(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029311
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】放電ランプ
(51)【国際特許分類】
H01J 61/36 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
H01J61/36 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131498
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池 喜匡
【テーマコード(参考)】
5C043
【Fターム(参考)】
5C043AA14
5C043AA15
5C043AA17
5C043CC05
5C043DD13
5C043EB14
5C043EB16
(57)【要約】
【課題】封止部材の機械的強度を改善した放電ランプを提供する。
【解決手段】放電ランプは、放電容器と、一対の電極と、各電極にそれぞれ接続される二本のリード棒と、二つの側管と、前記二つの側管のうちの一つである第一側管と前記第一側管内を延びる第一リード棒との間に配置され、絶縁性物質と導電性物質を含み、前記放電容器の内部を前記放電容器の外部に対して封止する封止部材と、を備える。前記封止部材は、前記導電性物質の濃度が最も高い第一領域と、前記濃度が最も低い第二領域と、前記濃度が中間の値をとり、前記第一領域から前記第二領域に近づくにつれて前記濃度が低下する濃度勾配を有する第三領域とに区別される。前記封止部材が前記第一リード棒の表面に接する第一部分内で前記第二領域に最も近い位置における前記封止部材の厚みは、前記封止部材が前記第一側管の内壁に接する第二部分の厚みの最大値より小さい。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電のための空間を内部に有する発光管、および前記発光管の両端からそれぞれ前記発光管から離れる方向に延びる二つの側管を備える放電容器と、
前記放電容器の内部に配置された一対の電極と、
前記一対の電極を構成する各電極にそれぞれ接続され、前記二つの側管を構成する各側管内をそれぞれ延びる、二本のリード棒と、
前記二つの側管のうちの一つである第一側管と、前記第一側管内を一方向に延びる第一リード棒との間に配置され、絶縁性物質と導電性物質を含み、前記放電容器の内部を前記放電容器の外部に対して封止する封止部材と、を備え、
前記封止部材は、前記第一側管の延びる方向に沿って、第一領域、前記第一領域より前記発光管に近い第二領域、及び前記第一領域と前記第二領域との間に位置する第三領域に区別され、
前記第一領域における前記導電性物質の濃度は、三つの領域の中で最も高く、かつ、固定され、
前記第二領域における前記導電性物質の濃度は、三つの領域の中で最も低く、かつ、固定され、
前記第三領域における前記導電性物質の濃度は、前記第一領域における前記導電性物質の濃度より低く、前記第二領域における前記導電性物質の濃度より高く、かつ、前記第一領域から前記第二領域に近づくにつれて前記導電性物質の濃度が低下する濃度勾配を有し、
前記封止部材は、少なくとも前記第一領域に含まれる第一部分において前記第一リード棒の表面に接するとともに、少なくとも前記第二領域に含まれる第二部分において前記第一側管の内壁に接し、前記第二部分は前記第一部分より前記発光管に近い位置にあり、
前記第一部分内で前記第二領域に最も近い位置における前記封止部材の厚みは、前記第二部分における前記封止部材の厚みの最大値より小さい、ことを特徴とする放電ランプ。
【請求項2】
前記第一部分は前記第一領域のみに存在し、前記第二部分は前記第二領域のみに存在することを特徴とする、請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項3】
前記第一部分は、前記第二部分から遠ざかるにつれて前記封止部材の厚みが薄くなるテーパ形状を呈することを特徴とする、請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項4】
前記第一領域の先端は面取り形状を有することを特徴とする、請求項3に記載の放電ランプ。
【請求項5】
前記第二部分における前記封止部材の最大外径が15mm以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の放電ランプ。
【請求項6】
