(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029271
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
B60W 50/12 20120101AFI20240228BHJP
B60W 30/188 20120101ALI20240228BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B60W50/12
B60W30/188
F02D29/06 H
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126037
(22)【出願日】2022-08-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179453
【弁理士】
【氏名又は名称】會田 悠介
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】吉川 史哲
(72)【発明者】
【氏名】柳田 久則
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 崇
(72)【発明者】
【氏名】松下 悟史
【テーマコード(参考)】
3D241
3G093
【Fターム(参考)】
3D241BA60
3D241BB14
3D241BC01
3D241DA13B
3D241DA23Z
3D241DA24Z
3D241DA39Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DC45Z
3G093AA01
3G093BA04
3G093BA13
3G093CA06
3G093CB05
3G093DB05
3G093DB13
(57)【要約】
【課題】スイッチバック状態において、駆動力の制限による減速力の低減を抑制し、逆走による移動距離が延びることを防止できる運転支援装置を提供する。
【解決手段】運転支援装置は、アクセルペダル操作を検出するアクセルペダル操作検出手段と、進行方向を検出する進行方向手段と、シフトレンジを検出するシフトレンジ検出手段と、検出された進行方向とシフトレンジに基づく進行方向とが一致しないスイッチバック状態が生じていることを判定するスイッチバック判定部3と、アクセルペダル操作に応じて駆動力を制限する駆動力制限部4と、を備え、駆動力制限部4は、アクセルペダル操作に応じて駆動力の制限を実行するとともに、スイッチバック状態が生じている場合の駆動力の制限量を、スイッチバック状態が生じていない場合の駆動力の制限量よりも小さくする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のアクセルペダル操作を検出するアクセルペダル操作検出手段と、
前記車両の現在の進行方向を検出する進行方向検出手段と、
前記車両の現在のシフトレンジを検出するシフトレンジ検出手段と、
前記検出された進行方向と前記検出されたシフトレンジに基づく進行方向とが一致しないスイッチバック状態が生じていることを判定するスイッチバック判定部と、
前記検出されたアクセルペダル操作に応じて前記車両の駆動力を制限する駆動力制限部と、を備え、
前記駆動力制限部は、前記検出されたアクセルペダル操作に応じて前記駆動力の制限を実行するとともに、前記スイッチバック状態が生じている場合の前記駆動力の制限量を、前記スイッチバック状態が生じていない場合の前記駆動力の制限量よりも小さくする
ことを特徴とする、運転支援装置。
【請求項2】
前記駆動力制限部は、前記スイッチバック状態が生じている場合に、前記駆動力の制限量を最小にすることを特徴とする、請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記駆動力制限部は、前記スイッチバック状態が生じている場合は、前記検出されたアクセルペダル操作にかかわらず、前記駆動力の制限の実行を禁止することを特徴とする、請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記駆動力制限部は、前記駆動力の制限の実行を禁止しているときに、前記スイッチバック状態が生じていない場合には、前記駆動力の制限の実行の禁止を解除して前記駆動力の制限を実行することを特徴とする、請求項3に記載の運転支援装置。
【請求項5】
前記所定以上の前記アクセルペダル操作が検出された場合に、前記車両の運転者に対する報知を行うように構成された報知部を更に備えることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行状態に応じて駆動力を制限することで運転者による運転を支援する運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通参加者の中でも高齢者や障がい者や子供といった脆弱な立場にある人々にも配慮した持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する取り組みが活発化している。この実現に向けて、車両の挙動安定性向上に関する開発を通して交通の安全性や利便性をより一層改善する研究開発に注力している。
