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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002940
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】ポリ尿素およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 71/02 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
C08G71/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098462
(22)【出願日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2022102102
(32)【優先日】2022-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023004611
(32)【優先日】2023-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】浅井 文雄
(72)【発明者】
【氏名】連 康一
(72)【発明者】
【氏名】中井 誠
(72)【発明者】
【氏名】土門 武徳
【テーマコード(参考)】
4J034
【Fターム(参考)】
4J034SA06
4J034SD02
4J034SD10
4J034SE01
(57)【要約】
【課題】大掛かりな反応容器を用いることなく製造可能である、より十分に高分子量のポリ尿素を提供すること。
【解決手段】周期表第12族、第13族、第14族および第15族の典型金属元素、遷移金属元素ならびに希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素を10~100000ppm含有するポリ尿素。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表第12族、第13族、第14族および第15族の典型金属元素、遷移金属元素ならびに希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素を10~100000ppm含有するポリ尿素。
【請求項2】
前記ポリ尿素は炭素原子数が4~36の脂肪族一級ジアミンをモノマー成分として含む、請求項1に記載のポリ尿素。
【請求項3】
前記ポリ尿素は4000以上の数平均分子量を有する、請求項1に記載のポリ尿素。
【請求項4】
前記金属元素は、亜鉛、アルミニウム、スズ、チタン、ジルコニウム、セリウムからなる群より選択される少なくとも1種以上の金属元素である、請求項1に記載のポリ尿素。
【請求項5】
前記ポリ尿素はジアミン化合物と二酸化炭素との反応生成物である、請求項1に記載のポリ尿素。
【請求項6】
前記ポリ尿素は前記金属元素を1000~40000ppm含有する、請求項1に記載のポリ尿素。
【請求項7】
周期表第12族、第13族、第14族および第15族の典型金属元素、遷移金属元素ならびに希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素を含む化合物の存在下、圧力5.0MPa未満で、ジアミン化合物と二酸化炭素を反応させる工程を含む、ポリ尿素の製造方法。
【請求項8】
前記ジアミン化合物は、炭素原子数が4~36の脂肪族一級ジアミンを含む、請求項7に記載のポリ尿素の製造方法。
【請求項9】
前記金属元素を含む化合物を、前記ジアミン化合物に対して、0.005~10モル%用いる、請求項7に記載のポリ尿素の製造方法。
【請求項10】
前記圧力は大気圧である、請求項7に記載のポリ尿素の製造方法。
【請求項11】
前記ポリ尿素は4000以上の数平均分子量を有する、請求項7に記載のポリ尿素の製造方法。
【請求項12】
前記金属元素は、亜鉛、アルミニウム、スズ、チタン、ジルコニウム、セリウムからなる群より選択される少なくとも1種以上の金属元素である、請求項7に記載のポリ尿素の製造方法。
【請求項13】
前記ポリ尿素は前記金属元素を10~100000ppm含有する、請求項7に記載のポリ尿素の製造方法。
【請求項14】
前記ポリ尿素は前記金属元素を1000~40000ppm含有する、請求項7に記載のポリ尿素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ尿素およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ尿素は、耐熱性、機械強度、耐薬品性に優れていることから、射出成形品、接着剤等として広く用いられている。
【0003】
ポリ尿素の製造方法としては、ジアミン化合物とジイソシアネートを原料として重合する方法が一般的である。このような製造方法としては、溶融重合する方法や低温で固相重合する方法が知られている。しかしながら、このような製造方法は、ジイソシアネートの重合性が高く、ポリマー鎖に分岐が発生するため、ゲルが生成し、高分子量化できないという問題がある。
【0004】
分岐の問題を回避する方法としては、原料としてジイソシアネートを用いない方法が考えられる。このような製造方法として、特許文献1に、圧力5~10MPaの条件下で、ジアミン化合物と二酸化炭素を重合してポリ尿素を製造する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1の製造方法は、二酸化炭素を5~10MPaで導入して重合させるため、大掛かりな反応容器を用いる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-107095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記問題点を解決するものであり、大掛かりな反応容器を用いることなく製造可能である、より十分に高分子量のポリ尿素とその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、前記問題点を解決するものであり、大掛かりな反応容器を用いることなく製造可能であって、ゲルの発生がない、より十分に高分子量のポリ尿素とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
<1> 周期表第12族、第13族、第14族および第15族の典型金属元素、遷移金属元素ならびに希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素を10~100000ppm含有するポリ尿素。
