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特開2024-2924導電性フィルム、センサーデバイス、および導電性フィルムの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002924
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】導電性フィルム、センサーデバイス、および導電性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/14 20060101AFI20231228BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
H01B5/14 B
H01B13/00 503D
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090082
(22)【出願日】2023-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2022101379
(32)【優先日】2022-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520449345
【氏名又は名称】キヤノンバージニア, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Canon Virginia, Inc.
【住所又は居所原語表記】12000 Canon Blvd., Newport News, Virginia, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】小林 遊磨
(72)【発明者】
【氏名】井上 圭
(72)【発明者】
【氏名】水澤 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 和香
【テーマコード(参考)】
5G323
【Fターム(参考)】
5G323CA05
(57)【要約】
【課題】定着性の高い導電性配線パターンを有するフィブロインフィルム、センサーデバイスおよび生体センサーデバイスを提供することである。
【解決手段】フィブロインを含有する基材、および複数の導電性粒子を含む導電性配線を有し、前記導電性配線は、前記基材に導電性粒子が浸透している浸透層に含まれる導電性粒子からなる浸透部と、前記基材に浸透していない導電性粒子からなる非浸透部と、を含むことを特徴とする導電性フィルムを提供する。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブロインを含有する基材、および複数の導電性粒子を含む導電性配線を有し、
前記導電性配線は、
前記基材に導電性粒子が浸透している浸透層に含まれる導電性粒子からなる浸透部と、
前記基材に浸透していない導電性粒子からなる非浸透部と、
を含むことを特徴とする、
導電性フィルム。
【請求項2】
前記浸透層の厚さが50nm以上250μm以下である請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項3】
前記非浸透部の厚さが50nm以上200μm以下である請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項4】
前記浸透層における前記基材のフィブロインのβシート比率が、5%以上55%以下である請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項5】
前記浸透層における前記基材のフィブロインのβシート比率が、15%以上50%以下である請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項6】
前記導電性粒子が、ニッケル、パラジウム、インジウム、アンチモン、スズ、白金、銅、銀または金からなる群より選択される少なくとも1種の金属または金属酸化物からなることを特徴とする請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項7】
前記導電性粒子の体積基準の累積50%粒子径が、5nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項8】
土台を含むことを特徴とする請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項9】
前記フィブロインは絹に由来する請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の導電性フィルム、および、該導電性フィルム上に設けられた電極を有するセンサーデバイス。
【請求項11】
前記電極が生体と接触して用いられることを特徴とする請求項10に記載のセンサーデバイス。
【請求項12】
フィブロイン水溶液を、膜状に塗布する工程、
塗布した膜を乾燥して基材を形成する工程、および
前記基材上に導電性粒子の水系分散体を記録する工程、
を有する導電性フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記フィブロイン水溶液中のフィブロインのβシート比率が5%以上55%以下である請求項12に記載の導電性フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記フィブロイン水溶液中のフィブロインのβシート比率が15%以上50%以下である請求項12に記載の導電性フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記導電性粒子の水系分散体の記録方法がインクジェット法である請求項12に記載の導電性フィルムの製造方法。
【請求項16】
前記導電性粒子の水系分散体を記録する工程の後に、さらに、前記導電性粒子を融着させる工程を含む請求項12に記載の導電性フィルムの製造方法。
【請求項17】
前記フィブロイン水溶液のフィブロインは絹に由来する請求項12に記載の導電性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性フィルム、センサーデバイス、および導電性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィブロインは生体適合性が高く、機械的強度・耐熱性などを有するため、生体に貼り付けて汗や脈拍などの生体情報を読み取るウェアラブルなセンサーデバイスなどに好適に用いられている。
【0003】
ウェアラブルに用いられるセンサーデバイスは、例えば、フィルム状の材料の上に電極を含む電気回路を有したデバイスとすることができる。このようなセンサーデバイスはたとえば腕に巻き付けて使用され、電極を通して皮膚からの生体信号を読み取ることで、生体情報を検出することができる。ウェアラブルに用いるために、センサーデバイスは、皮膚感作性が低く、生体適合性が高いフィルム状の材料の上に金属などの導電性材料からなる電極や抜き出し配線を設け、電気回路を形成することで作製される。電極部分に酵素反応検出機構や抵抗値変化を読み取る機構を設けることで、生体情報を検出して電気信号として抜き出すことができる。
