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特開2024-28933ブドウ球菌(Staphylococcus)属細菌の栄養要求株
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  • 特開-ブドウ球菌(Staphylococcus)属細菌の栄養要求株 図1
  • 特開-ブドウ球菌(Staphylococcus)属細菌の栄養要求株 図2A
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  • 特開-ブドウ球菌(Staphylococcus)属細菌の栄養要求株 図3
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  • 特開-ブドウ球菌(Staphylococcus)属細菌の栄養要求株 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028933
(43)【公開日】2024-03-05
(54)【発明の名称】ブドウ球菌(Staphylococcus)属細菌の栄養要求株
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20240227BHJP
   C12N 15/90 20060101ALI20240227BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240227BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20240227BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALI20240227BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240227BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240227BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240227BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20240227BHJP
   C12N 15/61 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
C12N1/21
C12N15/90 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6876 Z
C12Q1/6827 Z
C12Q1/04
C12N15/63 Z
C12N15/31
C12N15/54
C12N15/61
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023208006
(22)【出願日】2023-12-08
(62)【分割の表示】P 2020537207の分割
【原出願日】2019-01-04
(31)【優先権主張番号】62/614,096
(32)【優先日】2018-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519445624
【氏名又は名称】アジトラ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウィットフィル,トラヴィス,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ドン,ミン-ドー
(72)【発明者】
【氏名】ドッズ,デヴィッド,リチャード
(57)【要約】      (修正有)
【課題】増殖をD-アラニンに依存する、組換えブドウ球菌属(Staphylococcus)細菌(たとえば、表皮ブドウ球菌(S.epidermidis))を提供する。
【解決手段】2つの不活化アラニンラセマーゼ遺伝子(alr1およびalr2):および不活化されたD-アラニンアミノトランスフェラーゼ遺伝子(dat)を含む、組換えブドウ球菌属細菌である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの不活化アラニンラセマーゼ遺伝子(alr1およびalr2):および
不活化されたD-アラニンアミノトランスフェラーゼ遺伝子(dat)
を含む、組換えブドウ球菌属(Staphylococcus)細菌。
【請求項2】
ブドウ球菌属細菌がその増殖をD-アラニンに依存する、請求項1に記載の組換えブドウ球菌属細菌。
【請求項3】
ブドウ球菌属細菌が表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis (S. epidermidis))、およびその亜種である、請求項1に記載の組換えブドウ球菌属細菌。
【請求項4】
ブドウ球菌属細菌が、1つまたは複数の追加変異をさらに含む、請求項1に記載の組換えブドウ球菌属細菌。
【請求項5】
追加変異が、不活化されたグルタミン酸ラセマーゼ遺伝子、MurIを含む、請求項4に記載の組換えブドウ球菌属細菌。
【請求項6】
細菌がpUBTR114ベースのベクターで形質転換されている、請求項1~5のいずれか1つに記載の組換えブドウ球菌属細菌。
【請求項7】
pUBTR114ベースのベクターがpUBTR119*-Sal-GFPである、請求項6に記載の組換えブドウ球菌属細菌。
【請求項8】
組換えブドウ球菌属細菌を作製する方法であって:
(i) D-アラニンアミノトランスフェラーゼ(dat)ノックアウトを含むプラスミドを、ブドウ球菌属菌株のコンピテント細胞に導入して形質転換すること、ここで、前記ブドウ球菌属菌株は不活性のアラニンラセマーゼ遺伝子alr1およびalr2を含む(SEΔalr1Δalr2);
(ii) 形質転換細胞においてノックアウトプラスミドの存在を検出すること;
(iii) ステップ(ii)で同定された形質転換細胞を培養すること;ならびに
(iv) 単離されたコロニーを精製すること
を含む、前記方法。
【請求項9】
単離されたコロニーのD-アラニン要求性を試験することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
形質転換体におけるノックアウトプラスミドの存在を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって検出する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
組換えブドウ球菌属細菌が、表皮ブドウ球菌およびその亜種である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
組換えブドウ球菌属細菌をpUBTR114ベースのベクターで形質転換することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
pUBTR114ベースのベクターがpUBTR119*-Sal-GFPである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項8に記載の方法によって作製される、組換えブドウ球菌属細菌。
【請求項15】
請求項1~8または14のいずれか1つに記載の組換えブドウ球菌属細菌を含むキット。
【請求項16】
pUBTR114ベースのベクターをさらに含む、請求項15に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2018年1月5日出願の米国仮特許出願第62/614,096号に基づく優先権を主張するものであって、その内容全体は、あらゆる目的のために、すべて完全な形で、参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多くの細菌は、ペプチドグリカン層の生合成において2つのアミノ酸、D-アラニンおよびD-グルタミン酸を利用するが、このペプチドグリカン層は、こうした細菌において機能的な細胞壁の構築のために必要である。ブドウ球菌(Staphylococcus)属の種を含めて、グラム陽性細菌は、細胞壁におけるペプチドグリカン層の合成に、D-アラニンおよびD-グルタミン酸を利用する。
【0003】
遺伝暗号は、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸にコドンを与えるが、そのうち19種類はキラリティーを有し、L型異性体である。これらは「天然の」または「標準的な」アミノ酸とみなされる。反対のキラリティーを有するアミノ酸、すなわちD型異性体は、非天然とみなされ、一般に環境中に存在しない。細菌などの生物がD-アミノ酸を必要とする場合、そのような非天然アミノ酸を生成するための1つもしくは複数の酵素がその細菌中に存在するか、または意図的に細菌に提供されなければならず、そうでなければ生存することができない。
【0004】
アラニンラセマーゼは、L-アラニンのD-アラニンへの変換を触媒する酵素であって、細菌細胞壁のペプチドグリカン層の生合成において、重要なビルディングブロックである。アラニンラセマーゼは真核生物には通常存在しないが、原核生物には普通に存在する。
【0005】
D-アラニンは細菌細胞壁の形成に必須であり、したがって細菌の生存に必須であるため、細菌はD-アラニンの生成を触媒できる酵素を有する。D-アラニンは細菌の生存にきわめて重要であるので、D-アラニン生合成のために過剰な、多重の酵素を有する可能性がある。たとえば、細菌は複数のアラニンラセマーゼ遺伝子を有することがある。2つの遺伝子を有する種において、一方は構成的に発現されて同化的であるのに対して、他方は誘導性であって異化的でありうる(Strych, U. et al. 2007. BMC Microbiol. 7:40; Strych U. et al., Curr. Microbiol. 41:290-294; Strych U. et al., FEMS Microbiol. Lett. 196:93-98)。これらの遺伝子は細胞壁の生合成に必要なD-アラニンを供給しており、こうした細菌のうちいくつかに関するノックアウト研究から、外来のD-アラニンが存在しない場合、増殖にはアラニンラセマーゼ酵素が不可欠であることが立証されている(Franklin, F. C., and W. A. Venables. 1976. Mol. Gen. Genet. 149:229-237; Hols, P., et al. J. Bacteriol. 179:3804-3807; Palumbo, E.,et al. FEMS Microbiol. Lett. 233:131-138; Steen, A., et al. J. Bacteriol. 187:114-124; Wijsman, H. J. 1972. Genet. Res. 20:269-277)。
【0006】
微生物の増殖に必要なアミノ酸を産生する能力を除去すると、栄養要求株として知られる微生物を生じる。その微生物の生存および増殖が求められる場合、増殖に必要なアミノ酸は、外部から与えられなければならない。栄養要求性微生物の作製は、特に大腸菌(E. coli)について、よく知られている(cgsc2.biology.yale.edu/Auxotrophs.phpのワールド・ワイド・ウェブにて公開;Methods Enzymol. 2015;565:45-66. doi: 10.1016/bs.mie.2015.05.012. Epub 2015 Jun 10. “Escherichia coli auxotroph host strains for amino acid-selective isotope labeling of recombinant proteins.” Lin MT, Fukazawa R, Miyajima-Nakano Y, Matsushita S, Choi SK, Iwasaki T, Gennis RB; Nicola Casali, Methods in Molecular Biology, Vol 235. www.springer.com/gp/book/9781588291516、各々の内容は参照によりその全体がそのまま本明細書に組み入れられる)。
