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特開2024-29439因子選択装置、因子選択方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029439
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】因子選択装置、因子選択方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/18 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
G06F17/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131699
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】西川 尚希
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 透
【テーマコード(参考)】
5B056
【Fターム(参考)】
5B056BB61
(57)【要約】
【課題】状態評価に用いる因子を絞り込む方法を提供する。
【解決手段】因子選択装置は、対象物の判定に用いる因子の候補を取得するデータ取得部と、各因子について判定への影響の大きさを評価する評価部と、評価部の評価結果に基づいて判定への影響が大きい因子を選択する因子選択部を備え、評価部は、候補のうち未評価の1つの因子を選んで、当該因子を除いて判定を行い、その判定精度を評価する。判定精度に変化があれば当該因子を影響ある因子と評価する評価処理を因子の候補の各々について繰り返し実行し、因子選択部は、残った因子を選択する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の状態評価に用いる因子の候補を取得するデータ取得部と、
前記候補の各々について前記状態評価への影響の大きさを評価する評価部と、
前記評価部による評価結果に基づいて、前記候補の中から前記影響が大きい前記因子を選択する因子選択部と、
を備え、
前記評価部は、前記候補のうちの未評価の1つの前記因子を選んで、当該因子を除いて前記状態評価を行い、前記因子を除く前と除いた後で前記状態評価の精度に変化があれば当該因子を前記影響が大きい因子と評価する評価処理を前記候補の各々について繰り返し実行し、
前記因子選択部は、前記影響が大きいと評価された前記因子を選択する、
因子選択装置。
【請求項2】
前記評価部は、前記因子を除く前と除いた後で前記状態評価の精度に変化が無い場合、前記候補の中から当該因子を削除し、残った前記候補の未評価の前記因子について前記評価処理を実行する、
請求項1に記載の因子選択装置。
【請求項3】
前記候補の各々についてSN比利得を算出するSN比利得算出部、
をさらに備え、
前記評価部は、前記SN比利得が小さいものから順に又は大きいものから順に前記評価処理を行う、
請求項1又は請求項2に記載の因子選択装置。
【請求項4】
前記状態評価は、前記対象物が所定の状態であるか否かを判定することであって、
前記評価部は、前記状態評価の精度を示す指標として前記判定の誤判定率を算出し、前記誤判定率に変化がある前記因子を前記影響が大きい因子と評価する、
請求項1又は請求項2に記載の因子選択装置。
【請求項5】
前記状態評価が、前記対象物が所定の状態となることを予測することであって、
前記評価部は、前記状態評価の精度の判定ではどれぐらい前から前記所定の状態となることを予測できたかを前記精度の指標として算出し、当該指標に変化があれば前記因子を前記影響が大きい因子と評価する、
請求項1又は請求項2に記載の因子選択装置。
【請求項6】
対象物の状態評価に用いる因子の候補のSN比利得を取得するデータ取得部と、
前記SN比利得の昇順に前記候補を並べ替える並べ替え部と、
前記候補の各々について前記状態評価への影響の大きさを評価する評価部と、
前記評価部による評価結果に基づいて、前記候補の中から前記影響が大きい前記因子を選択する因子選択部と、
を備え、
前記評価部は、前記SN比利得の小さい方から順に又は大きい方から順に1つの前記因子を選んで、当該因子を除いて前記状態評価を行い、前記因子を除く前と除いた後で前記状態評価の精度に変化があれば、当該因子を前記影響が大きい因子と評価する評価処理を繰り返し実行し、
前記因子選択部は、前記影響が大きいと評価された前記因子を選択する、
因子選択装置。
【請求項7】
