(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029484
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】超音波プローブ
(51)【国際特許分類】
A61B 8/00 20060101AFI20240228BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
A61B8/00
H04R17/00 332A
H04R17/00 330J
H04R17/00 330Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131777
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩下 貴之
(72)【発明者】
【氏名】服部 宏
(72)【発明者】
【氏名】白石 智宏
(72)【発明者】
【氏名】桂 秀嗣
(72)【発明者】
【氏名】澤田 航
(72)【発明者】
【氏名】島田 幸世
【テーマコード(参考)】
4C601
5D019
【Fターム(参考)】
4C601EE19
4C601GB06
4C601GB30
4C601GB31
5D019AA27
5D019BB19
5D019GG06
5D019GG09
(57)【要約】
【課題】超音波プローブにおいて、熱的異方性を有するバッキングの温度を適正に測定することにある。
【解決手段】電子回路37の後側に、主バッキング22が設けられている。主バッキング22は、Y方向に直交する2つの外面(高熱伝導面)22a,22b、及び、X方向に直交する2つの外面(低熱伝導面)を有する。2つの外面22a,22bが熱吸収部材であるシェルヘッド14に接合されている。外面22b上に温度センサ200が設けられている。シェルヘッド14は、温度センサ200を収容する凹部を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動素子アレイと、
前記振動素子アレイの後側に設けられ、前記振動素子アレイに対して電気的に接続された電子回路と、
前記電子回路の後側に設けられ、前記振動素子アレイからの超音波を減衰させるバッキングと、
を含み、
前記振動素子アレイ、前記電子回路及び前記バッキングの配列方向をZ方向と定義し、前記Z方向に直交する方向をX方向と定義し、前記Z方向及び前記X方向に直交する方向をY方向と定義した場合において、
前記バッキングにおいて、Z方向熱伝導率及びY方向熱伝導率は、いずれも、X方向熱伝導率よりも大きく、
前記バッキングは、前記Y方向に交差する2つの外面を有し、
前記Y方向に交差する2つの外面の少なくとも一方に温度センサが配置されている、
ことを特徴とする超音波プローブ。
【請求項2】
請求項1記載の超音波プローブにおいて、
前記Y方向に直交する2つの外面に接合された2つの内面を有する吸熱部材を含み、
前記温度センサは、前記吸熱部材から隔てられている、
ことを特徴とする超音波プローブ。
【請求項3】
請求項2記載の超音波プローブにおいて、
前記吸熱部材は、前記温度センサを収容する収容空間を有し、
前記温度センサは、前記収容空間の内面から隔てられている、
ことを特徴とする超音波プローブ。
【請求項4】
請求項1記載の超音波プローブにおいて、
前記温度センサが配置された外面は、前記電子回路に近い上端部と、前記電子回路から遠い下端部と、を有し、
前記温度センサは前記下端部に配置された、
ことを特徴とする超音波プローブ。
【請求項5】
請求項1記載の超音波プローブにおいて、
前記バッキングは主バッキングであり、
前記電子回路と前記主バッキングとの間に副バッキングが設けられ、
前記副バッキングにおいて、Z方向熱伝導率及びX方向熱伝導率は、いずれも、Y方向熱伝導率よりも大きく、
前記副バッキング内で前記X方向に拡散した熱が前記主バッキングを介して吸熱部材へ伝わり、
前記温度センサは、前記主バッキングと前記吸熱部材の間の界面の温度を検出する、
ことを特徴とする超音波プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は超音波プローブに関し、特に、超音波プローブ内の熱伝導構造に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波検査においては超音波診断装置が用いられる。超音波診断装置は、超音波の送信及び受信を行う超音波プローブを有する。近年、二次元振動素子アレイを備えた超音波プローブが普及しつつある。そのような超音波プローブは、三次元プローブ又は2Dアレイプローブとも呼ばれる。2Dアレイプローブによれば、超音波ビームの二次元走査によりボリュームデータを取得でき、あるいは、二次元電子フォーカスが適用された超音波ビームの一次元走査によりフレームデータを取得できる。