【0007】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のD-アラニン要求株は、黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性株に対するワクチンを製造する目的で作製された(Moscoso M, et al. 27th ECCMID 22-25 April 2017, The Congress of ESCMID (P0473); Moscoso et al., Virulence (2018) Vol. 9(1): 604-620、各々の内容は参照によりその全体がそのまま本明細書に組み入れられる)。この場合、2つのアラニンラセマーゼ、alr1およびalr2、だけでなく、第3の酵素もノックアウトする必要があることが判明した。
【0008】
細菌を標的環境に導入する場合、標的環境への導入後に、導入された細菌を制御できることが望ましく、たとえば、標的環境中にすでに存在する細菌集団の増殖に対して、導入細菌の増殖を制御できることが望ましい。
【0009】
導入される細菌に対して選択毒性を有するが、標的環境中に存在する細菌集団には毒性のない抗生物質を使用することによって、このような制御を課すことができる。しかしながら、そのような選択性を有する抗生物質を見出すことは、多くの場合不可能である。さらに、抗生物質は、たとえば、既存の細菌集団を構成する細菌における抗生物質耐性の誘導、またはディスバイオシスもしくは下痢などの望ましくない状況をもたらす標的環境の攪乱、など、望ましくない形で標的環境を乱す可能性があるので、抗生物質の使用は望ましくないことが多い。
【0010】
したがって、抗生物質の使用に依存しない、標的環境に導入する細菌の増殖を選択的に制御する方法を使用することが有益である。標的環境に導入する細菌に栄養要求性を導入することによって、そうした望ましい制御が可能となる。このことは、標的環境のマイクロバイオーム(体内微生物叢)を増加または変化させるために標的環境に細菌を導入するという目的に特に有利であり、とりわけ標的環境がヒトのマイクロバイオームである場合にはもっとも有利である。
【0011】
グラム陽性細菌である表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)は、ヒトのマイクロバイオームを構成するよく知られた細菌である(Zhang et al, Molecular Microbiology (2003) 49(6), 1577-1593, “Genome-based analysis of virulence genes in a non-biofilm-forming Staphylococcus epidermidis strain (ATCC 12228)”、参照によりそのまま本明細書に組み入れられる)。表皮ブドウ球菌は通性嫌気性細菌であって、ヒトの正常細菌叢の一部をなしている。表皮ブドウ球菌は通常、病原性はないが、免疫不全患者は感染症を発症する危険性がある。こうした感染症は概して院内感染する(Levinson, W. (2010). Review of Medical Microbiology and Immunology (11th ed.). pp. 94-99、参照によりそのまま本明細書に組み入れられる)。カテーテルまたは他に外科的インプラントを有する人にとって、表皮ブドウ球菌は、これらのデバイス表面で増殖するバイオフィルムを形成することが知られているので、特に懸念材料となる。
【0012】
したがって、本明細書は、栄養要求性であって、生存および増殖をD-アラニンまたはD-グルタミン酸などの外部から供給される栄養分に依存する、ブドウ球菌属細菌(たとえば表皮ブドウ球菌)の必要性に取り組むものである。
【発明の概要】
【0013】
発明の概要
本明細書は概して、増殖をD-アラニンに依存する組換えブドウ球菌属細菌(たとえば、表皮ブドウ球菌)に関する。抗生物質を使用することなく、標的環境における細菌(たとえば、組換えブドウ球菌属細菌(たとえば表皮ブドウ球菌))の増殖を選択的に制御しうることは、本明細書の研究成果である。本明細書のいくつかの実施形態によれば、栄養要求性という特性は、抗生物質耐性遺伝子の存在を必要としない、プラスミドの存在の維持に有用である。したがって、いくつかの実施形態において、組換えブドウ球菌属細菌は抗生物質耐性遺伝子を含まない。いくつかの実施形態において、外来栄養分を代謝により生成する能力を復帰させる、酵素または他の成分の発現を可能にするポリヌクレオチドを、微生物中に維持するべきプラスミドに組み込む。いくつかの実施形態において、組換えブドウ球菌属細菌は、pUBTR114ベースの(に基づく)ベクターで形質転換される。さらなる実施形態において、pUBTR114ベースのベクターはpUBTR119*-Sal-GFPである。
【0014】
ある態様において、本明細書は、2つの不活化アラニンラセマーゼ遺伝子(Δalr1Δalr2);および不活化D-アラニンアミノトランスフェラーゼ(dat)遺伝子を含む組換えブドウ球菌属細菌を特徴とする。いくつかの実施形態において、ブドウ球菌属細菌は、増殖をD-アラニンに依存している。別の実施形態において、ブドウ球菌属細菌は、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)、およびその亜種である。ある実施形態において、ブドウ球菌属細菌はさらに、1つまたは複数の追加の変異を含む。いくつかの実施形態において、その追加変異は、不活化グルタミン酸ラセマーゼ遺伝子MurIを含む。いくつかの実施形態において、ブドウ球菌属細菌はさらに、治療特性を有するタンパク質(たとえば、可溶性治療用タンパク質)をコードするポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態において、治療特性を有するタンパク質は、酵素活性または生物活性を示す。いくつかの実施形態において、タンパク質は増殖因子である。いくつかの実施形態において、タンパク質はホルモンである。
【0015】
別の態様において、本明細書は、組換えブドウ球菌属細菌を作製する方法であって、(i)D-アラニンアミノトランスフェラーゼ(dat)ノックアウトを含むプラスミドをブドウ球菌属菌株のコンピテント細胞に入れて形質転換すること(SEΔalr1Δalr2);(ii)形質転換細胞中のノックアウトプラスミドの存在を検出すること;(iii)ステップ(ii)で確認された形質転換細胞を培養すること;ならびに(iv)単離されたコロニーを精製すること、を含む方法を特徴とする。いくつかの実施形態において、その方法はさらに、単離されたコロニーのD-アラニン要求性について試験することを含む。いくつかの実施形態において、形質転換体におけるノックアウトプラスミドの存在は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて検出される。いくつかの実施形態において、組換えブドウ球菌属細菌は表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)およびその亜種である。いくつかの実施形態において、方法はさらに、pUBTR114ベースのベクターを用いて組換えブドウ球菌属細菌を形質転換することを含む。いくつかの実施形態において、pUBTR114ベースのベクターはpUBTR119*-Sal-GFPである。
いくつかの実施形態において、組換えブドウ球菌属細菌は前述の方法によって作製される。
【0016】
別の態様において、本明細書は、本明細書に記載される態様または実施形態のうちいずれか1つの組換えブドウ球菌属細菌を含むキットを特徴とする。いくつかの実施形態において、キットはさらにpUBTR114ベースのベクターを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、トリプル遺伝子ノックアウトを有する表皮ブドウ球菌株(SEΔalr1Δalr2Δdat)のD-アラニン要求性の観察を示す。SE1423ノックアウトプラスミドによる形質転換、プラスミドの組込み、ならびにプラスミド骨格の除去の後、コロニーを得るために細胞を播種した。25個のコロニーを2枚の異なるプレート上に植菌し、プレートを30℃で一晩培養した。左:TSAプレート;右:TSA + アンヒドロテトラサイクリン(2μg/mL) + D-アラニン(40μg/mL)。3つのクローン(#7、#12および#18、赤丸で強調表示されている)は、D-アラニンを添加したTSA上でのみ増殖することができた。
図2A図2Aおよび2Bは、トリプルノックアウト菌株(SEΔalr1Δalr2Δdat)のPCR試験の結果を示す。TSA + アンヒドロテトラサイクリン(2μg/mL) + D-アラニン(40μg/mL)のプレート上のパッチから得られた細胞をPCR反応のテンプレートとして使用した:クローン#7;KOクローン#12;KOクローン#18;野生型SE;SE1423KOプラスミドDNA(ベクター、対照として)。図2Aでは、野生型SE1423遺伝子座(2.3 KbのPCR産物)とSE1423ノックアウト(1.5 KbのPCR産物)を区別するために、プライマー1423-5Fおよび1423-3Rを用いてPCRを行った。図2Bでは、野生型SE1423遺伝子座に特異的な0.7 KbのPCR産物を検出するために、プライマー1423-Fおよび1423-Rを用いてPCRを行った。予測通り、SE1423ノックアウトプラスミドおよび推定SE1423ノックアウトSEクローンからは、PCR産物は生成されなかった。結果から、クローン#7、#12および#18におけるSE1423欠失の成功が確認された。
図2B図2Aおよび2Bは、トリプルノックアウト菌株(SEΔalr1Δalr2Δdat)のPCR試験の結果を示す。TSA + アンヒドロテトラサイクリン(2μg/mL) + D-アラニン(40μg/mL)のプレート上のパッチから得られた細胞をPCR反応のテンプレートとして使用した:クローン#7;KOクローン#12;KOクローン#18;野生型SE;SE1423KOプラスミドDNA(ベクター、対照として)。図2Aでは、野生型SE1423遺伝子座(2.3 KbのPCR産物)とSE1423ノックアウト(1.5 KbのPCR産物)を区別するために、プライマー1423-5Fおよび1423-3Rを用いてPCRを行った。図2Bでは、野生型SE1423遺伝子座に特異的な0.7 KbのPCR産物を検出するために、プライマー1423-Fおよび1423-Rを用いてPCRを行った。予測通り、SE1423ノックアウトプラスミドおよび推定SE1423ノックアウトSEクローンからは、PCR産物は生成されなかった。結果から、クローン#7、#12および#18におけるSE1423欠失の成功が確認された。
図3図3は、pUBTR119*-Sal-GFPにより形質転換された表皮ブドウ球菌NRRL B-4268のクローンのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の結果を示す。1.1-Kb PCR産物を検出するために、11個のクローンの細胞(1から11までの番号を付している)を、プライマーSar-sGFP-FおよびSar-sGFP-R を用いたPCR反応のテンプレートとして使用した。SE NRRL B-4268の細胞、およびSCK6から単離されたpUBTR119*-Sal-sGFPのプラスミドDNAは、陰性対照(-)および陽性対照(+)としての役割を果たした。すべての形質転換体クローンを確認した。
図4図4は、抗生物質選択またはD-アラニン要求性の補完による、pUBTR119*-Sal-GFPを用いて形質転換された表皮ブドウ球菌トリプル遺伝子ノックアウト菌株(SEΔalr1Δalr2Δdat)クローンのPCRの結果を示す。1.1-Kb PCR産物を検出するために、プライマーSar-sGFP-FおよびSar-sGFP-Rを用いたPCR反応において、細胞をテンプレートとして使用した。SE NRRL B-4268の細胞、およびSCK6から単離されたpUBTR119*-Sal-sGFPのプラスミドDNAは、陰性対照(-)および陽性対照(+)としての役割を果たした。クローン1~3は抗生物質選択から得られ、クローン4~26はD-アラニン要求性の補完から得られた。すべてのクローンを確認した。
図5図5は、Hisタグ融合タンパク質を検出するためのウェスタンブロットを示す。レーン1~6:表2に示す表皮ブドウ球菌培養ブロスサンプル;レーン7~10:それぞれ1/20、1/10、1/5および1/1の希釈度でロードされた、Hisタグ融合TPタンパク質(~52 kDa)を含むサンプル。Hisタグ融合GFPタンパク質(29 kDa)のシグナルは検出できなかった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