【0004】
上記のようなセンサーデバイスは、生活において装着して使用される。そのため、擦過や屈曲および温度変化を繰り返し受ける。そのため、基材は、十分な生体適合性や機械的強度および耐熱性のある樹脂として、フィブロインを用いることが有効である。
【0005】
フィブロインのフィルム、シート、被膜または繊維などの成形体は、例えば蚕の幼虫が体内で産生するタンパク質であるシルクフィブロインを水または溶剤に溶解させシルクフィブロイン溶液とした後に、溶液を基体上に展開し、乾燥することで得ることができる。
特許文献1には、フッ素溶剤を含むフィブロイン溶液をフィルム化する方法が記載される。特許文献1では、シルクフィブロイン成形体の二次構造として、αヘリックス構造と、βシート構造があること、さらに、成形体のβシート構造の割合を制御する方法が記載されている。非特許文献1には、βシート構造は「分子内あるいは分子間でペプチド結合の間に水素結合が形成され、全体的に平面的な構造となるタンパク質二次構造」と定義されている。非特許文献2には、シルクフィブロインの二次構造のうちβシート構造の占める割合をIRスペクトルから定量的に求める方法が記載されている。
【0006】
フィブロインなどのフィルム上に、電気回路を形成する方法としては、古くよりフォトリソグラフィやめっき処理が用いられてきた。しかし、環境負荷が大きい、費用が高いといった問題から、近年エッチング処理が不要なインクジェットやスクリーン印刷などにより、金属または金属ナノ粒子のような導電性物質からなる配線パターンを直接記録する印刷方式が用いられるようになった。ただし、印刷された導電性配線パターンが剥がれやすいという課題があり、フィルム定着性の高い導電性配線パターンの記録方法が求められている。
【0007】
例えば、特許文献2には、金属薄膜にフィブロインをコーターで塗布する記録方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-94197号公報
【特許文献2】特開2011-110715公報
【特許文献3】特開2018-150637号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「絹の化学と材料開発」玉田靖、化学と教育 64巻9号(2016年)
【非特許文献2】「Thermoplastic moulding of regenerated silk」 Nature Materials, 2020, 19, 102
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、従来の技術では導電性配線パターンの導通とフィブロインフィルムへの定着性の双方を満足しなかった。したがって本発明の目的は、定着性の高い導電性配線パターンを有するフィブロインフィルム、センサーデバイスおよび生体センサーデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、フィブロインフィルムの内部と表面それぞれに導電性ナノ粒子を配置すると、内部と表面の導電性ナノ粒子が相互作用するため、高い導電性と定着性を両立できることを見出した。本発明は、係る知見に基づいて検討を重ねることにより完成したものである。
【0012】
すなわち、本発明は、一実施形態として、フィブロインを含有する基材、および複数の導電性粒子を含む導電性配線を有し、前記導電性配線は、前記基材に導電性粒子が浸透している浸透層に含まれる導電性粒子からなる浸透部と、前記基材に浸透していない導電性粒子からなる非浸透部と、を含むことを特徴とする、導電性フィルムを提供する。
【0013】
また、本発明は、一実施形態として、導電性フィルム、および、該導電性フィルム上に設けられた電極を有するセンサーデバイスを提供する。
【0014】
さらに、本発明は、一実施形態として、フィブロイン水溶液を、膜状に塗布する工程、塗布した膜を乾燥して基材を形成する工程、および前記基材上に導電性粒子の水系分散体を記録する工程、を有する導電性フィルムの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、定着性の高い導電性配線を有する導電性フィルムを得ることができ、定着性の高い導電性配線を有する導電性フィルムおよびセンサーデバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】導電性配線の例を示す。
図1B】導電性配線の例を示す。
図1C】導電性配線の例を示す。
図1D】導電性配線の例を示す。
図2A】本実施形態の導電性フィルムの断面の構成の一例を示す。
図2B】本実施形態の導電性フィルムの断面の構成の一例を示す。
図2C】本実施形態の導電性フィルムの断面の構成の一例を示す。
図2D】本実施形態の導電性フィルムの断面の構成の一例を示す。
図2E】本実施形態の導電性フィルムの断面の構成の一例を示す。
図2F】本実施形態の導電性フィルムの断面の構成の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明は一実施形態として、
フィブロインを含有する基材、および複数の導電性粒子を含む導電性配線を有し、
前記導電性配線は、
前記基材に導電性粒子が浸透している浸透層に含まれる導電性粒子からなる浸透部と、
前記基材に浸透していない導電性粒子からなる非浸透部と、
を含むことを特徴とする、導電性フィルムを提供する。
【0019】
(導電性フィルムおよび導電性配線)
本実施形態の導電性フィルムは薄い膜状であり、好ましくは、厚さが250μm未満である。本実施形態において、導電性配線は、導電性フィルム上に存在する第1の点と第2の点の間に電気的な接続を提供することのできるものを指す。第1の点と第2の点は、導電性フィルム上にあれば、特に限定されないが、たとえば、電子部品または電極が配置された場所とすることができ、電子部品または電極と3次元的に接触していてもよい。また。第1の点と第2の点の組合せは、導電性フィルム上に複数あってもよく、それらの点が互いに重複してもよい。導電性配線は、例えば、センサー電極と素子を電気的に接続するものであってもよく、間に抵抗などの素子が挟まれていてもよい。導電性配線は面状でも線状でもよい。回路を描くようにパターニングされていてもよい。本実施形態において、導電性配線は、互いに導電パスを形成する程度に十分に近くに存在する複数の導電性粒子を含むことによって形成される。ただし、導電性配線には、通電に寄与しない導電性粒子が含まれてもよい。導電性配線の例を図1Aから図1Dに示す。図1Aは、導電性配線が長方形の面状の例を示す。図1Bは、導電性配線が波形の線状の例を示す、図1Cは導電性フィルムの全面に導電性配線が形成されている例を示す。図1Dは、導電性配線3がパターン化された回路である例を示す。