対象物の状態評価に用いる因子の候補を取得するステップと、
前記候補の各々について前記状態評価への影響の大きさを評価するステップと、
前記評価するステップによる評価結果に基づいて、前記候補の中から前記影響が大きい前記因子を選択するステップと、
を有し、
前記評価するステップでは、前記候補のうちの未評価の1つの前記因子を選んで、当該因子を除いて前記状態評価を行い、前記因子を除く前と除いた後で前記状態評価の精度に変化があれば当該因子を前記影響が大きい因子と評価する評価処理を前記候補の各々について繰り返し実行し、
前記選択するステップでは、前記影響が大きいと評価された前記因子を選択する、
因子選択方法。
【請求項8】
コンピュータに、
対象物の状態評価に用いる因子の候補を取得するステップと、
前記候補の各々について前記状態評価への影響の大きさを評価するステップと、
前記評価するステップによる評価結果に基づいて、前記候補の中から前記影響が大きい前記因子を選択するステップと、
を有し、
前記評価するステップでは、前記候補のうちの未評価の1つの前記因子を選んで、当該因子を除いて前記状態評価を行い、前記因子を除く前と除いた後で前記状態評価の精度に変化があれば当該因子を前記影響が大きい因子と評価する評価処理を前記候補の各々について繰り返し実行し、
前記選択するステップでは、前記影響が大きいと評価された前記因子を選択する処理、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、因子選択装置、因子選択方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
異常検知の手法としてマハラノビス・タグチ法(MT法)が知られている。MT法では、複数の因子からマハラノビス距離を算出し、算出したマハラノビス距離を所定の閾値と比較することにより機器等の異常を判定する。異常検知の精度を向上するためには、マハラノビス距離の算出に用いる因子(変数)を適切に選ぶ必要がある。例えば、特許文献1には、MT法の検知精度をよくする「変数の採用個数」と「しきい値」の組み合わせを算出する方法が開示されている。また、特許文献2には、どの因子がマハラノビス距離に影響を与えるかを定量的に解析する方法(要因効果解析)が開示されている。この方法は、評価対象の因子を2水準の直交表に割り当てて、直交表の1行ごとにSN比を算出し、因子ごとにその因子を使った場合とそうでない場合のSN比の差であるSN比利得を求め、SN比利得に基づいて、異常検知に影響が大きい因子を特定するというものである。特許文献2では、SN比利得が大きな値を示す因子ほど異常発生の要因となる可能性が高いことが示唆されている。引用文献2に開示があるように、SN比利得の昇順に各因子を並べたときに、その上位に位置する因子をマハラノビス距離の算出に用いる因子として選択することが一般的に行われている。ところで、MT法で異常検知を行う場合、マハラノビス距離の算出に用いる因子の数は少ない程、各種コスト(例えば、計算量や因子のデータを蓄積しておくための記憶容量)を削減することができる。そのため、異常検知の精度を保てるのであれば、できるだけ因子の数を減らすことが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-117380号公報
【特許文献2】特開2009-243428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、一般的に行われているSN比利得の大小にのみ注目して因子を選択する方法では、十分に因子の数を減らすことができない場合がある。
【0005】
本開示は、上記課題を解決することができる因子選択装置、因子選択方法及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の因子選択装置は、対象物の状態評価に用いる因子の候補を取得するデータ取得部と、前記候補の各々について前記状態評価への影響の大きさを評価する評価部と、前記評価部による評価結果に基づいて、前記候補の中から前記影響が大きい前記因子を選択する因子選択部と、を備え、前記評価部は、前記候補のうちの未評価の1つの前記因子を選んで当該因子を除いて前記状態評価を行い、前記因子を除く前と除いた後で前記状態評価の精度に変化があれば当該因子を前記影響が大きい因子と評価する評価処理を前記候補の各々について繰り返し実行し、前記因子選択部は、前記影響が大きいと評価された前記因子を選択する。
【0007】
