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特開2024-29493連結車両の制御装置、連結車両の制御方法、および連結車両の制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029493
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】連結車両の制御装置、連結車両の制御方法、および連結車両の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B62D 13/06 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
B62D13/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131793
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】519373914
【氏名又は名称】株式会社J-QuAD DYNAMICS
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】所 裕高
(72)【発明者】
【氏名】新田 宣広
(72)【発明者】
【氏名】玉泉 晴天
(72)【発明者】
【氏名】玉木 宏昌
(57)【要約】
【課題】新たな入力手段を備えることなく、トレーラの操舵の意思表示をすることができるようにした連結車両の制御装置を提供する。
【解決手段】PU92は、後退アシストモードがオフ状態の場合、ステアリングホイール50に対する入力操作を、トラクタの操舵の指示と見なす。一方、PU92は、後退アシストモードがオン状態の場合、ステアリングホイール50に対する入力操作を、トレーラの操舵に対する指示と見なす。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラクタと、前記トラクタによって牽引されるトレーラと、を備える連結車両に適用され、
前記トラクタは、入力部および転舵輪を備え、
切替判定処理、トラクタ操舵処理、およびトレーラ操舵処理を実行するように構成され、
前記切替判定処理は、後退アシストモードのオン状態および前記後退アシストモードのオフ状態のいずれであるかを判定する処理であり、
前記トラクタ操舵処理は、前記後退アシストモードがオフ状態である場合に前記入力部に対する入力操作に応じて前記トラクタを操舵する処理であり、
前記トレーラ操舵処理は、前記後退アシストモードがオン状態である場合に、前記入力部および前記転舵輪間の動力伝達が遮断された状態において、前記入力部に対する入力操作に応じて前記トレーラを操舵すべく、前記転舵輪の転舵角を操作する処理である連結車両の制御装置。
【請求項2】
整合処理を実行するように構成され、
前記整合処理は、前記後退アシストモードのオフ状態から前記後退アシストモードのオン状態に切り替わる場合、前記入力部の状態を、前記連結車両が走行する場合の前記トレーラの状態に整合するように変位させる処理を含む請求項1記載の連結車両の制御装置。
【請求項3】
前記整合処理は、前記トレーラの状態が許容範囲から外れる場合、許容範囲の境界に対応する状態に整合する位置まで前記入力部を変位させる処理を含む請求項2記載の連結車両の制御装置。
【請求項4】
逸脱通知処理を実行するように構成され、
前記逸脱通知処理は、前記トレーラ操舵処理の実行中に、前記トレーラの状態が許容範囲から外れる場合、その旨を通知する処理を含む請求項1記載の連結車両の制御装置。
【請求項5】
反力付与処理を実行するように構成され、
前記反力付与処理は、前記後退アシストモードのオン状態において、前記入力部の操作状態に応じて前記入力部の操作に抗する反力を付与する処理であって且つ、前記トレーラの旋回半径が小さい操舵状態の場合の反力を前記トレーラの旋回半径が大きい前記操舵状態の場合の反力以上とする処理を含む請求項1記載の連結車両の制御装置。
【請求項6】
前記反力付与処理は、前記トレーラの状態が許容範囲の境界に近づくほど前記入力部の単位量の変位に対する前記反力の大きさの増加量を大きくする処理を含む請求項5記載の連結車両の制御装置。
【請求項7】
整合処理を実行するように構成され、
前記整合処理は、前記後退アシストモードのオン状態から前記後退アシストモードのオフ状態に切り替わる場合、前記入力部の状態を、前記転舵輪の転舵角に整合するように変位させる処理を含む請求項1記載の連結車両の制御装置。
【請求項8】
低下処理を実行するように構成され、
前記低下処理は、前記整合処理の実行中にドライバが前記入力部に触れる場合、前記入力部の変位速度を低下させる処理を含む請求項2または7記載の連結車両の制御装置。
【請求項9】
切替通知処理を実行するように構成され、
前記切替通知処理は、前記整合処理による前記入力部の変位に先立ってその旨を通知する処理を含む請求項2または7記載の連結車両の制御装置。
【請求項10】
前記トレーラ操舵処理は、目標仮想操舵角設定処理、および仮想操舵角制御処理を含み、
前記目標仮想操舵角設定処理は、前記入力部に対する入力操作に応じて目標仮想操舵角を設定する処理であり、
前記目標仮想操舵角は、仮想操舵角の目標値であり、
前記仮想操舵角は、前記トレーラと前記トラクタとの連結箇所の進行方向を示す変数であり、
前記仮想操舵角制御処理は、前記仮想操舵角を制御量として前記目標仮想操舵角を前記制御量の目標値とする制御の操作量によって前記転舵輪の転舵角を操作する処理である請求項1記載の連結車両の制御装置。
【請求項11】
前記入力部は、ステアリングホイールである請求項1記載の連結車両の制御装置。
【請求項12】
請求項1記載の連結車両の制御装置における前記各処理を実行する工程を有した連結車両の制御方法。
【請求項13】
