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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002916
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】電池用包装材
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/121 20210101AFI20231228BHJP
   H01M 50/105 20210101ALI20231228BHJP
   H01M 50/131 20210101ALI20231228BHJP
   H01M 50/129 20210101ALI20231228BHJP
   H01M 50/342 20210101ALI20231228BHJP
   H01M 50/375 20210101ALI20231228BHJP
【FI】
H01M50/121
H01M50/105
H01M50/131
H01M50/129
H01M50/342 101
H01M50/375
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080761
(22)【出願日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2022100857
(32)【優先日】2022-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501428187
【氏名又は名称】株式会社レゾナック・パッケージング
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】南堀 勇二
(72)【発明者】
【氏名】唐津 誠
【テーマコード(参考)】
5H011
5H012
【Fターム(参考)】
5H011AA13
5H011CC02
5H011CC06
5H011CC10
5H011DD13
5H011KK02
5H011KK04
5H012AA03
5H012BB04
5H012DD06
5H012FF01
(57)【要約】
【課題】温度上昇に伴って徐々にシール強度が低下して緩やかに開封する電池用包装材を提供する。
【解決手段】電池用包装材は、外側層としての基材層13と、内側層としてのシーラント層20Aと、これら両層間に配設されたバリア11層を含み、前記シーラント層20Aは1層以上からなり、最内層である第1シーラント層21が、融点が120℃以上のポリオレフィン樹脂Aと融点が120℃未満のポリオレフィン樹脂Bを含む樹脂混合物で構成されている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側層としての基材層と、内側層としてのシーラント層と、これら両層間に配設されたバリア層を含む電池用包装材であって、
前記シーラント層は1層以上からなり、最内層である第1シーラント層が、融点が120℃以上のポリオレフィン樹脂Aと融点が120℃未満のポリオレフィン樹脂Bを含む樹脂混合物で構成されていることを特徴とする電池用包装材。
【請求項2】
前記樹脂混合物はポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bが相溶している請求項1に記載の電池用包装材。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂Aが、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体、メタロセン触媒を用いて作成したプロピレン(メタロセン系プロピレン)、メタロセン触媒を用いて作成したプロピレン化合物(メタロセン系プロピレン化合物)のうちの少なくとも1種を含み、
前記ポリオレフィン樹脂Bが、プロピレン-エチレン共重合体および/またはプロピレン-α-オレフィン共重合体を含んでいる請求項1または2に記載の電池用包装材。
【請求項4】
前記シーラント層が、電池用包装材の内側からバリア層側に向かって順に、前記第1シーラント層、1層以上の第2シーラント層、第3シーラント層が順に積層された複層であり、
前記第2シーラント層の少なくとも1層および第3シーラント層が、融点が130℃以上のポリオレフィン樹脂で構成されている請求項1または2に記載の電池用包装材。
【請求項5】
前記融点が130℃以上のポリオレフィン樹脂が、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体のうち少なくとも1種を含んでいる請求項4に記載の電池用包装材。
【請求項6】
前記第1シーラント層中のポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの合計量がシーラント層を構成する樹脂の90質量%~99.9質量%を占め、かつ前記ポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの質量比が20:80~80:20である請求項1または2に記載の電池用包装材。
【請求項7】
前記第1シーラント層中のポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの合計量がシーラント層を構成する樹脂の90質量%~99.9質量%を占め、かつ前記ポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの質量比が30:70~50:50である請求項1または2に記載の電池用包装材。
【請求項8】
前記ポリオレフィン樹脂Aが、メタロセン触媒を用いたポリプロピレン(メタロセン系プロピレン)を含んでいる請求項7に記載の電池用包装材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車載用、定置型、ノートパソコン用、携帯電話用、カメラ用の二次電池、特に小型携帯用のリチウムイオン二次電池のケースとして好適に用いられる電池用包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池を代表とする蓄電デバイスは、缶やケースからアルミニウムの両面に樹脂層を貼り合わせたラミネートタイプの包装材料を用いることで、多様な形状に加工することが可能となり、さらに薄型、軽量化も可能となった。包装材料としてラミネート材を用いた蓄電デバイスでは、デバイスの高容量化に伴って電池内温度が上昇すると、電解質の揮発等によってガスが発生して内圧が上昇してケースが膨張し、あるいは破裂する。また、可燃性ガスであれば発火する危険性もある。このため、デバイスのケースには破裂を予防して穏やかにガスを放出させる対策がとられている(特許文献1~3参照)。
【0003】
