(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029433
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】熱伝導性組成物及び熱伝導性シート
(51)【国際特許分類】
C08F 2/50 20060101AFI20240228BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C08F2/50
C08J5/18 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131685
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】龍官 真琴
(72)【発明者】
【氏名】矢野 章世
【テーマコード(参考)】
4F071
4J011
【Fターム(参考)】
4F071AA33
4F071AB03
4F071AB07
4F071AB09
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4J011PA07
4J011PB22
4J011PC02
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4J011QA03
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4J011SA64
4J011TA06
4J011UA01
4J011UA02
4J011VA04
4J011WA07
(57)【要約】
【課題】光照射により、生産性よく高い熱伝導率と厚膜を有する熱伝導性シートが得られ、保存安定性の良い熱伝導性組成物を提供すること。
【解決手段】ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方、並びに光重合開始剤を含有するバインダー成分と、熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性組成物であり、前記バインダー成分100体積部に対して、前記熱伝導性フィラーが100体積部以上900体積部以下であり、前記光重合開始剤が、一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)及び特定量の一般式(2)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)である熱伝導性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方、並びに光重合開始剤を含有するバインダー成分と、
熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性組成物であり、
前記バインダー成分100体積部に対して、前記熱伝導性フィラーが100体積部以上900体積部以下であり、
前記光重合開始剤が、一般式(1):
【化1】
(一般式(1)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立してメチル基又はエチル基を表し、R
5は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基を表し、R
6は独立した置換基であって、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は塩素原子を表し、nは0から2の整数を表す。)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)と、
一般式(2):
【化2】
(式(2)中、R
1、及びR
2は独立してメチル基又はエチル基を表し、R
3は独立した置換基であって、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は塩素原子を表し、nは0から2の整数を表す。)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)を含有する重合開始剤(A)であり、
前記重合開始剤(A)100質量部において、前記チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)は、30質量部以下であることを特徴とする熱伝導性組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の熱伝導性組成物の硬化物であることを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項3】
厚みが0.3mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の熱伝導性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性組成物及び熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子・電気機器から発生する熱を放熱することは重要である。近年、高性能化、多様化が進み、車載電装部品用途や通信機器用途で、放熱対策部材はICデバイス等の発熱体とヒートシンク等の放熱体の間に挟んで使用され、熱伝導率の高く、厚膜の放熱対策部材が求められている。放熱対策部材として放熱シート、放熱ギャップフィラー、放熱接着剤、放熱グリース等が挙げられるが、特に塗布量を管理する必要がなく、流動性がないため、所望の発熱体と放熱体の間に挟むだけで良い作業性に優れた熱伝導性シートが注目されている。
【0003】
熱伝導性シートの熱伝導率を高める手法として、熱伝導性フィラーの含有量を増やすことが挙げられ、特許文献1では高い熱伝導率、かつ厚膜の熱伝導性シートを熱硬化で作製している。また、生産性を高めるため、特許文献2、3では光重合開始剤を含有した光重合性組成物を用い、紫外線照射による光硬化で熱伝導性シートを作製している。
【0004】
また、特許文献4では、光重合開始剤として、光重合性と熱重合性を併せ持つ特定のチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-111644号公報
【特許文献2】特開2019-85441号公報
【特許文献3】特開2020-45386号公報
【特許文献4】国際公開第2020/067118号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の背景のもと、熱伝導性シートの需要増加が見込まれる中、特許文献1のように熱硬化で厚膜の熱伝導性シートを作製する方法では、紫外線照射による硬化よりも硬化効率が低いため、高温下で重合に長時間を要しており、重合条件を最適化しても重合時間の短縮には限界がある。
【0007】
一方、特許文献2、3のように、光硬化で熱伝導性シートを作製する方法では、熱伝導性フィラーの含有量を増やすと紫外線等の光を照射しても光透過性の低下により深部まで届きづらくなるため、膜厚が制限され、膜厚の薄いシートとなる。よって、厚膜の熱伝導性シートを作製するためには、フィラーの含有量が制限され、熱伝導性の低いシートとなる課題がある。
【0008】