請求項1記載の連結車両の制御装置における前記各処理をコンピュータに実行させる連結車両の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタにトレーラが連結された連結車両が存在する。そして、特許文献1には、連結車両の後退運転を支援する制御装置が提案されている。この制御装置は、運転者のノブの操作に応じてトレーラの走行を制御すべく転舵輪を操作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第10144452号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の場合、運転者によるトレーラの操舵の意思表示のために、トラクタの操舵の意思表示の入力手段とは別の手段を必要とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.トラクタと、前記トラクタによって牽引されるトレーラと、を備える連結車両に適用され、前記トラクタは、入力部および転舵輪を備え、切替判定処理、トラクタ操舵処理、およびトレーラ操舵処理を実行するように構成され、前記切替判定処理は、後退アシストモードのオン状態および前記後退アシストモードのオフ状態のいずれであるかを判定する処理であり、前記トラクタ操舵処理は、前記後退アシストモードがオフ状態である場合に前記入力部に対する入力操作に応じて前記トラクタを操舵する処理であり、前記トレーラ操舵処理は、前記後退アシストモードがオン状態である場合に、前記入力部および前記転舵輪間の動力伝達が遮断された状態において、前記入力部に対する入力操作に応じて前記トレーラを操舵すべく、前記転舵輪の転舵角を操作する処理である連結車両の制御装置である。
【0006】
上記構成では、後退アシストモードがオフ状態である場合には、入力部によってトラクタの転舵輪を転舵させることができる。一方、後退アシストモードがオン状態である場合には、入力部によって、トレーラの操舵を指示できる。したがって、新たな入力手段を備えることなく、トレーラの操舵の意思表示をすることができる。
【0007】
2.整合処理を実行するように構成され、前記整合処理は、前記後退アシストモードのオフ状態から前記後退アシストモードのオン状態に切り替わる場合、前記入力部の状態を、前記連結車両が走行する場合の前記トレーラの状態に整合するように変位させる処理を含む上記1記載の連結車両の制御装置である。
【0008】
上記構成では、後退アシストモードのオン状態に切り替わると、入力部の状態をトレーラの状態に整合させるように変位させる。これにより、後退アシストモードのオン状態への切り替えに伴って転舵輪を変位させることなく、入力部の状態をトレーラの状態に整合させることができる。
【0009】
3.前記整合処理は、前記トレーラの状態が許容範囲から外れる場合、許容範囲の境界に対応する状態に整合する位置まで前記入力部を変位させる処理を含む上記2記載の連結車両の制御装置である。
【0010】
上記構成では、トレーラの状態が許容範囲の境界に対応する状態に整合する位置まで入力部を変化させる。これにより、運転者にトレーラの操舵に関する状態を適切に把握させることができる。
【0011】
4.逸脱通知処理を実行するように構成され、前記逸脱通知処理は、前記トレーラ操舵処理の実行中に、前記トレーラの状態が許容範囲から外れる場合、その旨を通知する処理を含む上記1~3のいずれか1つに記載の連結車両の制御装置である。
【0012】
上記構成では、運転者がトレーラの操舵の意思を入力しているときに実際には実現できない操舵の指示を出す場合、その旨を運転者に通知できる。
5.反力付与処理を実行するように構成され、前記反力付与処理は、前記後退アシストモードのオン状態において、前記入力部の操作状態に応じて前記入力部の操作に抗する反力を付与する処理であって且つ、前記トレーラの旋回半径が小さい操舵状態の場合の反力を前記トレーラの旋回半径が大きい前記操舵状態の場合の反力以上とする処理を含む上記1記載の連結車両の制御装置である。
【0013】
上記構成では、トレーラの旋回半径が小さい操舵状態の場合の反力をトレーラの旋回半径が大きい操舵状態の場合の反力以上とする。これにより、運転者がトレーラを操舵する場合に、通常の車両の操舵に類似した操舵感を与えることができる。
【0014】
6.前記反力付与処理は、前記トレーラの状態が許容範囲の境界に近づくほど前記入力部の単位量の変位に対する前記反力の大きさの増加量を大きくする処理を含む上記5記載の連結車両の制御装置である。
【0015】
上記構成では、入力部の状態が、トレーラの許容範囲を超える状態に対応する状態となることを抑制できる。
7.整合処理を実行するように構成され、前記整合処理は、前記後退アシストモードのオン状態から前記後退アシストモードのオフ状態に切り替わる場合、前記入力部の状態を、前記転舵輪の転舵角に整合するように変位させる処理を含む上記1~6のいずれか1つに記載の連結車両の制御装置である。
【0016】
上記構成では、後退アシストモードがオフ状態に切り替わると、入力部の状態をトラクタの転舵輪の状態に整合させるように変位させる。これにより、オフ状態への切り替わりに伴って転舵輪を変位させることなく、入力部の状態を転舵輪の状態に整合させることができる。
【0017】
8.低下処理を実行するように構成され、前記低下処理は、前記整合処理の実行中にドライバが前記入力部に触れる場合、前記入力部の変位速度を低下させる処理を含む上記2,3または7に記載の連結車両の制御装置である。
【0018】
上記構成では、後退アシストモードのオン状態とオフ状態との2つの状態のいずれか一方から他方への切り替えに伴う整合処理の実行中に運転者が入力部に触れる場合、入力部の変位速度を低下させる。これにより、運転者の意思に大きく反する挙動をしている印象を与えることを抑制できる。
【0019】
9.切替通知処理を実行するように構成され、前記切替通知処理は、前記整合処理による前記入力部の変位に先立ってその旨を通知する処理を含む上記2,3,7,8のいずれか1つに記載の連結車両の制御装置である。
【0020】
上記構成では、切替通知処理を実行するため、入力部の入力操作によって何を指示できるのかが切り替わったことを運転者が把握し易い。
10.前記トレーラ操舵処理は、目標仮想操舵角設定処理、および仮想操舵角制御処理を含み、前記目標仮想操舵角設定処理は、前記入力部に対する入力操作に応じて目標仮想操舵角を設定する処理であり、前記目標仮想操舵角は、仮想操舵角の目標値であり、前記仮想操舵角は、前記トレーラと前記トラクタとの連結箇所の進行方向を示す変数であり、前記仮想操舵角制御処理は、前記仮想操舵角を制御量として前記目標仮想操舵角を前記制御量の目標値とする制御の操作量によって前記転舵輪の転舵角を操作する処理である上記1~9のいずれか1つに記載の連結車両の制御装置である。
