(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029511
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】高周波誘電加熱装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/50 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
H05B6/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131829
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】390024394
【氏名又は名称】山本ビニター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰司
(72)【発明者】
【氏名】井口 健治
(72)【発明者】
【氏名】塩田 智大
【テーマコード(参考)】
3K086
【Fターム(参考)】
3K086AA01
3K086AA03
3K086BB05
3K086CA01
3K086CA02
3K086CA20
3K086CB06
3K086DA02
(57)【要約】
【課題】初心者を含む知識、経験の少ない者でも設定が容易かつ誤設定が抑制される。
【解決手段】高周波誘電加熱装置1は、加熱スケジュールにより高周波電力が供給される正負電極21,22の間に配置された解凍物Wを誘電加熱する加熱部20と、解凍物W及び加熱部20の加熱前の初期状態に係る複数の要素のうち、一部の要素についてはセンサ501~505で予め取得し、一方、残りの要素と、解凍物に対する加熱条件に係る要素とについては、各要素を複数に区分けし、かつ各区分の内容を表す定性的なガイド情報と対応値とを関係付けておき、区分の選択のときに定性的なガイド情報を表示部40に提示すると共に選択された区分に関係付けられた対応値を予め取得する取得部50及び操作部51と、被加熱物の性状のうち誘電加熱に関わる性状値、計測値及び対応値を誘電加熱に基づく加熱条件計算式に導入して加熱スケジュールを算出する演算部32とを備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱スケジュールにより高周波電力が供給される、互いに離間配置された正負電極を備え、前記正負電極間に配置された被加熱物を誘電加熱する加熱部と、
前記被加熱物及び前記加熱部の加熱前の初期状態に係る複数の要素のうち、一部の要素については各センサを介して計測値として予め取得し、一方、前記被加熱物及び前記加熱部の加熱前の初期状態に係る複数の要素のうちの残りの要素と、前記被加熱物に対する加熱条件に係る要素とについては、各要素を複数に区分けし、かつ各区分の内容を表す定性的なガイド情報と対応値とを関係付けておき、区分の選択のときに前記定性的なガイド情報を報知すると共に選択された区分に関係付けられた対応値を予め取得する取得手段と、
前記被加熱物の性状のうち誘電加熱に関わる性状値、前記計測値及び前記対応値を誘電加熱に基づく加熱条件計算式に導入して前記加熱スケジュールを算出する演算手段とを備えた高周波誘電加熱装置。
【請求項2】
前記正負電極を接離方向に移動させる駆動部を備え、
前記センサは、前記正負電極と前記被加熱物との間のエアギャップを計測する間隔計測部を含み、
前記加熱条件計算式は、前記エアギャップがある場合、前記エアギャップがない場合に比して前記総エネルギー量を増加させ、かつ前記加熱スケジュールの出力を抑えつつ出力時間を長く設定するものであることを特徴とする請求項1に記載の高周波誘電加熱装置。
【請求項3】
前記演算手段は、前記高周波電力の単位時間毎の出力を算出して前記加熱スケジュールを得る請求項1に記載の高周波誘電加熱装置。
【請求項4】
前記加熱条件は、前記被加熱物の加熱結果の要素を含み、
前記加熱結果の要素は、仕上がりであって総エネルギー量の多少に関する請求項1に記載の高周波誘電加熱装置。
【請求項5】
前記加熱条件は、前記被加熱物の加熱経過の要素を含み、
前記加熱経過の要素は、前記加熱スケジュールの変更に関する請求項1に記載の高周波誘電加熱装置。
【請求項6】
加熱動作終了後に、フィードバック処理を行うフィードバック処理手段を備え、
前記フィードバック処理手段は、前記加熱条件に従って加熱された被加熱物の出来栄えに関する少なくとも1つの項目を有し、かつ前記項目は少なくとも1つ以上の区分に区分けされ、各区分に、前記出来栄えに関する内容が割り当てられると共に、前記正負電極の間隔、総エネルギー量及び前記加熱スケジュールの少なくとも一つ以上を前記出来栄えに関する内容に対応させて調整する情報が関連付けされており、前記フィードバック処理において、選択された区分に関連付けられている前記調整する情報を前記加熱条件計算式に適用して前記総エネルギー量及び前記加熱スケジュールの少なくとも一方を調整する請求項1~5のいずれかに記載の高周波誘電加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正負電極を利用して対象物を誘電加熱することで解凍、溶着、接着及び乾燥その他を行う高周波誘電加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波誘電加熱装置は、基本的な加熱条件として出力、時間、加熱スケジュール及び電極間隔をそれぞれ数値で設定され、設定された数値に基づいて稼働される。