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特開2024-28999磁性体被覆導線および磁性体被覆導線の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028999
(43)【公開日】2024-03-05
(54)【発明の名称】磁性体被覆導線および磁性体被覆導線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20240227BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240227BHJP
   H01F 5/06 20060101ALI20240227BHJP
   H01F 41/12 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
H01B7/00 304Z
H01B13/00 511Z
H01F5/06 Q
H01F5/06 H
H01F41/12 E
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212191
(22)【出願日】2023-12-15
(62)【分割の表示】P 2020005767の分割
【原出願日】2020-01-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和元年に学会で発表
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(72)【発明者】
【氏名】水野 勉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光秀
(72)【発明者】
【氏名】卜 穎剛
(57)【要約】      (修正有)
【課題】製造が容易で特性が均質でしかも安定な磁性体被覆導線および磁性体被覆導線の製造方法を提供する。
【解決手段】導線2の表面に、バインダ3aと磁性粉3bを含むテープまたはシート状の磁性体3で被覆され、磁性体の表面に、テープ状の絶縁体4が、その幅よりも狭いピッチでらせん状に巻回して設けられた磁性体被覆導線1であって、バインダは、熱硬化性を、絶縁体は熱収縮性をそれぞれ有し、磁性体は、絶縁体により導線の中心に向かって均等に締め付けられ、圧縮され、かつ、固化されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線の表面に、バインダと磁性粉を含むテープまたはシート状の磁性体が被覆され、
前記磁性体の表面に、テープ状の絶縁体が、その幅よりも狭いピッチでらせん状に巻回して設けられた磁性体被覆導線であって、
前記バインダは熱硬化性を、前記絶縁体は熱収縮性をそれぞれ有し、
前記磁性体は、前記絶縁体により前記導線の中心に向かって均等に締め付けられ、圧縮、固化されている、磁性体被覆導線。
【請求項2】
前記磁性粉は球形であり、前記磁性体は、球径が最大径で前記磁性体の厚さの0.05~1.0倍の磁性粉を含有することを特徴とする、請求項1に記載の磁性体被覆導線。
【請求項3】
前記磁性体は前記絶縁体の幅より狭い幅のテープ状の磁性体がらせん状に巻回して設けられたことを特徴とする、請求項1または請求項2のいずれかに記載の磁性体被覆導線。
【請求項4】
前記磁性体の比透磁率は9~30であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の磁性体被覆導線。
【請求項5】
前記絶縁体はポリエチレンテレフタレート樹脂を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の磁性体被覆導線。
【請求項6】
導線と、熱硬化性のバインダと磁性粉とを含むテープまたはシート状の磁性体と、熱収縮性を有するテープ状の絶縁体とを用意するプロセスと、
前記磁性体で前記導線を被覆するプロセスと、
前記磁性体による被覆と併せて、前記絶縁体を、その幅よりも狭いピッチでらせん状に巻回するプロセスと、