また、特許文献4では、光重合性と熱重合性を併せ持つチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドを光重合開始剤として用いることにより、硬化物を作製できることが記載されているが、当該チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドが、熱伝導性フィラーのような高い熱拡散性を有するフィラーが高充填した組成物に対しても、良好な硬化性を有する硬化物が得られるかは不明であった。
【0009】
また、熱伝導性組成物は、海外への海上輸送時や港湾施設での滞留時における輸送コンテナ内の環境や、作業環境等を考慮し、長期の保存時の安定性が要求されている。
【0010】
そこで、本発明は、光照射により、生産性よく高い熱伝導率と厚膜を有する熱伝導性シートが得られ、保存安定性の良い熱伝導性組成物を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、前記熱伝導性組成物の硬化物である熱伝導性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方、並びに光重合開始剤を含有するバインダー成分と、熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性組成物であり、前記バインダー成分100体積部に対して、前記熱伝導性フィラーが100体積部以上900体積部以下であり、前記光重合開始剤が、一般式(1):
【化1】
(一般式(1)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立してメチル基又はエチル基を表し、R
5は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基を表し、R
6は独立した置換基であって、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は塩素原子を表し、nは0から2の整数を表す。)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)と、一般式(2):
【化2】
(式(2)中、R
1、及びR
2は独立してメチル基又はエチル基を表し、R
3は独立した置換基であって、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は塩素原子を表し、nは0から2の整数を表す。)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)を含有する重合開始剤(A)であり、前記重合開始剤(A)100質量部において、前記チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)は、30質量部以下である熱伝導性組成物に関する。
【0013】
また、本発明は、熱伝導性組成物の硬化物である熱伝導性シートに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱伝導性組成物は、保存安定性が良く、熱伝導性フィラーのような高い熱拡散性を有するフィラーが高充填した場合においても、紫外線を照射して光硬化させたとき、生産性よく高い熱伝導率と厚膜を有する熱伝導性シートを作製できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の熱伝導性組成物は、ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方、並びに光重合開始剤を含有するバインダー成分と、熱伝導性フィラーを含有する。前記熱伝導性組成物は、紫外線を照射して光硬化させたとき、チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドが素早く活性化され、かつ、高充填した熱伝導性フィラーの熱拡散性の影響を受け難いことから、生産性よく高い熱伝導率と厚膜を有する熱伝導性シートを作製できる。
【0016】
本発明の熱伝導性組成物は、チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)を特定量以上含む重合開始剤を用いて光硬化すると硬化不良を招くことから、良好な硬化性を得るにはチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)とチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)とは特定の比率で含有することを特徴とする。
【0017】
また、チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)とチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)とを特定の比率で含有する重合開始剤(A)において、生成した活性ラジカル種の一部はチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシドから水素原子を引き抜くことで不活性化する一方で、チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシドは水素原子を引き抜かれることでペルオキシラジカル種へ変化する。他方、チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシドと反応しなかった活性ラジカル種は、ラジカル重合性化合物への付加反応又は硬化物等からの水素引き抜き反応によって炭素ラジカル種を生成するが、前記ペルオキシラジカル種と結合することによって熱的に安定なジアルキルペルオキシド化合物となるため、バインダー成分の高分子量化を抑制すると考えられる。よって、本発明の重合開始剤を含有する熱伝導性組成物は良好な硬化性を示しながらも、保存安定性に優れる。
【0018】
<ラジカル重合性モノマー>
前記ラジカル重合性モノマーとしては、エチレン性不飽和基を有する化合物を好ましく用いることができる。ラジカル重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン類、マレイン酸エステル類、フマル酸エステル類、イタコン酸エステル類桂皮酸エステル類、クロトン酸エステル類、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、ビニルケトン類、アリルエーテル類、アリルエステル類、N-置換マレイミド類、N-ビニル化合物類、不飽和ニトリル類、オレフィン類等が挙げられる。これらの中でも、反応性が高い(メタ)アクリル酸エステル類を含むことが好ましい。ラジカル重合性モノマーは、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0019】