発火に対する安全基準として、例えば、JIS C8714(2007)「携帯電子機器用リチウムイオン蓄電池の単電池及び組電池の安全性試験」がある。この安全性試験は、5±2℃/分で130℃±2℃まで昇温させ10分間保持し、発火、破裂を引き起こさないことを確認することで電池の安全性を確保している。前記安全性試験に合格した電池は、通常の使用温度範囲内ではケースのシール部が剥離せず安全性が確保されている。一方、過昇温時には電池本体から発生したガスがケースの内圧を上昇させるが一定の温度を超えるとシール部が剥離してケースが開封され、ケース外にガスを逃がすことで内圧上昇によるケースの破裂を防止することができる。
【0004】
特許文献1に記載されているのはケースの構造による予防策であり、ケース内圧力が上昇した時に該圧力を低下させる弁機構と、ケース内ガスを前記弁機構に誘導する通気路が開示されている。
【0005】
前記特許文献2および特許文献3は電池用包装材を規定することにより高温時にケースを開封させる技術に関するものである。引用文献2には、熱融着性樹脂層(シーラント層)の融解ピーク温度を規定することにより90℃~120℃程度の高温環境に曝された時に開封する技術が示されている。また、引用文献3には、熱融着性樹脂層同士のヒートシール強度を規定することにより高温時に開封する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6540871号公報
【特許文献2】特許第7019991号公報
【特許文献3】WO 2021/201293 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された予防策は弁機構や通気路といった追加部材を要するものであるから、材料コストも製造コストも高くなる。特許文献2および特許文献3は弁装置のような追加部材は不要であるが、高温に曝されると急激にシール強度が低下して開封するのでガスが噴出する可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した背景技術に鑑み、温度上昇に伴って徐々にシール強度が低下して緩やかに開封する電池用包装材を提供するものである。
【0009】
即ち、本発明は下記[1]~[6]に記載の構成を有する。
【0010】
[1]外側層としての基材層と、内側層としてのシーラント層と、これら両層間に配設されたバリア層を含む電池用包装材であって、
前記シーラント層は1層以上からなり、最内層である第1シーラント層が、融点が120℃以上のポリオレフィン樹脂Aと融点が120℃未満のポリオレフィン樹脂Bを含む樹脂混合物で構成されていることを特徴とする電池用包装材。
【0011】
[2]前記樹脂混合物はポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bが相溶している前項1に記載の電池用包装材。
【0012】
[3]前記ポリオレフィン樹脂Aが、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体、メタロセン触媒を用いて作成したプロピレン(メタロセン系プロピレン)、メタロセン触媒を用いて作成したプロピレン化合物(メタロセン系プロピレン化合物)のうちの少なくとも1種を含み、
前記ポリオレフィン樹脂Bが、プロピレン-エチレン共重合体および/またはプロピレン-α-オレフィン共重合体を含んでいる前項1または2に記載の電池用包装材。
【0013】
[4]前記シーラント層が、電池用包装材の内側からバリア層側に向かって順に、前記第1シーラント層、1層以上の第2シーラント層、第3シーラント層が順に積層された複層であり、
前記第2シーラント層の少なくとも1層および第3シーラント層が、融点が130℃以上のポリオレフィン樹脂で構成されている前項1~3のいずれかに記載の電池用包装材。
【0014】
[5]前記融点が130℃以上のポリオレフィン樹脂が、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体のうち少なくとも1種を含んでいる前項4に記載の電池用包装材。
【0015】
[6]前記第1シーラント層中のポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの合計量がシーラント層を構成する樹脂の90質量%~99.9質量%を占め、かつ前記ポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの質量比が20:80~80:20である前項1~5のいずれかに記載の電池用包装材。
【0016】
[7]前記第1シーラント層中のポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの合計量がシーラント層を構成する樹脂の90質量%~99.9質量%を占め、かつ前記ポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの質量比が30:70~50:50である前項1~6のいずれかに記載の電池用包装材。
【0017】
[8]前記ポリオレフィン樹脂Aが、メタロセン触媒を用いたポリプロピレン(メタロセン系プロピレン)を含んでいる前項7に記載の電池用包装材。
【発明の効果】
【0018】
上記[1]に記載の電池用包装材によれば、シーラント層の第1シーラント層が融点が120℃以上のポリオレフィン樹脂Aと融点が120℃未満のポリオレフィン樹脂Bを含む樹脂混合物で構成されているため、100℃以下ではシール強度を高く保ち、100℃を超えて130℃までは融点の低いポリオレフィン樹脂Bがポリオレフィン樹脂Aよりも先に軟化するので、徐々にシール強度が低下する。このため、電池ケースのシール部が緩やかに開封してガスが緩やかに排出されるので、ケースの破裂を防ぐことができる。
【0019】
上記[2]に記載の電池用包装材によれば、シーラント層の第1シーラント層を構成するポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bが相溶しているので、互いの樹脂の特性が相俟って、100℃以下で高いシール強度を保つととともに、130℃までに緩やかに開封する効果を十分に得ることができる。
【0020】
上記[3]に記載の電池用包装材によれば、規定されたポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの組み合わせにより高い相溶性が得られるので、100℃以下で高いシール強度を保つととともに、130℃までに緩やかに開封させる効果を十分に得ることができる。
【0021】
上記[4]に記載の電池用包装材によれば、ヒートシール時に接触し合う第1シーラント層よりも外側の第2シーラント層および第3シーラント層に融点の高い樹脂層が配置されているので、温度上昇時に確実に第1シーラント層で剥離させてケースを開封することができる。このため、開封の時期を的確にコントロールしてケースの破裂を防止することができる。また、外側に高融点の第2シーラント層および第3シーラント層が存在することによってヒートシールによるシーラント層の肉厚減少を抑制できることから、シーラント層を薄くすることができる。また、タブリードが引き出されている部分のシール性を高めることができる。
