(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002921
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】プロピレン系重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 293/00 20060101AFI20231228BHJP
C08F 10/06 20060101ALI20231228BHJP
C08F 4/654 20060101ALI20231228BHJP
C08F 2/01 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C08F293/00
C08F10/06
C08F4/654
C08F2/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088333
(22)【出願日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2022101618
(32)【優先日】2022-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】細井 智浩
(72)【発明者】
【氏名】西部 貴久
【テーマコード(参考)】
4J011
4J026
4J100
4J128
【Fターム(参考)】
4J011DA06
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4J011MA19
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4J128FA04
4J128FA09
4J128GA04
4J128GA05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】プロピレン系重合体の製造時にバイオマス由来の不純物を含む反応抑制剤を使用した場合においても著しい生産性の低下、塊状樹脂の発生による長期運転不安定化を起こすことなく製造する方法を提供する。
【解決手段】第1工程において、オレフィン重合用触媒存在下で、第1のプロピレン系重合体を製造し、続く第2工程において、前記第1のプロピレン系重合体の存在下で、第2のプロピレン系重合体を製造するプロピレン系重合体の製造方法において、前記第1工程、前記第2工程、及び前記第1工程と前記第2工程の間、からなる群から選択される少なくとも1つが、5~2000質量ppmの水分を含有するバイオマス由来の反応抑制剤を添加することを含む、プロピレン系重合体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1工程において1または2以上の重合反応器を用いて、オレフィン重合用触媒存在下で、第1のプロピレン系重合体として、プロピレン単独重合体、または、プロピレンとプロピレンを除く炭素数2~10のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーとの共重合体を製造し、
続く第2工程において1または2以上の重合反応器を用いて、前記第1のプロピレン系重合体の存在下で、第2のプロピレン系重合体として、プロピレン単独重合体、または、プロピレンとプロピレンを除く炭素数2~10のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーとの共重合体を製造するプロピレン系重合体の製造方法において、
前記第1工程、前記第2工程、及び前記第1工程と前記第2工程の間、からなる群から選択される少なくとも1つが、5~2000質量ppmの水分を含有するバイオマス由来の反応抑制剤を添加することを含む、プロピレン系重合体の製造方法。
【請求項2】
前記反応抑制剤が、さらに0.1~1000質量ppmのメタノールを含有する、請求項1に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項3】
前記反応抑制剤が、さらに0.1~5質量ppmの硫黄原子、および、0.1~100質量ppbの銅原子を含有する、請求項1または2に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項4】
前記反応抑制剤がバイオマス由来のエタノールである、請求項1または2に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項5】
前記オレフィン重合用触媒が、下記(A1)、(A2)、及び(A3)を含み、さらに下記(A4)を含んでいてもよい固体触媒成分(A)、及び下記成分(B)を含有する、請求項1または2に記載のプロピレン重合体の製造方法。
(A1)マグネシウム、チタン、ハロゲン、及び内部ドナーとしての電子供与性化合物を含む固体成分
(A2)有機アルミニウム化合物
(A3)ビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物
(A4)ビニルシラン化合物
(B)有機アルミニウム化合物
【請求項6】
前記第2工程において生成される第2のプロピレン系重合体が、プロピレンと、プロピレンを除く炭素数2~10のα-オレフィンからなる群から少なくとも1種のモノマーとの共重合体であり、前記プロピレンを除く炭素数2~10のα-オレフィンからなる群から少なくとも1種のモノマーの含量が20~80質量%の範囲である、請求項1または2に記載のプロピレン重合体の製造方法。
【請求項7】
前記反応抑制剤が前記固体触媒成分(A)の総量1gに対して0.01~30g添加される、請求項5に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン重合用触媒下でプロピレン単独重合、またはプロピレンとコモノマーを共重合することで得られるプロピレン系重合体は、熱可塑性樹脂の中でも軽量で剛性、耐熱性、耐薬品性に優れ低コストである。そのため、プロピレン系重合体は、自動車の内装材やバンパーなどの部材、多くの一般家電製品に広く使用されている。
こうしたプロピレン系重合体の製造においては、複数の重合反応器を利用し、各々の重合反応器で分子量やコモノマー含量が異なるポリマーを重合することにより、プロピレン系重合体に広い組成分布を持たせ、最終製品の機能を改良することが行われている。例えば、前段の重合反応器で低分子量のポリマーを重合した後に、後段の重合反応器で高分子量のポリマーを重合することで分子量分布を広げて成形性を改良する方法が実施されている。また、前段の重合反応器で結晶性のプロピレン単独重合を行い、続く重合反応器でコモノマー含量が多い非晶性のプロピレン・エチレン共重合体を重合することで、いわゆるプロピレン系ブロック共重合体を製造し、それによってプロピレン系重合体の剛性と耐衝撃性のバランスを改良する方法が実施されている。
【0003】
こうしたプロピレン系重合体については、各重合反応器で製造されるポリマーの含有割合が最終製品の物性に強く影響を与える。そのため、その製造工程においてオレフィン重合用触媒を失活させる機能を持った反応抑制剤を添加する手法が知られている。例えば、特許文献1や特許文献2にはこの反応抑制剤として、各プロピレン系重合体の含有率のコントロールのみでなく付着やそれに伴う凝集塊状ポリマーの生成、ゲルなどの品質低下を抑制する観点から、アルコール等の活性水素化合物を使用することが開示されている。
【0004】
一方で、近年、石油化学由来の原料をバイオマス由来の原料に切り替えることで環境負荷の低減や循環型社会を形成しようとする試みが進められている。例えば、特許文献3には、バイオマス由来のエチレングリコールと化石燃料由来のジカルボン酸とを用いて得られたポリエステルを含む樹脂フィルムを基材層とした包装用フィルム等が提案されている。また、特許文献4にはバイオマス原料から最終的にプロピレンを生産し、該プロピレンを利用したバイオポリプロピレンを製造するプロセスの開発について報告されている。
また、非特許文献1には、バイオマス原料からポリプロピレンの製造を実施する際に重合活性を阻害する可能性のある不純物の除去に関しての研究が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-69821号公報
【特許文献2】特開2001-261720号公報
【特許文献3】特開2021-91228号公報
【特許文献4】国際公開第2007/055361号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“バイオエタノール中の硫黄系不純物除去を目的とした金属担持多孔質カーボンの液相吸着特性”,化学工学会 研究発表講演要旨集,2009,p.216
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、プロピレン系重合体は優れた特性を持つことから産業用シートや自動車用部材などとして広く利用される。その一方で、プロピレン系重合体は、環境保護の観点からその製造工程において使用される化石資源由来の原料の使用量を可能な限り削減することが望まれている。
しかしながら、バイオマス原料由来の化合物は不純物や夾雑物を含むことから、使用に際して最終製品の品質低下や長期連続製造の阻害が発生する懸念があった。
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点等に鑑み、プロピレン系重合体の製造時に不純物を含むバイオマス由来の反応抑制剤を使用した場合においても著しい生産性の低下、塊状樹脂の発生による長期運転不安定化を起こすことなく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、バイオマス原料を由来とする反応抑制剤に含まれている不純物が一定の範囲内に収まる場合は、触媒活性の低下や塊状樹脂の発生、色味、臭気の変化といった問題を起こすことなくポリプロピレン重合に使用可能なことを見出し、これらの知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の[1]~[7]のプロピレン系重合体の製造方法に関する。
[1] 第1工程において1または2以上の重合反応器を用いて、オレフィン重合用触媒存在下で、第1のプロピレン系重合体として、プロピレン単独重合体、または、プロピレンとプロピレンを除く炭素数2~10のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーとの共重合体を製造し、
続く第2工程において1または2以上の重合反応器を用いて、前記第1のプロピレン系重合体の存在下で、第2のプロピレン系重合体として、プロピレン単独重合体、または、プロピレンとプロピレンを除く炭素数2~10のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーとの共重合体を製造するプロピレン系重合体の製造方法において、
前記第1工程、前記第2工程、及び前記第1工程と前記第2工程の間、からなる群から選択される少なくとも1つが、5~2000質量ppmの水分を含有するバイオマス由来の反応抑制剤を添加することを含む、プロピレン系重合体の製造方法。
[2]前記反応抑制剤が、さらに0.1~1000質量ppmのメタノールを含有する、前記[1]に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
[3]前記反応抑制剤が、さらに0.1~5質量ppmの硫黄原子、および、0.1~100質量ppbの銅原子を含有する、前記[1]または[2]に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
[4]前記反応抑制剤がバイオマス由来のエタノールである、前記[1]~[3]のいずれかに記載のプロピレン系重合体の製造方法。
[5]前記オレフィン重合用触媒が、下記(A1)、(A2)、及び(A3)を含み、さらに下記(A4)を含んでいてもよい固体触媒成分(A)、及び下記成分(B)を含有する、前記[1]~[4]のいずれかに記載のプロピレン重合体の製造方法。
(A1)マグネシウム、チタン、ハロゲン、及び内部ドナーとしての電子供与性化合物を含む固体成分
(A2)有機アルミニウム化合物
(A3)ビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物
(A4)ビニルシラン化合物
(B)有機アルミニウム化合物
[6]前記第2工程において生成される第2のプロピレン系重合体が、プロピレンと、プロピレンを除く炭素数2~10のα-オレフィンからなる群から少なくとも1種のモノマーとの共重合体であり、前記プロピレンを除く炭素数2~10のα-オレフィンからなる群から少なくとも1種のモノマーの含量が20~80質量%の範囲である、前記[1]~[5]のいずれかに記載のプロピレン重合体の製造方法。
[7]前記反応抑制剤が前記固体触媒成分(A)の総量1gに対して0.01~30g添加される、前記[5]または[6]に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プロピレン系重合体の連続多段製造法において、バイオマス原料を由来とする反応抑制剤を使用した場合においても、触媒重合活性の過度な低下や、塊状樹脂の発生による連続生産の不安定化を起こすことなく製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のプロピレン系重合体の製造方法は、
第1工程において1または2以上の重合反応器を用いて、オレフィン重合用触媒存在下で、第1のプロピレン系重合体として、プロピレン単独重合体、または、プロピレンとプロピレンを除く炭素数2~10のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーとの共重合体を製造し、
続く第2工程において1または2以上の重合反応器を用いて、前記第1のプロピレン系重合体の存在下で、第2のプロピレン系重合体として、プロピレン単独重合体、または、プロピレンとプロピレンを除く炭素数2~10のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーとの共重合体を製造するプロピレン系重合体の製造方法において、
前記第1工程、前記第2工程、及び前記第1工程と前記第2工程の間、からなる群から選択される少なくとも1つが、5~2000質量ppmの水分を含有するバイオマス由来の反応抑制剤を添加することを含む。
本発明においては、前記第1工程、前記第2工程、及び前記第1工程と前記第2工程の間、からなる群から選択される少なくとも1つにおいて、5~2000質量ppmの水分を含有するバイオマス由来の反応抑制剤を添加する。これにより、過剰な重合触媒活性低下を抑制しつつ、かつ、塊状樹脂の発生による長期運転不安定化を起こすことなく、所望のプロピレン系重合体を、環境負荷を低減させながら製造可能となる。不純物を特定の濃度以内で含むバイオマス原料を由来とする反応抑制剤を、化石資源由来の反応抑制剤の代替物質として使用することにより、環境負荷を低減させながら所望のプロピレン系重合体を製造可能である。
【0013】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例であり、本発明は、その要旨を超えない限り以下の記載内容に限定されるものではない。
なお、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0014】
I.プロピレン系重合体の製造方法
1.重合工程
本発明の製造方法では、第1工程において1または2以上の重合反応器を用いて、後述するオレフィン重合用触媒の存在下で、第1のプロピレン系重合体を重合し、続く第2工程において1または2以上の重合反応器を用いて、前記第1のプロピレン系重合体の存在下で、第2のプロピレン系重合体を重合する方法において、少なくとも不純物として5~2000質量ppmの水分を含有するバイオマス由来の反応抑制剤を、前記第1工程、前記第2工程、及び前記第1工程と前記第2工程の間、からなる群から選択される少なくとも1つに添加する。