【0021】
上記構成では、トレーラとトラクタとの連結箇所の進行方向に関する指示を入力部の入力操作によって与えることができる。
11.前記入力部は、ステアリングホイールである上記1~10のいずれか1つに記載の連結車両の制御装置である。
【0022】
上記構成では、運転者が、車両の運転にとって最も一般的な手段を用いてトレーラを操舵することができる。
12.上記1~11のいずれか1つに記載の連結車両の制御装置における前記各処理を実行する工程を有した連結車両の制御方法である。
【0023】
13.上記1~11のいずれか1つに記載の連結車両の制御装置における前記各処理をコンピュータに実行させる連結車両の制御プログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一実施形態にかかる連結車両の構成を示す斜視図である。
図2】同実施形態にかかる制御システムの構成を示すブロック図である。
図3】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図4】同実施形態にかかる連結車両のモデルを示す図である。
図5】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図6】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図7】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図8】(a)~(c)は、同実施形態にかかる作用を示す図である。
図9】(a)~(d)は、同実施形態にかかる作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。
「連結車両の構成」
図1に示すように、連結車両10は、トラクタ20およびトレーラ30を備える。トラクタ20は、前輪22および後輪24を備える。前輪22は右前輪および左前輪の2輪を含み、後輪24は右後輪および左後輪の2輪を含む。また、図1には、トレーラ30として、箱型のトレーラを例示する。トレーラ30は、車輪32を有している。車輪32は、右車輪および左車輪の2輪を含む。
【0026】
トレーラ30は、ボールジョイント40を介してトラクタ20の後部に連結されている。ボールジョイント40は、トレーラ30を、トラクタ20に対して軸42を中心として回転可能に連結する部材である。軸42は、トラクタ20の高さ方向に沿って延びる。
【0027】
図2に、トラクタ20が備える部材の一部を示す。
図2に示すように、トラクタ20が備える操舵系におけるステアリングホイール50には、反力モータ52による反力が付与される。反力は、運転者がステアリングホイール50に加えるトルクとは逆符号のトルクである。反力モータ52の端子には、インバータ54の出力電圧が印加される。
【0028】
一方、操舵系が備える転舵輪としての前輪22には、ラックアンドピニオン機構60を介して転舵モータ62の動力が付与される。転舵モータ62の端子には、インバータ64の出力電圧が印加される。
【0029】
転舵制御装置70は、制御対象としてのステアリングホイール50の制御量を制御すべく、反力モータ52のトルクを制御する。ここで、制御量は、反力である。また、転舵制御装置70は、制御対象としての前輪22の制御量を制御すべく、転舵モータ62のトルクを制御する。ここで、制御量は、転舵角である。転舵角は、前輪22のタイヤの切れ角である。
【0030】
転舵制御装置70は、制御量の制御のために、トルクセンサ72によって検出されるステアリングホイール50に入力されるトルクである操舵トルクThを参照する。また、転舵制御装置70は、制御量の制御のために、舵角センサ74によって検出される操舵角θhを参照する。また、転舵制御装置70は、制御量の制御のために、回転角センサ76によって検出される転舵モータ62の回転角θmを参照する。
【0031】
トラクタ20は、駆動系80を備えている。駆動系80は、車両の推力生成装置としての、内燃機関および回転電機の2つのうちの少なくとも1つを含む。トラクタ20は、制動系82を備えている。制動系82は、摩擦力によって車輪の回転を減速させる装置と、車輪の動力を電気エネルギに変換することによって車輪の回転を減速させる装置との2つのうちの少なくとも1つを含む。なお、電気エネルギに変換することによって車輪の回転を減速させる装置は、駆動系の回転電機と共有されていてもよい。
【0032】
トラクタ20は、ADASECU90を備えている。ADASECU90は、制御対象としての連結車両10の制御量を制御すべく、操舵系、駆動系80、および制動系82を操作する。制御量は、車速、走行方向、およびヒッチ角等である。ヒッチ角は、トラクタ20の前後方向とトレーラ30の前後方向とのなす角度である。なお、駆動系80に、内燃機関および回転電機を制御対象とする駆動制御装置を含めてもよい。その場合、「ADASECU90が駆動系80を操作する」とは、ADASECU90が駆動制御装置に指令信号を出力することを意味する。また、制動系82に、車輪の回転を減速させる装置を制御対象とする制動制御装置を含めてもよい。その場合、「ADASECU90が制動系82を操作する」とは、ADASECU90が制動制御装置に指令信号を出力することを意味する。また、「ADASECU90が転舵制御装置70を操作する」とは、ADASECU90が転舵制御装置70に指令信号を出力することを意味する。
【0033】
ADASECU90は、制御量を制御すべく、ヒッチ角センサ100によって検出されるヒッチ角βを参照する。ヒッチ角βは、トラクタ20の後方から前方に進む方向とトレーラ30の後方から前方に進む方向とのなす角度に応じて正、負の双方の符号を取り得る。たとえば、トラクタ20の後方から前方に進む方向に対してトレーラ30の後方から前方に進む方向が反時計回りに180°未満ずれる場合のヒッチ角βの符号を、正としてもよい。また、ADASECU90は、車輪速センサ102によって検出される車輪速度ωw1~ωw4を参照する。車輪速度ωw1,ωw2は、それぞれ、右側の前輪22の回転速度、および左側の前輪22の回転速度である。車輪速度ωw3,ωw4は、それぞれ、右側の後輪24の回転速度、および左側の後輪24の回転速度である。
