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特開2024-29168癌治療用イットリウム90を直接生成するシステム
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  • 特開-癌治療用イットリウム90を直接生成するシステム 図1
  • 特開-癌治療用イットリウム90を直接生成するシステム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029168
(43)【公開日】2024-03-05
(54)【発明の名称】癌治療用イットリウム90を直接生成するシステム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20240227BHJP
【FI】
A61N5/10 D
A61N5/10 J
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024000007
(22)【出願日】2024-01-02
(62)【分割の表示】P 2020543818の分割
【原出願日】2019-02-13
(31)【優先権主張番号】62/631,737
(32)【優先日】2018-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】ヘイベル、マイケル、ディー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】癌性腫瘍または癌組織に含まれる癌細胞を破壊するために高エネルギーのベータ粒子を放出する物質を含むシステムおよび方法を提供する。
【解決手段】電子式中性子発生器は、イットリウム89と相互作用してイットリウム90を生成させる確率の高いエネルギーを有する中性子を発生させる。イットリウム90は、半減期が約64時間で最大エネルギーが約2.25MeVのベータ線を放出して崩壊し、安定なジルコニウムになる。安定なイットリウム89を癌組織内またはその周囲に直接配置して、0.1~15keVのエネルギー範囲の中性子を照射することにより、有意な量のイットリウム90を生成することができる。イットリウム90から放出されるベータ線は、主にベータ粒子の飛程内にあるより放射線に敏感な癌細胞を破壊する。その結果生じるジルコニウム同位体は放射性ではないため、それ以上放射線を放出しない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー範囲0.1~15keVの高速中性子が患者の身体(12)に向かって照射される中性子場を生成する電気式中性子発生器(32)と、
患者の身体(12)内の癌細胞(22)の近傍に埋め込み可能な治療線源(10)と
を含みシステムであって、
当該治療線源は、第1の面と、当該第1の面とは反対側の第2の面とを有し、当該第1の面にはイットリウム89が備えられ、当該イットリウム89は当該中性子場に曝されるとイットリウム90に変換されて当該癌細胞を破壊するベータ線を放出するものであり、当該第2の面には放射線遮蔽が備えられ、当該放射線遮蔽によって、当該治療線源(10)からのベータ線が当該第2の面から放出されるのを防ぐ
システム。
【請求項2】
前記患者の身体(12)の外部に配置される電界プレート(24)をさらに含み、当該電界プレート(24)により、前記治療線源(10)が放出するベータ線の方向またはエネルギーを操作するための第2の場を生成する、請求項1のシステム。
【請求項3】
前記第2の場は、電場、磁場、またはその組み合わせを含む、請求項2のシステム。
【請求項4】
前記電気式中性子発生器(32)と前記身体(12)との間に配置される中性子減速体装置(16)をさらに含み、当該中性子減速体装置(16)には前記中性子場の前記高速中性子のエネルギーを調節するための中性子減速材が含まれる、請求項1のシステム。
【請求項5】
前記中性子減速体材は重水素酸化物または炭素を含む、請求項4のシステム。
【請求項6】
前記放射線遮蔽は前記高速中性子の少なくとも一部を透過させる、請求項1のシステム。
【請求項7】
前記放射線遮蔽がアルミニウム、マグネシウム、またはこれらの合金より成る、請求項6のシステム。
【請求項8】
前記治療線源が第1の層と第2の層の積層構成を有するディスクまたはプレートであり、前記第1の層には前記治療線源の前記第1の面が備わり、前記第2の層には前記治療線源の前記第2の面が備わる、請求項1のシステム。
【請求項9】
前記第1の層の厚さは1mmである、請求項8のシステム。
【請求項10】
前記第1の層の厚さは1ミクロンである、請求項8のシステム。
【請求項11】
前記治療線源が針である、請求項1のシステム。
【請求項12】
前記ベータ線の最大エネルギーが2.25MeVである、請求項1のシステム。
【請求項13】
