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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028973
(43)【公開日】2024-03-05
(54)【発明の名称】分割スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20240227BHJP
【FI】
C23C14/34 A
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023210587
(22)【出願日】2023-12-13
(62)【分割の表示】P 2021537262の分割
【原出願日】2020-07-30
(31)【優先権主張番号】P 2019146719
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】矢野 智泰
(72)【発明者】
【氏名】打田 龍彦
(72)【発明者】
【氏名】寺村 享祐
(57)【要約】      (修正有)
【課題】スパッタリング処理の際に、バッキングプレートの構成材料が成膜する薄膜中に混入することを抑制し得る分割スパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】基体10と、前記基体の表面上に、隣接するターゲット部材20a、20b、20c、20dどうしが隙間30を開けて配置された複数のターゲット部材と、前記基体の表面と、前記複数のターゲット部材との間に設けられた接合材と、互いに隣接するターゲット部材の隙間から前記基体表面がスパッタリングされないように、少なくとも前記隙間を覆うように前記基体の表面上に設けられた保護部材40と、を備えた分割スパッタリングターゲットであって、前記保護部材は、第1方向に延在する第1部分401と、前記第1方向と交差する方向に延在する第2部分402と、前記第1部分及び前記第2部分とを繋ぐ第3部分403とを有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体の表面上に、隣接するターゲット部材どうしが隙間を開けて配置された複数のターゲット部材と、
前記基体の表面と、前記複数のターゲット部材との間に設けられた接合材と、
互いに隣接するターゲット部材の隙間から前記基体表面がスパッタリングされないように、少なくとも前記隙間を覆うように前記基体の表面上に設けられた保護部材と、
を備えた分割スパッタリングターゲットであって、
前記保護部材は、第1方向に延在する第1部分と、前記第1方向と交差する方向に延在する第2部分と、前記第1部分及び前記第2部分とを繋ぐ第3部分とを有する、分割スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記第1部分と前記第2部分と前記第3部分とが一体的に形成されている、請求項1に記載の分割スパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記第1部分と前記第2部分とが同一材料により構成されており、前記第3部分が、前記第1部分および前記第2部分とは異なる材料により構成されている、請求項1に記載の分割スパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記第1部分の延在方向と前記第2部分の延在方法が直交するように交差している、請求項1または2に記載の分割スパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記第1部分と前記第2部分とを繋ぐ第3部分がアール部分を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の分割スパッタリングターゲット。
【請求項6】
前記保護部材が2層以上の積層構造を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の分割スパッタリングターゲット。
【請求項7】
前記保護部材の最表面層がセラミックス材料または高分子材料から構成される、請求項6に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項8】
前記セラミック材料が、In、Zn、Al、Ga、Zr、Ti、Sn、Y、及びMgからなる群より選択される少なくとも一種以上を含む酸化物、窒化物、フッ化物、又はオキシフッ化物である、請求項7に記載の分割スパッタリングターゲット。
【請求項9】