【0022】
上記[5]に記載の電池用包装材によれば、第2シーラント層および第3シーラント層23に規定された樹脂を用いることにより、シーラント層内の層間剥離が起こり難くなり、100℃以下でのシール強度を確実に保つことができる。
【0023】
上記[6]に記載の電池用包装材によれば、融点の異なる2種類の樹脂の混合比により、100℃以下で高いシール強度を保つととともに、130℃までに緩やかに開封する効果を十分に得ることができる。
【0024】
上記[7]に記載の電池用包装材によれば、融点の低いポリオレフィン樹脂Bをポリオレフィン樹脂Aより多く含有することで、130℃までにより穏やかに開封させることができる。
【0025】
上記[8]に記載の電池包装材によれば、常温時のシール強度が確保されるとともに、100℃においては緩やかに開封し始め、130℃においては確実に開封することができるシール強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は本発明の電池用包装材の一例を示す断面図である。
図2図2は本発明の電池用包装材の他の例を示す断面図である。
図3図3は本発明の電池用包装材のさらに他の例を示す断面図である。
図4図1~3の電池用包装材で作製した電池ケースを備えた電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1~3に、本発明の電池用包装材の3つの実施形態を示す。
【0028】
以下の説明において、同一符号を付した層は同一物または同等物を表しており、重複する説明を省略する。
【0029】
電池用包装材1、2、3は、バリア層11の一方の面に第1接着剤層12を介して基材層13が貼り合わされ、他方の面に第2接着剤層14を介してシーラント層20A、20B、20Cが貼り合わされている。
【0030】
図4に示すように、前記電池用包材1、2、3を用いた電池ケース50は、シーラント層20A、20B、20C同士を向かい合わせにして、該電池用包装材1、2、3の周囲をヒートシールすることにより作製され、電池ケース50内にベアセル51が封入される。作製された電池ケース50において、前記基材層13が外側層となり、前記シーラント層20A、20B、20Cが内側層となる。本発明において、電池用包装材1、2、3を構成する各層の位置を方向で説明する場合に、基材層13の方向を外側、シーラント層20A、20B、20Cの方向を内側と称する。
【0031】
(シーラント層の構成)
本発明の電池用包装材は内側層となるシーラント層の材料に特徴を有する。シーラント層は腐食性の強い電解質などに対しても優れた耐薬品性を具備させるとともに、電池用包装材1、2、3にヒートシール性を付与する役割を担うものである。
【0032】
シーラント層は1層以上からなり、単層、複層のいずれでもよいが、電池用包装材の最内層である第1シーラント層、即ち向かい合わせに配置した電池用包装材をヒートシールする際に互いに接触し合う層の材料を規定し、要すればさらに第1シーラント層以外の層の材料を規定する。
【0033】
図1の電池用包装材1のシーラント層20Aは、電池用包装材1の内側からバリア層11側に向かって順に、前記第1シーラント層21、第2シーラント層22、第3シーラント層23が積層された3層構造である。前記第1シーラント層21がバリア層11から最も離れた電池用包装材1の最内層であり、前記第3シーラント層23がバリア層11に最も近く第2接着剤層14に接する層であり、第2シーラント層22が第1シーラント層21と第3シーラント層33の間の中間層である。
【0034】
図2の電池用包装材2のシーラント層20Bは、最内層である第1シーラント層21とバリア層11に最も近い第3シーラント層23の2層構造である。図3の電池用包装材3のシーラント層20Cは最内層である第1シーラント層21の単層である。
【0035】
本発明において、シーラント層20A、20B、20Cの層数に関係なく、最内層を第1シーラント層21層と称する。第1シーラント21は必須の層である。2層以上のシーラント層20A、20Bでは、バリア層11に最も近い層を第3シーラント層23と称する。3層以上のシーラント層20Aでは、第1シーラント層21と第3シーラント層23の間の全ての層を第2シーラント層22と称する。従って、4層以上のシーラント層(図示なし)では第2シーラント層22が2層以上で構成される。
【0036】
(第1シーラント層の材料)
前記第1シーラント層21は、融点120℃以上のポリオレフィン樹脂Aと融点120℃未満のポリオレフィン樹脂Bの樹脂混合物で構成されている。融点の異なる2種類の樹脂混合物を用いることにより、100℃以下ではシール強度を高く保ち、100℃を超えて130℃までは融点の低いポリオレフィン樹脂Bがポリオレフィン樹脂Aよりも先に軟化するので、徐々にシール強度が低下して電池ケースのシール部を緩やかに開封することができる。このため、ガスは緩やかに排出し、ケースの破裂を防ぐことができる。また、前記ポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bは相溶していることが好ましく、互いの樹脂の特性が相俟って、100℃以下で高いシール強度を保つととともに、130℃までに緩やかに開封する効果を十分に得ることができる。なおポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bが相溶している状態とは、両者が相溶して均一な相になっている状態である。
【0037】
前記ポリオレフィン樹脂Aの好ましい融点は125℃~145℃であり、特に好ましい融点は125℃~135℃である。前記ポリオレフィン樹脂Bの好ましい融点は80℃~115℃であり、特に好ましい融点は80℃~105℃である。また、急激な開封を抑制するためには低い温度から開封が始まりある程度高い温度まで完全には溶融しないことが必要であるので、前記ポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの融点差は10℃以上であることが好ましい。
【0038】
前記ポリオレフィン樹脂Aとして、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体、メタロセン触媒を用いて作成したプロピレン(メタロセン系プロピレン)、メタロセン触媒を用いて作成したプロピレン化合物(メタロセン系プロピレン化合物)を例示でき、これらのうちの少なくとも1種含んでいることが好ましい。
【0039】
また、前記ポリオレフィン樹脂Bとして、プロピレン-エチレン共重合体および/またはプロピレン-α-オレフィン共重合体を含んでいることが好ましい。
【0040】
