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  • 特開-培養槽及び藻類の回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029507
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】培養槽及び藻類の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240228BHJP
   C12N 1/12 20060101ALI20240228BHJP
   B01F 27/112 20220101ALI20240228BHJP
   B01F 27/70 20220101ALI20240228BHJP
   B01F 23/53 20220101ALI20240228BHJP
   B01F 27/63 20220101ALI20240228BHJP
   B01F 35/53 20220101ALI20240228BHJP
【FI】
C12M1/00 E
C12N1/12 A
B01F27/112
B01F27/70
B01F23/53
B01F27/63
B01F35/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131818
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(71)【出願人】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】植田 芳昭
(72)【発明者】
【氏名】酒井 祐介
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4G035
4G037
4G078
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB04
4B029CC01
4B029DB01
4B029DG08
4B029GB10
4B065AA83
4B065AC09
4B065AC14
4B065BC35
4B065BD14
4B065CA41
4B065CA60
4G035AB46
4G037DA30
4G037EA03
4G078AB20
4G078BA01
4G078CA01
4G078DA01
4G078EA20
(57)【要約】
【課題】培養槽内の藻類の回収効率及び回収コストを削減可能な培養槽等を提供する。
【解決手段】藻類を培養可能な培養液Pを循環可能な培養槽1であって、培養液Pを循環させる流路を形成する一対の壁面と、壁面間に設けられ、流路内の培養液を下流側に導出する水流発生手段10と、水流発生手段10の下流側に設けられ、培養液Pの液面を覆う規制手段20とを備え、水流発生手段10は、壁面間に延在すると共に、延在方向の両端部が各壁面に対して隙間を有して回転可能な複数の羽根14Aを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類を培養可能な培養液を循環可能な培養槽であって、
前記培養液を循環させる流路を形成する一対の壁面と、
前記壁面間に設けられ、前記流路内の培養液を下流側に導出する水流発生手段と、
前記水流発生手段の下流側に設けられ、前記培養液の液面を覆う規制手段と、
を備え、
前記水流発生手段は、前記壁面間に延在すると共に、当該延在方向の両端部が各壁面に対して隙間を有して回転可能な複数の羽根を有することを特徴とする培養槽。
【請求項2】
藻類を培養可能な培養液を循環可能な培養槽における藻類の回収方法であって、
前記培養液を循環させる流路を形成する一対の壁面間に延在すると共に、延在方向の両端部が各壁面に対して隙間を有して回転可能な複数の羽根を有する水流発生手段を駆動させ、前記藻類を一定期間培養する工程と、
前記一定期間経過後に、前記水流発生手段の下流側に、前記培養液の液面を覆う規制手段を設け、前記培養液に含まれる藻類を前記水流発生手段の下流側に停留させる工程と、
を含むことを特徴とする藻類の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養槽に関し、特に培養後の藻類の回収を容易化可能な培養槽に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食用、或いは所謂バイオマス資源として藻類を培養する施設や装置の開発が盛んに行われている。このような装置の一例として特許文献1には、レースウェイとも称される循環型の培養槽内において培養液を攪拌、循環させながら培養液内の藻類の光合成を促進し、以て藻類を回収可能な培養槽が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-23979
【発明の概要】
【0004】
上記従来の培養槽にあっては、一定程度の培養が完了した後に、藻類を回収する作業が必要となるが、通常このような回収作業は、培養槽内の培養液をポンプ等によって全量回収し、その後に藻類と培養液を分離する固液分離処理が必要となる。そして、このような回収、分離作業は回収効率及び回収コストの増大を招く要因となる。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであって、培養槽内の藻類の回収効率及び回収コストを削減可能な培養槽等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明に係る構成として、藻類を培養可能な培養液を循環可能な培養槽であって、培養液を循環させる流路を形成する一対の壁面と、壁面間に設けられ、流路内の培養液を下流側に導出する水流発生手段と、水流発生手段の下流側に設けられ、培養液の液面を覆う規制手段とを備え、水流発生手段は、壁面間に延在すると共に、延在方向の両端部が各壁面に対して隙間を有して回転可能な複数の羽根を有する構成とした。
