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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028887
(43)【公開日】2024-03-05
(54)【発明の名称】偽ウイルス粒子及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20240227BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240227BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20240227BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
C07K19/00
C12N15/63 Z
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/11 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023206628
(22)【出願日】2023-12-07
(62)【分割の表示】P 2019526380の分割
【原出願日】2017-07-28
(31)【優先権主張番号】1657424
(32)【優先日】2016-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】519030615
【氏名又は名称】アンギャニー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】ゴモル、 ヴェロニク
(72)【発明者】
【氏名】ヴェジーナ、 ルイス-フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ファイ、 ロイック
(72)【発明者】
【氏名】カタラ、 ヴィルジニー
(72)【発明者】
【氏名】フィチェット、 アンヌ-カトリーヌ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】それ自体は非免疫原性であり、真核細胞中で自己集合する多価の構造であって、合成が容易であり、かつその表面にタンパク質又はペプチドを担持することができるウイルス様粒子を提供する。
【解決手段】a)任意選択で、シグナルペプチド;b)目的のタンパク質又はペプチド;c)コイルドコイルドメイン;及び、d)膜貫通セグメントと細胞質セグメントとからなる細胞膜へのアンカードメインを連続して含む、I型又はII型膜貫通融合タンパク質、また、この融合タンパク質を用いて得られたウイルス様粒子を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- その少なくとも一部が脂質ラフトの特色を示す細胞膜からなるエンベロープ;並びに、
- 前記膜中に固定された少なくとも1種のI型又はII型膜貫通融合タンパク質であって、前記融合タンパク質は、以下:
b)目的のタンパク質又はペプチド;
c)ウイルス起源ではない、コイルドコイルドメイン又はオリゴマー形成配列;及び
d)膜貫通セグメントと細胞質セグメントとからなる細胞膜へのアンカードメインであって、好ましくは、少なくとも一部が脂質ラフトの特色を示す細胞膜へのアンカードメイン
の断片を連続して含み、
断片b)及びc)はウイルス様粒子の表面に露出している、I型又はII型膜貫通融合タンパク質
を含む、ウイルス様粒子。
【請求項2】
リンカーが、断片b)とc)との間、及び/又は断片c)とd)との間に存在する、請求項1に記載のウイルス様粒子。
【請求項3】
b)目的のタンパク質又はペプチドが、
・アレルゲン及びそれらの断片、
・細胞表面タンパク質及びそれらの断片、
・慢性疾患又は神経変性疾患において蓄積するタンパク質及びペプチド、
・高血圧に関与するタンパク質及びペプチド、
・免疫グロブリン及びそれらの断片、
・サイトカイン及びそれらの断片、並びに
・ホルモン及びそれらの断片
から選択され;
c)コイルドコイルドメインが、配列番号:24、配列番号:27、配列番号:28、配列番号:29、配列番号:33、及び配列番号:30から選択され;そして
d)アンカードメインが、H5N1インフルエンザウイルスのH5ヘマグルチニンのアンカー配列(配列番号:26)及びPDLPlタンパク質のアンカー配列(配列番号:31)
から選択される、請求項1又は2に記載のウイルス様粒子。
【請求項4】
目的のタンパク質又はペプチドが、アレルゲン及びそれらの断片から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載のウイルス様粒子。
【請求項5】
a)任意選択で、シグナルペプチド;
b)目的のタンパク質又はペプチド;
c)ウイルス起源ではない、コイルドコイルドメイン又はオリゴマー形成配列;及び
d)膜貫通セグメントと細胞質セグメントとからなる細胞膜へのアンカードメインであって、好ましくは、少なくとも一部が脂質ラフトの特色を示す細胞膜へのアンカードメイン
の断片を連続して含む、I型又はII型膜貫通融合タンパク質。
【請求項6】
目的のタンパク質又はペプチドが、アレルゲン及びそれらの断片から選択される、請求項5に記載の膜貫通融合タンパク質。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の融合タンパク質をコードする核酸。
【請求項8】
少なくとも1つの請求項7に記載の核酸を含む宿主細胞又はベクター。
【請求項9】
治療における使用のための、請求項1~4のいずれか一項に記載のウイルス様粒子。
【請求項10】
アレルゲン免疫療法における使用のための、請求項1~4のいずれか一項に記載のウイルス様粒子。
【請求項11】
真核細胞における請求項7に記載の核酸の発現を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のウイルス様粒子の製造方法。
【請求項12】
真核細胞が植物細胞であり、かつ以下の工程:
a)強力なプロモーターに作動可能に連結された請求項5に記載の核酸を含む発現ベクターを用いたアグロバクテリアの形質転換;及び
b)工程a)において得られたアグロバクテリアを用いた植物細胞のトランスフェクションであって、前記トランスフェクションが、以下の工程:
b1) 噴霧水耕栽培又は水耕栽培条件下、かつLED照光下の、好ましくは水耕栽培条件下4~6週間の、植物細胞の培養、
b2) b1)において得られた植物細胞の、減圧下、工程a)において得られたアグロバクテリウムを用いたアグロインフィルトレーションであって、好ましくはベンチュリ効果による減圧下で行われる、アグロインフィルトレーション、
b3) ウイルス様粒子を得るために、典型的には3~6日間、b2)において得られた植物細胞を、培養物に戻す工程
を含む、トランスフェクション;
次いで、特には酵素抽出による、得られたウイルス様粒子の抽出及び精製
を含むことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下の断片を連続して含む融合タンパク質に関する:
a)任意選択で、シグナルペプチド;
b)目的のタンパク質又はペプチド;
c)ウイルス起源ではないコイルドコイルドメイン;及び
d)膜貫通セグメント及び細胞質セグメントからなる細胞膜へのアンカードメイン、好ましくはその少なくとも一部が脂質ラフトの特色を有する細胞膜へのアンカードメイン。
本発明はまた、そのような融合タンパク質を用いて得られたウイルス様粒子(VLP:virus-like particle)に関し、ここで前記タンパク質は、その膜に固定されている。
【背景技術】
【0002】
アレルゲン免疫療法は100年前より前にNoon及びFreeman(1、2)により報告されているが、脱感作については、注射による処置が徐々に舌下経路による脱感作に置き換わっているという処置剤の投与方法を除くとほとんど進展がない。例えばフランスにおいては、2011年1月以来、花粉アレルギーに対しては、舌下錠剤形での脱感作が行われている。これらの脱感作錠の市場への登場は、アレルゲン免疫療法の侵襲性の低減に寄与しているが、その有効性を高めてはいない。実際のところ、これらはまだ「天然の」アレルゲン性抽出物であり、アレルゲンの濃縮率が低く、アレルギー源に含まれるアレルゲンの多様性をあまり体現しておらず、経口治療処置に使用されている。
【0003】
しかしながら、過去10年にわたって、アレルゲン免疫療法の有効性を向上させ、また治療期間を短縮するために、新たな戦略が提案されている。
これらの脱感作戦略は、以下:
- その免疫原性を保持しながら、そのアレルゲン性を低減するように修飾された天然のアレルゲン抽出物(Henmar et al.)
- 天然型組み換えアレルゲン又は低アレルゲン性となるように修飾された組み換えアレルゲン(Valenta et al.)
- 遊離型又はキャリアタンパク質との融合型の形態のT細胞アレルゲンのエピトープに対応するペプチド(Larche M.、Patel D et al.、Chen et al.)
- アジュバント、あるいは
- ナノ粒子又はウイルス様粒子に融合したアレルゲン(Kundig et al.、Bachmann MF、Jennings GT、Henmar et al.)
