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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029371
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】熱伝導性組成物及び熱伝導性シート
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/50 20060101AFI20240228BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C08F2/50
C08J5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131582
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】龍官 真琴
(72)【発明者】
【氏名】矢野 章世
【テーマコード(参考)】
4F071
4J011
【Fターム(参考)】
4F071AA33
4F071AB03
4F071AB07
4F071AB09
4F071AB18
4F071AB26
4F071AC08
4F071AC12
4F071AC19
4F071AD02
4F071AE06
4F071AE22
4F071AF44
4F071AG02
4F071AG15
4F071AH12
4F071BA07
4F071BA09
4F071BB03
4F071BB12
4F071BC01
4F071BC03
4F071BC12
4J011PA07
4J011PB22
4J011PC02
4J011QA03
4J011QA13
4J011QA45
4J011SA76
4J011SA78
4J011TA06
4J011UA01
4J011UA02
4J011VA04
4J011WA07
(57)【要約】
【課題】光照射により、生産性よく高い熱伝導率と厚膜を有する熱伝導性シートが得られる熱伝導性組成物を提供すること。
【解決手段】ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方、並びに光重合開始剤を含有するバインダー成分と、熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性組成物であり、前記バインダー成分100体積部に対して、前記熱伝導性フィラーが100体積部以上900体積部以下であり、前記光重合開始剤が、下記一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体である熱伝導性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方、並びに光重合開始剤を含有するバインダー成分と、
熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性組成物であり、
前記バインダー成分100体積部に対して、前記熱伝導性フィラーが100体積部以上900体積部以下であり、
前記光重合開始剤が、下記一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体であることを特徴とする熱伝導性組成物。
【化1】
((一般式(1)中、RおよびRは独立してメチル基またはエチル基、Rは炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基を表し、Rは置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、-Y-R、または-N-RR’であって、Yは酸素原子または硫黄原子を表し、RおよびR’は独立して水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基を表す。Arは下記一般式(2):Ar、Ar、またはArで表されるアリール基である。)
【化2】
(一般式(2)中、mは0から3の整数を表し、Rは独立した置換基であって、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、-Y-R、または-N-RR’であって、Yは酸素原子または硫黄原子を表し、RおよびR’は独立して水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基を表す。))
【請求項2】
請求項1に記載の熱伝導性組成物の硬化物であることを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項3】
厚みが0.3mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の熱伝導性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性組成物及び熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子・電気機器から発生する熱を放熱することは重要である。近年、高性能化、多様化が進み、車載電装部品用途や通信機器用途で、放熱対策部材はICデバイス等の発熱体とヒートシンク等の放熱体の間に挟んで使用され、熱伝導率の高く、厚膜の放熱対策部材が求められている。放熱対策部材として放熱シート、放熱ギャップフィラー、放熱接着剤、放熱グリース等が挙げられるが、特に塗布量を管理する必要がなく、流動性がないため、所望の発熱体と放熱体の間に挟むだけで良い作業性に優れた熱伝導性シートが注目されている。
【0003】
熱伝導性シートの熱伝導率を高める手法として、熱伝導性フィラーの含有量を増やすことが挙げられ、特許文献1では高い熱伝導率、かつ厚膜の熱伝導性シートを熱硬化で作製している。また、生産性を高めるため、特許文献2、3では光重合開始剤を含有した光重合性組成物を用い、紫外線照射による光硬化で熱伝導性シートを作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-111644号公報
【特許文献2】特開2019-85441号公報
【特許文献3】特開2020-45386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の背景のもと、熱伝導性シートの需要増加が見込まれる中、特許文献1のように熱硬化で厚膜の熱伝導性シートを作製する方法では、紫外線照射による硬化よりも硬化効率が低いため、高温下で重合に長時間を要しており、重合条件を最適化しても重合時間の短縮には限界がある。
【0006】
一方、特許文献2、3のように、光硬化で熱伝導性シートを作製する方法では、熱伝導性フィラーの含有量を増やすと紫外線等の光を照射しても光透過性の低下により深部まで届きづらくなるため、膜厚が制限され、膜厚の薄いシートとなる。よって、厚膜の熱伝導性シートを作製するためには、フィラーの含有量が制限され、熱伝導性の低いシートとなる課題がある。
【0007】
そこで、本発明は、光照射により、生産性良く高い熱伝導率と厚膜を有する熱伝導性シートが得られる熱伝導性組成物を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、前記熱伝導性組成物の硬化物である熱伝導性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方、並びに光重合開始剤を含有するバインダー成分と、熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性組成物であり、前記バインダー成分100体積部に対して、前記熱伝導性フィラーが100体積部以上900体積部以下であり、前記光重合開始剤が、下記一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体である熱伝導性組成物に関する。
【化1】
((一般式(1)中、RおよびRは独立してメチル基またはエチル基、Rは炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基を表し、Rは置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、-Y-R、または-N-RR’であって、Yは酸素原子または硫黄原子を表し、RおよびR’は独立して水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基を表す。Arは下記一般式(2):Ar、Ar、またはArで表されるアリール基である。)