また、上記のような導電性フィルム同士を全面または部分的に積層させて、導電パスを3次元化することで、省スペースな電気回路を形成することができる。
【0020】
導電性配線の厚みは、50nm以上が好ましい。50nmよりも薄いと、導電性粒子間の導電パスが十分に形成されず、導電性を示さない可能性がある。さらには、導電性配線の厚みは50nm以上200μm以下が好ましく、50nm以上100μm以下であることがより好ましい。導電性配線を200μm以下とすることで、導電性配線が、導電性フィルム1上の他の物体と接触してしまう可能性を低くできる。導電性配線の電気伝導率は好ましくは10Ω-1・cm-1以上10Ω-1・cm-1以下である。
【0021】
本実施形態の導電性フィルムの断面の構成の一例を図2Aに示す。導電性フィルム1はフィブロインを含有する基材(以下フィブロイン基材、あるいは基材ともいう)6、および複数の導電性粒子2からなる導電性配線3を有する。また、導電性フィルム1は、土台8を含むことができる。ただし、本実施形態の導電性フィルム1に土台8は必須ではない。導電性フィルム1は、その表面がコーティングされていてもよい。図2AからEを参照しながら、以降、さらに説明する。
【0022】
(導電性粒子)
導電性粒子2は金属または金属酸化物で形成されている粒子であり、金属種としては、ニッケル、パラジウム、インジウム、スズ、白金、銅、銀、および金からなる群より選択される少なくとも1種の金属で形成されていることが好ましい。金属は酸化物でもよく、抵抗を下げるために元素が固溶され、ドーピングされていてもよい。例えば、ドーピングされる元素としては、例えば、アンチモン、インジウム、シリコン、ゲルマニウム、スズ、リン、マグネシウム、アルミニウムなどを挙げることができる。
【0023】
導電性粒子2はナノ粒子であることが望ましく、フィブロイン基材への浸透性の観点から、体積基準の累積50%粒子径は、5nm以上100nm以下であることが望ましく、10nm以上50nm以下であることがより好ましい。5nm未満の導電性粒子2を用いると、凝集しやすく安定的に浸透させづらくなる。また100nmより大きい導電性粒子2を用いても、浸透しづらくなるため好ましくない。導電性粒子2の粒径は、透過型電子顕微鏡、小角X線散乱法などで測定することができる。
【0024】
(フィブロインを含有する基材、および、フィブロイン)
本実施形態の導電性フィルム1は、フィブロイン基材6を有する。フィブロイン基材6の原料として用いるフィブロインは、1次構造として(グリシン-アラニン-グリシン-アラニン-グリシン-セリン/チロシン)の6つのアミノ酸が結合したモチーフが繰り返す領域を持つタンパク質分子であり、絹、昆虫またはクモ類が産生する生糸、または繭から夾雑物を除いて得ることができる。昆虫またはクモ類としては、例えば、特許文献3に記載されている品種が挙げられる。フィブロインの高次構造はランダムコイルとαヘリックス型およびβシート構造に分けられ、うち水に不溶な性質を示すβシート構造の比率によって、フィブロイン基材と水の親和性を制御することができる。すなわち、浸透層5のフィブロイン基材のβシート比率を調整することで、インクジェット用金属インクなどの導電性粒子の水系分散体の浸透性を制御することができる。βシート比率が高くなると、疎水性が高くなり、浸透しづらくなる一方で、内部に浸透した導電性粒子は固定されやすくなり、定着性の観点では有利になる。一方でβシート比率が低くなると、親水性が高くなり、浸透しやすくなる一方で、非浸透部4を形成する導電性粒子2が残らない可能性があり、導電性の観点では不利となる。このため、導電性粒子2を記録する際には好ましいβシート比率の範囲があると考えられる。以上の理由から、フィブロイン基材6のβシート比率は、5%以上55%以下であることが好ましく、15%以上50%以下であることがより好ましい。あるいは、フィブロイン基材6中のβシート比率は均一でなくともよく、その場合、フィブロイン基材6のうち浸透部5aの導電性粒子2を内包する層(浸透層)のβシート比率は、5%以上55%以下であることが好ましく、15%以上50%以下であることがより好ましい。βシート比率は、ATR法を用いたFT-IR分析を使用することで定量が可能である。具体的には、非特許文献2に記載の方法を使用することができる。
【0025】
(土台)
土台8は本実施形態の導電性フィルム1に必須のものではない。土台8の材質は特に制限されるものでなく、耐熱温度の低い材質を用いることも可能である。例えば、紙、ガラス、樹脂シート、セラミックまたは金属が好ましい。樹脂シートとしては、特に制限されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI),ポリエチレングリコール(PEG)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリシアノアクリレート、ポリ無水物、ポリケトン、ポリ(オルソエステルス)、ポリ-ε-カプロラクトン、ポリアセタール、ポリ(α-ヒドロキシエステル)、ポリカーボネート、ポリ(イミノカーボネート)、ポリフォスファゼン、ポリ(β-ヒドロキシエステル)、ポリペプチド、ゼラチン、セルロース、キトサン、コラーゲン、フィブロインなどの樹脂が挙げられる。前記樹脂のうち、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリシアノアクリレート、ポリ無水物、ポリケトン、ポリ(オルソエステルス)、ポリ-ε-カプロラクトン、ポリアセタール、ポリ(α-ヒドロキシエステル)、ポリカーボネート、ポリ(イミノカーボネート)、ポリフォスファゼン、ポリ(β-ヒドロキシエステル)、ポリペプチド、ゼラチン、セルロース、キトサン、コラーゲン、フィブロインなどの生体適合性がある樹脂からなるシートであることが好ましい。前記生体適合性樹脂シートのうち、ゼラチン、セルロース、キトサン、コラーゲン、フィブロインなどの天然高分子からなる樹脂シートが好ましい。コーティング方法としては、スプレーコート、インクジェット、ディスペンサ・ノズルコート、スピンコート、スリットコート、ロールコート、ディップコート、ブレードコート、ワイヤーバーコート、スクリーン印刷などの方法が挙げられる。
【0026】
(浸透部/非浸透部)
図2Aに示すように、本実施形態の導電性フィルム1において、導電性配線3は、フィブロイン基材6に導電性粒子2が浸透している導電性粒子からなる浸透部5aとフィブロイン基材6に浸透していない導電性粒子からなる非浸透部4からなる。
【0027】
浸透層5においては、浸透部5aを構成する導電性粒子2はフィブロイン基材6に内包されている。内包とは、導電性粒子2がフィブロイン基材6のフィブロインマトリクスの間に入り込んだ状態である。内包された導電性粒子2はフィブロインマトリクスに捕捉されるため、擦過に強く、剥がれにくい状態になると考えられる。導電性粒子2の一部のみが内包された状態のものがあってよく、すなわち、浸透部5aと非浸透部4の両方にわたる導電性粒子2が存在してもよい。浸透部5aの導電性粒子2は、非浸透部4の導電性粒子2と相互作用し、あるいは融着し、アンカー効果を奏し、導電性配線3のフィブロイン基材6への定着性を向上すると考えられる。すなわち、浸透部5aの導電性粒子2と、非浸透部4の導電性粒子2は相互作用あるいは融着していることが望ましい。このような構成をとることで、アンカー効果を奏し、さらに、導電パスが増え、導電性の観点からも有利となる。