【0034】
ADASECU90は、制御量の制御を、ユーザインターフェース104の操作状態に応じて設定する。ユーザインターフェース104は、自動運転および手動運転の2つのうちのいずれか1つを選択する等、ユーザの意思をADASECU90に伝達するためのものである。
【0035】
ADASECU90は、PU92および記憶装置94を備えている。PU92は、CPU、GPU、およびTPU等の少なくとも1つを備えるソフトウェア処理装置である。記憶装置94には、後退アシストプログラム94aが記憶されている。後退アシストプログラム94aは、PU92に、後退アシスト処理を実行させる指令を規定するプログラムである。後退アシスト処理は、連結車両10の後退走行において転舵輪の転舵処理を自動で行う処理である。後退アシストプログラム94aは、運転者による後退運転の負荷を軽減するためのプログラムである。
【0036】
すなわち、連結車両10の後退走行においては、トラクタ20の転舵角が同一であっても、トレーラ30の挙動は、ヒッチ角βに応じて変化する。そのため、後退制御には、高い運転技能が要求される。後退アシストプログラム94aによる後退アシスト処理は、トラクタ20の転舵角を制御することによって運転者をアシストする処理である。ただし、後退アシスト処理は、トレーラ30の操舵に対する指示を運転者に委ねる。ここで、トレーラ30の操舵の指示は、ステアリングホイール50によって行われる。すなわち、後退アシスト処理を実行する後退アシストモードのオン状態においては、ステアリングホイール50は、トレーラ30の操舵に関する指示を入力する手段となっている。一方、後退アシストモードがオフ状態である場合、ステアリングホイール50は、トラクタ20の操舵に関する指示を入力する手段となっている。
【0037】
「後退アシストモードへの移行」
図3に後退アシストモードのオフ状態からオン状態への切り替わりに関する処理の手順を示す。図3に示す処理は、PU92が後退アシストプログラム94aをたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって、各処理のステップ番号を表現する。
【0038】
図3に示す一連の処理において、PU92は、まずトラクタ20の転舵角α1を取得する(S10)。転舵角α1は、転舵制御装置70によって、回転角θmを入力として都度算出される。PU92は、転舵制御装置70が都度算出する転舵角α1を取得する。また、PU92は、ヒッチ角βを取得する(S12)。そして、PU92は、転舵角α1およびヒッチ角βに基づき、仮想操舵角α2を算出する(S14)。本実施形態では、一例として、トレーラ30の前後方向に対するボールジョイント40の進行方向のなす角度によって、仮想操舵角α2を定義する。
【0039】
ここで、図4に基づき、仮想操舵角α2を転舵角α1およびヒッチ角βから算出する理由を説明する。
図4は、本実施形態で用いる連結車両10のモデルを示す。図4に示すモデルは、トラクタ20の一対の前輪22を前輪C0として且つ、トラクタ20の一対の後輪24を後輪B1とする。すなわち、トラクタ20について2輪モデルを採用している。また、トレーラ30の一対の車輪32を車輪B2とする。前輪C0およびヒッチ点C1によって定まる線と、ヒッチ点C1および車輪B2によって定まる線とのなす角が、ヒッチ角βである。ヒッチ点C1は、図1の軸42部分に相当する。また、前輪C0の速度である前輪速度VC0は、転舵角α1の方向に進むベクトルとしている。転舵角α1は、前輪C0の進む方向と、前輪C0およびヒッチ点C1によって定まる線とのなす角度として定量化されている。車速Vの方向は、前輪C0およびヒッチ点C1によって定まる線に平行である。また、車速Vの方向と、図4のx方向とのなす角は、角度θ1である。また、距離l1は、前輪C0および後輪B1間の長さである。また、距離h1は、後輪B1およびヒッチ点C1間の長さである。
【0040】
上述した定義によれば、車輪B2からヒッチ点C1に進む方向に対するヒッチ点C1の速度VC1の方向が仮想操舵角α2となる。ヒッチ点C1から前輪C0に進む方向に対するヒッチ点C1の速度VC1の方向のなす角度γ1を用いると、仮想操舵角α2は、「-(β-γ1)」となる。
【0041】
図4に示すモデルにおいて、前輪C0の座標(xc0,yc0)、後輪B1の座標(xb1,yb1)およびヒッチ点C1の座標(xc1,yc1)を用いると、以下の式(c1)~(c3)が成立する。
【0042】
VC0・cosα1=VB1 …(c1)
xc0=xb1+l1・cosθ1 …(c2)
xc1=xb1-h1・cosθ1 …(c3)
上記の式(c2),(c3)の両辺を微分した式および式(c1)を用いると、以下の式(c4)が得られる。
【0043】
h1・tanα1+l1・tanγ1=0 …(c4)
上記の式(c4)によれば、角度γ1が転舵角α1によって表現できる。したがって、仮想操舵角α2は、以下の式(c5)にて表現される。
【0044】
α2=-β-arctan{(h1/l1)・tan(α1)} …(c5)
すなわち、仮想操舵角α2は、ヒッチ角βおよび転舵角α1から求めることができる。
なお、S14の処理において、上記の式(c5)を用いて仮想操舵角α2を算出することは必須ではない。たとえば、記憶装置94にマップデータを記憶しておくことにより、PU92は、S14の処理において、仮想操舵角α2をマップ演算してもよい。マップデータは、ヒッチ角βおよび転舵角α1を入力変数として且つ、仮想操舵角α2を出力変数とする。
【0045】