加熱処理を行うプロセスと、を含み、
前記加熱処理を行うプロセスは、前記磁性体を厚みが維持できる程度に固化されるまで加熱するプロセスと、前記導線に前記絶縁体が巻回された後に前記前記絶縁体とともに加熱するプロセスに分けられる、磁性体被覆導線の製造方法。
【請求項7】
前記導線を被覆するプロセスは、前記導線に対してテープ状の磁性体をらせん状に巻回することを特徴とする請求項6に記載の磁性体被覆導線の製造方法。
【請求項8】
前記磁性体は前記絶縁体と予め貼り合わされた後、前記導線に対してらせん状に巻回することを特徴とする請求項7に記載の磁性体被覆導線の製造方法。
【請求項9】
前記導線を被覆するプロセスは、前記導線に対して前記テープ状の磁性体を平行に巻き包むことを特徴とする請求項6に記載の磁性体被覆導線の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、低コストで実現できる磁性体被覆導線および磁性体被覆導線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コイルやインダクタ等において、任意の導線が受ける近接効果に起因する交流抵抗を低減する方法として、導線の外表面に磁性体を設けることが、従来検討されてきている。例えば導線の表面に磁性めっきを施す製法(特許文献1)が古くから用いられてきている。導線の外表面を磁性材で被覆することにより、隣接する導線を流れる電流によって生じる磁界がその磁性体によりバイパスされ、導体内に磁界が侵入することを抑制し、その結果導体内に発生する渦電流を低減させ、交流抵抗値を下げることができる。
【0003】
しかし、磁性めっきを利用する方法は、大型で高価な設備が必要であり、また比透磁率を高めるため磁性体を厚くするのが難しくしかもプロセスに時間を要する、といった問題があった。そこで、近年、磁性粉を接着させる工法(特許文献1)、および磁性粉をシリコーンワニスに混ぜて吹き付ける方法(特許文献2)、などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62-151594号公報
【特許文献2】特開2018-018585号公報
【特許文献3】特開2018-137120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2、3の技術はいずれも磁性粉を導体部に接着することを前提としており、例えば、隙間なく巻かれたヘリカルコイルのように比較的広い壁面が存在するコイルの全体に磁性体を設ける場合、付着性についての問題は生じないが、コイルを構成する細い単線に前記方法で磁性体を設けようとした場合、均等な厚さに形成させることは困難であった。特に磁性粉とバインダの調合が難しく、バインダの比率を高めると流動性が増し、磁性体が導線に付着してから概ね固化するまでに重力等の影響で厚みムラが生じてしまう。逆に磁性粉の比率が高いと流動性が低下しスプレーから連続的に噴射することが困難になる。このように磁性体が均等に設けられていないと、その結果、特性にばらつきが生じるといった問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る磁性体被覆導線は、導線の表面に、バインダと磁性粉を含むテープまたはシート状の磁性体が被覆され、前記磁性体の表面に、テープ状の絶縁体が、その幅よりも狭いピッチでらせん状に巻回して設けられた磁性体被覆導線であって、前記バインダは熱硬化性を、前記絶縁体は熱収縮性をそれぞれ有し、前記磁性体は、前記絶縁体により前記導線の中心に向かって均等に締め付けられ、圧縮、固化されているものである。
【0007】
前記磁性体被覆導線における前記磁性粉は球形であり、前記磁性体は、球径が最大径で前記磁性体の厚さの0.05~1.0倍の磁性粉を含有していてもよい。
【0008】
前記磁性体は前記絶縁体の幅より狭い幅のテープ状の磁性体がらせん状に巻回して設けられていてもよい。
【0009】
前記磁性体の比透磁率は9~30であってもよい。
【0010】
前記絶縁体はポリエチレンテレフタレート樹脂を含んでいてもよい。