前記絶縁性物質の主な成分はシリカであり、前記導電性物質の主な成分はモリブデンであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の放電ランプ。
【請求項7】
前記第一領域における前記導電性物質の濃度C1は、35vol%以上80vol%以下に固定されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の放電ランプ。
【請求項8】
前記第二領域における前記導電性物質の濃度C2は、3vol%以下に固定されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の放電ランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント基板、半導体素子、液晶表示素子等の製造工程に用いられる露光装置には、光源として放電ランプが用いられている。放電ランプは、放電容器と、電極と、リード棒とを有する。リード棒に接続された陽極と、もう一つのリード棒に接続された陰極は、放電容器の内部において軸方向に対向配置される。そして、水銀等の発光物質が放電容器の内部に封入された状態で、リード棒と放電容器に接する封止部材により封止される。
【0003】
封止部材として、傾斜機能材料を使用する方法が知られている。傾斜機能材料は、絶縁性物質と導電性物質が混合された材料であり、当該材料における導電性物質又は絶縁性物質の濃度が一方向に向かって増大する材料である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今、放電ランプのさらなる高輝度化が要請されている。放電ランプを高輝度化するには、電極へ供給する電流を増大させるために、より大きな電極を要する。電極が大きくなると、放電容器を構成する側管と封止部材が大径化する。封止部材が大径化すると、温度変動によって生じる封止部材の熱膨張量及び熱収縮量(以降、「熱膨張量及び熱収縮量」を単純に、「熱膨張量」と表現する)が大きくなって内部応力が増大する。内部応力が増大すると、封止部材の機械的強度が低下し、封止部材にクラックが入るおそれがある。
【0006】
本発明は、封止部材の機械的強度を改善した放電ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る放電ランプは、放電のための空間を内部に有する発光管、および前記発光管の両端からそれぞれ前記発光管から離れる方向に延びる二つの側管を備える放電容器と、
前記放電容器の内部に配置された一対の電極と、
前記一対の電極を構成する各電極にそれぞれ接続され、前記二つの側管を構成する各側管内をそれぞれ延びる、二本のリード棒と、
前記二つの側管のうちの一つである第一側管と、前記第一側管内を一方向に延びる第一リード棒との間に配置され、絶縁性物質と導電性物質を含み、前記放電容器の内部を前記放電容器の外部に対して封止する封止部材と、を備え、
前記封止部材は、前記第一側管の延びる方向に沿って、第一領域、前記第一領域より前記発光管に近い第二領域、及び前記第一領域と前記第二領域との間に位置する第三領域に区別され、
前記第一領域における前記導電性物質の濃度は、三つの領域の中で最も高く、かつ、固定され、
前記第二領域における前記導電性物質の濃度は、三つの領域の中で最も低く、かつ、固定され、
前記第三領域における前記導電性物質の濃度は、前記第一領域における前記導電性物質の濃度より低く、前記第二領域における前記導電性物質の濃度より高く、かつ、前記第一領域から前記第二領域に近づくにつれて前記導電性物質の濃度が低下する濃度勾配を有し、
前記封止部材は、少なくとも前記第一領域に含まれる第一部分において前記第一リード棒の表面に接するとともに、少なくとも前記第二領域に含まれる第二部分において前記第一側管の内壁に接し、前記第二部分は前記第一部分より前記発光管に近い位置にあり、
前記第一部分内で前記第二領域に最も近い位置における前記封止部材の厚みは、前記第二部分における前記封止部材の厚みの最大値より小さい。
【0008】
封止部材は、陽極に接続されるリード棒と側管の間、又は陰極に接続されるリード棒と側管の間の、少なくともいずれか一方にある。封止部材の厚みは、リード棒の延びる方向に直交する面における封止部材の肉厚を表す。
【0009】
上記放電ランプが封止部材の機械的強度を改善する理由を簡単に説明する。詳細は「発明を実施するための形態」を参照されたい。
【0010】
