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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000295
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】劣化診断方法及び劣化診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20231225BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20231225BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20231225BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20231225BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20231225BHJP
   G01R 31/387 20190101ALI20231225BHJP
【FI】
G01R31/392
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H01M10/42 P
G01R31/367
G01R31/389
G01R31/387
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099012
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】沖田 優斗
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 涼
(72)【発明者】
【氏名】吉田 翔治
(72)【発明者】
【氏名】長岡 直人
【テーマコード(参考)】
2G216
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA22
2G216BA23
2G216BA34
2G216BA54
2G216BA55
2G216BA59
2G216BA67
2G216CB12
2G216CB14
2G216CB44
5H030AA01
5H030AS20
5H030FF22
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】蓄電池の劣化の状態を的確に診断する。
【解決手段】劣化診断装置(1)は、電池モジュール(90)の充電中または放電中の端子電流、端子間電圧及び電池モジュール(90)における複数位置の温度を測定する測定部(10)と、電池モジュール(90)の解析温度(T)を算出する温度算出部(21)と、端子電流及び端子間電圧を基に過渡応答解析を行い、直列抵抗成分を算出する解析部(22)と、解析温度(T)を用いて直列抵抗成分を補正する補正部(23)と、補正された直列抵抗成分を基に、蓄電池の劣化状態を診断する診断部(24)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池の充電中または放電中の端子電流、端子間電圧及び前記蓄電池における複数位置の温度を測定する測定ステップと、
前記複数位置の温度を代表する解析温度を算出する温度算出ステップと、
前記端子電流及び前記端子間電圧を基に前記蓄電池の過渡応答解析を行い、直列抵抗成分を算出する解析ステップと、
前記解析ステップで算出された前記直列抵抗成分を、前記解析温度を用いて、予め定められた基準温度における前記直列抵抗成分に補正する補正ステップと、
前記基準温度における前記直列抵抗成分を基に、前記蓄電池の蓄電容量の、前記蓄電池の初期状態での蓄電容量に対する減少割合である、容量低下率を算出して、前記蓄電池の劣化状態を診断する診断ステップと、を含み、
前記解析ステップにおいて、前記過渡応答解析は、前記蓄電池が、前記直列抵抗成分、及び、並列容量成分と並列抵抗成分とが並列に接続された並列接続回路が、直列に接続された回路を含む等価回路に還元されて実行される
ことを特徴とする、劣化診断方法。
【請求項2】
前記蓄電池における複数位置の温度のうちの最大温度と最小温度との差が所定の閾値以下の場合に前記診断ステップを実行する
ことを特徴とする、請求項1に記載の劣化診断方法。
【請求項3】
前記補正ステップにおいて、
前記解析温度をT[K]、前記基準温度をTst[K]、前記解析温度Tにおける前記直列抵抗成分をRiと表したとき、前記基準温度Tstにおける前記直列抵抗成分Ri_stは、温度補正係数B及びCを用いて、下記式(E1)から算出されることを特徴とする、請求項1に記載の劣化診断方法。
【数1】
【請求項4】
前記診断ステップにおいて、
前記容量低下率が、前記基準温度における前記直列抵抗成分についての1次式から算出されることを特徴とする、請求項1に記載の劣化診断方法。
【請求項5】
前記解析温度が所定の範囲内にあるか否かを判断する温度判断ステップを更に含み、
前記温度判断ステップにおいて、前記解析温度が前記所定の範囲内に無いと判断される場合には、前記蓄電池の劣化診断の処理を終了することを特徴とする、請求項1に記載の劣化診断方法。
【請求項6】
蓄電池の充電中または放電中の端子電流、端子間電圧及び前記蓄電池における複数位置の温度を測定する測定部と、
前記複数位置の温度を代表する解析温度を算出する温度算出部と、
前記端子電流及び前記端子間電圧を基に前記蓄電池の過渡応答解析を行い、直列抵抗成分を算出する解析部と、
前記解析部で算出された前記直列抵抗成分を、前記解析温度を用いて予め定められた基準温度における前記直列抵抗成分に補正する補正部と、
前記基準温度における前記直列抵抗成分を基に、前記蓄電池の蓄電容量の、前記蓄電池の初期状態での蓄電容量に対する減少割合である、容量低下率を算出して、前記蓄電池の劣化状態を診断する診断部と、を備え、