本開示の因子選択方法は、対象物の状態評価に用いる因子の候補を取得するステップと、前記候補の各々について前記状態評価への影響の大きさを評価するステップと、前記評価するステップによる評価結果に基づいて、前記候補の中から前記影響が大きい前記因子を選択するステップと、を有し、前記評価するステップでは、前記候補のうちの未評価の1つの前記因子を選んで当該因子を除いて前記状態評価を行い、前記因子を除く前と除いた後で前記状態評価の精度に変化があれば当該因子を前記影響が大きい因子と評価する評価処理を前記候補の各々について繰り返し実行し、前記選択するステップでは、前記影響が大きいと評価された前記因子を選択する。
【0008】
本開示のプログラムは、コンピュータに、対象物の状態評価に用いる因子の候補を取得するステップと、前記候補の各々について前記状態評価への影響の大きさを評価するステップと、前記評価するステップによる評価結果に基づいて、前記候補の中から前記影響が大きい前記因子を選択するステップと、を有し、前記評価するステップでは、前記候補のうちの未評価の1つの前記因子を選んで当該因子を除いて前記状態評価を行い、前記因子を除く前と除いた後で前記状態評価の精度に変化があれば当該因子を前記影響が大きい因子と評価する評価処理を前記候補の各々について繰り返し実行し、前記選択するステップでは、前記影響が大きいと評価された前記因子を選択する処理を実行させる。
【発明の効果】
【0009】
上述の因子選択装置、因子選択方法及びプログラムによれば、異常検知等に用いる因子を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る因子選択装置の一例を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る因子選択処理の一例を示すフローチャートである。
図3】実施形態に係る直交表およびSN比の一例を示す図である。
図4】実施形態に係る要因効果図の一例を示す図である。
図5】一般的な因子の選択方法を説明する図である。
図6】実施形態に係る因子の評価処理の一例を示すフローチャートである。
図7】実施形態に係る因子選択処理によって選択される因子の一例を示す図である。
図8】実施形態に係る因子選択装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の因子選択方法について、図1図8を参照して説明する。
【0012】
(因子選択装置の構成)
図1は、実施形態に係る因子選択装置の一例を示すブロック図である。因子選択装置10は、機器やプラント等の監視や状態評価に用いる因子(説明変数、特徴量などとも呼ばれる。)の候補の中から有効な働きをする因子を選択する。選択された因子は、監視装置や制御装置などで実行される異常検知等の処理で用いられる。プラント等の状態評価に使用される計測項目は数百点以上となることがあるが、精度の高い状態評価を行う為には、それら全てを使用するのではなく、状態評価に関係のない、あるいは評価精度を悪化させる項目を除外し、重要な項目だけを選択して使用することが望ましい。高い評価精度を保ったまま、使用する因子を減らすことができれば、状態評価の処理コスト(計算負荷、データの記憶容量など)だけではなく、重要度が低いセンサを削減することによるセンサの設置コストや保守費用の削減を期待できる。
【0013】
図示するように因子選択装置10は、データ取得部11と、制御部12と、出力部16と、記憶部17と、を備える。
データ取得部11は、機器やプラント等(対象物)の状態評価に用いる因子の候補を取得する。状態評価とは、例えば、正常、異常、注意が必要な状態などの運転状態の診断や異常が発生していることを検知する異常検知、異常の発生を事前に予測する異常予測などである。因子とは、例えば、温度,圧力,流量,振動数,回転数、電流、電圧などセンサによって計測される計測値又は計測値から算出される値などの対象物の状態を反映すると考えられる物理量、監視対象のプロセスデータである。
【0014】
制御部12は、因子の候補の中から重要な因子を選択する処理を制御する。制御部12は、SN比利得算出部13と、評価部14と、因子選択部15と備える。
SN比利得算出部13は、候補となる各因子のSN比利得(SN比ゲイン)を算出する。SN比利得の算出方法は公知(例えば、特許文献2)である。そのため、本明細書では詳細な説明を省略する。