【0028】
上記のような効果を奏するために、浸透層5の厚さは50nm以上であることが望ましい。浸透層5の上限は定める必要はないが、250μm以下であり、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。すなわち、浸透層5の好ましい厚さの例は50nm以上250μm以下である。
【0029】
また、非浸透部4の厚みは、50nm以上であることが望ましい。50nm以上の厚みとすることで、導電性粒子間の導電パスが十分に形成され、十分な導電性を得ることができる。導電性配線3の厚さは、厚いほど大電流を通電できるが、厚すぎると、近傍の電子部品などの導通を意図しない部分と接触するおそれがあるため、非浸透部4の厚さは200μm以内であることが好ましく、100μm以内であればより好ましい。
【0030】
例えば、導電性フィルム1の断面を電子顕微鏡で観察し、浸透部5aと非浸透部4を区別することができる。浸透層5においては電子顕微鏡写真の像で、フィブロイン基材6中に、導電性粒子2が粒子状で存在することが認められる。より具体的には、浸透層5においては、電子顕微鏡写真の像で、フィブロイン基材6が占める面積に対し、導電性粒子2が占める面積の割合が、好ましくは30%以上90%以下である。より好ましくは、40%以上90%以下である。さらに好ましくは、50%から90%である。導電性粒子2が占める面積の割合が、30%以上であると、パーコレーション閾値を超え、導電パスが形成される。90%を超えるとフィルムの強度が低下してしまう。
【0031】
フィブロイン基材6のうち、浸透層5より下の部分である下層7においては、電子顕微鏡写真の像で、フィブロイン基材6が占める面積に対し、導電性粒子2が占める面積の割合が、好ましくは0%以上30%未満である。導電性粒子2が占める面積の割合が30%未満であると、パーコレーションが起こらず、導電パスが形成されない。すなわち、下層7は導電性粒子2を実質含まないか、あるいは、含んでも、導電性配線3と導電パスを形成しない程度である。
【0032】
図2Cに示すように、浸透層5がフィブロイン基材6の全部にわたっており、下層7が存在しなくてもよい。また、導電性粒子2の存在割合は浸透層5全体で均一でなくてよく、図2B図2Dに示すように、下方(図中矢印で示す)に向かい、導電性粒子2の存在割合が徐々に下がっていてもよい。
【0033】
一方、下層7の導電性粒子2は導電パスを形成しないため、絶縁層として働き、導電性フィルム1を使用する際の、意図しない通電や、漏電を防ぎ、通電効率を上げることに寄与する。したがって、本実施形態の導電性フィルム1は下層7が存在する方がより好ましい。このため、下層7は、電気伝導率が10-22Ω-1・cm-1以上10-8Ω-1・cm-1以下であることが好ましい。
【0034】
またフィブロイン基材は、図2Eに示すように、さらに第2のフィブロイン基材9を有してもよい。第2のフィブロイン基材9は、フィブロイン基材6とは異なる方法で形成されてもよく、あるいは、異なる組成のフィブロイン水溶液によって形成されてもよく、βシート比率が異なってもよい。
また、図2Fに示すように、浸透層5がフィブロイン基材6の全部にわたっており、下層7および土台8が存在しなくてもよい。また、導電性粒子2は上面から下面への導通パスを形成してもよい。このようにして得られた上下に導通のあるフィブロイン基材を図2Eのように積層して、3次元的な導通パターンを形成していてもよい。
【0035】
(センサーデバイス)
本発明は一実施形態として、上記で説明した、導電性フィルム、および、該導電性フィルム上に設けられた電極を有するセンサーデバイスを提供する。
本発明のセンサーデバイスは、導電性配線を有する導電性フィルム上に電極を有している。電極は、種々のものを用いることができる。イオン電極でもよく、検出イオンとしては、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、アンモニウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、銀イオン、タンタルイオン、銅イオン、金イオン、カルシウムイオン、鉛イオン、水銀イオン、マグネシウムイオンのような陽イオンであってもよく、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫化物イオン、シアノ化物イオン、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、硝酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硫酸イオンのような陰イオンであってもよい。化学反応を電気信号に変換するように設計されたものであってもよく、例えば酵素電極であってもよい。
酵素電極は例えばグルコースオキシダーゼ、ウリカーゼ、アルコールオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ラクテートオキシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、L-アミノ酸オキシダーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、ペニシリナーゼ、β-グルコシダーゼなどが挙げられる。
本実施形態のセンサーデバイスは、好ましくは、生体情報を検出するものであり、生体と接触して使用される。電極は、例えば、表面電極であり得、脳波、心電図、皮膚電気反射、筋電図を検出するものでもよい。あるいは、電極は皮下電極でもよく、筋活動電位や、神経活動電位を検出するものでもよい。例えば、血液や、汗や尿などの代謝物に含まれる成分を検出するものでもよい。皮膚に張り付けてもよく、常に身に着けるような形態のものであってもよい。
【0036】
(導電性配線パターンを有するフィブロインフィルムの製造方法)
本発明は一実施形態として、
フィブロイン水溶液を、膜状に塗布する工程、
塗布した膜を乾燥して基材を形成する工程、および
前記基材上に導電性粒子の水系分散体を記録する工程、
を有する導電性フィルムの製造方法を提供する。
【0037】
(フィブロイン水溶液)
