(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029545
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】散播機構および複合播種機
(51)【国際特許分類】
A01C 7/08 20060101AFI20240228BHJP
A01C 7/06 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
A01C7/08 310J
A01C7/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131868
(22)【出願日】2022-08-22
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】594156880
【氏名又は名称】三重県
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100224661
【弁理士】
【氏名又は名称】牧内 直征
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩二
(72)【発明者】
【氏名】松岡 清隆
(72)【発明者】
【氏名】平岡 啓司
【テーマコード(参考)】
2B054
【Fターム(参考)】
2B054AA15
2B054BA01
2B054BB01
2B054CA01
2B054CA04
2B054CB01
2B054CB03
2B054CB07
(57)【要約】
【課題】簡易な構造でありながら種子を効率よく均一に散布できる散播機構、および、この散播機構を備えた複合播種機を提供する。
【解決手段】散播機構1は、種子を下方へ投下する投下部3と、該投下部から投下される種子を周囲に散布する散布部4とを有し、散布部4は、上方に凸な略半球形状であり、種子が、牧草種子であり、散布部4の上面に、複数の同心円状の段部が形成されており、散布部4は、該散布部の地面に対する角度を調節する角度調節部5によって投下部3に接続されており、角度調節部5の最小外径が、散布部4の直径の10~30%である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
種子の散布に用いられる散播機構であって、
前記散播機構は、前記種子を下方へ投下する投下部と、該投下部から投下される前記種子を周囲に散布する散布部とを有し、
前記散布部は、上方に凸な略半球形状であることを特徴とする散播機構。
【請求項2】
前記種子が、牧草種子であることを特徴とする請求項1記載の散播機構。
【請求項3】
前記散布部の上面に、複数の同心円状の段部が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の散播機構。
【請求項4】
前記散布部は、該散布部の地面に対する角度を調節する角度調節部によって前記投下部に接続されており、
前記角度調節部の最小外径が、前記散布部の直径の10~30%であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の散播機構。
【請求項5】
圃場の耕起を行う耕起装置と、施肥を行う施肥装置と、播種を行う播種装置と、播種された種子を覆土する覆土装置とを備えた複合播種機であって、
前記播種装置が、請求項1または請求項2記載の散播機構を有することを特徴とする複合播種機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場への種子の散布に用いる散播機構、および、この散播機構を備えた複合播種機に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の人口は減少の一途をたどっており、農業分野においては、高齢化、後継者不足が年々進んでいる。労働力が減少する中、耕種農業、畜産農業ともに従来の方法は多くの重労働や手間のかかる作業を含んでおり、農作業の省力化、効率化が急務となっている。
【0003】