【0003】
車両の挙動安定性に関する開発の一つとして、車両の発進時や停車時などの低速運転条件下で、運転者の誤操作等に起因する急加速を回避するために、車両の制駆動力を制御する技術が知られている。
【0004】
例えば特許文献1では、車両の衝突可能性に基づき減速を実行する第1制御手段と、運転者の加速意図に基づき第1制御手段による減速を中止する第2制御手段と、運転者による運転操作が誤操作であると判定した場合に加速を抑制する第3制御手段と、第3制御手段により加速が抑制されている場合に第2制御手段による減速の中止を禁止する第4制御手段とを備える運転支援装置が開示されている。
【0005】
この運転支援装置では、運転者の誤操作を加速意図と判定し減速を中止してしまうことを防止する。例えば、アクセルペダルを踏みこんだ状態で、車両のシフトポジションを車両を後進させるためのリバースレンジ(Rレンジ)から車両を前進させるためのドライブレンジ(Dレンジ)に切り替える操作がなされた場合、運転者に前方への加速意図はなく、当該操作は誤操作であると判断し、車両の加速が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の技術は、スイッチバックと呼ばれる、選択されたシフトレンジによる車両の進行方向(前進/後進)と実際の車両の進行方向とが不一致となる走行状態において、不都合を生じる場合がある。例えば、車庫や駐車場などの駐車スペースに車両を前進させて駐車(いわゆる前向き駐車)した場合を考える。この場合、車両を発進させる際には、シフトスイッチ/レバーをRレンジに入れ、車両を後進させて駐車スペースから脱出した後、シフトスイッチ/レバーをDレンジに切り替え、車両を前進させて発進させることとなる。
【0008】
こうした一連の運転操作において、早急に車両を発進させたい運転者が、車両の後進中に急いでシフトスイッチ/レバーをDレンジに入れ、すぐに発進しようとする場合に、シフトレンジによる進行方向(前進)と現在の車両の進行方向(後進)が異なることとなり、上述のスイッチバック状態が発生する。
【0009】
このような場合、Dレンジにおける運転者のアクセル操作は、スイッチバック状態における逆走を減速させ、順走方向に加速することを意図したものであるとみることができる。すなわち、スイッチバック状態での急アクセル操作は、誤操作ではなく、逆走を防止するための減速意思によるものであると考えられる。しかしながら、上述の特許文献1に記載の技術では、このような状況下での急アクセル操作は誤操作と判定されてしまい、運転者のアクセル操作により得られたはずの前進方向への駆動力が小さく制限されることとなる。その結果として、逆走状態における減速が遅れることとなり、車両の後進状態での移動距離が延びるという問題があった。
【0010】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、スイッチバック状態において、車両の駆動力が大きく制限されることによる車両の減速力の低減を抑制し、車両の逆走による移動距離が延びることを防止することができる運転支援装置を提供することを目的とする。そして、延いては持続可能な輸送システムの発展に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために、本発明の請求項1に係る運転支援装置は、車両のアクセルペダル操作を検出するアクセルペダル操作検出手段(実施形態における(以下、本項において同じ)ECU2、アクセルペダルセンサ12)と、車両の現在の進行方向を検出する進行方向検出手段(ECU2、車速センサ14)と、車両の現在のシフトレンジを検出するシフトレンジ検出手段(ECU2、シフトポジションセンサ13)と、検出された進行方向と検出されたシフトレンジに基づく進行方向とが一致しないスイッチバック状態が生じていることを判定するスイッチバック判定部3と、検出されたアクセルペダル操作に応じて車両の駆動力を制限する駆動力制限部4と、を備え、駆動力制限部4は、検出されたアクセルペダル操作に応じて駆動力の制限を実行するとともに、スイッチバック状態が生じている場合の駆動力の制限量を、スイッチバック状態が生じていない場合の駆動力の制限量よりも小さくすることを特徴とする。
【0012】
この運転支援装置によれば、車両の進行方向と現在のシフトレンジに基づき、車両の実際の進行方向とシフトレンジによる進行方向とが不一致なスイッチバック走行が行われているか否かを判定する。そして、スイッチバック状態にあると判定した場合には、非スイッチバック状態のときよりも誤操作による急加速を防止するための駆動力の制限量を小さく設定する。これにより、非スイッチバック状態においては、運転者の誤操作による車両の急加速を防止することができるとともに、スイッチバック状態においては、運転者が逆走状態を解消するために大きなアクセル操作を行った場合に、当該アクセル操作により発生した駆動力を大きく制限することなく車両に作用させることができる。したがって、スイッチバック状態において、車両の駆動力が大きく制限されることによる車両の減速力の低減を抑制し、車両の逆走による移動距離が延びることを防止することができる運転支援装置を提供することができる。
