(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029561
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
H02M3/28 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131890
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】390013723
【氏名又は名称】TDKラムダ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂井 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 一生
(72)【発明者】
【氏名】大内 光
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 敏昌
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA14
5H730AS04
5H730AS05
5H730BB27
5H730DD03
5H730DD04
5H730EE04
5H730EE08
5H730EE57
5H730EE59
5H730FD01
5H730FD11
5H730FG11
5H730FG15
(57)【要約】
【課題】入力電圧の過渡変化状態での効率を向上させることが可能な電力変換装置を提供する。
【解決手段】本発明の一実施の形態に係る電力変換装置は、第1巻線と第2巻線とを有する絶縁トランスと、第1フルブリッジ回路と、第2フルブリッジ回路と、インダクタンス成分と、入力電圧を検出する電圧検出部と、第1フルブリッジ回路における各レグ間の第1の位相角と、第2フルブリッジ回路における各レグ間の第2の位相角と、第1フルブリッジ回路側と第2フルブリッジ回路側との間の第3の位相角とに基づいて、複数のスイッチング素子の動作を制御する制御部と、を備えている。制御部は、電圧検出部によって検出された入力電圧が過渡変化している状態において、入力電圧の過渡変化に起因した、インダクタンス成分に流れるトランス電流の増加を、電圧検出部によって検出された入力電圧の値と、第1ないし第3の位相角の値とに基づいて、予測すると共に、予測したトランス電流の増加が抑制されるように、第1および第2の位相角の値の更新処理を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端子対および第2端子対と、
前記第1端子対側の第1巻線と、前記第2端子対側の第2巻線と、を有する絶縁トランスと、
前記第1端子対と前記第1巻線との間に配置された第1フルブリッジ回路と、
前記第2端子対と前記第2巻線との間に配置された第2フルブリッジ回路と、
前記第1フルブリッジ回路と前記第2フルブリッジ回路との間に配置されたインダクタンス成分と、
前記第1端子対および前記第2端子対のうちの一方の端子対から入力される入力電圧を検出する電圧検出部と、
前記第1フルブリッジ回路における各レグ間の第1の位相角と、前記第2フルブリッジ回路における各レグ間の第2の位相角と、前記第1フルブリッジ回路側と前記第2フルブリッジ回路側との間の第3の位相角とに基づいて、前記第1フルブリッジ回路および前記第2フルブリッジ回路の各々に含まれる複数のスイッチング素子の動作を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記電圧検出部によって検出された前記入力電圧が過渡変化している状態において、
前記入力電圧の過渡変化に起因した、前記インダクタンス成分に流れるトランス電流の増加を、前記電圧検出部によって検出された前記入力電圧の値と、前記第1ないし第3の位相角の値とに基づいて、予測すると共に、
予測した前記トランス電流の増加が抑制されるように、前記第1および第2の位相角の値の更新処理を行う
電力変換装置。
【請求項2】
前記電圧検出部は、前記第1端子対および前記第2端子対のうちの他方の端子対から出力される出力電圧を、更に検出し、
前記制御部は、
前記電圧検出部によって検出された前記入力電圧と前記出力電圧とに基づいて、前記第1および第2の位相角を求めると共に、
前記入力電圧が過渡変化している状態においても、前記第1巻線の電圧と前記第2巻線の電圧との差分に対応するトランス電圧におけるサンプリング周期内での時間積を、0(ゼロ)に近づけることによって、予測した前記トランス電流の増加が抑制されるように、前記第1および第2の位相角の値の更新処理を行う
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記電圧検出部は、前記入力電圧および前記出力電圧をそれぞれ、前記サンプリング周期にて検出し、
前記制御部は、
現在の前記サンプリング周期内での前記入力電圧の変動量が、次の前記サンプリング周期内での前記入力電圧の変動量と等しくなると仮定して、次の前記サンプリング周期内での前記入力電圧の変動量について、予測演算を行うと共に、
前記入力電圧の変動量についての前記予測演算の結果を利用して、前記トランス電圧における前記サンプリング周期内での時間積が、0に近づくようにする
請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御部は、サンプリング周期の半分の期間ごとに、前記第1および第2の位相角の値の更新処理を行う
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記第1巻線の電圧および前記第2巻線の電圧はそれぞれ、H(ハイ)電圧期間とL(ロー)電圧期間とを含んでおり、
前記制御部は、
前記サンプリング周期の半分の期間ごとに、前記第1および第2の位相角の値の更新処理を行うことにより、
前記サンプリング周期内の前半の期間のうちの、前記第1巻線の電圧における前記L電圧期間の長さと、前記第2巻線の電圧における前記L電圧期間の長さとについて、それぞれ調整を行うと共に、
前記サンプリング周期内の後半の期間のうちの、前記第1巻線の電圧における前記L電圧期間の長さと、前記第2巻線の電圧における前記L電圧期間の長さとについて、それぞれ調整を行う