の使用に基づいている。
【0004】
しかしながら、修飾型アレルゲン性抽出物を利用する戦略は、アレルゲン源に含まれるアレルゲンの多様性の提示に乏しく、有効性が限られている。
修飾又は非修飾型の組換えアレルゲン又はペプチドは、可溶型のものはアジュバント非存在下では免疫原性が弱い。しかし、多くのアジュバントは忍容性に乏しく、ワクチンと同様に、その使用はアレルゲン免疫療法で推奨されていない。
【0005】
その一方でナノ粒子又はウイルス様粒子(VLP)に融合したアレルゲンの使用はアレルゲン免疫療法にとって特に魅力的な戦略である。ウイルス様粒子は、ウイルス抗原から自己集合する。これらは遺伝物質を含まないので、非感染性であり、かつ複製能を有しない。その一方で、これらはウイルスの元々の構造を模しており、そのため、免疫系に容易に認識され、非常に効果的に免疫記憶を活性化させることができる。B型肝炎、パピローマウイルス感染症、又はインフルエンザに対するVLP系ワクチン(Garland et al.、Paavonen et al.、D’Aoust et al.)は、VLP又はナノ粒子の表面で免疫系に提示されると抗原のワクチン効果を示す。
したがって、VLPは、抗原を提示する構造、特にはヒトにおける強い免疫応答の誘導を可能にするアレルゲンとして使用される可能性を有している。
VLPには、ウイルスキャプシドタンパク質から生産されるもの(CP VLP)と、エンベロープウイルスから生産されるもの(Env VLP)という2つの主要なタイプがある。これらの2つのタイプの構造及び組成は大きく異なる。CP VLPは、一般的に、天然のウイルスと同様の機構によって宿主細胞において自己集合するキャプシドの組み換えタンパク質を生産することによって生産される。Env VLPの産生が起こるのは、エンベロープタンパク質が合成され、宿主細胞の内膜系によって修飾され、次いで細胞膜の脂質ラフトに移行し、そこで濃縮されて、膜/タンパク質アセンブリ全体の細胞外出芽(endomenbrane system)を誘発するときである。生じる粒子、すなわちVLPは、その表面にEnvタンパク質の免疫原性エピトープを担持している。
【0006】
このように、ウイルス様粒子の形態のアレルゲンの使用は、良好な免疫療法のための重要な要件と思われる。主要ダニアレルゲン(Der p 1)又は主要ネコアレルゲン(Fel d 1)のペプチドに融合したVLPを用いて得られた結果は、マウス及びヒトにおけるこれらの融合体の非常に高い免疫原性を示している(Schmitz et al.、Kundig et al.)。この免疫原性は非常に高いため、これらのVLPの単回注射でI型アレルギー反応から保護するのに十分なIgG産生を誘導することができる。
【0007】
しかしながら、これらのVLPの調製は、残念ながら非常に複雑で、数多くの工程を含み、そのうちのいくつかは標準化が困難である。特に、一方で、VLPはE.coliにおいてQbetaバクテリオファージエンベロープタンパク質の発現後に産生され、他方、アレルゲンは、E.coliで組み換え型で発現され、精製され、その後いくつかの工程で可溶化及び再度精製される。これらの2つの構成要素は、一旦生産及び精製されてから、in vitroで連結される。この製造技術は、明らかに、複雑過ぎ、コストがかかり過ぎ、また、アレルギー患者の治療のために最終生成物を1日で利用できるように標準化するのがあまりに困難である。
【0008】
したがって、それ自体は非免疫原性であり、真核細胞中で自己集合する多価の構造であって、合成が容易であり、かつその表面にタンパク質又はペプチドを担持することができる構造が必要である。このような構造は、アレルギー患者の処置のためだけでなく、他の臨床的状況においても使用できるであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願人は、自己集合し、かつ治療に使用することができるそのような構造をここに開発した。
特に、かかる構造は:
・その構造自体では、検出不能な免疫原性;
・三量体又は四量体などのオリゴマーへの自己集合能;
・脂質ラフトの特色を有する特定の脂質を含む膜;
・宿主細胞膜タンパク質の含有量が低い膜;
・様々な真核細胞種(酵母、昆虫、又は植物)において高収量で発現される能力;及び
・調製の容易さ。
のユニークな特徴を有している。
【0010】
図の説明は以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】オリゴマー形成配列に、及び細胞膜(好ましくは脂質ラフトのレベルで)へのアンカー配列に連結されたアレルゲンを産生するためのさまざまな発現カセットの図表示である。 A)最適化された、好ましくはハーモナイズされたDer p2(DP2、配列番号:22)をコードするcDNAが、1)タバコキチナーゼのシグナルペプチドをコードするcDNA(PS Chit、配列番号:21)に、2)転写因子(GCN4-pII/三量体型B、-GCN4-PLI/四量体型C、-GCN4-IZN4/グリコシル化型E、-GCN4-pAA/七量体型D)由来の、若しくはコイルドコイル配列を有する任意の他のタンパク質ファミリー(SNARE、Golgin、Fibritin、G)由来のオリゴマー形成(コイル)配列に、又は擬コイルドコイル合成配列(F))に、そして、最後に、3)エンベロープウイルスエンベロープタンパク質(インフルエンザH5のTM/CT)由来の(B~I)、又は脂質ラフト(「lipid raft」)に固定されたI型タンパク質由来(J)のアンカー配列に、連結されている。
図1B】B)オリゴマー形成又はコイルドコイル配列の構造を示す略図である。この配列は、「hxxhcxc」型の7アミノ酸の繰り返しモチーフからなり、ここで、「h」は疎水性アミノ酸であり、「c」は荷電アミノ酸であり、「x」は任意のアミノ酸である。
図2】様々な形態のVLPの発現及び産生に使用されるAllergoPurプラットフォーム
図3図1Aに記載のタンパク質の産生:DP2(レーン1)、DP2-Tri(レーン2-3)、DP2-Tetra(レーン4-5)、又はFDL-Tri(レーン6-7)タンパク質の発現のために、減圧下でトランスフェクトされた植物から抽出したタンパク質を、Der p2又はFel d1アレルゲンに対する抗体を用いて免疫検出により分析した。免疫検出分析は、予想される重量に対応する分子量のタンパク質の特異的な産生を示す。アグロバクテリアの2つのクローン(Cl.1及びCl.2)を各コンストラクトについて分析した。
図4】アレルゲンを担持するVLPのサイズ排除クロマトグラフィーによる精製及び特性分析:DP2-Tri(パネルD)、DP2-Tetra(パネルE)、DP2可溶型(パネルF)、FD1-Tri(パネルG)、DP2triDGCN4(GCN4欠失、パネルH)、DP2tri-Syn(GCN4置換、パネルI)、及びDP2tri-KEI(GCN4置換、パネルJ)を産生する葉のタンパク質抽出物を、較正済みS-500/HRカラムにてクロマトグラフィーで分離した。各画分の総可溶性タンパク質含量を分光法により評価し(パネルA)、そして、SDS-PAGEで分離後、クマシーブルーで染色した(パネルB)。溶出画分のアレルゲン含量を抗Der p2又は抗Fel d1抗体を使用した免疫検出により明らかにした。H5N1由来のVLPの形態でヘマグルチニンを産生する葉のタンパク質抽出物を較正済みS-500/HRカラムにてゲルろ過により分離し(パネルC)、対照として使用した。
図5】電子顕微鏡及びネガティブ染色による評価を用いた単離アレルゲンを担持するVLPの特性評価:アレルゲンを担持するVLPは、インフルエンザビリオンについて報告されているものと非常によく似た形態及びサイズを有する。バーは50nmを表す。