<2> 前記ポリ尿素は炭素原子数が4~36の脂肪族一級ジアミンをモノマー成分として含む、<1>に記載のポリ尿素。
<3> 前記ポリ尿素は4000以上の数平均分子量を有する、<1>または<2>に記載のポリ尿素。
<4> 前記金属元素は、亜鉛、アルミニウム、スズ、チタン、ジルコニウム、セリウムからなる群より選択される少なくとも1種以上の金属元素である、<1>~<3>のいずれかに記載のポリ尿素。
<5> 前記ポリ尿素はジアミン化合物と二酸化炭素との反応生成物である、<1>~<4>のいずれかに記載のポリ尿素。
<6> 前記ポリ尿素は前記金属元素を1000~40000ppm含有する、<1>~<5>のいずれかに記載のポリ尿素。
<7> 周期表第12族、第13族、第14族および第15族の典型金属元素、遷移金属元素ならびに希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素を含む化合物の存在下、圧力5.0MPa未満で、ジアミン化合物と二酸化炭素を反応させる工程を含む、ポリ尿素の製造方法。
<8> 前記ジアミン化合物は、炭素原子数が4~36の脂肪族一級ジアミンを含む、<7>に記載のポリ尿素の製造方法。
<9> 前記金属元素を含む化合物を、前記ジアミン化合物に対して、0.005~10モル%用いる、<7>または<8>に記載のポリ尿素の製造方法。
<10> 前記圧力は大気圧である、<7>~<9>のいずれかに記載のポリ尿素の製造方法。
<11> 前記ポリ尿素は4000以上の数平均分子量を有する、<7>~<10>のいずれかに記載のポリ尿素の製造方法。
<12> 前記金属元素は、亜鉛、アルミニウム、スズ、チタン、ジルコニウム、セリウムからなる群より選択される少なくとも1種以上の金属元素である、<7>~<11>のいずれかに記載のポリ尿素の製造方法。
<13> 前記ポリ尿素は前記金属元素を10~100000ppm含有する、<7>~<12>のいずれかに記載のポリ尿素の製造方法。
<14> 前記ポリ尿素は前記金属元素を1000~40000ppm含有する、<7>~<13>のいずれかに記載のポリ尿素の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大掛かりな反応容器を用いることなく製造可能であって、ゲルの生成がない、より十分に高分子量のポリ尿素を提供することができる。
また、本発明の製造方法によれば、二酸化炭素の濃度がより十分に低い5.0MPa未満の低圧下で、生産性よく、高分子量のポリ尿素を重合することができる。また、低圧下で重合できるため大掛かりな設備を必要としない。
さらに、原料として二酸化炭素を用いるため、温室効果を抑制する効果も期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリ尿素は、ジアミン化合物と二酸化炭素を原料とする。例えば、本発明のポリ尿素は、ジアミン化合物および二酸化炭素をモノマー成分として含有する。
【0012】
ジアミン化合物としては、脂肪族ジアミンおよび芳香族ジアミンなどのジアミンが挙げられる。
【0013】
脂肪族ジアミンは、1分子中、2つのアミノ基を有し、かつ、芳香族環も脂環族環も有さない有機化合物のことである。脂肪族ジアミンの炭素原子数は特に限定されず、例えば、2~50、特に4~36、好ましくは4~18、より好ましくは4~12であってもよい。脂肪族ジアミンの具体例としては、例えば、
1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,5-ジアミノ-2-メチルペンタン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、ダイマージアミンが挙げられる。ダイマージアミンとは、オレイン酸等の不飽和脂肪酸の二量体である環式または非環式のダイマー酸の有する全てのカルボキシル基を一級アミノ基に置換したものである(特開平9-12712号公報等参照)。ここで、ダイマー酸とは、オレイン酸、リノール酸やリノレン酸等の不飽和脂肪酸を二量化して得られる炭素数36の二塩基酸を主に含むものであり、その精製度合いによって、炭素数18のモノマー酸、炭素数54のトリマー酸、炭素数20~90の重合脂肪酸を含む。なお、前記ダイマー酸には二重結合が含まれるが、例えば、水素化反応により不飽和度を低下させても良い。ダイマージアミンの市販品としては、BASFジャパン社製「バーサミン551」、コグニスジャパン社製「バーサミン552」(バーサミン551の水素添加物)、クローダジャパン社製「PRIAMINE1075」、クローダジャパン社製「PRIAMINE1074」が挙げられる。
【0014】
芳香族ジアミンは、1分子中、2つのアミノ基を有し、かつ1つ以上(特に1つ)の芳香族環を有するが、脂環族間を有さない有機化合物のことである。芳香族ジアミンの炭素原子数は特に限定されず、例えば、6~50、特に6~30、好ましくは6~12であってもよい。芳香族ジアミンの具体例としては、例えば、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどが挙げられる。
【0015】
さらなる高分子量化の観点から、少なくとも1種のジアミン化合物が、炭素原子数が4~36の脂肪族ジアミン(特に脂肪族一級ジアミン)であることが好ましい。一級ジアミンとは、2つのアミノ基がいずれも「NH」で表される化合物のことである。ジアミン化合物は、中でも、炭素原子数が4~12の脂肪族ジアミン化合物が好ましく、原料調達の点から、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,5-ジアミノ-2-メチルペンタン、1,6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,12-ドデカンジアミンがより好ましい。ジアミン化合物としては、ポリオキシアルキレンジアミンを含有してもよく、例えば、トリエチレングリコールジアミン、ポリオキシプロピレンジアミンが挙げられる。ジアミン化合物の種類を選択することにより、ポリ尿素の融点、柔軟性、吸水性等を制御することができる。ジアミン化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
本発明のポリ尿素は金属元素を含有する。そのような金属元素としては、周期表(長周期型)第12族、第13族、第14族および第15族の典型金属元素、遷移金属元素ならびに希土類元素からなる群より選択される少なくとも1種以上の金属元素(以下、「特定金属元素」と略称することがある。)が挙げられる。特定金属元素は、ポリ尿素の重合触媒に由来するものである。
