(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029019
(43)【公開日】2024-03-05
(54)【発明の名称】エアフィルタ用濾材の製造方法及びエアフィルタの製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/16 20060101AFI20240227BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20240227BHJP
D06M 15/333 20060101ALI20240227BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20240227BHJP
B01D 46/52 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
B01D39/16 H
B01D39/16 A
D06M15/263
D06M15/333
D06M15/53
B01D46/52 Z
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023213578
(22)【出願日】2023-12-19
(62)【分割の表示】P 2022524835の分割
【原出願日】2020-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】福島 彰太
(72)【発明者】
【氏名】根本 純司
(72)【発明者】
【氏名】田村 篤
(57)【要約】
【課題】本開示は、フィルタ性能、特に粒子捕集性能を向上させたエアフィルタ用濾材及びエアフィルタを安全に製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示に係るエアフィルタ用濾材の製造方法は、流体透過性を有する支持体に、水溶性高分子と溶媒とを含む水溶性高分子溶液を付着させる付着工程と、該付着工程を経た前記支持体を減圧乾燥させる減圧乾燥工程と、を含み、該減圧乾燥工程は、チャンバ内の温度を0℃以上50℃以下とし、かつ、前記支持体の孔内及び/又は前記支持体の外表面に前記水溶性高分子の網目状ネットワークを形成する工程である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体透過性を有する支持体に、水溶性高分子と溶媒とを含む水溶性高分子溶液を付着させる付着工程と、
該付着工程を経た前記支持体を減圧乾燥させる減圧乾燥工程と、を含み、
該減圧乾燥工程は、チャンバ内の温度を0℃以上50℃以下とし、かつ、前記支持体の孔内及び/又は前記支持体の外表面に前記水溶性高分子の網目状ネットワークを形成する工程であることを特徴とするエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項2】
前記エアフィルタ用濾材のPF値を、前記支持体のPF値より2以上大きくすることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項3】
前記支持体は、圧力損失が1Pa以上500Pa以下の支持体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項4】
前記支持体が、プリーツ加工が施された支持体であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項5】
前記水溶性高分子が、(1)ポリアクリル酸系高分子、(2)ポリアクリルアミド系高分子、(3)ポリビニルアルコール、(4)ポリエチレンオキサイド、(5)ポリビニルピロリドン、(6)セルロース系多糖類、(7)非セルロース系多糖類、(8)前記(1)~(7)の変性物、及び(9)前記(1)~(8)の2種以上を分子構造に含む共重合物、の前記(1)~(9)のうちの1種類以上を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒が水であり、
前記減圧乾燥工程が、
前記チャンバ内の圧力を0.01Pa以上100Pa以下の圧力下とすることによって乾燥を進行させる工程であり、かつ、
前記水溶性高分子溶液中の前記溶媒を気化させることによって前記水溶性高分子溶液の温度を低下させて前記水溶性高分子溶液を凍結させて凍結物を得る乾燥初期と、
該凍結物から前記溶媒を昇華して除去する乾燥後期と、を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項7】
前記減圧乾燥工程の終了時の前記チャンバ内の圧力を0.01Pa以上100Pa未満とすることを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項8】
前記支持体に対する前記水溶性高分子の付着量の割合が0.005~1.000質量%であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項9】
前記支持体に付着させる前記水溶性高分子溶液の固形分濃度が0.001~0.200質量%であることを特徴とする請求項1~8のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項10】
前記エアフィルタ用濾材は、前記支持体の孔の全体又は一部を塞ぐ前記水溶性高分子の凝集体を有さないことを特徴とする請求項1~9のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項11】
前記減圧乾燥工程は、前記チャンバ内の圧力を0.01Pa以上100Pa以下の圧力下とする工程であることを特徴とする請求項1~10のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項12】
前記減圧乾燥が、前記水溶性高分子溶液を予備凍結させずに減圧雰囲気下で乾燥させる真空乾燥法であることを特徴とする請求項1~11のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項13】
流体透過性を有する支持体を枠材に固定する固定工程と、
該固定工程を経た前記支持体に、水溶性高分子と溶媒とを含む水溶性高分子溶液を付着させる付着工程と、
該付着工程を経た前記支持体を減圧乾燥させる減圧乾燥工程と、を有し、
該減圧乾燥工程は、チャンバ内の温度を0℃以上50℃以下とし、かつ、前記支持体の孔内及び/又は前記支持体の外表面に前記水溶性高分子の網目状ネットワークを形成する工程であることを特徴とするエアフィルタの製造方法。
【請求項14】
前記固定工程の前に、前記支持体にプリーツ加工を施す工程を更に有することを特徴とする請求項13に記載のエアフィルタの製造方法。
【請求項15】
前記減圧乾燥工程は、前記チャンバ内の圧力を0.01Pa以上100Pa以下の圧力下とする工程であることを特徴とする請求項13又は14に記載のエアフィルタの製造方法。
【請求項16】
前記減圧乾燥が、前記水溶性高分子溶液を予備凍結させずに減圧雰囲気下で乾燥させる真空乾燥法であることを特徴とする請求項13~15のいずれか一つに記載のエアフィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水溶性高分子を用い、粒子捕集性能を格段に向上させたエアフィルタ用濾材の製造方法及びエアフィルタの製造方法を提供することを目的とする。更に詳しくは、半導体、液晶、バイオ・食品工業関係のクリーンルーム若しくはクリーンベンチ、ビル空調、内燃機関又は室内空間などの空気浄化用途に適したエアフィルタ用濾材及びそれを用いたエアフィルタを、比較的短時間で製造する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