1. 定義
別段の指示のない限り、本明細書で使用されるすべての科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者に共通して理解される意味を有する。
【0019】
次の参考文献は、本発明で使用される用語の多くの一般的定義を当業者に提供する:Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology (2nd ed. 1994); The Cambridge Dictionary of Science and Technology (Walker ed., 1988); The Glossary of Genetics, 5th Ed., R. Rieger et al. (eds.), Springer Verlag (1991); and Hale & Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology (1991)。本明細書で使用される次の用語は、特に指定のない限り、下記の意味を有する。
【0020】
本明細書において、冠詞「a(1つの)」および「an(1つの)」は、冠詞の文法上の対象の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。例を挙げると、「an element(要素)」とは1つまたは複数の要素を意味する。
【0021】
「含む(including)」という用語は、本明細書において「含むがそれに限定されない(including but not limited)」というフレーズの意味で使用され、相互に区別なく使用される。
【0022】
「or(または、あるいは、もしくは)」という用語は、本明細書において「および/または(and/or)」という語句の意味で使用され、文脈上明白に他の意味を示す場合を除いて、相互に区別なく使用される。
【0023】
「たとえば~など(such as)」という用語は、本明細書において「たとえば~であるがそれに限定されない(such as but not limited to)」というフレーズの意味で使用され、相互に区別なく使用される。
【0024】
本明細書で使用される「栄養要求性の(auxotrophic)」または「栄養要求性(auxotrophy)」という用語は、生物がその増殖に必要な特定の化合物を合成できないことを指す。栄養要求体はこの特性を示す生物である。
【0025】
本明細書で使用される「alrA」および「alr」という用語は、D-アラニンラセマーゼ遺伝子を指し、alrA遺伝子の正常なアレルを含む。いくつかの実施形態において、表皮ブドウ球菌由来のalr遺伝子(UniProtKB - Q8CNK7 (ALR_STAES))は、D-アラニンラセマーゼタンパク質(EC 5.1.1.1)をコードする。いくつかの実施形態において、遺伝子座名SE1674 (alr1)およびSE1079 (alr2)は、個別の表皮ブドウ球菌D-アラニンラセマーゼ遺伝子を指す。
【0026】
本明細書で使用される「dat」という用語は、D-アラニンアミノトランスフェラーゼ遺伝子を指し、dat遺伝子の正常なアレルを含む。いくつかの実施形態において、表皮ブドウ球菌に由来するdat遺伝子(UniProtKB - Q8CS41 (DAAA_STAES))は、D-アラニンアミノトランスフェラーゼタンパク質(EC:2.6.1.21)をコードする。いくつかの実施形態において、遺伝子座名SE1423 (dat)は、特定の表皮ブドウ球菌D-アラニンアミノトランスフェラーゼ遺伝子を指す。本明細書で使用される「murI」という用語は、グルタミン酸ラセマーゼ遺伝子を指し、murI遺伝子の正常なアレルを含む。いくつかの実施形態において、表皮ブドウ球菌に由来するmurI遺伝子(UniProtKB - Q8CPL0 (MURI_STAES))は、グルタミン酸ラセマーゼタンパク質(EC:5.1.1.3)をコードする。いくつかの実施形態において、遺伝子座名SE0843 (murI)は、特定の表皮ブドウ球菌グルタミン酸ラセマーゼ遺伝子を指す。
【0027】
本明細書で使用される「遺伝因子」という用語は、ポリペプチドをコードする領域、または、複製、転写もしくは翻訳、もしくはその他の、宿主細胞においてポリペプチドの発現に重要なプロセスを制御するポリヌクレオチド領域を含むポリヌクレオチドを意味するか、あるいは、ポリペプチドをコードする領域、およびそれに機能的に連結された、発現を制御する領域の両方を含む、ポリヌクレオチドを意味する。遺伝因子は、エピソームエレメントとして;すなわち、宿主細胞ゲノムと物理的に無関係な分子として複製するベクター内に含まれることがある。遺伝因子はプラスミドに含まれることもある。遺伝因子はまた、自然の状態ではないが、特に、精製DNAの形で、またはベクター内で、単離、クローニングおよび宿主細胞への導入などの操作後に、宿主細胞ゲノムに含まれることもある。
【0028】
本明細書で使用される「宿主細胞」という用語は、外来ポリヌクレオチド配列によって、形質転換もしくはトランスフェクトされた細胞、または形質転換もしくはトランスフェクションできる細胞を意味する。
【0029】
本発明について「単離された」という用語は、本来の環境(自然に存在する環境)から取り出された生体材料(細胞、核酸、またはタンパク質)のことをいう。たとえば、植物もしくは動物において自然な状態で存在するポリヌクレオチドは単離されていないが、自然に存在する近接した核酸から分離された同じポリヌクレオチドは、「単離された」とみなされる。
【0030】
「単離された核酸分子」(たとえば、単離されたプロモーターなど)は、その核酸分子の天然起源に存在する他の核酸分子から分離された分子である。たとえば、ゲノムDNAに関して、「単離された」という用語は、そのゲノムDNAが自然に関連する染色体から分離された核酸分子を含む。好ましくは、「単離された」核酸分子は、その核酸分子の起源である生物のゲノムDNAにおいて本来その核酸分子に隣接している配列がない。
【0031】
本明細書で使用される「ノックアウト」という用語は、遺伝子の完全な除去または部分的除去、遺伝子産物の有効な発現に必要な非コード調節領域の部分的または完全な除去、遺伝子をコードするポリヌクレオチドへのクレオチドの挿入、またはその他の、遺伝子産物の有効な発現を妨げるための方法による、遺伝子産物(たとえば酵素など)の有効な発現の無効化を指す。
【0032】
本明細書で使用される「ポリペプチド」または「タンパク質」という用語は、相互に鎖状に結合したアミノ酸残基からなる生体分子または高分子を指す。本明細書で使用されるポリペプチドの定義は、1つもしくは複数の長鎖のアミノ酸残基からなるタンパク質(一般に、より高分子量)、および少数のアミノ酸からなる小ペプチド(一般に、より低分子量)を含むものとする。他の実施形態において、単一のアミノ酸は、厳密にいえばポリペプチドではないが、やはり本発明の範囲に含まれるとみなされる。
【0033】
本明細書で使用される「プロモーター」は、構造遺伝子の転写を示すDNA配列を指すものとする。典型的には、プロモーターは、構造遺伝子の転写開始点に隣接して、遺伝子の5’領域にある。プロモーターが誘導性プロモーターである場合、転写率は誘導物質に応じて増加する。たとえば、プロモーターは、特定の組織型において関連するコード配列を転写する場合にのみ活性となるように、組織特異的な様式で制御しうる。
【0034】
本明細書で使用される「ポリヌクレオチド」という用語は、一般に、任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドを指すが、これは未修飾のRNAまたはDNAであっても、修飾されたRNAまたはDNAであってもよい。したがって、たとえば、本明細書で使用されるポリヌクレオチドは、特に、一本鎖および二本鎖のDNA、一本鎖および二本鎖領域、または一本鎖、二本鎖および三本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖および二本鎖のRNA、ならびに一本鎖および二本鎖領域の混合物であるRNA、DNAおよびRNAを含むハイブリッド分子を指し、このハイブリッド分子は、一本鎖であっても、より典型的には二本鎖であっても、三本鎖であってもよく、一本鎖および二本鎖領域の混合物であってもよい。それに加えて、本明細書で使用されるポリヌクレオチドは、RNAもしくはDNA、またはRNAおよびDNAの両方を含む三本鎖領域を指す。そのような領域のヌクレオチド鎖は、同一分子から得られることもあるが、異なる複数の分子から得られることもある。その領域は、1つまたは複数の分子のすべてを含んでいてもよいが、より典型的には、一部の分子の領域のみを含みうる。三重らせん領域を有する分子の一つは、多くの場合、オリゴヌクレオチドである。本明細書で使用されるポリヌクレオチドという用語は、1つまたは複数の修飾塩基を含む、上記のDNAまたはRNAを含む。したがって、安定性を求めて、または他の理由で修飾された骨格を有するDNAまたはRNAは、本明細書においてその用語が対象とする「ポリヌクレオチド」である。さらに、イノシンなどの通常と異なる塩基、またはトリチル化塩基などの修飾塩基を含むDNAもしくはRNAは、ほんの2例挙げただけであるが、本明細書においてその用語が使用されるポリヌクレオチドである。当然のことながら、当業者に知られている多くの実用に役立つさまざまな修飾が、DNAまたはRNAに対して行われてきた。本明細書で使用されるポリヌクレオチドという用語は、化学的、酵素的、または代謝的に修飾された形のポリヌクレオチド、ならびに、特に単純細胞および複雑型細胞を含む、ウイルスおよび細胞に特徴的なDNAおよびRNAの化学形態を含む。ポリヌクレオチドという用語は、オリゴヌクレオチドと称されることが多い低分子ポリヌクレオチドも含む。「ポリヌクレオチド」および「核酸」はしばしば、同じ意味で使用される。
【0035】
本明細書で使用される「治療用タンパク質」という用語は、被験体の疾患もしくは機能障害を治療するため、または被験体の健康を改善するために被験体に投与される、タンパク質、ペプチド、糖タンパク質、または糖ペプチドを指すものとする。いくつかの実施形態において、被験体はヒトである。いくつかの実施形態において、治療用タンパク質はヒトタンパク質である。本明細書に記載の方法を用いて、治療用タンパク質は、アラニンラセマーゼ遺伝子(たとえば、alr1およびalr2)のダブルノックアウトおよびアラニンアミノトランスフェラーゼ遺伝子(dat、SE1423)ノックアウトを有するように遺伝子改変された、ブドウ球菌属細菌、たとえば表皮ブドウ球菌、で生産される。
【0036】
II. 組成物
本明細書は、D-アラニン要求株であるトリプルノックアウトブドウ球菌属細菌について記載する。本明細書は、アラニンラセマーゼ遺伝子(たとえば、alr1およびalr2)のダブルノックアウト、およびアラニンアミノトランスフェラーゼ遺伝子(dat、SE1423)のノックアウトを有するように遺伝子改変された、操作されたブドウ球菌属細菌、たとえば表皮ブドウ球菌を提供する。本明細書は、望ましいD-アラニン要求性を示す、トリプルノックアウト表皮ブドウ球菌株(SEΔalr1Δalr2Δdat)を提供する。
【0037】
D-アラニンは、ペプチドグリカン層構造を有する細菌にとって不可欠の構成要素である。D-アラニンの根本的重要性(必須性)は、ペプチドグリカンストランドの架橋におけるジペプチド、D-アラニル-D-アラニンの重要な役割に起因する。本明細書に記載のように、アラニンラセマーゼ遺伝子のダブルノックアウト型表皮ブドウ球菌株(SEΔalr1Δalr2)はすでに開発された。しかしながら、そのダブルノックアウト株は、枯草菌(Bacillus subtilis)、大腸菌(Escherichia coli)および他のいくつかの細菌種とは対照的に、D-アラニン要求性を示さなかった。表皮ブドウ球菌ではグルタミン酸ラセマーゼ(L-グルタミン酸とD-グルタミン酸との相互変換)およびD-アラニンアミノトランスフェラーゼ(D-アラニンとD-グルタミン酸との相互変換)の存在がアラニンラセマーゼのバイパスを提供しうると考えられた。したがって、本明細書は、D-アラニン要求性を示す、ダブルノックアウト株(SEΔalr1Δalr2)におけるアラニンアミノトランスフェラーゼ遺伝子(dat, SE1423)のノックアウトを提供する。
【0038】