請求項4に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力を変換する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置の一例として、種々のDC-DCコンバータが提案されている。このDC-DCコンバータの一例としては、例えば、DAB(Dual Active Bridge)コンバータが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような電力変換装置では、入力電圧が過渡変化している状態(過渡変化状態)において、効率が低下する場合がある。したがって、入力電圧の過渡変化状態での効率を向上させることが可能な、電力変換装置を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施の形態に係る電力変換装置は、第1端子対および第2端子対と、第1端子対側の第1巻線と第2端子対側の第2巻線とを有する絶縁トランスと、第1端子対と第1巻線との間に配置された第1フルブリッジ回路と、第2端子対と第2巻線との間に配置された第2フルブリッジ回路と、第1フルブリッジ回路と第2フルブリッジ回路との間に配置されたインダクタンス成分と、第1端子対および第2端子対のうちの一方の端子対から入力される入力電圧を検出する電圧検出部と、第1フルブリッジ回路における各レグ間の第1の位相角と、第2フルブリッジ回路における各レグ間の第2の位相角と、第1フルブリッジ回路側と第2フルブリッジ回路側との間の第3の位相角とに基づいて、第1フルブリッジ回路および第2フルブリッジ回路の各々に含まれる複数のスイッチング素子の動作を制御する制御部と、を備えたものである。上記制御部は、電圧検出部によって検出された入力電圧が過渡変化している状態において、入力電圧の過渡変化に起因した、インダクタンス成分に流れるトランス電流の増加を、電圧検出部によって検出された入力電圧の値と、第1ないし第3の位相角の値とに基づいて、予測すると共に、予測したトランス電流の増加が抑制されるように、第1および第2の位相角の値の更新処理を行う。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一実施の形態に係る電力変換装置によれば、入力電圧の過渡変化状態での効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る電力変換装置の概略構成例を表す回路図である。
【
図2】比較例に係るTCMの動作例を表すタイミング図である。
【
図3】実施例に係るTCMの動作例を表すタイミング図である。
【
図4】
図2,
図3に示した「Mode A」での動作状態例を表す回路図である。
【
図5】
図2,
図3に示した「Mode B」での動作状態例を表す回路図である。
【
図6】
図2,
図3に示した「Mode C」での動作状態例を表す回路図である。
【
図7】
図2,
図3に示した「Mode D」での動作状態例を表す回路図である。
【
図8】
図2,
図3に示した「Mode E」での動作状態例を表す回路図である。
【
図9】
図2,
図3に示した「Mode F」での動作状態例を表す回路図である。
【
図10】サンプリング周期内での入力電圧の変動量について説明するためのタイミング図である。
【
図11】入力電圧の変動量の予測演算について説明するためのタイミング図である。
【
図12】実施例に係る位相角の値の更新処理の一例を表す流れ図である。
【
図13】実施例および比較例に係る各種パラメータの一例を表す図である。
【
図14】比較例に係るトランス電流における過渡応答(入力電圧の過渡変化に対する応答)の特性例を表すタイミング図である。
【
図15】実施例に係るトランス電流における過渡応答の特性例を表すタイミング図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
<1.実施の形態>
[構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る電力変換装置(電力変換装置1)の概略構成例を、回路図で表したものである。この電力変換装置1は、入力電源10(例えば、太陽光などの再生可能エネルギーを基にして得られた直流電源)から供給される直流の入力電圧Vpvを、直流の出力電圧Vgridへと変換し、負荷9に電力を供給するDC-DCコンバータとして構成されている。なお、この負荷9としては、例えばバッテリ等が挙げられる。
【0010】
また、この電力変換装置1は、以下説明するように、双方向型のDC-DCコンバータの1種である、DABコンバータとして構成されている。つまり、上記した場合とは逆に、例えば、負荷9側から供給される電力を変換し、入力電源10側へと供給することも可能となっている。ただし、本実施の形態では、上記したように、入力電源10側から供給される電力を変換し、負荷9側へと出力する場合の例について、説明する。つまり、本実施の形態では、入力電源10側を1次側とし、負荷9側を2次側とした場合の例となっている。
【0011】
なお、電力変換装置1における変換の態様としては、アップコンバート(昇圧型)およびダウンコンバート(降圧型)のいずれであってもよい。ただし、本実施の形態では、昇圧型の場合(入力電圧Vpvを昇圧して、出力電圧Vgridを生成する場合)の例について、説明する。
【0012】
電力変換装置1は、2つの入力端子T1,T2と、2つの出力端子T3,T4と、2つのフルブリッジ回路21,22と、絶縁性のトランス3と、電圧検出回路4と、位相演算回路5と、駆動回路6とを、備えている。電力変換装置1はまた、入力コイルLin、出力コイルLout、インダクタンス成分Lpv、入力コンデンサCin、および、出力コンデンサCoutを、備えている。
【0013】
なお、入力端子T1,T2間には入力電圧Vpvが入力され、出力端子T3,T4の間からは出力電圧Vgridが出力されるようになっている。また、入力端子T1には高圧ラインL1Hが接続され、入力端子T2には低圧ラインL1Lが接続され、出力端子T3には高圧ラインL2Hが接続され、出力端子T4には低圧ラインL2Lが接続されている。
【0014】