【0017】
第12族の金属元素としては、例えば、亜鉛が挙げられる。
第13族の金属元素としては、例えば、アルミニウム、インジウムが挙げられる。
第14族の金属元素としては、例えば、ゲルマニウム、スズが挙げられる。
第15族の金属元素としては、例えば、アンチモンが挙げられる。
遷移金属元素としては、チタン、ジルコニウムが挙げられ、さらなる高分子量化の観点から、好ましくはジルコニウムである。
希土類元素としては、例えば、セリウムが挙げられる。
【0018】
特定金属元素は、さらなる高分子量化の観点から、周期表第12族、第13族および第14族の典型金属元素、遷移金属元素ならびに希土類元素からなる群(特に、亜鉛、アルミニウム、スズ、チタン、ジルコニウム、セリウムからなる群)より選択される少なくとも1種以上の金属元素を含むことが好ましく、周期表第14族の典型金属元素および遷移金属元素からなる群(特に、スズ、チタン、ジルコニウムからなる群)より選択される少なくとも1種以上の金属元素を含むことがより好ましく、遷移金属元素からなる群より選択される少なくとも1種以上の金属元素(特にジルコニウム)を含むことがさらに好ましい。
【0019】
ポリ尿素中の特定金属元素の含有量は、さらなる高分子量化の観点から、10~100000ppmであることが好ましく、100~100000ppmであることがより好ましく、1000~100000ppmであることがさらに好ましく、1000~40000ppmであることが特に好ましく、1000~20000ppmであることが十分に好ましく、2000~7000ppmであることがより十分に好ましく、4000~5000ppmであることが最も好ましい。金属元素の含有量が10ppm以下の場合、低圧下でポリ尿素を重合することができないので好ましくない。前記含有量が100000ppmを超える場合、ポリ尿素の重合中の分解反応が顕著になり重合が進みにくくなったり、かつ/または、重合後のポリ尿素を溶融加工する際に熱分解が進みやすくなったりするので好ましくない。ポリ尿素が2種以上の特定金属元素を含有する場合、それらの合計含有量が上記範囲内であればよい。例えば、特定金属元素を含有する化合物が、重合後のポリ尿素に添加剤(例えば、白色顔料、隠蔽剤、補強材、光触媒、熱伝導性フィラー、導電性フィラー等)として添加される場合、当該添加剤の添加量は比較的多いため、ポリ尿素中の特定金属元素の含有量は通常、1000000ppm以上となる。なお、単位「ppm」はポリ尿素全重量に対する割合である。
【0020】
二酸化炭素としては、製鉄、製油産業等における工場排気ガス、ごみ焼却等における燃焼ガス、空気等に含まれる二酸化炭素を分離・精製したガス、市販の精製ガスが挙げられる。中でも、温室効果ガス削減の点においては、工場排気ガス、燃焼ガス、空気等に含まれる二酸化炭素を分離・精製したガスが好ましい。入手の容易さの点においては、市販の精製ガスが好ましい。
【0021】
二酸化炭素の純度は、90%以上とすることが好ましく、95%以上とすることがより好ましく、99%以上とすることがさらに好ましい。二酸化炭素の純度を90%以上とすることで、低圧下、二酸化炭素とジアミン化合物を効率よく重合させることができる。
【0022】
本発明のポリ尿素は、周期表第12族、第13族および第14族の典型金属元素、遷移金属元素ならびに希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素を含む化合物(以下、「特定化合物」と略称することがある。)の存在下、圧力5.0MPa未満で、ジアミン化合物と二酸化炭素を反応させることにより得ることができる。例えば、特定金属元素を1種以上(特に1種)で含む特定化合物の存在下、特定の低圧力で、ジアミン化合物と二酸化炭素を反応させることにより、本発明のポリ尿素を得ることができる。特定化合物は1種のみで使用されてもよいし、2種以上の混合物として使用されてもよい。特定化合物が存在しない場合、低圧力(例えば大気圧)下では、二酸化炭素とジアミン化合物の反応が十分に進行せず、ポリ尿素を得ることはできない。
【0023】
本発明において詳しくは、最初に、ジアミン化合物と二酸化炭素が反応してカルバミン酸化合物が生成され、続いて、カルバミン酸化合物のカルボキシアミノ基と、ジアミン化合物または別のカルバミン酸化合物のアミノ基との脱水縮合反応により水とウレア結合が生じる。次いで、生成したウレア結合を有したジアミン化合物が、前記反応のジアミン化合物と同様の反応を繰り返すことで分子鎖が延長されるものと推察される。
【0024】
ジアミン化合物と二酸化炭素を反応させる方法としては、反応容器にジアミン化合物を投入した後、二酸化炭素を導入する方法、および反応容器を二酸化炭素で満たしておき、そこにジアミン化合物を添加する方法が挙げられる。ジアミン化合物の揮散や配管の閉塞の低減の点から前者の方法が好ましい。いずれの方法(前者および後者の方法)においても、ジアミン化合物は、結果として、二酸化炭素を吸収する。
【0025】
二酸化炭素は、ポンプ、コンプレッサー、ブロワー等の装置を用いて反応容器に導入させることができる。これらの装置は、単独で用いてよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
ジアミン化合物に二酸化炭素を吸収させる方法としては、ジアミン化合物を二酸化炭素気流にさらす方法、およびジアミン化合物を二酸化炭素でバブリングする方法が挙げられ、吸収効率の点から後者の方が好ましい。その際、ジアミン化合物が二酸化炭素を吸収しやすいように反応容器を加温してもよい。二酸化炭素は流通および/または循環させて原料として用いることができる
【0027】
本発明の製造方法では、必要に応じて、末端封鎖剤を用いてもよい。末端封鎖剤としては、例えば、ヘキシルアミン、オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン等のモノアミン、酢酸、ラウリン酸、安息香酸等のモノカルボン酸が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。末端封鎖剤の添加量は特に限定されないが、高分子量化の観点から、ジアミン化合物に対して5モル%以下とすることが好ましく、2モル%以下とすることがより好ましく、0モル%とすることが好ましい。
【0028】
