号公報
【特許文献5】国際公開第2019/044875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高い屈折率及び低アッベ数を有する熱可塑性樹脂及びそれを含む光学部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはこの目的を達成せんとして鋭意研究を重ねた結果、3つ以上のベンゼン環が縮環した構造を含む熱可塑性樹脂が前記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0008】
≪態様1≫
下記式(1)で表される繰り返し単位を含む熱可塑性樹脂。
【化1】
(式中、Zはベンゼン環が3つ以上縮環した多環芳香族炭化水素であり、L
1およびL
2はそれぞれ独立に2価の連結基を示し、R
1およびR
2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~20の置換基、j1およびj2はそれぞれ独立に1以上の整数を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示し、Wは下記式(2)または(3)で表される群より選ばれる少なくとも1つである。)
【化2】
【化3】
(式中、Xは2価の連結基を示す。)
≪態様2≫
前記式(1)において、Zがフェナセン型の多環芳香族炭化水素である態様1に記載の熱可塑性樹脂。
≪態様3≫
前記式(1)において、Zが3つもしくは4つのベンゼン環が縮環した多環芳香族炭化水素である態様1または2に記載の熱可塑性樹脂。
≪態様4≫
前記式(1)において、Zがフェナントレンである態様1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
≪態様5≫
前記式(1)で表される繰り返し単位が下記式(4)で表される態様1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
【化4】
(式中、L
1およびL
2はそれぞれ独立に2価の連結基を示し、R
3およびR
4はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~20の置換基、j3およびj4はそれぞれ独立に1以上の整数を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示し、Wは前記式(2)または(3)で表される群より選ばれる少なくとも1つである。)
≪態様6≫
前記式(1)中、R
1およびR
2がそれぞれ独立に水素原子、メチル基、フェニル基、またはナフチル基を示す、態様1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
≪態様7≫
前記式(4)中、R
3およびR
4がそれぞれ独立に水素原子、メチル基、フェニル基、またはナフチル基を示す、態様5に記載の熱可塑性樹脂。
≪態様8≫
前記式(3)中のXがフェニレン基、ナフタレンジイル基、下記式(5)で表される基および下記式(6)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一つを繰り返し単位として含む態様1~7のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
【化5】
(式中、R
5およびR
6はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1~20の置換基又はハロゲン原子である。)
【化6】
≪態様9≫
下記式(7)~(10)で表される単位からなる群より選ばれる少なくとも1つを繰り返し単位として含む態様1~8のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
【化7】
(式中、R
7およびR
8はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1~20の置換基又はハロゲン原子である。)
【化8】
(式中、R
9およびR
10はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1~20の置換基又はハロゲン原子である。)
【化9】
(式中、R
11およびR
12はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1~20の置換基又はハロゲン原子である。)
【化10】
(式中、R
13およびR
14はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1~20の置換基又はハロゲン原子であり、Uは単結合または2価の連結基である。)
≪態様10≫
屈折率が1.65~1.80である態様1~9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
≪態様11≫
比粘度が0.12~0.40である態様1~10のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
≪態様12≫
ガラス転移温度が、130~170℃である、態様1~11のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
≪態様13≫
態様1~12のいずれかに記載の熱可塑性樹脂からなる光学部材。
≪態様14≫