【0013】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の運転支援装置において、駆動力制限部4は、スイッチバック状態が生じている場合に、駆動力の制限量を最小にすることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、車両が現在スイッチバック状態にあると判定した場合には、誤操作による急加速を防止するための駆動力の制限量を最小にする。これにより、運転者による逆走状態を解消するためのアクセル操作により生じた駆動力は、ほぼ制限されることなく車両に作用することになる。したがって、スイッチバック状態において、車両の駆動力が制限されることによる車両の減速力の低減を更に抑制し、車両の逆走による移動距離が延びることをより効果的に防止することができる運転支援装置を提供することができる。
【0015】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項1に記載の運転支援装置において、駆動力制限部4は、スイッチバック状態が生じている場合は、検出されたアクセルペダル操作にかかわらず、駆動力の制限の実行を禁止することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、車両が現在スイッチバック状態にあると判定した場合には、アクセルペダル操作によらず、誤操作による急加速を防止するための駆動力の制限を実行しない。これにより、運転者による逆走状態を解消するためのアクセル操作により生じた駆動力は、制限されることなく車両に作用することになる。したがって、スイッチバック状態において車両の駆動力が制限されることによる車両の減速力の低減を更に抑制し、スイッチバック状態における車両の逆走による移動距離が延びることをより効果的に防止することができる運転支援装置を提供することができる。
【0017】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項3に記載の運転支援装置において、駆動力制限部4は、駆動力の制限の実行を禁止しているときに、スイッチバック状態が生じていない場合には、駆動力の制限の実行の禁止を解除して駆動力の制限を実行することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、車両が現在スイッチバック状態にあると判定した場合には駆動力の制限を実行しないが、その後、スイッチバック状態が解消された場合には、駆動力の制限をあらためて実行する。これにより、スイッチバック状態における運転者のアクセル操作により車両の逆走状態が解消され、車両が順走方向への加速を開始したタイミングで駆動力が制限されるので、スイッチバック状態を脱した際の車両の急発進を防止することができる。
【0019】
本発明の請求項5に係る発明は、請求項1~4のいずれか1項に記載の運転支援装置において、所定以上のアクセルペダル操作が検出された場合に、車両の運転者に対する報知を行うように構成された報知部5を更に備えることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、車両がスイッチバック状態にあるか否かにかかわらず、アクセルペダル操作が所定以上になったことを運転者に報知するため、運転者に急加速の可能性を認識させ、安全な運転を意識させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る運転支援装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る運転支援装置における駆動力制限の制御処理を示すフローチャートである。
【
図3】スイッチバック状態発生時の動作例を示すタイミングチャートである。
【
図4】別の実施形態に係る運転支援装置における駆動力制限の制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る運転支援装置の構成を概略的に示している。本実施形態の運転支援装置1は、自動車等の車両に搭載されるものであり、車両の走行状態に応じて駆動力を制限するための駆動力制限制御を実行することが可能に構成されている。
【0023】
