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特開2024-29005抗インフルエンザ化学療法および免疫療法のための低分子リガンド標的指向性薬物結合体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029005
(43)【公開日】2024-03-05
(54)【発明の名称】抗インフルエンザ化学療法および免疫療法のための低分子リガンド標的指向性薬物結合体
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/04 20060101AFI20240227BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20240227BHJP
   C07D 519/00 20060101ALI20240227BHJP
   C07H 15/26 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20240227BHJP
   A61K 31/454 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 31/4245 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 31/437 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 51/04 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
C07D487/04 157
A61P31/16
C07D519/00 311
C07H15/26 CSP
A61K47/54
A61K31/454
A61K31/506
A61K31/4245
A61K31/437
A61P43/00 105
A61K51/04 200
A61K39/00 H
A61K39/395 N
A61P43/00 121
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212681
(22)【出願日】2023-12-18
(62)【分割の表示】P 2021504238の分割
【原出願日】2019-07-20
(31)【優先権主張番号】62/703,534
(32)【優先日】2018-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/846,549
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】598063203
【氏名又は名称】パーデュー・リサーチ・ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】PURDUE RESEARCH FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ロウ フィリップ スチュアート
(72)【発明者】
【氏名】リュウ シン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】抗インフルエンザ化学療法と免疫療法のための低分子標的指向性薬物結合体を提供する。
【解決手段】インフルエンザウイルスのエンベロープタンパク質に対する標的指向性リガンド(TL)と、リンカー(L)と、薬物ペイロード(D)とを含む結合体であって、TLが、エンベロープタンパク質に結合する分子であり、リンカーがDとTLの両方に共有結合しており、Dが、イメージング剤、治療薬物、免疫モジュレーター、またはそれらの組み合わせである、結合体である。開示される薬物結合体は、対象においてインフルエンザウイルス感染細胞を正確に排除するために、さらなるCAR T細胞または他の免疫細胞を動員するためのアダプターを形成し得る。
【選択図】図20C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザウイルスのエンベロープタンパク質に対する標的指向性リガンド(TL)と、リンカー(L)と、薬物ペイロード(D)とを含む結合体であって、該TLが、該エンベロープタンパク質に結合する分子であり、該リンカーが該Dと該TLの両方に共有結合しており、該Dが、イメージング剤、治療薬物、免疫モジュレーター、またはそれらの組み合わせである、結合体。
【請求項2】
前記リンカーが、前記TLと前記Dの間に、スペーサーと、切断可能な架橋または切断不可能な架橋とを含む、請求項1記載の結合体。
【請求項3】
前記インフルエンザウイルスのエンベロープタンパク質が、ノイラミニダーゼ(NA)または血球凝集素(HA)である、請求項1記載の結合体。
【請求項4】
前記TLがザナミビルである、請求項1記載の結合体。
【請求項5】
前記TLが、オセルタミビル、ザナミビル、ペラミビル、およびラニナミビルからなる群より選択される、請求項1記載の結合体。
【請求項6】
前記Dが、ツブリシンBヒドラジド、ピモジビル、オザニモド、およびSN38からなる群より選択される、請求項1記載の結合体。
【請求項7】
を含む、請求項4記載の結合体。
【請求項8】
前記切断可能な架橋が、ジスルフィド結合または酸に不安定な結合を含有する、請求項2記載の結合体。
【請求項9】
前記酸に不安定な結合が、エステル、ヒドラゾン、オキシム、アセタール、ケタール、フェノールエーテル、またはシッフ塩基結合を含む、請求項8記載の結合体。
【請求項10】
対象においてインフルエンザウイルス感染を治療する方法であって、該対象に結合体を提供する工程を含み、該結合体が、インフルエンザウイルスのNAの標的指向性リガンド(TL)と、リンカー(L)と、薬物ペイロード(D)とを含み、該TLがNAに結合する分子であり、該Lが該Dと該TLの両方に共有結合しており、該Dが、イメージング剤、治療薬物、免疫モジュレーター、またはそれらの組み合わせである、方法。
【請求項11】
前記TLがザナミビルである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記治療薬物が、前記対象においてインフルエンザウイルス感染細胞を死滅させるかまたはインフルエンザウイルス複製を阻害する、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記治療薬物が、ツブリシンBヒドラジド、ピモジビル、およびSN38からなる群より選択される、請求項10記載の方法。
【請求項14】
前記治療薬物が、アダプター分子(すなわち、前記TLに結合しているフルオレセイン)と抗フルオレセインCAR T細胞とを含み、該CAR-T細胞が、該アダプターに結合すると、前記対象においてインフルエンザウイルス感染細胞を死滅させるかまたはインフルエンザウイルス複製を阻害する、請求項10記載の方法。
【請求項15】
前記免疫モジュレーターが、インフルエンザウイルスによって誘導される初期のサイトカインストームを抑制する、請求項10記載の方法。
【請求項16】
前記免疫モジュレーターが、オザニモドであるか、または自己抗体によって認識されるハプテンである、請求項10記載の方法。
【請求項17】
前記ハプテンが、ジニトロフェニル(DNP)、トリニトロフェニル(TNP)、ラムノース、またはα-ガラクトシル部分で構成される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
インフルエンザ感染の強度を定量化するために用いられるイメージング剤を含む、請求項1記載の結合体。
【請求項19】
前記イメージング剤が、テクネチウム-99m(99mTc)を含有するキレート錯体を含む、請求項18記載の結合体。
【請求項20】
NAに対する約1nM~約15nMの結合親和性を有する、請求項4記載の結合体。
【請求項21】
前記ザナミビル結合体が、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、または補体依存性細胞傷害(CDC)を介して、抗体で覆われたウイルスまたはウイルス感染細胞のクリアランスにつながる免疫応答を誘発する、請求項11記載の方法。
【請求項22】
少なくとも2つの構成要素を含むシステムであって、第1の構成要素が、インフルエンザウイルスのエンベロープタンパク質に対する標的指向性リガンド(TL)と、リンカー(L)と、薬物ペイロード(D)とを含有する結合体を含み、該TLが、該エンベロープタンパク質に結合する分子であり、該Lが該Dと該TLの両方に共有結合しており、該Dがフルオレセインであり、第2の構成要素が、第1の構成要素のフルオレセインに結合する抗フルオレセインCAR T細胞を含み、該システムが、インフルエンザウイルス感染細胞を殺傷するように促される、システム。
【請求項23】
前記Dが、前記対象が既存の免疫を有する抗原または部分である、請求項10記載の方法。
【請求項24】
前記抗原または部分に対する有効な用量の抗体を前記対象に同時投与する工程をさらに含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記抗原または部分が細菌毒素である、請求項23記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本開示は抗インフルエンザ療法の標的指向性送達を提供する。詳細には、インフルエンザウイルスに特異的に結合する低分子リガンドが、インフルエンザウイルス感染細胞の直接的死滅または免疫調節をもたらす薬物ペイロードに結合されている。
【背景技術】
【0002】
背景
インフルエンザウイルス感染によって引き起こされる急性熱性呼吸器疾患インフルエンザ(「flu」とも知られる)は依然として最も命にかかわる播種性疾患の1つである。世界保健機関(WHO)によって公表されたInfluenza Fact Sheetによれば、インフルエンザは季節的流行によって世界中に蔓延し、毎年約3~5百万症例の重症疾患と毎年約250,000~500,000件の死亡の原因となる1。米国では、毎年12,000~56,000件の死亡と140,000~710,000件の入院がインフルエンザと直接関連している2。高い罹患率と死亡率の原因となることに加えて、インフルエンザは、生産性の喪失と医学的な予防および治療に起因する、かなりの社会経済学的負担を負わせる。インフルエンザに関連する総年間コストは米国では100億ドルを超えている3
【0003】
インフルエンザに対する現行の抗インフルエンザ化学療法