ここで、入力端子T1,T2は、本発明における「入力端子対」の一具体例に対応し、出力端子T3,T4は、本発明における「出力端子対」の一具体例に対応している。また、フルブリッジ回路21は、本発明における「第1フルブリッジ回路」の一具体例に対応し、フルブリッジ回路22は、本発明における「第2フルブリッジ回路」の一具体例に対応している。トランス3は、本発明における「絶縁トランス」の一具体例に対応し、電圧検出回路4は、本発明における「電圧検出部」の一具体例に対応している。位相演算回路5および駆動回路6は、本発明における「制御部」の一具体例に対応している。
【0015】
入力コイルLinは、高圧ラインL1H上において、入力端子T1と後述するフルブリッジ回路21との間の位置に、配置されている。入力コンデンサCinは、入力コイルLinとフルブリッジ回路21との間の位置において、高圧ラインL1Hと低圧ラインL1Lとの間に配置されている。出力コイルLoutは、高圧ラインL2H上において、出力端子T3と後述するフルブリッジ回路22との間の位置に、配置されている。出力コンデンサCoutは、出力コイルLoutとフルブリッジ回路22との間の位置において、高圧ラインL2Hと低圧ラインL2Lとの間に配置されている。また、インダクタンス成分Lpvは、後述するフルブリッジ回路21内の接続点P1と、後述するトランス3(巻線31)との間の接続ライン上に、配置されている。なお、インダクタンス成分Lpvは、後述するトランス3における漏れインダクタンスにより構成されていてもよいし、あるいは、そのような漏れインダクタンスとは別個に設けられているようにしてもよい。
【0016】
(フルブリッジ回路21)
フルブリッジ回路21は、入力端子T1,T2と、後述するトランス3における巻線31との間に、配置されている。このフルブリッジ回路21は、4つのスイッチング素子S1~S4を有している。
【0017】
ここで、スイッチング素子S1~S4はそれぞれ、本発明における「複数のスイッチング素子」の一具体例に対応している。
【0018】
なお、スイッチング素子S1~S4としては、例えば電界効果型トランジスタ(MOS-FET;Metal Oxide Semiconductor-Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの、各種のスイッチ素子が用いられる。また、
図1の例では、スイッチング素子S1~S4における各スイッチ素子に対して、ダイオードが並列接続されている。
【0019】
フルブリッジ回路21では、高圧ラインL1Hと低圧ラインL1Lとの間を繋ぐ第1ブリッジ(第1レグ)上において、2つのスイッチング素子S1,S2が互いに直列接続されている。また、高圧ラインL1Hと低圧ラインL1Lとの間で第1ブリッジと並列接続された第2ブリッジ(第2レグ)上において、2つのスイッチング素子S3,S4が互いに直列接続されている。具体的には、第1ブリッジ上では、高圧ラインL1Hと接続点P1との間にスイッチング素子S1が配置され、接続点P1と低圧ラインL1Lとの間にスイッチング素子S2が配置されている。また、第2ブリッジ上では、高圧ラインL1Hと接続点P2との間にスイッチング素子S3が配置され、接続点P2と低圧ラインL1Lとの間にスイッチング素子S4が配置されている。
【0020】
なお、上記した接続点P1,P2間では、前述したインダクタンス成分Lpvと、後述するトランス3における巻線31とが、この順序にて互いに直列接続されている。
【0021】
(トランス3)
トランス3は、入力端子T1,T2側(
図1の例では1次側)の巻線31と、出力端子T3,T4側(
図1の例では2次側)の巻線32と、を有している。
【0022】
ここで、巻線31は、本発明における「第1巻線」の一具体例に対応し、巻線32は、本発明における「第2巻線」の一具体例に対応している。
【0023】
巻線31の第1端(一端)は、インダクタンス成分Lpvを介して接続点P1に接続され、巻線31の第2端(他端)は、接続点P2に接続されている。また、巻線32の第1端(一端)は、後述するフルブリッジ回路22内の接続点P3に接続され、巻線32の第2端(他端)は、フルブリッジ回路22内の接続点P4に接続されている。
【0024】
(フルブリッジ回路22)
フルブリッジ回路22は、出力端子T3,T4と、トランス3における巻線32との間に、配置されている。このフルブリッジ回路22は、4つのスイッチング素子S5~S8を有している。
【0025】
ここで、スイッチング素子S5~S8はそれぞれ、本発明における「複数のスイッチング素子」の一具体例に対応している。
【0026】
なお、スイッチング素子S5~S8としても、前述したスイッチング素子S1~S4と同様に、例えばMOS-FETやIGBTなどの、各種のスイッチ素子が用いられる。また、
図1の例では、スイッチング素子S5~S8における各スイッチ素子に対して、ダイオードが並列接続されている。
【0027】
フルブリッジ回路22では、高圧ラインL2Hと低圧ラインL2Lとの間を繋ぐ第3ブリッジ(第3レグ)上において、2つのスイッチング素子S5,S6が互いに直列接続されている。また、高圧ラインL2Hと低圧ラインL2Lとの間で第3ブリッジと並列接続された第4ブリッジ(第4レグ)上において、2つのスイッチング素子S7,S8が互いに直列接続されている。具体的には、第3ブリッジ上では、高圧ラインL2Hと接続点P3との間にスイッチング素子S5が配置され、接続点P3と低圧ラインL2Lとの間にスイッチング素子S6が配置されている。また、第4ブリッジ上では、高圧ラインL2Hと接続点P4との間にスイッチング素子S7が配置され、接続点P4と低圧ラインL2Lとの間にスイッチング素子S8が配置されている。
【0028】
(電圧検出回路4)
電圧検出回路4は、入力端子T1,T2および出力端子T3,T4のうちの一方の端子対から入力される入力電圧(
図1の例では、入力端子T1,T2から入力される入力電圧Vpv)を、検出する回路である。また、電圧検出回路4は、入力端子T1,T2および出力端子T3,T4のうちの他方の端子対から出力される出力電圧(
図1の例では、出力端子T3,T4から出力される出力電圧Vgrid)を、検出する。このような電圧検出回路4は、詳細は後述するが、入力電圧Vpvおよび出力電圧Vgridをそれぞれ、所定のサンプリング周期Ts(=1/サンプリング周波数fs)にて検出するようになっている。
【0029】
