(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029457
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】ボイラシステム及びボイラシステム制御方法
(51)【国際特許分類】
F22B 37/56 20060101AFI20240228BHJP
F22B 37/38 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
F22B37/56 A
F22B37/38 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131729
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 茂
(72)【発明者】
【氏名】大西 純平
(72)【発明者】
【氏名】上笹 政仁
(72)【発明者】
【氏名】菊池 陽介
(72)【発明者】
【氏名】二宮 隆
(57)【要約】
【課題】補給水の水質が変化しても適切にブローを行うことができるボイラシステムを提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係るボイラシステムは、補給水が想定される最悪の水質を有する場合に管理基準値の範囲内を維持せず、且つ補給水が想定される最良の水質を有する場合に管理基準値の範囲内を維持するよう設定される予想ボイラ水の濃縮倍数の第1設定値と、補給水が想定される最悪の水質を有する場合に管理基準値の範囲内を維持するよう設定される予想ボイラ水の濃縮倍数の第2設定値を最悪の水質における主管理値に乗じた値に基づいて設定される想定限界値とを記憶し、ボイラ水の濃縮倍数の現在値が第1設定値以上になったと判断される場合、及びボイラ水質測定手段が測定した主管理値が想定限界値以上になったと判断される場合に、ブローラインによるブローを行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補給水を内部にボイラ水として貯留し、前記ボイラ水を加熱して蒸気を生成するボイラ本体と、
前記ボイラ本体に前記補給水を供給する給水ラインと、
前記ボイラ水を前記ボイラ本体の外部にブローするブローラインと、
前記ボイラ水について、それぞれに前記ボイラ水において維持すべき管理基準値が設定される1以上の水質管理値の1つである主管理値を測定するボイラ水質測定手段と、
前記補給水が想定される最悪の水質を有する場合の前記補給水における前記水質管理値から該補給水が濃縮された予想ボイラ水における値として算出された予想ボイラ水質管理値の少なくともいずれかが対応する前記管理基準値の範囲内を維持せず、且つ前記補給水が想定される最良の水質を有する場合の前記予想ボイラ水質管理値の全てが前記管理基準値の範囲内を維持するよう設定される前記予想ボイラ水の濃縮倍数の第1設定値を記憶する第1記憶手段と、
前記補給水が想定される最悪の水質を有する場合の全ての前記予想ボイラ水質管理値がそれぞれに対応する前記管理基準値の範囲内を維持するよう設定される前記予想ボイラ水の濃縮倍数の第2設定値を、前記最悪の水質における前記主管理値に乗じた値に基づいて設定される前記主管理値の限界値である想定限界値と、を記憶する第2記憶手段と、
前記ブローラインによるブローを制御するブロー制御手段と、
を備え、
前記ブロー制御手段は、前記ボイラ水の濃縮倍数の現在値が前記第1設定値以上になったと判断される場合、及び前記ボイラ水質測定手段が測定した前記主管理値が前記想定限界値以上になったと判断される場合に、前記ブローラインによるブローを行う、
ボイラシステム。
【請求項2】
前記補給水について、前記1以上の水質管理値を取得する補給水質取得手段と、
前記第1設定値、前記第2設定値及び前記想定限界値の設定のための前記補給水の水質の想定範囲を示すものとして、前記補給水質取得手段が取得した前記水質管理値の複数のデータを記憶する測定値記憶手段と、
をさらに備える、請求項1に記載のボイラシステム。