本明細書は、dat遺伝子の欠失を有するように遺伝子操作して、D-アラニンアミノトランスフェラーゼ活性を減少させて、D-アラニン要求性にした細菌宿主細胞またはそのホモログを提供する。いくつかの実施形態において、細菌細胞は別の遺伝子またはオペロンの中に欠失を有するように遺伝子操作されるが、それがdatオペロンに影響を及ぼして、D-アラニンアミノトランスフェラーゼ活性を低下させ、それによって、細胞をD-アラニン要求性にする。
【0039】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のD-アラニン要求性細菌、たとえば遺伝子改変ブドウ球菌属細菌、たとえばトリプルノックアウト表皮ブドウ球菌株(SEΔalr1Δalr2Δdat)などは、別のアミノ酸、ビタミンおよび/またはヌクレオチドに対する要求性をさらに含む。たとえば、いくつかの実施形態において、本明細書に記載のD-アラニン要求性細菌は、以下のアミノ酸のうち1つまたはいくつかに対する栄養要求性をさらに含む可能性がある:アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリン。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のD-アラニン要求性細菌は、ビタミン、たとえばビタミンA、ビタミンB(たとえばB-1 - B-12)、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、およびビタミンKなどに対する栄養要求性をさらに含みうる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のD-アラニン要求性細菌は、ヌクレオチドに対する栄養要求性をさらに含みうる。
【0040】
細菌株
本明細書は、遺伝子改変微生物、たとえば細菌、を提供する。本明細書に記載の方法は、いかなるブドウ球菌属細菌細胞においても、その細胞のdatのタンパク質ホモログをコードする遺伝子を不活化もしくはノックアウトすることによって、またはそうでなくても、このタンパク質の発現もしくは活性を不活化することによって、実行できると考えられる。ある菌株をブドウ球菌属に帰属するためには、それが、クラスターを形成し、カタラーゼを産生し、適切な細胞壁構造(ペプチドグリカン型およびタイコ酸の存在を含む)を有し、DNAのG + C含量が30-40 mol%であるグラム陽性球菌であることが必要である。例を挙げると、黄色ブドウ球菌(S. aureus)群、たとえばS. argenteus、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、S. schweitzeri、S. simiaeなど;S. auricularis群、たとえばS. auricularisなど;S. carnosus群、たとえばS. carnosus、S. condimenti、S. massiliensis、S. piscifermentans、S. simulansなど;表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)群、たとえばS. capitis、S. caprae、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)、S. saccharolyticusなど;溶血性ブドウ球菌(S. haemolyticus)群、たとえばS. devriesei、溶血性ブドウ球菌(S. haemolyticus)、S. hominisなど;S. hyicus-intermedius群、たとえばS. agnetis、S. chromogenes、S. felis、S. delphini、S. hyicus、S. intermedius、S. lutrae、S. microti、S. muscae、S. pseudintermedius、S. rostri、S. schleiferiなど;S. lugdunensis群、たとえばS. lugdunensisなど;腐生ブドウ球菌(S. saprophyticus)群、たとえばS. arlettae、S. cohnii、S. equorum、S. gallinarum、S. kloosii、S. leei、S. nepalensis、S. saprophyticus、S. succinus、S. xylosusなど;S. sciuri群、たとえばS. fleurettii、S. lentus、S. sciuri、S. stepanovicii、S. vitulinusなど;S. simulans群、たとえばS. simulansなど;S. warneri群、たとえばS. pasteuri、S. warneriなど、があるがそれに限定されない。ある実施形態において、ブドウ球菌属細菌は表皮ブドウ球菌である。
【0041】
遺伝子構築物
本明細書は、標準的な分子生物学の手法、たとえば(Sambrook et al. 2001)に記載の技法を利用する。pJB38 (Boss et al., 2013)は、ノックアウトベクターのプラスミド骨格として使用されたが、このベクターは、アレル交換大腸菌-ブドウ球菌シャトルベクターであるpJB38をベースとして、機能性を改善するためにプラスミド上に追加の設計特性をさらに含んでいる(Bose, J.L., et al. Applied and environmental microbiology. 2013;79(7):2218-2224)。SE1423ノックアウトを作製するための特異的なプライマーが設計された(下記の実施例1において表1として記載)。
【0042】
いくつかの実施形態において、プラスミドは、標準的な分子生物学の手法を用いて、クローニング宿主としてTop10大腸菌を使用して、pJB38のEcoRI-SalI部位にオーバーラップPCR産物をクローニングすることによって構築された。クローンはその後、PCR産物を検出するためのプライマー1423-5Fおよび1423-3R(表1)を用いて、PCRにより選択され、スクリーニングされた。適正なSE1423ノックアウトプラスミド(pJB-1423KO)のクローンを、dam-/dcm-大腸菌Gm2163株に導入して形質転換する。Qiagen Midi Prep Kitを用いてプラスミドDNAを2つのGm2163形質転換体クローンから単離し、上記のEcoRIおよびSalIによる制限酵素消化によってチェックする。
【0043】
組換えブドウ球菌属細菌の使用
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のブドウ球菌属細菌(たとえば表皮ブドウ球菌であって、アラニンラセマーゼ遺伝子(たとえばalr1およびalr2)のダブルノックアウト、およびアラニンアミノトランスフェラーゼ遺伝子(dat、SE1423)ノックアウトを有するように遺伝子改変されている)は、治療特性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドをさらに含む。いくつかの実施形態において、そのタンパク質は可溶性治療用タンパク質である。可溶性治療用タンパク質は、水溶液に溶解性の治療用タンパク質である。いくつかの実施形態において、発現した治療用タンパク質のすべて、発現した治療用タンパク質の大半、または発現した治療用タンパク質の一部は、本明細書に記載のブドウ球菌属細菌において可溶性でありうる。いくつかの実施形態において、可溶性治療用タンパク質は活性のあるタンパク質であって、たとえば、酵素活性または生物活性を有するが、この生物活性は、たとえば、リガンドもしくは受容体との結合活性、細胞内シグナル伝達経路を活性化する能力、またはヒトなどの哺乳動物において免疫応答を引き起こす能力などである。いくつかの実施形態において、治療用タンパク質はグリコシル化されており、そうでなければ、1つもしくは複数のグリコシルトランスフェラーゼによってin vitroで修飾され、またはプロテアーゼに対する耐性を高めるように修飾される。
【0044】
いくつかの実施形態において、本発明のブドウ球菌属細菌は、疾患を治療するために、そのまま使用してもよく、治療用ポリペプチドを発現するように改変してもよい。一例を挙げると、本発明のブドウ球菌属細菌は、皮膚の疾患または異常を治療するために使用することができる。別の実施形態において、本発明のブドウ球菌属細菌は、皮膚の疾患または異常を治療するために、治療用ポリペプチドまたはその断片を発現するように改変することができる。
【0045】
製剤
本発明に係る使用のための製剤は、治療上有効な量の望ましいポリペプチドを生成することができる、製薬上有効な任意の量の組換えブドウ球菌属細菌を、たとえば、遺伝子改変微生物、たとえば細菌、の重量比で、少なくとも約0.01%、約0.05%、約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1.0%,約1.5%、約2.0%、約3.0%、約4.0%、約5.0%、約6.0%、約7.0%、約8.0%、約9.0%、約10.0%、約11.0%、約12.0%、約13.0%、約14.0%、約15.0%、約16.0%、約17.0%、約18.0%、約19.0%、約20.0%、約25.0%、約30.0%、約35.0%、約40.0%、約45.0%、約50.0%またはそれ以上、含むことが可能であり、その上限が遺伝子改変微生物、たとえば細菌の重量比で約90.0%であることは、さらに明白であろう。
【0046】
他の実施形態において、本発明にしたがって使用するための製剤は、たとえば、重量比で、少なくとも約0.01%から約30%、約0.01%から約20%、約0.01%から約5%、約0.1 %から約30%、約0.1%から約20%、約0.1%から約15%、約0.1 %から約10%、約0.1%から約5%、約0.2%から約5%、約0,3%から約5%、約0.4%から約5%、約0.5%から約5%、約1%から約5%、またはそれ以上の組換えブドウ球菌属細菌を含むことができる。
【0047】
III. 方法
本明細書は、組換えブドウ球菌属細菌を作製する方法であって、(i) D-アラニンアミノトランスフェラーゼ(dat)ノックアウトを含むプラスミドをブドウ球菌株(SEΔalr1Δalr2)のコンピテント細胞に導入して形質転換すること;(ii) 形質転換細胞中のノックアウトプラスミドの存在を検出すること;(iii) ステップ(ii)で同定された形質転換細胞を培養すること;ならびに(iv) 単離されたコロニーを精製すること、を含む方法を特徴とする。好ましい実施形態において、形質転換体におけるノックアウトプラスミドの存在は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって検出される。特定の実施形態において、その方法はさらに、単離されたコロニーのD-アラニン要求性を試験することを含む。
【0048】
IV. キット
本発明はキットも提供する。ある態様において、本発明のキットは、(a) 本発明の組換えブドウ球菌属細菌、および(b) その使用説明書を含む。本発明の組成物は上記で説明している。いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、増殖をD-アラニンに依存する組換えブドウ球菌属細菌を含む。
【0049】
本明細書に引用されるすべての出版物および特許出願は、個々の出版物または特許出願がそれぞれ、あらゆる目的のために参照により組み入れられることを個別具体的に指示されているかのように、あらゆる目的のために、参照により全体としてそのまま本明細書に組み入れられる。本明細書に記載の出版物は、本出願の出願日の前にそれを開示するためにのみ提供される。本明細書の何ものも、本明細書に記載の発明者らが、事前開示または何か他の理由で、そのような開示に先行する権利を有しないと認めていると解釈されるべきでない。
【0050】
本発明はさらに、以下の実施例によって説明されるが、それはさらなる限定と解釈されるべきでない。本明細書を通じて引用された、あらゆる図面およびすべての参考文献、特許および公開特許出願の内容は、図面も同様に、そのまま参照により本明細書に明示的に組み入れられる。
【実施例0051】
実施例
以下の実施例は、本発明の範囲に含まれる実施形態をさらに説明し実証する。実施例が説明のためにのみ与えられ、本発明を制限すると解釈されるべきでないのは、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、多くの変更が可能であるからである。
【0052】