空気中のサブミクロン乃至ミクロン単位の粒子を捕集するためには、一般的に、エアフィルタ用濾材が用いられている。エアフィルタ用濾材は、その捕集性能によって、粗塵フィルタ用、中性能フィルタ用、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタ用又はULPA(Ultra Low Penetration Air)フィルタ用に大別される。これらエアフィルタ用濾材における基本的な特性としては、微細なダスト粒子の粒子透過率が低いことのほかに、フィルタに空気を通気させるために、圧力損失が低いことが求められている。
【0003】
このようなエアフィルタについて、ポリマー繊維構造体を適用して機能性フィルタへの応用を期待される旨が開示されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、具体的なフィルタ用途への適用事例がなく、また、その効果も不明であった。
【0006】
そこで、本開示は、フィルタ性能、特に粒子捕集性能を向上させたエアフィルタ用濾材及びエアフィルタを安全に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法は、流体透過性を有する支持体に、水溶性高分子と溶媒とを含む水溶性高分子溶液を付着させる付着工程と、該付着工程を経た前記支持体を減圧乾燥させる減圧乾燥工程と、を含み、該減圧乾燥工程は、チャンバ内の温度を0℃以上50℃以下とし、かつ、前記支持体の孔内及び/又は前記支持体の外表面に前記水溶性高分子の網目状ネットワークを形成する工程であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記エアフィルタ用濾材のPF値を、前記支持体のPF値より2以上大きくする形態を包含する。
【0009】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記支持体は、圧力損失が1Pa以上500Pa以下の支持体であることが好ましい。このような支持体であればエアフィルタ用濾材として好適な圧力損失を保持させることができる。
【0010】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記支持体が、プリーツ加工が施された支持体であることが好ましい。予めプリーツ加工が施された支持体を用いれば、容積の限られた乾燥領域内で長尺な支持体を乾燥させることができ、効率的に水溶性高分子が付着されたエアフィルタ用濾材を得ることができる。
【0011】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記水溶性高分子が、(1)ポリアクリル酸系高分子、(2)ポリアクリルアミド系高分子、(3)ポリビニルアルコール、(4)ポリエチレンオキサイド、(5)ポリビニルピロリドン、(6)セルロース系多糖類、(7)非セルロース系多糖類、(8)前記(1)~(7)の変性物、及び(9)前記(1)~(8)の2種以上を分子構造に含む共重合物、の前記(1)~(9)のうちの1種類以上を含む形態を包含する。
【0012】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記溶媒が水であり、前記減圧乾燥工程が、前記チャンバ内の圧力を0.01Pa以上100Pa以下の圧力下とすることによって乾燥を進行させる工程であり、かつ、前記水溶性高分子溶液中の溶媒を気化させることによって前記水溶性高分子溶液の温度を低下させて前記水溶性高分子溶液を凍結させて凍結物を得る乾燥初期と、該凍結物から前記溶媒を昇華して除去する乾燥後期と、を含むことが好ましい。これによって、水溶性高分子の凝集を抑制してネットワークを構築できることから、フィルタ性能を向上させたエアフィルタ用濾材を比較的短時間に製造することが可能となる。
【0013】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記減圧乾燥工程の終了時の前記チャンバ内の圧力を0.01Pa以上100Pa未満とすることが好ましい。PF値をより向上させることができる。
【0014】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記支持体に対する前記水溶性高分子の付着量の割合が0.005~1.000質量%であることが好ましい。このような付着量とすることによって粒子捕集性能が高く、圧力損失が比較的低いエアフィルタとすることができる。
【0015】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記支持体に付着させる前記水溶性高分子溶液の固形分濃度が0.001~0.200質量%であることが好ましい。このような濃度とすることで、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合を適度に調整しやすくなる。
【0016】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記エアフィルタ用濾材は、前記支持体の孔の全体又は一部を塞ぐ前記水溶性高分子の凝集体を有さないことが好ましい。圧力損失が上昇することを防止し、粒子透過率を低くすることができる。
【0017】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記減圧乾燥工程は、前記チャンバ内の圧力を0.01Pa以上100Pa以下の圧力下とする工程であることが好ましい。
【0018】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記減圧乾燥が、前記水溶性高分子溶液を予備凍結させずに減圧雰囲気下で乾燥させる真空乾燥法であることが好ましい。
【0019】
本発明に係るエアフィルタの製造方法は、流体透過性を有する支持体を枠材に固定する固定工程と、該固定工程を経た前記支持体に、水溶性高分子と溶媒とを含む水溶性高分子溶液を付着させる付着工程と、該付着工程を経た前記支持体を減圧乾燥させる減圧乾燥工程と、を有し、該減圧乾燥工程は、チャンバ内の温度を0℃以上50℃以下とし、かつ、前記支持体の孔内及び/又は前記支持体の外表面に前記水溶性高分子の網目状ネットワークを形成する工程であることを特徴とする。
【0020】
本発明に係るエアフィルタの製造方法は、前記固定工程の前に、前記支持体にプリーツ加工を施す工程を更に有することが好ましい。支持体に予めプリーツ加工を施しておくことで、プリーツ加工時の水溶性高分子のネットワークの破壊又は脱落が生じないことから、高いフィルタ性能を有するエアフィルタ用濾材を提供することが可能となる。
【0021】
本発明に係るエアフィルタの製造方法では、前記減圧乾燥工程は、前記チャンバ内の圧力を0.01Pa以上100Pa以下の圧力下とする工程であることが好ましい。
【0022】
本発明に係るエアフィルタの製造方法では、前記減圧乾燥が、前記水溶性高分子溶液を予備凍結させずに減圧雰囲気下で乾燥させる真空乾燥法であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、フィルタ性能、特に粒子捕集性能を向上させたエアフィルタ用濾材及びエアフィルタを安全に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1のエアフィルタ用濾材をSEMにより観察した画像(観察倍率5000倍)である。
【
図2】実施例2のエアフィルタ用濾材をSEMにより観察した画像(観察倍率5000倍)である。
【
