(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002947
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】レーザーダイレクトストラクチャリング用樹脂組成物、射出成形体、電子部材及びアンテナ部材
(51)【国際特許分類】
C08L 71/12 20060101AFI20231228BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20231228BHJP
C08L 81/02 20060101ALI20231228BHJP
H05K 9/00 20060101ALN20231228BHJP
【FI】
C08L71/12
C08K3/01
C08L81/02
H05K9/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100288
(22)【出願日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2022102069
(32)【優先日】2022-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 瑠以
(72)【発明者】
【氏名】今井 誠
(72)【発明者】
【氏名】山本 美穂子
【テーマコード(参考)】
4J002
5E321
【Fターム(参考)】
4J002CH07W
4J002CN01X
4J002DE096
4J002DJ047
4J002DL008
4J002FA048
4J002FD018
4J002FD206
4J002FD207
5E321BB34
(57)【要約】
【課題】本発明は、レーザーダイレクトストラクチャリングによるメッキ析出性と低誘電率・低誘電正接とを同時に満足することができる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】上記課題を達成するべく、本発明は、A)ポリフェニレンエーテル系樹脂、及び、(B)ポリフェニレンスルフィド系樹脂、を含む樹脂成分と、(C)銅及びクロムのうちの少なくとも1つを含むレーザーダイレクトストラクチャリング添加剤と、(D)無機フィラーとを含み、前記(D)無機フィラーはレーザー粒度分布計により測定される平均粒子径が4.0μm以下であるタルクを含む、ことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂、及び、
(B)ポリフェニレンスルフィド系樹脂、を含む樹脂成分と、
(C)銅及びクロムのうちの少なくとも1つを含むレーザーダイレクトストラクチャリング添加剤と、
(D)無機フィラーと、を含み、
前記(D)無機フィラーは、レーザー粒度分布計により測定される平均粒子径が4.0μm以下であるタルクを含むことを特徴とする、レーザーダイレクトストラクチャリング用樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)成分と前記(B)成分の含有質量比が、(A)/(B)=1/99~60/40であることを特徴とする、請求項1に記載のレーザーダイレクトストラクチャリング用樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂成分100質量部に対して、前記(C)成分を1~50質量部含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のレーザーダイレクトストラクチャリング用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)成分が、(D-b)繊維状無機フィラーをさらに含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のレーザーダイレクトストラクチャリング用樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂成分100質量部に対して、前記(D)成分を50~200質量部含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のレーザーダイレクトストラクチャリング用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のレーザーダイレクトストラクチャリング樹脂組成物を含むことを特徴とする、射出成形体。
【請求項7】
請求項6に記載の射出成形体を含むことを特徴とする、電子部材。
【請求項8】