本発明者の鋭意研究の結果、高濃度の導電性物質を含む封止部材は、当該封止部材の製造時(特に、焼結時)の温度変動、又は、放電ランプ使用時の温度変動による熱膨張量により、内部応力が増大する傾向にあることが分かった。特に、厚い封止部材の場合には熱膨張により大きな内部応力が発生し、封止部材にクラックが発生しやすくなることが判明した。
【0011】
封止部材の中で、前記第一領域は高濃度の導電性物質を含むため、前記第一領域の熱膨張率が高い。そのため、第一領域のうち、リード棒の表面に接する第一部分では、焼結時のような大きな温度変動があるときに、第一領域とリード棒の熱膨張差により応力集中によりクラックが発生しやすい。なお、本明細書では、熱膨張率とは、温度変化による線膨張率を意図する。
【0012】
一方で、本発明者は、高濃度の導電性物質を含む封止部材は、低濃度の導電性物質を含む封止部材に比べて高い機械的強度を示す、という知見を得た。そして、高濃度の導電性物質を含む封止部材の厚みを、低濃度の導電性物質を含む封止部材の厚みより薄くできる余地があることが判明した。封止部材が薄いと、封止部材の熱膨張量を小さくできる。
【0013】
以上に基づき、高濃度の導電性物質を含む第一領域のうち、リード棒の表面に接する第一部分内の封止部材の厚みを、封止部材が前記第一側管の内壁に接する第二部分の厚みの最大値より小さくする。特に、前記第一部分のうち、第一部分内で前記第二領域に最も近い位置における前記封止部材の厚みを、前記第二部分の厚みの最大値より小さくするように設計する。これにより、封止部材の機械的強度を維持したまま、前記第一部分における熱膨張量を低下させて、クラックの発生を抑えられる。なお、「前記第二部分における前記封止部材の厚みの最大値」とは、封止部材が第一側管の内壁の表面に接する第二部分に直交する面における封止部材の最大肉厚を指す。
【0014】
また、第三領域は、第一領域から第二領域に近づくにつれて導電性物質の濃度が低下する濃度勾配を有する。そのため、第三領域では、熱膨張量がX方向に徐々に変化する。よって、第三領域7cの内部において、温度変動による内部応力が局所的に集中することを抑えられる。そして、第三領域の濃度勾配が、第一領域と第二領域における濃度差を緩和し、第一部分における封止部材の熱膨張率を第一リード棒の熱膨張率に近づけて、かつ、第二部分における封止部材の熱膨張率が第一側管の熱膨張率に近づけることを可能にする。よって、封止部材が熱歪みを受けにくくなる。なお、本明細書において、領域が「局所的」である場合、当該領域は、例えば、2mm四方を指す。
【0015】
前記第三領域が前記第一部分及び前記第二部分を含まない態様、つまり、前記第一部分は前記第一領域のみに存在し、前記第二部分は前記第二領域のみに存在する態様であっても構わない。導電性物質の濃度が互いに異なる第三領域が、第一リード棒の表面又は第一側管の内壁に接触しないようにすることで、第三領域が、第一リード棒及び第一側管から応力を受けにくくできる。
【0016】
前記第一部分は、前記第二部分から遠ざかるにつれて前記封止部材の前記厚みが薄くなるテーパ形状を呈しても構わない。前記第一領域全体が、前記第二部分から遠ざかるにつれて前記封止部材の厚みが薄くなるテーパ形状を呈しても構わない。前記第一領域のみならず、前記第三領域が、前記第二部分から遠ざかるにつれて前記封止部材の厚みが薄くなるテーパ形状を呈しても構わない。テーパ形状により、封止部材を成形する際のプレス圧が均一になりやすく、封止部材の材料密度が均一化されて機械的強度ムラが小さくなる。また、テーパ形状が無い場合と比べて、材料使用量が少なくなる。
【0017】
前記第一領域の先端は面取り形状を有しても構わない。封止部材の厚みが一定値以下の薄い領域は機械的強度を維持しにくく、クラックが入りやすいため、面取り形状にして、封止部材の厚みが一定値以下の薄い領域が生じないようにする。なお、面取り形状とは、実際に面取り加工されたことを指すのではなく、角に丸みを帯びている形状を指す。
【0018】
前記第二部分における前記封止部材の最大外径が15mm以上であっても構わない。
【0019】
前記絶縁性物質の主な成分はシリカであり、前記導電性物質の主な成分はモリブデンであっても構わない。
【0020】
前記第一領域における前記導電性物質の濃度C1は、35vol%以上80vol%以下に固定されていても構わない。前記第二領域における前記導電性物質の濃度C2は、3vol%以下に固定されていても構わない。
【発明の効果】
【0021】
封止部材の機械的強度を改善した放電ランプを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2A】
図1の放電ランプにおける要部拡大断面図である。