特定化合物は、特定金属元素を含有する限り、あらゆる形態を有していてもよい。特定化合物は、例えば、いわゆる有機金属の形態を有していてもよいし、または金属酸化物もしくは硫酸金属塩の形態を有していてもよい。有機金属の形態として、例えば、アルキル化物、アルコキシ化物、水酸化物、モノヒドロキシモノカルボン酸錯体化物、有機酸エステル化物、ハロゲン化物、およびそれらの複合化物が挙げられる。
【0029】
アルキル化物を構成するアルキル基として、例えば、炭素原子数3~20(特に3~12)の直鎖状または分岐状アルキル基(特に直鎖状アルキル基)が挙げられる。当該アルキル基の具体例として、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。
アルコキシ化物を構成するアルコキシ基として、例えば、炭素原子数3~12(特に3~5)の直鎖状または分岐状アルコキシ基(特に直鎖状アルコキシ基)が挙げられる。当該アルコキシ基の具体例として、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基等が挙げられる。
モノヒドロキシモノカルボン酸錯体化物を構成するモノヒドロキシモノカルボン酸として、例えば、炭素原子数2~6(特に2~4)のモノヒドロキシモノカルボン酸が挙げられる。当該モノヒドロキシモノカルボン酸の具体例として、例えば、グリコール酸、乳酸、2-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン酸等が挙げられる。
有機酸エステル化物を構成する有機酸として、例えば、炭素原子数1~10(特に1~5)のモノカルボン酸化合物が挙げられる。当該モノカルボン酸化合物の具体例として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2-メチルプロパン酸、吉草酸等が挙げられる。
ハロゲン化物を構成するハロゲン原子として、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0030】
本発明の製造方法においては、特定化合物の中でも、亜鉛、アルミニウム、スズ、チタン、ジルコニウム、セリウムからなる群より選択される1種以上(特に1種)の金属元素を含む化合物を触媒として用いることが好ましい。
亜鉛元素を含む化合物としては、例えば、アルキル亜鉛、ジアルキル亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、酢酸亜鉛が挙げられる。
アルミニウム元素を含む化合物としては、例えば、アルミニウム-sec-ブトキシドが挙げられる。
スズ元素を含む化合物としては、例えば、モノブチルスズオキシド等のモノアルキルスズオキシド;ジブチルスズオキシド、ジオクチルスズオキシド等のジアルキルスズオキシド;テトラブチルスズ等のテトラアルキルスズ;ジブチルスズジラウレート、モノブチルスズトリス(2-エチルヘキサノエート)、スズオクタノエート等のスズエステル;ブチルスズオキシド水酸化物等のジアルキルスズオキシド水酸化物が挙げられる。
チタン元素を含む化合物としては、例えば、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート等のテトラアルキルチタネート;チタノセンジクロリド;チタノセンビス(トリフルオロメタンスルホナート);ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム等のチタンキレート化合物が挙げられる。
ジルコニウム元素を含む化合物としては、例えば、テトラ-n-ブトキシジルコニウム、テトラ-n-プロポキシジルコニウム等のテトラアルキルオキシジルコニウム;ジルコニウムテトラアセチルアセトネート;オクチル酸ジルコニウム;酸化ジルコニウム;塩化ジルコニウム;炭酸ジルコニウムアンモニウム;オキシ酢酸ジルコニウム;酢酸水酸化ジルコニウム;ジルコノセンジクロリドが挙げられる。
セリウム元素を含む化合物としては、例えば、酸化セリウムが挙げられる。特定化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
特定化合物は、高分子量化の観点から、スズ、チタンまたはジルコニウムを含む化合物からなる群から選択される1種以上の化合物を含むことが好ましく、より好ましくはモノアルキルスズオキシド、ジアルキルスズオキシド、テトラアルキルチタネート、チタンキレート化合物、およびテトラアルキルオキシジルコニウムからなる群から選択される1種以上の化合物を含む。
【0032】
特定化合物は、得られるポリ尿素中の特定金属元素の含有量を、前記した範囲内となるように、添加することが好ましい。通常、特定化合物を、ジアミン化合物に対して、おおよそ0.005~10モル%、好ましくは0.05~7モル%、より好ましくは0.05~5モル%、さらに好ましくは0.1~5モル%、特に好ましくは0.2~5モル%、十分に好ましくは0.5~5モル%、より十分に好ましくは0.5~3モル%、最も好ましくは0.8~1.5モル%で用いることにより、得られるポリ尿素中の特定金属元素の含有量を前記した範囲内とすることができる。このようにすることにより、ジアミン化合物と二酸化炭素が反応して得られるカルバミン酸化合物としてのカルボキシアミノ基と、ジアミン化合物、別のカルバミン酸化合物またはウレア結合を有したジアミン化合物(以下、あわせて「ジアミン等」と略称することがある。)のアミノ基との脱水縮合反応の反応速度が格段に向上する。その結果、従来技術においてポリ尿素を重合できなかった条件下においても、ゲルの生成がない高分子量のポリ尿素を得ることができる。従来技術においてポリ尿素を重合できなかった条件とは、低圧力条件、特にカルバミン酸化合物の濃度が低く、かつ低圧力の条件のことである。
【0033】
本発明の製造方法においては、触媒として、上記特定化合物のほかに、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、または、それらのエステル誘導体、アミドもしくは無水物を併用してもよい。エステル誘導体としては、例えば、フェニルエステルおよびアルキルエステルが挙げられる。アミドとしては、例えば、ホスホロアミダイドが挙げられる。無水物としては、例えば、ピロリン酸、メタリン酸が挙げられる。その他、触媒として、トリエチルアミン、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン等の三級アミン;三塩化リン等のリン塩化物;トリアリールホスファイト等のホスファイト誘導体;トリアリールホスフィンやトリアリールホスフィンジハロゲン化物等のホスフィン誘導体;3,5-ビストリフルオロフェニルボロン酸等のアリールボロン酸を用いてもよい。特定化合物以外の触媒は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