前記治療線源(10)が前記患者の身体(12)に埋め込まれている際に、前記治療線源(10)が処方された間隔で前記中性子場の発生を繰り返す、請求項1のシステム。
【請求項14】
前記電気式中性子発生器(32)は、前記治療線源(10)に前記高速中性子をさまざまな角度から照射するために前記身体(12)の外部であってその周りに配置された複数の電気式中性子発生器(32)により構成されている、請求項1のシステム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国特許法第119条(e)の下で、参照により本願に組み込まれる「SYSTEM FOR THE DIRECT PRODUCTION OF THERAPEUTIC YTTRIUM-90 FOR CANCER TREATMENT」と題する2018年2月17日出願の米国仮特許出願第62/631,737号に基づく優先権を主張する。
本発明は概して癌治療に関し、具体的には、限局性の高い癌細胞の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
人体における腫瘍のような限局性の高い癌細胞の電離放射線による治療は、かなり効果があることが証明されている。しかし、電離放射線は、人体にあてると、通常は、意図した標的部位に到達する前に正常組織を通過するため、正常組織に損傷を与える。そのため、一回の放射線照射により腫瘍が受ける損傷を減らそうとすると、複数回の治療が必要となり、潜在的に有害な生物学的影響が蓄積されるとともに、治療費用がかさむことになる。治療が不十分で、正常細胞の損傷の修復が腫瘍の成長および/または転移に追いつかない場合、患者は癌腫により死亡する可能性が高い。したがって、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えながら癌組織を攻撃する新しい治療法が望まれる。
【0003】
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、上記のニーズに応える可能性のある治療法として研究されてきたが、これまでのところ、放出される放射線の治療範囲が狭いため有効でないことがわかっている。そこで解決すべき課題は、中性子を発生させて打ち込むホウ素中性子捕捉療法の手法をいかにして上手く利用し、放出される放射線の治療範囲を拡大するかである。したがって当技術分野には、BNCTに基づき治療範囲の放射線を放出することができる装置と、かかる装置を用いて動物(例えば患者)の限局性癌細胞を効果的に治療する方法を設計し開発する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、動物の体内の限局性癌細胞の治療方法を提供することで癌の放射線治療における有害な影響を克服する。この方法は、中性子源に曝されていないとき、または所与の強さを下回る中性子照射場においては実質的に非放射性であるが、所与の強さ以上の中性子照射場では電離作用は強いが透過性が低い放射線の線源となる治療線源を、体内の癌細胞の近傍に定置するステップを含む。当該治療線源を定置するステップでは、当該治療線源物質を当該癌細胞に接するように外科的に埋め込むのが好ましい。当該治療線源には、処方された期間の間体外から所与の強さ以上の中性子場が照射形成され、この照射形成ステップが処方された間隔で繰り返される。本発明は、照射標的として働くことにより、放出される放射線のエネルギーと範囲を拡大して治療レベルの範囲を実現する治療線源の設計および運用に焦点を当てたものである。
【0005】
好ましい実施態様において、電離作用は強いが透過性の低い放射線の治療線源はイットリウム金属の薄層を含み、この層内では、イットリウム89が、中性子を吸収すると、医学的に重要なイットリウム同位体であるイットリウム90に変換され、64.1時間の比較的短い半減期で、最大エネルギー約2.25MeVのベータ線を放出する。このイットリウム金属層は水に不溶であり、身体に無毒である。
【0006】
電離作用は強いが透過性の低い放射線を出す当該治療線源は、実質的に当該癌細胞だけを照射するように構成されている。それを実現するために、当該治療線源の当該癌細胞とは反対側の面には放射線遮蔽が形成されている。当該治療線源に中性子場を照射形成するステップは、放射線源(例えばNeutristorのような電気式中性子発生器)を用いて中性子を当該治療線源に照射するステップを含むのが好ましい。そのような一実施態様は、中性子を当該治療線源にさまざまな角度から照射するために、身体の周囲に配置された複数の電気式中性子発生器を使用する。
【0007】
本願の方法はまた、当該電気式中性子発生器と当該治療線源との間に中性子減速材を使用して、当該治療線源が発生する当該電離作用は強いが透過性の低い放射線を最適化するように中性子エネルギーまたは中性子場を調節するステップを含むことができる。当該中性子減速材は、重水素酸化物(DO)、炭素(C)、または同様の減速特性を有する他の物質でよい。当該中性子減速材は、体外であって、当該電気式中性子発生器と身体との間に配置される。