例えば、圃場へ種子を播く作業は、耕起・施肥・播種・覆土・鎮圧という、多数の作業工程から成り立っている。従来、各作業工程ごとにトラクターに各種作業機を付け替えなければならず、また作業機の操作には熟練技術が要求され、作業効率の向上が問題となっていた。このような問題の改善のために、種々の方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、耕うんしながら施肥し、種子を分散して播種すると共に、砕土・覆土を一工程で行う施肥・播種装置が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、種子・肥料・土壌改良材の無駄を無くし草地の整備ができる草地更新機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-286003号公報
【特許文献2】特開2008-220210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献1および特許文献2の播種機構に着目すると、特許文献1では、小麦の播種を目的としており、種子を散布(以下、「散播」ともいう)するために平面板体の上面に多数の釘をランダムに打ち込んだ複雑な構造の分散板を用いている。ここで、種子は、種類によって形状や、大きさ、重量が大きく異なるため、特許文献1記載の播種機構では、小麦以外の種子の場合、均一に散播できない場合があると考えられる。特に、牧草種子の場合、小麦よりも小さく軽量であるため均一な散播が難しい場合があると考えられる。牧草生産において、均一な散播は牧草量の増加に繋がるため、作業効率向上と牧草生産量向上の観点から、播種機構が簡易な構造でありつつ均一に散播できることが好ましい。
【0008】
また、特許文献2記載の草地更新機は、牧草種子を吐出供給して条播する機構であり、種子を分散させて均一に散布する事には不適であると考えられる。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、簡易な構造でありながら種子を効率よく均一に散布できる散播機構、および、この散播機構を備えた複合播種機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の散播機構は、種子の散布に用いられる散播機構であって、上記散播機構は、上記種子を下方へ投下する投下部と、該投下部から投下される上記種子を周囲に散布する散布部とを有し、上記散布部は、上方に凸な略半球形状であることを特徴とする。
【0011】
上記種子が、牧草種子であることを特徴とする。
【0012】
上記散布部の上面に、複数の同心円状の段部が形成されていることを特徴とする。
【0013】
上記散布部は、該散布部の地面に対する角度を調節する角度調節部によって上記投下部に接続されており、上記角度調節部の最小外径が、上記散布部の直径の10~30%であることを特徴とする。
【0014】
本発明の複合播種機は、圃場の耕起を行う耕起装置と、施肥を行う施肥装置と、播種を行う播種装置と、播種された種子を覆土する覆土装置とを備えた複合播種機であって、上記播種装置が、請求項1または請求項2記載の散播機構を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の散播機構は、種子の散布に用いられる散播機構であって、散播機構は、種子を下方へ投下する投下部と、該投下部から投下される種子を周囲に散布する散布部とを有し、散布部は、上方に凸な略半球形状であるので、簡易な構造でありながら、種子の落下方向を略垂直方向から散布部の径方向(水平方向)へと容易に変換でき、種子を効率よく均一に散布できる。
【0016】
散布する種子が牧草種子の場合でも、均一に散布できる。
【0017】
散布部の上面に、複数の同心円状の段部が形成されているので、種子の散布部への衝突時に段部から水平方向の力を受けやすい。これにより、種子がより遠くへ散布されやすく、隣接する散播機構との間がムラになりにくい。
【0018】
散布部は、該散布部の地面に対する角度を調節する角度調節部によって投下部に接続されており、角度調節部の最小外径が、散布部の直径の10~30%であるので、散布部が上下方向や、水平方向に振動しやすい。このような、装置の稼働により自然に発生する散布部の動きによって散布部と種子との衝突時に種子がより遠くへ弾き飛ばされやすいため、より均一な播種に繋がりやすい。
【0019】
本発明の複合播種機は、播種装置が上述した散播機構を有するので、耕起、施肥、播種、覆土の各作業を一度でまとめて行うことができるとともに、種子を効率よく均一に散布でき、作業性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図3】散播機構による種子の散布を示す概略図である。