ポリオレフィン樹脂AおよびBの形態はエラストマーやプラストマーであってもよく、ポリオレフィン系プラストマーを樹脂として使用することで融点を少し下げるとともに柔軟性を高め耐衝撃性を向上させるという効果もある。これらの樹脂の組み合わせは相溶性が高いので、100℃以下で高いシール強度を保つととともに130℃までに緩やかに開封させる効果を得るのに適している。
【0041】
前記ポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの質量による混合比(A:B)は20:80~80:20が好ましく、30:70~60:40がさらに好ましく、30:70~50:50がより一層好ましい。融点の異なる2種類の樹脂を前記範囲で混合することにより、100℃以下で高いシール強度を保つととともに130℃までに緩やかに開封する効果を十分に得ることができる。
【0042】
前記混合比(A:B)は、ポリオレフィン樹脂Aが多いほど100℃以下で高いシール強度を保つことができ、ポリオレフィン樹脂Bが多いほど100℃~130℃におけるシール強度が低下しやすくなる。よって、穏やかに開封させるにはポリオレフィン樹脂Bをポリオレフィン樹脂Aより多く混合させることが好ましい。この観点から混合比(A:B)は30:70~50:50とすることが好ましく、30:70~40:60とすることがさらに好ましい。
【0043】
また、第1シーラント層21はポリオレフィン樹脂Aおよびポリオレフィン樹脂B以外の樹脂を含有してもよいが、第1シーラント層21におけるポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの合計量の含有率は90質量%~99.9質量%の範囲が好ましく、特に好ましい含有率は95質量%~99.8質量%である。なお、第1シーラント層21を構成する樹脂は先に例示したポリオレフィン樹脂Aおよびポリオレフィン樹脂Bに限定するものではなく、融点が110℃~130℃の他のポリオレフィン樹脂Cを添加してもよい。前記他のポリオレフィン樹脂Cはポリオレフィン樹脂Aおよびポリオレフィン樹脂Bの混合物の融点に鑑みて適宜添加することができる。
【0044】
ポリオレフィン樹脂Cとしては、ポリプロピレン-エチレンエラストマー(プロピレン-α-オレフィン共重合体)等を挙げることができる。
【0045】
(3層以上のシーラント層の材料)
シーラント層20Aが3層以上の場合において、第2シーラント層22のうちの少なくとも1層および第3シーラント層23は融点が130℃以上のポリオレフィン樹脂で構成されていることが好ましい。ヒートシール時に接触し合う最内層の第1シーラント層21よりも外側に融点の高い樹脂層を配置することにより、温度上昇時に確実に第1シーラント層21で剥離させてケースを開封することができる。よって、開封の時期を的確にコントロールしてケースの破裂を防止することができる。また、外側に高融点の第2シーラント層22および第3シーラント層23が存在することによってヒートシールによるシーラント層20Aの肉厚減少を抑制できることから、シーラント層20Aを薄くすることができる。
【0046】
前記第2シーラント層22を構成する樹脂の特に好ましい融点は135℃以上であり、前記第3シーラント層23を構成する樹脂の特に好ましい融点は140℃以上である。また、第2シーラント層22の融点は第3シーラント層23より低いことが好ましい。
【0047】
前記第2シーラント層22の少なくとも1層を構成する融点が130℃以上のポリオレフィン樹脂として、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体、メタロセン触媒を用いて作成したプロピレン(メタロセン系プロピレン)、メタロセン触媒を用いて作成したプロピレン化合物(メタロセン系プロピレン化合物)、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-ブテンブロック共重合体、プロピレン--エチレン-ブテンブロック共重合体を例示できる。また、これらの樹脂のうちの少なくとも1種を含む混合樹脂も用いることができる。上述した樹脂のうちで特に好ましい樹脂は、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体である。
【0048】
前記第3シーラント層23を構成する融点が130℃以上のポリオレフィン樹脂として、上述した第2シーラント層22の少なくとも1層を構成する樹脂と同じ樹脂、およびプロピレンホモポリマーを例示できる。また、これらの樹脂のうちの少なくとも1種を含む混合樹脂も用いることができる。上述した樹脂のうちで特に好ましい樹脂は、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体である。
【0049】
第2シーラント層22および第3シーラント層23に上述した樹脂を用いることにより、シーラント層内の層間剥離が起こり難くなり、100℃以下でのシール強度を確実に保つことができる。
【0050】
また、図2の2層構造のシーラント層20Bにおいても、第3シーラント層23に適する樹脂は、上述した3層構造のシーラント層20Aの第3シーラント層23を構成する樹脂に準じる。
【0051】
前記シーラント層20A、20B、20Cの各層は、上述した樹脂の他に滑剤、アンチブロック剤等の添加剤を配合することができる。滑剤およびアンチブロック剤は滑り性を高めて成形性を向上させる効果がある。
【0052】
滑剤としては、特に限定するものではないが、例えば、飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、置換アミド、メチロールアミド、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、脂肪酸エステルアミド、芳香族系ビスアミド等が挙げられる。
【0053】
飽和脂肪酸アミドとして、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミドを挙げることができる。
【0054】
不飽和脂肪酸アミドとして、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドを挙げることができる。
【0055】
置換アミドとして、N-オレイルパルミチン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミドを挙げることができる。
【0056】
メチロールアミドとして、メチロールステアリン酸アミドを挙げることができる。
【0057】
飽和脂肪酸ビスアミドとして、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’-ジステアリルセバシン酸アミドを挙げることができる。
【0058】
不飽和脂肪酸ビスアミドとして、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’-ジオレイルセバシン酸アミドを挙げることができる。
【0059】