前記解析部は、前記蓄電池を、前記直列抵抗成分、及び、並列容量成分と並列抵抗成分とが並列に接続された並列接続回路が、直列に接続された回路を含む等価回路に還元して、前記過渡応答解析を実行する
ことを特徴とする、劣化診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池の劣化を診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電池の劣化状態を診断する技術が知られている。そのような従来技術として、蓄電池の充放電時の回路特性から、劣化の状態を判定できる技術が検討されている(特許文献1参照)。蓄電池の劣化状態の診断のために蓄電池の充放電を試験的に実施するなどの診断技術とは異なり、本技術によれば、蓄電池の運用を停止する必要が無い。また一方では、蓄電池の充放電時の回路特性から、等価な回路を短時間で合成する技術も検討されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-149280号公報
【特許文献2】特開2013-253784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蓄電池の充放電時の回路特性から、劣化の状態を判定できる上に、大容量の蓄電が可能な電池モジュールや電池盤であっても的確に蓄電池の劣化状態を判定することができる技術の実現が望まれる。本発明の開示の一側面では、このような実情を鑑みてなされたものであり、電池モジュールや電池盤であっても蓄電池の充放電時の回路特性から、的確に蓄電池の劣化状態を判定することができる劣化診断方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る劣化診断方法は、蓄電池の充電中または放電中の端子電流、端子間電圧及び前記蓄電池における複数位置の温度を測定する測定ステップと、前記複数位置の温度を代表する解析温度を算出する温度算出ステップと、前記端子電流及び前記端子間電圧を基に前記蓄電池の過渡応答解析を行い、直列抵抗成分を算出する解析ステップと、前記解析ステップで算出された前記直列抵抗成分を、前記解析温度を用いて、予め定められた基準温度における前記直列抵抗成分に補正する補正ステップと、前記基準温度における前記直列抵抗成分を基に、前記蓄電池の蓄電容量の、前記蓄電池の初期状態での蓄電容量に対する減少割合である、容量低下率を算出して、前記蓄電池の劣化状態を診断する診断ステップと、を含み、前記解析ステップにおいて、前記過渡応答解析は、前記蓄電池が、前記直列抵抗成分、及び、並列容量成分と並列抵抗成分とが並列に接続された並列接続回路が、直列に接続された回路を含む等価回路に還元されて実行されることを特徴とする。
【0006】
本発明の一態様に係る劣化診断装置は、蓄電池の充電中または放電中の端子電流、端子間電圧及び前記蓄電池における複数位置の温度を測定する測定部と、前記複数位置の温度を代表する解析温度を算出する温度算出部と、前記端子電流及び前記端子間電圧を基に前記蓄電池の過渡応答解析を行い、直列抵抗成分を算出する解析部と、前記解析部で算出された前記直列抵抗成分を、前記解析温度を用いて予め定められた基準温度における前記直列抵抗成分に補正する補正部と、前記基準温度における前記直列抵抗成分を基に、前記蓄電池の蓄電容量の、前記蓄電池の初期状態での蓄電容量に対する減少割合である、容量低下率を算出して、前記蓄電池の劣化状態を診断する診断部と、を備え、前記解析部は、前記蓄電池を、前記直列抵抗成分、及び、並列容量成分と並列抵抗成分とが並列に接続された並列接続回路が、直列に接続された回路を含む等価回路に還元して、前記過渡応答解析を実行することを特徴とする。
【0007】
本発明の各態様に係る劣化診断装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記劣化診断装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記劣化診断装置をコンピュータにて実現させる劣化診断装置の制御プログラム、及びそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様に係る劣化診断方法、または、本発明の一態様に係る劣化診断装置によれば、電池モジュールや電池盤であっても蓄電池の充放電時の回路特性から、的確に蓄電池の劣化状態を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態1に係る劣化診断装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2】上記劣化診断装置が劣化診断を行う電池モジュールの一例を示す図である。
図3】上記劣化診断装置が実行する劣化診断方法の処理手順を説明するためのフロー図である。
図4】上記劣化診断装置の測定部が計測した電流Ib、電圧Vbの波形例を示すグラフである。
図5】上記劣化診断装置が実行する解析温度算出処理の手順を説明するためのフロー図である。
図6】上記劣化診断装置の解析部が行う過渡応答解析に適用する、電池の等価回路の一例である。
図7】上記劣化診断装置の解析部が行う過渡応答解析に適用する、電池の等価回路の他の例である。
図8】様々な温度において、過渡応答解析により算出された直列抵抗成分Riの結果をまとめて示すグラフである。
図9】温度補正係数Aの、容量低下率D依存性を示すグラフである。
図10】温度補正係数Bの、容量低下率D依存性を示すグラフである。
図11】温度補正係数Cの、容量低下率D依存性を示すグラフである。
図12】容量低下率Dと、電池モジュールの温度を固定した条件下での直列抵抗成分Riとの関係を示すプロット(四角)と、容量低下率Dと、補正が施された直列抵抗成分Ri_stとの関係を示すプロット(丸)とを示すグラフである。
図13】電池モジュールの温度を固定した条件下での、容量低下率Dと直列抵抗成分Riとの関係を示すプロット(三角)と、容量低下率Dと並列抵抗成分R1との関係を示すプロット(丸)とを示すグラフである。