請求項6に記載の射出成形体を含むことを特徴とする、アンテナ部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーダイレクトストラクチャリング用樹脂組成物、射出成形体、電子部材及びアンテナ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子分野、自動車分野、その他の各種工業材料分野で利用されるMIDの形成手法の一つであるレーザーダイレクトストラクチャリングの研究が盛んに行われている。レーザーダイレクトストラクチャリング技術とはレーザーダイレクトストラクチャリング添加剤と呼ばれる所定の添加剤を含む樹脂成形品に対し、レーザーを照射すると、照射した部分の表面粗化及び活性化が行われた後、無電解めっきによってレーザー照射部分にメッキを形成することで、選択的にメッキパターンを構築可能となる技術である。この技術によって、デバイスの回路形成の工程削減や単純化に加えて、デバイスの小型化が可能になり、近年盛んに研究が進められている。
【0003】
従来、レーザーダイレクトストラクチャリング適合可能な材料として、特許文献1にはポリカーボネート樹脂等に添加剤を添加し、レーザーダイレクトストラクチャリングによるメッキ析出性をもたせた樹脂組成物が報告されている。しかしながら、これらは必ずしも耐熱性が十分ではなく、回路実装工程におけるリフローはんだの高温に耐えられず、ブリスターや反りが発生してしまうという課題を有している。
【0004】
これらの欠点を解消する目的で優れた耐熱性をもつポリフェニレンスルフィド樹脂においてレーザーダイレクトストラクチャリング性を付与する試みが提案されている。一般的なレーザーダイレクトストラクチャリング材の技術をポリフェニレンスルフィド樹脂に適用しようとするとメッキの析出性が十分ではないことが課題となっており、この課題を解決するために様々な報告がされている。例えば、特許文献2及び特許文献3にはポリフェニレンスルフィド樹脂にタルクを含む粘土鉱物を添加して、メッキの析出性を向上させた樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-108120号公報
【特許文献2】特開2014-240452号公報
【特許文献3】特開2019-183013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3の技術で提案されている樹脂組成物は、メッキ析出性を向上させたといっても未だ実用可能な水準のメッキ析出性には届いていないという課題を依然として残している。
またメッキ析出性を上げようとすると多くのレーザーダイレクトストラクチャリング添加剤を添加する必要があり、その結果として誘電特性を損なうという課題がある。近年の電気・電子分野等のアンテナ素子をはじめとする機構部品において、電波の伝送損失が少ない低誘電率・低誘電正接の要求が多く見られているため、誘電特性は重要な課題となっている。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、レーザーダイレクトストラクチャリングによるメッキ析出性と低誘電率・低誘電正接とを同時に満足することができる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、レーザーダイレクトストラクチャリング用樹脂組成物中に、ポリフェニレンスルフィド系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂を含む樹脂成分と、レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤と、特定フィラーと、を含有させることによって、ポリフェニレンスルフィドのリフロー耐熱性を損なうことなく、レーザーダイレクトストラクチャリングによるメッキ性及び優れた誘電特性を兼ね備えることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下のとおりである。
[1](A)ポリフェニレンエーテル系樹脂、及び、
(B)ポリフェニレンスルフィド系樹脂、を含む樹脂成分と、
(C)銅及びクロムのうちの少なくとも1つを含むレーザーダイレクトストラクチャリング添加剤と、
(D)無機フィラーと、を含み、
前記(D)無機フィラーは、レーザー粒度分布計により測定される平均粒子径が4.0μm以下であるタルクを含むことを特徴とする、レーザーダイレクトストラクチャリング用樹脂組成物。
[2]前記(A)成分と前記(B)成分の含有質量比が、(A)/(B)=1/99~60/40であることを特徴とする、[1]に記載のレーザーダイレクトストラクチャリング用樹脂組成物。
[3]前記樹脂成分100質量部に対して、前記(C)成分を1~50質量部含むことを特徴とする、請求項[1]又は[2]に記載のレーザーダイレクトストラクチャリング用樹脂組成物。
[4]前記(D)成分が、(D-b)繊維状無機フィラーをさらに含むことを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載のレーザーダイレクトストラクチャリング用樹脂組成物。