【請求項3】
前記補給水質取得手段は、前記水質管理値の実測値を取得する、請求項2に記載のボイラシステム。
【請求項4】
前記給水ラインは、前記蒸気が凝縮して生じたドレンを外部から供給される供給水を貯留する給水タンクに混合することにより前記補給水を生成するよう構成され、
前記補給水質取得手段は、前記供給水の前記水質管理値を測定し、前記ドレンの回収率を考慮して前記補給水の前記水質管理値を算出するよう構成される、請求項3に記載のボイラシステム。
【請求項5】
補給水を内部にボイラ水として貯留し、前記ボイラ水を加熱して蒸気を生成するボイラ本体と、
前記ボイラ本体に前記補給水を供給する給水ラインと、
前記ボイラ水を前記ボイラ本体の外部にブローするブローラインと、
を備えるボイラシステムの制御方法であって、
前記ボイラ水について、それぞれに前記ボイラ水において維持すべき管理基準値が設定される1以上の水質管理値の1つである主管理値を測定する工程と、
前記補給水が想定される最悪の水質を有する場合の前記補給水における前記水質管理値から該補給水が濃縮された予想ボイラ水における値として算出された予想ボイラ水質管理値の少なくともいずれかが対応する前記管理基準値の範囲内を維持せず、且つ前記補給水が想定される最良の水質を有する場合の前記予想ボイラ水質管理値の全てが前記管理基準値の範囲内を維持するよう前記予想ボイラ水の濃縮倍数の第1設定値を設定する工程と、
前記補給水が想定される最悪の水質を有する場合の全ての前記予想ボイラ水質管理値がそれぞれに対応する前記管理基準値の範囲内を維持するよう前記予想ボイラ水の濃縮倍数の第2設定値を設定する工程と、
前記最悪の水質における前記主管理値に前記第2設定値を乗じた値に基づいて、前記主管理値の限界値である想定限界値を設定する工程と、
前記ボイラ水の濃縮倍数の現在値が前記第1設定値以上になったと判断される場合、及び前記主管理値の測定値が前記想定限界値以上になったと判断される場合に、前記ブローラインによるブローを行う工程と、
を備える、ボイラシステム制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラシステム及びボイラシステム制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラにより蒸気を生成するボイラシステムでは、ボイラ水中の水だけを蒸気として排出するため、ボイラ水における例えばシリカ、硫酸イオン、塩化物イオン等の溶解物質の濃度が上昇する濃縮が生じる。このような濃縮が過度に進行すると、水管の内壁にスケールが付着したり、溶解物質が蒸気の中に混入してボイラの外部に運び出される、いわゆる「キャリーオーバー」という現象を引き起こすおそれがある。このため、ボイラ水の濃縮時にはボイラ水の一部を外部に排出し、補給水によって残りのボイラ水を希釈することで溶解物質の濃度を低下させる「ブロー」を行うことが一般的である。このようなブローは、熱及び水を系外に排出する処理であるため、必要最小限の頻度で行うことが望ましい。
【0003】
このようなブローの制御に関し、特許文献1には、電気伝導率、塩化物イオン濃度、硫酸イオン濃度及びシリカ濃度から選ばれる少なくとも1つの水質管理項目について、補給水における水質管理項目の値を測定し、最も低い濃縮倍数で管理基準を逸脱することになる水質管理項目を予め選択し、ボイラ水中のこの選択された水質管理項目の値が管理基準値の範囲内となるようにブロー制御を行うことが開示されている。また、特許文献2には、所定の燃焼時間が経過するごとにボイラ水をブローすることによりスケール付着を防止する定期排水モードと、ボイラ水の電気伝導率が所定値に達した場合にボイラ水をブローすることによりボイラ水の濃縮を抑制する高濃縮排水モードと、を備え、ボイラ水又は供給水の項目に関する所定の条件満たした場合、例えば水管温度が上昇傾向にあるとき、イオン交換樹脂の再生処理が不良であると判定されたとき、供給水の硬度が所定値を上回るとき、ボイラ水のpH値等が所定値を下回るときなどに、定期排水モードと高濃縮排水モードとを切り替える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-30817号公報