ここで、マップデータとは、入力変数の離散的な値と、入力変数の値のそれぞれに対応する出力変数の値と、の組データである。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれかに一致する場合、対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理とすればよい。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値の補間によって得られる値を演算結果とする処理とすればよい。また、これに代えて、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の入力変数の値のうちの最も近い値に対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理としてもよい。
【0046】
次にPU92は、最大仮想操舵角α2thを算出する(S16)。最大仮想操舵角α2thは、ジャックナイフ現象が生じるときの仮想操舵角α2の大きさの下限値である。
すなわち、図4に示したモデルによれば、ヒッチ角βの1階の時間微分値は、以下の式にて表現される。
【0047】
dβ/dt
=-(V/l2)・sinβ
-{V/(l1・l2)}・(l2+h1・cosβ)・tanα …(c6)
ここで、ジャックナイフ現象が生じる場合、転舵角α1を最大値α1thとしたところで、ヒッチ角βを変化させることができない。したがって、上記の式(c6)におけるヒッチ角βの時間微分値をゼロとして且つ、転舵角α1に最大値α1thを代入したときのヒッチ角βを、ジャックナイフヒッチ角βthと見なす。ただし、転舵角α1が正および負の双方の値を取り得ることから、上記の式(c6)には、「α1th」と「(-1)・α1th」との双方を代入しうる。そのため、ジャックナイフヒッチ角βthは、実際には2つの値を取る。それら2個のジャックナイフヒッチ角βthは、記憶装置94に予め記憶されている。そしてPU92は、2個の値のうちのヒッチ角βとの差の絶対値が小さくなる方の値をジャックナイフヒッチ角βthに代入する。そして、PU92は、上記の式(c5)において、ヒッチ角βにジャックナイフヒッチ角βthを代入して且つ、転舵角α1に「α1th」または「(-1)・α1th」を代入する。ここで、転舵角α1の符号は実際の転舵角α1の符号に一致させる。こうして算出される仮想操舵角α2が、最大仮想操舵角α2thである。
【0048】
次にPU92は、過渡フラグF1が「1」であるか否かを判定する(S18)。過渡フラグF1は、「1」である場合に、後退アシストモードのオフ状態からオン状態に切り替わった後の過渡的な処理をしていることを示す。過渡フラグF1は、「0」である場合に、上記過渡的な処理をしていないことを示す。PU92は、過渡フラグF1が「0」であると判定する場合(S18:NO)、後退アシストモードがオフ状態からオン状態に切り替わったか否かを判定する(S20)。PU92は、切り替わったと判定する場合(S20:YES)、ステアリングホイール50を振動させる(S22)。この処理は、ステアリングホイール50が、トラクタ20の操舵の指示手段からトレーラ30の操舵の指示手段に切り替わったことを運転者に通知するための処理である。なお、PU92は、S22の処理において、過渡フラグF1に「1」を代入する。
【0049】
次にPU92は、仮想操舵角α2の大きさが最大仮想操舵角α2thの大きさ以下であるか否かを判定する(S24)。PU92は、最大仮想操舵角α2thの大きさ以下であると判定する場合(S24:YES)、操舵角θhを仮想操舵角α2に応じた値に一致するように制御する(S26)。一方、PU92は、仮想操舵角α2の大きさが最大仮想操舵角α2thの大きさよりも大きいと判定する場合(S24:NO)、操舵角θhを最大仮想操舵角α2thに応じた値に一致するように制御する(S28)。なお、この際、PU92は、操舵角θhが最大仮想操舵角α2thに整合した時点で、ステアリングホイール50を振動させる。
【0050】
一方、PU92は、過渡フラグF1が「1」であると判定する場合(S18:YES)、操舵角θhが仮想操舵角α2(最大仮想操舵角α2th)と一致したか否かを判定する(S30)。詳しくは、PU92は、S26の処理を実行している場合には、操舵角θhが仮想操舵角α2と一致したか否かを判定する。一方、PU92は、S28の処理を実行している場合には、操舵角θhが最大仮想操舵角α2thと一致したか否かを判定する。S30の処理は、S26,S28の処理が完了したか否かを判定する処理である。
【0051】
PU92は、一致しないと判定する場合(S30:NO)、操舵トルクThの大きさが閾値Tth以上であるか否かを判定する(S32)。この処理は、運転者がステアリングホイール50に触れたか否かを判定する処理である。すなわち後退アシストモードのオフ状態からオン状態への切り替えは、運転者がユーザインターフェース104を操作することによって行われる。したがって、後退アシストモードのオフ状態からオン状態への切り替え直後には、運転者はステアリングホイール50に触れていない。S26,S28の処理は、運転者がステアリングホイール50に触れる前に実行されることが意図されているものの、実際にはS26,S28の処理の実行中に運転者がステアリングホイール50に触れる可能性がある。
【0052】
PU92は、閾値Tth以上であると判定する場合(S32:YES)、操舵角速度ωhの大きさを低下させる(S34)。
一方、PU92は、一致すると判定する場合(S30:YES)、過渡フラグF1に「0」を代入する(S36:YES)。
【0053】
なお、PU92は、S26,S28,S34,S36の処理を完了する場合と、S20,S32の処理において否定判定する場合と、には、図3に示す一連の処理を一旦終了する。
【0054】
「後退アシストモード中の処理」
図5に、後退アシストモード中の処理について説明する。図5に示す処理は、後退アシストプログラム94aをPU92がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。
【0055】
図5に示す一連の処理において、PU92は、まず、以下の条件(A)および条件(B)の論理積が真であるか否かを判定する(S40)。
条件(A):後退アシストモードのオン状態である旨の条件である。
【0056】
条件(B):過渡フラグF1が「0」である旨の条件である。
PU92は、論理積が真であると判定する場合(S40:YES)、S10~S16の処理と同様の処理を実行する(S42~S48)。