【化2】
(一般式(2)中、mは0から3の整数を表し、Rは独立した置換基であって、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、-Y-R、または-N-RR’であって、Yは酸素原子または硫黄原子を表し、RおよびR’は独立して水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基を表す。))
【0010】
また、本発明は、熱伝導性組成物の硬化物である熱伝導性シートに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱伝導性組成物は、熱伝導性フィラーのような高い熱拡散性を有するフィラーが高充填した場合においても、紫外線を照射して光硬化させたとき、生産性良く高い熱伝導率と厚膜を有する熱伝導性シートを作製できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の熱伝導性組成物は、ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方、並びに光重合開始剤を含有するバインダー成分と、熱伝導性フィラーを含有する。前記熱伝導性組成物は、紫外線を照射して光硬化させたとき、トリアジンペルオキシド誘導体が素早く活性化され、かつ、高充填した熱伝導性フィラーの熱拡散性の影響を受け難いことから、生産性良く高い熱伝導率と厚膜を有する熱伝導性シートを作製できる。
【0013】
<ラジカル重合性モノマー>
前記ラジカル重合性モノマーとしては、エチレン性不飽和基を有する化合物を好ましく用いることができる。ラジカル重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン類、マレイン酸エステル類、フマル酸エステル類、イタコン酸エステル類桂皮酸エステル類、クロトン酸エステル類、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、ビニルケトン類、アリルエーテル類、アリルエステル類、N-置換マレイミド類、N-ビニル化合物類、不飽和ニトリル類、オレフィン類等が挙げられる。これらの中でも、反応性が高い(メタ)アクリル酸エステル類を含むことが好ましい。ラジカル重合性モノマーは、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0014】
前記(メタ)アクリル酸エステル類は、単官能化合物および多官能化合物を使用することができる。単官能化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレ-ト、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレ-ト、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレ-ト、2-エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と脂環族アルコールとのエステル化合物;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-1-アダマンチル(メタ)アクリレート、水酸基末端ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、水酸基末端ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有するモノマー等;メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート等の鎖状または環状のエーテル結合を有するモノマー等;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド等の窒素原子を有するモノマー;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等のイソシアネート基を有するモノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル等のエポキシ基を有するモノマー;リン酸2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル等のリン原子を有するモノマー;3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のケイ素原子を有するモノマー;2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート等のフッ素原子を有するモノマー;(メタ)アクリル酸、コハク酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、フタル酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、マレイン酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等のカルボキシル基を有するモノマー等が挙げられる。
【0015】
前記多官能化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレートトリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、9,9-ビス(4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)フェニル)フルオレン等の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物;ビス(4-(メタ)アクリロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-(メタ)アクリロイルチオフェニル)スルフィド、トリス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸ジルコニウム、脂肪族ウレタンアクリレート、芳香族ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等が挙げられる。
【0016】
<ラジカル重合性モノマーの部分重合体>
前記ラジカル重合性モノマーは、一般的に粘度が低いため、熱伝導性フィラーと混合した際にフィラーが沈降してしまうことがある。この場合、ラジカル重合性モノマーは、あらかじめ部分重合して増粘させて、ラジカル重合性モノマーの部分重合体とすることが好ましい。ラジカル重合性モノマーの部分重合体の粘度は、特に制限はないが、10~10,000mPa・s程度となるのが好ましい。
【0017】
部分重合は種々の方法で行うことができ、溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合等の公知の重合方法が採用可能である。重合の際に、重合方法に応じて、熱重合開始剤や光重合開始剤等の重合開始剤を用いることにより部分重合体を得ることができる。
【0018】
部分重合に用いる熱重合開始剤としては、例えば、ジアシルパーオキシド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキシド類、ヒドロパーオキシド類、ジアルキルパーオキシド類、パーオキシエステル類、パーオキシジカーボネート類等の有機過酸化物;アゾ系重合開始剤等を用いることができる。具体的には、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルヒドロパーオキシド、2,2’-アゾビスブチロニトリル等が挙げられる。
【0019】