本実施形態の導電性配線パターンを有するフィブロインフィルムの製造方法におけるフィブロイン水溶液は、フィブロインと、水を含んでいるものである。フィブロインの濃度は特に制限されないが、水溶液重量に対して40重量部以上になると、流動性が損なわれる可能性がある。フィブロイン水溶液中のフィブロイン分子の分子量は、特に規定されないが、分子量が大きく、例えば4万以上であれば、フィルム化した際の機械的強度の観点で有利である。フィブロイン水溶液は、昆虫やクモが産生する液を使用してもよく、例えば、蚕の体内から取り出したものを使用してもよい。また、昆虫やクモの繭や、繭から調製される生糸や絹を使用してもよい。具体的には、絹や生糸や繭を精練してセリシンを除去する工程と、精練した生糸や繭を臭化リチウムまたは塩化カルシウム溶液に高温下で溶解させる工程と、臭化リチウムまたは塩化カルシウムを除去する工程を経て抽出したフィブロイン水溶液を使用してもよく、公知の方法を用いて抽出したフィブロイン水溶液を使用してもよい。フィブロイン水溶液は少量のセリシンや塩を含んでもよく、安定化剤を含んでいてもよい。安定化剤としては、尿素、チオ尿素、グアニジン塩酸塩、チオシアン酸グアニジウム、アルギニン、アルギニン塩酸塩、コリン、塩化コリン、アンモニア、テトラメチルアンモニウムクロリド、1-メチルピリジニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、トリエチルメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムアセタート、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、オルニチン塩酸塩、グリシンアミド塩酸塩、グリシンエチルエステル塩酸塩、アラントイン、ヒダントイン、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。また、フィブロイン水溶液はフィルム化後のβシート比率を向上させるためのゲル化剤を含んでいてもよい。ゲル化剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ベタインなどが挙げられる。
【0038】
(フィブロイン水溶液を膜状に塗布する工程)
本実施形態の導電性配線パターンを有するフィブロインフィルムの製造方法は、フィブロイン水溶液を膜状に塗布する工程を有する。塗布工程には、種々の方法を用いることができ、公知の塗布方法を用いてもよい。例えば、公知のコーティング方法を用いてもよく、インクジェット法、フレキソ法、スピンコーティング法、ディスペンサ・ノズルコート法、スリットコート法、ロールコート法、ディップコート法、ブレードコート法、ワイヤーバーコート法、スクリーン印刷法であってもよい。
【0039】
(塗布した膜を乾燥する工程)
本実施形態の導電性配線パターンを有するフィブロインフィルムの製造方法は、フィブロイン水溶液を塗布した膜を乾燥する工程を有する。乾燥温度は、特に制限されないが、30℃以上150℃未満が好ましい。低温下で乾燥すると時間がかかり、フィブロインの構造がゆっくりと変化していくため、安定な構造に向かい、βシート比率が高くなる可能性がある。一方で、高温下で乾燥するとフィブロインの構造が急激に変化し、βシート比率が低くなる可能性がある。乾燥時間としては、十分に揮発成分が除去できる限りであれば、特に制限されないが、除去までの時間が長いほどβシート比率が高くなることが考えられる。
【0040】
(導電性粒子の水系分散体)
導電性配線は、導電性粒子の水系分散体をフィブロイン基材上に記録して形成することができる。導電性粒子の水系分散体には、導電性粒子の他に水性媒体を含有しても良い。
水性媒体とは、水または水を主溶媒としてプロトン性や非プロトン性の有機溶媒を併用した混合媒体である。有機溶媒としては、水と任意の割合で混和または溶解するものを用いることが好ましく、水を50質量%以上含有する均一な混合媒体を用いることが好ましい。水としては、脱イオン水や超純水を用いることが好ましい。
【0041】
プロトン性の有機溶剤は、酸素や窒素に結合した水素原子(酸性水素原子)を有する有機溶剤である。また、非プロトン性の有機溶剤は、酸性水素原子を有しない有機溶剤である。有機溶剤としては、例えば、アルコール類、アルキレングリコール類、ポリアルキレングリコール類、グリコールエーテル類、グリコールエーテルエステル類、カルボン酸アミド類、ケトン類、ケトアルコール類または環状エーテル類などを挙げることができる。
【0042】
好適に用いることができる水性媒体としては、例えば、水、水/エタノール混合溶媒、水/エチレングリコール混合溶媒または水/N-メチルピロリドン混合溶媒などを挙げることができる。
【0043】
水性媒体の含有量は、分散体全質量を基準として、10.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましく、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。95質量%を超えると、導電性粒子の濃度が不足して記録時の導電性が低くなるため好ましくない。また10質量%を下回ると、導電性粒子が凝集してしまい、フィルム内部へと浸透しづらくなるため、好ましくない。
【0044】
(導電性粒子の水系分散体を記録する工程)
本実施形態の導電性配線パターンを有するフィブロインフィルムの製造方法は、導電性粒子の水系分散体を記録する工程を有する。
導電性粒子の水系分散体の記録方法は、種々の方法を用いることができ、インクジェット法、フレキソ法、スピンコーティング法、ディスペンサ・ノズルコート法、スリットコート法、ロールコート法、ディップコート法、ブレードコート法、ワイヤーバーコート法、スクリーン印刷法などが挙げられる。中でも、インクジェット法を用いることが好ましい。例えばインクジェット法は、導電性ナノインクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して記録媒体に画像を記録する方法である。組成物を吐出する方式としては、組成物に力学的エネルギーを付与する方式や、組成物に熱エネルギーを付与する方式が挙げられる。インクジェット記録方法の工程は公知のものを用いてよい。
【0045】
(βシート比率を調整する工程)
本実施形態の導電性配線パターンを有するフィブロインフィルムの製造方法は、βシート比率を調整する工程を有してもよい。βシート比率を調整する方法は、種々の方法を用いることができ、例えば、乾燥温度と乾燥時間を制御することで、フィブロインフィルムのβシート比率を調整してもよい。塗布前のフィブロイン水溶液に処理を施すことで、フィブロインフィルムのβシート比率を調製してもよい。具体的には、水溶液にせん断をかける方法、熱を加える方法、長期間放置する方法、化学物質を添加する方法、電流を流す方法を用いてもよい。乾燥後のフィルムに処理を施すことで、フィブロインフィルムのβシート比率を調整してもよい。具体的には、フィルムに水蒸気や有機溶剤をあててもよく、せん断や圧力、熱を与えてもよく、電流を流してもよい。また、公知の方法を用いてフィブロインフィルムのβシート比率を調整してもよい。
【0046】
(導電性粒子を融着させる工程)
