(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029425
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】超音波洗浄機の出力制御装置
(51)【国際特許分類】
B06B 1/02 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
B06B1/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131666
(22)【出願日】2022-08-22
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000243364
【氏名又は名称】本多電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】藤原 直之
【テーマコード(参考)】
5D107
【Fターム(参考)】
5D107AA01
5D107BB11
5D107CD01
5D107CD03
(57)【要約】
【課題】サージ電圧や熱の発生を抑えることができ、かつ騒音が少ない超音波洗浄機の出力制御装置を提供すること。
【解決手段】本発明の出力制御装置20は、整流部23、高周波発生部26、発振制御部29及び電源電圧検出部28を備える。整流部23は、商用電源22を整流して脈流40を生成する。高周波発生部26は、整流部23が生成した脈流40を入力して高周波を発振し、超音波振動子13に高周波の駆動信号を出力する。電源電圧検出部28は、商用電源22のゼロクロス点を検出してその結果を発振制御部29に出力する。発振制御部29は、電源電圧検出部28の検出結果に基づき、脈流40の電圧が最小値となるタイミングを開始点として脈流40の電圧周期の整数倍の時間だけ高周波発生部26の発振を休止させて、駆動信号の出力を下げる制御を行うことで、高周波発生部26をバースト駆動する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用電源を整流して脈流を生成する整流部と、
前記整流部が生成した前記脈流を入力して高周波を発振し、超音波振動子に高周波の駆動信号を出力する高周波発生部と、
前記高周波発生部から出力された前記駆動信号を検出する出力検出部と、
前記出力検出部による前記駆動信号の検出結果に基づき、前記駆動信号の平均出力が一定となるように前記高周波発生部を駆動制御する発振制御部と、
前記商用電源のゼロクロス点を検出してその結果を前記発振制御部に出力する電源電圧検出部と
を備えるとともに、
前記発振制御部は、前記電源電圧検出部の検出結果に基づき、前記脈流の電圧が最小値となるタイミングを開始点として前記脈流の電圧周期の整数倍の時間だけ前記高周波発生部の発振を休止させて、前記駆動信号の出力を下げる制御を行うことで、前記高周波発生部をバースト駆動する
ことを特徴とする超音波洗浄機の出力制御装置。
【請求項2】
前記発振制御部は、前記電圧周期のn回分(nは正の整数)の時間が経過する度に、前記電圧周期のm倍(m≦n、但しmは正の整数)の時間だけ前記高周波発生部の発振を休止させる制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の超音波洗浄機の出力制御装置。
【請求項3】
前記発振制御部は、前記電圧周期のn回分の時間が経過する度に、前記電圧周期の1倍の時間だけ前記高周波発生部の発振を休止させる制御を行うことを特徴とする請求項2に記載の超音波洗浄機の出力制御装置。
【請求項4】
前記発振制御部は、前記駆動信号の出力が高くなるに従ってnの値を小さくするとともに、前記駆動信号の出力が低くなるに従ってnの値を大きくした状態で、前記高周波発生部の発振を休止させる制御を行うことを特徴とする請求項3に記載の超音波洗浄機の出力制御装置。
【請求項5】
前記出力制御装置は、前記脈流の出力態様を特定する複数の脈流パターンが振り分けられた脈流パターンテーブルを記憶する記憶手段を備え、
前記出力制御装置は、
前記脈流パターンテーブルに振り分けられた前記複数の脈流パターンから1つの脈流パターンを選択し、
選択した前記脈流パターンに基づいて、前記駆動信号の出力を変更するように前記高周波発生部を駆動制御する