【特許文献2】特開2013-190113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
補給水の水質が一定であれば、特定の水質管理項目の測定値に基づいて制御することで、ボイラ水の水質を適切に管理できる。しかしながら、補給水の水質は、一定ではなく、季節変化、ドレンとの混合割合等によって管理項目ごとに異なる傾向で比較的大きな変動をする場合がある。多数の水質管理項目の測定値に対してブローを行うようにすれば、各管理項目に関するボイラ水の過度の濃縮を防止できるが、ボイラシステムの構成が複雑となることに加え、管理項目の中には高頻度に正確な測定を行うことが難しいものもあるため、測定項目の増加によりボイラシステムの信頼性が低下するおそれもある。
【0006】
このため、本発明は、補給水の水質が変化しても適切にブローを行うことができるボイラシステム及びボイラ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るボイラシステムは、補給水を内部にボイラ水として貯留し、前記ボイラ水を加熱して蒸気を生成するボイラ本体と、前記ボイラ本体に前記補給水を供給する給水ラインと、前記ボイラ水を前記ボイラ本体の外部にブローするブローラインと、前記ボイラ水について、それぞれに前記ボイラ水において維持すべき管理基準値が設定される1以上の水質管理値の1つである主管理値を測定するボイラ水質測定手段と、前記補給水が想定される最悪の水質を有する場合の前記補給水における前記水質管理値から該補給水が濃縮された予想ボイラ水における値として算出された予想ボイラ水質管理値の少なくともいずれかが対応する前記管理基準値の範囲内を維持せず、且つ前記補給水が想定される最良の水質を有する場合の前記予想ボイラ水質管理値の全てが前記管理基準値の範囲内を維持するよう設定される前記予想ボイラ水の濃縮倍数の第1設定値を記憶する第1記憶手段と、前記補給水が想定される最悪の水質を有する場合の全ての前記予想ボイラ水質管理値がそれぞれに対応する前記管理基準値の範囲内を維持するよう設定される前記予想ボイラ水の濃縮倍数の第2設定値を、前記最悪の水質における前記主管理値に乗じた値に基づいて設定される前記主管理値の限界値である想定限界値と、を記憶する第2記憶手段と、前記ブローラインによるブローを制御するブロー制御手段と、を備え、前記ブロー制御手段は、前記ボイラ水の濃縮倍数の現在値が前記第1設定値以上になったと判断される場合、及び前記ボイラ水質測定手段が測定した前記主管理値が前記想定限界値以上になったと判断される場合に、前記ブローラインによるブローを行う。
【0008】
上述のボイラシステムは、前記補給水について、前記1以上の水質管理値を取得する補給水質取得手段と、前記第1設定値、前記第2設定値及び前記想定限界値の設定のための前記補給水の水質の想定範囲を示すものとして、前記補給水質取得手段が取得した前記水質管理値の複数のデータを記憶する測定値記憶手段と、をさらに備えてもよい。
【0009】
上述のボイラシステムにおいて、前記補給水質取得手段は、前記水質管理値の実測値を取得してもよい。
【0010】
上述のボイラシステムにおいて、前記給水ラインは、前記蒸気が凝縮して生じたドレンを外部から供給される供給水を貯留する給水タンクに混合することにより前記補給水を生成するよう構成され、前記補給水質取得手段は、前記供給水の前記水質管理値を測定し、前記ドレンの回収率を考慮して前記補給水の前記水質管理値を算出するよう構成されてもよい。
【0011】