運転支援装置1は、ECU(Electronic Control Unit)2及び各種のセンサにより構成されており、ECU2は、CPU、RAM、ROM及びI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などから成るマイクロコンピュータで構成されている。ECU2には、アクセル開度センサ11、アクセルペダルセンサ12、シフトポジションセンサ13、車速センサ14、ブレーキペダルセンサ15、ウインカーセンサ16、勾配センサ17などのセンサが接続されており、それらの検出信号が逐次、入力される。
【0024】
アクセル開度センサ11は、車両のアクセル開度、すなわちスロットルバルブ18の開度を検出する。アクセル開度センサ11により検出されたアクセル開度APの情報は、ECU2に出力される。
【0025】
アクセルペダルセンサ12は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量、及びアクセルペダル踏み込み量の単位時間当たりの増加量として算出されるアクセルペダル踏み込み速度等を検出するためのセンサである。アクセルペダルセンサ12により検出された踏み込み量や踏み込み速度等の情報は、ECU2に出力される。
【0026】
シフトポジションセンサ13は、車両の車室内の運転席付近に設けられたシフトスイッチ又はシフトレバー(いずれも不図示)の操作位置を検出するためのセンサである。シフトスイッチ/レバーは、その操作位置に応じて各種のシフトポジション、例えば前進走行用のDレンジ、後進走行用のRレンジ、駐車用のPレンジ等を選択するものである。シフトポジションセンサ13により検出されたシフトポジションの情報は、ECU2に出力される。
【0027】
車速センサ14は、車両の速度を検出するセンサであり、検出された速度の情報は、ECU2に出力される。ブレーキペダルセンサ15は、運転者によるブレーキペダルの操作量等を検出するセンサであり、検出されたブレーキペダルの操作量等の情報は、ECU2に出力される。ウインカーセンサ16は、車両の方向指示器の点灯状態や指示方向等を検出するセンサであり、検出された点灯状態等の情報は、ECU2に出力される。勾配センサ17は、車両の走行路面の勾配を検出するセンサであり、検出された勾配の情報は、ECU2に出力される。なお、勾配センサは加速度センサで置き換えられてもよい。
【0028】
ECU2は、ROM又はRAMに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、スイッチバック判定部3、駆動力制限部4、報知部5といった各部の機能を実現する。
【0029】
スイッチバック判定部3は、車速センサ14から入力された現在の車速等に基づき、車両の現在の進行方向(前進又は後進)を検出する。また、シフトポジションセンサ13から入力された車両の現在のシフトポジションに基づき、車両のシフトレンジによる進行方向を判定する。例えば、シフトレンジがDレンジであれば前進方向、Rレンジであれば後進方向と判定されることになる。そして、車両の現在の進行方向と、シフトレンジによる進行方向とが不一致の場合に、スイッチバック状態が生じていると判定する。
【0030】
駆動力制限部4は、後述する所定の駆動力制限禁止条件が充足されず、かつ、急アクセル操作があったとの判定が成立した場合に、スロットルバルブ18の開度の上限値を制限することにより、車両の駆動力を制限する駆動力制限制御を実行する。また、後述するように、スイッチバック判定部の判定結果に応じ、駆動力の制限の大きさを変化させる制御を実行する。なお、モータを動力源とする電動車両やハイブリッド車両の場合、スロットルバルブの開度制限に代えて、モータの出力を制限すること等により車両の駆動力を制限する構成とすることができる。
【0031】
報知部5は、運転者による急アクセル操作があったと判定された場合に、各種のHMI(Human Machine Interface)19を介して、急アクセル操作が検出されたことや、駆動力を抑制する機能が作動していることなどを運転者に報知する。このようなHMIを介した報知の例としては、ダッシュボードやコントロールパネル等に設けられたディスプレイ上に文字で警告を表示する、車載スピーカーから音声による注意や警告音を発する、などが挙げられるが、これらに限られず、運転者に適切に注意を促すことができるものであれば、どのようなものであってもよい。
【0032】
図2は、本実施形態の運転支援装置1による駆動力制限の制御処理を示す。本処理は、車両の通常運転状態において、所定時間ごとに繰り返し実行される。本処理では、まずステップ201(「S201」と図示。以下同じ)において、所定の制限禁止条件が充足されているか否かを判定する。この制限禁止条件は、駆動力を制限する制御が不要と考えられる走行状態を規定したものであり、本実施形態では、例えば車速に基づく所定条件が成立する場合に制限禁止条件が充足されたと判定する。これらの各条件は、上述の各センサ14~17の検出信号に基づき、駆動力制限部4により成否が判断される。なお、これらの制限禁止条件は例示であり、設定に応じて適宜変更可能である。
【0033】