評価部14は、各因子が状態評価にとってどれぐらい重要か、言い換えれば、状態評価にどれぐらい影響があるかを評価する。具体的には、評価部14は、候補となる因子の中からSN比利得の小さい順に1つの因子を選んで、当該因子を除いて状態評価を行う。そして、評価部14は、その評価精度について、当該因子を除く前と除いた後で有意な変化があるかどうかを判定する。例えば、評価精度に所定の閾値以上の変化があれば、当該因子は判定に影響を及ぼす重要な因子、有効な因子であると判定し、閾値未満の変化しか認められない場合は、当該因子はあっても無くても状態評価に影響しない無効な因子であると判定し、候補の中からこの因子を削除する。評価部14は、この評価処理を各因子について実行し、重要な因子のみを残す。
因子選択部15は、評価部14によって重要と評価された因子を選択する。
【0015】
出力部16は、因子選択部15によって選択された因子を表示装置や電子ファイルへ出力する。
記憶部17は、データ取得部11によって取得された因子のデータ、各種の閾値や処理中の各種データなどを記憶する。
【0016】
(動作)
次に図2を参照して、因子選択処理の手順について説明する。
図2は、実施形態に係る因子選択処理の一例を示すフローチャートである。
まず、データ取得部11が、因子の候補を取得する(ステップS1)。例えば、データ取得部11は、プラント等で異常が発生した時間帯に採取された温度、圧力、流量などの各種因子の時系列データと、プラント等が正常な状態で運転している時間帯に採取された同様の因子の時系列データとを複数セットずつ取得する。これらの時系列データは、異常時のデータか正常時のデータかが判明した状態で取得される。あるいは、データ取得部11は、異常発生を含む所定期間(例えば、数週間、数カ月など)にわたる各因子の時系列データ(異常発生は判明している。)を取得する。データ取得部11は、取得した各種因子(因子の候補)の時系列データを記憶部17に記録する。
【0017】
次に、ユーザの操作により因子選択処理の実行が指示されると、制御部12が以下の処理を実行する。まず、SN比利得算出部13が、直交表に因子を割り当てる(ステップS2)。図3に2水準系の直交表の一例を示す。図3に例示する直交表の各列は項目とよばれ、各項目には候補となる因子の何れかが割り当てられる。各項目が取り得る値を水準とよび、2水準系の場合であれば各項目は、「その項目を使う」(第1水準)又は「その項目を使わない」(第2水準)の何れかの値をとる。直交表の各セルの1、2の値は、1が「その項目を使う」を意味し、2が「その項目を使わない」を意味する。本実施形態では、直交表の各行は、候補となる因子の組合せごとに割り振られる番号(実験計画法の実験番号)である。例えば、図3の直交表の1行目は、因子1~mを全て使う場合の組合せを示している。
【0018】
次に、SN比利得算出部13が、ステップS1で取得された各因子の異常時に採取されたデータを使用して、マハラノビス距離(MD)のSN比を算出する(ステップS3)。SN比利得算出部13はSN比を以下の式(1)によって算出する。
η=-10・log{(1/D +1/D +・・・+1/D )/m}
・・・(1)
ここで、D (x=1~m)はマハラノビス距離(MD)の2乗、mは異常データの数である。SN比利得算出部13は、上記の式(1)を用いて、図3の直交表の各行のSN比η1~η12を算出する。
【0019】
次に、SN比利得算出部13が、SN比利得を算出する(ステップS4)。例えば、SN比利得算出部13は、ある因子について算出したSN比のうち第1水準のSN比の平均値と、第2水準のSN比の平均値との差により、その因子のSN比利得を算出する。例えば、因子1のSN比利得は、次式(2)によって算出する。
因子1のSN比利得=((η1+η2+η3+η4+η5+η6)÷6)-((η7+η8+η9+η10+η11+η12)÷6)・・・(2)
ここで、η1~η6は因子1が第1水準となっている行について算出したSN比であり、η7~η12は因子1が第2水準となっている行について算出したSN比である。同様にして、SN比利得算出部13は、他の因子についてもSN比利得を算出する。SN比利得算出部13は、算出したSN比利得を記憶部17に記録する。
【0020】
図4に要因効果図を示す。図4の縦軸はSN比、横軸は因子である。上記したとおり、因子1であれば、第1水準のSN比の平均と第2水準のSN比の平均の差(図示するΔη1)がSN比利得である。また、因子1について第1水準と第2水準を結ぶ線をL1、他の因子nについてもLnで表すとすると、L1のように右肩下がりであればSN比利得は正となり、この傾きが急(SN比利得の絶対値が大)であれば、この因子1は状態評価に影響がある重要な因子であることを示す。因子2のように、SN比利得が正であっても傾きが小さければ(SN比利得の絶対値が小)、この因子2は状態評価の判定への影響が小さい因子であることを示す。また、因子3のように、SN比利得が負であれば、この因子3は、状態評価に効かない因子であることを示す。