前記ターゲット部材は略矩形形状を有する平板である、請求項1~8のいずれか一項に記載の分割スパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割スパッタリングターゲットに関し、より詳細には、隣接するターゲット部材同士の間隙に保護部材を設けてバッキングプレートが露出しないようにした分割スパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スパッタリング法は、情報機器、AV機器、家電製品等の各電子部品を製造する際に多用されており、例えば、液晶表示装置などの表示デバイスには、薄膜トランジスタなどの半導体素子がスパッタリング法により形成されている。透明電極層などを構成する薄膜を、大面積で、高精度に形成する製法として、スパッタリング法が極めて有効なためである。
【0003】
ところで、最近の半導体素子においては、アモルファスシリコンに代わって、IGZO(In-Ga-Zn-O)に代表される酸化物半導体が着目されている。そして、この酸化物半導体についても、アモルファスシリコンと同様にスパッタリング法を利用して酸化物半導体薄膜を成膜することが望まれる。しかしながら、スパッタリングに用いる酸化物半導体のスパッタリングターゲットでは、その素材がセラミックであることから、大面積のターゲットを一枚のターゲット部材で構成することが難しい。そのため、ある程度の大きさを有する酸化物半導体ターゲット部材を複数準備し、所望の大きさを有するバッキングプレートと呼ばれる基体上に、各酸化物半導体ターゲット部材を配置し、基体と各ターゲット部材とを接合することで、大面積の酸化物半導体スパッタリングターゲットが製造されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このスパッタリングターゲットのバッキングプレートは、通常、銅製または銅合金製であり、バッキングプレートとターゲット部材との接合には、In系やSn系金属等の熱伝導が良好な低融点ハンダが使用されている。例えば、大面積の酸化物半導体スパッタリングターゲットを製造する際は、所望面積を有するバッキングプレートを準備し、そのバッキングプレート表面を複数の区画に分け、その区画に合う面積を有する酸化物半導体ターゲット部材を複数準備する。そして、バッキングプレート上に複数のターゲット部材を配置し、低融点ハンダを介して各ターゲット部材をバッキングプレートに接合することが行われる。この接合の際、バッキングプレートとターゲット部材との熱膨張の差を考慮して、隣接するターゲット部材同士の間には、室温時に0.1mm~1.0mmの間隙ができるように調整して配置される。
【0005】
このような複数の酸化物半導体ターゲット部材を接合した分割スパッタリングターゲットでは、上記のように各ターゲット部材同士の間に隙間を設けて配置しているため、スパッタリング処理中にターゲット部材間の間隙からバッキングプレートもスパッタリングされて、形成する酸化物半導体の薄膜中に、バッキングプレート材料が混入するという問題が懸念される。そのため、各ターゲット部材の端部断面が傾斜するように加工して、スパッタリング処理時にプラズマがバッキングプレート表面まで到達しないようにしたり(例えば、特許文献2等)、また、隣接するターゲット部材同士の間隙に保護部材を設けてバッキングプレートが露出しないようにしたりすることが行われている(例えば、特許文献3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-232580号公報
【特許文献2】特開平2-254164号公報
【特許文献3】国際公開第2012/063524号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したような分割スパッタリングターゲットにおいて、特許文献2等で提案されている手法は分割ターゲット部材同士の隙間に保護部材を設ける必要がないものの、分割ターゲット部材の端部を加工する必要があるため簡便な手法とはいえない。そのため特許文献3等で提案されている手法が一般的に適用されている。
【0008】
特許文献3等で提案されている手法、即ち、隣接するターゲット部材同士の間隙に保護部材を設ける手法においては、矩形状の大面積バッキングプレート表面に枚葉のターゲット部材を配置する場合、長尺状の保護部材を準備しておき、これを所望の長さに切断し、例えば図3に示すように、第1方向に延在する第1部分の保護部材と、第1方向と交差する方向に延在する第2部分の保護部材とを作製する。次いで、各保護部材をバッキングプレートに貼り合わせて、保護部材を設けた部分にターゲット部材同士の間隙が対応するようにして、接合材を介して各ターゲット部材を貼り合わせることによりスパッタリングターゲットを製造することができる。
【0009】