一方、高周波誘電加熱の技術分野では、専門用語も少なくなく、操作に不慣れな初心者など知識の無い者にとっては条件値の設定が難しい要因の1つとなっており、反面、数値の誤入力があると、被加熱物に対して適正な加熱処理が施せないといった問題があった。また、高周波誘電加熱装置の操作が難しいと指摘される別の理由として、他の加熱方法と比較して大きなエネルギーを短時間に投入することができるという特徴が挙げられる。これは誘電加熱の利点である一方、秒単位の短い時間で大きく温度を変化させることができることから、適切に管理、コントロールしなければ目標通りの加熱結果が得られなかったり、放電が発生したりすることにもなる。これらは加熱条件の設定が不適切であったことで起きていることが多いと考えられる。目標通りの加熱結果を安定して得るには、出力と時間、加熱スケジュールなどの加熱条件を適切に設定する必要があるが、それに加えて誘電加熱特有の電極に関する条件などの設定も必要である。
【0003】
操作性や使い勝手という装置のユーザビリティーの見直しから、条件設定を一部緩和した技術が提案されている(例えば特許文献1,2)。特許文献1には、一部項目について具体的な数値の入力を省略可能にした解凍装置が提案されている。この解凍装置は、対向電極間隔が大きいほど高周波電力の出力レベルを小さくするとともに出力レベルに対応して高周波電力の出力時間を調整するデータテーブルを解凍物の種類毎に備え、計量した解凍対象物の重量等に応じて出力レベルと出力時間とを算出するようにしたものである。また、特許文献2には、まず表示パネルにマイクロ波による調理メニュー(被加熱物の選択)画面が、次いで「1杯」、「2杯」という容器の熱容量を取得するための入力画面が、最後に「あつめ」、「ふつう」、「ぬるめ」という目標温度を選択可能に表示する画面が表示され、かつ重量センサで重量を計測した上で、加熱時間を機器側で算出する電子レンジが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-12547号公報
【特許文献2】特開2002-243162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の解凍装置は、重量及び対向電極間隔に応じて出力レベルと出力時間とを対応させるデータテーブルを備えているだけであり、その
図10を参照すれば、その他の項目である出力条件の表示や解凍時間の調整は依然として数値のままであり、従前どおり専門的な知識を要する。また、特許文献2に記載の電子レンジは、目標温度として「あつめ」、「ふつう」、「ぬるめ」という曖昧な用語を用いたもので、例えば「ふつう」が選択された場合、対応する目標温度65℃の加熱シーケンスを読み出して、加熱時間を算出するものである。従って、特許文献2に記載の電子レンジでは、被加熱物の各属性を参照して必要な総エネルギー量を求めたり、また、例えば被加熱物の種類や加熱目的に応じて加熱室周りの部品の配置等を適宜に調整して加熱スケジュールを対応設定したりすることはできない。このように、電子レンジで行うマイクロ波照射による加熱動作技術は、正負電極構造を用いた高周波加熱動作に直接適用させることはできない。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、正負電極を用いて加熱処理を施す際の各種の要素の設定を数値入力に代えて定性的な情報の選択で行わせることで、熟練の程度を問わず設定操作を容易にする高周波誘電加熱装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る高周波誘電加熱装置は、加熱スケジュールにより高周波電力が供給される、互いに離間配置された正負電極を備え、前記正負電極間に配置された被加熱物を誘電加熱する加熱部と、前記被加熱物及び前記加熱部の加熱前の初期状態に係る複数の要素のうち、一部の要素については各センサを介して計測値として予め取得し、一方、前記被加熱物及び前記加熱部の加熱前の初期状態に係る複数の要素のうちの残りの要素と、前記被加熱物に対する加熱条件に係る要素とについては、各要素を複数に区分けし、かつ各区分の内容を表す定性的なガイド情報と対応値とを関係付けておき、区分の選択のときに前記定性的なガイド情報を報知すると共に選択された区分に関係付けられた対応値を予め取得する取得手段と、前記被加熱物の性状のうち誘電加熱に関わる性状値、前記計測値及び前記対応値を誘電加熱に基づく加熱条件計算式に導入して前記加熱スケジュールを算出する演算手段とを備えたものである。
【0008】
本発明によれば、被加熱物は、加熱スケジュールに従って加熱される。取得手段は、被加熱物及び加熱部の加熱前の初期状態に係る複数の要素のうち、一部の要素について各センサを介して計測値として予め取得する。一方、取得手段は、残りの要素と、被加熱物に対する加熱条件に係る要素とについては、各要素を複数に区分けし、かつ各区分の内容を表す定性的なガイド情報と対応値とを関係付けておき、区分の選択のときに前記定性的なガイド情報を報知すると共に選択された区分に関係付けられた対応値を予め取得する。そして、演算手段によって、被加熱物の性状のうち誘電加熱に関わる性状値、計測値及び対応値が、誘電加熱に基づく加熱条件計算式に導入されて、加熱スケジュールが算出される。従って、初期状態の他、加熱中及び加熱終了の状態の一方を含む加熱条件を、専門的な数値の入力に代えて定性的な用語等の中からの選択により指示できるため、初心者を含む知識、経験の少ない者でも誤入力が低減される。しかも、相対的に高い精度が望まれる性状値や一部の要素の情報の取得を作業者から引き離すようにすれば、誤入力が抑制され、また誤入力の影響が抑制され得る。このように、加熱処理を施すための状態設定乃至条件設定が数値入力に代えて定性的な情報で選択可能に提示することで行われるので、熟練の程度を問わず設定操作が容易となる。