【0008】
或る特定の実施態様において、当該治療線源は、当該限局性癌細胞の治療と治療の合間も(例えば或る間隔の)体内に留置される。当該治療線源は、治療の完了後に身体から取り出される。当該治療線源はミクロン単位の厚さを有する1つ以上の非常に薄いディスクまたはプレートにより構成され、当該1つ以上のディスクまたはプレートの総合表面積は当該癌細胞の周囲に定置されて中性子照射場に曝されると、当該電離作用は強いが透過性が低い放射線が当該限局性癌細胞の塊または面域全体に影響を及ぼすような十分な大きさである。
【0009】
本願の方法はまた、当該治療線源物質への中性子照射による副生物として放出されるガンマ線の強度をガンマ線スペクトロメータにより監視するステップを含むことができ、それにより当該中性子照射時の荷電粒子の生成速度を監視することができる。当該監視されたガンマ線強度および当該中性子場の中性子線強度を用いて、身体が受けた放射線量を突き止めることができる。本願の方法はまた、当該監視されたガンマ線強度および当該放射線量に基づいて当該中性子照射場の強さを制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明の詳細を、好ましい実施態様を例にとり、添付の図面を参照して以下に説明する。
【0011】
図1】或る実施態様に基づいて本発明を実施するために使用できる装置の概略図である。
【0012】
図2】或る実施態様に基づく、図1の治療線源10の細部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、被験者、ヒト、人間または患者(これらの用語は本願では互換的に使用される)を含めた動物の体内で形成され成長する限局性癌細胞、例えば癌性腫瘍および/または癌組織を治療するための、治療および照射/中性子線源を含むシステムおよび方法を含む。治療線源は、患者の体内に、もっと詳しくは癌細胞のある場所またはその近傍に配置されるかまたは埋め込まれる。或る特定の実施態様において、治療線源は、癌細胞の上または癌細胞に隣接する場所に置かれる。治療線源は、厚さ約1ミクロンのディスク(1つ以上)またはプレート(1つ以上)または針(1つ以上)を有する1つ以上の装置を含む。当該1つ以上のディスクまたはプレートまたは針は、それぞれが単独でまたは協働して、限局性癌細胞の塊全体に放出する放射線の影響を確実に与えるに十分な表面積を有する。治療線源は、高エネルギーのアルファまたはベータ粒子を発生させるが、ガンマ線を発生させないかまたは低エネルギーのガンマ線を発生させる物質(例えば金属)で組成または構成されている必要がある。適切な物質は、水に溶解せず無毒である。この物質の中性子反応生成物もまた、患者に対して無毒で、半減期が非常に短いものでなければならない。
【0014】
当該単数または複数のディスクまたはプレート若しくは針は、例えば、厚さ約1mmの薄い層またはシート状のイットリウムで少なくとも実質的に組成または構成されている。天然のイットリウムは、イットリウム89同位体より成る。イットリウム89が中性子を吸収するとイットリウム90に変換されるが、このイットリウム同位体は医学的に重要で癌の放射線治療に有用である。一般的に、安定なイットリウム89を限局性癌細胞の中または上、若しくはその周囲に配置して、エネルギー範囲0.1~15keVの中性子を照射することにより、有意な量のイットリウム90を生成させ、このイットリウム90から放出されるベータ線によって、ベータ粒子の飛程内にある放射線に敏感な癌細胞を破壊することができる。イットリウム89は、中性子を吸収するとすぐに最大エネルギー約2.25MeVのベータ線を放出する。イットリウム90から放出されるこのベータ線が、主として、ベータ粒子の飛程内にあるより放射線に敏感な癌細胞を破壊する。その結果生じるジルコニウム同位体は放射性ではないため、それ以上放射線を放出しない。ベータ線が癌性腫瘍または癌組織に損傷を与えるだけでなく、低い確率で生成するガンマ線が癌細胞の破壊を支援する。
【0015】
さらに、治療線源は放射線遮蔽を含んでもよい。金属(例えばイットリウム)層と放射線遮蔽は、積層構成でよい。治療線源を定置する際に、イットリウム金属の表面が癌細胞の方に向くように、また、放射線遮蔽の表面が反対側、すなわち治療線源の癌細胞から遠い方の面になるようにする。放射線遮蔽は、中性子を実質的に透過させるが、癌細胞を取り囲む正常組織を高電離性粒子の少なくとも一部から遮蔽できる材料によって組成または構成されている。適切な材料として、アルミニウム、マグネシウムおよびこれらの合金のような軽金属や、比較的密度が低く同様の遮蔽特性を有する類似物質が挙げられる。治療用遮蔽の存在および治療線源の構成/配置は、癌細胞のみが照射され、正常細胞が照射されないようにする効果がある。
【0016】