図6】Der p2に対するアレルギーを有する患者由来の血清を用いた、VLPの形態で産生されたアレルゲンの反応性:DP2(レーン1)、DP2-Tri(レーン2)、及びDP2-Tetra(レーン3)タンパク質の発現のために減圧下でトランスフェクトされた植物から抽出したタンパク質を、Der p2に対するアレルギーを有する患者由来の血清を用いた免疫検出により分析した。免疫検出分析はVLPに担持されるアレルゲンが、患者血清のIgEにより認識されることを示す。
図7】大規模VLP生産の方法
図8A】本発明に従ってアセンブリしたVLP及び融合タンパク質の構造:A)本発明に係るVLPの構造。VLPは、本発明に係る融合タンパク質が付着している細胞膜エンベロープから構成される。したがって、目的のタンパク質又はペプチド(例えば、アレルゲン)がその表面に露出している。
図8B】B)VLP内にアセンブリされた本発明に係る融合タンパク質の構造。オリゴマー形成配列は、融合タンパク質が、VLPの表面上に、多量体(polymer)(例えば、この場合、アレルゲン,A)を形成できるようにする。
図9A】VLPに結合した抗原は、非常に強い免疫原性を有するが、アレルゲン性を有しない。 パネルA:Flexivent法による、Der p2アレルゲンにより誘導される気道過敏性の評価。マウス(n=10/群)をDer p2アレルゲン(溶液の形態(DP2-Alum)、又はVLPの形態(DP2-VLP/alum及びDP2-VLP/生理食塩水(saline)))により感作し、ダニ抽出物による負荷をかけた。最後の負荷の24時間後に、吸入メタコリンに対する気道過敏性をFlexivent法によって測定した。VLPの形態のアレルゲンの存在下で誘発された肺反応性は対照マウスと同等であった。
図9B】パネルB:肺の気管支肺胞肺洗浄液(BAL)により採取した気道における炎症細胞の計数。マウス(n=10/群)をDer p2アレルゲン(溶液の形態(DP2-Alum)、又はVLPの形態(DP2-VLP/alum及びDP2-VLP/生理食塩水))で感作し、ダニ抽出物による負荷をかけた。最後の負荷の24時間後に、BAL細胞を回収し、細胞を計数した(好酸球;好中球;マクロファージ;リンパ球)。溶液形態のDer p2アレルゲンが投与されたマウスでは、好中球が非常に優勢であった。
図9C】パネルC:Der p2特異的IgGのアッセイ。マウス(n=10/群)をDer p2アレルゲン(溶液の形態(DP2-Alum)、又はVLPの形態(DP2-VLP/alum及びDP2-VLP/生理食塩水)により感作し、ダニ抽出物による負荷をかけた。最後の負荷の24時間後に、BAL液及び心臓穿刺により採取した血清中のIgGを測定した。DP2-VLPを注射されたマウスは、アジュバントの有無にかかわらず、可溶性Der p2を投与されたマウスよりも1000倍高いIgG力価を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1の態様によれば、本発明は、以下の断片を連続して含むI型又はII型の膜貫通融合タンパク質に関する:
a)任意選択で、シグナルペプチド;
b)目的のタンパク質又はペプチド;
c)ウイルス起源ではないコイルドコイルドメイン(又はオリゴマー形成配列);及び、
d)膜貫通セグメント及び細胞質セグメントからなる、細胞膜、特には脂質ラフトへのアンカードメイン。
【0013】
このような融合タンパク質は、真核細胞中で発現されると、ウイルス表面タンパク質のように挙動する。
いかなる理論に束縛されるものではないが、このタンパク質は、小胞体で合成され、次いでゴルジ体を介して細胞膜へ移行する。この膜貫通型融合タンパク質は、細胞膜の特定の領域、好ましくは脂質ラフトにいったん到達すると、前記膜の湾曲を引き起こし、最終的に出芽を形成し、これが細胞膜から分離して細胞外空間に放出される。出芽の間に、コイルドコイルドメイン(又はオリゴマー形成配列)に担持される目的のタンパク質又はペプチドは、新たに形成された粒子の外表面に露出される。貫通ドメインは、膜に固定されたままであり、表面には露出しない。これにより、その組成が好ましくは脂質ラフトの特色を有する細胞膜を含む、図8Aに示すウイルス様粒子(VLP)が得られ、ここで、本発明に係る融合タンパク質はそのアンカードメインのレベルで付着しており、目的のタンパク質又はペプチドが(そのオリゴマー形成配列により)オリゴマー型でその表面に露出している。
VLPの表面にアセンブルされた融合タンパク質の構造を図8Bに示す。
【0014】
第2の態様によれば、本発明は、以下を含むウイルス様粒子(VLP)から構成される:
- 少なくとも一部が脂質ラフトの特色を示す細胞膜からなるエンベロープ;並びに、
- 前記膜(すなわち、前記エンベロープ)中に固定された少なくとも1種のI型又はII型膜貫通融合タンパク質であって、前記融合タンパク質は、以下の断片:
b)目的のタンパク質又はペプチド;
c)ウイルス起源ではないコイルドコイルドメイン(又はオリゴマー形成配列);及び、
d)膜貫通セグメント及び細胞質セグメントからなる細胞膜へのアンカードメイン、好ましくはその少なくとも一部が脂質ラフトの特色を示す細胞膜へのアンカードメイン
を連続して含み、断片b)及びc)はVLPの表面に露出している。
本発明に係るVLPにおいて、融合タンパク質は、そのアンカードメインd)によって、膜中(したがってエンベロープ内)に固定されている。
【0015】
「ウイルス様粒子(又はVLP)」という用語は、一又は複数のタンパク質が固定されている細胞質エンベロープからなるナノ粒子であって、遺伝物質を含まず、非感染性であり複製能を有さず、かつ元のウイルスの構造によく似た構造へと自己集合する、ナノ粒子を意味することが意図される。VLPの構造は図8Aに示されているが、ここで膜エンベロープは、固定されかつその表面タンパク質に露出されているタンパク質を含む。
【0016】
本発明に係るそのようなウイルス様粒子は、上に示したような有利な特性を有する。さらに、融合タンパク質の目的のタンパク質又はペプチドb)がアレルゲン若しくはアレルゲン断片、又はより一般的には抗原である場合、ウイルス様粒子は、抗原提示に有効であり、免疫系細胞の活性化のための高い能力を有する。これは、アレルギー患者の効果的な脱感作を可能にする。加えて、本発明に係るウイルス様粒子は、アレルゲン特異的IgGの産生を刺激し、一方それと同時に好塩基球へのアクセシビリティを最小限に抑える。
本発明に係るVLPは、典型的には、120~200nmの直径を有する。
【0017】
第3の態様によれば、本発明は、真核細胞、好ましくは植物細胞内での本発明に係る融合タンパク質の発現を含む、ウイルス様粒子の製造方法に関する。
実際、好ましくは、開発された方法は、本発明に係る融合タンパク質の植物細胞における発現を含む。これらの融合タンパク質は、小胞体におけるその合成及び植物細胞の分泌内膜系における輸送後に、細胞膜に組み込まれると小胞を形成することができる。このプロセスは、感染した細胞の表面におけるウイルスの出芽と同じである。
この技術の主要な利点の1つは簡便であることであり、このことは、融合タンパク質の発現及び抽出後、その表面に目的のアレルゲンを担持するVLPが好ましくは2段階で精製されるためである。植物内(in planta)で形成されたVLPは、その表面に一定密度のアレルゲン又はアレルゲン断片を有する。そのため生成物の品質を容易に標準化することができ、その組成は一定となる。
【0018】
本発明に係るI型又はII型の膜貫通融合タンパク質は、以下の断片を連続して含む:
a)任意選択で、シグナルペプチド;
b)目的のタンパク質又はペプチド;
c)ウイルス起源ではないコイルドコイルドメイン(又はオリゴマー形成配列);及び、
d)膜貫通セグメントと細胞質セグメントとからなる、細胞膜へのアンカードメイン、好ましくは、少なくとも一部が脂質ラフトの特色を有する細胞膜へのアンカードメイン。
【0019】