特定化合物以外の触媒の含有量は特に限定されず、例えば、ジアミン化合物に対して、5モル%以下であり、さらなる高分子量化の観点から、好ましくは2モル%以下、より好ましくは1モル%以下、さらに好ましくは0モル%である。
【0035】
本発明においては、重合圧力を、5.0MPa未満とすることができ、製造方法または製造装置の簡素化によるコスト低減の観点から、好ましくは3.0MPa未満、より好ましくは2.0MPa未満、さらに好ましくは1.0MPa以下、十分に好ましくは0.5MPa以下、より十分に好ましくは0.2MPa以下とすることができる。重合圧力が5.0MPaを超えると、大掛かりな反応容器を用いる必要性が生じるので好ましくない。また、重合圧力が5.0MPaを超えると、SUS316やSUS304等のステンレス材料製の反応容器を用いた場合、二酸化炭素による腐食が顕著になり、反応容器や重合物が着色するので好ましくない。反応容器内面をハステロイやインコネル等の材料で加工すれば、腐食は抑制されるが、装置のコストが大幅に高くなるため好ましくない。一方、重合圧力を5.0MPa未満とすることにより、反応容器に求められる耐圧性能は下がるため、製造設備の大型化が容易であり、装置のコストも低下する。重合圧力は、大気圧(例えば0.1MPa)とすることができ、これにより、製造方法または製造装置の簡素化による大幅なコスト低減をもたらす。大気圧は0.05~0.15MPa、特に0.08~0.12MPaであってもよい。
【0036】
重合圧力に占める二酸化炭素分圧は、高分子量化の観点から、0.1MPa以上5.0MPa未満とすることが好ましく、0.1MPa以上3MPa未満とすることがより好ましく、0.1MPa以上2.0MPa未満とすることがさらに好ましく、0.1以上1MPa未満とすることが最も好ましい。二酸化炭素分圧を0.1MPa以上5.0MPa未満とすることで、ジアミン等とカルバミン酸化合物との脱水縮合反応の反応速度を向上させ、生産性よくポリ尿素を得ることができる。
【0037】
重合圧力の制御方法としては、反応容器を密閉して二酸化炭素を用いて制御する方法や、二酸化炭素を流通させながら背圧弁を用いて制御する方法が好ましい。中でも、反応中、生成した水を常に留出させることができるので、後者の方が好ましい。
【0038】
二酸化炭素を流通させる場合は通常、0.05モル%/分以上2.50モル%/分未満の流量にて反応液中に流通させる。当該流量は、高分子量化の観点から、好ましくは0.10モル%/分以上2.00モル%/分未満、より好ましくは0.20モル%/分以上1.50モル%/分未満、さらに好ましくは0.20モル%/分以上1.00モル%/分未満、十分に好ましくは0.60モル%/分以上1.00モル%/分未満である。
【0039】
反応容器を密閉して二酸化炭素を用いて重合圧力を大気圧より高い圧力に制御する場合は、必要に応じて反応によって生成した水を反応容器から排出するために、一定間隔で放圧した後に二酸化炭素で再加圧しても良い。放圧の間隔は、特に限定されず、放圧と加圧操作の作業性およびポリ尿素の生産性の向上、ならびにさらなる高分子量化の観点から、5分/回~120分/回が好ましく、より好ましくは10分/回~90分/回、さらに好ましくは15分/回~45分/回である。
【0040】
放圧時の到達圧力は、特に限定されず、さらなる高分子量化および水の排出の観点から、0.5MPa未満にすることが好ましく、より好ましくは0.3MPa未満、さらに好ましくは0.1MPa以下である。
【0041】
重合温度は、特に限定されず、120~290℃とすることが好ましく、140~280℃とすることがより好ましく、160~280℃とすることがさらに好ましく、200~280℃とすることが十分に好ましく、220~260℃とすることがより十分に好ましい。重合温度を120~290℃とすることにより、ポリ尿素の熱分解を進行させることなく、ジアミン等とカルバミン酸化合物との脱水縮合反応の反応速度を向上させ、生産性よくポリ尿素を得ることができる。
【0042】
本発明の製造方法は、ジアミン化合物の融点と重合温度に応じて、溶融重合法、固相重合法のいずれにも適用できる。さらなる高分子量化の観点から、溶融重合法が好ましい。
【0043】
本発明の製造方法において、反応容器の内部に発生する飛散物の堆積を抑制するために、特定の溶剤を反応系に添加しても良い。反応容器内において溶剤が還流されることで反応容器内部に付着する飛散物を洗い流す効果がある。溶剤としては、トリグライム等のエーテル系溶剤;ドデカン、デカヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレン等の炭化水素系溶剤;ソルベッソ150、ソルベッソ200などの芳香族系溶剤が挙げられる。中でも、発火性などの安全性の点からテトラヒドロナフタレンが好ましい。溶剤は1種のみで使用されてもよいし、2種以上の混合物として使用されてもよい。通常、溶剤をジアミン化合物に対して、1~20重量%用いることにより、反応容器内部の飛散物の堆積を抑えることができる。溶剤の使用量は、飛散物のより効果的な堆積抑制および反応容器の内温のより迅速な上昇の観点から、ジアミン化合物に対して、好ましくは2~15重量%、より好ましくは3~12重量%、さらに好ましくは4~10重量%である。溶剤は、反応後の反応容器系内の圧力を100Pa未満に減じ、一定時間撹拌することでポリ尿素から除去することができる。
【0044】
本発明の製造方法を用いることにより、ポリ尿素の数平均分子量を4000以上とすることができる。数平均分子量が4000以上であれば、成形加工しやすい。本発明のポリ尿素の数平均分子量は、高分子量化の観点から、好ましくは7000以上、より好ましくは8500以上、さらに好ましくは9500以上、特に好ましくは12000以上、十分に好ましくは15000以上である。ポリ尿素の数平均分子量の上限値は特に限定されず、当該ポリ尿素の数平均分子量は通常、100000以下、特に50000以下である。
【0045】
本明細書中、ポリ尿素の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)法により測定された値を用いている。
【0046】
本発明のポリ尿素は通常、結晶性の場合、300℃以下の融点を有する。本発明のポリ尿素の融点は、溶融加工時の熱劣化を抑える観点から、好ましくは280℃以下、より好ましくは260℃以下、さらに好ましくは250℃以下である。ポリ尿素の融点の下限値は特に限定されず、融点を示さない非晶性であってもよい。