[5]前記樹脂成分100質量部に対して、前記(D)成分を50~200質量部含むことを特徴とする、[1]~[4]のいずれかに記載のレーザーダイレクトストラクチャリング用樹脂組成物。
[6][1]~[5]のいずれかに記載のレーザーダイレクトストラクチャリング樹脂組成物を含むことを特徴とする、射出成形体。
[7][6]に記載の射出成形体を含むことを特徴とする、電子部材。
[8][6]に記載の射出成形体を含むことを特徴とする、アンテナ部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レーザーダイレクトストラクチャリングによるメッキ析出性と低誘電率・低誘電正接とを同時に満足することができる樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0012】
〔レーザーダイレクトストラクチャリング樹脂組成物〕
本実施形態のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物(以下、単に「本実施形態の樹脂組成物」ということがある。)は、
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂、及び、
(B)ポリフェニレンスルフィド系樹脂、を含む樹脂成分と、
(C)銅及びクロムのうちの少なくとも1つを含むレーザーダイレクトストラクチャリング添加剤と、
(D)無機フィラーと、を含み、
前記(D)無機フィラーは、レーザー粒度分布計により測定される平均粒子径が4.0μm以下であるタルクである。
【0013】
(ポリフェニレンエーテル(A))
本実施形態の(A)成分として用いるポリフェニレンエーテル(以下、単に「PPE」と略記することがある。)は、本実施形態の樹脂組成物においてレーザーダイレクトストラクチャリングによるメッキ析出性、及び低誘電率・低誘電正接を付与するうえで重要な成分の一つであり、該PPEの構造は特に限定されないが、例えば、下記式(1)で表される繰り返し単位構造からなる単独重合体、及び/又は下記式(1)で表される繰り返し単位構造を有する共重合体が挙げられる。
【0014】
【化1】
(式(1)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4はそれぞれ、水素、ハロゲン、炭素数1~7までの第一級又は第二級低級アルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基又は少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群から選択されるものであり、互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0015】
このPPEの具体的な例としては、例えばポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)等が挙げられ、さらに2,6-ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6-トリメチルフェノールや2-メチル-6-ブチルフェノール)との共重合体のごときポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。中でもポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、さらにポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)が好ましい。
【0016】
上記ポリフェニレンエーテルの製造方法としては、特に限定されることなく、従来公知の方法を用いることができる。ポリフェニレンエーテルの製造方法の具体例としては、例えば、第一銅塩とアミンとのコンプレックスを触媒として用いて、例えば、2,6-キシレノールを酸化重合することによって製造する、米国特許第3306874号明細書等に記載される方法や、米国特許第3306875号明細書、米国特許第3257357号明細書、米国特許第3257358号明細書、特公昭52-17880号公報、特開昭50-51197号公報、特開昭63-152628号公報等に記載される方法等が挙げられる。
【0017】
前記(A)ポリフェニレンエーテル樹脂の配合量は、耐熱性、成形流動性の観点から、前記樹脂成分100質量部に対して1~60質量部であることが好ましく、メッキ析出性の観点から20~60質量部であることが好ましく、さらに30~60質量部であることが好ましい。
【0018】
((B)ポリフェニレンスルフィド系樹脂)