【0057】
次にPU92は、仮想操舵角α2を入力としてステアリングホイール50に加える反力を算出する(S50)。PU92は、仮想操舵角α2の大きさが大きい場合の反力の大きさを仮想操舵角α2の大きさが小さい場合の反力の大きさ以上とする。特に、PU92は、仮想操舵角α2の大きさの単位量の増加に対する反力の大きさの増加量を、仮想操舵角α2の大きさが最大仮想操舵角α2th以上の場合に最大仮想操舵角α2th未満の場合よりも大きくする。これは、操舵角θhの大きさが最大仮想操舵角α2thの大きさを超えてさらに変位することを抑制するための設定である。
【0058】
S50の処理は、たとえば、記憶装置94にマップデータが記憶された状態でPU92によって反力をマップ演算する処理としてもよい。ここで、マップデータは、仮想操舵角α2を入力変数として且つ反力を出力変数とするデータである。
【0059】
次にPU92は、仮想操舵角α2の大きさが最大仮想操舵角α2thの大きさよりも大きいか否かを判定する(S52)。PU92は、最大仮想操舵角α2thの大きさよりも大きいと判定する場合(S52:YES)、上記反力に、ステアリングホイール50を振動させる成分を重畳する(S54)。この処理は、トレーラ30の旋回半径をそれ以上小さくすることができないことを運転者に通知するための処理である。
【0060】
そして、PU52は、S50の処理によって算出された反力に応じて反力モータ52を操作する(S56)。この際、PU52は、S54の処理がなされている場合には、反力モータ52のトルクに振動成分を重畳する。
【0061】
なお、PU92は、S56の処理を完了する場合と、S40の処理において否定判定する場合と、には、図5に示す一連の処理を一旦終了する。
「後退アシストモードのオフ状態への移行」
図6に、後退アシストモードのオン状態からオフ状態へと切り替わりに関する処理の手順を示す。図6に示す処理は、PU92が後退アシストプログラム94aをたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。
【0062】
図6に示す一連の処理において、PU92は、まず、S10~S16の処理と同様の処理を実行する(S60~S66)。次にPU92は、過渡フラグF2が「1」であるか否かを判定する(S68)。過渡フラグF2は、「1」である場合に、後退アシストモードのオン状態からオフ状態に切り替わった後の過渡的な処理をしていることを示す。過渡フラグF2は、「0」である場合に、上記過渡的な処理をしていないことを示す。PU92は、過渡フラグF2が「0」であると判定する場合(S68:NO)、後退アシストモードがオン状態からオフ状態に切り替わったか否かを判定する(S70)。
【0063】
PU92は、切り替わったと判定する場合(S70:YES)、ステアリングホイール50を振動させる(S72)。この処理は、ステアリングホイール50が、トレーラ30の操舵の指示手段からトラクタ20の操舵の指示手段に切り替わったことを運転者に通知するための処理である。なお、PU92は、S72の処理において、過渡フラグF2に「1」を代入する。次にPU92は、反力モータ52を操作することによって、操舵角θhを転舵角α1に応じた値に一致させるようにステアリングホイール50を変位させる(S74)。
【0064】
一方、過渡フラグF2が「1」であると判定する場合(S68:YES)、操舵角θhが転舵角α1に一致したか否かを判定する(S76)。PU92は、一致しないと判定する場合(S76:NO)、操舵トルクThの大きさが閾値Tth以上であるか否かを判定する(S78)。この処理は、運転者がステアリングホイール50に触れたか否かを判定する処理である。すなわち後退アシストモードのオン状態からオフ状態への切り替えは、運転者がユーザインターフェース104を操作することによって行われる。したがって、後退アシストモードのオフ状態からオン状態への切り替え直後には、運転者はステアリングホイール50に触れていない。S74の処理は、運転者がステアリングホイール50に触れる前に実行されることが意図されているものの、実際にはS74の処理の実行中に運転者がステアリングホイール50に触れる可能性がある。
【0065】
PU92は、閾値Tth以上であると判定する場合(S78:YES)、操舵角速度ωhの大きさを低下させる(S80)。
一方、PU92は、一致すると判定する場合(S76:YES)、過渡フラグF2に「0」を代入する(S82:YES)。
【0066】
なお、PU92は、S74,S80,S82の処理を完了する場合と、S70,S78の処理において否定判定する場合と、には、図6に示す一連の処理を一旦終了する。
「操舵処理」
図7に、操舵処理について説明する。図7に示す一連の処理は、後退アシストプログラム94aをPU92がたとえば所定周期で繰り返し実行することによって実現される。
【0067】
図7に示す一連の処理において、PU92は、まず、上述の条件(A)および条件(B)の論理積が真であるか否かを判定する(S90)。
PU92は、論理積が真であると判定する場合(S90:YES)、操舵角θhを取得する(S92)。そして、PU92は、操舵角θhに所定の変換を施した値を目標仮想操舵角α2*に代入する(S94)。次にPU92は、仮想操舵角α2を制御量として且つ目標仮想操舵角α2*を制御量の目標値とするフィードバック制御の操作量である目標転舵角α1*を算出する(S96)。そしてPU92は、転舵角α1が目標転舵角α1*となるように転舵モータ62を操作する(S98)。
【0068】
一方、PU92は、上記論理積が偽であると判定する場合(S90:NO)、以下の条件(C)および条件(D)の論理積が真であるか否かを判定する(S100)。
条件(C):後退アシストモードがオフ状態である旨の条件である。
【0069】
条件(D):過渡フラグF2が「0」である旨の条件である。
PU92は、条件(C)および条件(D)の論理積が真であると判定する場合(S100:YES)、操舵角θhを取得する(S102)。次にPU92は、操舵角θhに応じて目標転舵角α1*を設定する(S104)。そして、PU92は、転舵角α1を制御量として目標転舵角α1*を制御量の目標値とする制御を実行する(S106)。
【0070】