【0021】
次に制御部12が、SN比利得の昇順に因子を並べる(ステップS5)。図5に、SN比利得の昇順に候補となる各因子を並べた結果を示す。図5の縦軸はSN比利得、横軸は因子である。右へ行くほどSN比利得の値が大きい因子である。図4にて要因効果図を用いて説明したように、SN比利得が正でその絶対値が大きければ、その因子は状態評価に効く因子であることが知られている。そこで、一般的には、SN比利得の値が小さいものから順に所定個を削除して残った因子を選択する、SN比利得の値が所定の閾値以上の因子を選択する、SN比利得の値が大きいものから順にX%を選択する、といった方法で判定に効く重要な因子を選択する。何れの場合でも、SN比利得の値が大きい上位の因子が残ることになり、例えば、図5の範囲R1に含まれる因子が重要な因子として選択される。しかし、このようにして選択された範囲R1に含まれる因子の全てが、本当に状態評価に有効な因子であるかどうかについては疑問が残る。その理由の一つとして、SN比利得の値は、効率的に少ない回数で網羅的に実験を行おうとする実験計画法の趣旨から、近似的に各因子の影響度を解析した結果に過ぎないことが挙げられる。また、もう一つの重要な点として、例えば、図5のSN比利得が最も小さい因子7を除去して残りの因子で再度SN比利得を計算し昇順に並べ替えると、必ずしも図5と同一の大小順序にならない(例えば、範囲R1の因子5がもっと低い順序になる等)という点がある。これは因子間に相関や交互作用が存在するためである。このようにSN比利得はあくまでN個の因子の組合せでのみ意味を持つものであり、SN比利得が小さい因子を削除した残りの因子の組合せで各因子が削除前と同様の順序を保つとは限らない。そこで、本実施形態では、状態評価に本当に役立つ因子のみを抽出し、状態評価の精度を確保しつつ、因子数をできるだけ減らすことを目指す。この目的のために、次のステップでは、評価部14が、各因子の影響度、重要度を個々に評価する(ステップS6)。
【0022】
図6に評価部14による評価処理(ステップS6)の処理内容の一例を示す。最初に評価部14は、ステップS11で取得した時系列データの全ての因子を使って異常検知等を実行し、指標Yを算出する(ステップS11)。ここで、指標Yは、異常検知の精度に関わる指標であり、指標Yには、例えば、異常検知の誤判定率(異常の見逃しまたは誤発報の割合)や事前予知日数(どれぐらい前に異常を検知することができたか)などを用いることができる。評価部14は、異常検知や異常予測を行う機能を有しており、ステップS1で取得した各因子の時系列データを取得して異常検知や異常予測を行い、指標Yを算出する。ステップS1で取得したデータは、正常時か異常時かが判明しているデータ(異常発生時に採取された各因子の時系列データ又は正常運転中に採取された各因子の時系列データ)を含むから、誤判定率の算出が可能である。あるいは、異常発生時刻が判明した異常発生を含む所定期間にわたる各因子の時系列データを取得した場合には、事前予知日数の算出が可能である。評価部14は、全ての因子を使って異常検知等の状態評価を行ったときの指標Yを記憶部17に記録する。
【0023】
次に、評価部14は、SN比利得が小さい因子から順に未評価の因子を1つ選ぶ(ステップS12)。図5の例では、評価部14は、最初に因子7を選択する。次に、評価部14は、選んだ因子を除いて異常検知等を実行し、指標Yを算出する(ステップS13)。例えば、評価部14は、因子7を使用しないで異常検知等を行った場合の指標Yを算出し、この値を記憶部17記録する。
【0024】
次に、評価部14は、選んだ因子を除いた状態で算出した指標Yと全因子を使ったときの指標Yを比較し変化があったかどうかを判定する(ステップS14)。例えば、評価部14は、両者の差が所定の閾値以上であれば変化があったと判定し、両者の差が閾値未満であれば変化がないと判定する。変化があったと判定した場合(ステップS14;Yes)、評価部14は、除いた因子(ステップS12で選んだ因子)を異常検知等の判定に影響を与える「変化点因子」とみなし、その旨を記憶部17に記録しつつ、この因子を残す(ステップS15)。変化がないと判定した場合(ステップS14;No)、評価部14は、除いた因子(ステップS12で選んだ因子)を異常検知等に影響を与えない因子とみなし、その旨を記憶部17に記録して、この因子を候補因子の中から削除する(ステップS16)。削除された因子は、以降の評価処理で使用しない。
【0025】