インフルエンザウイルスは抗原シフトおよび抗原ドリフトにより絶え間なく変化するので、ワクチンが変異株に効かなくなることが多い。従って、インフルエンザの予防および治療において抗インフルエンザ化学療法が依然として重要な役割を果たしている4。現時点で、2種類の抗インフルエンザ薬、M2イオンチャンネル阻害剤とノイラミニダーゼ阻害剤が米食品医薬品局(FDA)により承認されている。M2イオンチャンネル阻害剤にはアマンタジンおよびリマンタジンが含まれる。これらの薬物の作用機構は、酸により活性化されたウイルスM2イオンチャンネルを遮断し、結果として、ビリオンから宿主サイトゾルへのウイルスリボ核タンパク質の放出を阻害することに起因する4。しかしながら、現在ヒトに広がっているH1N1およびH3N2ウイルスは両方とも、これらの阻害剤に対して耐性がある。従って、米疾病管理予防センター(CDC)は、薬物耐性が急速に出現するため、これらを使わないように勧告している5。通常用いられるノイラミニダーゼ阻害剤にはオセルタミビルおよびザナミビルが含まれる。これらは、ノイラミニダーゼ活性部位への結合においてシアル酸と競合する競合阻害剤として作用する4。これらの阻害剤はインフルエンザAおよびインフルエンザBウイルスの両方に対して有効であるが2つの重大な制約がある。第1に、ノイラミニダーゼ阻害剤については、症状の重篤度の軽減および病気の期間の縮小(7日のうち0.6~0.7日)の点で、ごくわずかな利益しか観察されなかった6。第2に、この種類の抗ウイルス薬は薬剤耐性問題という欠点も持つ。2007~2008年の季節からオセルタミビル耐性株の数の増加が確認されている。現行の抗インフルエンザ化学療法の制約を考慮すれば、新規の作用機構をもつ抗インフルエンザ新薬を開発することが緊急に必要とされている7
【発明の概要】
【0004】
本開示は、インフルエンザウイルスのエンベロープタンパク質に対する標的指向性リガンド(TL)と、リンカー(L)と、薬物ペイロード(D)とを含む結合体であって、TLが、エンベロープタンパク質に結合する分子であり、リンカーがDとTLの両方に共有結合しており、Dが、イメージング剤、治療薬物、免疫モジュレーター、またはそれらの組み合わせである、結合体を提供する。
【0005】
一部の好ましい態様では、上記のリンカーは、DとTLの間に、スペーサーと、切断可能な架橋または切断不可能な架橋とを含む。
【0006】
一部の好ましい態様では、上記のインフルエンザウイルスのエンベロープタンパク質はノイラミニダーゼ(NA)または血球凝集素(HA)である。
【0007】
一部の好ましい態様では、上記のTLはザナミビルである。
【0008】
一部の好ましい態様では、上記のTLは、オセルタミビル、ザナミビル、ペラミビル、およびラニナミビルからなる群より選択される。
【0009】
一部の好ましい態様では、上記の結合体は、インフルエンザ感染の強度を定量化するために用いられるイメージング剤を含む。
【0010】
一部の好ましい態様では、上記のイメージング剤は、テクネチウム-99m(99mTc)を含有するキレート錯体を含む。
【0011】
一部の好ましい態様では、上記の結合体は、NAに対する約1nM~約15nMの結合親和性を有する。
【0012】
一部の好ましい態様では、上記のDは、ツブリシンBヒドラジド、ピモジビル、オザニモド、およびSN38からなる群より選択される。
【0013】
一部の好ましい態様では、上記の結合体は、
のうちの1つである。
【0014】
一部の好ましい態様では、上記の切断可能な架橋は、ジスルフィド結合または酸に不安定な結合を含有する。
【0015】
一部の好ましい態様では、上記の酸に不安定な結合は、エステル、ヒドラゾン、オキシム、アセタール、ケタール、フェノールエーテル(phenolic ether)、またはシッフ塩基結合を含む。
【0016】
さらに、本開示は、対象においてインフルエンザウイルス感染を治療する方法であって、結合体を対象に提供する工程を含み、前記結合体が、インフルエンザウイルスのNAの標的指向性リガンド(TL)と、リンカー(L)と、薬物ペイロード(D)とを含み、TLが、NAに結合する分子であり、LがDとTLの両方に共有結合しており、Dがイメージング剤、治療薬物、免疫モジュレーター、またはそれらの組み合わせである、方法を提供する。
【0017】
一部の好ましい態様では、上記の方法はTLとしてザナミビルを使用する。
【0018】
一部の好ましい態様では、上記の方法は、対象においてインフルエンザウイルス感染細胞を死滅させるかまたはインフルエンザウイルス複製を阻害するために治療薬物を使用した。
【0019】
一部の好ましい態様では、上記の方法は、ツブリシンBヒドラジド、ピモジビル、およびSN38からなる群より選択される治療薬物を使用する。
【0020】
一部の好ましい態様では、上記の方法は、アダプター分子(すなわち、TLに共有結合したフルオレセイン)と抗フルオレセインCAR T細胞を含む治療薬物を使用した。前記CAR-T細胞がアダプター分子に結合すると、対象において、TLに結合するノイラミニダーゼを発現するインフルエンザウイルス感染細胞を死滅させ、それによってインフルエンザウイルス複製を阻害する。
【0021】
一部の好ましい態様では、上記の方法は、インフルエンザウイルスによって誘導される初期のサイトカインストームを抑制するために免疫モジュレーターを使用した。
【0022】
一部の好ましい態様では、上記の方法は、免疫モジュレーターであるオザニモドまたは自己抗体によって認識されるハプテンを使用した。
【0023】
一部の好ましい態様では、上記のハプテンは、ジニトロフェニル(DNP)、トリニトロフェニル(TNP)、ラムノース、またはα-ガラクトシル部分で構成される。
【0024】
一部の好ましい態様では、上記の方法は、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、または補体依存性細胞傷害(CDC)を介して、抗体で覆われたウイルスまたはウイルス感染細胞のクリアランスにつながる免疫応答を誘発するためにザナミビル結合体を使用した。
【0025】
一部の好ましい態様では、上記の方法は、ザナミビルと共に結合体化するために抗原または別の部分を使用し、対象は、この抗原もしくは部分に対して既存の免疫を有するか、または対象は、この抗原もしくは部分に対する有効な用量の抗体を同時投与される。例えば、この抗原または部分は毒素(例えば、破傷風トキソイド)でもよい。
【0026】
さらに、本開示は、少なくとも2つの構成要素を含み、インフルエンザウイルス感染細胞を殺傷するように促されるシステムであって、第1の構成要素が、インフルエンザウイルスのエンベロープタンパク質に対する標的指向性リガンド(TL)と、リンカー(L)と、薬物ペイロード(D)とを含有する結合体を含み、TLが、エンベロープタンパク質に結合する分子であり、LがDとTLの両方に共有結合しており、Dがフルオレセインであり、第2の構成要素が、第1の構成要素のフルオレセインに結合する抗フルオレセインCAR-T細胞を含む、システムを提供する。
【0027】
代表的なザナミビル-DNP結合体のインビトロ結合アッセイがN1およびN2クラスのノイラミニダーゼの両方に対して高い結合親和性を示した。この結合体はザナミビルまたはオセルタミビルよりもかなり強力である。この結合体は、患者において感染がずっと先に進行してしまった後に添加されても有効である。この結合体は、本発明者らの薬物を1回注射しただけで感染を治癒することができ、全てのインフルエンザ株に対して有効である。
【0028】
[本発明1001]
インフルエンザウイルスのエンベロープタンパク質に対する標的指向性リガンド(TL)と、リンカー(L)と、薬物ペイロード(D)とを含む結合体であって、該TLが、該エンベロープタンパク質に結合する分子であり、該リンカーが該Dと該TLの両方に共有結合しており、該Dが、イメージング剤、治療薬物、免疫モジュレーター、またはそれらの組み合わせである、結合体。
[本発明1002]
前記リンカーが、前記TLと前記Dの間に、スペーサーと、切断可能な架橋または切断不可能な架橋とを含む、本発明1001の結合体。
[本発明1003]
前記インフルエンザウイルスのエンベロープタンパク質が、ノイラミニダーゼ(NA)または血球凝集素(HA)である、本発明1001の結合体。
[本発明1004]
前記TLがザナミビルである、本発明1001の結合体。
[本発明1005]
前記TLが、オセルタミビル、ザナミビル、ペラミビル、およびラニナミビルからなる群より選択される、本発明1001の結合体。
[本発明1006]
前記Dが、ツブリシンBヒドラジド、ピモジビル、オザニモド、およびSN38からなる群より選択される、本発明1001の結合体。
[本発明1007]
を含む、本発明1004の結合体。
[本発明1008]
前記切断可能な架橋が、ジスルフィド結合または酸に不安定な結合を含有する、本発明1002の結合体。
[本発明1009]
前記酸に不安定な結合が、エステル、ヒドラゾン、オキシム、アセタール、ケタール、フェノールエーテル、またはシッフ塩基結合を含む、本発明1008の結合体。
[本発明1010]
対象においてインフルエンザウイルス感染を治療する方法であって、該対象に結合体を提供する工程を含み、該結合体が、インフルエンザウイルスのNAの標的指向性リガンド(TL)と、リンカー(L)と、薬物ペイロード(D)とを含み、該TLがNAに結合する分子であり、該Lが該Dと該TLの両方に共有結合しており、該Dが、イメージング剤、治療薬物、免疫モジュレーター、またはそれらの組み合わせである、方法。
[本発明1011]
前記TLがザナミビルである、本発明1010の方法。
[本発明1012]
前記治療薬物が、前記対象においてインフルエンザウイルス感染細胞を死滅させるかまたはインフルエンザウイルス複製を阻害する、本発明1010の方法。
[本発明1013]
前記治療薬物が、ツブリシンBヒドラジド、ピモジビル、およびSN38からなる群より選択される、本発明1010の方法。
[本発明1014]
前記治療薬物が、アダプター分子(すなわち、前記TLに結合しているフルオレセイン)と抗フルオレセインCAR T細胞とを含み、該CAR-T細胞が、該アダプターに結合すると、前記対象においてインフルエンザウイルス感染細胞を死滅させるかまたはインフルエンザウイルス複製を阻害する、本発明1010の方法。
[本発明1015]
前記免疫モジュレーターが、インフルエンザウイルスによって誘導される初期のサイトカインストームを抑制する、本発明1010の方法。
[本発明1016]
前記免疫モジュレーターが、オザニモドであるか、または自己抗体によって認識されるハプテンである、本発明1010の方法。
[本発明1017]
前記ハプテンが、ジニトロフェニル(DNP)、トリニトロフェニル(TNP)、ラムノース、またはα-ガラクトシル部分で構成される、本発明1016の方法。
[本発明1018]
インフルエンザ感染の強度を定量化するために用いられるイメージング剤を含む、本発明1001の結合体。
[本発明1019]
前記イメージング剤が、テクネチウム-99m(99mTc)を含有するキレート錯体を含む、本発明1018の結合体。
[本発明1020]
NAに対する約1nM~約15nMの結合親和性を有する、本発明1004の結合体。
[本発明1021]