ことを特徴とする請求項4に記載の超音波洗浄機の出力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被洗浄物の洗浄を行う超音波洗浄機の出力制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、洗浄液中に超音波を照射することにより、被洗浄物の洗浄(超音波洗浄)を行う超音波洗浄機(例えば、特許文献1参照)が実用化されている。超音波洗浄は、超音波による物理的作用と洗浄液による化学的作用との組み合わせにより、複雑な形状をなす被洗浄物の細部にまで作用して効率良く洗浄できる。このため、精密機械部品、光学部品、液晶ディスプレイ、半導体等の製造には不可欠なものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4512721号公報(
図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の超音波洗浄機は、PWM方式により出力制御を行っている。しかし、PWM方式では、スイッチングデバイスに電流が流れている途中でデバイスをオフにするため、サージ電圧や熱の発生が大きい。このため、サージ電圧吸収用のスナバ回路や大きな冷却機構等の追加が必要になるという問題がある。また、サージ電圧や熱が発生すると、回路の誤動作や破損が生じやすいという問題がある。
【0005】
そこで、本発明者らは、整流によって生成した脈流50の各パルス51において、電圧が高い値となるタイミングで高周波発生部の発振を休止させて駆動信号の出力を下げる制御を行うことにより、サージ電圧や熱の発生を抑えることを検討している(
図7参照)。しかしながら、このような制御を行う場合には、騒音が発生しやすいという問題がある。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、サージ電圧や熱の発生を抑えることができ、かつ騒音が少ない超音波洗浄機の出力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、商用電源を整流して脈流を生成する整流部と、前記整流部が生成した前記脈流を入力して高周波を発振し、超音波振動子に高周波の駆動信号を出力する高周波発生部と、前記高周波発生部から出力された前記駆動信号を検出する出力検出部と、前記出力検出部による前記駆動信号の検出結果に基づき、前記駆動信号の平均出力が一定となるように前記高周波発生部を駆動制御する発振制御部と、前記商用電源のゼロクロス点を検出してその結果を前記発振制御部に出力する電源電圧検出部とを備えるとともに、前記発振制御部は、前記電源電圧検出部の検出結果に基づき、前記脈流の電圧が最小値となるタイミングを開始点として前記脈流の電圧周期の整数倍の時間だけ前記高周波発生部の発振を休止させて、前記駆動信号の出力を下げる制御を行うことで、前記高周波発生部をバースト駆動することを特徴とする超音波洗浄機の出力制御装置をその要旨とする。
【0008】
従って、請求項1に記載の発明によると、発振制御部が、脈流の電圧が最小値となるタイミングを開始点として脈流の電圧周期の整数倍の時間だけ高周波発生部の発振を休止させて、駆動信号の出力を下げる制御を行っている。即ち、電圧が最小値となり、電流も殆ど流れていないタイミングで駆動信号の出力を下げる制御を行うため、従来のPWM方式に起因するサージ電圧や熱の発生を抑えることができる。ゆえに、サージ電圧吸収用のスナバ回路や大きな冷却機構等が不要になるため、装置コストを抑えることができる。また、サージ電圧や熱の発生を抑えることにより、出力制御装置の誤動作や破損を防止することができる。さらに、脈流の電圧が最小値となるタイミングで高周波発生部の発振を休止させるため、脈流の電圧が高い値となるタイミングで高周波発生部の発振を休止させる場合よりも、騒音が少なくなる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記発振制御部は、前記電圧周期のn回分(nは正の整数)の時間が経過する度に、前記電圧周期のm倍(m≦n、但しmは正の整数)の時間だけ前記高周波発生部の発振を休止させる制御を行うことをその要旨とする。
【0010】
従って、請求項2に記載の発明によると、発振制御部が、高周波発生部の発振を休止させる制御を規則的に行うため、発振制御部による制御が容易になる。また、発振制御部は、高周波発生部の発振を休止させる時間(電圧周期のm倍の時間)が高周波発生部を発振させる時間(電圧周期のn回分の時間)以下となるように(即ち、m≦nとなるように)、高周波発生部を駆動制御している。このため、洗浄効率を低下させることなく、駆動信号の出力を下げる制御を行うことができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2において、前記発振制御部は、前記電圧周期のn回分の時間が経過する度に、前記電圧周期の1倍の時間だけ前記高周波発生部の発振を休止させる制御を行うことをその要旨とする。