次に、評価部14は、ステップS1で取得した全ての候補となる因子について指標Yを算出し、その因子が異常検知等に影響を与える因子かどうかの評価(ステップS14)を行ったどうかを判定する(ステップS17)。全因子について指標Yの評価を行った場合(ステップS17;Yes)、図6の評価処理を終了する。
【0026】
全因子について指標Yの評価を行っていない場合(ステップS17;No)、ステップS12の以降の処理を繰り返す。例えば、因子7についての評価が終わった後であれば、評価部14は、次に因子3を選び(ステップS12)、因子3を除いた場合の指標Yを算出する(ステップS13)。ここで、これまでの処理で削除された因子あれば(ステップS16)、その因子と今回評価対象の因子を除いて指標Yが算出される。例えば、因子7が削除されていれば(ステップS16)、因子7と因子3を除いた状態で異常検知等が行われ、その場合の指標Yが算出される。因子7が残されていれば(ステップS15)、因子3だけを除いて(因子7は異常検知等に使用する)異常検知等が行われ、その場合の指標Yが算出される。次に評価部14は、全因子を使用した場合の指標Yとの差の有無を判定する(ステップS14)。差があれば、因子3は、「変化点因子」とみなされて残され(ステップS15)、差が無ければ、因子3は、異常検知等に必要が無い因子として削除される(ステップS16)。なお、既に因子7が削除されている場合、ステップS14の判定では、全因子を使用した場合の指標Yに代えて、因子7を除いて算出した指標Y、つまり、1つ前のループのステップS13で算出した指標Yと、今回算出した因子7と因子3を除いた場合の指標Yとを比較するようにしてもよい。このようにして全ての因子について個々にその判定への影響度を評価すると、評価部14は、図2のステップS6の処理を終了する。なお、ここでは、全因子について図6の処理を行うこととしたが、SN比利得が最上位に近づくと、残った(未評価の)因子は、異常判定への影響を有する因子であることが明らかな場合がある(上の説明で“SN比利得はN個の因子の組合せでのみ意味を持つもの”等と記載したが、本当に上位に至ると順番が変わらない、あるいは変わったとしても判定に影響する因子であることに変わりがないことが明らかである場合がある。)。このような場合は、全因子についての評価が終わっていなくても途中で評価処理を終了させてもよい(未評価の因子は重要な因子として残る。)。この場合、SN比利得の小さい方から順に評価を行うことで処理を効率化することができる。また、「変化点因子」ではない因子を削除することによって、以降の処理ではこの因子を含めずにマハラノビス距離の算出等を行うことができるので計算負荷を低減することができる。
【0027】
図2に戻り、次に因子選択部15が、ステップS6の評価処理で影響ありと評価された因子(「変化点因子」とみなされた因子)を選択する(ステップS7)。出力部16は、選択された因子を出力する。図7にステップS7で選択された因子の一例を示す。図の範囲R2~R5に含まれる因子が、ステップS7で選択された因子である。SN比利得の大きさが上位に位置する因子でも異常検知の判定に効かなければ選択されず(例えば、因子8、因子m)、SN比利得の大きさが小さくても判定に影響があれば選択される(例えば、因子2)。この結果、従来の方法で選択された因子数(図5)と比較して、因子数を削減することができる。なお、各因子について、実際に異常検知等の処理を行って影響のない因子を削減し、残った因子を選択しているので、異常検知等の精度は維持できると考えられる。
【0028】
(効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、異常検知等の状態評価の精度を確保しつつ、その判定に用いる因子数を減らすことができる。これにより、状態評価に係る処理コスト、例えば、MT法であれば、単位空間の算出、マハラノビス距離の算出、機械学習等で構築された判定モデルによる異常検知であれば、判定モデルの構築、判定モデルに基づく判定等の計算負荷を抑えることができ、データの記憶領域の増大を抑えることができる。
【0029】
例えば、空調機や給湯機、冷凍機等の機器に搭載された制御装置では、機器の制御の他に異常検知を行う。しかし、これらの制御装置のコンピュータリソースには制約があるため、大量のデータを扱ったり(記憶したり)、負荷が重い処理を実行したりできないことが多い。これに対し、本実施形態の因子選択方法を用いて異常検知に必要な因子数を削減することにより、制御装置では、少数の因子だけを扱って異常検知を行うことができるようになる。このように本実施形態は、量産品などコストの制約や製品の大きさ・重量等の制約から比較的小型でコンピュータリソースに余裕がない計算機で異常検知等の状態評価を行わなければならない場合に好適である。