【0047】
本明細書中、ポリ尿素の融点は、示差走査熱量計により測定されたピーク温度を用いている。
【0048】
本発明のポリ尿素には、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、熱安定剤、繊維状補強材、充填材、顔料等の添加剤を添加してもよい。繊維状補強材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、セルロースナノファイバーが挙げられる。充填材としては、例えば、タルク、膨潤性粘土鉱物、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ、グラファイト、フィラー、セルロースナノクリスタルが挙げられる。顔料としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラックが挙げられる。これらは、重合時に添加してもよく、成形時、製膜時、製糸時に添加してもよい。
【0049】
添加剤の含有量は特に限定されず、例えば、ポリ尿素に対して、10質量%以下であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0050】
ポリ尿素は、射出成形、押出成形、ブロー成形等の公知の成形方法により、各種成形品に加工することができる。
【0051】
また、ポリ尿素は公知の製膜方法や紡糸方法により、フィルム、シート、繊維に加工することができる。
【0052】
これらの成形品、フィルム、繊維等は、電気・電子部品、自動車部品、事務機部品等の産業資材や工業材料、家庭用品等の各種用途で使用することができる。
【実施例0053】
1.測定方法
(1)ポリ尿素の同定
赤外分光測定(臭化カリウム法)により、1618cm-1(CO伸縮)及び1575cm-1(NH伸縮)の吸収スペクトルを確認し、以下の基準で判断した。
○:両方の吸収スペクトルが現れた。
×:いずれかの吸収スペクトルが現れなかった。
【0054】
(2)金属成分の含有量
ポリ尿素を270℃で溶融成形して、直径3cm×厚み1cmの円盤状の成形板を得て、リガク社製蛍光X線分析装置 ZSX Primusを用いて、検量線法により、金属元素の定量分析をおこなった。
【0055】
(3)ゲル発生の有無
ポリ尿素をトリフルオロ酢酸に、溶液濃度が40質量%になるように混合した。混合して不純物がない場合、ゲルが発生しなかったとして「○」、不要物がある場合、ゲルが発生したとして「×」とした。
【0056】
(4)数平均分子量
東ソー社製ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)装置HLC-8420GPCを用い、下記条件で試料調製とGPC測定を行って数平均分子量を求めた。
<試料調整>
ポリ尿素8mgに10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール5mLを加えて溶解後、ディスクフィルターで濾過した。
<条件>
カラム:東ソー社製 TSKgel SuperHM-M
溶離液:10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール
流速:0.4mL/分
温度:40℃
標準試料:Agilent Technologies社製 ポリメチルメタクリレート Easi Vial PM(登録商標)
【0057】
(5)融点
日本産業規格JIS K7121に準じて、パーキンエルマー社製、示差走査熱量計(入力補償型DSC8000)を用い、得られたポリ尿素樹脂を10mg量り、サンプルとして測定した。測定条件は、昇温速度20℃/分にて20℃から280℃まで昇温し、280℃で5分間保持した後、降温速度150℃/分にて20℃まで冷却し、20℃で5分間保持した後、昇温速度20℃/分にて20℃から280℃まで昇温時の測定結果から融点を求めた。
【0058】
実施例1
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン150質量部、テトラヒドロナフタレン15重量部を、分留器を備えた反応容器に入れ、120℃で加熱溶解した後、金属触媒としてモノブチルスズオキシド1.8質量部(全ジアミン化合物に対して1.0モル%)を添加した。続いて、反応温度を240℃に上げて大気圧下(0.1MPa)にて二酸化炭素(純度99.5%)を全ジアミン化合物に対して0.94モル%/分の流量にて反応液中に流通しながら36時間攪拌をおこない、ポリ尿素を得た。
【0059】
実施例2
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン150質量部、テトラヒドロナフタレン15重量部を、分留器を備えた反応容器に入れ、120℃で加熱溶解した後、金属触媒としてジオクチルスズスズオキシド3.1質量部(全ジアミン化合物に対して1.0モル%)を添加した。続いて、反応温度を240℃に上げて大気圧下(0.1MPa)にて二酸化炭素(純度99.5%)を全ジアミン化合物に対して0.94モル%/分の流量にて反応液中に流通しながら36時間攪拌をおこない、ポリ尿素を得た。
【0060】
実施例3
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン150質量部、テトラヒドロナフタレン15重量部を、分留器を備えた反応容器に入れ、120℃で加熱溶解した後、金属触媒としてジオクチルスズスズオキシド15.7質量部(全ジアミン化合物に対して5.0モル%)を添加した。続いて、反応温度を240℃に上げて大気圧下(0.1MPa)にて二酸化炭素(純度99.5%)を全ジアミン化合物に対して0.94モル%/分の流量にて反応液中に流通しながら36時間攪拌をおこない、ポリ尿素を得た。
【0061】
実施例4
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン150質量部、テトラヒドロナフタレン15重量部を、分留器を備えた反応容器に入れ、120℃で加熱溶解した後、金属触媒としてテトラ-n-ブチルチタネート3.1質量部(全ジアミン化合物に対して1.0モル%)を添加した。続いて、反応温度を240℃に上げて大気圧下(0.1MPa)にて二酸化炭素(純度99.5%)を全ジアミン化合物に対して0.94モル%/分の流量にて反応液中に流通しながら36時間攪拌をおこない、ポリ尿素を得た。
【0062】
実施例5