【0009】
また、本発明は、前記正負電極を接離方向に移動させる駆動部を備え、前記センサは、前記正負電極と前記被加熱物との間のエアギャップを計測する間隔計測部を含み、前記加熱条件計算式は、前記エアギャップが設定される場合(例えば解凍や乾燥)、前記エアギャップがない場合に比して前記総エネルギー量を増加させ、かつ前記加熱スケジュールの出力を抑えつつ出力時間を長く設定するものである。この構成によれば、エアギャップを設けた場合の加熱スケジュールが精度良く算出される。なお、前記加熱条件計算式は、前記エアギャップが大きくなる程、総エネルギー量をより増加させ、かつ前記加熱スケジュールの出力をより抑えつつ出力時間をより長く設定することが好ましく、これによれば、被加熱物のサイズ、形状などに応じたエアギャップの大きさに対する加熱スケジュールが精度良く算出される。
【0010】
また、前記演算手段は、前記高周波電力の単位時間毎の出力を算出して前記加熱スケジュールを得るものである。この構成によれば、加熱スケジュールが精度良く算出される。
【0011】
また、前記加熱条件は、前記被加熱物の加熱結果の要素を含み、前記加熱結果の要素は、仕上がりであって総エネルギー量の多少に関するものである。この構成によれば、加熱結果に係る加熱条件を定性的な用語から分かりやすく選択指定して、意図する総エネルギー量を指示することが可能となる。
【0012】
また、前記加熱条件は、前記被加熱物の加熱経過の要素を含み、前記加熱経過の要素は、前記加熱スケジュールの変更に関するものである。この構成によれば、加熱経過に係る加熱条件を定性的な用語から分かりやすく選択指定して、エネルギーのかけ方、すなわち適正な加熱スケジュールを指示することが可能となる。
【0013】
また、本発明は、加熱動作終了後に、フィードバック処理を行うフィードバック処理手段を備え、前記フィードバック処理手段は、前記加熱条件に従って加熱された被加熱物の出来栄えに関する少なくとも1つの項目を有し、かつ前記項目は少なくとも1つ以上の区分に区分けされ、各区分に、前記出来栄えに関する内容が割り当てられると共に、前記正負電極の間隔、総エネルギー量及び前記加熱スケジュールの少なくとも一つ以上を前記出来栄えに関する内容に対応させて調整する情報が関連付けされており、前記フィードバック処理において、選択された区分に関連付けられている前記調整する情報を前記加熱条件計算式に適用して前記総エネルギー量及び前記加熱スケジュールの少なくとも一方を調整するものである。この構成によれば、加熱動作終了後の被加熱物の出来栄えに関する区分が選択されると、当該出来栄えを調整する情報が設定され、前記加熱条件計算式に適用されて、これによって以降では出来栄えが調整される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、加熱処理を施す際の各種の要素の設定を数値入力に代えて定性的な情報の選択で行わせることで、熟練の程度を問わず設定操作を容易にする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る高周波誘電加熱装置の一実施形態である高周波解凍装置のブロック図である。
【
図2】表示部の画面図で、(A)は、選択画面の一例を示す図、(B)は、解凍処理の終了後の出来栄えに対して必要なフィードバック処理を受け付ける画面図である。
【
図3】解凍処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】木材接着用の高周波加熱における表示部の画面図で、(A),(B)は、
図2の(A),(B)に対応する画面例である。
【
図5】樹脂シートの高周波溶着における表示部の画面図で、(A),(B)は、
図2の(A),(B)に対応する画面例である。
【
図6】セラミックスの高周波乾燥における表示部の画面図で、(A),(B)は、
図2の(A),(B)に対応する画面例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明に係る高周波誘電加熱装置の一実施形態である高周波解凍装置1のブロック図である。高周波解凍装置1は、高周波回路部10、加熱部20、制御部30、表示部40、データ取得部50、及び操作部51を備える。高周波解凍装置1は、所定の外形形状、例えば直方体の筐体を有し、この筐体内に前記した各部10~51が配設されている。
【0017】
高周波回路部10は、電源から所定レベル及び高周波帯の所定周波数(1~100MHz、例えば27MHzや40MHz)の電力信号を生成する発振回路11と、電源側から見た出力インピーダンスを負荷側のインピーダンスと整合させるための整合器12とを備える。高周波回路部10は、後述するように制御部30からの制御信号によって出力レベルが制御される。
【0018】
整合器12は、直列に接続された可変コンデンサC1及びインダクタンス素子L1と、その間に並列に接続された可変コンデンサC2とを備える。可変容量は、解凍の進行に応じて変化する負荷側のインピーダンスを、例えば負荷側からの反射波レベルを公知の進行波反射波検知回路(図略)で検出するなどして自動的に調整されて、マッチング状態が維持される。整合調整部121は、検出された反射波レベルに応じて、整合器12を構成する可変コンデンサC1、C2の対向電極の対向面積を変更する。