上記構成によれば、規制手段によって液面が覆われていることにより、水流発生手段から導出された培養液の波動が抑制され、壁面との間に形成された隙間方向に向かって旋回する渦流をなすため、培養液中の藻類を流路の中央部に停留させることが可能となる。そして、水流発生手段の下流側中央部に停留した藻類(藻類密度が高い領域)を回収することで、回収効率の向上、コスト削減が可能となる。
なお、上記発明の概要は、本発明の必要な特徴のすべてを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた発明となり得る。また、以下、発明の実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明される特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らず、選択的に採用される構成又は工程をも含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】培養槽の全体構造及びパドルとの隙間を示す平面図である。
図2】規制手段の概要を説明する断面図である。
図3】実験設備に係る培養槽を示す平面図である。
図4】流路の流れ方向における速度ベクトルを示す断面図である。
図5】流路の幅方向における速度ベクトルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本発明に係る開放型の培養槽1の平面図である。同図に示すように、培養槽1は、例えばコンクリートにより形成されたオーバル状の外壁3と、外壁3の短軸方向中心において長軸方向に延在する仕切り部5とを備え、水流発生手段10を起点として培養液Pを矢印方向に循環させる流路が形成される。ここで、培養液Pは、例えば、窒素源、リン源、ミネラルなどの栄養塩類を添加した培養液であって、培養液P中には藻類が培養される。
【0009】
図1図2に示すように、水流発生手段10は、複数(図示では4枚)の平板上の羽根14Aを備えたパドル(水車)14から構成され、回転中心となるシャフト16が外壁3及び仕切り部5間に延在し、図外のモーター等の駆動源とベアリング、ギア、ベルト等の伝達手段を介して接続される。
【0010】
図1の拡大図に示すように、パドル14の4枚の羽根14Aは、流路幅L1と平行となるように配置され、流路を形成する外壁3の内周面3Aと羽根14Aの幅方向一端部との間、及び、仕切り部5の内周面5Aと羽根14Aの幅方向他端部との間には、それぞれ僅かな(例えば3mm)隙間G1;G2が形成される。
【0011】
つまり、水流発生手段10の上流側の培養液Pは、パドル14の4枚の羽根14Aの回転によって付勢されて下流側に導出されるか、パドル14の両側部に形成された隙間G1;G2を介して下流側に導出されることとなり、パドル14を経るルートと、隙間G1;G2を経るルートが形成される。
【0012】
次に、図2を参照してパドル14の下流側に配置される規制手段20について説明する。規制手段20は、パドル14の下流側に配置された板状体であって、流路幅L1と対応する幅を有し、下流側に向かって所定長さを有して延在する。規制手段20は、その下面20Aが培養液Pの液面と接する高さに配置されている。換言すれば、規制手段20は、パドル14によって導出された直後の培養液Pの液面の全域を所定長さに渡って閉塞するように配設される。なお、規制手段20は、外壁3及び仕切り部5側に延在するアングル材等の固定手段を用いて設けられ、藻類の培養度に応じた任意のタイミングで着脱可能である。そして、このような規制手段20が、水流発生手段10の下流側近傍に配置されることにより、パドル14の回転によって羽根14Aに押し上げられるように導出される培養液Pによって生じる波動を抑制することができ、後述の作用によって水流発生手段10の下流側において藻類の停留、堆積に寄与する渦流を発生させることが可能となる。
【0013】
以下、上述の培養槽1を模した実験設備を用いて、上記構成からなる培養槽1における培養液Pの挙動について説明する。図3は、実験設備の概要を示す模式図である。
【0014】
同図に示すように、本実験で用いる培養槽100は、透明なアクリル樹脂製であって、全長が490mm(=L)、全幅が93mm(=2W+tod)の容器に長さ400mm(=Lcd)、厚さ3mm(=tod)の仕切り部5としての中間板を配置したものである。水車としてのパドルは、シャフトの中心を基準として、中間板の上流側端部から50mm(=Lw)の位置に配設され、その回転数は100rpmに設定した。培養槽100には、培養液Pとして水深が20mmとなるように水道水を満たしておく。このとき、開放型水路の水力直径、水車吐出直後の水路断面平均速度に基づくレイノルズ数はRe=8511となる。また、回転する水車によって生成される波動の影響を除去するため、水車部を除く水面の全域を厚さ2mmの規制手段20としてのアクリル樹脂製の平板で覆った。また、回転する水車によって水面より高く持ち上げられた水が平板の上面に乗り上げてしまうことを防ぐため、波止用板を水車の下流側の平板端面に垂直に取り付けている。