脂肪酸エステルアミドとして、ステアロアミドエチルステアレートを挙げることができる。
【0060】
芳香族系ビスアミドとして、m-キシリレンビスステアリン酸アミド、m-キシリレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルイソフタル酸アミドを挙げることができる。
【0061】
アンチブロック剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、シリカ、アクリル樹脂、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、酸化チタン、タルク、カオリン等の粒子等が挙げられる。
【0062】
前記シーラント層20A、20B、20Cにおける各種添加剤の好ましい濃度は以下のとおりである。滑剤濃度は100ppm~3000ppm、アンチブロック剤濃度は100ppm~5000ppmである。
【0063】
前記シーラント層20A、20B、20Cの厚みは総厚(T)で20μm~100μmが好ましく、より好ましい総厚は20μm~80μmである。総厚が25μm~50μmであればなお一層好ましい。第1シーラント層21と第3シーラント層23からなる2層構造のシーラント層20Bにおいては、総厚(T)を10としたときの第1シーラント層21の厚み(t1)と第3シーラント層23の厚み(t3)の比率t1:t3を2~8:8~2と配分するのが好ましく、4~8:6~2であればなお一層好ましい。また、第1シーラント層21、第2シーラント層22、第3シーラント層23からなる3層構造のシーラント層20Bにおいては、同じく総厚(T)を10としたときの第1シーラント層21の厚み(t1)、第2シーラント層22の厚み(t2)、第3シーラント層23の厚み(t3)の比率t1:t2:t3を1~4:2~7:1~7と配分するのが好ましく、2~4:2~4:3~6であればなお一層好ましい。
【0064】
[電池用包装材のシーラント層以外の層]
本発明の電池用包装材において、シーラント層以外の層は周知の材料を適宜用いることができ、貼り合わせ方法も特に限定されない。以下に、シーラント層を除く層の好適材料について説明する。
【0065】
(基材層)
前記基材層13には電池用包装材1、2、3をヒートシールする際のヒートシール温度で溶融しない耐熱性樹脂フィルムを用いる。前記耐熱性樹脂としては、シーラント層20A、20B、20Cを構成する樹脂の融点より10℃以上、好ましくは20℃以上高い融点を有する耐熱性樹脂を用いる。この条件を満たす樹脂として、例えば、ナイロンフィルム等のポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム等が挙げられ、これらの延伸フィルムが好ましく用いられる。中でも、前記基材層13としては、二軸延伸ナイロンフィルム等の二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム又は二軸延伸ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用いるのが特に好ましい。前記ナイロンフィルムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、6ナイロンフィルム、6,6ナイロンフィルム、MXDナイロンフィルム等が挙げられる。なお、前記基材層13は、単層で形成されていても良いし、或いは、例えばポリエステルフィルム/ポリアミドフィルムからなる複層(PETフィルム/ナイロンフィルムからなる複層等)で形成されていても良い。
【0066】
前記基材層13の厚さは、9μm~50μmであるのが好ましく、包装材として十分な強度を確保でき、かつ張り出し成形、絞り成形等の成形時の応力を小さくできて成形性を向上させることができる。前記基材層13のさらに好ましい厚さは12μm~30μmである。
【0067】
(バリア層)
前記バリア層11は、電池用包装材1、2、3に酸素や水分の侵入を阻止するガスバリア性を付与する役割を担うものである。前記バリア層11としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム箔、SUS箔(ステンレス箔)、銅箔、ニッケル箔、チタン箔、クラッド箔等の金属箔が挙げられる。前記バリア層11の厚さは、20μm~100μmであるのが好ましい。20μm以上であることで金属箔を製造する際の圧延時のピンホール発生を防止できると共に、100μm以下であることで張り出し成形、絞り成形等の成形時の応力を小さくできて成形性を向上させることができる。前記バリア層11の特に好ましい厚さは30μm~80μmである。
【0068】
また、前記バリア層11は前記金属箔の少なくともシーラント層20A、20B、20C側の面に、化成処理等の下地処理が施されていることが好ましい。このような化成処理が施されていることによって内容物(電池の電解質等)による金属箔表面の腐食を十分に防止できる。
【0069】
例えば次のような処理をすることによって金属箔に化成処理を施す。
【0070】
脱脂処理を行った金属箔の表面に、下記1)~3)のうちのいずれかの水溶液を塗工した後、乾燥することにより、化成処理を施す。
1)リン酸と、クロム酸と、フッ化物の金属塩及びフッ化物の非金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む混合物の水溶液
2)リン酸と、アクリル系樹脂、キトサン誘導体樹脂及びフェノール系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂と、クロム酸及びクロム(III)塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む混合物の水溶液
3)リン酸と、アクリル系樹脂、キトサン誘導体樹脂及びフェノール系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂と、クロム酸及びクロム(III)塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、フッ化物の金属塩及びフッ化物の非金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む混合物の水溶液
前記化成皮膜は、クロム付着量(片面当たり)として0.1mg/m~50mg/mが好ましく、特に2mg/m~20mg/mが好ましい。
【0071】
(第1接着剤層)
前記第1接着剤層12としては、特に限定されるものではないが、例えば、2液硬化型接着剤により形成された接着剤層等が挙げられる。前記2液硬化型接着剤としては、例えば、ポリウレタン系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール及びポリエステルウレタン系ポリオールからなる群より選ばれるポリオールの1種または2種以上からなる第1液(主剤)と、イソシアネートからなる第2液(硬化剤)とで構成される2液硬化型接着剤などが挙げられる。中でも、ポリエステル系ポリオール及びポリエステルウレタン系ポリオールからなる群より選ばれるポリオールの1種または2種以上からなる第1液と、イソシアネートからなる2液(硬化剤)とで構成される2液硬化型接着剤を用いるのが好ましい。前記第1接着剤層12の好ましい厚さは1μm~5μmである。