光学レンズである態様13に記載の光学部材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂は、高い屈折率及び低アッベ数を有するため、光学レンズ、プリズム、光ディスク、透明導電性基板、光カード、シート、フィルム、光ファイバー、光学膜、光学フィルター、ハードコート膜等の光学部材に用いることができ、特に携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、パソコン、デジタルカメラ、ビデオカメラ、車載カメラ、又は監視カメラのいずれかに用いるための光学レンズに極めて有用であり、そのため、その奏する産業上の効果は格別である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1及び比較例2の熱可塑性樹脂の0.1質量%ジクロロメタン溶液透過スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明をさらに詳しく説明する。
<熱可塑性樹脂>
下記式(1)で表される繰り返し単位を含む熱可塑性樹脂。
【0012】
【0013】
(式中、Zはベンゼン環が3つ以上縮環した多環芳香族炭化水素であり、L1およびL2はそれぞれ独立に2価の連結基を示し、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~20の置換基、j1およびj2はそれぞれ独立に1以上の整数を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示し、Wは下記式(2)または(3)で表される群より選ばれる少なくとも1つである。)
【0014】
【化12】
【化13】
(式中、Xは2価の連結基を示す。)
【0015】
前記式(1)において、Zはベンゼン環が3つ以上縮環した多環芳香族炭化水素であり、ベンゼン環が3つまたは4つ縮環した多環芳香族炭化水素が好ましく、ベンゼン環が3つ縮環した多環芳香族炭化水素がより好ましい。
また、前記式(1)において、Zの多環芳香族炭化水素は、ベンゼン環がアセン型またはフェナセン型に縮環した構造が好ましく、フェナセン型に縮環した構造がより好ましい。
【0016】
前記式(1)において、Zは、フェナトレン、アントラセン、フェナレン、クリセン、テトラセン、ピレンが好ましく、フェナトレン、アントラセン、クリセン、テトラセンがより好ましく、縮環数が増えたときのフロンティア軌道の違いによる安定性の観点からフェナトレン、クリセンがさらに好ましく、吸収波長の観点からフェナントレンが特に好ましい。
【0017】
前記式(1)においてR1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~20の置換基を示し、水素原子、メチル基、フェニル基、ナフチル基、チエニル基、ベンゾチエニル基が好ましく、水素原子、メチル基、フェニル基、ナフチル基がより好ましく、水素原子、メチル基がさらに好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0018】
また、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが好ましい。
また、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~12の置換基としては、フェニル基、ナフチル基、チエニル基またはベンゾチエニル基などが好ましい。
また、ナフチル基の具体例として、1-ナフチル基または2-ナフチル基などが好ましい。
また、チエニル基の具体例として、2-チエニル基または3-チエニル基などが好ましい。
また、ベンゾチエニル基の具体例として、2-ベンゾ[b]チエニル基または3-ベンゾ[b]チエニル基などが好ましい。
【0019】
前記式(1)において、L1、L2はそれぞれ独立に2価の連結基を示し、炭素数1~12のアルキレン基であると好ましく、炭素数1~4のアルキレン基であるとより好ましく、エチレン基であるとさらに好ましい。L1、L2の連結基の長さを調整することによって、樹脂のガラス転移温度(Tg)を調整することができる。
【0020】
前記式(1)において、Wは前記式(2)または(3)で表される群より選ばれる少なくとも1つである。Wが前記式(2)である場合、前記式(1)はカーボネート単位となり、Wが前記式(3)である場合、前記式(1)はエステル単位となる。
【0021】
前記式(1)はジヒドロキシ化合物と炭酸エステルなどのカーボネート前駆物質、またはジヒドロキシ化合物とジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とから得ることができる。
【0022】
前記式(1)において、mおよびnはそれぞれ独立に0または1であり、1であることがより好ましい。
前記式(1)において、j1およびj2は1以上の整数であり、1~4の整数であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0023】
また、前記式(1)で表される繰り返し単位が下記式(4)で表される繰り返し単位であることが好ましい。
【0024】
【0025】
(式中、R3およびR4はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~20の置換基、j3およびj4はそれぞれ独立に0以上の整数を示し、L1、L2、m、nおよびWは前記式(1)と同様である。)
【0026】
前記式(4)において、R3およびR4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~20の置換基を示し、水素原子、メチル基、フェニル基、ナフチル基、チエニル基、ベンゾチエニル基が好ましく、水素原子、メチル基、フェニル基、ナフチル基がより好ましく、水素原子、メチル基がさらに好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0027】
前記式(4)において、j3およびj4は1以上の整数であり、1~4の整数であることが好ましく、1であることがより好ましい。