図14】本発明の実施形態2に係る劣化診断装置が実行する劣化診断方法の処理手順を説明するためのフロー図である。
図15】電池モジュール内の温度差が小さい場合と大きい場合において、基準温度に温度補正した後の直列抵抗成分の、基準温度における直列抵抗成分の真値に対する誤差率を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態1〕
<劣化診断装置の構成>
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る劣化診断装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。図2は、劣化診断装置1が劣化診断を行う電池モジュール90の一例を示す模式図である。劣化診断装置1は、本発明の一実施形態に係る劣化診断方法を実行する装置である。
【0011】
図1に示すように、劣化診断装置1は、蓄電池すなわち二次電池である電池モジュール90を監視し、電池モジュール90の劣化診断を実行する。劣化診断装置1は、図1及び以下の説明に示される各機能ブロックが実現されていれば、物理的に一筐体に納められた形態の装置である必要は無い。
【0012】
図2に示すように、電池モジュール90(蓄電池)は、例えば、例えばリチウムイオン電池で構成される多数のセル91が直列に接続されて構成される蓄電池モジュールである。
【0013】
劣化診断装置1は、測定部10と、演算処理部20と、記憶部30と、を備えている。記憶部30は情報を記憶するメモリであり、磁気ディスク、半導体メモリ、その他、任意の公知のメモリ装置が単体で、または組み合わされて構成されてよい。
【0014】
測定部10は、電流計11と、電圧計12と、温度計13と、を備えている。電流計11は、電池モジュール90の端子に流れる端子電流である電流Ibを監視する。具体的には、電流計11は、図2における端子P1または端子P2に流れる電流Ibを測定する。なお、本明細書において、充電が行われている場合の電流Ibは正値、放電が行われている場合の電流Ibは負値であるように表す。
【0015】
電圧計12は、電池モジュール90の端子間に印加される端子間電圧である電圧Vbを監視する。具体的には、電圧計12は、図2における端子P1及び端子P2間に印加される電圧Vbを測定する。
【0016】
温度計13は、電池モジュール90内の複数位置の温度T1~温度Tk(kは自然数)を監視する。具体的には、温度計13は、図2に示す電池モジュール90において、複数のセル91の温度を測定する。温度を測定する位置は各セル91について1箇所でよい。温度を測定するセル91は任意に設定することができる。
【0017】
本実施形態では、電池モジュール90において直列に接続されている14個のセル91のうち、任意の4つの温度測定セル911で温度T1~温度T4を測定する。温度計13は、例えば、温度測定セル911の表面の温度を測定する。
【0018】
電流計11が測定した電流Ibの値は、ADコンバータ14によって、アナログデジタル変換され、デジタル信号として演算処理部20に伝送される。電圧計12が測定した電圧Vbの値は、ADコンバータ15によって、アナログデジタル変換され、デジタル信号として演算処理部20に伝送される。温度計13が測定した温度T1~温度Tkの値は、ADコンバータ16によって、アナログデジタル変換され、デジタル信号として演算処理部20に伝送される。
【0019】
上記構成を備えた測定部10によって、劣化診断装置1は、電池モジュール90の充電中または放電中の、電流Ib(端子電流)、電圧Vb(端子間電圧)及び電池モジュール90の複数位置の温度T1~温度Tkの測定を行うことが可能である。
【0020】
演算処理部20は、演算処理部20は、温度算出部21と、解析部22と、補正部23と、診断部24と、制御部25と、の各機能ブロックを有している。
【0021】
温度算出部21は、電池モジュール90の解析温度Tを算出する機能ブロックである。ここで、解析温度Tとは、測定部10で電流Ib及び電圧Vbを測定した際の、電池モジュール90の温度とみなすことができる温度であり、測定部10で測定した、電池モジュール90の複数位置の温度を代表する温度である。
【0022】
解析部22は、電流Ib及び電圧Vbを基に電池モジュール90の過渡応答解析を行い、直列抵抗成分Riを算出する機能ブロックである。
【0023】
補正部23は、解析部22が算出した直列抵抗成分Riを、解析温度Tを用いて、予め定められた基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stに補正する機能ブロックである。
【0024】
診断部24は、補正部23が算出した基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stを基に、電池モジュール90の蓄電容量の容量低下率Dを算出して、電池モジュール90の劣化状態を診断する機能ブロックである。容量低下率Dは、電池モジュール90の初期状態での蓄電容量に対する減少割合である。
【0025】
制御部25は、演算処理部20を統括し、また劣化診断装置1の各部を制御する機能ブロックである。制御部25は、一例において、CPU(Central Processing Unit)であってもよい。制御部25は、記憶部30に記憶されているソフトウェアである制御プログラムを読み取ってRAM(Random Access Memory)等のメモリに展開して各種機能を実行する。
【0026】
演算処理部20が有する各機能ブロックが実行する動作については、詳細に後述される。
【0027】
<劣化診断装置の動作>
図3から図13を参照して、劣化診断装置1が実行する特徴的な動作である劣化診断方法の詳細を説明する。図3は、劣化診断装置1が実行する劣化診断方法をステップ毎に示す、フロー図である。なお、各図のグラフの軸において、単位が記載されていない場合は、その軸は任意単位である。
【0028】