【0011】
本開示の一態様に係る磁性体被覆導線の製造方法は、導線と、熱硬化性のバインダと磁性粉とを含むテープまたはシート状の磁性体と、熱収縮性を有するテープ状の絶縁体とを用意するプロセスと、前記磁性体で前記導線を被覆するプロセスと、前記磁性体による被覆と併せて、前記絶縁体を、その幅よりも狭いピッチでらせん状に巻回するプロセスと、加熱処理を行うプロセスと、を含み、前記加熱処理を行うプロセスは、前記磁性体を厚みが維持できる程度に固化されるまで加熱するプロセスと、前記導線に前記絶縁体が巻回された後に前記前記絶縁体とともに加熱するプロセスに分けられる、方法である。
【0012】
前記導線を被覆するプロセスは、前記導線に対してテープ状の磁性体をらせん状に巻回するプロセスであってもよい。
【0013】
前記磁性体は前記絶縁体と予め貼り合わされた後、前記導線に対してらせん状に巻回してもよい。
【0014】
前記導線を被覆するプロセスは、前記導線に対して前記テープ状の磁性体を平行に巻き包むプロセスであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示の一態様によれば、容易に導線周りの磁性体の厚みを均一にすることができ、さらに、熱収縮性を有するテープ状の絶縁体が、導線上に設けられた磁性体を均等に外側から締め付けるので、前記導線の多少の曲げにかかわらず、磁性体を維持することができる。特に磁性体としてテープ状のものを用いる場合、テープを作成する過程で厚みを精度良くコントロールすることが容易にでき、その結果、磁気特性の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の一実施形態(第1の実施の形態)の外観図と部分断面図である。
図2】本開示の第2の実施の形態の外観図および同実施の形態における磁性体の断面図である。
図3】本開示の第3の実施の形態の外観図と部分断面図である。
図4】最大径の磁性粉を含む磁性体の断面図である。
図5】本開示の実施例で用いるコイルの形状および寸法を示す三面図である。
図6】本開示の実施例で用いる磁性体の磁界-磁束特性を示すグラフである。
図7】本開示の実施例で用いる磁性体の周波数-複素比透磁率特性を示すグラフである。
図8】比較例に対する本開示の実施例の効果を示す説明図である。
図9】二次元交流磁場解析による磁束と電流分布の様子を示した図である。
図10】本開示の実施例と比較例のコイルの周波数特性を示すグラフである。
図11】本開示の実施例の実験環境を示すブロック図である。
図12】本開示の実施例と比較例の時間―温度変化を示すグラフである。
図13】本開示の実施例と比較例の発熱を測定した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の一態様に係る実施の形態(以下、本実施の形態)について図面を参照しながら詳細に説明する。図1(a)に本実施の形態における磁性体被覆導線1の外観図を、同図(b)に部分断面図を示す。図1(a)において、導線2は銅、アルミ、その他金属等の導電性材料で作られた円形断面を有する線材である。直径は0.1mm~3.0mmが好ましい。また導線2の長さは、モーターコイルやトランスの製造用の線材として用いる場合、数100メートルから数キロメートルに及ぶことがある。
【0018】
導線2の表面には磁性体3が、さらにその外側には絶縁体4が、それぞれ設けられている。磁性体3は、図1(b)右側の拡大図に示されるように、バインダ3aに磁性粉3bを混ぜたコンポジット材料で主に構成される。両者の混合比は、磁性体3の比透磁率が9~30になるように調合される。磁性体3は接着層3cを有しており、導体2とはこの接着層を介して接合する。なお、本実施の形態では、絶縁体4はテープ形状を有しており、熱収縮性を有しているとする。また、バインダは3aは熱硬化性を有しているものとし、磁性体3はテープ形状を成しているとする。
【0019】