本発明の別の態様に係るボイラシステム制御方法は、補給水を内部にボイラ水として貯留し、前記ボイラ水を加熱して蒸気を生成するボイラ本体と、前記ボイラ本体に前記補給水を供給する給水ラインと、前記ボイラ水を前記ボイラ本体の外部にブローするブローラインと、を備えるボイラシステムの制御方法であって、前記ボイラ水について、それぞれに前記ボイラ水において維持すべき管理基準値が設定される1以上の水質管理値の1つである主管理値を測定する工程と、前記補給水が想定される最悪の水質を有する場合の前記補給水における前記水質管理値から該補給水が濃縮された予想ボイラ水における値として算出された予想ボイラ水質管理値の少なくともいずれかが対応する前記管理基準値の範囲内を維持せず、且つ前記補給水が想定される最良の水質を有する場合の前記予想ボイラ水質管理値の全てが前記管理基準値の範囲内を維持するよう前記予想ボイラ水の濃縮倍数の第1設定値を設定する工程と、前記補給水が想定される最悪の水質を有する場合の全ての前記予想ボイラ水質管理値がそれぞれに対応する前記管理基準値の範囲内を維持するよう前記予想ボイラ水の濃縮倍数の第2設定値を設定する工程と、前記最悪の水質における前記主管理値に前記第2設定値を乗じた値に基づいて、前記主管理値の限界値である想定限界値を設定する工程と、前記ボイラ水の濃縮倍数の現在値が前記第1設定値以上になったと判断される場合、及び前記主管理値の測定値が前記想定限界値以上になったと判断される場合に、前記ブローラインによるブローを行う工程と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、補給水の水質が変化しても適切にブローを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るボイラシステムの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明をする。
図1は、本発明の一実施形態に係るボイラシステム1の構成を示す模式図である。ボイラシステム1は、本発明に係るボイラシステム制御方法の一実施形態を実施するシステムである。
【0015】
ボイラシステム1は、補給水を内部にボイラ水として貯留し、ボイラ水を加熱して蒸気を生成するボイラ本体10と、ボイラ本体10に補給水を供給する給水ライン20と、ボイラ水をボイラ本体10の外部にブローするブローライン30と、ボイラ水において維持すべき管理基準値が設定される1以上の水質管理値の1つである主管理値を測定するボイラ水質測定手段40と、他の構成要素を制御する制御装置50と、を備える。
【0016】
ボイラ本体10は、ボイラ水を貯留する缶体11と、燃料を燃焼して缶体11ひいてはボイラ水を加熱するバーナ12と、を有する。また、ボイラ本体10には、缶体11から流出する蒸気に含まれる水滴を除去する気水分離器13と、気水分離器13により水滴が除去された蒸気を貯留する蒸気ヘッダ14と、が付設される。
【0017】
給水ライン20は、補給水を貯留する給水タンク21と、補給水を加圧してボイラ本体10に導入する補給水ポンプ22と、を有する。また、給水ライン20は、補給水の水質を測定する水質センサ23、及び補給水に例えばpH調整剤、スケール防止剤、腐食防止剤等の薬品を注入する薬注装置24を有してもよい。また、給水タンク21の出口等において、水質センサ23及び薬注装置24を有してもよい。なお、水質センサ23は、供給水の水質を検出してもよく、薬注装置24が薬品を注入する前の補給水の水質を検出してもよく、薬注後の補給水の水質を検出してもよい。つまり、缶体11に供給される補給水の水質は、直接測定せず、ドレン回収率、薬注量等を考慮して算出してもよい。また、給水ライン20は、図示するように、給水タンク21に外部から供給される供給水と蒸気が凝縮して生じたドレンとを導入するよう構成されてもよい。つまり補給水は、供給水とスチームトラップ25で回収されるドレンとを混合することによって生成されてもよい。
【0018】
ブローライン30は、開閉可能なブロー弁31を有する。つまり、ブローライン30は、ブロー弁31を開放することでボイラ本体10からボイラ水を外部にブローする。ブローライン30は、缶体11からボイラ水を排出するよう構成されてもよく、図示するように、気水分離器13から缶体11にボイラ水を還流させる管路からボイラ水を排出するよう構成されてもよい。
【0019】