前記式(3)において、Xは2価の連結基を示し、炭素原子数1~30の芳香族基を含んでいてもよい置換基であることが好ましく、フェニレン基、ナフタレンジイル基、下記式(5)または下記式(6)で表される基であることがより好ましい。
【0028】
【0029】
(式中、R5およびR6はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1~20の置換基又はハロゲン原子を示す。)
【0030】
【0031】
前記式(5)において、R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~20の置換基を示し、水素原子、メチル基、フェニル基、ナフチル基、チエニル基、ベンゾチエニル基が好ましく、水素原子、メチル基、フェニル基、ナフチル基がより好ましく、水素原子、メチル基がさらに好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0032】
本発明の効果である高い屈折率及び低アッベ数を有することができる理由として以下のことが考えられる。
特許文献4、5では、単結合で芳香族基を導入することにより屈折率を向上させている。Lorentz-Lorenz式として知られている分子構造と屈折率の関係式から、分子の分極率を上げることによって物質の屈折率が高くなることが知られており、それと同時にアッベ数も低くなる。
【0033】
本発明は、従来技術では達成できていない、高い屈折率及び低アッベ数を有する樹脂を得ることができるものである。3つ以上の縮環構造をもつことにより、単結合によって芳香族基を導入する以上に分極率を向上させることができるため、高屈折率を達成することができると考えられる。
【0034】
また、フェナセン構造にすることによる芳香環導入は、従来技術で課題であった屈折率向上の効果と吸収波長の長波長化のトレードオフを解決することができると考えられる。例えば、ビナフタレン構造から、6,6位にフェニル基を導入した場合とビフェナントレンにした場合では、芳香環の数は同じく二つ増えただけであるが、ビフェナントレンの方が屈折率は高く、かつ、吸収波長の長波長化も抑えられることが分かった。このように、フェナセン構造が光学用途材料の構造として有用であると考えられる。
【0035】
前記式(1)で表される繰り返し単位を、5mоl%以上、10mol%以上、15mol%以上、20mol%以上、25mol%以上、30mol%以上で含んでいてもよく、100mol%以下、90mol%以下、80mol%以下、70mol%以下、60mol%以下または50mol%以下で含んでいてもよい。本発明の樹脂は、上記式(1)で表される繰返し単位を、好ましくは10mol%以上100mol%以下、より好ましくは20mol%以上100mol%以下、さらに好ましくは20mol%以上80mol%以下、特に好ましくは20mol%以上70mol%以下で含むことができる。前記式(1)で表される繰り返し単位が前記範囲であると屈折率、耐熱性と成形性のバランスに優れるため好ましい。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂において、前記式(7)~(10)で表される単位からなる群より選ばれる少なくとも1つを繰り返し単位を含むことができる。
【0037】
【化17】
(式中、R
7およびR
8は前記式(5)のR
5およびR
6と同様である。)
【0038】
【化18】
(式中、R
9およびR
10は前記式(5)のR
5およびR
6と同様である。)
【0039】
【化19】
(式中、R
11およびR
12は前記式(5)のR
5およびR
6と同様である。)
【0040】
【化20】
(式中、R
13およびR
14は前記式(5)のR
5およびR
6と同様であり、Uは単結合または2価の連結基を示す。)
【0041】
前記式(1)で表される繰り返し単位と前記式(7)~(10)で表される単位からなる群との繰り返し単位のmol比が95:5~5:95であることが好ましく、80:20~20:80であるとより好ましく、70:30~30:70であるとさらに好ましい。前記式(1)で表される繰り返し単位と前記式(7)~(10)で表される単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの繰り返し単位とのmol比が、前記範囲内であると、高屈折率であることに加え、成形性のバランスにも優れるため好ましい。
【0042】
<熱可塑性樹脂の物性>
本発明の熱可塑性樹脂の比粘度は、0.12~0.40であることが好ましく、0.14~0.35であるとより好ましく、0.16~0.30であるとさらに好ましい。比粘度が上記範囲内であると成形性と機械強度のバランスに優れるため好ましい。
【0043】
比粘度の測定方法は、熱可塑性樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度(ηSP)を、オストワルド粘度計にて測定し、以下の式から算出する。
比粘度(ηSP)=(t-t0)/t0
[t0は、塩化メチレンの落下秒数、tは、試料溶液の落下秒数]
【0044】
本発明の熱可塑性樹脂の屈折率は、温度:20℃、波長:587.56nmで測定した場合に、1.650以上であり、1.660以上、1.670以上、1.680以上、1.690以上、又は1.700以上であってもよく、1.800以下であり、1.790以下、1.780以下、1.770以下、1.760以下または1.750以下であってもよい。1.650~1.800であることが好ましく、1.670~1.800であるとより好ましく、1.680~1.800であるとさらに好ましい。屈折率が下限以上の場合、光学レンズの球面収差を低減でき、さらに光学レンズの焦点距離を短くすることができる。
【0045】
