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特開2024-28920hMPCの集団をゼノフリー生成するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028920
(43)【公開日】2024-03-05
(54)【発明の名称】hMPCの集団をゼノフリー生成するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20240227BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20240227BHJP
【FI】
C12N5/077
C12N1/00 B
C12N1/00 F
A61P21/00
A61P13/10
A61K35/34
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023207408
(22)【出願日】2023-12-08
(62)【分割の表示】P 2020562575の分割
【原出願日】2019-05-06
(31)【優先権主張番号】18171162.3
(32)【優先日】2018-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】517000047
【氏名又は名称】ウニヴェルズィテート チューリヒ
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エベリ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】モール,ディアナ
(72)【発明者】
【氏名】サレーミ,サウザン
(72)【発明者】
【氏名】ゾーラク,ファハド アザビ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、骨格筋由来のヒト筋前駆細胞の集団を生成する方法を提供する。
【解決手段】少なくとも以下のステップ:ヒト患者の骨格筋生検によってヒト組織サンプルを得るステップ、ヒト組織サンプルから脂肪組織及び/又は腱組織及び/又は結合組織を外科的に取り除くステップ、ヒト組織サンプルを細かく刻み、酵素消化するステップ、線維芽細胞の数を減らし、これによってヒト筋前駆細胞の集団を得るステップ、ヒト筋前駆細胞を、コラーゲンコーティングしたディッシュに定着させるステップ、少なくとも1回の継代のために、ヒト筋前駆細胞を細胞成長培地中で増殖させるステップを含む、方法である。
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下のステップ:
- ヒト患者の骨格筋生検によってヒト組織サンプルを得るステップ、
- ヒト組織サンプルから脂肪組織及び/又は腱組織及び/又は結合組織を外科的に取り除くステップ、
- ヒト組織サンプルを細かく刻み、酵素消化するステップ、
- 線維芽細胞の数を減らし、これによってヒト筋前駆細胞の集団を得るステップ、
- ヒト筋前駆細胞を、コラーゲンコーティングしたディッシュに定着させるステップ、
- 少なくとも1回の継代のために、ヒト筋前駆細胞を細胞成長培地中で増殖させるステップ
を含む、骨格筋由来のヒト筋前駆細胞の集団を生成する方法。
【請求項2】
骨格筋生検が、ヒラメ筋、腹直筋、大腿四頭筋、外側広筋からなる群から選択される組織から採取され、骨格筋生検がヒラメ筋組織から好ましくは採取される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヒト筋前駆細胞が、少なくとも2回の継代、好ましくは3回又は4回の継代にわたり培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ヒト筋前駆細胞が、ウシ胎児血清を含まない細胞成長培地を使用して増殖される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ヒト筋前駆細胞が、ヒト血小板溶解物、好ましくはプールされた、濾過されたヒト血小板溶解物を含む細胞成長培地を使用して増殖され、ヒト血小板溶解物が、細胞成長培地中で5~20%、さらに好ましくは7~12%、最も好ましくは約10%の最終濃度で好ましくは存在する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ヒト筋前駆細胞を増殖させるために使用される細胞成長培地が、抗凝固因子、好ましくはヘパリン、さらに好ましくはヘパリン-Naを、好ましくは1~10IU/ml、さらに好ましくは2~6IU/ml、最も好ましくは約2IU/mlの最終濃度でさらに含み、細胞成長培地が、以下の成分:
- 栄養溶液、好ましくはDMEM、さらに好ましくは1:1のDMEM/F12栄養ミックス;
- 好ましくは5~20ng/ml、さらに好ましくは約10ng/mlの最終濃度の、hEGF、
- 好ましくは0.5~2ng/ml、さらに好ましくは約1ng/mlの最終濃度の、hbFGF、
- 好ましくは5~20μg/ml、さらに好ましくは約10μg/mlの最終濃度の、インスリン、好ましくはヒトインスリン、
- 好ましくは0.2~0.8μg/ml、さらに好ましくは約0.4μg/mlの最終濃度の、デキサメタゾン
を好ましくはさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法で生成された、Pax7、デスミン、及びアルファ-アクチニンを好ましくは発現し、MyHCも好ましくは発現する、骨格筋由来のヒト筋前駆細胞の集団。
【請求項8】
薬剤として使用するための、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法で生成された、骨格筋由来のヒト筋前駆細胞の集団。
【請求項9】
骨格筋機能障害の処置において使用するための、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法で好ましくは生成された、骨格筋由来のヒト筋前駆細胞の集団。
【請求項10】
緊張性尿失禁の処置において使用するための、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法で好ましくは生成された、骨格筋由来のヒト筋前駆細胞の集団。
【請求項11】
ウシ胎児血清を含まない、骨格筋機能障害を処置するためのヒト筋前駆細胞の集団を生産するための細胞成長培地。
【請求項12】
ヒト血小板溶解物、好ましくはプールされたヒト血小板溶解物を含有する、請求項11に記載の細胞成長培地。
【請求項13】
以下の組成物:
- 栄養溶液、好ましくはDMEM、さらに好ましくは1:1のDMEM/F12栄養ミックス、
- 好ましくは5~20ng/ml、さらに好ましくは約10ng/mlの最終濃度の、hEGF、
- 好ましくは0.5~2ng/ml、さらに好ましくは約1ng/mlの最終濃度の、hbFGF、
- 好ましくは5~20μg/ml、さらに好ましくは約10μg/mlの最終濃度の、インスリン、好ましくはヒトインスリン、
- 好ましくは0.2~0.8μg/ml、さらに好ましくは約0.4μg/mlの最終濃度の、デキサメタゾン、
- 好ましくは1~10IU/ml、さらに好ましくは2~6IU/mlの最終濃度の、ヘパリン、好ましくはヘパリン-Na、
- 好ましくは5~20%、さらに好ましくは7~12%、最も好ましくは約10%の最終濃度の、濾過されたヒト血小板溶解物
を含む、請求項12に記載の細胞成長培地。
【請求項14】
少なくとも1回の継代で使用するために、好ましくは継代0で使用するために、抗生物質を含有する溶液、好ましくはペニシリン及びストレプトマイシンを含有する溶液を、好ましくは約1%の最終濃度でさらに含む、請求項11に記載の細胞成長培地。
【請求項15】
以下のステップ:
- 栄養溶液、好ましくはDMEM溶液、さらに好ましくはDMEM/F12の1:1栄養ミックスを用意するステップ、
- 好ましくは5~20ng/ml、さらに好ましくは約10ng/mlの最終濃度まで、hEGFを添加するステップ、
- 好ましくは0.5~2ng/ml、さらに好ましくは約1ng/mlの最終濃度まで、hbFGFを添加するステップ、
- 好ましくは5~20μg/ml、さらに好ましくは約10μg/mlの最終濃度まで、インスリン、好ましくはヒトインスリンを添加するステップ、