劣化診断方法の始めに、制御部25は測定部10が計測する電池モジュール90の充電中または放電中の電流Ib、電圧Vb及び電池モジュール90における複数位置の温度T1~T4を取得する(ステップS1、測定ステップ)。
【0029】
図4は、測定部10の電流計11で検出した電流Ibの波形と、電圧計12で検出した電圧Vbの波形の例を示すグラフである。図4には、一時的に電流値の大きい放電が行われる状況が示されている。図示されるように、放電が行われている間、電圧Vbは徐々に低下する。
【0030】
続いて、制御部25は温度算出部21を制御して、温度算出部21に、電池モジュール90の解析温度Tを算出させる(ステップS2、温度算出ステップ)。温度算出部21は、ステップS1にて測定した電池モジュール90における複数位置の温度T1~T4の温度差に基づき解析温度Tを決定する。
【0031】
劣化診断の対象が、セル91の単体で構成される蓄電池の場合、蓄電池内で温度のばらつきがでない。そのため、セル91の単体で構成される蓄電池において、蓄電池内の1点のみで温度を測定し、当該温度を当該蓄電池の代表温度としても問題ない。
【0032】
しかしながら、本実施形態のように、劣化診断の対象が多数のセル91により構成される電池モジュール90の場合、セル91ごとに温度が異なり、電池モジュール90内で温度にばらつきが現れる場合がある。そのため、電池モジュール90において1点のみで温度を測定し、当該温度を電池モジュール90の代表温度とすると、電池モジュール90内の温度のばらつきを考慮できず、後の処理で行う温度補正を的確に行うことができない。その結果、正確な劣化診断を行うことができなくなる。
【0033】
そこで、温度算出部21では、電池モジュール90内で温度にばらつきが現れることを考慮して、電池モジュール90の代表温度として解析温度Tを算出する。
【0034】
図5は、劣化診断装置1が実行する温度算出ステップの手順を説明するためのフロー図である。図5に基づき、温度算出部21が行う解析温度算出処理について説明する。
【0035】
温度算出部21は、まず、図3のステップS1において測定部10にて測定した電池モジュール90における複数位置の温度T1~温度T4のうち、最大温度Tmaxと最小温度Tminを抽出する(ステップS201)。その後、温度算出部21は、最大温度Tmaxと最小温度Tminとの差を算出し(ステップS202)、最大温度Tmaxと最小温度Tminとの差が所定の閾値以下であるか否かを判定する(ステップS203)。当該所定の閾値は適宜設定されるものであり、例えば10℃程度であることが一例としてあげられる。
【0036】
最大温度Tmaxと最小温度Tminとの差が所定の閾値以下の場合(ステップS203でYES)、温度算出部21は、最大温度Tmaxと最大温度Tmaxとの中央値を解析温度Tとする(ステップS204)。つまり、温度算出部21により、解析温度Tは(Tmax+Tmin)/2で求められる。
【0037】
解析温度Tは、後述する過渡応答解析に用いられる電流Ib、電圧Vbと同じステップで取得した電池モジュール90における複数位置の温度T1~T4に基づき求められるため、当該過渡応答解析区間の初期値(電流Ib、電圧Vb)に対応する電池モジュール90の温度とみなすことができる。
【0038】
温度算出部21は、最大温度Tmaxと最小温度Tminとの差が所定の閾値以下ではない場合(ステップS203でNO)、電池モジュール90の劣化診断の処理を終了する。言い換えると、最大温度Tmaxと最小温度Tminとの差が所定の閾値以下の場合に、劣化診断装置1はS3以降の劣化診断処理を実行する。
【0039】
なお、温度算出部21は、上記に限らず電池モジュール90内の複数箇所の温度を測定し、その平均温度を解析温度Tとしてもよい。その場合、解析温度Tは、(T1+T2+T3・・・+Tk)/kで求められる。ここで、T1、T2、T3、・・・Tkは、電池モジュール90において温度測定したk個の温度測定値である。
【0040】
温度算出部21において、劣化診断処理が実行されるのは、最大温度Tmaxと最小温度Tminとの温度差が所定の閾値以下、つまり上記温度差が小さい場合である。さらに温度の計測精度を考慮すると、解析温度Tとして、簡易に最大温度Tmaxと最大温度Tmaxとの中央値を用いることが望ましい。
【0041】
なお、ステップS2とステップS3とは入れ替えて実施してもよい。
【0042】
次に、制御部25は取得した電流Ib、電圧Vbの波形データを基に、解析部22に電池モジュール90についての充電時または放電時の過渡応答解析を実行させる。このとき、解析部22は、電流Ib、電圧Vbの波形を基に、電池モジュール90の過渡応答解析を行い、電池モジュール90の直列抵抗成分Riを算出する(ステップS3、解析ステップ)。
【0043】
図6は劣化診断装置1の解析部22が行う過渡応答解析に適用する、電池モジュール90の等価回路の一例である。電池モジュール90の過渡応答解析において解析部22は、電池モジュール90を図6に示される等価回路として取り扱う。
【0044】
電池モジュール90の端子間の内部等価回路は、直列抵抗成分Ri、並列容量成分Cnと並列抵抗成分RnとのRC並列回路(並列接続回路)が1段以上、直列容量成分Co、及び、起電力Eoが直列接続された回路で表される。言い換えると、解析部22は、電池モジュール90を、直列抵抗成分Ri、及び、並列容量成分Cnと並列抵抗成分Rnとが並列に接続された並列接続回路が、直列に接続された回路を含む等価回路に還元して、過渡応答解析を実行する。
【0045】
ここで起電力Eoは電池モジュール90の端子間の開回路電圧である。並列容量成分Cnと並列抵抗成分Rnにおける符号nは、RC並列回路のインデックスを表す。RC並列回路の段数がMであるとき、インデックスnは1~Mのいずれかの自然数である。
【0046】
すなわち、電池モジュール90の端子間の内部インピーダンスは、並列容量成分Cnと並列抵抗成分RnとのRC並列回路(並列接続回路)の各段のインピーダンス、直列抵抗成分Ri、及び、直列容量成分Coの、直列接続で表される。
【0047】