ボイラ水質測定手段40は、ボイラ水において維持すべき管理基準値が設定される複数の水質管理値、例えば電気伝導率(EC)、シリカ濃度、硫酸イオン濃度、塩化物イオン濃度等の中から選択される主管理値を測定する。主管理値は、缶体11のボイラ水の水質を代表する値として使用される。ボイラ水質測定手段40は、缶体11の内部のボイラ水の水質管理値を直接測定するセンサを有することが好ましい。ボイラ水質測定手段40が測定する主管理値としては、缶体11の中の高温高圧のボイラ水について比較的容易に測定できる電気伝導率が好適に採用され得る。
【0020】
制御装置50は、燃焼制御部51と、給水制御部52と、補給水質取得部53と、測定値記憶部54と、第1記憶部55と、第2記憶部56と、ブロー制御部57と、を有する。制御装置50は、プロセッサ、メモリ、入出力インターフェイス等を有し、適切な制御プログラムを実行する1又は複数のコンピュータ装置によって実現され得る。制御装置50の各構成要素は、制御装置50の機能を類別したものであって、物理構成及びプログラム構成において厳密に区分できるものでなくてもよい。
【0021】
燃焼制御部51は、バーナ12の燃焼を制御する燃焼制御手段である。燃焼制御部51は、例えば蒸気ヘッダ14の圧力等に応じてバーナ12の燃焼量を変化させる周知の制御を行うよう構成され得る。
【0022】
給水制御部52は、給水ライン20による補給水の供給を制御する給水制御手段である。給水制御部52は、缶体11の中のボイラ水の水位を一定に保つよう、補給水ポンプ22を調整するよう構成され得る。
【0023】
補給水質取得部53は、補給水について、1以上の水質管理値を取得する補給水質取得手段である。補給水質取得部53は、水質センサ23等の検出値、つまり水質管理値の実測値を取得するよう構成されてもよい。実測値に基づいて補給水の水質の想定範囲を特定することにより、後述する第1設定及び第2設定値並びに想定限界値を適切に設定することができるので、ボイラ本体10からのブローを適切に制御できる。また、補給水質取得部53は、ユーザによる補給水のサンプルの分析結果の入力を受け付けるよう構成されてもよい。
【0024】
また、補給水質取得部53は、供給水の水質を測定し、ドレンの回収率を考慮して補給水の水質管理値を算出するよう構成されてもよい。ドレン回収率を考慮して算出した補給水の水質管理値を用いることによって、少ない測定数で補給水の水質の変動範囲を比較的正確に推測できるので、容易に効率よく適切なブロー制御を行うことができる。なお、補給水質取得部53は、各種測定値等から缶体11に供給される補給水の水質管理値を算出するよう構成されてもよい。
【0025】
測定値記憶部54は、補給水質取得部53が取得した水質管理値の複数のデータを記憶する測定値記憶手段である。水質管理値の複数のデータを記憶することで、供給水の時間、曜日、季節等に応じた水質管理値の変動をより正確に想定できる。これにより、後述する第1設定及び第2設定値並びに想定限界値を適切に設定することができるので、タイムラグなくボイラ水の水質を良好に保つことができるような適切なブローを行うことができる。
【0026】
第1記憶部55は、補給水が想定される最悪の水質を有する場合の補給水における水質管理値から該補給水が濃縮された予想ボイラ水における値として算出された予想ボイラ水質管理値の少なくともいずれかが対応する管理基準値の範囲内を維持せず、且つ補給水が想定される最良の水質を有する場合の予想ボイラ水質管理値の全てが管理基準値の範囲内を維持するよう設定される予想ボイラ水の濃縮倍数の第1設定値を記憶する第1記憶手段である。
【0027】
具体例として、ボイラ水の水質管理値として、電気伝導率、シリカ濃度、硫酸イオン濃度及び塩化物イオン濃度が用いられる場合について説明する。それぞれの水質管理基準値(上限値)としては、電気伝導率:300mS/m、シリカ濃度:500mg/L、硫酸イオン濃度:350mg/L、及び塩化物イオン濃度:300mg/Lとされているものとする。また、水質管理値の想定される組み合わせとして、測定値記憶部54に記憶されている水質管理値の複数のデータを用いるものとする。測定値記憶部54に記憶されている水質管理値は、次の表1に示すものとする。