「融合タンパク質」という用語は、b)からd)、及び任意にa)のさまざまな断片を含むタンパク質を意味することが意図され、前記断片は異なる起源を有する。言い換えれば、b)からd)、及び任意にa)の断片は、天然に存在する場合は融合して存在することは決してない。
「連続して(successively)」という用語は、断片a)からd)(又はb)からd))が、a)-b)-c)-d)(又はb)-c)-d)若しくはd)-c)-b))の順番で存在することを意味することが意図される。これらの様々な断片は互いに直接融合するか、あるいは1又は複数のリンカーを介して互いに融合することができる。好ましくは、本発明に係る融合タンパク質は、配列b)とc)の間、及び/又は配列c)とd)の間に存在するリンカーを含む。
融合タンパク質は、最初は断片a)~d)を含み、ここでシグナルペプチドの存在は、前記タンパク質の小胞体への正確な輸送(trafficking)を可能にする。シグナルペプチドはその後切断される。したがって、本発明に係るVLPの出芽及び形成中は、融合タンパク質はもはやシグナルペプチドa)を含まず、断片b)からd)のみを含む。したがって、本発明に係るVLPはシグナルペプチドa)を含まない。一方、以下の断片b)からd)の記載は、VLPに当てはまる。
【0020】
「膜に固定されたI型膜貫通タンパク質」という表現は、そのN末端が細胞外、C末端が細胞質にある膜貫通タンパク質を意味することが意図される。したがって、I型膜貫通タンパク質は、N末端からC末端に向けて、任意選択でシグナルペプチドa)、次いで目的のタンパク質又はペプチドb)、次いでコイルドコイルドメインc)、そして最後にアンカードメインd)を含む。
「膜に固定されたII型膜貫通タンパク質」という表現は、そのC末端が細胞外、N末端が細胞質にある膜貫通タンパク質を意味することが意図される。したがって、II型膜貫通タンパク質は、N末端からC末端に向けて、アンカードメインd)、次いでコイルドコイルドメインc)、そして最後に目的のタンパク質又はペプチドb)を含む。
好ましくは、本発明に係る融合タンパク質は、I型膜貫通タンパク質である。
【0021】
シグナルペプチドa)
シグナルペプチドa)は、真核細胞に認識される任意のシグナルペプチドである。
好ましくは、シグナルペプチドはペクタートリアーゼの天然型シグナルペプチド及びタバコキチナーゼペプチドのシグナルペプチドから選択される。
好ましくは、シグナルペプチドは、配列番号:21のタバコキチナーゼのものである。
【0022】
目的のタンパク質又はペプチドb)
本発明に係る使用され得る目的のタンパク質又はペプチドは、治療又は予防の目的の任意のアミノ酸配列であってよい。
本発明に係る使用され得る目的のタンパク質又はペプチドは、ウイルス様粒子の表面に完全に又は部分的に露出されることによる利点を有し、かつ、免疫細胞によって認識されることが可能で、かつ/若しくは生体反応を誘発することが可能な、任意のアミノ酸配列であってよい。
「目的のタンパク質」という用語は、少なくとも51個、好ましくは少なくとも100個、好ましくは少なくとも200個のアミノ酸を有する配列を意味することが意図される。
「目的のペプチド」という用語は、2~50個のアミノ酸、好ましくは5~45個のアミノ酸を含む配列を意味することが意図される。
本発明に係る使用され得るタンパク質又はペプチドは、好ましくは以下から選択される:
・アレルゲン及びそれらの断片。このようなタンパク質又はペプチドを含むウイルス様粒子の主要な用途は、免疫療法である。
・ウイルスタンパク質及びそれらの断片。このようなタンパク質又はペプチドを含むウイルス様粒子の主な利点は、ワクシネーションである。
・細胞表面タンパク質及びそれらの断片。このようなタンパク質又はペプチドを含むウイルス様粒子の主な利点は、特に、免疫活性の回復であり得る。
・慢性又は神経変性疾患において蓄積するタンパク質及びペプチド。
・高血圧に関与するタンパク質及びペプチド、例えば、アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンI及びアンジオテンシンII。
・免疫グロブリン、それらの断片(Fab断片など)、及びそれらの誘導体(scFvなど)、
・サイトカイン及びそれらの断片、並びに
・ホルモン及びそれらの断片。
【0023】
好ましくは、本発明に係る使用され得る目的のタンパク質又はペプチドはアレルゲンである。好ましくは、屋内性ダニ類、例えばコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)又はシワダニ(Euroglyphus manei)から生じる呼吸器アレルギーの要因となるアレルゲン、貯蔵庫ダニ、例えばネッタイタマニクダニ(Blomia tropicalis)由来のアレルゲン、アシブトコナダニ(Acarus siro)種のダニ(あるいは、Tyroglyphus farinaeとしても知られている)由来のアレルゲン、ゴキブリアレルゲン、草木の花粉アレルゲン、動物(ネコ、イヌ、ウマ)アレルゲン、カビアレルゲン、接触アレルギーの要因となるアレルゲン、例えばパラゴムノキラテックス、あるいは食物アレルギーの要因となるアレルゲン(乳、卵、魚、果物)から選択される。
コナヒョウヒダニアレルゲンの中でも、Der f 10、Der f 11、Der f 13、Der f 14、Der f 15、Der f 16、Der f 17、Der f 18、Der f 2、Der f 2.0101、Der f 2.0102、Der f 2.0103、Der f 2.0104、Der f 2.0105、Der f 2.0106、Der f 2.0107、Der f 2.0108、Der f 2.0109、Der f 2.0110、Der f 2.0111、Der f 2.0112、Der f 2.0113、Der f 2.0114、Der f 2.0115、Der f 2.0116、Der f 2.0117、Der f 20、Der f 3、Der f 4、Der f 5、Der f 6、Der f 7、Der f 8、Der f 9、及びDer f HSP70に言及され得る。
ヤケヒョウヒダニアレルゲンの中でも、Der p 10、Der p 11、Der p 14、Der p 15、Der p 18、Der p 2、Der p 2.0101、Der p 2.0102、Der p 2.0103、Der p 2.0104、Der p 2.0105、Der p 2.0106、Der p 2.0107、Der p 2.0108、Der p 2.0109、Der p 2.0110、Der p 2.0111、Der p 2.0112、Der p 2.0113、Der p 20、Der p 21、Der p 3、Der p 4、Der p 5、Der p 6、Der p 7、Der p 8、Der p 9に言及され得る。
動物アレルゲンのうち、前記動物の精液由来、上皮由来、乳由来、唾液由来、汗由来、及び/又は尿由来のアレルゲンに言及され得る。動物は、好ましくは、イヌ、ネコ、又はウマである。
ネコ(Felis domesticus)アレルゲンの中でも、Fel d 1、Fel d 1.0101、Fel d 2、Fel d 2.0101、Fel d 3、Fel d 3.0101、Fel d 4、Fel d 4.0101、Fel d 5 、Fel d 5.0101、Fel d 6 、Fel d 6.0101、Fel d 7、Fel d 7.0101、Fel d 8、Fel d 8.0101、Fel d Hp、Fel d IgG 又はFel d S100に言及され得る。
イヌ(Canis familiaris)アレルゲンの中でも、Can f 1、Can f 1.0101、Can f 2、Can f 2.0101、Can f 3、Can f 3.0101、Can f 4、Can f 4.0101、Can f 5、Can f 5.0101、Can f 6、Can f 6.0101、Can f 7、Can f 7.0101、Can f 8、Can f Feld1-like、Can f Homs2-like、Can f Phosvitin、又はCan f TCTPに言及され得る。