発明の熱可塑性樹脂は高屈折率であるが、さらに低アッベ数であることが好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂のアッベ数は、5以上、7以上、9以上、10以上、12以上又は14以上であってもよく、24以下、23以下、22以下、21以下、20以下、19以下又は18以下であってもよい。アッベ数(νd)は、5~22であることが好ましく、7~22であることがより好ましく、10~21であるとさらに好ましい。
【0046】
ここで、アッベ数は、温度:20℃、波長:486.13nm、587.56nm、656.27nmの屈折率から、下記式を用いて算出する:
νd=(nd-1)/(nF-nC)
nd:波長587.56nmにおける屈折率、
nF:波長486.13nmにおける屈折率、
nC:波長656.27nmにおける屈折率を意味する。
【0047】
本発明の熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度(Tg)は130℃以上、135℃以上、140℃以上、145℃以上、または150℃以上であってもよく、180℃以下、175℃以下、170℃以下、165℃以下、160℃以下であってもよい。130~180℃であることが好ましく、140~175℃であるとより好ましく、140~170℃であるとさらに好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であると、耐熱性と成形性のバランスに優れるため好ましい。
【0048】
本発明の熱可塑性樹脂は、配向複屈折の絶対値(|Δn|)は10.0×10-3以下であることが好ましく、5.0×10-3以下であることが、3.0×10-3以下であることがさらに好ましい。|Δn|が上記範囲内であると、光学レンズの光学歪が小さくなるため好ましい。
【0049】
Δnは、本発明の熱可塑性樹脂より得られる厚さ100μmのフィルムをTg+10℃の温度で2倍延伸し、波長589nmにおける位相差を測定して下記式により求める。
|Δn|=|Re/d|
Δn:配向複屈折
Re:位相差(nm)
d:厚さ(nm)
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂は、23℃の水に、24時間浸漬した後の吸水率が0.25質量%以下であると好ましく、0.20重量%以下であるとより好ましい。吸水率が上記範囲内であると、吸水による光学特性の変化が小さいため好ましい。
【0051】
本発明の熱可塑性樹脂は、360nmの分光透過率が40%以上であると好ましく、50%以上だとより好ましく、60%以上だとさらに好ましく、70%以上だと特に好ましい。上記範囲内であると、可視光を透過することができるため好ましい。
【0052】
<熱可塑性樹脂の原料>
(式(1)のジオール成分)
式(1)の原料となるジオール成分は、主として式(a)で表されるジオール成分であり、単独で使用してもよく、又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0053】
【0054】
前記式(a)において、Z、R1、R2、L1、L2、j1、j2、m及びnは、前記式(1)における各式と同じである。
以下、前記式(a)で表されるジオール成分の代表的具体例を示すが、前記式(1)に用いられる原料としては、それらによって限定されるものではない。
【0055】
式(1)で表されるジオール化合物において、具体例として、ビアントラセノール類、ビフェナントレノール類、ビフェナレノール類、ビナフタセノール類、ビクリセノール類、ビピレノール類があげられる。具体的には、下記式(a-1)で表される、2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビアントラセン、10,10’-ジヒドロキシ-9,9’-ビアントラセン、2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビフェナントレン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ビフェナントレン、10,10’-ジヒドロキシ-9,9’-ビフェナントレン、2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビフェナレン、3,3’-ジヒドロキシ-2,2’-ビナフタセン、12,12’-ジヒドロキシ-5,5’-ビナフタセン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ビクリセン、5,5’-ジヒドロキシ-6,6’-ビクリセン、2,2’-ジヒドロキシ-1,1-ビピレン、7,7’-ジヒドロキシ-2,2’-ビピレン、下記式(a-2)で表される、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビアントラセン、10,10’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-9,9’-ビアントラセン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビフェナントレン、3,3’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-4,4’-ビフェナントレン、10,10’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-9,9’-ビフェナントレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビフェナレン、3,3’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-2,2’-ビナフタセン、12,12’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