ステップS3では、図4に示す電流Ib、電圧Vbの波形のデータをこのような等価回路にフィッティングして、電池モジュール90の直列抵抗成分Riを算出する。
【0048】
図7は劣化診断装置1の解析部22が行う過渡応答解析に適用する、電池モジュール90の等価回路の他の例である。図6において、RC並列回路の段数Mは1段でも良く、その場合、等価回路は図7のように表される。
【0049】
並列抵抗成分Rnは、電池モジュール90の反応抵抗成分に相当する抵抗成分でもある。直列容量成分Co及び開回路電圧である起電力Eoは、電池モジュール90の劣化状態により変動しない電池モジュール90の固有の値であり、予め記憶部30に記憶されている。補正部23は記憶部30に記憶された直列容量成分Co及び起電力Eoの値を参照して、当該フィッティングを実行する。
【0050】
図8図11を用いて、温度補正の原理について説明する。図8図11では、温度補正方法の検討のための実験用の電池の結果を示す。図8図11で示すグラフにおける温度Tは、当該電池の測定温度を示す。
【0051】
図8は、電池の様々な温度Tにおいて、算出された直列抵抗成分Riの結果をまとめて示すグラフである。記号が互いに異なるプロットは、それぞれ電池の劣化の状態が互いに異なる場合の結果を表す。図8では、電池の劣化が進むほど、直列抵抗成分Riが大きくなっている。すなわち、三角で表されている結果が、図8の3通りの結果のうちで、最も電池の劣化が進んだ状態を表している。
【0052】
図8に示されるように、直列抵抗成分Riは、電池の温度Tに大きく依存している。
【0053】
本明細書では、電池の劣化の状態を、電池の蓄電容量Qの、電池の初期状態での蓄電容量Qoに対する減少割合である、容量低下率Dで表すこととする:
【0054】
【数1】
【0055】
ここで、容量低下率Dの単位は、パーセント(%)である。
【0056】
図8の劣化状態が互いに異なる各プロットにおいて、温度Tと直列抵抗成分Riとの関係はそれぞれ式(2)で良好に近似できる:
【0057】
【数2】
【0058】
ここでの係数A、B、Cを、温度補正係数と称することとする。
【0059】
図9図10図11は、それぞれ温度補正係数A、B、Cの、容量低下率D依存性を示すグラフである。図9図11から明らかなように、温度補正係数Aは容量低下率Dに大きく依存するパラメータである。一方、温度補正係数Bは容量低下率Dに依存しないパラメータであり、温度補正係数Cの容量低下率D依存性は小さい。従って、式(2)において、温度補正係数Aは容量低下率Dの関数であるが、温度補正係数B、Cは容量低下率Dに依存しない定数とみなすこととする。
【0060】
これにより、電池のある基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stを考慮すると、式(2)から温度補正係数Aを消去して、基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stが式(3)で表される:
【0061】
【数3】
【0062】
なお、各式中において、温度T及び基準温度Tstは絶対温度を用いるものとする。
【0063】
以上の温度補正の原理に基づいて、算出された直列抵抗成分Riから、基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stが、電池の劣化の状態にかかわらず、すなわち、容量低下率Dが未知であっても、算出できるようになるのである。
【0064】
本発明では、温度補正の原理に基づき、電池モジュール90の劣化診断を行うために、温度Tとして解析温度Tを用いて上記温度補正を行う。
【0065】
劣化診断方法の手順の説明に戻り、次に、制御部25は補正部23を制御して、補正部23に、取得した解析温度Tに基づいて、解析部22が算出した直列抵抗成分Riから、基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stを算出させる。すなわち、補正部23は、解析温度Tを用いて、直列抵抗成分Riを、予め定められた基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stに補正する。
【0066】
温度補正係数B、Cは、電池モジュール90毎に決まった値であって、予め記憶部30に記憶されている。補正部23は、記憶部30に記憶された温度補正係数B、Cの値を参照して、式(3)に従って、当該補正を実行する(ステップS4、補正ステップ)。
【0067】
続いて、制御部25は診断部24を制御して、診断部24に、基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stを基に、電池モジュール90の容量低下率Dを算出させる。上述のように容量低下率Dは、電池モジュール90の劣化の状態を示す指標であり、こうして、劣化診断装置1では、電池モジュール90の劣化診断が実現される(ステップS5、診断ステップ)。
【0068】
図12を用いて、容量低下率算出の原理について説明する。図12は、容量低下率Dと、電池の温度Tを固定した条件下での直列抵抗成分Riとの関係を示すプロット(四角)と、容量低下率Dと、補正が施された直列抵抗成分Ri_stとの関係を示すプロット(丸)とを示すグラフである。図12では図8図11と同様の容量低下率算出方法の検討のための実験用の電池を用いた場合の結果を示し、温度Tは当該電池の測定温度を示す。
【0069】
図12の四角で表されるプロットは、電池の温度Tを25℃に固定した条件下での容量低下率Dと、直列抵抗成分Riとの関係を示す。図示されるように、容量低下率Dは、直列抵抗成分Riに対して強い依存性があり、一次式で良好に表すことができることが理解される。すなわち、温度Tが一定下の条件で、直列抵抗成分Riを算出できれば、容量低下率Dを的確に判定できることとなる。しかし、現実には、電池を実際に運用している状況において、温度Tが一定下の条件で、電流Ib、電圧Vbの計測が行われることを期待することは困難である。
【0070】