ウマ(Equus caballus)アレルゲンの中でも、Equ c 1、Equ c 1.0101、Equ c 2、Equ c 2.0101、Equ c 2.0102、Equ c 3、Equ c 3.0101、Equ c 4、Equ c 4.0101、Equ c PRVB、Equ c 10、Equ c 11、Equ c 12、Equ c 8、Equ c 9、Equ c ALA、又はEqu c BLGに言及され得る。
【0024】
これらのアレルゲンの配列は特にUniprotデータベースにおいて知られている。
【0025】
好ましくは、本発明に係る使用され得る目的のタンパク質又はペプチドは、配列番号:22(Der p 2の成熟配列)又は配列番号:32(ネコアレルゲンFel d 1のCH1鎖の配列)のアレルゲンである。
【0026】
好ましくは、本発明に係る使用され得る目的のタンパク質又はペプチドは、ウイルスタンパク質又はその断片である。
ウイルスタンパク質の中でも特に、ジカ(Zika)ウイルスエンベロープタンパク質、そしてまたインフルエンザウイルスタンパク質、例えば、ヘマグルチニン及びノイラミニダーゼに言及され得る。好ましくは、本発明に係る使用され得る目的のタンパク質又はペプチドは、配列番号:34のヘマグルチニンHA1鎖、又は配列番号:35のジカウイルスエンベロープタンパク質である。
【0027】
好ましくは、本発明に係る使用され得る目的のタンパク質又はペプチドは、細胞表面タンパク質又はその断片である。
表面タンパク質の中でも特に、腫瘍表面抗原に言及され得る。そのようなタンパク質及びその断片は、特に、例えば腫瘍治療において、免疫活性の回復に役立つ。
【0028】
好ましくは、本発明に係る使用され得る目的のタンパク質又はペプチドは、神経変性又は慢性疾患において蓄積されるタンパク質である。
慢性疾患において蓄積されるペプチドのうち特に、アルツハイマー病に関与するβアミロイドペプチド、パーキンソン病に関与するアルファ-シヌクレインタンパク質、そしてまた関節リウマチに関与するCD20、TNF-アルファ、又はHLA(ヒト白血球抗原)タンパク質に言及され得る。
【0029】
コイルドコイルドメイン(又はオリゴマー形成配列)c)
コイルドコイルドメイン、あるいはオリゴマー形成配列は、互いに平行であり、いくつかの特徴的な生物学的機能を有する組織化マトリックスを形成する、いくつかのセンス又はアンチセンスアルファ-ヘリックスモチーフを含む。これらのドメインは、大部分の生物において、遍在しており、かつ多様な種類のタンパク質に特異的なドメインとして見いだされる。起源の異なるコイルドコイルドメインをアセンブルして、ダイマーからヘプタマーにおよぶ形状を形成することができ;いくつかのコイルドコイルドメインは、それらのアミノ酸配列の点変異によって異なる重合レベルとなる。
コイルドコイルドメインは、典型的には、「hxxhcxc」型の7アミノ酸の繰り返しモチーフからなり、ここで、「h」は疎水性アミノ酸であり、「c」は荷電アミノ酸であり、そして「x」は任意のアミノ酸である。
【0030】
本発明に係る使用され得るコイルドコイルドメインは、ウイルス起源のものではなく;すなわち、ウイルス性ではない。
本発明に従って使用され得るコイルドコイルドメインのうち、好ましくはコルテキシリン(cortexilline)、ビメンチン、テトラブラチオン(tetrabrachion)、ゴルジン(golgins)、「可溶性N-エチルマレイミド感受性因子(NSF:N-ethylmaleimide-sensitive factor)付着タンパク質受容体」あるいはSNAREスーパーファミリー、あるいは、GCN4などの転写因子又はその変異体、例えばGCN4-pLI若しくはGCN4-PIIに言及されよう。
好ましくは、コイルドコイルドメインは、GCN4、GCN4-pLI、又はGCN4-PII転写因子由来のものである。
好ましくは、コイルドコイルドメインは、配列番号:24(GCNA-pII 酵母GCN4転写因子の三量体形成配列)、配列番号:27(GCN4-pLI 酵母GCN四量体因子の四量体形成配列)、配列番号:28(GCN4-pAA 酵母GCN4転写因子の七量体形成配列)、配列番号:29(IZN4 酵母GCN4転写因子のグリコシル化オリゴマー形成配列)、配列番号:33(擬コイルドコイル合成配列)、及び配列番号:30(SNAREオリゴマー形成配列)から選択される。
【0031】
細胞膜へのアンカードメイン(又は膜貫通ドメイン)d)
膜貫通ドメインは、細胞膜成分の特定の脂質と相互作用する親油性アミノ酸の短い配列である。好ましくは、細胞膜は、少なくとも一部に脂質ラフトの特色を有する部分を含む。
これらのアンカードメインは、ウイルスの表面タンパク質だけでなく、生細胞の膜中に天然に組み込まれているタンパク質にも共通している(ただし、コンセンサス配列によってではない)。各膜貫通ドメインは、細胞膜の変形(bending)と出芽に関与する。
【0032】
本発明に係る使用され得るアンカードメインのうち、好ましくは、表1Aに列挙したタンパク質由来のものが言及されよう:
【0033】
【表1】
【表2】
【0034】
本発明に係る使用され得るアンカードメインのうち、好ましくは下記表1Bに列挙したウイルスエンベロープタンパク質由来のものが言及されよう:
【0035】
【表3】
【表4】
【0036】
好ましくは、本発明に係る使用され得るアンカードメインは、インフルエンザウイルスH5N1のH5ヘマグルチニンのアンカー配列(配列番号:26)及びPDLP1タンパク質(A0A0D3D8S3)のアンカー配列(配列番号:31)から選択される。
【0037】
リンカー
好ましくは、本発明に係る融合タンパク質は、断片b)とc)の間、及び/又は断片c)とd)の間に存在するリンカーを含む。
リンカーは、フレキシブルアームを生成する短いアミノ酸配列(2~10、好ましくは2~6アミノ酸)である。これらは、アンカードメインとコイルドコイルドメインが近接し過ぎているために正しいアセンブリに干渉する場合、アンカードメインとコイルドコイルドメインのらせんとの間にフレキシブルな空間を生成するのに有用であり得る。リンカーは、二つのドメイン(アンカードメインとコイルドコイルドメイン)間の直接連結が融合タンパク質の三次元構造全体に干渉しない条件下では必要とされない。
好ましくは、リンカーは、-(GGGS)-型であり、ここで、nは整数である。好ましくは、リンカーは、配列番号:23(n=2)及び配列番号:25(n=1)から選択される。
【0038】
従って、好ましくは、本発明に係る融合タンパク質は、以下のようなものである:
a)任意選択のシグナルペプチドは、配列番号:21の配列を有する;
b)目的のタンパク質又はペプチドは、以下から選択される:
・アレルゲン及びそれらの断片、
・ウイルスタンパク質及びそれらの断片、
・細胞表面タンパク質及びそれらの断片、
・慢性及び神経変性疾患において蓄積するタンパク質及びペプチド、
・高血圧に関与するタンパク質及びペプチド、
・免疫グロブリン及びそれらの断片、
・サイトカイン及びそれらの断片、並びに
・ホルモン及びそれらの断片;
c)コイルドコイルドメインは、配列番号:24、配列番号:27、配列番号:28、配列番号:29、配列番号:33、及び配列番号:30から選択される;そして
d)アンカードメインは、インフルエンザウイルスH5N1のH5ヘマグルチニンのアンカー配列(配列番号:26)及びPDLPlタンパク質のアンカー配列(配列番号:31)から選択される。
【0039】