【0003】
超音波プローブ内には、振動素子アレイを含む振動子アセンブリが設けられている。振動子アセンブリは、一般に、振動素子アレイの前側(生体側)に設けられた整合層、及び、振動素子アレイの後側(非生体側)に設けられたバッキング、を有する。バッキングは、振動素子アレイからその後側に放出された不要な超音波を減衰させるものである。
【0004】
上記の2Dアレイプローブにおいては、一般に、振動子アセンブリが二次元振動素子アレイ及び電子回路を有する。電子回路において、複数の振動素子に供給する複数の送信信号が生成され、また、複数の振動素子から出力された複数の受信信号が処理される。電子回路は、通常、1又は複数の集積回路(具体的には1又は複数のASIC)により構成される。
【0005】
2Dアレイプローブにおいては、二次元振動素子アレイ及び電子回路において多くの熱が生じる。特に、電子回路での発熱量は大きい。生体安全性の観点から、超音波プローブにおける送受波面の温度を規定温度以下に維持する必要がある。電子回路等で生じる熱を効果的に外界へ逃がすために、超音波プローブ内に熱伝導構造が設けられる。
【0006】
特許文献1に開示された超音波プローブは、垂直方向に積層された、振動素子アレイ、ASIC及びバッキングを有する。特許文献1には、バッキングが有する熱的異方性を利用した熱伝導構造は開示されていない。特許文献2に開示された超音波プローブは、リードアレイが埋設されたバッキングを有する。バッキングの後側に電子回路が設けられている。特許文献2には、電子回路の後側に設けられたバッキングは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5972296号明細書
【特許文献2】特開2017-70449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的は、超音波プローブにおいて、熱的異方性を有するバッキングの温度を適正に測定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る超音波プローブは、振動素子アレイと、前記振動素子アレイの後側に設けられ、前記振動素子アレイに対して電気的に接続された電子回路と、前記電子回路の後側に設けられ、前記振動素子アレイからの超音波を減衰させるバッキングと、を含み、前記振動素子アレイ、前記電子回路及び前記バッキングの配列方向をZ方向と定義し、前記Z方向に直交する方向をX方向と定義し、前記Z方向及び前記X方向に直交する方向をY方向と定義した場合において、前記バッキングにおいて、Z方向熱伝導率及びY方向熱伝導率は、いずれも、X方向熱伝導率よりも大きく、前記バッキングは、前記Y方向に交差する2つの外面を有し、前記Y方向に交差する2つの外面の少なくとも一方に温度センサが配置されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、超音波プローブにおいて、熱的異方性を有するバッキングの温度を適正に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る超音波プローブの構造を示す断面図である。
【
図4】実施形態に係る超音波プローブの先端部を示すYZ断面図である。
【
図5】実施形態に係る超音波プローブの先端部のXY断面を示す模式図である。
【
図7】実施形態に係る超音波プローブを示すXZ断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る超音波プローブは、振動素子アレイと、前記振動素子アレイの後側に設けられ、前記振動素子アレイに対して電気的に接続された電子回路と、前記電子回路の後側に設けられ、前記振動素子アレイからの超音波を減衰させるバッキングと、を含み、前記振動素子アレイ、前記電子回路及び前記バッキングの配列方向をZ方向と定義し、前記Z方向に直交する方向をX方向と定義し、前記Z方向及び前記X方向に直交する方向をY方向と定義した場合において、前記バッキングにおいて、Z方向熱伝導率及びY方向熱伝導率は、いずれも、X方向熱伝導率よりも大きく、前記バッキングは、前記Y方向に交差する2つの外面を有し、前記Y方向に交差する2つの外面の少なくとも一方に温度センサが配置されている、ことを特徴とする。