図3】比較例1のエアフィルタ用濾材をSEMにより観察した画像(観察倍率5000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0026】
本実施形態に係るエアフィルタ用濾材の製造方法は、流体透過性を有する支持体に、水溶性高分子と溶媒とを含む水溶性高分子溶液を付着させる付着工程と、該付着工程を経た前記支持体を減圧乾燥させる減圧乾燥工程と、を含む。
【0027】
<支持体>
支持体は、流体透過性を有するものであれば特に限定するものではなく、例えば、不織布、織布、紙又はスポンジなどの多孔質な材料を用いることができる。これらの中でも不織布が好ましく、特に無機繊維又は有機繊維などの繊維を主成分とする濾材用不織布であることが好ましい。無機繊維又は有機繊維などの繊維を主成分とするとは、支持体の全質量に対する当該繊維の質量が50質量%以上であることをいう。支持体の全質量に対する当該繊維の質量は、より好ましくは、80質量%以上である。支持体が当該繊維を主成分とする不織布であるとき、目付は10~300g/m2であることが好ましく、30~200g/m2であることがより好ましい。流体透過性とは、少なくとも気体を透過させることができる性質をいい、より好ましくは気体及び液体を透過させることができる性質をいう。支持体が多孔質の支持体であるとき、支持体の表面には、孔の内壁面と、エアフィルタ用濾材として空気の通過面となる一方の表面と、他方の表面と、が含まれる。本明細書では、支持体の一方の表面及び他方の表面を合わせて外表面ということもある。
【0028】
支持体の圧力損失は1Pa~500Paであることが好ましく、10Pa~300Paであることがより好ましく、30Pa~200Paであることが更に好ましい。このような支持体であればエアフィルタ用濾材として好適な圧力損失を保持させることができる。また、支持体の圧力損失が小さいほど、支持体に水溶性高分子のネットワークを張り巡らせることによるPF値の向上効果が大きくなりやすく、特に、支持体の圧力損失が1Pa~100Pa、より好ましくは1Pa~70Paである場合に、PF値の向上効果が大きい。
【0029】
支持体の圧力損失が1Pa未満の場合、支持体の孔径が広すぎる為、水溶性高分子のネットワークを張り巡らせることが難しい場合がある。その結果、捕集効率の上昇に寄与し難くなり、PF値も上昇しにくくなる場合がある。支持体の圧力損失が500Paを超える場合、支持体自体の捕集効率が極めて高いため、水溶性高分子のネットワークを張り巡らせることによる支持体の捕集効率の上昇に寄与し難くなり、PF値も上昇しにくくなる場合がある。
【0030】
支持体が無機繊維を主成分とする濾材用不織布であるとき、無機繊維は、ガラス繊維であることが好ましい。支持体に用いられるガラス繊維は、例えば、火焔延伸法若しくはロータリー法によって製造されるウール状の極細ガラス繊維、又は所定の繊維径となるように紡糸されたガラス繊維の束を所定の繊維長に切断して製造されるチョップドストランドガラス繊維であることが好ましい。これらの中から、必要とされる物性に応じて、種々の繊維径及び繊維長を有するものが選択され、単独又は混合して使用される。また、半導体製造工程用途におけるシリコンウェハの硼素汚染を防止する目的で、低硼素ガラス繊維又はシリカガラス繊維を使用することもできる。ガラス繊維の平均繊維径は、特に限定されないが、数平均繊維径で0.05~20μmであることが好ましく、0.1~5μmであることがより好ましい。ガラス繊維の平均繊維長は、特に限定されないが、数平均繊維長で0.5~10000μmであることが好ましく、1~1000μmであることがより好ましい。
【0031】
一方、支持体が有機繊維を主成分とする濾材用不織布であるとき、有機繊維は、例えば、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、セルロース繊維、ポリエステル繊維又はアラミド繊維である。有機繊維の平均繊維径は、特に限定されないが、数平均繊維径で0.05~100μmであることが好ましく、0.1~50μmであることがより好ましい。有機繊維の平均繊維長は、特に限定されないが、短繊維である場合は数平均繊維長で0.5~10000μmであることが好ましく、10~5000μmであることがより好ましい。不織布の製造方法は、特に限定されず、例えば、乾式法又は湿式法である。
【0032】
支持体の形状については、特に限定されるものでは無く、シート状であってもよいし、シートの様な平面構造をしていなくてもよい。本実施形態に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、支持体が、プリーツ加工が施された支持体であることが好ましい。プリーツ加工とは、山折りと谷折りとを繰り返したジグザグ状の折り目を形成する加工である。予めプリーツ加工が施された支持体を用いれば、容積の限られた乾燥領域内で長尺な支持体を乾燥させることができ、効率的に水溶性高分子が付着されたエアフィルタ用濾材を得ることができる。さらに、プリーツ加工を施した後に水溶性高分子のネットワークを形成することになるため、プリーツ加工時の水溶性高分子のネットワークの破壊又は脱落が生じないことから、高いフィルタ性能を有するエアフィルタ用濾材を提供することが可能となる。最も一般的なプリーツ加工では、支持体は山折り加工と谷折り加工とを繰り返し受けてプリーツ状に折加工される。折り目の山部分は360度に近い鋭角となり、支持体はある程度損傷を受ける。ガラス繊維又は有機繊維を主体とする一般的な支持体(従来のエアフィルタ用濾材)は、通常このような折加工にも耐えられる設計になっているが、支持体の表層に存在する水溶性高分子のネットワークは、折加工によって破壊又は脱落が生じ、エアフィルタ用濾材の性能を低下させることがある。一方本発明では、プリーツ加工した後に支持体に水溶性高分子のネットワークを形成させるため、折り目の山部分にも水溶性高分子のネットワークを形成させることができる。また、支持体がプリーツ加工を施されたものである場合は、予め枠材に固定された支持体に水溶性高分子と溶媒とを含む水溶性高分子溶液を付着させ、減圧乾燥してエアフィルタを得ることもできる。
【0033】
また、支持体の平均孔径は、0.1~50μmであることが好ましく、0.5~10μmであることがより好ましい。0.1μm未満では、流体透過性に劣る場合がある。50μmを超えると、水溶性高分子が支持体の孔内に網目状構造体を均一に形成しにくくなる場合がある。本実施形態においては、水溶性高分子と溶媒とを含む水溶性高分子溶液を支持体の孔内及び/又は外表面に付着させ、その後乾燥してエアフィルタとすることができるが、適切な平均孔径を有する支持体を用いることで、均一に水溶性高分子溶液が孔径内へ分布し、乾燥後も網目状構造を維持させやすくなる。ここで、平均孔径は、ASTM E1294‐89「ハーフドライ法」に従って計測することができる。
【0034】
支持体は、支持体自体がエアフィルタ用濾材として使用できる素材であることが好ましい。エアフィルタ用濾材は、一方の面と他方の面とを有し、一方の面と他方の面との間に空気が通過する部材である。本実施形態に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、このような支持体を用いることで、従来のエアフィルタ用濾材、例えば支持体自体よりも粒子捕集性能の高いエアフィルタを得ることが容易となる。本実施形態に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、エアフィルタ用濾材のPF値を、前記支持体のPF値より2以上大きくする形態を包含する。エアフィルタ用濾材のPF値は、支持体のPF値よりも3以上大きいことがより好ましく、5以上大きいことが更に好ましい。
【0035】
<水溶性高分子>