上記のようにして製造された分割スパッタリングターゲットは、図3に示すように保護部材の第1部分と第2部分との間が接合されておらず厳密には隙間(界面)が存在している。そのため、ターゲット部材を貼り合わせた状態でも保護部材の隙間が露出し、スパッタリング処理時にバッキングプレートの構成材料が、成膜する薄膜中に混入する場合があった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、スパッタリングの際に、バッキングプレートの構成材料が薄膜中に混入することを抑制し得る分割スパッタリングターゲットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、このような課題に対して検討したところ、保護部材の第1部分と第2部分とを繋ぐ第3部分を設けることにより、スパッタリング処理時に、バッキングプレートの構成材料が薄膜中に混入することを抑制できるとの知見を得た。本発明は係る知見によるものである。本発明によれば、以下の分割スパッタリングターゲットが提供される。
【0012】
本発明による分割スパッタリングターゲットは、
基体と、
前記基体の表面上に、隣接するターゲット部材どうしが隙間を開けて配置された複数のターゲット部材と、
前記基体の表面と、前記複数のターゲット部材との間に設けられた接合材と、
互いに隣接するターゲット部材の隙間から前記基体表面がスパッタリングされないように、少なくとも前記隙間を覆うように前記基体の表面上に設けられた保護部材と、
を備えた分割スパッタリングターゲットであって、
前記保護部材は、第1方向に延在する第1部分と、前記第1方向と交差する方向に延在する第2部分と、前記第1部分及び前記第2部分とを繋ぐ第3部分とを有するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第1方向に延在する第1部分と、前記第1方向と交差する方向に延在する第2部分と、前記第1部分及び前記第2部分とを繋ぐ第3部分とを有する保護部材を用いることにより、スパッタリングの際に、バッキングプレートの構成材料が薄膜中に混入することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の分割スパッタリングターゲットの一実施形態を示す斜視図。
図2図1の分割スパッタリングターゲットを製造する際のターゲット部材を貼り合わせる前の状態を示した平面図。
図3】従来の分割スパッタリングターゲットにおける保護部材の第1部分と第2部分とが交差する部分の平面拡大図。
図4】本発明の分割スパッタリングターゲットにおける保護部材の第1部分と第2部分とが交差する部分の平面拡大図。
図5】保護部材の第1部分と第2部分とが交差する部分の他の実施形態を示した平面拡大図。
図6】保護部材の第1部分と第2部分とが交差する部分の他の実施形態を示した平面拡大図。
図7】保護部材の第1部分と第2部分とが交差する部分の他の実施形態を示した断面拡大図。
図8】保護部材の第1部分と第2部分とが交差する部分の他の実施形態を示した斜視図。
図9図1に示した分割スパッタリングターゲットのA-A’断面図。
図10】実施例1において作製した保護部材の形状を示す外観図。
図11】実施例1において作製した保護部材をバッキングプレートの表面に貼り合わせた状態を説明する斜視図。
図12】実施例1において作製した分割スパッタリングターゲットの斜視図。
図13】実施例2において作製した保護部材の形状を示す外観図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態による分割スパッタリングターゲットを、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の分割スパッタリングターゲットの一実施形態を示した斜視図であり、図2は、図1の分割スパッタリングターゲットを製造する際のターゲット部材を貼り合わせる前の状態を上面から見た平面図である。本発明の分割スパッタリングターゲット1は、基体10と、基体10の表面上に、隣接するターゲット部材20どうしが隙間30を開けて配置された複数のターゲット部材20a、20b、20c、20dとを備えている。図1に示した分割スパッタリングターゲットは、4枚のターゲット部材から構成されているが、基体10の大きさによっては6枚以上のターゲット部材により構成されていてもよい。
【0016】
4枚のターゲット部材20a、20b、20c、20dの間に設けられる隙間の幅は、基体10とターゲット部材との熱膨張率差を考慮して調整されるが、概ね0.1~1.0mm程度の隙間を設けて各ターゲット部材が配置される。
【0017】
4枚のターゲット部材20a、20b、20c、20dは、一定の隙間30を設けて基体10の表面上に配置されるが、図2に示すように、少なくとも隙間30を覆うように基体10の表面上に保護部材40(401、402、403)が設けられている。保護部材40(401、402、403)が基材10の表面上に設けられていることにより、互いに隣接するターゲット部材20の隙間30から基体10がスパッタリングされるのを防止することができる。保護部材40は、各ターゲット部材20同士間に形成される間隙30に相当する位置に、低融点ハンダや導電性両面テープなどを用いて、基体10の表面に貼着することができる。
【0018】