本明細書は、いくつかの実施形態において、抗生物質を使用することなく発現プラスミドを維持することができる、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis (S. epidermidis))発現系の作製を提供する。本実験は、D-アラニン要求性表皮ブドウ球菌株を開発するための広範な取り組みを記録する。最初にアラニンラセマーゼ遺伝子のダブルノックアウト型表皮ブドウ球菌株(SEΔalr1Δalr2)を作製したが、これはD-アラニン要求性を示さなかった。黄色ブドウ球菌(S. aureus)およびリステリア菌(Listeria monocytogenes)で報告されているように、表皮ブドウ球菌におけるグルタミン酸ラセマーゼ(L-グルタミン酸とD-グルタミン酸との相互変換)およびD-アラニンアミノトランスフェラーゼ(D-アラニンとD-グルタミン酸との相互変換)の存在が、アラニンラセマーゼのバイパスを提供する可能性があると考えられた。したがって、本発明は、D-アラニン要求性を示すトリプルノックアウト表皮ブドウ球菌株(SEΔalr1Δalr2Δdat)を開発するために、最初の菌株におけるアラニンラセマーゼ遺伝子のダブルノックアウト(SEΔalr1Δalr2)に加えて、アラニンアミノトランスフェラーゼ遺伝子(dat、SE1423)のノックアウトを開示する。
【0053】
実施例1 SE1423(D-アラニンアミノトランスフェラーゼ)の欠失のためのベクター
SE1423ノックアウト(KO)を生じさせるために用いた方法を以下に簡単に記載する。最初に、pJB38を用いてSE1423 KOプラスミドを作製した(Boss et al., 2013)。
【0054】
プライマー
表皮ブドウ球菌12228株のゲノム配列に基づいて、SE1423ノックアウト(KO)ベクターを開発するために、PCR用にオリゴヌクレオチドプライマーを設計した。プライマー配列、その具体的な用途、およびPCR産物の大きさを下記の表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
5’および3’隣接領域のPCR産物、それぞれ0.5 Kbおよび1.0 Kb、を作製した。次に、それをオーバーラップPCRのテンプレートとして使用して、5’および3’隣接領域の両方を含む大型のPCR産物(1.5 Kb)を作製した。クローニング宿主としてTop10大腸菌を使用して、オーバーラップPCR産物を、pJB38のEcoRI-SalI部位にクローニングした。プライマー1423-5Fおよび1423-3Rを用いたPCRによってクローンを選択してスクリーニングし、1.5 KbのPCR産物を検出した。プラスミドDNAも単離して、EcoRIおよびSalIにより消化し、ベクター骨格(7.0 Kb)およびインサート(1.5 Kb)の2つの断片をともに検出した。適正なSE1423ノックアウトプラスミド(pJB-1423KO)のクローンをdam-/dcm-大腸菌Gm2163株に導入して形質転換した。Qiagen Midi Prep Kitを用いてプラスミドDNAを2つのGm2163形質転換体クローンから単離し、上記のようにEcoRIおよびSalIによる制限酵素消化によってチェックした。
【0057】
実施例2 トリプルノックアウト菌株(SEΔalr1Δalr2Δdat)の作製
TAS + クロラムフェニコール(10μg/mL)のプレートを用いて、Gm2163から単離されたpJB-1423KOプラスミドを、表皮ブドウ球菌株(SEΔalr1Δalr2)のコンピテント細胞に導入して形質転換した。プライマー1423-5F (EcoRI)および1423-3R (SalI)を用いて1.5 KbのPCR産物を検出することによって、形質転換体にpJB-1423KOプラスミドが存在することを確認した。テストした全26クローンにおいて、1.5 KbのPCR産物が観察されたのに対して、SE宿主細胞由来の細胞溶解物を含む反応において、2.3 KbのPCR産物が観察された。確認された2つのクローンの細胞を、TSA + Cm (10μg/mL) + D-アラニン (40μg/mL)の新プレート上に画線した。相同組換えによるプラスミドの組込みのために、プレートを43℃にて24時間インキュベートした。単離されたコロニーを精製のために43℃にて再度画線した。2回目の相同組換えによってプラスミド骨格を環状にして出すために、単離された4つのコロニーを250-mLバッフル付き振盪フラスコ内の50 mL TSB + D-アラニン (40μg/mL)に植菌した。培養物を30℃にて24時間振盪した。分取した0.5 mL培養物を50mL新培地の入ったフラスコに移した。継代を3回繰り返した。フラスコの細胞をTSA + アンヒドロテトラサイクリン (ATC 2μg/mL) + D-アラニン(DA、40μg/mL)上に播種した。30℃にて2日間培養後、約100-200個のコロニーが、10-5希釈培養物100μl用いて播種したプレート上に形成された。コロニーのさらなる分析は以下に記載する。
【0058】
実施例3 トリプルノックアウト菌株(SEΔalr1Δalr2Δdat)におけるD-アラニン要求性の検証
TSA+ATC+DAプレートから得られた全部で25個の単離コロニーをTASプレートおよびTSA+ATC+DAプレート上に植菌した。プレートを30℃にて一晩インキュベートした。すべてのクローンはD-アラニン添加プレート(TSA+ATC+DA)上でよく増殖した。図1に示すように、3つのクローン(#7、#12および#18)はD-アラニン添加なしのTSA上で増殖できず、D-アラニン要求性を示した。その栄養要求表現型は、TSA+ATC+DAプレート上のパッチから得られた細胞をTSAプレート上に再度植菌した際に再び観察された。留意すべき点として、2回目の相同組換えの結果、SE1423をノックアウトすることなくプラスミド骨格が除去されうるので、TSA+ATC+DAプレートから得られたクローンの一部は、野生型SE1423遺伝子座を保持していると推測された。
【0059】
D-アラニン要求株であるクローンをさらに分析した。上記の1423KO SEクローンをTSA+Cm (10μg/mL)上に植菌すると、それらは増殖せず、2回目の相同組換えの際のクロラムフェニコール選択マーカーを含むプラスミド骨格の除去を示した。プライマーJB-Cm-FおよびJB-Cm-R(表1)を用いたPCRからも、抗生物質耐性マーカーの喪失が確認された(データは示さない)。プライマー1423-5Fおよび1423-3Rを用いたPCRは、上記のKOクローンにおいて1.5 KbのPCR産物を検出したが、SE宿主からのPCR産物は、予想される通り2.3 Kbであった(図2A)。野生型SE細胞は、プライマー1423-Fおよび1423-R (いずれもSE1423コード配列に特異的)を用いて0.7 KbのPCR産物を生じた;このPCR産物は、KOプラスミドDNAおよび推定KOクローンからは検出されなかった(図2B)。
【0060】
したがって、すべての実験データに基づいて、アラニンラセマーゼ遺伝子のダブルノックアウト株においてSE1423(dat、D-アラニンアミノトランスフェラーゼ)を欠失させることに成功し、トリプルノックアウト表皮ブドウ球菌株(SEΔalr1Δalr2Δdat)を作製したと結論付けることができる。さらに、求めるD-アラニン要求性は、トリプルノックアウト菌株で観察された。
【0061】
D-アラニンは細菌細胞ペプチドグリカンの合成に必要である。枯草菌(B. subtilis)および大腸菌(E. coli)でのD-アラニン要求性のためには、アラニンラセマーゼ遺伝子の欠失で十分であった。しかしながら、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)においてこの表現型を発現させるためには、2つのアラニンラセマーゼ遺伝子(alr1、alr2)およびD-アラニンアミノトランスフェラーゼ遺伝子 dat(SE1423)をノックアウトしなければならない。確かに、グルタミン酸ラセマーゼとD-アラニンアミノトランスフェラーゼを組み合わせると、アラニンラセマーゼの有望なバイパスが与えられることが、黄色ブドウ球菌(S. aureus)MRSA132(Moscoso et al., 2017および2018)およびリステリア菌(Listeria monocytogenes)(Thompson et al., 1998)で報告された。表皮ブドウ球菌ゲノムは第3の推定アラニンラセマーゼホモログ(SE1769)を含むが、本研究で使用される実験条件下でD-アラニン要求性のためにこの遺伝子をノックアウトする必要はない。
【0062】
D-アラニン要求性表皮ブドウ球菌株の開発に成功し、次のステップは、その菌株を、選択マーカーとしてアラニンラセマーゼ遺伝子を含む発現ベクターを用いて、形質転換することである。形質転換体は、宿主のD-アラニン要求性のプラスミドによる補完によって選択されることになる。
【0063】
実施例4 非抗生物質選択マーカーを有する表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)発現ベクターの開発
この実施例は、抗生物質を使用することなく発現プラスミドを維持することができる、表皮ブドウ球菌発現系の開発を記載する。
【0064】
クローニング宿主、枯草菌(Bacillus Subtilis)SCK6のpJB38による形質転換
表皮ブドウ球菌におけるタンパク質生産のために、大腸菌/黄色ブドウ球菌シャトルベクターであるpJB38(Bose et al., 2013)を使用する。非ABR(抗生物質耐性)タンパク質発現系を開発するために考えられるアプローチの1つは、pJB38の改変である。この選択肢を検討するために、pJB38をクローニング宿主の枯草菌SCK6に導入して形質転換することができるかどうかを試験した。Qiagen HiSpeed Plasmid Midi Kitの試薬およびプロトコールを用いて、大腸菌DH5α株から単離されたpJB38 DNAを、コンピテント細胞の調製および形質転換のためのBTRプロトコールを用いて、SCK6ΔalrAに導入して形質転換した(下記)。形質転換細胞をLB寒天培地 + D-アラニン(DA、40μg/mL)+ クロラムフェニコール(Cm、10μg/mL)上に播種した。30℃にて2日間培養後、小コロニーが出現し始めた。30℃にて3日間培養後コロニーを計数した。250μLのコンピテント細胞を、(5μL中)0.6μgのpJB38 DNAで形質転換すると、50μL細胞を播種したプレート上に61個のさまざまな大きさのコロニーが観察された。これに基づくと、形質転換効率は5.2 x 102 cfu/μg DNAとなる。
【0065】
形質転換体が本物であることを確認するために、40個のコロニーを釣菌して、LB寒天培地+DA+Cmの新プレート上に植菌し、30℃にて一晩培養した。すべてのコロニーがよく増殖した。6つのクローンをそれぞれ、LB+DA+Cmの3 mL液体培地に植菌した。細胞を用いてミニプレッププラスミドDNAを調製した。EcoRI + HindIII、およびSalI+SnaBIによりプラスミドを消化した。EcoRI+HindIII消化から得られると予測されたDNAバンドは5 Kbおよび2 Kbであった。SalI+SnaBI消化のバンドは4.7 Kbおよび2.3 Kbであった。3つの大コロニークローン(#2、#3および#4)および2つの小サイズのコロニークローン(#6および#7)については予測された消化パターンが観察された。小サイズのコロニークローン#5は、アガロースゲル上でより大きなサイズのバンドを示したが、小バンドの強度は非常に弱かった。このデータから、pJB38は枯草菌SCK6の形質転換に成功したと結論付けることができた。
【0066】
pJB38を表皮ブドウ球菌に導入して形質転換するために、プラスミドをdam-/dcm-大腸菌宿主から単離し、形質転換効率に及ぼす宿主の制限および修飾の影響を最小限にする必要がある。その取り組みは主にpUBTR114ベースのベクターを使用することに重点を置いた。
【0067】
ベクターpUBTR14-TPによる表皮ブドウ球菌の形質転換