部分重合に用いる光重合開始剤としては芳香族ケトン類、ベンゾインエーテル類、ハロメチルオキサジアゾール化合物、α-アミノケトン、α-アミノアセトフェノン化合物、アシルホスフィン化合物、ビイミダゾール類、N,N-ジメチルアミノベンゾフェノン、トリアジン系化合物、チオキサントン系化合物、オキシム化合物等が挙げられる。当該光重合開始剤の具体例としては、ベンゾフェノン、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4-メトキシ-4’-ジメチルアミノベンゾフェノン等の芳香族ケトン類;ベンゾインメチルエーテル等のベンゾインエーテル類;エチルベンゾイン等のベンゾイン;2-(o-クロロフェニル)-4,5-フェニルイミダゾール2量体等のビイミダゾール類;2-トリクロロメチル-5-(p-メトキシスチリル)-1,3,4-オキサジアゾール等のハロメチルオキサジアゾール化合物;2-(4-ブトキシ-ナフト-1-イル)-4,6-ビス-トリクロロメチル-S-トリアジン、下記一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体等のトリアジン系化合物;2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルフォリノプロパノン、1,2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1,1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトン、ベンジル、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、ベンジルメチルケタール、ジメチルアミノベンゾエート、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、2-n-ブトキシエチル-4-ジメチルアミノベンゾエート、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、4-ベンゾイル-メチルジフェニルサルファイド、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-[4-(4-モルフォリニル)フェニル]-1-ブタノン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルフォリニル)フェニル]-1-ブタノン、α-ジメトキシ-α-フェニルアセトフェノン、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-(4-モルフォリニル)-1-プロパノン、3-ベンゾイルオキシイミノブタン-2-オン、3-アセトキシイミノブタン-2-オン等が挙げられる。これらの中でもシート作製時の硬化性の観点から、下記一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体を用いることが好ましい。あるいは、以上述べた熱重合開始剤又は光重合開始剤の任意の組み合わせも用いることができる。
【0020】
<光重合開始剤>
本発明の光重合開始剤は、下記一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体を含有する。
【化3】
((一般式(1)中、RおよびRは独立してメチル基またはエチル基、Rは炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基を表し、Rは置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、-Y-R、または-N-RR’であって、Yは酸素原子または硫黄原子を表し、RおよびR’は独立して水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基を表す。Arは下記一般式(2):Ar、Ar、またはArで表されるアリール基である。)
【化4】
(一般式(2)中、mは0から3の整数を表し、Rは独立した置換基であって、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、-Y-R、または-N-RR’であって、Yは酸素原子または硫黄原子を表し、RおよびR’は独立して水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基を表す。))
【0021】
一般式(1)中、RおよびRは独立してメチル基またはエチル基を表し、分解温度が高く、重合性組成物の貯蔵安定性が高くなる観点から、メチル基が好ましい。
【0022】
一般式(1)中、Rは炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基を表す。前記アルキル基は、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、フェニル基、イソプロピルフェニル基等が挙げられる。これらの中でも、前記トリアジンペルオキシド誘導体の合成が容易である観点から、メチル基、エチル基、プロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、フェニル基であることが好ましい。前記トリアジンペルオキシド誘導体の分解温度が高いため重合性組成物の貯蔵安定性が高くなり、光に対する感度が高い点から、メチル基、エチル基であることがより好ましい。
【0023】
一般式(1)中、Rは置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、-Y-R、または-N-RR’であって、Yは酸素原子または硫黄原子を表し、RおよびR’は独立して水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基を表す。上記のRはトリアジンペルオキシド誘導体の吸収波長への影響が小さいため、Rが上記の広範囲であっても、良好な感度を発現する。また、上記の「置換されていてもよい」における「置換基」には、ハロゲン原子、炭素骨格中にエーテル結合やチオエーテル結合を有してもよい脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環含有基、アシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基などが包含される。上記のRは、安定性が高い観点から、好ましくは、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、または-Y-Rであり、合成が容易である観点から、より好ましくは、-O-Rであって、Rは置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基である。
【0024】
一般式(2)中、mは0から3の整数を表され、合成が容易である観点から、mが0から2であることが好ましく、光を効率よく吸収する観点から、mが1であることがより好ましい。
【0025】
一般式(2)中、Rは置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基、置換されていてもよい炭素数1~20のアシル基、-Y-R、または-N-RR’であって、Yは酸素原子または硫黄原子を表し、RおよびR’は独立して水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、置換されていてもよい炭素数2~20の複素環含有基を表す。上記のRはトリアジンペルオキシド誘導体の吸収波長への影響が小さいため、Rが上記の広範囲であっても、良好な感度を発現する。また、上記の「置換されていてもよい」における「置換基」には、ハロゲン原子、炭素骨格中にエーテル結合やチオエーテル結合を有してもよい脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環含有基、アシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基などが包含される。上記のRは、独立した置換基であって、炭素数1から20のアルキル基、一般式(3):R-Y-で表される置換基、ニトロ基、またはシアノ基を表し、前記Yは、酸素原子または硫黄原子を表し、前記Rは、炭素骨格中に、エーテル結合、チオエーテル結合、および、末端に水酸基のいずれか1つ以上を有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、アルキル基を有してもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、または炭素数1~20のアシル基であってもよく、またRは隣接する2つの前記一般式(3):R-Y-により5~6員環を形成していてもよい。
【0026】
本発明のトリアジンペルオキシド誘導体の具体例を以下に示すが、これらに限定されない。
【化5】
【0027】
本発明のトリアジンペルオキシド誘導体としては、化合物19、化合物23、化合物25、化合物26、化合物27、化合物31、化合物32、化合物33、化合物35、化合物37、化合物38、化合物39、化合物43、化合物44、化合物45、化合物46、化合物47、化合物48、化合物49、化合物50、化合物51、化合物52、化合物53、化合物54、化合物55、化合物56、化合物57、化合物60、化合物61、化合物73、化合物77、化合物78、化合物79、化合物81が好ましい。