- ヘパリン、さらに好ましくはヘパリン-Naを、濾過されたhPLに好ましくは添加することによって、ヒト血小板溶解物と抗凝固因子との混合物を、混合物を栄養溶液に添加する前に、好ましくは5~20%のhPL最終濃度、さらに好ましくは約10%のhPL最終濃度となるように、及び好ましくは1~10IU/ml、さらに好ましくは2~6IU/mlのヘパリン最終濃度となるように、調製し、そして、ヒト血小板溶解物とヘパリンとの混合物を栄養溶液に添加するステップ、
- 好ましくは0.2~0.8μg/ml、さらに好ましくは約0.4μg/mlの最終濃度まで、デキサメタゾンを添加するステップ
を含む、請求項13に記載の細胞成長培地を生産するための方法。
【請求項16】
請求項1~6のいずれか一項に従って好ましくは調製された、骨格筋由来のヒト筋前駆細胞の集団を含む組成物を生産するための方法であって、骨格筋起源由来のヒト筋前駆細胞の集団が、コラーゲン溶液中に、少なくとも80%の生存能力で好ましくは1000万~3000万個細胞/mlの濃度で懸濁され、コラーゲンが、好ましくはI型コラーゲンであり、コラーゲンの濃度が、好ましくは1~4mg/ml、さらに好ましくは約2mg/mlである、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法によって生産された、コラーゲン溶液中に懸濁した骨格筋由来のヒト筋前駆細胞の集団を含む、組成物。
【請求項18】
少なくとも80%の生存能力で、好ましくは1000万~3000万個細胞/mlの濃度の、コラーゲン溶液中に懸濁した骨格筋由来のヒト筋前駆細胞の集団を含む組成物であって、コラーゲン溶液が、好ましくはブタ、ウシ、又はヒト由来のI型コラーゲンを好ましくは含有し、組成物中のコラーゲン濃度が、好ましくは1~4mg/ml、好ましくは約2mg/mlである、組成物。
【請求項19】
薬剤として使用するための、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
骨格筋機能障害の処置、特に、外尿道括約筋の欠陥の処置において薬剤として使用するための、請求項18に記載の組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト筋前駆細胞(hMPC)の集団をゼノフリー生成するための方法、これらのhMPCを含む組成物、及び、骨格筋機能障害、特に緊張性尿失禁を処置するための組成物の生産におけるこれらのhMPCの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
尿失禁、すなわち不随意的な排尿は、45歳を超える女性集団のおよそ半分及び70歳を超える男性の17%が罹患している、大きな医療問題である。排泄抑制能力及び排尿には、尿道の閉鎖と排尿筋の活動との間のバランスが関係する。排泄抑制能力は、尿道括約筋、膀胱頚の位置、尿道平滑筋、神経の完全性、血管網、及び周辺組織の支持の、複雑な相互作用によって成される。
【0003】
緊張性尿失禁及び切迫性尿失禁などの異なるタイプの尿失禁が存在する。緊張性尿失禁(SUI)は、咳、笑い、くしゃみ、運動、又は腹部内の圧力を増大させ、ひいては膀胱に対する圧力を増大させる他の動きに伴う、少量の排尿である。骨格筋でできている、したがって体性神経系の随意的な制御下にある、横紋筋の外尿道括約筋が、ほとんどの場合、SUIの予防を担っている。外尿道括約筋の損傷は主に分娩の際、外科的処置の際、又は加齢の影響として生じる。SUIは、世界中で2億を超える人が罹患している疾患であり、女性は男性の2倍であり、毎日の活動の制限、不快な感覚、臭い、及び尿用パッドが濡れていることによって生じる感染が理由で、患者のクオリティー・オブ・ライフを低下させている。発生している医療費は著しい。
【0004】
SUIの現行の治療選択肢としては、主に、非外科療法(膀胱のトレーニング、食事の改善)、薬物療法、及び外科療法が含まれる。これらの治療法は短期間の軽減をもたらすにすぎず、これらの治療法の全体的な成功は、合併症(外科手術の侵襲性、尿路感染症の割合を増大させる周辺組織の損傷)又は副作用(薬物、非分解性の生体材料による組織の損傷など)によって制限されることが多い。尿失禁を処置するための細胞療法アプローチの進歩は、患者自身の細胞を使用して根底にある病因を正すことについての有望な結果を示している。細胞ベースの治療法の最近の進歩は、SUIを有する患者において損傷した括約筋の機能を回復させるための様々な解決法を提供している。
【0005】
特許文献1は、マウスにおける筋力低下を処置するための筋芽細胞の使用を開示している。筋再生のための、より進歩したアプローチは、筋芽細胞を、外因性の増殖因子と共に又はそれを伴わずに、再構成された基底膜の3次元ゲルに組み込むことによるものである(非特許文献1)。これらのプロトコルにおいては、筋芽細胞の増殖及び分化を促進するための高濃度の様々な増殖因子を含有する、市販の、マウス肉腫細胞によって分泌されるゼラチンタンパク質混合物(Matrigel(登録商標))が使用された。
【0006】
特許文献2は、市販されている材料(生体適合性の糊、(ヒトフィブリノーゲン及びヒトトロンビンの)フィブリン糊、又は生体適合性のゲルを含む)の組み合わせを含む「再生糊」と、骨髄又は脂肪組織由来の間葉系幹細胞とを注射することによる、SUIを処置するための方法を開示している。この糊は、代替させる目的で、恥骨尿道靭帯が損傷した、不在の、又は傷ついた部位に注射された。
【0007】
特許文献3は、平滑筋機能障害を処置するための平滑筋前駆細胞の使用の可能性を開示している。
【0008】
テフロン(登録商標)、ウシコラーゲン、シリコーン粒子、及び炭素ビーズなどの注射可能な充填剤の使用によって、短期間の成功が得られている。しかし、これらの充填剤が慢性炎症、異物巨細胞の応答、尿道周囲膿瘍、尿道のびらん、尿閉をもたらす下部尿路の閉塞、並びに内部器官への移動及び肺塞栓症を生じさせ得ることが報告されている(非特許文献2)。
【0009】
MPCの移植は、遺伝的及び後天的な筋肉障害のための処置として研究されている。MPCは、衛星細胞として不活性なステージである休眠状態では、筋線維の周囲にある基底層の下に存在する。これらの細胞は、外傷又は損傷を受けると活性化し、そして、傷ついた区域に向かって移動し、増殖し、互いに融合して、最終的に筋線維に成熟する筋管を形成することによって、組織の再生に参加する。MPCの大部分は、筋原細胞系統に大きく関与しており、したがって、骨格筋のバイオエンジニアリングに最も適している。MPCは優れた成長能力を有しており、培養で容易に増殖する。筋管が形成された後、これらの細胞は有糸分裂後の状態となり、成熟線維に分化し始め、インビボでの制御されていない組織成長を阻害する。SUIの処置のための注射可能な培養されたMPCの使用の可能性は、齧歯動物モデル及びイヌモデルにおいて調査されており、括約筋の機能を回復させるための第1選択治療となる可能性を有している(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。しかし、これらの動物モデルは、ヒト患者において見られる状態を十分には反映していない。
【0010】
筋由来の幹細胞及び自己筋芽細胞の注射は、これまでのところ、ヒトにおける最も調査された治療選択である。しかし、過去にいくらかの試みが行われたにもかかわらず、尿道括約筋の再生療法はいまだ臨床に達しておらず、泌尿器科での日常的な診療を構成してはいない。
【0011】
ウシ胎児血清(FBS)に対する懸念に起因して、ウシ胎児血清の代替は、この治療法の臨床現場への移行を容易にするために必要である。これまでのところ、FBSは、標準的な培地添加物、並びに細胞培養及び組織工学のための増殖因子の源であった。前駆細胞をインビトロで培養増殖させる際のFBSの使用は、タンパク質及び高分子に起因する潜在的な危険性を有し得る。幹細胞中へのこれらの高分子の内在化は、ウイルス疾患/プリオン疾患を伝染させる可能性がある。さらに、高分子は、移植された細胞に対して抗原性基質として作用し、免疫反応を生じさせる。異種免疫化、病原体の伝染、及びFBS収集に伴う倫理的問題のリスクに起因して、臨床的細胞療法製品を製造するための適切なヒト代替物が至急に必要である。FBSは、したがって、安全性及び他の懸念に起因して、臨床適用には望ましくない。一部の調査研究において、アナフィラキシー及び他のアレルギー反応が、FBSを添加した細胞を移植された患者において認められている。