本実施形態の導電性配線パターンを有するフィブロインフィルムの製造方法は、導電性粒子を融着させる工程を有してもよい。導電性粒子を融着させる工程は、種々の方法を用いることができる。例えば、導電性粒子の水系分散体をフィブロイン基材に付与した後、室温またはその付近の温度、即ち20℃以上50℃以下の温度で乾燥させるという簡便な方法であってもよい。導電性粒子の水系分散体には水分が含まれていてもよいが、水や組成物が蒸発して導電性粒子だけになっていてもよい。高温で加熱乾燥してもよく、フィブロインのβシート比率が変化する方法でもよい。例えば、50℃以上200℃以下の温度で加熱してもよい。レーザーや超音波などを用いて、内包される導電性粒子を直接加熱する方法であってもよい。工程の時間は特に制限されず、例えば10秒間の工程でもよく、半年間かかる工程であってもよい。
【実施例0047】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例により限定されるものではない。なお、成分量に関しては「部」および「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0048】
<分析手法>
実施例で使用した分析手法は以下の通りである。
(βシート比率の測定)
βシート比率の測定は、ダイヤモンドATR法を使用したFT-IR法で行った。フィルムのFT-IRスペクトルを測定し、1580cm-1から1720cm-1の範囲のスペクトルを、それぞれβシート構造由来ピーク1(ピーク中心:1620cm-1)、ランダムコイル/αヘリックス構造由来ピーク(ピーク中心:1645cm-1~1655cm-1)、βターン構造由来ピーク(ピーク中心:1685cm-1)およびβシート構造由来ピーク2(ピーク中心:1698cm-1)の4つのピークに分離し、それぞれガウス関数でフィッティングを行い、βシート構造由来ピークの面積比から算出した。
分析装置はSpectrum one(Perkin-Elmer社製)を使用した。
【0049】
[実施例1]
(絹の精練)
5Lのガラスビーカーに、超純水4.5Lを加熱し沸騰させたのち、炭酸ナトリウム(キシダ化学社製)8.48gを加え、0.02mol/Lの炭酸ナトリウム溶液とし、家蚕の切繭(タジマ商事社製)を1cm角に切り刻んだものを10g加えて30分間加熱することでセリシンを除去した絹を得た。絹を冷たい超純水で洗浄したのち、水気を切り、ドラフト内で一晩乾燥させて、精練後絹を得た。
【0050】
(フィブロイン水溶液の調製)
メスシリンダーに、臭化リチウム(キシダ化学社製)0.86gを加え、10mLにメスアップして9.3mol/Lの臭化リチウム溶液を得た。100mLのガラスビーカーに精練後絹3.0gを詰め、精練後絹が完全に浸るように、9.3mol/LのLiBr溶液14.8mLを加えたのち、60℃のオーブンで2時間溶解させ、透明な水溶液を得た。
【0051】
(フィブロイン水溶液の精製)
分画分子量3500、容量30mLの透析カセット(Thermo Scientific社製)に、得られた透明な水溶液19mLをシリンジで注入し、2Lの超純水中に浸して透析を行った。8時間ごとに1度水を交換し、合計48時間の透析を行い、低分子の夾雑物やリチウムイオンを取り除いた。得られた水溶液を遠心分離機CR7N(ヤマト科学社製)で11000rpm/4℃で20分間回転させて不純物をとり除き、フィブロイン水溶液を得た。マイクロチップ型電気泳動装置Agilent2100バイオアナライザ電気泳動システム(アジレント社製)を用いて測定された分子量は100kDaであった。測定は下記に示す条件で行った。
・マイクロチップ、分離マトリクス、蛍光色素、泳動用緩衝液、分子量標準ラダー:Agilent Protein230キット
・対照試料:ウシ血清アルブミン凍結乾燥粉末,>96%(アガロースゲル電気泳動)(Sigma-Aldrich社製、分子量66.5kDa)
・シルクフィブロイン水溶液および対照試料の希釈液および濃度:8M尿素水溶液を用いて、シルクフィブロイン水溶液は1.0-1.5質量/体積%に、対照試料は約1.3質量/体積%に希釈した。
・励起波長:630nm
・検出波長:680nm
シルクフィブロインの分子量の算出にあたっては、専用の2100 Expertソフトウェアを使用した。試料とともに測定した分子量標準ラダーのデータから得られた分子量検量線によって、シルクフィブロインの分子量を算出した。なお、分子量算出に用いる電気泳動のバンドは、色が最も濃く出ているバンドを使用した。
得られたフィブロイン水溶液を60℃オーブンで2時間乾燥させ、固形分濃度を測ったところ、5.0%であった。
【0052】
(フィブロインフィルムの作製)
作製したフィブロイン水溶液をPETフィルム(パナック社製)上にバーコーター#50(アズワン社製)で塗布し、膜厚100μmの湿潤膜を得た。湿潤膜を37℃オーブン中で1時間乾燥させ、フィブロインフィルム1を得た。FT-IR装置を用いてβシート比率を測定した結果を表1に示す。
【0053】
(バーコーターによる導電性粒子の水系分散体の記録)
作製したフィブロインフィルム1上にバーコーター#1(アズワン社製)を用いて、導電性粒子の水系分散体として、水系金インクDryCureAu-J(粒径20nm、C-INK社製)を塗布し、膜厚2μmの導電性インク湿潤膜を得た。得られた記録物を温度23℃、相対湿度55%の環境で24時間乾燥させ、2mm×3cmの形状にカッターで切り出し、導電性フィルム1(形状;2mm×3cmの長方形画)を得た。得られた導電性フィルムを液体窒素で凍結させ、カミソリで断面出しを行って透過型電子顕微鏡SU-70(日立ハイテック社製)で断面観察を行った。断面画像から測定した非浸透部の厚さおよび浸透層の厚さを表1に示す。
【0054】
[実施例2]
実施例1で作製したフィブロインフィルムを、ホットプレス装置(アズワン社製)を用いて、632MPaの高圧、140℃の高熱条件で15分間プレスした以外は、実施例1に記載の方法に準拠して導電性配線を有する導電性フィルム2を得た。βシート比率の測定結果と、断面画像から測定した非浸透部の厚さおよび浸透層の厚さを表1に示す。
【0055】
[実施例3]
(インクジェット機による導電性粒子の水系分散体の記録)
導電性粒子の水系分散体として、水系金インクDryCureAu-J(粒径20nm、C-INK社製)を用い、これをインクジェット法で、フィブロインフィルム上に記録した。すなわち、水系金インクDryCureAu-Jを充填したインクタンクを、インクジェット記録装置であるピエゾヘッド型インクジェット機LaboJet-500(MicroJet社製)に装着した。この記録装置を用い、実施例1で作製したフィブロインフィルム上に100μmピッチで水系金インクDryCureAu-Jを印画し、金属インク記録物(形状;2mm×3cmの長方形画)を得た。得られた記録物を温度23℃、相対湿度55%の環境で24時間乾燥させ導電性フィルム3(形状;2mm×3cmの長方形画)を得た。得られた導電性フィルムを液体窒素で凍結させ、カミソリで断面出しを行って透過型電子顕微鏡SU-70(日立ハイテック社製)で断面観察を行った。断面画像から測定した非浸透部の厚さおよび浸透層の厚さを表1に示す。
【0056】
[実施例4]