また、図12において、測定時の電池の温度Tが25℃とは異なるが、基準温度Tstを25℃とし、上記の手続きに従って直列抵抗成分Riを補正して得られた、基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stが丸でプロットされている。この場合であっても、容量低下率Dは、補正が施された直列抵抗成分Ri_stに対して強い依存性があり、一次式で良好に表すことができることが理解される。すなわち、上記手続きによって、適正に直列抵抗成分Riが、基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stに補正されていることが明らかである。
【0071】
よって、容量低下率Dは、基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stを用いて、1次式である式(4)により良好に見積もることができる。
【0072】
【数4】
【0073】
ここで、定数Rioは、初期状態での基準温度Tstにおける直列抵抗成分であり、係数dを、劣化補正係数と称することとする。
【0074】
定数Rio及び劣化補正係数dは、電池毎に決まった値であって、予め記憶部30に記憶されている。ステップS4において診断部24は記憶部30に記憶された定数Rio及び劣化補正係数dの値を参照して、式(4)に従って、基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stから、電池の容量低下率Dを算出する。
【0075】
本発明では、容量低下率算出の原理に基づき、電池モジュール90の劣化診断に上記容量低下率Dを用いる。
【0076】
なお、式(1)~(4)により、電池モジュール90の蓄電容量Qは、
【0077】
【数5】
【0078】
で表すことができる。
【0079】
<作用、効果>
実施形態1によれば、劣化診断装置1は、充電または放電時の電池モジュール90の端子電流(電流Ib)及び端子間電圧(電圧Vb)を監視し、電池モジュール90の解析温度Tを算出することによって、電池の回路特性から電池モジュール90の劣化の指標である容量低下率Dを算出することができる。
【0080】
そのため、電池モジュール90の放電、フル充電を実行することにより充電容量を求めるような試験を実行することなく、電池モジュール90の劣化の状態を診断することができる。あるいは、電池モジュール90に特定の電流を導入、あるいは電圧を印加するような試験を実行することなく、電池モジュール90の劣化の状態を診断することができる。よって実施形態1によれば、電池モジュール90の運用を維持した状態で、電池モジュール90の劣化の状態を診断することができる。
【0081】
また実施形態1の劣化診断方法によれば、電池モジュール90の複数位置において温度を測定し、複数位置の温度を代表する解析温度Tにより電池モジュール90の回路特性(直列抵抗成分Ri)の補正を行う。そのため、温度にばらつきがでる電池モジュールであっても、電池モジュールにおいて温度の強い影響を的確にキャンセルして正しく蓄電池の劣化の状態を診断することができる。
【0082】
特に実施形態1では、式(3)に表されたように、電池モジュール90の劣化の状態(容量低下率D)に影響されずに、解析温度Tの影響をキャンセルできる巧みな手法を用いており、的確に電池モジュール90の劣化の状態を診断することができる。
【0083】
また、実施形態1の劣化診断方法は、式(4)及び図12に示されたように、電池モジュール90の劣化の状態を示す指標である容量低下率Dを良好に予測し得る直列抵抗成分Riという回路パラメータを用いることを基礎としている。そのため実施形態1の劣化診断方法によれば、電池モジュール90の劣化の状態を正確に診断することができるようになる。
【0084】
図13は、解析温度Tの影響を排除するために電池モジュール90の解析温度Tを一定とした条件下での、容量低下率Dと、直列抵抗成分Riまたは並列抵抗成分R1(反応抵抗成分)との関係を示すグラフである。なおここで、過渡応答解析の等価回路としては、RC並列回路の段数Mを一段とした、図7に示される等価回路が採用された。
【0085】
図13に示されるように、容量低下率Dは、直列抵抗成分Riに対して一様に変化するのに対し、並列抵抗成分R1に対しては、依存性が不明瞭な領域がある。また、容量低下率Dは直列抵抗成分Riについての1次式で表され、容量低下率Dの広い領域に亘って良好な精度で容量低下率Dを予測し得る。
【0086】
従って実施形態1では、電池モジュール90を、図6または図7に示された等価回路で表し、抵抗分に関して、直列抵抗成分Riという特定の成分を抽出することで、電池モジュール90の劣化の状態を正確に診断することが可能となっていることが理解される。
【0087】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0088】
図14は、実施形態2に係る劣化診断装置1が実行する劣化診断方法を示すフロー図である。実施形態2に係る劣化診断方法では、図3に示された実施形態1に係る劣化診断方法に対して、ステップS2とステップS3との間に、判断のステップSJが付加されてフローの分岐が行われる他は、実施形態1と同様である。
【0089】
ステップS2に続くステップSJでは、制御部25が、取得した解析温度Tが所要の範囲内にあるか、すなわち、取得した解析温度Tが下限温度Tr1以上かつ上限温度Tr2以下であるかを判断する(ステップSJ、温度判断ステップ)。解析温度Tが、所要の範囲内にあると判断される場合(ステップSJでYES)フローはステップS3に進む。それ以外の場合(ステップSJでNO)、劣化診断処理を終了する。
【0090】
実施形態2に係る劣化診断方法では、取得した解析温度Tが、所要の範囲内にある場合にのみ、電池モジュール90の劣化の状態の診断を実行するため、より正確に劣化診断が行われるようになる。なお、取得した解析温度Tが、所要の範囲内にあることの条件としては、上述の例に限られず、解析温度Tが下限温度Tr1以上であることを条件としてもよい。あるいは、温度Tが上限温度Tr2以下であることを条件としてもよい。