【
図3A】封止部材の製造方法の一例を示す図である。
【
図3B】封止部材の製造方法の一例を示す図である。
【
図4】
図2Aにおける第一領域の先端部分の拡大図である。
【
図7】封止部材の厚みと内部応力の関係に観察結果を重ね合わせたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
放電ランプの一実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の、グラフを除く各図面は模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比は必ずしも実際の寸法比と一致しておらず、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0024】
以下において、グラフを除く各図面は、XYZ座標系を参照しながら説明される。本明細書において、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0025】
[放電ランプの概要]
図1を参照しながら、本発明の一実施形態である放電ランプの概要を説明する。放電ランプ100は、放電容器10と、放電容器10の内部に配置された一対の電極(陽極2と陰極3)と、二本のリード棒(第一リード棒4aと第二リード棒4b)を有する。陰極3は第一リード棒4aによって支持され、陽極2は第二リード棒4bによって支持される。
【0026】
放電容器10は、放電のための空間を内部に有する発光管1と、発光管1の両端に接合され、発光管1の両端からそれぞれ発光管1から離れる方向に延びる二つの側管(第一側管5a及び第二側管5b)とを備える。発光管1の内部と二つの側管(5a,5b)の内部は繋がっている。放電容器10は、石英ガラス等の、放電容器10の内部で発光する光を透過するガラスで形成される。
【0027】
発光管1は、放電容器10のうち、放電容器10の中心軸X1の両端からそれぞれ中央に向かうにつれて、内径が大きくなる領域である。内径が大きくなるこの領域は、球体又は楕円体の形状を呈しても構わない。内径が大きくなる領域の内部は発光空間として機能する。二つの側管(5a,5b)は、いずれも、発光管1から中心軸X1の延在方向に沿って延びる中空状の管である。第一側管5aは、陰極3に接続される第一リード棒4aを内部に有する。第二側管5bは、陽極2に接続される第二リード棒4bを内部に有する。
【0028】
本実施形態の放電ランプは、ショートアーク型放電ランプである。ショートアーク型放電ランプとは、陽極2の先端と陰極3の先端とが40mm以下の間隔(熱膨張をしていない常温時の値)を空けて配置されるものをいう。このような放電ランプの例として、プリント基板、半導体素子、又は液晶表示素子等の製造工程で使用される露光装置において使用される、定格電力が2kW~35kWの放電ランプがある。なお、本実施形態の放電ランプ100は、陽極2の先端と陰極3の先端とが6mmの間隔を空けて配置される。
【0029】
第一側管5a及び第二側管5bのうち、少なくとも一つの側管の内部には、封止部材7を有する。
図1は、二つの側管(5a,5b)それぞれの内部に封止部材7を有する様子を示す。封止部材7は、放電容器10の内部10aを放電容器10の外部10bに対して封止する(内部10a及び外部10bについては
図2A参照。詳細は後述する。)。
図1では、第一リード棒4a及び第二リード棒4bは、封止部材7の他に接触する部材がないため、第一リード棒4a及び第二リード棒4bは、封止部材7によって支持されている。
【0030】
本実施形態の放電ランプ100において、発光管1及び二つの側管(5a,5b)を含む放電容器10、陽極2、陰極3、二本のリード棒(4a,4b)、並びに封止部材7は、いずれも中心軸X1を中心とする回転体であるとよい。図示していないが、放電ランプ100は、他に、放電容器10を支持し、二本のリード棒(4a,4b)それぞれに電気的に接続される口金を有する。
【0031】
[封止部材の概要]
図2Aを参照しながら、封止部材7の概要を説明する。
図2Aは、
図1の放電ランプ100におけるA領域の拡大断面図である。
図2Aには、陰極3に接続される第一リード棒4aと、第一リード棒4aを内部に有する第一側管5aと、発光管1の一部と、第一側管5aの内部に配置され、かつ、陰極3に近い、封止部材7とが示されている。
図2Aは、図を見やすくするために、断面部分にハッチングを施していない。封止部材7は、第一リード棒4aの表面と第一リード棒4aを囲む第一側管5aの内壁面との間に配置される。