【0012】
治療アプローチにおいて適用されるあらゆる薬物として、細胞製品はまた、規制要件を満たす必要がある。これらの生産プロセスは、患者における安全な適用を可能にするために、適正製造基準(GMP)に従う必要がある。したがって、細胞培養培地からあらゆる動物由来添加物を除去することは、SUIに罹患している患者への筋幹細胞療法を臨床に移行させるための重要なステップであり、これによって、異種タンパク質への拒絶反応が回避される。細胞培養方法論におけるこの変更は、hMPCの主要な特徴、すなわち収縮筋組織を形成するその能力に影響することなく、行われるべきである。
【0013】
FBSに代わる考えられる代替物は、ヒト血清、ヒト血小板誘導体、同種の臍帯血血清を添加した培地、又は化学合成培地である。
【0014】
ヒト血小板溶解物(hPL)を含有する細胞培養培地又は成長培地は、それぞれ、間葉系間質細胞の臨床スケールの増殖のための、又は、治療適用のためにヒト間葉系幹細胞を増殖させるための、FBS含有培地の考えられる代替物として記載されている(非特許文献6、非特許文献7)。しかし、この血清の変化は、全ての細胞型が耐容性であるわけではないかもしれないし、一部の培養細胞の機能性に影響するかもしれない。以前の研究によって、hPLがヒト骨格筋細胞の培養におけるFBSの適切な代替物ではないこと、及び細胞を筋管に分化させないことが見出された(非特許文献8)。
【0015】
細胞の増殖は培地依存性であり、増殖因子を単に添加するだけでは、細胞の増殖の維持には不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第5,130,141号
【特許文献2】米国特許出願第2014/0227233A1
【特許文献3】WO2016/138289A1
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Barberoら、Growth factor supplemented matrigel improves ectopic skeletal muscle formation - a cell therapy approach、J Cell Physiol.2001年2月、186(2):183~92
【非特許文献2】Kiilholma P.ら、Complications of Teflon injections for stress urinary incontinence、Neurourol. Urodyn 12:131~137(1993)
【非特許文献3】Yokohamaら、Autologous Primary Muscle-Derived Cells Transfer into the Lower Urinary Tract、Tissue Engineering、2001、7(4)、395~404頁
【非特許文献4】Yiouら、Restoration of Functional Motor Units in a Rat Model of Sphincter Injury by Muscle Precursor Cell Autografts、Transplantation、2003、76(7):1053~60頁
【非特許文献5】Eberliら、A canine model of irreversible urethral sphincter insufficiency. BJU Int、2009、103(2):248~53頁
【非特許文献6】Schallmoserら、Human platelet lysate can replace fetal bovine serum for clinical-scale expansion of functional mesenchymal stromal cells. Transfusion 2007、47:1436~1446
【非特許文献7】Castegnaroら、Effect of Platelet Lysate on the Functional and Molecular Characteristics of Mesenchymal Stem Cells Isolated from Adipose Tissue. Curr Stem Cell Res Ther. 2011、6(2):105~14
【非特許文献8】Kramerら、Effect of serum replacement with plysate on cell growth and metabolism in primary cultures of human skeletal muscle. Cytotechnology 48、89、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明の目的は、hMPCの増殖をもたらし、移植後のインビボでの組織工学で得られた収縮筋の効率的な形成を可能にする、細胞培養培地中のFBSの代替物を提供することである。したがって、本発明の目的は、倫理的及び安全性の目的で、新規なゼノフリーの(又は動物成分を含まない)、したがって安全な、hMPCの培養及び増殖のための、すなわち、治療適用において使用するため、特にヒト女性患者におけるSUIの再生処置のためにhMPC集団を含む組成物を生産するための、GMPに準拠したプロトコルを開発することである。
【0019】
最後に、本発明は、骨格筋機能障害のための改善された処置方法を提供することを目的としている。
【0020】
ニューロモデュレーション及び運動トレーニングが、欠損した骨格筋の考えられる処置として提案されている。ヒトにおいて、四頭筋の周りに巻かれた磁気コイルは、努力が不要な筋肉の疲労及びトレーニングを誘発することが実証されている。磁気パルスが椅子のシートの内部に置かれたコイルに向かって集中する、骨盤底を運動させるための類似の装置が設計された(Chandiら、Functional extracorporeal magnetic stimulation as a treatment for female urinary incontinence:「the chair」. BJU Int、2004.93(4):539~42頁)。
【0021】
筋肉をピクピクと動かす、神経筋電磁刺激(NMES)が、骨格筋疾患のための治療法として提案されている。Blaganjeらは、2012年に、外尿道括約筋への超音波誘導性の自己筋芽細胞注射を行い、その前及び後に電気刺激を行うことによる、SUIの成功した処置を開示した。したがって、細胞及び刺激を使用する、ヒト女性患者におけるSUIの最適化された処置方法を提供することが、本発明のさらなる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
組織工学におけるヒト筋前駆細胞(hMPC)の利用は、収縮性筋肉を再生することによる緊張性尿失禁(SUI)の処置のための有望なアプローチである。この目的のために、このような治療適用において薬剤として使用するための組成物を生成するための方法が提案される。組成物は、骨格筋由来のhMPC(又は筋肉再生細胞)の集団を含み、この集団の生成もまた、本発明の方法として提供される。
【0023】
本発明は、第1の態様に従うと、したがって、少なくとも以下のステップを含む、骨格筋由来のヒト筋前駆細胞の自己集団を生成する方法に関する。
【0024】
まず、ヒト組織サンプルを、ヒト患者の骨格筋生検によって得る。好ましくは、骨格筋生検はヒト女性患者から得られるが、しかし、例えば前立腺切除後の考えられるSUIを処置するために、男性患者の骨格筋生検も有用であり得る。好ましくは、骨格筋生検は、ヒラメ筋、腹直筋、大腿四頭筋、外側広筋からなる群から選択される組織から採取される。
【0025】
ヒラメ筋(左脚又は右脚の)が、その組成が括約筋に類似していることから、及びアクセスが容易であることから、生検に選ばれる。代替として、例えば、外側広筋を使用することができる。外科的切除の後に生検の輸送が必要なケースでは、生検は、抗生物質及びPBSを含有する輸送媒体中で輸送することができる。
【0026】