位相演算回路5は、フルブリッジ回路21における各レグ間(前述した第1レグと第2レグとの間)の第1の位相角(位相角Ω11,Ω21)と、フルブリッジ回路22における各レグ間(前述した第3レグと第4レグとの間)の第2の位相角(位相角Ω12,Ω22)と、フルブリッジ回路21側とフルブリッジ回路22側との間の第3の位相角(位相角δ)とをそれぞれ求めると共に、電圧検出回路4によって検出された入力電圧Vpvおよび出力電圧Vgridに基づいて、上記した第1のおよび第2の位相角をそれぞれ、後述する所定の演算により求める回路である。また、位相演算回路5は、詳細は後述するが、入力電圧Vpvが過渡変化している状態(過渡変化状態)において、このような入力電圧Vpvの過渡変化に起因した、トランス電流iL(前述したインダクタンス成分Lpvに流れる電流:
図1参照)の増加を、予測するようになっている。具体的には、位相演算回路5は、そのようなトランス電流iLの増加を、例えば、入力電圧Vpvおよび出力電圧Vgridの各値と、上記した位相角δ,Ω11,Ω21,Ω12,Ω22(上記した第1ないし第3の位相角)の各値とに基づいて、予測する。そして、位相演算回路5は、このようにして予測したトランス電流iLの増加が抑制されるように、位相角Ω11,Ω21,Ω12,Ω22(上記した第1および第2の位相角)の各値の更新処理を行う。また、位相演算回路5は、このような位相角Ω11,Ω21,Ω12,Ω22(第1および第2の位相角)の各値の更新処理を、上記したサンプリング周期Tsの半分の期間(半周期)ごとに、行うようになっている。
【0030】
なお、位相演算回路5の動作例(上記した各種の演算処理例)の詳細については、後述する。
【0031】
(駆動回路6)
駆動回路6は、位相演算回路5から出力される位相角δ,Ω11,Ω21,Ω12,Ω22(第1ないし第3の位相角)に基づいて、フルブリッジ回路21,22に含まれる各スイッチング素子S1~S8の動作(スイッチング動作)を制御する、スイッチング駆動を行う回路である。具体的には、駆動回路6は、スイッチング素子S1~S8に対して、駆動信号SG1~SG8を個別に供給することで、各スイッチング素子S1~S8におけるスイッチング動作を制御するようになっている。
【0032】
また、駆動回路6は、各スイッチング素子S1~S8のスイッチング動作を制御する(スイッチング駆動を行う)際に、所定のスイッチング周期T(=1/スイッチング周波数f)にて、TCM(Triangular Current Modulation)による制御を行うようになっている。このTCMの動作の際には、以下詳述するように、上記したスイッチング周期T内に、6つのモード(後述する「Mode A」~「Mode F」)がそれぞれ、時系列に沿ってこの順にて、含まれるようになっている。また、これらの6つのモードは、トランス3における巻線31の電圧(後述する巻線電圧vpv)と巻線32の電圧(後述する巻線電圧vgrid)との差分に対応する、トランス電圧vL(=vpv-vgrid)に応じて、規定されている。なお、このTCMの動作例の詳細については、以下にて詳述する。
【0033】
[動作および作用・効果]
(A.TCMの動作例)
最初に、
図2~
図9を参照して、上記したTCMの動作例について説明する。
【0034】
図2は、比較例に係る一般的なTCMの動作例を、タイミング図で表したものであり、
図3は、本実施の形態における実施例に係るTCMの動作例を、タイミング図で表したものである。具体的には、
図2,
図3では、トランス3における巻線31の電圧(巻線電圧vpv)および巻線32の電圧(巻線電圧vgrid)と、前述したトランス電流iL(インダクタンス成分Lpvに流れる電流)との各々について、時間tに沿ったタイミング波形を示している。なお、これらの
図2(比較例)と
図3(実施例)との相違点等については、後述する。
【0035】
まず、
図2,
図3に示したように、上記した巻線電圧vpv,vgridはそれぞれ、正(プラス)側のH(ハイ)電圧期間と、負(マイナス)側のH電圧期間と、L(ロー)電圧期間とを含む、矩形波となっている。
図2,
図3の例では、正側のH電圧期間においては、+150V程度の電圧値となり、負側のH電圧期間においては、-150V程度の電圧値となり、L電圧期間においては、0Vとなっている。
【0036】
また、
図2,
図3の例では、巻線電圧vpvについては、「Mode A」,「Mode D」の各期間がL電圧期間となり、「Mode B」,「Mode C」の各期間が正側のH電圧期間となり、「Mode E」,「Mode F」の各期間が負側のH電圧期間となる(
図2参照)。一方、
図2,
図3の例では、巻線電圧vgridについては、「Mode A」,「Mode B」,「Mode D」,「Mode E」の各期間がL電圧期間となり、「Mode C」の期間が正側のH電圧期間となり、「Mode F」の期間が負側のH電圧期間となる(
図2参照)。つまり、巻線電圧vpvは巻線電圧vgridと比べて、(「Mode B」にて)先に立ち上ったり、(「Mode E」にて)先に立ち下がったりする一方、巻線電圧vpv,vgridはそれぞれ、(「Mode C」,「Mode F」の各終了時にて)ほぼ同一のタイミングで、L電圧期間へと移行するようになっている。
【0037】
なお、上記した巻線電圧vpv,vgridにおける、正側のH電圧期間および負側のH電圧期間がそれぞれ、本発明における「H電圧期間」の一具体例に対応している。
【0038】
一方、
図2,
図3の例では、トランス電流iLは、三角波となっている。具体的には、
図2,
図3の例では、トランス電流iLは、正側の三角波の期間(「Mode B」,「Mode C」の各期間)と、負側の三角波の期間(「Mode E」,「Mode F」の各期間)と、L電圧期間(「Mode A」,「Mode D」の各期間)とを、それぞれ含んでいる。また、正側の三角波は、「Mode B」の期間にて立ち上がり、「Mode C」の期間にて立ち下がっている。同様に、負側の三角波は、「Mode E」の期間にて立ち下がり、「Mode F」の期間にて立ち上がっている。
【0039】
また、
図4~
図9はそれぞれ、
図2,
図3に示したTCMの動作の際の「Mode A」~「Mode F」での各動作状態例を、回路図で表したものである。なお、これらの
図4~