したがって、好ましくは、本発明に係る融合タンパク質は、配列番号:4、配列番号:6、配列番号:8、配列番号:10、配列番号:12、配列番号:14、配列番号:16、配列番号:18、及び配列番号:20から選択される配列を含み、好ましくは該配列からなる。
【0040】
同様に、好ましくは、本発明に係るVLPは、以下を含む:
- 少なくともその一部が脂質ラフトの特色を有する組成を有する細胞膜から成るエンベロープ;及び
- 前記膜に固定された少なくとも1つのI型又はII型膜貫通融合タンパク質であって、前記融合タンパク質は、以下の断片:
b)以下から選択される、目的のタンパク質又はペプチド:
・アレルゲン及びそれらの断片、
・ウイルスタンパク質及びそれらの断片、
・細胞表面タンパク質及びそれらの断片、
・慢性及び神経変性疾患において蓄積するタンパク質及びペプチド、
・高血圧に関与するタンパク質及びペプチド、
・免疫グロブリン及びそれらの断片、
・サイトカイン及びそれらの断片、並びに
・ホルモン及びそれらの断片;
c)配列番号:24、配列番号:27、配列番号:28、配列番号:29、配列番号:33、及び配列番号:30から選択されるコイルドコイルドメイン;並びに
d)インフルエンザウイルスH5N1のH5ヘマグルチニンのアンカー配列(配列番号:26)及びPDLPlタンパク質のアンカー配列(配列番号:31)から選択されるアンカードメイン
を連続して含み:
断片b)及びc)はVLPの外側に露出している。
【0041】
本発明の主題はまた、融合タンパク質をコードする核酸(又はヌクレオチド配列)である。
ヌクレオチド配列が得られたら、それはその後、従来の方法によって発現ベクター中に配置される。したがって、本発明の主題はまた、融合タンパク質をコードする核酸を含むベクターである。好適な発現ベクターの選択は宿主細胞に発現ベクターを導入する方法に依存することとなる。典型的な発現ベクターは、真核性DNAエレメント、例えば、外因性遺伝子の転写開始配列、例えばプロモーター、及び転写物のプロセシングを制御するDNAエレメント、例えば終結/ポリアデニル化配列、及びサイレンシング阻害因子の発現を可能とする発現カセットを含む。発現ベクターはまた、植物中又は植物細胞中へのDNA片の組み込み(integration)に必要とされるt-DNAなどの配列を含む。
好ましくは、発現ベクターは:
- 融合タンパク質をコードし、好ましくは強力なプロモーター、好ましくは35Sプロモーターに作動可能に連結されている、少なくとも1つのヌクレオチド配列;
- サイレンシング阻害因子、好ましくはp19の発現を可能にする発現カセット;及び
- 転写物のプロセシングを制御するDNAエレメント、例えば終結/ポリアデニル化配列、好ましくはTnos配列(ノパリンシンターゼ終結配列)
を含む。
好ましくは、発現ベクターはpAG01である。
【0042】
融合タンパク質の発現を制御するために使用されるプロモーターは、強力なプロモーターであり、植物遺伝子プロモーター、例えば、ユビキチンプロモーター、リブロース-1,5-ビスホスフェートカルボキシラーゼ小サブユニットプロモーター、アグロバクテリウム・ツメファシェンス(Agrobacterium tumefaciens)プロモーター、ノパリンシンターゼ及びオクトピンシンターゼプロモーター、あるいは、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)19S及び35Sなどのウイルスプロモーターであってよい。好ましくは強力なプロモーターは35Sである。
【0043】
本発明の主題はまた、融合タンパク質をコードする少なくとも1つの核酸を含む宿主細胞である。宿主細胞は植物細胞であり得る。
【0044】
本発明の主題はまた、真核細胞、好ましくは植物細胞における融合タンパク質をコードする核酸の発現を含む、ウイルス様粒子(VLP)の製造方法である。
植物を培養する一般的な方法、そしてまた植物組織中に発現ベクターを導入するための方法は、当業者が利用可能である。様々な方法があり、方法は選択された植物に依る。好ましくは、植物はAllergopurプラットフォームに固有の技術にしたがって培養されることになる。この組換えタンパク質の生産方法は、出願FR1 255 510に記載されており、植物を、噴霧水耕栽培(aeroponic)又は水耕栽培(hydroponic)条件下で、かつLED照光下で培養する、第1の工程を含む。この第1の工程の後、植物のアグロインフィルトレーション(agroinfiltration)を、減圧(vacuum)下で、本発明に係る融合タンパク質をコードするDNA断片を含むアグロバクテリアを使用して行う。このアグロインフィルトレーション工程は、減圧をもたらす任意の手段により行うことができる。好ましくは、本発明に従って使用される方法では、該工程はベンチュリ(Venturi)効果による減圧下で行われる。本発明に係る使用可能なアグロバクテリアのうち、好ましくはLBA4404、GV3101、EHA101/105、又はC58株に言及される。
アグロインフィルトレーション工程が行われたら、植物は、典型的には3~6日、培養物中に戻されるが、その間、理想的には、アグロインフィルトレーション後の最初の6時間の培養の間、前記植物に頻繁に水吹きを行う。次いで、VLPは、下記のように抽出及び精製される。
VLP抽出は、酵素抽出により行うことができる。この方法は、特に出願WO2014/153674に記載されている方法の改変である。好ましくは、VLPの酵素抽出は、以下の工程により行われる:
- 植物の地上部(すなわち、葉)を、減圧下(特に、アグロインフィルトレーションについて上に記載したとおり)、タンパク質分解活性を示さないペクトセルロース酵素を含む酵素溶液中;好ましくは、50mMのクエン酸ナトリウム(pH5.2)、0.5M NaCl、及び0.04%メタ重亜硫酸塩を含む培地中に4%で配合したペクチナーゼ及びセルラーゼの混合物中で、浸潤(infiltration)させる工程、
- 続いて葉を採取し、次いで酵素溶液中でインキュベートする工程、
- 混合物を、オービタルシェーカー上で、20~30rpmで、室温(すなわち、およそ20~23℃)で、30分~2時間振とうする工程、
- 次いで消化物を、好ましくは2~3mm、次いで250μmのクロスでろ過し、次いで任意に連続して遠心(例えば、1000×gで2~5分)し、そして上清をタンジェンシャルろ過を行うために回収する工程。
【0045】
このような方法を図7に示す。
【0046】
したがって、好ましくは、本発明の主題はまた、以下の工程を含む、植物細胞又は植物において本発明に係るウイルス様粒子(VLP)を製造する方法である:
a)強力なプロモーターに作動可能に連結された本発明に係る融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターでアグロバクテリアを形質転換する工程;及び
b)工程a)で得られたアグロバクテリアで植物細胞又は植物をトランスフェクトする工程。
【0047】
工程a)の形質転換は、典型的には当業者に知られている方法を使用して、例えば、4℃、-80℃、及び37℃での、ヒートショック及びそれに続く継代により行われる。
【0048】
工程b)のトランスフェクションは、好ましくは、以下の工程を含む:
b1)噴霧水耕栽培又は水耕栽培条件下、かつLED照光下で、好ましくは4~6週間、植物細胞又は植物を培養する工程;
b2)b1)において得られた植物細胞又は植物を、減圧下、工程a)において得られたアグロバクテリアを用いてアグロインフィルトレーションする工程。このアグロインフィルトレーション工程は、好ましくはベンチュリ効果による減圧下で行われる。
b3)ウイルス様粒子を得るために、b2)において得られた植物細胞又は植物を、典型的には3~6日間、培養物に戻す工程。
最後に、得られたVLPは、特には上記の酵素抽出により抽出及び精製される。
【0049】
本発明の主題はまた、以下を含むウイルス様粒子である:
- その少なくとも一部が脂質ラフトの特色を有する組成を有する細胞膜からなるエンベロープ;及び
- 前記膜に固定された、シグナルペプチドa)を含まない少なくとも1つの本発明に係る融合タンパク質。
したがって、かかるウイルス様粒子(VLP)は、以下を含む:。
- その少なくとも一部が脂質ラフトの特色を有する組成を有する細胞膜からなるエンベロープ;及び
- 前記膜に固定された少なくとも1つのI又はII型膜貫通融合タンパク質であって、前記融合タンパク質は、連続して:
b)目的のタンパク質又はペプチド:
c)ウイルス起源ではない、コイルドコイルドメイン(又はオリゴマー形成配列);及び
d)膜貫通セグメントと細胞質セグメントとからなる、細胞膜へのアンカードメイン、好ましくは、少なくとも一部が脂質ラフトの特色を有する細胞膜へのアンカードメイン
を含み:
断片b)及びc)はVLPの外側に露出している。
【0050】
「脂質ラフトの特色を有する細胞膜の部分」という表現は、脂質ラフトのマイクロドメインに見られる脂質二重層(すなわち、細胞膜)を意味することが意図される。そのような二重層は、コレステロール及びリン脂質に、好ましくはホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミン、及びスフィンゴミエリンなどのスフィンゴ脂質に富んでいるが、ドコサヘキサエン酸に乏しい。加えて、密度が低く、温和な界面活性剤(例えば、ポリソルベート)に不溶である。
【0051】
そのようなVLPの特有の特徴は、(目的のタンパク質又はペプチドb以外は)免疫原性が検出不能であること、自発的に自己集合する能力、その特定の脂質(好ましくは脂質ラフトの特色を有する)含量、その膜に宿主細胞の膜タンパク質が非常に少ないこと、さまざまな真核細胞種(葉、昆虫、又は植物)において高収量で発現される能力、及び調製の容易さである。
【0052】
本発明に係るVLPは、治療に使用され得る。VLPは薬物として使用され得る。またアレルゲン免疫療法(AIT)において使用され得る。
【0053】
本出願に示した配列を下記表に要約する:
【0054】
【表5】
【0055】
以下の実施例は本発明の範囲を例証するものであるが、これを限定することを意図するものではない。変更及び改変が可能であり、これらが本発明の内容及び精神の範囲内に含まれることは当業者には明らかであろう。
【実施例0056】
例1:分子設計及び遺伝子の合成
cDNAは、植物系による認識のためにコドン使用率を最適化及び次いでハーモナイズすることによって合成した。本発明の文脈において、好ましい最適化は、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)における発現のための最適化である。
【0057】
コンストラクトを図1に示す。特には、以下のとおりである:
A:天然型のタンパク質をコードするcDNA(配列番号1)。このcDNAは、特許WO2008/056265に記載の輸送シグナルと融合していてもしていなくてもよい。対応するタンパク質は配列番号2の配列を有する。
B:タバコキチナーゼシグナル配列(Neuhaus、J.-M.1996)に、酵母GCN4転写因子のGCN4-pII三量体形成シグナルに、そしてH5N1インフルエンザウイルスH5ヘマグルチニンのアンカー配列に融合した成熟型のDer p2アレルゲン(配列番号22)をコードするcDNA(配列番号3)。対応するタンパク質は配列番号4の配列を有する。
C:タバコキチナーゼシグナル配列(Neuhaus、J.-M.1996)に、酵母GCN4転写因子のGCN4-pLI四量体形成配列に、そしてH5N1インフルエンザウイルスH5ヘマグルチニンのアンカー配列に融合した成熟型のDer p2アレルゲン(配列番号22)をコードするcDNA(配列番号5)。対応するタンパク質は配列番号6の配列を有する。
D:タバコキチナーゼシグナル配列(Neuhaus、J.-M.1996)に、酵母GCN4転写因子のGCN4-pAA七量体形成配列に、そしてH5N1インフルエンザウイルスH5ヘマグルチニンのアンカー配列に融合した成熟型のDer p2アレルゲン(配列番号22)をコードするcDNA(配列番号7)。対応するタンパク質は配列番号8の配列を有する。
E:タバコキチナーゼシグナル配列(Neuhaus、J.-M.1996)に、酵母GCN4転写因子のIZN4グリコシル化オリゴマー形成配列に、そしてH5N1インフルエンザウイルスH5ヘマグルチニンのアンカー配列に融合した成熟型のDer p2アレルゲン(配列番号22)をコードするcDNA(配列番号9)。対応するタンパク質は配列番号10の配列を有する。
F:タバコキチナーゼシグナル配列(Neuhaus、J.-M.1996)に、コイルドコイルを模した合成配列に、そしてH5N1インフルエンザウイルスH5ヘマグルチニンのアンカー配列に融合した成熟型のDer p2アレルゲン(配列番号22)をコードするcDNA(配列番号11)。対応するタンパク質は配列番号12の配列を有する。
G:タバコキチナーゼシグナル配列(Neuhaus、J.-M.1996)に、SNAREオリゴマー形成配列に、そしてH5N1インフルエンザウイルスH5ヘマグルチニンのアンカー配列に融合した成熟型のDer p2アレルゲン(配列番号22)をコードするcDNA(配列番号13)。対応するタンパク質は配列番号14の配列を有する。
H:タバコキチナーゼシグナル配列(Neuhaus、J.-M.1996)に、酵母GCN4転写因子のGCN4-pII三量体形成配列に、そしてH5N1インフルエンザウイルスH5ヘマグルチニンのアンカー配列に融合した、Der p2(配列番号22)の2つのフラグメントをコードするcDNA(配列番号15)。対応するタンパク質は、配列番号16の配列を有する。
I:タバコキチナーゼシグナル配列(Neuhaus、J.-M.1996)に、酵母GCN4転写因子のGCN4-pII三量体形成配列に、そしてH5N1インフルエンザウイルスH5ヘマグルチニンのアンカー配列に融合したFel d1アレルゲンのCH 1鎖(配列番号32)をコードするcDNA(配列番号17)。対応するタンパク質は、配列番号18の配列を有する。
J:タバコキチナーゼシグナル配列(Neuhaus、J.-M.1996)に、酵母GCN4転写因子のGCN4-pII三量体形成配列に、そして脂質ラフトのPDLP1タンパク質(A0A0D3D8S3)のアンカー配列に融合した成熟型のDer p2アレルゲン(配列番号22)をコードするcDNA(配列番号19)。対応するタンパク質は配列番号20の配列を有する。
【0058】
例2:プラスミドの調製
XbaI/kpnI及びSalI/SacI制限部位をそれぞれcDNAの5’及び3’末端に合成中に組み込む。次いでこれらの部位を使用してpAG01バイナリー発現ベクター中にcDNAをクローニングする。cDNAは35Sプロモーター(35S)の上流及びノパリンシンターゼ終結配列(tnos)の下流にクローニングするが、ここで、pAG01ベクターはまた、生産率を高めるために組換えタンパク質と同時にp19サイレンシング阻害因子を発現できるようにする発現カセットも含む。次いで該ベクターを用いてアグロバクテリウム・ツメファシエンスのLBA4404株を形質転換する。
【0059】
例3:ベンサミアナタバコの葉においてVLPの形態で産生されるDer p2の一過性発現-AllergoPurプラットフォームの使用
一過性発現による産生のために、目的の遺伝子を植物細胞のゲノムに組み込むことなく、オリゴマー形成配列及びアンカー配列に連結されたDer p2をコードするcDNAを移入するために、アグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404を使用する。これは、遺伝子組み換え(transgenesis)ではなく、トランスフェクション(transfection)と呼ばれる。植物を、水耕栽培条件下、栄養培地(GHE、フローラグロウ(floragrow)、フローラマイクロ(floramicro)、フローラブルーム(florabloom)、浸透水(osmosed water)10l当たり10ml/15ml/5ml)の存在下で培養する。