前記(メタ)アクリル酸エステル類は、単官能化合物および多官能化合物を使用することができる。単官能化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレ-ト、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレ-ト、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレ-ト、2-エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と脂環族アルコールとのエステル化合物;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-1-アダマンチル(メタ)アクリレート、水酸基末端ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、水酸基末端ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有するモノマー等;メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート等の鎖状または環状のエーテル結合を有するモノマー等;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド等の窒素原子を有するモノマー;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等のイソシアネート基を有するモノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル等のエポキシ基を有するモノマー;リン酸2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル等のリン原子を有するモノマー;3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のケイ素原子を有するモノマー;2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート等のフッ素原子を有するモノマー;(メタ)アクリル酸、コハク酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、フタル酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、マレイン酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等のカルボキシル基を有するモノマー等が挙げられる。
【0020】
前記多官能化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレートトリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、9,9-ビス(4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)フェニル)フルオレン等の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物;ビス(4-(メタ)アクリロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-(メタ)アクリロイルチオフェニル)スルフィド、トリス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸ジルコニウム、脂肪族ウレタンアクリレート、芳香族ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等が挙げられる。
【0021】
<ラジカル重合性モノマーの部分重合体>
前記ラジカル重合性モノマーは、一般的に粘度が低いため、熱伝導性フィラーと混合した際にフィラーが沈降してしまうことがある。この場合、ラジカル重合性モノマーは、あらかじめ部分重合して増粘させて、ラジカル重合性モノマーの部分重合体とすることが好ましい。ラジカル重合性モノマーの部分重合体の粘度は、特に制限はないが、10~10,000mPa・s程度となるのが好ましい。
【0022】
部分重合は種々の方法で行うことができ、溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合等の公知の重合方法が採用可能である。重合の際に、重合方法に応じて、熱重合開始剤や光重合開始剤等の重合開始剤を用いることにより部分重合体を得ることができる。
【0023】
部分重合に用いる熱重合開始剤としては、例えば、ジアシルパーオキシド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキシド類、ヒドロパーオキシド類、ジアルキルパーオキシド類、パーオキシエステル類、パーオキシジカーボネート類等の有機過酸化物;アゾ系重合開始剤等を用いることができる。具体的には、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルヒドロパーオキシド、2,2’-アゾビスブチロニトリル等が挙げられる。
【0024】
部分重合に用いる光重合開始剤としては芳香族ケトン類、ベンゾインエーテル類、ハロメチルオキサジアゾール化合物、α-アミノケトン、α-アミノアセトフェノン化合物、アシルホスフィン化合物、ビイミダゾール類、N,N-ジメチルアミノベンゾフェノン、トリアジン系化合物、チオキサントン系化合物、オキシム化合物等が挙げられる。当該光重合開始剤の具体例としては、ベンゾフェノン、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4-メトキシ-4’-ジメチルアミノベンゾフェノン等の芳香族ケトン類;ベンゾインメチルエーテル等のベンゾインエーテル類;エチルベンゾイン等のベンゾイン;2-(o-クロロフェニル)-4,5-フェニルイミダゾール2量体等のビイミダゾール類;2-トリクロロメチル-5-(p-メトキシスチリル)-1,3,4-オキサジアゾール等のハロメチルオキサジアゾール化合物;2-(4-ブトキシ-ナフト-1-イル)-4,6-ビス-トリクロロメチル-S-トリアジン、下記一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルフォリノプロパノン、1,2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1,1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトン、ベンジル、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、ベンジルメチルケタール、ジメチルアミノベンゾエート、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、2-n-ブトキシエチル-4-ジメチルアミノベンゾエート、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、4-ベンゾイル-メチルジフェニルサルファイド、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-[4-(4-モルフォリニル)フェニル]-1-ブタノン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルフォリニル)フェニル]-1-ブタノン、α-ジメトキシ-α-フェニルアセトフェノン、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-(4-モルフォリニル)-1-プロパノン、3-ベンゾイルオキシイミノブタン-2-オン、3-アセトキシイミノブタン-2-オン等が挙げられる。これらの中でもシート作製時の硬化性の観点から、少なくとも、下記一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)を用いることが好ましい。あるいは、以上述べた熱重合開始剤又は光重合開始剤の任意の組み合わせも用いることができる。
【0025】
<光重合開始剤(A)>