ステップ201の判定結果がYESの場合、現在の走行状態においては駆動力を制限する必要はないと判断し、先のステップには進まずに、ステップ201の判定を繰り返し行う。一方、ステップ201の判定結果がNOの場合、現在の走行状態において駆動力を制限する必要が生じる可能性があると判断し、次のステップ202に進む。
【0034】
ステップ202では、アクセルペダル操作に基づき増減する現在のアクセル開度APが、所定の第1しきい値開度APref1を超えているか否かを判別する。このステップ202は、運転者による急アクセル操作があったか否かを判定するためのステップであり、第1しきい値開度APref1は、急アクセル操作があったと判定するに足りる大きなアクセル開度として設定される。
【0035】
ステップ202の判別結果がNOの場合、急アクセル操作があったと判断できるほどのアクセル開度はではない、すなわち、急アクセル操作があったと判断できるほどのアクセルペダル操作は検出されていないと判断し、ステップ201の判定を再度行う。一方、ステップ202の判別結果がYESの場合、急アクセル操作があったと判断し、次のステップ203に進む。
【0036】
ステップ203では、車両に備えられた各種のHMIを介し、運転者に対して急アクセル操作が検出されたことや、駆動力を抑制する機能が作動していることなどを報知した後、ステップ204に進む。本実施形態では、例えばコントロールパネルに設けられたディスプレイ上に「急アクセル抑制機能作動中」、「アクセルを戻してください」のようなメッセージを点滅表示するとともに、車載スピーカーから警告音を発することで運転者に対する報知を行う。
【0037】
次いで、ステップ204では、車両が現在スイッチバックの走行状態にあるか否かを判定する。スイッチバックの走行状態としては、「シフトレンジがDレンジであり、車両の進行方向が後進」である場合と、「シフトレンジがRレンジであり、車両の進行方向が前進」である場合とが想定される。
【0038】
ステップ204の判定結果がYESの場合、すなわち車両がスイッチバック状態にある場合、上述のように、運転者による急アクセル操作は誤操作ではなく、スイッチバック状態における逆走を減速させ、順走方向に加速する意図によるものであると判断し、ステップ205において、駆動力の制限量を小さな値に設定し(すなわち、駆動力を大きく制限せず)、次のステップ207に進む。なお、本実施形態では、ステップ205における駆動力の制限量を、最小値に設定する。ここで、最小値は「0」(すなわち、全く制限しない)であってもよい。
【0039】
一方、ステップ204の判定結果がNOの場合、すなわち車両がスイッチバック状態にない場合、運転者による急アクセル操作が誤操作によるものである可能性を考慮し、ステップ206において、車両の急加速を防止する目的で、駆動力の制限量を大きな値に設定し(すなわち、駆動力を大きく制限し)、ステップ207に進む。なお、本実施形態では、ステップ206における駆動力の制限は、スロットルバルブ18の開度の上限値をほぼ0%に設定することにより実行される。したがって、この場合、クリープ現象相当の駆動力のみが車両に作用することになる。なお、このとき、アクセルペダルが所定時間以上、継続して踏み続けられた場合や、短い時間内に複数回、踏み込まれた場合には、当該アクセルペダルの操作は誤操作によるものではなく、運転者の意図した加速要求である可能性も考えられる。このような場合に、誤操作の可能性と加速要求の可能性の両方を考慮し、制限付きで(例えば、車速が所定の制限値以上とならない範囲で)、アクセルペダル操作に基づいてスロットルバルブ18の開度の上限値を大きく設定するような構成としてもよい。
【0040】
ステップ207では、駆動力制限制御の終了条件として、現在のアクセル開度APが、所定の第2しきい値開度APref2以下になったか否かを判別する。第2しきい値開度APref2は、運転者による急アクセル操作が終了したと判断することが可能な任意の開度として設定される。第2しきい値開度APref2は、第1しきい値開度APref1と同じ値であってもよい。この判別結果がNOの場合、すなわちアクセル開度APが未だ第2しきい値開度APref2を超えている場合には、駆動力の制限を続行し、再度ステップ204の判定から処理を繰り返す。
【0041】
一方、ステップ207の判別結果がYESの場合、すなわちアクセル開度APが第2しきい値開度APref2以下となった場合は、運転者による急アクセル操作が終了したと判断し、ステップ208において駆動力の制限を解除すると共にステップ203で行われた運転者に対する報知を解除し、本処理を終了する。なお、駆動力の制限が解除された直後に車両が急加速してしまうことを防止するため、ある程度の時間をかけて駆動力の制限を徐々に緩めていくようにしてもよい。
【0042】
次に、