【
図6】実施例1で牧草播種した圃場の出芽状況を示す写真である。
【
図7】比較例1で牧草播種した圃場の出芽状況を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の散播機構の一例を
図1から
図3に基づいて説明する。
図1(a)は本発明の散播機構の側面図であり、
図1(b)は
図1(a)におけるA矢視図である。
図1に示すように、本発明の散播機構1は、播種を行う播種装置(シーダ)の種子放出部20に接続部2を介して設けられている。ここで、播種装置には、種子箱に入れた種を一定間隔で送り出す手押しタイプの播種装置と、トラクターに牽引させる牽引タイプの播種装置13(
図4参照)の2種類がある。手押しタイプの播種装置は、小規模の圃場や家庭菜園などで使用され、牽引タイプの播種装置は、大規模な圃場での播種作業に使用される場合が多い。牽引タイプの播種装置には、散播機、点播機、条播機などがある。本発明の散播機構1は、このような種々の播種装置に設けることができる。
【0022】
散播機構1は、播種装置に接続される接続部2と、種子を下方へ投下する投下部3と、該投下部から投下される種子を周囲に散布する散布部4とを有している。投下部3は、平面視四角形の略漏斗状の接続部2の下方先端部外周を取り囲んで嵌め合うように設けられている。播種装置の種子放出部20の形状に適合した接続部2を選択することで、種々の播種装置に対して同一形状の投下部3と散布部4を有する散播機構1を適用できる。散播機構1は、種子放出部20から下方へ略垂直に放出される種子の方向を径方向外側へと変化させ、散播するのに用いられる。なお、接続部2と投下部3とは、別々の部材でなく、播種装置への接続と散布部4の上への種子投下機能を併せ持った一つの部材であってもよい。また、散播機構1は、播種装置の一部として一体的に形成されてもよい。
【0023】
散布部4は、散布部4の地面に対する角度θを調節する角度調節部5によって投下部3に接続されている。角度調節部5は、投下部3の側部に設けられ下方へ延出する軸部51と、散布部4の側部に設けられ上方へ延出する筒部52とから構成されている。軸部51の先端には略球状のボール部が形成されており、筒部52の内部に嵌め合わせることで、軸部51と筒部52とのなす角度(すなわち散布部4の地面に対する角度θ)を自在に調節できる。なお、角度調節部5は、上述の形態に限られない。角度調節部5としては、例えば、蛇腹状ホース、2軸回転機構など、散布部4の地面に対する角度θを調節可能な部材であれば自由に用いることができる。
【0024】
散播機構1は、角度調節部5が散播時の進行方向側に位置するように播種装置に設けられることが好ましい。この場合、散播される種子が角度調節部5に当たりにくいため、均一に散布されやすい。角度θは、例えば、約80~130°であり、約90~110°であることが好ましい。角度θが約90~110°である場合は、散播される種子が角度調節部5により当たりにくく、より均一に散布されやすい。また、散布部4は、散播時の進行方向に対して左右のいずれかの側に傾斜していてもよい。例えば、進行方向に対して左側に設けられる散播機構1の散布部4は左側に傾斜し、進行方向に対して右側に設けられる散播機構1の散布部4は右側に傾斜するなどしてもよい。
【0025】
散播機構1を構成する各部材の高さ方向のサイズについて説明する。投下部3の高さH1は、例えば、約5~45mmであり、約15mmであることが好ましい。散布部4の高さH2は、例えば、約4~40mmであり、約13mmであることが好ましい。散布部4の下端から投下部3の上端までの高さH3は、例えば、約15~170mmであり、約50mmであることが好ましい。筒部52の高さH4は、例えば、約7~70mmであり、約23mmであることが好ましい。
【0026】
散播機構1を構成する各部材の水平方向のサイズについて
図2を用いて説明する。
図2は本発明の散播機構の平面図である。
図2(a)は
図1(b)におけるB矢視図であり、
図2(b)は
図1(b)におけるC矢視図である。
図2において、播種装置は省略し、散播機構のみが描かれている。投下部3の長辺方向の幅W1は、例えば、約15~170mmであり、約55mmであることが好ましい。短辺方向の幅W2は、例えば、約10~100mmであり、約34mmであることが好ましい。また、散布部4の直径D1は、例えば、約15~170mmであり、約55mmであることが好ましい。筒部52の直径D2は、例えば、約4~40mmであり、約12mmであることが好ましい。軸部51の直径D3は、例えば、約3~25mmであり、約8mmであることが好ましい。