洗浄及び消毒の後、筋生検は、残っている脂肪組織及び/又は腱組織及び/又は結合組織を外科的に取り除き、次いで、細かく刻み、好ましくはコラーゲナーゼ及びディスパーゼを含有する混合物によって消化する。好ましくは、I型コラーゲナーゼ0.2%(w/v)及びディスパーゼ0.4%(w/v)の混合物を使用する。酵素反応を、好ましくは細胞培養培地、すなわち、10%ヒト血小板溶解物(hPL)、好ましくは10%のプールされたヒト血小板溶解物(phPL)を含有する成長培地で、停止する。その後、個々の線維を厳密なピペッティングによって遊離させ、100μmの孔サイズを好ましくは有するストレーナーを通して濾過する。遠心分離の後、ペレットを、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(この継代0ステップでのみ添加する)を添加した成長培地中に再懸濁し、コラーゲン又はフィブロネクチン、好ましくはI型コラーゲン(好ましくは1mg/ml)などの細胞外マトリクスタンパク質でコーティングした35mmのディッシュ(6ウェル)に移す。
【0027】
消化した後、24時間後、接着していないhMPCを含有する上清を、混入している線維芽細胞の数を減らすために、I型コラーゲンコーティングしたディッシュに再び播種し、これによって、ヒト筋前駆細胞の集団を得る。これらのヒト筋前駆細胞を、コラーゲンコーティングしたディッシュに定着させたまま残し、次いで、少なくとも1回の継代、好ましくは少なくとも2回の継代にわたり、さらに好ましくは全部で3回又は4回の継代にわたり、成長培地中で増殖させる。
【0028】
好ましい細胞培養培地、すなわち成長培地は、ウシ胎児血清(FBS)を含まない。本発明の好ましい実施形態に従うと、成長培地は、以下に記載するように組成される。
【0029】
好ましくは、hMPCは、好ましくは濾過されている、hPL、好ましくはphPLを含む成長培地を使用して増殖させられる。好ましいタイプのphPLは、BG O(血小板)/AB(血漿)である。好ましくは、成長培地中のphPLの最終濃度は、5~20%、さらに好ましくは7~12%、最も好ましくは約10%(容積パーセント)である。
【0030】
ヒト筋前駆細胞の増殖に使用される、特に有利な成長培地は、抗凝固因子、好ましくはヘパリンをさらに含む。この目的では、例えば、ヘパリン-Na(ヘパリン-ナトリウム)(25000IU/5ml)を使用することができる。ヘパリンを、濾過されたphPLに好ましくは添加し、こうして混合物を形成し、その後、前記混合物を、成長培地1ml当たり1~10IU、さらに好ましくは2~6IU/ml、最も好ましくは約2IU/mlの好ましい最終濃度まで、成長培地の栄養溶液に添加する。代替として、凝固を予防する他の物質(例えばEDTA)を使用することができる。フィブリノーゲンが枯渇したphPLを使用するケースでは、活性な凝固因子がもはや存在しないため、抗凝固剤は添加してはならない。
【0031】
成長培地は、好ましくはさらに、それぞれhPL又はphPL、及び抗凝固因子の他に、以下の成分を含む:
- 栄養溶液、好ましくはダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、さらに好ましくは、1:1のDMEM/F12栄養ミックス(DMEM及びハムF-12の1:1ミックス)、
- 栄養溶液に好ましくは添加されて、2~20ng/ml、さらに好ましくは約10ng/mlの最終濃度となる、ヒト上皮増殖因子(hEGF)、
- 栄養溶液に好ましくは添加されて、0.5~2ng/ml、さらに好ましくは約1ng/mlの最終濃度となる、ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(hbFGF)、
- 栄養溶液に好ましくは添加されて、5~20μg/ml、さらに好ましくは約10μg/mlの最終濃度となる、インスリン、好ましくはヒトインスリン、
- 栄養溶液に好ましくは添加されて、0.2~0.8μg/ml、さらに好ましくは約0.4μg/mlの最終濃度となる、デキサメタゾン。
【0032】
最終濃度について示されるパーセンテージは、栄養溶液に対する容積パーセントで計算されるが、しかし、簡潔にする目的で、栄養溶液の総容積500ml当たりの最終容積を計算に使用し(それぞれ100mlの栄養溶液当たりのx容積)、最終細胞培養培地/成長培地組成物(これは、phPLを添加したために550mlをわずかに超える)は使用しなかった。さらに、ヘパリンの用量は、グラム数は同一ではないが、国際単位(IU)は同一である。1単位は、CaClを37℃で添加した後、1時間の期間にわたり、クエン酸塩を含む血漿1mlの凝固を防止する。
【0033】
本発明はさらに、上記の方法に従った方法で生成された骨格筋由来のヒト筋前駆細胞(hMPC)の集団に関する。好ましくは、骨格筋由来のhMPCの集団のタンパク質発現パターンは、好ましくは以下の通りである:Pax7(好ましくは少なくとも60%)、デスミン(好ましくは少なくとも60%)、MyHC(好ましくは約30~50%)、及びアルファ-アクチニン(好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも60%)。細胞は、好ましくは15%に満たないCD34を発現し、ネガティブコントロールとして機能する。フローサイトメトリー分析において典型的に使用されるように、パーセンテージは、蛍光性細胞の数の、計数に依存しない測定基準である、「陽性細胞のパーセント」、すなわち、問題となっているタンパク質を発現する細胞の総数の示されたパーセンテージである。
【0034】
本発明の骨格筋由来のhMPCの集団は、特に例えば緊張性尿失禁(SUI)などの骨格筋機能障害を処置するための、薬剤として使用することができる。
【0035】
さらに、本発明は、骨格筋機能障害を処置するためのhMPCの前記集団を生成/生産するための、FBSを含まない細胞培養培地又は成長培地の有利な組成物を提供する。本発明の成長培地は、好ましくは、上記の組成物を含む。
【0036】
好ましい実施形態に従うと、細胞成長培地は、しかし、唯一、継代0では、抗生物質を含有する、好ましくはペニシリン及びストレプトマイシンを含有する溶液を、好ましくは約1%の最終濃度(20℃で、ペニシリン/ストレプトマイシン:10mMのクエン酸バッファー(pHの安定性のため)中に10000単位/mlのペニシリン及び10000μg/mlのストレプトマイシン)でさらに含む。
【0037】
上記のような、本発明に従った細胞成長培地は、好ましくは、以下のステップを行うことによって調製される:
- 栄養溶液、好ましくはDMEM溶液、さらに好ましくはDMEM/F12の1:1栄養ミックスを用意するステップ、
- 好ましくは栄養溶液中で約10ng/mlの最終濃度に達するように、hEGFを添加するステップ、
- 好ましくは約1ng/mlの最終濃度に達するように、hbFGFを添加するステップ、
- 好ましくは約10μg/mlの最終濃度に達するように、インスリン、好ましくはヒトインスリンを添加するステップ、
- ヘパリン、好ましくはヘパリン-Naを、濾過されたphPLに好ましくは添加することによって、濾過されたヒト血小板溶解物と、抗凝固因子、好ましくはヘパリン、さらに好ましくはヘパリン-Naとの混合物を調製し、混合物を(DMEM)栄養溶液に添加する前に、混合物が、5~20%のphPL最終濃度、好ましくは7~12%のphPL最終濃度、さらに好ましくは約10%のphPL最終濃度に好ましくは達するようにし、好ましくは、ヘパリンは、1~10IU/ml、さらに好ましくは2~6IU/ml、最も好ましくは2IU/mlのヘパリン最終濃度に達し、その後、phPLとヘパリンとの混合物を栄養溶液に添加するステップ、
- 好ましくは0.2~0.8μg/ml、さらに好ましくは約0.4μg/mlの最終濃度に達するように、デキサメタゾンを添加するステップ。
【0038】
本発明はさらに、担体マトリクスとしてのコラーゲン溶液中に懸濁された骨格筋由来のhMPCの集団を含む組成物を提供する。前記組成物は、骨格筋機能障害の処置における使用に適している。
【0039】
本発明はさらに、骨格筋由来のhMPCの集団を含むこのような組成物を生産するための方法を提供し、ここで、hMPCの集団は、上記の方法に従って好ましくは調製される。骨格筋機能障害の処置において使用することができる組成物の生産では、ヒト筋前駆細胞の集団は、好ましくは0.5~4mg/ml、さらに好ましくは1~2mg/mlの、好ましくは低パーセンテージのコラーゲン溶液中に、好ましくは、コラーゲン溶液1ml当たり1000万~4000万個細胞、好ましくはコラーゲン溶液1ml当たり2000万~3000万個細胞の濃度で、懸濁される。有利には、コラーゲン溶液は、好ましくはブタ、ウシ、又はヒト由来のI型コラーゲンを好ましくは含有する。