【0091】
〔実験例〕
本発明の一実験例について以下に説明する。本実験例では、本発明に係る劣化診断における温度補正について模擬実験を行い、その結果について検証を行った。
【0092】
(実験方法)
本実験において、まず、充放電中の電池モジュール90の電流Ib、電圧Vb及び電池モジュール90の異なる計測位置14点において温度T1~温度T14を計測した。また、測定した電流Ib及び電圧Vbに基づき、過渡応答解析により直列抵抗成分Riを算出した。さらに、温度T1~温度T14の平均温度Tmを求めた。
【0093】
次に、各計測点の温度T1~温度T14及び平均温度Tmのそれぞれを、実施形態1の式(2)及び式(3)に適用して、過渡応答解析により算出した直列抵抗成分Riを温度補正し、予め定められた基準温度Tstにおける直列抵抗成分Ri_stを算出した。本実験では、基準温度Tstを25℃とした。
【0094】
次に、基準温度Tstにおける直列抵抗成分の真値をRsとし、|Ri_st-Rs|/Rs(%)により、温度T1~温度T14および平均温度Tmのそれぞれを適用した場合において、直列抵抗成分Ri_stの、真値Rsに対する誤差率を算出した。
【0095】
ここで、真値Rsとしては、電池モジュール90の各部が、ほぼ基準温度Tstに等しくなるように保たれた状態でテスト波形(短パルス波形)を印加する試験を複数回行い、当該試験結果の直列抵抗成分Riの平均値を採用した。
【0096】
さらに、さまざまな条件での電池モジュール90の充放電を行い、上述した一連の手続きを行った。その際、電池モジュール90内の温度差が小さい場合と、電池モジュール90内の温度差が大きい場合に分けて、それぞれ9回の実験の結果を抽出した。ここで、電池モジュール90内の温度差が小さい場合とは、温度T1から温度T14の内、最大温度Tmaxと最小温度Tminとの差が所定の閾値以下である場合である。また、電池モジュール90内の温度差が大きい場合とは、温度T1から温度T14の内、最大温度Tmaxと最小温度Tminとの差が所定の閾値より大きいである場合である。
【0097】
さらに、電池モジュール90内の温度差が小さい場合及び電池モジュール90内の温度差が大きい場合において、各測定点の温度T1~温度T14および平均温度Tmのそれぞれについて、抽出された9回の各実験における誤差率の平均値を求めた。
【0098】
(実験結果)
図15は、電池モジュール90内の温度差が小さい場合(温度差が所定の閾値以下の場合)と当該温度差が大きい場合(温度差が所定の閾値を超える場合)において、上述した実験の結果を示す表である。すなわち、図15では、電池モジュール90内の温度差が小さい場合と大きい場合とにおいて、それぞれ抽出された9回の実験の誤差率の平均値を示している。
【0099】
図15に示すように、電池モジュール90内の温度差が小さい場合は、温度T1~温度T14のいずれを用いて単一で温度補正した結果でも誤差率1%台とばらつきが小さいことが確認できた。さらに、電池モジュール90内の温度差が小さい場合の平均温度Tmの誤差率は、電池モジュール90内の温度差が小さい場合において最も小さい1.1%であり、適正な温度補正が行えていることが確認できた。したがって、最大温度Tmaxと最小温度Tminとの差が所定の閾値以下の場合、電池モジュール90内の解析温度Tとして、平均温度Tmを採用することで、適正な温度補正が行えることが確認できた。
【0100】
一方、電池モジュール90内の温度差が大きい場合は、平均温度Tmにおける温度補正による誤差率は10%以上となり、適正な温度補正が行えていないことが確認できた。これにより、最大温度Tmaxと最小温度Tminとの差が所定の閾値より大きい場合は、誤った容量低下率Dか算出されてしまい、正しく劣化診断が行えないことが確認できた。
【0101】
また、電池モジュール90内の温度差が大きい場合は、温度T1~温度T14のいずれを用いて単一で温度補正した結果でも温度補正による誤差率が大きく異なることが確認できた。これは、複数のセル91を含む電池モジュール90で過渡応答解析すると、電池モジュール90内の直列されたセル91の過渡現象が電池モジュール90内で平均化されてしまうことから、より誤差率が大きくなることが原因と推測できる。
【0102】
〔ソフトウェアによる実現例〕
劣化診断装置1(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に演算処理部20に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0103】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0104】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0105】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0106】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0107】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0108】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る劣化診断方法は、蓄電池の充電中または放電中の端子電流(電流Ib)、端子間電圧(電圧Vb)及び前記蓄電池(電池モジュール90)における複数位置の温度を測定する測定ステップと、前記複数位置の温度を代表する解析温度(T)を算出する温度算出ステップと、前記端子電流及び前記端子間電圧を基に前記蓄電池の過渡応答解析を行い、直列抵抗成分(Ri)を算出する解析ステップと、前記解析ステップで算出された前記直列抵抗成分(Ri)を、前記解析温度を用いて、予め定められた基準温度(Tst)における前記直列抵抗成分(Ri_st)に補正する補正ステップと、前記基準温度(Tst)における前記直列抵抗成分(Ri_st)を基に、前記蓄電池の蓄電容量の、前記蓄電池の初期状態での蓄電容量に対する減少割合である、容量低下率(D)を算出して、前記蓄電池の劣化状態を診断する診断ステップと、を含み、前記解析ステップにおいて、前記過渡応答解析は、前記蓄電池が、前記直列抵抗成分(Ri)、及び、並列容量成分(Cn)と並列抵抗成分(Rn)とが並列に接続された並列接続回路が、直列に接続された回路を含む等価回路に還元されて実行される。