本発明の重合開始剤(A)は、下記一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)と、下記一般式(2)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)を含有する。
【0026】
<チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)>
本発明のチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)は、下記一般式(1)で表すことができる。
【化3】
(式(1)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は独立してメチル基又はエチル基を表し、R
5は炭素数1~6のアルキル基、又はフェニル基を表し、R
6は独立した置換基であって、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は塩素原子を表し、nは0から2の整数を表す。)
【0027】
前記一般式(1)中、R1、R2、R3及びR4は独立してメチル基又はエチル基を表す。R1、R2、R3及びR4は、前記チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドの分解温度が高いため、重合性組成物の保存安定性が高くなる観点から、メチル基が好ましい。
【0028】
前記一般式(1)中、R5は、炭素数が1~6のアルキル基、又はフェニル基である。前記アルキル基は、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。R5の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、フェニル基が挙げられる。これらの中でも、前記チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドの合成が容易である観点から、メチル基、エチル基、プロピル基であることが好ましい。前記チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドの分解温度が高いため、重合性組成物の保存安定性が高くなり、さらにランプの光に対する感度が高い点から、メチル基、エチル基、プロピル基であることがより好ましい。
【0029】
前記一般式(1)中、チオキサントンに対するジアルキルペルオキシドの置換位置は、特に限定されないが、ランプの光に対する感度が高い点から、チオキサントン骨格の2位、3位、又は4位に置換されていることが好ましく、合成が容易である観点から、チオキサントン骨格の2位又は3位に置換されていることがより好ましい。
【0030】
前記一般式(1)中、R6は独立した置換基であって、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は塩素原子を表す。使用するランプの発光波長に対して、これら置換基にかかるプッシュ・プル効果より、前記チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドの光の吸収特性を調整することができ、ランプの光を効率よく吸収することができる。
【0031】
前記一般式(1)中、nは0から2の整数を表す。前記チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドの合成が容易である観点から、nは0から1の整数が好ましく、0がより好ましい。
【0032】
前記一般式(1)中、nが1から2の整数の場合、前記R6の置換位置は、特に限定されないが、ランプの光に対する感度が高い点から、チオキサントン骨格の6位又は7位に置換されていることが好ましく、前記チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドの合成が容易である観点から、チオキサントン骨格の7位に置換されていることがより好ましい。
【0033】
前記R6の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-ブチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基等のアルコキシ基;塩素原子等が挙げられる。ランプの光に対する感度が高い点から、メトキシ基、エトキシ基であることがより好ましい。
【0034】
以下に本発明のチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
【0036】
前記チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)としては、好ましくは化合物1から化合物9が挙げられ、より好ましくは化合物1、化合物2、化合物3、化合物7、化合物8が挙げられる。
【0037】
<チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)の製造方法>
前記一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)の製造方法は、特に限定されず、例えば、国際公開第2020/067118号を参考にすればよい。
【0038】
<チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)>
本発明のチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)は、下記一般式(2)で表すことができる。
【化5】
(式(2)中、R
1、及びR
2は独立してメチル基又はエチル基を表し、R
3は独立した置換基であって、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は塩素原子を表し、nは0から2の整数を表す。)
【0039】
前記一般式(2)中、R1、及びR2は独立してメチル基又はエチル基を表す。R1、R2は、前記チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシドの分解温度が高いため、重合性組成物の保存安定性が高くなる観点から、メチル基が好ましい。
【0040】
前記一般式(2)中、R3は独立した置換基であって、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は塩素原子を表す。使用するランプの発光波長に対して、これら置換基にかかるプッシュ・プル効果より、前記チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシドの光の吸収特性を調整することができ、ランプの光を効率よく吸収することができる。
【0041】
前記一般式(2)中、nは0から2の整数を表す。前記チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシドの合成が容易である観点から、nは0から1の整数が好ましく、0がより好ましい。
【0042】
前記一般式(2)中、nが1から2の整数の場合、前記R3の置換位置は、特に限定されないが、ランプの光に対する感度が高い点から、チオキサントン骨格の6位又は7位に置換されていることが好ましく、前記チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシドの合成が容易である観点から、チオキサントン骨格の7位に置換されていることがより好ましい。
【0043】