【0015】
本発明の製造方法の重合様式は、オレフィン重合用触媒とモノマーが効率良く接触すれば、一般に知られるバルク重合、気相重合、溶液重合、スラリー重合などの、いかなる方法を用いる事が出来る。触媒当たりの生産効率を良好にするように、実質的に液体溶媒を用いず各モノマーをガス状に保つ気相重合法が経済性の観点で最も好適である。重合方式は、連続式、回分式が適用される。
重合反応器の数は、第1工程、第2工程ともに1つでも2以上の複数でも良い。第1工程が1または2以上の気相重合反応器で行われ、第2工程が1または2以上の気相重合反応器で行われる。重合反応器が複数の場合には、直列に繋いでも良く、並列に繋いでも良い。
気相重合反応器としては、流動床反応器、内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応器等が挙げられる。
【0016】
第1工程または第2工程で重合に供されるモノマーとしては、プロピレン単独重合体を製造する場合には、プロピレンモノマー単独を使用する。
プロピレンとプロピレンを除く炭素数2~10のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーとの共重合体を製造する場合には、エチレン及び炭素数が4~10のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のコモノマーをプロピレンに含ませた仕様のモノマー混合物をモノマーとして第1工程または第2工程の原料として使用する。炭素数が4~10のα-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン等が挙げられる。
【0017】
重合温度は、好ましくは0~90℃であり、より好ましくは30~85℃であり、さらに好ましくは45~80℃である。重合圧力は好ましくは0.1~5MPaG、より好ましくは0.5~4MPaGである。
一般的に、より高い温度、より高い圧力を選択することで、触媒1gあたりの生産性を高めることが可能であるが、その反面、局所的な発熱を除去できなくなり、成長粒子の崩壊による微粉の発生や、融着により凝集物や塊を生成してしまう。そのため、触媒1gあたりの生産性と局所的発熱の除去のバランスを考慮し、上記の温度範囲、圧力範囲とする。
【0018】
滞留時間は、重合反応器の構成に合わせて任意に調整することができ、一般的には、30分~10時間の範囲内で設定される。好ましい滞留時間は4時間以内であり、さらに好ましくは3時間以内である。一般的により長い滞留時間を選択することで、触媒1gあたりの生産性を高めることが可能であるが、滞留時間が過大な場合は、滞留時間の増加に対する触媒1gあたりの生産性の増加割合が低下する。そのため、触媒1gあたりの生産性を考慮し、上記の滞留時間範囲とする。
本発明のプロピレン系重合体の製造方法においては、第1工程で、後述するオレフィン重合用触媒1gあたり10000g以上の第1のプロピレン系重合体を製造することが、生産性の点から好ましい。
【0019】
2.バイオマス由来の反応抑制剤
本発明におけるバイオマス由来の反応抑制剤としては、アルコール化合物、及びエチレングリコール含有化合物の少なくとも1種を用いることができる。反応抑制剤は、バイオマス原料から出発して合成可能なもの、とりわけ植物由来原料から出発して合成可能なものであることが、環境負荷低減の観点から好ましい。植物はその成長過程において光合成により二酸化炭素を吸収、消費するためである。バイオマス由来の反応抑制剤の中でも、植物から製造されるバイオエチレンを出発原料として合成可能な、アルコール化合物、またはエチレングリコール含有化合物がより好ましい。
また、人体に対する安全性が比較的高く、製造時のハンドリングが容易な観点から、アルコール化合物が最も好適である。
【0020】
本発明において、反応抑制剤がバイオマス由来であることの判定は、一般的に知られている14C、18Oなどの同位体を利用するバイオベース度測定手法(ASTM D6866、炭素同位体14C比率測定法など)により行うことができる。かかる同位体が存在するときバイオマス由来と判定することができる。例えば、バイオマス由来エタノールと石油化学由来エタノールの判別には、水素同位体であるD、または、酸素同位体である18Oの含有率を、同位体比質量分析(IRMS)などを利用して測定する手法を適用できる。
【0021】
2-1.バイオマス由来のアルコール化合物
本発明の反応抑制剤に用いられるバイオマス由来のアルコール化合物は、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
[一般式(1)]
HO‐R1
(一般式(1)中、R1は炭素数2~10の飽和炭化水素基を表す。)
前記一般式(1)で表されるアルコール化合物において、乾燥除去の点から、R1は、炭素数2~10の飽和炭化水素基が好ましいものとして選択され得る。R1は、より好ましくは炭素数2~8の飽和炭化水素基であり、さらに好ましくは炭素数2~3の飽和炭化水素基である。
R1の炭素数が10を超過する場合、乾燥除去が困難になり最終製品において臭気などの問題を発生させる可能性が高まる。
最も好適なバイオマス由来のアルコール化合物は、バイオマス原料由来での製造が広く行われている炭素数2のエタノール(バイオエタノール)である。
【0022】
2-2.バイオマス由来のエチレングリコール含有化合物
本発明の反応抑制剤に用いられるバイオマス由来のエチレングリコール含有化合物は、下記一般式(2)、または下記一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0023】
[一般式(2)]
HO-[CH2-CH2-O]p-R2
(一般式(2)中、pは整数であり1≦p≦10を満たす。R2は水素原子または炭素数1~25の炭化水素基を表す。)
ポリオキシエチレン骨格は親水性が高いため、pを大きくすると有機溶剤への溶解性が低下や常温で固体化してしまうなど、製造時の取り扱い上に制限が発生するおそれがある。そのため、1≦p≦10が好ましいものとして選択され得る。
具体的な化合物の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリオキシエチレン(3)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(5)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(3)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(4)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(5)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(4)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(6)オレイルエーテルなどが挙げられる。なお、括弧内の数値はポリオキシアルキレンの重合度を表す。
【0024】
[一般式(3)]
HO-[CH2-CH(R3)-O]l-[CH2-CH(R4)-O]m-[CH2-CH(R5)-]n‐H
(一般式(3)中、l、m、nは整数であり0≦l≦70、0≦m≦70、0≦n≦70、及び2≦l+m+nの関係式を全て満たす。R3、R4、及びR5はそれぞれ独立に、水素原子または炭素数1~5の炭化水素基を表す。R3、R4、及びR5の少なくとも一つは水素原子が選択され、炭化水素基が複数選択される場合は各々同一でも異なっていても良い。)
【0025】
R3、R4、及びR5がそれぞれ独立に水素原子である場合、すなわちポリオキシエチレンである場合、ポリオキシエチレン骨格は親水性が高く、結晶性を有するため、その存在率を大きくすると有機溶剤への溶解性低下や常温で固化など、製造時の取り扱い上に制限が発生する恐れがある。そのためポリオキシエチレンの重合度、すなわちl、m、nの上限数値は70が好ましいものとして選択され得る。
R3、R4、及びR5がそれぞれ独立に炭化水素基である場合、炭素の数に従い分子量が増加して粘度の増加、溶媒への親和性が低下し取り扱い上制限が発生する恐れがある。
そのため、炭素数の上限は5が好ましいものとして選択され得る。R3、R4、及びR5がそれぞれ独立に炭化水素基である場合、最も好ましくは炭素数1のプロピレンオキサイドである。
こうした化合物の例としては、ポリオキシエチレン(1)ポリオキシプロピレン(16)ポリオキシエチレン(1)、ポリオキシエチレン(2)ポリオキシプロピレン(16)ポリオキシエチレン(2)、ポリオキシエチレン(2)ポリオキシプロピレン(30)ポリオキシエチレン(2)、ポリオキシエチレン(6)ポリオキシプロピレン(35)ポリオキシエチレン(6)、ポリオキシエチレン(5)ポリオキシプロピレン(69)ポリオキシエチレン(5)、ポリオキシエチレン(3)ポリオキシプロピレン(2)ポリオキシエチレン(3)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(3)ポリオキシプロピレン(3)ラウリルエーテル、ポリオキシプロピレン(26)ポリオキシエチレン(6)、ポリオキシプロピレン(26)、ポリオキシプロピレン(26)ポリオキシエチレン(7)、ポリオキシプロピレン(26)、ポリオキシプロピレン(22)ポリオキシエチレン(6)、ポリオキシプロピレン(22)、ポリオキシプロピレン(12)ポリオキシエチレン(14)、ポリオキシプロピレン(12)などが挙げられる。なお、括弧内の数値はポリオキシアルキレンの重合度を表す。
本発明のバイオマス由来の反応抑制剤に用いられるエチレングリコール含有化合物は、単一の成分であっても複数の成分が混在していても良い。
【0026】
また、本発明のバイオマス由来の反応抑制剤は、1種または2種以上混合して用いてもよく、アルコール化合物とエチレングリコール含有化合物との混合物であってもよい。
【0027】
3.バイオマス由来の反応抑制剤中の不純物
本発明におけるバイオマス由来の反応抑制剤に含まれる不純物としては、水、メタノール、硫黄化合物、銅化合物などが挙げられる。
例えば、バイオエタノール等、生物資源から発酵させて製造されるアルコールの場合、不純物としては、水、メタノール、ジメチルスルフィド等の硫黄化合物、さらに製造プロセス上混合し得る酢酸銅等の銅化合物などが挙げられる。
【0028】
バイオマス由来の反応抑制剤中の水分の含有量としては、5~2000質量ppmの範囲が好適であり、下限値としては20質量ppm以上であってよく、100質量ppm超過であってよく、200質量ppm以上であってもよく、500質量ppm以上であってもよく、上限値としては1800質量ppm以下であってもよく、1700質量ppm以下であってもよい。
なお、反応抑制剤が2種以上混合して用いられる場合、反応抑制剤中の合計の水分含有量を5~2000質量ppmの範囲等、前記範囲とする。
水分がこの範囲より多く含有される場合、水分が製造装置内に堆積して機器の故障を誘発するなどの製造上の問題が発生する。
水分がこの範囲より少なく含有される場合は、その精製度に応じて不純物除去の為のエネルギーを使用している事になるため、例えバイオマス原料由来であっても環境負荷上の優位点は小さくなってしまう。
【0029】
バイオマス由来の反応抑制剤中の不純物としてのメタノールの含有量は、0.1~1000質量ppmの範囲にすることが、プロピレン系重合体製造工程でのハンドリング時における人体への安全性、及び、最終製品への残存量低減による臭気抑制と製品の安全性向上の観点から好ましい。バイオマス由来の反応抑制剤中の不純物としてのメタノールの含有量は、下限値が30質量ppm以上であってよく、100質量ppm以上であってよく、200質量ppm超過であってよく、300質量ppm以上であってよく、上限値が700質量ppm以下であってよく、500質量ppm以下であってもよい。
【0030】
バイオマス由来の反応抑制剤中の不純物としての硫黄原子の含有量は、0.1~5質量ppmの範囲にすることが、製品の臭気や色味といった品質変化を抑制する点から好ましい。
バイオマス由来の反応抑制剤中の不純物としての硫黄原子の含有量は、下限値が0.2質量ppm以上であってよく、0.3質量ppm以上であってよく、上限値が4質量ppm以下であってよく、3質量ppm以下であってよい。
硫黄原子がこの範囲より少なく含有される場合は、その精製度に応じて不純物除去の為のエネルギーを必要とするため、例えバイオマス原料由来であっても環境負荷上の優位点は小さくなる。
【0031】
バイオマス由来の反応抑制剤中の不純物としての銅原子の含有量は、0.1~100質量ppbの範囲にすることが、製品中の予期せぬ副生成物が混入することで品質を損なう可能性を抑制する点から好ましい。銅イオンを活性点とする酸化反応が副反応として起こり得るからである。
バイオマス由来の反応抑制剤中の不純物としての銅原子の含有量は、下限値が1質量ppm以上であってよく、10質量ppm以上であってよく、上限値が70質量ppm以下であってよく、60質量ppm以下であってよい。
銅原子がこの範囲より少なく含有される場合は、その精製度に応じて不純物除去の為のエネルギーを必要とするため、例えバイオマス原料由来であっても環境負荷上の優位点は小さくなる。
【0032】
また、本発明に用いられるバイオマス由来の反応抑制剤は、JIS P 3801で規定される5種Cのろ紙で濾過した際に、その上部に何も残らないものが好ましい。
本発明に用いられるバイオマス由来の反応抑制剤は、市販品のバイオマス由来のアルコール化合物、及びエチレングリコール含有化合物の少なくとも1種を適宜選択して用いることができる。
市販品のバイオマス由来のアルコール化合物、及びエチレングリコール含有化合物の少なくとも1種が、本発明で特定した不純物の含有量を超える場合に、不純物が含有量以内になるように精製して用いてもよい。水分の含有量が2000質量ppmを超えるバイオマス由来の反応抑制剤を、例えばモレキュラ―シーブ3Aまたはモレキュラーシーブ4A(例えば、株式会社レゾナックより入手可能)を充填したカラムに通すことにより、水分の含有量を5~2000質量ppmの範囲内に低下させた後、本発明に用いられるバイオマス由来の反応抑制剤として用いてもよい。
【0033】
4.反応抑制剤の供給
前記反応抑制剤を前記第1工程、前記第2工程、及び前記第1工程と前記第2工程の間、からなる群から選択される少なくとも1つにおいて、供給する。著しい触媒活性の低下を抑える観点からは、少なくとも前記第1工程と前記第2工程の間に供給することが好ましい。
前記反応抑制剤を前記第1工程、前記第2工程、及び前記第1工程と前記第2工程の間、からなる群から選択される少なくとも1つにおいて供給する方法としては、下記のいずれかの供給方法が好ましい。
(4-1)前記反応抑制剤として1種類の化合物のみを使用し、単独で重合反応器へ供給する方法。
(4-2)前記反応抑制剤として2種類以上の複数の化合物を使用し、各々の化合物を異なる供給ラインから重合反応器へ別々に供給する方法。
(4-3)前記反応抑制剤として複数の化合物を使用し、アルコール化合物とポリエチレングリコール含有化合物は予め混合し、混合反応抑制剤として供給ラインを通じて重合反応器へ供給し、任意に酸素を別の供給ラインから重合反応器へ供給する方法。
(4-4)前記反応抑制剤として複数の化合物を使用し、アルコール化合物とポリエチレングリコール含有化合物を別々の供給ラインから供給して供給ライン中で混合して重合反応器へフィードし、任意に酸素を別の供給ラインから重合反応器へ供給する方法。