【0019】
加熱部20は、本実施形態では、筐体内に加熱室として配備され、上下方向に対向配置されて、互いに水平方向に平行な板状の上電極21と下電極22とを備える。例えば上電極21は正極とされ、下電極22は負極とされる。加熱部20は、上下電極21,22の間に解凍物Wを配置して高周波電力を供給することで誘電加熱作用を利用して解凍処理を行う。上電極21は、上面に立設された例えばボールねじを利用して加熱室内で昇降可能に構成されている。電極昇降部201は、モータなどの駆動源を備え、例えばボールねじを旋回させて、結合されている上電極21を一体で昇降させる。なお、電極昇降部201は、モータ及びボールねじを用いた機構の他、各種のアクチュエータが適用可能である。
【0020】
制御部30は、プロセッサを備えたコンピュータで構成され、解凍処理に関わる制御プログラムなどが記憶された記憶部301に接続されている。制御部30は、制御プログラムを図略のメインメモリに読み出してプロセッサで実行することにより、定性的情報取得処理部31、演算部32、解凍動作処理部33、及びフィードバック処理部34として機能する。
【0021】
まず、記憶部301は、解凍物Wの種類(材料)毎の性質や状態を表す性状データを記憶するデータベースとして機能するとともに材料毎の誘電加熱に基づく加熱条件計算式を記憶し、かつ表示部40に表示する各種の画面画像(例えば
図2)を記憶している。それぞれの詳細については後述する。表1は、解凍物Wの性状データ及び取得情報の内容(要素、条件式に関わる内容、条件式への取り込み方法(取得方法)など)を示している。なお、後述するように、各要素の取得情報には、センサを利用して取得するものと、作業者がガイド(提示)に基づいて選択的に取得するものがある。
【0022】
【0023】
性状データには、本実施形態では以下の要素が例示される。解凍物Wの種類として、鶏肉、豚肉、牛肉、魚などが含まれる(
図2参照)。そして、各種類に対する「データベース」として、主に誘電加熱における解凍効率として主に作用する、誘電率ε
r、tanδ(誘電体損失角)、比熱、熱伝導率、比重、含水率、耐電圧、脂身量、塩分濃度の数値が含まれる。これらの性状データは、後述の取得情報とともにそれぞれ数値(性状値)として、誘電加熱に基づく加熱条件計算式に、変数又は定数乃至係数として導入されて、総エネルギー量、また単位時間毎の出力と出力時間(時間)とで決まる加熱スケジュールを演算する。なお、加熱条件計算式は、性状データ及び取得情報を、理論的に又は実験則などを利用して、変数、定数及び係数として適用して解凍用として作成することができる。加熱条件計算式は、理論式又は実験式でもよく、あるいは混合式として作成されてもよい。
【0024】
ここで、加熱条件計算式について、より具体的に説明する。被加熱物に発生した熱量(総エネルギー量)のうち加熱に用いられる効率をηとすると、総エネルギー量は、電力Pと加熱時間tとの積に効率ηを乗算したものとなる。効率ηは、被加熱物の形、サイズ、伝熱などに依存したもので、例えばそれぞれ比率に換算されて電力Pに関わるようにしてもよい。被加熱物を所定の温度分だけ加熱するのに必要な熱量は、例えば被加熱物の比熱、体積、密度及び温度上昇分の積に対応し、かつ、ηPtに対応する。この基本的な関係に、実験を通じて、必要な性状値、測定値及び対応値を変数として、あるいは係数等として適用することで所要精度の加熱条件計算式が作成される。また、例えばエアギャップに対しても必要な調整が行われる。なお、加熱条件計算式としては、他の観点から、例えば有限要素法などを用いた電磁界シミュレーションや熱解析シミュレーションの計算プログラムをベースにし、実験データを加味させて精度の良い加熱条件計算式を作成してもよい。
【0025】
また、表1において、まず初期状態には、材料の初期温度、形状、均一性、重量、及び電極高さ(ワーク高さ+α)の各要素を含み、さらに、加熱動作開始以降(加熱経過及び加熱結果)を表す加熱条件には、「仕上がり」と「どのように」との要素を含む。「仕上がり」は、どこまで解凍するかの情報であり、「どのように」は、解凍中におけるエネルギーのかけ方の情報である。ここに、「仕上がり」とは、解凍に必要な総エネルギー量の増減に関連するもので、人(作業者)による、定性的な用語、図形等の情報のうちからの選択に基づいて取得される。「どのように」とは、出力と加熱スケジュールの調整に関連するもので、人による、定性的な用語、図形等の情報のうちからの選択に基づいて取得される。なお、定性的な情報の例示として、要素に応じて曖昧な情報を含めてもよい。
【0026】
初期状態の各要素は、予め、すなわち加熱動作開始前に、以下のように、各センサとして機能するデータ取得部50により自動で、あるいは指示に応答して計測され、また操作部51を介してマニュアルで選択的に取得される。測定精度が要求される要素の情報は、センサ(すなわちデータ取得部50)を介して取得(計測)する方が好ましい。なお、操作部51と表示部40とで、主に定性的情報をガイドとした取得手段を構成する。操作部51は、表示部40の画面に積層された透明感圧素子層のタッチパネルであることが好ましい。
【0027】
初期温度は、解凍物Wの表面温度を測定する、例えば放射型の温度計501が適用可能である。なお、温度の取得は、保管冷凍庫の温度が予め分かっている場合などでは、定量的な自動測定に代えて、後述する