前記R3の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-ブチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基等のアルコキシ基;塩素原子等が挙げられる。ランプの光に対する感度が高い点から、メトキシ基、エトキシ基であることがより好ましい。
【0044】
以下に本発明のチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化6】
【0045】
前記チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)としては、好ましくは化合物10から化合物18が挙げられ、より好ましくは化合物10、化合物11が挙げられる。
【0046】
<チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)の製造方法>
前記一般式(2)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)の製造方法は、例えば、下記反応式のように、イソアルキル基置換チオキサントン誘導体を、金属錯体の存在下、ヒドロペルオキシドを反応させる工程(以下、工程(A)とも称す)を含む方法が挙げられる。なお、反応後には、余剰の原料等を減圧留去(除去)する工程や、精製工程を含んでも良い。
【化7】
(上記反応式において、R
1、R
2、R
3及びnは前記一般式(2)と同じであり、R
4及びR
5は独立してメチル基又はエチル基を表し、R
6は炭素数1~6のアルキル基、又はフェニル基を表す。)
【0047】
前記工程(A)において、前記イソアルキル基置換チオキサントン誘導体は、市販品を利用できる。なお、市販品がない場合、例えば、J.Chem.Soc.99,645(1911)に記載のように、2,2’-ジチオ二安息香酸を芳香族化合物と硫酸中で反応させることにより合成することができる。
【0048】
前記工程(A)において、ヒドロペルオキシドは、イソアルキル基置換チオキサントン誘導体1.0モルに対して、目的物の収率性を高める観点から、0.8モル以上反応させることが好ましく、1.0モル以上反応させることがより好ましく、そして、10.0モル以下反応させることが好ましく、6.0モル以下反応させることがより好ましい。なお、ヒドロペルオキシドは、市販品を利用でき、市販品がない場合、特開昭58-72557号公報等に記載の公知の合成法に準じて合成することができる。
【0049】
前記工程(A)において、金属錯体は、第4及び第5周期の遷移金属の中から選ばれる金属の金属錯体を用いることができる。金属錯体の金属としては、例えば、銅、コバルト、マンガン、鉄、クロム、亜鉛などであり、配位子としては、例えば、臭素、塩素等のハロゲン、硫酸、リン酸、硝酸、炭酸等の鉱酸、ギ酸、酢酸、ナフテン酸、オクテン酸、グルコン酸等の有機酸、シアン、アセチルアセトナート等が挙げられる。金属錯体は、ヒドロペルオキシド1.0モルに対して、目的物の収率性を高める観点から、0.0001モル以上使用することが好ましく、0.001モル以上使用することがより好ましく、そして、1.0モル以下使用することが好ましく、0.1モル以下使用することがより好ましい。
【0050】
前記工程(A)において、反応温度は、目的物の収率性を高める観点から、0℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、そして、100℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましい。反応時間は、原料や反応温度等によって異なるので一概には決定できないが、通常、目的物の収率性を高める観点から、1時間から60時間が好ましい。
【0051】
前記工程(A)において、媒体として水を使用することが好ましく、水と有機溶媒を併用してもよい。有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等を使用することができる。前記有機溶媒や水の使用量は、通常、原料の合計量100質量部に対して50~1000質量部程度である。有機溶媒や水は工程(A)の後に留去や分離することで、チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシドを取り出してもよい。
【0052】
前記工程(A)は、常圧、加圧、減圧下の何れの条件化でも実施できるが、窒素等の不活性ガス雰囲気又は大気下で実施することが好ましく、大気下で実施することがより好ましい。
【0053】
前記精製工程としては、余剰の原料や副生物を除去するために、例えば、有機溶媒やイオン交換水、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム水溶液等の塩基性水溶液や、塩酸や硫酸等の酸性水溶液を用いて洗浄し、目的物を精製する工程が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、ヘプタン、メタノール、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等を使用することができる。なかでも、有機溶剤で洗浄することが好ましく、ヘプタンやメタノールで洗浄することがより好ましい。前記有機溶媒は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。前記有機溶媒の使用量は、通常、原料の合計量100質量部に対して50~1000質量部程度である。
【0054】
<重合開始剤(A)>
本発明の重合開始剤(A)は、前記一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)と、前記一般式(2)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)を含有する。重合開始剤(A)は、活性エネルギー線又は熱により分解し、発生したラジカルがラジカル重合性化合物(B)の重合(硬化)を開始する働きを有する。重合開始剤(A)100質量部において、前記チオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)は、ラジカル重合性化合物の高分子量化を抑制する観点から30質量部以下であり、15質量部以下が好ましく、そして、保存安定性の観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましい。また、前記重合開始剤(A)100質量部において、前記チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)は、硬化性の観点から、30質量部以上が好ましく、50質量部以上が好ましく、そして、保存安定性の観点から、98質量部以下が好ましく、95質量部以下が好ましい。
【0055】