【0014】
上記構成において、バッキングにおけるY方向に交差する2つの外面は、いずれも、沿相対的に見て高熱伝導面であり、熱出力面である。一方、バッキングにおけるX方向に交差する2つの外面は、いずれも、相対的に見て低熱伝導面である。上記構成によれば、温度センサによって、熱出力面の温度を検出できる。
【0015】
実施形態に係る超音波プローブは、Y方向に直交する2つの外面に接合された2つの内面を有する吸熱部材を含む。温度センサは、吸熱部材から隔てられている。この構成によれば、吸熱部材から温度センサが隔てられているので、バッキングの温度(バッキングと吸熱部材の界面の温度)を正しく測定できる。すなわち、吸熱部材内での温度勾配の影響が温度センサに及び難くなる。
【0016】
実施形態において、吸熱部材は、温度センサを収容する収容空間を有する。温度センサは、収容空間の内面から隔てられている。収容空間の内面と温度センサの外面との間には空気層が存在する。空気層が熱絶縁層として機能する。バッキングに対する加工(特に凹部形成)が難しい場合、吸熱部材に凹部が形成される。その凹部の内部が上記の収容空間として機能する。バッキングにおける特定の外面の内で凹部内に露出した部分に、吸熱部材に対して非接触の状態で、温度センサが設けられる。
【0017】
実施形態において、温度センサが配置された外面は、電子回路に近い上端部と、電子回路から遠い下端部と、を有する。温度センサは下端部に配置されている。バッキングは、高いZ方向熱伝導率を有するので、外面の下端部に温度センサを配置しても、バッキングの温度を正しく測定できる。そのような配置によれば、温度センサから出る信号線の長さを短くできる。
【0018】
実施形態において、上記のバッキングは主バッキングである。電子回路と主バッキングとの間に副バッキングが設けられる。副バッキングにおいて、Z方向熱伝導率及びX方向熱伝導率は、いずれも、Y方向熱伝導率よりも大きい。副バッキング内でX方向に拡散した熱が主バッキングを介して吸熱部材へ伝わる。温度センサは、主バッキングと吸熱部材の間の界面の温度を検出する。主バッキングが高いY方向熱伝導率を有する場合、温度センサが設けられている特定の外面は、主バッキングと吸熱部材の間の界面とみなせる。
【0019】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る超音波プローブ10が示されている。超音波プローブ10は、図示されていない超音波診断装置本体に接続される。超音波プローブ10及び超音波診断装置本体により、超音波診断装置が構成される。超音波診断装置は、被検者(生体)の超音波検査において使用される医用装置である。超音波プローブ10は、図示されていないケーブル及びコネクタを有する。
【0020】
図1において、X方向は第1水平方向であり、Y方向は第2水平方向であり、Z方向は垂直方向である。3つの方向は直交関係を有する。超音波プローブ10の中心軸はZ方向に平行である。X方向は第1電子走査方向であり、Y方向は第2電子走査方向である。
【0021】
図1においては、超音波プローブ10のXZ断面が示されている。但し、超音波プローブ10における一部の構成の図示が省略されている。超音波プローブ10は、先端部10A、中間部10B及び後端部10Cにより構成される。先端部10Aは肥大した部分であり、中間部10Bはくびれを有する部分である。
【0022】
樹脂ケース11の内部にシェル12が設けられている。シェル12は、熱吸収部材である。シェル12は、例えば、良好な熱伝導性を有する金属、具体的にはアルミニウム等により構成される。シェル12は、シェルヘッド(先端部)14、中間部15、及び、後端部16により構成される。シェル12は中空部材である。シェル12は、四角柱状の空洞(内部空間)を取り囲む形態を有している。Z方向の各位置において、空洞のXY断面は矩形である。シェル12の外面と樹脂ケース11の内面は密着している。
【0023】
シェルヘッド14の内部には、振動子アセンブリ17が配置される。振動子アセンブリ17は、二次元振動素子アレイの他、不要な超音波を減衰させるバッキング部材(バッキングセット)20を有する。図示された構成例において、バッキング部材20は、副バッキング(第1バッキング)21及び主バッキング(第2バッキング)22により構成される。副バッキング21及び主バッキング22は、いずれも、熱的異方性を有するバッキングにより構成される。副バッキング21は、第1の熱的異方性を有する。主バッキング22は、第1の熱的異方性とは異なる第2の熱的異方性を有する。これについては後に詳述する。振動子アセンブリ17における積層方向はZ方向である。