磁性粉3bの材料としては、Fe系アモルファス、純鉄、Fe-Si、ナノ結晶、センダストを用いることができる。形状としては球形が好ましい。また、球径は大きいほうが比透磁率が高くなる傾向にある。磁性体3の厚さを基準にした場合、最大径で磁性体厚の0.05~1.0倍程度、より好ましくは磁性体厚の0.2~1.0倍程度の球径の磁性粉3bを含有していればよい。
【0020】
ここで、磁性体厚の1.0倍、というのは例えば図4に示されるように、磁性体厚とほぼ同じ径の磁性粉(磁性球)33aがバインダ3aで保持されている状態を指す。この場合、さらに透磁率を高めるために磁性球と磁性球の隙間に、磁性体厚の0.05倍(磁性球の20分の1程度)の磁性粉33bを埋め込んでもよい。
【0021】
バインダ3aは樹脂系であってもゴム系であってもよい。樹脂系であればシリコーン樹脂やエポキシ樹脂のように熱硬化性を有するものであればよい。ゴム系では加熱によりエラストマー化する性質のものであってもよく、合成ゴムであっても天然ゴムであってもよい。
【0022】
以下、磁性体被覆導線1の製造方法について説明する。まず、磁性体3で導線2を被覆する。本実施の形態では、テープ状の磁性体3を導線2外周囲にらせん状に隙間なく巻いて全周にわたって被覆する。次に、磁性体3の表面に絶縁体4を、磁性体3のテープ幅と同じピッチでらせん状に巻回する。このとき、絶縁体4のテープ幅は磁性体3のテープ幅よりも若干広く設計されているとすると、幅広の分、図1(b)に示されているように、一回前に巻いた絶縁体4の上を少し被るよう磁性体3の表面全部を被覆することができる。
【0023】
以上のように、導線2の表面が磁性体3で被覆され、さらにその表面が絶縁体4で被覆された状態で、順次加熱処理をする。すると、熱硬化性を有した磁性体3は固化が進み、同時に絶縁体4は縮む力で導線2の中心に向かって均等に磁性体3を締め付ける。その結果、厚みが均一な状態で、磁性体3を圧縮、固化させることができる。ここで固化とは、放置状態で形状が維持される物質の状態を意味し、固形化する場合と併せて弾性化する場合も含まれるとする。
【0024】
以上のプロセスの結果、磁性体3の厚みが均一で曲げに対して磁性体の亀裂やたわみが生じにくい磁性体被覆導線1を製造することができる。なお、絶縁体4が熱収縮すると、長手方向のみならず、幅方向も縮む。仮に絶縁体4のテープ幅を磁性体3のテープ幅と同じにしたとすると、熱収縮により隣接する巻回の絶縁体4との間に隙間ができてしまう。その結果、磁性体被覆導線1に絶縁性の問題が生じることになる。そこで、絶縁体4のテープ幅は磁性体3のテープ幅(すなわち磁性体3の巻回ピッチ)よりも広く設定している。
【0025】
磁性体3を予めテープ状またはシート状にしておくメリットは、磁性体の厚みを均等にできるところにある。磁性粉とバインダを混合した直後の、流動性がある程度残っている状態の磁性コンポジット材料を、適度に加熱しながら隙間が固定されたローラーなどで引き延ばすことにより、厚みが均一なシートができる。これを適当な幅で裁断すればテープ状の磁性体3を用意することができる。なお、この段階における加熱は、磁性コンポジット材料(バインダ)を完全に固化するものではなく、導線2に巻ける程度の柔軟性を残すものである必要がある。
【0026】
以上、本実施の形態の磁性体被覆導線1は以下の特徴を有する。
(1)磁性体3が均等な厚みで形成されているため磁性特性が均質で安定している。
(2)磁性体3の厚みは絶縁層4の加圧によっても保持されているため、磁性体3の初期の剛性や弾性は特に重要でない。つまり、バインダに対する磁性粉の比率を上げ、比透磁率を高めることができる。
(3)磁性体3が絶縁層4で加圧されているため、多少の曲げによる磁性体3のたわみや割れが生じにくい。
(4)絶縁層4が一部重複しながら巻回されているため、曲げにより磁性体3が露出することが無く、絶縁性に優れる。
(5)絶縁層4の絶縁性が高いため、磁性粉3bの密度や球径を大きくしても隣接導線とのショートが起きにくい。
特に(3)、(4)、(5)の特徴は本実施の形態の磁性体被覆導線1を巻回してコイルやトランスを作製する場合に非常に重要である。
【0027】