【0028】
<トリアジンペルオキシド誘導体の製造方法>
前記一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体の製造方法は、塩化シアヌル及び/又はその誘導体と、ヒドロペルオキシドとを原料として反応させる工程を含む。このような製造方法としては、例えば、下記反応式のように、塩化シアヌル誘導体を得る工程(以下、工程(A)および(B)とも称す)と、続いて、得られた塩化シアヌル誘導体と、ヒドロペルオキシドを、アルカリの存在下で、反応させる工程(以下、工程(C)とも称す)を含む方法が挙げられる。なお、上記の各工程は、順番が限定されず、例えば、塩化シアヌル及びヒドロペルオキシドとの反応物に、下記のAr-XやR-Xを反応させてもよく、また、各工程は同時に行ってもよい。各工程の前後には、余剰の原料等を減圧留去(除去)する工程や、精製工程を含んでもよい。
【化6】
(上記反応式において、R、R、R、RおよびArは前記一般式(1)と同じである。)
【0029】
前記工程(C)において、前記塩化シアヌル誘導体は、市販品を利用できる。なお、市販品がない場合、前記工程(A)および(B)において、グリニャール反応、リチオ化反応、鈴木カップリング反応、またはフリーデル・クラフツ反応、アルカリ存在下での求核置換反応等の公知の合成法に準じて合成することができる。
【0030】
<グリニャール反応による塩化シアヌル誘導体の合成>
前記工程(A)および(B)において、グリニャール反応により、塩化シアヌル誘導体を合成する場合、特開平6-179661号公報等に記載の公知の合成法に準じて合成することができる。前記工程(A)におけるAr-Xおよび前記工程(B)におけるR-XのXが塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子で表されるハロゲン化合物を使用することができる。ハロゲン化合物とマグネシウムを反応させることでグリニャール試薬を調製し、次いで得られたグリニャール試薬を塩化シアヌルと反応させることにより塩化シアヌル誘導体を合成することができる。
【0031】
上記のグリニャール試薬の調製において、マグネシウムは、ハロゲン化合物1モルに対して、0.8から2.0モル用いることが好ましく、1から1.5モル用いることがより好ましい。反応開始剤として、ヨウ素、ブロモエタン、ジブロモエタン等を用いてもよく、ハロゲン化合物1モルに対して、0.0001から0.01モル用いることが好ましい。反応温度は0から70℃が好ましく、10から60℃がより好ましい。反応時間は30分から20時間が好ましく、1時間から10時間がより好ましい。
【0032】
上記のグリニャール試薬の調製において、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の溶媒を用いることができる。
【0033】
また、上記のグリニャール試薬と塩化シアヌルの反応において、塩化シアヌルは、ハロゲン化合物1モルに対して、0.7から1.5モル用いることが好ましく、0.8から1.2モル用いることがより好ましい。反応温度は-30から70℃が好ましく、-10から40℃がより好ましい。反応時間は10分から20時間が好ましく、30分から15時間であることがより好ましい。なお、調製したグリニャール試薬に塩化シアヌルを投入してもよく、塩化シアヌルの溶液にグリニャール試薬を投入してもよい。
【0034】
上記のグリニャール試薬と塩化シアヌルの反応において、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の溶媒を用いることができる。
【0035】
<リチオ化反応による塩化シアヌル誘導体の合成>
前記工程(A)および(B)において、リチオ化反応により、塩化シアヌル誘導体を合成する場合、WO2012/096263公報等に記載の公知の合成法に準じて合成することができる。前記工程(A)におけるAr-Xおよび前記工程(B)におけるR-XのXが塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子で表されるハロゲン化合物を使用することができる。ハロゲン化合物とリチオ化剤を反応させることでリチオ化合物を調製し、次いで得られたリチオ化合物と塩化シアヌルを反応させることにより塩化シアヌル誘導体を合成することができる。
【0036】
前記リチオ化剤としては、メチルリチウム、n-ブチルリチウム、s-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム等のアルキルリチウム類;フェニルリチウム等のアリールリチウム類;リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド等のリチウムアミド類を挙げることができ、n-ブチルリチウム、s-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、フェニルリチウムであることが好ましい。
【0037】
上記のリチオ化合物の調製において、リチオ化剤は、ハロゲン化合物1モルに対して、0.8から3.0モル用いることが好ましく、1.0から2.2モル用いることがより好ましい。反応温度は-100から50℃が好ましく、-80から0℃がより好ましい。反応時間は0.2から20時間が好ましく、0.5から10時間がより好ましい。
【0038】
上記のリチオ化合物の調製において、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の溶媒を用いることができる。
【0039】
また、上記のリチオ化合物と塩化シアヌルの反応において、塩化シアヌルは、ハロゲン化合物1モルに対して、0.7から1.5モル用いることが好ましく、0.8から1.2モル用いることがより好ましい。反応温度は-30から70℃が好ましく、-10から40℃がより好ましい。反応時間は10分から10時間が好ましく、30分から5時間であることがより好ましい。なお、調製したリチオ化合物に塩化シアヌルを投入してもよく、塩化シアヌルの溶液にリチオ化合物を投入してもよい。
【0040】
上記のリチオ化合物と塩化シアヌルの反応において、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の溶媒を用いることができる。
【0041】
<鈴木カップリングによる塩化シアヌル誘導体の合成>
前記工程(A)および(B)において、鈴木カップリング反応により、塩化シアヌル誘導体を合成する場合、WO2012/096263公報等に記載の公知の合成法に準じて合成することができる。例えば、前述のリチオ化合物をホウ素試薬と反応させることによって、前記工程(A)におけるAr-Xおよび前記工程(B)におけるR-XのXがボロニル基またはボロン酸に変換されたホウ素化合物を合成することができる。次いで得られたホウ素化合物を塩化シアヌルと反応させることにより塩化シアヌル誘導体を合成することができる。なお、ホウ素化合物の市販品が販売されている場合、そのまま使用することができる。
【0042】
前記ホウ素試薬としては、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリイソプロピル、2-イソプロポキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン等が挙げられる。
【0043】
上記のホウ素化合物の合成において、ホウ素試薬は、リチオ化合物1モルに対して、0.8から3.0モル用いることが好ましく、1.0から2.0モル用いることがより好ましい。反応温度は-100から50℃が好ましく、-80から20℃がより好ましい。反応時間は10分から20時間が好ましく、30分から10時間がより好ましい。
【0044】
上記のホウ素化合物の合成において、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の溶媒を用いることができる。
【0045】
また、上記のホウ素化合物と塩化シアヌルの反応において、塩化シアヌルは、ホウ素化合物1モルに対して、0.7から1.5モル用いることが好ましく、0.8から1.2モル用いることがより好ましい。反応温度は-30から70℃が好ましく、-10から40℃がより好ましい。反応時間は10分から10時間が好ましく、30分から5時間であることがより好ましい。なお、ホウ素化合物に塩化シアヌルを投入してもよく、塩化シアヌルの溶液にホウ素化合物を投入してもよい。