【0028】
【0029】
表1に示すデータの補給水を濃縮したものとして予想される予想ボイラ水における水質管理値の値である予想ボイラ水質管理値は、表1の各水質管理値に濃縮倍数を乗じた値となり、予想ボイラ水質管理値が水質管理基準値に達する濃縮倍数である最大濃縮倍数を算出すると、次の表2に示すようなものとなる。
【0030】
【0031】
この中で、最も小さい濃縮倍数は、データ3の塩化物イオンの濃縮倍数=6.6である。このため、表1のデータにおいて、データ3は、補給水が最悪の水質を有する場合の水質管理値の想定値として利用される。また、各データの中で最も小さい濃縮倍数を抽出して比較した場合に、抽出した濃縮倍数が最も大きいデータ、この例では表2でシリカの濃縮倍数=12.5となる表1のデータ5が、補給水が最良の水質を有する場合の水質管理値の想定値として利用される。このため、補給水が最悪の水質を有する場合の予想ボイラ水質管理値の少なくともいずれかが対応する管理基準値の範囲内を維持せず、且つ補給水が最良の水質を有する場合の予想ボイラ水質管理値の全てが管理基準値の範囲内を維持するよう設定される予想ボイラ水の濃縮倍数の第1設定値は、6.6超12.5以下の値とされる。第1設定値を大きい値に設定すればブローの頻度が低下し、第1設定値を小さい値に設定すればボイラ水の不純物濃度が過大となることをより確実に防止できる。自動的に第1設定値を設定する場合は、下限値と上限値とを予め設定される比率で加重平均した値を第1設定値とすることができる。
【0032】
例として、次の表3に、第1設定値を上限値である12.5に設定した場合の各データの予想ボイラ水質管理値を示す。なお、表3において、水質管理基準値を超える予想ボイラ水質管理値は、下線を付して示されている。
【0033】
【0034】
表3に示すように、補給水が最悪の水質を有するデータ3の全ての予想ボイラ水質管理値が管理基準値を超え、補給水が最良の水質を有するデータ5の全ての予想ボイラ水質管理値が管理基準値の範囲内となっており、設定した第1設定値が上述の条件を満たすことが確認できる。
【0035】
第2記憶部56は、補給水が想定される最悪の水質を有する場合の全ての予想ボイラ水質管理値がそれぞれに対応する管理基準値の範囲内を維持するよう設定される予想ボイラ水の濃縮倍数の第2設定値を、最悪の水質における主管理値(想定される最悪の主管理値)に乗じた値に基づいて設定される主管理値の限界値である想定限界値を記憶する第2記憶手段である。つまり、第2設定値は、第1設定値の濃縮倍数における予想ボイラ水質管理値が管理基準値の範囲を逸脱する全ての水質管理値について、第2設定値の濃縮倍数における予想ボイラ水質管理値が管理基準値の範囲を維持するよう設定される。想定限界値は、最悪の主管理値に第2設定値を乗じた値又はこの値に安全率を乗じた値として設定される。
【0036】
表1の例において、濃縮倍数の第2設定値は、表2の最大濃縮倍数の中の最小値、つまりデータ3の塩化物イオンの濃縮倍数=6.6を超えない値に設定される。第2設定値と最大濃縮倍数の中の最小値との差は、大きい想定以上に水質が悪い補給水が使用された場合に対するマージンである。自動的に第2設定値を設定する場合は、最大濃縮倍数の中の最小値に1以下の所定の係数を乗じた値を第2設定値とすることができる。
【0037】
想定限界値は、濃縮倍数を第1設定値とした場合にいずれかの水質管理値が管理基準値の範囲を逸脱する水質データ(表3で下線が付されたデータ1~4,6)若しくは全てのデータ(データ1~6)の主管理値、又は主管理値の中の最大値(表1の電気伝導率の最大値:データ3)、又は最悪の水質のデータ(表2で最小値を有するデータ3)における主管理値に第2設定値を乗じた値として設定されてもよく、さらにこの値に安全のための係数を乗じた値として設定されてもよい。想定限界値を丸めた値とする場合、最悪の水質における主管理値に第2設定値を乗じた値の端数を切り捨てることが好ましい。