【0015】
水車の回転軸に取り付けられた4枚の平板は,流路幅Wに対して左右それぞれの隙間が(1)3mmの場合(各平板面積15×38[mm])と(2)0.25mmの場合(15×43[mm])との2種類である。即ち、(1)に示す平板は、その幅方向長さを、流路幅Wよりも短く設定し、流路を形成する壁面に対して積極的に隙間を設けた態様である。一方、(2)に示す平板は、その幅方向長さを、流路幅Wと実質的に同一程度に設定し、流路を形成する壁面との隙間が形成されない態様である。
【0016】
これまでの研究から、代表的な光合成微生物であるシアノバクテリアの比重は培養液中でおよそ1.1であることが知られている。そこで、本実験では微細藻類をナイロン製のトレーサ粒子(比重1.03、粒子径80μm)で模擬する。そして当該粒子を約1g/Lの濃度で培養槽内に混入し、全域で粒子が均一に分散するように十分攪拌してから3分間静置した後に水車を回転させる。粒子堆積の様子は、デジタルカメラを用いて培養槽1の底部から1分間隔で撮影した。水車から吐出される流れの様子は粒子画像流速計(PIV)によって計測した。具体的には、前述と同じトレーサ粒子を流路内に0.3g/Lの濃度で混入させ、波長532nmのDPSSレーザで照射された所望断面の速度ベクトルが150frames/sの高速度カメラで撮影する。
【0017】
以下、図4図5を参照して実験結果について説明する。なお、図示の実験結果は、上記(1)の条件により、平板と壁面との間に隙間を設けた態様を例とする。図4は、水車を起点として、水の流れ方向縦断面において速度ベクトルを計測した結果である。具体的には、図4(a)は、流路幅Wの中央(平板の中心)位置の断面を示し、図4(b)は、壁面から平板側に2mm離れた位置(隙間の位置)の断面を示す。
【0018】
図5は、水車の前方の流路の幅方向断面における速度ベクトルを計測した結果を示す。具体的には、図5(a)は、中間板の上流側端部から95mmの位置の幅方向断面であり、図5(b)は同360mmの位置、図5(c)は同390mmの位置である。なお、図示のPIV計測において,速度ベクトルは5秒間(その間、水車は約8.3回転する)に取得したデータの平均値として算出している。
【0019】
図4(a)に示すように、水車の平板によって上方に持ち上げられた水は水面を覆う規制手段20としてのアクリル樹脂製と波止用板によって上方に向かうことができず、流路の両側方にある隙間(各3mm)側に回り込んで下方へ向かうことになる(図4(b)参照)。
【0020】
図5(a)に示すように、水車に近い前方(下流)位置においては、両壁面に沿って降下した後に、底面に沿って中央側に滑動し、中央部において上昇するような左右一対の渦が発生していることが分かる。また、このような一対の渦は、図5(b),(c)に示すように、水車からの距離が離れるに従って縮小、消失する。また、図4(a),(b)の比較から流路の底面近傍での流れ方向速度は、両壁面付近側が中央付近側よりも速くなるため、結果として一対の渦によって中央側に移動した粒子は、相対的に流れ方向速度の小さい流路の中央付近において停留すると言う結果が得られた。
【0021】
一方、(2)の条件に示す平板、即ち、幅方向長さが流路幅Wと実質的に同一程度に設定され、流路を形成する壁面との実質的な隙間が形成されない構成を採用した場合にあっては、水車から導出される水は平板と水面を覆う規制手段20としてのアクリル製樹脂との隙間から流路前方に向けて流出するしかなく、上述の例に見られたような中央付近へと旋回する明瞭な渦対が形成されず、水車前方における粒子の均一な停留、堆積は認められなかった。
【0022】
以上の結果を踏まえると、図1に示す培養槽1において、水流発生手段10の下流側に培養液Pの液面を覆うように規制手段20を設け、パドル14の羽根14Aと、流路を形成する両壁面との間にそれぞれ隙間G1;G2を設けた構成とすることにより、培養中の藻類等の対象物を水流発生手段10の下流側の中央付近に意図的に停留、堆積させることが可能となる。従って、当該位置、即ち、藻類の密度が高い領域における培養液Pをポンプ等によって集中的に回収することにより、培養後の藻類を効率的に回収することが可能となる。
【0023】
また、規制手段20を着脱自在とすることにより、藻類の培養を一定期間行い、培養が一定程度促進された後に規制手段20を設置することにより、設置前においては培養槽1内を循環させて光合成を促進し、設置後においては、光合成が促進された藻類を敢えて停留、堆積させて回収効率を向上させる回収手法を採用することが可能となる。
【0024】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態に多様な変更、改良を加え得ることは当業者にとって明らかであり、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0025】
例えば規制手段20の流路方向への長さは、図示のものに限られず、水車の大きさ、出力等を考慮して、渦流が消失する距離と対応する長さとすれば良い。また、パドル14の羽根14Aの数は図示の4枚に限られない。
【符号の説明】
【0026】
1 培養槽,3 外壁,5 仕切り部,10 水流発生手段,14 パドル,
14A 羽根,16 シャフト,20 規制手段,G1;G2 隙間,P 培養液
図1
図2
図3
図4
図5