【0012】
例えば、発振制御部が、電圧周期の複数倍の時間に亘って高周波発生部の発振を休止させると、超音波振動子が連続して休止する時間が長くなるため、洗浄効率が低下する。一方、請求項3に記載の発明では、発振制御部が、電圧周期の1倍の時間だけ高周波発生部の発振を休止させている。このため、洗浄効率を低下させることなく、駆動信号の出力を下げる制御を行うことができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3において、前記発振制御部は、前記駆動信号の出力が高くなるに従ってnの値を小さくするとともに、前記駆動信号の出力が低くなるに従ってnの値を大きくした状態で、前記高周波発生部の発振を休止させる制御を行うことをその要旨とする。
【0014】
従って、請求項4に記載の発明によると、発振制御部が、駆動信号の出力が高くなるに従ってnの値を小さくした状態で、高周波発生部の発振を休止させる制御を行うことにより、駆動信号の出力を下げることができる。また、発振制御部は、駆動信号の出力が低くなるに従ってnの値を大きくした状態で、高周波発生部の発振を休止させる制御を行うことにより、駆動信号の出力を上げることができる。これにより、発振制御部は、駆動信号の出力が変化したとしても、駆動信号の平均出力を一定となるように駆動制御することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項4において、前記出力制御装置は、前記脈流の出力態様を特定する複数の脈流パターンが振り分けられた脈流パターンテーブルを記憶する記憶手段を備え、前記出力制御装置は、前記脈流パターンテーブルに振り分けられた前記複数の脈流パターンから1つの脈流パターンを選択し、選択した前記脈流パターンに基づいて、前記駆動信号の出力を変更するように前記高周波発生部を駆動制御することをその要旨とする。
【0016】
従って、請求項5に記載の発明によると、出力制御装置が、脈流パターンテーブルに振り分けられた複数の脈流パターンから1つの脈流パターンを自動的に選択し、選択した脈流パターンが特定する脈流の出力態様に基づいて、駆動信号の出力を変更するように高周波発生部を自動的に駆動制御する。即ち、出力制御装置は、予め選択した脈流パターンに沿って高周波発生部を駆動制御するため、出力制御装置による制御が容易になる。
【発明の効果】
【0017】
以上詳述したように、請求項1~5に記載の発明によると、サージ電圧や熱の発生を抑えることができ、かつ騒音が少ない超音波洗浄機の出力制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態における超音波洗浄機の出力制御装置を示す概略構成図。
【
図2】AC電源の交流電流の電圧波形を示すグラフ。
【
図5】脈流の出力態様を特定する複数の脈流パターンを示すグラフ。
【
図6】他の実施形態における脈流パターンを示すグラフ。
【
図7】従来技術における問題点を説明するためのグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0020】
図1に示されるように、本実施形態の超音波洗浄機10は、洗浄液W1を貯留する洗浄槽11と、洗浄槽11の底板12に装着される超音波振動子13と、超音波振動子13の出力を駆動制御する出力制御装置20とを備えている。また、洗浄槽11に溜められた洗浄液W1には、被洗浄物14が浸漬されている。
【0021】
洗浄槽11の底板12は、ステンレス等の金属板からなり、超音波S1を放射するための振動板として機能する。また、超音波振動子13は、振動面を上方に向けた状態で、洗浄槽11の底板12に接合されている。超音波振動子13は、出力制御装置20に電気的に接続されており、出力制御装置20から出力される駆動信号に基づいて機械振動する。この超音波振動子13の機械振動によって、底板12から洗浄槽11内に超音波S1が出力される。
【0022】
図1に示されるように、出力制御装置20は、AC電源21、保護回路22、整流回路23(整流部)、第1電源回路24、第2電源回路25、高周波発生回路26(高周波発生部)、エミッタ電流検出回路27(出力検出部)、電源ゼロクロス検出回路28(電源電圧検出部)、発振制御回路29(発振制御部)及び整合回路30を備えている。また、出力制御装置20は、装置全体を統括的に制御する制御部(図示略)を備えている。制御部は、CPU、ROM、RAM等からなる周知のコンピュータにより構成されている。CPUは、上記の電源ゼロクロス検出回路28や発振制御回路29に電気的に接続されており、各種の駆動信号によってそれらを制御する。