前記ザナミビル結合体が、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、または補体依存性細胞傷害(CDC)を介して、抗体で覆われたウイルスまたはウイルス感染細胞のクリアランスにつながる免疫応答を誘発する、本発明1011の方法。
[本発明1022]
少なくとも2つの構成要素を含むシステムであって、第1の構成要素が、インフルエンザウイルスのエンベロープタンパク質に対する標的指向性リガンド(TL)と、リンカー(L)と、薬物ペイロード(D)とを含有する結合体を含み、該TLが、該エンベロープタンパク質に結合する分子であり、該Lが該Dと該TLの両方に共有結合しており、該Dがフルオレセインであり、第2の構成要素が、第1の構成要素のフルオレセインに結合する抗フルオレセインCAR T細胞を含み、該システムが、インフルエンザウイルス感染細胞を殺傷するように促される、システム。
[本発明1023]
前記Dが、前記対象が既存の免疫を有する抗原または部分である、本発明1010の方法。
[本発明1024]
前記抗原または部分に対する有効な用量の抗体を前記対象に同時投与する工程をさらに含む、本発明1023の方法。
[本発明1025]
前記抗原または部分が細菌毒素である、本発明1023の方法。
本発明の、これらのおよび他の特徴、局面、および利点は、以下の図面、関連する説明、および特許請求の範囲を参照すると、さらに深く理解される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】ザナミビル-治療薬物結合体の作用機構。(a)薬物結合体の模式図。(b)提唱された作用機構。
図2A】ザナミビル標的指向性治療薬物結合体のために選択された治療薬物ペイロード。
図2B】ザナミビル標的指向性治療薬物結合体のために選択された治療薬物ペイロード。
図3】ザナミビル-ハプテン結合体標的指向性免疫療法の作用機構 (a)ザナミビル-DNP結合体の模式図、(b)提唱される作用機構。
図4】ザナミビルに基づいた標的指向性リガンドの設計。ザナミビルの7-OH基を黄色で強調した。
図5】ノイラミニダーゼと複合体化したザナミビルの結晶構造。
図6】ザナミビル-ローダミン結合体とインフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34(H1N1)感染MDCK細胞との結合。(a)薬物群の共焦点顕微鏡画像。50nMザナミビル-ローダミン結合体と共にインキュベートしたインフルエンザウイルス感染MDCK細胞。(b)競合群の共焦点顕微鏡画像。5μMザナミビルの存在下で50nMザナミビル-ローダミン結合体と共にインキュベートしたインフルエンザウイルス感染MDCK細胞。 (c)結合飽和曲線。
図799mTcキレート化ザナミビル-EC20ヘッド(head)結合体とインフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34(H1N1)感染MDCK細胞との結合。(a)結合飽和曲線;(b)99mTcキレート化ザナミビル-EC20ヘッド結合体の構造。
図8】インフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/1934(H1N1)感染マウス/非感染マウスにおける99mTcキレート化ザナミビル-EC20ヘッド結合体の生体内分布。
図9】ノイラミニダーゼをトランスフェクトされたHEK293細胞に対するザナミビル-ツブリシンBヒドラジド結合体およびその構成部分のインビトロ細胞傷害性。ザナミビル-ツブリシンBヒドラジド結合体(赤色の丸)、遊離ツブリシンBヒドラジド(オレンジ色の三角)、および100倍過剰のザナミビルの存在下でのザナミビル-ツブリシンBヒドラジド結合体(青色の四角)の細胞傷害性をグラフ化した。
図10】ザナミビル-DNP結合体と、ノイラミニダーゼをトランスフェクトされたHEK293細胞との競合結合。(a)ザナミビル-DNP結合体のlog(does)-応答曲線。(b)ザナミビルのlog(does)-応答曲線。標識化されたリガンドとしてザナミビル-ローダミン結合体を使用した。
図11】ザナミビル-DNP結合体が細胞表面ノイラミニダーゼおよび抗DNP抗体に同時結合する能力を証明したフローサイトメトリー分析。(a)フローサイトメトリーに基づく抗体動員アッセイの模式図。(b)ノイラミニダーゼをトランスフェクトされたHEK293細胞(293tn NA)を用いたフローサイトメトリー分析。(c)トランスフェクトされていないHEK293細胞(293tn)を用いたフローサイトメトリー分析。
図12】感染の2時間後に投与したときの、BALB/cマウスにおけるインフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/1934(H1N1)感染に対するザナミビル-DNP結合体のインビボ保護効力。(a)体重曲線;(b)生存曲線。
図13】インフルエンザ感染細胞に対する標的指向性CAR-T療法の提唱されたスキーム。
図14A図14. インフルエンザ表面タンパク質NA発現細胞に対する、フルオレセインアダプターによって媒介されるFITC-ザナミビル結合体を用いたインビトロ抗FITC CAR-T死滅プロファイル。(A) CAR T:293 NA=5:1は293NA細胞を41%死滅させる。
図14B】(B) CAR T:293 NA=10:1は293NA細胞を61%死滅させる。
図15】ザナミビル-FITCと正常293T細胞は結合しない。
図16】NAに対する細胞傷害性はザナミビル-FITCによって特異的に誘導される。
図17】本物のウイルスを用いたインビトロアッセイ。
図18】T細胞によるインフルエンザ感染MDCKの死滅対CAR-Tによるインフルエンザ感染MDCKの死滅のLDHアッセイ。
図19】インフルエンザ感染マウスのCAR T細胞療法を試験するための提唱されたマウスモデル。
図20A-B】図20. 抗インフルエンザ免疫療法の作用機構。(A) 低分子リガンド標的指向性薬物結合体。(B) ザナミビル-DNP結合体の構造:ザナミビル(標的指向性リガンド)がリンカーを介してハプテン(2,4-ジニトロフェニル基)に結合されている。
図20C】(C) 結合体がウイルスノイラミニダーゼに結合すると、DNPに対する自然抗体がインフルエンザウイルス複製を阻害する。従って、このシステムは、抗ジニトロフェニル(抗DNP)抗体をインフルエンザウイルス/ウイルス感染細胞にリダイレクト(redirect)し、免疫によって媒介されるインフルエンザウイルス/ウイルス感染細胞破壊を誘導する。
図21A-B】図21. インフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34(H1N1)感染MDCK細胞における様々なインビトロ結合アッセイ。(A) ザナミビル-ローダミン結合体の結合;(B) 遊離ザナミビル結合。
図21C】(C) ザナミビル-DNP-結合体の結合。
図22A-B】図22. インフルエンザウイルスA/Aichi/2/1968(H3N2)感染MDCK細胞における様々なインビトロ結合アッセイ。(A) ザナミビル-ローダミン結合体結合;(B) 遊離ザナミビル結合。
図22C】(C) ザナミビル-DNP-結合体の結合。
図23】抗DNP抗体動員(recruiting)アッセイをインフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34(H1N1)感染MDCK細胞において行った。(A) アッセイフローチャート;(B) 様々な結合体添加からの細胞染色結果(細胞核を示すことを目的として、PE-赤色、TO-RPO-3 lolide-青色)と結合曲線。
図24】抗DNP抗体動員アッセイをインフルエンザウイルスA/Aichi/2/1968(H3N2)感染MDCK細胞において行った。(A) アッセイフローチャート;(B) 様々な結合体添加からの細胞染色結果(細胞核を示すことを目的として、PE-赤色、TO-RPO-3 lolide-青色)と結合曲線。
図25】補体依存性細胞傷害アッセイ(CDC)。(A) NAをトランスフェクトした293細胞において行った補体依存性細胞傷害性アッセイのフロースキーム。(B) 最大細胞死滅を媒介するためには10nM薬物結合体しか必要とされない。
図26】抗体依存性食作用アッセイ(ADCP)。(A) ADCPワークフロー。(B) THP-1細胞(ヒトマクロファージ)をPMAで処理し、使用前にDiDで標識した。293tnNA(GFP+)を、THP-1細胞(比1:1)と様々な濃度のザナミビル-DNP結合体および抗DNP抗体(100nM)と4℃で30分間インキュベートした。ADCP効果をフローサイトメトリーによって分析した。
図27】マウス保護試験手順:2,4-ジニトロフェニル-キーホールリンペットヘモシアニン(DNP-KLH)を皮下注射することによってマウスを免疫化した。5週目に、マウスに致死用量のインフルエンザウイルス(100LD50, A/Puerto Rico/8/1934(H1N1))を感染させた。ザナミビル-DNP結合体および他の薬物を用いた処置は感染後に開始し、マウスを2週間モニタリングした。初期体重の25%が減少したとき、または瀕死になったときに、マウスが死亡したとみなした。(B) マウスに対する手術。
図28A図28. 用量段階的増加試験(鼻腔内投与)。0日目に、マウス(5匹のマウス/群)に50uLのH1N1 PR8ウイルス(100LD50,4.2x105PFU)を感染させた。感染の24時間後に、マウスの鼻腔内にPBS/ザナミビル/ザナミビル-DNP結合体を5日間にわたって1日2回与えた。初期体重の25%が減少したとき、または瀕死になったときに、マウスが死亡したとみなした。(A) 体重(%)のグラフ。
図28B】(B) 定義に従った生存マウスの割合(%)。
図29】ザナミビル-DNP結合体とその構成要素との効力の比較(鼻腔内投与)。手順:0日目に、マウス(5匹のマウス/群)に50uLのH1N1 PR8ウイルス(100LD50,4.2x105PFU)を感染させた。感染の24時間後に、マウスの鼻腔内にザナミビル-DNP結合体およびその構成要素を5日間にわたって1日2回与えた。初期体重の25%が減少したとき、または瀕死になったときに、マウスが死亡したとみなした。(A) 体重(%)のグラフ。(B) 定義に従った生存マウスの割合(%)。
図30】治療開始遅延試験(鼻腔内投与)手順:0日目に、DNP-KLHで免疫化したマウスに50uLのH1N1 PR8ウイルス(100LD50,4.2x105PFU)を感染させた。感染の48時間/72時間/96時間後に、マウスの鼻腔内に1.5umol/kgザナミビル-DNP結合体を7日間にわたって1日2回与えた。初期体重の25%が減少したとき、または瀕死になったときに、マウスが死亡したとみなした。(A) 体重(%)のグラフ。(B) 定義に従った生存マウスの割合(%)。