【0046】
上記のホウ素化合物と塩化シアヌルの反応において、パラジウム触媒およびアルカリを用いることが好ましく、必要に応じて配位子を添加しても良い。
【0047】
前記パラジウム触媒としては、酢酸パラジウム、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド、(ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)パラジウムジクロリド-塩化メチレン錯体等が挙げられる。
【0048】
前記アルカリとしては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸カリウム等のアルカリ金属塩等の無機塩基;トリエチルアミン等の有機塩基が挙げられる。
【0049】
前記配位子としては、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフタレン、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2,6’-ジメトキシビフェニル等の有機リン系配位子等が挙げられる。
【0050】
上記のホウ素化合物と塩化シアヌルの反応において、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;メタノール、2-プロパノール等のアルコール類;トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類等の有機溶媒を用いることができる。前記有機溶媒は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。さらに、前記有機溶媒と水との混合溶媒を用いることができる。
【0051】
<フリーデル・クラフツ反応による塩化シアヌル誘導体の合成>
前記工程(A)および(B)において、フリーデル・クラフツ反応により、塩化シアヌル誘導体を合成する場合、US5322941公報等に記載の公知の合成法に準じて合成することができる。前記工程(A)におけるAr-Xおよび前記工程(B)におけるR-XのXが水素原子で表される芳香族化合物を使用することができる。塩化アルミニウム等のルイス酸の存在下、芳香族化合物と塩化シアヌルを反応させることにより塩化シアヌル誘導体を合成することができる。
【0052】
前記ルイス酸としては、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化鉄(III)、塩化チタン(IV)、塩化スズ(IV)、塩化亜鉛、ビスマス(III)トリフラート、ハフニウム(IV)トリフラート、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体等を用いることができる。
【0053】
上記の芳香族化合物と塩化シアヌルの反応において、塩化シアヌルは、芳香族化合物1モルに対して、0.7から2.5モル用いることが好ましく、0.8から1.5モル用いることがより好ましい。塩化アルミニウムは、芳香族化合物1モルに対して、1.0から3.0モル用いることが好ましく、1.0から2.0モル用いることがより好ましい。反応温度は-50から60℃が好ましく、0から40℃がより好ましい。反応時間は10分から10時間が好ましく、30分から5時間であることがより好ましい。なお、芳香族化合物と塩化シアヌルの溶液に塩化アルミニウムを加えてもよく、塩化シアヌルと塩化アルミニウムの溶液に芳香族化合物を加えてもよく、芳香族化合物と塩化アルミニウムの溶液に塩化シアヌルを加えてもよい。
【0054】
上記の芳香族化合物と塩化シアヌルの反応において、例えば、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、キシレン等の溶媒を用いることができる。
【0055】
<トリアジンペルオキシド誘導体の合成>
前記工程(C)において、一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体の製造方法は、特に限定されないが、特公昭45-39468号公報等に記載の公知のトリアジンペルオキシドの合成法に準じて合成することができる。
【0056】
上記の工程(A)および(B)で得られた塩化シアヌル誘導体と、ヒドロペルオキシドを、アルカリの存在下で、反応させる工程(C)により、トリアジンペルオキシド誘導体が得られる。
【0057】
前記工程(C)において、ヒドロペルオキシドは、塩化シアヌル誘導体1モルに対して、目的物の収率性を高める観点から、0.9モル以上反応させることが好ましく、1.0モル以上反応させることがより好ましく、そして、3.0モル以下反応させることが好ましく、2.0モル以下反応させることがより好ましい。なお、ヒドロペルオキシドは、市販品を利用でき、市販品がない場合、特開昭58-72557号公報等に記載の公知の合成法に準じて合成することができる。
【0058】
前記工程(C)において、反応温度は、目的物の収率性を高める観点から、-10℃以上であることが好ましく、0℃以上であることがより好ましく、そして、50℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましい。
【0059】
前記工程(C)において、反応時間は、原料や反応温度等によって異なるので一概には決定できないが、通常、目的物の収率性を高める観点から、10分から6時間が好ましい。
【0060】
前記工程(C)において、使用するアルカリは、特に制限はないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピリジン、α―ピコリン、γ―ピコリン、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン等が挙げられる。アルカリは、塩化シアヌル誘導体1モルに対して、目的物の収率性を高める観点から、0.8モル以上使用することが好ましく、1.0モル以上使用することがより好ましく、そして、3.0モル以下使用することが好ましく、2.0モル以下使用することがより好ましい。
【0061】
前記工程(C)では、塩化シアヌル誘導体が液状である場合は、有機溶媒を用いずに反応を行うことができる。また、塩化シアヌル誘導体が固体である場合は、有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒としては、塩化シアヌル誘導体の種類により溶解度が異なるため、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。前記有機溶媒は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0062】
前記有機溶媒の使用量は、通常、原料の合計量100質量部に対して30~1000質量部程度である。有機溶媒は工程(C)の後に留去することで、トリアジンペルオキシド誘導体を取り出してもよく、取り扱い性の向上や熱分解時の危険性を低減させるため、トリアジンペルオキシド誘導体を有機溶媒の希釈品として使用してもよい。
【0063】
前記工程(C)は、常圧下で、空気下で行うことができるが、窒素気流下または窒素雰囲気下で行ってもよい。
【0064】
前記精製工程としては、余剰の原料や副生物を除去するために、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化水素、硫酸、塩化ナトリウム等の電解質水溶液や、イオン交換水を用いて洗浄し、目的物を精製する工程が挙げられる。
【0065】
前記トリアジンペルオキシド誘導体の含有量は、前記ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方100質量部に対して、0.01から40質量部であることが好ましく、0.05から20質量部であることがより好ましく、0.1から10質量部であることがさらに好ましい。前記トリアジンペルオキシド誘導体の含有量は、前記ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方100質量部に対して、0.01質量部未満では硬化反応が進行しないため好ましくない。また、トリアジンペルオキシド誘導体の含有量は、前記ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方100質量部に対して、40質量部より多い場合、前記ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方への溶解度が飽和に達し、熱伝導性組成物の成膜時に光重合開始剤の結晶が析出し、皮膜表面の荒れが問題になる場合や、光重合開始剤自身の光吸収により、硬化物の深部まで光が到達しないため、好ましくない。なお、前記トリアジンペルオキシド誘導体に、下記他の重合開始剤を含む場合、他の重合開始剤の割合は、トリアジンペルオキシド誘導体と他の重合開始剤の合計中、80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0066】