水溶性高分子とは、分子間に溶媒(水)が入り込み溶媒和することで、分子1本又は数本単位で溶媒中に安定的に溶解する高分子のことをいう。高分子の中には、分子形状として、主鎖が直鎖状の高分子、及び主鎖が網目状の高分子があるが、本実施形態では、主鎖が直鎖状の高分子であることが好ましい。主鎖が直鎖状の高分子とは、モノマーが直線状に連なった高分子のことを意味する。直鎖状水溶性高分子としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル若しくはポリアクリル酸ナトリウムなどのポリアクリル酸系高分子;アクリルアミドを基本骨格とするポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド若しくはポリビニルピロリドンなどのその他合成高分子;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース若しくは酸化セルロースなどのセルロース系多糖類;デンプン、酸化デンプン、尿素リン酸エステル化デンプン、カラギナン、グアガム、キサンタンガム、カラヤガム若しくはタマリンドガムなどの非セルロース系多糖類;又は上記水溶性高分子の2種以上を分子構造に含むように共重合させた共重合物がある。これらの中でも、支持体のPF値を大きく向上させやすいことから、ポリアクリル酸系高分子、ポリアクリルアミド系高分子、ポリエチレンオキサイド、カルボキシメチルセルロース、グアガム、キサンタンガム及びタマリンドガムの中から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。直鎖状水溶性高分子は、分子内に架橋構造又は網目構造は持たないが、例えば、グアガム又はキサンタンガムのように側鎖を有していてもよい。また、本実施形態に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、上記水溶性高分子を1種だけ用いるか、又は2種以上を組み合わせてもよい。また、水溶性高分子は、上記水溶性高分子の変性物であってもよい。
【0036】
水溶性高分子溶液は、水溶性高分子以外の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、界面活性剤又は微細粒子などである。
【0037】
本実施形態に係る製造方法で得られるエアフィルタ用濾材は、支持体の孔内及び/又は前記支持体の外表面で水溶性高分子同士が絡み合って該水溶性高分子間に空隙が形成された網目状ネットワークを有し、かつ、支持体の孔の全体又は一部を塞ぐ水溶性高分子が絡み合った膜又は支持体の孔の全体又は一部を塞ぐ水溶性高分子が凝集した膜を有さないことが好ましい。圧力損失が上昇することを防止し、粒子透過率を低くすることができる。網目状ネットワークとは、水溶性高分子のナノファイバーで形成された網目状構造体のことをいう。網目状ネットワークは、2次元構造体をなしているか、又は3次元構造体をなしていてもよい。網目状ネットワークは、水溶性高分子のナノファイバーの数平均繊維幅が1~100nmであるナノネットワークであることがより好ましい。また、水溶性高分子が絡み合った膜又は水溶性高分子が凝集した膜とは、水溶性高分子が物理的な絡み合い又は化学的な凝集などによって形成された、支持体の孔の全体又は一部を塞ぐ膜状物をいう。膜状物は、例えば、膜状物の全体にわたって水溶性高分子の絡み合い又は凝集によって水溶性高分子間に空隙をもたない形態、又は膜状物が部分的に空隙(開孔)を有する形態を包含する。
【0038】
本実施形態においては、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.005~1.000質量%であることが好ましく、0.050~0.500質量%であることがより好ましい。このような付着量とすることによって粒子捕集性能が高く、圧力損失が比較的低いエアフィルタとすることができる。支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.005質量%を下回ると、粒子捕集性能に劣る場合がある。逆に1.000質量%を上回ると、水溶性高分子の固形分濃度を過度に高くする必要があることもあり、エアフィルタ用濾材中での水溶性高分子の均一な付着が難しい。その結果、粒子捕集性能を十分に向上させることができないおそれがある。支持体に対する水溶性高分子の付着量は、主に、水溶性高分子溶液中の水溶性高分子の濃度と、支持体への水溶性高分子溶液の付着量とでコントロールすることができ、水溶性高分子溶液中の水溶性高分子の濃度を高くするほど、また、支持体への水溶性高分子溶液の付着量を多くするほど、支持体への水溶性高分子の付着量は多くなる。
【0039】
本実施形態においては、支持体に水溶性高分子と溶媒とを含む水溶性高分子溶液を付着させた後、減圧乾燥することによってエアフィルタ用濾材を得ることができる。水溶性高分子溶液は、水溶性高分子を水又は有機溶剤に溶解させることで得ることができる。水溶性高分子溶液中の水溶性高分子の形態は、例えば、水溶性高分子が分子1本又は数本単位で水溶性高分子溶液中に安定溶解した形態、又は水溶性高分子が部分的に凝集した形態である。このうち、水溶性高分子溶液中の水溶性高分子の形態は、水溶性高分子が1本又は数本単位で水溶性高分子溶液中に安定溶解した形態であることが好ましい。
【0040】
<溶媒>
本実施形態においては、水溶性高分子溶液の溶媒は水又は有機溶剤であることが好ましい。より好ましくは水である。有機溶剤は、例えば、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、t‐ブチルアルコール又はアセトンである。また、本発明の効果を損なわない限りにおいて、溶媒として、水と有機溶剤との混合溶媒を用いてもよい。
【0041】
<水溶性高分子溶液>
本実施形態では、水溶性高分子溶液中の水溶性高分子の固形分濃度が0.001~0.200質量%であることが好ましく、は0.005~0.150質量%とすることがより好ましく、0.010~0.100質量%であることが更に好ましい。水溶性高分子の固形分濃度が0.001質量%未満では、支持体への水溶性高分子の付着量が不十分となり、均一な水溶性高分子のネットワークを形成することが難しい場合がある。0.200質量%を超えると、調製工程において、水溶性高分子溶液の粘性が非常に高くなり、未溶解部分が多くなってしまい、結果として圧力損失が高まりやすく、PF値が向上しにくい場合がある。
【0042】
<水溶性高分子溶液の調製>
本実施形態では、水溶性高分子溶液の調製方法は特に限定するものではなく、前述した水溶性高分子を溶媒に溶解させて溶液とすればよい。
【0043】
本実施形態に係る水溶性高分子の溶解の方法として、特に限定するものではないが、例えば、マグネティックスターラー又はプロペラ型撹拌機などの撹拌手段を用い、100~700rpm程度で溶媒を攪拌しているところへ、水溶性高分子の粉体又は液体を投入し、投入後2時間程度攪拌する方法である。
【0044】
<付着工程>