【0024】
振動子アセンブリ17は、二次元振動素子アレイを含む積層体、及び、複数のICにより構成される電子回路を有する。振動子アセンブリ17の上面は保護層18により覆われている。保護層18の表面は、被検者の表面に当接される送受波面である。
【0025】
積層体と電子回路の間にFPC(フレキシブル回路又はフレキシブル回路基板)24が設けられている。FPC24は柔軟性を有するシート状の配線部材である。実施形態において、FPC24は、複数の配線層を有する多層FPCである。その厚みは、例えば、0.1~0.5mmの範囲内にある。そのY方向の幅は、例えば、10~20mmの範囲内にある。
【0026】
FPC24は、水平部分26、第1垂れ下がり部分28、及び、第2垂れ下がり部分30を有する。第1垂れ下がり部分28及び第2垂れ下がり部分30には、それぞれ、複数のコネクタ32及び補強板34が設けられている。第1垂れ下がり部分28の上端部は、第1垂直部分である。第2垂れ下がり部分30の上端部は、第2垂直部分である。
【0027】
図2には、振動子アセンブリ17の構成が示されている。振動子アセンブリ17は、既に説明したように、二次元振動素子アレイを含む積層体36を有する。積層体36の後側(非生体側)に電子回路37が設けられている。電子回路37は、例えば、X方向に並ぶ2つのIC38,40により構成される。各IC38,40は、二次元振動素子アレイに対して複数の送信信号を生成する機能、及び、二次元振動素子アレイからの複数の受信信号を処理する機能、を有する。後者の機能には、サブビームフォーミング機能が含まれる。電子回路37がX方向及びY方向に配列された、より多くのICにより構成されてもよい。
【0028】
二次元振動素子アレイは、第1電子走査方向(X方向)及び第2電子走査方向(Y方向)に並ぶ複数の振動素子(transducers)により構成される。例えば、二次元振動素子アレイは、数十個、数百個、数千個、数万個又はそれ以上の個数の振動素子により構成される。なお、二次元振動素子アレイに代えて一次元振動素子アレイが設けられてもよい。一次元振動素子アレイはX方向に並ぶ複数の振動素子により構成される。
【0029】
積層体36と電子回路37との間に、FPC24における水平部分26が挟み込まれる。水平部分26は、信号接続機能、配線パターン変換機能、等を発揮する。水平部分26の一方端部は、第1屈曲部分24aを介して、第1垂れ下がり部分28に連なっている。水平部分26の他方端部は、第2屈曲部分24bを介して、第2垂れ下がり部分30に連なっている。水平部分26の中心軸はX方向に平行である。換言すれば、第1垂れ下がり部分28、水平部分26及び第2垂れ下がり部分の並び方向は、X方向である。
【0030】
副バッキング21は、板状の形態を有する。副バッキング21は、二次元振動素子アレイから後方へ放射された不要な超音波を減衰させる作用を発揮するものである。副バッキング21は、第1の熱的異方性を有する。具体的には、副バッキング21において、Z方向熱伝導率及びX方向熱伝導率は、それぞれ、Y方向熱伝導率よりも大きい。
【0031】
副バッキング21は、Z方向への熱伝導作用を発揮する。また、副バッキング21は、符号42が示すように、X方向へ熱を拡散させる作用を発揮する。副バッキング21の上面が電子回路37へ接合されており、副バッキング21の下面が主バッキング22の上面に接合されている。
【0032】
主バッキング22は、直方体の形態を有する。主バッキング22は、副バッキングを介して進入してくる不要な超音波を減衰させる作用を発揮するものである。主バッキング22は、上記の第1の熱的異方性とは異なる、第2の熱的異方性を有する。具体的には、主バッキング22において、Z方向熱伝導率及びY方向熱伝導率は、それぞれ、X方向熱伝導率よりも大きい。
【0033】
主バッキング22は、Z方向への熱伝導機能を発揮すると共に、符号44が示すように、Y方向への熱伝導機能を発揮する。主バッキング22が有する、Y方向に直交する2つの外面(2つの側面)からシェルヘッドへ熱が伝わる。より詳しくは、電子回路37(及び二次元振動素子アレイ)で生じた熱が、副バッキング21及び主バッキング22を経由して、シェルに伝わり、その熱がシェルにより吸収される。なお、本願明細書において、直交は交差の一態様である。