なお、PU92は、S98,S106の処理を完了する場合と、S100の処理において否定判定する場合と、には、図7に示す一連の処理を一旦終了する。
「本実施形態の作用および効果」
図8に、後退アシストモードの利用例を示す。
【0071】
図8(a)は、連結車両10を後退開始位置まで前進させる例を示す。この期間においては、ステアリングホイール50の操作によってトラクタ20が操舵される。
図8(b)は、後退アシストモードを利用して連結車両10を後退させる例を示す。この期間においては、ステアリングホイール50の操作によって目標仮想操舵角α2*が定められる。
【0072】
図8(c)は、トラクタ20をトレーラ30から切り離して、トラクタ20単体で走行する例を示す。
すなわち、PU92は、後退アシストモードがオフ状態の場合、操舵角θhを、トラクタ20の操舵の指示を示す変数とする。そして、PU92は、操舵角θhに応じて転舵角α1を制御する。一方、PU92は、後退アシストモードがオン状態の場合、操舵角θhを、トレーラ30の操舵の指示を示す変数とする。そして、PU92は、操舵角θhに応じて仮想操舵角α2を制御する。
【0073】
このように、トラクタ20の操舵の指示入力手段と、トレーラ30の操舵の指示入力手段とを、同一のハードウェアであるステアリングホイール50とした。これにより、トレーラ30の操舵の指示のための専用の入力手段を追加する必要が生じない。
【0074】
図9に、後退アシストモードがオフ状態からオン状態に切り替わる例を示す。
図9(a)は、後退アシストモードのオフ状態において、ステアリングホイール50が中立位置にある状態を示す。そのため、トラクタ20の転舵輪としての前輪22は直進状態となる。また、後退アシストモードのオフ状態において、トレーラ30が右向きである例を示す。そのため、仮想操舵角α2は、直進状態に対応しない。この状態で、後退アシストモードがオン状態に切り替わると、PU92は、ステアリングホイール50を右方向に切る。これにより、操舵角θhが、ヒッチ点C1の進行方向である仮想操舵角α2に整合するように変位する。
【0075】
図9(b)は、後退アシストモードのオフ状態において、ステアリングホイール50が中立位置にある状態を示す。この例では、ヒッチ点C1の進行方向も直進方向である。したがって、後退アシストモードがオン状態に切り替わっても、PU92は、ステアリングホイール50を変位させない。
【0076】
図9(c)は、後退アシストモードのオフ状態において、ステアリングホイール50が中立位置にある状態を示す。そのため、トラクタ20の転舵輪としての前輪22は直進状態となる。また、後退アシストモードのオフ状態において、トレーラ30が左向きである場合を示す。そのため、仮想操舵角α2は、直進状態に対応しない。この状態で、後退アシストモードがオン状態に切り替わると、PU92は、ステアリングホイール50を左方向に切る。これにより、操舵角θhが、ヒッチ点C1の進行方向である仮想操舵角α2に整合するように変位する。
【0077】
図9(d)は、後退アシストモードのオフ状態において、ヒッチ角βの大きさが過度に大きく、ジャックナイフ現象が生じる例を示した。この場合、後退アシストモードがオン状態に切り替わると、PU92は、操舵角θhを最大仮想操舵角α2thに整合させる。そして、PU92は、ステアリングホイール50を振動させる。
【0078】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1,11~13]連結車両の制御装置は、ADASECU90に対応する。入力部は、ステアリングホイール50に対応する。切替判定処理は、S90,S100の処理に対応する。トラクタ操舵処理は、S102~S104の処理に対応する。トレーラ操舵処理は、S92~S98の処理に対応する。[2]整合処理は、S26の処理に対応する。[3]整合処理は、S28の処理に対応する。[4]逸脱通知処理は、S54の処理を反映したS56の処理に対応する。[5,6]反力付与処理は、S50の処理を反映したS56の処理に対応する。[7]整合処理は、S74の処理に対応する。[8]低下処理は、S34,S80の処理に対応する。[9]切替通知処理は、S22,S72の処理に対応する。[10]目標仮想操舵角設定処理は、S94の処理に対応する。仮想操舵角制御処理は、S96,S98の処理に対応する。
【0079】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0080】
「目標仮想操舵角設定処理について」
・目標仮想操舵角α2*が操舵角θhに所定の変換を施した値となることは必須ではない。たとえば、目標仮想操舵角設定処理を、目標仮想操舵角α2*に操舵角θhを代入する処理としてもよい。
【0081】
「トレーラ操舵処理について」
・トレーラ操舵処理としては、仮想操舵角α2を制御量として且つ目標仮想操舵角α2*を制御量の目標値とするフィードバック制御を実行する処理に限らない。たとえば、仮想操舵角α2を制御量とする開ループ制御を実行する処理であってもよい。
【0082】
・トレーラ操舵処理が、仮想操舵角α2を制御量とする処理であることは必須ではない。たとえば、トレーラ30の走行軌跡の曲率半径を制御量とする処理であってもよい。また、たとえば、トレーラ30の走行軌跡自体を制御量とする処理であってもよい。
【0083】
「逸脱通知処理について」
・仮想操舵角α2の大きさが最大仮想操舵角α2thの大きさを超える場合に、その旨を通知する処理としては、ステアリングホイール50に振動を付与する処理に限らない。たとえば、表示装置に表示される色を変える処理であってもよい。ここで表示装置は、トラクタ20の後方の画像を表示する装置であってもよい。また表示装置は、ステアリングホイール50に設けられて色によってメッセージを伝達する装置であってもよい。
【0084】
・逸脱通知処理を、過渡フラグF1が「0」であることを条件に実行してもよい。すなわち、たとえば、S28の処理の完了時には実行しなくてもよい。
「反力付与処理について」
・反力付与処理としては、仮想操舵角α2の大きさが最大仮想操舵角α2thの大きさに達する前において仮想操舵角α2の大きさに応じて反力の大きさを可変設定する処理に限らない。たとえば、仮想操舵角α2の大きさが最大仮想操舵角α2thの大きさに達するまで、反力を一定とする処理であってもよい。