【0023】
また、AC電源21は、各回路22~30に100Vの交流電力を供給するための商用電源である。なお、
図1の〈A〉及び
図2に示されるように、AC電源21の交流電流の電圧波形は、周期T0で出力される正弦波である。また、保護回路22は、各回路23~30を過電圧から保護するための回路である。
【0024】
図1に示されるように、整流回路23は、AC電源21から供給された交流電流を整流して、脈流40(
図1の〈B〉及び
図3参照)を生成する回路である。詳述すると、整流回路23は、交流電圧の負電圧部である負パルス41(
図2参照)を正電圧部である正パルス42(
図3参照)に変換整流する全波整流を行うことにより、複数の正パルス42が連続する脈流40(直流)を生成する。
【0025】
第1電源回路24は、整流回路23から供給された脈流40を平滑して、12Vの直流に変換して出力する回路である。なお、変換した12Vの直流は、第2電源回路25に出力されるとともに、トランジスタ駆動制御用電源として高周波発生回路26に出力される。また、第2電源回路25は、第1電源回路24から供給された12Vの直流を、5Vの直流に変換して発振制御回路29に出力する回路である。
【0026】
高周波発生回路26は、整流回路23が生成した脈流40を入力して高周波を発振し、整合回路30を介して超音波振動子13に高周波の駆動信号を出力する回路である。本実施形態の高周波発生回路26は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor )、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)などのトランジスタから構成されたインバータ回路により形成されている。具体的に言うと、高周波発生回路26は、整流回路23から供給される脈流40を、発振制御回路29から出力されたトランジスタ駆動制御信号を増幅してスイッチングし、高周波の駆動信号に変換する。なお、高周波発生回路26は、第1電源回路24から出力されたトランジスタ駆動制御用電源によって駆動する。
【0027】
図1に示されるように、エミッタ電流検出回路27は、高周波発生回路26から出力された駆動信号を検出する回路である。具体的に言うと、エミッタ電流検出回路27は、上記したトランジスタのエミッタ抵抗に印加されている電圧を検出する。そして、エミッタ電流検出回路27は、検出した電圧を、駆動信号の出力に応じた直流電圧(DC電圧)として発振制御回路29に出力(フィードバック)する。なお、エミッタ電流検出回路27には、LPF(Low-pass filter )が設けられている。
【0028】
また、電源ゼロクロス検出回路28は、AC電源21の交流電圧が0Vになる点であるゼロクロス点Z1(
図1の〈C〉及び
図2参照)を検出し、その結果を0V時のトリガー信号として発振制御回路29に出力する回路である。
【0029】
そして、発振制御回路29は、エミッタ電流検出回路27による駆動信号の検出結果に基づき、駆動信号の平均出力が一定となるように高周波発生回路26を駆動制御する回路である。具体的に言うと、発振制御回路29は、トリガー信号が入力されるタイミングで発振(トランジスタ駆動制御信号)のオンオフを切り替えることにより、高周波発生回路26のスイッチング波形のパターンを制御する。これにより、エミッタ電流検出回路27から出力される駆動信号の出力に応じた直流電圧が、一定になるように制御される。なお、発振制御回路29は、第2電源回路25から出力された5Vの直流によって駆動する。
【0030】
図1に示されるように、整合回路30は、トランスなどの素子によりインピーダンス変換を行い、送り出す側(発振制御回路29側)の駆動信号のインピーダンス値と受け取る側(超音波振動子13側)の駆動信号のインピーダンス値とを同じにする(マッチングする)回路である。そして、整合回路30は、インピーダンスマッチングが行われた高周波の駆動信号を超音波振動子13に供給する。
【0031】
次に、超音波洗浄機10を用いた被洗浄物14の洗浄方法について説明する。
【0032】