【0030】
また、各地に設けられた空調機等の機器と監視サーバとをネットワークを介して接続し、監視サーバに各因子の計測値を送信して、監視サーバにて異常検知等を行う場合があるが、監視対象の機器が増えれば、監視サーバに送信されるデータ量、監視サーバ側で保存するデータ量は膨大になる。これに対し、本実施形態の因子選択方法を用いて因子数を削減することにより、上記と同様に監視サーバでの異常検知の処理負荷を低減することに加えて、監視サーバに送信されるデータ量、監視サーバ側で保存するデータ量を抑えることができる。このように本実施形態は、遠隔監視など、多数の監視対象を有する計算機で異常検知等の状態評価を行わなければならない場合に好適である。
【0031】
(変形例1)
上述した実施形態では、因子選択装置10が、SN比利得を計算することとしたが、因子選択装置10ではSN比利得の計算は行わずに他装置で計算されたSN比利得を取得するように構成されていてもよい。この場合の処理を図2のフローチャートを援用して説明する。例えば、データ取得部11が、因子の候補に加え、他装置で計算された各因子のSN比利得を取得する(ステップS1´)。ステップS2~S4は行わずに制御部12が、取得されたSN比利得の昇順に各因子を並べ替える(ステップS5)。次に評価部14が各因子を評価し(ステップS6)、因子選択部15が重要な因子を選択する(ステップS7)。なお、上記の実施形態でもこの変形例1の場合でも、ステップS6の評価処理において、SN比利得が小さい因子から順に処理するのではなく、SN比利得が大きい因子から順に評価を行うようにしてもよい。
【0032】
(変形例2)
上述した実施形態では、因子選択装置10が、SN比利得を計算することとしたが、SN比利得を計算せずに、各因子の評価を行うようにしてもよい。この場合の処理を図2のフローチャートを援用して説明する。まず、データ取得部11が、因子の候補を取得する(ステップS1)。ステップS2~S5は行わずに評価部14が各因子を評価し(ステップS6)、因子選択部15が重要な因子を選択する(ステップS7)。例えば、候補となる因子の数が少なく、直交表を用いるまでもない場合には、SN比利得を算出することなく、全ての因子に対して図6で説明した処理を行ってもよい。
【0033】
(変形例3)
上述した実施形態では、MT法でマハラノビス距離の算出に用いる因子の選択方法を例に説明を行ったが、本実施形態の因子選択方法は、機械学習によって判定モデルを構築し、構築した判定モデルによって異常検知等を行うときの因子、つまり、判定モデルの構築に用いる教師データの選択にも用いることができる。例えば、上記の(変形例2)の方法で因子を選択することができる。
【0034】
図8は、実施形態に係る因子選択装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
因子選択装置10は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0035】
なお、因子選択装置10の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0036】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0037】
<付記>
各実施形態に記載の因子選択装置、因子選択方法及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0038】
(1)第1の態様に係る因子選択装置は、対象物の状態評価に用いる因子の候補を取得するデータ取得部と、前記候補の各々について前記状態評価への影響の大きさを評価する評価部と、前記評価部による評価結果に基づいて、前記候補の中から前記影響が大きい前記因子を選択する因子選択部と、を備え、前記評価部は、前記候補のうちの未評価の1つの前記因子を選んで、当該因子を除いて前記状態評価を行い、前記因子を除く前と除いた後で前記状態評価の精度に変化があれば当該因子を前記影響が大きい因子と評価する評価処理を前記候補の各々について繰り返し実行し、前記因子選択部は、前記影響が大きいと評価された前記因子を選択する。
これにより、状態評価の精度を損なうことなく、状態評価に用いられる因子の数を減らすことができる。
【0039】