また、前記熱伝導性組成物は、上記のトリアジンペルオキシド誘導体以外にも、他の重合開始剤を用いることで、重合性組成物の表面硬化性、深部硬化性等を改良することができる。他の重合開始剤は熱重合開始剤又は光重合開始剤の任意で、選択に当たっては、ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方、熱伝導性フィラー、その他添加剤の種類、熱伝導性フィラーの充填量、硬化物の膜厚等が考慮される。前記他の重合開始剤としては、例えば、上記の部分重合に用いる熱重合開始剤や部分重合に用いる光重合開始剤(但し、一般式(1)で表されるトリアジンペルオキシド誘導体は除く。)が挙げられる。
【0067】
<熱伝導性フィラー>
前記熱伝導性フィラーは、特に制限されず、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、炭化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ケイ素、ホウ素化チタン、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、ダイヤモンド、ニッケル、銅、アルミニウム、チタン、金、銀等が挙げられる。シートの強度を向上するために、シラン、チタネート等で表面処理したフィラーを用いてもよい。また、フィラー表面にセラミックス、ポリマー等で耐水コート、絶縁コート等のコーティングを施したフィラーを用いてもよい。これらのうち、室温における熱伝導性の高いものが好ましく、20℃の熱伝導率(W/m・k)が1以上、好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上である。熱伝導性フィラーは、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0068】
熱伝導性フィラーの形状は規則的な形状又は不規則な形状であるが、例えば、多角形状、立方体状、楕円状、球形、針状、平板状又はフレーク状あるいはこれらの組み合わせの場合が挙げられる。また、複数の結晶粒子が凝集した粒子であってもよい。フィラーの形状は、ラジカル重合性モノマーまたはその部分重合体の粘度及び重合後の最終的な熱伝導性組成物の加工のしやすさで選択される。
【0069】
また、熱伝導性フィラーの平均粒径は、0.5μm以上100μm以下とすることが好ましく、特に、分散性と熱伝導性の点から、平均粒径1μm以上20μm以下の小径のフィラーと、平均粒径25μm以上100μm以下の大径のフィラーを併用することが好ましい。
【0070】
前記熱伝導性フィラーは、ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方、並びに光重合開始剤を含有するバインダー成分100体積部に対して、100体積部以上900体積部以下である。従来の紫外線等による光硬化による組成物では、硬化に必要な光透過性を確保するために熱伝導性フィラーの含有量に制限があったが、本発明の熱伝導性組成物はトリアジンペルオキシド誘導体を含むため、前記バインダー成分100体積部に対して、100体積部以上の量で熱伝導性フィラーを含有することができる。前記熱伝導性フィラーは、前記バインダー成分100体積部に対して、200体積部以上であることが好ましく、300体積部以上であることがより好ましく、そして、700体積部以下であることが好ましく、600体積部以下であることがより好ましい。熱伝導性フィラーの量がバインダー成分100体積部に対して、100体積部未満であると十分な熱伝導性を付与できず、900体積部を超えると熱伝導性シートの強度が弱くなる。
【0071】
<その他添加剤等>
前記熱伝導性組成物には、適宜、増感剤(イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、9,10-ジブトキシアントラセン、9-フェニルアクリジン、クマリン、ケトクマリン、アクリジンオレンジ、カンファーキノン等)、架橋剤、架橋促進剤、シランカップリング剤、粘着付与樹脂(ロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、石油樹脂、油溶性フェノール等)、老化防止剤、充填剤、着色剤(顔料や染料等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、可塑剤、軟化剤、界面活性剤、帯電防止剤、増粘剤、難燃剤、無機化合物、無機充填剤、電磁波吸収性フィラー等の公知の添加剤を、本実施形態の特性を損なわない範囲で、単独または組み合わせて用いることができる。また、前記熱伝導性シートを形成する際には、各種の一般的な溶剤を用いることもできる。
【0072】
上記の各構成材料の混合方法は、特に限定されるものではないが、少量の場合は手混合も可能であるが、万能混合機、プラネタリーミキサー、ハイブリッドミキサー、ヘンシェルミキサー、ニーダー、ボールミル、ミキシングロール等の一般的な混合機が用いられる。
【0073】
<熱伝導性シート>
本発明の熱伝導性シートは、前記熱伝導性組成物の硬化物である。
【0074】
前記熱伝導性シートへの加工方法としては、従来公知の方法、例えば、ロールコート法、スピンコート法、ディップコート法、ハケ塗り法、バーコート法、ナイフコート法、ダイコート法、ドクターブレード法、押出成形法、射出成形法、プレス成形法等の各種成形法を用いることができる。
【0075】
前記熱伝導性組成物を硬化させる方法は特に制限されず、電子線、紫外線、可視光線、放射線等の活性エネルギー線の照射によって行うことが好ましい。
【0076】
活性エネルギー線は、活性エネルギー線の波長が250から450nmの光であることが好ましく、硬化を迅速に行うことができる観点から、350から410nmの光であることがより好ましい。前記活性エネルギー線の露光量は、活性エネルギー線の波長や強度、熱伝導性組成物の組成に応じて適宜設定すべきである。なお、前記活性エネルギー線の強度は任意であり、高強度では短時間で硬化を行うことができ、低強度では時間を長くすることで硬化を行うことができる。
【0077】
前記光照射の光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線無電極ランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、太陽光、YAGレーザー等の固体レーザー、半導体レーザー、アルゴンレーザー等のガスレーザー等を使用することができる。なお、トリアジンペルオキシド誘導体の吸収が少ない可視光から赤外光の光を用いる場合には、前記添加剤として、その光を吸収する増感剤を使用することにより効果的に硬化を行なうことができる。
【0078】
なお、上記の硬化物の製造方法として、デュアルキュア工程を適用して、活性エネルギー線で照射する工程の前後に、加熱する工程を行ってもよい。前記熱伝導性組成物を加熱する工程において、加熱する手法は、例えば、加熱、通風加熱等が挙げられる。加熱の方式としては、特に制限されることはないが、例えば、オーブン、ホットプレート、赤外線照射、電磁波照射等が挙げられる。また、通風加熱の方式としては、例えば、送風式乾燥オーブン等が挙げられる。
【0079】
熱伝導性シートの膜厚は、0.3mm以上5mm以下であることが好ましい。従来の紫外線等による光硬化による組成物では、硬化に必要な光透過性を確保するために膜厚に制限があったが、本発明の熱伝導性組成物はトリアジンペルオキシド誘導体を含むため、0.3mm以上5mm以下の膜厚で硬化できる。前記熱伝導性シートは、作製できる膜厚の範囲が広い(例えば、膜厚が0.5mm以上、0.8mm以上が例示できる)ため、各種用途に適用できる。なお、前記熱伝導性シートは、通常、単層で用いられるが、必要に応じて、2層もしくはそれ以上の多層で使用することもできる。また、前記熱伝導性シートは、一般環境下、室温(23℃)での熱伝導率が1.5(W/m・K)以上であることが好ましく、2.0(W/m・K)以上であることがより好ましい。