以下、本開示の第2の実施の形態について説明する。図2(a)に本実施の形態の外観図を、同図(b)に磁性体3の断面図を示す。本実施の形態では、磁性体被覆導線1の製造プロセスを簡略化するため、磁性体3とこれより幅広の絶縁体4を予め貼り合わせた合成磁性テープ30を用いる。このテープを導線2にらせん巻きすることにより、図1(a)と同様に絶縁体の一部が重なりあって被覆された磁性体被覆導線1を得ることができる。なお、本実施の形態において、導線2、磁性体3および磁性体4の素性や細部の構成は第1の実施の形態と同様のものであるとする。
【0028】
以下、本開示の第3の実施の形態について説明する。図3(a)に本実施の形態の外観図を、同図(b)に断面図を示す。本実施の形態では、磁性体3はらせん状に巻回されるのではなく、図3(a)に示されるように導線2と平行に包み巻きされる。その上をテープ状の絶縁体4がらせん状に巻かれる。その結果図3(b)に示されるように、導線2の長手方向に磁性体3の継ぎ目が無い、磁性体被覆導線1を作製することができる。
【0029】
本実施の形態のメリットは比較的簡易な設備または方法で導体2の表面に磁性体3を設けることができることにある。その反面、継ぎ目が導線2の長手方向に連続しているという構造上の弱点があるが、らせん状に巻かれた絶縁体4により周囲から抑え込まれているため、剥がれや皺が生じる可能性は小さい。
【実施例0030】
以下、本開示の実施例について説明する。本実施例では、本開示の磁性体被覆導線1の均質性を確認するための実験とその結果について説明する。
【0031】
(実験に用いた磁性体被覆導線とコイルの構造)
図5に磁性体被覆導線とコイルの構造を示す。同図中(b)は比較例(以下、COW)の導線の断面図、同図(c)は本実施例の磁性体被覆導線(以下、MCW)の断面図である。比較例(COW)と本実施例(MCW)はともに巻数N=9で予め2.2mmピッチの溝が切られたテフロン(登録商標)製のコイルボビン(同図(a))に巻回されている。比較例(COW)は直径1.45mmの銅製の導線の外周に厚さ18μmの絶縁層のみが設けられている。
【0032】
本実施例(MCW)の磁性体被覆導線1は比較例(COW)と同じ径の銅製の導線2(Conductor)に厚さ0.125mmのテープ状の磁性体3(Magnetic tape)を巻いたものである。磁性体被覆導線1の直径は合わせて1.74mmである。コイルのピッチを2.2mmとしたのは、磁性体被覆導線どうしが接触しないようにするためである。また,比較例(COW)では、本実施例(MCW)とのコイルピッチを合わせるために同じ厚さのテフロン(登録商標)製のテープを巻いた。なお、本実施例は、厚みが均一なテープ状の磁性体3を使うことによる磁性特性の均質性を確認することを目的としており、また予め溝が切られたコイルボビンを使って導線間の短絡防止を図っているため、絶縁体4は用いていない。
【0033】
図6に本実施例における磁性体3の直流磁気特性を示した。測定には,振動料型磁力計(Riken Denshi)を用いた。飽和磁束密度は0.72Tであった。図7は複素比透磁率を測定したものであり、測定にはB-Hアナライザ(IWATSU SY-8218)を用いた。測定を行った結果、μ’は全周波数においてほぼ9.3で一定であった。
【0034】
図8にコイルの各導線に生ずる表皮効果(Skin effect)と近接効果(Proximity effect)を視覚的に示した。交流抵抗には、表皮効果に起因する抵抗Rsと近接効果に起因する抵抗Rpがある。表皮効果に起因する抵抗Rsとは、高周波電流が導体に通電する場合、導体を流れる電流による磁界の時間変化により、導体の表面付近へ電流が偏ることによって生ずる抵抗である。近接効果に起因する抵抗Rpとは、通電している導体自身の電流が作る磁場が周囲の導体に鎖交し、渦電流が生じることによる抵抗である。コイルの交流抵抗Rは以上に述べた交流抵抗と銅線の直流抵抗を足し合わせたものである。

【数1】
ここに、Rdc:直流抵抗(Ω)、Rs:表皮効果に起因する抵抗(Ω)、Rp:近接効果に起因する抵抗(Ω)、である。
【0035】
(シミュレーションによる解析)