これらの中でも、エチレングリコール含有化合物は一般に粘度が高いため、単独で供給する場合には配管中の圧力損失により多くのエネルギーを必要とする経済的に不利である。従って、エチレングリコール含有化合物を用いる場合には、(4-3)または(4-4)の方法が好適である。
エチレングリコール含有化合物を反応抑制剤として使用しない場合においてはこの限りではなく、それぞれの供給量を単独で制御できる(4-2)か、または(4-1)が好適な方法である。
反応抑制剤を供給する重合反応器の位置は、気相重合反応器が混合槽型反応器では任意であり、プラグフロー型反応器では上流側であることが好ましい。
【0034】
反応抑制剤は、各重合工程での生産割合が所望する数値になるよう任意の数量を供給することができるが、第1工程に供給される場合においては、供給される反応抑制剤の総量が後述する固体触媒成分(A)1gあたり0.01~10gの範囲になるよう供給されることが好ましい。より好ましくは0.5g以上であり、更に好ましくは1g以上であり、最も好ましくは3g以上であり、8g以下であってもよく、5g以下であっても良い。
一方で反応抑制剤が第2工程へ供給される場合は、同様に各重合工程での生産割合が所望する数値になるよう任意の数量を供給することができるが、反応抑制剤の総量が第1工程に供給される固体触媒成分(A)中のチタンに対して、10~90000質量%の範囲になるように供給されることが好ましく、2000~85000質量%の範囲になるように供給されることが好ましい。
また、反応抑制剤が前記第1工程と前記第2工程の間に供給される場合は、同様に各重合工程での生産割合が所望する数値になるよう任意の数量を供給することができるが、反応抑制剤の総量が第1工程に供給される固体触媒成分(A)中のチタンに対して、10~90000質量%の範囲になるように供給されることが好ましく、2000~85000質量%の範囲になるように供給されることが好ましい。
また、反応抑制剤の総量が、後述する固体触媒成分(A)の総量1gに対して0.01~30gの範囲になるよう添加されることが好ましい。反応抑制剤の総量は、後述する固体触媒成分(A)の総量1gに対して、より好ましくは0.5g以上であり、更に好ましくは1g以上であり、最も好ましくは3g以上であり、20g以下であってもよく、10g以下であっても良い。なお、ここでの固体触媒成分(A)の総量1gには、後述する予備重合ポリマーは含まれない。
反応抑制剤の総量が、上記割合を満たすことによりプロピレン系重合体粒子表面を適度に失活させることができる。それによって、コモノマー含量が高い成分を製造した際に広く発生する粒子のべたつきを抑制することが可能であり、粒子のべたつきを原因とする塊状ポリマーの発生抑制や反応器壁面への付着による汚染することを防ぐことができるメリットがある。
なお、本発明は、バイオマス由来の反応抑制剤以外の反応抑制剤を用いることを妨げるものではなく、本発明の効果を著しく妨げない限り、バイオマス由来の反応抑制剤以外の反応抑制剤を更に含んでもよい。バイオマス由来の反応抑制剤以外の反応抑制剤としては、石油化学由来の反応抑制剤が挙げられる。但し本発明の効果を向上させる点から、本発明において用いられる反応抑制剤の総量に対して、バイオマス由来の反応抑制剤は50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0035】
II.オレフィン重合用触媒
本発明で用いるオレフィン重合用触媒は、成分(A):マグネシウム、チタン、ハロゲン及び内部ドナーとしての電子供与性化合物を含む固体触媒成分、及び成分(B):有機アルミニウム化合物を構成成分とする、いわゆるチーグラー触媒を用いることが好ましい。
中でも、前記オレフィン重合用触媒が、下記(A1)、(A2)、及び(A3)を含み、さらに下記(A4)を含んでいてもよい固体触媒成分(A)、及び下記成分(B)を含有することが、前記反応抑制剤による著しい触媒活性低下を抑制する点から好ましい。
(A1)マグネシウム、チタン、ハロゲン、及び内部ドナーとしての電子供与性化合物を含む固体成分
(A2)有機アルミニウム化合物
(A3)ビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物
(A4)ビニルシラン化合物
(B)有機アルミニウム化合物
【0036】
1.成分(A):固体触媒成分
マグネシウム、チタン、ハロゲン及び内部ドナーとしての電子供与性化合物を含む固体触媒成分は、公知のものを用いることができる。固体触媒成分は、上記の4成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で任意の成分を任意の形態で含んでいてもよい。
【0037】
(A1a:マグネシウム源)
固体触媒成分のマグネシウム源としては、任意のマグネシウム化合物を用いることができる。マグネシウム化合物の代表的な例としては、特開平3-234707号公報に開示されている化合物を挙げることができる。
一般的には、塩化マグネシウムに代表されるハロゲン化マグネシウム化合物類、ジエトキシマグネシウムに代表されるアルコキシマグネシウム化合物類、金属マグネシウム、酸化マグネシウムに代表されるオキシマグネシウム化合物類、水酸化マグネシウムに代表されるヒドロキシマグネシウム化合物類、ブチルマグネシウムクロライドに代表されるグリニャール化合物類、ブチルエチルマグネシウムに代表される有機マグネシウム化合物類、炭酸マグネシウムやステアリン酸マグネシウムに代表される無機酸及び有機酸のマグネシウム塩化合物類、及びそれらの混合物や平均組成式がそれらの混合された式となる化合物(例えば、Mg(OEt)mCl2-m;0<m<2などの化合物)、などを用いることができる。
これらの中で好ましいのは、塩化マグネシウム、ジエトキシマグネシウム、金属マグネシウム、ブチルマグネシウムクロライドである。
【0038】
(A1b:チタン源)
固体触媒成分のチタン源としては、任意のチタン化合物を用いることができる。
チタン化合物の代表的な例としては、特開平3-234707号公報に開示されている化合物を挙げることができる。チタンの価数に関しては、4価、3価、2価、0価の任意の価数を持つチタン化合物を用いることができるが、好ましくは4価および3価のチタン化合物、更に好ましくは4価のチタン化合物を用いることが好ましい。
4価のチタン化合物の具体例としては、四塩化チタンに代表されるハロゲン化チタン化合物類、テトラブトキシチタンに代表されるアルコキシチタン化合物類、テトラブトキシチタンダイマー(BuO)3Ti-O-Ti(OBu)3に代表されるTi-O-Ti結合を有するアルコキシチタンの縮合化合物類、ジシクロペンタジエニルチタニウムジクロライドに代表される有機金属チタン化合物類、などを挙げることができる。この中で、四塩化チタンとテトラブトキシチタンが特に好ましい。
3価のチタン化合物の具体例としては、三塩化チタンに代表されるハロゲン化チタン化合物類を挙げることができる。三塩化チタンは、水素還元型、金属アルミニウム還元型、金属チタン還元型、有機アルミニウム還元型など、公知の任意の方法で製造された化合物を用いることができる。
上記のチタン化合物類は単独で用いるだけではなく、複数の化合物を併用することも可能である。また、上記チタン化合物類の混合物や平均組成式がそれらの混合された式となる化合物(例えば、Ti(OBu)mCl4-m;0<m<4などの化合物)、また、フタル酸エステル等のその他の化合物との錯化物(例えば、Ph(CO2Bu)2・TiCl4などの化合物)、などを用いることができる。
【0039】
(A1c:ハロゲン)
固体触媒成分中のハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素またはこれらの混合物であってもよく、特に塩素が好ましい。
固体触媒成分のハロゲン源としては、上述のマグネシウムのハロゲン化合物、チタンのハロゲン化合物等を用いるのが普通であるが、他のハロゲン源、例えばAlCl3、AlBr3、AlI3等のアルミニウムのハロゲン化物、BCl3、BBr3、BI3等のホウ素のハロゲン化物、SiCl4等のケイ素のハロゲン化物、PCl3、PCl5等のリンのハロゲン化物、WCl6等のタングステンのハロゲン化物、MoCl5等のモリブデンのハロゲン化物といった公知のハロゲン化合物を用いることもできる。
【0040】
(A1d:内部ドナーとしての電子供与性化合物)
チーグラー触媒を用いた重合技術においては、一般的に、内部ドナーと外部ドナーの働きが異なると考えられている。
内部ドナーは、チタン化合物がマグネシウム化合物に担持され活性点を形成する際に同時に使用されるドナーであり、チタン原子が配位する場所を制御したり、配位するチタン原子の電子状態を変化させたりする。
一方で、外部ドナーは既にできている活性点の性質を変えるものであり、例えば、調製された固体触媒成分に対して、さらに外部ドナーを使用することで、高立体特異的な活性点に変化したり,非晶成分を生成する活性点を被毒したりすることができるため、より高立体規則性及び非晶成分の少ないプロピレン系重合体を生成することが可能である。
電子供与性化合物(内部ドナー)としては、アルコール類、フェノール類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類、有機酸または無機酸類のエステル類、エーテル類、酸アミド類、酸無水物類のような含酸素電子供与性化合物、アンモニア、アミン、ニトリル、イソシアネートのような含窒素電子供与性化合物、スルホン酸エステルのような含硫黄電子供与性化合物などを例示することができる。具体例としては、特開2010-70584号公報の段落0037に記載の化合物が挙げられる。
これらの中で好ましいのは、フタル酸ジエチル、フタル酸ジn-ブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジヘプチルに代表されるフタル酸エステル化合物類、フタロイルジクロライドに代表されるフタル酸ハライド化合物類、2-n-ブチル-マロン酸ジエチルの様な2位に一つまたは二つの置換基を有するマロン酸エステル化合物類、2-n-ブチル-コハク酸ジエチルの様な2位に一つまたは二つの置換基若しくは2位と3位にそれぞれ一つ以上の置換基を有するコハク酸エステル化合物類、2-イソプロピル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパンや2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパンの様な2位に一つまたは二つの置換基を有する1,3-ジメトキシプロパンに代表される脂肪族多価エーテル化合物類、9,9-ビス(メトキシメチル)フルオレンに代表される芳香族の遊離基を分子内に有する多価エーテル化合物類、などである。
これらの電子供与性化合物は、単独で用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0041】
本発明の固体触媒成分は、上記のマグネシウム化合物、チタン化合物、ハロゲン化合物及び内部ドナーとしての電子供与性化合物を接触させ、マグネシウム、チタン、ハロゲン、及び内部ドナーとしての電子供与性化合物を含む固体成分(A1)を形成させることにより調製することができる。
チタン化合物の使用量は、使用するマグネシウム化合物の使用量に対してモル比(チタン化合物のモル数/マグネシウム化合物のモル数)で、好ましくは0.0001~1,000の範囲内であり、特に好ましくは0.01~10の範囲内である。
マグネシウム化合物及びチタン化合物以外にハロゲン化合物を使用する場合は、その使用量はマグネシウム化合物及びチタン化合物の各々がハロゲンを含むか含まないかに関わらず、使用するマグネシウム化合物の使用量に対してモル比(ハロゲン化合物のモル数/マグネシウム化合物のモル数)で、好ましくは0.01~1,000の範囲内であり、特に好ましくは0.1~100の範囲内である。
内部ドナーとしての電子供与性化合物の使用量は、使用するマグネシウム化合物の量に対してモル比(電子供与性化合物のモル数/マグネシウム化合物のモル数)で、好ましくは0.001~10の範囲内であり、特に好ましくは0.01~5の範囲内である。
【0042】
本発明の固体触媒成分は、固体成分(A1)形成後にさらに有機アルミニウム化合物(A2)、ビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物(A3)、ビニルシラン化合物(A4)等と接触させたものであってもよい。例えば、固体成分(A1)形成後にさらに有機アルミニウム化合物(A2)及びビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物(A3)と接触させること、固体成分(A1)形成後にさらに有機アルミニウム化合物(A2)、ビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物(A3)及びビニルシラン化合物(A4)と接触させることができる。
これらの(A1)、(A2)、及び(A3)を含み、さらに下記(A4)を含んでいてもよい固体触媒成分(A)は、前記反応抑制剤による著しい触媒活性低下を抑制することができる。
【0043】
(A2:有機アルミニウム化合物)
本発明の固体触媒成分で用いる有機アルミニウム化合物(A2)としては、下記の一般式(4)で表される化合物を用いることが好ましい。
[一般式(4)]
R6
sAlXt(OR7)u
(一般式(4)中、R6は炭化水素基であり、Xはハロゲンまたは水素原子であり、R7は炭素数1~20の炭化水素基またはアルミニウムによる架橋基であり、s、t、uはそれぞれ1≦s≦3、0≦t<2、0≦u≦2、s+t+u=3である。)
【0044】
一般式(4)中、R6は炭化水素基であり、好ましくは炭素数1~10、更に好ましくは炭素数1~8、特に好ましくは炭素数1~6の炭化水素基である。R6の具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、などを挙げることができる。この中で、メチル基、エチル基、イソブチル基が最も好ましい。
式中、Xは、ハロゲンまたは水素原子である。Xとして用いることのできるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素などを例示することができる。この中で、塩素が特に好ましい。
式中、R7は、炭素数1~20の炭化水素基またはアルミニウムによる架橋基である。
R7が炭化水素基である場合には、R6の炭化水素基の例示と同じ群からR7を選択することができる。
また、有機アルミニウム化合物として、メチルアルモキサンに代表されるアルモキサン化合物類を用いることも可能であり、その場合R7は、アルミニウムによる架橋基を表す。
ここで、Alによる架橋基とは、上記一般式(4)からR7を取り除いた構造を有する残基の2つ以上を架橋するか、または、上記一般式(4)からR7を取り除いた構造を有する残基と炭化水素基を架橋するアルミニウム原子を意味する。
【0045】
有機アルミニウム化合物の具体例としては、(a)トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ-n-ヘキシルアルミニウム、トリ-n-オクチルアルミニウム、トリ-n-デシルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、(b)ジエチルアルミニウムモノクロライド、ジイソブチルアルミニウムモノクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムジクロライドなどのアルキルアルミニウムハライド、(c)ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウムハイドライド、(d)ジエチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムフェノキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシドなどが挙げられる。中でも、トリエチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムが好ましい。