-5,5’-ビナフタセン、3,3’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-4,4’-ビクリセン、5,5’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-6,6’-ビクリセン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1-ビピレン、7,7’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-2,2’-ビピレンが好ましく挙げられ、2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビフェナントレン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ビフェナントレン、10,10’-ジヒドロキシ-9,9’-ビフェナントレン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ビクリセン、5,5’-ジヒドロキシ-6,6’-ビクリセン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビフェナントレン、3,3’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-4,4’-ビフェナントレン、10,10’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-9,9’-ビフェナントレン、3,3’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-4,4’-ビクリセン、5,5’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-6,6’-ビクリセンがより好ましく、2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビフェナントレン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ビフェナントレン、10,10’-ジヒドロキシ-9,9’-ビフェナントレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビフェナントレン、3,3’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-4,4’-ビフェナントレン、10,10’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-9,9’-ビフェナントレン、がさらに好ましく、10,10’-ジヒドロキシ-9,9’-ビフェナントレン、10,10’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-9,9’-ビフェナントレンが特に好ましい。
【0056】
【0057】
【0058】
(前記式(1)のカーボネート成分)
本発明の熱可塑性樹脂の前記式(1)で表される単位に使用するカーボネート成分としては、ホスゲン、カーボネートエステルがあげられる。カーボネートエステルは、置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素数1~4のアルキル基などのエステルが挙げられる。具体的にはジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、ビス(m-クレジル)カーボネート、ジナフチルカーボネートなどの炭酸ジアリール、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどの炭酸ジアルキル、エチルフェニルカーボネート、シクロヘキシルフェニルカーボネートなどの炭酸アルキルアリール、または、ジビニルカーボネート、ジイソプロぺニルカーボネート、ジプロペニルカーボネートなどの炭酸ジアルケニルなどが挙げられ、なかでも炭酸ジアリールが好ましく、ジフェニルカーボネートがより好ましい。
【0059】
(前記式(1)のジカルボン酸成分)
本発明の熱可塑性樹脂の前記式(1)で表される単位に使用するジカルボン酸成分は主として、式(b)で表されるジカルボン酸、またはそのエステル形成性誘導体が好ましく用いられる。
【0060】
【0061】
前記式(b)において、Xは2価の連結基を示し、前記式(3)で説明したことと同様なことが言える。
以下、前記式(b)で表されるジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の代表的具体例を示すが、本発明の前記式(b)に用いられる原料としては、それらによって限定されるものではない。
【0062】
本発明の熱可塑性樹脂に使用するジカルボン酸成分としては、前記式(5)の原料となる2,2’-ビス(カルボキシメトキシ)-1,1’-ビナフチル、6,6’-ジフェニル-2,2’-ビス(カルボキシメトキシ)-1,1’-ビナフチル、6,6’-ジブロモ-2,2’-ビス(カルボキシメトキシ)-1,1’-ビナフチル、前記式(6)の原料となる9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレンのほか、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の単環式芳香族ジカルボン酸成分、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9-ビス(カルボキシメチル)フルオレン、9,9-ビス(1-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