【0027】
図2(a)に示すように、散布部4の上面には、複数の同心円状の段部41が形成されている。複数の段部41の高さは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。複数の段部41の高さが異なる場合、段部41の高さは、例えば、中心部から外周部へ向かうにつれて徐々に高くできる。また、段部41の高さは、中心部から外周部へ向かうにつれて徐々に低くなるようにしてもよい。段部41の高さは、例えば、0.1~5mmとできる。段部41は、衝突した種子に水平方向への力を付与する。また、段部41が同心円状に形成されていることで、散布部4に衝突した種子を均一に周囲に散布することができる。
【0028】
図2(a)において、散布部4の上面には、6本の同心円状の段部41が形成されているが、段部41の数はこれに限られない。隣接する段部41同士の間隔は、例えば、0.1~10mmとできる。なお、散布部4の上面には、段部41が形成されていなくてもよい。種子がより均一に散布される観点から、段部41は、3~20本であることが好ましく、5~15本であることがより好ましい。なお、段部41は形成されていなくてもよい。
【0029】
ここで、再度
図1を用いて散布部4の形状について説明する。散布部4は上方に凸な略半球形状であり、下部に板状部を有している。なお、散布部4は内部に空間を有する中空体であってもよいし、中実体であってもよい。また、散布部4は下部に板状部を有しておらず、上方に所定の曲率で湾曲した板状の部材のみから構成されていてもよい。
【0030】
散布部4の上面において、中心部(トップ部分)周辺の領域(高さH2の1/2よりも上側の領域)は曲率半径rで湾曲した球面である。曲率半径rは、例えば、散布部4の直径D1の0.5~4倍であり、1~3倍であることが好ましく、1~2倍であることがより好ましい。なお、散布部4の上面は、中心部から周辺部(外周部)へと進むにつれて曲率が徐々に大きくなってもよい。また、散布部4の上面は、全体が一定の曲率の球面であってもよい。投下部3の下端と散布部4の上端との距離Gは、例えば、約15~40mmであり、約25mmであることが好ましい。
【0031】
散播機構による種子の散布について
図3を用いて説明する。
図3(a)は既存の条播用播種装置における種子放出部周辺の側面図であり、
図3(b)は種子放出部に本発明の散播機構を取り付けた状態の側面図である。
図3(a)に示すように、条播用播種装置の場合、種子放出部20の先端には投下筒6が設けられており、種子Sがすじ状に播種される。一方、
図3(b)に示すように、種子放出部20に本発明の散播機構1を設けた場合、投下部3から真下へ落下する種子Sは散布部4の上面に衝突する。種子Sは、衝突部の角度や段部の有無に応じて散布部4の周囲に散布される。散布部4は上方に凸な略半球形状であるため、散布部4の中心部に衝突した種子Sは散布部4から垂直(上)方向の力成分を多く受けることで散布部4の比較的近くに散布される。また、外周部に衝突した種子Sは散布部4から水平方向(径方向外側)への力成分を多く受けることで散布部4から遠くへ散布される。このように、既存の条播用播種装置を用いて、種子放出部20に散播機構1を設けるだけで、簡易に種子の均一な散布を行うことができる。また、散播機構1は、種子の落下を利用することで播種装置の近傍の領域に均一に散播することができる。散播機構1は、羽根などの回転体により種子を遠くへと散布する機構ではないため、隣接する圃場へ種子が飛散しにくい。
【0032】
本発明の散播機構により播種する種子は、牧草種子であることが好ましい。比較的小さく(長さ数mm程度)軽量な牧草種子の場合、比較的重く散布されやすい(空気抵抗を受けにくい)小麦などを散播対象とした特許文献1に記載の播種機構では均一に散布できない場合があると考えられるが、本発明の散播機構によれば、上方に凸な略半球形状の散布部によって落下(播種)方向を径方向へ変えられるため、簡易に均一な散布ができる。牧草種子としては、例えば、イタリアンライグラス(長細く扁平形状)などの牧草の種子を選択できる。なお、このような牧草種子を条播用播種装置で播種した場合、圃場全体への均一な播種ができずムラができやすい。