【0034】
副バッキング21が有する第1の熱的異方性は、低熱伝導方向であるY方向によって特徴付けられる。主バッキング22が有する第2の熱的異方性は、低熱伝導方向であるX方向によって特徴付けられる。2つの低熱伝導方向は互いに直交している。
【0035】
副バッキング21の厚みは、主バッキングの厚みよりも小さい。副バッキング21の厚みは、例えば、1~5mmの範囲内にある。主バッキングの厚みは、例えば、10~15mmの範囲内にある。
【0036】
図示の構成例において、副バッキング21のY方向の幅と主バッキング22のY方向の幅は等しい。それらの幅は、例えば、10~20mmの範囲内にある。副バッキング21のX方向の幅は、主バッキング22のX方向の幅よりも大きい。具体的には、X方向の両側において、副バッキング21が、d1,d2に相当する長さ分だけ、はみ出している。各はみ出し部分の直下にスリット状の空間が生じている。副バッキング21のX方向の幅は、例えば、30~45mmの範囲内にある。
【0037】
副バッキング21及び主バッキング22は、それぞれ、複数のグラフェンを含むグラファイトブロックにより構成され得る。グラファイトブロックにおいて、各グラフェンは、面状(i方向及びj方向)に並ぶ多数の炭素原子からなるシート状の物質である。グラファイトブロックにおいて、複数のグラフェンの並び方向はk方向である。ここで、i方向、j方向及びk方向は直交関係を有する。複数の面状グラファイト集合体を含むカーボンブロック(例えば、WO2018/074493号を参照)をバッキングとして使用してもよい。
【0038】
上記のグラファイトブロックは、良好な超音波減衰特性及び良好な熱伝導特性を有する。例えば、上記のi方向及びj方向の熱伝導率は、700~1000(W/m/K)の範囲内にあり、上記のk方向の熱伝導率は、10~20(W/m/K)の範囲内にある。グラファイトブロック内に、音響インピーダンスや超音波減衰を調整するための材料を添加してもよい。i方向及びj方向の熱伝導率が1000(W/m/K)を超えるものや、i方向及びj方向の熱伝導率が700(W/m/K)を下回るものを利用してもよい。
【0039】
例えば、電子回路37において、IC38のみが多量の熱を放出した場合、実施形態によれば、その熱が副バッキング21を伝わる過程において、その熱がX方向に自然に拡散する。これにより、IC38の直下に熱が滞留してしまうことを回避できる。副バッキング21内で拡散した熱が主バッキング22内に進入する。進入した熱は主バッキング22内においてY方向に導かれる。導かれた熱が2つの熱出力面を通じてシェル側へ移動する。シェルに入った熱はシェルの全体に行きわたる。シェルの外面を通じて、熱が樹脂ケースに伝わり、樹脂ケースの外面全体から外界へ熱が放出される。シェルからプローブケーブルへも熱が伝わり、プローブケーブルを通じて熱が外界へ放出される。
【0040】
副バッキング21及び主バッキング22は、特定方向を除いて、極めて高い熱伝導作用を発揮する。よって、超音波プローブ内に設けられた上記の熱伝導メカニズムにより、電子回路37及び二次元振動素子アレイで生じた熱を効率的に外界へ逃がして、生体に接する送受波面の温度を効果的に下げることが可能である。
【0041】
図3には、積層体36が示されている。積層体36は、Z方向に積層された反射層52、圧電層50、第1整合層54、第2整合層56、グラウンド層60、及び、第3整合層62、により構成される。
【0042】
圧電層50は、二次元配列された複数の圧電素子により構成される。各圧電素子は、電気音響変換素子である。反射層52は、二次元配列された複数の反射素子により構成される。各反射素子は導電性を有する。反射層52は、ハードバッキング層とも言い得る。第1整合層54は、二次元配列された複数の第1整合素子により構成される。各第1整合素子は導電性を有する。第2整合層56は、二次元配列された複数の第2整合素子により構成される。各第2整合素子は導電性を有する。第2整合層56の上側にグラウンド層60が設けられている。グラウンド層60の上側に第3整合層62が設けられている。第3整合層62の上側に図示されていない保護層が設けられる。反射層52の下側にFPC24が設けられる。符号64は、1つの振動素子、又は、1つの振動素子を含む部分を示している。
【0043】