図9では、便宜上、電圧検出回路4、位相演算回路5および駆動回路6の図示をそれぞれ省略していると共に、各スイッチング素子S1~S8におけるオン状態およびオフ状態をそれぞれ、便宜上、スイッチの形状で図示している。
【0040】
まず、
図4に示した「Mode A」の動作状態例では、駆動回路6から供給される各駆動信号SG1~SG8に基づき、スイッチング素子S2,S4,S6,S8がそれぞれ、オン状態に設定され、スイッチング素子S1,S3,S5,S7がそれぞれ、オフ状態に設定される。これにより、この「Mode A」において電力変換装置1では、インダクタンス成分Lpv、スイッチング素子S6、スイッチング素子S8、スイッチング素子S4およびスイッチング素子S2をそれぞれ、この順序にて経由して周回する、トランス電流iLが流れることになる。
【0041】
次に、
図5に示した「Mode B」の動作状態例では、駆動回路6から供給される各駆動信号SG1~SG8に基づき、スイッチング素子S1,S4,S6,S8がそれぞれ、オン状態に設定され、スイッチング素子S2,S3,S5,S7がそれぞれ、オフ状態に設定される。これにより、この「Mode B」において電力変換装置1では、インダクタンス成分Lpv、スイッチング素子S6、スイッチング素子S8、スイッチング素子S4、入力電源10、入力コイルLinおよびスイッチング素子S1をそれぞれ、この順序にて経由して周回する、トランス電流iLが流れることになる。
【0042】
続いて、
図6に示した「Mode C」の動作状態例では、駆動回路6から供給される各駆動信号SG1~SG8に基づき、スイッチング素子S1,S4,S5,S8がそれぞれ、オン状態に設定され、スイッチング素子S2,S3,S6,S7がそれぞれ、オフ状態に設定される。これにより、この「Mode C」において電力変換装置1では、インダクタンス成分Lpv、スイッチング素子S5、出力コイルLout、負荷9、スイッチング素子S8、スイッチング素子S4、入力電源10、入力コイルLinおよびスイッチング素子S1をそれぞれ、この順序にて経由して周回する、トランス電流iLが流れることになる。
【0043】
次いで、
図7に示した「Mode D」の動作状態例では、駆動回路6から供給される各駆動信号SG1~SG8に基づき、スイッチング素子S2,S4,S6,S8がそれぞれ、オン状態に設定され、スイッチング素子S1,S3,S5,S7がそれぞれ、オフ状態に設定される。これにより、この「Mode D」において電力変換装置1では、インダクタンス成分Lpv、スイッチング素子S2、スイッチング素子S4、スイッチング素子S8およびスイッチング素子S6をそれぞれ、この順序にて経由して周回する、トランス電流iLが流れることになる。
【0044】
続いて、
図8に示した「Mode E」の動作状態例では、駆動回路6から供給される各駆動信号SG1~SG8に基づき、スイッチング素子S2,S3,S6,S8がそれぞれ、オン状態に設定され、スイッチング素子S1,S4,S5,S7がそれぞれ、オフ状態に設定される。これにより、この「Mode E」において電力変換装置1では、インダクタンス成分Lpv、スイッチング素子S2、入力電源10、入力コイルLin、スイッチング素子S3、スイッチング素子S8およびスイッチング素子S6をそれぞれ、この順序にて経由して周回する、トランス電流iLが流れることになる。
【0045】
そして、
図9に示した「Mode F」の動作状態例では、駆動回路6から供給される各駆動信号SG1~SG8に基づき、スイッチング素子S2,S3,S6,S7がそれぞれ、オン状態に設定され、スイッチング素子S1,S4,S5,S8がそれぞれ、オフ状態に設定される。これにより、この「Mode F」において電力変換装置1では、インダクタンス成分Lpv、スイッチング素子S2、入力電源10、入力コイルLin、スイッチング素子S3、スイッチング素子S7、出力コイルLout、負荷9およびスイッチング素子S6をそれぞれ、この順序にて経由して周回する、トランス電流iLが流れることになる。
【0046】
ところで、DABコンバータでは一般に、トランスの巻数比と入出力電圧比とが一致しない場合には、逆流電流により実効値電流が増加し、素子のストレス増加などの問題が生じ得る。また、太陽光などの再生可能エネルギーを基にして得られた直流電源を、DABコンバータの入力側に接続した場合、入力電圧や入力電力が不安定となり、過渡的な電流変化(入力電圧等の過渡変化に起因した実効値電流の増加)も課題となる。
【0047】
そこで、上記したTCMの動作を適用することで、DABコンバータにおけるトランスの巻数比と入出力電圧比とが一致しないような場合や、DABコンバータの入力電圧等が過渡変化している場合でも、逆流電流を0(ゼロ)Aに近づけて、実効値電流の増加を抑制することができる。また、このようなTCMの動作をDABコンバータに適用することで、従来の方形波動作の場合と比べ、DABコンバータにおける効率を向上させることができる。
【0048】
具体的には、例えば
図2,
図3に示したように、TCMの動作では、上記した「Mode B」,「Mode C」の期間と、「Mode E」,「Mode F」の期間とにおいてそれぞれ、トランス電流iL=0Aとなるように調整されるため、逆流電流が流れる「Mode A」,「Mode D」の期間ではそれぞれ、トランス電流iL=0Aとなる。そして、これらの「Mode A」,「Mode D」の期間ではそれぞれ、トランス電流iL=0Aとなることから、上記した実効値電流の増加が抑制されるとともに、これらの期間での導通損失が低減され、効率が向上することになる。
【0049】
また、トランス電流iLの平均値は0Aとなるため、スイッチング周期T(=1/スイッチング周波数f)内でのトランス電圧vL(=vpv-vgrid)は、0となる。そのため、「Mode A」~「Mode F」の時間をそれぞれ、ta~tfとすると、以下の式(1),(2)がそれぞれ成立する。なお、式(1),(2)中の「n」は、トランス3における巻線31,32同士の巻数比n(=巻線31の巻数n1/巻線32の巻数n2)を、表している。また、これらの式(1),(2)を解くと、これらを満たすことができるTCMの各パラメータ(従来の一般的なTCMの動作における位相角Ω1,Ω2)は、以下の式(3)~(5)にて表される。なお、δを大きくすると「Mode A」,「Mode D」の各期間が減少するため、TCM動作が成立する(「Mode A」,「Mode D」の各期間>0の条件)δの限界値としてのδmaxを、式(5)のように定義している。