【0033】
散布部4は、該散布部の地面に対する角度を調節する角度調節部5によって投下部3に接続されている。角度調節部5の最小外径は、散布部4の直径D1(
図2参照)の10~30%であることが好ましい。角度調節部5は、散布部4の側部に接続している。この接続箇所は、散布部4の直径中心線上からずらした位置とされている。角度調節部5が、散布部4に対して小さく(細く)、散布部4の側部(特に中心からずらした位置)に接続しているため、播種装置運転時の上下方向や水平方向の振動を受けて散布部4も振動しやすい。このような、装置の稼働により自然に発生する散布部の動きによって散布部と種子との衝突時に種子がより遠くへ弾き飛ばされやすいため、より均一な散布に繋がりやすい。
【0034】
本発明の散播機構の製造方法について説明する。本発明の散播機構を構成する各部材は、例えば、3次元積層造形、切削加工、鋳造、樹脂成型、射出成形などの種々の方法を単独または組み合わせて製造できる。また、本発明の散播機構は、接続部、投下部、散布部などの複数の部材を接着や、嵌め合いにより組み合わせて1つの構造体として製造することに限らず、連続して一体的に形成された構造体として製造してもよい。製造方法としては、3次元積層造形法や射出成形法が好ましく、原料使用量の低減、形状自由度、試作容易性などの観点から、3次元積層造形法を用いることが特に好ましい。また、3次元積層造形法は、その造形方法に起因して層状の外表面が形成されるため、散布部への同心円状の段部形成にも適しており好ましい。
【0035】
本発明の散播機構の素材としては、例えば、金属材料や、樹脂材料を用いることができる。金属材料としては、アルミニウム、銅、ステンレス、鋼などを用いることができる。また、樹脂材料としては、ABS樹脂、PLA樹脂、エラストマー、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、各種エンジニアリングプラスチック、繊維強化樹脂などを用いることができる。3次元積層造形法により散播機構を製造する場合、金属材料、樹脂材料ともに使用することができ、装置や原料が安価であることから、樹脂材料を用いることが好ましい。樹脂材料としては、ABS樹脂、PLA樹脂、エラストマー、ウレタン樹脂を用いることが好ましい。これらの樹脂材料を用いる場合、散播機構が適度な耐久性(機械的強度)を有するとともに、播種装置の振動を増幅して振動しやすいため、衝突した種子を弾き飛ばしやすく、種子がより均一に散布されやすい。
【0036】
本発明の散播機構は、播種装置に設けて播種装置単独で使用することに限らず、複合播種機における播種装置に設けて使用することもできる。ここで、複合播種機とは、播種装置を播種以外の機能を有する装置と複合化して作業効率化を図った機械である。
【0037】
本発明の複合播種機の一例を
図4および
図5に基づいて説明する。
図4は本発明の複合播種機の側面図である。
図4に示すように、本発明の複合播種機10は、圃場の耕起(浅耕)を行う耕起装置11と、施肥を行う施肥装置12と、播種を行う播種装置13と、播種された種子を覆土する覆土装置14とを備えている。
図4において、紙面右側が複合播種機10の進行方向であり、紙面右側から耕起装置11、施肥装置12、播種装置13、覆土装置14の順に配置されている。播種装置13の種子放出部20には散播機構1が設けられている。
【0038】
播種作業時には、複合播種機10はトラクター(図示省略)の後方に接続(直装)されて牽引される。複合播種機10は牽引されると、耕起装置11の複数のディスクが圃場を削耕し、耕起された圃場に施肥装置12から肥料が供給される。播種装置13は、車輪13aから伝達される回転力により種子を所定量ずつ種子放出部20から放出する。放出された種子は、散播機構1によって耕起装置11が形成した播種溝上に散布され、覆土装置14の籠状ローラーによって覆土される。
【0039】
複合播種機10は、従来であれば耕起による播種溝の形成、施肥、播種、覆土の各作業が別々に行われるところ、これらの作業を一度でまとめて行うことができ、作業性に優れる。なお、複合播種機10はトラクターによって牽引されるとともに、トラクターから伝達される駆動力によって施肥装置12のオーガーが回転する。これにより、容器内の肥料が攪拌され、容器外へと円滑に排出される。施肥装置12へ肥料を補充する際は、容器の上部カバー(蓋)を手動で開閉して行う。
【0040】