【0032】
本明細書では、第一リード棒4aの表面と第一側管5aの内壁面との間に配置され、かつ、陰極3に近い封止部材7を中心に説明する。しかしながら、この説明の内容は、第二リード棒4bの表面と第二側管5bの内壁面との間に配置され、かつ、陽極2に近い封止部材7についても適用できる。
【0033】
封止部材7は、第一リード棒4aの周囲を囲み、かつ、第一リード棒4aの中心軸X1を回転中心とする回転体である。封止部材7は内周面74と外周面75を有する。内周面74の一部の領域74sが、第一リード棒4aの表面に接触する。外周面75の一部の領域75sが、第一側管5aの内壁面に接触する。領域74sは、領域75sに比べて陰極3又は発光管1から遠くに位置する。
【0034】
封止部材7の内周面74の一部の領域74sが第一リード棒4aの表面に接触し、封止部材7の外周面75の一部の領域75sが第一側管5aの内壁面に接触するので、放電容器10の内部10aを放電容器10の外部10bに対して封止できる。その結果、放電容器10の内部10aに封入された水銀などの発光物質が、放電容器10の外部10bへ漏出し難くなる。
【0035】
放電容器10の外部10bは、通常、大気圧(約1気圧)であるのに対し、放電容器10の内部10aのガス圧は、例えば、10気圧、さらには50気圧に達する場合がある。封止部材7には、少なくとも、放電容器10の内部10aの間のガス圧差に耐える強度が求められる。
【0036】
図2Bは、
図2Aから封止部材7のみを取り出して示した図である。この図において、第一側管5a、発光管1及び第一リード棒4aは点線で示されている。
図2A及び
図2Bに示されるように、本実施形態の封止部材7は、導電性物質の濃度に異なる特徴を有する三つの領域を有する。三つの領域を、第一側管5aの延びる方向(X方向)に沿って、陰極3及び陽極2より遠い方から順に、第一領域7a、第三領域7c、及び、第二領域7bと称する。
【0037】
第一領域7aは、三つの領域の中で導電性物質の濃度が最も高い領域である。第一領域7aにおける導電性物質の濃度は、当該第一領域7a内で固定されている。言い換えると、第一領域7aは濃度勾配を有していない。第二領域7bは、三つの領域の中で導電性物質の濃度が最も低い領域である。第二領域7bにおける導電性物質の濃度は、当該第二領域7b内で固定されている。言い換えると、第二領域7bは濃度勾配を有していない。
【0038】
第三領域7cは、導電性物質の濃度が第二領域7bより高く、導電性物質の濃度が第一領域7aより低い領域である。さらに、第三領域7cでは、導電性物質の濃度がX方向に勾配を有する。第三領域7cにおいて第一領域7aの近傍部分における導電性物質の濃度は、第一領域7aの導電性物質の濃度に近い。第三領域7cの中で、第二領域7bの近傍部分における導電性物質の濃度は、第二領域7bの導電性物質の濃度に近い。そして、第三領域7cの中で、第一領域7aから第二領域7bに近づくにつれて、導電性物質の濃度が低下する。第三領域7cの内部に濃度勾配を有する領域を有するため、封止部材7は傾斜機能材料(FGM)と呼ばれる。
【0039】
図2Bでは、導電性物質の濃度が低くなるほど、封止部材7に付されたハッチングの密度が小さくなるように示されている。
図2Bでは、第一領域7aと第三領域7cとの境界、第三領域7cと第二領域7bとの境界、及び第三領域7c内部において互いに濃度の異なる境界は、それぞれ、Z方向に沿う様に示されている。しかしながら、これらの境界となる線がZ方向に対して傾斜していても構わないし、これらの境界が、線というより寧ろX方向に幅を持った境界領域であっても構わない。
【0040】
封止部材7が第一側管5aの内壁面に接触する領域75sは、第二領域7bにある。そのため、封止部材7の領域75sにおける成分は、第一側管5aの内壁面の成分に比較的近い。互いに隣接する両者の成分が近いため、温度変化により生じる両者の熱膨張量の差が小さくなる。封止部材7が第一リード棒4aの表面に接触する領域74sは、第一領域7aにある。そのため、封止部材7の領域74sにおける成分は、第一リード棒4aの表面の成分に比較的近い。互いに隣接する両者の成分が近いため、放電ランプ100の点灯又は消灯による温度変化に伴う両者の熱膨張量の差が小さくなる。熱膨張量の差が小さくなると、封止部材7の内部応力が小さくなり、熱歪みを受けにくくなる。このようにして、封止部材7は、第一側管5aと第一リード棒4aとの熱膨張率の差を補償する。
【0041】