アグロバクテリウムは、2つの方法に従ってアグロインフィルトレーションにより葉組織に移入される。プロトタイプスクリーニングを目的としたプロテアーゼの小バッチの生産には、葉の下面の表皮に注射器を当てて手動でアグロバクテリアを注入する。アグロインフィルトレーションの4~6日後に葉から採取した葉の円板を種々のVLPプロトタイプの分析に使用する。このスクリーニング工程により、最適な質の膜に固定されたDer p2アレルゲンを得るのに使用されることとなる発現ベクターを定めることができる。大規模生産にも同じ方法が使用されるが、この場合は、アグロインフィルトレーションを、減圧下、数リットルのアグロバクテリア培養物を含むチャンバー中で行い、数十の植物に同時に浸潤(infiltrate)させる。次にこれらの植物を培養物に3~6日間戻し、その後アレルゲンを担持するVLPを精製する(図2)。
【0060】
例4:Der p2アレルゲンを担持するVLPの産生
例3において産生させたタンパク質の発現、そしてまた収率を、それぞれウエスタンブロッティング及びELISAによって分析する。結果をVLPの形態で産生させた3つのアレルゲン(DP2-tri、DP2-tetra、及びFD1-tri)について示す(図3)。
【0061】
例5:VLP形成の評価/サイズ分布分析
Der p2(DP2-tri/DP2-tetra)又はFel d1(FD1-Tri)アレルゲンを担持している構造のサイズ分布分析を行った。例3に記載したように、アグロバクテリウム株LBA4404を用いたN.ベンサミアナ植物への減圧下で浸潤を行った後、全タンパク質抽出物をサイズ排除クロマトグラフィーによりS-500(HR)高分解能カラム(GE Healthcare Bio-Science Corporation)にて分離した。溶出画分は、抗アレルゲン抗体を用いたウエスタンブロッティングにより、それらの総タンパク質含有量及びそれらのVLPアレルゲン含有量に関して制御した。分析したすべての抽出物について、溶出液中の可溶性タンパク質濃度は画分14~16で最大に達した(図4)。一方で、ウエスタンブロッティング分析では、画分6及び7(すなわち、マーカーとして使用したデキストランブルーの溶出前)におけるアレルゲンの蓄積が示され、これは、2MDa領域の非常に高分子量の構造へのアレルゲンの連結を示す。
32ml Sephacryl S-500/HRカラム(GE Healthcare Bio-Science Corporation)を50mM PBS(pH7.4)、150mM NaClで平衡化した。1.5mlの全タンパク質抽出物のサンプルをロードし、次いで平衡化バッファーで溶出した。24個の1.5ml溶出画分を回収し、280nmにおける吸光度分光光度分析により測定したタンパク質中の含有量について分析した。各画分のタンパク質をアセトン沈殿により濃縮し、次いで同一容量の溶出バッファーに再溶解後、SDS-PAGE及びウエスタンブロッティングにより分析した。この分離技術の再現性を確認するために、デキストランブルー2000と可溶性タンパク質の溶出プロファイルを各クロマトグラムについて比較した。
【0062】
例6:VLPの形態-電子顕微鏡による分析
精製した生成物(実施例3における産生後、精製して得られるもの)の透過型電子顕微鏡法は、分子ふるいクロマトグラフィーによって単離された高分子量構造がアレルゲンが結合しているVLPであることを示している。サイズと、尖頭で覆われたリン脂質膜を含む形態との両方の点で、これらのVLPはインフルエンザビリオンに酷似している(図5)。
【0063】
例7:アレルゲン又はVLPに担持された低アレルゲン化物の産生
アレルゲンのVLPへのカップリングは、患者の血清由来のIgEにおけるそのin vivo反応性を大幅に低下させる。
しかしながら、低アレルゲン化物の使用により、IgEの反応性、その結果としてアナフィラキシー反応の危険性がさらに低下する。VLPに担持された低アレルギー型のDer p2アレルゲンの反応性の低下を図6に示す。
【0064】
例8:VLPの生産
VLPの詳細な生産方法を、その精製まで(例6に記載されるとおり)、図7に示す。
【0065】
例9:可溶性アレルゲンと比較したVLPの免疫原性能
高秩序の反復ネットワークの抗原提示は通常強い免疫応答を引き起こすのに対して、単量体として提示された同じ抗原は非免疫原性である。
アレルゲンが高秩序ネットワークの形態で提示された場合のアレルゲンに対する免疫応答を比較するために、可溶性単量体型の又はVLP担持型のDer p2アレルゲンでマウスを免疫した。Der p2アレルゲンに対するIgGの力価をELISAにより測定した。
【0066】
プロトコル
以下にプロトコルを示す。
【0067】
【化1】
【0068】
屠殺後の分析:
・体重減少と行動の変化
・肺機能(flexiVent、プレチスモグラフィ)
・アレルゲンに対する血清学的応答(血清IgG、IgE、ブロット)
・好塩基球活性化テスト
・その後のフェーズにおける病理組織学及びその他の血清学的結果(例えば:IgGアイソフォーム)。
【0069】
本試験により、Der p2アレルゲンに結合したVLPが、可溶性Der p2とは対照的に、マウスにおいて気管支過敏症を誘発しないことが実証された(図9、パネルAを参照)。さらに、Der p2に結合したVLPは、好中球の活性化を伴う全身性Th1型応答を引き起こす(図9、パネルB及びCを参照)。
【0070】
例10:VLPを使用した脱感作/ワクシネーション
有効なワクチンの主要パラメーターは以下のとおりである:アジュバントの非存在下での高抗体価の迅速な誘導、及び重大な副作用がないこと。
【0071】
プロトコル
プロトコルを以下に示す。
【0072】
【化2】
【0073】
参考文献
本出願において引用した文献は以下のとおりである:
1-Noon L. Prophylactic inoculation against hay fever Lancet 1911; 1: 1572-3
2-Freeman J. Further observation on the treatment of hay fever by hypodermic inoculations of pollen vaccine. Lancet 1911; 2: 814-817
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19-Cielens et al. FEBS Letters 2000; 482: 261-264
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
【配列表】
2024028887000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-01-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- その少なくとも一部が脂質ラフトの特色を示す細胞膜からなるエンベロープ;並びに、
- 前記膜中に固定された少なくとも1種のI型又はII型膜貫通融合タンパク質であって、前記融合タンパク質は、以下:
b)目的のタンパク質又はペプチド;
c)ウイルス起源ではない、コイルドコイルドメイン又はオリゴマー形成配列;及び
d)膜貫通セグメントと細胞質セグメントとからなる細胞膜へのアンカードメインであって、好ましくは、少なくとも一部が脂質ラフトの特色を示す細胞膜へのアンカードメイン
の断片を連続して含み、
断片b)及びc)はウイルス様粒子の表面に露出している、I型又はII型膜貫通融合タンパク質
を含む、ウイルス様粒子。
【外国語明細書】