前記一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)と、前記一般式(2)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)の合計の含有量は、前記ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方100質量部に対して、0.01から40質量部であることが好ましく、0.05から20質量部であることがより好ましく、0.1から10質量部であることがさらに好ましい。前記一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)と、前記一般式(2)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)の合計の含有量は、前記ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方100質量部に対して、0.01質量部未満では硬化反応が進行しないため好ましくない。また、前記一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)と、前記一般式(2)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)の合計の含有量は、前記ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方100質量部に対して、40質量部より多い場合、前記ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方への溶解度が飽和に達し、熱伝導性組成物の成膜時に光重合開始剤の結晶が析出し、皮膜表面の荒れが問題になる場合や、光重合開始剤自身の光吸収により、硬化物の深部まで光が到達しないため、好ましくない。なお、前記一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)と、前記一般式(2)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)に、下記他の重合開始剤を含む場合、他の重合開始剤の割合は、前記一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)と、前記一般式(2)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)と、他の重合開始剤の合計中、80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0056】
また、前記熱伝導性組成物は、前記一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)と、前記一般式(2)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)以外にも、他の重合開始剤を用いることで、重合性組成物の表面硬化性、深部硬化性等を改良することができる。他の重合開始剤は熱重合開始剤又は光重合開始剤の任意で、選択に当たっては、ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方、熱伝導性フィラー、その他添加剤の種類、熱伝導性フィラーの充填量、硬化物の膜厚等が考慮される。前記他の重合開始剤としては、例えば、上記の部分重合に用いる熱重合開始剤や部分重合に用いる光重合開始剤(但し、一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)と、前記一般式(2)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)は除く。)が挙げられる。
【0057】
<熱伝導性フィラー>
前記熱伝導性フィラーは、特に制限されず、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、炭化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ケイ素、ホウ素化チタン、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、ダイヤモンド、ニッケル、銅、アルミニウム、チタン、金、銀等が挙げられる。シートの強度を向上するために、シラン、チタネート等で表面処理したフィラーを用いてもよい。また、フィラー表面にセラミックス、ポリマー等で耐水コート、絶縁コート等のコーティングを施したフィラーを用いてもよい。これらのうち、室温における熱伝導性の高いものが好ましく、20℃の熱伝導率(W/m・k)が1以上、好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上である。熱伝導性フィラーは、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0058】
熱伝導性フィラーの形状は規則的な形状又は不規則な形状であるが、例えば、多角形状、立方体状、楕円状、球形、針状、平板状又はフレーク状あるいはこれらの組み合わせの場合が挙げられる。また、複数の結晶粒子が凝集した粒子であってもよい。フィラーの形状は、ラジカル重合性モノマーまたはその部分重合体の粘度及び重合後の最終的な熱伝導性組成物の加工のしやすさで選択される。
【0059】
また、熱伝導性フィラーの平均粒径は、0.5μm以上100μm以下とすることが好ましく、特に、分散性と熱伝導性の点から、平均粒径1μm以上20μm以下の小径のフィラーと、平均粒径25μm以上100μm以下の大径のフィラーを併用することが好ましい。
【0060】
前記熱伝導性フィラーは、ラジカル重合性モノマー及びその部分重合体の少なくとも一方、並びに光重合開始剤を含有するバインダー成分100体積部に対して、100体積部以上900体積部以下である。従来の紫外線等による光硬化による組成物では、硬化に必要な光透過性を確保するために熱伝導性フィラーの含有量に制限があったが、本発明の熱伝導性組成物はチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドを含むため、前記バインダー成分100体積部に対して、100体積部以上の量で熱伝導性フィラーを含有することができる。前記熱伝導性フィラーは、前記バインダー成分100体積部に対して、200体積部以上であることが好ましく、300体積部以上であることがより好ましく、そして、700体積部以下であることが好ましく、600体積部以下であることがより好ましい。熱伝導性フィラーの量がバインダー成分100体積部に対して、100体積部未満であると十分な熱伝導性を付与できず、900体積部を超えると熱伝導性シートの強度が弱くなる。
【0061】
<その他添加剤等>
前記熱伝導性組成物には、適宜、増感剤(4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン等のチオキサントン誘導体;9,10-ジブトキシアントラセン等のアントラセン誘導体;クマリン、ケトクマリン等のクマリン誘導体;アクリジンオレンジ、9-フェニルアクリジン等のアクリジン誘導体;4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2-ジメチルアミノ)エチル等の安息香酸エステル誘導体;トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン等のアルキルアミン誘導体;カンファーキノン等)、架橋剤、架橋促進剤、シランカップリング剤、粘着付与樹脂(ロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、石油樹脂、油溶性フェノール等)、老化防止剤、充填剤、着色剤(顔料や染料等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、可塑剤、軟化剤、界面活性剤、帯電防止剤、増粘剤、難燃剤、無機化合物、無機充填剤、電磁波吸収性フィラー等の公知の添加剤を、本実施形態の特性を損なわない範囲で、単独または組み合わせて用いることができる。また、前記熱伝導性シートを形成する際には、各種の一般的な溶剤を用いることもできる。