【0038】
表1の例において、濃縮倍数の第2設定値を6.25とした場合、濃縮倍数を第1設定値とした場合にいずれかの水質管理値が管理基準値の範囲を逸脱する水質データの主管理値の中で最悪の値であるデータ3の電気伝導率=43.4に乗じた値は271.25となる。この場合の想定限界値は、例えば270に設定され得る。
【0039】
ブロー制御部57は、ブローライン30によるブローを制御するブロー制御手段である。ブロー制御部57は、ボイラ水の濃縮倍数の現在値が第1設定値以上になったと判断される場合、及びボイラ水質測定手段40が測定した主管理値が想定限界値以上になったと判断される場合に、ブローライン30によるブローを行う。ボイラ水の濃縮倍数の現在値は、ボイラ本体10の蒸発量、保有水量、燃焼時間、及び過去のブローにおけるボイラ水の排出量等に基づいて算出することができる。
【0040】
以上の説明から明らかなように、ボイラシステム1において実施される本発明の一実施形態に係るボイラシステム制御方法は、ボイラ水について、それぞれにボイラ水において維持すべき管理基準値が設定される1以上の水質管理値の1つである主管理値を測定する工程と、補給水が想定される最悪の水質を有する場合の補給水における水質管理値から該補給水が濃縮された予想ボイラ水における値として算出された予想ボイラ水質管理値の少なくともいずれかが対応する管理基準値の範囲内を維持せず、且つ補給水が想定される最良の水質を有する場合の予想ボイラ水質管理値の全てが管理基準値の範囲内を維持するよう予想ボイラ水の濃縮倍数の第1設定値を設定する工程と、補給水が想定される最悪の水質を有する場合の全ての予想ボイラ水質管理値がそれぞれに対応する管理基準値の範囲内を維持するよう予想ボイラ水の濃縮倍数の第2設定値を設定する工程と、最悪の水質における主管理値に第2設定値を乗じた値に基づいて、主管理値の限界値である想定限界値を設定する工程と、ボイラ水の濃縮倍数の現在値が第1設定値以上になったと判断される場合、及び主管理値の測定値が想定限界値以上になったと判断される場合に、ブローライン30によるブローを行う工程と、を備える。
【0041】
ボイラシステム1では、濃縮倍数の現在値が第1設定値以上になったと判断される場合、つまり通常の水質を有する補給水が濃縮された場合に最適なタイミングでブローを行う。また、ボイラシステム1では、ボイラ水質測定手段が測定した主管理値が想定限界値以上になった場合、つまり補給水の水質の変動によりボイラ水の水質が早期に悪化した場合にも遅滞なくブローを行う。これにより、ボイラシステム1は、予想ボイラ水質管理値が管理基準値の範囲内を維持するようにボイラ水の水質を良好に保つことができる。また、想定限界値は、主管理値以外の水質管理値も考慮して設定されるため、ボイラシステム1は、水質管理値のバラツキが想定の範囲内であればボイラ水における全ての水質管理値が管理基準値の範囲内を維持するように適切なブローを行うことができる。また、ボイラ水の水質は主管理値を測定するだけであるので、ボイラシステム1は、簡単且つ信頼性の高い装置構成とすることができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更及び変形が可能である。例として、本発明に係るボイラシステムは、補給水質取得手段及び測定値記憶手段を備えず、ユーザが第1設定値及び想定限界値を算出し、算出した値を第1記憶手段及び第2記憶手段に入力することを必須とするよう構成されてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 ボイラシステム
10 ボイラ本体
11 缶体
12 バーナ
13 気水分離器
14 蒸気ヘッダ
20 給水ライン
21 給水タンク
22 補給水ポンプ
23 水質センサ
24 薬注装置
25 スチームトラップ
30 ブローライン
31 ブロー弁
40 ボイラ水質測定手段
50 制御装置
51 燃焼制御部
52 給水制御部
53 補給水質取得部
54 測定値記憶部
55 第1記憶部
56 第2記憶部
57 ブロー制御部