図3を参照しながら、スイッチバック状態が発生した際の動作を説明する。同図のタイミングチャートは、車両の後進中にシフトレンジがRレンジからDレンジに切り替えられたことでスイッチバック状態が生じた場合の動作例を示すものである。特に、車両が駐車スペースからRレンジで後進して脱出し、車両が後進を続けている間にシフトレンジがDレンジに切り替えられたスイッチバック状態において、発進を急ぐ運転者により急アクセル操作が行われた場合を想定している。なお、説明の便宜のために時刻t1~t7を例示したが、各時刻間の幅は、必ずしも実際の経過時間の長さと一致するものではない。
【0043】
同図の時刻t1において、車両はRレンジで後進を行っている。アクセルペダル操作を示すアクセル開度APは中程度であり、急アクセル操作は検出されていないため、駆動力の制限は実行されておらず、アクセル開度APの上限値は100%に設定されている。この時点ではスイッチバック状態は生じておらず、車両の後進方向の速度は緩やかに上昇している。
【0044】
その後、時刻t2において、アクセルペダルの踏み込みが緩められることによりアクセル開度APが減少した後、時刻t3において、車両が後進している状況でシフトレンジがDレンジに切り替えられることにより、車両の進行方向(後進)とシフトレンジによる進行方向(前進)とが異なるスイッチバック状態が生じたと判定する。
【0045】
その後、時刻t4において、運転者がアクセル操作を開始することでアクセル開度APが増大し、それにより車両に作用する駆動力も上昇を開始する。後進している車両に対して前進方向の駆動力が働くことにより、車両の減速が促進されることとなる。
【0046】
その後、時刻t5において、アクセル開度APが第1しきい値開度APref1を超えたことにより、運転者による急アクセル操作があったと判定し、運転者に対するHMIを介した報知が行われるとともに、駆動力の制限が実行される。ただし、この時点で車両はスイッチバック状態にあるため、駆動力の制限量は小さく、アクセル開度APの上限値は殆ど制限されない。したがって、車両に対して前進方向の駆動力が大きく作用し、車両の減速が更に促進される。
【0047】
その後、車両に対して前進方向の駆動力が作用し続けることにより、車両の進行方向が後進から前進に転じたタイミング(時刻t6)で、車両の逆走が解消され、スイッチバック状態を脱したと判定する。運転者はアクセル操作を継続しているので、運転者に対する報知は継続され、駆動力の制限も続行される。このとき、既に車両はスイッチバック状態を脱しているので、駆動力の制限量が大きくなり、アクセル開度の上限値は0%付近に設定される。その後の時刻t7においても、運転者によるアクセル操作が係属しているため、駆動力の制限も継続することとなり、車両に作用する駆動力はクリープ現象相当の駆動力に制限されることとなる。
【0048】
以上のように、本実施形態の運転支援装置1によれば、運転者による急アクセル操作が検出された場合に、駆動力の制限が実行されるので、運転者の誤操作による急加速を適切に防止することができる。また、急アクセル操作が検出された場合であっても、車両がスイッチバック状態にあるときには、当該急アクセル操作は誤操作によるものではなく、車両の逆走を減速させ、順走方向に加速する意図によるものであるとの想定の下、駆動力の制限量を小さく設定する。これにより、スイッチバック状態において車両の駆動力が大きく制限されることによる車両の減速力の低減を抑制し、スイッチバック状態における車両の逆走による移動距離が延びることを防止することができる。
【0049】
また、スイッチバック状態で駆動力の制限が小さく設定されている場合であっても、その後、スイッチバック状態が解消された場合には、あらためて駆動力を大きく制限する。したがって、スイッチバック状態で運転者が急アクセル操作を行った場合、車両の進行方向が逆走から順走に転じたタイミングで、駆動力が大きく制限されるので、スイッチバック状態を脱した直後に車両が急発進することを適切に防止することができる。
【0050】
また、運転者による急アクセル操作が検出されると、それを運転者に報知するので、運転者に急加速の可能性を認識させ、安全な運転を意識させることができる。
【0051】
次に、
図4を参照して、本発明の第2実施形態に係る運転支援装置101について説明する。運転支援装置101の構成は上述した実施形態における運転支援装置1とほぼ同様であるが、アクセルペダル操作を示すパラメータとして、アクセル開度APに加え、アクセルペダルセンサ12の検出信号も用いて駆動力の制限を実行する際の判定を実行する点で上述の実施形態と異なっている。以下、具体的に説明する。
【0052】
図4に示す制御処理では、ステップ401において制限禁止条件が充足されているか否かを判定し、ステップ402においてアクセル開度APが所定の第1しきい値開度APref1を超えているか否かを判別する点までは、
図2のステップ201及びステップ202の処理と同様であるが、第2実施形態では、運転者による急アクセル操作が行われたことをより正確に検出するため、更にステップ403の判定処理が追加されている。
【0053】