表皮ブドウ球菌NRRL B-4268株の形質転換コンピテント細胞を調製し、形質転換した。Qiagen Midi Prep Kit(付属書類IIを参照されたい)を用いて、pUBTR114-TP(テストタンパク質遺伝子を保有するpUBTR114)を枯草菌SCK6から単離した。形質転換された表皮ブドウ球菌細胞を、カナマイシン10μg/mLを含むトリプトンソイ寒天(TSA)プレート上に播種した。プレートを37℃にて一晩インキュベートした。約950 ngのプラスミドDNAを用いた形質転換から、5個のコロニーが観察された。5個すべてのコロニーを、新たなカナマイシンプレート上に植菌後、37℃にて再増殖させた。細胞を、つまようじを用いて釣菌し、Trisバッファー(100 mM、pH 8.0)100μL中に懸濁した。溶解物(0.5μL)を分取し、Taqポリメラーゼおよびプライマーペアs.p.amyQ-Nde-F2/Sbf-TP-R(表2)を用いた25-μL PCR反応においてテンプレートとして使用した。非形質転換表皮ブドウ球菌の細胞溶解物、およびSCK6から単離されたプラスミドDNAをそれぞれ陰性対照および陽性対照として使用した。5つすべてのクローンから得られた細胞溶解物は、予測通り1.5 KbのPCR産物を生成した。したがって、これらの実験は、pUBTR114ベースのベクターが、表皮ブドウ球菌に導入されて形質転換し、カナマイシン選択により維持されうることを実証した。
【0068】
【表2】
【0069】
pUBTR119-GFPの構築
pJB38-sGFPで形質転換された表皮ブドウ球菌において検出可能なGFPの発現および分泌が実証されている。したがって、評価のために、発現カセット「SarAP1-SsaA-His-sGFP」をpUBTR119-TPにクローニングすることとした。このプラスミドは、pUBTR114-TPに類似している。2つのプラスミドの相違は、pUBTR119-TPにおいてTPコード配列の上流に、第2のプロモーター配列、ならびに、より使いやすいクローニング部位が存在することである。
【0070】
フォワードプライマーSar-GFP-FおよびリバースプライマーSar-GFP-R(表2)は、プラスミドpJB38-sGFPからPCRによってsGFP発現カセットの1.1-Kb断片を増幅するために設計された。フォワードプライマーおよびリバースプライマーは、それぞれ制限酵素部位PaeR7IおよびSbfIを含む。Agilentから入手したPfuUltra DNAポリメラーゼによる標準的なPCR条件を使用した。PCR産物はアガロースゲルで泳動し、切り出して、Qiagen QIAquick gel Extraction Kitを用いて精製した。次に断片をPaeR71-SbfIで消化し、もう1回ゲルで精製した。Qiagen Midi Prep Kit を用いて枯草菌SCK6からpUBTR119-TPを単離し、制限酵素PaeR7IおよびSbfIで消化して、1.5-Kbテストタンパク質(TP)コード配列を除去した。残りの4.1-Kbベクター骨格をゲルにより精製した。NEB's Quick Ligation Kit を用いてsGFP発現カセットを、PaeR71-SbfI部位においてpUBT119骨格にライゲーションし、枯草菌SCK6ΔalrAコンピテント細胞に導入して形質転換した。形質転換混合物をLBプレート、ならびにLB+10μg/mLカナマイシン+ 40μg/mL D-アラニン上に播種し、37℃にて一晩培養した。両方のプレート上に約100個のコロニーが観察されたので、カナマイシン耐性またはD-アラニン要求性補完による有効な選択が示唆された。LBプレートから得られた100個のコロニー、およびLB+カナマイシン(Kan)+ DAプレートからの150個のコロニーを、それぞれLBおよびLB+Kan+DAのプレート上に植菌した。すべてが良好な増殖を示した。LB+Kan+DAプレート(クローン#1-150)から得られたそれぞれ10個のコロニーからなる15個のプール、およびLBプレート(#151-250)からの10個のプールを、プライマーSar-GFP-F/Sar-GFP-Rを用いて、PCRによってスクリーニングし、1.1-Kbインサートの存在を確認した。pJB38-sGFPのプラスミドDNA、およびSCK6ΔalrA細胞は、陽性対照および陰性対照としての役割を果たした。すべてのプールはPCR陽性であった。1つのプール(プール#5)からの個々のクローンをPCRにより上記のようにスクリーニングしたところ、すべてが陽性であった。LB+Kan+DAから得られたこれらのクローンを、液体LB+Kan+DA中で37℃にて一晩増殖させた。細胞はプラスミドミニプレップのために使用された。10のクローンはすべて、アガロースゲル上でチェックすると、プラスミドを含んでいた。クローン#3および#4から得られたプラスミドDNAを、3組の制限酵素消化:PaeR71+SbfI、EcoRV、およびKpnIによって分析した。両方のクローンで、予測通りの消化パターンが見られた。Midiprep DNAを2つのクローンから作製した。配列決定によりクローニングの成功を立証し、変異は示されなかった。上記のようにカナマイシン選択を用いて、その構築物をSE NRRL B-4268に導入して形質転換した。3日間の長い培養の後、9個のコロニーが認められた。2つのクローンをPCRで調べた。しかしながら、プライマーSar-GFP-F/Sar-GFP-Rを用いたPCRは、sGFP発現カセットを検出することができなかった。
【0071】
なぜpUBTR114-TPは表皮ブドウ球菌を形質転換することができPCRで確認できるのに、pUBTR119-GFPに由来する推定形質転換体は確認できないのかは不明である。pUBTR114-TPコロニーは、37℃にて一晩培養後に観察されたが、pUBTR119-GFPコロニーは37℃にて2-3日の培養後にはじめて観察された。2つのプラスミド間の1つの相違は、pUBTR119-GFPにはXhoI制限酵素部位が存在することである。枯草菌はXhoIメチル化系を有する(Jentsch, 1983)。pUBTR119-TP のXhoI部位を制限酵素XhoIは消化することができず、このため、そのアイソシゾマーであるPaeR71が、GFP発現カセットのクローニングのために使用された。表皮ブドウ球菌の制限/修飾系は、メチル化したXhoI部位のためにpUBTR119-GFPをどのようにかして標的とすることが疑われた。したがって、ベクターはXhoI部位を異なる制限酵素部位、SalIで置き換えることにより改変された。
【0072】
新規GFP発現ベクター:pUBTR119*-SAL-GFPの開発
オーバーラップPCR法を用いて、pUBTR119-GFP のXho部位を異なる制限酵素部(SalI)で置き換えた。このプラスミドには、MluI-XhoI断片(840 bp)およびXhoI-KpnI断片(251 bp)がある。2つの断片のPCR増幅およびオーバーラップPCRのために、5’-CTCGAG-3’から5’-GTCGAC-3’へのヌクレオチドの変更を含む新たなプライマーを設計した。オーバーラップPCR産物(1.1 Kb)をMluIおよびKpnIで消化し、あらかじめMluI-KpnI で消化されたpUBTR119-GFPとライゲーションした。上記のようにカナマイシン選択により、ライゲーション反応物をSCK6コンピテント細胞に導入して形質転換した。多数のコロニーが形成された。コロニーを新たなプレートLB+Kan(10μg/mL)上に植菌した。プライマーMlu-F2およびSal-R2(表2)を用いて、12個のクローンをPCRで分析した。プライマーSal-R2はSalI部位に特異的である。0.84 Kbの予想されるPCR産物のバンドは弱かったが、8個のクローンについては反応物中に明確に存在した。12個すべてのクローンは、プラスミドDNAミニプレップのために、液体培地(LB+Kan)中で増殖させた。これらすべてのクローンは、正しいサイズのプラスミドのバンドを示し、それらはSalI消化により線状化された。クローン#4をミニプレップのために増殖させた。制限酵素消化によりDNAを分析した:MluI+ KpnI;およびSalI。予測通り、2つのバンド(4.5 Kbおよび1.1 Kb)がMluI+KpnI消化から観察され、SalIはプラスミドを線状化した。新規プラスミドはpUBTR119*-Sal-GFPと名付けられた。
【0073】
pUBTR119*-Sal-GFPによる表皮ブドウ球菌株の形質転換
野生型SE NRRL B-4268コンピテント細胞を、pUBTR119*-Sal-GFPプラスミドDNAを用いて形質転換し、TSA+Kan (10μg/mL)のプレートに播種した。37℃にて一晩培養した後、約440 ngおよび約880 ngプラスミドDNAを用いた形質転換から、それぞれ2個および9個のコロニーが観察された。11個すべてのクローンを新たなTSK+Kanプレート上に植菌し、プライマーSar-GFP-FおよびSar-GFP-Rを用いたPCRによって細胞を調べた。表皮ブドウ球菌細胞およびpUBTR119*-Sal-GFPプラスミドDNAを、それぞれ陰性対照および陽性対照として使用した。陰性対照以外のすべての反応において、1.1 KbのPCR産物が生成された(図3)。
【0074】
D-アラニン要求性トリプルノックアウト菌株(SEΔalr1Δalr2Δdat)を増殖させて、TSB培地にD-アラニン(40μg/mL)を添加する以外はNRRL B-4268と同じプロトコールを用いて、形質転換コンピテント細胞を調製した。pUBTR119*-Sal-GFPは、選択マーカーとしてカナマイシン耐性遺伝子およびアラニンラセマーゼ遺伝子を両方含む。TSA+Kan (μg/mL)上でのカナマイシン選択、ならびにTSA上でのD-アラニン要求性の補完に基づいて、プラスミドをトリプル遺伝子ノックアウト変異株に導入して形質転換した。プレートを37℃にて培養した。一晩培養後コロニーが観察された:カナマイシン選択プレート上では880 ngプラスミドDNAの形質転換から3コロニー、ならびにTSAプレート上では同量のプラスミドDNAから25コロニー。D-アラニン要求性補完を用いた表皮ブドウ球菌の形質転換のほうが、カナマイシン選択を用いた形質転換よりも効率的に機能すると考えられる。新たなプレートに植菌後、28個すべてのコロニーが増殖可能であった。それらはすべて、gfp遺伝子に特異的なプライマーを用いたPCRによっても確認された(図4)。
【0075】
GFP発現のための細胞培養
pUBTR119*Sal-GFP構築物で形質転換されたSEトリプルノックアウト株でのタンパク質発現を評価するために、振盪フラスコ実験を計画した。この実験に使用する菌株および培地を表3に示す。枯草菌(B. subtilis)および表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)における増殖およびタンパク質発現のための振盪フラスコ培養プロトコールを以下に示す。記載の培地からグルコースを除いた培地5 mLに菌株を植菌し、37℃、225 rpmにて一晩増殖させた。一夜培養物(0.5 mL)を用いて、250-mLバッフル付きフラスコ内の2 %グルコースを添加した記載の培地50 mLに植菌した。培養物は37℃、225 rpmにて24時間増殖させた。すべての菌株が良好な増殖を示した。培養ブロスは、Eppendorf Centrifuge 5417C において13,000 rpm (17,900 x g)で3分間1.5 mL培養物を遠心分離することによって集められた。図5はHisタグ融合タンパク質を検出するためのウェスタンブロットを示す。
【0076】
【表3】
【0077】
次に、C末端Hisタグを有するGFPを検出するためにSDS-PAGEおよびウェスタンブロットのプロトコール(下記)を実施した。分泌型Hisタグ融合GFPタンパク質は、252個のアミノ酸残基を含有し、その分子量は29 kDaである。4-12 %タンパク質ゲルを泳動して染色したが、予測されたサイズのタンパク質バンドは観察されなかった(データは示さない)。サンプルを16 %タンパク質ゲルで泳動し、抗His抗体を用いて検出するためにメンブレンに転写した。pUBTR114-TPで形質転換された枯草菌SCK6が、N末端Hisタグを有するテストタンパク質(52 kDa)を発現して分泌することは以前に示された。-20℃で保存された培養ブロスサンプルを、陽性対照として、さまざまな希釈度でロードした: 1/1(他のサンプルとして)、1/5、1/10および1/20倍希釈。観察された視認できるバンドは、陽性対照からのものだけであった。1/20倍希釈対照ではシグナルは微弱であった。ブロット上でGFPタンパク質のシグナルは検出できなかった。したがって、この培養ではGFPは有効に発現されなかった。枯草菌においてタンパク質発現に適していると実験で試験された培地TSB + 2 %グルコースは、SarAP1プロモーターで制御されるタンパク質発現、および/またはシグナルペプチドSsaAによって駆動されるタンパク質分泌にとって、最適でない可能性がある。