【実施例0080】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
<合成例1-7>
(1)トリアジンペルオキシド誘導体の合成
[合成例1:化合物19の合成]
100mLナスフラスコに、ジフェニルスルフィド3.03g(16.3mmol)、脱水ジクロロメタン30mLを加え、0℃まで冷却した。ここに、塩化シアヌル3.00g(16.3mmol)を加えた後、塩化アルミニウム2.39g(17.9mmol)を10分かけて加え、0℃にて3時間反応させた。反応終了後、反応液を氷冷1M塩酸50mLに注いで撹拌し、水相を分液した。油相を飽和食塩水50mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて脱水した。ろ過後、減圧濃縮し、粗体を得た。粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル=4/1から2/1)で精製し、5.03g(収率92.6%)の2,4-ジクロロ-6-(4-フェニルチオ-1-フェニル)-1,3,5-トリアジンを得た。
【0082】
100mLナスフラスコに2,4-ジクロロ-6-(4-フェニルチオ-1-フェニル)-1,3,5-トリアジン3.00g(8.98mmol)、メチルエチルケトン30mLを加え、40℃に加温した。イオン交換水4.67g、25質量%水酸化ナトリウム水溶液4.31g(26.9mmol)を加えた後、メタノール0.32g(9.87mmol)を10分かけて滴下し、40℃で2時間反応させた。40℃以下で69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液1.29g(9.87mmol)を10分かけて滴下し、40℃で1時間反応させた。反応終了後、水相を分液し、油相を氷水50mLに投入した。析出した結晶をろ過し、イオン交換水で洗浄し、減圧下で乾燥させ、2.60g(収率75.5%)で本発明の化合物19を得た。得られた化合物19のEI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0083】
[合成例2:化合物25の合成]
本発明の化合物25は、合成例1に記載のジフェニルスルフィドを1-メトキシナフタレンに変更したこと以外は、合成例1に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物25のEI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0084】
[合成例3:化合物35の合成]
ヒートドライ乾燥した100mL三つ口フラスコに、マグネシウム0.44g(17.1mmol)、脱水テトラヒドロフラン15mL、触媒量のヨウ素を入れ、室温下で撹拌した。4-ブロモ-4’-メトキシビフェニル4.29g(16.3mmol)と脱水テトラヒドロフラン15mLの混合溶液を滴下した後、1時間還流撹拌させた。別の100mL三つ口フラスコに、塩化シアヌル3.00g(16.3mmol)、脱水テトラヒドロフラン15mLを加え、0℃まで冷却した。ここに、先に調製した混合溶液を、30分かけて滴下し、室温にあげ、15時間撹拌した。反応液を氷浴で冷却し、1M塩酸を加えて撹拌し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液でpHを8に調整した。次いで、酢酸エチルで抽出した。油相を飽和食塩水で1回洗浄した後、硫酸マグネシウムで脱水した。ろ過後、油相を減圧下で濃縮し、粗体を得た。粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル=3/1から1/1)で精製し、2.07g(収率38.2%)の2,4-ジクロロ-6-[4-(4’-メトキシビフェニル)]-1,3,5-トリアジンを得た。
【0085】
50mLナスフラスコに2,4-ジクロロ-6-[4-(4’-メトキシビフェニル)]-1,3,5-トリアジン1.20g(3.62mmol)、メチルエチルケトン10mLを加え、40℃に加温した。イオン交換水1.88g、25質量%水酸化ナトリウム水溶液1.74g(10.9mmol)を加えた後、メタノール0.13g(3.98mmol)を5分かけて滴下し、40℃で2時間反応させた。40℃以下で69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液0.52g(3.98mmol)を5分かけて滴下し、40℃で1時間反応させた。反応終了後、水相を分液し、油相を氷水50mLに投入した。析出した結晶をろ過し、イオン交換水で洗浄し、減圧下で乾燥させ、1.04g(収率75.0%)で本発明の化合物35を得た。得られた化合物35のEI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0086】
[合成例4:化合物53の合成]
本発明の化合物53は、合成例3に記載のメタノールをイソプロピルアルコールに、及び69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液を90質量%tert-ヘキシルヒドロペルオキシド溶液に変更したこと以外は、合成例3に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物53のEI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0087】
[合成例5:化合物56の合成]
本発明の化合物6は、合成例3に記載のメタノールをtert-ブチルアルコールに、及び69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液を80質量%クメンヒドロペルオキシド溶液に変更したこと以外は、合成例3に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物56のEI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0088】
[合成例6:化合物77の合成]
ヒートドライ乾燥した100mL三つ口フラスコに、マグネシウム0.44g(17.1mmol)、脱水テトラヒドロフラン15mL、触媒量のヨウ素を入れ、室温下で撹拌した。4-ブロモ-4’-メトキシビフェニル4.29g(16.3mmol)と脱水テトラヒドロフラン15mLの混合溶液を滴下した後、1時間還流撹拌させた。別の100mL三つ口フラスコに、塩化シアヌル3.00g(16.3mmol)、脱水テトラヒドロフラン15mLを加え、0℃まで冷却した。ここに、先に調製した混合溶液を、30分かけて滴下し、室温にあげ、15時間撹拌した。反応液を氷浴で冷却し、1M塩酸を加えて撹拌し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液でpHを8に調整した。次いで、酢酸エチルで抽出した。油相を飽和食塩水で1回洗浄した後、硫酸マグネシウムで脱水した。ろ過後、油相を減圧下で濃縮し、粗体を得た。粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル=3/1から1/1)で精製し、2.07g(収率38.2%)の2,4-ジクロロ-6-[4-(4’-メトキシビフェニル)]-1,3,5-トリアジンを得た。
【0089】
100mLナスフラスコに、アニソール3.03g(16.3mmol)、脱水ジクロロメタン30mLを加え、0℃まで冷却した。ここに、2,4-ジクロロ-6-[4-(4’-メトキシビフェニル)]-1,3,5-トリアジン3.00g(16.3mmol)を加えた後、塩化アルミニウム2.39g(17.9mmol)を10分かけて加え、0℃にて3時間反応させた。反応終了後、反応液を氷冷1M塩酸50mLに注いで撹拌し、水相を分液した。油相を飽和食塩水50mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて脱水した。ろ過後、減圧濃縮し、粗体を得た。粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル=4/1から2/1)で精製し、5.03g(収率92.6%)の2-クロロ-4-(4-メトキシフェニル)-6-[4-(4’-メトキシビフェニル)]-1,3,5-トリアジンを得た。
【0090】