まず、洗浄槽11内に洗浄液W1とともに被洗浄物14を収容した後、超音波洗浄機10のAC電源21をオンする。このとき、出力制御装置20のCPUは、超音波振動子13に対して駆動信号を出力する制御を行い、超音波振動子13を駆動させる。具体的に言うと、まず、駆動信号が出力制御装置20から超音波振動子13に供給される。これにより、超音波振動子13が連続的に振動し、洗浄槽11の底板12から洗浄液W1中に超音波S1が照射される。なお、超音波S1は、洗浄液W1中を伝搬し、被洗浄物14に作用する。その結果、被洗浄物14の表面が洗浄される。
【0033】
また、本実施形態では、出力制御装置20が駆動信号の出力を常時制御する。具体的に言うと、出力制御装置20のCPUは、駆動信号の出力に応じた直流電圧がエミッタ電流検出回路27から出力されたことを契機として、脈流パターンテーブル(
図4参照)に振り分けられた8個の脈流パターンA1~A8(
図1の〈D〉及び
図4,
図5参照)から1つの脈流パターンを選択する。そして、CPUは、選択した脈流パターンを示すデータを出力制御装置20のRAMに記憶する。
【0034】
なお、脈流パターンテーブルは、出力制御装置20のROMに記憶されるようになっている。即ち、ROMは、『記憶手段』としての機能を有している。また、各脈流パターンA1~A8は、脈流40の出力態様を特定するパターンである。具体的に言うと、脈流パターンA1~A8は、脈流40の電圧周期T1(
図5参照)のn回分(nは、1,2,3,4,5,6,7,8のいずれか)の時間が経過する度に、電圧周期T1の1倍の時間だけ脈流40の正パルス42を消去するパターンである。なお、電圧周期T1は、正パルス42の1倍の時間であって、交流電流の電圧波形の周期T0(
図2参照)の1/2の時間である。
【0035】
次に、出力制御装置20の発振制御回路29(CPU)は、RAMに記憶されている脈流パターンと電源ゼロクロス検出回路28の検出結果(トリガー信号)とに基づいて、駆動信号の出力を変更するように高周波発生回路26を駆動制御する。具体的に言うと、発振制御回路29は、電圧周期T1のn回分の時間が経過する度に、電圧周期T1の1倍の時間だけ高周波発生回路26の発振を休止させて、駆動信号の出力を下げる制御を行う。
【0036】
詳述すると、まず、発振制御回路29は、高周波発生回路26に対してトランジスタ駆動制御信号を出力する。その結果、高周波発生回路26の発振が開始され(オンに切り替えられ)、駆動信号が出力される。なお、高周波発生回路26はバースト駆動されるため、本実施形態の駆動信号は、単一周波数のバースト波を振幅変調(AM変調)することにより形成される。また、高周波発生回路26の発振(即ち、駆動信号の出力)は、電圧周期T1の時間が経過する度に繰り返し行われる。そして、電圧周期T1のn回分の時間が経過した時点で、発振制御回路29は、脈流40(正パルス42)の電圧が最小値となるタイミングを開始点P1(
図5参照)として、高周波発生回路26へのトランジスタ駆動制御信号の出力を停止させる。その結果、高周波発生回路26の発振が休止され(オフに切り替えられ)、次の駆動信号が生成されなくなる。さらに、発振制御回路29は、高周波発生回路26が休止してから電圧周期T1の1倍の時間が経過した時点で、高周波発生回路26へのトランジスタ駆動制御信号の出力を開始させる。その結果、高周波発生回路26の発振が開始(再開)され(オンに切り替えられ)、駆動信号が出力される。
【0037】
なお、
図4に示されるように、脈流パターンA1に基づいて、電圧周期T1の1回分の時間が経過する度に高周波発生回路26の発振を休止させる場合、高周波の駆動信号の出力は155Wとなり、消費電流は2.30Aとなる。脈流パターンA2に基づいて、電圧周期T1の2回分の時間が経過する度に高周波発生回路26の発振を休止させる場合、高周波の駆動信号の出力は210Wとなり、消費電流は2.75Aとなる。脈流パターンA3に基づいて、電圧周期T1の3回分の時間が経過する度に高周波発生回路26の発振を休止させる場合、高周波の駆動信号の出力は240Wとなり、消費電流は2.90Aとなる。脈流パターンA4に基づいて、電圧周期T1の4回分の時間が経過する度に高周波発生回路26の発振を休止させる場合、高周波の駆動信号の出力は255Wとなり、消費電流は3.00Aとなる。脈流パターンA5に基づいて、電圧周期T1の5回分の時間が経過する度に高周波発生回路26の発振を休止させる場合、高周波の駆動信号の出力は265Wとなり、消費電流は3.05Aとなる。脈流パターンA6に基づいて、電圧周期T1の6回分の時間が経過する度に高周波発生回路26の発振を休止させる場合、高周波の駆動信号の出力は270Wとなり、消費電流は3.10Aとなる。脈流パターンA7に基づいて、電圧周期T1の7回分の時間が経過する度に高周波発生回路26の発振を休止させる場合、高周波の駆動信号の出力は275Wとなり、消費電流は3.14Aとなる。脈流パターンA8に基づいて、電圧周期T1の8回分の時間が経過する度に高周波発生回路26の発振を休止させる場合、高周波の駆動信号の出力は280Wとなり、消費電流は3.17Aとなる。