【0050】
【0051】
TCMの動作では、上記(1)~(5)式を用いて、定期的に入力電圧Vpvを読み取ることで、TCMの波形(駆動信号SG1~SG8)を出力するようになっている。
【0052】
(B.入力電圧Vpvの過渡変化状態におけるトランス電流iLの過渡応答について)
ところで、入力電圧Vpvの変動によるDABコンバータへの影響としては、以下の2つに大別される。
・定常状態での効率低下
・過渡変化状態での効率低下
【0053】
このうち、定常状態での効率低下については、上記したTCMの動作を適用させることで、DABコンバータにおける効率低下が改善される。一方、従来の一般的なTCMの動作(
図2に示した比較例の場合)では、入力電圧Vpvの過渡変化状態での効率低下については、改善することができない。そこで本実施の形態では、例えば
図3に示した実施例にて示した手法(詳細は後述)を、TCMの動作に適用させることで、入力電圧Vpvの過渡変化状態での効率低下についても、改善させるようにしている。
【0054】
最初に、上記した入力電圧Vpvの過渡変化に起因した、トランス電流iLの変化(増加)の要因について、説明する。
【0055】
図10は、サンプリング周期Ts内での入力電圧Vpvの変動量ΔVpvについて説明するための、タイミング図である。なお、この
図10では、横軸の時間tに沿った、サンプリング周期Tsごとのサンプリングタイミングをそれぞれ、(k-1),k,(k+1)等として示している。
【0056】
まず、DABコンバータにおけるトランス電流iLの波形は、トランス電圧vLの大きさと印加時間とによって、決定される。ところが、入力電圧Vpvが過渡変化している状態では、
図10に示した例(入力電圧Vpvが徐々に減少する過渡変化を示す場合の例)のように、実際の入力電圧Vpv’とサンプリングした入力電圧Vpvとの間に、変動量ΔVpv=(Vpv-Vpv’)が生じる。
【0057】
また、TCMの動作の際の「Mode A」~「Mode F」におけるトランス電圧vLをそれぞれ、vLa~vLfとすると、
図4~
図9に示した例により、これらのトランス電圧vLa~vLfはそれぞれ、以下の式(6)~(11)にて表される。
【0058】
【0059】
ここで、TCMにおける定常状態では、上記したトランス電圧vL(vLa~vLf)における、サンプリング周期Ts内での時間積は、以下の式(12)となるように(トランス電圧vLの時間積=0となるように)設定される。ところが、入力電圧Vpvの過渡変化状態では、入力電圧Vpvにおいて上記した変動量ΔVpv=(Vpv-Vpv’)が生じるため、以下の式(13)に示したように、トランス電圧vLの時間積が、0とはらなない。トランス電流iLは、これらのトランス電圧vLによって変化するため、トランス電圧vLの時間積の変動によって、トランス電流iLも変化する。したがって、この時間積の変動による影響を打ち消すために、以下の式(14)を満たす電圧変動量(式(14)中の左辺)を求め、そのような変動を意図的に発生させることで、入力電圧Vpvの過渡変化に起因したトランス電流iLの変化(増加)を、抑制することができると考えられる。
【0060】
【0061】
ところが、入力電圧Vpvにおける意図しない過渡変化を想定した場合、上記した電圧変動量を予測する必要があると言える。
【0062】
(C.本実施の形態の動作例)
そこで、本実施の形態の電力変換装置1では、位相演算回路5が、上記した入力電圧Vpvの変動量ΔVpvについて、以下詳述するようにして、予測演算を行う。そして、位相演算回路5は、そのような入力電圧Vpvの変動量ΔVpvの予測演算の結果を利用することで、上記した入力電圧Vpvの過渡変化状態において、入力電圧Vpvの過渡変化に起因したトランス電流iLの増加を、予測するようになっている。具体的には、位相演算回路5は、そのようなトランス電流iLの増加を、後述するように、入力電圧Vpvおよび出力電圧Vgridの各値と、上記した位相角δ,Ω11,Ω21,Ω12,Ω22の各値とに基づいて、予測する。
【0063】
(C-1.入力電圧Vpvの予測演算)
図11は、入力電圧Vpvの変動量ΔVpvの予測演算について説明するためのタイミング図である。なお、この
図11では、各サンプリングタイミング(k-1),k,(k+1)にてサンプリングされた入力電圧Vpvをそれぞれ、Vk-1,Vk,Vk+1として示している。
【0064】
本実施の形態では、位相演算回路5は、現在のサンプリング周期Ts内での入力電圧Vpvの変動量ΔVpvが、次のサンプリング周期Ts内での入力電圧Vpvの変動量ΔVpvと等しくなると仮定して、次のサンプリング周期Ts内での入力電圧Vpvの変動量ΔVpvについて、予測演算を行う。具体的には、
図11に示した例では、現在のサンプリング周期Ts((k-1)~kのサンプリング期間)内での入力電圧Vpvの変動量ΔVpvが、次のサンプリング周期Ts(k~(k+1)のサンプリング期間)内での入力電圧Vpvの変動量ΔVpvと、等しくなると仮定される。そして、このような仮定を用いて、次のサンプリング周期Ts(k~(k+1)のサンプリング期間)内での入力電圧Vpvの変動量ΔVpvについて、予測演算(変動量ΔVpvの補正演算)が行われる。
【0065】
また、このときの入力電圧Vpvの変化が、線形変化であると仮定することで、入力電圧Vpvの変動量ΔVpvの時間積は、例えば
図11中にハッチングして示したように、三角形の面積として近似することができる。そのため、この入力電圧Vpvの変動量ΔVpvの時間積は、以下の(15)式のように表すことができる。したがって、本実施の形態において発生させるべき電圧変動量(式(14)中の左辺)は、式(12)~(15)により、以下の(16)式にて表すことができる。
【0066】
【0067】
そして、本実施の形態では、このような条件を満たすように、TCMのパラメータである第1の位相角を位相角Ω11,Ω21に、第2の位相角を位相角Ω12,Ω22に、それぞれ変化(更新)させることで、トランス電圧vLが変化し、上記した電圧変動量を発生させることができる。
【0068】