各ターゲット部材20は、接合材(図示せず)を用いて基体10と接合されている。接合材としては、特に制限なく公知の接合材を使用することができ、例えばInやSnの低融点ハンダを好適に使用することができる。基体10と各ターゲット部材20との接合は、基体10と各ターゲット部材20とを接合材が溶融する温度まで加熱しておき、接合材を基体10の表面に塗布し、各ターゲット部材20を溶融した接合材上に配置し、室温まで冷却することにより行われる。
【0019】
図4は、本発明の分割スパッタリングターゲットにおける保護部材の第1部分と第2部分とが交差する部分の平面拡大図である。保護部材40は、図4に示すように、第1方向(図4においては左右方向)に延在する第1部分401と、第1方向と交差する方向(図4においては上下方向)に延在する第2部分402と、第1部分401及び第2部分402とを繋ぐ第3部分403とを有する。従来の分割スパッタリングターゲットでは、例えば図1に示すような分割スパッタリングターゲットを製造する際、保護部材401に相当するような保護部材(第1部材)と、保護部材402に相当するような保護部材(第2部材)を準備しておき、図3に示すようにして基体の表面に貼り合わせていた。そのため、保護部材の第1部材と第2部材とが繋がっておらず、両者を隙間が生じないように配置したとしても、保護部材の第1部材と第2部材との間に隙間(界面)が存在し、スパッタリングを行った際にバッキングプレートの構成材料が、薄膜中に混入する場合があった。本発明においては、図4に示すように、第1部分401と第2部分402とを繋ぐ第3部分403を設けることにより、第1部分401と第2部分402との隙間(界面)がなくなり、スパッタリングの際にバッキングプレートの構成材料が、薄膜中に混入することを抑制することができる。
【0020】
図4に示したような保護部材は、例えば、第1部分401と第2部分402とを第3部分403により繋げることにより形成することができる。保護部材は後述するようにセラミック材料または高分子材料を用いて形成することができるが、セラミック材料からなる第1部分401及び第2部分402を同種のセラミック材料で溶接することによって第3部分403により繋げてもよいし、高分子材料からなる第1部分401及び第2部分402を同種の高分子材料を溶融させて第3部分403により繋げてもよい。
【0021】
また、一実施形態において、保護部材は、図5に示すように第1部分401と第2部分402と第3部分403とが一体的に形成されていてもよい。図5に示すような一体的に形成された保護部材は、例えば、平板状のセラミック材料または高分子材料を、図5のような十文字の形状となるように切り出すことにより得ることができる。平板状の材料から切り出して保護部材を一体的に形成する場合は、図6に示すように、第1部分401と第2部分402とを繋ぐ第3部分403がアール部分Rを有するように加工することが好ましい。第1部分401と第2部分402との交差部をアール加工することにより、バッキングプレートの構成材料が、薄膜中に混入することをより一層抑制することができる。
【0022】
なお、図4図6では、保護部材として、第1部分の延在方向と第2部分の延在方法とが直交するように交差している実施形態(即ち、十文字状の保護部材)を示したが、これに限定されるものではなく、各ターゲット部材40の間に形成される隙間30の形状に対応する形状とすることができる。
【0023】
また、保護部材の別の実施形態として、図7に示すように、第1部分401と第2部分402とを繋ぐ第3部分403が、第2部分402と一体的に形成されていてもよい。即ち、第1部分401と第2部分402との交差部において、第3部分403が第1部分401を覆うように第2部分402と一体的に形成されていてもよい。図7に示したような実施形態による保護部材は、例えば、長尺状の保護部材を2つ準備し(401と402)、十文字状になるように2つの保護部材(401と402)を重ね合わせることに作製することができる。この場合、2つの保護部材が重なった部分を第3部分403とみなすことができる。なお、図7は、保護部材の第1部分と第2部分とが交差する部分の他の実施形態を示した断面拡大図であるが、基体10と保護部材40とを貼着する際の低融点ハンダや導電性両面テープなどの貼着材は図示していない。
【0024】
図7に示した保護部材では、第3部分403が第1部分401を覆うように第2部分402と一体的に形成されているため、第2部分402の上面と第3部分403の上面との間に段差が生じる。保護部材40の一部には、図2に示したようにターゲット部材が配置されることになるため、段差がある場合には、段差を埋める程度まで接合材を適用する必要がある。
【0025】
上記のように、長尺状の保護部材を2つ準備し(401と402)、十文字状になるように2つの保護部材(401と402)を重ね合わせる場合は、第1部分401と第2部分402との交差部での段差を解消するよう、図8のように、第1部材401一部に切り欠き401Aを形成し、第2部材402の一部にも切り欠き402Aを形成しておき、互いの切り欠き401A及び402Aとを嵌合することで、一体的な保護部材40を形成してもよい。