【0109】
上記構成によれば、充電または放電時の蓄電池の端子電流及び端子間電圧を監視し、蓄電池の複数位置の温度を代表する解析温度を算出することによって、蓄電池の回路特性から蓄電池の劣化の指標である容量低下率を算出することができる。
【0110】
そのため、蓄電池の放電、フル充電を実行することにより充電容量を求めるような試験を実行することなく、蓄電池の劣化の状態を診断することができる。あるいは、蓄電池に特定の電流を導入、あるいは電圧を印加するような試験を実行することなく、蓄電池の劣化の状態を診断することができる。このため、蓄電池の運用を維持した状態で、蓄電池の劣化の状態を診断することができる。
【0111】
また、蓄電池の複数位置において温度を測定し、複数位置の温度を代表する解析温度により蓄電池の回路特性の補正を行う。そのため、蓄電池内の温度にばらつきがでる電池モジュールや電池盤であっても、蓄電池において温度の強い影響を的確にキャンセルして正しく蓄電池の劣化の状態を診断することができる。
【0112】
その結果、電池モジュールや電池盤であっても、蓄電池の充放電時の回路特性から、的確に蓄電池の劣化状態を判定することができる劣化診断方法を実現することができる。
【0113】
本発明の態様2に係る劣化診断方法では、上記態様1において、前記蓄電池(電池モジュール90)における複数位置の温度のうちの最大温度(Tmax)と最小温度(Tmin)との差が所定の閾値以下の場合に前記診断ステップを実行してもよい。
【0114】
蓄電池において、複数位置で測定した温度のうち、最大温度と最小温度との差が大きい場合、的確に劣化診断を行うことができない。そのため、上記構成のように、蓄電池における複数位置の温度のうち、最大温度と最小温度との差が所定の閾値以下であれば、診断ステップが実行され、最大温度と最小温度との差が大きい場合に診断ステップを実行しないことで、不正確な劣化診断が行われることを防ぐことができる。
【0115】
本発明の態様3に係る劣化診断方法では、上記態様1または2において、前記補正ステップにて、前記解析温度をT[K]、前記基準温度をTst[K]、前記解析温度Tにおける前記直列抵抗成分をRiと表したとき、前記基準温度Tstにおける前記直列抵抗成分Ri_stは、温度補正係数B及びCを用いて、上記式(3)から算出されてもよい。
【0116】
上記構成によれば、温度による影響がキャンセルされ、好適に直列抵抗成分を算出することができる。
【0117】
本発明の態様4に係る劣化診断方法では、上記態様1から3のいずれかにおいて、前記診断ステップでは、前記容量低下率(D)が、前記基準温度(Tst)における前記直列抵抗成分(Ri_st)についての1次式から算出されてもよい。
【0118】
上記構成によれば、蓄電池の劣化の状態を示す指標である容量低下率の算出において、容量低下率を良好に予測し得る直列抵抗成分をパラメータとして用いている。そのため、容量低下率が良好に算出され、蓄電池の劣化の状態を正確に診断することができる。
【0119】
本発明の態様5に係る劣化診断方法では、上記態様1から4のいずれかにおいて、前記解析温度(T)が所定の範囲内にあるか否かを判断する温度判断ステップを更に含み、前記温度判断ステップにおいて、前記解析温度が前記所定の範囲内に無いと判断される場合には、前記蓄電池(電池モジュール90)の劣化診断の処理を終了してもよい。
【0120】
上記構成によれば、解析温度が、所要の範囲内にある場合にのみ、蓄電池の劣化診断の処理が行われるため、より正確に劣化診断が行われるようになる。
【0121】
本発明の態様6に係る劣化診断装置は、蓄電池の充電中または放電中の端子電流、端子間電圧及び前記蓄電池における複数位置の温度を測定する測定部と、前記複数位置の温度を代表する解析温度を算出する温度算出部と、前記端子電流及び前記端子間電圧を基に前記蓄電池の過渡応答解析を行い、直列抵抗成分を算出する解析部と、前記解析部で算出された前記直列抵抗成分を、前記解析温度を用いて予め定められた基準温度における前記直列抵抗成分に補正する補正部と、前記基準温度における前記直列抵抗成分を基に、前記蓄電池の蓄電容量の、前記蓄電池の初期状態での蓄電容量に対する減少割合である、容量低下率を算出して、前記蓄電池の劣化状態を診断する診断部と、を備え、前記解析部は、前記蓄電池を、前記直列抵抗成分、及び、並列容量成分と並列抵抗成分とが並列に接続された並列接続回路が、直列に接続された回路を含む等価回路に還元して、前記過渡応答解析を実行する。
【0122】
上記構成によれば、態様1と同様の効果を奏する劣化診断装置を実現することができる。
【0123】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0124】
1 劣化診断装置
10 測定部
11 電流計
12 電圧計
13 温度計
14、15、16 ADコンバータ
20 演算処理部
21 温度算出部
22 解析部
23 補正部
24 診断部
25 制御部
30 記憶部
90 電池モジュール(蓄電池)
911 セル
C1~CM、Cn 並列容量成分
Co 直列容量成分
Ri 直列抵抗成分
R1~RM、Rn 並列抵抗成分
Eo 起電力(開回路電圧)
Ib 電流(端子電流)
Vb 電圧(端子間電圧)
T 解析温度
Tst 基準温度
Ri_st 基準温度における直列抵抗成分
D 容量低下率
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15