治療線源、すなわち照射標的は、癌細胞、癌腫および癌組織内に直接または癌細胞、癌腫および癌組織に隣接して配置できるように、商業的に利用可能な作製技術を用いて多くの形状およびサイズに成形することができる。線源物質は中性子が照射されない限り放射性ではないので、線源物質を患者の体内またはその周囲に配置する際に人体が被曝することはない。
【0017】
照射中性子源はNeutristorなどの電気式中性子発生器を含み、患者の体外に配置される。一般的に、適切な照射源は、イットリウム89と相互作用してイットリウム90を生成する確率の高いエネルギーを有する中性子を生成する。電気式中性子発生器から放出された中性子は、患者の体内の治療線源に照射され、その結果、この治療線源から放出される放射線は治療範囲内の或る一定の放射能レベルにある。電子式中性子発生器システムの電源を切っても、照射は継続する。しかし、放出されるベータ線の飛程が短く、減衰半減期が64時間と短いため、照射された標的が安全なレベルに減衰するまでの間の要員の被ばくは容易に制限できる。1個または複数個の照射線源を或る期間にわたって使用し、所定の間隔で繰り返すことができる。中性子がさまざまな角度から患者に向かうように、複数の照射線源を配置してよい。治療線源、すなわち照射標的の場所に中性子エネルギーおよび線量分布が提供されるように、小型の中性子発生器をアレイ状に配置構成することができる。
【0018】
或る特定の実施態様において、この小型の電気式高速中性子発生器アレイは、サンディア国立研究所が開発し、G.Jennings、C.Sanzeni、D.R.Winn著の「Novel Compact Accelerator Based Neuron and Gamma Sources for FutureDetector Calibration」と題するSnowmass 2013年白書(フェアフィールド大学、Fairfield CT 06824)に記述された「Neutristor」の設計に類似した構成であり、治療線源物質を患者に埋め込んだ後にこの線源物質に中性子場を照射形成するために使用することができる。このアレイは、患者の身体の他の部分へ中性子を過度に照射することなく中性子反応速度を最大にするに十分な中性子線強度を治療線源位置で得るために必要な構成にするのが好ましい。
【0019】
或る特定の実施態様において、治療線源は患者の体内に埋め込まれ、放射線治療を反復して行う間体内に留置される。治療と治療の合間は、治療線源は放射線にまったく曝されていないか、または治療用レベルの放射線に曝されていないため、実質的に非放射性である。したがって、治療線源は、処方されたか所望される場合にのみ癌細胞を治療するように制御される。処方された反復回数に達したら、治療線源は患者の体内から取り出される。
【0020】
照射線源と、治療線源を埋め込んだ患者の身体との間には、組成または構成材料として、例えば重水素酸化物(DO)、炭素(C)または同様の減速特性を有する任意の類似の物質などの中性子減速材を十分な量含む中性子減速体装置を配置することができる。中性子減速体装置は、各中性子発生器と治療線源との間に配置され、標的治療線源物質との中性子反応による荷電粒子の発生にとって最適なエネルギーを有する中性子の数を最大化する目標を達成するようにそれぞれ別個に調整することができる。或る特定の実施態様では、患者からの距離と、柔軟性のある中性子減速材との組み合わせによって、選択した中性子エネルギーおよび/または線量分布を達成する。そのような中性子減速材は、例えば、水素含有量の多い物質またはさまざまな量の重水素の形状可変の塊を特別な形状のプラスチック容器に入れたものである。
【0021】
或る特定の実施態様において、中性子発生器アレイは、中性子が各発生器からさまざまな角度で癌腫に入射して、最大数の十分に熱化された中性子が標的、すなわち治療線源の場所に到達するように幾何学的に構成されている。これは、照射/中性子源アレイの幾何学的構成とともに、中性子源アレイと治療線源、すなわち照射標的との間に配置される中性子減速体に使用される材料の厚さを変えることによって達成する。最適な条件の確立に必要な計算は、当業者であれば、ロスアラモス国立研究所が提供するモンテカルロN粒子(MCNP)輸送コードなど多数のさまざまな市販の中性子輸送計算製品を用いて行うことができる。
【0022】
本発明はまた、中性子照射時の荷電粒子の生成速度を監視できるように、中性子反応によって生成される標的同位体から放出されるガンマ線の強度を測定するガンマ線スペクトロメータを含むことができる。これは、多数の市販の装置によって達成できる。
【0023】
本発明はまた、測定されたガンマ線強度および中性子発生装置の動作状態から患者に照射された放射線量を突き止め、目標線量と比較するために使用するコンピュータ制御システムを含んでよい。この制御システムは、ガンマ線強度と線量の測定値に基づいて、アレイ中の任意のまたはすべての中性子発生器により提供される中性子線の強度を増減させる能力を有する。