(C-2.位相角Ωの値の更新処理)
ここで、本実施の形態では位相演算回路5において、以下のようにして、位相角Ω(Ω11,Ω12,Ω21,Ω22)の更新処理を行う。
【0069】
具体的には、位相演算回路5は、入力電圧Vpvが過渡変化している状態においても、トランス電圧vLにおけるサンプリング周期Ts内での時間積を、0に近づけることによって、上記したようにして予測したトランス電流iLの増加が抑制されるように、位相角Ω11,Ω12,Ω21,Ω22の値の更新処理を行う。また、位相演算回路5は、上記した入力電圧Vpvの変動量ΔVpvについての予測演算の結果を利用して、トランス電圧vLにおけるサンプリング周期Ts内での時間積が、0に近づくようにする。
【0070】
以下では、前述した
図3(本実施の形態の実施例)に加えて、
図12を参照して、このような位相角Ω11,Ω12,Ω21,Ω22の値の更新処理の詳細について、説明する。
【0071】
図12は、本実施の形態の実施例に係る、位相角Ω(Ω11,Ω12,Ω21,Ω22)の値の更新処理の一例を、時間tに沿った流れ図(フローチャート)で表したものである。なお、この
図12中には、前述した現在および次のサンプリングタイミングk,(k+1)についても、示している。
【0072】
まず、従来の一般的なTCM(
図2に示した比較例の場合)では、入力電圧Vpvが過渡変化している状態において、入力電圧Vpvの変動量ΔVpvを補償せず、かつ、2種類の位相角Ω1,Ω2のみでトランス電流iLを調整している。これにより、「Mode B」,「Mode C」,「Mode E」,「Mode F」の各期間におけるトランス電流iLの変化量(トランス電圧vLの時間積)は、変動量ΔVpvが大きい程ずれていき、トランス電流iLに乱れが生じる可能性がある。
【0073】
そこで本実施の形態では、例えば
図3,
図12に示したように、TCMのパラメータを追加して、4種類の位相角Ω11,Ω12,Ω21,Ω22を用いることで、サンプリング周期Tsの半周期ごとに、変動量ΔVpvを補償するようにしている。また、このような4種類の位相角Ω11,Ω12,Ω21,Ω22を用いた変動量ΔVpvの補償により、以下の式(17)~(19)がそれぞれ成立する。
【0074】
【0075】
このようにして、本実施の形態では位相演算回路5は、以下のようにして、サンプリング周期Tsの半分の期間(半周期)ごとに、位相角Ω11,Ω12,Ω21,Ω22の値の更新処理を行う。具体的には、
図3,
図12を用いて説明すると、本実施の形態における位相角Ω11,Ω12,Ω21,Ω22の値の更新処理は、以下のようになる。
【0076】
すなわち、まず、電圧検出回路4が、入力電圧Vpvおよび出力電圧Vgridをそれぞれ、所定のサンプリング周期Tsにて検出する(
図12のステップS11)。次いで、位相演算回路5が、前述した式(5)および以下の式(20)~(23)を用いた演算により、位相角Ω11,Ω12,Ω21,Ω22を、それぞれ求める(ステップS12)。なお、これらの式中のδ=0.8δmaxである。
【0077】
【0078】
そして、位相演算回路5は、サンプリング周期Tsの半分の期間(半周期)ごとに、位相角Ω11,Ω12,Ω21,Ω22の値の更新処理を行う(ステップS13,S14)。
【0079】
具体的には、まず、位相演算回路5は、サンプリング周期Ts内の前半の期間(
図3中の「Mode A」~「Mode C」の期間)において、位相角Ω11,Ω12の更新処理を行う(ステップS13)。これにより位相演算回路5は、サンプリング周期Ts内の前半の期間のうちの、巻線電圧vpvにおけるL電圧期間(
図3中に示した(2Ω11/ω)の期間:「Mode A」の期間に対応)の長さと、巻線電圧vgridにおけるL電圧期間(
図3中に示した(2Ω12/ω)の期間:「Mode A」+「Mode B」の期間に対応)の長さとについて、それぞれ調整を行う。
【0080】
次に、位相演算回路5は、サンプリング周期Ts内の後半の期間(
図3中のMode D」~「Mode F」の期間)において、位相角Ω21,Ω22の更新処理を行う(ステップS13)。これにより位相演算回路5は、サンプリング周期TsT内の後半の期間のうちの、巻線電圧vpvにおけるL電圧期間(
図3中に示した(2Ω21/ω)の期間:「Mode D」の期間に対応)の長さと、巻線電圧vgridにおけるL電圧期間(
図3中に示した(2Ω22/ω)の期間:「Mode D」+「Mode E」の期間に対応)の長さとについて、それぞれ調整を行う。
【0081】
このようにして位相演算回路5は、サンプリング周期Tsの半分の期間ごとに、位相角Ω11,Ω12,Ω21,Ω22の値の更新処理を行うことで、上記した各期間の長さの調整を行い、その結果、トランス電流iLの増加による電力損失の増大を、抑制するようにしている。なお、上記したステップS14の後は、再度、ステップS11へと戻ることになる。
【0082】
(D.作用・効果)
以上のように本実施の形態では、入力電圧Vpvが過渡変化している状態において、この入力電圧Vpvの過渡変化に起因したトランス電流iLの増加が、入力電圧Vpvの値と位相角δ,Ω11,Ω12,Ω21,Ω22の値とに基づいて予測されると共に、予測されたトランス電流iLの増加が抑制されるように、前述した位相角Ω11,Ω12,Ω21,Ω22の値の更新処理が行われる。これにより本実施の形態では、入力電圧Vpvの過渡変化状態においても、トランス電流iLの増加による電力損失の増大が、抑制される。その結果、本実施の形態では、前述した比較例等と比べ、入力電圧Vpvの過渡変化状態での効率を向上させることが可能となる。
【0083】
更に、本実施の形態では、サンプリング周期Tsの半分の期間(半周期)ごとに、位相角Ω11,Ω12,Ω21,Ω22の値の更新処理を行うようにしたので、以下のようになる。すなわち、例えば、サンプリング周期Tsごとに位相角Ω1,Ω2の更新処理を行う、前述した比較例の場合(従来の一般的なTCMの動作の場合)と比べ、位相角Ω11,Ω12,Ω21,Ω22の各値を、より適切に更新することができる。これにより、入力電圧Vpvの過渡変化状態において、トランス電流iLの増加による電力損失の増大を、更に抑えることができる結果、入力電圧Vpvの過渡変化状態での効率を、更に向上させることが可能となる。
【0084】