本実施形態の(B)成分として用いるポリフェニレンスルフィド系樹脂(以下PPSと略記する)は、基本的にはパラフェニレンスルフィド骨格を70モル%以上、好ましくは90モル%以上からなるポリフェニレンスルフィドである。
なお、本実施形態で用いることのできるPPSは構成単位であるアリーレン基が1種であるホモポリマーであっても良く、加工性や耐熱性の観点から、2種以上の異なるアリーレン基を混合して用いて得られるコポリマーであっても良い。それらの中でも、主構成要素としてp-フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有するリニア型ポリフェニレンスルフィド樹脂を用いることが、加工性に優れ、かつレーザーダイレクトストラクチャリング時のメッキ析出性に優れることから好ましい。
【0019】
前記PPSの製造方法は、通常、ハロゲン置換芳香族化合物、例えばp-ジクロルベンゼンを硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法、極性溶媒中で硫化ナトリウムあるいは硫化水素ナトリウムと水酸化ナトリウム又は硫化水素と水酸化ナトリウムあるいはナトリウムアミノアルカノエートの存在下で重合させる方法、p-クロルチオフェノールの自己縮合等が挙げられるが、中でもN-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp-ジクロルベンゼンを反応させる方法が適当である。なお、これらの製造方法は公知の方法で得られるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、米国特許第2513188号明細書、特公昭44-27671号公報、特公昭45-3368号公報、特公昭52-12240号公報、特開昭61-225217号公報及び米国特許第3274165号明細書、英国特許第1160660号明細書さらに特公昭46-27255号公報、ベルギー特許第29437号明細書、特開平5-222196号公報、等に記載された方法やこれら特許等に例示された先行技術の方法で得ることができる。
【0020】
そして、本実施形態のPPSは、上記の製造方法で重合したリニア型ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下リニア型PPS)及びこのリニア型PPSをさらに酸素の存在下でPPSの融点以下の温度で加熱処理し酸化架橋を促進してポリマー分子量、粘度を適度に高めた架橋型(半架橋型も含む)ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、架橋型PPSと略記する。)のどちらでも良く、さらにリニア型PPSと架橋型PPSを併用してもよい。
【0021】
かかる(B)ポリフェニレンスルフィド樹脂の配合量は、耐熱性、成形流動性の観点から、前記樹脂成分100質量部に対して40~99質量部であることが好ましく、メッキ析出性の観点から40~80質量部であることが好ましく、さらに40~60質量部であることが好ましい。
【0022】
((C)レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤)
本実施形態の(C)成分として用いるレーザーダイレクトストラクチャリング添加剤は、電磁線照射により単体金属核を形成しうる金属含有化合物と定義される。該金属含有化合物は、電磁線を吸収した結果として化学反応により金属を単体形態で遊離させる金属酸化物とすることができ、銅及びクロムのうちの少なくとも1つを含む。
【0023】
また、本実施形態の(C)成分として用いるレーザーダイレクトストラクチャリング添加剤は、鉄、アルミニウム、ガリウム、ホウ素、モリブデン、タングステン、セレン等の他の金属をさらに含むこともできる。
【0024】
レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤の具体例としては、特に制限されないが、CuFe0.5B0.5O2.5、CuAl0.5B0.5O2.5、CuGa0.5B0.5O2.5、CuB2O4、CuB0.7O2、CuMo0.7O3、CuMo0.5O2.5、CuMoO4、CuWO4、CuSeO4、CuCr2O4等が挙げられる。
これらの中でも、CuCr2O4であることが好ましい。より優れたメッキ析出性が得られるためである。なお、これらのレーザーダイレクトストラクチャリング添加剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
かかる(C)レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤の配合量は、メッキ析出性と誘電特性の観点から、前記樹脂成分100質量部に対して1~50質量部であることが好ましく、3~30質量部であることがより好ましく、5~24質量部であることがさらに好ましい。