図31】1用量処置(鼻腔内投与)手順:0日目に、マウス(5匹のマウス/群)に50uLのH1N1 PR8ウイルス(100LD50,4.2x105PFU)を感染させた。感染の24時間後に、マウスの鼻腔内にPBS/ザナミビル-DNP結合体を1回だけ与えた。初期体重の25%が減少したとき、または瀕死になったときに、マウスが死亡したとみなした。(A) 体重(%)のグラフ。(B) 定義に従った生存マウスの割合(%)。
図32A-B】図32. 体内分布およびSPECT/CT画像化。(A) 新たなザナミビル-E20ヘッド結合体構造。(B) 以下の手順に従った細胞結合放射能: ・実験の3日前に、マウスにインフルエンザウイルス(H1N1)を感染させた。 ・マウスに10nmolのザナミビル-EC20ヘッド結合体(150μCi)を静脈内注射した。 ・注射の4時間後に放射能を計数した。
図32C】(C) 競合する100×遊離ザナミビルの存在下でのザナミビル-E20ヘッドの結合曲線。
図32D】(D) 以下の手順に従って、100×遊離ザナミビルなしで(左)、および100×遊離ザナミビルと共に結合体を注射した後のSPECT/CT画像化: ・実験の3日前に、マウスにインフルエンザウイルス(H1N1)を感染させた。 ・マウスに50nmolのザナミビル-EC20ヘッド結合体(750μCi)を静脈内注射した。 ・注射の4時間後にSPECT/CT画像化を行った。
図33】以下の手順に従った用量段階的増加試験(腹腔内投与)。手順:0日目に、マウス(5匹のマウス/群)に50uLのH1N1 PR8ウイルス(100LD50,4.2x105PFU)を感染させた。感染の24時間後に、マウスの腹腔内にPBS/ザナミビル/ザナミビル-DNP結合体を5日間にわたって1日2回与えた。初期体重の25%が減少したとき、または瀕死になったときに、マウスが死亡したとみなした。(A) 体重(%)のグラフ。(B) 定義に従った生存マウスの割合(%)。
図34】以下の手順に従った、ザナミビル-DNP結合体とその構成要素(腹腔内投与)との効力の比較。0日目に、マウス(5匹のマウス/群)に50uLのH1N1 PR8ウイルス(100LD50,4.2x105PFU)を感染させた。感染の24時間後に、マウスの腹腔内にPBS/ザナミビル/ザナミビル-DNP結合体を5日間にわたって1日2回与えた。初期体重の25%が減少したとき、または瀕死になったときに、マウスが死亡したとみなした。(A) 体重(%)のグラフ。(B) 定義に従った生存マウスの割合(%)。
図35A図35. 抗体依存性細胞毒性アッセイ(ADCC)。(A) ADCCレポーターバイオアッセイでは、エフェクター細胞として、FcγRIIIa受容体と、ホタルルシフェラーゼを発現させるNFAT(活性化T細胞核内因子)応答エレメントを安定して発現する操作されたジャーカット細胞を使用する。ADCC MOAにおける抗体生物学的活性を、NFAT経路活性化の結果として産生されたルシフェラーゼによって定量化した。
図35B】(B) ADCC研究スキームおよびDNP-ザナミビルの結果。
図36】H1N1感染MDCK細胞およびH3N2感染MDCK細胞に対するインビトロ抗ウイルスアッセイ。(A) A/Puerto Rico/8/34(H1N1)および(B) A/Aichi/2/1968(H3N2)。
図37】H3N2ウイルス感染マウスに対する単一用量処置(鼻腔内投与)。(A) 体重維持によって測定した処置効果。(B) 生存率(%)によって測定した処置効果。
図38】H1N1 PR8ウイルス感染マウスに対する単一用量処置(腹腔内投与)。(A) 体重維持によって測定した処置効果。(B) 生存率(%)によって測定した処置効果。
図39】H3N2ウイルス感染マウスに対する単一用量処置(腹腔内投与)。(A) 体重維持によって測定した処置効果。(B) 生存率(%)によって測定した処置効果。
図40】抗DNP抗体およびzana-DNPで処置したH1N1 PR8ウイルス感染済み未免疫マウス。致死用量のH1N1 PR8ウイルスを感染させて1日後に、未免疫マウスの静脈内に異なる用量の抗DNP抗体を与え、すぐに単一用量の腹腔内投与ザナミビル-DNP結合体で処置した。(A) 体重維持によって測定した処置効果。(B) 生存率(%)によって測定した処置効果。
図41】自然免疫系によって産生された抗ラムノースを利用して、インフルエンザウイルス感染細胞をマーキングし、インフルエンザウイルス感染細胞に対する免疫攻撃を誘導する異なる結合体であるザナミビル-ラムノース結合体の合成スキーム。
図42】標識化されたリガンドとしてザナミビル-ローダミン結合体を用いた、ザナミビル-DNPラムノース結合体と、ノイラミニダーゼをトランスフェクトされたHEK293細胞との競合結合。(A) ザナミビルKd 約0.77nM。(B) ザナミビル-ラムノースKd 約3.57nM。
図43】ザナミビル-ラムノース結合体を用いた免疫療法試験。0日目に、ラムノース-OVA免疫化マウス(5匹のマウス/群)に50uLのH1N1 PR8ウイルス(100LD50,4.2x105PFU)を感染させた。感染の24時間後に、マウスの鼻腔内に1.5/0.5/0.17umol/kgのザナミビル-ラムノース結合体/ザナミビル/PBSを5日間にわたって1日2回与えた。初期体重の25%が減少したとき、または瀕死になったときに、マウスが死亡したとみなした。(A) 体重維持によって測定した処置効果。(B) 生存率(%)によって測定した処置効果。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
本開示の概念が本明細書中の図面および説明において詳細に例示および説明されるが、図面およびその説明の中での結果は例示であり、特徴を制限するものではないと考えなくてはならない。例示的な態様だけが示され、かつ説明され、本開示の精神の範囲内にある全ての変更および修正が保護されることが望ましいと理解される。
【0031】
特に定義のない限り、科学用語および技術用語は、本開示に属する当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0032】
インフルエンザウイルスの概説
インフルエンザウイルスはエンベロープのあるウイルスである。全てのインフルエンザ亜型は全体構造が非常に似ている。ウイルス粒子は直径が80~120ナノメートルであり、通常、ほぼ球形であるが、線維状の形態が生じることがある。これらの線維状の形態はインフルエンザCでよくみられる。インフルエンザCは感染細胞の表面に長さが500マイクロメートルまでの、ひも状構造を形成することがある。しかしながら、これらの多様な形状にもかかわらず、全インフルエンザウイルスのウイルス粒子は組成が似ている。これらは、中心コアに巻き付けられた、2つの主なタイプの糖タンパク質を含有するウイルスエンベロープで作られている。中心コアは、ウイルスRNAゲノムと、このRNAを包んで、保護している他のウイルスタンパク質を含有する。RNAは一本鎖になる傾向があるが、特殊な場合では二本鎖である。ウイルスには珍しいことだが、インフルエンザウイルスのゲノムは1つの核酸断片でない。そうではなく、インフルエンザウイルスは7つまたは8つの分節状のマイナス鎖RNA断片を含有し、それぞれのRNA断片は、遺伝子産物(タンパク質)をコードする1つまたは2つの遺伝子を含有する。例えば、インフルエンザAゲノムは、8つのRNA断片上に11種類のタンパク質:血球凝集素(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、核タンパク質(NP)、M1、M2、NS1、NS2(NEP:核外輸送タンパク質)、PA、PB1(ポリメラーゼ塩基性1)、PB1-F2、およびPB2をコードする11の遺伝子を含有する。
【0033】
血球凝集素(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)は、ウイルス粒子の外側にある2種類の大きな糖タンパク質である。HAは、ウイルスと標的細胞が結合し、ウイルスゲノムが標的細胞に侵入するのを媒介するレクチンであるのに対して、NAは、成熟ウイルス粒子に結合する糖を切断することで感染細胞からの子孫ウイルスの放出に関与する。従って、これらのタンパク質は抗ウイルス薬の標的である。さらに、これらは、抗体が産生され得る抗原である。インフルエンザAウイルスは、HAおよびNAに対する抗体応答に基づいて亜型に分類される。これらの異なるタイプのHAおよびNAは、HおよびNの区別、例えば、H5N1の基盤となる。16種類のH亜型と9種類のN亜型が知られているが、ヒトでは、通常、H1、2、および3とN1および2だけが発見されている。
【0034】
抗ウイルス療法のための低分子リガンド標的指向性薬物結合体
低分子リガンド標的指向性薬物結合体は、受容体特異的リガンドと治療剤ペイロードを組み合わせており、多くの疾患の治療、特に、癌化学療法において将来性を示してきた。治療剤ペイロードを、標的指向性リガンドによって認識される細胞に特異的に送達することによって、これらの薬物結合体は悪性細胞に対して高い選択性を示し、関連する付随する毒性を低減する。現在まで、多くの癌が、腫瘍細胞上にある過剰発現受容体を標的とする低分子リガンド標的指向性薬物結合体によって取り組まれてきた。これらの過剰発現受容体には、葉酸受容体(FR)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、コレシストキニン2受容体(CCK2R)、炭酸脱水酵素IX(CAIX)などが含まれる8
【0035】
エンベロープのあるウイルスの場合、複製の最終段階は感染細胞膜上にウイルス成分が集合し、感染細胞表面から出芽することを伴う9。一方で、一部のウイルスエンベロープ糖タンパク質、例えば、HIV gp120およびインフルエンザノイラミニダーゼ/血球凝集素が感染細胞の外面に発現している10。これらの外因性ウイルスタンパク質が感染細胞にしか発現していない事実を考慮すると、これらはリガンド標的指向性薬物結合体によって標的とされる可能性がある。
【0036】
ザナミビル-治療薬物結合体の設計
本開示の一般的なスキームは、ウイルス感染を治療するための治療薬物またはモジュレーターの有効なペイロードに結合されている特異的標的指向性リガンドを提供することである。標的指向性リガンドは、感染細胞の表面にしか発現しないウイルスエンベロープタンパク質を特異的に認識する。場合によっては、治療薬物またはモジュレーターのペイロードは、改良されたキメラ抗原受容体発現T細胞(CAR T細胞)でもよい。例えば、薬物ペイロードがフルオレセインアダプターである場合、ウイルス感染細胞を死滅させるか、または感染細胞におけるウイルス複製を阻害するために、抗フルオレセインCAR T細胞を、標的指向性リガンドによってガイドされるペイロード薬物と共に投与することができる。アダプター分子によって媒介されるCAR T細胞療法およびその作製の詳細な説明については、2016年10月16日に出願された米国出願15/296,666(その全内容は参照により本明細書に組み入れられる)を参照されたい。