水溶性高分子溶液を支持体に付着させる方法は、例えば、含浸法、塗布法又は噴霧法である。好ましくは含浸法である。支持体に対する水溶性高分子溶液の付着量は、支持体の厚さ、材質及び平均細孔径に応じて適宜調整するものであるが、前述したように、本実施形態では、支持体に対する水溶性高分子の付着量が0.005~1.000質量%であることが好ましく、0.050~0.500質量%であることがより好ましい。支持体に対する水溶性高分子の付着量が0.005質量%未満では、支持体への水溶性高分子の付着量が不十分となり、均一な水溶性高分子のネットワークを形成することが難しい。結果としてエアフィルタ用濾材としての粒子捕集性能を十分に向上させることができないおそれがある。逆に1.000質量%を超えると、水溶性高分子のネットワークが密になってしまい、PF値が上昇しにくくなるおそれがある。また1.000質量%を超える調製工程では、未溶解部分が多くなってしまい、エアフィルタ用濾材中での水溶性高分子が均一に付着せず、粒子捕集性能を十分に向上させることができないおそれがある。本発明において、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合の算出方法は特に限定するものではないが、例えば支持体が無機繊維のみで構成されている場合は、燃焼によって水溶性高分子のみを消失させて、燃焼後の減量割合から算出することができる。また、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合は、湿潤付着量から換算して求めてもよい。すなわち、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合(単位%)は、{(湿潤付着量×水溶性高分子溶液中の水溶性高分子の固形分濃度)/水溶性高分子溶液を付着させる前の支持体の質量}×100である。ここで、湿潤付着量は、水溶性高分子溶液を付着させた湿潤状態での支持体の質量と付着させる前の支持体の質量との差であり、乾燥工程の開始時に支持体に付着している水溶性高分子溶液の質量を意味する。このため、湿潤付着量は、乾燥工程の直前に測定した値であることが好ましく、例えば乾燥工程の開始前10分以内に測定することが好ましく、5分以内に測定することがより好ましい。
【0045】
含浸法は、例えば、支持体を水溶性高分子溶液に完全に浸漬する方法又は支持体の外表面だけを浸す方法がある。支持体を水溶性高分子溶液に完全に浸漬する方法は、支持体の孔内の奥部まで水溶性高分子溶液を効率的に、かつ、確実に浸透することができるため、より均一な水溶性高分子のネットワークを形成できる点で優れている。また、支持体を水溶性高分子溶液に完全に浸漬したまま減圧すると、支持体内のエアーが抜けやすくなるため、水溶性高分子溶液を浸透させるにはより効果的である。なお、所望の付着量に対して過剰に付着した水溶性高分子溶液は、ロール脱水機などで絞り出したり、吸水フェルト又は吸水紙などの吸水部材で除去したりすることが好ましい。支持体の外表面だけを浸す方法は、支持体の厚み方向で、孔内の水溶性高分子のネットワーク構造の密度差(支持体の一方の面側ともう一方の面とで水溶性高分子のネットワーク構造の存在比率が異なる)を設ける場合に有効である。
【0046】
塗布法は、公知の塗布機または刷毛で水溶性高分子溶液を支持体の外表面に塗布する方法である。公知の塗布機は、例えば、カーテンコーター、ダイコーターである。塗布法は、支持体への水溶性高分子溶液の付着量の制御が容易な点で優れている。
【0047】
噴霧法は、霧吹き又はスプレーなどの公知の噴霧器を用いて水溶性高分子溶液を支持体の外表面に噴霧する方法である。噴霧法は、例えば、支持体の孔のうち、支持体の外表面近傍にだけに水溶性高分子のネットワーク構造を形成したい場合、又は支持体に大量の含浸液、又は塗工機のロール若しくはバーを接触させたくない場合に有効である。塗布法又は噴霧法では、支持体の一方の面を減圧して空気の流れを起こし、他方の面から塗布または噴霧することで支持体内部にまで水溶性高分子溶液を浸透させることができる。
【0048】
<乾燥工程>
本実施形態では、前述のようにして水溶性高分子溶液を支持体に付着させ、支持体を湿潤状態とした後、減圧乾燥を行う。本実施形態において、減圧乾燥は、凍結乾燥法よりも、真空乾燥法であることが好ましい。凍結乾燥法は、当該水溶性高分子溶液を冷凍機又は冷媒などにて一旦凍結(予備凍結ともいう)させた後、減圧下にて溶媒の昇華によって溶媒を乾燥させる方法である。また、真空乾燥法は、当該水溶性高分子溶液を減圧下に置き、当該水溶性高分子溶液中の溶媒の気化によって、当該水溶性高分子溶液の温度が低下して当該水溶性高分子溶液を凍結させた後、減圧下にて溶媒の昇華によって溶媒を乾燥させる方法である。より具体的には、恒温槽中で水溶性高分子溶液を予備凍結させずに減圧雰囲気下で乾燥させる方法である。乾燥工程は、溶媒の気化によって、当該水溶性高分子溶液の温度が低下して当該水溶性高分子溶液が凍結する乾燥初期と、溶媒の昇華によって乾燥が完了する乾燥後期とを有することが好ましい。乾燥初期は凍結工程といえ、乾燥後期は乾燥工程といえる。これによって、水溶性高分子の凝集を抑制してネットワークを構築できることから、フィルタ性能を向上させたエアフィルタ用濾材を比較的短時間に製造することが可能となる。また、真空乾燥法では凍結乾燥法と違い、濾材をより均一に凍結することができる。例えばプリーツ加工が施されたエアフィルタ用濾材に液を付着させた場合、凍結乾燥法ではジグザグにプリーツ加工された面全体を均一に凍結することが難しいが、真空乾燥法であれば真空中で一気に濾材全体が凍結し、より均一な凍結が可能である。
【0049】
本実施形態に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記溶媒が水であり、前記減圧乾燥工程が、チャンバ内の圧力を0.01Pa以上100Pa以下の圧力下とし、かつ、前記チャンバ内の温度を0℃以上50℃以下とすることによって乾燥を進行させる工程であり、かつ、前記水溶性高分子溶液中の溶媒を気化させることによって前記水溶性高分子溶液の温度を低下させて前記水溶性高分子溶液を凍結させて凍結物を得る乾燥初期と、該凍結物から前記溶媒を昇華して除去する乾燥後期と、を含むことが好ましい。
【0050】
本実施形態では、乾燥初期における乾燥工程の圧力は、排気開始後600秒において、100Pa以下に到達することが好ましく、10Pa以下に到達することがより好ましい。排気開始後600秒において到達する圧力が100Paを超えると、水溶性高分子溶液中の溶媒が凍結することなくほとんど気化するため、水溶性高分子溶液が乾燥初期において凍結しない。このような場合には、水溶性高分子が3次元の網目構造を形成せず、フィルタ性能を向上させたエアフィルタ用濾材が得られない場合がある。圧力の下限については特に限定はなく、例えば、0.01Pa以上であることが好ましい。圧力が低いほど、乾燥初期での凍結が起こりやすい。
【0051】
乾燥温度としては、支持体及び水溶性高分子が分解又は変形などを受けない温度で、かつ、乾燥初期において水溶性高分子溶液が凍結する温度を選択する。水溶性高分子溶液の種類によって異なるが、例えば水を溶媒として用いるとき、乾燥温度は0℃以上50℃以下であることが好ましく、20℃以上40℃以下であることがより好ましい。50℃を超える条件では、溶媒の気化による温度低下のみでは水溶性高分子溶液を凍結することが難しい。0℃未満では、水溶性高分子溶液が急速に凍結して、溶液の体積の急激な変化が生じるため、凍結した水溶液に割れ又は変形が生じることがある。
【0052】
本実施形態では、乾燥初期において、水溶性高分子溶液中の溶媒を気化させることで、水溶性高分子溶液の温度を低下させて水溶性高分子溶液を凍結させる。ここで、乾燥初期とは、試料を置いた環境内(例えば恒温槽のチャンバ内)の排気を開始した時から溶媒が気化することによって試料が凍結するまでの期間をいう。乾燥温度は、特別に制御しない限り、通常、室温となる。ここで、乾燥温度は、試料の周囲の雰囲気温度であり、チャンバ内の温度である。あらかじめ大気圧下又は大気圧を下回る圧力下で冷凍機などを使用して溶媒が凍結する温度で急速に凍結した場合では、溶媒の全て又はほとんどを昇華によって除去する必要があるため、長時間の乾燥時間を要する。一方、実施形態においては、乾燥初期において気化によって溶媒の一部分を除去しているため、乾燥時間を短縮することができるとともに、乾燥初期によって起こる溶媒の凍結によって水溶性高分子を固定するため、短時間でフィルタ性能を向上させたエアフィルタ用濾材を製造することが可能となる。