図2(A)に例示するような、定性的な冷凍状態を表す表現に対して、人が選択するものでもよい。形状は、主に塊状の解凍物Wの嵩高の程度をいい、形状の取得は、外観に基づいての人による定性的な選択でもよいし、カメラなどで撮影した画像から形状計測部502を利用して形状(典型的には縦、横、高さ)を識別する定量的な自動測定でもよい。形状は、嵩高が高い程、出力を下げ、その分長期の加熱スケジュールに反映され、解凍の不均一などを抑制する。また、塊状の上面に局所的に嵩高な凸部がある場合などでは、部分的な解凍具合の差や煮えの有無又は解凍バラツキが生じやすいことから、その分、出力を下げ、かつ加熱スケジュールを長期化させることで対応する。
【0028】
均一性は、主に塊状の解凍物Wの赤身と脂肪の比率(色)をいい、均一性の取得は、外観に基づいての人による定性的な選択でもよいし、カラー画像が撮像可能なカメラを有する均一性計測部503を利用して、撮影したカラー画像から色を解析する定量的な自動測定でもよい。脂肪比率が高い程、解凍が早く、また不均一解凍になりやすいことから、出力の調整が好ましい。なお、均一性計測部503と形状計測部502とはカメラ部分を共用するタイプでもよい。
【0029】
重量は、主に塊状の解凍物Wの重さをいい、単位重量あたりの加熱に要するエネルギー量から総エネルギー量を算出するのに用いられる。重量の取得は、好ましくは重量計504を利用して定量的に自動測定される。重量計504は、例えば下電極22の下部に配置し、下電極22と一緒に解凍物Wの重量を軽量して、下電極22の既知の重量を差し引くことで算出可能である。なお、重量計504は、直接重量を軽量する態様の他、例えば解凍物Wの包装材の所定箇所に表記等された重量を示す数値又は記号から、カメラを介して読み取る態様でもよい。あるいは、加熱部20に投入する前段階で自動測定する態様でもよい。
【0030】
電極高さ(ワーク高さ+α)は、上電極21の高さ位置、すなわち上下電極21,22間の間隔をいう。αは、解凍物Wの上面と上電極21の下面との隙間(エアギャップ)をいう。上下電極21,22は、塊状の解凍物Wの上面の凸部や四隅等に生じやすい部分的な煮えなどの発生を抑制するために、上電極21を解凍物Wの上面に対して、例えば20~30mm程度の、所定のエアギャップαを持たせている。その結果、必要な総エネルギー量、及び出力と加熱スケジュールとの設定に影響している。例えばエアギャップαが大きい程、対応させて総エネルギー量を大きくし、また好ましくは加熱スケジュールをより長く設定する。
【0031】
電極高さ(ワーク高さ+α)の計測は、電極間隔計測部505を適用した種々の方法で行うことができ、必要に応じてワーク高さとエアギャップαの双方の測定が可能な態様が採用される。例えば、レーザ式、LED式、また赤外線、超音波を利用したセンサが利用可能である。また、上電極21の昇降動作を行わせるアクチュエータ、例えばモータの回転量を、モータ軸に介設したロータリーエンコーダ等の電極間隔計測部505で計測することで、回転量と昇降距離との既知の関係を用いて下電極22との間の距離を計測するようにしてもよい。この場合、例えば上電極21を上方から降下させて、解凍物Wとの接触を、例えばモータ負荷電流の変化や別途設けたスイッチ等で一旦検知すると、上電極21の移動方向を上方に反転させて距離α分(に相当するパルス数)だけ上昇させて停止するようにしている。
【0032】
図2(A)は、表示部40に表示される選択画面41の一例を示す。画面41は、操作部51を介して初期状態、加熱条件のうちの複数の要素に係る定性的情報の選択を受け付けるための画像を示している。各要素は、行方向に配列されている。各要素は、複数に区分けされており、
図2(A)に示すように、各区分は列方向に配置される複数のボタンで表わされている。各ボタンには、各区分の内容を表す定性的なガイド情報が表記されている。複数の要素は、本例では、初期温度帯、仕上り目標及び解凍モードの3種であり、区分数はそれぞれ3個である。なお、要素は3種に限らず、また区分数も要素の内容に応じてそれぞれ個別の個数であってもよい。
【0033】
図2(A)において、初期温度帯は、定性的表現に定量的情報を参考として併記したもので、より選択しやすい表現で扱われており、左側から順に、やや低い(―30℃)、標準(―20℃)、やや高い(―10℃)に区分けされている。なお、ボタンの濃度が相対的に濃くなっているボタン、ここでは「標準(―20℃)」は、選択中であることを視認容易に示しているものである。仕上り目標は、ハード(―5℃程度)、ミディアム(―3℃程度)、及びソフト(―1℃程度)に区分けされており、また、図形でも示されている。なお、併記されている数値は目安乃至参考程度であり、全体として定性的情報のように扱われている。また、解凍モードは、じっくり、ややじっくり、標準という定性的情報により区分けされている。定性的情報取得処理部31は、画面41に、解凍物Wの種類の表示に続いて複数の要素の定性的情報を表示し、各要素について、いずれかの意図する区分を定性的情報に基づいて選択することをガイドする。操作部51で選択されたボタン、すなわち区分は、記憶部301に一時的に取得、すなわち格納される。
【0034】