【0078】
pUBTR114ベースのベクターは、表皮ブドウ球菌に導入され、形質転換に成功した。GFP発現カセットをクローニングして、pUBTR119*-Sal-GFPを構築した。ベクターは、選択マーカーとしてカナマイシン耐性遺伝子およびアラニンラセマーゼ遺伝子をいずれも含む。カナマイシン遺伝子は、望ましい時に容易に除去することができる。pUBTR119*-Sal-GFPは、カナマイシン選択を用いて、SE NRRL B-4268に導入され、形質転換に成功した。それはまた、カナマイシン選択ならびにD-アラニン要求性補完によって、トリプル遺伝子ノックアウトD-アラニン要求性変異株に導入され、形質転換した。すべてのクローンは、gfp遺伝子に特異的なプライマーを用いたPCRによって確認された。
【0079】
本実験は、表皮ブドウ球菌におけるタンパク質生産のための非抗生物質発現系の開発について開示する。初めに、2つのアラニンラセマーゼ遺伝子(alr1およびalr2)およびD-アラニンアミノトランスフェラーゼ遺伝子(dat)を次々にノックアウトすることによって、D-アラニン要求性表皮ブドウ球菌株を開発した。次に、BTRグラム陽性細菌発現ベクターが表皮ブドウ球菌を形質転換できること、ならびに宿主のD-アラニン要求性を補完することができることを評価した。発現ベクターは、枯草菌および表皮ブドウ球菌の両方で機能する、複製開始点および選択マーカーを含むことが判明した。形質転換性の高い枯草菌SCK6ΔalrAは、ベクター構築を容易にするためのクローニング宿主としての役割を果たす。Bacillus属においてベクターが構築され確認されたら、それを、タンパク質発現用D-アラニン要求性表皮ブドウ球菌株(SEΔalr1Δalr2Δdat)に導入して形質転換する。
【0080】
上記の実験は以下の方法を用いて実施されたが、それに限定されない。
【0081】
枯草菌からのプラスミド調製
ミニプレップのためにQiagen QIAprep Spin Miniprep Kit(カタログ# 27106)を使用した;ミディプレップのためにQiagen HiSpeed Plasmid Midi Kit(カタログ# 12643)を使用した。主要なポイントは、P1 Bufferにリゾチームを添加することである。
【0082】
ミニプレップ:
1. 単離されたコロニーを、必要な抗生物質を添加した5 mL LBに植菌し、37℃、225 rpmにて一晩増殖させた。
2. それぞれの一夜培養物3 mLを1.5-mLエッペンドルフチューブに取り出し、Eppendorf Centrifuge 5417C内で1分間13,000 rpmで遠心分離した。上清を廃棄した。
3. ペレットを250μL P1 Bufferに再懸濁した。リゾチームを終濃度200μg/mLとなるように添加した;新調製の10 mg/mLリゾチーム水溶液5μLを添加した。サンプルをボルテックスで攪拌し、37℃にて30分間インキュベートした。
4. メーカーのハンドブックで指示される通り、残りのプロトコールに従う。
【0083】
枯草菌株SCK6のコンピテント細胞の調製および形質転換
SCK6コンピテント細胞調製
1. -80℃グリセロール保存バイアルから、単離するためにLBプレート上にSCK6を画線する。37℃にて一晩インキュベートする。
2. 単離されたコロニーを、18x150 mm ガラス管に入った5 mL LBに植菌する。37℃にて225 rpmで一晩振盪する。
3. 一夜培養物の1:100希釈物を作製し、OD600を測定する。
4. 125-mLバッフル付きフラスコ内の15 mL LB + 1% キシロース中で、培養物を、初発OD600が1.0となるまで希釈する。37℃にて225 rpmで2時間振盪する。
5. 培養物を10%グリセロール中で-80℃にて完全に凍結させる:50%グリセロール3.6 mLをフラスコに添加し、-80℃にて1.5-mLエッペンドルフチューブ内で、分取した450μLを完全に凍結させる。
【0084】
SCK6は、染色体上にエリスロマイシン耐性マーカーを有する。必要に応じて、あらゆるステップで1.0μg/mLエリスロマイシンを添加することができる。SCK6ΔalrA用には、D-アラニンを培地に40μg/mL添加する。
【0085】
形質転換プロトコール
1. コンピテント細胞を室温で融解し、それぞれの形質転換に200μLを使用する。
2. 形質転換を行うDNA(プラスミドまたはライゲーション反応液)を直接、200μLコンピテント細胞の入った1.5-mLエッペンドルフチューブに添加した。
3. エッペンドルフチューブを18x150 mmガラス管に入れ、90分間225 rpmで37℃に置いた。
4. サンプルを、必要な抗生物質を添加した1-4 LBプレート上に播種した。プレートを37℃にて一晩培養する。
【0086】
タンパク質発現のための枯草菌(Bacillus subtilis)および表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)の増殖および調製
・増殖培地:表皮ブドウ球菌および枯草菌SCK6野生型宿主用には、TSB + 20 g/Lグルコース、ならびにpUBTR114またはpUBTR119構築物の形質転換体用には、TSB + 20 g/L グルコース + 10μg/mLカナマイシン
・-80℃グリセロール擦過物を用いて、18X150 mmガラス管内の、上記の各菌株用の増殖培地5 mLに植菌する。37℃にて225 rpmで一晩増殖させる。
・0.5 mL一夜培養物を用いて、各菌株用の上記と同じ増殖培地50 mL を入れた250-mLバッフル付きフラスコに植菌する。37℃にて225 rpmで24時間増殖させる。
・それぞれの24時間培養物から2 x1.5 mLを分取して取り出すことによって、フラスコからサンプリングする。Eppendorf Centrifuge 5417C内で13,000 rpm (17,900 x g)にて3分間遠心分離する。上清を新たなエッペンドルフチューブに移し、SDS-PAGE分析および抗-Hisウェスタンブロットに使用する。ペレットも取っておく。全サンプルは-20℃で保存される。
・残りの24時間培養物のA600を測定する。
【0087】
Hisタグを含むタンパク質のためのSDS-PAGEおよびウェスタンブロット転写プロトコール使用した成分/試薬:Expedeon社より
・20X Teo-Tricine-SDS電気泳動用バッファー #B50500
・RunBlue SDSゲル 4-12%、12ウェル、10cm x 10cm #NXG41212
・10X DTT還元剤 #A32001
・4X LDSサンプルバッファー #B31010
・Invitrogen Novex Mini-Cell XCELL SureLock 電気泳動セル
・転写バッファー:20X Tris-Glycine ブロッティングバッファー # B86500
・BioRad Plus Protein Western スタンダード # 161-0376
・Genscript One-Hour Western Kit # L00204T
・Genscript Hisタグ抗体pAB、ウサギ #A00174;10ul量を-20℃にて保存
【0088】
サンプル調製:
・サンプル混合物:
○XμL サンプル
○5μL 4X LDS サンプルバッファー
○2μL 10X DTT 還元剤
○YμL 脱イオン水
○総容量=20μL
・調製ステップ:
○サンプルはボルテックスで攪拌して混合する。
○3分間煮沸する。
○短時間遠心分離して室温に冷却する。
○再度ボルテックス攪拌する。
【0089】
ゲルのセットアップおよび電気泳動:
・760 mLのMilli Q H2Oに40 mLの20X電気泳動用バッファーを添加する
・ゲルをパウチから取り出して脱イオン水ですすぐ。そのゲルを次に、プレートの短い辺が内側に向くように電気泳動ユニットにセットする。ゲルをあるべき位置に固定したら、電気泳動用バッファーを内側の容器に入れる(約200 mL)。続行する前に漏れがないか確認する。残りの電気泳動用バッファーを外側の容器に加える。
・ウェルを電気泳動用バッファーですすぐ。
・5μLのBioRad Westernスタンダードとともに、適量の調製サンプルを上からロードする。
・ゲルを、室温、150ボルトで約1時間電気泳動する(色素の先端がゲルの下端に到達するまで十分に時間をかけて泳動する)。
【0090】
転写セットアップ:
・1,000 mL転写用バッファーを作製:50 mL 20X Tris-Glycineブロッティングバッファー + 200 mL メタノール + 770 mL MQH20。転写を冷たい状態に保つためにバッファーを冷却する。
・転写用バッファーにスポンジを浸す。
・サンドイッチを構成する前に、ゲルを7分間、転写用バッファー中で平衡化し、ニトロセルロース(NC)メンブレン/ブロッティングメンブレンを10分間、転写用バッファー中で平衡化する。
・サンドイッチを構成する:パラフィルム片の上に、あらかじめ浸漬したワットマン紙片を置く。ワットマン紙の上に、あらかじめ浸漬したゲルを置く。あらかじめ浸漬したNCメンブレンをゲルの上に載せる。ガラス製パスツールピペットを用いて、気泡を除くために膜の上にそっと転がす。NCメンブレンの上にあらかじめ浸漬したワットマン紙片を載せる。再度その上をそっと撫で転がして気泡を除く。サンドイッチしたものを持ち上げて、ブロットモジュールの中にある(転写用バッファーをすべて除去するために絞っておいた)2枚のスポンジの上に置く。ゲルを1枚だけ電気泳動する場合、ユニットの約0.5 cm上にとどまるように、残りのブロットモジュールに絞ったスポンジを詰める。2枚のゲルを泳動する場合、1つめのサンドイッチの上に絞ったスポンジを置く。2つめのサンドイッチを厳密に上記のように構成する。これをスポンジの上に置く。上記のように残りのブロットモジュールにスポンジを詰める。
・十分量の転写用バッファーを用いて、ブロットモジュール内のゲル/メンブレンサンドイッチを覆う。外側のバッファー容器には約550 mL MQH20を使用する。
・室温にて30ボルトで90分間泳動する。
【0091】
ウェスタンブロット:
・GenScript One-Hour Western Kitプロトコール;TMB基質でシグナル発色。
・10μL 抗-His Ab + 100μL WB-1;50μL/ゲルを使用
【0092】
均等物
当業者は、本明細書に記載の、本発明の具体的な実施形態に対する多くの均等物を認識し、日常の実験だけを用いて確認することができるであろう。このような均等物は以下の特許請求の範囲に含まれるものとする。
【0093】
参考文献
Bose JL et al., 2013. Genetic tools to enhance the study of gene function and regulation in Staphylococcus aureus. Applied and Environmental Microbiology 79:2218-2224.
Jentsch S. 1983. Restriction and modification in Bacillus subtilis: Sequence specificities of restriction/modification systems BsuM, BsuE, and BsuF. Journal of Bacteriology. 156:800-808.
Kost C. et al., 2012. PLOS One. Vol. 7, Issue 7. E41349.
Moscoso M et al., 2017. Protective efficacy of a D-alanine auxotroph Staphylococcus aureus as a vaccine candidate against staphylococcal disease. 27th ECCMID, April 22, 2017, Vienna, Austria.
Pucci M.J. et al., 1992. J of Bacteriology. p.336-342.
Thompson R et al., 1998. Pathogenicity and immunogenicity of a Listeria monocytogenes strain that requires D-alanine for growth. Infection and Immunity 66:3552-3561.
【0094】
配列表
SEQUENCE LISTING