実施例1で作製したフィブロインフィルムを、ホットプレス装置(アズワン社製)を用いて、632MPaの高圧、140℃の高熱条件で15分間プレスした以外は、実施例3に記載の方法に準拠して導電性フィルム4を得た。βシート比率の測定結果と、断面画像から測定した非浸透部の厚さおよび浸透部の厚さを表1に示す。
【0057】
[実施例5]
フィブロイン水溶液塗布後の湿潤膜の乾燥条件を60℃オーブン中で1時間乾燥に変更した以外は、実施例3に記載の方法に準拠して導電性フィルム5を得た。βシート比率の測定結果と、断面画像から測定した非浸透部の厚さおよび浸透層の厚さを表1に示す。
【0058】
[実施例6]
フィブロイン水溶液塗布後の湿潤膜の乾燥条件を37℃オーブン中で4時間乾燥に変更した以外は、実施例3に記載の方法に準拠して導電性フィルム6を得た。βシート比率の測定結果と、断面画像から測定した非浸透部の厚さおよび浸透層の厚さを表1に示す。
【0059】
[実施例7]
フィブロイン水溶液塗布後の湿潤膜の乾燥条件を40℃オーブン中で7時間乾燥に変更した以外は、実施例3に記載の方法に準拠して導電性フィルム7を得た。βシート比率の測定結果と、断面画像から測定した非浸透部の厚さおよび浸透層の厚さを表1に示す。
【0060】
[実施例8]
フィブロイン水溶液塗布後の湿潤膜の乾燥条件を80℃オーブン中で7時間乾燥に変更する以外は、実施例3に記載の方法に準拠して導電性フィルム8を得た。βシート比率の測定結果と、断面画像から測定した非浸透部の厚さおよび浸透層の厚さを表1に示す。
【0061】
[実施例9]
導電性粒子の水系分散体を水系銀インクDryCureAg-J(粒径20nm、C-INK社製)に変更した以外は、実施例6に記載の方法に準拠して導電性フィルム9を得た。βシート比率の測定結果と、断面画像から測定した非浸透部の厚さおよび浸透層の厚さを表1に示す。
【0062】
[実施例10]
導電性粒子の水系分散体を、水系金コロイド(粒径5nm、メルク社製)を遠心分離によって5%に濃縮したものに変更した以外は、実施例6に記載の方法に準拠して導電性フィルム10を得た。βシート比率の測定結果と、断面画像から測定した非浸透部の厚さおよび浸透層の厚さを表1に示す。
【0063】
[実施例11]
導電性粒子の水系分散体を、水系金コロイド(粒径100nm、メルク社製)を遠心分離によって5%に濃縮したものに変更した以外は、実施例6に記載の方法に準拠して導電性フィルム11を得た。βシート比率の測定結果と、断面画像から測定した非浸透部の厚さおよび浸透層の厚さを表1に示す。
【0064】
[実施例12]
導電性粒子の水系分散体の記録方法を、実施例1に記載の方法に変更した以外は、実施例6に記載の方法に準拠して導電性フィルム12を得た。βシート比率の測定結果と、断面画像から測定した非浸透部の厚さおよび浸透層の厚さを表1に示す。
【0065】
[実施例13]
37℃オーブン中で4時間乾燥させたのちに、エタノールの蒸気の中に1時間間さらした以外は、実施例6に記載の方法に準拠して導電性フィルム13を得た。βシート比率の測定結果と、断面画像から測定した非浸透部の厚さおよび浸透層の厚さを表1に示す。
【0066】
[比較例1]
フィブロイン水溶液塗布後の湿潤膜の乾燥条件を25℃のドラフト内で7時間乾燥に変更した以外は、実施例3に記載の方法に準拠して比較用導電性フィルム14を得た。βシート比率の測定結果と、断面画像から測定した非浸透部の厚さおよび浸透層の厚さを表1に示す。
【0067】
[比較例2]
比較例1に記載の方法に準拠して得たフィブロインフィルムを、ホットプレス装置(アズワン社製)を用いて、632MPaの高圧、180℃の高熱条件で15分間プレスした以外は、実施例3に記載の方法に準拠して比較用導電性フィルム15を得た。βシート比率の測定結果と、断面画像から測定した非浸透部の厚さおよび浸透層の厚さを表1に示す。
【0068】
[比較例3]
実施例6に記載の方法に準拠して得たフィブロインフィルム上に、バーコーター#1(アズワン社製)を用いて、溶剤系銀インクFlowMetal SR7040(バンドー化学社製)を記録して膜厚4μmの湿潤金属膜を形成した。得られた湿潤金属膜を、相対湿度55%の環境で24時間乾燥させ、比較用導電性フィルム16(形状;2mm×3cmの長方形画)を得た。βシート比率の測定結果と、断面画像から測定した非浸透部の厚さおよび浸透層の厚さを表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
[実施例14]
実施例1で作製した導電性フィルム1を、ホットプレート上で120℃1時間加熱し、乾燥後の導電性フィルム1を得た。
【0071】
(導電性評価)
触針式膜厚計(Tencor製)を使用して得られた導電性画像の膜厚を測定した。測定した膜厚から導電性画像の断面積を算出し、4端針法によって抵抗を測定し、導電率を算出した。算出した導電率を表2に示す。また、以下に示す評価基準にしたがって乾燥後の導電性フィルム1の導電性を評価した。以下に示す評価基準において、「A」を許容できる範囲とし、「B」を許容できない範囲とした。結果を表2に示す。
A:導電率が5×10S/cm以上であった。
B:導電率が5×10S/cm未満であったか、導電性を示さなかった。
【0072】
(定着性試験と評価)
印画膜の中心に配線を分断するようにカッターでキズをつけて定着性試験を行い、導電性評価法に従って導電率を測定および算出した。測定および算出した導電率を表2に示す。また、定着性試験前後における導電率の減少率を、式1に示す式を用いて算出し、以下に示す評価基準に従って乾燥後の導電性フィルム1の定着性を評価した。結果を表2に示す。
(式1)
導電率の減少率(%)=-100×(1-定着性試験前の導電率(S/cm)/定着性試験後の導電率(S/cm))
A:導電率の減少率が50%以下であった。
B:導電性の減少率が50%を超えていたか、キズをつけた後に導電性を示さなかった。
【0073】
[実施例15]
実施例2で作製した導電性フィルム2を、ホットプレート上で120℃1時間加熱し、乾燥後の導電性フィルム2を得た。また、導電率測定および評価、定着性試験および評価を実施例14の方法に準拠して行った。結果を表2に示す。
【0074】
[実施例16]
実施例3で作製した導電性フィルム3を、ホットプレート上で120℃1時間加熱し、乾燥後の導電性フィルム3を得た。また、導電率測定および評価、定着性試験および評価を実施例14の方法に準拠して行った。結果を表2に示す。
【0075】
[実施例17]
実施例4で作製した導電性フィルム4を、ホットプレート上で120℃1時間加熱し、乾燥後の導電性フィルム4を得た。また、導電率測定および評価、定着性試験および評価を実施例14の方法に準拠して行った。結果を表2に示す。
【0076】
[実施例18]
実施例5で作製した導電性フィルム5を、ホットプレート上で120℃1時間加熱し、乾燥後の導電性フィルム5を得た。また、導電率測定および評価、定着性試験および評価を実施例14の方法に準拠して行った。結果を表2に示す。
【0077】
[実施例19]
実施例6で作製した導電性フィルム6を、ホットプレート上で120℃1時間加熱し、乾燥後の導電性フィルム6を得た。また、導電率測定および評価、定着性試験および評価を実施例14の方法に準拠して行った。結果を表2に示す。