【0062】
上記の各構成材料の混合方法は、特に限定されるものではないが、少量の場合は手混合も可能であるが、万能混合機、プラネタリーミキサー、ハイブリッドミキサー、ヘンシェルミキサー、ニーダー、ボールミル、ミキシングロール等の一般的な混合機が用いられる。
【0063】
<熱伝導性シート>
本発明の熱伝導性シートは、前記熱伝導性組成物の硬化物である。
【0064】
前記熱伝導性シートへの加工方法としては、従来公知の方法、例えば、ロールコート法、スピンコート法、ディップコート法、ハケ塗り法、バーコート法、ナイフコート法、ダイコート法、ドクターブレード法、押出成形法、射出成形法、プレス成形法等の各種成形法を用いることができる。
【0065】
前記熱伝導性組成物を硬化させる方法は特に制限されず、電子線、紫外線、可視光線、放射線等の活性エネルギー線の照射によって行うことが好ましい。
【0066】
活性エネルギー線は、活性エネルギー線の波長が250から450nmの光であることが好ましく、硬化を迅速に行うことができる観点から、350から410nmの光であることがより好ましく、375~405nmの光を含むことが更に好ましい。前記活性エネルギー線の露光量は、活性エネルギー線の波長や強度、熱伝導性組成物の組成に応じて適宜設定すべきである。なお、前記活性エネルギー線の強度は任意であり、高強度では短時間で硬化を行うことができ、低強度では時間を長くすることで硬化を行うことができる。
【0067】
前記光照射の光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線無電極ランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、太陽光、YAGレーザー等の固体レーザー、半導体レーザー、アルゴンレーザー等のガスレーザー等を使用することができる。なお、チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドの吸収が少ない可視光から赤外光の光を用いる場合には、前記添加剤として、その光を吸収する増感剤を使用することにより効果的に硬化を行なうことができる。
【0068】
なお、上記の硬化物の製造方法として、デュアルキュア工程を適用して、活性エネルギー線で照射する工程の前後に、加熱する工程を行ってもよい。前記熱伝導性組成物を加熱する工程において、加熱する手法は、例えば、加熱、通風加熱等が挙げられる。加熱の方式としては、特に制限されることはないが、例えば、オーブン、ホットプレート、赤外線照射、電磁波照射等が挙げられる。また、通風加熱の方式としては、例えば、送風式乾燥オーブン等が挙げられる。
【0069】
熱伝導性シートの膜厚は、0.3mm以上5mm以下であることが好ましい。従来の紫外線等による光硬化による組成物では、硬化に必要な光透過性を確保するために膜厚に制限があったが、本発明の熱伝導性組成物は前記一般式(1)で表されるチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシド(a-1)と、特定量の前記一般式(2)で表されるチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシド(a-2)を含むため、0.3mm以上5mm以下の膜厚で硬化できる。前記熱伝導性シートは、作製できる膜厚の範囲が広い(例えば、膜厚が0.5mm以上、0.8mm以上が例示できる)ため、各種用途に適用できる。なお、前記熱伝導性シートは、通常、単層で用いられるが、必要に応じて、2層もしくはそれ以上の多層で使用することもできる。また、前記熱伝導性シートは、一般環境下、室温(23℃)での熱伝導率が1.5(W/m・K)以上であることが好ましく、2.0(W/m・K)以上であることがより好ましい。
【実施例0070】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
[チオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドの合成]
[合成例1:化合物1の合成]
200mL四つ口フラスコに、ベンゼン30mL、2-イソプロピルチオキサントン6.10g(24.0mmol)、塩化銅(I)0.0238g(0.24mmol)を入れ、室温下で撹拌した。69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液15.7g(0.12mol)を徐々に加えた。窒素気流下で65℃に加温し、60時間反応させた。反応液を冷却し、酢酸エチル20mLを添加した後に、水相を分液した。油相を5質量%塩酸、5質量%水酸化ナトリウム水溶液、イオン交換水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後、油相を減圧下で濃縮し、粗体を得た。粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル=5/1)で精製し、2.55g(収率31%)の化合物1を得た。得られた化合物1のEI-MS及び1H-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0072】
[合成例2:化合物2の合成]
本発明の化合物2は合成例1に記載の69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液を、85質量%tert-アミルヒドロペルオキシドに変更したこと以外は、合成例1に記載の方法を準じて合成した。得られた化合物2のEI-MS及び1H-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0073】
[チオキサントン骨格を有するジアルキルヒドロペルオキシドの合成]
[合成例3:化合物10の合成]
2L四つ口フラスコに、水300.8mL、2-イソプロピルチオキサントン100.3g(0.39mol)、ラピゾールA-80(日油製)1.0g、酢酸銅二水和物0.79g(0.004mol)、69質量%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液154.4g(1.18mol)を入れ、70℃で9時間撹拌した。反応液にn-ヘプタン444.9g、メタノール444.9g、10質量%水酸化ナトリウム水溶液222.5gを添加後、油相と水相を分離した。水相とヘプタン444.9gを混合し、抽出した油相を減圧下で濃縮し、粗体を得た。粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル=5/1)で精製し、11.5g(収率5.4%)の化合物10を得た。得られた化合物10のEI-MS及び1H-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0074】
[合成例4:化合物11の合成]
本発明の化合物11は、合成例3に記載の2-イソプロピルチオキサントンを、2-メトキシ-7-イソプロピルチオキサントンに変更したこと以外は、合成例1に記載の方法に準じて合成した。得られた化合物11のEI-MS及び1H-NMRによる分析結果を表1に示す。
【0075】
【0076】
<実施例1>
<部分重合体の作製>