【0026】
((D)無機フィラー)
本実施形態の(D)成分として用いる無機フィラーは、(D-a)粒子状無機フィラーを含むものであり、該(D-a)粒子状無機フィラーとして、レーザー粒度分布計により測定される平均粒子径が4.0μm以下であるタルクを含む。
前記タルクのレーザー粒度分布計により測定される平均粒子径は、3.8μm以下であることが好ましく、3.5μm以下であることがより好ましい。なお、上記平均粒子径の下限は特に限定されないが、0.01μm以上とすることができ、0.05μm以上とすることができ、0.1μm以上とすることができる。
本実施形態のレーザーダイレクトストラクチャリング用樹脂組成物は、前記(D)成分としての無機フィラーを含有することにより、メッキ析出性が良好となる傾向にある。
【0027】
前記無機フィラーは、1種用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、本実施形態の目的を損なわない範囲で、所望に応じシラン系カップリング剤による表面処理や、集束剤による集束処理が施されたものも用いることができる。
【0028】
タルク以外に含んでもよい前記(D-a)粒子状無機フィラーとしては、粒子形状及び/又は平板形状であることができ、その具体例としては、ガラスフレーク、マイカ、カオリンなどが挙げられる。
【0029】
また、タルク以外に含んでもよい前記(D-a)粒子状無機フィラーの、レーザー粒度分布計により測定される平均粒子径は、10.0μm以下であることが好ましく、6.0μm以下であることがより好ましく、4.0μm以下であることがさらに好ましい。なお、上記平均粒子径の下限は特に限定されないが、0.01μm以上とすることができ、0.05μm以上とすることができ、0.1μm以上とすることができる。
【0030】
前記無機フィラーは、(D-b)繊維状無機フィラーをさらに含んでもよい。
前記(D-b)繊維状フィラーは、アスペクト比が2.5以上の無機フィラーであり、その具体例としては、ガラス繊維(ガラス長繊維、チョップドストランドガラス繊維)、アルミナ繊維、セラミック繊維、石膏繊維、ワラストナイト、炭酸カルシウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、珪酸カルシウムウィスカー等が挙げられる。なかでも平均繊維径が20μm以下のガラス繊維が好ましく、さらに平均繊維径が4~10μmであるガラス繊維がより好ましい。
【0031】
これらの(D-b)繊維状フィラーはシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、脂肪族金属塩等の表面処理剤で処理した物や、インターカレーション法によりアンモニウム塩等による有機化処理したものや、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂をバインダーとして処理した物でも構わない。
【0032】
前記(D)無機フィラーの配合量は、メッキ析出性と加工性の観点から、前記樹脂成分100質量部に対し50~250質量部であることが好ましく、60~200質量部であることがより好ましく、75~150質量部であることがさらに好ましい。
【0033】
また、前記(D-a)粒子状フィラーの配合量は、メッキ析出性と加工性の観点から、前記樹脂成分100質量部に対し50~200質量部であることが好ましく、60~175質量部であることがより好ましく、75~150質量部であることがさらに好ましい。
さらに、前記(D-b)繊維状フィラーの配合量は、耐熱性、成形加工性の観点から、前記樹脂成分100質量部に対し、0~100質量部であることが好ましく、10~50質量部であることがより好ましい。
【0034】
(その他の添加剤)
本実施形態では、上述した成分の他に、本実施形態の特徴及び効果を損なわない範囲で必要に応じて他の付加的成分、例えば、相溶化剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、縮合有機リン酸エステル系化合物、ポリリン酸アンモニウム系化合物、芳香族ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤など)、フッ素系ポリマー、可塑剤(低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモン等の難燃助剤、耐候(光)性改良剤、造核剤、スリップ剤、無機又は有機の充填材や強化材(ポリアクリロニトリル繊維、アラミド繊維等)、各種着色剤、離型剤等を添加してもかまわない。
【0035】