有機アルミニウム化合物は単独の化合物を用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
有機アルミニウム化合物の使用量は、チタンに対するアルミニウムの原子比(アルミニウム原子のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは0.1~100の範囲内であり、特に好ましくは1~50の範囲内である。
【0046】
(A3:ビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物)
本発明の固体触媒成分で用いるビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物としては、特開2004-124090号公報に開示された化合物等を用いることができ、好ましくはアルコキシシラン化合物である。
アルコキシシラン化合物としては、下記一般式(5)で表される化合物を用いることが好ましい。
[一般式(5)]
R8R9
fSi(OR10)g
(R8は、炭化水素基またはヘテロ原子含有炭化水素基を表す。R9は、水素原子、ハロゲン、炭化水素基またはヘテロ原子含有炭化水素基を表す。R10は、炭化水素基を表す。
f,gは0≦f≦2,1≦g≦3,f+g=3を満たす数値である。)
【0047】
一般式(5)において、R8は、炭化水素基またはヘテロ原子含有炭化水素基を表す。
R8が炭化水素基である場合は、一般に炭素数1~20、好ましくは炭素数3~10のものである。具体的な例としては、n-プロピル基に代表される直鎖状脂肪族炭化水素基、i-プロピル基やt-ブチル基に代表される分岐状脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基やシクロヘキシル基に代表される脂環式炭化水素基、フェニル基に代表される芳香族炭化水素基、などを挙げることができる。より好ましくは、R8として分岐状脂肪族炭化水素基または脂環式炭化水素基を用いることが好ましく、とりわけ、i-プロピル基、i-ブチル基、t-ブチル基、テキシル基(1,1,2-トリメチルプロピル基)、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、などを用いることが好ましい。
R8がヘテロ原子含有炭化水素基である場合は、ヘテロ原子が、窒素、酸素、硫黄、リン、ケイ素から選ばれることが好ましく、とりわけ、窒素または酸素であることが好ましい。R8のヘテロ原子含有炭化水素基の骨格構造としては、R8が炭化水素基である場合の例示から選ぶことが好ましい。とりわけ、N,N-ジエチルアミノ基、キノリノ基、イソキノリノ基、などが好ましい。
R8がヘテロ原子含有炭化水素基である場合、当該ヘテロ原子含有炭化水素基は、ヘテロ原子含有炭化水素基を構成している炭素原子及びヘテロ原子のいずれの原子を介してSiと結合していても良い。
【0048】
一般式(5)において、R9は、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基またはヘテロ原子含有炭化水素基を表す。R9として用いることのできるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、沃素、などを例示することができる。
R9が炭化水素基である場合は、一般に炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のものである。具体的な例としては、メチル基やエチル基に代表される直鎖状脂肪族炭化水素基、i-プロピル基やt-ブチル基に代表される分岐状脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基やシクロヘキシル基に代表される脂環式炭化水素基、フェニル基に代表される芳香族炭化水素基、などを挙げることができる。中でも、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、テキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、などを用いることが好ましい。
R9がヘテロ原子含有炭化水素基である場合は、R8がヘテロ原子含有炭化水素基である場合の例示から選ぶことが好ましい。とりわけ、N,N-ジエチルアミノ基、キノリノ基、イソキノリノ基、などが好ましい。
R9がヘテロ原子含有炭化水素基である場合、当該ヘテロ原子含有炭化水素基は、ヘテロ原子含有炭化水素基を構成している炭素原子及びヘテロ原子のいずれの原子を介してSiと結合していても良い。
fの値が2の場合、二つあるR9は、同一であっても異なっても良い。また、fの値に関わらず、R9は、R8と同一であっても異なってもよい。
【0049】
一般式(5)において、R10は炭化水素基を表す。R10は、一般に炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10、更に好ましくは炭素数1~5のものである。R10の具体的な例としては、メチル基やエチル基に代表される直鎖状脂肪族炭化水素基、i-プロピル基やt-ブチル基に代表される分岐状脂肪族炭化水素基、などを挙げることができる。
中でも、メチル基とエチル基が好ましい。gの値が2以上である場合、複数存在するR10は、同一であっても異なってもよい。
【0050】
本発明で用いることのできるビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物、中でもアルコキシシラン化合物の好ましい例としては、t-Bu(Me)Si(OMe)2、t-Bu(Me)Si(OEt)2、t-Bu(Et)Si(OMe)2、t-Bu(n-Pr)Si(OMe)2、c-Hex(Me)Si(OMe)2、c-Hex(Et)Si(OMe)2、c-Pen2Si(OMe)2、i-Pr2Si(OMe)2、i-Bu2Si(OMe)2、i-Pr(i-Bu)Si(OMe)2、n-Pr(Me)Si(OMe)2、t-BuSi(OEt)3、(Et2N)2Si(OMe)2、Et2N-Si(OEt)3、(Et2N)2(c-Pen)Si(OMe)などを挙げることができる。
ここで、Meはメチル、Etはエチル、t-Buはt-ブチル、n-Prはn-プロピル、i-Prはイソプロピル、c-Hexはシクロヘキシル、c-Penはシクロペンチルを表す。
ビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物は、単独で用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0051】
ビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物の使用量は、本発明の効果を損なわない範囲で任意のものでありうるが、チタンに対する有機ケイ素化合物のモル比(有機ケイ素化合物のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは0.01~1,000の範囲内であり、より好ましくは0.1~100の範囲内である。
本発明で用いられる有機ケイ素化合物は、活性中心となり得るチタン原子の近傍、例えばマグネシウム担体上のルイス酸点等、に配位し、触媒活性やポリマーの規則性といった触媒性能を制御していると考えられている。ただし、係る作用機構は本発明の技術的範囲を制限するものではない。
【0052】
(A4:ビニルシラン化合物)
本発明の固体触媒成分で用いるビニルシラン化合物としては、モノシラン(SiH4)の水素原子の少なくとも一つがビニル基類で置換され、残りの水素原子の一部ないし全部がその他の遊離基に置き換えられた構造を持つ化合物であり、下記一般式(6)で表される化合物を用いることが好ましい。
[一般式(6)]
[CH2=CH-]mSiXnR11
j(OR12)k
(一般式(6)中、Xはハロゲンを表す。R11は水素原子または炭化水素基を表す。R12は水素原子、炭化水素基または有機ケイ素基を表す。1≦m≦4,0≦n≦3,0≦j≦3,0≦k≦2,m+n+j+k=4である。)
【0053】
一般式(6)中、mはビニル基の数を表し、1以上4以下の値を取る。より好ましくは、mの値は1または2である事が望ましく、特に好ましくは2である。
一般式(6)中、Xはハロゲンを表し、フッ素、塩素、臭素、沃素を例示することができる。ハロゲンが複数存在する場合は、互いに同一であっても異なっても良い。この中で、塩素が特に好ましい。nはハロゲンの数を表し、0以上3以下の値を取る。より好ましくは、nの値は0以上2以下であり、特に好ましくは0である。
一般式(6)中、R11は水素原子または炭化水素基を表し、好ましくは水素原子または炭素数1~20の炭化水素基、より好ましくは水素原子または炭素数1~12の炭化水素基である。好ましいR11の例としては、水素原子、メチル基やブチル基に代表されるアルキル基、シクロヘキシル基に代表されるシクロアルキル基、フェニル基に代表されるアリール基などを挙げることができる。特に好ましいR11の例としては、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基などを挙げることができる。jはR11の数を表し、0以上3以下の値を取る。より好ましくは、jの値は1以上3以下であり、更に好ましくは2以上3以下であり、特に好ましくは2である。jが2以上である場合、複数存在するR11は互いに同一であっても異なっても良い。
一般式(6)中、R12は水素原子、炭化水素基または有機ケイ素基を表す。R12が炭化水素基である場合は、R11と同一の例示群から選択することができる。R12が有機ケイ素基である場合は、炭素数1~20の炭化水素基を有する有機ケイ素基であることが好ましい。R12として用いることのできる有機ケイ素基の具体的な例としては、トリメチルシリル基に代表されるアルキル基含有ケイ素基、ジメチルフェニルシリル基に代表されるアリール基含有ケイ素基、ジメチルビニルシリル基に代表されるビニル基含有ケイ素基、およびプロピルフェニルビニルシリル基の様なそれらを組み合わせてなるケイ素基、などを挙げることができる。
kはR12の数を表し、0以上2以下の値を取る。ビニルトリエトキシシランの様にkの値が3に相当する化合物の場合では、本発明におけるビニルシラン化合物としての性能は発現せず、本発明における(A3)のアルコキシシラン化合物としての性能を発現するため、ビニルシラン化合物として使用するのは適していない。これは、構造的に近いt-ブチルトリエトキシシランと同じ様に振る舞うためと考えられる(このt-ブチルトリエトキシシランは本発明における(A3)の有機ケイ素化合物として有効である)。より好ましくは、kの値は0以上1以下であり、特に好ましくは0である。kの値が2である場合、二つのR12は互いに同一であっても異なっても良い。また、kの値に関わらず、R11とR12は同一であっても異なっても良い。
これらのビニルシラン化合物は、単独で用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0054】
ビニルシラン化合物の好ましい化合物の例としては、CH2=CH-SiMe3、[CH2=CH-]2SiMe2、CH2=CH-Si(Cl)Me2、CH2=CH-Si(Cl)2Me、CH2=CH-SiCl3、[CH2=CH-]2Si(Cl)Me、[CH2=CH-]2SiCl2、CH2=CH-Si(Ph)Me2、CH2=CH-Si(Ph)2Me、CH2=CH-SiPh3、[CH2=CH-]2Si(Ph)Me、[CH2=CH-]2SiPh2、CH2=CH-Si(H)Me2、CH2=CH-Si(H)2Me、CH2=CH-SiH3、[CH2=CH-]2Si(H)Me、[CH2=CH-]2SiH2、CH2=CH-SiEt3、CH2=CH-SiBu3、CH2=CH-Si(Ph)(H)Me、CH2=CH-Si(Cl)(H)Me、CH2=CH-Si(Me)2(OMe)、CH2=CH-Si(Me)2(OSiMe3)、CH2CH-Si(Me)2-OSi(Me)2-CH=CH2、などを挙げることができる。これらの中でも、m=2であるジビニルシラン化合物が好ましく、ジビニルジメチルシラン([CH2=CH-]2SiMe2)が特に好ましい。
ここで、Phはフェニル基を表す。また、その他の記号、例えばMe、Et、Buなどは上記したとおりである。
【0055】
ビニルシラン化合物の使用量は、本発明の効果を損なわない範囲で任意のものでありうるが、チタンに対するビニルシラン化合物のモル比(ビニルシラン化合物のモル数/チタン原子のモル数)で、0~1000の範囲内が挙げられ、好ましくは0.001~1000の範囲内であり、特に好ましくは0.01~100の範囲内である。
本発明で用いられるビニルシラン化合物は、炭素-炭素二重結合部の電荷密度は非常に高くなっており、活性中心であるチタン原子への配位は、非常に速いと考えられる。したがって、ビニルシラン化合物には、有機アルミニウム化合物によるチタン原子の過還元や不純物などによる活性点の失活を防ぐ効果があると考えられる。ただし、係る作用機構は本発明の技術的範囲を制限するものではない。
【0056】
(固体触媒成分の調製方法)
本発明に用いられる固体触媒成分は、固体触媒成分を構成する上記各成分を接触させ、固体成分を形成させることにより得られる。
各成分の接触条件は、酸素を存在させないことが必要であるものの、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の条件を用いることができる。一般的には、次の条件が好ましい。
接触温度は、-50~200℃程度、好ましくは0~150℃である。
接触方法としては、回転ボールミルや振動ミルなどによる機械的な方法、及び、不活性希釈剤の存在下で撹拌により接触させる方法、などを例示することができる。
【0057】
固体触媒成分を調製する際には、中間及び/又は最後に不活性溶媒で洗浄を行っても良い。
好ましい不活性溶媒としては、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素化合物、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、及び、1,2-ジクロロエチレンやクロロベンゼンなどのハロゲン含有炭化水素化合物、などを例示することができる。
【0058】
なお、固体触媒成分の調製方法としては、任意の方法を用いることができるが、具体的には、下記の(i)~(viii)として説明する方法を例示することができる。
【0059】
(i)共粉砕法
共粉砕法は、塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物をチタン化合物と共粉砕することにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する方法であり、電子供与性化合物を同時に、又は、別工程で共粉砕しても良い。
溶媒を用いない乾式粉砕法、不活性溶媒共存下で共粉砕する湿式粉砕法などを採用することができる。粉砕には、回転ボールミル、振動ミル等の任意の粉砕機を用いることができる。
【0060】
(ii)加熱処理法
加熱処理法は、塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物とチタン化合物を不活性溶媒中で撹拌することにより加熱して接触処理を行い、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する方法であり、電子供与性化合物を同時に、又は、別工程で接触処理しても良い。
チタン化合物として四塩化チタンなどの液状の化合物を用いる場合は、不活性溶媒なしで接触処理することもできる。