【0026】
図9に、図1に示した分割スパッタリングターゲット1のA-A’断面図を示す。上記したように、基体10の表面には、保護部材40(第1部材401)が貼着されており(貼着材は図示せず)、保護部材40(第1部材401)の厚さと同程度となるように接合材50が設けられ、その上に、所定の隙間を開けてターゲット部材20a、20bが配置されている。
【0027】
基体10は、バッキングプレートとも呼ばれ、その材料としては、公知のスパッタリングターゲットに使用されるバッキングプレートと同様の材料を特に制限なく使用することができ、例えば、銅系材料、チタン系材料、アルミニウム系材料等の導電性に優れ、かつ、熱伝導性に優れた材料を使用することができる。図9において図示していないが、基体10の背面側(即ち、ターゲット部材20a、20bが設けられる側と反対側)には、冷却機構を設けて基体10を介してターゲット部材20a、20bを間接的に冷却できるように構成してもよい。
【0028】
本発明における分割スパッタリングターゲットは、図1等に示した平板状のものに限られず、円筒状の形状であってもよい。平板状の分割スパッタリングターゲットは、平板状の基体上に、略矩形形状を有する平板状のターゲット部材を複数平面配置して接合したものとなる。一方、円筒状のスパッタリングターゲットでは、円筒状基体の周囲に、円筒状ターゲット部材(中空円柱)を複数貫通させて、円筒状基体の円柱軸方向に多段状に配置して接合したもの、又は中空円柱を円柱軸方向に縦割りした湾曲状ターゲット部材を、円筒状基体の外側面へ、円周方向に複数並べて、接合したものとなる。これら平板状又は円筒状の分割スパッタリングターゲットは、大面積のスパッタリング装置に好適に使用することができる。
【0029】
複数の分割スパッタリングターゲットを配置する場合、隣接する各分割スパッタリングターゲット間の隙間は、使用する基材(バッキングプレート)とスパッタリングターゲットとの熱膨張の差や分割スパッタリングターゲットの大きさにもよるが、通常、室温時に0.1mm~1.0mmの間隙ができるように調整して配置される。
【0030】
ターゲット部材についてもその形状に制限はないが、平板状の分割スパッタリングターゲットとする場合には、略矩形形状を有する平板状のターゲット部材を複数使用することが好ましい。また、ターゲット部材の組成についても特に制限はなく、例えばIGZO、ZTO、ITO等の酸化物やAl等の金属を適用でき、その組成にも制限はない。
【0031】
保護部材を構成する材料としては、Zn、Ti、Sn等の金属材料、In、Zn、Al、Ga、Zr、Ti、Sn、Y、Mgのいずれか一種以上を含む酸化物、窒化物、フッ化物、又はオキシフッ化物からなるセラミックス材料、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂等の高分子材料が挙げられるが、これらのなかでもセラミックス材料や高分子材料を好ましく使用することができる。
【0032】
図9に示した分割スパッタリングターゲットの保護部材は単層であるが、保護部材は2層以上の積層構造を有するものであってもよい。その場合、保護部材の最表面層が上記したセラミックス材料や高分子材料から構成されることが好ましい。例えば、Zn、Ti、Sn、Cu、SUS等の金属材料からなる下層及びセラミックス材料や高分子材料からなる上層の2層構造を有する保護部材としてもよい。なお、上層にセラミックス材料を用いる場合は、金属材料からなる下層に、蒸着法、スパッタリング法、プラズマ溶射法、塗布法などを利用してセラミックス材料からなる上層を形成することができる。
【0033】
保護部材を上記のように異種材料からなる2層以上の積層構造とした場合において、図4に示したように第1部分401と第2部分402とを繋ぐ第3部分403を溶接にて形成する際は、保護部材を冷却しながら温度上昇をモニターするなどして、保護部材にできるだけ熱の影響が及ばないようにすることが好ましい。このように接合することにより、異種材料を積層した場合であっても両材料の熱膨張差による層間の剥離を抑制することができる。部分的に保護部材が剥離していると、基材が露出したり、保護部材の下層が露出し、場合によってはスパッタリングした際に、基材や保護部材の下層の構成材料が成膜する薄膜中に混入する恐れがある。
【0034】
保護部材の厚みは、0.0001mm~1.0mmが好ましい。また、保護部材の幅は、隣接するターゲット部材間に形成される間隙を覆うことができる程度であれば特に制限されるものではないが、作業性などを考慮すると、5mm~20mmが好ましく、10~20mmがより好ましい。
【0035】
本発明の分割スパッタリングターゲットは、直流スパッタ法、高周波スパッタ法のいずれにおいても適用できるが、パーティクルの発生を抑制できるため、特に直流スパッタ法において好適である。
【実施例0036】