【0040】
各患者に注射するための目標細胞数は、好ましくは、全部で6000万~1億個細胞の範囲である。注射の前に、質及び純度の分析が行われる。
【0041】
好ましい最低でも8000万個のhMPCを、少なくとも80%の生存能力で、2000万個細胞/mlの最終濃度で送達するために、培養された細胞(8000万個)は、4mlのコラーゲン溶液中に懸濁される。最終生成物は、温度測定装置によって制御されている5℃(+/-3℃)の箱の中の10mlのシリンジに好ましくは移される。外科手術室では、最終生成物は、好ましくは、注射の前に穏やかに混合される。
【0042】
上記の組成物を患者、好ましくはヒト患者、好ましくは女性患者に、さらに好ましくは筋生検を採取した同一のヒト女性患者に注射することによって、患者において骨格筋組織を再生させることができる。言い換えると、本発明に従ったhMPCの集団は、ヒト患者における骨格筋機能障害を処置するための薬剤の製造において使用することができる。
【0043】
本発明のさらなる目的は、上記のような本発明に従った組成物を使用する、骨格筋機能障害、特に外尿道括約筋の欠陥を処置する方法、及び/又はヒト患者において骨格筋組織を再生する方法である。前記処置方法は、少なくとも以下のステップを含む:
- 上記の方法に従って好ましくは調製された、コラーゲン溶液中に懸濁した骨格筋由来のヒト筋前駆細胞の集団を含む組成物を用意するステップ、
- 組成物を、ヒト患者、好ましくはヒト女性患者の泌尿器括約筋に、好ましくは超音波誘導下で注射するステップ、
- 組成物を注射した後、ヒト患者の骨盤底が神経筋電磁刺激(NMES)に好ましくはかけられるステップ。
【0044】
したがって、上記の処置方法は、外尿道括約筋の欠陥によってとりわけ生じ得る緊張性尿失禁を処置するために使用することができる。
【0045】
ヒト患者、好ましくはヒト女性患者の骨盤底への、標準化された注射を可能とするために、細胞は超音波誘導下で注射される。好ましくは、8~12個のアリコートが骨盤底に注射され、この場合、好ましくは、総量は4mlを超えない。
【0046】
細胞懸濁液を注射した後のNMES処置は、筋肉-神経のクロストークを活性化することによって筋肉及び神経の再生をサポートし、神経筋接合部の成熟を誘発する。そのシートに大きな電磁コイルを含有する椅子(専用の磁気椅子「BioCon-2000」など)によって骨盤底に適用され得る、この非侵襲性の処置は、機能的な筋組織の持続的な形成をサポートし得る。
【0047】
骨盤底電磁刺激は、制御された筋再生、隣接する神経の脱分極、及び筋肉の収縮を誘発する。パルス磁場の生理学的刺激は、高度に収束した磁場、及び磁場の進展縁での非常に急な勾配の変化を可能にする、一部の空間設計特徴に依存する。これらの特徴は、頻度及び強度を容易に調節可能な、迅速にパルスする磁場を生じさせる。臨床的効果のためには、患者の衣服を脱がせることに利点はない。最大アウトプットでの誘導電界の強度は、刺激コイルの表面で120V/mであり、これは、刺激コイルからの距離で指数関数的に低下する。刺激コイルの5cm上では、磁場は22V/mである。
【0048】
磁場がパルスするにつれて、磁束は、パルスを含む磁場を生じさせることによって、組織を流れる小さな渦電流を誘導する。これらの電流は神経軸索の脱分極を誘発し、近位方向及び遠位方向の両方に伝わる伝搬性の神経インパルスが生じる。これが末端運動神経の軸索である場合、伝搬性のインパルスは運動神経終板に伝わり、そしてアセチルコリンの強制的放出を生じさせ、そして対応する筋線維の脱分極及びこれらの筋線維の収縮が生じる。磁束が調節されるため、筋線維の収縮速度を、通常の生理学的範囲内で調整することができる。筋線維の収縮速度を、50Hz程度で、最大生理的速度にすることが可能である。
【0049】
この体外の磁気処置の臨床的有効性は、骨盤筋の活性を変化させることであり、末端運動神経線維が繰り返し活性化されると、運動神経終板は、筋力及び持久力の観点で強化される傾向がある。
【0050】
電磁刺激は、外傷後の炎症性浸潤及び瘢痕の形成の存在を著しく最小にすることによって、筋再生を改善する。このことは、外傷後の筋萎縮を回避し、筋肉の肥大を誘発し、筋肉の代謝及びターンオーバーを増大させ、筋肉マーカーの発現を3倍にし、並びに外傷後の筋肉機能の回復を大きく向上させる。
【0051】
SUIの提案される処置は、NMESと組み合わせた自己hMPCの移植に基づく治療戦略である。将来的な構想される最適化された方法において、SUIを処置するための細胞ベースの医薬品の成分としてのhMPCの集団を生産するための、バイオリアクターの使用は、生産コストを低下させ、このことによって、広範囲の罹患した個体が利用しやすい治療法が得られる。
【0052】
さらなる開発は、動物成分を省くためのGMPに準拠した方法に従って生産されたヒトコラーゲン製剤の使用による、本発明のプロセスの最適化を含む。さらに、括約筋における本発明の組成物の送達は、将来的に、精度の観点で最適化される。
【0053】
本発明のさらなる実施形態は、従属請求項に定められている。
【0054】
本発明の好ましい実施形態は、図面を参照して以下に記載されており、図面は、本発明の好ましい実施形態を説明する目的のためのものであり、本発明の好ましい実施形態を限定する目的のためのものではない。図面においては、以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】培養中のhMPCの分化を略図で示す図である。
図2】異なる成長培地における、培養されているhMPCの形態学の比較を示す図である。
図3】異なる成長培地における、培養されているhMPCの成長能力の比較を示す図である。
図4】異なる成長培地における、培養されているhMPCのフローサイトメトリー分析の比較を示す図である。
図5a】筋原性の特徴付けのための、2つの異なる条件で培養されたhMPCの比較を示す図であり、図5aでは継代1のhMPCのフローサイトメトリー分析が示されている。
図5b】筋原性の特徴付けのための、2つの異なる条件で培養されたhMPCの比較を示す図であり、図5bでは継代2のhMPCのフローサイトメトリー分析が示されている。
図5c】筋原性の特徴付けのための、2つの異なる条件で培養されたhMPCの比較を示す図であり、図5cでは継代3の、hMPCのフローサイトメトリー分析が示されている。
図6】FBS又は10%phPLのいずれかを含有する分化培地において培養されたhMPCの線維形成アッセイを示す図である。
図7】FBSを含有する分化培地において培養されたhMPCと10%phPLを含有する分化培地において培養されたhMPCとを比較する線維形成分析を示す図である。
図8】FBS(図8a)又は10%phPL(図8b)のいずれかを含有する分化培地で培養されたhMPCを皮下注射することで生成された組織工学で得られた筋肉における線維形成を示す図である。
図9】2つのレベルの刺激で行った器官槽分析を示す図である。
図10】ヌードマウスにおいてhMPCを皮下注射した後の、H&E染色による、組織工学で得られた骨格筋における線維形成の特徴付けを示す図である。
図11】MRIによる、移植されたhMPCの追跡を示す図である。
図12】T2MRIによる移植されたhMPCの追跡についてのシグナル減衰曲線を示す図である(MRI画像は示されていない)。
図13A】イヌモデルにおける括約筋機能の機能的評価を示す図であり、図13Aでは、代表的な尿道プロファイルが示されている。
図13B】イヌモデルにおける括約筋機能の機能的評価を示す図であり、図13Bでは、経時的な括約筋圧を示すグラフが示されている。
図14】6カ月目のイヌ括約筋区域のレントゲン写真を示す図であり、Aでは正常な動物括約筋の、Bでは損傷した括約筋の、CではMPCで処置した損傷した括約筋の、画像が示されている。
図15】細胞培養物の生検ステップから処置ステップまでのシーケンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
図15において、本発明に寄与するステップの概要が示されている。まず、骨格筋生検を、骨格筋機能障害を処置される患者から採取する。次に、生検を処理し、自己hMPCを単離し、本発明の細胞成長培地を使用して細胞培養で増殖させる。回収した後、hMPCを、薬剤として使用するための組成物の調製に使用し、薬剤を次いで患者に注射し、その後、NMESを行う(図面には描かれていない)。
【実施例0057】