50mLナスフラスコにイオン交換水1.88g、25質量%水酸化ナトリウム水溶液1.74g(10.9mmol)を加え、30℃以下で69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液0.52g(3.98mmol)を徐々に加えた。ここに、2-クロロ-4-(4-メトキシフェニル)-6-[4-(4’-メトキシビフェニル)]-1,3,5-トリアジン1.20g(3.62mmol)とテトラヒドロフラン10mLの混合溶液を、10℃で10分かけて滴下し、20℃で3時間反応させた。反応終了後、ジクロロメタン10mLを加え、水相を分液した。油相をイオン交換水で洗浄し、0℃にて無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後、油相を減圧下で濃縮し、1.04g(収率75.0%)で本発明の化合物77を得た。得られた化合物77のEI-MSおよびH-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
<実施例1>
<部分重合体の作製>
2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)100質量部に対し、光重合開始剤として化合物19を0.5質量部混合し、紫外線を照射して、単量体全体量のうち10~20%が重合して増粘した部分重合体を得た。
【0093】
<熱伝導性組成物の調製>
上記で得られた2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)の部分重合体を85質量部、イソボルニルアクリレート(IBXA)を15質量部、および1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)を0.1質量部、光重合開始剤として化合物19を0.5質量部混合して得られたバインダー成分100体積部に対し、熱伝導性フィラー1(アルミナ:平均粒子径50μm、20℃の熱伝導率25W/m・k)を220体積部、および熱伝導性フィラー2(アルミナ:平均粒子径2μm、20℃の熱伝導率25W/m・k)を80体積部を混合し、自転公転ミキサー(THINKY製、あわとり練太郎ARV-310)で2分攪拌することで熱伝導性組成物を得た。
【0094】
<熱伝導性シートの製造>
片面に離形処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム2枚の離形処理面で、スペーサーを用いて上記で得られた熱伝導性組成物をはさみ成形した。その後、上記2枚の離形フィルムの片面側から365nmLED光源を用いて紫外線照射(照度2000mW/cm)を10秒間行い、熱伝導性組成物を硬化させ、熱伝導性シートを製造した。
【0095】
<実施例2>
部分重合体の作製、および熱伝導性組成物の調製において、光重合開始剤として化合物19の替わりに化合物25を使用したこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0096】
<実施例3>
ラジカル重合性化合物として2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)の部分重合体の替わりに2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)のモノマーを使用したこと以外は、実施例2と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0097】
<実施例4>
部分重合体の作製、および熱伝導性組成物の調製において、光重合開始剤として化合物19の替わりに化合物35を使用したこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0098】
<実施例5>
バインダー成分100体積部に対して、熱伝導性フィラー1の混合量を150体積部、および熱伝導性フィラー2の混合量を50体積部に変更したこと以外は、実施例4と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0099】
<実施例6>
部分重合体の作製、および熱伝導性組成物の調製において、光重合開始剤として化合物19の替わりに化合物53を使用したこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0100】
<実施例7>
熱伝導性シートの硬化後の膜厚を表1に記載した膜厚に変更し、紫外線照射を60秒間行ったこと以外は、実施例6と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0101】
<実施例8>
部分重合体の作製、および熱伝導性組成物の調製において、光重合開始剤として化合物19の替わりに化合物56を使用したこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0102】
<実施例9>
バインダー成分100体積部に対して、熱伝導性フィラー1の混合量を400体積部、および熱伝導性フィラー2の混合量を150体積部に変更したこと以外は、実施例8と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0103】
<実施例10>
部分重合体の作製、および熱伝導性組成物の調製において、光重合開始剤として化合物19の替わりに化合物77を使用したこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0104】
<比較例1>
部分重合体の作製、および熱伝導性組成物の調製において、光重合開始剤として化合物19の替わりに化合物R1(2,4,6―トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド:IGM RESINS B.V.製)を使用したこと、および部分重合体の作製において2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)100質量部に対し、化合物R1を4質量部混合した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0105】
<比較例2>
バインダー成分100体積部に対して、熱伝導性フィラー1の混合量を30体積部、および熱伝導性フィラー2の混合量を15体積部に変更する以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0106】
<比較例3>
バインダー成分100体積部に対して、熱伝導性フィラー1の混合量を800体積部、および熱伝導性フィラー2の混合量を300体積部に変更する以外は、実施例10と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0107】
<比較例4>
熱伝導性組成物の調製において、重合開始剤として化合物R1の替わりに熱重合開始剤である化合物R2(ラウロイルパーオキサイド「パーロイルL」:日油製)を使用したこと、及び紫外線を照射する替わりに、150℃で600秒間加熱する以外は比較例1と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0108】
<比較例5>
150℃で900秒間加熱する以外は比較例4と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0109】
<硬化性>
実施例および比較例で得られた熱伝導性シートの離形フィルムを剥がす際に、熱伝導性シートと離形フィルムとの界面を目視にて観察した。
〇:離形フィルムをスムーズに剥がすことができ、かつ熱伝導性シートに破損がない。
×:離形フィルムを剥がすことができない、または熱伝導性シートに破損が生じる。
【0110】
<膜厚>
実施例および比較例で得られた熱伝導性シートについてデジタル式マイクロメータを用いて膜厚を測定した。
【0111】
<熱伝導率>
実施例および比較例で得られた熱伝導性シートについて熱伝導率測定器(QTM-710:京都電子工業製)を用いて、熱伝導率を測定した。
【0112】
【表2】
【0113】
実施例1~10では、高い熱伝導率と厚膜を有する熱伝導性シートが得られた。
【0114】
比較例1はトリアジンペルオキシド誘導体でない光重合開始剤を使用したため硬化性が悪かった。比較例2は熱伝導性フィラーの含有量が少ないため熱伝導性が悪かった。比較例3は熱伝導性フィラーの含有量が多すぎるため硬化性が悪かった。比較例4、5は熱重合開始剤(化合物R2)を用いたため600秒でも硬化することができず、硬化するまで900秒かかった。