また、封止部材7は、点灯・消灯時のみならず、その製造時にも熱膨張を生じる。封止部材7の内部で導電性物質の濃度差の大きな二つの層が互いに隣接する場合には、熱膨張量の違いにより、互いに隣接する二つの層の境界に内部応力が集中する。これにより、放電ランプ100の点灯・消灯時のみならず、封止部材7の製造時にも、封止部材7にクラックが発生しやすい。
【0042】
封止部材7がX方向に濃度勾配を有する第三領域7cを有する場合には、封止部材7の内部において熱膨張量がX方向に徐々に変化する。よって、封止部材7の内部において、温度変動による内部応力が局所的に集中することを抑える。これにより、封止部材7のクラックの発生を抑えられる。
【0043】
昨今の側管(5a,5b)の大径化により、封止部材7はその厚みを増している。そのため、封止部材7の内部応力は増大傾向にある。上述したように、高濃度の導電性物質を含む第一領域7aにおいて、リード棒の表面に接する部分では、焼結時のような大きな温度変動があるときに、第一領域7aとリード棒の熱膨張差により応力集中によりクラックが発生しやすい。
【0044】
そこで、封止部材7が第一リード棒4aの表面に接する領域74sを第一部分74sと規定し、封止部材7が第一側管5aの内壁に接する領域75sを第二部分75sと規定する。そして、第一部分74sにわたる封止部材7の厚みを、全体的に第二部分75sの厚みの最大値tbより小さくする。本実施形態では、
図2Aに示されるように、特に、第一部分74sのうち、第一部分74s内で第二領域7bに最も近い位置における封止部材7の厚みtaを、第二部分75sの厚みの最大値tbより小さくするように設計する。これにより、封止部材7の内部応力の増大を抑えられる。そして、第一部分74sでは、高濃度の導電性物質を含むために、機械的強度が高い。そのため、第一部分74sにおける封止部材7の厚みを薄くしても機械的強度に悪影響を与えにくい。よって、封止部材7の機械的強度を維持したまま、熱膨脹に起因するクラックの発生を抑えられる。詳細は後述するが、第一部分74sはテーパ形状を呈する。
【0045】
封止部材7は、第二部分75sにおいて第一側管5aの内壁面と接するので、封止部材7の最大外径は、第二部分75sに現れる。封止部材7の最大外径が15mm以上ある場合には、内部応力がより大きくなって封止部材7にクラックが発生しやすくなるところ、上述の第一部分74sにおける封止部材7の厚み低減によるクラック抑制効果が顕著になる。
【0046】
本実施形態では、封止部材7が第一リード棒4aの表面に接する第一部分74sは、第一領域7aのみに存在し、封止部材7が第一側管5aの内壁に接する第二部分75sは、第二領域7bのみに存在する。つまり、第三領域7cは、第一リード棒4aの表面に接する領域である第一部分74sと、封止部材7が第一側管5aの内壁に接する領域である第二部分75sとを含まない。これにより、導電性物質の濃度が互いに異なる第三領域7cが、第一リード棒4aの表面又は第一側管5aの内壁に接触しないようにしている。これにより、第三領域7cが第一リード棒4a及び第一側管5aから応力を受けないようにできる。しかしながら、第一部分74sが第一領域7aのみならず第三領域7cに及んでいてもよい。第二部分75sが第二領域7bのみならず第三領域7cに及んでいてもよい。
【0047】
[封止部材の成分]
封止部材7は、導電性物質と絶縁性物質との混合体である。本実施形態では、導電性物質の主な成分は、導電性無機物質のひとつであるモリブデンである。本実施形態では、絶縁性物質の主な成分は絶縁性無機物質のひとつであるシリカである。モリブデンとシリカの組み合わせは、第一側管5aと第一リード棒4aとの熱膨張率の差を補償するのに特に適した組み合わせである。
【0048】
導電性物質の主な成分が、例えば、ニッケル、ニオブ、ハフニウム等であってもよい。絶縁性物質の主な成分が、例えば、アルミナ(Al2O3)、ムライト(3Al2O3・2SiO2)であってもよい。封止部材7は、実質的に単一種類の導電性物質を含んでいてもよく、複数種類からなる導電性物質を含んでいてもよい。封止部材7は、実質的に単一種類の絶縁性物質を含んでいてもよく、複数種類の絶縁性物質を含んでいてもよい。さらに、導電性物質として、例えば、モリブデンにクロムを添加した材料を使用してもよい。また、絶縁性物質として、例えば、シリカに酸化チタン又はホウ素を添加した材料を使用してもよい。なお、本明細書において「実質的に」という用語は、偶然混入する成分か、又は、混入が不可避の意図しない成分が含まれていることを許容することを表す。
【0049】