次に、磁性体3を巻くことによって磁束の流れを誘導し交流銅損を低減していることを確認するためにシミュレーション解析を行った。解析にはANSYS Maxwell Ver.18を用いた。解析に用いたモデルは図5(a)の単線コイルの断面図と同じ構成のものを用いた。表1に当コイルの解析条件を示した。

【表1】
ここで、電流値(Current)を5Aとした根拠は、通常の銅線の定格電流密度が3A/mmであることから、これを本実施例および比較例の導線(径1.45mm)に当てはめたことによる。本実施例の解析においては、より広範囲にコイルの周波数特性を計算するために、周波数(frequency)50kHz、85kHz、300kHz、500kHz、1MHzのポイントで、それぞれ計算を行った。磁性体3(Magnetic tape)の複素比透磁率μ’、μ”については、それぞれの周波数における実測値(図7)を用いた。
【0036】
図9(a)、(b)に二次元交流磁場解析(シミュレーション)で得られた磁束分布の様子を示した。各図の右側に、磁性体3の影響が特に大いコイル端部付近の拡大図を示した。そのコイル端部において、同図(a)の比較例ではコイルの銅線間を通っていた磁束が本実施例では磁性体3に誘導されている。すなわち、銅線に鎖交していた磁束が磁性体3に誘導されるため、近接効果に起因する抵抗が低減できる。数値的には、50kHzにおいて、交流抵抗は40.5mΩから32.9mΩに、18.7%低減した。また、85kHz、300kHz、500、kHz、1MHzにおける交流抵抗が、それぞれ19.9%、19.0%、16.8%、11.6%低減することが確認できた。
【0037】
(試作コイルの実測とその結果)
実際に比較例(COW)と本実施例(MCW)のコイルを試作し、交流抵抗の低減効果を評価した。測定時の電流値は20mAであった。図10(a)~(c)は、試作した比較例(COW)の導線および本実施例(MCW)の磁性体被覆導線を用いたコイルの交流特性を、インピーダンスアナライザ(Agilent,4294A)にて測定した結果(measured)である。併せて前記シミュレーションによる解析結果(calculated)も重ね書きしている。
【0038】
本実施例で用いた磁性体3は厚さ0.125mm、幅1cmのテープ状のものであり、シリコーン樹脂のバインダと直径約2μmの鉄系の磁性粉とを混ぜわせたコンポジット材料により構成されている。比透磁率の実測値を図7に示す。磁性体3は導線2の表面を完全に被覆するようにらせん状に巻回されている。なお、先述のように、本実施例では絶縁体4は用いていない。
【0039】
図10(a)は交流抵抗Rについて実測値および解析(シミュレーション)値を示したものである。解析に当たっては、試作コイルと導線の長さが異なっていたため、計算結果を一律1.06倍することにより長さの補正を行った。同図の実測値(measured、実線および破線)と計算値(calculated、〇および□)のいずれからも、周波数の増加に伴い交流抵抗も増加する傾向が確認された。実測では、コイルの抵抗が1MHzのとき最大で198mΩから163mΩに、17.7%も低減した。また、50kHz、85kHz、300kHz、500kHzにおいては、交流抵抗はそれぞれ11.7%、13.9%、16.9%、18.0%だけ低減した。
【0040】
図10(b)はインダクタンスについて測定および解析した結果を示したものである。実測および解析いずれの結果も、10kHzから1MHzの範囲でほぼ一定あり、実測値では、比較例(COW)が6.25μHであるのに対し、本実施例(MCW)は6.65μHであった。磁性体3で表面被覆することにより6%アップの効果があった。
【0041】
図10(c)は実測値および計算値のQ値(下記式(2))を示してある。いずれも、周波数が高いほどQ値も高い傾向が確認された。また、10kHzから1MHzの全周波数範囲において、本実施例(MCW)のQ値は比較例(COW)のQ値を上回った。特に1MHzにおいて、実測Q値が196から254まで向上した。

【数2】
ここに、ω:角周波数(rad)、:コイルのインダクタンス(H)、R:コイルの抵抗(Ω)を表す。