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン150質量部、テトラヒドロナフタレン15重量部を、分留器を備えた反応容器に入れ、120℃で加熱溶解した後、金属触媒としてジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム6.3質量部(全ジアミン化合物に対して1.0モル%)を添加した。続いて、反応温度を240℃に上げて大気圧下(0.1MPa)にて二酸化炭素(純度99.5%)を全ジアミン化合物に対して0.94モル%/分の流量にて反応液中に流通しながら36時間攪拌をおこない、ポリ尿素を得た。
【0063】
実施例6
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン150質量部、テトラヒドロナフタレン15重量部を、分留器を備えた反応容器に入れ、120℃で加熱溶解した後、金属触媒としてテトラ-n-ブトキシジルコニウム(80%n-ブタノール溶液)3.9質量部(全ジアミン化合物に対して1.0モル%)を添加した。続いて、反応温度を240℃に上げて大気圧下(0.1MPa)にて二酸化炭素(純度99.5%)を全ジアミン化合物に対して0.94モル%/分の流量にて反応液中に流通しながら36時間攪拌をおこない、ポリ尿素を得た。
【0064】
実施例7
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン150質量部、テトラヒドロナフタレン15重量部を、分留器を備えた反応容器に入れ、120℃で加熱溶解した後、金属触媒としてテトラ-n-ブトキシジルコニウム(80%n-ブタノール溶液)3.9質量部(全ジアミン化合物に対して1.0モル%)を添加した。続いて、反応温度を240℃に上げて大気圧下(0.1MPa)にて二酸化炭素(純度99.5%)を全ジアミン化合物に対して0.47モル%/分の流量にて反応液中に流通しながら36時間攪拌をおこない、ポリ尿素を得た。
【0065】
実施例8
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン150質量部、テトラヒドロナフタレン15重量部を、分留器を備えた反応容器に入れ、120℃で加熱溶解した後、金属触媒としてテトラ-n-ブトキシジルコニウム(80%n-ブタノール溶液)2.0質量部(全ジアミン化合物に対して0.5モル%)を添加した。続いて、反応温度を240℃に上げて大気圧下(0.1MPa)にて二酸化炭素(純度99.5%)を全ジアミン化合物に対して0.94モル%/分の流量にて反応液中に流通しながら36時間攪拌をおこない、ポリ尿素を得た。
【0066】
実施例9
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン150質量部、テトラヒドロナフタレン15重量部を、分留器を備えた反応容器に入れ、120℃で加熱溶解した後、金属触媒として酢酸亜鉛1.6質量部(全ジアミン化合物に対して1.0モル%)を添加した。続いて、反応温度を240℃に上げて大気圧下(0.1MPa)にて二酸化炭素(純度99.5%)を全ジアミン化合物に対して0.94モル%/分の流量にて反応液中に流通しながら36時間攪拌をおこない、ポリ尿素を得た。
【0067】
実施例10
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン150質量部、テトラヒドロナフタレン15重量部を、分留器を備えた反応容器に入れ、120℃で加熱溶解した後、金属触媒としてアルミニウム-sec-ブトキシド2.2質量部(全ジアミン化合物に対して1.0モル%)を添加した。続いて、反応温度を240℃に上げて大気圧下(0.1MPa)にて二酸化炭素(純度99.5%)を全ジアミン化合物に対して0.94モル%/分の流量にて反応液中に流通しながら36時間攪拌をおこない、ポリ尿素を得た。
【0068】
実施例11
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン150質量部、テトラヒドロナフタレン15重量部を、分留器を備えた反応容器に入れ、120℃で加熱溶解した後、金属触媒として酸化セリウム3.1質量部(全ジアミン化合物に対して2.0モル%)を添加した。続いて、反応温度を240℃に上げて大気圧下(0.1MPa)にて二酸化炭素(純度99.5%)を全ジアミン化合物に対して0.94モル%/分の流量にて反応液中に流通しながら36時間攪拌をおこない、ポリ尿素を得た。
【0069】
実施例12
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン150質量部と末端封鎖剤としてヘキシルアミン0.44質量部、テトラヒドロナフタレン15重量部を、分留器を備えた反応容器に入れ、120℃で加熱溶解した後、金属触媒としてモノブチルスズオキシド1.8質量部(全ジアミン化合物に対して1.0モル%)を添加した。続いて、反応温度を240℃に上げて大気圧下(0.1MPa)にて二酸化炭素(純度99.5%)を全ジアミン化合物に対して0.94モル%/分の流量にて反応液中に流通しながら36時間攪拌をおこない、ポリ尿素を得た。
【0070】
実施例13
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン200質量部を内容積500mLのSUS316製反応容器に入れ、反応容器内の空気を窒素で3回置換後、120℃で加熱溶解した後、金属触媒としてテトラ-n-ブトキシジルコニウム(80%n-ブタノール溶液)5.3質量部(全ジアミン化合物に対して1.0モル%)を添加した。続いて、反応容器内を二酸化炭素(純度99.5%)で3回置換後、密閉して、内温を240℃に上げ、圧力が0.98MPaになるように二酸化炭素を反応容器に流入させた。反応容器の圧力を0.98MPaに保ちつつ、30分に1度の間隔で反応容器の圧力を0.1MPaまで放圧する操作を続けながら36時間攪拌をおこない、ポリ尿素を得た。
【0071】
比較例1
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン150質量部、テトラヒドロナフタレン15重量部を、分留器を備えた反応容器に入れ、120℃で加熱溶解した。続いて、反応温度を240℃に上げて大気圧下(0.1MPa)にて二酸化炭素(純度99.5%)を全ジアミン化合物に対して0.94モル%/分の流量にて反応液中に流通しながら72時間攪拌をおこなった。
得られた生成物について、臭化カリウム法赤外分光測定をおこなったが、ほぼ原料のデカンジアミンと同様のスペクトルでポリ尿素特有のピークは認められなかった。
【0072】
比較例2