【0053】
乾燥後期においては、凍結した溶媒の昇華により乾燥が進む。ここで、乾燥後期とは初期において凍結した試料から昇華によって溶媒が除去され、乾燥が終了する時まで期間のことである。乾燥の終了を判断する方法としては、特に限定するものではないが、試料の最も乾燥されにくい箇所の温度を接触型、若しくは非接触型の温度計で測定し、温度上昇が起きた点から判断する方法、または、乾燥系内の圧力を測定して一定の真空値となった点から判断する方法などがある。試料の最も乾燥されにくい箇所は、例えば、凍結部分の厚さが最も厚くなった箇所である。また、支持体が多孔質である場合、孔の外表面付近と孔の奥部とで、乾燥初期及び乾燥後期の発生時期にはタイムラグが生じることがある。例えば、孔の外表面付近では既に乾燥後期が進行している時、孔の奥部では乾燥初期が進行している場合がある。凍結した溶媒の昇華が終了した後、乾燥物の結露防止のため、または、熱処理のために乾燥温度を上げてもよい。その時の乾燥温度としては、例えば、20~200℃であるが、減圧下での焼結又はベーキングを必要とする場合、例えば、200~600℃である。乾燥を開始してから乾燥が完了するまでの時間は15~2880分であることが好ましく、30~1440分であることがより好ましい。
【0054】
本実施形態に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、減圧乾燥工程の終了時のチャンバ内の圧力を0.01Pa以上100Pa未満とすることが好ましく、0.05Pa以上10Pa未満とすることがより好ましい。減圧乾燥工程の終了時のチャンバ内の圧力を前記のような範囲とすることで、PF値をより向上させることができる。
【0055】
本実施形態では、減圧乾燥後に得られた水溶性高分子の固形の形状が繊維状であり、その数平均繊維径は100nm以下が好ましく、より好ましくは50nm以下である。高い粒子捕集性能と低圧力損失とを両立させるエアフィルタとするためには、繊維径の極めて細い水溶性高分子による均一な繊維ネットワークを支持体中に形成することが重要である。数平均繊維径が100nm以下である極細の水溶性高分子を用いると、エアフィルタ用濾材中の単位体積あたりの繊維の本数が著しく増加し、気体中の粒子を捕捉しやすくなり、高い捕集性能を得ることが可能となる。また、スリップフロー効果によって、単繊維の通気抵抗が極めて低くなり、エアフィルタとしての圧力損失が上昇しにくくなる。水溶性高分子の数平均繊維径の下限値は、特に限定されないが、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましい。ここでの水溶性高分子数平均繊維径は、次によって算出する。カーボン膜被覆グリッド上にキャストした水溶性高分子を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて電子顕微鏡画像による観察を行う。得られた観察画像に対し、1枚の画像あたり縦横2本ずつの無造作な軸を引き、軸に交差する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このとき、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍又は50000倍のいずれかの倍率で観察を行う。なお、試料又は倍率は、20本以上の繊維が軸と交差する条件とする。こうして最低3枚の重なっていない表面部分の画像を電子顕微鏡で撮影し、各々二つの軸に交差する繊維の繊維径の値を読み取る。したがって、最低20本×2×3=120個の繊維情報が得られる。こうして得られた繊維径のデータから数平均繊維径を算出した。なお、枝分かれしている繊維については、枝分かれしている部分の長さが50nm以上であれば1本の繊維として繊維径の算出に組み込む。また、数平均繊維径は、次に従って算出してもよい。支持体の外表面又は内部に存在する水溶性高分子を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電子顕微鏡画像による観察を行う。得られた観察画像に対し、1枚の画像あたり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交差する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このとき、構成する繊維の大きさに応じて5000~50000倍のいずれかの倍率で観察を行う。複数の重なっていない表面部分の画像を電子顕微鏡で撮影し、各々二つの軸に交差する繊維の繊維径の値を読み取る。少なくとも120本の繊維径データから数平均繊維径を算出する。なお、枝分かれしている繊維については、枝分かれしている部分の長さが50nm以上であれば1本の繊維として繊維径の算出に組み込む。尚、試料は歪みのない観察画像を得るため、予め導電性コーティングを行うか、コーティング膜厚による影響も考慮する。例えば、イオンスパッター(E-1045、日立ハイテクノロジー社製)を用いる場合、放電電流15mA、試料-ターゲット間距離30mm、真空度6Pa、コーティング時間2分とすると、コーティング膜厚は12nmである。ただし、繊維径を測定する際は、コーティング膜の堆積方向が想定される方向と垂直になるため、繊維径を測定する際は、コーティング膜厚は想定の半分とする。つまり、上記条件でコーティングした場合、SEMから求めた繊維径から両端のコーティング膜厚12nm(6nm+6nm)分を除く。
【0056】
本実施形態に係る製造方法で得られるエアフィルタ用濾材のPF値は、面風速5.3cm/秒、対象粒子0.10~0.15μmの条件で、支持体のPF値より2.0以上高いことが好ましい。PF値は、圧力損失と粒子捕集性能とのバランスの優劣を評価する指標であり、数1に示す式を用いて計算される。PF値が高いほど、対象粒子の粒子透過率が低くかつ低圧力損失のエアフィルタ用濾材であることを示す。PF値の具体的な値は、8以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。
【数1】
【0057】
数1において、圧力損失は、例えば、マノメーターを用いて測定される。また、粒子透過率は、ラスキンノズルで発生させた多分散ポリアルファオレフィン(PAO)粒子を含む空気を通過させたときの、PAO粒子がエアフィルタ又はエアフィルタ用濾材を透過する割合である。粒子透過率は、例えば、レーザーパーティクルカウンターを用いて測定される。
【0058】
エアフィルタ用濾材のPF値は、支持体の種類又は構成によっても影響を受けるが、水溶性高分子の充填密度又は水溶性高分子によるネットワークの形成度合いが大きく影響する。本実施形態に係る製造方法で得られるエアフィルタ用濾材は、支持体に付着させる水溶性高分子溶液の固形分濃度が0.001~0.200質量%であることが好ましいが、このような付着濃度であっても、例えば、支持体の表層付近のみに水溶性高分子の付着が集中し、部分的に過度に水溶性高分子の充填密度が高くなると、圧力損失の過度な上昇を招き、結果的にPF値は低下する。エアフィルタ用濾材は、支持体の孔内及び/又は支持体の外表面に水溶性高分子の網目状のネットワークを有し、水溶性高分子のフィルム状の凝集体を有さないことが好ましい。水溶性高分子の濃度が高い水溶性高分子溶液を支持体に付着させた場合、支持体の外表面に水溶性高分子の付着が集中し、支持体表面で水溶性高分子同士が凝集を起こすことが考えられる。その結果、支持体の外表面及び該表面に隣接する支持体の孔の内壁の一部分を含む表層では水溶性高分子の網目状のネットワークが形成されず、フィルム状の凝集体が生じることがある。このようなフィルム状の凝集体が部分的にでも生じたエアフィルタ用濾材を用いると、圧力損失の上昇及び粒子捕集性能の低下が生じる。すなわちPF値の低下が生じる。そして、場合によってはエアフィルタとしての通気性を保持できなくなる。尚、支持体の表層付近のみに水溶性高分子の付着が集中したとしても、水溶性高分子のネットワークが適度に形成されていて過度に水溶性高分子の充填密度が高くなければ圧力損失はそれほど上昇せず、エアフィルタとして好適なPF値を得ることができる。