<110> AZITRA INC

<120> AUXOTROPHIC STRAINS OF STAPHYLOCOCCUS BACTERIUM

<130> PA23-642

<150> US62/614,096
<151> 2018-01-05

<160> 12

<170> PatentIn version 3.5

<210> 1
<211> 32
<212> DNA
<213> Artificial Sequence

<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
primer

<400> 1
atgcgaattc atgagcgata cttatttgaa tc 32


<210> 2
<211> 44
<212> DNA
<213> Artificial Sequence

<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
primer

<400> 2
ctatgcgatt gaatatactt ttccttagca tcctcttcat taac 44


<210> 3
<211> 44
<212> DNA
<213> Artificial Sequence

<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
primer

<400> 3
gttaatgaag aggatgctaa ggaaaagtat attcaatcgc atag 44


<210> 4
<211> 31
<212> DNA
<213> Artificial Sequence

<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
primer

<400> 4
agctgtcgac agcagcatac caatgtcaat c 31


<210> 5
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence

<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
primer

<400> 5
catacgaaga tcgaggctac 20


<210> 6
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence

<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
primer

<400> 6
gtaccaactt gtccgtcttg 20


<210> 7
<211> 22
<212> DNA
<213> Artificial Sequence

<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
primer

<400> 7
ttgatttaga caattggaag ag 22


<210> 8
<211> 21
<212> DNA
<213> Artificial Sequence

<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
primer

<400> 8
aagtacagtc ggcattatct c 21


<210> 9
<211> 37
<212> DNA
<213> Artificial Sequence

<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
primer

<400> 9
tttacatatg attcagaaac gtaagcggac agtttcg 37


<210> 10
<211> 40
<212> DNA
<213> Artificial Sequence

<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
primer

<400> 10
tttttcttgg aattgtgctg cctgcaggtt agtgatggtg 40


<210> 11
<211> 35
<212> DNA
<213> Artificial Sequence

<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
primer

<400> 11
acgtctcgag ctgatatttt tgactaaacc aaatg 35


<210> 12
<211> 33
<212> DNA
<213> Artificial Sequence

<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
primer

<400> 12
ctgacctgca ggagatgatc cgctactaac gac 33
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
【配列表】
2024028933000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-01-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの不活化アラニンラセマーゼ遺伝子(alr1およびalr2):および
不活化されたD-アラニンアミノトランスフェラーゼ遺伝子(dat)
を含む、組換えブドウ球菌属(Staphylococcus)細菌。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0092
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0092】
均等物
当業者は、本明細書に記載の、本発明の具体的な実施形態に対する多くの均等物を認識し、日常の実験だけを用いて確認することができるであろう。このような均等物は以下の特許請求の範囲に含まれるものとする。
本明細書は以下の実施形態を包含する。
[1]2つの不活化アラニンラセマーゼ遺伝子(alr1およびalr2):および
不活化されたD-アラニンアミノトランスフェラーゼ遺伝子(dat)
を含む、組換えブドウ球菌属(Staphylococcus)細菌。
[2]ブドウ球菌属細菌がその増殖をD-アラニンに依存する、[1]に記載の組換えブドウ球菌属細菌。
[3]ブドウ球菌属細菌が表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis (S. epidermidis))、およびその亜種である、[1]に記載の組換えブドウ球菌属細菌。
[4]ブドウ球菌属細菌が、1つまたは複数の追加変異をさらに含む、[1]に記載の組換えブドウ球菌属細菌。
[5]追加変異が、不活化されたグルタミン酸ラセマーゼ遺伝子、MurIを含む、[4]に記載の組換えブドウ球菌属細菌。
[6]細菌がpUBTR114ベースのベクターで形質転換されている、[1]~[5]のいずれか1つに記載の組換えブドウ球菌属細菌。
[7]pUBTR114ベースのベクターがpUBTR119*-Sal-GFPである、[6]に記載の組換えブドウ球菌属細菌。
[8]組換えブドウ球菌属細菌を作製する方法であって:
(i) D-アラニンアミノトランスフェラーゼ(dat)ノックアウトを含むプラスミドを、ブドウ球菌属菌株のコンピテント細胞に導入して形質転換すること、ここで、前記ブドウ球菌属菌株は不活性のアラニンラセマーゼ遺伝子alr1およびalr2を含む(SEΔalr1Δalr2);
(ii) 形質転換細胞においてノックアウトプラスミドの存在を検出すること;
(iii) ステップ(ii)で同定された形質転換細胞を培養すること;ならびに
(iv) 単離されたコロニーを精製すること
を含む、前記方法。
[9]単離されたコロニーのD-アラニン要求性を試験することをさらに含む、[8]に記載の方法。
[10]形質転換体におけるノックアウトプラスミドの存在を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって検出する、[8]に記載の方法。
[11]組換えブドウ球菌属細菌が、表皮ブドウ球菌およびその亜種である、[8]に記載の方法。
[12]組換えブドウ球菌属細菌をpUBTR114ベースのベクターで形質転換することをさらに含む、[8]に記載の方法。
[13]pUBTR114ベースのベクターがpUBTR119*-Sal-GFPである、[12]に記載の方法。
[14][8]に記載の方法によって作製される、組換えブドウ球菌属細菌。
[15][1]~[8]および[14]のいずれか1つに記載の組換えブドウ球菌属細菌を含むキット。
[16]pUBTR114ベースのベクターをさらに含む、[15]に記載のキット。