【0024】
図1は、患者の身体12内において癌性腫瘍または癌組織を形成する限局性癌細胞22を治療するシステムの或る特定の実施態様を示す概略図である。図1は、患者の身体12内の癌細胞22に近接して、好ましくは癌細胞22に隣接して埋め込まれた治療線源10を含む。照射/中性子源14は、患者の身体12の外に、例えば患者の身体12から間隔をおいて配置され、患者の身体12に向かって中性子30を放出する小型のことがある中性子発生器32のアレイ(例えば複数の中性子発生器32)を含む。中性子発生器32およびそこから放出される中性子30は、治療線源10、すなわち照射標的の場所に中性子エネルギーおよび線量分布を提供するように構成することができる。中性子減速体装置16は、中性子発生器32のアレイと患者の身体12との間に幾何学的に配置構成される。ガンマ線スペクトロメータ18、コンピュータ制御システム20および電界プレート24もまた、図1の患者の身体12の外に、例えば患者の身体12から間隔をおいて配置される。ガンマ線スペクトロメータ18は、中性子がイットリウム同位体と反応すると治療線源10から放出されるガンマ線の強度を測定する。コンピュータ制御システム20は、患者の身体12に照射された放射線量を突き止めて線量目標と比較し、ガンマ線強度と線量の測定値に基づいて、任意のまたはすべての中性子発生器32によって提供される中性子線の強度を増減させることができる。
【0025】
電界プレート24を設けて、放出された電子を、患者の身体12内の或る透過深度および/または好ましい照射方向に加速させることができる。ベータ線は、その電気的特性が電子に似ているため、放出されるベータ線の効果を、電場および/または磁場を印加することによってさらに制御することができる。この方法はまた、外部電場および/または磁場を例えば電界プレート24により操作して、照射標的から放出される電子の運動エネルギーおよび主要な移動方向を変化させることにより、患者に照射される線量の制御性を改善するのを可能にする。一例として、振動電場を印加することにより、放射された電子を、金または白金の電子とのガンマ光子衝突によって与えられる運動エネルギーにより規定される範囲を超えて加速させるか、あるいはその範囲内に抑制させることができる。外部磁場を印加することにより、放出された電子をエミッタ要素のより近くにまたはエミッタ要素からより離れたところに密集させることができる。
【0026】
図2は、或る実施態様に基づく、図1の治療線源10の細部を示す概略図である。図2は、第1の材料26および第2の材料28を含んでいる。第1の材料26は、少なくとも実質的に、イットリウム89同位体から成るイットリウムで構成されており、第2の材料28は、実質的にアルミニウムから成る放射線遮蔽を表す。第1の材料26の一方の側面または表面には第2の材料28が付着しており、もう一方/反対側の側面または表面は癌細胞22に対向する。第2の材料28の一方の側面または表面には第1の材料26が付着しており、もう一方/反対側の側面または表面は、中性子発生器32(図1に示す)が発生し、治療線源10と相互作用する中性子場30に対向する。
【0027】
イットリウム90ベータ線放射体標的(BERT)は、治療に多大な柔軟性を与えるように針やディスクのような多数の形状に構成することができる。
【0028】
本願に説明した癌腫の治療方法および治療システムは、所望の領域に限られた量の放射線治療用堆積物を形成する化合物を注射するのではなく、非放射性の標的を作製して腫瘍の中またはその周辺に埋め込む点で、既存の放射線治療法とは異なる。元々非放射性である物質を例えば病院の環境内で中性子によって活性化させるこのシステムの能力は、荷電粒子による癌治療の恩恵を最大化するとともに、望ましくない支出および患者と介護者の放射線被曝を最小限に抑える。本発明の方法およびシステムにより、非常に精密かつ効率的に癌細胞を破壊できる。さらに、腫瘍が完全に消滅するまで、患者の全身放射線量を増加させることなく、標的線源を体内に埋め込んだまま留置することができる。複数回の照射を比較的容易に実施できる。Neutristor型中性子発生器を使用すれば、原子炉や非常に大きな中性子源の設置場所ではなく、病院の環境内で治療を行うことが可能になる。これにより、既存の放射線治療法に比べて治療費が大幅に抑えられる(または治療による収益性が大幅に向上する)。
【0029】
本発明の特定の実施態様について詳しく説明してきたが、当業者は、本開示書全体の教示するところに照らして、これら詳述した実施態様に対する種々の変更および代替への展開が可能である。したがって、ここに開示した特定の実施態様は説明目的だけのものであり、本発明の範囲を何ら制約せず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲に記載の全範囲およびその全ての均等物を包含する。

図1
図2