また、必要に応じて、ハロゲン化ケイ素化合物等の任意成分を同時に、又は、別工程で接触させても良い。
接触温度に特に制限はないが、90℃~130℃程度の比較的高い温度で接触処理する方が好ましい場合が多い。
【0061】
(iii)溶解析出法
溶解析出法は、塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物を電子供与性化合物と接触させることにより溶解し、生じた溶解液と析出剤を接触させて析出反応を起こすことにより、粒子形成を行う方法である。
上記した電子供与性化合物の中で溶解に用いることができるものとしては、アルコール類、エーテル類などを挙げることができる。
また、析出剤の例としては、ハロゲン化チタン化合物、ハロゲン化ケイ素化合物、塩化水素、ハロゲン含有炭化水素化合物、Si-H結合を有するシロキサン化合物(ポリシロキサン化合物類を含む)、アルミニウム化合物、などを例示することができる。
溶解液と析出剤の接触方法としては、溶解液に析出剤を添加しても良いし、析出剤に溶解液を添加しても良い。
溶解、析出のどちらの工程でも、チタン化合物を用いない場合は、析出反応により形成した粒子を更にチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。
更に必要に応じて、上記の方法により形成した粒子をハロゲン化チタン化合物やハロゲン化ケイ素化合物などの任意成分と接触させても良く、電子供与性化合物と接触させても良い。この際、電子供与性化合物は、溶解に用いるものとは異なっていても良いし、同じであっても良い。
これらの任意成分の接触順序については、特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、溶解、析出、チタン化合物類との接触の際に一緒に接触させることもできる。
また、溶解、析出、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0062】
(iv)造粒法
造粒法は、溶解析出法と同様に、塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物を電子供与性化合物と接触させることにより溶解し、生じた溶解液を主に物理的な手法により造粒する方法である。溶解に用いる電子供与性化合物の例は、溶解析出法の例と同じである。
造粒手法の例としては、高温の溶解液を低温の不活性溶媒中に滴下する方法、高温の気相部に向かって溶解液をノズルから噴き出して乾燥する方法、低温の気相部に向かって溶解液をノズルから噴き出して冷却する方法、などを挙げることができる。
造粒により形成した粒子をチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。
更に、必要に応じて、ハロゲン化ケイ素化合物、電子供与性化合物、などの任意成分と接触させても良い。この際、電子供与性化合物は溶解に用いるものとは異なっていても良いし、同じであっても良い。
これらの任意成分の接触順序については、特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、溶解やチタン化合物との接触の際に一緒に接触させることもできる。
また、溶解、チタン化合物との接触、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0063】
(v)マグネシウム(Mg)化合物のハロゲン化法
マグネシウム(Mg)化合物のハロゲン化法は、ハロゲンを含有しないマグネシウム化合物に対して、ハロゲン化剤を接触させてハロゲン化する方法であり、電子供与性化合物を同時に、又は、別工程で接触処理しても良い。
ハロゲンを含有しないマグネシウム化合物の例としては、ジアルコキシマグネシウム化合物、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、脂肪酸のマグネシウム塩、などを挙げることができる。
ジアルコキシマグネシウム化合物を用いる場合は、金属マグネシウムとアルコールとの反応により系中で調製したものを用いることもできる。この調製法を用いる場合は、出発原料であるハロゲンを含まないマグネシウム化合物の段階で造粒等により粒子形成を行うのが一般的である。
ハロゲン化剤の例としては、ハロゲン化チタン化合物、ハロゲン化ケイ素化合物、ハロゲン化リン化合物、などを挙げることができる。
ハロゲン化剤として、ハロゲン化チタン化合物を用いない場合は、ハロゲン化により形成したハロゲン含有マグネシウム化合物を更にチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。
更に必要に応じて、上記の方法により形成した粒子をハロゲン化チタン化合物やハロゲン化ケイ素化合物などの任意成分と接触させても良く、電子供与性化合物と接触させても良い。
これらの任意成分の接触順序については、特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、ハロゲンを含まないマグネシウム化合物のハロゲン化やチタン化合物との接触の際に一緒に接触させることもできる。
また、ハロゲン化チタン化合物との接触、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0064】
(vi)有機マグネシウム化合物からの析出法
有機マグネシウム化合物からの析出法は、ブチルマグネシウムクロライドに代表されるグリニャール試薬、ジアルキルマグネシウム化合物、などの有機マグネシウム化合物の溶液に、析出剤を接触させる方法であり、電子供与性化合物を同時に、又は、別工程で接触処理しても良い。
析出剤の例としては、チタン化合物、ケイ素化合物、塩化水素、などを挙げることができる。
析出剤として、チタン化合物を用いない場合は、析出反応により形成した粒子を更にチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。
更に必要に応じて、上記の方法により形成した粒子をハロゲン化チタン化合物やハロゲン化ケイ素化合物などの任意成分と接触させても良く、電子供与性化合物と接触させても良い。
これらの任意成分の接触順序については特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、析出やチタン化合物との接触の際に一緒に接触させることもできる。
また、析出、チタン化合物との接触、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0065】
(vii)含浸法
含浸法は、有機マグネシウム化合物の溶液、又は、マグネシウム化合物を電子供与性化合物で溶解した溶液を、無機化合物の担体、又は、有機化合物の担体に含浸させる方法である。
有機マグネシウム化合物の例は、有機マグネシウム化合物からの析出法の例に同じである。マグネシウム化合物の溶解に用いるマグネシウム化合物は、ハロゲンを含んでいても含んでいなくても良く、電子供与性化合物の例は、溶解析出法の例に同じである。
無機化合物の担体の例としては、シリカ、アルミナ、マグネシア、などを挙げることができる。
有機化合物の担体の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、などを挙げることができる。
含浸処理後の担体粒子は、析出剤との化学反応や乾燥等の物理的処理によりマグネシウム化合物を析出させて固定化する。
析出剤の例は、溶解析出法の例に同じである。
析出剤としてチタン化合物を用いない場合は、こうして形成した粒子を更にチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。更に必要に応じて、こうして形成した粒子をハロゲン化チタン化合物やハロゲン化ケイ素化合物などの任意成分と接触させても良く、電子供与性化合物と接触させても良い。
これらの任意成分の接触順序については、特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、含浸、析出、乾燥、チタン化合物との接触の際に一緒に接触させることもできる。また、含浸、析出、チタン化合物との接触、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0066】
(viii)複合法
上記(i)~(vii)に記載した方法を組み合わせて、用いることもできる。組み合わせの例としては、「塩化マグネシウムを電子供与性化合物と共粉砕した後にハロゲン化チタン化合物と加熱処理する方法」、「塩化マグネシウム化合物を電子供与性化合物と共粉砕した後に別の電子供与性化合物を用いて溶解し、更に析出剤を用いて析出する方法」、「ジアルコキシマグネシウム化合物を電子供与性化合物により溶解し、ハロゲン化チタン化合物類と接触させることにより析出させると同時にマグネシウム化合物をハロゲン化する方法」、「ジアルコキシマグネシウム化合物に二酸化炭素を接触させることにより、炭酸エステルマグネシウム化合物を生成すると同時に溶解し、形成した溶解液をシリカに含浸させ、その後塩化水素と接触させることによりマグネシウム化合物をハロゲン化すると同時に析出固定化し、更にハロゲン化チタン化合物と接触させることによりチタン化合物を担持する方法」、などを挙げることができる。
【0067】
固体触媒成分が、固体成分(A1)形成後にさらに有機アルミニウム化合物(A2)、ビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物(A3)、ビニルシラン化合物(A4)等と接触させたものである場合には、各成分の接触方法は、特に制約されないが、一般的には、上記各成分を不活性溶媒の存在下で撹拌しながら接触させることができる。
不活性溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、流動パラフィン等の液状飽和炭化水素、ジメチルポリシロキサンの構造を持ったシリコンオイルなどを挙げることができる。これらの不活性溶媒は、1種または2種以上の混合溶媒のいずれでもよい。不活性溶媒は、重合に悪影響を及ぼす酸素、水分、イオウ化合物等の不純物を取り除いた後で使用することが好ましい。
接触条件は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の条件を採用することができる。
接触温度は、通常、-50℃~200℃程度、好ましくは-10℃~100℃、より好ましくは0℃~70℃、さらに好ましくは10℃~60℃である。
【0068】
固体触媒成分が、固体成分(A1)形成後にさらに有機アルミニウム化合物(A2)及びビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物(A3)と接触させたものである場合、固体成分(A1)、有機アルミニウム化合物(A2)及びビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物(A3)の接触手順に関しては、任意の手順を用いることができる。具体的な例としては下記の手順(i)~(iv)などが挙げられるが、この中でも手順(i)及び手順(ii)が好ましい。
手順(i):固体成分(A1)とビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物(A3)を接触させ、次いで有機アルミニウム化合物(A2)と接触させる方法。
手順(ii):固体成分(A1)と有機アルミニウム化合物(A2)を接触させ、次いでビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物(A3)を接触させる方法。
手順(iii):ビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物(A3)と有機アルミニウム化合物(A2)を接触させ、次いで固体成分(A1)と接触させる方法。
手順(iv):全ての成分を同時に接触させる方法。
【0069】
また、固体成分(A1)と、有機アルミニウム化合物(A2)、ビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物(A3)との接触回数は、いずれも、任意の回数行うこともできる。この際に複数回用いる各成分は、互いに同一であっても異なっていても良い。
また、先に各成分の使用量の好ましい範囲を示したが、これは1回あたりに接触させる使用量であり、複数回接触させる際は、1回の使用量が前述した使用量の範囲内を目安として、何回接触させても良い。
固体触媒成分が、その他の成分と接触させる場合、いかなる接触方法、接触条件および接触手順も採用することができる。
【0070】
固体触媒成分が、固体成分(A1)形成後にさらに有機アルミニウム化合物(A2)、ビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物(A3)及びビニルシラン化合物(A4)と接触させたものである場合、固体成分(A1)、有機アルミニウム化合物(A2)、ビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物(A3)及びビニルシラン化合物(A4)の接触手順に関しては、任意の手順を用いることができる。具体的な例としては下記の手順(iv)~(vii)などが挙げられるが、この中でも手順(iv)及び手順(v)が好ましい。
手順(iv):固体成分(A1)とビニルシラン化合物(A4)を接触させ、次いでビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物(A3)を接触させ、次いで有機アルミニウム化合物(A2)を接触させる方法。
手順(v):ビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物(A3)とビニルシラン化合物(A4)を接触させ、次いで固体成分(A1)を接触させ、次いで有機アルミニウム化合物(A2)を接触させる方法。
手順(vi):固体成分(A1)とビニルシラン化合物(A4)を接触させ、次いでビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物(A3)及び有機アルミニウム化合物(A2)を接触させる方法。
手順(vii):全ての成分を同時に接触させる方法。
【0071】
また、固体成分(A1)と、有機アルミニウム化合物(A2)、ビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物(A3)、ビニルシラン化合物(A4)との接触回数は、いずれも、任意の回数行うこともできる。この際に複数回用いる各成分は、互いに同一であっても異なっていても良い。
また、先に各成分の使用量の好ましい範囲を示したが、これは1回あたりに接触させる使用量であり、複数回接触させる際は、1回の使用量が前述した使用量の範囲内を目安として、何回接触させても良い。
固体触媒成分が、その他の成分と接触させる場合、いかなる接触方法、接触条件および接触手順も採用することができる。
【0072】
(固体触媒成分の予備重合)
固体触媒成分は、予備重合されていてもよい。固体触媒成分の存在下で、エチレン性二重結合を有する化合物をモノマー(予備重合モノマー)として温和な条件で少量重合することにより、予備重合モノマーの一部又は全部が重合してエチレン性二重結合を有する化合物のポリマー(予備重合ポリマー)となり、プロピレン系ブロック共重合体の重合に適した固体触媒成分とすることができる。
【0073】