【0038】
また、発振制御回路29は、駆動信号の出力に応じてエミッタ電流検出回路27から出力される直流電圧が高くなるに従って、nの値(即ち、高周波発生回路26が連続して発振する回数)を小さくした状態で、高周波発生回路26の発振を休止させる制御を行う。つまり、出力制御装置20のCPUは、駆動信号の出力が高い場合に、脈流40の正パルス42の連続回数が現状よりも少ない脈流パターンを選択する(
図5では、上の脈流パターンに移行する)ことにより、駆動信号の出力を下げる制御を行う。一方、発振制御回路29は、駆動信号の出力に応じてエミッタ電流検出回路27から出力される直流電流が低くなるに従って、nの値を大きくした状態で、高周波発生回路26の発振を休止させる制御を行う。つまり、CPUは、駆動信号の出力が低い場合に、正パルス42の連続回数が現状よりも多い脈流パターンを選択する(
図5では、下の脈流パターンに移行する)ことにより、駆動信号の出力を上げる制御を行う。
【0039】
その後、作業者がAC電源21をオフすると、CPUにより出力制御装置20が停止し、被洗浄物14の洗浄が終了する。
【0040】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0041】
(1)本実施形態の超音波洗浄機10の出力制御装置20では、発振制御回路29が、脈流40の電圧が最小値となるタイミングを開始点P1として脈流40の電圧周期T1の1倍の時間だけ高周波発生回路26の発振を休止させて、駆動信号の出力を下げる制御を行っている。即ち、電圧が最小値となり、電流も殆ど流れていないタイミングで駆動信号の出力を下げる制御を行うため、従来のPWM方式に起因するサージ電圧や熱の発生を抑えることができる。ゆえに、サージ電圧吸収用のスナバ回路や大きな冷却機構等が不要になるため、装置コストを抑えることができる。また、サージ電圧の発生を抑えることにより、出力制御装置20の誤動作や破損を防止することができる。さらに、熱の発生を抑えることにより、エネルギーのロスが小さくなるため、出力制御装置20の効率が高くなる。また、脈流40の電圧が最小値となるタイミングで高周波発生回路26の発振を休止させるため、脈流40の電圧が高い値となるタイミングで高周波発生回路26の発振を休止させる場合よりも、騒音が少なくなる。
【0042】
(2)本実施形態の発振制御回路29は、高周波発生回路26の発振を一定期間(本実施形態では、電圧周期T1の1倍の時間)だけ休止させた後、高周波発生回路26の発振を再開させる制御を行うが、再開時に超音波振動子13が強く振動する。これにより、騒音を抑えつつ、洗浄効率を高くすることができる。
【0043】
(3)例えば、発振制御回路29が、電圧周期T1の複数倍の時間に亘って高周波発生回路26の発振を休止させると、超音波振動子13が連続して休止する時間が長くなるため、洗浄効率が低下する。一方、本実施形態では、発振制御回路29が、電圧周期T1の1倍の時間だけ高周波発生回路26の発振を休止させている。このため、洗浄効率を低下させることなく、駆動信号の出力を下げる制御を行うことができる。また、駆動信号の出力を下げることにより、超音波洗浄機10の消費電力を抑えることができる。
【0044】
(4)本実施形態では、超音波振動子13への駆動信号の出力を制御する出力制御装置20を、AM変調方式の発振制御回路29に、トリガー信号を出力する電源ゼロクロス検出回路28を追加するだけで実現することができる。また、出力制御装置20の実現にあたり、他のハードウェア(回路22~27,30など)の変更を殆ど伴わない。
【0045】
なお、上記実施形態を以下のように変更してもよい。
【0046】
・上記実施形態の発振制御回路29は、脈流パターンA1~A8に基づいて、脈流40の電圧周期T1のn回分(nは、1~8のいずれか1つ)の時間が経過する度に、電圧周期T1の1倍の時間だけ高周波発生回路26の発振を休止させる制御を行っていた。即ち、発振制御回路29は、電圧周期T1のn回分の時間が経過する度に、電圧周期T1のm倍(m≦n、但しmは正の整数)の時間だけ高周波発生回路26の発振を休止させる制御を行っていた。
【0047】