本実施形態の第一領域7a、第二領域7b及び第三領域7cの成分を示す。第一領域7aは、シリカの体積とモリブデンの体積が1:1の割合で略均一に存在する領域である。第二領域7bは実質的にモリブデンを含まず、シリカのみで構成される領域である。第三領域7cは、シリカとモリブデンがX方向に濃度勾配を伴って混在する領域である。第三領域7cのうち、第一領域7aの近傍部分でのモリブデンの濃度は、第一領域7aのモリブデンの濃度に近い。第三領域7cのうち、第二領域7bの近傍部分でのモリブデンの濃度は、第二領域7bのモリブデンの濃度に近い。そして、第三領域7cにおいて、第一領域7aから第二領域7bに近づくにつれてモリブデンの濃度が低下する。
【0050】
第一領域7aにおける導電性物質の濃度C1は、35vol%以上、かつ、80vol%以下であるとよく、特に、濃度C1は、40vol%以上、かつ、70vol%以下であるとよい。本実施形態では、濃度C1は、約46vol%である。
【0051】
第二領域7bにおける導電性物質の濃度C2は、3vol%以下であるとよく、1vol%以下であるとよい。本実施形態では、濃度C2は、0.1vol%以下である。
【0052】
第三領域7cにおける導電性物質の濃度は、本実施形態では、約43vol%~約15vol%の濃度勾配がX方向に存在する。
【0053】
[導電性物質の濃度を求める方法]
導電性物質の濃度は、例えば、以下の方法により求められる。なお、導電性物質がモリブデンで、絶縁性物質がシリカの場合を例に述べるが、導電性物質がモリブデン以外、又は、絶縁性物質がシリカ以外の場合にも、下記の方法により求められる。
【0054】
(1)封止部材7を、第一リード棒4aの延びる軸と直交する面で切断し、その切断面を研磨する。
(2)研磨した面のうち既定の面積(例えば、15mm
2)を、光学顕微鏡を使用して200~500倍程度で撮像し、撮像面においてモリブデンの面積が占める割合(以下、「面積比」ということがある。)を算出する。面積比の算出は、コンピュータによる画像処理により行ってもよい。
(3)封止部材7においてモリブデンの体積が占める割合(以下、「体積比」ということがある。)を、面積比から求める。体積比CV
Movolは、封止部材7における導電性物質の濃度を表す。面積比(撮像面においてモリブデンの面積が占める割合)をCS
Movol(%)とし、体積比をCV
Movol(%)とすると、体積比CV
Movol(%)は、以下の式(3)で求められる。
【数1】
【0055】
[封止部材の製造方法]
封止部材7の製造方法の一例を
図3A及び
図3Bに示す。成形型20に、導電性物質(例えば、モリブデン)の粉末と絶縁性物質(例えば、シリカ)の粉末を入れる。導電性物質の粉末と絶縁性物質の粉末の投入比を、成形型20の底からの高さに応じて選択することにより、第一領域7a~第三領域7cを形成できる。導電性物質と絶縁性物質の粉末の粒径は、例えば、0.5~100μmであるとよい。なお、ここでの粉末の粒径は、例えば、レーザー回折・分散法による粒度分布測定を行い、中央値であるD50の値とする。
【0056】
図3Aで及び
図3Bに示される、粉末の投入方法の一例を順に説明する。
(1)シリカの粉末とモリブデンの粉末を1:1の割合で混合した混合粉末を投入する。これにより第一領域7aを形成する。
(2)投入量が増えるにしたがって、シリカの粉末をモリブデンの粉末より徐々に増やした混合粉末を投入する。これにより第三領域7cを形成する。層中ではモリブデンとシリカの混合比が一定の小さな層を、混合比を異ならせながら複数積層することにより、段階的な濃度勾配を形成しても構わない。
(3)第二領域7bを形成するために、シリカの粉末のみを投入する。
(4)
図3Bに示すように、両粉末を投入した後に押型25を成形型20に挿入し、両型(20,25)で混合粉末をプレスしながら、両型(20,25)を1600~1800℃で1~10分加熱して、粉末の焼結体を成形する。
(5)成型後、両型(20,25)から、シリカガラスとモリブデンの焼結体を取出し、封止部材7を得る。
【0057】
成形型20の底をテーパ形状にすることにより、封止部材7の外周面75をテーパ形状にできる。また、成形型20の底がテーパ形状の場合、押型25のプレス圧が均一になりやすく、封止部材7の材料密度が均一化され、封止部材7の内部の局所的な機械的強度ムラが小さくなる効果が得られる。また、テーパ形状が無い場合と比べて、封止部材7の材料となる粉末の使用量が少なくなる効果が得られる。
【0058】
[封止部材の寸法と形状]
図4は、