【0037】
本明細書では、本発明者らは、インフルエンザウイルスエンベロープタンパク質、特に、ノイラミニダーゼ(NA)を標的とする一連の低分子リガンド標的指向性薬物結合体を設計した。いかなる理論にも拘束されるものではないが、この原理で、血球凝集素(HA)を特異的に標的とする他の低分子リガンドもうまくいく可能性があると意図される。例えば、HAによって媒介されるインフルエンザウイルス侵入を阻害する化合物が、感染細胞のHAに影響を及ぼす潜在的な標的指向性リガンドとみなされ得る。
【0038】
従って、治療薬物をウイルス感染細胞ならびにウイルス複製部位(例えば、鼻、咽頭、および肺)に特異的に運搬および送達するために、本明細書では高親和性ノイラミニダーゼ阻害剤ザナミビルを別の目的で使用した。これは、子孫ウイルスが放出される前にウイルス感染細胞を死滅させるか、またはウイルス複製を妨げ、ウイルス感染によって誘導される初期のサイトカインストームを抑制することができる独特の作用機構を示す(図1)。
【0039】
このプロジェクトのために選択された治療薬物ペイロードを図2に示した。(1) ツブリシンBヒドラジドは、チューブリン重合を阻害する抗有糸分裂性テトラペプチドである。これは、細胞アポトーシスを誘導することによってインフルエンザウイルス感染細胞を死滅させるか、またはインフルエンザウイルス感染細胞の微小管ネットワークを破壊することによってウイルス成分輸送を阻害する11。(2) ピモジビルは、インフルエンザAウイルスポリメラーゼ複合体のPB2サブユニットにあるm7GTP結合ポケットをブロックするRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)阻害剤である。これはPB2キャップスナッチング(cap-snatching)活性を阻害することによってウイルス複製を妨害する12,13。インフルエンザによって引き起こされる高い罹患率と死亡率がウイルス誘導性の組織破壊と炎症性サイトカイン産生の過剰誘導(サイトカインストーム)の結果であるという事実を考えて、インフルエンザ治療のアウトカムを改善するために2種類の免疫調節性薬物であるオザニモドとSN38が選択される14,15。(3) オザニモドは、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体アゴニストとして作用する免疫調節性の治験薬である16。研究者らは、S1P受容体アゴニストが過剰なウイルス誘導性サイトカイン産生を弱めることができるが、無くすことはできないことを発見し、マウスではインフルエンザウイルス感染からのかなりの保護が示される17,18。(4) SN38は、イリノテカン(カンプトテシンの類似体)の活性代謝物であるトポイソメラーゼI阻害剤である19。SN38は、自然免疫遺伝子へのRNAポリメラーゼIIの動員を阻害することによってインフルエンザウイルス誘導性炎症遺伝子の過剰発現を制限すると証明された20。さらに、SN38は、細胞アポトーシスを誘導することによってインフルエンザウイルス感染細胞を死滅することもできる。
【0040】
ツブリシンBヒドラジド、ピモジビル、オザニモド、またはSN38を含むが、これに限定されない、これらの分子がウイルスエンベロープタンパク質の標的指向性リガンドに結合しているときに、ウイルス感染細胞を死滅させる、または感染細胞内でのウイルス複製を阻害するといった様々な役割を果たすことができる。
【0041】
インフルエンザを治療するためのザナミビル-ハプテン結合体標的指向性免疫療法の設計
インフルエンザウイルス感染細胞を直接死滅させる、または感染細胞内でのウイルス複製を阻害することができる治療薬物以外に、免疫療法が、体内に既にある抗体によって免疫系が特定の感染と戦うように誘発するのに有効な場合がある。このような免疫療法の可能性がある候補の1つは、ジニトロフェニル(DNP)を用いてTLの結合体を作製することで、循環している抗DNP抗体の目を覚まさせることである。
【0042】
ザナミビルがインフルエンザウイルスまたはウイルス感染細胞を標的とする潜在的な能力があるため、本発明者らの研究室ではザナミビル-ジニトロフェニル(DNP)結合体も開発した(図3)。図3bに示したように、ザナミビル-DNP結合体は、インフルエンザウイルス/ウイルス感染細胞と内因性の循環抗DNP抗体との間で二重特異性の分子「架橋」を形成すると考えられている。この「マーキング(marking)」工程は、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、および補体依存性細胞傷害(CDC)などの機構を介して、抗体で覆われたウイルスまたはウイルス感染細胞のクリアランスにつながる免疫応答を開始する21-23
【0043】
ザナミビル-DNP結合体標的指向性免疫療法にはインフルエンザワクチンを上回る2つの主な利点がある。第1に、現行のインフルエンザワクチンは、来期にどのウイルス亜型が現れる可能性が高いか予測することに基づいて調製される。この予測が失敗する場合があるので、ワクチンはウイルスとぴったり合わないことがある。しかしながら、ザナミビルは高親和性をもって11種類全てのインフルエンザNA亜型に効き、診療所で発見されるザナミビル耐性ウイルスはほとんどない7。第2に、抗DNP抗体がヒト血流中に既に存在するので、この療法には前ワクチン接種(pre-vaccination)は必要でない24
【0044】
理論に拘束されるものではないが、トリニトロフェニル(TNP)、ラムノース、またはα-ガラクトシルなどの他の任意の部分に結合されているザナミビルは、それぞれの抗体をインフルエンザ感染細胞に動員して抗体依存性免疫応答を誘発し得ることが意図される。従って、本明細書において開示される免疫療法はザナミビル結合体マーキングによってインフルエンザウイルス感染細胞を標的とすることができる。
【0045】
標的指向性CAR T細胞療法のためのインフルエンザウイルス誘導性腫瘍タイプ
米国出願15/296,666またはその関連出願(これらの内容は明確に参照により本明細書に組み入れられる)に記載のように、本発明者らの新たに開発された改良CAR T細胞療法に関連して、CAR T細胞をインフルエンザウイルス感染細胞に標的指向性送達してCAR T細胞免疫応答機能を果たすことが本開示において意図される。
【0046】
図13は、インフルエンザウイルス感染細胞を処置するCAR T細胞戦略を図示する。図13では、ザナミビル-FITC結合体が生成され、表面にウイルスノイラミニダーゼを発現するインフルエンザウイルス感染細胞に取り付けられる。このプロセスでは、ザナミビル-FITCは少なくとも2つの異なる機能を果たす可能性があることに注目する。一方の機能は、インフルエンザウイルスの感染強度を示すためのイメージング剤として働き、他方の機能は、エンベロープからのウイルス出芽をブロックできるNA阻害剤であるザナミビルでウイルス感染細胞をマーキングすることである。感染細胞表面にザナミビル-FITC結合体が存在すると、抗FITC抗体で改良されたT細胞がウイルス感染細胞に誘導され、免疫シナプスが形成する可能性がある。当業者が知っている可能性があるように、このような抗FITC CAR T細胞はザナミビル-FITC結合体に結合することで活性化することができる。従って、活性化されたCAR T細胞はサイトカインを分泌し、その後にウイルス感染細胞を死滅させ、ウイルス複製を阻止する可能性がある。
【0047】
いかなる理論にも拘束されるものではないが、インフルエンザ感染細胞を処置するために低分子標的指向性薬物または免疫制御因子結合体を用いる利点は複数の側面から見て取ることができる。現在、来期にどの株が広がる可能性が高いか毎年予測することに基づいてワクチンが製造されている。しかしながら、このような戦略が誤り、従って、流行中の最も優勢な株にワクチンが効かなくなる場合がある。例示されたザナミビルは、11種類全てのインフルエンザNA亜型に有効なNA阻害剤であり、感染細胞からウイルスが出芽するのをブロックする。従って、この有効性はインフルエンザウイルスの全亜型に適合している。同時に、ザナミビルに結合されているペイロード薬物である治療剤もしくは免疫療法モジュレーター、またはアダプター分子(すなわち、フルオレセイン)によって媒介される抗フルオレセインCAR T細胞は、インフルエンザ感染細胞を特異的にマーキングして、ウイルス感染細胞を除去するのに必要な免疫応答を誘発する。
【実施例0048】
実施例1. 標的指向性リガンドの設計
インフルエンザノイラミニダーゼ(NA)は、インフルエンザウイルスエンベロープの脂質ラフトドメインに固定されている膜貫通糖タンパク質である。NAは膜糖タンパク質の20%(約80)を占め、NAのヘッドはホモ四量体である。これは膜糖タンパク質または糖脂質からのシアル酸を切断することによって感染細胞からの子孫ウイルスの放出を助ける(ウイルス出芽プロセスでは、インフルエンザウイルス血球凝集素は、宿主細胞膜上にあるシアル酸受容体に結合することができる。これにより、新たに形成されたウイルスの放出が妨げられる) 9。ノイラミニダーゼはインフルエンザウイルス表面上と感染細胞膜表面上の両方で発現しているので、インフルエンザウイルスとウイルス感染細胞を標的とする標的指向性リガンドを設計するための潜在的な標的として本発明者らのグループによって選択された。
【0049】
現在まで、抗インフルエンザ薬として4種類のノイラミニダーゼ阻害剤:オセルタミビル(Tamiflu; Glide/Roche)、ザナミビル(Relenza; GlaxoSmithKline)、ペラミビル(Rapivab; BioCryst)、およびラニナミビル(Inavir; 第一三共)が開発されている25。ザナミビルは、最小の機能を持つ天然シアル酸由来阻害剤であるので、まれなザナミビル耐性ウイルスが診療所で発見される7。従って、標的指向性リガンド設計の候補としてノイラミニダーゼ阻害剤の中からザナミビルを選択した。Hondaらは、ザナミビルのC-7アルキル修飾類似体がノイラミニダーゼに対する阻害活性を保持していると報告した(図4)。このことから、C-7位置はリンカー付着部位として修飾されるのに寛容なことが分かる26。Hondaの結論は、ノイラミニダーゼと複合体化したザナミビルのX線結晶構造の結果によって裏付けられた。すなわち、ザナミビルの7-OH基は溶媒表面領域に対して露出しており、ノイラミニダーゼの活性部位と直接相互作用しない(図5) 27。さらに、いくつかの研究グループも、抗インフルエンザ活性が改善した、ザナミビルおよびザナミビル誘導体の一組の多量体類似体を組み立てるために連結部位としてC7位置を使用した28。まとめると、本発明者らは、ザナミビルに基づいて、連結部位としてその7-OH基を修飾することによって新たなNA標的指向性リガンドを設計する(図4)。
【0050】
実施例2. 化合物合成
スキーム1 標的指向性リガンドの合成