図5は本発明の複合播種機を進行方向側(紙面手前)から見た正面図である。
図5に示すように、耕起装置11は、進行方向側に複数の傾斜したディスク11aを有しており、その後ろ側に複数の反対方向に傾斜したディスク11bを有している。異なる角度で配置された2種のディスク11a、11bは上方に配置される施肥装置12などの重さが掛かった状態でトラクターにより牽引されることで、圃場の土が所定の深さで削耕される。施肥装置12は、耕起装置11の上方に配置されることで、複合播種機10の小型化に寄与している。
【0041】
複合播種機10のサイズについて説明する。複合播種機10の進行方向の長さは、例えば、約1200~4800mmであり、約2400mmであることが好ましい。高さは、例えば、約1100~4400mmであり、約2200mmであることが好ましい。横幅(進行方向に直交する方向の長さ)は、例えば、約1500~6000mmであり、約3000mmであることが好ましい。
【0042】
複合播種機は、例えば、市販の各装置を溶接により複合化して製造できる。具体的には、複合播種機は、市販の耕起装置、施肥装置、播種装置、覆土装置を溶接して一体化し、播種装置の種子放出部に散播機構を設けることで製造できる。
【実施例0043】
本発明の複合播種機を用いて牧草播種作業を行った場合の作業性(作業時間)、燃料消費量、および散播性について評価した。
【0044】
実施例1
実施例1では、圃場の耕起、施肥、牧草種子の播種、覆土、鎮圧の5工程のうち、鎮圧工程以外の工程を複合播種機のトラクター牽引により一括で行い、鎮圧工程はローラーにより行った。複合播種機には、耕起装置および覆土装置としてのディスクハローと、施肥装置としてのライムソアーと、播種装置としての条播用シーダ―とを結合部品で一体化し、シーダ―の種子放出部に散播機構を取り付けたものを用いた。複合播種機は約8~10km/hの速度で牽引された。牧草種子としては、イタリアンライグラスを用いた。
【0045】
比較例1
比較例1では、従来の牧草播種作業として、耕起、施肥、播種、覆土、鎮圧の5工程全てを別々に行った。トラクターには、各工程ごとに作業目的に応じた装置を付け替えた。トラクターには、耕起装置としてロータリー、施肥装置および播種装置としてブロードキャスター、覆土装置としてディスクハロー、鎮圧装置としてローラーをそれぞれ接続して作業を行った。ロータリー、ブロードキャスターの場合、トラクターからの駆動力を伝達して耕うん爪や羽根を回転させながら作業を行った。ロータリーでの耕起は、約1~2km/hの速度で行われた。牧草種子としては、実施例1と同様にイタリアンライグラスを用いた。
【0046】
作業時間の評価は、10アールの圃場において耕起から鎮圧までの工程を行うのに要した時間を測定することにより行った。なお、比較例1では、各装置をトラクターに付け替えるのに要した時間と、トラクターの移動時間(作業目的以外の移動時間)については除外した。燃料消費量は、上記工程でトラクターが消費した燃料の量として評価した。散播性は、牧草播種作業から約1カ月経過した後の牧草の出芽状況を観察し、出芽本数のバラツキとして評価した。具体的には、播種を行った圃場において、1m2の領域を無作為に3か所選定し、各領域での出芽数(本/m2)の平均値と標準偏差を算出した。作業時間の評価結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
表1に示すように、実施例1の場合、耕起から覆土までの工程を一括で行うことができたことで、10アールの圃場への牧草播種全工程に要した作業時間は合計13分17秒であった。これに対し比較例1の作業時間は合計35分31秒であり、実施例1は、比較例1に対し鎮圧を除いた作業時間が約80%低減されることがわかった。また、作業時間の低減に伴い、実施例1は、比較例1に対し燃料消費量が約40%低減されることがわかった。
【0049】
図6に実施例1で牧草播種した圃場の出芽状況を示す写真を、
図7に比較例1で牧草播種した圃場の出芽状況を示す写真をそれぞれ示す。実施例1での出芽本数は、148.0±33.2本/m
2であるのに対し、比較例1での出芽本数は、158.7±146.3本/m
2であった。本結果より、実施例1の場合、出芽ムラが少なく、種子が均一に散布されたことが確認された。
【0050】
以上、各図などに基づき本発明の散播機構および複合播種機について説明したが、本発明の構成はこれに限定されるものではない。