各要素について選択された区分の情報は、加熱条件計算式での演算に反映される。ここで、区分と、区分が有する情報である、演算のための数値との関係の一例について説明する。各要素の各区分には、それぞれ定性的な内容(ガイド情報)が付され、それに関連した対応値が設定付けられて、記憶部301に記憶されている。各区分に関連付けられた各対応値は、対応する区分が選択された場合に、関連付けされた対応値が、いわゆるデフォルト値として読み出されて加熱条件計算式に導入される。一方、本実施形態のように、後述するフィードバック機能を備える場合、1つの区分に対して大小の複数の対応値が準備され、かつそのうちの1つの対応値が、後述するようにしてフィードバック指示の都度、デフォルト値として設定され、加熱条件計算式に導入されるようにすることができる。
【0035】
例えば、ある区分が選択された場合、典型的には、その区分内の中央の対応値が、その区分のデフォルト値として加熱条件計算式に適用される。一方、フィードバック指示を受け付ける場合、フィードバックで指示された方向となる隣の対応値がデフォルト値として変更され、変更された対応値が当該区分の新たなデフォルト値として更新される。このようにして、フィードバック指示があるたびに定性的情報の内容が対応値に変換され、かつ微調整され、次の解凍動作のための加熱条件計算式に用いられることで、解凍の加熱状態を微調整を通じて目標に近づけることが可能となる。なお、区分に準備される対応値の個数は中央の対応値を含む3個あればよく、フィードバック機能を好適に実現する上では、それ以上であってもよい。
【0036】
演算部32は、データ取得部50から自動的に取得された定量的な計測値と、操作部51を介してマニュアルで取得された対応値(前記したデフォルト値)と、記憶部301に予め書き込まれた性状値とに基づいて誘電加熱に基づく加熱条件計算式の演算を実行する。演算部32は、指示された解凍に必要な総エネルギー量を算出し、また経時方向に対する高周波電力の出力レベルを、単位時間毎に終了時間まで算出し、加熱スケジュールとして一時的に記憶部301に記憶する。なお、演算部32は、フィードバック指示があった場合の他、解凍物Wの解凍毎に演算を実行してもよく、あるいはロット単位で演算を実行するような態様でもよい。
【0037】
解凍動作処理部33は、解凍動作を開始すると共に、演算した高周波電力レベルを加熱部20に導くよう、単位時間間隔で高周波回路部10の動作を制御する。
【0038】
図2(B)は、解凍処理の終了後の出来栄えに対して必要なフィードバック処理を受け付ける画面42である。フィードバック処理部34は、定性的な選択に起因する曖昧さを吸収乃至解消するべく、解凍終了後に、作業者が出来栄えを確認して初期状態及び加熱条件に関連する要素を操作部51を介して微調整するものである。微調整の候補としては、電極間隔や総エネルギー量、加熱スケジュールが挙げられる。
【0039】
本実施形態では、解凍具合、煮え、及び解凍バラつきの3つの項目が選択可能に表示されている。解凍具合は、溶けすぎ、良、解凍不足のボタン選択が可能であり、主に仕上がり目標に影響する。例えば溶けすぎが選択されると、
図2(A)の仕上がり目標のうち、現在設定されているデフォルト値が1個分だけ低温側の対応値に変更されて、新たなデフォルト値として更新される。解凍具合におけるデフォルト値の変更は、加熱条件計算式によって総エネルギー量及び加熱スケジュールの変更に影響する。また、良が選択され、あるいはいずれも選択されない場合、デフォルト値は変更されない。一方、解凍不足が選択されると、対応値は1個分だけ高温側の対応値に変更されて、新たなデフォルト値として更新される。また、解凍具合に対して、解凍モードも同様にデフォルト値の更新に係る処理が行われてもよい。あるいは、仕上がり目標及び解凍モードの一方に対してのみ、フィードバック指示が実行されてもよい。
【0040】
煮え及び解凍バラつきの項目は、あり、なしの2択であり、ありの場合には、仕上がり目標や解凍モードに影響し、対応する区分のデフォルト値が更新され得る。なしの場合には、デフォルト値は変更されない。より具体的には、「煮えあり」が選択された場合、総エネルギー量が大きすぎる、短時間にエネルギーを掛け過ぎ(時間が短い)、電極間隔が狭い、を緩和する方向のデフォルト値に更新され、「解凍バラツキあり」が選択された場合、短時間にエネルギーを掛け過ぎ(時間が短い)、総エネルギー量が少ない、を緩和する方向のデフォルト値に更新される。
【0041】
なお、フィードバック処理におけるデフォルト値の更新方法は、前記したような、予め準備した複数の対応値からデフォルト値を適宜選出する方法の他、例えば、予め1つの対応値を設定しておき、フィードバック指示に応じて加減方向に所定の比率を乗算して、あるいは所定の数値を加減算して、新たなデフォルト値を算出し、更新する方法でもよい。
【0042】
図3は、解凍処理の一例を示すフローチャートである。制御部30は、表示部40に定性的情報の取得画面(
図2(A))を表示するとともに(ステップS1)、データ取得部50及び操作部51からの初期状態、加熱条件に係る全ての情報の取得の有無が判断される(ステップS3)。全ての情報が取得されると、計測値、対応値(デフォルト値)及び性状値に基づいて、加熱条件演算式の演算が実行され、総エネルギー量、また、出力と加熱スケジュールとが算出される(ステップS5)。算出された出力と加熱スケジュールとの内容は一時的に記憶部301に保管される(ステップS7)。次いで、加熱動作が開始されて、加熱動作の処理が実行される(ステップS9)。
【0043】