試薬および条件:(a) アンバーライトIR-120B(H+型)、MeOH;(b) 無水酢酸、4-(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、ピリジン;(c) トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル、酢酸エチル;(d) アジドトリメチルシラン、tert-ブチルアルコール;(e) トリフェニルホスフィン、H20、THF;(f) N,N’-bis(tertブトキシカルボニル)-1H-ピラゾール-1-カルボキシアミジン、トリエチルアミン、THF;(g) ナトリウムメトキシド溶液、MeOH;(h) 2,2-ジメトキシプロパン、p-トルエンスルホン酸、アセトン;(i) 4-ニトロフェニルクロロホルメート、DMAP、ピリジン;(j) アジド-dPEG(登録商標)3-アミン、DMAP、ピリジン;(k) 1M NaOH(aq)、THF;(l) TFA。
【0051】
スキーム2 低分子薬物結合体の一般的な合成スキーム
【0052】
スキーム3 ザナミビル-ローダミン結合体の合成
試薬および条件:(a) DBCO-アミン、DIPEA、DMF;(b) DMSO。
【0053】
スキーム4 ザナミビル-EC20結合体の合成
試薬および条件:(a) 1. DMFを用いて樹脂を湿らせる、2. Fmoc-Asp(OtBu)-OH、PyBop、DIPEA、DMF;(b) 1. DMFに溶解した20%ピペリジン、2. Fmoc-DAPA-OH、PyBop、DIPEA、DMF;(c) DMFに溶解した20%ピペリジン;(d) 1. DBCO-酸、PyBop、DIPEA、DMF、2. TFA/TIPS/EtSH/H2O(92.5:2.5:2.5:2.5);(e) DMSO。
【0054】
スキーム5 ザナミビル-ツブリシンBヒドラジド結合体の合成
試薬および条件:(a) THF/NaHCO3緩衝液。
【0055】
スキーム6 ザナミビル-DNP結合体の合成
試薬および条件:(a) TEA、EtOH;(b) DBCO-NHS、DIPEA、DMSO;(c) DMSO。
【0056】
スキーム7 ザナミビル-ピモジビル結合体の合成
試薬および条件:(a) N-Boc-ジエタノールアミン、EDC、DMAP、DCM;(b) DCMに溶解した20%TFA;(c) DBCO-NHS、DIPEA、DMSO;(d) DMSO。
【0057】
スキーム8 ザナミビル-オザニモド結合体の合成
試薬および条件:(a) DBCO-酸、EDC、DMAP、DCM;(b) DMSO。
【0058】
スキーム9 ザナミビル-SN38結合体の合成
試薬および条件:(a) ジ-tertブチルデカルボネート(di-tertbutyldecarbonate)、ピリジン、DCM;(b) DBCO-酸、EDC、DMAP、DCM;(c) DCMに溶解した20%TFA;(d) DMSO。
【0059】
実施例3. 抗インフルエンザ化学療法のための低分子リガンド標的指向性薬物結合体
インフルエンザウイルス感染MDCK細胞とのインビトロ結合
(1) ザナミビル-ローダミン結合体を用いた共焦点顕微鏡試験
方法: MDCK細胞を共焦点プレートに播種し、一晩インキュベートした。細胞が80%コンフルエンスに達した翌日に、100 TCID50インフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34(H1N1)を感染させた。3日目に、感染MDCK細胞を5μMザナミビル(zanamivr)の存在下または非存在下で50nMザナミビル-ローダミン結合体と共にインキュベートした。37℃で1時間インキュベートした後に、細胞を細胞培養培地で洗浄し、共焦点顕微鏡に送った。
【0060】
図6aに示したように、インフルエンザウイルス感染MDCK細胞を50nMザナミビル-ローダミン結合体と共にインキュベートした場合に強力な蛍光シグナルが観察された。ザナミビル-ローダミン結合体とノイラミニダーゼとの結合が100倍過剰のザナミビルと競合すると、蛍光発光シグナルは消失する(図6b)。このことから、細胞への結合体の取り込みは受容体によって媒介されることが分かる。手短に言えば、この結果から、ザナミビル-ローダミン結合体はインフルエンザウイルス感染MDCK細胞に結合し、内部移行できることが証明された。
【0061】
(2) ザナミビル-ローダミン結合体を用いた結合親和性試験
方法: MDCK細胞を24ウェルプレートに播種し、一晩インキュベートした。細胞が80%コンフルエンスに達した翌日に、100 TCID50インフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34(H1N1)を感染させた。3日目に、感染MDCK細胞を100倍過剰のザナミビルの存在下または非存在下で様々な濃度のザナミビル-ローダミン結合体と共にインキュベートした。37℃で1時間インキュベートした後に、細胞を細胞培養培地で洗浄し、残存する蛍光を蛍光分光法で定量化した。見かけのKdは、GraphPad Prism 4を用いて、細胞に結合した蛍光強度対添加したザナミビル-ローダミン結合体の濃度をプロットすることによって計算した。
【0062】
図6cに示したように、ザナミビル-ローダミン結合体と、ウイルス感染細胞上に発現しているノイラミニダーゼとの結合は10.98nMのKdで飽和することが見出された。このザナミビル-ローダミン結合体結合は100倍過剰のザナミビルと競合する。
【0063】
上記の共焦点試験および結合親和性試験に基づいて、ザナミビル誘導体はインフルエンザウイルスノイラミニダーゼに対する標的指向性リガンドとして優れた候補であると判明した。
【0064】
実施例4. インビボ生体内分布
(1) 99mTcキレート化ザナミビル-EC20ヘッド結合体を用いた結合親和性試験
方法: MDCK細胞を24ウェルプレートに播種し、一晩インキュベートした。細胞が80%コンフルエンスに達した翌日に、100 TCID50インフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34(H1N1)を感染させた。3日目に、感染MDCK細胞を100倍過剰のザナミビルの存在下または非存在下で様々な濃度の99mTcキレート化ザナミビル-EC20ヘッド結合体と共にインキュベートした。37℃で1時間インキュベートした後に、細胞を細胞培養培地で洗浄し、残存する99mTcキレート化ザナミビル-EC20ヘッド結合体の放射能をガンマカウンターで定量化した。見かけのKdは、GraphPad Prism 4を用いて、細胞に結合した放射能対放射性トレーサーの濃度をプロットすることによって計算した。
【0065】
テクネチウム-99m(99mTc)キレート化ザナミビル-EC20ヘッド結合体と、ウイルス感染細胞上で発現しているノイラミニダーゼとの結合は15.09nMのKdで飽和することが見出された。この99mTcキレート化ザナミビル-EC20ヘッド結合体結合は100倍過剰のザナミビルと競合する(図7a)。この結合親和性値は、ザナミビル-ローダミン結合体によって測定した値と一致する。このことから、ザナミビル誘導体はインフルエンザウイルスノイラミニダーゼに対する優れた標的指向性リガンドだとさらに判明した。
【0066】
(2) 99mTcキレート化ザナミビル-EC20ヘッド結合体を用いた生体内分布試験
方法: 最初に、インフルエンザ症状を発症させるために、BALB/cマウス(6~7週齢)の鼻腔内に50μLのインフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/1934(H1N1)を注射した。3日後に、マウスに100倍過剰のザナミビルの存在下または非存在下で100μLの10nmolザナミビル-EC20ヘッド結合体(20pM99mTcキレート化結合体を含有する)を静脈内注射した。注射して5時間後に、主要な組織/臓器を取り出し、放射能の量をガンマカウンターで求めた。
【0067】
ザナミビル誘導体が治療剤またはイメージング剤をインフルエンザウイルス感染肺に特別に送達する能力を試験するために、ウイルス感染マウス/非感染マウスにおける99mTcキレート化ザナミビル-EC20ヘッド結合体の生体内分布プロファイルを測定した。図8に示したように、結合体は、インフルエンザウイルスが増殖する主要臓器であるウイルス感染マウス肺において最大の取り込みを示す。さらに、99mTcキレート化ザナミビル-EC20結合体は競合群のマウスでも非感染群のマウスでも肺に取り込まれていない。このことから、結合体の肺への取り込みは受容体によって媒介されたことが分かる。ウイルス感染肺は別として、腎臓は、かなりの放射性シグナルを示した唯一の器官である。しかしながら、このシグナルは競合群でも非感染群でも無くなることはなかった。このことから、腎臓における99mTcキレート化ザナミビル-EC20ヘッド結合体の蓄積はノイラミニダーゼによって媒介されなかったことが分かる。まとめると、この結果は、このプロジェクトで設計されたザナミビル誘導体が、治療剤またはイメージング剤をウイルス感染肺に特異的に送達する標的指向性リガンドとして使用できるという強力な証拠を示している。
【0068】
実施例5. ザナミビル-ツブリシンBヒドラジド結合体を用いたインビトロ細胞傷害試験
方法: ノイラミニダーゼをトランスフェクトされたHEK293細胞を96ウェルプレートに播種し、ザナミビル-ツブリシンBヒドラジド結合体、遊離ツブリシンBヒドラジド、または100倍過剰のザナミビルの存在下でザナミビル-ツブリシンBヒドラジド結合体と37℃で2時間インキュベートした。次いで、細胞を新鮮培地で洗浄し、37℃でさらに48時間インキュベートした。細胞生存率を、ATP検出(CellTiter Glo, Promege Inc. Madison, WT)を用いて測定した。EC50値は、GraphPad Prism 4を用いて%ルミネセンス強度対log薬物濃度をプロットすることによって計算した。
【0069】
ザナミビル-ツブリシンBヒドラジド結合体の細胞傷害性および標的特異性を確かめるために、ノイラミニダーゼをトランスフェクトされたHEK293細胞を用いてインビトロ細胞傷害アッセイを行った。図9に示したように、ザナミビル-ツブリシンBヒドラジド結合体のEC50は5.2nMであった。これは、遊離ツブリシンBヒドラジドのEC50(9.9nM)に匹敵する。ノイラミニダーゼ結合部位を100倍過剰のザナミビルでブロックすると、細胞傷害性が30倍超低下した。このことから、細胞死滅のほとんどが受容体によって媒介されると示唆される。
【0070】
実施例6. 抗インフルエンザ化学療法および免疫療法のための低分子リガンド標的指向性薬物結合体
標識化されたリガンドとしてザナミビル-ローダミン結合体を用いた、ザナミビル-DNP結合体と、ノイラミニダーゼをトランスフェクトされたHEK293細胞との競合結合