(2)第2の態様に係る因子選択装置は、(1)の因子選択装置であって、前記評価部は、前記因子を除く前と除いた後で前記状態評価の精度に変化が無い場合、前記候補の中から当該因子を削除し、残った前記候補の未評価の前記因子について前記評価処理を実行する。
不要な因子を削除して残りの評価処理を行うので計算負荷を低減することができる。
【0040】
(3)第3の態様に係る因子選択装置は、(1)~(2)の因子選択装置であって、前記候補の各々についてSN比利得を算出するSN比利得算出部、をさらに備え、前記評価部は、前記SN比利得が小さいものから順又は大きいものから順に前記評価処理を行う。
これにより、一般的に行われるSN比利得の大小関係に基づいて因子を選択する方法に、本実施形態を適用しやすくなる。また、SN比利得の値を参考にして(例えば、圧倒的にSN比利得が大きいものは評価対象から除く等)、効率よく評価処理を行うことができる。
【0041】
(4)第4の態様に係る因子選択装置は、(1)~(3)の因子選択装置であって、前記状態評価は、前記対象物が所定の状態であるか否かを判定することであり、前記評価部は、前記状態評価の精度を示す指標として前記判定の誤判定率を算出し、前記誤判定率に変化がある前記因子を前記影響が大きい因子と評価する。
これにより、誤判定率によって重要な因子を見つけることができる。
【0042】
(5)第5の態様に係る因子選択装置は、(1)~(4)の因子選択装置であって、前記状態評価は、前記対象物が所定の状態となることを予測することであり、前記評価部は、前記状態評価の精度の判定では、どれぐらい前から前記所定の状態となることを予測できたかを前記精度の指標として算出し、当該指標に変化があれば前記因子を前記影響が大きい因子と判定する。
これにより、事前予知日数によって重要な因子を見つけることができる。
【0043】
(6)第6の態様に係る因子選択装置は、対象物の状態評価に用いる因子の候補のSN比利得を取得するデータ取得部と、前記SN比利得の昇順に前記因子を並べ替える並べ替え部と、前記候補の各々について前記状態評価への影響の大きさを評価する評価部と、前記評価部による評価結果に基づいて、前記候補の中から前記影響が大きい前記因子を選択する因子選択部と、を備え、前記評価部は、前記SN比利得の小さい方から順に又は大きい方から順に1つの前記因子を選んで、当該因子を除いて前記状態評価を行い、前記因子を除く前と除いた後で前記状態評価の精度に変化があれば、当該因子を前記影響が大きい因子と評価する評価処理を繰り返し実行し、前記因子選択部は、前記影響が大きいと評価された前記因子を選択する。
これにより、一般的に行われるSN比利得の大小関係に基づいて因子を選択する方法に、本実施形態を適用しやすくなる。また、SN比利得の値を参考にして(例えば、圧倒的にSN比利得が大きいものは評価対象から除く等)、効率よく評価処理を行うことができる。
【0044】
(7)第7の態様に係る因子選択方法は、対象物の状態評価に用いる因子の候補を取得するステップと、前記候補の各々について前記状態評価への影響の大きさを評価するステップと、前記評価するステップによる評価結果に基づいて、前記候補の中から前記影響が大きい前記因子を選択するステップと、を有し、前記評価するステップでは、前記候補のうちの未評価の1つの前記因子を選んで、当該因子を除いて前記状態評価を行い、前記因子を除く前と除いた後で前記状態評価の精度に変化があれば当該因子を前記影響が大きい因子と評価する評価処理を前記候補の各々について繰り返し実行し、前記選択するステップでは、前記影響が大きいと評価された前記因子を選択する。
【0045】
(8)第8の態様に係るプログラムは、コンピュータに、対象物の状態評価に用いる因子の候補を取得するステップと、前記候補の各々について前記状態評価への影響の大きさを評価するステップと、前記評価するステップによる評価結果に基づいて、前記候補の中から前記影響が大きい前記因子を選択するステップと、を有し、前記評価するステップでは、前記候補のうちの未評価の1つの前記因子を選んで、当該因子を除いて前記状態評価を行い、前記因子を除く前と除いた後で前記状態評価の精度に変化があれば当該因子を前記影響が大きい因子と評価する評価処理を前記候補の各々について繰り返し実行し、前記選択するステップでは、前記影響が大きいと評価された前記因子を選択する処理を実行させる。
【符号の説明】
【0046】
10・・・因子選択装置
11・・・データ取得部
12・・・制御部
13・・・SN比利得算出部
14・・・評価部
15・・・因子選択部
16・・・出力部
17・・・記憶部
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8