(1-カルボキシプロピル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシ-1-メチルエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシ-1-メチルプロピル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシブチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシ-1-メチルブチル)フルオレン、9,9-ビス(5-カルボキシペンチル)フルオレン、9,9-ビス(カルボキシシクロヘキシル)フルオレン等の多環式芳香族ジカルボン酸成分、2,2’-ビフェニルジカルボン酸等のビフェニルジカルボン酸成分、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-デカリンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸成分が挙げられ、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,2’-ビス(カルボキシメトキシ)-1,1’-ビナフチル、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレンが好ましく、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,2’-ビス(カルボキシメトキシ)-1,1’-ビナフチル、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレンがより好ましい。これらは単独または二種類以上組み合わせて用いても良い。また、エステル形成性誘導体としては酸クロライドや、メチルエステル、エチルエステル、フェニルエステル等のエステル類を用いてもよい。
【0063】
(前記式(7)~(10)の成分)
本発明の熱可塑性樹脂は、さらに前記式(7)~(10)の繰り返し単位を有していてもよく、前記式(7)~(10)の原料となるジヒドロキシ化合物成分を下記に示す。これらは単独で使用してもよく、または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0064】
本発明の前記式(7)の原料となるジヒドロキシ化合物成分は、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-3,3’-ジフェニル-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-6,6’-ジフェニル-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-7,7’-ジフェニル-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-3,3’-ジメチル-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-6,6’-ジメチル-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-7,7’-ジメチル-1,1’-ビナフチルが挙げられる。
【0065】
本発明の前記式(8)の原料となるジヒドロキシ化合物成分は、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン等が例示され、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレンが特に好ましい。これらは単独で使用してもよく、または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0066】
本発明の前記式(9)の原料となるジヒドロキシ化合物成分は、9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシエトキシ)―2-ナフチル)-2,7-ジフェニルフルオレンが挙げられる。
【0067】
本発明の前記式(10)の原料となるジヒドロキシ化合物成分は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビフェノール、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、10,10-ビス(4-ヒドロキシフェニル)アントロン等が例示され、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィドが特に好ましい。これらは単独で使用してもよく、または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0068】
(前記式(1)~(10)以外の共重合成分)
本発明の熱可塑性樹脂は、本発明の特性を損なわない程度に他のジヒドロキシ化合物成分を共重合してもよい。他のジヒドロキシ化合物成分は、全繰り返し単位中30mol%未満が好ましい。
【0069】
本発明の熱可塑性樹脂に使用するその他のジヒドロキシ化合物成分としては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカンジメタノール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、デカリン-2,6-ジメタノール、ノルボルナンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、シクロペンタン-1,3-ジメタノール、スピログリコール、イソソルビド、イソマンニド、イソイジド、ヒドロキノン、レゾルシノール、ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン、1,1’-ビ-2-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ナフタレン等が例示され、これらは単独または二種類以上組み合わせて用いても良い。