【0059】
本実施形態に係るエアフィルタの製造方法は、流体透過性を有する支持体を枠材に固定する固定工程と、固定工程を経た支持体に、水溶性高分子と溶媒とを含む水溶性高分子溶液を付着させる付着工程と、付着工程を経た支持体を減圧乾燥させる減圧乾燥工程と、を有する。本実施形態に係るエアフィルタの製造方法は、付着工程及び減圧乾燥工程については、エアフィルタ用濾材の製造方法で述べた基本的な内容と共通するため、ここでは説明を省略する。
【0060】
固定工程において、枠材としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又はパルプのような繊維状物を固めた成形物などを使用することができる。支持体又はエアフィルタ用濾材を枠材に固定する形状は様々である。例えば、支持体又はエアフィルタ用濾材がジグザク状に折り畳まれて固定されている形態である。枠材の形状も様々であり、四角形に厚みを持たせた角型のもの、円筒形のものなどがある。エアフィルタ用濾材又は支持体と枠材との接着は、漏れが無いことが重要であり、接着剤により、枠材とエアフィルタ用濾材又は支持体とに隙間が生じないよう固定する方法であることが好ましい。ここで接着剤としては、例えば、ポリ酢酸ビニル樹脂などのホットメルト系接着剤を用いることができる。
【0061】
本実施形態に係るエアフィルタの製造方法は、固定工程の前に、支持体にプリーツ加工を施す工程を更に有することが好ましい。支持体に予めプリーツ加工を施しておくことで、プリーツ加工時の水溶性高分子のネットワークの破壊又は脱落が生じないことから、高いフィルタ性能を有するエアフィルタ用濾材を提供することが可能となる。プリーツ加工を施す工程は、支持体を、交互に折り返して波型形状に加工(プリーツ加工)し、これによって、波型の折り目を形成する。また、予めプリーツ加工を施した市販のエアフィルタ用濾材を支持体として用いる場合、プリーツ加工を施す工程を省略することができる。
【実施例0062】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を示す。なお、添加部数は、固形分換算の値である。
【0063】
[原液の調製工程]
水溶性高分子の粉体を1000mlビーカーの中へ2.0gを投入し、次いで998.00gの水を投入し、プロペラ型撹拌機で2時間撹拌した。原液の全質量に対する水溶性高分子の固形分濃度は0.200%であった。実施例及び比較例では、この原液を水溶性高分子溶液の各濃度になるように水で希釈して用いた。なお、原液溶液の調整及び希釈に使用した水は全てイオン交換水である。
【0064】
(実施例1)
[水溶性高分子の付着・乾燥]
水溶性高分子としてポリビニルアルコール(PVA)(クラレポバール 28‐98、クラレ社製)を用いて前記の通り原液を調整し、該原液を水で希釈して固形分濃度が0.02%の水溶性高分子溶液を得た。次いで、目付が51g/m2であり、圧力損失が約70Paのガラス繊維(平均繊維径0.65μmの極細ガラス繊維22部と、平均繊維径2.4μmの極細ガラス繊維63部と、平均繊維径6μmのチョップドガラス繊維15部とからなる)からなる不織布(以降、「支持体」という)を前記水溶性高分子溶液に含浸させた。次いで、湿潤状態にある支持体を25℃に設定した恒温槽に入れ、排気速度条件を600秒において100Pa以下の圧力となる条件として、600秒において5.0Paとなる排気速度で恒温槽のチャンバ内を排気して減圧乾燥を開始し、その後チャンバ内の圧力が0.10Paで一定となったところ(排気開始後120分後)で減圧乾燥を終了させ、エアフィルタ用濾材を得た。この乾燥の最終段階でのチャンバ内の圧力(実施例1では0.10Pa)を、乾燥終了時の圧力とした。エアフィルタ用濾材には水溶性高分子としてポリビニルアルコールが支持体に対して0.10%質量%付着していた。
【0065】
(実施例2)
水溶性高分子としてポリアクリルアマイド(PAM)(クリファームPC-32、栗田工業社製)を用いた以外は実施例1と同様にエアフィルタ用濾材を得た。エアフィルタ用濾材では、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.10%質量%であった。
【0066】
(実施例3)
水溶性高分子としてポリエチレンオキサイド(PEO)(アルコックスE-300、明成化学社製)を用いた以外は実施例1と同様にエアフィルタ用濾材を得た。エアフィルタ用濾材では、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.10%質量%であった。
【0067】
(実施例4)
水溶性高分子としてポリアクリル酸ナトリウム(アロンA‐20P‐X、東亜合成社製)を用いた以外は実施例1と同様にエアフィルタ用濾材を得た。エアフィルタ用濾材では、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.10%質量%であった。
【0068】
(実施例5)
水溶性高分子としてキサンタンガム(エコーガム/ケルトロール、DSP五協フード&ケミカル社製)を用いた以外は実施例1と同様にエアフィルタ用濾材を得た。エアフィルタ用濾材では、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.10%質量%であった。
【0069】
(実施例6)
水溶性高分子としてカルボキシメチルセルロース(CMC)(セロゲンBSH-12、第一工業製薬社製)を用いた以外は実施例1と同様にエアフィルタ用濾材を得た。エアフィルタ用濾材では、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.10%質量%であった。
【0070】
(実施例7)
支持体を目付65g/m2、圧力損失が約30Paであるガラス繊維(平均繊維径0.65μmの極細ガラス繊維9部と、平均繊維径2.4μmの極細ガラス繊維76部と、平均繊維径6μmのチョップドガラス繊維15部とからなる)からなる不織布に変更した以外は実施例2と同様にエアフィルタ用濾材を得た。エアフィルタ用濾材では、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.10%質量%であった。
【0071】
(実施例8)
支持体を目付50g/m2、圧力損失が約20Paであるガラス繊維(平均繊維径0.65μmの極細ガラス繊維6部と、平均繊維径2.4μmの極細ガラス繊維79部と、平均繊維径6μmのチョップドガラス繊維15部とからなる)からなる不織布に変更した以外は実施例2と同様にエアフィルタ用濾材を得た。エアフィルタ用濾材では、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.10質量%であった。
【0072】
(実施例9)
支持体を目付66g/m2、圧力損失が約6Paであるガラス繊維(平均繊維径0.65μmの極細ガラス繊維1部と、平均繊維径2.4μmの極細ガラス繊維84部と、平均繊維径6μmのチョップドガラス繊維15部とからなる)からなる不織布に変更した以外は実施例2と同様にエアフィルタ用濾材を得た。エアフィルタ用濾材では、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.10質量%であった。