図4には、実施形態に係る超音波プローブの先端部のXZ断面が示されている。シェルヘッド14内に振動子アセンブリ17が配置されている。振動子アセンブリ17には、Z方向に並ぶ、積層体36、電子回路37、副バッキング21、及び、主バッキング22が含まれる。配線部材であるFPC24は、水平部分26、第1垂れ下がり部分28、及び、第2垂れ下がり部分30からなる。水平部分26が積層体36と電子回路37の間に挟み込まれている。図示の構成例では、電子回路37は、X方向に並ぶ2つのIC38,40からなる。
【0044】
副バッキング21は、Y方向(紙面貫通方向)に直交する2つの外面(2つの側面)、及び、X方向に直交する2つの外面(2つの側面)、を有する。それら4つの側面は、それぞれ、熱伝導作用を発揮しない露出面である。FPC24における第1屈曲部分24aが副バッキング21におけるX方向の一方端部を回り込んでいる。FPC24における第2屈曲部分24bが副バッキング21におけるX方向の他方端部を回り込んでいる。
【0045】
副バッキング21におけるグラフェン並び方向はY方向である。副バッキング21におけるX方向の一方端部及び他方端部は、X方向には変形し難い。よって、一方端部に対して第1屈曲部分24aから力(せん断力)が及んでも、一方端部は容易には変形しない。同様に、他方端部に対して第2屈曲部分24bから力(せん断力)が及んでも、他方端部は容易には変形しない。
【0046】
主バッキング22は、Y方向(紙面貫通方向)に直交する2つの外面(2つの側面)22a,22b、及び、X方向に直交する2つの外面(2つの側面)22c,22d、を有する。Y方向に直交する2つの外面22a,22bは、それぞれ、相対的に見て高熱伝導面であり、熱出力面として機能する。X方向に直交する2つの外面22c,22dは、それぞれ、相対的に見て低熱伝導面である。各外面22c,22dは、熱伝導作用を有していないものである。主バッキング22におけるグラフェン並び方向は、X方向である。
【0047】
シェルヘッド14は、振動子アセンブリ17を取り囲む形態を有し、振動子アセンブリ17を保持している。シェルヘッド14は、Y方向に直交する2つの内面と、X方向に直交する2つの内面と、を有する。Y方向に直交する2つの内面は、それぞれ、熱入力面として機能する。
【0048】
主バッキング22においてY方向に直交する2つの外面22a,22bが、シェルヘッド14においてY方向に直交する2つの内面に接合している。その接合により生じた2つの界面を通じて、主バッキング22からシェルヘッド14へ熱が移動する。主バッキング22においてX方向に直交する2つの外面22c,22dと、シェルヘッド14においてX方向に直交する2つの内面14c,14dとの間に、隙間G1,G2が生じている。各隙間G1,G2は、スリット状の形態を有する。隙間G1には、副バッキング21における第1はみ出し部分の直下に存在する空間が含まれる。隙間G2には、副バッキング21における第2はみ出し部分の直下に存在する空間が含まれる。
【0049】
第1垂れ下がり部分28は、上端部分としての第1垂直部分28Aを有する。第1垂直部分28Aが隙間G1を通過している。第1垂直部分28Aにおける内面(主バッキング側の面)には、第1電気部品群66が設けられている。第1電気部品群66には、Y方向及びZ方向に並ぶ複数の電気部品により構成される。具体的には、第1電気部品群66には、電子回路37の動作に当たって必要となる複数のコンデンサが含まれる。
【0050】
第1電気部品群66と主バッキング22の外面22cとの間に、電気絶縁部材としての電気絶縁板74が設けられている。これにより、主バッキング22と第1電気部品群66との間における電気的短絡が防止されている。電気絶縁板74は、第1電気部品群66に対して接着されており、あるいは、主バッキング22に対して接着されている。
【0051】
第1垂直部分28Aにおける外面(内面14cに対向する面)には、補強部材としての補強板68が接着されている。両面接着テープ等を用いて、補強板68が更に内面14cに固定されてもよい。補強板68は、例えば、絶縁部材により構成される。
【0052】
第2垂れ下がり部分30は、上端部分としての第2垂直部分30Aを有する。第2垂直部分30Aが隙間G2を通過している。第2垂直部分30Aにおける内面(主バッキング側の面)には第2電気部品群76が設けられている。第2電気部品群76には、Y方向及びZ方向に並ぶ複数の電気部品により構成される。具体的には、第2電気部品群76には、電子回路37の動作に当たって必要となる複数のコンデンサが含まれる。
【0053】