予備重合モノマーとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチルブテン-1、4-メチルペンテン-1、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテンなどに代表されるオレフィン類、スチレン、α-メチルスチレン、アリルベンゼン、クロロスチレンなどに代表されるスチレン類似化合物類、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、2,6-オクタジエン、ジシクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、1,9-デカジエン、ジビニルベンゼン類などに代表されるジエン化合物類などを挙げることができる。中でも、エチレン、プロピレン、3-メチルブテン-1、4-メチルペンテン-1、スチレン、ジビニルベンゼン類などが好ましい。これらは1種でも2種以上の混合物であってもよい。
また、予備重合により生成するポリマーの分子量を調節するために水素等の分子調節剤を併用することもできる。
予備重合して得られる固体触媒成分には、エチレン性二重結合を有する化合物のポリマー(予備重合ポリマー)を含有している。この固体触媒成分を用いてプロピレンを単独重合又は共重合すると、予備重合ポリマーが殻として機能するため、本重合において触媒粒子の割れによる微粉発生を抑制する効果が得られる。
予備重合モノマーの使用量は、予備重合のプロセスにおいて充分な量の予備重合ポリマーを生成させる観点から、予備重合前の固体触媒成分1質量部当たり、好ましくは予備重合モノマー0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、さらに好ましくは0.4質量部以上、よりさらに好ましくは0.5質量部以上である。
予備重合モノマーの使用量の上限は限定されないが、予備重合ポリマーの生成量を必要以上に大きくさせない観点から、予備重合前の固体触媒成分1質量部当たり、好ましくは予備重合モノマー20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
上記予備重合後の固体触媒成分に含まれる予備重合ポリマーの量、すなわち予備重合量は、予備重合前の固体触媒成分1質量部当たり、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、さらに好ましくは0.4質量部以上、よりさらに好ましくは0.5質量部以上である。予備重合量が前記の範囲内である場合、触媒粒子の割れによる微粉発生を抑制する効果が得られる。
予備重合量の上限は限定されないが、生産性、経済性の観点から、予備重合前の固体触媒成分1質量部当たり、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。予備重合量を上記範囲より大きくしても触媒の性能は頭打ちになるからである。
【0074】
予備重合の方法は特に制約されないが、一般的には、不活性溶媒の存在下で撹拌しながら予備重合を行う。不活性溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、流動パラフィン等の液状飽和炭化水素、ジメチルポリシロキサンの構造を持ったシリコンオイルなどを挙げることができる。これらの不活性溶媒は、1種または2種以上の混合溶媒のいずれでもよい。不活性溶媒は、重合に悪影響を及ぼす酸素、水分、イオウ化合物等の不純物を取り除いた後で使用することが好ましい。
予備重合の条件は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の条件を採用することができる。
予備重合の反応温度は、通常、-50℃~200℃程度、好ましくは-10℃~100℃、更に好ましくは0℃~70℃である。
【0075】
予備重合は、有機アルミニウム化合物の存在下で行っても良い。有機アルミニウム化合物としては、上述の有機アルミニウム化合物(A2)と同様のものを挙げることができる。
予備重合工程における有機アルミニウム化合物の量は、固体触媒成分のチタン原子1モルに対して有機アルミニウム化合物を0.1~40モル、好ましくは0.3~20モルの範囲とすることが好ましい。
予備重合は、アルコキシシラン化合物の存在下で行っても良い。アルコキシシラン化合物としては、上述のビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物(A3)で説明したアルコキシシラン化合物と同様のものを挙げることができる。予備重合工程におけるアルコキシシラン化合物の量は、固体触媒成分中に含まれるチタン1モルに対して0.01~10モルの範囲とすることが好ましい。
予備重合は複数回に分けて行っても良く、この際用いる予備重合モノマーは同一であっても異なっていても良い。また、予備重合後にヘキサン、ヘプタン等の不活性溶媒で洗浄を行うこともできる。予備重合を終了した後に、触媒の使用形態に応じ、そのまま使用することが可能であるが、乾燥を行ってもよい。
さらに、本発明の効果を損なわない限り、予備重合後の洗浄や乾燥の途中、または洗浄や乾燥の後などに任意成分を添加しても良い。任意成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの重合体やシリカ、チタニアなどの無機酸化物固体等が挙げられる。
【0076】
2.成分(B):有機アルミニウム化合物
本発明において本重合時のオレフィン重合用触媒に用いることのできる有機アルミニウム化合物(B)としては、特開2004-124090号公報に開示された化合物等を挙げることができる。好ましくは、固体触媒成分(A)を調製する際の成分として掲げる有機アルミニウム化合物(A2)における例示と同じ群から選択することができる。
有機アルミニウム化合物(B)は、固体触媒成分(A)を調製する際に用いる有機アルミニウム化合物(A2)と、同一であっても異なっていてもよい。
有機アルミニウム化合物(B)は、一種の化合物を用いることも、二種以上の化合物を併用することもできる。
有機アルミニウム化合物(B)の使用量は、固体触媒成分(A)を構成するチタン成分に対するモル比(有機アルミニウム化合物のモル数/固体触媒成分中のチタン原子のモル数)で、好ましくは1~5,000の範囲内であり、特に好ましくは10~500の範囲内である。
【0077】
3.外部ドナーとしての電子供与性化合物
本発明において、オレフィン重合用触媒は、構成成分に外部ドナーとしての電子供与性化合物を含んでいてもよい。
チーグラー触媒を用いた重合技術において、外部ドナーは、前述のように、既にできている活性点の性質を変えるものであり、例えば、調製された固体触媒成分に対して、さらに外部ドナーを使用することで、高立体特異的な活性点に変化したり,非晶成分を生成する活性点を被毒したりすることができるため、より高立体規則性及び非晶成分の少ないプロピレン系重合体を生成することが可能である。
電子供与性化合物(外部ドナー)としては、有機ケイ素化合物(C)、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(D)、分子内にC(=O)N結合を有する化合物(E)、亜硫酸エステル化合物(F)などを挙げることができる。電子供与性化合物は一種または二種以上の組み合わせを用いることができる。
【0078】
(有機ケイ素化合物(C))
有機ケイ素化合物(C)としては、特開2004-124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。好ましくは、固体触媒成分(A)を調製する際に用いる有機ケイ素化合物(A3)における例示と同じ群から選択することができる。
有機ケイ素化合物(C)は、固体触媒成分(A)を調製する際に用いるビニルシラン化合物を除く有機ケイ素化合物(A3)と、同一であっても異なっていてもよい。
有機ケイ素化合物(C)は、一種の化合物を用いることも、二種以上の化合物を併用することもできる。
【0079】
(少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(D))
少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(D)としては、特開平3-294302号公報及び特開平8-333413号公報に開示された化合物等を用いることができる。一般的には、下記式にて表される化合物を用いることが望ましい。
[一般式(7)]
R15O-C(R14)2-C(R13)2-C(R14)2-OR15
(一般式(7)中、R13及びR14は、水素原子、炭化水素基またはヘテロ原子含有炭化水素基から選ばれる任意の遊離基を表す。R15は、炭化水素基またはヘテロ原子含有炭化水素基を表す。)
少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物は、具体的には、例えば、2,2-ジイソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジイソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-イソブチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン、2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジシクロペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、9,9-ビス(メトキシメチル)フルオレンなどが挙げられる。少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物は、単独で用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0080】
(分子内にC(=O)N結合を有する化合物(E))
分子内にC(=O)N結合を有する化合物としては、特開2004-124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。好ましくはテトラメチルウレア、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1-エチル-2-ピロリジノンなどを挙げることができる。
【0081】
(亜硫酸エステル化合物(F))
亜硫酸エステル化合物としては、特開2006-225449号公報に開示された化合物等を用いることができる。好ましくは亜硫酸ジメチル、亜硫酸ジエチルなどを挙げることができる。
【0082】
電子供与性化合物(外部ドナー)の使用量は、固体触媒成分を構成するチタンに対するモル比(電子供与性化合物のモル数/固体触媒成中のチタン原子のモル数)で、好ましくは0.01~10,000の範囲内であり、特に好ましくは0.5~500の範囲内である。
【0083】
III.製造されるプロピレン系重合体
本発明により製造されるプロピレン系重合体は、第1工程で製造されるプロピレン単独重合あるいはプロピレンと他のα-オレフィンとの共重合において、水素などの分子量調節剤を重合工程中で用いることにより、前記第1のプロピレン系重合体のメルトフローレート(MFR)を制御することができる。プロピレン系重合体のMFRは、成形方法や用途により設定されるが、測定条件を230℃、2.16kg荷重として測定したMFR値(単位:g/10分)は、通常、0.1以上、好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1以上であり、500以下、好ましくは400以下、さらに好ましくは300以下である。MFRが過小な場合は、ポリマーの流動性が著しく低下し成形が困難となり、また過大な場合は、引張り特性の低下などが発生する。
【0084】
本発明において、前記第1のプロピレン系重合体とは、プロピレン単独重合体、もしくは、プロピレンとコモノマーとの共重合体を意味する。コモノマーとしてはプロピレンを除く炭素数が2~10の直鎖または分岐α-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができ、一般的にエチレンまたは1-ブテンが好ましい。コモノマー含量としては、好ましくは0~10質量%の範囲であり、より好ましくは0~6質量%、更に好ましくは0~4質量%の範囲である。この範囲を外れると結晶性が低すぎる成分の発生量が増すため重合反応中に容易に溶融や融着による塊状ポリマーを生成する恐れがある。
【0085】
第2工程において、水素などの分子量調節剤を重合工程中で用いることにより、前記プロピレン重合体の固有粘度[η]を制御することができる。溶融張力向上、フローマーク改良といった特性の点、及びゲルの個数の抑制により製品外観を良好にする点から、前記プロピレン・エチレン共重合体の固有粘度[η]は2~12dL/gの範囲が好ましく、2.5~10dL/gの範囲がより好ましい。
本発明において前記第2のプロピレン系重合体は、プロピレン単独重合体、もしくは、コモノマーとの共重合体であってもよく、コモノマーとしてはプロピレンを除く炭素数が2~10の直鎖または分岐α-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができ、一般的にエチレンまたは1-ブテンが好ましい。コモノマー含量としては、好ましくは0~90質量%の範囲であり、より好ましくは0~70質量%、更に好ましくは0~50質量%の範囲である。この範囲を外れると第1のプロピレン系重合体と第2のプロピレン系重合体の相溶性が低下することで最終製品の耐衝撃性と言った品質が低下する恐れがある。また、第1のプロピレン系重合体のコモノマー含量と第2のプロピレン系重合体のコモノマー含量は等しくても異なっていても良い。
【0086】
各重合工程で製造される成分を微分散させて最終製品の外観や耐衝撃性と言った品質を高く保つ点からは、前記第2工程において生成される第2のプロピレン系重合体がプロピレンと、プロピレンを除く炭素数2~10のα-オレフィンからなる群から少なくとも1種のモノマーとの共重合体であり、前記プロピレンを除く炭素数2~10のα-オレフィンからなる群から少なくとも1種のモノマーの含量が20~80質量%の範囲であることが好ましく、30~70質量%の範囲であることがより好ましい。
【0087】
また、全体のプロピレン系重合体を100質量%としたときに、前記第1のプロピレン系重合体が98~40質量%であり、前記第2のプロピレン系樹脂が2~60質量%であることが好ましく、前記第2のプロピレン系重合体が3~55質量%であり、第1のプロピレン系重合体が97~45質量%であることがより好ましく、前記第2のプロピレン系重合体が3~45質量%であり、第1のプロピレン系重合体が97~55質量%であることがさらに好ましい。
【実施例0088】
以下、実施例を用いて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明における各物性値の測定方法を以下に示す。
[各種物性の測定]
(1)MFR
MFRは、実施例で得られたプロピレン系重合体について、JIS K7210(230℃、2.16kg荷重)に準拠した条件で評価した。
【0089】
(2)プロピレン系ブロック共重合体の分析方法
前記第1工程、または、第2工程の少なくともどちらか一方でコモノマー含量が高く明確な融点を示さないプロピレン・エチレンランダム共重合体を重合して、いわゆるプロピレン系ブロック共重合体を製造する場合は、下記に記載するクロス分別装置、条件を使用してプロピレン系共重合体部分の比率(Wc)、エチレン含量(Gv)、および、固有粘土(η)の測定を実施した。
前記第1工程、および、第2工程のコモノマー含量がいずれも少なく、各重合体又は共重合体が明確な融点を有する場合は、各重合工程において重合反応熱の徐熱のために供給される冷媒の流量及び入り口と出口の温度差から、各重合工程での生産量を算出した。そして、計算式:第2工程での生産量/(第1工程での生産量+第2工程での生産量)×100より第2工程での生産割合を求める。
【0090】
(2-1)使用する分析装置
(i)クロス分別装置
ダイヤインスツルメンツ社製CFC T-100(CFCと略す)
(ii)フーリエ変換型赤外吸収スペクトル分析
FT-IR、パーキンエルマー社製 1760X