hMPCの増殖及び組織工学で得られた収縮筋の効率的な形成をもたらす、ウシ胎児血清(FBS)の代替物を同定する目的で、hMPCの培養/成長培地中のFBSを、ヒト血清(HS)又はプールされたヒト血小板溶解物(phPL)で代替した。
【0058】
腹直筋由来のヒト生検を、腹部手術の間に収集した。全てのサンプルを、確立されたプロトコルに従って、又はこの方法に変更を加えることによって、処理した(Eberliら、Optimization of human skeletal muscle precursor cell culture and myofiber formation in vitro、Methods 47、98、2009)。簡潔に述べると、各サンプルを細かく刻み、0.2%I型コラーゲナーゼ(Worthington Biochemical)及び0.4%ディスパーゼ(Gibco)に富むDMEM/F12(Gibco、Invitrogen)中で1時間(37℃、5%CO)消化した。消化は、FBS(FBS-GM)、HS(HS-GM)、又はphPL(phPL-GM)のいずれかを添加した成長培地で停止させた。
【0059】
遠心分離した後、サンプルをそれぞれの成長培地中で再懸濁し、コラーゲンコーティングした6ウェルディッシュに播種した。速く接着する線維芽細胞の数を減らすために、hMPCを含有する懸濁液を、24時間後に、コラーゲンコーティングした新たな6ウェルディッシュに再び播種した。hMPCを、37℃で、5%CO中で、FBS、HS、又はphPLのいずれかを添加した成長培地で増殖させた。実験目的のために、5%、10%、及び20%のphPL濃度を試験した。
【0060】
以下の成長培地組成を使用した:18%FBS(Gibco、Invitrogen)、10%HS(Invitrogen)、又は5/10/20%phPLのいずれかを添加したDMEM/F12(Gibco、Invitrogen)(Schallmoserら、2007におけるプロトコルに従う、Universitatsinstitut fur Transfusionsmedizin、Salzburger Landeskliniken und Paracelsus Medizinische Privatuniversitat、Salzburg、Austriaから得られる)。さらなる添加物は、全ての成長培地バリエーションで類似していた:1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco、Invitrogen)(継代0でのみ)、10μg/mlのヒト上皮増殖因子(hEGF)(Sigma)、1μg/mlのヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(hbFGF)(Sigma)、10μg/mlのヒトインスリン(Sigma)、及び0.4μg/mlのデキサメタゾン(0.5μM、Sigma)。
【0061】
全ての実験は、継代1から3までの各サンプルにつき、3回ずつ行った。
【0062】
増殖期の後、細胞をヌードマウスに皮下移植し、4週間後、形成された組織を回収した。hMPCを、同一性、純度、及び機能についてのいくつかの基準を適用して、異なる時点で特徴付けした。インビトロ分析を、成長分析、フローサイトメトリー分析、免疫蛍光染色、及び線維形成アッセイによって行った。インビボでの試験は、免疫組織化学、ウェスタンブロット、及びミオグラフィーによって行った。インビトロでの試験では、実験は、患者の少なくとも4つの生検で、3回ずつ行った。
【0063】
HSは軟骨細胞、間葉系幹細胞、角膜上皮細胞、及び歯髄幹細胞などの他の細胞型とうまく利用できるため、これを、hMPCを培養するためのFBSの代替物として選択した。しかし、HSを添加した成長培地はhMPCの増殖を維持することができず、細胞は、2週間後でも、また4人の異なる患者に由来する生検の細胞培養物においても、培養ディッシュに接着しなかった(データは示していない)。推測とは異なり、20%以上の、より高いHS濃度でも、有望な結果は得られなかった。
【0064】
成長している細胞の形態学的構造は、初期の継代及び後期の継代(1及び3)で、FBSを添加した成長培地(FBS-GM)で成長した細胞及びphPLを添加した成長培地(phPL-GM)で成長した細胞の間で類似していたが、ゼノフリー培地ではあまりコンフルエントではなかった(図2)。異なる濃度のphPLの間では、全ての継代において、違いは見られなかった。
【0065】
生検後の初代培養の後の、異なる成長培地で培養されたhMPCの成長能力の分析のために、hMPCを、各継代で5000個細胞/cmで播種し、90~95%のコンフルエンシーまで培養し、計数した。FBS-GM又はphPL-GMのいずれかにおけるhMPCの増殖は効率的であり、同一の成長能力が、最初の3回の継代の間に観察された(図3)。しかし、10%phPL及び20%phPLを含有する成長培地での条件が、hMPCがインビトロで増殖するための最良の条件をもたらすと考えられ、継代3の最後に、より多くの細胞をもたらす。10%phPL-GMで培養された細胞は、5%phPL-GM及び20%phPL-GMを添加した成長培地で培養された細胞よりも、小さいディッシュにおいてより良く成長した。さらに、継代3の後、20%phPL-GMにおいて培養されたhMPCは成長しており、増殖の停止が見られた。10%phPL-GMは、FBSを使用した標準的な成長培地よりもはるかにhMPCの増殖を促進すると思われた。
【0066】
明らかに、培地の組成及び調節は細胞特異的であり、細胞増殖の成功及び筋分化に重要であり、Kramerら(2005)がFBSをphPLで最適に代替することができなかった理由を説明する。hEGF、bFGF、及びインスリンなどの増殖因子の添加がないこと、並びに、上述したように最適濃度ではない20%のphPL濃度を使用したことが理由であると思われる。
【0067】
hMPCを、80~90%のコンフルエンスとなるまで培養し、その後、フローサイトメトリー分析を行った。
【0068】
hMPCの筋原性プロファイルに対するphPLの効果を、免疫蛍光及びフローサイトメトリー分析によって研究した。phPLは、hMPCの筋原性の細胞マーカー及び表現型並びにインビボで良く発現する分化能力を維持する。
【0069】
異なる条件(FBS又はphPL)で培養されたhMPCのフローサイトメトリー分析は、継代3(n=4の生検)で、筋特異的なマーカーの発現を示した。10%phPLの培養条件は、標準的な条件(FBS-GM)よりもはるかにhMPC増殖を促進すると考えられる。しかし、ゼノフリー条件間の差も、phPL-GMとFBS-GMとの間の差も、有意ではなかった。成長している細胞集団において、筋分化マーカーであるアルファ-アクチニン、デスミン、MyHC(ミオシン重鎖)、MyoD、及びPax7は、それぞれ、アルファ-アクチニンでは約80%、デスミンでは約78%、MyHCでは約40%、MyoDでは約35%、及びPax7では約65%で発現した(図4)。10%phPL条件が、さらなる研究及びFBS-GM条件との比較に選択された。
【0070】
骨格筋マーカーの発現は、MyHCを除いて、全ての継代にわたりFBS条件及びphPL条件の間で同等であった(図5a~c)。MyHCは、継代1においてphPL代替物が2倍高く、継代2においては2.5倍高かったが、継代3においては差はなかった。両条件は理想的な設定に相当し、hMPCの増殖に好都合であった(線維芽細胞よりも)。CD34の検出は低いまま留まり、全ての継代にわたり安定であった。注目すべきは、FBS-GM及びphPL-GMの両方において、継代1から3まででMPCによって発現される筋マーカーのパーセンテージがわずかに低下したことである。このことは、両環境において、細胞の融合又は筋管の形成を防止しなかった(図6)。骨格細胞の分化が引き起こされると、hMPCの線維形成はギムザ染色によって観察することができた。しかし、線維の計数は、筋様構造の構築における、FBS-GM又はphPL-GMにおいて成長したhMPCの異なる能力を説明した。FBS-GMにおいて2週間培養されたhMPCが、phPLで増殖したhMPC(7.56線維/スライド(±1.9))よりも容易に融合し、線維を形成した(11.4線維/スライド(±2.4))ことが分かる(図7)。両細胞培養条件における骨格筋マーカーの発現を、免疫細胞蛍光法によって確認した(示されていない)。FBS-GM又は10%phPL-GMでインビトロで培養されたhMPCの継代3の培養されたhMPCの染色は、特異的な骨格筋マーカーであるアルファ-アクチニン、デスミン、MyHC、及びMyoDの発現を示した。線維形成アッセイに使用した成長培地、すなわち分化培地は、増殖因子(EGF、FGFなど)を含有していなかった。