【0073】
(実施例10)
支持体を目付57g/m2、圧力損失が約4Paであるガラス繊維(平均繊維径2.4μmの極細ガラス繊維85部と、平均繊維径6μmのチョップドガラス繊維15部とからなる)からなる不織布に変更した以外は実施例2と同様にエアフィルタ用濾材を得た。エアフィルタ用濾材では、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.10質量%であった。
【0074】
(実施例11)
支持体を目付70g/m2、圧力損失が約200Paに変更であるガラス繊維(平均繊維径0.65μmの極細ガラス繊維65部と、平均繊維径2.4μmの極細ガラス繊維20部と、平均繊維径6μmのチョップドガラス繊維15部とからなる)からなる不織布に変更した以外は実施例2と同様にエアフィルタ用濾材を得た。エアフィルタ用濾材では、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.10質量%であった。
【0075】
(実施例12)
原液をそのまま水溶性高分子溶液として用い、実施例1の排気速度で排気を開始し、排気開始後150分後に乾燥を終了した以外は、実施例2と同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。エアフィルタ用濾材では、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が1.00質量%であった。
【0076】
(実施例13)
減圧乾燥の条件を、25℃から、0℃に変更した以外は、実施例2と同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。エアフィルタ用濾材では、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.10質量%であった。
【0077】
(実施例14)
減圧乾燥の条件を、25℃から、50℃に変更した以外は、実施例2と同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。エアフィルタ用濾材では、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.10質量%であった。
【0078】
(実施例15)
乾燥終了時の圧力を、0.1Paから、100Paに変更した以外は、実施例2と同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。実施例1と同じ排気速度で排気を開始し、120秒で恒温槽のチャンバ内の圧力を100Paとした後、排気速度を調整して100Paに維持し、排気開始後300分後に乾燥を終了させた。エアフィルタ用濾材では、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.10質量%であった。
【0079】
(実施例16)
支持体としてポリエステル繊維から成る支持体がジグザグ状にプリーツ加工されて枠材に固定されたカーエアコンフィルタ(PIAA社製、EVC-T5)を用いた以外は、実施例2と同様にエアフィルタ用濾材を得た。エアフィルタ用濾材では、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.1質量%であった。フィルタ性能の測定はプリーツ加工されたエアフィルタ用濾材を平板状へ解体した状態で行った。
【0080】
(実施例17)
乾燥終了時の圧力を、0.1Paから、1.0Paに変更した以外は、実施例2と同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。エアフィルタ用濾材では、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.10質量%であった。実施例1と同じ排気速度で排気を開始し、排気開始後30分後に乾燥を終了させた。
【0081】
(実施例18)
乾燥終了時の圧力を、0.1Paから、0.05Paに変更した以外は、実施例2と同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。エアフィルタ用濾材では、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.10質量%であった。実施例1と同じ排気速度で排気を開始し、排気開始後180分後に乾燥を終了させた。
【0082】
(比較例1)
支持体を水溶性高分子溶液に含浸させた後、減圧乾燥せずに、熱乾燥(120℃、60分)した以外は、実施例2と同様にエアフィルタ用濾材を得た。エアフィルタ用濾材では、支持体に対する水溶性高分子の付着量の割合が0.10質量%であった。
【0083】
(比較例2)
実施例1のガラス繊維からなる「支持体」をそのままエアフィルタ用濾材とした。
【0084】
(比較例3)
実施例7のガラス繊維からなる「支持体」をそのままエアフィルタ用濾材とした。
【0085】
(比較例4)
実施例8のガラス繊維からなる「支持体」をそのままエアフィルタ用濾材とした。
【0086】
(比較例5)
実施例9のガラス繊維からなる「支持体」をそのままエアフィルタ用濾材とした。
【0087】
(比較例6)
実施例10のガラス繊維からなる「支持体」をそのままエアフィルタ用濾材とした。
【0088】
(比較例7)
実施例11のガラス繊維からなる「支持体」をそのままエアフィルタ用濾材とした。
【0089】
(比較例8)
実施例16のガラス繊維からなる「支持体」をそのままエアフィルタ用濾材とした。
【0090】
各実施例及び比較例で得られたエアフィルタ用濾材の作製条件と物性値を表1、表2に示す。尚、各物性値は次に示す方法で測定した。
【0091】
【0092】
【0093】
「PF値」
PF値は、圧力損失及び粒子透過率の測定値から、数1に示す式を用いて計算した。なお、対象粒子径は、0.10~0.15μmとした。PF値が高いほど、対象粒子の粒子透過率が低くかつ低圧力損失のエアフィルタであることを示す。
【数1】
【0094】
「ΔPF値」
ΔPF値は、減圧乾燥後に得られたエアフィルタ用濾材のPF値と支持体自体のPF値の差であり、数2で示す式を用いて計算した。
【数2】
【0095】
「ネットワークの観察」
ネットワークの観察は、エアフィルタ用濾材を走査型電子顕微鏡(SEMと略す、日立ハイテクノロジー社製、SU8010)を用いて倍率5千~1万倍で観察して行った。観察前に、イオンスパッター(E-1045、日立ハイテクノロジー社製)を用いて、放電電流15mA、試料-ターゲット間距離30mm、真空度6Pa、コーティング時間2分の条件で導電性コーティングを行った。
図1、
図2に、実施例1、実施例2のエアフィルタ用濾材をSEMにより観察した画像をそれぞれ示す。
図3に、比較例1のエアフィルタ用濾材をSEMにより観察した画像を示す。各画像において、スケールバーの全長はいずれも10.0μmに対応する。
【0096】
実施例1~18はいずれも支持体の外表面及び/又は孔の内部に水溶性高分子のナノネットワークが形成されており、全て高いPF値を示していることが分かった。一方の比較例1では熱乾燥のため水溶性高分子のナノネットワークが形成せず、水溶性高分子の絡み合い又は凝集によって膜状物が形成され、該膜状物が部分的に空隙(開孔)を有する状態であったため、捕集効率が上昇せず、PF値も支持体に対して上昇しなかった。
【0097】
以上の結果から、本実施形態に係るエアフィルタ用濾材の製造方法は、水溶性高分子を用い、従来のエアフィルタ用濾材である支持体自体と比してフィルタ性能を向上させたエアフィルタ用濾材を比較的簡単に製造する方法を提供できることがわかった。