CFCの検出器として取り付けられていた波長固定型の赤外分光光度計を取り外して代わりにFT-IRを接続し、このFT-IRを検出器として使用する。CFCから溶出した溶液の出口からFT-IRまでの間のトランスファーラインは1mの長さとし、測定の間を通じて140℃に温度保持する。FT-IRに取り付けたフローセルは光路長1mm、光路幅5mmφのものを用い、測定の間を通じて140℃に温度保持する。
(iii)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)
CFC後段部分のGPCカラムは、昭和電工社製AD806MSを3本直列に接続して使用する。
【0091】
(2-2)CFCの測定条件
(i)溶媒:オルトジクロルベンゼン(ODCB)
(ii)サンプル濃度:4mg/mL
(iii)注入量:0.4mL
(iv)結晶化:140℃から40℃まで約40分かけて降温する。
(v)分別方法:
昇温溶出分別時の分別温度は40、100、140℃とし、全部で3つのフラクションに分別する。なお、40℃以下で溶出する成分(フラクション1)、40~100℃で溶出する成分(フラクション2)、100~140℃で溶出する成分(フラクション3)の溶出割合(単位:質量%)を各々W40、W100、W140と定義する。W40+W100+W140=100である。また、分別した各フラクションは、そのままFT-IR分析装置へ自動輸送される。
(vi)溶出時溶媒流速:1mL/分
【0092】
(2-3)FT-IRの測定条件
CFC後段のGPCから試料溶液の溶出が開始した後、以下の条件でFT-IR測定を行い、上述した各フラクション1~3について、GPC-IRデータを採取する。
(i)検出器:MCT
(ii)分解能:8cm-1
(iii)測定間隔:0.2分(12秒)
(iv)一測定当たりの積算回数:15回
【0093】
(2-4)測定結果の後処理と解析
各温度で溶出した成分の溶出量と分子量分布は、FT-IRによって得られる2945cm-1の吸光度をクロマトグラムとして使用して求める。溶出量は各溶出成分の溶出量の合計が100%となるように規格化する。保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。
使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー(株)製の以下の銘柄である。
F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000。
標準ポリスチレンの各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.4mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。分子量への換算は森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)を参考に汎用較正曲線を用いる。その際使用する粘度式([η]=K×Mα)には以下の数値を用いる。
(i)標準ポリスチレンを使用する較正曲線作成時
K=0.000138、α=0.70
(ii)プロピレン系ブロック共重合体のサンプル測定時
K=0.000103、α=0.78
各溶出成分のエチレン含有量分布(分子量軸に沿ったエチレン含有量の分布)は、FT-IRによって得られる2956cm-1の吸光度と2927cm-1の吸光度との比を用い、ポリエチレンやポリプロピレンや13C-NMR測定等によりエチレン含有量が既知となっているエチレン-プロピレンラバー(EPR)及びそれらの混合物を使用して予め作成しておいた検量線により、エチレン含有量(質量%)に換算して求める。
【0094】
(2-5)プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(Wc)
本発明におけるプロピレン系ブロック共重合体中のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(Wc)は、下記式(I)で理論上は定義され、以下のような手順で求められる。
Wc(質量%)=W40×A40/B40+W100×A100/B100 …(I) 式(I)中、W40、W100は、上述した各フラクションでの溶出割合(単位:質量%)であり、A40、A100は、W40、W100に対応する各フラククションにおける実測定の平均エチレン含有量(単位:質量%)であり、B40、B100は、各フラクションに含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量(単位:質量%)である。A40、A100、B40、B100の求め方は後述する。
【0095】
式(I)の意味は以下の通りである。すなわち、式(I)右辺の第一項はフラクション1(40℃に可溶な部分)に含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の量を算出する項である。フラクション1がプロピレン・エチレンランダム共重合体のみを含み、結晶性プロピレン系重合体部分を含まない場合には、W40がそのまま全体の中に占めるフラクション1由来のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分含有量に寄与するが、フラクション1にはプロピレン・エチレンランダム共重合体由来の成分のほかに少量の結晶性プロピレン系重合体部分由来の成分(極端に分子量の低い成分及びアタクチックポリプロピレン)も含まれるため、その部分を補正する必要がある。そこでW40にA40/B40を乗ずることにより、フラクション1のうち、プロピレン・エチレンランダム共重合体成分由来の量を算出する。例えば、フラクション1の平均エチレン含有量(A40)が30質量%であり、フラクション1に含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体のエチレン含有量(B40)が40質量%である場合、フラクション1の30/40=3/4(即ち75質量%)はプロピレン・エチレンランダム共重合体由来、1/4は結晶性プロピレン系重合体部分由来ということになる。このように右辺第一項でA40/B40を乗ずる操作は、フラクション1の質量%(W40)からプロピレン・エチレンランダム共重合体の寄与を算出することを意味する。右辺第二項も同様であり、各々のフラクションについて、プロピレン・エチレンランダム共重合体の寄与を算出して加え合わせたものがプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の含有量となる。
【0096】
(i)上述したように、CFC測定により得られるフラクション1~2に対応する平均エチレン含有量をそれぞれA40、A100とする(単位はいずれも質量%である)。平均エチレン含有量の求め方は後述する。
(ii)フラクション1の微分分子量分布曲線におけるピーク位置に相当するエチレン含有量をB40とする(単位は質量%である)。フラクション2については、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分が40℃ですべて溶出してしまうと考えられ、同様の定義で規定することができないので、本発明では実質的にB100=100と定義する。B40、B100は各フラクションに含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量であるが、この値を分析的に求めることは実質的には不可能である。その理由はフラクションに混在するプロピレン単独重合体とプロピレン・エチレンランダム共重合体を完全に分離・分取する手段がないからである。種々のモデル試料を使用して検討を行った結果、B40はフラクション1の微分分子量分布曲線のピーク位置に相当するエチレン含有量を使用すると、材料物性の改良効果をうまく説明することができることがわかった。また、B100はエチレン連鎖由来の結晶性を持つこと、および、これらのフラクションに含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体の量がフラクション1に含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体の量に比べて相対的に少ないことの2点の理由により、100と近似する方が、実態にも近く、計算上も殆ど誤差を生じない。そこでB100=100として解析を行うこととしている。
【0097】
(iii)上記の理由からプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(Wc)を以下の式に従い、求める。
Wc(質量%)=W40×A40/B40+W100×A100/100 …(II) つまり、(II)式右辺の第一項であるW40×A40/B40は結晶性を持たないプロピレン・エチレンランダム共重合体含有量(質量%)を示し、第二項であるW100×A100/100は結晶性を持つプロピレン・エチレンランダム共重合体部分含有量(質量%)を示す。
ここで、B40およびCFC測定により得られる各フラクション1および2の平均エチレン含有量A40、A100は、次のようにして求める。
微分分子量分布曲線のピーク位置に対応するエチレン含有量がB40となる。また、測定時にデータポイントとして取り込まれる、各データポイントの質量割合と各データポイントのエチレン含有量の積の総和がフラクション1の平均エチレン含有量A40となる。
フラクション2の平均エチレン含有量A100も同様に求める。
【0098】
なお、上記3種類の分別温度を設定した意義は次の通りである。本発明のCFC分析においては、40℃とは結晶性を持たないポリマー(例えば、プロピレン・エチレンランダム共重合体の大部分、もしくは結晶性プロピレン系重合体部分の中でも極端に分子量の低い成分およびアタクチックな成分)のみを分別するのに必要十分な温度条件である意義を有する。100℃とは、40℃では不溶であるが100℃では可溶となる成分(例えばプロピレン・エチレンランダム共重合体中、エチレン及び/またはプロピレンの連鎖に起因して結晶性を有する成分、および結晶性プロピレン系重合体部分)のみを溶出させるのに必要十分な温度である。140℃とは、100℃では不溶であるが140℃では可溶となる成分(例えば、結晶性プロピレン系重合体部分中特に結晶性の高い成分、およびプロピレン・エチレンランダム共重合体中の極端に分子量が高くかつ極めて高いエチレン結晶性を有する成分)のみを溶出させ、かつ分析に使用するプロピレン系ブロック共重合体の全量を回収するのに必要十分な温度である。なお、W140にはプロピレン・エチレンランダム共重合体成分は全く含まれないか、存在しても極めて少量であり実質的には無視できることからプロピレン・エチレンランダム共重合体の比率やプロピレン・エチレンランダム共重合体のエチレン含有量の計算からは排除する。
【0099】
(2-6)プロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含量(Gv)
本発明におけるプロピレン系ブロック共重合体におけるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量は、上述で説明した値を用い、次式から求められる。
プロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含量(質量%)=(W40×A40+W100×A100)/Wc
但し、Wcは先に求めたプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(質量%)である。
【0100】
(2-7)固有粘度の測定
本発明におけるプロピレン系ブロック共重合体における結晶性プロピレン系重合体部分とプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]pは、ウベローデ型粘度計を用いてデカリンを溶媒として温度135℃で測定する。
まず、結晶性プロピレン系重合体部分の重合終了後、一部を重合反応器よりサンプリングし、固有粘度[η]pを測定する。次に、結晶性プロピレン系重合体部分を重合した後、プロピレン・エチレンランダム共重合体を重合して得られた最終重合物(F)の固有粘度[η]Fを測定する。[η]cは、以下の関係から求める。
[η]F=(100-Wc)/100×[η]p+Wc/100×[η]c
【0101】
(3)凝集塊状態ポリマーの評価方法
本発明における連続製造安定性の指標として凝集塊状ポリマーの評価方法は、最終製品を5.5メッシュの篩でふるったときに3質量%(ただし評価に使用した全量を100質量%とする)以上のポリマーが残存する場合は×、3質量%未満の場合は〇として評価した。
【0102】
(4)臭気、色味の評価方法
本発明における臭気の評価方法は、プロピレン系重合体100gを清浄なガラス瓶に入れて蓋をして、100℃のオーブンの中で4時間加熱した後に、オーブンから取り出した直後に蓋をあけ、アルコールや硫黄に由来する臭気の有無を官能試験により評価した。臭気がある場合は×、臭気がない場合は〇として評価した。
色味については、同様のサンプルを用いて、100℃のオーブンの中で4時間加熱した後に、オーブンから取り出した直後に黄変等が発生していないか目視により評価した。色味変化がある場合は×、色味変化がない場合は〇として評価した。
【0103】
(5)曲げ弾性率の測定
芝浦機械製EC100射出成形機を用いて試験片を成形し、室温23±1℃、相対湿度50±5%に調節された恒温室で7日間状態調整を行った。当該試験片を用いて、JIS K7171に準拠して曲げ弾性率を求めた。
【0104】
(6)環境適正の評価基準
プロピレン系重合体の製造において、不純物を特定の濃度以内で含むバイオマス原料を由来とする反応抑制剤を化石資源由来の反応抑制剤の代替物質として使用した場合に〇、化石資源由来の反応抑制剤を使用した場合に×として評価した。いずれにも当てはまらない場合に-とした。
【0105】
(7)反応抑制剤中の不純物量の分析
水分含有量は、JIS K8101に従いカールフィッシャー水分計を用いて測定した。
メタノール含有量は、JAAS001 6.4に従い水素炎イオン化検出器ガスクロマトグラフを使用して測定した。
銅原子の含有量については、反応抑制剤1mLに対して1.0M硝酸を9mL加える処理の後に、JISK0101 51.2に従いICP-AESを用いて測定した。
硫黄原子の含有量については、アルゴン/酸素雰囲気化で反応抑制剤を燃焼分解した後に、JISK2541-6に従い紫外蛍光法にて測定した。
【0106】
(8)バイオマス由来の反応抑制剤であることの確認
使用した反応抑制剤(エタノール)について、以下の通り、酸素同位体18Oを利用するバイオベース度測定手法によりバイオマス由来であることを確認した。
0.2μLの測定サンプル(エタノール)を、清浄なマイクロシリンジを利用して熱分解型元素分析計前処理装置(TC/EA、サーモエレクトロン社)の分解炉へと直接注入し、その後分解炉内で1400℃の温度にてサンプルを分解した。その後、分解生成ガスを同位体比質量分析装置(DELTA Plus XP、ThermoElectoron社)へ導入し、16Oと18Oの酸素同位体存在比を測定した。
次に水素同位体D及び酸素同位体18Oの標準物質としてVPDB(Vienna PDB)の酸素同位体存在比の測定を行った。
これら酸素同位体比の数値を、以下の式に代入することにより、最終的に測定サンプル(エタノール)中の酸素同位体存在率パラメータδ18Oを得た。
δ18O=(サンプルの酸素同位体比/標準物質の酸素同位体比-1)×1000
δ18Oを用いてサンプル中の酸素同位体比の量の評価を実施した。
上記計算式から算出されるδ18Oがゼロより大きいとき、バイオマス由来のエタノール、δ18Oの数値がゼロ以下であるとき、石油化学由来エタノールとして判別した。
【0107】
[触媒製造例]
(1)オレフィン重合用固体触媒成分の調製