【0042】
ここで、図10(a)~(c)の結果で注目すべきことは、シミュレーションによる解析結果の数値(図中□と〇で表示)と実測結果の数値(図中破線と実線で表示)が比較的一致していることである。特に磁性体3の有無による相対値(COWとMCWの差)は全周波数域でほぼ一致している。この結果は、磁性体被覆導線1における磁性体3が極めて精度良く形成されていることを示唆している。
【0043】
(発熱周波数特性の測定)
磁性体3がコイルの発熱に与える影響を確認するために、コイルの温度上昇-時間特性および熱飽和時の抵抗を実測した。測定には周波数特性分析機器(NF,FRA5097)を用いた。実測においては、バイポーラ方式電力増幅器(NF,HSA4014)の最大電流である4Aの電流を流した。測定時の室温は24°Cであった。
【0044】
図11に温度上昇-周波数特性の測定環境を示した。測定時にコイルに生じた熱の放出を防ぐためにコイルは煉瓦の上に置いて測定した。また、共振用コンデンサの発熱が無視できるよう共振用コンデンサを発泡スチロールの上に置き、空冷しながら測定を行った。温度の測定にはサーモショット(TEST 855)を用いてコイルの最も高い温度を計測した。
【0045】
図12に各周波数におけるコイルの時間-温度上昇特性を示した。図12(a)は周波数50kHzでコイルを励起したときの温度上昇を示したものである。図中□と〇はそれぞれ比較例(COW)と本実施例(MCW)における実測値であり、点線および破線はこれらを関数近似したものである。50kHzでは比較例(COW)、本実施例(MCW)ともにすぐに熱飽和し、熱飽和時の比較例(COW)と本実施例(MCW)の温度差(ΔT)は0.9°Cとなった。このとき交流抵抗Rは58.91mΩから52.04mΩまで11.7%低減している。
【0046】
図12(b)に85kHzにおけるコイルの発熱特性を示した。この周波数では、測定開始後急激に温度が上昇しその後緩やかに温度上昇が続き熱飽和に達した。この時の温度差(ΔT)は3.1°Cとなった。このとき交流抵抗Rは64.52mΩから59.53mΩまで7.7%減少している。図12(c)に300kHzにおけるコイルの発熱特性を示した。熱飽和時の温度差がさらに顕著に出て、温度差(ΔT)は6.7°Cとなった。このとき交流抵抗Rは178.2mΩから137.1mΩまで23.1%低減した。
【0047】
図12(d)に500kHzにおけるコイルの発熱特性を示した。熱飽和時の温度差(ΔT)は5.5°Cとなった。このとき交流抵抗Rは328.0 mΩから272.0mΩまで17.1%低減した。図8(e)に1MHzにおけるコイルの発熱特性を示した。測定範囲内で最も発熱の低減効果がみられ、熱飽和時の温度差(ΔT)は7.8°Cとなった。このとき抵抗Rは462.9mΩから351.6mΩまで24%低減した。
【0048】
以上の結果を以下、表2のコイルの発熱特性にまとめた。いずれの周波数においても磁性体3が発熱を抑制し、交流抵抗を低減していることが確認された。また、周波数が高いほど磁性体3による交流抵抗の低減効果が大きくなった。さらに交流抵抗の低減により発熱も抑制されることが確認された。

【表2】
【0049】
図13(a)に周波数50kHzにおける熱飽和時の比較例(COW)の熱画像を、同図(b)に本実施例(MCW)の熱画像を、それぞれ示した。コイルで最も発熱したのはコイルの中心部付近とリード線付近であり、それぞれ28.2℃と27.3℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、トランス、インダクタ、電力伝送用コイル、電磁加熱用コイル、送電線、その他交流磁界による表皮効果や近接効果の低減が要求されるあらゆる用途に応用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 磁性体被覆導線
2 導線
3 磁性体
3a バインダ
3b 磁性粉
3c 接着層
30 合成磁性テープ
4 絶縁体


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