第2電気部品群76と主バッキング22の外面22dとの間に、電気絶縁部材としての電気絶縁板77が設けられている。これにより、主バッキング22と第2電気部品群76との間における電気的短絡が防止されている。電気絶縁板77は、第2電気部品群76に対して接着されており、あるいは、主バッキング22に対して接着されている。
【0054】
第2垂直部分30Aにおける外面(内面14dに対向する面)には補強部材としての補強板78が接着されている。両面接着テープ等を用いて、補強板78が更に内面14dに固定されてもよい。補強板78は、例えば、絶縁部材により構成される。
【0055】
主バッキング22の上面22eは、副バッキング21の下面に接合している。主バッキング22の下面22fは露出面である。後述するように、下面22fに吸音部材又は熱伝導部材を設けてもよい。
【0056】
熱出力面として機能する外面22b上に温度センサ200が設けられている。具体的には、外面22bにおけるX方向の中央かつ下部22b1上に、温度センサ200が設けられている。温度センサ200は、例えば、サーミスタにより構成される。温度センサ200から信号線202が引き出されている。信号線202は、FPC24に接続され、あるいは、図示されていないプローブケーブル内の信号線に接続される。外面22b上に複数の温度センサを設けてもよい。外面22a及び外面22bのそれぞれに温度センサを設けてもよい。
【0057】
温度センサ200の配置により、主バッキングの温度、特に主バッキングとシェルヘッドの界面の温度、をモニタリングすることが可能となる。これにより、超音波プローブの表面温度、特に送受波面の表面温度、を管理することが可能となる。
【0058】
実施形態においては、主バッキングにおけるX方向の両側に隙間G1,G2が確保されている。隙間G1,G2をFPC24が通過している。隙間G1,G2を利用して、電子回路37に近い位置に、第1電気部品群66及び第2電気部品群76が配置されている。
【0059】
図5は、超音波プローブの先端部のXY断面を示す模式図である。主バッキング22は、Y方向に直交する2つの外面22a、22bを有し、また、X方向に直交する2つの外面22c、22dを有する。一方、シェルヘッド14は、Y方向に直交する2つの内面14a,14bを有し、また、X方向に直交する2つの内面14c,14dを有する。
【0060】
外面22aと内面14aが接合しており、外面22bと内面14bが接合している。外面22cと内面14cとの間に隙間G1が生じている。外面22dと内面14dとの間に隙間G2が生じている。隙間G1には、第1垂直部分28A、第1電気部品群66、電気絶縁板74、及び、補強板68が配置されている。隙間G2には、第2垂直部分30A、第2電気部品群76、電気絶縁板77、及び、補強板78が配置されている。
【0061】
シェルヘッド14には、凹部204が形成されている。凹部204の開口は、内面14bの一部を構成している。凹部204の内部空間が温度センサ200を収容する収容室として機能する。凹部204の壁面は、温度センサ200から隔てられている。温度センサ200は、主バッキング22の外面22bのみに接している。
【0062】
一般に、熱的異方性を有するバッキングの加工は難しく、つまり、主バッキング22に凹部を形成することは難しい。そこで、実施形態においては、シェルヘッド14に凹部204を形成し、その内部に温度センサ200を配置している。シェルヘッド14が温度センサ200に直接的に接触していないので、温度センサ200により、熱出力面の温度を正しく測定できる。
【0063】
実施形態において、各外面22a,22b,22,22dは平面である。各外面22a,22b,22,22dの全部又は一部を曲面としてもよい。同様に、実施形態において、各内面14a,14b,14c,14dは平面である。各内面14a,14b,14c,14dの全部又は一部を曲面としてもよい。
【0064】
図6には、シェル12が示されている。シェル12は、既に説明したように、シェルヘッド14、中間部15及び後端部16により構成される。シェルヘッド14は、Y方向に直交する2つの内面(
図6には1つの内面14aのみが示されている)、及び、X方向に直交する2つの内面14c,14dを有する。主バッキングからの熱が、Y方向に直交する2つの内面を通じてシェルヘッド14に流入する(符号90を参照)。その熱がシェルヘッド14に拡散し(符号94を参照)、同時にシェル12それ全体に拡散する(符号92及び96を参照)。シェル12に拡散した熱が樹脂ケース通じて外界へ放出され、また、プローブケーブルを介して外界へ放出される。