続いて、加熱動作の終了か否かが判断され(ステップS11)、終了でなければ、ステップS9に戻って加熱スケジュールに沿った処理が継続される。一方、加熱動作の終了であれば、表示部40にフィードバック指示画面が表示され(ステップS13)、フィードバック指示を待つ。次いで、フィードバック指示があれば(ステップS15でYes)、指示された項目かつ区分に対応してデフォルト値の変更が行われ、かつ更新される(ステップS17)。次いで、解凍処理の終了か否か、例えば一連の乃至すべての解凍物Wの解凍処理が終了したかが判断される(ステップS19)。一方、ステップS15で、フィードバック指示がない場合(及びフィードバック指示がデフォルト値の更新を伴わない操作の場合)、ステップS17をスキップして、終了したか否かが判断される(ステップS19)。なお、終了ではない場合(ステップS19でNo)、ステップS5に戻ってフィードバック処理が施されて、ステップS7以降の処理が継続される。なお、新たに加熱処理を行う際に、前回までの加熱処理におけるフィードバック指示でデフォルト値が更新されているときは、更新されたデフォルト値で加熱条件演算式が実行される。一方、加熱処理が終了した時点で、更新されているデフォルト値が自動的にリセット処理されたり、あるいは指示を介してリセット処理を可能にしたりしてもよい。また、更新データを記憶部301に保管する際に作業者のID情報と一体で保管することで、次回の作業時に、更新されたデフォルト値も含めて過去の内容を読み出すようにしてもよい。
【0044】
<他の実施形態>
高周波誘電加熱において、初期状態及び加熱条件に対して定量的な情報の他に定性的な情報で選択入力する態様は、加熱対象物の違いを除けば、高周波解凍装置に限らず、各種の高周波誘電加熱処理に適用でき、例えば木材同士を接着剤を溶融して接着する高周波加熱での態様(表2、
図4参照)、又は樹脂シートやプラスチック材の接着、溶着を行う高周波加熱での態様(表3、
図5参照)、あるいはセラミックスの乾燥を行う高周波加熱での態様(表4、
図6参照)にも同様に適用され得る。なお、高周波木材接着装置及び高周波加熱装置は、
図1と実質的に同様の構成を有し、ただ加熱部20は、公知のように加熱対象物の形状、加熱目的などに応じて相違した構成を有する。以下、説明する。
【0045】
木材接着用の高周波加熱とは、テーブルの天板、ドア、クローゼットの扉などを加工する技術で、木製の枠や芯板(パーチクルボードやMDF(中密度繊維板))の表面に接着剤を塗布して合板、化粧板などの表面材を積層して一定の厚みの製品を加工するものである。この高周波加熱装置は、所定距離を置いて棒状の電極を平行かつ極性が交互に異なるように複数本離間配設した電極構造体を単体、あるいは対向して一対設けたもので、交互の電極間に所定の加圧力で当接した加工品(被加熱物)を誘電加熱することで製品を加工製造する(特開平11-28706号公報参照)。
【0046】
【0047】
表2に示す「データベース」としての性状データには、木材、面材及び接着剤の各種が含まれる。性状データは、主に誘電加熱における加熱効率として作用する。また、各性状データに応じた加熱条件計算式も格納されている。これらの性状データは、取得情報とともに、総エネルギー量、及び出力と加熱スケジュールを演算する際の変数、係数等として用いられる。また、表2に示すように、加圧力を自動計算する式も格納されている。
【0048】
初期状態には、初期温度、含水率、芯材比率(対向面に対し、接着剤の塗布された面との比)、面材厚み、幅、長さ、高さ(=電極間隔)の要素が含まれ、各要素の情報は、人により取得され、あるいは対応するセンサにより自動計測で取得されることが好ましい。なお、芯材比率及び面材厚みは、操作部51による選択取得でもよい(
図4(A)参照)。さらに、加熱動作開始以降の加熱条件として、「仕上がり」と「どのように」とを含む。「仕上がり」とは、どこまで加熱するかの情報であり、「どのように」とは、加熱中での加圧力及びエネルギーのかけ方の情報である。ここに、「仕上がり」とは、必要な総エネルギー量の増減に関連するもので、定性的な用語、図形等の情報のうちからの人の選択に基づいて取得される。「どのように」とは、加圧力を変えたりするもので、また、エネルギーのかけ方は、出力と加熱スケジュールの調整に関連するもので、定性的な用語、図形等の情報のうちからの人の選択に基づいて取得される。
【0049】
図4(A),(B)は、
図2(A),(B)に対応する情報取得画面の例である。
図4(A)の画面例では、定量的あるいは定性的な選択要素として、加熱物の他、芯材比率、面材種類、面材厚み、及び加熱スケジュールを含み、4区分又は3区分に区分けされている。芯材比率は、定性的なガイド情報で4区分に区分けされ、それぞれに定量的な%数値(中間値)が参考用として併記されている。面材種類は、種類を選択すると対応する数値乃至係数等に変換されて加熱条件計算式に適用される。面材厚みは、定性的なガイド情報に参考用として数値範囲が併記されている。加熱スケジュールは、人の動きの速さを示唆する絵文字と、クイック、スタンダード及びスローのような定性的な文字との併記で表現している。
【0050】
図4(B)のフィードバック画面では、加熱結果、面材浪打、芯材痕の3つの項目が選択可能にされている。加熱結果は、弱い、良、強い、の指定が可能であり、必要な総エネルギー量の増減に反映される。面材浪打は、あり、なしの2択であり、ありの場合には、出力を抑制し、かつ加熱スケジュールを長めにするように反映される。芯材痕は、あり、なしの2択であり、ありの場合には、出力を抑制し、かつ加熱スケジュールを長めにするように反映される。
【0051】
【0052】