【0072】
(第2接着剤層)
前記第2接着剤層14としては、特に限定されるものではないが、ドライラミネート法の場合、例えば、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エラストマー系樹脂、フッ素系樹脂、酸変性ポリプロピレン樹脂のうちの1種以上を含む接着剤を推奨できる。中でも、酸変性ポリオレフィンを主剤とするポリウレタン複合樹脂からなる接着剤が好ましい。また、サンドラミネート法や熱ラミネート法の場合は、例えば、酸変性ポリプロピレン系樹脂や酸変性ポリエチレン系樹脂といった変性ポリオレフィン樹脂を推奨できる。前記第2接着剤層14の好ましい厚さはラミネート方法によって異なり、ドライラミネート法の場合は2μm~5μmが好ましく、サンドラミネート法または熱ラミネート法の場合は2μm~20μmが好ましい。
【0073】
(電池用包装材の他の積層形態)
本発明の電池用包装材において、第1接着剤層および第2接着剤は必須の層ではなく、基材層が直接バリア層に貼り合わされていてもよく、またシーラント層が直接バリア層に貼り合わされていてもよい。
【0074】
また、本発明の電池用包装材は、前記基材層の外側に別の層を形成して、外側層を基材層を含む複数の層で構成することもできる。前記基材層の外側に形成する層として保護層やマットコート層を例示できる。これらの層は、電池用包装材の最外層となって基材層を保護するとともに、表面に良好な滑り性を付与して成形性を高める効果がある。
【0075】
前記保護層の材料として、フェノキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂等を推奨できる。また、前記マットコート層は樹脂にマット剤を配合した樹脂組成物からなり、上述した樹脂と、前記マット剤として、シリカ、アルミナ、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム等の無機物の微粒子、アクリルビーズ等の樹脂ビーズ等を推奨できる。
【実施例0076】
実施例1~23および比較例1~5の電池用包装材を作製した。これらの電池用包装材は、図1~3の電池用包装材1、2、3に参照されるように、バリア層11の一方の面に第1接着剤層12を介して基材層13が貼り合わされ、他方の面に第2接着剤層14を介してシーラント層20A、20B、20Cが貼り合わされている。前記電池用包装材はバリア層11、基材層13、第1接着剤層12、第2接着剤層14が共通であり、シーラント層20A、20B、20Cの層構成および材料が異なる。実施例1、2の電池用包装材のシーラント層20Cは第1シーラント層21の単層である(図3参照)。実施例3および比較例1のシーラント層20Bは第1シーラント層21と第3シーラント層23の2層である(図2参照)。実施例4~23および比較例2~5のシーラント層20Aは第1シーラント層21、第2シーラント層22、第3シーラント層23の3層である(図1参照)。
【0077】
各例の電池用包装材は、後述する材料と方法で単層または複層のシーラント層用フィルムを作製しておき、各例共通材料で作製した基材層、第1接着剤層、バリア層の積層物に第2接着剤を介してシーラント用フィルムを貼り合わせた。各例のシーラント層用フィルムの詳細および電池用包装材の作製方法は以下のとおりである。
【0078】
[各例のシーラント層用フィルム]
(実施例1、2)
表1の第1シーラント層の欄に示すポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bを表1に示す質量比で混合して相溶させた。前記混合樹脂に、滑剤として1000ppmのエルカ酸アミドおよびアンチブロック剤として2000ppmのシリカ粒子を配合して樹脂組成物を調製した。前記樹脂組成物をTダイを用いて押出して厚さ30μmの単層のシーラント層用フィルムを作製した。
【0079】
(実施例3)
表1の第1シーラント層の欄に示すポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bを表1に示す質量比で混合して相溶させた。前記混合樹脂に、滑剤として1000ppmのエルカ酸アミドおよびアンチブロック剤として2000ppmのシリカ粒子を配合して第1シーラント層用樹脂組成物を調製した。
【0080】
表1の第3シーラント層の欄に示す樹脂に、滑剤として1000ppmのエルカ酸アミドおよびアンチブロッキング剤として2000ppmのシリカ粒子を配合して第3シーラント層用樹脂組成物を調製した。
【0081】
前記第1シーラント用樹脂組成物と第3シーラント層樹脂組成物をTダイを用いて共押出して、厚さ18μmの第1シーラント層21と厚さ12μmの第3シーラント層23が積層された2層のシーラント層用フィルムを作製した。
【0082】
(実施例4~7、13、14、16~23)
表1の第1シーラント層の欄に示すポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bを表1に示す質量比で混合して相溶させた。前記混合樹脂に、滑剤として1000ppmのエルカ酸アミドおよびアンチブロック剤として2000ppmのシリカ粒子を配合して第1シーラント層用樹脂組成物を調製した。
【0083】
表1の第2シーラント層の欄に示す樹脂に、滑剤として1000ppmのエルカ酸アミドを配合して第2シーラント層用樹脂組成物を調製した。
【0084】
表1の第3シーラント層の欄に示す樹脂に、滑剤として1000ppmのエルカ酸アミドおよびアンチブロッキング剤として2000ppmのシリカ粒子を配合して第3シーラント層用樹脂組成物を調製した。
【0085】
前記第1シーラント用樹脂組成物、第2シーラント層用樹脂組成物および第3シーラント層樹脂組成物をTダイを用いて共押出して、厚さ9μmの第1シーラント層21、厚さ9μmの第2シーラント層22、厚さ12μmの第3シーラント層23が積層された3層のシーラント層用フィルムを作製した。
【0086】
(実施例8~12、15)
表1の第1シーラント層の欄に示すポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bとポリオレフィン樹脂Cを混合し相溶させ、滑剤として1000ppmのエルカ酸アミドおよびアンチブロック剤として2000ppmのシリカ粒子を配合して第1シーラント層用樹脂組成物を調製した。表1に、前記樹脂組成物における、ポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの質量比、全樹脂量に対するポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの合計量の割合、全樹脂量に対するポリオレフィン樹脂Cの割合を示す。