しかし、発振制御回路29は、電圧周期T1のn回分の時間が経過する度に、電圧周期T1の複数倍の時間だけ高周波発生回路26の発振を休止させる制御を行ってもよい。また、発振制御回路29は、高周波発生回路26の発振を休止させる時間(電圧周期T1のm倍の時間)が高周波発生回路26を発振させる時間(電圧周期T1のn回分の時間)よりも長くなるように(即ち、m>nとなるように)、高周波発生回路26を駆動制御してもよい。例えば
図4,
図6に示されるように、発振制御回路29は、脈流パターンB1に基づいて、電圧周期T1の1回分の時間が経過する度に、電圧周期T1の2倍の時間だけ高周波発生回路26の発振を休止させる制御を行ってもよい。この場合、高周波の駆動信号の出力は100Wとなり、消費電流は1.90Aとなる。
【0048】
・上記実施形態において、発振制御回路29は、脈流40の電圧周期T1のn回分(nは、1~8のいずれか1つ)の時間が経過する度に、高周波発生回路26の発振を休止させる制御を行っていた。しかし、発振制御回路29は、脈流40の電圧周期T1の9回分以上の時間が経過する度に、高周波発生回路26の発振を休止させる制御を行ってもよい。例えば
図4に示されるように、発振制御回路29は、脈流パターンA12に基づいて、脈流40の電圧周期T1の12回分の時間が経過する度に、電圧周期T1の1倍の時間だけ高周波発生回路26の発振を休止させる制御を行ってもよい。この場合、高周波の駆動信号の出力は295Wとなり、消費電流は3.25Aとなる。
【0049】
さらに、発振制御回路29は、高周波発生回路26の発振を休止させるタイミングを複数種類設定し、それらからランダムに選択するものであってもよい。例えば、発振制御回路29は、電圧周期T1の1回分の時間が経過した際に、電圧周期T1の整数倍の時間だけ高周波発生回路26の発振を休止させる制御を行った後、電圧周期T1の2回分の時間が経過する際に、高周波発生回路26の発振を再度休止させる制御を行ってもよい。
【0050】
・上記実施形態の電源ゼロクロス検出回路28は、AC電源21の交流電圧が0Vになる点(ゼロクロス点Z1)を検出し、その結果をトリガー信号として出力するようになっていた。しかし、電源ゼロクロス検出回路28は、AC電源21の交流電圧が大体0Vになる点を検出できればよい。
【0051】
・上記実施形態の電源ゼロクロス検出回路28や発振制御回路29は、ハードウェアで構成されていてもよいが、所定のソフトウェアによってCPUを電源ゼロクロス検出回路28及び発振制御回路29と同じ動作を実行させてもよい。
【0052】
・上記実施形態では、出力制御装置20を超音波洗浄機10に用いたが、これ以外のもの、例えば、超音波分散器、超音波殺菌装置、ソノケミストリーを利用して化学反応を行わせる超音波反応器などに用いてもよい。
【0053】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0054】
(1)請求項1乃至5のいずれか1項において、前記整流部は、前記商用電源の交流電圧の負電圧部を正電圧部に変換整流する全波整流を行うことにより、複数の前記正電圧部が連続する前記脈流を生成することを特徴とする超音波洗浄機の出力制御装置。
【0055】
(2)請求項1乃至5のいずれか1項において、前記高周波発生部は、単一周波数のバースト波を振幅変調することにより、前記駆動信号を形成することを特徴とする超音波洗浄機の出力制御装置。
【0056】
(3)商用電源を整流して脈流を生成する整流部と、前記整流部が生成した前記脈流を入力して高周波を発振し、超音波振動子に高周波の駆動信号を出力する高周波発生部と、前記高周波発生部から出力された前記駆動信号を検出する出力検出部と、前記出力検出部による前記駆動信号の検出結果に基づき、前記駆動信号の平均出力が一定となるように前記高周波発生部を駆動制御する発振制御部と、前記商用電源のゼロクロス点を検出してその結果を前記発振制御部に出力する電源電圧検出部とを備えるとともに、前記発振制御部は、前記電源電圧検出部の検出結果に基づき、前記脈流の電圧が最小値となるタイミングを開始点として前記脈流の電圧周期の整数倍の時間だけ前記高周波発生部の発振を休止させて、前記駆動信号の出力を下げる制御を行うことで、前記高周波発生部をバースト駆動することを特徴とする超音波反応器の出力制御装置。
【符号の説明】
【0057】
10…超音波洗浄機
13…超音波振動子
20…出力制御装置
21…商用電源としてのAC電源
23…整流部としての整流回路
26…高周波発生部としての高周波発生回路
27…出力検出部としてのエミッタ電流検出回路
28…電源電圧検出部としての電源ゼロクロス検出回路
29…発振制御部としての発振制御回路
40…脈流
A1~A8,B1…脈流パターン
P1…開始点
T1…電圧周期
Z1…ゼロクロス点