【0085】
「整合処理について」
・後退アシストモードのオフ状態からオン状態への切り替わりに伴って、操舵角θhと仮想操舵角α2とが整合するように、操舵角θhを変化させる処理は必須ではない。たとえば、後退アシストモードのオフ状態からオン状態への切り替わりに伴って、操舵角θhと仮想操舵角α2とが整合するように、仮想操舵角α2を変化させる処理であってもよい。なお、後退アシストモードのオフ状態からオン状態への切り替わりに伴って、操舵角θhと仮想操舵角α2とを整合させる整合処理は必須ではない。
【0086】
・後退アシストモードのオン状態からオフ状態への切り替わりに伴って、操舵角θhと転舵角α1とが整合するように、操舵角θhを変化させる処理は必須ではない。たとえば、後退アシストモードのオン状態からオフ状態への切り替わりに伴って、操舵角θhと転舵角α1とが整合するように、転舵角α1を変化させる処理であってもよい。なお、後退アシストモードのオン状態からオフ状態への切り替わりに伴って、操舵角θhと転舵角α1とを整合させる整合処理は必須ではない。
【0087】
「切替通知処理について」
・後退アシストモードのオフ状態からオン状態への切り替わりに伴って切り替えたことを通知する処理としては、ステアリングホイール50に振動を付与する処理に限らない。換言すれば、ステアリングホイール50の操作によって転舵角α1を調整可能な状態から仮想操舵角α2を調整可能な状態に移行した旨を通知する処理としては、ステアリングホイール50に振動を付与する処理に限らない。たとえば、表示装置に表示される色を変える処理であってもよい。ここで表示装置は、トラクタ20の後方の画像を表示する装置であってもよい。また表示装置は、ステアリングホイール50に設けられて色によってメッセージを伝達する装置であってもよい。
【0088】
・後退アシストモードのオン状態からオフ状態への切り替わりに伴って切り替えたことを通知する処理としては、ステアリングホイール50に振動を付与する処理に限らない。換言すれば、ステアリングホイール50の操作によって仮想操舵角α2を調整可能な状態から転舵角α1を調整可能な状態に移行した旨を通知する処理としては、ステアリングホイール50に振動を付与する処理に限らない。たとえば、表示装置に表示される色を変える処理であってもよい。ここで表示装置は、トラクタ20の後方の画像を表示する装置であってもよい。また表示装置は、ステアリングホイール50に設けられて色によってメッセージを伝達する装置であってもよい。
【0089】
「低下処理について」
・S34の処理を実行することは必須ではない。たとえば、後退アシストモードのオフ状態からオン状態への切り替わりに伴って操舵角θhと仮想操舵角α2とが整合するように操舵角θhを変化させているときにステアリングホイール50が操作される場合、次のようにしてもよい。すなわち、仮想操舵角α2と整合するように操舵角θhを変化させる処理を停止してもよい。その場合、ステアリングホイール50の操作に応じて仮想操舵角α2を制御すべく転舵角α1を操作してもよい。
【0090】
・S80の処理を実行することは必須ではない。たとえば、後退アシストモードのオン状態からオフ状態への切り替わりに伴って操舵角θhと転舵角α1とが整合するように操舵角θhを変化させているときにステアリングホイール50が操作される場合、次のようにしてもよい。すなわち、転舵角α1と整合するように操舵角θhを変化させる処理を停止してもよい。その場合、ステアリングホイール50の操作に応じて転舵角α1を制御してもよい。
【0091】
「後退アシストモードのオフ状態の処理の主体について」
・上記実施形態では、後退アシストモードのオフ状態における整合処理を、ADASECU90が転舵制御装置70に指令信号を送信する処理としたが、これに限らない。たとえば後退アシストモードのオフ状態における整合処理については、ADASECU90からの指示とは独立に転舵制御装置70が実行してもよい。
【0092】
「入力部について」
・トラクタ20またはトレーラ30に対する操舵の意思を入力する入力部としては、ステアリングホイール50に限らない。たとえば、ジョイスティックであってもよい。
【0093】
「操舵系について」
・たとえばステアリングホイール50と前輪22との間の動力の伝達状態および遮断状態を切り替えるクラッチを備えてもよい。その場合、後退アシストモードがオフ状態である場合、クラッチを締結状態としてもよい。換言すれば、トラクタ操舵処理については、クラッチを締結状態として実行してもよい。
【0094】
「制御装置について」
・ADASECU90と転舵制御装置70とを一体的に構成してもよい。
・制御装置としては、PU92と記憶装置94とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶する記憶装置等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0095】
「コンピュータについて」
・後退アシストプログラム94a等の制御プログラムを実行するコンピュータとしては、連結車両10に搭載されたコンピュータに限らない。たとえば、連結車両10に搭載された上記PU52と、運転者の携帯端末との双方によって同コンピュータを構成してもよい。その場合、たとえば、S16の処理を携帯端末が実行してもよい。
【0096】
「車両について」
・連結車両としては、図1に例示した車両に限らない。
【符号の説明】
【0097】
10…連結車両
20…トラクタ
30…トレーラ
40…ボールジョイント
42…軸
50…ステアリングホイール
52…反力モータ
54…インバータ
60…ラックアンドピニオン機構
62…転舵モータ
64…インバータ
70…転舵制御装置
90…ADASECU
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2023-06-02
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、連結車両の制御装置、連結車両の制御方法、および連結車両の制御プログラムに関する。