【0087】
表1の第2シーラント層の欄に示す樹脂に、滑剤として1000ppmのエルカ酸アミドを配合して第2シーラント層用樹脂組成物を調製した。
【0088】
表1の第3シーラント層の欄に示す樹脂に、滑剤として1000ppmのエルカ酸アミドおよびアンチブロッキング剤として2000ppmのシリカ粒子を配合して第3シーラント層用樹脂組成物を調製した。
【0089】
前記第1シーラント用樹脂組成物、第2シーラント層用樹脂組成物および第3シーラント層樹脂組成物をTダイを用いて共押出して、厚さ9μmの第1シーラント層21、厚さ9μmの第2シーラント層22、厚さ12μmの第3シーラント層23が積層された3層のシーラント層用フィルムを作製した。
【0090】
(比較例1)
表1の第1シーラント層の欄に示すポリオレフィン樹脂Aに、滑剤として1000ppmのエルカ酸アミドおよびアンチブロック剤として2000ppmのシリカ粒子を配合して第1シーラント層用樹脂組成物を調製した。
【0091】
表1の第3シーラント層の欄に示す樹脂に、滑剤として1000ppmのエルカ酸アミドおよびアンチブロッキング剤として2000ppmのシリカ粒子を配合して第3シーラント層用樹脂組成物を調製した。
【0092】
前記第1シーラント用樹脂組成物と第3シーラント層樹脂組成物をTダイを用いて共押出して、厚さ20μmの第1シーラント層21と厚さ10μmの第3シーラント層23が積層された2層のシーラント層用フィルムを作製した。
【0093】
(比較例2~5)
第1シーラント層用樹脂、第2シーラント層用樹脂および第3シーラント層用樹脂として表1に示す樹脂を用いたことを除いて、実施例4と同じ方法で3層のシーラント層用フィルムを作製した。
【0094】
後掲の表1に各例のシーラント層の概要を示す。
【0095】
表1中に記載した樹脂の略号は以下のとおりである。
mPP:メタロセン系ポリプロピレン
ER:ポリプロピレン-エチレンエラストマー(プロピレン-α―オレフィン共重合体)
PE:プロピレン-エチレン共重合体
bPP:プロピレン-エチレンブロック共重合体
rPP:プロピレン-エチレンランダム共重合体
rPB:プロピレン-ブテンランダム共重合体
rPEB:プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体
また、各樹脂の融点は、JIS K7121に準拠し、昇温速度10℃/minで示差操作熱量測定(DSC)を行い、ピークの頂点の温度Tpmとした。
【0096】
[電池用包装材の作製方法]
バリア層11として、厚さ40μmのA8079からなるアルミニウム箔の両面に、ポリアクリル酸(アクリル系樹脂)、クロム(III)塩化合物、水、アルコールからなる化成処理液を塗布した後、150℃で乾燥を行って、化成皮膜を形成したものを用いた。この化成皮膜のクロム付着量は片面当たり5mg/mである。また、基材層13として厚さ15μmの二軸延伸6ナイロンフィルムを用いた
前記バリア層11の一方の面に2液硬化型ウレタン系接着剤を塗布して厚さ3μmの第1接着剤層12を形成し、前記基材層13をドライラミネートした。次いで、前記バリア層11の他方の面に2液硬化型マレイン酸変性プロピレン接着剤を塗布して厚さ2μmの第2接着剤層14を形成し、シーラント層用フィルムをドライラミネートした。このとき、単層のシーラント層用フィルムに1は第1シーラント層21が第2接着剤層14に接触し、2層または3層のシーラント層フィルム第3シーラント層23が第2接着剤層14に接触するようにラミネートした。
【0097】
そして、全ての層が貼り合わされたラミネートシートをゴムニップロールと、100℃に加熱されたラミネートロールとの間に挟み込んで圧着することによりドライラミネートを完成させ、しかる後、40℃で10日間エージングする(加熱する)ことによって電池用包装材1、2、3を得た。
【0098】
[電池用包装材の評価]
作製した各例の電池用包装材1、2、3について、下記の項目について測定し評価した。結果を表1に示す。
【0099】
(シール強度)
電池用包装材1、2、3を幅15mm×長さ150mmに裁断して複数枚の試験材を作製した。2枚の前記試験材をシーラント層20A、20B、20C同士が向かい合うように重ね、ヒートシール装置(テスター産業株式会社製、TP-701-A)を用いて、ヒートシール温度:180℃、シール圧:0.3MPa(ゲージ表示圧)、シール時間:4秒の条件にて片面加熱によりヒートシールを行い、これをシール強度用試験体とした。前記シール強度測定用試験体は各例につき3個を準備した。
【0100】
3個のシール強度測定用試験体を25℃、100℃、130℃の3種類の温度で24時間静置した後、それぞれの温度でシール強度を測定した。
【0101】
シール強度の測定は、JIS Z0238-1998に準拠し、引張試験機として島津製作所製ストログラフ(AGS-5kNX)を用いて行った。前記引張試験機の一方のチャックで試験材の一方の試験片の端部を挟着固定するとともに、他方のチャックで他方の試験片の端部を掴み、引張速度100mm/分でT字剥離させたときの剥離強度を測定し、これをシール強度(N/15mm)とした。
【0102】
(開封試験)
電池用包装材1、2、3を幅100mm×長さ200mmの裁断して長方形の試験材を作製した。この長方形の試験材を、シーラント層20A、20B、20Cを内側にして長手方向の中央部で二つ折りにし、折り山に続く2辺を、シール幅:5mm、ヒートシール温度:180℃、シール圧:0.3MPa(ゲージ表示圧)、シール時間:4秒の条件にて片面加熱し、折り山の対向辺が開口する袋体にした。次いで、袋体の開口部から2.0gの水を入れ、同じ条件で開口辺を他の2辺と同じ条件でヒートシールして袋体を密封し、これを開封試験用試験体とした。
【0103】
前記開封試験用試験体をオーブンに入れ、25℃から130℃までを昇温速度5℃/分で加熱し、130℃に到達後に130℃で30分保持して、昇温から130℃×30分保持が終了するまでの間の開封状態を観察し、下記の基準で評価した。
A:100℃~130℃までの昇温中に開封し、ガスが緩やかに抜けた。
B:130℃までの昇温中に開封せず、130℃保持中に開封してガスが緩やかに抜けた。
C:100℃~130℃までの昇温中に開封し、かつガスが急激に抜けた。
D:130℃までの昇温中に開封せず、130℃度保持中にガスが急激に抜けた。
X:130℃保持中でも開封しなかった。
Y:100℃までの昇温中に開封した。
【0104】
なお、本試験は、外部加熱試験(JIS C8714)を参考にしたものであるが、JIS C8714が130℃到達後の130℃保持時間が10分であるのに対し、本試験は130℃保持時間を30分に設定し、より厳しい条件の加熱を行った。
【0105】
【表1】
【0106】