【0070】
本発明の熱可塑性樹脂は、例えばジヒドロキシ化合物成分にホスゲンや炭酸ジエステルなどのカーボネート前駆物質を反応させる方法やジオール成分にジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を反応させる方法等により製造される。以下にその具体例を示す。
【0071】
<製造方法>
(ポリカーボネート樹脂の製造方法)
本発明の熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂である場合はそれ自体公知の反応手段、例えばジヒドロキシ化合物成分とカーボネート前駆物質を界面重合法または溶融重合法によって反応させて得られる。ポリカーボネート樹脂を製造するに当たっては、必要に応じて触媒、末端停止剤、酸化防止剤等を使用してもよい。
【0072】
(ポリエステル樹脂の製造方法)
本発明の熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂である場合はそれ自体公知の反応手段、例えばジヒドロキシ化合物成分とジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とをエステル化反応もしくはエステル交換反応させ、得られた反応生成物を重縮合反応させ、所望の分子量の高分子量体とすればよい。
【0073】
(ポリエステルカーボネート樹脂の製造方法)
本発明の熱可塑性樹脂がポリエステルカーボネート樹脂である場合は、ジヒドロキシ化合物成分およびジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ホスゲンやカーボネートエステルなどのカーボネート前駆物質とを反応させることにより製造することができる。重合方法は前記ポリカーボネート樹脂またはポリエステル樹脂と同様の方法を用いることができる。
【0074】
<光学部材>
本発明の光学部材は、上記の熱可塑性樹脂を含む。そのような光学部材としては、上記の熱可塑性樹脂が有用となる光学用途であれば、特に限定されないが、光学レンズ、光ディスク、透明導電性基板、光カード、シート、フィルム、光ファイバー、レンズ、プリズム、光学膜、基盤、光学フィルター、ハードコート膜等を挙げることができる。
【0075】
また、本発明の光学部材には、上記の熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物から構成されていてもよく、その樹脂組成物には、必要に応じて熱安定剤、可塑剤、光安定剤、重合金属不活性化剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、離型剤、酸化防止剤等の添加剤を配合することができる。
【0076】
酸化防止剤としては、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマイド)、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジルホスホネート-ジエチルエステル、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート及び3,9-ビス{1,1-ジメチル-2-[β-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどが挙げられる。酸化防止剤の配合量は、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、0.50質量部以下であることが好ましく、0.05~0.40質量部であることがより好ましく、0.05~0.20質量部あるいは0.10~0.40質量部であることが更に好ましく、0.20~0.40質量部であることが特に好ましい。
【0077】
<光学レンズ>
本発明の光学部材として、特に光学レンズを挙げることができる。このような光学レンズとしては、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、パソコン、デジタルカメラ、ビデオカメラ、車載カメラ、監視カメラ等のための光学レンズを挙げることができる。
本発明の光学レンズは、射出成形、圧縮成形、射出圧縮成形、溶融押出成形、キャスティング等の任意の方法により成形、加工することができるが、射出成形が特に好適である。
【0078】
射出成形の成形条件は特に限定されないが、成形機のシリンダー温度は180~320℃が好ましく、220~300℃がより好ましく、240~280℃が特に好ましい。また、金型温度は70~130℃が好ましく、80~125℃がより好ましく、90~120℃が特に好ましい。射出圧力は5~170MPaが好ましく、50~160MPaがより好ましく、100~150MPaが特に好ましい。
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例0079】
≪製造例≫
[実施例1]