表3に示す「データベース」としての性状データには、材料の種類毎の誘電率εr、tanδ(誘電体損失角)、比熱、耐電圧、熱伝導率、比重等の性状値を含む。性状データは、画像処理やセンサによって自動判別、計測してもよい。また、材料毎の加熱条件計算式も格納されている。さらに、装置側の情報として、金型情報(種類:面積、形状)、生地厚み、仕上がり厚み、エネルギーのかけ方の各要素が含まれる。これらの性状データは、取得情報とともに、総エネルギー量、及び出力と加熱スケジュールを演算する際の変数として用いられる。また、加圧力の算出する式も格納されている。
【0053】
初期状態には、初期温度、ヒータ温度を含み、初期温度は自動測定で、ヒータ温度はデータベースからの自動設定となる。さらに、加熱要件として「仕上がり」を含む。「仕上がり」とは、仕上がり厚みの情報で、必要な総エネルギー量及び加圧力に対応するものである。
【0054】
図5(A),(B)は、
図2(A),(B)に対応する情報取得画面の例である。
図5(A)の画面では、生地種類及び金型種類の他、定性的な選択要素として、仕上がり厚みと加熱スケジュールとを含む。生地種別は材料名であり、金型種類は金型タイプA,B・・・であり、これらの選択結果に応じて適用される加熱条件計算式が設定される。加熱条件である仕上がり厚みは、定性的な表現で5区分が準備されると共に数値が参考例として例示され、必要な総エネルギー量及び(正負電極間の)加圧力の増減に反映される。加熱スケジュールは、
図4(A)と同一である。
【0055】
図5(B)のフィードバック画面では、溶着具合、仕上がり厚みの2つの項目が選択可能にされている。溶着具合は、溶けすぎ、良、加熱不足、の選択が可能であり、溶けすぎか加熱不足かが選択されると、該当する区分のデフォルト値が更新されて必要な総エネルギー量の増減、また加圧力の変更に反映される。仕上がり厚みは、薄い、良、厚い、の選択が可能であり、薄いか厚いが選択されると、
図5(A)の仕上がり厚みの要素に設定されているデフォルト値が更新される。
【0056】
【0057】
表4に示す「データベース」としての性状データには、材料の種類毎の誘電率εr、tanδ(誘電体損失角)、比熱、耐電圧、熱伝導率、比重及び含水率等の性状値を含む。また、材料毎の加熱条件計算式も格納されている。
【0058】
初期状態には、初期温度、含水率、形状、均一性、重量及び電極高さ(ワーク高さ+α)の要素を含み、各要素の情報は人により取得され、あるいは自動計測で取得される。重量やワーク高さはセンサによって測定している。さらに、加熱条件として、「仕上がり」と「どのように」との要素を含み、人(作業者)による定性的な情報の選択に基づいて算出され得る。
【0059】
図6(A),(B)は、
図2(A),(B)に対応する情報取得画面の例である。
図6(A)の画面では、定性的な選択要素として、初期状態のうちの含水率を含み、加熱条件のうちの乾燥の程度を定性情報で指示する「仕上がり」を含み、さらに
図4(A)と同様の加熱スケジュールを含む。
【0060】
図6(B)のフィードバック画面では、加熱結果、面材浪打、芯材痕の3つの項目が選択可能にされている。加熱結果は、弱い、良、強い、の選択が可能であり、必要な総エネルギー量の増減に反映される。面材浪打は、あり、なしの2択であり、ありの場合には、出力を抑制し、かつ加熱スケジュールを長めにするように反映される。芯材痕は、乾燥バラツキに起因すると思われ、あり、なしの2択である。ありの場合には、出力を抑制し、かつ加熱スケジュールを長めにするように反映される。
【0061】
なお、定性的な情報としては、名詞や形容詞、副詞、レベルや状態を表現する用語、範囲を含む用語、定量的表現と併記、又は図形などが適用可能である。定性的な図形の例として、絵文字や絵単語などの視覚記号が挙げられる。また、すべてが定性的な用語で選択可能に提示されている必要はなく、数値入力を不要とする態様であれば、中間値や数値範囲を参考的に提示する態様を含めてもよい。以上によれば、作業者が直接数値入力を強いられることがなく、しかも定性的な内容に基づいて選択をガイドされ、かつ選択操作で済むため、熟練者でなくても設定操作が可能となる。また、定性的情報をガイドとした取得手段としては、前記実施形態の表示方式に限定されず、例えばマイクとスピーカを備えた音声方式でもよい。
【0062】
また、フィードバック処理は、出来栄えに関する項目内の意図する内容の区分を選択すると、当該区分に関連付けられている調整する情報を直接加熱条件計算式に導入して総エネルギー量及び加熱スケジュールの少なくとも一方を調整する方法でもよいし、調整する情報を、対応する初期状態の計測値及び加熱条件に係る要素の現在の区分の対応値などに反映させて加熱条件計算式に導入して総エネルギー量及び加熱スケジュールの少なくとも一方を調整する方法でもよい。いずれの方法でも加熱条件計算式に適用されて、出来栄えが調整される。
【0063】
また、フィードバック処理のための項目内の区分数は複数であってもよいが、項目によっては1つでもよい(例えば、「なし」のボタンを除き、確定ボタン「OK」で代用するようにしてもよい。)。
【符号の説明】
【0064】
1 高周波解凍装置
10 高周波回路部
20 加熱部
21 上電極
22 下電極
30 制御部
201 電極昇降部(駆動部)
301 記憶部
31 定性的情報取得処理部(取得手段の一部)
32 演算部(演算手段)
33 解凍動作処理部
34 フィードバック処理部(フィードバック処理手段)
40 表示部(取得手段の一部)
50 データ取得部(取得手段の一部、センサ)
505 電極間隔計測部(間隔計測部)
51 操作部(取得手段の一部)
W 解凍物