【0065】
図7には、超音波プローブのYZ断面が示されている。電子回路37及び二次元振動素子アレイで生じた熱の移動方向が符号102で示されている。熱は副バッキング21を通じて主バッキング22へ移動する。主バッキング22に流入した熱のY方向への移動が符号104で示されている。その熱はシェル12に流入する。符号106はシェル12内での熱の移動方向(拡散方向)を示している。
【0066】
なお、
図7には、プローブケーブル、プローブケーブル内の信号線束、及び、信号線束に接続された複数のコネクタ、が示されている。信号線束に接続された複数のコネクタが、FPCに設けられた複数のコネクタに接続される。
【0067】
図8には、超音波プローブの先端部のYZ断面が示されている。既に説明したように、シェルヘッド14には、凹部204が形成されている。凹部204の内部空間は温度センサ200の収容室である。凹部204の内面は温度センサ200から隔てられている。
【0068】
温度センサ200の検出面200aが主バッキングにおける外面22bに接合されている。温度センサ200が接合されている位置は、具体的には、外面22bにおけるX方向の中央部であり、且つ、Z方向の下端部である。温度センサ200から信号線202が引き出されている。主バッキングの下面も高熱伝導面である。その下面に温度センサを配置してもよい。
【0069】
図9及び
図10を用いて変形例について説明する。
図9には、第1変形例が示されている。主バッキング22の下側に吸音板108が設けられている。具体的には、主バッキングの下面に吸音板108が接合されている。主バッキング22内で、超音波が完全に減衰しない場合、主バッキング22の下面で超音波が反射して、それにより生じた反射波が二次元振動素子アレイに戻る可能性がある。そのような反射波は超音波画像の画質を低下させる。主バッキング22の下面に吸音板108を設ければ、上記反射波の発生を効果的に抑制できる。
【0070】
図10には、第2変形例が示されている。主バッキング22の下側に熱伝導板110が設けられている。具体的には、主バッキング22の下面に熱伝導板110が接合されている。電子回路等で生じた熱が、矢印112で示すように、副バッキング21を介して主バッキング22へ移動する。主バッキング22に流入した熱が、矢印114で示すように、主バッキング22からシェル12へ直接的に移動し、また、矢印116で示すように、主バッキング22から熱伝導板110を介してシェル12へ移動する。主バッキング22の下面も高熱伝導面である。よって、第2変形例によれば、主バッキング22からシェル12への熱伝導の効率をより高められる。
【0071】
以上説明した実施形態によれば、バッキング部材内における極めて高い熱伝導率を有する経路を介して、電子回路等で生じた熱を熱吸収部材へ導ける。これにより、生体に接触する送受波面の温度を効果的に抑制できる。また、主バッキングの近傍に2つの隙間を確保できるので、それらの隙間を利用して配線部材を配置でき、また、それらの隙間を利用して電気部品群を配置できる。2つの隙間に接している2つの側面はいずれも低熱伝導面であるので、電気部品群を熱的に保護できる。更に、主バッキングの上側に副バッキングを設け、それらの向きを直交させたので、副バッキングにおいてX方向へ熱を拡散させた上で、主バッキングにおいてY方向へ熱を導ける。加えて、主バッキングにおける高熱伝導面に温度センサを配置し、しかもシェルから温度センサを隔てたので、主バッキングの温度を正しく検出でき、つまり、主バッキングの熱輸送作用を正しく測定することができる。
【0072】
なお、上記実施形態において、副バッキングを除外してもよい。その場合、主バッキングの上面に電子回路が設けられる。また、上記実施形態において、バッキング部材が3つ以上のバッキングにより構成されてもよい。積層体が円筒面状の形態を有する場合、バッキング部材の上面が円筒面状の形態とされる。熱的異方性を有するバッキングとして上述したもの以外のバッキングを用いてもよい。例えば、複数の熱伝導層と複数のスペーサとが交互に積層されているバッキングを用いてもよい。
【符号の説明】
【0073】
10 超音波プローブ、11 樹脂ケース、12 シェル、14 シェルヘッド、20 バッキング部材、21 副バッキング、22 主バッキング、24 FPC、36 積層体、37 電子回路、66 第1電気部品群、76 第2電気部品群、200 温度センサ。