(E.比較例と実施例との比較結果)
続いて、前述した比較例(
図2に示した例)と、本実施の形態の実施例(
図3に示した例)とにおいて、入力電圧Vpvが過渡変化している状態でのトランス電流iLの過渡応答の特性結果を、比較しつつ説明する。
【0085】
図13は、実施例および比較例に係る各種パラメータの一例を、表として示したものである。具体的には、この
図13では、インダクタンス成分Lpvにおけるインダクタンスと、入力コイルLinのインダクタンス(入力インダクタンス)と、出力コイルLoutのインダクタンス(出力インダクタンス)と、入力コンデンサCinにおける容量(入力容量)と、出力コンデンサCoutにおける容量(出力容量)との各数値例について、示している。この
図13ではまた、出力電圧Vgridと、スイッチング周波数fと、サンプリング周波数fsと、巻線31の巻数n1と、巻線32の巻数n2との各数値例について、示している。なお、入力電圧Vpvについては、12Vから40Vまで過渡変化させるようにしている。
【0086】
また、
図14は、比較例(
図2に示した例)に係るトランス電流iLにおける、過渡応答(上記したようにして入力電圧Vpvを過渡変化させた場合に対する応答)の特性例を、時間tに沿ったタイミング図で表したものである。一方、
図15は、実施例(
図3に示した例)に係るトランス電流iLにおける、上記した過渡応答の特性例を、時間tに沿ったタイミング図で表したものである。具体的には、
図14(A),
図15(A)ではそれぞれ、入力電圧Vpvの時間tに沿った変化(過渡変化)を示しており、
図14(B),
図15(B)ではそれぞれ、トランス電流iLの時間tに沿った変化(過渡応答)を示している。
【0087】
なお、これらの比較例および実施例ではそれぞれ、上記したトランス電流iLの過渡応答の特性として、トランス電流iLにおける電流実効値、PP(peak to peak)値ΔiL、および、収束時間Δtについて、評価を行った。
【0088】
まず、
図14に示した比較例では、入力電圧Vpvの過渡変化が終了した後も、トランス電流iLの変化が終了していないことが、確認できた。これは、前述した実際の入力電圧Vpv’とサンプリングした入力電圧Vpvとの差分に対応する変動量ΔVpvの影響により、トランス電流iLの過渡応答中に、前述した2種類の位相角Ω1,Ω2が、前述した式(12)を満たさなくなったためである。また、この比較例において、上記したトランス電流iLの過渡応答の特性をそれぞれ評価したところ、電流実効値=0.88A、PP値ΔiL=3.8A、収束時間Δt=35.8msであった。
【0089】
一方、
図15に示した実施例では、入力電圧Vpvが過渡変化している状態において、上記した比較例の場合と比較すると、トランス電流iLのオーバーシュートが抑制され、収束時間Δtが短縮されていることが確認できた。また、この実施例において、上記したトランス電流iLの過渡応答の特性をそれぞれ評価したところ、電流実効値=0.79A、PP値ΔiL=3.2A、収束時間Δt=16.8msであった。つまり、この実施例では、上記した比較例と比較すると、電流実効値が10.1%改善し、PP値ΔiLが15.8%改善し、収束時間Δtが53.1%改善することが、それぞれ確認された。これらのことから、実施例では比較例と比べ、入力電圧Vpvの過渡変化状態におけるトランス電流iLの過渡応答特性が、改善されたと言える。
【0090】
<2.変形例>
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0091】
例えば、上記実施の形態等では、電力変換装置1の構成を具体的に挙げて説明したが、上記実施の形態等の例には限られず、他の構成の回路を用いるようにしてもよい。具体的には、例えば、トランスの構成(各巻線の構成等)や、各種のコイルおよびコンデンサの構成等として、他の構成のものを用いるようにしてもよい。
【0092】
また、上記実施の形態等では、位相演算回路5による各種の演算手法や、駆動回路によるスイッチング駆動の手法について、具体的に挙げて説明したが、上記実施の形態等の例には限られず、他の手法を用いるようにしてもよい。具体的には、上記実施の形態等では主に、TCMの動作を行う場合における、位相角の値の更新処理や各種の予想演算(トランス電流や入力電圧についての予想演算)等について説明したが、この場合の例には限られない。すなわち、例えば、TCM(三角波を用いた変調)の代わりに、台形波変調を行う場合において、上記実施の形態等で説明した位相角の値の更新処理や各種の予想演算等を行うようにしてもよい。また、位相角の値の更新処理や各種の予想演算等についても、上記実施の形態等で説明した手法には限られず、他の手法を用いるようにしてもよい。
【0093】
更に、上記実施の形態等では、前述したように、入力電源10側を1次側とすると共に、負荷9側を2次側とした場合の例について説明したが、この場合の例には限られず、逆に、負荷9側を1次側とすると共に、入力電源10側を2次側としてもよい。なお、この場合には、負荷9側から供給される入力電圧(Vgrid)の過渡変化に起因したトランス電流の増加が抑制されるように、位相角の値の更新処理や各種の予想演算等を行うことになる。
【0094】
加えて、これまでに説明した各構成例等を、任意の組み合わせで適用してもよい。
【符号の説明】
【0095】
1…電力変換装置、10…入力電源、21,22…フルブリッジ回路、3…トランス、31,32…巻線、4…電圧検出回路、5…位相演算回路、6…駆動回路、9…負荷、T1,T2…入力端子、T3,T4…出力端子、L1H,L2H…高圧ライン、L1L,L2L…低圧ライン、P1~P4…接続点、S1~S8…スイッチング素子、SG1~SG8…駆動信号、Lin…入力コイル(入力インダクタンス)、Lout…出力コイル(出力インダクタンス)、Lpv…インダクタンス成分、Cin…入力コンデンサ(入力容量)、Cout…出力コンデンサ(出力容量)、n1,n2…巻数、n…巻数比、Vpv…入力電圧、ΔVpv…変動量、Vgrid…出力電圧、vpv,vgrid…巻線電圧、vL…トランス電圧、iL…トランス電流、δ,Ω1,Ω2,Ω11,Ω21,Ω12,Ω22…位相角、Ts…サンプリング周期、fs…サンプリング周波数、T…スイッチング周期、f…スイッチング周波数、t…時間。