固体成分の調製撹拌装置を備えた容量10Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、精製したトルエン2Lを導入した。ここに、室温で、Mg(OEt)2を200g、TiCl4を1L添加した。オートクレーブの温度を90℃に上げて、フタル酸ジ-n-ブチルを40ml、フタル酸ジエチルを10ml導入した。その後、温度を110℃に上げて3hr反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。次いで、精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。室温でTiCl4を1L添加し、温度を110℃に上げて2hr反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。次いで、精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。室温でTiCl4を1L添加し、温度を110℃に上げて2hr反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。更に、精製したn-ヘプタンを用いて、トルエンをn-ヘプタンで置換し、固体成分のスラリーを得た。このスラリーの一部をサンプリングして乾燥し分析したところ、固体成分のTi含量は1.7質量%であった。次に、撹拌装置を備えた容量20Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、上記固体成分のスラリーを固体成分として100g(0.036molTi)導入した。精製したn-ヘプタンを導入して、固体成分の濃度が25g/Lとなるように調整した。SiCl4を50ml加え、90℃で1hr反応を行った。反応生成物を精製したn-ヘプタンで充分に洗浄した後、精製したn-ヘプタンを導入して液レベルを4Lに調整した。ここに[CH2=CH-]2SiMe2を25ml、(i-Pr)2Si(OMe)2を18ml、トリエチルアルミニウムのn-ヘプタン希釈液をトリエチルアルミニウムとして40g(0.35mol)添加し、40℃で2hr反応を行った。反応生成物を精製したn-ヘプタンで充分に洗浄した。
得られたスラリーの一部をサンプリングして乾燥し分析したところ、固体成分には、Tiが1.3質量%、(i-Pr)2Si(OMe)2が7.7質量%含まれていた。
【0108】
(2)オレフィン重合用予備重合触媒の調製
上記で得られた固体成分100g(0.025molTi)を用いて、以下の手順により予備重合を行った。上記のスラリーに精製したn-ヘプタンを導入して、固体成分の濃度が20g/Lとなるように調整した。スラリーを10℃に冷却した後、トリエチルアルミニウムのn-ヘプタン希釈液をトリエチルアルミニウムとして15g(0.132mol)を添加し、280gのプロピレンを4hrかけて供給した。プロピレンの供給が終わった後、更に30min反応を継続した。次いで、気相部を窒素で充分に置換し反応生成物を精製したn-ヘプタンで充分に洗浄した。得られたスラリーをオートクレーブから抜き出し、真空乾燥を行って固体触媒成分を得た。この固体触媒成分を分析したところ、固体成分1gあたり1.9gのポリプロピレンを含んでおり、この固体触媒成分のポリプロピレンを除いた部分には、Tiが0.88質量%、(i-Pr)2Si(OMe)2が6.8質量%含まれていた。
【0109】
(実施例1)
(第1重合工程)
撹拌機及び温度制御装置を有する内容積3.0Lのステンレス鋼製オートクレーブを真空化で加熱乾燥し、室温まで冷却した後にプロピレンガスにて置換し、トリエチルアルミニウムを70.7mg導入した後に水素を9000mL導入し、次いで液化プロピレンを1000g導入した。内部温度を60℃に合わせた後に、上記のオレフィン重合用予備重合触媒を、ポリプロピレンを除いた固体触媒成分が5.0mgになるようアルゴンにより圧入することで第1のポリプロピレン系重合体の重合を開始した。1時間後に未反応の液化モノマーをパージして重合を停止した。生成したポリマーの一部をサンプリングしてMFRを分析したところ、MFR=107g/10minの結晶性ポリプロピレン重合体であった。
第1工程にて生成したポリマーの一部をサンプリングした後に、バイオエタノール(富士フィルム和光純薬試薬より購入、バイオマス由来のエタノール)10mgを反応器に導入した後に5分間撹拌機を用いて攪拌し、第1工程で生成された第1のプロピレン系重合体と接触させた。このようにして、第1工程と第2工程の間に、バイオマス由来の反応抑制剤を添加した。
使用したバイオエタノールは、不純物として水分を1688質量ppm、メタノールを428質量ppm、硫黄として2.4質量ppm、銅として54質量ppbの不純物を含んでいた。
【0110】
(第2重合工程)
第1工程で使用した重合反応器とは異なる攪拌及び温度調整装置を有する内容積20Lのオートクレーブを用いて、第2工程で重合に使用するガスを調整した。調整温度は95℃、混合ガスの組成は水素0.54mol%、プロピレン62.7mol%、エチレン36.3mol%、窒素0.50mol%であった。
前記反応抑制剤と接触完了後の3.0Lオートクレーブの温度を70℃まで上げて、そこに続けて混合ガスを反応器全圧が1.0MPaGになるまで供給することで第2工程の重合を開始した。重合温度を70℃、反応圧力を1.0MPaGに保ちつつ1時間反応を行い、未反応の残モノマーをパージすることで重合反応を停止してプロピレン系重合体-1を得た。
得られたポリマーを90℃で1時間減圧乾燥した後に各種分析を実施した。分析した結果、MFR=7.7g/10min、第2工程で生成されたプロピレン系共重合体部分の比率(Wc)は32.2質量%、プロピレン・エチレン共重合体中のエチレン含量(Gv)は41質量%、プロピレン・エチレン共重合体の固有粘土(η)は4.0dL/gであった。臭気の官能試験を行った評価結果は良好であり、粉の色目の目視評価の結果は良好な外観であった。曲げ弾性率の測定値は860MPaであった。
【0111】
(実施例2)
実施例1から、下記の通り変更することでプロピレン系重合体-2を得た。
第1工程と第2工程の間に供給する反応抑制剤の量を20mgに変更した。
第2工程で使用する混合ガスの組成を、プロピレン54.5mol%、エチレン36.3mol%、水素0.54mol%、窒素8.7mol%に変更した。
上記以外は実施例1と同様の方法でプロピレン系重合体-2を製造した。
得られたプロピレン系重合体-2について分析した結果、MFR=13g/10min、第2工程で生成されたプロピレン系共重合体部分の比率(Wc)は25.5質量%、プロピレン・エチレン共重合体中のエチレン含量(Gv)は41質量%、プロピレン・エチレン共重合体の固有粘土(η)は4.0dL/gであった。臭気の官能試験を行った評価結果は良好であり、粉の色目の目視評価の結果も良好な外観であった。曲げ弾性率の測定値は1000MPaであった。
【0112】
(実施例3)
実施例1から、下記の通り変更することでプロピレン系重合体-3を得た。
第1工程と第2工程の間に供給する反応抑制剤の量を40mgに変更した。
第2工程で使用する混合ガスの組成を、プロピレン56.0mol%、エチレン34.0mol%、水素0.60mol%、窒素9.4mol%に変更した。
上記以外は実施例1と同様の方法でプロピレン系重合体-3を製造した。
得られたプロピレン系重合体-3について分析した結果、MFR=88g/10min、第2工程で生成されたプロピレン系共重合体部分の比率(Wc)は3.0質量%、プロピレン・エチレン共重合体中のエチレン含量(Gv)は40質量%、プロピレン・エチレン共重合体の固有粘土(η)は3.5dL/gであった。臭気の官能試験を行った評価結果は良好であり、粉の色目の目視評価の結果も良好な外観であった。曲げ弾性率の測定値は1900MPaであった。
【0113】
(実施例4)
実施例1から、下記の通り変更することでプロピレン系重合体-4を得た。
第1工程と第2工程の間に供給する反応抑制剤の量を20mgに変更した。
第2工程で使用する混合ガスの組成を、プロピレン54.5mol%、エチレン36.3mol%、水素0.54mol%、窒素8.7mol%に変更した。また、ジメチルスルフィド(富士フィルム和光純薬試薬より購入)を使用し、濃度8.4×10-5mg/mLの超脱水ヘキサン溶液を調整し、前記反応抑制剤と同様のフィードタイミングで添加した。
上記以外は実施例1と同様の方法でプロピレン系重合体-4を製造した。
得られたプロピレン系重合体-4について分析した結果、MFR=14g/10min、第2工程で生成されたプロピレン系共重合体部分の比率(Wc)は24.5質量%、プロピレン・エチレン共重合体中のエチレン含量(Gv)は43質量%、プロピレン・エチレン共重合体の固有粘土(η)は4.0dL/gであった。臭気の官能試験を行った評価結果は良好であり、粉の色目の目視評価の結果も良好な外観であった。曲げ弾性率の測定値は950MPaであった。
【0114】
(実施例5)
実施例1から、下記の通り変更することでプロピレン系重合体-5を得た。
第1工程と第2工程の間に供給する反応抑制剤の量を20mgに変更した。
第2工程で使用する混合ガスの組成を、プロピレン54.5mol%、エチレン36.3mol%、水素0.54mol%、窒素8.7mol%に変更した。また、酢酸銅(富士フィルム和光純薬試薬より購入)を使用し、濃度1.0×10-7mg/mLの超脱水ヘキサン溶液を調整し、前記反応抑制剤と同様のフィードタイミングで添加した。
上記以外は実施例1と同様の方法でプロピレン系重合体-5を製造した。
得られたプロピレン系重合体-2について分析した結果、MFR=14g/10min、第2工程で生成されたプロピレン系共重合体部分の比率(Wc)は24.9質量%、プロピレン・エチレン共重合体中のエチレン含量(Gv)は42質量%、プロピレン・エチレン共重合体の固有粘土(η)は4.0dL/gであった。臭気の官能試験を行った評価結果は良好であり、粉の色目の目視評価の結果も良好な外観であった。曲げ弾性率の測定値は930MPaであった。
【0115】
(比較例1)
実施例1から、下記の通り変更することでプロピレン系重合体-C1を得た。
第1工程と第2工程の間に供給する反応抑制剤を、石油化学由来のエタノール(超脱水グレード、富士フィルム和光純薬試薬より購入)とした。この石油化学由来エタノールに含まれる不純物としては水分が10質量ppm以下、メタノールが20質量ppm以下、硫黄原子と銅原子は検出されなかった。
上記以外は実施例1と同様の方法でプロピレン系重合体-C1を製造した。
得られたプロピレン系重合体-C1について分析した結果、MFR=9.2g/10min、第2工程で生成されたプロピレン系共重合体部分の比率(Wc)は30質量%、プロピレン・エチレン共重合体中のエチレン含量(Gv)は40質量%、プロピレン・エチレン共重合体の固有粘土(η)は4.0dL/gであった。臭気の官能試験を行った評価結果は良好であり、粉の色目の目視評価の結果も良好な外観であった。曲げ弾性率の測定値は850MPaであった。
【0116】
(比較例2)
比較例1から、下記の通り変更することでプロピレン系重合体-C2を得た。
第1工程と第2工程の間に供給する反応抑制剤の量を20mgとした。
上記以外は実施例1と同様の方法でプロピレン系重合体-C2を製造した。
得られたプロピレン系重合体-C2について分析した結果、MFR=21g/10min、第2工程で生成されたプロピレン系共重合体部分の比率(Wc)は20質量%、プロピレン・エチレン共重合体中のエチレン含量(Gv)は40質量%、プロピレン・エチレン共重合体の固有粘土(η)は4.0dL/gであった。臭気の官能試験を行った評価結果は良好であり、粉の色目の目視評価の結果も良好な外観であった。曲げ弾性率の測定値は1220MPaであった。
【0117】
(比較例3)
比較例1から、下記の通り変更することでプロピレン系重合体-C3を得た。
第1工程と第2工程の間に供給する反応抑制剤の量を40mgとした。
上記以外は実施例1と同様の方法でプロピレン系重合体-C3を製造した。
得られたプロピレン系重合体-C3について分析した結果、MFR=91g/10min、第2工程で生成されたプロピレン系共重合体部分の比率(Wc)は2.0質量%、プロピレン・エチレン共重合体中のエチレン含量(Gv)は40質量%、プロピレン・エチレン共重合体の固有粘土(η)は4.0dL/gであった。臭気の官能試験を行った評価結果は良好であり、粉の色目の目視評価の結果も良好な外観であった。曲げ弾性率の測定値は1900MPaであった。
【0118】
(比較例4)
比較例1から、下記の通り変更することでプロピレン系重合体-C4を得た。
反応抑制剤を使用しなかった。
上記以外は実施例1と同様の方法でプロピレン系重合体-C4を製造した。
得られたプロピレン系重合体-C4について分析した結果、MFR=2.1g/10min、第2工程で生成されたプロピレン系共重合体部分の比率(Wc)は48質量%、プロピレン・エチレン共重合体中のエチレン含量(Gv)は40質量%、プロピレン・エチレン共重合体の固有粘土(η)は4.0dL/gであった。臭気の官能試験を行った評価結果は良好であり、粉の色目の目視評価の結果も良好な外観であった。目開き3350μmの篩で篩った結果、5質量パーセントの凝集塊状ポリマーの生成が認められた。曲げ弾性率の測定値は510MPaであった。
【0119】
(比較例5)
比較例1から、下記の通り変更することでプロピレン系重合体-C5を得た。
第1工程と第2工程の間に供給する反応抑制剤の量を20mgとした。
上記以外は実施例1と同様の方法でプロピレン系重合体-C5を製造した。
得られたプロピレン系重合体-C5について分析した結果、MFR=14g/10min、第2工程で生成されたプロピレン系共重合体部分の比率(Wc)は24.9質量%、プロピレン・エチレン共重合体中のエチレン含量(Gv)は42質量%、プロピレン・エチレン共重合体の固有粘土(η)は4.0dL/gであった。臭気の官能試験を行った評価結果は不良であり、粉の色目の目視評価の結果も不良な外観であった。曲げ弾性率の測定値は950MPaであった。
【0120】
(比較例6)
比較例1から、下記の通り変更することでプロピレン系重合体-C6を得た。
第1工程と第2工程の間に供給する反応抑制剤の量を20mgとした。
上記以外は実施例1と同様の方法でプロピレン系重合体-C6を製造した。
得られたプロピレン系重合体-C6について分析した結果、MFR=9.2g/10min、第2工程で生成されたプロピレン系共重合体部分の比率(Wc)は30質量%、プロピレン・エチレン共重合体中のエチレン含量(Gv)は40質量%、プロピレン・エチレン共重合体の固有粘土(η)は4.0dL/gであった。臭気の官能試験を行った評価結果は不良であり、粉の色目の目視評価の結果は良好な外観であった。曲げ弾性率の測定値は710MPaであった。
【0121】
重合結果及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0122】
【0123】
【0124】
実施例1、2及び3と比較例1、2及び3とをそれぞれ対比すると、反応抑制剤を用いない比較例4に比べて、実施例1~3はバイオマス由来の一定量の不純物を含む反応抑制剤を用いていながら、比較例1~3の化石燃料由来の反応抑制剤を用いた場合と遜色のない製造が可能であることが示されている。
実施例1~5及び比較例1~6の結果より、反応抑制剤として一定量の不純物を含むバイオエタノールを用いても、著しい生産性の低下、塊状樹脂の発生による長期運転不安定化を起こすことなく使用可能であり、バイオマス由来エタノールであるため環境に良いことが明らかにされた。また、反応抑制剤に水分が所定量より多く含有される場合、水分が製造装置内に堆積して機器の故障を誘発するなどの製造上の問題が発生し得るが、所定量以下の場合には製造上問題なく使用可能であることが明らかにされた。