方法: ノイラミニダーゼをトランスフェクトされたHEK293細胞を24ウェルプレートに播種し、一晩インキュベートした。翌日、細胞を、1種類の濃度の標識化されたリガンド(15nMザナミビル-ローダミン結合体)ならびに様々な濃度のザナミビル-DNP結合体またはザナミビルと共にインキュベートした。1時間インキュベートした後に細胞を細胞培養培地で洗浄し、残存する蛍光を蛍光分光法で定量化した。見かけのKdは、GraphPad Prism 4において競合結合式を用いて、細胞に結合した蛍光強度対添加したザナミビル-DNP結合体またはザナミビルのlog濃度をプロットすることによって計算した。
【0071】
ザナミビル-DNP結合体と細胞膜結合型ノイラミニダーゼとの結合親和性を競合結合実験において測定した。図10は、ザナミビル-DNP結合体およびザナミビルの結合親和性が、それぞれ12.81nMおよび0.45nMと測定されたことを示す。DNP部分に取り付けられると、標的指向性リガンドの結合親和性は28倍低下するが、その結合親和性は依然として低ナノモル濃度範囲である。このことから、ザナミビル-DNP結合体には、リガンド標的指向性ハプテン結合体として用いられる可能性があることが分かる。
【0072】
実施例7. ザナミビル-DNP結合体を用いた抗DNP抗体動員アッセイ
図11に示したように、約10nMのザナミビル-DNP結合体が、ノイラミニダーゼをトランスフェクトされたHEK293細胞膜上のノイラミニダーゼ(293tnNA)に特異的に結合し、抗DNP抗体を動員することができた。トランスフェクトされていないHEK293細胞(293tn)では結合は観察されなかった。
【0073】
方法: 293tnNA(ノイラミニダーゼをトランスフェクトされた)および対照(トランスフェクトされていない293tn)細胞を異なる濃度のザナミビル-DNP結合体と4℃で30分間インキュベートし、その後にPBSで3回洗浄した。その後、細胞を抗DNP-ビオチンおよびストレプトアビジン-PEで4℃で30分間染色した。細胞をPBSで3回洗浄し、フローサイトメトリーに提出した。
【0074】
実施例8. マウス保護試験
方法: BALB/cマウス(4週齢)を1週目および3週目に2回、DNP-KLHで免疫化した。4週目に、インフルエンザ症状を発症させるために、免疫化マウスおよび未免疫マウスの鼻腔内に50μLの100LD50インフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/1934(H1N1)を注射した。2時間後、マウスの鼻腔内にPBS/ザナミビル/ザナミビル-DNP結合体(1.5μmol/kg)を5日間にわたって1日1回与えた。初期体重の25%が減少したとき、または瀕死になったときに、マウスが死亡したとみなした。
【0075】
図12に示したように、ザナミビル-DNP結合体(赤色の逆三角)には1.5μmol/kgの用量でザナミビル(緑色の三角)より優れた効果がある。ザナミビル-DNP結合体で処置した免疫化マウスについては体重減少またはインフルエンザ症状は観察されなかった(図12a、赤色の線)。ザナミビル-DNP結合体は全ての免疫化マウスを致死ウイルス曝露から保護した(図12b、赤色の線)。対照的に、ザナミビルは免疫化マウスの60%しか救わなかった(図12b、緑色の線)。未免疫マウスに与えられたときに、ザナミビル-DNP結合体の効力が激減したことは言及する価値がある(青色の線)。このことは、ザナミビル-DNP結合体の免疫学的機能の重要性を強調している。
【0076】
実施例9. インフルエンザウイルスは標的指向性CAR T療法のための腫瘍タイプを誘導した
本実施例では、NA発現HEK293細胞を死滅させるCAR T細胞のインビトロ試験を証明する。
【0077】
図14は、インフルエンザウイルス感染細胞を模倣するためにNA発現HEK293細胞(293NA)が用いられることを示す。図14AおよびBから、それぞれ、
CAR-T(100,000細胞):293NA(20,000)=5:1によって41%が死滅する
CAR-T(200,000細胞):293NA(20,000)=10:1によって61%が死滅する
ことが分かる。
【0078】
実施例10. ザナミビル-FITCと正常293T細胞は結合しない
図15は、ザナミビル-FITCが正常293T細胞に結合しないことを示す。ザナミビルは細胞表面上にあるNAに特異的に結合するので、293細胞がNA発現をトランスフェクトされなければ、ザナミビル-FITCは細胞表面にはない。従って、フローサイトメーターにおいてゲーティングされた場合は正常293細胞が検出されない。表面にNAを発現する細胞だけがザナミビル-FITC結合体によって検出される。従って、ザナミビル-FITCはNA発現細胞を特定するためのプローブとして役立つ可能性がある。
【0079】
実施例11. NAに対する細胞傷害性はザナミビル-FITCによって特異的に誘導される
図16は、抗FITC CAR TがHEK 293NA細胞に対して特異的に細胞傷害性を果たすことを示す。
【0080】
3つの異なる群(HEK-293+FITC-ザナミビル、293NA+EC17、293NA+遊離ザナミビル)をヒトCAR-T細胞と共培養し、死滅%をLDHによって試験した。
【0081】
この表/図16では、HEK-293は、NAを発現しない正常293T細胞である。これに対して、293NAは、NAを発現する293T細胞である。FITC-ザナミビルは、CAR-TがNA発現細胞(自然界ではインフルエンザ感染細胞;この実験では293NA)を標的とするように設計されたアダプターである。EC17の場合、FITC側はCAR-T細胞に結合できるが、他方の側は293NAに結合しない。従って、3つの群は、1.非標的細胞と正しいアダプター;2.標的細胞と間違ったアダプター;3.標的細胞と遊離薬物と考えることができる。3つの群の結果は死滅がないと予測された。図16の実験結果は、この仮説を裏付けており(293NA+EC17群の3~5%死滅はばらつき(variation)である可能性がある)、図14の実験群(293NA+FITC-ザナミビル)の40~60%死滅と全く比較にならない。
【0082】
実施例12. 本物のウイルスを用いたインビトロアッセイ
図17に示したように、実施例10と同様に、本物のウイルスに感染したMDCK細胞をザナミビル-ローダミン結合体によって特定して、NA発現レベルをチェックすることができる。
【0083】
典型的には、コンフルエントMDCK細胞に100 TCID50インフルエンザウイルス(H1N1)を感染させた。例示された図17では、細胞表面上にあるNAの発現レベルをチェックするために、細胞を100nMザナミビル-ローダミン結合体で染色する。
【0084】
MDCK細胞にインフルエンザウイルスを約15時間感染させた後、これらの細胞をCAR-T細胞と何時間か共培養する。次いで、CAR-T死滅効果の効力を少なくとも2つの異なる手法でチェックする。1つは、LDHアッセイなどの細胞溶解をチェックする手法である。図18は、ザナミビル-FITC結合体に適合された抗FITC CAR-T細胞によるH1N1感染MDCKの死滅を示す。左パネルは、通常のT細胞が18時間の共培養後に10%の最高率でMDCK細胞を死滅させた文献報告を示す。これに対して、適合されたCAR-T細胞は、わずか7時間の共培養後にインフルエンザ感染MDCK細胞を約8.4%死滅させた。さらに、適合されたCAR-T細胞は非感染MDCKを死滅させない。このことから、CAR Tは感染T細胞に極めて特異的であることが分かる。CAR T死滅効果をチェックするもう1つの手法は、(例えば、ウイルス遺伝物質を測定してウイルス複製を定量化するqPCRを用いて)上清中のウイルス力価を測定する手法である。
【0085】
実施例13. 標的指向性CAR-T療法のためにインフルエンザ誘導性腫瘍タイプを研究するためのインビボマウスモデル
図19は、標的指向性アダプターによって媒介される、前の実施例に記載の抗FITC CAR-T療法を用いてインフルエンザウイルス誘導性腫瘍タイプを研究するためのマウスモデルを示す。最初に、ウイルス力価のLD50を求めるために、インフルエンザウイルスに感染したNSGマウスを研究する。妥当なウイルス力価と感染NSGマウスを確立した後に、ザナミビル-FITC結合アダプターと抗FITC CAR-T細胞を感染NSGマウスに適用して救う。ザナミビル-FITC結合体と抗FITC CAR-Tによって救うとマウス生存率は上昇すると予想される。
【0086】
実施例14. インフルエンザAグループ1ノイラミニダーゼ(N1で表す)およびグループ2ノイラミニダーゼ(N2で表す)に対するザナミビル-DNP結合体の結合親和性
【0087】
図21は、インフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34(H1N1)感染MDCK細胞のインビトロ結合アッセイを示す。
【0088】
図22は、インフルエンザウイルスA/Aichi2/1968(H3N2)感染MDCK細胞のインビトロ結合アッセイを示す。
【0089】
実施例15. ザナミビル-DNP結合体がCDC効果およびADCP効果によってインフルエンザウイルス感染細胞の死滅を誘導する能力
図23~24は、抗DNP抗体を、H1N1株およびH3N2株の両方についてウイルス感染MDCK細胞に動員できることを示す。
【0090】
図25は、ザナミビル-DNP結合体の補体依存性細胞傷害アッセイを示す。最大死滅に達するには10nM薬物結合体しか必要とされない。このことから、ザナミビル-DNP結合体はザナミビル単独よりかなり強力であることが分かる。
【0091】
図26は、ザナミビル-DNP結合体が抗DNP抗体を引き寄せて抗体依存性食作用(ADCP)を実現する可能性があることを示す。
【0092】
実施例16. 以下を証明した一連の生体マウス試験:
a. インフルエンザウイルス感染の治療における薬物の鼻腔内投与の効力(図27~29)
b. 鼻腔内投与後の最適用量を示した用量段階的増加試験(図27)
c. 鼻腔内投与後に完治させるには単一用量で十分なことを示した用量頻度試験(図28、31)
d. 処置は、インフルエンザ症状が検出されて72時間まで遅らせることができ、それでもなお鼻腔内投与した後に完治する(図29~30)。
e. 同じ薬物を腹腔内注射によって投与することができ、それでもなお完治する(図33~34)。
f. 上記のアッセイの全てにおいて、本発明者らの薬物はザナミビルより性能が著しく優れている(図27~34)。
g. BioDデータおよびspect/CT画像化は感染肺組織に対して特異性を示す(図32)。
【0093】
実施例17. 抗体依存性細胞傷害レポーターバイオアッセイを用いて、インフルエンザを治療するためのリガンド標的指向性免疫療法を分析した(図35A~B)