本実施形態の樹脂組成物の製造法としては、種々の溶融混機を用いて製造することができる。これらの方法を行う溶融混練機として、例えば、単軸押出機、二軸押出機を含む多軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等による加熱溶融混練機が挙げられるが、中でも二軸押出機を用いた溶融混練方法であることが好ましい。具体的な二軸押出機としては、WERNER&PFLEIDERER社製のZSKシリーズ、東芝機械(株)製のTEMシリーズ、日本製鋼所(株)製のTEXシリーズ等が挙げられる。
【0036】
押出機を用いた本実施形態の好ましい態様を以下に述べる。
押出機のL/D(バレル有効長/バレル内径)は20以上60以下の範囲であり、好ましくは30以上50以下の範囲である。押出機は原料の流れ方向に対し上流側に第1原料供給口、これより下流に第1真空ベント、その下流に第2~第4原料供給口を設け、さらにその下流に第2真空ベントを設けたものが好ましい。なかでも、第1真空ベントの上流にニーディングセクションを設け、第1真空ベントと第2原料供給口の間にニーディングセクションを設け、また第2~第4原料供給口と第2真空ベントの間にニーディングセクションを設けたものがより好ましい。第2~第4原料供給口への原材料供給方法は、特に限定されるものでは無いが、押出機第2~第4原料供給口の開放口よりの単なる添加供給よりも、押出機サイド開放口から強制サイドフィーダーを用いて供給する方が安定で好ましい。特に、本実施形態の樹脂組成物のように粉体、フィラー等が多く含まれる場合は、押出機サイドから供給する強制サイドフィーダーの方がより好ましく、強制サイドフィーダーを第2~第4原料供給口に設け、これら粉体、フィラー等を分割して供給するのがより好ましい。そして、押出機第2~第4原料供給口の上部開放口は同搬する空気を抜くため開放とすることもできる。この際の溶融混練温度、スクリュー回転数は特に限定されるものではないが、通常溶融混練温度300~350℃、スクリュー回転数100~1200rpmの中から任意に選ぶことができる。
【0037】
〔射出成形体〕
本実施の射出成形品は、上述した本実施形態のレーザーダイレクトストラクチャリング用樹脂組成物を含む。
得られた射出成形体は、メッキ析出性と低誘電率・低誘電正接とを同時に満足することができる。
【0038】
なお、本実施形態の射出成形品を製造する方法については、射出成形を用いる方法であれば特に限定はされない。
例えば、上述した押出機を用いる方法によって本実施形態の射出成形品を得ることができる。
【0039】
また、本実施の形態における好適な成形品としては、車載ハンドルスイッチ、各種センサ、アンテナ等の電子部材が挙げられ、その中でもアンテナ部材に好ましく使用される。
【実施例0040】
以下、本発明について、具体的な実施例及び比較例を挙げて説明する。
なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
実施例及び比較例に用いた原材料を以下に示す。
(A)成分のポリフェニレンスルフィド樹脂
(A-1):溶融粘度(フローテスターを用いて、300℃、荷重196N、L/D=10/1で6分間保持した後測定した値。)が50Pa・sのリニア型PPS
(B)成分のポリフェニレンエーテル樹脂
(B-1):2,6-キシレノールを酸化重合して得た、還元粘度0.40のPPE
(C)成分のレーザーダイレクトストラクチャリング添加剤
(C-1):銅クロム複合酸化物(商品名:LD14、シェファードカラージャパンインク製)
(D)成分の無機フィラー
(D-a-1):レーザー粒度測定によって得られた、平均粒径が3.5μmのタルク
(D-a-2):レーザー粒度測定によって得られた、平均粒径が5.5μmのタルク
(D-a-3):レーザー粒度測定によって得られた、平均粒径が16.3μmのタルク
(D-a-4):レーザー粒度測定によって得られた、平均粒径が0.4μmのカオリン
(D-b-1):ガラス繊維
【0042】
[実施例1~8、比較例1~8]
上述した(A)~(D)成分を含む、実施例及び比較例のレーザーダイレクトストラクチャリング樹脂組成物のサンプルを作製した。
樹脂組成物の製造装置としては、二軸押出機(型式:ZSK-25、WERNER&PFLEIDERER社製)を用いた。原料の流れ方向について上流側から順に、第1原料供給口、第1ニーディングセクション、第2ニーディングセクション、第3ニーディンセクション、第1真空ベントを設けた。上記の通り設定した二軸押出機に、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)を、表1に示した組成となるように供給し、押出機バレル温度300℃、スクリュー回転数300rpm、吐出量10kg/hの条件で溶融混練し、樹脂組成物のペレットを作製した。
【0043】
[評価]
上記の方法で得られた各サンプルのレーザーダイレクトストラクチャリング樹脂組成物について、以下の評価を行った。
(1)レーザーダイレクトストラクチャリングによるメッキ析出性測定