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン150質量部、テトラヒドロナフタレン15重量部を、分留器を備えた反応容器に入れ、120℃で加熱溶解した後、金属触媒として炭酸ナトリウム1.4質量部(全ジアミン化合物に対して1.5モル%)を添加した。続いて、反応温度を240℃に上げて大気圧下(0.1MPa)にて二酸化炭素(純度99.5%)を全ジアミン化合物に対して0.94モル%/分の流量にて反応液中に流通しながら36時間攪拌をおこなった。
得られた生成物について、臭化カリウム法赤外分光測定をおこなったが、ほぼ原料のデカンジアミンと同様のスペクトルでポリ尿素特有のピークは認められなかった。
【0073】
比較例3
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン150質量部、テトラヒドロナフタレン15重量部を、分留器を備えた反応容器に入れ、120℃で加熱溶解した後、金属触媒としてリン酸三カリウム1.9質量部(全ジアミン化合物に対して1.0モル%)を添加した。続いて、反応温度を240℃に上げて大気圧下(0.1MPa)にて二酸化炭素(純度99.5%)を全ジアミン化合物に対して0.94モル%/分の流量にて反応液中に流通しながら36時間攪拌をおこなった。
得られた生成物について、臭化カリウム法赤外分光測定をおこなったが、ほぼ原料のデカンジアミンと同様のスペクトルでポリ尿素特有のピークは認められなかった。
【0074】
比較例4
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン150質量部、テトラヒドロナフタレン15重量部を、分留器を備えた反応容器に入れ、120℃で加熱溶解した後、金属触媒として炭酸セシウム2.9質量部(全ジアミン化合物に対して1.0モル%)を添加した。続いて、反応温度を240℃に上げて大気圧下(0.1MPa)にて二酸化炭素(純度99.5%)を全ジアミン化合物に対して0.94モル%/分の流量にて反応液中に流通しながら36時間攪拌をおこなった。
得られた生成物について、臭化カリウム法赤外分光測定をおこなったが、ほぼ原料のデカンジアミンと同様のスペクトルでポリ尿素特有のピークは認められなかった。
【0075】
比較例5
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン550質量部、テトラヒドロナフタレン15重量部を、分留器を備えた末端封鎖剤としてヘキシルアミン1.62質量部を反応容器に入れ、120℃で加熱溶解した。続いて、反応温度を240℃に上げて大気圧下(0.1MPa)にて二酸化炭素(純度99.5%)を全ジアミン化合物に対して0.94モル%/分の流量にて反応液中に流通しながら36時間攪拌をおこなった。
得られた生成物について、臭化カリウム法赤外分光測定をおこなったが、ほぼ原料のデカンジアミンと同様のスペクトルでポリ尿素特有のピークは認められなかった。
【0076】
比較例6
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン200質量部を内容積500mLのSUS316製反応容器に入れ、反応容器内の空気を窒素で3回置換後、120℃で加熱溶解した後、反応容器内を二酸化炭素(純度99.5%)で3回置換後、密閉して、内温を240℃に上げ、圧力が0.98MPaになるように二酸化炭素を反応容器に流入させた。反応容器の圧力を0.98MPaに保ちつつ、30分に1度の間隔で反応容器の圧力を0.1MPaまで放圧する操作を続けながら36時間攪拌をおこない、ポリ尿素を得た。
【0077】
参考例1
特許文献1(特開2012-107095号公報)(特にその実施例8)に基づいて実施した。詳しくは、以下の通りであった。
ジアミン化合物として1,10-デカンジアミン550質量部、末端封鎖剤としてヘキシルアミン1.62質量部を内容積4LのSUS316製の反応容器に入れた。続いて、反応容器内の空気を二酸化炭素で3回置換後、密閉して、内温が200℃になるように加熱し、圧力が10MPaになるように二酸化炭素(純度100%)を反応容器に流入させた。その後、反応容器の圧力を5MPaに保持して24時間攪拌重合させ、最後に、反応容器の圧力を0.1MPaまで下げ、攪拌を停止し、一晩静置した。
【0078】
実施例および参考例で得られたポリ尿素の特性値と比較例の結果を表1および表2に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
表1および表2中の略号は以下の通りである。
DDA:1,10-デカンジアミン;
HAN:ヘキシルアミン;
CO:二酸化炭素;
MBTO:モノブチルスズオキシド;
DOTO:ジオクチルスズオキシド;
TBT:テトラ-n-ブチルチタネート;
TC-300:ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム;
NBZ:テトラ-n-ブトキシジルコニウム;
Zn(AcO):酢酸亜鉛;
SBA:アルミニウム-sec-ブトキシド;
CeO:酸化セリウム;
NaCO:炭酸ナトリウム;
PO:リン酸三カリウム;
CsCO:炭酸セシウム
【0082】
実施例1~12および実施例13では、特定化合物の存在下、ジアミン化合物と二酸化炭素を反応させたため、それぞれ大気圧下(0.1MPa)および密閉下低圧(0.98MPa)で重合することができた。しかも、大掛かりな設備を必要とせず、ゲル生成がなく、数平均分子量が4000以上のポリ尿素を得ることができた。
【0083】
比較例1、5、6は、金属触媒を添加しなかったため、二酸化炭素とジアミン化合物の反応が十分に反応せず、ポリ尿素を得ることはできなかった。
比較例2~4は、本発明で規定する金属以外の触媒を用いたため、二酸化炭素とジアミン化合物の反応が十分に反応せず、ポリ尿素を得ることはできなかった。
【0084】
実施例12、比較例5および参考例1を相互に対比することにより、5.0MPaでポリ尿素が得られた仕込組成であっても、大気圧下(0.1MPa)で特定の金属触媒なしに反応させると、ポリ尿素が得られないことがわかる。そこで、大気圧下(0.1MPa)で特定の金属触媒下で反応させると、ポリ尿素が得られることがわかる。実施例13と比較例6とを対比することにより、0.98MPaの密閉制御下においても、特定の金属触媒下で反応させると、反応性が向上して同じ反応時間でより高分子量のポリ尿素が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のポリ尿素およびその製造方法は、電気・電子部品、自動車部品、事務機部品等の産業資材や工業材料、家庭用品等の各種用途で有用である。