本実施例では、ADCCレポーターバイオアッセイを適用して、ホタルルシフェラーゼレポーターアッセイ(ADCC Reporter Bioassays, V Variant, Catalog #: G7010, Promega)を介して、ザナミビル-DNP結合体によって誘導されるADCC応答をモニタリングする。簡単に述べると、図35Aに示したように、エフェクター細胞として、FcγRIIIa受容体と、ホタルルシフェラーゼを発現させるNFAT(活性化T細胞核内因子)応答エレメントを安定して発現するように操作されたジャーカット細胞を使用する。ADCC作用機序における抗体の生物学的活性を、NFAT経路活性化の結果として産生されたルシフェラーゼによって定量化する。このことから、図35Bに概説したように、ADCC効果を媒介する際にザナミビル-DNP結合体は標的細胞に結合することが分かる。本実施例から、ザナミビル-DNP結合体はADCC効果の媒介において重要な役割を果たすことが分かる。
【0094】
実施例18. インフルエンザを治療するためのリガンド標的指向性免疫療法を、H1N1感染MDCK細胞およびH3N2感染MDCK細胞に対するインビトロ抗ウイルスアッセイを用いて分析した(図36A~B)
本実施例では、ザナミビル-DNP結合体に保護効果があるかどうか、H1N1またはH3N2ウイルスに感染させたMDCK細胞を研究した。図36A(H1N1)および36B(H3N2)に示したように、EC50は、ウイルス感染したMDCKを50%保護するための阻害剤濃度を表す。
【0095】
ザナミビル-DNP結合体が、インフルエンザウイルス増殖を抑制するために、必要なノイラミニダーゼ活性を依然として阻害できることを保証するために、本発明者らは、MDCK-インフルエンザウイルス共培養物中におけるインフルエンザウイルス増殖を抑制する際のザナミビルおよびザナミビル-DNP結合体の効力を比較した。
【0096】
実施例19. H3N2ウイルス感染マウスに対する単一用量処置(鼻腔内投与)(図37A~B)
本実施例では、0日目に、DNP-KLHで免疫化したマウス(5匹のマウス/群)に50uLのA/Aichi/2/1968(HA,NA),x-31b(H3N2)ウイルス(100LD50)を感染させた。
【0097】
感染の24時間後に、マウスの鼻腔内にザナミビル-DNP結合体/ザナミビル/PBSを1回だけ与えた。初期体重の25%が減少したとき、または瀕死になったときに、マウスが死亡したとみなした。
【0098】
図37AおよびBに示したように、鼻腔内投与ザナミビル-DNPは感染の14日後に優れた保護を示す(全マウスが治癒した)。これに対して、ザナミビル単独は同じ保護を示さない。
【0099】
実施例20. H1N1ウイルス感染マウスに対する単一用量処置(腹腔内投与)(図38A~B)
本実施例では、0日目に、DNP-KLHで免疫化したマウス(5匹のマウス/群)に50uLのA/Puerto Rico/8/34(100LD50, 4.2x105PFU)を感染させた。
【0100】
感染の24時間後に、マウスの腹腔内にザナミビル-DNP結合体/ザナミビル/PBSを1回だけ与えた。初期体重の25%が減少したとき、または瀕死になったときに、マウスが死亡したとみなした。
【0101】
図38AおよびBに示したように、腹腔内投与ザナミビル-DNPは感染の14日後に優れた保護(全マウスが治癒した)を示す。これに対して、ザナミビル単独は同じ保護を示さない。
【0102】
実施例21. H3N2ウイルス感染マウスに対する単一用量処置(腹腔内投与)(図39A~B)
本実施例では、0日目に、DNP-KLHで免疫化したマウス(5匹のマウス/群)に50uLのA/Aichi/2/1968(HA,NA),x-31b(H3N2)ウイルス(100 LD50)を感染させた。
【0103】
感染の24時間後に、マウスの腹腔内にザナミビル-DNP結合体/ザナミビル/PBSを1回だけ与えた。初期体重の25%が減少したとき、または瀕死になったときに、マウスが死亡したとみなした。
【0104】
図39A~Bに示したように、腹腔内投与ザナミビル-DNPは、感染の14日後に優れた保護(全マウスが治癒した)を示す。これに対して、ザナミビル単独は同じ保護を示さない。
【0105】
実施例22. H1N1ウイルスに感染した未免疫マウスを抗DNP抗体で処置した(図40A~B)
本実施例では、致死用量のH1N1ウイルスに感染させて1日後に、未免疫マウスの静脈内に抗DNP抗体を与え、すぐに様々な用量の腹腔内投与ザナミビル-DNP結合体で処置した。
【0106】
パイロット試験では、0日目に、マウス(3匹のマウス/群)に50uLのA/Puerto Rico/8/34ウイルス(100 LD50,4.2x105PFU)を感染させた。
【0107】
感染の24時間後にマウスの静脈内に抗DNP抗体(ポリクローナルウサギIgG)を1回だけ与え、感染の24時間後に鼻腔内にザナミビル-DNP結合体を1回だけ与えた。
【0108】
初期体重の25%が減少したとき、または瀕死になったときに、マウスが死亡したとみなした。
【0109】
図40A~Bに示したように、感染の24時間後に同時投与した場合、1mg/kgと少ない静脈内投与抗DNP抗体と1.5umol/kg鼻腔内投与zana-DNP結合体は致死用量のH1N1ウイルス感染に対して、必要な保護を提供することができる。
【0110】
実施例23. ザナミビル-ラムノース結合体の合成スキーム(図41)
本実施例では、インフルエンザウイルス感染に対する免疫応答の誘導において使用するために、異なる結合体ザナミビル-ラムノースを合成する。合成スキームを図41に示した。
【0111】
実施例24. 標識化されたリガンドとしてザナミビル-ローダミン結合体を用いた、ザナミビル-ラムノース結合体と、ノイラミニダーゼをトランスフェクトされたHEK293細胞との競合結合(図42A~B)
本実施例では、ノイラミニダーゼをトランスフェクトされたHEK293細胞を24ウェルプレートに播種し、一晩インキュベートした。翌日、細胞を、1種類の濃度の標識化されたリガンド(15nMザナミビル-ローダミン結合体)ならびに様々な濃度のザナミビル-ラムノース結合体またはザナミビルと共にインキュベートした。1時間インキュベートした後に、細胞を細胞培養培地で洗浄し、残存する蛍光を蛍光分光法で定量化した。見かけのKdは、GraphPadPrism4において競合結合式を用いて、細胞に結合した蛍光強度対添加したザナミビル-DNP結合体またはザナミビルのlog濃度をプロットすることによって計算した。ザナミビル-ラムノース結合体では約3.57nMのKdがプロットされたのに対し、遊離ザナミビでは約0.77nMのKd、ザナミビル-ローダミン結合体では約11.71nMのKdがプロットされた。
【0112】
実施例25. ザナミビル-ラムノース結合体を用いた免疫療法試験(図43A~B)
本実施例では、ザナミビル-ラムノース結合体によるマウス保護を用量段階的増加試験において観察する。簡単に述べると、0日目に、ラムノース-OVAで免疫化したマウス(5匹のマウス/群)に50uLのA/Puerto Rico/8/34ウイルス(100LD50,4.2x105PFU)を感染させた。
【0113】
感染の24時間後に、マウスの鼻腔内に1.5/0.5/0.17umol/kgザナミビル-ラムノース結合体/ザナミビル/PBSを5日間にわたって1日2回与えた。初期体重の25%が減少したとき、または瀕死になったときに、マウスが死亡したとみなした。
【0114】
図43A~Bに示したように、0.17umol/kgと少ないザナミビル-ラムノース結合体1日2回(b.i.d)はA/Puerto Rico/8/34(H1N1)ウイルス致死感染マウスを少なくとも50%保護することができた。
【0115】
参考文献
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15
図16
図17
図18
図19
図20A-B】
図20C
図21A-B】
図21C
図22A-B】
図22C
図23
図24
図25
図26
図27
図28A
図28B
図29
図30
図31
図32A-B】
図32C
図32D
図33
図34
図35A
図35B
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
【手続補正書】
【提出日】2024-01-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザウイルスのエンベロープタンパク質に対する標的指向性リガンド(TL)と、リンカー(L)と、薬物ペイロード(D)とを含む結合体であって、該TLが、該エンベロープタンパク質に結合する分子であり、該リンカーが該Dと該TLの両方に共有結合しており、該Dが、免疫モジュレーターである、結合体。
【請求項2】
前記リンカーが、前記TLと前記Dの間に、スペーサーと、切断可能な架橋または切断不可能な架橋とを含む、請求項1記載の結合体。
【請求項3】
前記インフルエンザウイルスのエンベロープタンパク質が、ノイラミニダーゼ(NA)または血球凝集素(HA)である、請求項1記載の結合体。
【請求項4】
前記TLがザナミビルである、請求項1記載の結合体。
【請求項5】
前記TLが、オセルタミビル、ザナミビル、ペラミビル、およびラニナミビルからなる群より選択される、請求項1記載の結合体。
【請求項6】
前記Dが、自己抗体によって認識されるハプテンおよびオザニモドからなる群より選択される、請求項1記載の結合体。
【請求項7】
または
である、請求項4記載の結合体。
【請求項8】
結合体を含む、対象においてインフルエンザウイルス感染を治療するための抗インフルエンザ薬であって、結合体が、インフルエンザウイルスのNAの標的指向性リガンド(TL)と、リンカー(L)と、薬物ペイロード(D)とを含み、該TLがNAに結合する分子であり、該Lが該Dと該TLの両方に共有結合しており、該Dが、免疫モジュレーターである、抗インフルエンザ薬
【請求項9】
前記TLがザナミビルである、請求項8記載の抗インフルエンザ薬
【請求項10】
前記免疫モジュレーターが、インフルエンザウイルスによって誘導される初期のサイトカインストームを抑制する、請求項8記載の抗インフルエンザ薬
【請求項11】
前記免疫モジュレーターが、オザニモドであるか、または自己抗体によって認識されるハプテンである、請求項8記載の抗インフルエンザ薬
【請求項12】
前記ハプテンが、ジニトロフェニル(DNP)、トリニトロフェニル(TNP)、またはラムノースである、請求項11記載の抗インフルエンザ薬
【請求項13】
前記ハプテンが、α-ガラクトシル部分を含む、請求項11記載の抗インフルエンザ薬。
【請求項14】
NAに対する約1nM~約15nMの結合親和性を有する、請求項4記載の結合体。
【請求項15】
前記ザナミビル結合体が、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、または補体依存性細胞傷害(CDC)を介して、抗体で覆われたウイルスまたはウイルス感染細胞のクリアランスにつながる免疫応答を誘発する、請求項9記載の抗インフルエンザ薬