各サンプルの樹脂組成物のペレットを、シリンダー温度320℃に設定した射出成形機(商品名:SE180EV-HP、住友重機械工業社製)に供給し、金型温度130℃の条件で60×60×2mmの平板試験片を作製した。
得られた平板試験片の5×7mmの範囲に、SUNX(株)製LP-Z SERIESのレーザー照射装置を用い、照射速度が2000mm/sと4000mm/sにて、出力が2W ~7W、周波数40~100Hzの周波数のレーザーを照射した。
メッキ工程は、無電解のMacDermid社製のMIDCopper100XB Strikeを用い、57℃のメッキ層にて47分間の無電解メッキを実施した。
メッキ析出性の評価は、最もメッキ層の厚みが大きかったレーザー条件でのメッキ厚みがリファレンス樹脂であるPBT(ポリブチレンテレフタラート)のメッキ厚みに対してどの程度の比率であるかという指標であるPI値によってその試験片のメッキ析出性を評価した。なおLDSメッキの認証機関であるLPKFによってPI≧0.7が十分な析出性があると認められる評価基準となっている。評価結果を表1に示す。
A : 十分なメッキ析出性がみられる。(PI≧0.7)
B : 一部メッキ析出性がみられるが十分ではない。(0.7>PI≧0.6)
C : メッキ析出性がほとんど見られない(PI<0.6)。
【0044】
(2)誘電率・誘電正接測定
後述する実施例及び比較例で製造した樹脂組成物のペレットを、シリンダー温度320℃に設定した射出成形機(商品名:SE180EV-HP、住友重機械工業社製)に供給し、金型温度130℃の条件で150×150×2mmの平板試験片を作製した。
得られた試験片を、23℃×50%RHの雰囲気下に24時間以上静置した後、23℃×50%RHの雰囲気下において、ネットワークアナライザー(型式:N5224B、キーサイト・テクノロジー社製)を用いて下記条件で誘電率・誘電正接を測定した。
測定値は、3個の試験片の平均値から、誘電率・誘電正接を求め、これらの値が低いほど誘電特性が優れている判断し、以下の基準に従って評価した。なお評価基準のA評価は低誘電が求められる用途では電磁波の伝送損失の少ないために好ましい特性であるとみなされ、C評価であれば伝送損失が大きいため低誘電特性が求められる用途での使用が困難となる値である。評価結果を表1に示す。
共振器:スプリットポスト誘電体共振器(型式:N1501AE19、キーサイト・テクノロジー社製)
周波数:10GHz
(誘電率の評価)
A:3.8以下
B:3.8超4.1以下
C:4.1超
(誘電正接の評価)
A:0.0120以下
B:0.0120超0.0200以下
C:0.0200超
【0045】
【0046】
表1より、実施例1~3で得られた樹脂組成物は、比較例1で得られた樹脂組成物と比較して(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂とのアロイ化によってレーザーダイレクトストラクチャリングによるメッキ析出性が向上するとともに、誘電特性にも優れることがわかった。
また、実施例4~6で得られた樹脂組成物は、比較例1で得られた樹脂組成物と比較して誘電特性に悪影響を与える(C)レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤を減らして誘電特性を大きく改善しながらも、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂とのアロイ化によってメッキ析出性に関しては比較例1と同水準を維持することができることを示している。
また、実施例7及び8では(D)無機フィラーの添加量を減らすことによってレーザーダイレクトストラクチャリングによるメッキ析出性は実施例1に対して低下傾向にあるが、それでも比較例3と比較すると(D)無機フィラーが同じ含有量での比較ではポリフェニレンエーテル樹脂とのアロイ化の優位性が見られることを示している。
さらに、比較例4~6は、実施例1と比較して(D)無機フィラーとして粒子径の大きな汎用タルク、カオリンを用いた場合の樹脂組成物である。これらを用いた場合にはポリフェニレンエーテルとのアロイ化によっても、粒子径が小さいタルクを用いた場合と比較してメッキ析出性が低下するため、析出性基準を満たすことはできないことを示している。析出性基準を満たすためには、(C)レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤や(D)無機フィラーをさらに多量に添加する必要があり、加工性や誘電特性が大幅に悪化するため、実施例1が優位であることが示されている。
本発明によれば、レーザーダイレクトストラクチャリングによるメッキ析出性と低誘電率・低誘電正接とを同時に満足することができる樹脂組成物を提供することができる。
そのため、該樹脂組成物を、電子部材や、アンテナ部品等の射出成形品に有効に使用することが可能である。