2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)100質量部に対し、光重合開始剤として化合物1を0.45質量部、化合物10を0.05質量部混合し、紫外線を照射して、単量体全体量のうち10~20%が重合して増粘した部分重合体を得た。
【0077】
<熱伝導性組成物の調製>
上記で得られた2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)の部分重合体を85質量部、イソボルニルアクリレート(IBXA)を15質量部、および1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)を0.1質量部、光重合開始剤として化合物1を0.45質量部、化合物10を0.05質量部混合して得られたバインダー成分100体積部に対し、熱伝導性フィラー1(アルミナ:平均粒子径50μm、20℃の熱伝導率25W/m・k)を220体積部、および熱伝導性フィラー2(アルミナ:平均粒子径2μm、20℃の熱伝導率25W/m・k)を80体積部を混合し、自転公転ミキサー(THINKY製、あわとり練太郎ARV-310)で2分攪拌することで熱伝導性組成物を得た。
【0078】
<熱伝導性シートの製造>
片面に離形処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム2枚の離形処理面で、スペーサーを用いて上記で得られた熱伝導性組成物をはさみ成形した。その後、上記2枚の離形フィルムの片面側から385nmLED光源を用いて紫外線照射(照度2000mW/cm2)を10秒間行い、熱伝導性組成物を硬化させ、熱伝導性シートを製造した。
【0079】
<実施例2>
ラジカル重合性化合物として2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)の部分重合体の替わりに2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)のモノマーを使用したこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0080】
<実施例3>
熱伝導性シートの硬化後の膜厚を表1に記載した膜厚に変更し、紫外線照射を60秒間行ったこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0081】
<実施例4>
部分重合体の作製、および熱伝導性組成物の調製において、光重合開始剤として化合物2を0.4質量部、化合物11を0.1質量部使用したこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0082】
<実施例5>
バインダー成分100体積部に対して、熱伝導性フィラー1の混合量を150体積部、および熱伝導性フィラー2の混合量を50体積部に変更したこと以外は、実施例4と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0083】
<実施例6>
バインダー成分100体積部に対して、熱伝導性フィラー1の混合量を400体積部、および熱伝導性フィラー2の混合量を150体積部に変更したこと以外は、実施例4と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0084】
<比較例1>
部分重合体の作製、および熱伝導性組成物の調製において、光重合開始剤として化合物2を0.25質量部、化合物10を0.25質量部使用したこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0085】
<比較例2>
部分重合体の作製、および熱伝導性組成物の調製において、光重合開始剤として化合物1、化合物10の替わりに化合物R1(2,4,6―トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド:IGM RESINS B.V.製)を使用したこと、および部分重合体の作製において2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)100質量部に対し、化合物R1を4質量部混合した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0086】
<比較例3>
バインダー成分100体積部に対して、熱伝導性フィラー1の混合量を30体積部、および熱伝導性フィラー2の混合量を15体積部に変更する以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0087】
<比較例4>
バインダー成分100体積部に対して、熱伝導性フィラー1の混合量を800体積部、および熱伝導性フィラー2の混合量を300体積部に変更し、紫外線照射を900秒間行ったこと以外は、実施例4と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0088】
<比較例5>
部分重合体の作製、および熱伝導性組成物の調製において、光重合開始剤として化合物2を0.5質量部のみを使用したこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0089】
<比較例6、7>
熱伝導性組成物の調製において、重合開始剤として化合物R1の替わりに熱重合開始剤である化合物R2(ラウロイルパーオキサイド「パーロイルL」:日油製)を使用したこと、及び紫外線を照射する替わりに、150℃で600秒間または900秒間加熱する以外は比較例2と同様にして熱伝導性シートを製造した。
【0090】
<硬化性>
実施例および比較例で得られた熱伝導性シートの離形フィルムを剥がす際に、熱伝導性シートと離形フィルムとの界面を目視にて観察した。
〇:離形フィルムをスムーズに剥がすことができ、かつ熱伝導性シートに破損がない。
×:離形フィルムを剥がすことができない、または熱伝導性シートに破損が生じる。
【0091】
<膜厚>
実施例および比較例で得られた熱伝導性シートについてデジタル式マイクロメータを用いて膜厚を測定した。
【0092】
<熱伝導率>
実施例および比較例で得られた熱伝導性シートについて熱伝導率測定器(QTM-710:京都電子工業製)を用いて、熱伝導率を測定した。
【0093】
<保存安定性>
実施例および比較例で調製した熱伝導性組成物を、褐色のガラス瓶中に入れ、アルミホイルで遮光した後に、輸送・保存を想定した60℃の定温恒温機内に静置した。3ヶ月保存後、目視で硬化が確認されなかった場合を「〇」、3ヶ月保存後、目視で硬化が確認された場合を「×」とした。その結果を表1に示す。
【0094】
【0095】
実施例1~6では、高い熱伝導率と厚膜を有する熱伝導性シートが得られた。
【0096】
比較例1はチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシドの含有量が多いため硬化性が悪かった。比較例2はチオキサントン骨格を有するジアルキルペルオキシドでない光重合開始剤を使用したため硬化性が悪かった。比較例3は熱伝導性フィラーの含有量が少ないため熱伝導性が悪かった。比較例4は熱伝導性フィラーの含有量が多すぎるため硬化性が悪かった。比較例5はチオキサントン骨格を有するヒドロペルオキシドを含まないため保存安定性が悪かった。比較例6、7は熱重合開始剤(化合物R2)を用いたため600秒でも硬化することができず、硬化するまで900秒かかり、さらに、保存安定性も悪かった。