ステップ403では、アクセルペダルセンサが検出したアクセルペダルの踏み込み量の単位時間当たりの増加量として算出される踏み込み速度ΔAPが、所定のしきい値速度ΔAPrefを超えているか否かを判別する。しきい値速度ΔAPrefは、運転者による急アクセル操作があったと判定するに足りる任意の値として設定することができる。
【0054】
ステップ403の判別結果がNOの場合、急アクセル操作があったと判断できるほどの踏み込み速度ではないと判断し、ステップ401に戻って判定を再度行う。一方、ステップ403の判別結果がYESの場合、急アクセル操作があったと判断し、次のステップ404に進む。
【0055】
ステップ404~ステップ409の処理は、
図2のステップ203~ステップ208の処理と同様であり、車両がスイッチバック状態にあるか否かによって駆動力の制限量を変化させ、アクセル開度APが所定以下となった場合に駆動力の制限を解除するとともに運転者への報知を解除し、本処理を終了する。
【0056】
以上のように、第2実施形態の運転支援装置101では、アクセル開度とアクセルペダル踏み込み速度という2つのパラメータを参照することで、運転者による急アクセル操作があったか否かの判定を行うので、急アクセル操作の有無をより正確に判定することができ、本当に必要な状況下でのみ駆動力の制限を実行することにより、ドライバビリティを向上させることができる。
【0057】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。たとえば、上述の実施形態では、車両がスイッチバック状態にある場合の駆動力の制限として、アクセル開度APの上限値を殆ど制限しない構成について説明したが、スイッチバック状態における駆動力の制限量は、スイッチバック状態にない場合の制限量よりも小さい任意の値に設定可能である。スイッチバック状態においてもある程度駆動力を制限するように構成することで、逆走状態での急減速の発生を防止することもできる。
【0058】
また、実施形態では、車両がスイッチバック状態にない場合の駆動力の制限として、アクセル開度の上限値をほぼ0%に設定する構成としたが、車速が所定以下となるようにアクセル開度の上限値を変化させる構成としてもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 運転支援装置
2 ECU
3 スイッチバック判定部
4 駆動力制限部
5 報知部
11 アクセル開度センサ(アクセル開度検出手段)
12 アクセルペダルセンサ
13 シフトポジションセンサ(シフトレンジ検出手段)
14 車速センサ(進行方向検出手段)
15 ブレーキペダルセンサ
16 ウインカーセンサ
17 勾配センサ
18 スロットルバルブ
19 HMI(Human Machine Interface)
AP アクセル開度
【手続補正書】
【提出日】2024-01-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のアクセルペダル操作を検出するアクセルペダル操作検出手段と、
前記車両の現在の進行方向を検出する進行方向検出手段と、
前記車両の現在のシフトレンジを検出するシフトレンジ検出手段と、
前記検出された進行方向と前記検出されたシフトレンジに基づく進行方向とが一致しないスイッチバック状態が生じていることを判定するスイッチバック判定部と、
前記検出されたアクセルペダル操作に応じて前記車両の駆動力を制限する駆動力制限部と、を備え、
前記駆動力制限部は、前記検出されたアクセルペダル操作に応じて前記駆動力の制限を実行するとともに、前記スイッチバック状態が生じている場合の前記駆動力の制限量を、前記スイッチバック状態が生じていない場合の前記駆動力の制限量よりも小さくする
ことを特徴とする、運転支援装置。
【請求項2】
前記駆動力制限部は、前記スイッチバック状態が生じている場合に、前記駆動力の制限量を0にすることを特徴とする、請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記駆動力制限部は、前記スイッチバック状態が生じている場合は、前記検出されたアクセルペダル操作にかかわらず、前記駆動力の制限の実行を禁止することを特徴とする、請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記駆動力制限部は、前記駆動力の制限の実行を禁止しているときに、前記スイッチバック状態が生じていない場合には、前記駆動力の制限の実行の禁止を解除して前記駆動力の制限を実行することを特徴とする、請求項3に記載の運転支援装置。
【請求項5】
所定以上の前記アクセルペダル操作が検出された場合に、前記車両の運転者に対する報知を行うように構成された報知部を更に備えることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の運転支援装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の運転支援装置において、駆動力制限部4は、スイッチバック状態が生じている場合に、駆動力の制限量を0にすることを特徴とする。