【0071】
インビトロでの実験の後、FBS-GM及び10%phPL-GMにおいて培養されたhMPCを、ヌードマウスの背中に皮下注射した。4週間後、動物を屠殺し、工学で得られた筋組織を抽出した。工学で得られた組織は、全条件の移植区域において見ることができた。さらに、H&E染色は、工学で得られた筋組織における筋様構造を実証した(図8a、b)。40倍の倍率で、筋管構造での筋形成が詳細になり、強調されている。注射の4週間後にサンプルに対して行われたウェスタンブロットによって、両培養条件において、筋特異的マーカーであるアルファ-アクチニン、デスミン、MyHC、及びMyoDの発現が確認された(示されていない)。免疫組織化学分析によって、インビボでのサンプルの筋肉の特徴付けが確認された。移植されたhMPCを、注射の前に、PKH67で標識した。両条件の工学で得られた組織は、この標識で検出された。筋特異的マーカーであるアルファ-アクチニン、デスミン、MyHC、及びPax7は、FBS-GMにおいて培養されたhMPCと10%phPL-GMにおいて培養されたhMPCとの両方に由来する、工学で得られた組織において発現した(示されていない)。最後に、これらの組織工学で得られた回収物は、40V/40Hz及び80V/80Hzで刺激すると収縮した(図9)。phPL-GM条件は標準的条件と比較して良好な収縮性をもたらすと考えられたが、観察された違いは、統計的に有意ではなかった。
【0072】
要約すると、hMPCは、FBSベースの成長培地、及び全ての試験濃度のphPL(5~20%)を添加した成長培地において増殖することができた。phPLは、融合及び組織工学で得られた収縮筋の形成が可能なhMPCのインビボでの増殖を、FBSに類似の様式で維持することが示されている。したがって、phPLは、細胞培養におけるFBSのための基質として使用することができ、hMPCの増殖する特徴及び筋原細胞表面マーカーの発現を保存する。FBSで増殖したhMPCとphPLで増殖したhMPCとの間のわずかな差が同定されているが、インビボで筋管を形成するための細胞の分化能力は一定のままである。この所見は、SUIに罹患している患者を処置するための、筋生検から単離されたhMPCでの細胞療法の臨床適用を促進し得る。
【実施例0073】
生検:
患者が除外基準のいずれも満たさず、また全ての組み入れ基準を満たした限りにおいて、生検は、全身又は脊椎の麻酔下で採取した。生検は、左脚又は右脚のヒラメ筋(括約筋に組成が非常に類似している骨格筋)から採取した。この目的のために、下肢の背側の膝窩の数センチメートル下での切開(およそ2~4cm)を行った。ヒラメ筋を次いで同定し、筋肉の破片(約1cm)を外科的に取り出した。無菌の筋肉生検を、回収した直後に、輸送培地(1%ペニシリン/ストレプトマイシンを有するPBS)を含有する閉じた50mlの試験管に移し、24時間以内、好ましくは6時間以内に、さらに好ましくは生検の直後に、GMP実験室において処理した。筋膜、皮下組織、及び皮膚を通常の方式で縫合した。創傷の管理及び皮膚縫合糸の除去を、生検の1週間後に行った。
【0074】
hMPC集団及び細胞培養物の調製:
実験室において、脂肪組織及び腱組織を層流下で外科的に取り出し、その後、PBS中ですすぎ、殺菌剤及びPBSを含有する1:1溶液中で殺菌した。残っている組織を、はさみ及び鉗子を使用して、約1×1mmの小さい組織片に切断し、次いで、0.2%コラーゲナーゼ及び0.4%ディスパーゼからなる5mlの溶液中に置き、そして、少なくとも1時間、37℃で、酵素消化のためにインキュベートした。インキュベーションの後、組織片を25mlのピペットで吸引し、50mlの試験管内に置き、この試験管内で、組織片を以下に列挙する成長培地で洗浄して、酵素反応をブロックした。その後、サンプルを5分間、1500rpmで遠心分離し、その後、上清を除去した。以下に列挙するレシピに従って組成された15mlの成長培地を細胞ペレットに添加し、混合物を上下に少なくとも10回ピペッティングすることによってホモジナイズした。次いで、孔サイズが100μmのセルストレーナーを試験管上に置き、サンプルを濾過した。
【0075】
その間に、6ウェルディッシュをコラーゲン溶液でプレコーティングした。1時間後に、コラーゲン溶液を吸引し、ウェルをPBSで3回洗浄して、酸性環境を除去した。
【0076】
コラーゲンコーティングしたウェルからPBSを除去した後、成長培地中に懸濁した細胞を、コラーゲンコーティングした6ウェルディッシュの最初の2つのウェルに分けた。2つの他のウェルにはPBSを満たし、このPBSは、その後のステップで細胞を添加する前に除去した。
【0077】
単線維の存在を位相差顕微鏡によって確認し、全てのディッシュを、一晩、37℃で、及び5%COを含有する加湿雰囲気下でインキュベートした。
【0078】
hMPCの純度を増大させるために、細胞を線維芽細胞低減ステップにかけた:線維芽細胞はプレートに最初に接着する傾向があるため、接着していないhMPCを含有する上清を、20~28時間後に、PBSを除去した後の同一プレート上の次のI型コラーゲンコーティングしたウェルに移した。成長培地を4日目及び7日目に交換した。hMPCがまだ接着性ではなかった場合には、培地は4日目には交換しなかった。その代わり、いくらかの新鮮な成長培地を最上部に慎重に添加した。培地の交換では、古い培地のおよそ80%を慎重に除去し、新鮮な培地をゆっくりと添加した。初代培養された細胞は、6ウェルプレートに播種した後8~10日間以内に80%のコンフルエンシーに達した。最終濃度に関して3000~7000個細胞/cm、最適には約5000個細胞/cmとなるように分けた。6ウェルプレートから大きな培養プレートに移した後、抗生物質を全く添加していない成長培地を使用した。
【0079】
細胞の形態学、細胞数、及び線維形成を、全ての継代で評価した。
【0080】
以下のプロトコルを、hMPCの増殖のためのhMPC成長培地の生産に使用した。
【0081】
以下の材料を使用した:
- 4℃で保管した、DMEM/F12栄養ミックス(1:1、Gibco)の500mlのボトル、
- 500μlのhbFGF(Sigma、-80℃で500μl中に500ng)(最終濃度1ng/ml)、
- 1mlのhEGF(-80℃で5μg/ml)(最終濃度10ng/ml)、
- 500μlのヒトインスリン(Sigma、-20℃で500μl中に5mg)(最終濃度10μg/ml)、
- 1.2mlのデキサメタゾン(Sigma、-20℃で1.2ml中に200μg)(最終濃度0.4μg/ml)、
- 50mlの濾過されたヒト血小板溶解物(hPL)(BG 0(血小板)/AB(血漿))(最終濃度10%)、
- DMEMに添加される前に、濾過されたhPLに添加される、600μlのヘパリン-Na(Braun、3511014)(25000IU/5ml)(成長培地1ml当たり6IUのヘパリン-Na最終濃度)、
- 継代0に使用する培地のためだけのペニシリン/ストレプトマイシン(-20℃で6mlの10000単位/mlのペニシリン及び10000μg/mlのストレプトマイシン)(最終濃度1%)。
【0082】
これによって、hMPCの増殖及び分化のためにコラーゲンコーティングしたディッシュ及び規定培地のみを使用する培養技術が確立された。細胞の特徴付けによって、hMPCの表現型がこれらの条件下で維持され得ること、並びに細胞がインビトロ及びインビボで筋線維を形成する能力を有することが実証された。組織工学利用のための十分な数の細胞を、この方法を使用して3~4週間成長させることができる。
【0083】
細胞組成物の調製:
注射の前に、細胞のサンプルをフローサイトメトリーによって分析し、生存能力試験を行って、質及び純度を調べる。最少で8000万個のmMPCを少なくとも80%の生存能力で、すなわち、約6400万個の生存細胞を、最終濃度2000万個細胞/mlで送達するために、培養された細胞(約8000万個)を、4mlの低パーセンテージコラーゲン溶液、すなわち3~4mg/ml中に懸濁して、最終生成物中で約2mg/mlのコラーゲン最終濃度とする。担体マトリクスには、低濃度のコラーゲンのみが必要である。これを、より高いコラーゲン濃度を使用する以前の研究と比較すると、以前の研究は、良好な短期の結果をもたらすにすぎない。