表1の結果より、実施例の電池用包装材は100℃以下で高いシール強度を保ち、100℃~130℃で徐々にシール強度が低下して緩やかに開封することを確認することができた。
【0107】
特に、ポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの混合比(A:B)を30:70~50:50とし、ポリオレフィン樹脂Aとしてメタロセン触媒を用いたポリプロピレン(メタロセン系ポリプロピレン)とすることにより、25℃におけるシール強度が80N/15mm以上となって、常温時のシール強度が確保され、100℃におけるシール強度が37N/15mm~46N/15mmとなって、シールが頑張りすぎず緩やかに開封し始めようとする状態が得られ、130℃におけるシール強度が3N/15mm以下となって、130℃においては確実に開封することができるシール強度を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の電池用包装材は、車載用、定置型、ノートパソコン用、携帯電話用、カメラ用の二次電池、特に小型携帯用のリチウムイオン二次電池のケース材料として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0109】
1…電池用包装材
11…バリア層
12…第1接着剤層
13…基材層
14…第2接着剤層
20A、20B、20C…シーラント層
21…第1シーラント層
22…第2シーラント層
23…第3シーラント層
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-06-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側層としての基材層と、内側層としてのシーラント層と、これら両層間に配設されたバリア層を含む電池用包装材であって、
前記シーラント層は1層以上からなり、最内層である第1シーラント層が、融点が120℃以上のポリオレフィン樹脂Aと融点が120℃未満のポリオレフィン樹脂Bを含む樹脂混合物で構成されていることを特徴とする電池用包装材。
【請求項2】
前記樹脂混合物はポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bが相溶している請求項1に記載の電池用包装材。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂Aが、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体、メタロセン触媒を用いて作成したプロピレン(メタロセン系プロピレン)、メタロセン触媒を用いて作成したプロピレン化合物(メタロセン系プロピレン化合物)のうちの少なくとも1種を含み、
前記ポリオレフィン樹脂Bが、プロピレン-エチレン共重合体および/またはプロピレン-α-オレフィン共重合体を含んでいる請求項1または2に記載の電池用包装材。
【請求項4】
前記シーラント層が、電池用包装材の内側からバリア層側に向かって順に、前記第1シーラント層、1層以上の第2シーラント層、第3シーラント層が順に積層された複層であり、
前記第2シーラント層の少なくとも1層および第3シーラント層が、融点が130℃以上のポリオレフィン樹脂で構成されている請求項1または2に記載の電池用包装材。
【請求項5】
前記融点が130℃以上のポリオレフィン樹脂が、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体のうち少なくとも1種を含んでいる請求項4に記載の電池用包装材
【請求項6】
前記第1シーラント層中のポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの合計量が前記第1シーラント層を構成する樹脂の90質量%~99.9質量%を占め、かつ前記ポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの質量比が20:80~80:20である請求項1または2に記載の電池用包装材。
【請求項7】
前記第1シーラント層中のポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの合計量が前記第1シーラント層を構成する樹脂の90質量%~99.9質量%を占め、かつ前記ポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの質量比が30:70~50:50である請求項1または2に記載の電池用包装材。
【請求項8】
前記ポリオレフィン樹脂Aが、メタロセン触媒を用いたポリプロピレン(メタロセン系プロピレン)を含んでいる請求項7に記載の電池用包装材。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
[6]前記第1シーラント層中のポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの合計量が前記第1シーラント層を構成する樹脂の90質量%~99.9質量%を占め、かつ前記ポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの質量比が20:80~80:20である前項1~5のいずれかに記載の電池用包装材。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0016】
[7]前記第1シーラント層中のポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの合計量が前記第1シーラント層を構成する樹脂の90質量%~99.9質量%を占め、かつ前記ポリオレフィン樹脂Aとポリオレフィン樹脂Bの質量比が30:70~50:50である前項1~6のいずれかに記載の電池用包装材。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0072
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0072】
(第2接着剤層)
前記第2接着剤層14としては、特に限定されるものではないが、ドライラミネート法の場合、例えば、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エラストマー系樹脂、フッ素系樹脂、酸変性ポリオレフィン樹脂のうちの1種以上を含む接着剤を推奨できる。中でも、酸変性ポリオレフィンを主剤とするポリウレタン複合樹脂からなる接着剤が好ましい。また、サンドラミネート法や熱ラミネート法の場合は、例えば、酸変性ポリプロピレン系樹脂や酸変性ポリエチレン系樹脂といった変性ポリオレフィン樹脂を推奨できる。前記第2接着剤層14の好ましい厚さはラミネート方法によって異なり、ドライラミネート法の場合は2μm~5μmが好ましく、サンドラミネート法または熱ラミネート法の場合は2μm~20μmが好ましい。