図2Aの第一領域7aの先端部分の拡大図である。第一部分74sを含む第一領域7aは、-X方向の先端に向かうにつれて(第二部分75sから遠ざかるにつれて)、封止部材7の厚みが薄くなるテーパ形状を呈する。テーパ角θは、テーパ形状の外周面75と、内周面74との間に形成される角度である。テーパ角θが小さくなるほど、厚みtaが小さくなる。テーパ角θは10度以上であると好ましく、30度以上であるとより好ましい。第一部分74sにおける厚みが薄くなりすぎず、機械的強度を十分に確保しながら、熱膨脹に起因するクラックの発生をより抑えられる。
【0059】
図4に見られるように、第一リード棒4aの表面に接触する第一部分74sの先端71は、封止部材7の厚みが薄く、封止部材7にクラックが入りやすいため、先端71を面取り形状にして、封止部材7の厚みが一定値以下の薄い領域が生じないようにしてもよい。なお、面取り形状とは、実際に面取り加工された否かを問うものではなく、角に丸みを帯びている形状を指す。面取り形状を得るには、成形型20又は押型25を面取り形状に対応する形状に加工してもよい。また、焼結後に、角を切削加工により面取り形状にしてもよい。
【0060】
図5は、封止部材7の変形例である。この変形例では、第一領域7aのうち、第三領域7cの近傍部分を除く領域の外径L1が一定であり、テーパ形状を呈していない。第一領域7aと第三領域7cの境界を含むP1領域においてのみ、封止部材7の外径が変化する。この変形例においても、第一部分74sの厚みtaは、第二部分75sの最大値tbより小さいため、封止部材7の機械的強度を維持したまま、クラックの発生を抑えられる。
【0061】
図6は、封止部材7のさらなる変形例である。この変形例では、P2領域を除く第一領域7aの外径L2が一定である。外径L2は第二領域7bの外径と実質的に同じである。P2領域においてのみ、外径が減少する。P2領域は、第一部分74s導電性物質の濃度が特に高く、かつ、濃度変化を有する領域であるために、熱膨張量の変化が特に生じ易い領域である。P2領域において封止部材7の厚みを減少させることで熱膨張量が増大を抑制し、クラックの発生を抑えられる。
【0062】
[封止部材の濃度勾配と内部応力及びクラックとの関係]
封止部材7の厚みが変化すると温度変化に起因する内部応力の大きさが変化し、内部応力が大きいとクラックが発生する。そこで、第一部分内で前記第二領域に最も近い位置における封止部材7の適切な厚みta(
図2A参照)を求めるために、厚みtaと内部応力の関係をコンピュータシミュレーションにより求めた。
【0063】
図7は、コンピュータシミュレーションにより封止部材7の厚みtaと内部応力の最大値との関係を求めた結果を示すグラフである。厚みtaを、2mm~16mmの間における2mm間隔で変化させながら、封止部材7に発生する内部応力の最大値を求めた。
図7の横軸は、第一部分74s内で第二領域7bに最も近い位置における封止部材7の厚みtaを表す。
図7の縦軸は、内部応力の最大値(応力最大値)を表す。ただし、応力最大値は、規格値(厚みtaが16mmのときの応力最大値を1としたときの比)で示される。応力最大値は、封止部材7のうち、第一部分74sの第三領域7c側の端部付近に現れる。
【0064】
封止部材7のシミュレーション条件は、以下のとおりである。
形状:
図2Aに示される形状
導電性物質:モリブデン
絶縁性物質:シリカ
第一領域7aにおける導電性物質の濃度:46vol%
【0065】
上記シミュレーション条件と同様の条件で、厚みtaを2mm~16mmの間における2mm間隔で変化させて封止部材7を製造し、製造された試料を観察した。観察の結果、厚みtaが6mm以下の封止部材7にはクラックが発生せず、厚みtaが8mm以上の封止部材にはクラックが発生した。これより、厚みtaが小さいと、応力最大値を抑えてクラックの発生を抑えることができることが分かる。
【0066】
本発明は上記した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、上記の実施形態に種々の変更又は改良を加えたり、上記の実施形態を組み合わせたりできる。
【符号の説明】
【0067】
1 :発光管
2 :陽極
3 :陰極
4a :第一リード棒
4b :第二リード棒
5a :第一側管
5b :第二側管
7 :封止部材
7a :(封止部材の)第一領域
7b :(封止部材の)第二領域
7c :(封止部材の)第三領域
10 :放電容器
10a :内部
10b :外部
20 :成形型
25 :押型
74 :(封止部材の)内周面
74s :(リード棒の表面に接触する内周面の)領域
75 :(封止部材の)外周面
75s :(側管の内壁面に接触する外周面の)領域
100 :放電ランプ