【0078】
[実施例20]
実施例7で作製した導電性フィルム7を、ホットプレート上で120℃1時間加熱し、乾燥後の導電性フィルム7を得た。また、導電率測定および評価、定着性試験および評価を実施例14の方法に準拠して行った。結果を表2に示す。
【0079】
[実施例21]
実施例8で作製した導電性フィルム8を、ホットプレート上で120℃1時間加熱し、乾燥後の導電性フィルム8を得た。また、導電率測定および評価、定着性試験および評価を実施例14の方法に準拠して行った。結果を表2に示す。
【0080】
[実施例22]
実施例9で作製した導電性フィルム9を、ホットプレート上で120℃1時間加熱し、乾燥後の導電性フィルム9を得た。また、導電率測定および評価、定着性試験および評価を実施例14の方法に準拠して行った。結果を表2に示す。
【0081】
[実施例23]
実施例10で作製した導電性フィルム10を、ホットプレート上で120℃1時間加熱し、乾燥後の導電性フィルム10を得た。また、導電率測定および評価、定着性試験および評価を実施例14の方法に準拠して行った。結果を表2に示す。
【0082】
[実施例24]
実施例11で作製した導電性フィルム11を、ホットプレート上で120℃1時間加熱し、乾燥後の導電性フィルム11を得た。また、導電率測定および評価、定着性試験および評価を実施例14の方法に準拠して行った。結果を表2に示す。
【0083】
[実施例25]
実施例12で作製した導電性フィルム12を、ホットプレート上で120℃1時間加熱し、乾燥後の導電性フィルム12を得た。また、導電率測定および評価、定着性試験および評価を実施例14の方法に準拠して行った。結果を表2に示す。
【0084】
[実施例26]
実施例13で作製した導電性フィルム13を、ホットプレート上で120℃1時間加熱し、乾燥後の導電性フィルム13を得た。また、導電率測定および評価、定着性試験および評価を実施例14の方法に準拠して行った。結果を表2に示す。
【0085】
[比較例4]
比較例1で作製した比較用導電性フィルム14を、ホットプレート上で120℃1時間加熱し、乾燥後の比較用導電性フィルム14を得た。また、導電率測定および評価、定着性試験および評価を実施例14の方法に準拠して行った。結果を表2に示す。
【0086】
[比較例5]
比較例2で作製した比較用導電性フィルム15を、ホットプレート上で120℃1時間加熱し、乾燥後の比較用導電性フィルム15を得た。また、導電率測定および評価、定着性試験および評価を実施例14の方法に準拠して行った。結果を表2に示す。
【0087】
[比較例6]
比較例3で作製した比較用導電性フィルム16を、ホットプレート上で120℃1時間加熱し、乾燥後の比較用導電性フィルム16を得た。また、導電率測定および評価、定着性試験および評価を実施例14の方法に準拠して行った。結果を表2に示す。
【0088】
[実施例27]
実施例6で作製した導電性フィルム6を、25℃のドラフト内で24時間乾燥させ、乾燥後の導電性フィルム6を得た。また、導電率測定および評価、定着性試験および評価を実施例14の方法に準拠して行った。結果を表2に示す。
【0089】
[実施例28]
実施例19で作製した乾燥後の導電性フィルム6の底面をサンドペーパー#1000で削り取り、導電性フィルム17を作製した。膜の断面像を確認すると、導電性粒子が底面まで分布していることが確認できた。パターン形成部のフィルム上面側と底面間の導通を確認し、3次元的に導電パスが形成されていることを確認した。
【0090】
[実施例29]
実施例28で作製した導電性フィルム17を10枚作製し、パターン形成部が重なるように積層して圧着し、導電性フィルム18を作製した。パターン形成部のフィルム上面側と底面間の導通を確認し、3次元的に導電パスが形成されていることを確認した。
【0091】
【表2】
【0092】
本発明の実施形態は以下の構成および方法を含む。
(構成1)
フィブロインを含有する基材、および複数の導電性粒子を含む導電性配線を有し、
前記導電性配線は、
前記基材に導電性粒子が浸透している浸透層に含まれる導電性粒子からなる浸透部と、
前記基材に浸透していない導電性粒子からなる非浸透部と、
を含むことを特徴とする、
導電性フィルム。
(構成2)
前記浸透層の厚さが50nm以上250μm以下である構成1に記載の導電性フィルム。
(構成3)
前記非浸透部の厚さが50nm以上200μm以下である構成1または2に記載の導電性フィルム。
(構成4)
前記浸透層における前記基材のフィブロインのβシート比率が、5%以上55%以下である構成1から3のいずれかに記載の導電性フィルム。
(構成5)
前記浸透層における前記基材のフィブロインのβシート比率が、15%以上50%以下である構成1から4のいずれかに記載の導電性フィルム。
(構成6)
前記導電性粒子が、ニッケル、パラジウム、インジウム、アンチモン、スズ、白金、銅、銀または金からなる群より選択される少なくとも1種の金属または金属酸化物からなることを特徴とする構成1から5のいずれかに記載の導電性フィルム。
(構成7)
前記導電性粒子の体積基準の累積50%粒子径が、5nm以上100nm以下であることを特徴とする構成1から6のいずれかに記載の導電性フィルム。
(構成8)
土台を含むことを特徴とする構成1から7のいずれかに記載の導電性フィルム。
(構成9)
前記フィブロインは絹に由来する構成1から8のいずれかに記載の導電性フィルム。
(構成10)
構成1から9のいずれかに記載の導電性フィルム、および、該導電性フィルム上に設けられた電極を有するセンサーデバイス。
(構成11)
前記電極が生体と接触して用いられることを特徴とする構成10に記載のセンサーデバイス。
(方法1)
フィブロイン水溶液を、膜状に塗布する工程、
塗布した膜を乾燥して基材を形成する工程、および
前記基材上に導電性粒子の水系分散体を記録する工程、
を有する導電性フィルムの製造方法。
(方法2)
前記フィブロイン水溶液中のフィブロインのβシート比率が5%以上55%以下である方法1に記載の導電性フィルムの製造方法。
(方法3)
前記フィブロイン水溶液中のフィブロインのβシート比率が15%以上50%以下である方法1または2に記載の導電性フィルムの製造方法。
(方法4)
前記導電性粒子の水系分散体の記録方法がインクジェット法である方法1から3のいずれかに記載の導電性フィルムの製造方法。
(方法5)
前記導電性粒子の水系分散体を記録する工程の後に、さらに、前記導電性粒子を融着させる工程を含む方法1から4のいずれかに記載の導電性フィルムの製造方法。
(方法6)
前記フィブロイン水溶液のフィブロインは絹に由来する方法1から5のいずれかに記載の導電性フィルムの製造方法。
【符号の説明】
【0093】
1 導電性フィルム
2 導電性粒子
3 導電性配線
4 非浸透部
5 浸透層
5a 浸透部
6 フィブロイン基材
7 下層
8 土台
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F