次に本発明の実施形態について以下の実施例を参照して具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
<バッキングプレートの準備>
バッキングプレートとして、直径110mm、厚さ6mmの銅製の板を準備した。
【0038】
<ターゲット部材の準備>
In、Ga、及びZnOの各原料粉末をモル比で1:1:2の比率となるように秤量して混合し、ボールミルにより20時間の混合処理を行った。次いで、バインダーとして4質量%に希釈したポリビニルアルコール水溶液を、混合処理を行った原料粉末の総量に対して8質量%となるように添加して混合した後、500kgf/cmの圧力で成型した。その後、大気中1450℃、8時間の焼成処理を行うことにより、板状の焼結体を得た。得られた焼結体の両面を平面研削機により研磨して、直径101mm、厚さ5mmのIGZOターゲット部材を作製した。得られた円形状のターゲット部材を、中心角が90度である円弧となるように切断し、4枚の円弧形状の部材に分割した。
【0039】
<保護部材の準備>
厚み0.3mmの銅板を準備し、その銅板の一方の表面にZrOを溶射することにより、上層がZrO、下層がCuからなる2層構造の保護部材1を作製した。
【0040】
<実施例1>
上記のようにして得られた保護部材1を幅20mm、長さ110mmのものを1枚、幅20mm、長さ45mmのものを2枚準備した。続いて、これら3枚の保護部材を、図10に示したような十文字となるように、配置し、長い方の保護部材と短い方の保護部材とを溶接により繋ぎ合わせた。なお、溶接は、溶接幅を狭くできる溶接棒を使用するとともに、保護部材の温度上場をモニターしながら慎重に行った。
【0041】
次いで、上記のようにして十文字形状とした保護部材1を、図11に示すように、バッキングプレートの表面に接着剤を介して貼り合わせた。
続いて、図12に示すように、バッキングプレート上にInからなる低融点ハンダ(図示せず)を介して4枚のターゲット部材を接合し、分割スパッタリングターゲットを作製した。この際、互いのターゲット部材の隙間が0.5mmとなるように各ターゲット部材を配置した。
【0042】
<実施例2>
保護部材として、保護部材1から図13に示すような十文字状の形状となるように切り出したものを使用した以外は実施例1と同様にして、分割スパッタリングターゲットを作製した。
【0043】
<実施例3>
保護部材1の作製において、銅板の一方の表面にZrOを溶射することに代えてAlを溶射した以外は同様にして保護部材2を作製した。次いで、保護部材1に代えて保護部材2を使用した以外は実施例1と同様にして、分割スパッタリングターゲットを作製した。
【0044】
<比較例1>
長い方の保護部材と短い方の保護部材とを溶接により繋ぎ合わせなかった以外は、実施例1と同様にして、分割スパッタリングターゲットを作製した。なお、この時の長い方の保護部材と短い方の保護部材との隙間は、0.8mmであった。
【0045】
<スパッタ評価試験>
上記のようにして得られた各分割スパッタリングターゲットについて、以下のようなスパッタ評価試験を行った。
先ず、スパッタリング装置(EX-3013M、真空機器工業株式会社製)を用いてガラス基板(EAGLE XG(登録商標)、コーニング社製)に厚み14μmのIGZO薄膜を成膜した。続いて、成膜したガラス基板から、分割スパッタリングターゲットの十文字の交差部分に相当する直上部分を切り出した。
切り出したガラス基板表面の薄膜について原子吸光分析を行い、IGZO薄膜中のCuの混入量を測定した。各分割スパッタリングターゲットを用いて製膜したIGZO薄膜中のCu量は表1に示すとおりであった。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、第1方向に延在する第1部分と、第1方向と交差する方向に延在する第2部分と、第1部分及び第2部分とを繋ぐ第3部分とを有するような保護部材とした場合(実施例1~3)は、IGZO薄膜へのCuの混入量は2質量ppm未満(原子吸光分析の検出限界以下)であった。これに対して、第1部分及び第2部分を繋ぐ第3部分を有しない従来の保護部材とした場合(比較例1)は、IGZO薄膜へのCuの混入量は交差部分で15質量ppmであった。
【0048】
以上の評価結果から、本発明の分割スパッタリングターゲットによれば、成膜する薄膜への不純物の混入を効果的に防止することが可能となることがわかる。よって、大面積の薄膜を形成する際に、本発明の分割スパッタリングターゲットは有用であるといえる。
【符号の説明】
【0049】
1 分割スパッタリングターゲット
10 基体(バッキングプレート)
20、20a、20b、20c、20d ターゲット部材
30 隙間
40 保護部材
50 接合材
401 保護部材の第1部分
402 保護部材の第2部分
403 保護部材の第3部分
401A 第1部分の切り欠き
402A 第2部分の切り欠き
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13