10,10’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-9,9’-ビフェナントレン(以下、BHEBPheと省略することがある)を9.50質量部(20mоl部)、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(以下、BPEFと省略することがある)35.08質量部(80mоl部)、ジフェニルカーボネート(以下、DPCと省略することがある)21.64質量部(101mоl部)、及び触媒として濃度60mmol/Lの濃度で炭酸水素ナトリウムを8.40×10-5質量部(1.00×10-3mоl部)を加え、窒素雰囲気下180℃に加熱し溶融させた。その後、5分間かけて減圧度を20kPaに調整した。60℃/hrの昇温速度で250℃まで昇温を行い、フェノールの流出量が70%になった後で60kPa/hrで減圧し、所定の電力に到達するまで重合反応を行い、反応終了後フラスコから樹脂を取り出した。得られたポリカーボネート樹脂を、1H NMRにより分析し、10,10’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-9,9’-ビフェナントレン成分が全モノマーに対して、20mоl%導入されていることを確認した。該ポリカーボネート樹脂を用いて、共重合比、屈折率、アッベ数、Tg、360nmと500nmにおける光透過率を評価し、結果を表1に示した。
【0080】
[実施例2]
BHEBPhe、BPEFを表1に記載の比率に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂を製造した。該ポリカーボネート樹脂を用いて、共重合比、屈折率、アッベ数、Tg、360nmと500nmにおける光透過率を評価し、結果を表1に示した。
【0081】
[実施例3]
BHEBPheを表1に記載の比率に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂を製造した。該ポリカーボネート樹脂を用いて、共重合比、屈折率、アッベ数、Tg、360nmと500nmにおける光透過率を評価し、結果を表1に示した。
【0082】
[実施例4]
BHEBPhe、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフチル(以下、BHEBと省略することがある)、2,2’-ビス(カルボキシメトキシ)-1,1’-ビナフチル(以下、BCMBと省略することがある)を表1に記載の比率で用いたことと、DPCを4.50質量部(21mоl部)に変更したことと、触媒としてチタンテトラブトキシド3.4×10-3質量部(1.00×10-2mоl部)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリエステルカーボネート樹脂を製造した。該ポリエステルカーボネート樹脂を用いて、共重合比、屈折率、アッベ数、Tg、360nmと500nmにおける光透過率を評価し、結果を表1に示した。
【0083】
[比較例1~3]
実施例1から表1に記載のように組成を変更して、比較例1~3のポリカーボネート樹脂のペレットを得た。該ポリカーボネート樹脂を用いて、共重合比、屈折率、アッベ数、Tg、360nmと500nmにおける光透過率を評価し、結果を表1に示した。
得られた熱可塑性樹脂について下記の方法で評価を行った。
【0084】
<共重合比>
得られた樹脂を日本電子(株)製JNM-ECZ400Sを用いて1H NMR測定することによって、各ポリマーの組成比を算出した。溶媒はCDCl3を用いた。
【0085】
<光学特性>
(屈折率)
各ポリマーの3mm厚試験片を作製し研磨した後、島津製作所製のカルニュー精密屈折計KPR-2000を使用して、20℃における屈折率nd(587.56nm)を測定した。
【0086】
(アッベ数)
アッベ数の測定波長は、486.13nm、587.56nm、656.27nmの屈折率から下記の式を用いて算出した。
νd=(nd-1)/(nF-nC)
nd:波長587.56nmでの屈折率、
nF:波長486.13nmでの屈折率、
nC:波長656.27nmでの屈折率を意味する。
【0087】
(配向複屈折の絶対値)
熱可塑性樹脂を塩化メチレンに溶解した後、ガラスシャーレ上にキャストし、十分乾燥することで厚さ100μmのキャストフィルムを作製した。該フィルムをTg+10℃で2倍延伸し、日本分光(株)製エリプソメーターM-220を用いて589nmにおける位相差(Re)を測定し、下記式より配向複屈折の絶対値(|Δn|)を求めた。
|Δn|=|Re/d|
Δn:配向複屈折
Re:位相差(nm)
d:厚さ(nm)
【0088】
(光透過率)
得られた樹脂6.7mgをジクロロメタン(比重:1.33g/mL)5mLに溶解させ0.1質量%溶液を作製する。その溶液の250nmから780nmの透過率を、日立製U-3310形分光光度計を用いて測定した。
【0089】
<ガラス転移温度(Tg)>
得られた樹脂をティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製Discovery DSC25Auto型により、昇温速度20℃/minで測定した。試料は5~10mgで測定した。
【0090】
≪結果≫
熱可塑性樹脂に関する例の評価の結果を表1に示す。また、実施例1及び比較例2の熱可塑性樹脂の0.1質量%ジクロロメタン溶液透過スペクトルを
図1に示す。
【0091】
【0092】
BHEBPheを用いた実施例1~4は、高い屈折率及び低アッベ数を有する、光学レンズとして優れる結果が得られていることが分かる。
また、実施例1と比較例2を比較すると、ともに比較例1のビナフタレンから芳香環が一つ増えた構造において、実施例1では吸収波長の長波長化が抑えられていることが分かる。
【0093】
式(1)の繰り返し単位のようなベンゼン環が3つ以上縮環した多環芳香族炭化水素を持つことで分極率を高めることができ高屈折率と高アッベ数を両立することに効果的である。
本発明の熱可塑性樹脂は、光学材料に用いられ、光学レンズ、プリズム、光ディスク、透明導電性基板、光カード、シート、フィルム、光ファイバー、光学膜、光学フィルター、ハードコート膜等の光学部材に用いることができ、特に光学レンズに極めて有用である。