【0084】
コラーゲン溶液の調製に関しては、コラーゲンを0.01MのHCl中で混合した。次いで、MEMを、pH指示薬として、溶液が黄色に変化するまで添加した。次いで、NaHCOを、溶液がピンク色に変化するまで、すなわちpH6~8の生理学的pH値に達するまで、滴下で添加した。コラーゲン溶液を次いで、最終細胞ペレット(継代2の後に回収された)に移し、上下にピペッティングすることによってホモジナイズし、50mlの試験管に移し、そして冷却装置内で冷却した。
【0085】
コラーゲン溶液中の完成したhMPC組成物の最適最長保存期間は、限定されている。最終組成物の安定性は、2~8℃で最大24時間である。したがって、完成した組成物は、少なくとも80%の細胞生存能力を維持するためには、可能な限りすぐに、好ましくは調製後4時間以内、遅くとも24時間以内に投与されるべきである。
【0086】
10mlのシリンジ中の最終生成物を、温度測定装置によって制御された5℃(+/-3℃)の箱に入れて、研究場所に移す。外科手術室において、最終生成物は、注射の前に、穏やかに混合される。
【0087】
hMPC組成物の注射:
hMPCでのSUIの処置は、SUI歴がある、低リスクの成人女性患者(具体的な除外基準に従う)の損傷した括約筋に限定されている。
【0088】
女性患者の骨盤底への標準化された注射を可能にするために、細胞は超音波誘導下で注射される。
【0089】
超音波プローブは経膣的に置かれ、試験管及び一方向シリンジを含むガイダンスツールが尿道内に置かれる。hMPC-コラーゲン組成物の8~12個のアリコートを、組成物の総量が4mlを超えないようにして、骨盤底に注射する。
【0090】
注射するための細胞サンプルを、線維の形成及び筋原性のマーカーの発現におけるそれらの能力をチェックするための線維形成アッセイ及びフローサイトメトリーアッセイのために培養することができる。
【0091】
比較の目的で、異なる注射選択肢(経尿道及び経膣)、並びにシール法で固定されたヒト死体の泌尿器括約筋への流体ポリマー化合物(塗布後に固まる液体ポリマー)の経膣超音波(BK 8848、BK Medical、Denmark)誘導注射を評価した。括約筋を次いで、MRI及びホールマウント切片の組織学によって分析した。両方法は、横紋筋性括約筋をヒットすることにおいて、良好且つ同等の正確性を示した。
【0092】
しかし、経尿道アプローチが、取り扱い性及びより短い学習曲線に主に起因する簡易性の意味で優れていると思われる。
【0093】
電磁刺激:
骨盤底運動のための理学療法を、電磁椅子刺激(BioCon-2000)によって行った。最大アウトプットでの誘導された電界の強さは、刺激コイルの表面で120V/mであった。刺激コイルの5cm上で、電界の測定値は22V/mであった。
【0094】
動物モデルにおける筋肉の分化及び機能の分析:
骨格筋再生に対するMPCの効果を研究するために、いくつかの動物モデルを使用した:マウス(異所性の筋形成のための皮下細胞注射(図10)、並びに四頭筋及び後脚脛骨筋の圧挫損傷モデル(示されていない));ラット(膀胱出口部閉塞モデル);イヌ(外括約筋の顕微外科切開による尿道括約筋不全のモデル)(図13及び14)。
【0095】
ヌードマウスにおいてhMPCを注射した後の、組織工学で得られた骨格筋における線維形成を特徴付けするために、培養された一次hMPCをヌードマウスに皮下注射した。注射の3日後、7日後、14日後、及び28日後、形成された組織を回収し、H&E染色によって分析した。図10に示すように、注射されたhMPCによる線維形成能力の増大が4週間以内に観察され、組織学的に成熟した筋組織が14日目に観察された。免疫組織蛍光染色によって、骨格筋マーカーであるアルファ-アクチニン、MyHC、及びデスミンの発現を確認した(示されていない)。
【0096】
MRIによる細胞分化の非侵襲的な可視化の例として、hMPCをMRIによって追跡し、成長中の筋組織をT2MRIによって追跡した(図11及び12)。図11は、MRIによる、移植されたMPCの追跡を示す。標識されていないMPC(コントロール)及び400μg/mlの超常磁性酸化鉄(SPIO)で標識されたMPCを、ヌードマウスの背中に皮下注射した。マウスを、MRIによって、注射の4日後、1週間後、2週間後、及び4週間後にスキャンした。目的の区域のT2強調MRI画像が示されている。注射された細胞には、矢印で印がつけられている。図12において、全ての測定時点についてのT2シグナル減衰曲線が示されている。筋前駆細胞の、骨格筋線維への成熟が観察され、これは、弛緩パラメータ及び拡散パラメータの減少(MRIによって測定される)と相関している。重要なことに、分化の間、弛緩パラメータ及び拡散パラメータは減少して、成熟骨格筋組織の値に近づき、このことは、MRIによる弛緩及び拡散の測定値が筋肉の分化及び機能のインビボモニタリングのための適切なバイオマーカーを提供することを示唆する。
【0097】
図13は、イヌモデルにおける括約筋機能の機能的評価を示す。イヌの筋前駆細胞は、成功裏に且つ再現可能に単離され、成長し、そして増殖した。Aにおいて、代表的な尿道プロファイルは、細胞処置の後の括約筋区域における括約筋圧の増大を示す。Nは正常なコントロールを示し、D6は6カ月目の「損傷のみ」のコントロールを示し、そして、M6は、6カ月目の、MPCで処置された動物を示す。Bにおいて、グラフは、経時的な括約筋圧を示す。細胞を注射された動物は、その括約筋機能の著しい機能回復を示し、括約筋圧は正常のおよそ80%であったが、コントロール動物(「損傷のみ」)における圧力は低下し、20%のままであった(p<0.025)。組織学的に、移植された細胞は生存し、括約筋の注射領域内で組織を形成し、新たな神経支配された筋線維を形成した(Eberli,D.ら、Muscle Precursor Cells for the Restoration of Irreversibly Damaged Sphincter Function. Cell Transplant、2012も参照されたい)。
【0098】
図14において、6カ月目のイヌ括約筋区域のレントゲン写真が示されている。MPC注射で処置された動物は、正常な解剖学的括約筋構造(Cにおける矢印)及び膀胱頚領域を取り戻すことができたが、その一方で、処置されていない動物は括約筋区域の拡大を示し(Bにおける矢印)、このことは、解剖学的な完全性が喪失していることを示す。Aは、正常な、損傷していない括約筋の代表を示し、Bは損傷した括約筋を示し、Cは、MPCで処置された損傷した括約筋を示す。
【0099】
イヌにおける結果は、自己MPCが、これを使用しなければ不可逆的に損傷した括約筋の機能を、回復させ得ることを示した。注射された細胞は生存することができ、損傷した括約筋機能内で成熟組織を形成することができた。この大きな動物研究によって、括約筋不全の患者における泌尿器括約筋の機能的回復のために自己筋前駆細胞を使用することの実現可能性が実証された。
【0100】
ヒトにおける筋細胞療法におけるMPCの成功裏の適用のために、分化プロセスの、非侵襲性のインビボモニタリングツールが非常に重要である。MRIによる弛緩及び拡散の測定値は、筋前駆体の分化のインビボモニタリングのための適切なバイオマーカーを提供する。

図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図5c
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
【手続補正書】
【提出日】2024-01-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下のステップ:
- ヒト患者の骨格筋生検によってヒト組織サンプルを得るステップ、
- ヒト組織サンプルから脂肪組織及び/又は腱組織及び/又は結合組織を外科的に取り
除くステップ、
- ヒト組織サンプルを細かく刻み、酵素消化するステップ、
- 線維芽細胞の数を減らし、これによってヒト筋前駆細胞の集団を得るステップ、
- ヒト筋前駆細胞を、コラーゲンコーティングしたディッシュに定着させるステップ、
- 少なくとも1回の継代のために、ヒト筋前駆細胞を細胞成長培地中で増殖させるステ
ップ
を含む、骨格筋由来のヒト筋前駆細胞の集団を生成する方法。
【外国語明細書】